説明

抗生物付着材料およびそれを作る方法

少なくとも部分的に銅または銀イオンを装填された抗生物付着ナノ複合材料およびそれを作るための方法を開示する。金属親和性リガンドはそのポリマーに共有結合しており、それは金属イオンを付加され、金属の遅い放出を可能にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者:Isabel C. Escobar, Tilak Gullinkala, Richard T. Hausman
関連出願の相互参照および資金提供を受けた研究に関する記載
[0001] 本発明は、2008年6月12日に出願された米国仮特許出願第61/061,099号の利益を主張し、その開示を本明細書にそのまま援用する。この発明は、助成金番号NSF CBET 0714539およびNSF CBET 0754387の下での政府支援によりなされた。政府はこの発明において一定の権利を有する。
【0002】
技術分野及び発明の産業上利用可能性
[0002] 本発明は膜濾過の分野に、より具体的には抗生物付着(anti−biofouling)ナノ複合材料に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003] この節で開示される背景技術が法律的に先行技術を構成するという自認は無い。
【0004】
[0004] 膜技術は飲料水の生産に関するますます厳しくなる規制要件を満たす大きな将来性を提供する。膜は駆動力が加えられた際に微粒子物質をそれらの物理的および化学的特性の関数として分離することができ、それらは懸濁された固体、コロイド、生物学的細胞および分子ならびに同様のものの除去のための濾過を可能にする。
【0005】
[0005] 他の技術でも同様の処理の目的を達成することはできるが、膜を用いる濾過システムは注目すべき利点を提供する。例えば、ナノ濾過(NF)および逆浸透(RO)膜は今日、代替水の再生利用(すなわち、淡海水および海水)および廃水の再利用を伝統的な水源の世界的な不足の増大に取り組むための実行可能な解決策にした。様々な濾過システムを様々な形状で作ることができ、ここで膜材料は典型的には濾過システムにおいて流路(flow channel)を形成する支持体またはフィードスペーサー(feed spacer)に隣接している。しばしば、そのフィードスペーサーは流路の幾何学に関する機械的な安定器として、および濾過システム内の乱流促進器としての両方の働きをする。
【0006】
[0006] 伝統的な水源の処理におけるNFおよびROプロセスの実行は、定常状態レベルの微粒子物質除去を提供することができ、それはイオン交換樹脂または粒状活性炭としてのその浄化材料の再生の必要性を排除する。さらに、ROは海水および淡海水の脱塩により飲料水の需要を満たすのを助けることができる。
【0007】
[0007] NFおよびRO膜濾過システムは過去において滅菌を目的とされていなかったが、その膜濾過システムは、間接的な飲用の廃水の再利用に不可欠であるウイルスおよび細菌の除去のための追加の障壁を提供することができる。
【0008】
[0008] 膜濾過システムの使用は有益であるが、様々な技術的およびコストの問題が解決されずに残っている。これらの問題の内、濾過システム中の膜およびフィードスペーサーの、供給源から濾過されて除かれている微粒子物質による汚損は、かなりの注目を要求し続けている。その汚損は、流量の低下、圧力およびクリーニング頻度の増大により、膜の性能およびコストに悪影響を及ぼす。
【0009】
[0009] 生物付着は、濾過システム内の表面(例えば膜および/またはフィードスペーサー)上に留まる微生物、細菌、酵母、細胞破壊片または代謝産物の望ましくない堆積を表現するために用いられる総称である。生物付着が起こった場合、その堆積物は一般に除去するのが難しい。生物付着を起こす微粒子物質は成長するおよび/またはコロニーを形成することができ、それは成長して膜および/またはフィードスペーサー上の粘液性堆積物となる。これらの生物付着物質の蓄積は増大した圧力の増加により濾過システムの故障を引き起す可能性があり、それはより多くのエネルギーを消費し、より多くのクリーニングを必要とし、流量を減少させ、回収率を低下させる。
【0010】
[0010] 特に、RO膜濾過による水の処理における濾過システムの生物付着は重大な問題である。生物付着は膜の性能を低下させ、流量の低下、圧力およびクリーニング頻度の増大によりコストを上昇させる。さらに、生物付着を克服するための試みにおけるRO膜自体の改変は、RO膜は望ましい特性を維持するために特定の組成を有していなければならないため、ほとんど不可能である。
【0011】
[0011] 現在、生物付着の防止の領域におけるほとんどの研究および開発は、供給水の前処理、高められたクリーニング溶液、クリーニング手順、および汚損した膜の取り替えのようなプロセスに焦点を合わせてきた。
【0012】
[0012] あらゆる濾過システムの成功は、供給源から集められた浸透液が非常に高い純度レベル(例えば非常に低い細胞数)を有していることおよびその濾過システムが安全な流れのパラメーターにおいて対費用効果の高い操業ができることを確実にすることに限られているため、向上した濾過システムの必要性が存在する。
【0013】
[0013] 同様に、他の適用においても用いることができる抗生物付着組成物を開発するのがさらに望ましいであろう。その最終用途の適用の限定的で無い例には、食品の包装、医療における適用、織物および同様のものが含まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
[0014] 1観点において、少なくとも1つのポリマー、反応性親和性基を有するスペーサーアーム側鎖で構成される少なくとも1つの金属をキレートするリガンド(ligand)、および少なくとも1つのキレートされた金属イオン部分の反応生成物を含む抗生物付着反応生成物を含む、抗生物付着ポリマー反応生成物を本明細書において提供する。そのリガンドの反応性親和性基は、キレートされた金属イオン部分と錯体を形成している(それに化学的に結合していると考えることができる)。
【0015】
[0015] 特定の態様において、その反応生成物は、繊維、フィルムまたは成形品(shaped article)の内の1つ以上として形成されている。その反応生成物はコーティングとして分散していることもできる。
【0016】
[0016] 別の観点において、濾過システム中の生物汚染物質の除去における使用のための抗生物付着反応生成物を本明細書において提供し、ここでその反応性部分は金属イオンと錯体を形成することができ、そして生物汚染物質と反応することができる。
【0017】
[0017] 別の観点において、流体をその流体中の生物汚染物質を減少させるために選別する、または濾過する際に有用である濾過システムを本明細書において提供する。その濾過システムには、ポリマー、反応性親和性基を有するスペーサーアーム側鎖で構成される金属をキレートするリガンド、およびキレートされた金属イオン部分で構成される抗生物付着反応生成物が含まれる。反応生成物はその金属イオンを母材(matrix)の中にキレートし、そのキレートはその濾過システムが生物付着性汚染物質を除去することができるようにその母材の中に組み込まれる。
【0018】
[0018] 別の観点において、膜および少なくとも1つのフィードスペーサーを含むタイプの濾過システムを本明細書において提供する。少なくとも1つのフィードスペーサーは、抗生物付着反応生成物で構成され;抗生物付着反応生成物は、少なくともポリマー、反応性親和性基を有するスペーサーアーム側鎖で構成される金属をキレートするリガンド、およびキレートされた金属イオン部分で構成される。その抗生物付着フィードスペーサーは生物汚染物質の除去を増大させる一方で膜の性能を維持する。
【0019】
[0019] さらに他の観点において、少なくとも1つの濾過膜、および濾過システム中の生物汚染物質の除去における使用のための、抗生物付着反応生成物で構成される、またはコートされている1つまたはそれより多くのフィードスペーサーを含む濾過システムを本明細書において提供し、ここでその抗生物付着反応生成物は少なくともポリマー、反応性親和性基を有するスペーサーアーム側鎖で構成される金属をキレートするリガンド、およびキレートされた金属イオン部分で構成されており;ここでその反応性部分は金属イオンと錯体を形成することができ、生物汚染物質と反応することができる。
【0020】
[0020] 特定の態様において、その側鎖はポリマーの主鎖上のスペーサーとしてグラフト重合法により導入される。特定の態様において、そのスペーサーアーム側鎖は反応性部分としてエポキシ環を有する。
【0021】
[0021] 特定の態様において、その親和性基部分は金属をキレートするリガンドを含む。特定の態様において、その金属をキレートするリガンドは次のものの1又はそれより多くを含む:三配位性キレーター、例えばイミノ二酢酸(IDA)および/またはニトリロ三酢酸;銅および銀の1又はそれより多くに特異的な金属をキレートするリガンド。
【0022】
[0022] 特定の態様において、そのポリマーは、ポリプロピレン材料、またはスペーサーアーム側鎖を容易に受け入れることができる他のポリマーであることができる。特定の態様において、そのスペーサーアーム側鎖はエポキシ環を反応性部分として有するビニルモノマーを含み、それは例えばグリシジルメタクリレート(GMA)であるがそれに限定されない。
【0023】
[0023] 特定の態様において、そのビニルモノマーは開始剤を用いて重合させることができ、および/またはそのビニルモノマーは他のビニル基と共重合させることができる。また、特定の態様において、そのポリマーは次のものの1又はそれより多くを構成する:フィルム材料ならびに織られた繊維および織られていない繊維を含む繊維類。
【0024】
[0024] 特定の態様において、その金属イオンは次のものの1又はそれより多くを含む:銀、銅、およびそれらの混合物。例えば、ある特定の態様において、その親和性部分はイミノ二酢酸(IDA)を含み、そのスペーサーアーム側鎖はグリシジルメタクリレート(GMA)を含み、その金属イオンは銅イオンを含む。
【0025】
[0025] 別の広い観点において、本明細書で記述される抗生物付着反応生成物で作られている他の使用、デバイスおよび/または物体を本明細書において提供する。限定的で無い例には、その抗生物付着反応生成物の濾過システムにおける使用が含まれ、ここでその抗生物付着反応生成物は逆浸透濾過デバイス中にあるフィードスペーサーを作るために用いられる。
【0026】
[0026] 他の限定的で無い例において、抗生物付着反応生成物は、ポリプロピレンのようなプラスチック類を容器として必要とする液体の適用(applications)、例えば、ポリプロピレンの容器中で保管されるであろう他の液体の中でも、水の貯蔵、ジュースの貯蔵、ワインの貯蔵、ビールの貯蔵において用いることができる。
【0027】
[0027] 他の限定的で無い態様において、抗生物付着反応生成物は、液体が追加の濾過工程を必要とするであろう適用において用いることができる。
【0028】
[0028] 他の限定的で無い態様において、抗生物付着反応生成物は、例えば、精製、醸造、発酵等において用いられる容器、管、試料容器、水瓶、瓶の栓、ペトリ皿等、管/ホースを作るために用いることができる。
【0029】
[0029] 別の広い観点において、本明細書で記述される抗生物付着反応生成物で構成される逆浸透のらせん状に巻かれた要素に関する濾過デバイスを本明細書において提供する。
【0030】
[0030] 別の広い観点において、本明細書で記述される抗生物付着反応生成物で構成される生物付着制御のための膜システムを本明細書において提供する。
【0031】
[0031] 別の広い観点において、スペーサー部分に付加されている親和性基にキレートされた抗生物付着銅金属イオンを有する抗生物付着反応生成物を本明細書において提供し、ここでそのスペーサー部分はポリプロピレンのバックボーン上に接合されている(grafted)。
【0032】
[0032] 別の広い観点において、金属をキレートするリガンドを用いて抗生物付着金属イオンをスペーサーアームを介してポリマーバックボーンに結合させることを含む、固定された金属親和性に基づく分離のための方法を本明細書において提供する。
【0033】
[0033] 広い観点において、スペーサーアーム側鎖をポリマー上に接合させる;親和性基部分をそのスペーサーアーム側鎖上の反応性部分に導入する;および、抗生物付着金属イオンをその親和性基部分にキレートさせることを含む、抗生物付着ポリマー反応生成物を作るための方法を本明細書において提供する。
【0034】
[0034] 特定の態様において、そのスペーサーアーム側鎖のポリマーへのグラフト重合は、そのポリマーの融解無しに起こる。
【0035】
[0035] 特定の態様において、そのスペーサーアーム側鎖のそのポリマーへのグラフト重合は、約80℃よりも高くない温度において起こる。
【0036】
[0036] 特定の態様において、その親和性基部分はS2反応を通して付加される。
【0037】
[0037] 特定の態様において、その抗生物付着金属イオンは硫酸銅溶液または塩化銅溶液中に存在する。
【0038】
[0038] 特定の態様において、その抗生物付着金属イオンは、0.25〜15% w/wのその金属を含むその金属の塩の水溶液の形である。
【0039】
[0039] 特定の態様において、そのスペーサーアーム側鎖のそのポリマーへのグラフト重合のためのラジカル開始剤として過酸化ベンゾイルが用いられる。
【0040】
[0040] 別の広い観点において、抗生物付着金属イオンを装填した抗生物付着ナノ複合材料を作るための方法であって、ポリマー上の金属イオンの結合の程度をポリマー上のスペーサーアーム側鎖に結合している金属親和性リガンドの修飾を通して制御することを含む方法を、本明細書において提供する。
【0041】
[0041] 別の広い観点において、抗生物付着ナノ複合材料を作るための方法であって、さらに、以下:
グリシジルメタクリレート(GMA)のポリプロピレンへのグラフト重合のためのラジカル開始剤として過酸化ベンゾイル(BPO)を約80℃の温度において用いる;
イミノ二酢酸(IDA)をポリプロピレン−グラフト−GMAに、SN2反応により付加する;および
銅イオンのキレート化のために、ポリプロピレン−グラフト−GMA−IDAを硫酸銅溶液中に置く;
を含む方法を、本明細書において提供する。
【0042】
[0042] 特定の態様において、そのポリマー−グラフト−GMA−IDAフィルムを0.2M硫酸銅溶液に約20分間から約8時間までさらす。
【0043】
[0043] 別の広い観点において、金属親和性リガンドを有する機能性を持たせたポリプロピレン表面を作るための方法であって、以下:ポリプロピレンバックボーンをラジカル開始剤で活性化する;工程i)のポリプロピレンを、反応性部分を有するスペーサーアーム側鎖と反応させる;iii)工程ii)のポリプロピレンを、金属をキレートする親和性リガンドと反応させる;およびiv)工程iii)のポリプロピレンを、銅イオンのキレート化のために硫酸銅溶液にさらす;を含む方法を、本明細書において提供する。
【0044】
[0044] 特定の態様において、そのラジカル開始剤は過酸化ベンゾイルを含む。特定の態様において、そのスペーサーアーム側鎖はグリシジルメタクリレート(GMA)を含む。特定の態様において、その金属をキレートする親和性リガンドはイミノ二酢酸(IDA)を含む。特定の態様において、工程iii)のポリプロピレンは0.2M硫酸銅溶液に約8時間さらされる。
【0045】
[0045] 別の広い観点において、前記の請求項の方法のいずれかで構成される、逆浸透のためのポリプロピレン材料を作る方法を、本明細書において提供する。
【0046】
[0046] さらに別の広い観点において、前記の態様のいずれかにおけるような繊維またはフィルムで構成される逆浸透のらせん状に巻かれた要素に関するフィードスペーサーを、本明細書において提供する。
【0047】
[0047] さらに広い観点において、本明細書で記述される繊維またはフィルムで構成される生物付着制御のための膜システムを、本明細書において提供する。
【0048】
[0048] この発明の様々な目的および利点は、添付された図面を考慮して読めば、好ましい態様の下記の詳細な記述から当業者に明らかになるであろう。
【0049】
[0049] 本特許または出願書類は、1個以上のカラーで作成された図面および/または1個以上の写真を含んでいてよい。カラーの図面(単数または複数)および/または写真(単数または複数)を有するこの特許または特許出願刊行物のコピーは、請求および必要な料金の支払いに応じて特許庁により提供されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】[0050] 図1はスペーサーアームを有する親和性基の概略図である。
【図2】[0051] 図2はスペーサーアーム−金属リガンドの発生(development)(GMA+IDA)を示す概略図である。
【図3】[0052] 図3はBPOラジカルの発生を示す概略図である。
【図4】[0053] 図4はPPおよびGMA−IDAの間の反応を示す概略図である。
【図5A】[0054] 図5A−5Bは、PP−GMA−IDA(図5A)および本来の(pristine)PP(図5B)のAFM画像である。
【図5B】[図5A−5Bは、PP−GMA−IDA(図5A)および本来の(pristine)PP(図5B)のAFM画像である。
【図6】[0055] 図6は銅を装填したPP−GMA−IDAを示す概略図である。
【図7】[0056] 図7はナノ複合材料である銀を装填したPP繊維を示す概略図である。
【図8】[0057] 図8は銀を装填したPP−GMA−SAを示す概略図である。
【図9】[0058] 図9は本明細書で開示される実施例に従って用いられる典型的な反応装置の概略図である。
【図10】[0059] 図10は未処理(virgin)PPおよびPP−グラフト−GMAフィルムのATR−FTIRスペクトルを示す典型的なグラフである。
【図11】[0060] 図11はPP、BPOおよびGMAの間の化学反応の概略図である。
【図12】[0061] 図12は未処理PPおよびPP−グラフト−GMA−IDAフィルムのATR−FTIRスペクトルを示す典型的なグラフである。
【図13A】[0062] 図13A−13FはPP表面上の銅の均一なキレート化の様々なSEM画像およびEDS分析を示す。
【図13B】図13A−13FはPP表面上の銅の均一なキレート化の様々なSEM画像およびEDS分析を示す。
【図13C】図13A−13FはPP表面上の銅の均一なキレート化の様々なSEM画像およびEDS分析を示す。
【図13D】図13A−13FはPP表面上の銅の均一なキレート化の様々なSEM画像およびEDS分析を示す。
【図13E】図13A−13FはPP表面上の銅の均一なキレート化の様々なSEM画像およびEDS分析を示す。
【図13F】図13A−13FはPP表面上の銅の均一なキレート化の様々なSEM画像およびEDS分析を示す。
【図14】[0063] 図14は0.2M硫酸銅溶液中に8時間おきDI水で繰り返しすすいだ後の未処理PPシートおよびPP−グラフト−GMA−IDAシートの典型的な画像を示す。
【図15A】[0064] 図15A−15Bは、1枚のPP−グラフト−GMA−IDA修飾シートおよび1枚の未処理PPシート上でのバイオフィルムの成長を表す、それぞれのE.coliを含むフラスコから24時間の培養の後に得られた細胞の試料の蛍光顕微鏡画像のセットを示す。
【図15B】図15A−15Bは、1枚のPP−グラフト−GMA−IDA修飾シートおよび1枚の未処理PPシート上でのバイオフィルムの成長を表す、それぞれのE.coliを含むフラスコから24時間の培養の後に得られた細胞の試料の蛍光顕微鏡画像のセットを示す。
【図16】[0065] 図16は、銅を含むPP−グラフト−GMA−IDAシートが細胞付着を未処理PPシート上よりも約1桁低く維持していることを示す典型的なグラフである。
【図17A】[0066] 図17A−17Bは、銅を付加したPP−グラフト−GMA−IDAシートの、クリーニング溶液およびキレートした銅を置き換える可能性がある金属塩の源の両方に相当する3種類の溶液中での1週間および2週間後の銅の重量の百分率を示す典型的なヒストグラムである。
【図17B】図17A−17Bは、銅を付加したPP−グラフト−GMA−IDAシートの、クリーニング溶液およびキレートした銅を置き換える可能性がある金属塩の源の両方に相当する3種類の溶液中での1週間および2週間後の銅の重量の百分率を示す典型的なヒストグラムである。
【図18】[0067] 図18は、それぞれ未処理のフィードスペーサー膜の標準化された流量および修飾されたフィードスペーサー膜の標準化された流量の濾過の比較を示す典型的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
[0068] 広い観点において、膜表面および/または膜を支持するフィードスペーサーの微生物付着または生物付着に取り組むための反応生成物および方法を本明細書において提供する。
【0052】
[0069] 逆浸透(RO)濾過システムにおいて、濾過膜のシートまたはエンベロープの間に1又はそれより多くのフィードスペーサーが存在することを理解するべきである。例えば、特定のタイプのらせん状に巻かれたROシステムにおいて、その膜は中央の管に取り付けられたポリプロピレンのスペーサー上に折り重ねられている。
【0053】
[0070] 1観点において、抗生物付着金属イオンを装填した抗生物付着ナノ複合材料ポリマーを本明細書において提供する。用いられているポリマーがあらかじめ形成された状態、例えば成形品、フィルムまたは繊維(織られたもの、織られていないもの等)である場合、そのポリマーの外側の表面のみがそれに共有結合した金属イオンを有することができることを理解するべきである。
【0054】
[0071] 特定の観点において、金属親和性リガンドはそのポリマーに共有結合している。その金属親和性リガンドに抗生物付着金属イオンを付加し、生物付着制御のためのその金属イオンの供給水中への遅い放出を可能にすることができる。特定の態様において、銅および銀のような特定の金属イオンに特異的な金属親和性リガンドを用いてそのポリマーにナノ構造を持たせることができる。その金属をキレートするリガンドは、スペーサーアームを介してそのポリマーに共有結合している。
【0055】
[0072] 別の観点において、銅または銀イオンを装填した抗生物付着ナノ複合材料ポリマー性材料を作るための方法を本明細書において提供する。その方法は、最初の金属親和性リガンドの修飾を通して有機繊維上の銅/銀の結合の程度を制御することを含む。
【0056】
[0073] その抗生物付着反応生成物の配合において、金属をキレートするリガンドで構成される親和性基は非共有電子を金属イオンに供与して金属−リガンドの結合を形成する。特定の態様において、多座配位子、例えば1個のアミノポリカルボキシレートを有するイミノ二酢酸(IDA)は別の官能基と反応するための反応性第二級アミン水素を提供する。
【0057】
[0074] そのポリマーリガンドは、そのポリマーに結合している“スペーサーアーム”側鎖の使用によりそのポリマーに間接的に結合させることができる。また、そのポリマーで作られたあらかじめ形成された物の場合、そのスペーサーアーム側鎖はその物の外側表面を構成するポリマー分子に付加することができる。
【0058】
[0075] スペーサーアーム側鎖の使用は、金属をキレートするリガンドをより容易にその金属イオンを受け入れる/結合するために露出させることおよび形作ることを可能にする。例えば、そのキレートするリガンドは反応性部分を有する側鎖に付加することができる。一例において、IDAをスペーサーアーム側鎖、例えばグリシジルメタクリレート(GMA)のエポキシ基反応によりポリマーバックボーンまたはビニルモノマーに付加することができる。この反応はいくつかの利点を有する:(1)GMAはほとんどの他のビニルモノマーよりも安上がりな市販の工業材料である;(2)GMAは側鎖の中に反応性部分としてエポキシ環を有する;および(3)GMAは開始剤の添加により重合させる、または他のビニル基と共重合させることができるビニルモノマーを生成する。
【0059】
[0076] 過酸化ベンゾイル(BPO)は、ポリマーフィルムの表面上へのGMAのグラフト重合のためのラジカル開始剤として用いることができる。1態様において、ポリマーフィルムの表面へのGMAのグラフト重合は約80℃の温度で起こることができる。次いでIDAをS2反応によりポリマー−グラフト−GMA複合体に付加する。次いでそのポリマー−グラフト−GMA−IDAを、銅イオンのキレート化のために硫酸銅溶液にさらす。
【0060】
[0077] 別の態様において、そのポリマー−グラフト−GMA複合体は開環部分、例えば硫化ナトリウム(NaSO)、硫酸水素塩(HSO)、および硝酸銀(AgNO)に順次さらして銀イオンをGMAスペーサーアーム側鎖に付加することができる。
【0061】
[0078] 本発明は下記の実施例においてさらに定義され、そこでは別途記載しない限り全ての部(parts)および百分率は重量によるものであり、度はセ氏である。これらの実施例は、本発明の好ましい態様を示しているが、説明のためにのみ与えられていることは理解されるべきである。本明細書における議論およびこれらの実施例から、当業者はこの発明の本質的な特徴を確かめることができ、その精神および範囲から逸脱すること無く、本発明の様々な変更および修正を、それを様々な用途および条件に適応させるためになすことができる。この明細書において参照された特許および非特許文献を含む全ての刊行物を、特別に本明細書に援用する。
【0062】
[0079]
【実施例】
【0063】
[0080] 実施例1
[0081] 固定化金属親和性(IMA)に基づく分離のため、図1において概略的に図説されているように、金属をキレートする親和性基を用いて抗生物付着金属イオンをスペーサーアーム側鎖を介してバックボーンに固定する。キレートするリガンドは、そのキレートする基をより近づきやすくするために、スペーサーアームを介してポリマーに結合している。
【0064】
[0082] 有用な金属をキレートする親和性基は、3個以上の電子対の共有を通して金属イオンと数個の配位結合を形成する強いルイス酸である。
【0065】
[0083] イミノ二酢酸(IDA)は、この三配位性キレーターはその金属親和性媒体を調製するのに用いられる化学と同様に直接的で信頼できるため、金属をキレートする親和性基として用いることができる。IDAは金属イオンのそのキレートに対する強い結合およびタンパク質の親和性の間のバランスも提供する。他のキレートする基、例えばニトリロ三酢酸を利用して相対的な金属−ポリマー親和性を加減することができることは理解されるであろう。
【0066】
[0084] 銀イオンを付加するため、ラジカル開始剤BPOおよびスペーサーアームGMAを用いてそのポリマーにナノ構造を持たせることができる。銀イオンの装填に関して2種類の方法を試験することができる:(1)GMAエポキシ基をSOH基に変換し、次いでそれに銀イオンを装填する;および(2)IDAを銅イオンに対して同様の方式でキレートするリガンドとして用いる。
【0067】
[0085] 実施例1a. 銅イオン
[0086] GMA+IDA複合体(図2)
[0087] GMAおよびIDAの反応の前に、GMAを真空下で蒸留し、一方でIDAをKOHで中和してIDAの二カリウム塩を形成し、カルボン酸がGMAのエポキシ環と反応しないようにする。
【0068】
[0088] IDAの二カリウム塩の溶液をGMAに1:1のモル比で、強力な攪拌の下で12時間、65℃においてゆっくりと添加し、NaCOを添加してpHを10〜11に調節する。得られたGMA−IDA複合体粒子を遠心分離する。
【0069】
[0089] PP+BPO+GMA−IDA
[0090] ポリプロピレン(PP)の接合のプロセスは2つの工程に従う:(1)GMA−IDA複合体粒子および開始剤(BPO)による浸漬、そして(2)熱に誘導される接合。接合はFTIRにより1725cm−1(C=O)および1640cm−1(COO−1)におけるピークの出現で確認される。
【0070】
[0091] 図3において示されているように、過酸化ベンゾイル(BPO)は分解してベンゾイルラジカルとなり、それが今度はCOの除去を経て結果としてフェニルラジカルの形成をもたらす。
【0071】
[0092] フェニルおよびベンゾイルラジカルは共に優れた水素引き抜き剤である。ベンゾイルラジカルからのフェニルラジカルの形成は、反応の温度に依存する。この反応は、ベンゾイルおよびフェニルラジカルの間でどちらがPPのラジカル発生においてより有効であるかを決定するために、35°〜90℃の異なる温度で実施された。
【0072】
[0093] 本明細書で開示される方法において、PPシートを、選択された量のBPOの液体混合物と共に反応アンプル中に置く。GMA−IDAおよびトルエン(界面剤)を、室温において1時間、その混合物をPPシートにより吸着させるために導入する。次いでその湿った不均一な混合物を適切な温度まで加熱し、15〜90分間反応させる。
【0073】
[0094] 次いでナノ構造を与えたPPシート(図4)を還流トルエン中で溶解させ、PPシートのグラフト重合の間に形成された可能性があるGMAのホモポリマーを除去する。次いでその生成物のシートを60℃において真空下で乾燥させる。
【0074】
[0095] 影響要因:
[0096] 本明細書において記述される反応は、多くの影響要因を有する。開始剤BPOの性能は、結合させるモノマーの性質およびモノマー対PP比に依存する。PPの固体状態での接合を促進するために温度はPPの融点より下で保たれるが、高い温度はPPネットワーク中の不必要な切断およびクロスリンク反応をもたらす可能性がある。
【0075】
[0097] GMAの最初の真空蒸留は、GMA−IDA反応が起こるのを可能にする。PPに関する非化学的なラジカル開始剤、具体的には照射およびプラズマ処理は非常に有効であることが分かったが、それらは対費用効果が低かった。さらに、温度の上昇が高かったためにPPシート中の切断およびクロスリンク反応が問題であった。概して言えば、BPOは最も対費用効果が高く、制御可能なラジカル発生の方法であることが分かった。図5Aおよび5Bは、ラジカル発生に関してBPOを用いて開発されたPPシート(図5B)およびPP−GMA−IDAナノ複合材料(図5A)のFTIRを示す。
【0076】
[0098] 本来のPPの吸収のピークはそれぞれ次のように割り当てられる;2840〜約3000cm−1におけるCH伸縮振動、ならびに1375および1450cm−1におけるPP中の−CHの非対称および対称な伸縮。GMA−IDAポリマーの接合の後、エステルカルボニル基の伸縮振動により1725cm−1における吸収バンドが生じ、1633cm−1における強いバンドはカルボン酸塩中のC=Oの非対称な伸縮と関係している。
【0077】
[0099] 図5Aおよび5Bにおける原子間力顕微鏡(AFM)画像は、それぞれ本来のPPおよびPP−コ−GMA−IDAポリマーである。AFMを用いて表面の修飾の形態を調べた。PP−GMA−IDAのAFM画像(図5A)は、接合されたGMA−IDAポリマーの層が本来のPPポリマーを部分的に覆ったことを示している。覆い方(coverage)は表面にわたってほとんど均一であるが、GMA−IDAの塊が観察される。GMA−IDAの覆い方の均一性は反応時間の関数であると考えられ、最適な表面の覆い方を決定するために異なる時間が調べられるであろう。
【0078】
[00100] P−co−GMA−IDA+銅(図6)
[00101] PP−co−GMA−IDA複合体は、さらに銅(II)、CuSOと1:1の比率で反応させることができる。複合体を室温で48時間振とうし、DI水で洗浄し、真空下で60℃において2時間乾燥させる。
【0079】
[00102] 実施例1b.銀イオン
[00103] 銀イオンに関して2種類の異なる方法が用いられた:(i)親和性基法の使用;および(ii)スルホン化法の使用。
【0080】
[00104] (i)親和性基法(IDA)
[00105] PP接合プロセスは、前に図2〜4において記述されたものと正確に同じ工程に従う。金属の装填に関して違いが生じる。
【0081】
[00106] PP−GMA−IDAポリマーを銀、Ag+1、溶液中に浸し、平衡状態まで銀イオンをキレートさせる。平衡状態は、PP−GMA−IDA繊維上のAgの最大吸着濃度である18mg Ag/g繊維において到達する。
【0082】
[00107] 最後に、その銀を装填したPP−GMA−IDA繊維を、366nmの波長を有するUV光により、およびホルムアルデヒド溶液中での浸漬により還元し、図7において示されているナノ複合材料繊維を形成する。
【0083】
[00108] (ii)スルホン化法
[00109] PPの接合プロセスは、IDAをGMAに添加しないことを除いて銅に関するものと同じ工程に従う。従って、そのプロセスは:(1)GMAおよび開始剤(BPO)による浸漬、そして(2)熱に誘導される接合;に従う。得られたエポキシ基のスルホン化は、PP−GMAを亜硫酸ナトリウム(NaSO)/イソプロピルアルコール/水=10/15/75(重量比)の混合物中に80℃において浸すことにより達成される。あらゆる残ったエポキシ基は、0.5M HSO中に浸すことによりジオールに変換される。得られたポリマーをSAファブリックと呼び、ここでSAはスルホン酸基を意味する。
【0084】
[00110] 次いで銀イオンをPP−GMA−SAポリマー上に、それをSOH基に関して過剰量のAgイオンを有する硝酸銀(AgNO)の0.1M水溶液に30℃において24時間浸すことにより装填する。そのプロセスを図8において示す。
【0085】
[00111] 実施例2
[00112] 銅イオンを付加した金属をキレートするリガンドを有するスペーサーアームによるPPの機能性付与による低生物付着PPフィルムの開発を開示する。E.coliを用いて、修飾されたPPの低生物付着特性を測定した。
【0086】
[00113] 材料
[00114] PPはProfessional Plastics、テキサス州ヒューストンから得た。GMAはFisher Scientificから購入し、使用前に真空蒸留した。イミノ二酢酸ナトリウム二塩基性(IDA)水和物98%は、Aldrich Chemistryから購入し、受け取った状態で使用した。BPO、トルエン、アセトン、および硫酸銅も受け取った状態で使用することができる。
【0087】
[00115] Cu(II)を付加したPP−グラフト−GMA−IDAの調製および特性付け
[00116] PPシートを2cmから4cmまでの範囲の面積を有する正方形に切り、エタノール中で超音波処理して洗浄し、それらの表面上のあらゆるものを除去した。次いでそのシートを60℃で24時間真空乾燥させた。その反応装置の概略図を図9において示す。その反応装置には、丸底フラスコ、冷却器、および窒素雰囲気下での反応混合物の加熱が含まれる。
【0088】
[00117] PPシートの初期重量(W)を測定した後、それらを溶媒/界面剤としてのトルエン、ラジカル開始剤BPO、およびGMAを含む丸底フラスコ中に置いた。GMAおよびBPOをPPに関する接合の開始剤として用いた。重合はC−C二重結合の開裂を経て起こり、結果としてエポキシ環の本来の反応性を有するグラフト物質が得られた。このように、エポキシ基は望まれる金属イオン種をつなぎとめるために効果的に用いることができる。
【0089】
[00118] そのシートをその溶液中に浸した後、反応容器を窒素でパージし、温度を80℃まで上げ、GMAのPPへの接合を起こさせた。次いでそのシートを取り出し、アセトンで洗浄して全てのGMAホモポリマーを除去した。GMAのPPへの接合を確証するため、そのシートを60℃で24時間乾燥させ、減衰全反射フーリエ変換赤外分光計(ATR−FTIR、Pike HATRアダプターおよびExcalibur FTS 400分光計を有するDigilab UMA 600 FT−IT顕微鏡)により分析した。そのシートの重量もこの時に測定した(W)。GMAのPP上への接合のレベル(GL%)を、次の関係を用いて決定した:
【0090】
【数1】

【0091】
[00119] 次いでそのシートをIDA溶液中においた。IDAとの反応の後、脱イオン水(DI)水を用いてそのシートをすすいだ後、それらを真空乾燥させ、再度ATR−FTIR分光計により分析した。PP−グラフト−GMA−IDAシートを硫酸銅溶液中におき、IDAにCu(II)イオンをキレートさせた。銅の存在はエネルギー分散型X線分光法(XEDS、統合型EDAX Phoenix XEDSシステムを有するUTW Si−Li固体X線検出器、アナーバーのミシガン大学にある)を用いて検出された。
【0092】
[00120] Cu(II)を付加したPP−グラフト−GMA−IDAの低生物付着分析
[00121] 2個の150mLエルレンマイヤーフラスコの、E.coli細菌細胞を3.0×10細胞/mLの濃度で含むLBブロス(Difco/Becton, Dickinson and Company,メリーランド州スパークス)を用意した。未処理PPおよびCu(II)を付加したPP−グラフト−GMA−IDA両方の3枚のシートをそれぞれのフラスコに入れ、次いで35℃で培養した。24時間、96時間、および168時間の時点で、シートをそれぞれのフラスコから取り出した。細胞をそのシートからStomacher 400サーキュレーター(Seward Ltd,英国、ロンドン)を用いて剥離した。剥離した細胞をQuant−iT PicoGreen dsDNA染色剤で染色し、Olympus BX51蛍光顕微鏡およびOlympus DP−70デジタルカメラを用いて計数した。各試料を三つ組で得て、各回10個の領域を計数した。
【0093】
[00122] キレートするリガンドからの銅イオンの解放
[00123] 100mLのDI水を3個の150mLエルレンマイヤーフラスコに入れた。1個のフラスコに、2.67gのNaCl、0.267gのMgClおよび0.267gのCaClを入れた。別のものを、5mM EDTAをpH11において(NaOHで調節した)含むように用意した。最後のフラスコはそのpHをHClで3.5に調節した。
【0094】
[00124] Cu(II)を付加したPP−グラフト−GMA−IDA修飾シートをそれぞれのフラスコに3枚ずつ入れ、振とうテーブルの上においた。1週間、2週間、および3週間後、1枚のシートをそれぞれの溶液から取り出し、DI水で洗浄し、一夜真空乾燥させ、XEDSを用いて分析した。シートごとに4箇所の領域を分析し、その最初の修飾の後いずれの溶液中にもおいていない修飾されたシートと比較した。
【0095】
[00125] 結果:
[00126] Cu(II)を付加したPP−グラフト−GMA−IDAの調製および特性付け
[00127] 本明細書において記述される実施例は、金属をキレートするリガンドを有するスペーサーアームによるPPシートの機能性付与に焦点を合わせており、それはこれらの基が(i)極めて安定であり容易に合成される、(ii)様々な範囲の条件にわたって効果を発揮する、(iii)容易に制御できる結合親和性を有する、および(iv)モデル研究に十分に適しているためである。
【0096】
[00128] 本明細書において記述される実施例において、BPOがGMAのPP表面へのグラフト重合のためのラジカル開始剤として80℃、または文献において概説されている温度のほぼ半分の温度において用いられる。図10は、PP−グラフト−GMAシートのATR−FTIRスペクトルを示す。1724および1253cm−1に存在する吸収バンドは、それぞれエポキシ基のカルボニルの伸縮およびエステルの振動により引き起され、これはGMAの結合を示している。この化学反応を図11において示す。
【0097】
[00129] 次いで、S2反応により、IDAをPP−グラフト−GMAに付加した。全てのシートに関する平均接合レベル(GL%)はおおよそ40%であった;それは他の研究と関係する平均接合レベルよりも3〜4倍を超えて高い。以前の研究は、100〜140℃の反応温度でのPP粉末または顆粒の使用は約7%の接合をもたらすことを示している。別の研究は、ラジカル発生に関して、PPフィルムをGMAおよびBPOと共に超臨界CO中で130バール、70℃において10時間浸した後の、120℃における熱に誘導される接合は、13.8%の接合しかもたらさないことを示した。理論に束縛されることを望むわけでは無いが、本発明者らはここで、この実施例において観察された高レベルの接合は、制御されない急激に開始された高濃度のGMAモノマーとの重合によるものであったと信じる。
【0098】
[00130] 図12は、PP−グラフト−GMA−IDAのATR−FTIRスペクトルを示す。1589および3371cm−1における吸収は、それぞれIDA中に存在するカルボン酸からのカルボニルの伸縮およびカルボン酸からのOHの伸縮により引き起されている。関係する化学反応を図4において示す。
【0099】
[00131] 未処理PPシートおよびPP−グラフト−GMA−IDAシートを、0.2M硫酸銅溶液中に8時間おいた。8時間の終了の時点で、シートを繰り返しDI水ですすいだ。硫酸銅にさらした後(図6において示した反応)、XEDS分析をシート上で行い、それは表面上に3.27±0.74重量%の銅の装填があったことを示した。
【0100】
[00132] また、図13A−13Fが示すように、SEM画像において存在する視覚による物理的異常にも関わらず、銅のマッピングはシートの表面にわたる均一な分布を示した(図13A−13C)。シートの視覚による検査は、銅がPP−グラフト−GMA−IDAにキレートしていることを明確に示した(図13D−13F)。
【0101】
[00133] 図14において示されているように、PP−グラフト−GMA−IDAシートは硫酸銅溶液にさらされた際に青色に変わり(白黒写真では暗くなったように示されている)、一方同じ溶液にさらされた未処理PPシートはその元の色(わずかにくすんだ/白色)を保持していた。
【0102】
[00134] Cu(II)を付加したPP−グラフト−GMA−IDAの生物付着分析
[00135] 図15A−15Bは、それぞれのE.coliを含むフラスコからの24時間の培養の後に撮られた蛍光顕微鏡写真の内の2枚を示す。異なる時間間隔において取り出されたそれぞれのシートに関して、30枚のこれらの画像を撮影した。24時間後にPP−グラフト−GMA−IDAシートに付着していた細胞の数は、未処理PPシートに付着していた細胞の数よりも有意に少なかった。
【0103】
[00136] 図16は、全168時間にわたって集められたデータを、それぞれの時点に関する標準偏差を含めて示している。24時間後、付着は未処理PPシート上で4.0×10±2.1×10細胞/cmに対してPP−グラフト−GMA−IDA修飾シート上では2.9×10±2.9×10細胞/cmであった。
【0104】
[00137] 96時間の時点でも類似の結果が得られ、PP−グラフト−GMA−IDA修飾シート上では3.1×10±2.2×10細胞/cmであり;未処理PPシート上では9.1×10±3.9×10であった。
【0105】
[00138] 168時間における結果は、PP−グラフト−GMA−IDA修飾シート上では4.5×10±4.9×10であり;未処理PPシート上では3.7×10±1.1×10であった。
【0106】
[00139] 見て分かるように、PP−グラフト−GMA−IDA修飾シートに付着した細胞の数は未処理PPシートに付着した細胞の数よりも一貫しておおよそ一桁低かった。
【0107】
[00140] キレートするリガンドからの銅イオンの放出
[00141] 図17A−17Bは、濃縮された一般的なクリーニング溶液中での2週間の後の銅の放出が顕著では無かったことを示している。有意に異なる銅の重量百分率が観察された2つの事例は、pH11の5mM EDTA溶液に2週間さらした後;ならびにpH3.5のHCl溶液に1週間および2週間さらした後の両方であった。集められたデータは、一般的な金属イオン、例えばナトリウム、カルシウム、およびマグネシウムはキレートされた銅と置き換わらないことを示している。高度に酸性の溶液および5mM EDTAはPP−グラフト−GMA−IDA修飾シートに2週間後にいくらか影響を及ぼしているようであったが、さらされた後にシート状に残っていた銅の重量パーセントはHClおよびEDTA溶液に関してそれぞれ3.26%±0.41および3.89±0.28であった。これらの重量パーセントにおいてさえも、銅はまだ殺生物剤として有効に作用する。
【0108】
[00142] 他の研究ではより高い温度またはより過酷な条件のどちらかが提案されているのに対し、PPはPP−グラフト−GMA−IDAになるのに約80℃の温度で十分に修飾されたことが赤外分光分析により証明されたことを特筆すべきである。
【0109】
[00143] また、SEMおよび元素分析は、PP−グラフト−GMA−IDA修飾材料は均一に銅(II)を付加されていたことを示した。本明細書においてここで記述されているように、この修飾法は組み立てが容易な反応装置、安価で分かりやすい配合技法、および容易に入手できる化学物質を利用する。
【0110】
[00144] 生物付着分析は、未処理PPシートに付着した細胞の数が、168時間の期間にわたって、銅(II)を付加したPP−グラフト−GMA−IDA修飾シートに付着した細胞の数よりもおおよそ一桁高かったことを示した。これは、その金属イオンを付加したポリマー−グラフト−材料が様々な適用、例えば食品の包装、医療用デバイス、およびROフィードスペーサーに有用であり、性能および寿命を増大させる一方でその最終用途の適用に関するコストを最終的に低減することができることを示している。
【0111】
[00145] 実施例3
[00146] 図18は、修飾されていないフィードスペーサー膜および付加されたPP−グラフト−GMA−IDA修飾フィードスペーサー膜の間の、ゼロから3000分までの期間にわたる標準化された流量の濾過の比較を示す。付加されたPP−グラフト−GMA−IDA修飾フィードスペーサーは、未処理のフィードスペーサーのおおよそ2倍の標準化された流量を有していた。
【0112】
[00147] 本発明は様々な、および好ましい態様に関連して記述されたが、本発明の本質的な範囲から逸脱すること無く様々な変更を加えてよく、その要素の代わりに均等物を用いてよいことを当業者は理解するべきである。加えて、個々の状況または材料を本発明の教えに適合させるために、その本質的な範囲から逸脱すること無く多くの修正を加えてよい。
【0113】
[00148] 従って、本発明はこの発明を実行するために考えられた本明細書において開示された特定の態様に限定されないが、本発明は特許請求の範囲内に含まれる全ての態様を含むであろうことを意図する。
【0114】
[00149] 参考文献
[00150] 本発明を明らかにするために、または本発明の実施に関する追加の詳細を提供するために本明細書で用いられた刊行物および他の資料を本明細書に援用し、便宜のために下記の参考文献一覧において提供する。
【0115】
[00151] 本明細書で列挙された文書のいずれかの引用は、前述のもののいずれかが関係する先行技術であるという自認として意図するものでは無い。これらの文書の日付に関する全ての声明または内容に関する描写は、出願者に利用可能な情報に基づくものであり、これらの文書の日付または内容の正しさに関して自認を構成するものでは決して無い。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのポリマー、反応性親和性基を有するスペーサーアーム側鎖で構成される少なくとも1つの金属をキレートするリガンド、および少なくとも1つのキレートされた金属イオン部分の反応生成物を含む抗生物付着反応生成物であって、
そのリガンドの反応性親和性基がキレートされた金属イオン部分と錯体を形成しており、そしてそれに化学的に結合している、前記抗生物付着反応生成物。
【請求項2】
流体をその流体中の生物汚染物質を減少させるために選別する、または濾過する際に有用である濾過システムであって、以下:
ポリマー、反応性親和性基を有するスペーサーアーム側鎖で構成される金属をキレートするリガンド、およびキレートされた金属イオン部分で構成される抗生物付着反応生成物;
を含み、
その反応生成物がその金属イオンを母材(matrix)の中にキレートし、そのキレートはその濾過システムが生物付着性汚染物質を除去することができるようにその母材の中に組み込まれている、前記濾過システム。
【請求項3】
膜および少なくとも1つのフィードスペーサーを含むタイプの濾過システムであって、ここでその改良された点が以下:
抗生物付着反応生成物で構成される少なくとも1つのフィードスペーサー;抗生物付着反応生成物は少なくともポリマー、反応性親和性基を有するスペーサーアーム側鎖で構成される金属をキレートするリガンド、およびキレートされた金属イオン部分で構成される;ならびに
生物汚染物質の除去を増大させる一方で膜の性能を維持する、抗生物付着フィードスペーサー;
を含む、前記濾過システム。
【請求項4】
濾過システム中の生物汚染物質の除去における使用のための抗生物付着反応生成物であって、少なくともポリマー、反応性親和性基を有するスペーサーアーム側鎖で構成される金属をキレートするリガンド、およびキレートされた金属イオン部分を含み;
ここで、その反応性部分が金属イオンと錯体を形成することができ、そして生物汚染物質と反応することができる、前記抗生物付着反応生成物。
【請求項5】
濾過システム中の生物汚染物質の除去における使用のための、少なくとも1つの濾過膜、および抗生物付着反応生成物で構成される、またはコートされている1又はそれより多くのフィードスペーサーを含む濾過システムであって、
その抗生物付着反応生成物が少なくともポリマー、反応性親和性基を有するスペーサーアーム側鎖で構成される金属をキレートするリガンド、およびキレートされた金属イオン部分で構成されており;
ここで、その反応性部分は金属イオンと錯体を形成することができ、そして生物汚染物質と反応することができる、前記濾過システム。
【請求項6】
側鎖がポリマーの主鎖上にグラフト重合法により導入される、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項7】
スペーサーアーム側鎖が反応性部分としてエポキシ環を有する、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項8】
金属をキレートするリガンドが三配位性キレーターを含む、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項9】
金属をキレートするリガンドがイミノ二酢酸(IDA)およびニトリロ三酢酸の1又はそれより多くを含む、請求項5に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項10】
親和性基部分が、銅および銀の1又はそれより多くに特異的な金属をキレートするリガンドを含む、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項11】
ポリマーがポリプロピレンを含む、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項12】
スペーサーアーム側鎖がエポキシ環を反応性部分として伴うビニルモノマーを含む、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項13】
ビニルモノマーを開始剤を用いて重合させる、請求項12に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項14】
ビニルモノマーを他のビニル基と共重合させる、請求項12に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項15】
スペーサーアーム側鎖がグリシジルメタクリレート(GMA)を含む、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項16】
金属イオンが、銀、銅、およびそれらの混合物の1又はそれより多くを含む、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項17】
ポリマーが、フィルム材料ならびに織られた繊維類および織られていない繊維類を含む繊維類の1又はそれより多くを含む、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項18】
親和性部分がイミノ二酢酸(IDA)を含み、そしてスペーサーアーム側鎖がグリシジルメタクリレート(GMA)を含む、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項19】
ポリマーが、逆浸透濾過デバイス中にあるフィードスペーサーを含む、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項20】
反応生成物が、繊維、フィルムまたは成形品の1又はそれより多くとして形成される、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項21】
反応生成物がコーティングとして分散している、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物。
【請求項22】
逆浸透のらせん状に巻かれた要素に関する濾過デバイスであって、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物で構成される、前記濾過デバイス。
【請求項23】
請求項1に記載の抗生物付着反応生成物で構成される、生物付着制御のための膜システム。
【請求項24】
抗生物付着ポリマー反応生成物を作るための方法であって、以下:
スペーサーアーム側鎖をポリマー上に接合させる;
親和性基部分をそのスペーサーアーム側鎖上の反応性部分に導入する;および、
抗生物付着金属イオンをその親和性基部分に結合させる;
を含む、前記方法。
【請求項25】
スペーサーアーム側鎖のポリマーへのグラフト重合が、そのポリマーの融解無しに起こる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
スペーサーアーム側鎖のそのポリマーへのグラフト重合が、約80℃よりも高くない温度において起こる、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
親和性基部分がS2反応により付加される、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
抗生物付着金属イオンが硫酸銅溶液中に存在する、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
抗生物付着金属イオンが、0.25〜15% w/wのその金属を含むその金属の塩の水溶液の形である、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
そのスペーサーアーム側鎖のそのポリマーへのグラフト重合のためのラジカル開始剤として過酸化ベンゾイルが用いられる、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
抗付着金属イオンを装填された抗生物付着ナノ複合材料を作るための方法であって、ポリマー上の金属イオンの結合の程度をポリマー上のスペーサーアーム側鎖に結合している金属親和性リガンドの修飾を通して制御することを含む、前記方法。
【請求項32】
抗生物付着ナノ複合材料を作るための方法であって、さらに、以下:
グリシジルメタクリレート(GMA)のポリプロピレンへのグラフト重合のためのラジカル開始剤として過酸化ベンゾイル(BPO)を約80℃の温度において用いる;
イミノ二酢酸(IDA)をポリプロピレン−グラフト−GMAに、S2反応により付加する;および
銅イオンのキレート化のために、ポリプロピレン−グラフト−GMA−IDAを硫酸銅溶液中に置く;
を含む、前記方法。
【請求項33】
ポリマー−グラフト−GMA−IDAフィルムが0.2M硫酸銅溶液に少なくとも8時間さらされる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
金属親和性リガンドを伴う機能性を持たせたポリプロピレン表面を作るための方法であって、以下:
ポリプロピレンバックボーンをラジカル開始剤で活性化する;
工程i)のポリプロピレンを、反応性部分を有するスペーサーアーム側鎖と反応させる;
工程ii)のポリプロピレンを、金属をキレートする親和性リガンドと反応させる;および
工程iii)のポリプロピレンを、銅イオンのキレート化のために硫酸銅溶液にさらす;
を含む、前記方法。
【請求項35】
ラジカル開始剤が過酸化ベンゾイルを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
スペーサーアーム側鎖がグリシジルメタクリレート(GMA)を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
金属をキレートする親和性リガンドがイミノ二酢酸(IDA)を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
工程iii)のポリプロピレンが0.2M硫酸銅溶液に約8時間さらされる、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
逆浸透のためのポリプロピレン材料を作る方法であって、前記の請求項に記載の方法のいずれかで構成される、前記方法。
【請求項40】
デバイスおよび/または物体であって、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物で構成される、前記デバイスおよび/または物体。
【請求項41】
濾過システムであって、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物で構成される1又はそれより多くのフィードスペーサーを含む、前記濾過システム。
【請求項42】
請求項1に記載の抗生物付着反応生成物で構成される液体の貯蔵の適用(applications)であって、水の貯蔵、ジュースの貯蔵、ワインの貯蔵、ビールの貯蔵、および他の発酵したおよび/または精製された物質を含む、前記適用。
【請求項43】
液体の適用であって、請求項1に記載の抗生物付着反応生成物で構成される濾過工程を必要とする、前記適用。
【請求項44】
請求項1に記載の抗生物付着反応生成物で構成される適用であって、容器、管、試料容器、水瓶、瓶の栓、ペトリ皿、管/ホースを含む、前記適用。
【請求項45】
請求項1に記載の抗生物付着反応生成物で構成される、逆浸透のらせん状に巻かれた要素に関する濾過デバイス。
【請求項46】
請求項1に記載の抗生物付着反応生成物で構成される、生物付着制御のための膜システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【公表番号】特表2011−524803(P2011−524803A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513654(P2011−513654)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/046859
【国際公開番号】WO2009/152217
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(502409721)ザ・ユニバーシティ・オブ・トレド (13)
【Fターム(参考)】