説明

抗癌剤

【課題】抗癌活性を有するフラン誘導体、ならびにその誘導体を含む医薬品及び飲食品を提供する。
【解決手段】下記の式(I):


〔式中、Xは、−CHOHまたは−COR(Rは、置換もしくは未置換の低級アルキルである。)であり、Yは、Hまたは単糖残基であり、ならびにZは、Hまたは−CHOである。但し、YがHであるときにはZは−CHOであり、あるいはZがHであるときにはYは単糖残基である。〕によって表わされるフラン誘導体を有効成分として含有する抗癌剤または飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラン(furan)誘導体を有効成分として含有する抗癌剤または飲食品に関する。本発明の抗癌剤は、ヒトを含む哺乳動物の癌疾患細胞に対してアポトーシスを誘導し、癌疾患細胞のみを死滅させる。より詳しくは、本発明で使用可能なフラン誘導体は、サツマイモのエキス粉末を焦がした焙煎サツマイモ(baked sweet potato)粉末から実質的に精製されたものを含む。
【背景技術】
【0002】
サツマイモは、ビタミン類、ミネラル類を含む、栄養価の高い農産物である。サツマイモの有する機能性は明らかにされつつあり、例えば、アントシアニンやフェノール性物質の抗酸化作用(非特許文献1、Oki、T.et al.:Food Chem.Toxicol.、67:1752−1756,2002)、抗腫瘍活性(非特許文献2、Yoshimoto,M.et al.:Biosci.Biotechnol.Biochem.、63:537−541、1999)などの報告がある。
【0003】
近年、焦がしたサツマイモ(焙煎サツマイモ)粉末からの抽出物が癌疾患細胞に対してアポトーシスを誘導することが報告されている(非特許文献3、イセルモウレドラバ、他:平成15年度日本農芸化学会西日本支部、中国・四国支部、日本栄養・食糧学会西日本支部、日本食品科学工学会西日本支部鹿児島合同大会およびシンポジウム、2003年9月:44)。さらに焦がしたサツマイモ粉末からの抽出物をセファデックスG−25のゲルろ過クロマトグラフィーにより分離した粗製分画が、癌細胞に対してアポトーシスを誘導することが報告されている(非特許文献4、Rabah、I.U.et al.:J.Agric.Food Chem.、52:7152−7157、2004)。
【0004】
アポトーシスは、細胞内の核の破壊を伴う細胞死である。癌疾患細胞のアポトーシスの死分子機構として、カルシウム経路、死のシグナル経路、セラミド経路、ミトコンドリア経路、及びp53アポトーシス経路の5つの経路を介して誘導される分子機構が知られている(非特許文献5、橋本嘉幸:新アポトーシスの分子医学、羊土社、2001年4月:10−58)。
【0005】
さらにまた、本出願人による特開2001−069945(特許文献1)は、焦がしたサツマイモ又は紫系サツマイモの制癌・細胞癌化抑制効果を有する機能性食品を開示している。サツマイモの制癌・細胞癌化抑制効果について、サツマイモを焦がすことにより、サツマイモ内部に細胞癌化抑制物質及び制癌物質が生成されるからであると推定されている。
【0006】
特開平7−258100号公報(特許文献2)は、サツマイモの葉、蔓、茎および地下茎から抽出・精製された糖脂質(ガングリオシド)が抗癌性を有することを開示している。
【0007】
特開2004−267119号(特許文献3)は、サツマイモを含むデンプン系農産物の処理方法及び処理装置を主に開示しているが、この中に、デンプン系農産物を亜臨界水条件下の水熱反応により分解処理することによって得られた水熱反応処理物から、グルコースなどの単糖類、マルトースなどの2糖類からオリゴ糖及び酢酸などの旨味成分、あるいは抗癌性を有する成分などが生成されたことが記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−069945
【特許文献2】特開平7−258100号公報
【特許文献3】特開2004−267119
【非特許文献1】Oki,T.ら、「Improvement of Anthocyanins and Other Phenolic Compounds in Radical−Scavenging Activity of Purple−Fleshed Sweet Potato Cultivars」、J.Food Chem.Toxicol.、2002年、第67巻、1752−1756頁
【非特許文献2】Yoshimoto,M.ら、「Antimutagenicity of Sweetpotato (Ipomoea batatas) Roots」、Biosci.Biotechnol.Biochem.、1999年、第63巻、537−541頁
【非特許文献3】イセルモウレドラバら、「Baked Sweet Potato Induced Apoptosis and Suppressed Cell Transformation」、平成15年度日本農芸化学会西日本支部、中国・四国支部、日本栄養・食糧学会西日本支部、日本食品科学工学会西日本支部鹿児島合同大会およびシンポジウム、2003年9月、44頁
【非特許文献4】Rabah,I.U.ら、「Potential Chemoprevention Properties of Extract from Baked Sweet Potato (Ipomoea batatas Lam. Cv.Koganesengan)」.J.Agric.Food Chem.、2004年、第52巻、7152−7157頁
【非特許文献5】橋本嘉幸、「アポトーシスとは」、新アポトーシスの分子医学、羊土社、2001年4月、10−58頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献や非特許文献の中で、焦がしたサツマイモ(焙煎サツマイモ)粉末からの抽出物やカラムクロマトグラフィーによる粗製分画が抗癌作用を有するという事実が明らかにされたにも拘わらず、その有効成分は特定されていなかった。もし有効成分が同定されるならば、癌疾患に対する効率的な予防または治療が可能になると考えられる。
【0010】
このような状況において、本発明は、焙煎サツマイモ由来の抗癌性物質を同定することを目的とする。
【0011】
本発明はさらに、同定された抗癌性物質およびその誘導体について抗癌活性(または、アポトーシス誘導活性)を確認し、それらを抗癌剤または飲食品として使用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは今回、上記の課題を解決するために、焙煎サツマイモから実質的に精製したフラン誘導体のヒト急性前骨髄性白血病疾患細胞(HL−60細胞)に対するアポトーシス誘導を調べた結果、HL−60細胞に対してアポトーシスを誘導することを見出し、結果として、正常細胞に対してアポトーシス誘導を起こすことなしに癌細胞に対してのみアポトーシスを誘導できることを見出した。
【0013】
本発明は、下記の式(I):
【化1】

〔式中、式中、Xは、−CHOHまたは−COR(Rは、置換もしくは未置換の低級アルキルである。)であり、Yは、Hまたは単糖残基であり、ならびにZは、Hまたは−CHOである。但し、YがHであるときにはZは−CHOであり、あるいはZがHであるときにはYは単糖残基である。〕
によって表わされるフラン誘導体を有効成分として含有する抗癌剤を提供する。
【0014】
Rとしての置換または未置換の低級アルキルには、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ならびにこれらのアルキル基の1もしくは複数の水素原子が、ハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI)、−OH、−NH、−NR(RおよびRは、同じまたは異なる低級アルキル基である。)、−NO、−O−R(Rは、置換または未置換の低級アルキルである。)、−OCOR(Rは、置換または未置換の低級アルキルである。)、−NHCOR(Rは、置換または未置換の低級アルキルである。)、−OR(Rは、置換または未置換の低級アルキルである。)、アリール基(例えばフェニル、置換フェニルなど)、およびアルアリール基(例えば置換または未置換のフェニルメチル、フェニルエチルなど)からなる群から選択される置換基によって置換されたアルキルが含まれる。好ましいアルキル基は、メチル、エチルまたはプロピルであり、さらに好ましいアルキル基はメチルである。
【0015】
本明細書中で使用される「置換または未置換の低級アルキル」は、すべての構造異性体、幾何異性体および光学異性体を包含するものとし、また「低級アルキル」は、炭素数1〜6個のアルキル、好ましくは炭素数1〜3個のアルキルを指す。
【0016】
Yとしての単糖残基は、五〜七単糖残基、例えばグルコピラノシル、グルコフラノシル、アラビノピラノシル、ガラクトフラノシル、フルクトピラノシル、フルクトフラノシルまたはリボフラノシル基、好ましくはグルコピラノシル、フルクトピラノシルまたはアラビノピラノシル基、さらに好ましくはグルコピラノシル基である。単糖残基は、α型、β型、またはそれらの混合型でよい。また好ましくは、単糖残基の1または2位の(α-および/またはβ-)ヒドロキシ基とフラン環上の炭素原子との間で−O−結合が形成される。
【0017】
本発明の一実施形態において、フラン誘導体は、下記の式(II):
【化2】

によって表わされる2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フラン(2−acetyl−3−O−α−D−glucopyranosyl−furan)である。
【0018】
本発明の別の実施形態において、フラン誘導体は、式(I)中Zが−CHOでありかつXが−CHOHである5−ヒドロキシメチルフルフラール(5−hydroxymethyl−furfural、5−HMF)である。この化合物は公知物質であるが、抗癌活性については知られていなかった。
【0019】
上記の2種類の異なるフラン誘導体はいずれも、焙煎サツマイモから実質的に精製されたものである。
【0020】
本発明のさらに別の実施形態において、抗癌剤は血液癌疾患を治療するためのものである。血液癌疾患には、骨髄性白血病などの白血病および多発性骨髄腫などの骨髄腫が含まれ、白血病が好ましく、骨髄性白血病(特に、急性前骨髄性白血病)がより好ましい疾患である。本発明の抗癌剤はまた、胃癌、肺癌、すい臓癌、腎臓癌、大腸癌などの固形癌に対しても有効であるだろう。
【0021】
本発明はまた、上記式(I)のフラン誘導体を有効成分として含有する、抗癌作用を有する旨の表示をした飲食品を提供する。
【0022】
本発明の実施形態において、フラン誘導体は、2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フランまたは5−ヒドロキシメチルフルフラールである。
本発明はさらに、上記の式(II)によって表わされる2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フランを提供する。この化合物は、従来未知の化合物である。
【発明の効果】
【0023】
本発明者らは、焙煎サツマイモの癌細胞増殖を抑制する物質が上記のフラン誘導体であることを明らかにした。したがって、フラン誘導体は、抗癌剤(特に、アポトーシス誘導剤)として医薬品または飲食品(特に、健康補助食品)として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0025】
1.焙煎サツマイモの調製
本発明のフラン誘導体を得るための原料の1つが、焙煎サツマイモである。焙煎とは、高温加熱により焦がすことを意味する。焙煎サツマイモは、本出願人による特願2001−69945(非特許文献1)に記載される方法によって調製することができる。
【0026】
紫系サツマイモを除く非焙煎サツマイモについては、抗癌効果、細胞癌化抑制効果もしくはアポトーシス誘導効果は全く認められないか、認められても微弱である。焙煎サツマイモを使用するときに初めて、本発明の有効成分であるフラン誘導体が検出されるようになる。
【0027】
焙煎サツマイモの調製方法としては、サツマイモを焦がすことができれば特に制限はなく、例えば、サツマイモを丸ごと焙焼する方法、細断して焙焼する方法、乾燥させてから焙焼する方法、及び皮を剥いて焙焼する方法等のいずれも使用できる。また、焙焼するサツマイモは、生のサツマイモまたは加熱処理したサツマイモのいずれのサツマイモであってもよいし、あるいは、例えば予め蒸したまたは煮たサツマイモであってもよい。この中で、特に蒸煮処理したサツマイモを適当な大きさに粉砕し、乾燥させてから焙焼する方法が好ましい。このような焙焼の方法としては、サツマイモを焦がすことができれば特に制限はなく、例えば、ロースト機による方法、直接火にあぶる方法、及び石等の熱媒体を用いる方法等を挙げることができる。具体的には、サツマイモを水抽出し乾燥することによって得られた乾燥粉末を、例えば非特許文献4に記載の方法で、180℃、20分間フライパンで焙煎することによって焙煎サツマイモを調製することができる。
【0028】
なお、紫系サツマイモは、地下茎の可食部が紫色をしたサツマイモであるが、このような種類のサツマイモは、焙煎処理せずとも、本発明のフラン誘導体を含んでいると推定される。それゆえ、本発明のフラン誘導体は、紫系サツマイモの乾燥粉末を下記2の方法と同様に処理することによっても得ることができるであろう。
【0029】
2.焙煎サツマイモまたは紫系サツマイモからのフラン誘導体の精製
本発明において、例えば、焙煎サツマイモまたは紫系サツマイモの乾燥粉末から、水、あるいは低級アルコール、アセトン、酢酸エチルなどの有機溶媒を用いて本発明のフラン誘導体を抽出することができる。次に、抽出溶液を直接、逆相用ゲル、例えばMCI gel CHP−20P(三菱化学)などのオープンカラムクロマトグラフィーに付すことができる。移動層にA液として水、B液としてメタノールを用い、A液からB液へのリニアグラジエントによってクロマトグラフィーを行う。さらに、固定相にSephadex LH−20(ファルマシアファインケミカル)を用い、移動層にA液として水を用い、C液としてアセトンを用い、C液からA液へのリニアグラジエントによってクロマトグラフィーを行う。次に、固定相としてシリカゲル、移動相として例えばクロロホルム/メタノール/水系(8:2:0.2v/v%)を用いるクロマトグラフィーを行う。この段階で、5−ヒドロキシメチルフルフラールが単離される。
【0030】
さらに、固定相にChromatorex ODS(富士シリシア化学)を用い、移動層にA液として水、B液としてメタノールを用い、A液からB液へのリニアグラジエントによってクロマトグラフィーを行う。これによって、上記の式(II)によって表わされる新規フラン誘導体、すなわち2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フランが単離される。
【0031】
3.式(I)の化合物の製造
本発明の式(I)のフラン誘導体において、Xが−COR(Rは、置換もしくは未置換の低級アルキルである。)であり、Yが単糖残基である化合物は、一般的な化学合成の技術を組み合わせて製造できる。例えば、3−保護ヒドロキシフランを例えばジアルキルカルボニルエーテル/三フッ化ホウ素・エーテル溶液などのアシル化剤と反応させて2−アルキルカルボニル−3−保護ヒドロキシフランを合成し、脱保護したのち、第1の方法として、フラン環上のヒドロキシ基と、単糖の1または2位のヒドロキシ基との間で化学的または酵素的にグリコシル化反応を行うか、あるいは第2の方法として、単糖の1または2位のヒドロキシ基をフッ素原子(F)で置換した化合物をSnCl/AgClOの存在下で2−アルキルカルボニル−3−ヒドロキシフランと反応させるか、あるいは第3の方法として、単糖の1または2位のヒドロキシ基を臭素(Br)で置換した化合物を1,1,3,3−テトラメチル尿素(TMU)で処理したのち2−アルキルカルボニル−3−ヒドロキシフランと反応させることなどの方法によって、フラン環に単糖残基を結合することができる。各反応に際して、必要に応じて単糖の他のヒドロキシ基を適当な保護基で保護し、または脱保護する。
【0032】
さらにまた、Xが−CHOHであり、Yが−CHOであるフラン誘導体(すなわち、5−ヒドロキシメチルフルフラール)は、上記2の方法の他に、希土類金属の塩化物または酢酸塩を触媒としてヘキソース(例えばフルクトース、グルコース、ガラクトース、ソルビトースなど)またはこれを含む糖類(例えばデンプンなど)をジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒中で加熱脱水反応(温度80〜150℃)することによっても得ることができる(例えば特開平10−265468号公報参照)。
【0033】
4.医薬品
本発明の式(I)のフラン誘導体は、抗癌作用を有する。従って、本発明は、該フラン誘導体を有効成分として含有する抗癌剤を提供する。特に好ましいフラン誘導体は、焙煎サツマイモから単離された2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フランおおよび5−ヒドロキシメチルフルフラールである。
【0034】
本発明の抗癌剤には、有効成分としての式(I)のフラン誘導体の他に、製薬上許容可能な担体(賦形剤もしくは希釈剤)、ならびに、結合剤、増量剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝剤、懸濁化剤、保存剤、着色剤、風味剤、甘味剤などから適宜選択される添加剤を含有させることができる。担体および添加剤は、製剤化のために一般的に使用されるものを、本発明の抗癌剤の製造に使用することができる。例えば、結合剤の例は、デンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど、増量剤の例は、ラクトース、微結晶セルロースなど、滑沢剤の例は、タルク、シリカ、ステアリン酸マグネシウムなど、崩壊剤の例は、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウムなど、湿潤剤の例は、ラウリル硫酸ナトリウムなど、乳化剤の例は、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンなど、緩衝剤の例は、リン酸緩衝液など、懸濁化剤の例は、セルロース誘導体、ソルビトールなど、保存剤の例は、メチル-p-ヒドロキシベンゾエート、ソルビン酸などであるが、上記の特定例に制限されないものとする。
【0035】
本発明の抗癌剤は、例えば経口投与または非経口投与(静脈内、動脈内、腹腔内、経直腸内、皮下、筋肉内、舌下、経鼻腔内、経膣内など)用に製剤化され得る。製剤の形態は、特に制限されないが、溶液剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤、座剤、噴霧剤、制御放出剤、懸濁剤、ドリンク剤などを含む。
【0036】
製剤化については、例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy(1995年,MACK Publishing Company,USA)に記載される医薬用材料および方法を利用することができる。
【0037】
本発明のフラン誘導体の用量は、患者の年齢、体重、性別、状態、重篤度などによって変化し得る。患者に投与される一日用量は、例えば患者の体重1kgあたり0.1〜200mg、好ましくは1〜100mgの範囲であるが、この範囲に制限されない。必要に応じて、用量を数回、例えば2〜3回に分けて分割投与してもよい。また、本発明の抗癌剤は治療用途の同じまたは異なる他の抗癌剤と併用して患者に投与することもできる。
【0038】
本発明の抗癌剤は、正常細胞に影響を与えずに癌細胞に対してアポトーシスを誘導するため、特に血液癌疾患の治療に有効に使用することができる。血液癌疾患には、骨髄性白血病などの白血病および多発性骨髄腫などの骨髄腫が含まれ、特に白血病が好ましく、骨髄性白血病(特に、急性前骨髄性白血病)がより好ましい疾患である。本発明の抗癌剤はまた、そのアポトーシス誘導活性のために、胃癌、肺癌、すい臓癌、腎臓癌、大腸癌などの固形癌に対しても有効に使用可能であると推定される。
【0039】
5.飲食品
本発明はさらに、上記式(I)のフラン誘導体を有効成分として含有する、抗癌作用を有する旨の表示をした飲食品を提供する。フラン誘導体として、2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フランまたは5−ヒドロキシメチルフルフラールが好ましい。
【0040】
本発明の上記式(I)のフラン誘導体はまた、その有効量を、上記4に記載されるように錠剤、カプセル、顆粒、ドリンクなどの任意の形態に添加または封入するか、あるいは任意の食品に添加して得られる、抗癌作用を有する飲食品、特に健康補助食品として使用することができる。好ましくは、錠剤、カプセル、顆粒、ドリンクなどの形態の健康補助食品とするのがよい。
【0041】
飲食品には、菓子類、レトルト食品、ジュース類、お茶類、乳製品などが含まれるが、これらに制限されないものとする。このような飲食品中に本発明の有効成分を適量含有させて製品とし得る。また、飲食品には、必要に応じて甘味剤、調味料、乳化剤、懸濁化剤、防腐剤などを添加してもよいし、あるいはビタミン類、栄養剤、免疫増強剤(例えば、プロポリス、きのこ抽出物など)などを添加してもよい。
【0042】
有効成分の添加量は、成人体重1kgあたり0.1〜200mgに相当する範囲内の量、1製品あたり例えば50mg〜1gであるが、この範囲に制限されないものとする。
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されないものとする。
【0044】
なお、下記の実施例における癌疾患細胞のアポトーシス誘導実験は、文献記載の方法で行った(Mosmann,T.、J.Immunol.Methods、65:55−63、1983;Hou、D.X.、et.al.:Int.J.Oncol.、23:2003)。また、アポトーシス誘導実験は、特開2004−359576および特開2003−309580に記載の方法と同様である。
【実施例1】
【0045】
[ヒト急性前骨髄性白血病疾患細胞(HL−60細胞)の調製]
RMPI1640(10%FBS+)培地の調製:
RMPI1640を2.04g秤取し、蒸留水にて全量を200mlとし、攪拌して溶解した後、溶液をオートクレーブで滅菌した(121℃、20分)。冷後、これに、10%炭酸水素ナトリウム(NaHCO)を4ml、FBS(予め非動化したもの)を20ml、抗生物質溶液(ペニシリン・ストレプトマイシン)2mlを加え、4℃で保存した。
【0046】
HL−60細胞の融解と増殖:
予め−80℃で凍結させておいたHL−60細胞を37℃で溶解し、予め37℃で保温したRMPI1640(10%FBS+)培地5mlに混入し、よく混合した。培地は、遠心分離(1200rpm、5分間)を行った後、上澄みを除去した。これにRMPI1640(10%FBS+)培地1mlを加え、軽く攪拌し、さらにRMPI1640(10%FBS+)培地5mlを加え、混合した後、遠心分離(1200rpm、5分間)を行い、上澄みを除去した。これにRMPI1640(10%FBS+)培地1mlを加え、軽く攪拌し、さらにRMPI1640(10%FBS+)培地5mlを加え、混合した後、シャーレ(6cm)に培地を流し込み、5%二酸化炭素含有大気中37℃の条件で、インキュベーターでHL−60細胞を培養した。
【0047】
HL−60細胞の継代:
培養し、増殖されたHL−60細胞を15mlチューブで回収し、丁寧に攪拌した後、その少量を血球計算盤に採取し、細胞数をカウントした。15mlチューブで回収したHL−60細胞は、遠心分離(1200rpm、5分間)を行った後、上澄みを除去した。これに予め37℃で保温したRMPI1640(10%FBS+)培地1mlを加え、軽く攪拌し、先の細胞数を計算した値から、培地中の細胞の濃度が2x10cells/6mlとなるように、RMPI1640(10%FBS+)培地で濃度を調整した。調整した培地は、5%二酸化炭素含有空気で37℃の条件で、インキュベーターでHL−60細胞を継代した。
【0048】
HL−60細胞の保存:
継代されたHL−60細胞を15mlチューブで回収し、丁寧に攪拌した後、その少量を血球計算盤に採取し、細胞数をカウントした。15mlチューブで回収したHL−60細胞は、遠心分離(1200rpm、5分間)を行った後、上澄みを除去した。これに予め37℃で保温したRMPI1640(10%FBS+)培地1mlを加え、軽く攪拌し、先の細胞数を計算した値から、培地中の細胞の濃度が2x10cells/1mlとなるように、RMPI1640(10%FBS+)培地を80%、FBSを10%、ジメチルスルフォキシド(DMSO)を10%の組成を有する培地で、濃度を調整した。これをセラムチューブに1mlずつ分注し、−20℃で一夜保存後、翌日より−80℃にて保存した。
【実施例2】
【0049】
[エムエムティ・アッセイ(MTT assay);細胞生存率の検定方法]
検定法は、文献記載の方法を参考にした(Mosmann、T.:J.Immunol.Methods、65:55−63、1983)。2x10cells/1mlのRMPI1640(10%FBS+)培地で継代したHL−60細胞を、平底の1 plate 96 wellの1 wellあたり2x10cells/100μlのHL−60細胞数になるように培地でRMPI1640(10%FBS+1%PSG)培地で希釈し、2x10cells/100μlのHL−60細胞を各wellへ分注した。これを5%二酸化炭素含有空気で37℃の条件で、インキュベーターで24時間培養した。
【0050】
培養後各wellに、焙煎サツマイモを分離した分画又はフラン誘導体を3μlずつ添加した。添加後、プレートは、5%二酸化炭素含有空気で37℃の条件下、24時間または48時間、インキュベーターで培養した。
【0051】
培養後、各wellにMTT溶液(3-(4,5−ジメチルチアゾ−2−イル)−2,5−ジフェニル テトラゾリウム ブロミド、MTT、の150mgをPBSの30mlに溶解したもの)を10μlずつ分注した。プレート毎に4時間、5%二酸化炭素含有大気中37℃の条件下、インキュベーターで培養した。培養終了後、各wellに0.04N HCl−イソプロパノール溶液を100μlずつ分注した。室温で10分間放置した後、ピペットで沈殿物を完全に溶解させた後、マイクロプレートリーダーのマルチラベルカウンター(595nm)で吸光度を測定した。細胞生存率(%)は、焙煎サツマイモを分離した分画又はフラン誘導体を添加していない(コントロール細胞の)吸光度から焙煎サツマイモを分離した各分画又はフラン誘導体を添加した細胞の吸光度を引いたものを、コントロール細胞の吸光度で割った値に100を乗じて算出した。
【実施例3】
【0052】
[HL−60細胞に対するアポトーシスの誘導方法]
HL−60細胞の継代と各フラン誘導体の添加:
RMPI1640(10%FBS+)培地中のHL−60細胞の濃度が1x10cells/1mlの濃度で継代された培養細胞液1mlとRMPI1640(10%FBS+)培地2mlをシャーレ中で混合し(これを3ml細胞液という)、5%二酸化炭素含有空気で37℃の条件下、インキュベーターで24時間培養した。これに焙煎サツマイモを分離した各分画又はフラン誘導体を添加し、規定時間について、5%二酸化炭素含有空気で37℃の条件下、インキュベーターで培養した。
【0053】
アポトーシス誘導後のHL−60細胞からの核DNAの回収:
焙煎サツマイモを分離した各分画又はフラン誘導体で規定時間処理した後、培地から細胞液を15mlチューブに回収した。15mlチューブで回収したHL−60細胞は、遠心分離(2000rpm、8分間)を行った後、上澄みを除去した。これに、予め氷冷しておいた滅菌PBS溶液1mlを加え、HL−60細胞を懸濁し、1.5mlのエッペンドルフチューブに分注して遠心分離(2000rpm、8分間、4℃)を行った後、上澄みを除去した。各1.5mlのエッペンドルフチューブにライシスバッファー(lysis buffer)を20μl加え、よく混和した。次に、各1.5mlのエッペンドルフチューブにRNA分解酵素(RNase、1mg/ml濃度)を5μl加え、よく混和し、水浴で加温(50℃、30分)した。加温後、各1.5mlのエッペンドルフチューブにプロテイン分解酵素K(proteinkinase K、10mg/ml濃度)を40μl加え、よく混和し、水浴で加温(50℃、3時間)し、冷後、-20℃で保存した。
【0054】
電気泳動法によるHL−60細胞の核DNA断片化の観察法:
HL−60細胞のDNA断片化については文献記載の方法で測定した(Hou,D.X.ら:Int.J.Oncol.、23:2003)。各1.5mlのエッペンドルフチューブに保存したHL−60細胞の処理溶液にローディングバッファーを添加し、よく混和後、遠心分離(10000rpm、1分間)を行い、核DNA以外のたんぱく質を沈殿、除去した。予め電気泳動槽内にTAEバッファーを満たしたアガロースゲルの各レーンに、遠心分離して除タンパクした核DNAを含む上澄み溶液を分注し、100Vで泳動を開始した。電気泳動後、アガロースゲルを取り出し、シーソー上で揺らしながらエチジウムブロミドで15分間染色する。染色した後、紫外線(UV、UVトランスイルーミネーター)照射により、DNAの断片の様子を観察した。
【実施例4】
【0055】
[焙煎サツマイモからのフラン誘導体の抽出及び分画方法とそのアポトーシスの誘導]
焙煎サツマイモ粉末の製造は、特許文献3の方法に従って行ってもよいし、または、サツマイモを非特許文献4に記載の方法でボイルし、粉砕後、凍結乾燥し、乾燥後粉末にしたものをフライパンなどで焦がして焙煎サツマイモ粉末作製することも可能である。何れにおいても作製された焙煎サツマイモの粉末には癌細胞へアポトーシスを誘導する効果が認められた。
【0056】
この焙煎サツマイモ粉末に適量の水を加え、95℃で一時間煮沸し、抽出した。抽出溶液を直接、MCI gel CHP−20P(三菱化学)のオープンカラムクロマトグラフィーに付した。移動層にA液として水、B液としてメタノールを用い、A液からB液の含量を増やすことによってクロマトグラフィーを行った。分画を5つ得た。分画1は、A液(水)のみで溶出する分画である。B液(メタノール)を5から10%で溶出させると分画2を得ることができる。B液(メタノール)を15から20%で溶出させると分画3を得ることができる。B液(メタノール)を25から35%で溶出させると分画4を得ることができる。B液(メタノール)を40から100%で溶出させると分画5を得ることができる。このようにして順次、5つの分画を得ることができる。
【0057】
前記した5つの分画のHL−60細胞のDNA断片化について検討した。各分画1〜5を培地中の濃度が0.5mg/mlになるように調整し、HL−60細胞を6時間処理し、細胞核からDNAを抽出した。得られたDNAについてアガロースゲル電気泳動を行い、その結果を図1に示す。
【0058】
分画2及び分画3はHL−60細胞のDNAを断片化することがわかる。図1中Cと記載してあるものはコントロールを示す。図1中、2は分画2、3は分画3、4は分画4、5は分画5を示す。なお、分画1、分画4及び分画5はHL−60細胞のDNAを断片化しなかった。
【実施例5】
【0059】
[分画2及び分画3の分画方法とそのアポトーシスの誘導]
前記した方法で得た分画2及び分画3を混合し、固定相にSephadex LH−20(ファルマシアファインケミカル)を用い、移動層にA液として水を、C液としてアセトンを用い、C液からA液の含量を順次増やすことによってクロマトグラフィーを行った。分画を5つ得た。分画L1、L2、L3は、C液(アセトン)のみで溶出する分画である。A液(水)を1%で溶出させると分画L4を得ることができる。A液(水)を2から3%で溶出させると分画L5を得ることができる。このようにして順次、5つの分画を得ることができる。
【0060】
前記した五つの分画のHL−60細胞のDNA断片化について検討した。各分画L1〜L5を培地中の濃度が0.2mg/mlになるように調整し、HL−60細胞を6時間処理し、細胞核からDNAを抽出した。得られたDNAについてアガロースゲル電気泳動を行い、その結果を図2に示す。また、薄層クロマトグラフィーによる分画L1〜L5に含まれるフェノール性化合物の検索を行った。その模式図を図3に示す。薄層クロマトグラフィーの展開溶媒は、クロロフォルム−メタノール−水(CHCl−MeOH−HO;8対2対0.2(v/v%))の混合溶液を用いた。検出は、紫外部吸収スペクトル法で行った。
【0061】
分画L2及び分画L3はHL−60細胞のDNAを断片化は起さなかった。分画L4及び分画L5はHL−60細胞のDNAを断片化することがこの図2よりわかる。図2中Cと記載してあるものはコントロールを示す。図2中、L1は分画L1、L4は分画L4、L5は分画L5を示す。なお、分画L1は一個の化合物から構成されていることが図3よりわかる。分画L1からこの化合物を単離し、直接標品と比較したところ、5−ヒドロキシメチルフルフラール(5−hydroxymethyl−furfural、5−HMF)であることがわかった。なお、このフラン誘導体のHL−60細胞のDNA断片化は弱かったものの、その育成を強く抑えることがわかった(図2)。
【実施例6】
【0062】
[5−ヒドロキシメチルフルフラールの化学構造の確認]
単離・精製した5−ヒドロキシメチルフルフラールのプロトン核磁気共鳴スペクトル(H−Nuclear magnetic resonance [NMR] spectrum)を測定した。測定装置は、GSX400型核磁気共鳴装置(JEOL GSX400 FT−NMR、日本電子)を用いた。その結果は次の通りである。H−NMR(400MHz,CDOD)δ:4.82(2H,br.s,CHOH),6.58(1H,br s,H−4),7.38(1H,br s,H−3),9.53(1H,br d,J=6Hz,CHO)。
【0063】
単離・精製した5−ヒドロキシメチルフルフラールの13C−核磁気共鳴スペクトル(13C−Nuclear magnetic resonance [NMR] spectrum)を測定した。測定装置は、GSX400型核磁気共鳴装置(JEOL GSX400 FT−NMR、日本電子)を用いた。その結果は次の通りである。13C−NMR(400MHz,CDOD)δ:57.6(CHOH),110.9(C−4),124.9(C−3),153.8(C−5),163.2(C−2),179.4(CHO)。これらの結果より、図3に示す物質が、5−ヒドロキシメチルフルフラールであることがわかった。
【実施例7】
【0064】
[分画L5の分画方法とそのアポトーシスの誘導]
前記した方法で得た分画L5を、固定相にシリカゲル(Silica gel、メルク社)を用い、移動層にクロロフォルム−メタノール−水(CHCl−MeOH−HO;8対2対0.2(v/v%))の混合溶液を用い、順層クロマトグラフィーを行った。このクロマトグラフィーにより、三つの分画を得ることができる。
【0065】
前記した三つの分画のHL−60細胞のDNA断片化について検討した。各分画I〜IIIを培地中の濃度が0.2mg/mlになるように調整し、HL−60細胞を6時間処理し、細胞核からDNAを抽出した。得られたDNAについてアガロースゲル電気泳動を行い、その結果を図4に示す。また、薄層クロマトグラフィーによる分画I〜IIIに含まれるフェノール性化合物の検索を行った。その模式図を図5に示す。薄層クロマトグラフィーの展開溶媒は、クロロフォルム−メタノール−水(CHCl−MeOH−HO;8対2対0.2(v/v%))の混合溶液を用いた。検出は、紫外部吸収スペクトル法で行った。
【0066】
分画I及び分画IIIは、HL−60細胞のDNAの断片化を起さなかった。分画IIはHL−60細胞のDNAを断片化することがこの図4よりわかる。図4中Mと記載してあるものはマーカーを示す。図4中Cと記載してあるものはコントロールを示す。図4中、IIは分画IIを示す。なお、分画IIは一個の化合物から構成されていることが図5よりわかる。
【0067】
更に分画IIについて、固定相にChromatorexODS(富士シリシア化学)を用い、移動層にA液(水)及びB液(メタノール)を用い、A液からB液の含量を増やすことによってクロマトグラフィーを行った。この方法により、フラン誘導体を単離、精製した。この物質は結晶として得られた。構造確認は実施例8に記載した。
【実施例8】
【0068】
[式(II)で示すことのできる新規フラン誘導体の化学構造の決定方法]
単離・精製した式(II)で示すことのできる新規フラン誘導体のプロトン核磁気共鳴スペクトルを測定した。測定装置は、JNM−ECA600型核磁気共鳴装置(JEOL JNM−ECA600KS、日本電子)を用いた。その結果は次の通りである。H−NMR(600MHz,CDOD) δ:2.48(3H,s,CH),3.43(1H,dd,J=10.3,8.9Hz,glc−H−4),3.57(1H,ddd,J=10.3,5.4,2.7Hz,glc−H−5),3.61(1H,dd,J=9.6,3.4Hz,glc−H−2),3.68(1H,dd,J=12.3,5.4Hz,glc−H−6a),3.74(1H,dd,J=12.3,2.7Hz,glc−H−6b),3.83(1H,dd,J=9.6,8.9Hz,glc−H−3),5.57(1H,d,J=3.4Hz,glc−H−1),6.77(1H,d,J=2.0Hz,fur−H−5),7.65(1H,d,J=2.0Hz,fur−H−6)。
【0069】
単離・精製した式(II)で示すことのできる新規フラン誘導体の13C−核磁気共鳴スペクトルを測定した。測定装置は、JNM−ECA600型核磁気共鳴装置(JEOL JNM−ECA600KS、日本電子)を用いた。その結果は次の通りである。13C−NMR(600MHz,CDOD)δ:27.4(CH),62.1(glc−C−6),71.1(glc−C−4),72.9(glc−C−2),74.7(glc−C−3),75.4(glc−C−5),101.4(glc−C−1),105.9(fur−C−5),139.3(fur−C−3),148.6(fur−C−6),154.3(fur−C−4),187.5(CO)。
【0070】
単離・精製した式(II)で示すことのできる新規フラン誘導体の核磁気共鳴スペクトルで、異核化学シフト相関(HMQC、heteronuclear multiple quantum coherence spectrum)の測定と、プロトン(H)に対応する13炭素(13C)の遠距離相関(HMBC、heteronuclear multiple bond coherence spectrum)の測定を行った。測定装置は、JNM−ECA600型核磁気共鳴装置(JEOL JNM−ECA600KS、日本電子)を用いた。その結果を図6に示す。図中の数字はプロトン(H)に対応する13炭素(13C)の帰属である。また、HMQCおよびHMBCの測定チャートを図7、図8に示す。
【0071】
質量分析計(Mass spectrometry)を用いて式(II)で示すことのできる新規フラン誘導体の質量を測定した。測定装置は、MAT900型質量分析装置(MAT900XL、Thermoelectron Co.)を用いた。イオン化は、高速電子衝突法(Fast atom bombardment)で測定した。理論値は、C1216であり、m/z:289[M+H]、m/z:311[M+Na]にイオンピークを与えた。これらが式(I)で示すことのできる新規フラン誘導体の分子イオンピークであることがわかる。また、電子衝撃法(Electron impact)により測定した。その結果、m/z:126にフラグメントイオンピークを与えた。このピークは、糖が脱離したアグリコンのピーク[C、aglycone]であることがわかった。
【0072】
式(II)で示すことのできる新規フラン誘導体の元素分析を測定した。その結果、炭素は47.02%、水素は5.97%含まれることがわかった。この結果より、組成式はC1216・HOであり、この組成式による理論値の、炭素47.02%、水素5.93%によく一致することがわかる。また、式(II)で示すことのできる新規フラン誘導体の組成式C1216に1分子の水(HO)が結合していることがわかる。
【0073】
式(II)で示すことのできる新規フラン誘導体の塩酸加水分解を行った。塩酸の濃度を0.1規定(0.1N)とした水溶液数mlに、式(II)で示すことのできる新規フラン誘導体数mgを溶解し、95℃で3時間、還流煮沸した。冷後、加水分解溶液について、薄層クロマトグラフィーを行い、その移動層にクロロフォルム−メタノール−水(CHCl−MeOH−HO;7対3対0.5(v/v%))の混合溶液を用いたところ、グルコースを検出した。
【0074】
式(I)で示すことのできる新規フラン誘導体の旋光度([α])を測定した。測定値は、+71.6°である。測定温度は、20℃、測定濃度は、c=0.3である。測定溶媒はメタノールを用いた。
【0075】
式(II)で示すことのできる新規フラン誘導体は、無色針状の結晶で得られた。その融点は、144〜145℃であった。
【0076】
これらの結果から、新規フラン誘導体の化学構造式が上記の式(II)であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明により焙煎サツマイモから単離されたフラン誘導体は、癌、特に急性前骨髄性白血病に対しアポトーシス誘導活性を有することから、抗癌剤として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例4の各分画についてHL−60細胞のDNA断片化を調べた結果を示すアガロースゲル電気泳動の図である。図中、Cはコントロール、2は分画2、3は分画3、4は分画4、5は分画5をそれぞれ示す。
【図2】実施例5の各分画についてHL−60細胞のDNA断片化を調べた結果を示すアガロースゲル電気泳動の図である。図中、Cはコントロール、L1は分画L1、L4は分画L4、L5は分画L5をそれぞれ示す。
【図3】実施例5の各分画の薄層クロマトグラフィーを示す模式図である。分画L1は、5−ヒドロキシメチルフルフラールである。
【図4】実施例7の各分画についてHL−60細胞のDNA断片化を調べた結果を示すアガロースゲル電気泳動の図である。図中、Mはマーカー、Cはコントロール、IIは分画IIをそれぞれ示す。
【図5】実施例7の分画IIの薄層クロマトグラフィーを示す模式図である。分画IIは、新規フラン誘導体2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フランである。
【図6】新規フラン誘導体2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フランの核磁気共鳴スペクトルにおける、異核化学シフト相関(HMQC)と、プロトン(H)に相関する13炭素(13C)の遠距離相関(HMBC)を示す図である(実施例8参照)。
【図7】新規フラン誘導体2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フランのHMQCチャートを示す図である。
【図8】新規フラン誘導体2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フランのHMBCチャートを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I):
【化1】

〔式中、Xは、−CHOHまたは−COR(Rは、置換もしくは未置換の低級アルキルである。)であり、Yは、Hまたは単糖残基であり、ならびにZは、Hまたは−CHOである。但し、YがHであるときにはZは−CHOであり、あるいはZがHであるときにはYは単糖残基である。〕
によって表わされるフラン誘導体を有効成分として含有する抗癌剤。
【請求項2】
単糖残基がグルコピラノシル基である請求項1記載の抗癌剤
【請求項3】
フラン誘導体が下記の式(II):
【化2】

によって表わされる2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フランである請求項1または2記載の抗癌剤。
【請求項4】
フラン誘導体が5−ヒドロキシメチルフルフラールである請求項1記載の抗癌剤。
【請求項5】
血液癌疾患を治療するためのものである請求項1〜4記載の抗癌剤。
【請求項6】
血液癌疾患が白血病である請求項5記載の抗癌剤。
【請求項7】
式(I)のフラン誘導体を有効成分として含有する、抗癌作用を有する旨の表示をした飲食品。
【請求項8】
フラン誘導体が、2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フランまたは5−ヒドロキシメチルフルフラールである、請求項7記載の飲食品。
【請求項9】
上記の式(II)によって表わされる2−アセチル−3−O−α−D−グルコピラノシル−フラン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−206489(P2006−206489A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20090(P2005−20090)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(593144105)薩摩酒造株式会社 (8)
【Fターム(参考)】