説明

抗菌性を有する食品包装材

本発明は、プラスチックに基づく単層構造または多層構造の食品包装であって、単層または多層のうちの少なくとも1層が抗菌性を有する少なくとも一つの金属を含み、抗菌性を有する金属の少なくとも一部が微細な金属の形態で存在し、残りの部分が塩の形態で存在する食品包装に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック素材に基づく単層構造または多層構造の食品包装に関し、特に、本発明は、単層または多層のうちの少なくとも1層が抗菌性を有する金属を含む食品包装に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食肉、ソーセージおよびチーズ製品の保存性は、特に、パッケージ内の微生物の成長により限界があり、適切な方策をとることによってこれらの製品の保存性を向上することが、普遍の目的である。適切な方策としては、無菌状態での包装や、包装対象の製品への保存料の添加がある。
【0003】
細菌の成長および/または増殖を効果的に抑制する更なる考え得る方策としては、抗菌性を有する物質を包装材料またはそのコーティングに添加することである。本願明細書において、「抗菌性」または「抗菌性を有する」とは、一般的に、微生物、特に、バクテリア、イースト、カビおよび菌類に対する抗菌性をいう。この点について特に重要なことは、大腸菌群、サルモネラ菌、ブドウ球菌などのバクテリアに対する抗菌性である。
【0004】
しかし、使用する抗菌物質は、たとえ微量であっても、プラスチック素材から包装商品に放出されるものと想定すべきなので、添加および/またはコーティングといった考え得る方法には不都合な点がある。したがって、使用する物質は、生体にとって無害であること、または障りがないことが必要である。更なる不都合な点は、熱可塑性材料の加工が比較的高温で行われることである。これによって、その場で添加される抗菌性有機物質の使用が制限される。なぜなら、この様な物質は、通常の加工温度において不可逆変化を起こすからである。
【0005】
したがって、その抗菌性が公知である金属イオンの抗菌性を利用することによって、特に銀、錫、銅、亜鉛イオンの抗菌性を利用することによって、上記の不都合な点を回避することができる。
【0006】
ポリマーは、金属イオン、特にAg+、Sn2+、Cu+、Zn2+によりその表面で抗菌効果を示すことが公知となっている。しかし、高分子基材における金属イオンの一定の移動性がその前提条件であり、それは、通常、基材が水の取込能力を有する場合に達成可能である。この一般に公知の効果も、包装業界で採用されている。
【0007】
特許文献1は、特に、ソーセージまたはソーセージ製品用の、抗菌性を付与したプラスチック素材に基づく食品包装の製造を開示している。この開示によると、銀、銅または亜鉛イオンは、押出成形の前に金属塩の形態で主溶融物に添加することが好ましく、プラスチック素材に基づく食品包装は、ポリアミドの包装紙である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】DE193006A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の食品包装において特に不都合な点は、抗菌性を有する金属イオンを塩の形態で金属イオン担持層に導入しなければならないことであり、すなわち固体としての金属酸化物のみが開示されている。食品包装の充分な強度を保証するためには、金属イオンを含む層は、その厚さが、使用する金属酸化物の粒径より少なくとも幾分厚くなければならない。同時に、いわゆるマスターバッチ、すなわち、食品包装の製造に使用するポリマー/金属塩混合物の処理が、沈殿や凝集の問題に関わってくる。したがって、先行技術の特に不都合な点は、一般的に、μm(ミクロン)範囲の比較的大粒径を有する固体である、抗菌性を有する金属塩の処理である。
【0010】
したがって、本発明の目的は、少なくとも、低価格で好都合に製造でき、充分な強度と耐久性を有し、先行技術の問題点を可能な限り回避する更なる食品包装を提供することである。
【0011】
本発明の更なる目的は、この様な食品包装の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的は、添付の請求項1の特徴を有するプラスチック素材に基づく単層構造または多層構造の食品包装、および、請求項14に係るこの様な食品包装の製造方法によって達成される。食品包装およびその製造方法の好適な実施形態は、独立請求項を引用する従属請求項の内容である。
【発明の効果】
【0013】
この食品包装の特に有利な点は、抗菌性を有する少なくとも一つの金属が、層またはシートに含まれており、少なくとも一つの金属が微細かつ規則的な分布形態で含まれていること、そして、金属粒子が、ナノメートル(nm)範囲の非常に小さな直径を有するということである。したがって、例えば、先行技術と比較して、食品包装の強度や耐久性を損なうことなく、少なくとも一つの金属を含有するシートまたは層の厚さを特に薄く保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態において、上記金属は、微量殺菌効果を有するコロイドの形態で存在する。好ましくは、使用する金属は、Ag、Cu、Sn、Znおよびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0015】
本発明の食品包装は、単層構造であってもよいが、多層構造であることが好ましく、多層構造の食品包装が、3層、5層または7層構造を有することが特に好ましい。
【0016】
本発明の食品包装が多層構造を有する場合、O2バリアなど、各単層の特別な機能または効果は、その効果を最も発揮できる場所に配置する層の順序に関係してくるので、食品包装が非対称構造であることが特に有利である。製品に面する食品包装の単層または複層に金属が含まれていることが特に好ましい。この構成により、細菌の侵入を効果的に防止したり、包装された食品の表面における細菌の増殖や分散を少なくとも遅延または制限したりすることができる。
【0017】
本発明に係る食品包装は、筒状のフィルム、または、平坦なフィルムまたはシートである。食品包装は、筒状に形成され、特に、継ぎ目のない筒状に形成されていることが好ましい。この様な継ぎ目のない筒状タイプの食品包装は、一般的に公知であり、通常、適切なリングノズルを用いたブローフィルム押出成形法により製造される。この様な食品包装は、ソーセージの包装に特に有用であるが、食肉、チーズ製品などを包装するために用いることもできる。
【0018】
抗菌性を有する金属は、金属含有層に対して50〜500ppmの濃度で含まれていることが一般的に好ましく、70〜350ppmの濃度であることが好ましく、100〜200ppmの濃度であることが特に好ましい。
【0019】
一般的に、食品包装または少なくともその1層が、安定剤をさらに含んでいてもよく、安定剤は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ドデシル硫酸ナトリウムおよびそれらの混合物から選択されることが好ましい。
【0020】
基本的に、本発明に係る食品包装は、任意の適切なポリマーから製造することができる。しかし、食品包装が多層構造を有する場合、食品包装の各層が、ポリオレフィン、接着剤、EVOH、ポリビニルアルコール(PVA)および/またはポリアミドに基づく層であることが好ましい。本発明に係る食品包装は、特に、比較的厚さが薄いことを特徴とする。一般的に、全体的な厚さは、10〜150μmであることが好ましく、20〜80μmであることが特に好ましい。
【0021】
特に、本発明に係る食品包装の金属含有層は、厚さが2〜50μmであることが好ましく、5〜20μmであることが特に好ましい。この層厚は、一般的に以下に記載されている本発明に係る方法によって、きわめて有利に得ることができる。
【0022】
特に好適な実施形態において、本発明に係る食品包装は、例えば、ソーセージ、食肉またはチーズのコールドカット用の中間層または分離層として使用可能な平坦なシートである。一般的に、非対称構造も可能であるが、食品に接触させる両面を金属含有層で形成するために、フラットシートを対称構造とすることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る食品包装は、通常、周知の押出成形法により製造される。上記の押出成形法において特に有利な点は、押出成形工程中に金属を濃縮溶液としてコロイドの形態で添加することである。この様にして、高効率の必須条件である押出成形機における激しい混合によって、食品包装の各層に金属を特に容易に均一に分散することができる。より詳細に以下に述べるように、金属塩の各溶液を出発物質として使用し、溶液中で陽イオンをコロイド生成のもとで還元する。この様にして、比較的小さな粒径を得ることができ、そして、少なくとも一つの金属を含有する層の厚さを薄くすることができる。
【0024】
本発明に係る方法を実施する際に、例えば、沈殿の問題、および、食品包装の機械耐久性に限界があることや、少なくとも一つの金属を含有する層の厚さがあまりにも厚くなることなど、粒径が大きすぎることによる問題は、大抵の場合、各金属塩の溶液から始めることによって、本発明により有利に回避される。
【0025】
この目的のためには、例えば、トリエチレングリコールまたはジエチレングリコール、好ましくはトリエチレングリコールなどの有機溶媒に各金属塩を溶解し、50℃を超える温度、好ましくは100℃〜150℃に加熱することが好ましい。この温度を超えると、還元がおこるが、これは色の変化で認識可能である。溶液のコロイド懸濁液に明らかに存在する小粒度の微細分布のコロイド金属粒子の生成は、本発明にとって不可欠である。この様に還元された金属塩の溶液は、貯蔵安定性が比較的低いので、更に直接処理することが好ましい。
【0026】
ここで前述した、好ましくは1〜3重量%の金属成分を有するコロイド懸濁液を、脱ガスモジュールを介して適切な押出成形機に投入する。これによって、担持液の大部分または全部を蒸発させることができ、金属含有層を形成するために使用するポリマーに金属を均一に分散し、気泡の生成を回避する。本発明に係る方法の好適な実施形態によると、潜在的に可能性のある金属粒子の凝集は、安定剤の添加によって更に回避される。食品関連用途に障りのないポリビニルピロリドン(PVP)、少量のドデシル硫酸ナトリウム、またはその混合物を安定剤として使用することが好ましい。特に、PVPが好ましい。
【0027】
理想的には、1軸スクリュー押出成形機または2軸スクリュー押出成形機で処理することによって、ポリマー中における金属の分散が特に良好になる。
【0028】
特に、金属含有層のために選択されるポリマーにもよるが、金属懸濁液の添加は、一般的に、150〜250℃の温度、好ましくは180〜220℃の温度で行われる。
【0029】
特定の理論に拘束されず、本発明による有利かつ驚くべき効果は、溶液中に存在する金属イオンが還元され、現れた金属核が同時にコロイド状態で安定化され、微細分布のナノメートル範囲の金属または金属粒子を含む懸濁液が生成されるという事実により得られる。
【0030】
この懸濁液をポリマー溶融物に添加し、それと同時に使用した溶媒を蒸発させることによって、ポリマー層における金属粒子の相応の微細分布が達成される。そして、金属含有層が周囲条件下で水を取り込むと、この様にして製造された食品包装内において、抗菌性を有する金属イオンが、既存の条件下で生成され、金属イオンは、水分により拡散して、その抗菌性を発揮する。
【0031】
なお、本発明の有利な効果は、本質的に、ポリマー層における金属の微細分布に起因するものである。このために、金属は、必ずしも非帯電状態で存在する必要はない。この発明の概念は、例えば、金属塩を還元せずに溶液から微細分布の形態でポリマー層に各金属塩を組み込むことによっても達成可能である。したがって、本発明の枠組み内で使用される「金属」という用語は、抗菌性を有する金属の陽イオンおよびその非帯電状態のものを含む。
【0032】
以上、ここで一般的に記述した本発明について、より詳細に下記に例示するが、本発明の実施形態は、本発明のより良い理解を意図しており、決して本発明を限定する意図はない。
【実施例1】
【0033】
まず、100mlのジエチレングリコール(DEG)を還流下で160℃で加熱し、室温まで冷却する。1gのAgNO3をその中に溶解する。次に、その溶液を水浴で加熱する。当初黄色がかった溶液が、50℃を超えると薄い灰色に変色し、これは、凝集銀粒子の生成を意味するものと考えるべきである。この溶液を凝縮して顆粒状ポリマー材料と混合し、2軸スクリュー押出成形機に供給し、共押出により多層筒状フィルムの中間層へと加工する。
【実施例2】
【0034】
まず、100mlのトリエチレングリコール(TEG)を還流下で1時間加熱する。150℃まで冷却した後、勢いよく撹拌しながら、AgNO3の0.1モル溶液5mlと、ポリビニルピロリドン(モル質量20,000のPVP)の0.2モル溶液とを同時にゆっくりと添加する。筒状押出成形中に、製品に接触する内層のポリマー重量に対してAg濃度が50ppmとなるように、生成した懸濁液を添加剤として添加する。添加は、180〜220℃の範囲の温度で行われる。
【実施例3】
【0035】
まず、150℃で10gのPVPを100mlのトリエチレングリコール(TEG)に溶解する。使用するPVPは、6,000〜20,000の範囲のモル質量を有する。次に、撹拌、加熱しながら、ドデシル硫酸ナトリウム界面活性剤(1〜5g)の存在下で1〜5gのAgNO3を更に100mlのTEGに溶解する。界面活性剤は、生成された銀の核の一部を充分に安定させ、その更なる成長を阻害することができる。銀粒子の残りの部分は、より粗い粒子へと成長するが、この粗粒子も、30分〜24時間後、好ましくは1〜5時間後にPVP―TEG/PVP溶液の添加と同時に囲い込みによって安定化される。
【0036】
現れた二つのピークを有する粒度分布は、細かい粒子部分により強力な短時間効果をもたらす。これとは対照的に、粗い粒子は、一種の貯留効果により長期的にバクテリアを抑制する。
【0037】
筒状押出成形中に、製品に接触する内層のポリマー質量に対して銀濃度が50〜500ppm、好ましくは100〜200ppmとなるように、この様にして生成された懸濁液をポリマーに添加する。添加は、脱ガスモジュールを介して180〜220℃の範囲の温度で行われる。
【実施例4】
【0038】
本発明に係る食品包装の抗菌性を、実施例3で製造した3枚のフィルムで評価した。その結果を下記の表に示す。
【0039】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック素材に基づく単層構造または多層構造の食品包装であって、単層または多層のうちの少なくとも1層が、抗菌性を有する少なくとも一つの金属を含み、抗菌性を有する上記金属の少なくとも一部が微細な金属の形態で存在し、残りの部分が塩の形態で存在することを特徴とする食品包装。
【請求項2】
上記金属が、塩および/または金属の形態であり、微量殺菌効果を有するコロイドの形態で存在することを特徴とする請求項1記載の食品包装。
【請求項3】
上記金属が、Ag、Cu、Sn、Znおよびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項1または2記載の食品包装。
【請求項4】
多層構造、特に3層、5層または7層構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の食品包装。
【請求項5】
非対称構造を有することを特徴とする上記請求項のいずれか一項記載の食品包装。
【請求項6】
上記金属が、製品に面する側および/または反対側の単層または複層に含有されていることを特徴とする請求項1〜4記載のいずれか一項記載の食品包装。
【請求項7】
筒状のフィルムまたは平坦なシート、好ましくは筒状のフィルム、特に継ぎ目のない筒状フィルムであることを特徴とする上記請求項のいずれか一項記載の食品包装。
【請求項8】
上記金属が、50〜500ppm、好ましくは100〜200ppmの重量割合で金属含有層に含有されていることを特徴とする上記請求項のいずれか一項記載の食品包装。
【請求項9】
食品包装、またはその層のうちの少なくとも1層が、安定剤をさらに含有していることを特徴とする上記請求項のいずれか一項記載の食品包装。
【請求項10】
上記安定剤が、ポリビニルピロリドン、ドデシル硫酸ナトリウムおよびそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項8記載の食品包装。
【請求項11】
食品包装の各層が、ポリオレフィン、接着剤、EVOH、ポリビニルアルコールおよび/またはポリアミドに基づく層であることを特徴とする上記請求項のいずれか一項記載の食品包装。
【請求項12】
食品包装の全体の厚さが、10〜150μm、特に20〜80μmであることを特徴とする上記請求項のいずれか一項記載の食品包装。
【請求項13】
上記金属含有層の厚さが、2〜50μm、特に5〜20μmであることを特徴とする上記請求項のいずれか一項記載の食品包装。
【請求項14】
コロイド金属が、押出形成工程において濃縮懸濁液として添加されることを特徴とする上記請求項のいずれか一項記載の単層構造または多層構造の食品包装の製造方法。
【請求項15】
上記濃縮懸濁液が、金属塩の還元によって生成されることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項16】
上記還元が、100〜150℃の温度でトリエチレングリコールを用いて行われることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項17】
上記懸濁液が、押出成形工程において計量ポンプにより上記ポリマー溶融物に添加され、その中に均一に分散されることを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
押出成形機が、1軸スクリュー押出成形機または2軸スクリュー押出成形機であることを特徴とする請求項14〜17記載のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
押出成形機への懸濁液の添加は、150〜250℃、好ましくは180〜220℃の温度で脱ガスモジュールを介して行われることを特徴とする請求項13〜16記載のいずれか一項記載の方法。

【公表番号】特表2010−505705(P2010−505705A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530814(P2009−530814)
【出願日】平成19年10月8日(2007.10.8)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008695
【国際公開番号】WO2008/043501
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(509084161)クーネ アンラーゲンバウ ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】