説明

抗菌適用のためのペプチド配列、それらの分岐形態、及びその使用

本発明は、アミノ末端からカルボキシ末端に、KKIRVRLSA、配列番号1、RRIRVRLSA、配列番号2、KRIRVRLSA、配列番号3、RKIRVRLSA、配列番号4又はその誘導体の群より選択されるアミノ酸配列を有する抗菌ペプチド及びその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にテトラ分岐MAP形態で合成された場合、プロテアーゼ活性に対して特に耐性であり、結果的に、インビボでの使用に非常に適する強力な抗菌ペプチド配列の同定に関する。本発明の配列(KKIRVRLSA、配列番号1、RRIRVRLSA、配列番号2、KRIRVRLSA、配列番号3、RKIRVRLSA、配列番号4)は、最初のアミノ末端残基としてGlnをもたらす以前に報告されたペプチドM6に由来する。Glnの除去は、ペプチド安定性及びロット間均一性における予期せぬ、驚くべき改善を与え、そして、結果的に、M6ペプチドについて特に困難であるペプチド合成のために信頼できる方法を可能にした。
【0002】
背景技術
多剤耐性細菌の増大する緊急事態は、抗生物質が臨床において広く使用されるそれらの国々の大半における世界的な懸念である。多くの病原菌(黄色ブドウ球菌、結核菌、一部の腸球菌、緑膿菌、及び多くの他のグラム陰性菌など)が、大半の従来の抗生物質に対して、ならびに新世代の抗生物質に対して耐性を発生している(Wenzel and Edmond 2000)。従って、新たな抗生物質を開発することがますます重要になっている。この要求のため、研究者のコミュニティー及び製薬会社が新たな抗菌薬剤を考えることが急務となる。抗菌ペプチドが、一般的に耐性細菌の選択を起こす従来の抗生物質に対する最良の代用物の1つであると考えられる(Hancock and Sahl 2006)。大半の抗菌ペプチドが、動物(ヒト、植物、及び真菌を含む)の先天免疫の成分である(Zasloff, 2002)。それらは、通常、6〜50のアミノ酸残基からなり、正味の正電荷を有する。カチオン性ペプチドが、選択的に、アニオン性細菌膜と、及び他の負電荷を帯びた構造(例えばLPS及びDNAなど)と相互作用する。真核生物膜が、それらの外層において、通常、細菌膜より低く、異なって負電荷を帯びており、それらは、また、コレステロール分子により安定化される。これらの違いは、カチオン性ペプチドの特異性の基礎である。カチオン性抗菌ペプチドの作用機構は、結果的に、細菌膜に対するそれらの特異的結合に起因し、それによって細胞浸透及び、一部の場合において、代謝経路阻害が惹起される。
【0003】
多くの試験が、次に、それらの作用機構、真核細胞でのそれらの毒性、及び局所又は全身投与された場合でのそれらの治療効力を試験することによる抗菌ペプチド配列の同定及び特性付けを目指した。残念なことに、2つの主な問題によって今まで抗菌ペプチド薬物の開発が妨げられた。第1は、細菌についての天然抗菌ペプチドの選択性が一般的に低すぎ、それらは、真核細胞、特に赤血球について非常に有毒であると思われ、高レベルの溶血を引きおこすことである。第2は、インビボでのペプチドの一般的に短い半減期に関連する。これらは、少数のカチオン性ペプチドしか過去10年間に市場に届いていないことの主な理由である(ポリミキシン及びダプトマイシンは2つの成功例である)。
【0004】
数年前、研究者が、合理的な設計又はコンビナトリアルライブラリーのスクリーニングにより実験室において選択された非天然の新規ペプチド配列の同定に集中し始めた。目的は、細菌についての一般的な毒性及び特異性の点でより良好な生物学的特性ならびに薬物開発のための改善された半減期を伴うペプチドを見出すことであった。
【0005】
本発明者らの実験室において、非天然ペプチド配列が同定され、それは特にグラム陰性菌に対して強い抗菌活性を示した(Pini et al., 2005)。ペプチド(QKKIRVRLSA、配列番号5、M6と呼ばれる)は、コンビナトリアルライブラリーから同定された配列の合理的な改変により得られ、4つの同一のペプチド配列がリジンコアにより一緒に連結されたMAPテトラ分岐形態で合成された。この分子は、プロテアーゼ及びペプチダーゼに対して高い耐性を示し、従って、短い半減期の問題を克服する(Bracci et al., 2003; Falciani et al., 2007)。分岐抗菌ペプチドM6は、既に、多くの細菌(いくつかの多剤耐性臨床分離株を含む)に対するその生物活性について、DNAとのその相互作用について、いくつかの真核生物細胞株に対するインビトロでの毒性について、ならびに、その溶血活性について、その免疫原性について、腹腔内又は静脈内注射された場合でのそのインビボでの毒性について特徴付けられている(Pini et al., 2007)。
【0006】
M6特性付けのために行われた全ての実験の間に、本発明者らは、M6の異なる合成によって非相同活性(バッチ間相違点)を伴うペプチドが産生されたことに気付いた(図1A)。マススペクトロメトリー分析によって、M6の最初のアミノ酸、即ちGlnが、ピログルタミン酸に変換されることが明らかになった(図1B)。ピログルタミン酸を含むが、Glnを含まない異なるペプチドの存在は、予測不可能なパーセンテージで、バッチ間で変化する。この二次産物の完全除去は実際に不可能である。第1に、なぜなら、主な産物との類似の保持時間のため、HPLC精製の間に容易に捨てられないからであり、第2に、なぜなら、それは、溶液中にある場合に、親ペプチドから持続的に産生されるからである。ピロGluアナログは、Glnアナログに関して、感知できる抗菌活性の低下を示すため、混合物の全活性はバッチ間で変動した(図1A)。
【0007】
バッチ間での相違点を最小限にするために、前臨床実験のため及び、恐らくは、工業的製造のための大スケールペプチド産生の観点から、本発明者らは、M6から最初のGln残基を除去し、また、最初の2つのLysをArgと置換し、又は、最初の2つの残基をLys及びArgで代用した。これによって、M6配列中に存在する最初のGlnを取り除いた以下の9−mer配列が産生された:KKIRVRLSA、配列番号1、M33と呼ぶ;RRIRVRLSA、配列番号2、M34と呼ぶ;KRIRVRLSA、配列番号3、M35と呼ぶ;RKIRVRLSA、配列番号4、M36と呼ぶ。これらの配列は本願の対象である。
【0008】
新たなペプチドを、以下の実施例に記載するいくつかの特性付けに供した。
【0009】
実際的には、M6ペプチド配列のN末端の単一アミノ酸残基の除去、及び最初の2つの位置でのLys及びArgの可能な代用は、より良好な抗菌活性を産生し、副毒性及び作用機構の点での任意の異なる挙動の原因にはならない。実際に、それによって合成負担における強い改善が産まれ、ペプチドM33、M34、M35、及びM36の配列が、M6に関する工業的開発のためにずっとより適するようになる。M33、M34、M35、及びM36配列は、改善された安定性及びバッチ間均一性のおかげで、抗菌薬物の開発のための理想的な候補である。
【0010】
発明の説明
本発明の対象は、ペプチド配列KKIRVRLSA、配列番号1、M33、RRIRVRLSA、配列番号2、M34、KRIRVRLSA、配列番号3、M35、RKIRVRLSA、配列番号4、M36であって、単量体構造又はデンドリマー構造で、好ましくは以下の一般式:
【化1】


(式中、Rは、M33、M34、M35、及びM36の群において選ばれる配列を伴う単量体ペプチドであり(全てのRが、1つのMAP分子において同じ配列である)、Xは三官能性分子であり、ZはX又は以下の化学基:
【化2】


(式中、R及びXは上に定義される)としての三官能性分子である)
に従う多抗原性ペプチド(MAP)形態で合成される。
【0011】
本発明のさらなる対象は、アミノ末端からカルボキシ末端に、KKIRVRLSA、配列番号1、RRIRVRLSA、配列番号2、KRIRVRLSA、配列番号3、RKIRVRLSA、配列番号4又はその誘導体の群より選択されるアミノ酸配列を有する抗菌ペプチドであって、ここで1つのアミノ酸残基がアラニン残基により置換され、又は、ここで1つの正電荷アミノ酸を別の正電荷アミノ酸により置換される。好ましくは、ペプチドは線形形態である。より好ましくは、ペプチドは、ポリアクリルアミドの骨格上で、デキストラン単位の骨格上で、又はエチレングリコール単位の骨格上で多量体化される。さらに好ましくは、ペプチドは、以下の式:
【化3】


(式中、Rは、請求項1において主張されるペプチドであり;Xは三官能性分子であり;m=0又は1;n=0又は1;m及びnが0の場合、ペプチドは二量体であり;m=1及びn=0の場合、ペプチドは四量体であり、m=1及びn=1の場合、ペプチドは八量体である)を有する多抗原性ペプチド(MAP)の形態である。
【0012】
好ましくは、Xは三官能性単位である。より好ましくは、三官能性単位は少なくとも2つの機能性アミノ基を含む。さらに好ましくは、Xは、リジン、オルニチン、ノルリジン(nor-lysine)、又はアミノアラニンである。さらに好ましくは、Xは、アスパラギン酸又はグルタミン酸である。より好ましくは、Xは、プロピレングリコール、コハク酸、ジイソシアネート、又はジアミン誘導体である。
【0013】
本発明のさらなる対象は、医学的使用のための上に記載されるペプチドである。好ましくは抗菌薬物としてである。
【0014】
本発明のさらなる対象は、医薬的に許容可能な有効量の上に記載するペプチドを含む医薬的組成物である。好ましくは、組成物は、全身使用のために個人において注射される溶液の形態、より好ましくはLPS中和のための解毒剤として注射される溶液の形態、さらに好ましくは洗眼液、洗口剤、軟膏、又は局所使用のための溶液の形態である。
【0015】
本発明のさらなる対象は、本発明のペプチドを含む抗菌活性を伴う殺菌剤及び/又は界面活性剤の調製である。
【0016】
また、本発明の対象は、食品産物及び/又は化粧品産物及び/又はホメオパシー産物の調製のための保存剤としての本発明のペプチドの使用である。
【0017】
本発明の対象は、医学的、獣医的、及び農学的適用のための抗菌薬剤としてのそのようなペプチドの使用である。
【0018】
本発明の配列は、分子組成及び生物学的活性の両方の点でのそれらの安定性及び強いバッチ間均一性のため、既に記載したM6ペプチドに関して有利である。M6配列(QKKIRVRLSA、配列番号5)は、最初のN末端残基としてGlnアミノ酸を含んだ。このアミノ酸は、予測不可能な量でピログルタミン酸に自然に変換される傾向があった。バッチ中のピログルタミン酸の存在によって、ピログルタミン酸のパーセンテージに依存して、全ペプチド活性における感知できる減少が起こった(図1A)。実際に、M6ペプチドの抗菌活性は長期間で一貫しておらず、これは製造のスケールアップに負の影響を与える。単純で、明らかにわずかなM6配列からの最初のGlnの除去、ならびに、恐らくは、最初の2つの残基のLys及びArgでの代用によって、強く改善された安定性及びバッチ間均一性を伴う新たなペプチド配列が産生され、大規模製造が信頼できるようになる。この重大な特性は、その非常に有望な抗菌活性とともに、ペプチドM33、M34、M35、及びM36を新たな抗菌薬物の開発のための最適な候補にする。本発明は、本明細書において、以下の図を参照する非限定的な例により記載される:
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】大腸菌TG1細胞に対する抗菌活性。以下のテトラ分岐ペプチドの比較:M6バッチ1合成(三角)、M6バッチ2合成(四角)、M6バッチ3合成(白丸)、それらは最初のアミノ酸、ピロM6(アステリスク)としてGlnとピロGluの混合物を含み(パーセンテージは不明)、ここで最初のアミノ酸は100%ピロGluであり、及びM33(黒丸)、それにおいて最初のGlnが欠失した。100%ピロGluを含むペプチドは最悪の結果を与え、GlnのピロGluへの修飾によって抗菌活性が減少することが確認された。Gln及びピロGluの両方を含むM6ペプチドは、中間の抗菌活性を示した。M6配列からの最初の残基の除去によってペプチド活性が改善された(M33についての曲線により実証された通りである)。SDは、3つの異なる実験を用いて得られた。M33の(ならびに、また、M34、M35、及びM36の、本明細書で示さず)多くの異なる合成によって、任意の変動する結果を伴わない完全に重複する結果が与えられた。
【図1B】テトラ分岐ペプチドM6粗製混合物のマススペクトロメトリー分析 M6の算出された分子量は5195Daであった。2つの主なピークが存在し、1つは非修飾M6に対応する5197Daで、1つは二次産物に対応する5179Daで、1つのピロGluが、4つのGlnの1つの場所の最初の位置にある。
【図1C】血清中での24時間のインキュベーション後でのテトラ分岐ペプチドM33のマススペクトロメトリー分析 ペプチドは、予測分子量(4683DA)で単一ピークとして現われる。
【図2】ヒト赤血球細胞を用いて3又は24時間インキュベートされたテトラ分岐M33ペプチドにより惹起された溶血のパーセンテージ。最高濃度では、それはわずかに無視できる溶血活性を起こした。
【図3A】LPSの中和によるTNF−α放出の阻害。Raw 264.7細胞を、緑膿菌からのLPS(20ng/ml)及びM33とインキュベートした。三角は、LPSと異なる濃度のM33を用いたインキュベーションを示す。四角は、M33だけを用いたインキュベーションを示す。
【図3B】LPSの中和によるTNF−α放出の阻害。Raw 264.7細胞を、肺炎桿菌からのLPS(5ng/ml)及びM33とインキュベートした。三角は、LPSと異なる濃度のM33を用いたマクロファージのインキュベーションを示す。四角は、M33だけを用いたマクロファージのインキュベーションを示す。SDは、3つの異なる実験を用いて得られた。100%は、M33なしでLPSを用いてインキュベートされた場合にマクロファージにより産生されるTNF−αの最大量を示す。他のパーセンテージは、LPS及びM33を用いてインキュベートされた場合にマクロファージにより産生されるTNF−αの量を示す(100%に対する)。TNF−αの基礎レベルは無視できた。M33のMICは、矢印により示される。
【図4A】テトラ分岐M33ペプチドのインビボでの抗菌活性。A.Balb−cマウス(20g)に、致死量の大腸菌TG1細胞(1.5×10CFU)を用いて腹腔内注射した。実線(Ctr)は、細菌(M33なし)だけを腹腔内注射されたマウスを示す。破線は、細菌を腹腔内注射され、30分後にM33ペプチド(10mg/Kg)を1回注射されたマウスを示す。
【図4B】テトラ分岐M33ペプチドのインビボでの抗菌活性。Balb−cマウス(20g)に、致死量の緑膿菌細胞(ATCC 27853 1×10CFU)を用いて腹腔内注射した。実線(Ctr)は、細菌だけを受けたマウスを示す;他の群は、30分後に細菌及び単回用量のM33を受けた(M33の用量については図を参照のこと)。
【図4C】テトラ分岐M33ペプチドのインビボでの抗菌活性。Balb−cマウス(20g)に、致死量の緑膿菌細胞(多剤耐性VR 147臨床分離株、1.5×10CFU)を用いて腹腔内注射した。実線(Ctr)は、細菌だけを受けたマウスを示す;破線は、細菌及び単回用量のM33(25mg/Kg)を受けたマウスを示す。
【図4D】テトラ分岐M33ペプチドのインビボでの抗菌活性。Balb−cマウス(20g)に、致死量の緑膿菌細胞(ATCC 27853 1×10CFU)を用いて腹腔内注射した。実線(Ctr)は、細菌だけを受けたマウスを示す;長い破線は、細菌及び細菌の30分後と12時間後に2回のM33注射(5mg/Kg×2)を受けたマウス;短い破線は、細菌及び細菌の30分後、12時間後と24時間後に3回のM33注射(5mg/Kg×3)を受けたマウス(P<0.05)。
【0020】
発明の詳細な説明
ペプチド合成
単量体ペプチドを、自動シンセサイザー(MultiSynTech, Witten, Germany)により、Rink Amide MBHA樹脂(Nova Biochem)上で、9フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)化学及びO−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート/1,3ジイソプロピルエチルアミン活性化を使用してペプチドアミドとして合成した。分岐ペプチド分子(MAP)をFmoc−Lys−Lys−βAla Wang樹脂上で合成した。側鎖保護基は、Glnについてはトリチル、Lysについてはtert−ブトキシカルボニル、Argについて2,2,4,6,7−ペンタメチルジヒドロベンゾフラン−5−スルホニル、及びSerについてtert−ブチルエーテルであった。ペプチドを次に樹脂から切断し、水及びトリイソプロピルシランを含むトリフルオロ酢酸(95/2.5/2.5)を用いて脱保護した。粗ペプチドを、逆相クロマトグラフィーにより、Vydac C18コラム上で精製した。最終産物の同一性及び純度を、Ettan(商標)MALDI-TOFマススペクトロメトリー(MS)(Amersham Biosciences)により確認した。
【0021】
テトラ分岐M33、M34、M35、及びM36のプロテアーゼ耐性
合計10μlの10mMペプチド溶液を、37℃で、10μlのヒト血清とインキュベートした。サンプルを24時間のインキュベーション後に回収し、150μlメタノールを用いて沈殿し、2分間にわたり10,000×gで遠心した。粗溶液を次に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及びMSにより分析した。HPLCをVydac C18カラムを用いて実施し、粗溶液を注入前に0.1%トリフルオロ酢酸を用いて5倍希釈し、280nmでモニターした。
【0022】
ペプチドM33、M34、M35、及びM36の安定性
大腸菌TG1株の単一コロニーを2×TY培地中で0.2OD600まで培養した。図1に表わす通りに希釈した25μlのペプチド及び先の培養に由来する25μlの大腸菌を、96ウェルプレート中で75分間にわたり37℃で穏やかに撹拌しながらインキュベートした。コントロールとして、本発明者らは、25μlの大腸菌及び25μlの培地だけ(100%生存率)を用いてインキュベートした1つのウェルを使用した。インキュベーション後、全てのウェルの溶液を1:1000希釈し、寒天2×TYプレート上にプレーティングした。プレートを一晩30℃でインキュベートした。次の日、プレート上に増殖したコロニー(CFU/ml)をカウントした。
【0023】
異なるバッチのテトラ分岐ペプチドM6(QKKIRVRLSA、配列番号5)は、同じ実験において並行して分析された場合、大腸菌に対して相違する結果を提供した(図1AのM6バッチ1、2、及び3)。テトラ分岐M6を、従って、マススペクトロメトリーにより分析し、それによって2つの主なピークが明らかになり、1つはM6の標準分子量に、他は最初の残基としてピロGluを含むテトラ分岐ペプチドの分子量に対応する(図1B)。同一手順により得られたM6の異なる調製物は、常に異なる割合で2つのピークを伴うMSプロファイルを与え、最初のGlnのピロGluへの変換が予測不可能なパーセンテージで生じることが確認された。Glnの代わりでのピロGluの存在によってM6の抗菌活性が損なわれ、最初のアミノ酸が100%ピロGluであるテトラ分岐ペプチドにより実証される通りである(図1AのピロM6)。従って、ペプチドM6が新たな薬物の開発のための真の候補であると考えることはできない。
【0024】
ペプチドM6配列(QKKIRVRLSA、配列番号5)からの最初のアミノ酸の除去、及び最初の2つのLysのArgでの可能な置換、又はこれらの2つのアミノ酸の代用によって、4つの新たな配列(KKIRVRLSA、配列番号1、RRIRVRLSA、配列番号2、KRIRVRLSA、配列番号3、RKIRVRLSA、配列番号4)が産生され、異なる期間に行われた合成に由来するペプチドの高度に安定な活性を伴う。
【0025】
特に、M33:KKIRVRLSA、配列番号1と呼ばれるペプチドを多くの異なるバッチ中で合成し、それらの全てが同じMSプロファイルを与え、単一ピークがテトラ分岐M33の分子量に対応した(図1C)。予測通り、テトラ分岐M33は、また、血清中で24時間にわたりインキュベートされた場合、タンパク質分解に対して非常に安定であった(図1C)。実際に、M6の配列からの最初の残基の除去によって、バッチ間の均一性が安定化されただけでなく、ペプチドの抗菌活性も改善された(図1A中のM33)。
【0026】
M33、M34、M35、及びM36の多くの異なる合成では、結果における任意の変動なく完全に重複する結果が与えられた。
【0027】
上で実証された安定性のため、ペプチドM33、M34、M35、及びM36が、新たな抗菌医薬の作製のための非常に魅力的な候補になる。
【0028】
テトラ分岐ペプチドM33、M34、M35、及びM36の抗菌活性
最小阻止濃度(MIC)を、臨床研究所規格委員会(NCCLS)により推奨される標準的な微量希釈アッセイにより、カチオン添加ミューラー・ヒントン(MH)ブロス(Oxoid Ltd. Basingstoke, UK)及び5×10CFU/ウェルの細菌接種材料を最終容積100μl中で使用して決定した。結果を、37℃で24時間のインキュベーション後に目視検査により記録した。
【0029】
M33、M4、M35、及びM36のMICを、いくつかの細菌種(グラム陰性病原菌及びまた黄色ブドウ球菌を含む)の株に対して決定した(表1)。
【0030】
マイクロモル範囲のMICが、いくつかのグラム陰性菌(緑膿菌、アシネトバクター・バウマンニ、及び大半の腸内細菌科を含む)に対して観察された(プロテウス・ミラビリス、セラチア・マルセセンス、及びバークホルデリア・セパシアを除く)。ペプチドの活性は、種々の耐性機構(例えば広域スペクトルのベータ−ラクタマーゼ及びカルバペネマーゼなど)を伴うMDR株(CF患者からのMDR緑膿菌株を含む)に対して保持された。M33、M4、M5、及びM6の抗菌プロファイルならびに効力は、全般的にポリミキシンBのものと類似していたが、M33、M34、M35、及びM36も黄色ブドウ球菌に対してある程度の活性を有すると思われた(表1)。
【0031】
【表1】




テストされた株は(示した)参照株又は臨床分離株(大半がMDR表現型を示している)のいずれかを含んだ;関連する耐性形質及び耐性機構が示される:_FQ、フルオロキノロンに耐性;AG、アミノグリコシド(ゲンタマイシン、アミカシン、及び/又はトブラマイシン)に耐性;ESC、広域スペクトルのセファロスポリンに耐性;NEM、カルバペネム(イミペネム及び/又はメロペネム)に耐性、ERT、エルタペネムに耐性;COLNS、コリスチンに非感受性;ESBL、広域スペクトルのβラクタマーゼ;MBL、メタロ−β−ラクタマーゼ;OXA、オキサシリナーゼ;MR、メチシリン耐性;VAN、バンコマイシン中間体
嚢胞性線維症患者からの臨床分離株
ムコイド表現型
【0032】
本発明に記載されるペプチドは、グラム陰性細菌について特に選択的であるように思われた。恐らくは、なぜなら、それらはLPS(グラム陰性菌にだけ構成的に存在する)に強く結合するからである。両親媒性プロファイル、及び大過剰のペプチドの正電荷は、それらが、細菌膜と相互作用し、類似の構造を伴う抗菌ペプチドについて記載された作用機構の1つにより細胞に侵入しうることも示唆する。
【0033】
テトラ分岐ペプチドM33、M34、M35、及びM36の溶血活性
新鮮ヒト赤血球の溶血を、Parpartの方法(以下にまとめる)を使用して決定した。較正曲線を、種々の濃度のNaClを伴うリン酸緩衝液(pH7.4、110mMリン酸ナトリウム)中に新鮮ヒト赤血球を浮遊させ、室温で30分間インキュベートすることにより構築した。サンプルを500×gで5分間遠心し、ヘモグロビン放出を、540nmで上清の吸光度を測定することによりモニターした。0.1% NaClを用いて得られた吸光度は100%溶解に、1% NaClを用いた吸光度は0%溶解に対応する。PBS中に溶解されたペプチドを、いくつかの濃度でヒト赤血球溶液に加えた。結果として得られた浮遊液を別々に37℃で2時間及び24時間にわたりインキュベートした。ヘモグロビンの放出を、遠心後に540nmで上清の吸光度を測定することによりモニターし、溶血パーセンテージを、較正曲線を使用して算出した。非常に重要な特性は、今までに記載された大半の抗菌ペプチドに反して、M33、M34、M35、及びM36ペプチドが実際的には無視できる溶血悪性度を示し(図2)、全身投与を通じたそれらの可能な使用も示唆する。
【0034】
リポポリサッカリド(LPS)の中和
グラム陰性細菌感染において、LPSの放出が、敗血症及び敗血性ショックの病態生理に関与することが公知である。同じく効果的にLPSを中和する抗菌ペプチドが、敗血症と戦う際にかなり重要である。最初に、テトラ分岐M33をリムルス・アメボサイト・ライセートテスト(E-toxate)において分析し、LPSに起因するサンプルゲル化を中和するその能力を実証した(示さず)。次に、それを、Raw 264.7マクロファージによるLPS誘導性TNF−α分泌の阻害について検証した。M33は、マクロファージが緑膿菌血清型10 ATCC27316(図3A)及び肺炎桿菌ATCC15380(図3B)からのLPS(EC50がそれぞれ4e−8M及び2.6e−7M)を用いて刺激された場合、用量依存的な様式でTNF−α分泌を遮断できた。顕著に、MICに対応する濃度(緑膿菌及び肺炎桿菌について1.5〜3μM)で、M33はTNF−α産生を90%超(マクロファージが緑膿菌からのLPSを用いて刺激された場合)及び80%超(マクロファージが肺炎桿菌からのLPSを用いて刺激された場合)減少させた。M33は、マクロファージを3倍のMIC濃度でインキュベートした場合、定量可能な量のTNF−αを刺激した。
【0035】
インビボでの抗菌活性
テトラ分岐M33ペプチドを、致死量の細菌を用いて感染させたマウスにおけるその抗菌活性について分析した。2つの異なる細菌種を使用した(大腸菌及び緑膿菌)。腹腔内(ip)注射後に100%致死感染(LD100)を起こす最小数の細菌は、大腸菌TG1、緑膿菌ATCC 27853、及びMDR臨床分離株緑膿菌VR143/97についてそれぞれ1.5×10、1×10、及び1.5×10であった。細菌LD100はマウスを20〜24時間で殺す。Balb−cマウスをLD100の細菌を用いて感染させ、30分後にペプチドを用いて腹腔内投与により処置した。
【0036】
大腸菌TG1を用いた感染後、M33は、濃度10mg/Kgの単回投与で投与された場合、動物を敗血症の徴候及び死亡(7日間生存)から保護した(図4A)。マウスを緑膿菌ATCC 27853を用いて攻撃した後、濃度25mg/Kg及び12.5mg/Kgの単回用量で投与されたM33は、動物の75%及び25%を保護し、6.5mg/Kgでは、それは動物を、死亡からを保護しなかったが、死亡は未処置コントロールと比較して遅延した(図4B)。最後に、緑膿菌VR−143/97、ポリミキシンBだけに感受性であるMDR株(19)、及び現在イタリアで蔓延するクローンの代表(Cornaglia et al., 2000)を使用し、マウスを攻撃した。濃度25mg/Kgの単回用量で投与されたM33は、動物の100%を保護した(図4C)。M33を、次に、緑膿菌ATCC 27853を用いた感染後に複数用量で投与された場合にその活性について分析した。マウスを5mg/Kg M33の2用量を用いて12時間毎に処置した場合(感染後30分後と12時間後)、死亡が遅延された。マウスを5mg/Kg M33の3用量を用いて12時間毎に処置した場合(感染後30分後、12時間後及び24時間後)、敗血症の徴候からの完全保護が得られ、100%が感染後7日を超えて生存した(図4D)。
【0037】
M33は、ペプチド用量100mg/Kg(本明細書において報告する用量の4倍)を用いて腹腔内処置された動物において見かけ上の毒性徴候を産生しなかった(示さず)。M33のインビボでの抗菌活性も、LD100の緑膿菌ATCC 27853を用いた感染及び単回用量(25mg/Kg)のM33を用いた処置後に血液、腹水、脾臓、及び肝臓において細菌を異なる回数でカウントすることにより評価した。感染から18時間後、血液は見かけ上細菌がなくなり、腹水、脾臓、及び肝臓における細菌数はコントロールよりも有意に低くなった。40時間後、全てのサンプリングされた身体部位には見かけ上細菌がなくなった(表2)。
【0038】
【表2】


緑膿菌1×10CFU/マウスを用いて腹腔内注射された瀕死の動物(感染から18時間後に屠殺された)
緑膿菌1×10CFU/マウスを用いて腹腔内注射され、M33(25mg/Kg)を用いて処置され、感染から18時間後に屠殺された動物
緑膿菌1×10CFU/マウスを用いて腹腔内注射され、M33(25mg/Kg)を用いて処置され、感染から40時間後に屠殺された動物
【0039】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ末端からカルボキシ末端に、KKIRVRLSA、配列番号1、RRIRVRLSA、配列番号2、KRIRVRLSA、配列番号3、RKIRVRLSA、配列番号4又はその機能的誘導体の群より選択されるアミノ酸配列を有し、ここで1つのアミノ酸残基がアラニン残基により置換され、又はここで1つの正電荷アミノ酸が別の正電荷アミノ酸により置換される、抗菌ペプチド。
【請求項2】
線形形態である、請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
ポリアクリルアミドの骨格上で、デキストラン単位の骨格上で、又はエチレングリコール単位の骨格上で多量体化される、請求項2記載のペプチド。
【請求項4】
以下の式:
【化4】


(式中、Rは、請求項1において主張されるペプチドであり;Xは三官能性分子であり;m=0又は1;n=0又は1;m及びnが0の場合、ペプチドは二量体であり;m=1及びn=0の場合、ペプチドは四量体であり、m=1及びn=1の場合、ペプチドは八量体である)を有する多抗原性ペプチド(MAP)の形態である、請求項1記載のペプチド。
【請求項5】
Xが三官能性単位である、請求項4記載のMAPペプチド。
【請求項6】
三官能性単位が少なくとも2つの機能性アミノ基を含む、請求項5記載のMAPペプチド。
【請求項7】
Xがリジン、オルニチン、ノルリジン、又はアミノアラニンである、請求項6記載のMAPペプチド。
【請求項8】
Xがアスパラギン酸又はグルタミン酸である、請求項4記載のMAPペプチド。
【請求項9】
Xがプロピレングリコール、コハク酸、ジイソシアネート、又はジアミン誘導体である、請求項4記載のMAPペプチド。
【請求項10】
医学的使用のための請求項1〜9のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項11】
抗菌薬物としての請求項1〜10のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項12】
医薬的に許容可能な有効量の請求項10又は11記載のペプチドを含む医薬的組成物。
【請求項13】
全身使用のために個人において注射される溶液の形態である、請求項12記載の医薬的組成物。
【請求項14】
LPS中和のための解毒剤として注射される溶液の形態である、請求項12記載の医薬的組成物。
【請求項15】
洗眼液、洗口剤、軟膏、又は局所使用のための溶液の形態である、請求項12記載の医薬的組成物。
【請求項16】
請求項1〜11記載のペプチドを含む抗菌活性を伴う殺菌剤及び/又は界面活性剤。
【請求項17】
食品産物及び/又は化粧品産物及び/又はホメオパシー産物の調製のための保存剤としての請求項1〜11記載のペプチドの使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【公表番号】特表2012−504597(P2012−504597A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529671(P2011−529671)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054347
【国際公開番号】WO2010/038220
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(507274102)ウニヴェルシタ・デグリ・ストゥディ・ディ・シエナ (2)
【Fターム(参考)】