説明

抗血栓作用および血栓溶解作用を有する蛋白質とその製造方法

【課題】安全に経口摂取可能な抗血栓作用および血栓溶解作用を有する分子量10,000以下の蛋白質の開発が急務の課題であった。
【解決手段】食用キノコであるマイタケから水または水溶液により抽出された分子量約9,000の抗血栓作用および血栓溶解作用を有する、配列番号1に記載のN末端あるいは部分アミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位を含むアミノ酸配列からなる、蛋白質並びにマイタケの抽出液を、塩析もしくは溶媒沈澱処理し、得られた塩析物もしくは沈殿物を緩衝液に溶解し、ついでクロマトグラフィーで処理する該蛋白質の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイタケ由来の抗血栓作用および血栓溶解作用を有する蛋白質とその製造方法に関する。更に詳しくはマイタケから水または水溶液により抽出された分子量約9,000の抗血栓作用および血栓溶解作用を有する蛋白質に関する。
【背景技術】
【0002】
血栓症は末梢動脈硬化症、肺閉塞症、心筋梗塞症、冠動脈閉塞症、網膜動静脈血栓症をはじめ最近では老人の痴呆症など、種々の疾患に関連した病原因子として大きな問題となっている。血栓を溶解させるためには、血栓溶解療法(線溶療法)が、現在広く実施されている。線溶系の活性化は、血液溶解系調節因子の前駆体であるプラスミノーゲンをプラスミノーゲンアクチベータ(PA)がプラスミンに活性化することによって開始され、生じたプラスミンが酵素作用を発現して血栓の構成成分であるフィブリンを分解することにより血栓溶解が進行するといわれている。現在血栓症の治療にはストレプトキナーゼ(SK)、ウロキナーゼ(UK)、プロウロキナーゼ(Pro-UK)あるいは組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)などが研究され、実用化されてきた(例えば、非特許文献1参照)。しかし、これらは血中での半減期が20分以内と短く、従って一過的な効果しか期待できないものであり、いずれも静脈内投与であるため高純度でかつ高価なものであった。また、別の製剤としては、これまでにアスピリンやワルファリン、あるいはチクロピジンなどの精製化合物を含有したものが提供されてきた。しかしながら、これらの製剤も薬剤費用負担のみならず、薬の副作用という観点からも、これらの使用に対する不安を払拭できないのが現状である。また、一過的な大量投与は重篤な出血症状をもたらすだけでなく、一時的に閉塞部位を開通させても再閉塞を生じ易いことが大きな問題となっている。さらに、治療に用いる場合の投与法が静脈内投与もしくは冠動脈内投与であって、血管内への直接的投与であることから、長期投与する場合には患者への負担が大きいという問題もあった。そのため、日常的に、且つ安全に、経口投与で血栓症を予防できる抗血栓作用および血栓溶解作用を有する蛋白質の開発が急務であった。
【0003】
医薬品としてのみならず、日常の摂取を通して血栓症の予防を図るという観点から、天然物由来の抗血栓作用を有する物質の探索も進められてきた。例えば、亜麻仁種子由来(例えば、特許文献1参照)、キウイフルーツ由来(例えば、特許文献2参照)、納豆及び納豆菌由来(例えば、特許文献3、非特許文献2など参照)、オカラ納豆菌発酵物由来(例えば、特許文献4参照)、カツオ塩辛由来(例えば、特許文献5参照)、アラメ由来(例えば、非特許文献3参照)、緑藻類由来(例えば、非特許文献4参照)、エビ発酵産物由来(例えば、非特許文献5参照)、ナラタケ由来(例えば、非特許文献6参照)、キムチ由来(例えば、非特許文献7参照)等の物質が抗血栓効果物質を含むものとして報告されている。これらの物質の作用物質は、血栓の主成分であるフィブリンを分解する酵素であり、生体内のプラスミン様作用物質として定義される。例えば、血栓溶解作用を持つ代表的な食品として納豆が存在する。しかしながら、納豆を含む発酵産物は、発酵条件あるいは発酵菌種により血栓溶解作用の活性が大きく異なるため、安定的に高い血栓溶解作用を有する形態で供給することは困難である。また、緑藻類より得られる血栓溶解酵素の活性は、抽出物の状態で4 units /蛋白質g(プラスミンを指標としたフィブリン平板法に基づく)であり、高活性を負荷するには高度な精製過程を必要とする。エビ発酵産物についても、抽出物の状態で200 units/蛋白質g(プラスミンを指標としたフィブリン平板法に基づく)である。また、植物の種子(亜麻仁種子)から血栓溶解酵素を得るには他の植物器官からの選別工程が必要であり、出発材料の形態を考慮するとその回収に対する労力は多大なものである。さらに、酵素の分子サイズが決定されている上記各血栓溶解酵素の分子量は、全て約20,000〜50,000と巨大分子サイズを示しており、腸管内での効率的な吸収を考慮すると危惧すべき問題点である。また、このほかにミミズ由来の血栓溶解作用を有する蛋白質が単離されている(例えば、特許文献6参照)が、食経験に乏しく、精製標品とはいえ日常的に経口摂取するには不快感を伴うものである。
【0004】
一方、近年様々な物質の低分子化による吸収効率の増大を目的とした研究が盛んに行われている。例えば、乳蛋白質(例えば、非特許文献8参照)、フコイダンオリゴ糖(例えば、特許文献7参照)、魚粉(例えば、特許文献8参照)等がある。これらは全て分子量10,000以下の物質であり、カルシウムなどのミネラル吸収と正の相関関係も報告されている。また、近年では有用蛋白質の安定的、大量的な製造方法に遺伝子組換え技術が導入されている。この遺伝子組換え技術では、有用蛋白質をコードする遺伝子配列をベクターへ組込む必要があるが、低分子蛋白質をコードする遺伝子であればクローニング(cloning)やライゲーション(ligation)あるいはベクター導入後のシークエンス(sequence)などが容易である。
【0005】
本発明の材料であるマイタケからは、多数の蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)が単離・精製されており、各々その諸特性が開示されている。例えば、エンドペプチダーゼ(例えば、特許文献9)、アミノペプチダーゼ(例えば、特許文献10)、酸性プロテアーゼ(例えば、特許文献11)、プロリルアミノペプチダーゼ(例えば、非特許文献9)、リシン認識メタロプロテアーゼ(例えば、非特許文献10、非特許文献11など参照)等である。これらのマイタケ由来の酵素に特徴的な性質として次の事項が挙げられる。例えば、高温に耐性である、2価の陽イオン要求性である、分子サイズは約20,000から40,000を示すこと、等である。特に2価陽イオン要求性の中でも亜鉛を要求する酵素が多数を占めているが、その原因としてマイタケは、他のキノコ類に比べると亜鉛含量が高い(可食部100g中の亜鉛含量はマツタケ800μg、マッシュルーム770μg、マイタケ1300μgである。)ことが推測される。また、これらの中には食品加工に有利な酵素、血圧上昇抑制作用を有する酵素、これらの酵素と相同性の高いN末端アミノ酸配列を有する酵素(例えば、非特許文献12、非特許文献13など参照)などが含まれるが、血栓溶解作用を有するプロテアーゼの報告はみられず、また分子量10,000以下の金属要求性蛋白質分解酵素(メタロプロテアーゼ)は未だ発見されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2004-83428号公報
【特許文献2】特開2003-171294号公報
【特許文献3】特開昭61-162184号公報
【特許文献4】特開平10-265396号公報
【特許文献5】特開平6-46851号公報
【特許文献6】特開平9-65879号公報
【特許文献7】特開平7-215990号公報
【特許文献8】特開平8-256735号公報
【特許文献9】特開2001-333732号公報
【特許文献10】特開2001-169779号公報
【特許文献11】特開2002-78486号公報
【非特許文献1】Lijnen, H. R. et al. (1991) Thromb. Haemost., 66:88
【非特許文献2】Fujita, M. et al. (1993) Biochem. Biophys. Res. Commum., 197(3): 1340-1347
【非特許文献3】Yang, J. S. and Ru, B. G. (1997) Comp. Biochem. Physiol., 118(3): 623-631
【非特許文献4】Matsubara, K. et al. (2000) Comp. Biochem. Physiol., 125: 137-143
【非特許文献5】Wong, A. H. K. and Mine, Y. (2004) J. Agric. Food. Chem., 52: 980-986
【非特許文献6】Kim, J. H. and Kim, Y. S. (1999) Biosci. Biotechnol. Biochem., 63(12):2130-2136
【非特許文献7】Noh, K. A. et al. (1999) Korean J. Food Sci. Technol. 31: 219-223
【非特許文献8】Etcheverry, P. et al. (2004) J. Nutr. 134: 93-98
【非特許文献9】Hiwatashi, K. et al. (2004) Biosci. Biotechnol. Biochem. 68(6): 1395-1397
【非特許文献10】Abe, M. and Seguchi, M. (2003) Biosci. Biotechnol. Biochem. 67(9): 2018-2021
【非特許文献11】Nonaka, T. et al. (1995) J. Biochem. 118: 1014-1020
【非特許文献12】Nonaka T. et al. (1997) J. B. C. 272(48): 30032-30039
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、安定的に酵素活性を保持した形態で供給が可能であり、食経験豊富な材料由来で且つ吸収効率の増大を目的とした低分子量の血栓溶解酵素は現在まで存在しなかった。従って、日常的に、且つ安全に、経口摂取可能な抗血栓作用および血栓溶解作用を有する分子量10,000以下の蛋白質の開発が急務の課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために種々検討を行った結果、従来から食品として食されてきたマイタケから低分子量の抗血栓作用および血栓溶解作用を有する蛋白質を単離・精製し、プラスミンと同様なフィブリン溶解活性を有することを見出した。すなわち、マイタケ、マイタケの破砕汁液およびマイタケの搾汁液のいずれか1種または2種以上から水または水溶液により抽出された分子量約9,000の抗血栓作用および血栓溶解作用を有することを特徴とする蛋白質であって、水溶液のpHでの安定性領域が6.0〜10.0であることが好ましく、配列番号1に記載のN末端あるいは部分アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位を含むアミノ酸配列からなることが好ましい。
【0009】
本発明の第二は、マイタケの破砕汁液およびマイタケの搾汁液のいずれか1種または2種から塩析または溶媒沈殿により得られた分子量約9,000の抗血栓作用および血栓溶解作用を有することを特徴とする蛋白質であって、水溶液のpHでの安定性領域が6.0〜10.0であることが好ましく、配列番号1に記載のN末端あるいは部分アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位を含むアミノ酸配列からなることが好ましい。
【0010】
本発明の第三は、マイタケ、マイタケの破砕汁液およびマイタケの搾汁液のいずれか1種または2種以上から水または水溶液により抽出された抽出液を、塩析もしくは溶媒沈澱処理し、得られた塩析物もしくは沈殿物を緩衝液に溶解し、ついでクロマトグラフィーで処理することを特徴とする分子量約9,000の抗血栓作用および血栓溶解作用を有する蛋白質の製造法である。
【0011】
本発明の第四は、マイタケの破砕汁液およびマイタケの搾汁液のいずれか1種または2種を、塩析もしくは溶媒沈澱処理し、得られた塩析物もしくは沈殿物を緩衝液に溶解し、ついでクロマトグラフィーで処理することを特徴とする分子量約9,000の抗血栓作用および血栓溶解作用を有する蛋白質の製造法である。
【発明の効果】
【0012】
日常的且つ安全に経口摂取により血栓症の予防を図るという観点から、食経験豊富な天然物由来の抗血栓作用および血栓溶解作用を有する本発明の蛋白質は、マイタケ由来であるため原料は大量に人工栽培が可能であり、種子を原料としたもののように植物の他の器官からの選別や発酵産物のように発酵工程を必要とせず、原料を容易に確保することができる。また、この蛋白質は血栓溶解活性が高く、水系抽出液において約13,000 units /蛋白質g、100 units /湿重量g(プラスミンを指標としたフィブリン溶解活性に基づく)という高い活性を有する。
【0013】
また、現在までに分子量が決定されている血栓溶解酵素は20,000〜50,000の巨大分子であり、経口投与による腸管内での効果的な吸収を考慮すると危惧すべき問題点であった。この問題点に関しても、本発明のマイタケ由来の蛋白質は分子量が約9,000であり、天然物由来の抗血栓作用および血栓溶解作用を有する蛋白質としては最小分子量であるため、より効果的な吸収が可能である。
【0014】
つまり本発明においては、原料取得の面からも、抗血栓作用および血栓溶解作用を有する面からも、分子量が小さいという面からも、日常的に、且つ効果的に、摂取可能な抗血栓作用および血栓溶解作用をもつ蛋白質といえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の抗血栓作用および血栓溶解作用を有する蛋白質は食用キノコを原料としている。本発明では、食用キノコの一種である、アナタケ目サルノコシカケ科に含まれるマイタケ属を用いている。さらにマイタケ属には白マイタケ(Grifola abicans)あるいは黒マイタケ(Grifola frondosa)の2種類が存在し、また、かつてはマイタケ属であったが現在では別属に分類されている菌にトンビマイタケ(Meripilus giganteus)あるいはチョレイマイタケ(Dendropolyporus umbellatus)が存在する。本発明においては、その種類は特に限定されないが、黒マイタケを材料とすることが望ましい。さらに、品種としてはホクトMY-75号、ホクトMY-95号、雪国舞2号、雪国舞9号、SF-73号、SF-71号、マイタケ51号、白姫マイタケ、マイタケ天女、MM-2、森51号、ホクトNT-100、SNZ73号などが含まれるが、これらは全てマイタケ属から派生した品種であり、これらの品種や原産国、あるいは栽培方法(天然由来あるいは人工栽培など)などには特に限定されない。また、本発明のマイタケはマイタケ子実体、菌糸体、半乾燥品、乾燥品、あるいは水系溶媒により抽出した成分を含有するものであってもよい。なお、子実体であれば人工栽培により容易に入手が可能であり、また、生菌体を用いる場合は破砕汁液もしくは搾汁液を用いることも可能である。抽出用水系溶媒としては、天然水、水道水、イオン交換水、精製水、あるいは蒸留水などの水を用いることが可能であり、緩衝液としては2-(N-モルホリノ)エタン-スルホン酸(MES)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、N-(2-アセトアミド)イミノ2酢酸(ADA)、ピペラジン-N-N'-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPSO)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸(HEPES)、3-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、2-ヒドロキシ-N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、ピペラジン-N,N'-ビス(2-エンタスルホン酸)(POPSO)、2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン(HEPPSO)、3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPS)、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(Tris)、3,3-ジメチルグルタル酸と2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールと2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの等モル混合物(GTA)、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸などの緩衝液を用いることが可能である。さらにメタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなどの水溶性有機溶媒を一定量用いることも可能である。特に限定はしないがpH4.0〜9.0に至適緩衝能を有し、且つその濃度が5〜100 mMである緩衝液が望ましい。
【0016】
本発明の蛋白質の精製方法としては、マイタケをチョッピング、ミキサー、ワーニングブレンダーあるいはポリトロンなどの破砕処理によりホモゲナイズし、遠心処理後の上清を用いて塩析処理あるいは溶媒添加による濃縮沈殿を行う。塩析処理により得られた沈殿画分を適当な緩衝液に懸濁し、懸濁後の画分は陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー、疎水カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、あるいは限外濾過膜処理などを単独または複数種類組み合わせることにより粗精製あるいは完全精製することが可能である。塩析に使用可能な塩類としては、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、あるいは塩化ナトリウムなどが挙げられるが、好ましくは20〜80%硫酸アンモニウム処理による塩析法である。溶媒添加による濃縮沈殿では、溶媒としてアセトン、低級アルコールなどが挙げられる。陰イオン交換クロマトグラフィーでは、4級アミノ基(quaternary ammonium)、ジエチル-(2-ヒドロキシ-プロピ)アミノエチル基(quaternary aminoethyl)、あるいはジエチルアミノエチル基(diethylaminoethyl)などのイオン交換体をバッチ法もしくはカラムクロマトグラフィーなどの方法で操作することにより精製が可能である。陽イオン交換クロマトグラフィーでは、メチルスルホン酸基(methyl sulphonate)、スルホプロピル基(sulphoproyl)、カルボキシメチル基(carboxymethyl)などの担体をバッチ法もしくはカラムクロマトグラフィーなどの方法で操作することにより精製が可能である。疎水カラムクロマトグラフィーとしては、フェニル基、ペンチル基、ブチル基などの疎水基で修飾された担体を用いることが可能である。ゲル濾過カラムクロマトグラフィーとしてはSephadex G10-G200(Amersham Phrmacia Biotech社製品)、Sephacryl S100HR-S500HR(Amersham Phrmacia Biotech社製品)、Sepharose CL2B-6B(Amersham Phrmacia Biotech社製品)、Superdex 75・200(Amersham Phrmacia Biotech社製品)、Superose 6・12(Amersham Pharmacia Biotech社製品)、セルロファインGCL(チッソ社製品)、Bio-Gel P2-P100(Bio-Rad社製品)、Bio-gel A0.5m-A150m(Bio-Rad社製品)、Bio-Sil SEC(Bio-Rad社製品)、Bio-Silect(Bio-Rad社製品)、TSKgel トヨパールHW(東ソー社製品)、TSKgel G2000-G4000 SW(東ソー社製品)、TSKgel Super-SW 2000-3000(東ソー社製品)、TSKgel G5000-6000PW(東ソー社製品)、SynChropak GPC(SynChron社製品)、PROTEIN PAK(ミリポア社製品)、Shodex WS・KW(昭和電工社製品)、Asahipak GFA(旭化成社製品)などを用いることが可能である。アフィニティークロマトグラフィーとしては、特異的抗該蛋白質抗体を用いればHiTrap NHS-activated HP カラム(Amersham Pharmacia Biotech社製品)などに結合させることにより、また該蛋白質が認識しうる群特異的アフィニティークロマトグラフィー用担体などを用いることにより、カラムクロマトグラフィーあるいは免疫共沈法により精製が可能である。限外濾過膜としては、Amicon膜YMシリーズ(ミリポア社製品)などを用いて濃縮・精製が可能である。なお、以上の操作は室温以下で行われ、好ましくは4℃である。
【0017】
このようにして得られる本発明の抗血栓作用および血栓溶解作用を有する蛋白質は、新規な蛋白質であり、分子量はドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)上では18 kD、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーで9、18、39 kD(ただし血栓溶解活性を有するものは9 kDのみであり、それぞれが1、2、4量体を形成していると考えられる)、マトリックスアシステッドレーザー励起イオン化−飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)では9、18、36 kDを示した。本発明の蛋白質は、配列表1に記載したN末端配列あるいは部分アミノ酸配列を有している。さらに、配列表1に記載のN末端あるいは部分アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位を含むアミノ酸配列からなることを含む。また、該蛋白質は少なくともpH6.0-10.0において最大活性に対して70%以上の活性を有する安定なメタロプロテアーゼであり、60℃までの温度に対して耐熱性を有しており効率的なフィブリン溶解活性を示した。2価カチオンのキレート剤であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などは可逆的な阻害剤として働くが、補欠因子と考えられるMn2+イオンを再添加することにより活性が回復する性質を有する。また、該蛋白質は水系溶媒抽出のみで約13,000 units / 蛋白質g、100 units / 湿重量 gの活性を有し、精製標品で約260,000 units / 蛋白質gの活性を有する。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の主旨はこれらによって制限されるものではない。
【0019】
(実施例1)
以下の操作は、すべて4℃で行った。マイタケ子実体(マイタケ属:黒マイタケ、品種:雪国生マイタケ、雪国マイタケ社製品)1 kgを5 Lの50 mM 2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール塩酸塩(Tris-HCl)(pH 8.0)中でチョッピングにより細かく切断し、切断後の溶液をミキサーにてさらにホモゲナイズした。この溶液を4重ガーゼにて濾過し、濾過後の溶液を3,000×gで15分間遠心処理を行った。遠心後の上清画分(粗画分、図1-レーン1)に終濃度20%となるように硫酸アンモニウムを少量ずつ加え、2時間攪拌した。得られた20%硫酸アンモニウム画分を10,000×gで20分間遠心処理を行い、遠心処理後の上清画分を回収した。さらに回収した画分に終濃度80%となるように硫酸アンモニウムを少量ずつ加え、4℃で一昼夜攪拌した。80%硫酸アンモニウムで処理した後に、20,000×gで20分間の遠心処理により沈殿画分を回収した。得られた沈殿画分に200 mLの20 mM Tris-HCl (pH 8.0)を加え、テフロンホモゲナイザーを用いて均一となるまで懸濁した。その後、懸濁液を分画分子量5,000の透析チューブに入れ、100倍量の20 mM Tris-HCl (pH 8.0)に対して2回透析液を交換しながら一昼夜の脱塩処理を行った。透析処理後の溶液は、20,000×gで20分間の遠心処理により沈殿画分と上清画分に分離し、血栓溶解活性を有する上清画分のみを回収した(硫酸アンモニウム画分、図1-レーン2)。回収した画分の体積は約300 mLであり、50 mLずつ6本に分注したのちに、-20℃で保存した。
【0020】
上記のようにして得られた硫酸アンモニウム画分は50 mLずつ6回に分け、さらに以下の精製を行った。まず、50 mLの硫酸アンモニウム画分に、20 mM Tris-HCl (pH 8.0)で予め平衡化した15 mLのQ-セファロース(Q-sepharose)(Amersham Pharmacia Biotech社製品)担体を加え、4℃で2時間穏やかに攪拌した。攪拌した後に1,500×gで3分間の遠心処理を行い、上清を素通り画分として回収した(図1-レーン3)。血栓溶解活性を示した素通り画分を、分画分子量5,000の透析チューブに入れ、100倍量の20 mM酢酸ナトリウム( Na+-acetate) (pH 4.5)に対して2回透析液を交換しながら透析処理を行った。透析処理後の溶液はpHメーターでpHを確認した後に、20 mM Na+-acetate (pH 4.5)で予め平衡化した10 mLのCM-セファロース(CM-sepharose)(Amersham Pharmacia Biotech社製品)担体を加え、4℃で2時間穏やかに攪拌した。攪拌した後に1,500×gで3分間の遠心処理を行い、上清を取り除いた後に30 mLの20 mM Na+-acetateを加え、10分間穏やかに攪拌した後に同じ遠心処理を行った。上清を取り除いた後の担体に20 mLの20 mM Na+-acetate (pH 4.5), 0.1 M塩化ナトリウム(NaCl)溶液を加え、20分間穏やかに攪拌し、遠心処理により0.1 M NaCl溶出画分として上清を回収した。その後、0.2 M、 0.3 M、 0.4 M NaClで同様の操作により段階的にイオン強度を上げ、各NaCl濃度の溶出フラクションを回収した。得られた各フラクションをフィブリン平板法により活性測定し、活性を示すフラクションについて以下の精製を行った(図1-レーン4)。
【0021】
上記のようにして、CM-sepharoseを用いたカラムクロマトグラフィーより得られた活性フラクションを混合し、分画分子量5,000の透析チューブに入れ、100倍量の20 mM Na+-acetate (pH 4.5)に対して2回透析液を交換しながら透析処理を行った。透析処理の後、20 mM Na+-acetate (pH 4.5)で予め平衡化した1 mLのSP-XLカラムに負荷し、続いて5 mLの20 mM Na+-acetate (pH 4.5)で非特異的に吸着した蛋白質群を洗浄した。次に10 mLの20 mM Na+-acetate (pH 4.5), 0-1 M NaClの溶液で直線勾配的に溶出し、各1 mLフラクションとして回収した。得られた各フラクションをフィブリン平板法により活性測定し、最大活性を示すフラクションについて以下の精製を行った(図1-レーン5)。
【0022】
上記のようにして得られた活性フラクションを混合し、分画分子量5,000の限外濾過膜を用いて1 mLに濃縮した。濃縮後のサンプルは、予め20 mM Na+-acetate (pH 4.5), 0.2 M NaClで平衡化したセファアクリルS-100ハイレゾリューションカラム(S-100 HRカラム)に負荷し、240 mLの20 mM Na+-acetate (pH 4.5)で1 mL / min.の流速で溶出した。2 mLずつに分画された計100本のフラクションを回収し、フィブリン平板法により活性フラクションを同定し、精製標品として-20℃で保存した(図1-レーン6)。上記の各精製段階におけるSDS-PAGE(15%ゲル)の写真を図1に示した。また、単離された本蛋白質のSDS-PAGE上での分子量は18 kDを示した。
【0023】
フィブリン平板法については、以下の実験方法に従った。0.4% フィブリノゲンを凝固蛋白質として、1% NaCl 、70 mMのリン酸バッファー(pH 7.4)に溶解した。このフィブリノゲン溶液 8 mLを直径9 cmのシャーレに分注し、200 units / mLのトロンビンと0.1 M 塩化カルシウム(CaCl2)溶液を各々100 μL添加し、室温で60分間放置した。このようにして作製したフィブリン平板を用い、各蛋白質サンプル20 μLを平板上に滴下し、37℃で18時間インキュベーションした。蛋白質処理により溶解した面積を算出し、フィブリン平板法での溶解活性とした。この平板法は、各精製段階での活性フラクションの同定などに用いられた。
【0024】
フィブリン分解活性については、以下の実験方法に従った。酵素溶液、0.5%フィブリノゲンを含む55μLの溶液を調製し、5μLの50 units/mLトロンビンを加えて反応を開始した。37℃で60分間インキュベーションした後に、10 %トリクロロ酢酸(TCA)を60μL加え混合し、氷上で30分間静置した。その後、10,000×gで10分間遠心処理を行い、70μLの上清を回収した。このようにして得られた上清の275 nmにおける吸光度を測定した。コントロールとして0.2 units/mLのプラスミンを用い、酵素の活性値を算出した。この活性測定方法によりプラスミン様活性として算出された活性値は、粗画分で12,716 units/蛋白質gであり、精製標品で254,320 units/蛋白質gであった。
【0025】
プロテアーゼの汎用基質として用いられる、カゼイン分解活性についても幾つかの試験項目において用いられた。基本的な方法は野中ら(例えば、非特許文献12)の測定方法に従ったが、より少量のスケールで検討した。2 μLの酵素液、終濃度50 mM MES (pH 7.0)を含む25μLの反応溶液に、同量の2%アゾカゼインを加え混合することで反応を開始した。37℃で10分間インキュベーションした後に、50μLの10% TCAを加え、混合した後に氷上で30分間放置した。30分後に15,000×gで10分間遠心処理を行い、70μLの上清を回収し、366 nmの吸光度を測定した。なお、37℃で60分間反応を行ったときの吸光度1単位を1unitとして定義した。
【0026】
N末端アミノ酸配列については、以下の実験方法に従った。精製標品(900 ng)をプロソーブ(ProSorb)サンプル調製カートリッジ(Applied Biosystems社製品)負荷し、マニュアルに従いポリビニリデンジフロライド膜(PVDF膜)に固定させた。PVDF膜に固定化された該蛋白質のN末端アミノ酸配列は、プロテインシークエンサ Model 492(Applied Biosystems社製品)で解読され、その結果を配列表1に示した。15残基目まで決定したが、5、8残基目については回収率が低下し、解読は不可能であった。この回収率の低下は、アミノ酸側鎖の糖鎖付加などによる修飾が考えられる。また、この得られた配列についてデータベース(BLAST)に登録されている配列との相同性の検索を行ったところ、マイタケから精製されている黒マイタケ由来メタロプロテアーゼ(GFMEP)(例えば、非特許文献12、非特許文献13)と高い相同性を示した。ただし、下記にも述べるようにゲル濾過カラム及びMALDI-TOF-MSにおける分子量が異なること、さらには酵素学的解析からイオン要求性あるいは阻害剤感受性が異なることなどから、N末端アミノ酸配列では相同性が高いが同一の酵素ではないと考えられた。
【0027】
フィブリン溶解活性におけるpHの影響は、上記のフィブリン分解活性に基づき行われた。各pHに用いた緩衝液の種類は、50 mM Na+-acetate (pH 4.0-6.0), 50 mM MES (pH 6.0-7.0), 50 mMナトリウム−リン酸バッファー(Na+-Pi)(pH 7.0-8.0), 50 mM Tris-HCl (pH 8.0-9.0), 50 mM ホウ酸(H3BO3)(pH 9.0-10.0)であり、フィブリン平板法とカゼイン分解活性で至適pH(安定的分解pH)を検討した。なお、フィブリン平板法においては、各pHの緩衝液で透析した蛋白質を用いて検討を行った。最大活性を100%と換算したときの相対活性を図2に示した。どちらの基質においてもpH 7.0で最大活性が得られており、pH 6.0-10.0で少なくとも70%以上の相対活性を有していた。また、アゾカゼインでは酸性領域で変性したために測定することができなかったが、フィブリン平板法ではpH4.0でも少なくとも60%以上の相対活性を有していた。
【0028】
温度感受性についても、上記活性測定法に基づき検討を行った。活性測定方法の詳細は、各設定温度で1時間インキュベーションした後に、フィブリン平板法およびカゼイン分解活性で検討を行った。4℃保存下での活性を100%と換算したときの相対活性を図3に示した。どちらの基質においても60℃まではほぼ100%の残存活性を示し、熱安定性に優れた蛋白質であることが確認された。
【0029】
イオン要求性については次のような実験方法で検討した。まず、精製標品である酵素を50 mM EDTAを含む50 mM MES (pH 7.0)で透析処理を行い、結合している補欠因子である陽イオンを除去することによりアポプロテインを作製した。次に10 mMの各陽イオンを含む50 mM MES (pH 7.0)で透析処理を行い、再構成蛋白質を作製した。この再構成蛋白質を酵素源として、フィブリン平板法およびカゼイン分解法による酵素活性の測定を検討した。各活性測定法における最大活性を100%と換算したときの相対活性を図4に示した。図4で示されるように、フィブリン溶解活性では、10 mMのイオン強度で再構成蛋白質の活性化が確認され、さらにフィブリン溶解性は亜鉛のみで活性の回復が確認された。この結果から、N末端で相同性の高かったGFMEPではカゼイン分解活性においてマンガン、亜鉛とともにカルシウムでも活性の回復が確認されたにも拘わらず、本蛋白質ではカルシウムにおいて活性の回復が確認されなかったことからも、異なる性質を有する蛋白質であることが確認された。
【0030】
阻害剤の効果については次のような実験方法で検討した。精製標品である酵素を10 mMの各阻害剤を含む50 mM MES (pH 7.0)で透析処理を行い、透析処理後に得られた酵素を用いてフィブリン平板法およびカゼイン分解法による酵素活性の測定を検討した。各活性測定法において、阻害剤を含まない緩衝液で透析処理を行った酵素活性を100%とした相対活性を図5に示した。本実験では、10mM EDTAで40%の阻害率であったが、50 mM EDTA処理では100%の阻害活性を示した。また、GFMEPではカゼイン分解活性において2-メルカプトエタノール(2-Mercaptoethanol)で阻害効果がみられなかったが、本蛋白質では高い阻害効果が確認され、この結果からも異なる性質の蛋白質であることが確認された。また、セリンプロテアーゼの特異阻害剤である(p-アミジノフェニル)メタンスルホニルフルオライド炎酸塩(APMSF)では当該酵素の阻害がみられなかったことから、セリンプロテアーゼではないことが示唆された。
【0031】
分子量の測定については、次の2種類の実験方法で検討した。まずゲル濾過法であるが、精製標品である酵素(1 mL)をS-100 HRカラム(Amersham Pharmacia Biotech社製品)に負荷し、溶出される各フラクション(2 mL×100本)のフィブリン分解活性とSDS-PAGEの電気泳動法により、蛋白質ピーク画分とフィブリン分解活性ピーク画分の検出を行った。分子量マーカーとしては、ブルーデキストラン2000(Blue Dextran 2000) (Amersham Pharmacia Biotech社製品)(排除体積)、アルブミン(Albumin) (Amersham Pharmacia Biotech社製品)(67 kD)、卵アルブミン(Ovalbumin) (Amersham Pharmacia Biotech社製品)(43 kD)、キモトリプシノーゲンA(Chymotrypsinogen A) (Amersham Pharmacia Biotech社製品)(25 kD)、リボヌークレアーゼA(Ribonuclease A) (Amersham Pharmacia Biotech社製品)(13.7 kD)をそれぞれ2 mg / 1 mLで1種類ずつ負荷し、その溶出ピーク画分については、SDS-PAGEと280 nmでの測定値をもとに解析した。その結果、図6に示したように本蛋白質は容易に2量体(18.7 kD)、4量体(39.1 kD)を形成するが、フィブリン分解活性を有するのは1量体である分子量約9,000の蛋白質のみであった。さらに分子量測定では、最低でも2種類の異なった方法で解析することにより、その信頼度を上げることが必要である。そこで次に、MALDI-TOF-MSによる分子量の解析を検討した。精製酵素標品100 ngをマトリックス剤である3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシケイ皮酸(3,5-dimethoxy-4-hydroxycinammic acid)を用い、アセトニトリル:0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)= 50:50の溶液に溶かし、ボイジャーRP(Voyager RP)(PerSeptive Biosystems社製品)で測定した。測定条件はAccelerating Voltageを25,000、Laser強度を2,200、リニアモードとして解析した。その結果を図7に示した。ゲル濾過法と一致して、本蛋白質の分子量は1量体である9 kD、2量体である18 kD、4量体である36 kDにシグナルが確認された。つまり、本蛋白質は少なくとも1、2、4量体で存在すると考えられ、この分子ユニットのなかでフィブリン分解活性を有するのは9 kDであることが特徴付けられた。
【0032】
以上の結果をまとめると、本発明の蛋白質に関する知見は以下の通りである。材料であるマイタケは、抽出物の状態でプラスミン換算すると約100 units/蛋白質gである。一方で、直接的な比較はできないが、市販納豆の平均的な活性値は20〜40 FU / 湿重量g(フィブリン分解ユニット)といわれている。本発明者らは市販納豆を含む近年得ることが可能な食品200サンプル以上のスクリーニングの結果、水系溶媒で10倍希釈した抽出液のフィブリン溶解活性は、マイタケで最大活性が検出されることを見出した。そこで市販の納豆菌培養エキス(ナチュラルスーパーキナーゼII、日本生物科学研究所社製品)を用いて
本フィブリン分解活性測定条件下で比較検討を行ったところ、マイタケ抽出液は少なくとも80〜160 FU / 湿重量gに相当する活性を有することが確認された。マイタケは重量に対して90%以上が水分であり、乾燥重量1 gに換算するとそのフィブリン溶解活性は非常に高活性であり、抗血栓作用および血栓溶解作用を有する蛋白質を含む最適な食品材料であるといえる。
【0033】
一方で、硫酸アンモニウム濃縮、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、陽イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーの各精製過程を経て得られる本蛋白質は図1に示したようにSDS-PAGE上で18 kDの分子量を示し、配列表1に示したように、得られたN末端アミノ酸配列のデータベース解析からGFMEP(例えば、非特許文献12,非特許文献13参照)のホモログ蛋白質であることが示唆された。このGFMEPはマイタケ由来のリシンを特異的に認識するメタロプロテアーゼであり、18 kDの分子サイズを持つ1量体の蛋白質である。ところが、図6に示したように、本酵素の精製標品を用いてゲル濾過カラム法と図7に示したように、MALDI-TOF-MSにより非変性状態での分子量測定を行うと、9、18、36 kDの3種類のサブユニットで構成される蛋白質であることが確認され、各々が1、2、4量体に相当する分子量であった。さらに驚くことに、GFMEPでも示されていなかったフィブリン溶解酵素としての機能が確認され、かつ9 kDの最小分子ユニットのみがその機能を有するのであった。このことはGFMEPとN末端アミノ酸配列は局所的に類似性を示すが異なる性質の蛋白質であることを意味する。また、既知の血栓溶解酵素を含むメタロプロテアーゼは平均分子量が20,000〜50,000であるが、本蛋白質は天然物由来としては最小分子量である9,000で機能する金属イオン要求性の抗血栓作用および血栓溶解作用を有するものであった。さらに酵素学的な検証を行うと、EDTAにより形成されたアポプロテインの2価イオン要求性は亜鉛で再構成が可能であること、また、APMSFでは阻害されないことからもセリンプロテアーゼではなくメタロプロテアーゼである。これらの諸性質に加えて、図3に示したように、60℃までの高い熱安定性、あるいは図2に示したように、幅広いpH安定性などの特徴を有する蛋白質である。つまり、これらの特性を持つ本蛋白質は、分子量が9,000という低分子の特異性により、既知の血栓溶解酵素と比較して腸管での効率的な吸収が期待され、その高活性な特徴と併せて非常に有用な抗血栓作用および血栓溶解作用としての機能を有する蛋白質である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】各精製ステップにおける精製画分のSDS-PAGE(15%ゲル)を解析した図である。左端の数値(25, 20, 15kD)はマーカー蛋白質の分子量を示し、右端の数値(18 kD)はSDS-PAGE上での精製された本蛋白質の分子量を示す。
【図2】フィブリン分解活性およびカゼイン分解活性におけるpH依存性を示した図である。pH 7.0の酵素活性を100%として相対活性で示した。
【図3】フィブリン分解活性およびカゼイン分解活性における本蛋白質の温度耐久性を示した図である。4℃で60分間インキュベーションした時の残存活性を100%として相対活性で示した。
【図4】フィブリン分解活性およびカゼイン分解活性に対する2価カチオンの依存性を示した図である。各イオンを10 mM濃度で透析処理することにより本蛋白質の再構成を行い、最大活性回復を示したイオン種を100%として示した。
【図5】本蛋白質のフィブリン分解活性およびカゼイン分解活性に対する各阻害剤の影響を示した図である。精製された本蛋白質を用いて、各阻害剤10 mMを含む溶液で透析処理を行い、活性阻害剤を含まない溶液で透析したときの残存活性を100%とした相対活性で示した。
【図6】S-100 HRカラム上でのマーカー蛋白質の溶出パターンと本蛋白質の精製標品の溶出パターンの図である。マーカー蛋白質の溶出パターンより計算された本蛋白質精製標品の推定分子量を示した。
【図7】本蛋白質精製標品の質量分析結果を示した図である。3種類のピークが確認され、各々が1、2、4量体に相当する分子量であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイタケ、マイタケの破砕汁液およびマイタケの搾汁液のいずれか1種または2種以上から水または水溶液により抽出された分子量約9,000の抗血栓作用および血栓溶解作用を有することを特徴とする蛋白質。
【請求項2】
マイタケの破砕汁液およびマイタケの搾汁液のいずれか1種または2種から塩析または溶媒沈殿により得られた分子量約9,000の抗血栓作用および血栓溶解作用を有することを特徴とする蛋白質。
【請求項3】
水溶液のpHでの安定性領域が6.0〜10.0であることを特徴とする請求項1または2に記載の蛋白質。
【請求項4】
配列番号1に記載のN末端あるいは部分アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位を含むアミノ酸配列からなる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蛋白質。
【請求項5】
マイタケ、マイタケの破砕汁液およびマイタケの搾汁液のいずれか1種または2種以上から水または水溶液により抽出された抽出液を、塩析もしくは溶媒沈澱処理し、得られた塩析物もしくは沈殿物を緩衝液に溶解し、ついでクロマトグラフィーで処理することを特徴とする請求項1、3乃至4のいずれか1項に記載の蛋白質の製造法。
【請求項6】
マイタケの破砕汁液およびマイタケの搾汁液のいずれか1種または2種を、塩析もしくは溶媒沈澱処理し、得られた塩析物もしくは沈殿物を緩衝液に溶解し、ついでクロマトグラフィーで処理することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の蛋白質の製造法。


【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−219386(P2006−219386A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32139(P2005−32139)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】