説明

抗酸化剤およびその用途

【課題】優れた抗酸化作用を有する抗酸化剤を提供する。特に体内で有効に抗酸化作用を発揮する組成物、特に機能性食品〔保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、ならびに栄養補助食品などの健康食品を含む〕として有用な食品組成物の有効成分となる抗酸化剤を提供する。
【解決手段】マロツシン酸、マロチン酸およびこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有効成分として用いる。または、これら少なくとも1つの化合物を含む植物抽出物の中から当該化合物を分画する操作を行って得られる植物粗精製物を有効成分として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗酸化作用を有する抗酸化剤に関する。より詳細には、本発明は活性酸素を消去する能力に優れるとともに、LDL(低密度リポ蛋白質)の酸化を抑制する作用を有し、医薬品、医薬部外品、食品または化粧品の機能性成分として有用な抗酸化剤に関する。また本発明は、かかる抗酸化剤の各種用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、活性酸素による酸化ストレスが、癌、炎症、および各種の生活習慣病(例えば、血栓症や脳循環関連の疾患)の発症に深く関与していること、またこれがシミやシワの原因となったり、老化を早めることが知られるようになっている。従って、生体において適切に酸化反応を制御することは、健康を維持し、また若さや美を保つうえで大変重要なことである。特に、酸化ストレスの抑制は、近年増加している生活習慣病の予防または改善に重要な役割を果たす。
【0003】
このため、近年、抗酸化能を有する素材が注目を集めている。例えば、ルチン、ケルセチン、モリン及びミリセチンなどの各種のフラボノイド;ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェロール)などのビタミン類;β−カロテン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、リコピン、ルテインなどのカロテノイド;セレンなどのミネラル;コエンザイムQ10やα−リポ酸などの補酵素;クルクミン、クロロゲン酸、タンニンなどの各種のポリフェノール類などに抗酸化作用があることが知られている。
【0004】
しかしながら、昨今のブームとも呼ばれる健康志向の高まりのなか、さらに優れた抗酸化能を有する素材が求められているのが現状である。
【0005】
この目的で、抗酸化能を有する天然の素材として、例えばチョウトウコウ、コウボク、アカメガシワ、イチョウ、月見草、ボダイジュ、センハセキ、ギョリョウ、アセンヤク、アマチャ、オウゴン、キナキジムシロ、キューカンバー、クローバー、紅茶、白樺幹スクラブ、スイカ、ステビア、セイヨウズタ、タテジヤコソウ、チョウジ、ナナカマド、バナナ、ヒキオコシ、ヘイフラワー、マーシュティ、マテ、メロン、リンゴ、ラベンダー、レモン、籐茶、ジユ、ゲンノショウコ、エイジツ、モモ、シラカバ、ケイヒ、チャ、サルビア、キナ、サンショウ、マロニエ、およびナタ等の植物抽出物が提案されている(例えば、特許文献1および2等参照)。しかしこれらの有効成分、すなわち抗酸化能を発揮する成分については知られていない。
【特許文献1】特開平10−17435号公報
【特許文献2】特開2003−192566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、活性酸素を消去する能力に優れるとともに、LDL(低密度リポ蛋白質)の酸化を抑制する作用を有する抗酸化剤を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、医薬品、医薬部外品および食品〔一般食品に加えて、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)および栄養補助食品等の健康食品などの、いわゆる機能性食品を含む。以下、同じ〕などの特に経口組成物ならびに化粧品の素材として有用な抗酸化剤を提供することを目的とする。また本発明はかかる抗酸化剤を有効成分とする医薬品、医薬部外品および食品などの特に経口組成物、ならびに化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決を目指して検討を重ねていたところ、植物に含まれるマロツシン酸およびマロチン酸に、上記目的に適う優れた抗酸化能があることを見出し、しかもこれら化合物の抗酸化能は、従来抗酸化剤として知られているエピガロカテキンガレート、ルチン、クエルセチン、クロロゲン酸またはエラジ酸よりも有意に高いことを確認した。
【0008】
本発明は係る知見に基づいて完成されたものであり、下記の態様を包含するものである:
(1)抗酸化剤
(1-1)マロツシン酸、マロチン酸およびこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有効成分とする抗酸化剤。
(1-2)マロツシン酸、マロチン酸およびこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む植物抽出物から、当該化合物を分画する操作を行って得られる植物粗精製物を含有する項1記載の抗酸化剤。
【0009】
(2)経口組成物
(2-1)(1-1)または(1-2)に記載する抗酸化剤を含む経口組成物。
(2-2)活性酸素が関連する疾患の予防または改善するための医薬品である(2-1)記載の経口組成物。
(2-3)動脈硬化または動脈硬化性疾患の予防または改善するための医薬品である(2-1)記載の経口組成物。
(2-4)食品である(2-1)記載の経口組成物。
(2-5)飲料またはサプリメント形態を有する食品である(2-4)に記載する経口組成物。
(2-6)1日摂取あたりの経口組成物中のマロツシン酸、マロチン酸およびこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物の含有量が0.1〜50mg/kg体重である、(2-1)乃至(2-5)のいずれかに記載する経口組成物。
(2-7)容器に収納された食品であって、当該容器またはその包装物に、効能として抗酸化作用または抗動脈硬化作用が記載されてなる(2-4)乃至(2-6)のいずれかに記載する経口組成物。
(2-8)特定保健用食品である(2-7)に記載する経口組成物。
【0010】
(3)化粧品組成物
(3-1)(1-1)または(1-2)に記載する抗酸化剤を含む化粧品組成物。
【0011】
なお、本明細書において「抗酸化作用」とは、活性酸素(特にヒドロキシルラジカルおよびスーパーオキシドアニオン)などの酸化物質の作用を、消去または減弱させる作用を意味する。特に好ましくは生体内において上記酸化物質の作用を消去または減弱させる作用である。また本明細書において「抗動脈硬化作用」とは、酸化・低密度リポ蛋白質(酸化LDL)の生成を抑制する作用に基づいて、大動脈粥状硬化巣の発生や動脈硬化の進展を抑制する作用を意味する。
【発明の効果】
【0012】
活性酸素による組織障害に起因する疾患としては、従来より、癌;炎症;アレルギー性疾患;動脈硬化や虚血性心疾患などの循環器系疾患;肺気腫や喘息などの呼吸器系疾患;胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化器系疾患;糖尿病の合併症および皮膚疾患などが知られている。本発明が提供する抗酸化剤の有効成分は、かねてより薬用植物として食経験のある植物素材に含まれている成分であり、経験的に安全性が確認されているものである。従って、本発明の抗酸化剤は、日常の生活において継続的に服用することができ、これにより、活性酸素が関連する上記各種疾患や老化の予防または改善効果を期待することができる。
【0013】
また、本発明の抗酸化剤は、抗LDL酸化活性を有していることから、動脈硬化、特にアテローム性の動脈硬化の進展を抑制し、動脈硬化に起因する各種の疾患(動脈硬化性疾患)を予防または改善する効果を期待することができる。
【0014】
さらに本発明の抗酸化剤は、その抗酸化能に基づいて活性酸素が関連する皮膚へのダメージ(シミやシワなど)を予防または改善することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(1)抗酸化剤
本発明の抗酸化剤は、マロツシン酸およびマロチン酸よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有効成分とするものである。
【0016】
ここでマロチン酸(mallotinic acid:C34H26O23:M.W.802)は、下式に示すように、D−グルコピラノースの1位に没食子酸が、また3,6位に(+)-バロネア酸(valoneic acid)がそれぞれエステル結合した構造を有する化合物である。
【0017】
【化1】

【0018】
またマロツシン酸(mallotusinic acid:C48H32O32:M.W.1120)は、下式に示すように、上記マロチン酸のグルコースの2,4-位にデヒドロヘキサヒドロキシビフェニル-2,2’-ジカルボニル基がエステル結合し、水和ヘミアセタールを形成してなる化合物である。
【0019】
【化2】

【0020】
これらの化合物は、通常、マロツシン酸またはマロチン酸を含む植物から単離取得することができる。なお、後述するように、マロチン酸はマロツシン酸を原料として調製することができるので、好ましくは少なくともマロツシン酸を含む植物である。マロツシン酸を含む植物としては、特に制限されないが、トウダイグサ科(Euphorbiaceae)に属する植物、具体的にはシナアブラギリ(Aleurites fordii Hemsl.)、アカメガシワ(Mallotus japonicus Muell. Arg.)、クスノハガシワ(Mallotus philipnesis Muell. Arg.)、オオベニガシワ(Alchornea trewioides Muell. Arg.)、トウゴマ(Ricinus communis L.)、ナンキンハゼ(Triadica sebifera Small)、ハナキリン(Euphorbiea milii Des. Moul. Var. splendens Boj.)、トウダイグサ(Euphorbiea helioscopia Linn.)、イワタイゲキ(Euphorbiea jolkinii Boiss)、タカトウダイ(Euphorbiea pekinensis Rupr.)、オオニシキソウ(Euphorbiea maculata Linn.)、コニシキソウ(Euphorbiea supina Rafin.)、およびニシキソウ(Euphorbiea pseudochamaesyce Fisch.)を例示することができる(T. Okuda, et al., Phytochemistry, 19, 547 (1980))。好ましくはアカメガシワである。
【0021】
マロツシン酸の単離は、制限されないが、通常、マロツシン酸を含む植物の溶媒抽出物を原料として、慣用の単離精製方法を用いて行うことができる。マロツシン酸を含む植物の溶媒抽出物は、当該植物の全草、或いはマロツシン酸を含む部位(例えば、花、芽、葉、茎、枝、枝先、根、根茎、及び種子等)をそのまま或いは必要に応じて、乾燥、細切、破砕、圧搾、煮沸或いは発酵処理したものを冷水、熱水若しくは有機溶剤、あるいは水と有機溶剤の混合液等の抽出溶媒で抽出することにより取得することができる。この抽出に使用される有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の単独或いは2種以上の組み合わせを挙げることができる。上記抽出溶媒の中で、好ましくは、熱水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;あるいは水と低級アルコールの混合液または水とアセトンの混合液を挙げることができる。
【0022】
かくして得られる溶媒抽出物は、そのまま、または必要に応じて濃縮して、マロツシン酸の単離精製操作に供することができる。単離精製操作は、特に制限されず、固液分離、溶媒抽出、塩析、透析、酸析、再結晶、溶媒分画法、活性炭処理法、各種の樹脂処理法(ゲル濾過法、イオン交換法、吸着法)および膜処理法(限外濾過膜処理法、逆浸透膜処理法、イオン交換膜処理法、ゼータ電位膜処理法)などの各種の慣用の操作を組み合わせて行うことができる。なお、マロツシン酸は波長254nmにおける吸収、ポリフェノール陽性反応(Folin-Ciocalteu)およびHPLCプロファイル(Takuo Okuda,et al., Journal of Chromatography, 171 (1979) p.316)を指標として分画単離することができる。具体的には、その単離精製方法およびその物性を調製例1に示す。
【0023】
マロチン酸は、上記方法で得られるマロツシン酸から調製することができる。具体的には、マロツシン酸を0−フェニレンジアミンと縮合し(フェナジン誘導体)、次いでこれを沸騰水中で加水分解して難溶性分解産物(暗赤色結晶)を析出除去し、得られた母液から易溶性の分解産物を単離することによって調製することができる。かかる操作も、特に制限されず、各種の慣用の単離精製操作を組み合わせて行うことができる。なお、マロチン酸も、波長254nmにおける吸収、ポリフェノール陽性反応(Folin-Ciocalteu)およびHPLCプロファイル(Takuo Okuda,et al., Journal of Chromatography, 171 (1979) p.316)を指標として分画単離することができる。具体的には、マロチン酸の調製方法およびその物性を調製例2に示す。なお、マロチン酸は、実施例1に記載するように、アカメガシワ抽出物から直接単離することもできる。
【0024】
これらのマロツシン酸およびマロチン酸は、塩の形態を有することもできる。かかる塩としては、例えば酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩などが挙げられる。酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩などの有機酸塩を;金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩などのアルカリ金属、マグネシウム塩やカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等を;アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等を;有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の付加を;アミノ酸付加塩としては、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン等の付加塩を例示することができる。さらにまたマロツシン酸およびマロチン酸は、水和物の形態であってもよい。
【0025】
本発明の抗酸化剤は、マロツシン酸、マロチン酸またはこれらの塩を1種単品で含有するものであってもよいし、また2種以上を組み合わせて含有するものであってもよい。好ましくはもっとも抗酸化能に優れたマロツシン酸またはその塩単品、またはマロツシン酸(若しくはその塩)とマロチン酸(若しくはその塩)との組み合わせである。
【0026】
本発明の抗酸化剤に配合されるマロツシン酸、マロチン酸またはこれらの塩は、各々精製されたものでもよいが、それに限定されず、上記植物抽出物から得られる粗精製物(植物粗精製物)であってもよい。
【0027】
ここで植物粗精製物とは、マロツシン酸、マロチン酸およびこれらの塩よりなる群から選択される1または2以上の目的化合物を含有する植物の溶媒抽出物(植物抽出物)を原料として、当該植物抽出物から、上記1または2以上の目的化合物(マロツシン酸または/およびマロチン酸)を分画する操作(選別操作)を行って得られる目的化合物含有画分である。植物抽出物からマロツシン酸または/およびマロチン酸を分画する操作としては、特に制限されず、固液分離、溶媒抽出、塩析、透析、酸析、再結晶、溶媒分画法、活性炭処理法、各種の樹脂処理法(ゲル濾過法、イオン交換法、吸着法)または膜処理法(限外濾過膜処理法、逆浸透膜処理法、イオン交換膜処理法、ゼータ電位膜処理法)などの各種慣用の操作を挙げることができ、これらを1種または2種以上組み合わせて行うことができる。
【0028】
マロツシン酸およびマロチン酸はいずれも水に対する溶解性が高いという性質を有している。このため、水への相溶性の違いを利用した任意の操作により、水への溶解性の低い成分(水低溶解性成分)を除去することにより、マロツシン酸またはマロチン酸を高い割合で含有する画分を取得することができる。かかる水低溶解性成分の除去方法としては、溶媒抽出方法、低温沈殿処理、および極性の違いを利用した逆相クロマトグラフィーなどを例示することができる。
【0029】
本発明の抗酸化剤中に含まれるマロツシン酸、マロチン酸またはこれらの塩の割合は、当該抗酸化剤が抗酸化能を発揮する限りにおいて特に制限されない。また上記化合物(単品または混合物)だけからなるものであってもよい。マロツシン酸、マロチン酸またはこれらの塩の含有量として、具体的には、乾燥重量に換算して総量として0.005重量%以上の割合を挙げることができる。
【0030】
後述するように本発明の抗酸化剤が医薬品、医薬部外品もしくは食品などの特に経口組成物、または化粧品の有効成分または機能性成分として使用されることを考慮すれば、マロツシン酸の含有量としては10〜100重量%、マロチン酸は5〜100重量%(いずれも乾燥重量換算)を挙げることができる。
【0031】
本発明の抗酸化剤は、その形状も特に制限されない。例えば、粉末状、顆粒状、錠剤状、丸剤状、乳剤状、液状、懸濁液状、濃縮エキス、乾燥エキスなどを例示することができる。
【0032】
本発明の抗酸化剤は、その有効成分として含まれるマロツシン酸またはマロチン酸が有する高い抗酸化能に基づいて、優れた抗酸化作用を有する。特にフリーラジカル消去能およびスーパーオキシド消去能に優れており、生体内における活性酸素の消去または減弱に有効に利用することができる。
【0033】
また本発明の抗酸化剤は、マロツシン酸またはマロチン酸が有する抗LDL酸化能に基づいて、抗LDL酸化作用を有する。粥状(アテローム)動脈硬化病変は、脂肪の過酸化に伴って生じる酸化LDLがマクロファージに取り込まれて泡沫細胞化をきたすことによって生じることが知られている。よって、本発明の抗酸化剤によれば、かかる酸化LDLの生成を抑制して粥状動脈硬化病変の発生を抑え、動脈硬化、特にアテローム性動脈硬化への進展を抑制する効果が期待できる。
【0034】
このため、本発明の抗酸化剤は、医薬組成物、特に活性酸素が原因となる各種の疾患の予防または改善剤の有効成分として、または酸化LDLが原因となる疾患、具体的には動脈硬化およびこれに関連する疾患(動脈硬化性疾患)の予防または改善剤の有効成分として有用である。
【0035】
本発明の抗酸化剤は、その有効成分(マロツシン酸またはマロチン酸)が、従来より薬用植物として食経験のある植物に含まれている成分であるため、食品への適用が可能である。前述するように、本発明の抗酸化剤は、優れた活性酸素消去能と抗LDL酸化活性を有しているため、食品組成物、特に活性酸素が原因となる各種の疾患の予防または改善、または酸化LDLが原因となる動脈硬化または動脈硬化性疾患の予防または改善に有効な食品組成物の機能性成分として有用である。
【0036】
さらに本発明の抗酸化剤は、マロツシン酸またはマロチン酸の活性酸素消去能に基づいて、活性酸素によるダメージ(シミ、シワ、たるみなどの老化)から皮膚を防御することができる。このため、本発明の抗酸化剤は、化粧品組成物、特にシミやシワ抑制またはアンチエイジ(抗老化)効果を有する化粧品組成物の有効成分として有用である。
【0037】
(2)医薬品および医薬部外品
本発明の医薬品および医薬部外品は、前述する本発明の抗酸化剤を、抗酸化作用を発揮する有効量含有することを特徴とする。本発明が対象とする医薬品および医薬部外品は、好ましくは経口的に投与されるものであり、その意味でいずれも本発明でいう経口組成物に包含される。
【0038】
医薬品または医薬部外品の調製に際して、前述する抗酸化剤は、各種の経口投与形態を有する製剤とすることができる。かかる経口投与形態としては、上記抗酸化剤を水、アルコール(例えば、エタノール)、またはその他の溶媒に溶解若しくは分散した溶液形態(乳剤状、液剤状またはシロップ状などのドリンク形態)、または公知の方法により調製・成型された固体形態(散剤状、顆粒状、錠剤状、丸剤状、カプセル剤状、チュアブル剤状など)を挙げることができる。
【0039】
これらの製剤は、上記抗酸化剤の有効成分であるマロツシン酸、マロチン酸またはこれらの塩に加えて、各種投与形態に応じて、薬学的に許容される担体や添加剤が配合されていてもよい。例えば、固体形態の製剤を調製する場合の賦形剤としては、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ゼラチン、澱粉、デキストリン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、合成ならびに天然のケイ酸アルミニウム、酸化マグネシウム、乾燥水酸化アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、重炭酸ナトリウム、乾燥酵母が例示される。また、溶液形態の製剤を調製する場合の賦形剤としては、水、グリセリン、プロピレングリコール、単シロップ、エタノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール等が例示される。また、これらの製剤は、所望によりクエン酸、リン酸、リンゴ酸又はその塩類などの安定化剤;スクラロース、アセスルファムカリウムなどの高甘味度甘味料やショ糖、果糖などの甘味剤;アルコール類、グリセリンなどの防腐剤;粘滑剤、希釈剤、緩衝剤、着香剤及び着色剤のような通常の添加剤と混合されていてもよく、常法又はその他の適切な方法で、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、チュアブル剤、乳剤、液剤またはシロップ剤等の各種の経口投与形態の製剤に製造することができる。
【0040】
なお、本発明の抗酸化剤は、軟膏、クリームまたは外用液等の形態を有する外用剤(医薬品、医薬部外品)として調製することもできる。外用剤の調製には、上記本発明の抗酸化剤に加えて、外用剤の形態に応じた各種の基剤、例えば精製水、低級アルコール、多価アルコール、油脂、界面活性剤、増粘剤、着色剤、防腐剤、香料等を用いることができる。
【0041】
こうした医薬品および医薬部外品、特に経口投与形態を有する製剤は、抗酸化剤を、その有効成分であるマロツシン酸またはマロチン酸の量(総量)に換算して、一日投与単位あたり0.1〜50mg/kg体重を目処として、通常1〜5000mgの範囲で含有するように製剤化されることが好ましい。好ましくは一日投与単位あたり0.2〜20mg/kg体重を目処として、2〜2000mgの範囲で含有するように製剤化される。かかる用量は、本発明の医薬品または医薬部外品を服用する人の健康状態、投与方法及び他の剤(または食品成分)との組み合わせなどの種々の因子に応じて適宜調整することができる。
【0042】
活性酸素による組織障害に起因する疾患としては、癌、炎症、アレルギー性疾患、動脈硬化や虚血性心疾患などの循環器系疾患;肺気腫や喘息などの呼吸器系疾患;胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化器系疾患;糖尿病の合併症;および顔面色素異常沈着症(しみ、そばかす)等の皮膚疾患などが知られている。このため、本発明の医薬組成物は、その抗酸化作用により、活性酸素による組織障害に起因する上記各種疾患の予防または改善に有効に使用することができる。
【0043】
また粥状動脈硬化病変は、脂肪の酸化に伴って生じる酸化LDL(酸化低密度リポ蛋白質)がマクロファージに取り込まれて泡沫細胞化を来すことによって生じる。このため本発明の医薬組成物は、その有効成分であるマロツシン酸またはマロチン酸のLDL酸化抑制作用により、動脈硬化(特にアテローム性動脈硬化)の進展の抑制または改善、ならびに動脈硬化性疾患の発症の予防または改善に有効に使用することができる。
【0044】
なお、動脈硬化性疾患とは、動脈硬化に起因して発症する疾患を意味する。より詳細には、動脈硬化性疾患は、動脈が、弾力性を失って硬くなったり、内部沈着のため内腔が狭窄または閉塞したり、動脈壁が部分的または全体が拡張したり(動脈瘤、拡張症)、内膜に亀裂が入り中膜が裂けたり(解離)また破裂(出血)することにより、組織や臓器全体に血行障害を起こす疾患の総称である。かかる疾患として、具体的には、脳梗塞や脳出血(脳動脈)、心筋梗塞や狭心症等の虚血性心疾患(冠動脈)、大動脈瘤や大動脈解離(大動脈)、腎硬化症やそれによる腎不全(腎動脈)、および閉塞性動脈硬化症(末梢動脈)を例示することができる。
【0045】
(3)食品
本発明の食品は、前述の抗酸化剤を含有することを特徴とする。食品は口から摂取されるものであるから、本発明でいう経口組成物に含まれる。
【0046】
本発明の食品は、前述の抗酸化剤のまま、又はこれに食品に通常用いられている賦形剤または添加剤を配合して、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤、カプセル剤、水和剤、乳剤、液剤、エキス剤、またはエリキシル剤等の剤型に、公知の手法にて製剤化することもできる。好ましい剤型は錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤およびカプセル剤などの固形投与形態であり、より好ましくは顆粒剤、または錠剤や丸剤等の圧縮成型された剤型である。
【0047】
食品に通常用いられる賦形剤としては、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ショ糖、乳糖、粉末還元麦芽糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドンなど)、滑沢剤(例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ポリエチレングリコール)、崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、固結防止剤(例えばシリカ)等を挙げることができる。添加剤としては、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などを例示することができる。
【0048】
本発明の食品の摂取量は、摂取者の性別、体重、年齢、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。例えば、1日あたりの摂取量が、マロツシン酸またはマロチン酸の量(総量)に換算して、0.1〜50mg/kg体重を目処として、通常1〜5000mgの範囲になるような割合を挙げることができる。好ましくは1日あたりの摂取量0.2〜20mg/kg体重を目処として、2〜2000mgの範囲となるような割合である。
【0049】
なお、本発明が対象とする食品には、上記製剤形態を有するサプリメント〔保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)および栄養補助食品などのいわゆる健康食品も含まれる〕に加えて、前記抗酸化剤を、飲食物の製造原料の一つとして用いて調製される食品〔一般食品(健康食品を含む)のほか、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)も含まれる〕も含まれる。
ここで食品の種類は特に制限されず、飲料(乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、アルコール飲料、コーヒー飲料、粉末飲料、スポーツ飲料、サプリメント飲料、紅茶飲料、緑茶、ゼリー入り飲料、ブレンド茶等の茶飲料等)、菓子類〔カスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;ミルクアイスクリーム、果汁入りアイスクリーム及びソフトクリーム、アイスキャンディー等の冷菓類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類〕、パン類、スープ類(コンソメスープ、ポタージュスープ等)、魚肉加工品(魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、鯨ベーコンなど)、畜肉加工品(ハム、ソーセージ、焼き豚等の)、麺類(うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等)、ソース類(セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソース)、総菜などを例示することができる。中でも継続的に摂取するという観点から、より好ましくは飲料である。
【0050】
特に飲料の形態に調製する場合は、100mL容量あたりのマロツシン酸またはマロチン酸の量(総量)が1〜1000mg、好ましくは5〜500mg、より好ましくは10〜200mgの割合となるように、抗酸化剤を配合することが好ましい。
【0051】
本発明の食品組成物は、その有効成分であるマロツシン酸またはマロチン酸の抗酸化作用により、紫外線、生体内食細胞、放射線、化学物質、タバコ、ストレス等により必要以上に生じた活性酸素が関わるとされている各種疾患、例えば、癌、炎症、アレルギー性疾患、動脈硬化や虚血性心疾患などの循環器系疾患;肺気腫や喘息などの呼吸器系疾患;胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化器系疾患;糖尿病の合併症;および顔面色素異常沈着症(しみ、そばかす)等の皮膚疾患の予防または改善に有効に使用することができる。また、本発明の食品は、その有効成分であるマロツシン酸またはマロチン酸のLDL酸化抑制作用により、動脈硬化(特にアテローム性動脈硬化)の進展の抑制または改善、ならびに動脈硬化性疾患の発症の予防または改善に有効に使用することができる。
【0052】
このため本発明の食品には、一般食品のほか、抗酸化作用または抗動脈硬化作用(動脈硬化の進展抑制作用)を効能とし、その特定の保健用途で使用される食品が含まれる。かかる食品として特定保健用食品またはこれに準じる健康食品を挙げることができる。なお、特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)は、その包装容器などに、日本国厚生労働省が承認または認可した機能表示または保健用途の表示をすることが可能な食品である。本発明において特定の保健の目的は、抗酸化(活性酸素消去)、具体的には活性酸素に起因する各種疾患の予防または改善、または抗動脈硬化、具体的には動脈硬化(好ましくはアテローム性動脈硬化)の進展抑制または改善であり、表示の一例として、「抗酸化作用」、「ラジカル消去」、「活性酸素消去」、「SOD様作用」、「酸化を予防する」、「動脈硬化を抑制または予防する」、または「血液の流れ[血行]を良好にする」などを挙げることができる。特定保健用食品は、こうした機能表示ができる点で、機能表示ができない一般食品と差別化を図ることができるため、本発明でいう食品の好適な一態様である。
【0053】
(3)化粧品組成物
本発明の化粧品組成物は、前述の抗酸化剤を含有することを特徴とする。
【0054】
本発明の化粧品組成物は、当該抗酸化剤に加えて、通常化粧品に用いられる成分、例えば精製水、低級アルコールや多価アルコール等のアルコール類、油脂類、ロウ類、炭化水素類等の基剤、ならびに保湿剤、界面活性剤、増粘剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、美白剤、安定剤、防腐剤、着色剤、香料等の成分を配合して調製することができる。その形態は、特に制限されず、例えば化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール、エッセンス、パック、洗浄剤、ファンデーション、打粉、各種メーク剤(口紅、チークなど)を挙げることができる。
【0055】
本発明の化粧品組成物に配合される抗酸化剤の割合も、抗酸化効果を発揮する範囲であれば特に制限されない。本発明の化粧品組成物に配合されるマロツシン酸またはマロチン酸の量(総量)に換算して、通常0.005〜10重量%の範囲を例示することができる。
【0056】
本発明の化粧品組成物は、その有効成分であるマロツシン酸またはマロチン酸の活性酸素消去能に基づいて、活性酸素によるダメージ(シミ、シワ、たるみなどの老化)から皮膚を防御する作用を有することができる。このため、本発明の化粧品組成物は、特にシミやシワ抑制またはアンチエイジ(抗老化)効果を有する化粧品組成物として有用である。
【実施例】
【0057】
以下、調製例、実施例、実験例および処方例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは「重量部」を、「%」とは「重量%」を意味するものとする。
【0058】
調製例1 マロツシン酸の調製
アカメガシワ葉(2.4kg)をアセトン−水混液(7:3、容量比)中で3回ホモジナイズし、濃縮後、エチルエーテル可溶成分を除いた後、酢酸エチルで繰り返し抽出し、抽出液を減圧濃縮して乾燥総エキス100gを得る。このエキス1.5gをDCCCにかけて、1-ブタノール-酢酸-水(4:1:5)で上昇法で展開し、6gずつ分取する。フラクション111〜150を纏めて濃縮乾固し、これを酢酸エチルに溶解して、石油ベンジンを加えて沈殿させ、これを繰り返して無晶形淡黄色粉末(200g、マロツシン酸)を得る。
【0059】
得られたマロツシン酸の物性は下記の通りである:
[α]15−65.4°(c=0.5、MeOH)
PC:Rf 0.30(7%酢酸)、0.46(BAW,上層)
UV(MeOH)nm(logε):221(5.00)、275(4.53)
IR(KBr)(cm-1):1720、1710(C=O)
H−NMR(acetone-d6-D2O)δ(ppm):7.23(2H,s)、7.18(1/2H,s)、7.16(1/2H,s)、7.14(1/2H,s)、7.10(1/2H,s)、6.82(1/2H,s)、6.77(1/2H,s)、6.69(1/2H,s)、6.68(1/2H,s)、6.51(1/2H,s)、6.50(1H,br.s)、6.21(1/2H,d,J=1.5Hz)、5.14(1/2H,s)、4.89(1/2H,d,J=1.5Hz)、4.0〜5.6(H×5)
483232・10HOとしての計算値:C44.31%、H4.03%
分析値:C44.11%、H4.03%。
【0060】
調製例2 マロチン酸の調製
調製例1で調製したマロツシン酸100mgをメタノール2mlに溶解し、これに10%酢酸水溶液に溶解したo-フェニレンジアミン30mgを加え、30分間室温で攪拌し、生じた黄色の沈殿を濾取して水およびエーテルで洗う。これをメタノールに溶解し、クロロホルムを加えて沈殿させ、これを繰り返して、黄色無晶形の粉末として得る(マロツシン酸とo-フェニレンジアミンの縮合体)。次いで、得られた縮合体600mlを水200ml中で1時間還流する。冷却後、沈殿を濾取してメタノールで洗浄し、テトラヒドロフランを添加して生じた結晶物(暗赤色針状晶)を除いて、得られた母液を約50ml程度まで濃縮する。これに活性炭を加えて濾過し、溶媒を留去後、残留物をメタノールに溶解し、クロロホルムを加えて沈殿させて、白色無晶形粉末(200mg、マロチン酸)を得る。
【0061】
得られたマロチン酸の物性は下記の通りである:
PC:Rf 0.35(BAW)、0.40(6%,酢酸)
H−NMR(acetone-d6)δ(ppm): 7.16(2H,s)、7.11(1H,s)、6.82(1H,s)、6.69(1H,s)、6.28(1H,d,J=3Hz)、5.7〜5.9(2H,m)、4.3〜5.1(2H,m)、3.9〜4.1(2H,m)。
【0062】
実施例1 マロツシン酸およびマロチン酸
アカメガシワ生葉を凍結乾燥し、ボールミルで粉砕後20倍容量の精製水を加え、沸騰浴中で30分間熱水抽出した。抽出後、遠心分離して上清と残渣に分け、残渣には再度10倍容量の精製水を加え、前記と同様に熱水抽出して、上清を回収し、先述の上清と混合した。次いで混合した上清を2〜8℃で冷蔵し、水難溶性成分を沈殿し除去する操作を2〜5回繰り返すことで清澄な粗抽出液を取得した。
【0063】
得られた粗抽出液(アカメガシワ粗精製物)を、下記条件の逆相カラムクロマトグラフィー(固相:ODSカラム、移動相:0.1%ギ酸を含む0〜50%アセトニトリル、グラジエント溶媒)を用いて、254nmに吸収を有する複数のピークに分画した。
【0064】
<HPLC条件>
カラム:TSKGEL ODS80TS-QA(東ソー社製)
カラム温度:35℃
移動相溶媒:A液 0.1%ギ酸含有超純水
B液 0.1%ギ酸含有アセトニトリル
グラジェント:0%(水)、20%および50%アセトニトリルのステップワイズ
UV検出波長:254nm。
【0065】
20%アセトニトリルの溶出条件で得られたピーク画分のうち、抗酸化活性(DPPHラジカル消去能)およびポリフェノール反応(Folin-Ciocalteu)がいずれも陽性のものを、再度、上記の逆相カラムクロマトグラフィー(移動相:15%アセトニトリル)に供した。得られたクロマトグラムを図1に示す。既報(Takuo Okuda et al., Journal of Chromatography, 171 (1979) 313-320)の図1Cに示されているマロツシン酸およびマロチン酸のHPLCプロファイルと対比して、各々該当するピーク(図1中、ピーク1および2)をLC−MSに供与し、分子量がマロツシン酸(M.W.1120)、マロチン酸(M.W.802)と一致することを確認した。
【0066】
なお、各々のピーク画分を上記逆相カラムクロマトグラフィーに複数回供することで、純度90%以上のマロツシン酸およびマロチン酸を取得することができる。
【0067】
実験例1 抗酸化作用の評価
(1)上記実施例1で調製したマロツシン酸およびマロチン酸を用いて、各化合物の抗酸化活性を 、(i) DPPHラジカル消去能、(ii)スーパーオキシド消去能、及び(iii)抗LDL酸化活性の3つの観点から評価した。なお、比較のため、従来より抗酸化作用が知られているエピガロカテキンガレート(EGCg)(SIGMA)、ルチン(和光純薬)、クエルセチン(和光純薬)、クロロゲン酸(ICN Biomedical inc.)、エラジ酸(和光純薬)、ならびにマロツシン酸等と同様にアカメガシワから得られるタンニンであるベルゲニン(和光純薬)についても同様にして抗酸化活性を測定した。ただし、抗LDL酸化活性については、エピガロカテキンガレート(EGCg)のみ評価した。
【0068】
(2)評価方法
(i)DPPHラジカル消去能の評価
0.1MのDPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)溶液(50%エタノール水溶液)に各被験化合物を添加した場合に、DPPHラジカルをどの程度消去できるかを、吸光光度法(測定波長:520nm)で測定した(篠原和毅ら:食品機能研究法(光琳)pp218-220(2000)参照)。
【0069】
具体的には、96穴マイクロプレートに、50μLの試料希釈系列およびTrolox希釈系列、50μLの200mM MES Buffer(pH6.0)、50μLのエタノール、50μLの800μM DPPH溶液を加え、室温で20分間攪拌後、プレートリーダーで515nmの吸光度を測定した。試料、Troloxの濃度を横軸、吸光度変化量を縦軸として回帰直線を描き、傾きを求め、相関係数が0.995以上になるようにプロットを選択した。次いで試料の傾きをTroloxの傾きで割り、試料原液のTrolox換算濃度を求めた。結果を表1に示す。なお表1に示す値は、各試料1mMに相当するTrolox濃度に換算したものである。
【0070】
(ii)スーパーオキシド消去能の評価
ヒポキサンチン/キサンチンオキシダーゼ系でスーパーオキシド(O)を発生させ、これに各被験化合物を加えた場合に、スーパーオキシドをどの程度消去できるかを、電子スピン共鳴(ESR)法で測定した(氏家隆ら:食品と開発、31(2),43-46(1996)参照)。
【0071】
具体的には、適宜希釈した試料および検量線作成用SOD(スパーオキシドジムスターゼ)希釈系列50μLに対し、50μL の5mM Hypoxanthine(ヒポキサンチン)水溶液、35μL の5.5mM DTPA(Diethylenetriamine-N,N,N,N’’,N’’-pentaacetic acid)水溶液、15μL のDMPO(5,5-Dimethyl-1-Pyrroline-N-Oxide)を添加する。50μL のXOD(キサンチンオキシダーゼ)を添加、攪拌し、1分後、ESRを用いて、O2-(スーパーオキシドアニオン)を、DMPO- O2-のシグナルで計測した。結果を表1に示す。なお表の値は、SOD希釈系列のシグナルから作成した検量線をもとに、各試料1mMに相当するSOD濃度を換算したものである。
【0072】
(iii)抗LDL酸化活性の評価
蛋白質含量20μg/mLに調製したLDL溶液108μLに、6μLの適宜希釈した試料および検量線作成用EGCg希釈系列を添加して、混和後5分間放置した。6μLの0.1mM硫酸銅水溶液を加えてLDL酸化を誘導し、234nmの吸光度を経時的にモニタリングし、LDL酸化のlagタイムを求めた。結果は、EGCg希釈系列のlagタイムから作成した検量線をもとに、1mMの各試料のEGCg換算濃度として示す。
【0073】
(3)結果
結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示すように、マロツシン酸およびマロチン酸は、従来抗酸化剤として公知の茶カテキン(EGCg)、ルチン、クエルセチン、クロロゲン酸などよりも、顕著に高い抗酸化能を有することがわかる。また、これらの化合物には抗LDL酸化作用もあることが確認された。
【0076】
以上のことからわかるように、本発明の抗酸化剤、ならびにこれを有効成分とする各種の組成物は、生体内における活性酸素などの酸化物質の作用を消去または減弱化する、優れた抗酸化作用を有している。
【0077】
下記に本発明の経口組成物の例として、実施例1で調製したマロツシン酸およびマロチン酸を含む粗抽出液(アカメガシワ粗精製物)を含有する食品の処方例を掲げる。なお、当該アカメガシワ粗精製物中には、マロツシン酸が25%、マロチン酸が15%の割合で含まれている。
【0078】
食品処方例1 茶飲料
水に、玄米エキス、緑茶エキスおよびアカメガシワ粗精製物を添加溶解して、下記処方からなる茶飲料を調製した。
【0079】
アカメガシワ粗精製物 1.0(%)
玄米エキス 0.5
緑茶エキス 0.4
水 残 部。
【0080】
食品処方例2 リキュール
ホワイトリカーにアカメガシワ粗精製物を添加溶解して、下記処方からなるリキュールを調製した。
【0081】
アカメガシワ粗精製物 1.0(%)
ホワイトリカー(アルコール度25%) 残 部。
【0082】
食品処方例3 ハードカプセル充填サプリメント
実施例1で調製したアカメガシワ粗精製物(粗抽出液)をスプレードライにて乾燥して乾燥粉末を調製した(マロツシン酸含有量16%、マロチン酸含有量4.8%)。これを250mg、ゼラチン製のハードカプセル基剤(60mg)に充填して、カプセル形態のサプリメントを調製した。
【0083】
アカメガシワ粗精製物(乾燥粉末) 250mg
カプセル基剤 60mg
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】調製例1においてアカメガシワ葉の粗抽出液を逆相カラムクロマトグラフィーにかけたプロファイルである。ピーク1および2はそれぞれマロツシン酸およびマロチン酸のピークを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マロツシン酸、マロチン酸およびこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項2】
マロツシン酸、マロチン酸およびこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む植物抽出物の中から当該化合物を分画する操作を行って得られる、植物粗精製物を含有する請求項1記載の抗酸化剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載する抗酸化剤を含む経口組成物。
【請求項4】
飲料またはサプリメント形態を有する、請求項3に記載する経口組成物。
【請求項5】
1日摂取あたりの経口組成物中のマロツシン酸、マロチン酸およびこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物の含有量が0.1〜50mg/kg体重である、請求項3または4に記載する経口組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載する抗酸化剤を含む化粧品組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−254427(P2007−254427A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84243(P2006−84243)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】