説明

抵抗型酸素センサ素子及びその製造方法

【課題】 内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子において、応答時間短縮を実現した酸素分圧検出部を有する抵抗型酸素センサ素子を提供する。
【解決手段】 耐熱性の絶縁基板と、該絶縁基板の一方の主面側に形成された一対の電極と、前記主面側に前記一対の電極に接するように形成された酸素分圧検出膜とを備えた、内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子であって、前記酸素分圧検出膜として、450℃〜900℃において酸素イオン伝導性を有する酸化物粒子と450℃〜900℃において電子伝導性を有する酸化物粒子とを含む多孔質焼結体層を用いることにより、応答時間が短縮された抵抗型酸素センサ素子が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗型酸素センサ素子及びその製造方法に関し、特に、内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気環境の改善及び地球温暖化防止が求められているなか、内燃機関から排出されるNOx等の有害物質を含む排ガスの浄化効率向上や二酸化炭素削減を考慮に入れた低燃費化のため、三元触媒の浄化効率が高く、かつ最適な燃料燃焼が行える理論空燃比近傍での吸入混合気の空気量と燃料量の制御が行われている。
【0003】
理論空燃比は、混合気中の酸素と燃料が過不足なく反応する時の空燃比であり、この理論空燃比を境に、平衡酸素分圧は、燃料過剰(リッチ)領域で急速に低下、燃料希薄(リーン)領域で急増する。したがって、排ガス中の平衡酸素分圧を計測すれば、空燃比を検出することは容易であり、これにより燃料燃焼の最適条件下での空燃比を制御するフィードバックの構築が可能となる。
しかしながら、実際には燃料過剰領域でも非平衡な残留酸素が存在するため、高温或いは触媒の作用により化学平衡状態を達成する必要がある。
【0004】
排ガス中の平衡酸素分圧(約10−22〜10−1atm)を測定する酸素センサ素子として、酸化物半導体層を酸素分圧検出部として用いた抵抗型酸素センサ素子がある。
酸化物半導体は、酸素分圧の変化に応じて抵抗値が変化する特性を有し、この抵抗値変化を測定する事により、酸素分圧を算出できる。ただし、理論空燃比を検出するセンサ素子としては必ずしもすべての酸素分圧変化に対して、抵抗値が線形に応答する必要はなく、理論空燃比を境に十分な抵抗値変化が得られれば良い。
しかしながら、酸化物半導体は抵抗値が酸素分圧だけでなく、温度によっても大きく変化する。特許文献1では、この温度変化を補償するため、温度補償部をセンサ素子に組み込んでいるが、構造及び製造プロセスが複雑化するため好ましいものではない。
【0005】
一方、使用温度範囲でのリッチ領域での酸化物半導体の抵抗値変化域とリーン領域での抵抗値変化域に十分な隔たり(抵抗値ギャップ)が存在すれば、そのギャップに位置する一定の基準固定抵抗を選ぶことにより、基準抵抗よりも抵抗が大きければリーン、基準抵抗よりも小さければリッチというように、全使用温度領域において空燃比を検出することが可能である。
従来、酸化物半導体としては、所望の範囲内(およそ、約10−22〜10−1atm)での酸素分圧変化に応じて、酸化還元反応により酸化物半導体内の平衡酸化物イオン空孔濃度とそれを補償する電子電荷担体の濃度が変化し、電気伝導性を多数電荷担体として移動度の高い電子が主に支配するn型半導体に属するものが用いられてきた。
実際に酸化物半導体を酸素センサ素子として用いるためには、酸化還元反応が十分に平衡に達する高温に加熱する必要があり、また、内燃機関の燃焼においては燃料過剰領域でも非平衡な残留酸素が存在するため、酸化物半導体からなる酸素分圧検出部表面では高温かつ触媒等の補助的作用により化学平衡状態を達成した平衡酸素分圧とする必要がある。
したがって、内燃機関に用いられる酸素センサ素子の半導性酸化物は、高温かつ内燃機関から排出される腐食性ガス雰囲気で高い化学的安定性と耐久性を具備しなければならない。
【0006】
高温(450〜900℃)かつ広い酸素分圧範囲(10−22〜10−1atm)においてn型伝導性が支配的となる酸化物半導体としては、酸化チタン(チタニア)、酸化ニオブ、酸化セリウム(以下、「セリア」又は「CeO」と記す)があり、特に、セリアは高温での化学的安定性、耐久性に優れることから、特許文献1に記載されるように内燃機関用酸素センサ素子の酸化物半導体として適している。
セリアは、特許文献1、2に記載されるように、酸化ジルコニウム(以下、「ジルコニア」又は「ZrO」と記す)や酸化ハフニウム(ハフニア)を添加し、その添加量を調整することにより、抵抗率の低減、リッチ領域からリーン領域へ変化したときの急激な酸素分圧変化に追従する高い応答性、抵抗率の高い経時安定性を実現することが指摘されている。
【0007】
また、酸素分圧変化に対する高い応答性を実現するためには酸化物半導体の酸化還元反応が短時間で平衡状態に達しなければならず、そのためには酸化物半導体と気体の固気界面での高い酸化還元反応速度、酸化物半導体内での速い酸化物イオン空孔拡散による固体内での平衡状態への到達、酸化物半導体への排ガスの速い気体拡散と平衡状態への到達が必要となる。
応答速度を高めるためには酸化物半導体の固気界面、すなわち固体表面(比表面積)を増大させ、酸化還元の反応サイトを増加させる事が有効であり、酸化物半導体粒子同士を高温での焼結により頚部成長(ネッキング)させた多孔質焼結体が多く用いられる。また、特許文献3のように、固体内の酸化物イオン空孔濃度を迅速に平衡状態に到達させるためには空孔拡散距離の観点から多孔質体を構成する粒子の粒径を小さくすることが効果的であり、かつ粒径を小さくすることにより比表面積も増大する。
しかしながら、粒径を過度の小径化を行うと構成粒子の焼結活性が高まり、酸素センサ動作時の熱によりシンタリングが進行してしまい長期安定性に劣るという問題が生じると共に、気体の拡散経路となる細孔径が小さくなり過ぎ、分子拡散ではなくクヌーセン拡散や表面拡散などの機構が支配的となり、気体拡散効率が低下する。
【0008】
一方、従来のn型酸化物半導体のみにより構成される酸素センサ素子の平衡酸素分圧検出部では、酸化還元反応を律速する固体表面での酸化物イオン空孔の生成消滅反応や固体内へ酸化物イオン空孔拡散能を高めるための方法として、例えば特許文献1、2、4には、セリアでは、4価のセリウムイオンと同価数でイオン半径の異なるジルコニア、ハフニウムなどを添加し、蛍石型結晶構造中のセリウム陽イオンサイトを置換することにより、電気伝導性のみならず、酸化物イオン空孔の生成消滅や移動度を改善することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3870261号公報
【特許文献2】特開2007−71855号公報
【特許文献3】特開2003−149189号公報
【特許文献4】特開2009−85944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、例えば特許文献4に記載のように、特許文献1に記載の技術では、車載センサとして実用するには十分な応答性が得られない。
また、特許文献4に記載された技術では、空燃比がリッチからリーンに変化したときの700℃での応答時間は、最も優れた実施例においては70msecであるが、内燃機関から排出される有害物質の低減を鑑みた場合には、更なる応答時間の短縮が必要である。
【0011】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子において、応答時間短縮を実現した酸素分圧検出部を有する抵抗型酸素センサ素子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酸素分圧検出部分に、酸素イオン伝導性を有する酸化物粒子と電子伝導性を有する酸化物粒子とを含む多孔質焼結体層を用いることにより、応答時間の短縮が実現できることを見出した。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
[1]耐熱性の絶縁基板と、
該絶縁基板の一方の主面側に形成された一対の電極と、
前記主面側に前記一対の電極に接するように形成された酸素分圧検出膜と
を備えた、内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子であって、
前記酸素分圧検出膜として、450℃〜900℃において酸素イオン伝導性を有する酸化物粒子と450℃〜900℃において電子伝導性を有する酸化物粒子とを含む多孔質焼結体層を用いることを特徴とする抵抗型酸素センサ素子。
[2]耐熱性の絶縁基板と、
該絶縁基板の一方の主面側に形成された一対の電極と、
前記主面側に前記一対の電極に接するように形成された酸素分圧検出膜と、
を備えた、内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子であって、
前記酸素分圧検出膜として、セリウム含有イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粒子とセリア粒子とを含む多孔質焼結体層を用いることを特徴とする抵抗型酸素センサ素子。
[3]耐熱性の絶縁基板と、
該絶縁基板の一方の主面側に形成された一対の電極と、
前記主面側に前記一対の電極に接するように形成された酸素分圧検出膜と
を備えた、内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子であって、
前記酸素分圧検出膜として、セリウム含有イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粒子とジルコニウム含有セリア粒子とを含む多孔質焼結体層を用いることを特徴とする抵抗型酸素センサ素子。
[4]内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子の製造方法であって、
高純度アルミナ焼結体からなる絶縁基板を準備する工程と、
絶縁基板の一方の主面側に電極材料ペーストを印刷した後焼成して一対の電極を形成する工程と、
一対の電極に接するようにイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末とセリア粉末とを含有する材料ペーストを塗布した後、1000℃以上で焼成して酸素分圧検出膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする抵抗型酸素センサ素子の製造方法。
[5]内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子の製造方法であって、
高純度アルミナ焼結体からなる絶縁基板を準備する工程と、
絶縁基板の一方の主面側に電極材料ペーストを印刷した後焼成して一対の電極を形成する工程と、
一対の電極に接するようにイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末とジルコニウム含有セリア粉末とを含有する材料ペーストを塗布した後、1000℃以上で焼成して酸素分圧検出膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする抵抗型酸素センサ素子の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子において、応答時間の短縮を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の抵抗型酸素センサ素子を模式的に示す分解斜視図である。
【図2】本発明の抵抗型酸素センサ素子の酸素分圧検出部を模式的に示す断面図である。
【図3】従来の抵抗型酸素センサ素子の酸素分圧検出部を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面により、本発明の抵抗型酸素センサ素子について説明する。
図1は、本発明の抵抗型酸素センサ素子を模式的に示す分解斜視図である。
図1に示すとおり、本発明の抵抗型酸素センサ素子は、耐熱性の絶縁基板1と、該絶縁基板1の一方の主面側に形成された一対の電極2と、該絶縁基板1の一方の主面側に前記一対の電極2に接するように形成された酸素分圧検出膜3とを有するものである。
すなわち、本発明の抵抗型酸素センサ素子は、対象となるガスの酸素分圧を計測するための酸素分圧検出部4と、該検出部4を支持する耐熱性の絶縁性基板1を具備し、酸素分圧検出部4は、酸素分圧の変化に応じて電気伝導性が変化する酸素分圧検出膜3とその抵抗変化を検出するための対向電極2から成る。
【0017】
なお、ここでは図示しないが、酸素分圧検出部4上には、触媒層が設けられていることが好ましい。触媒層は、アルミナなどの酸化物粒子に白金などの触媒金属を担持したもので、リッチ領域の未燃焼の非平衡な残留酸素やリーン領域の窒素酸化物等を触媒の作用により化学平衡状態とする。
また、同じく図示しないが、絶縁基板1の裏面側には、酸素分圧検出部を昇温させるためのヒータを設けても良い。ヒータは、抵抗損失を利用して加熱を行う抵抗加熱型の発熱素子である。ヒータから引き延ばされた電極に電圧を印加すると、所定の形状に形成された発熱体に電流が流れて発熱体が発熱し、そのことによって加熱が行われる。熱は、絶縁基板1を介して酸素分圧検出部に伝達される。ヒータによって酸素分圧検出部を昇温させて酸素分圧検出膜3を速やかに活性化させることにより、内燃機関の始動時における検出精度を向上させることができる。
【0018】
耐熱性の絶縁基板1としては、900℃においても高絶縁性を保持し、かつ機械的強度が保たれるものであればよく、酸化アルミナ、酸化マグネシウム、石英などが例示されるが、これらに制限されるものではない。
【0019】
電極2は、導電性を有する材料から形成されており、好ましくは白金を主体とするものであるが、基板との十分な密着性が確保され、酸素分圧に依存しない高い電子伝導性を有し、高温酸素雰囲気下で安定であり、かつ三相界面で酸化物イオン空孔の生成消滅が生じるものであれば選択は任意に可能である。また、対向電極構造としては抵抗値を低減するため、櫛型に形成されていることが好ましい。
【0020】
図2は、本発明の抵抗型酸素センサ素子の酸素分圧検出部4を模式的に示す断面図であり、図3は、従来の抵抗型酸素センサ素子の酸素分圧検出部を模式的に示す断面図である。両図において、点線で示すc及びc´は、電子の移動経路を示す。
従来の抵抗型酸素センサ素子においては、図3に示すように、酸素分圧検出膜3´は、CeO等の電子伝導性を有するn型酸化物半導体粒子a´からなる。
これに対し、本発明の抵抗型酸素センサ素子の酸素分圧検出膜3は、図2に示すように、450℃〜900℃において酸素イオン伝導性を有する酸化物粒子bと、450℃〜900℃において電子伝導性を有する酸化物粒子aとを含む多孔質焼結体層からなり、理論空燃比を境に大きな抵抗値変化を示す。なお、図2において酸素分圧検出膜3における電子伝導性を有する酸化物粒子aおよび酸素イオン伝導性を有する酸化物粒子bを便宜上均一な大きさで示したが、本発明の酸素分圧検出膜はこれに限定するものではない。
【0021】
酸化物粒子は、温度条件等により、酸素イオン伝導性を有するものから電子伝導性を有するものに変化するものや、程度の差があるものの、両性質を有する場合もある。したがって、本発明において、「450℃〜900℃において酸素イオン伝導性を有する」とは、センサの作動温度の範囲である450℃〜900℃で、主として、酸素イオン伝導性を示すことを意味し、「450℃〜900℃において電子伝導性を有する」とは、同450℃〜900℃で、主として、電子伝導性を示すことを意味する。
【0022】
本発明の多孔質焼結体層を構成する粒子径は、酸素イオン伝導性を有する酸化物粒子と電子伝導性を有する酸化物粒子、いずれも、平均粒径が200nm以下であり、好ましくは30〜50nmである。また、細孔径は、10〜100nmに分布をもち、好ましくは細孔径の平均値が100nmである。さらに、細孔容積は、0.1cm/g以上1cm/g以下で、好ましくは約0.5cm/gである。
【0023】
本発明の多孔質焼結体層の電気伝導性は、低酸素分圧のリッチ領域においては、酸素イオン空孔生成による電子電荷担体の生成により電気伝導性が極めて高くなる電子伝導性を有する酸化物(以下、「n型酸化物半導体」ということもある。)粒子が支配し、高酸素分圧のリーン領域においてはn型酸化物半導体粒子と酸素イオン伝導性を有する酸化物(以下、「酸素イオン伝導体」ということもある。)粒子の混合伝導となる。
すなわち、本発明の多孔質混合焼結体においては、酸化還元反応が平衡に達する酸素の拡散経路として、多孔質の細孔だけでなく、高い酸素イオン拡散能をもつ酸素イオン伝導体粒子が機能する。これにより、細孔が潰れ凝集したn型酸化物半導体粒子内にも迅速に酸素供給が行われ、かつn型酸化物半導体粒子の微細化により細孔径が小さくなり、気体の分子拡散が著しく抑制された場合においても酸素イオン伝導体粒子が拡散経路となり、迅速に酸化還元反応が平衡に達する。
【0024】
また、n型酸化物半導体粒子の固気界面での酸化物イオン空孔の生成消滅における比較的高い反応活性化エネルギーは、酸化還元反応の平衡状態までの到達を遅らせるが、n型酸化物半導体粒子と酸素イオン伝導体粒子の固固界面を介した酸素イオンのマイグレーション障壁は極めて低く、この機構によりn型酸化物半導体粒子は容易に平衡に達することができる。また、言うまでもないが、酸素イオン伝導体粒子の酸化還元反応はn型酸化物半導体粒子に先んじて平衡に達する。
なお、n型酸化物半導体粒子内での反応平衡を短時間で達成するためには、粒径を小さくすることが効果的であり、200nm以下である。
【0025】
一方、酸素イオン伝導体においては、所望の酸素分圧範囲で支配的となるイオン伝導性の電荷担体である酸素イオンの移動度は、イオンの移動サイトとなる酸化物イオン空孔濃度に強く依存する。そして、この酸素イオン空孔濃度は酸素分圧変化によって生成消滅する酸素イオン空孔濃度よりも遥かに高いアクセプタ濃度によって規定されるため、その電気伝導度は、酸素分圧に依存しない。また、高い酸素イオン空孔濃度にもかかわらず電子に比べ著しく低い酸素イオン電荷担体の移動度により、電気伝導性は低くなる。
したがって、リッチ領域においては、電子電荷担体の生成により電気伝導性が極めて高くなるn型酸化物半導体粒子が多孔質混合焼結体層の主要伝導経路となり、層全体の電気伝導特性を支配する。
また、リーン領域においてはn型酸化物半導体粒子と酸素イオン伝導体粒子の混合伝導となり、両粒子の割合によりそれぞれの寄与が異なる。
以上から、リッチ領域、リーン領域における電気伝導度は極めて高速に平衡状態に達し、酸素分圧変化に対し電気伝導度が高速に応答することとなる。
【0026】
なお、n型酸化物半導体粒子と酸素イオン伝導体粒子の粒子混合比率は、本発明の内容から自明なように、n型酸化物半導体粒子は電子電荷担体の伝導経路(パーコレーションパス)を確保しなければいけないため、粒径、粒度分布、充填率など様々な要因に依存するため明確な数値は指定できないが、およそ、20%以上の体積分率が必要となる。ただし、セリアを主体とする粒子は凝集傾向が強く、鎖状の凝集形態(ストラクチャー)をとりやすいため、比較的低い体積分率でもパーコレーションパスを形成し易い。
一方、酸素イオン伝導体粒子は酸化還元のための酸素イオンの拡散経路となると共に、リーン領域では酸素イオン電荷担体による電気伝導性への寄与もあるため、パーコレーションパスを形成するためのおよそ20%以上の体積分率が必要となる。
【0027】
多孔質混合焼結体のn型半導性酸化物粒子と酸素イオン伝導体粒子の最も好適な組合せとしては、n型酸化物半導体粒子としてセリアを主体としたものと、酸素イオン伝導体粒子としてアクセプタとして3価をもつイットリウムをジルコニアに置換固溶したイットリア安定化ジルコニア(YSZ)である。
セリアは典型的なn型酸化物半導体として知られているもので、排ガス三元触媒の助触媒として既に多量に生産され、排ガス中の腐食性の高い雰囲気化においても耐久性がある。また、広い酸素分圧範囲において電子が主な電荷担体となるn型半導性を示す。
一方、イットリア安定化ジルコニアは、構造材及び酸素イオン伝導性を有する酸化物として広範に用いられている。また、広い酸素分圧範囲において、酸素イオンが主な電荷担体となる酸素イオン伝導性を示す。
【0028】
本発明のn型酸化物半導体粒子と酸素イオン伝導体粒子からなる多孔質混合焼結体は、各粉体を均一混合し、1000℃以上の高温焼成にて粒子間の物質移動を促進し、多孔質構造を維持するため頚部成長を優先的に行う。
高温焼成は、センサ素子を作製する工程で、クラック等の発生を防止するために1150℃以下でおこなう。多孔質混合焼結体中の粒子の粒径は、焼成温度によりきまるが、1150℃で焼成する場合、平均粒径は200nm以下となる。また、すぐれた特性を引き出すには1050℃で焼成するのが最適であるが、その場合、平均粒径は30〜50nm程度となる。
【0029】
この焼結により酸素分圧検出層の機械的強度を確保する。また、焼結により粒子間の固固界面を増大させ電荷担体の移動をスムーズにすると共に、粒子界面の原子配列を安定構造に再配列、局在不純物を拡散することにより粒界の電荷担体移動のエネルギー障壁を低減する。
焼結時には頚部成長だけを選択的に生じさせることは不可能であり、粒子間の固相拡散は不可避な現象である。したがって、この固相拡散を考慮した組成と材料の選択が重要となる。
【0030】
本発明の好適な組合せであるセリアとイットリア安定化ジルコニアにおいては、それぞれの拡散係数の差異により両物質間の固固界面を介した物質移動は、酸化セリウムからイットリア安定化ジルコニアへの一方的な拡散となる。
この場合、n型酸化物半導体であるセリアには、微量でも電子伝導性を低下させるアクセプタ型のイットリウムの拡散がないため、焼結による特性変動は極めて小さい。一方、酸素イオン伝導性イットリア安定化ジルコニアへのセリウムイオンの拡散も、セリウムイオンとジルコニウムイオンの価数も同じで、かついずれも立方晶蛍石構造が安定相であるため、電気伝導機構などに大きな影響は与えない。
焼結時の若干の拡散を考慮に入れると、最終的な多孔質混合焼結体の微細構造は、n型酸化物半導体であるセリア粒子と拡散したセリアを含有するイットリア安定化ジルコニア粒子から構成される。
このように、本発明では高温での固相拡散の性状を加味した電気伝導特性安定化のための構造設計がなされており、従来の酸化物半導体からのみ構成される抵抗型酸素センサ素子用酸素分圧検出部の技術の発想とは全く異なるものである。
【0031】
多孔質混合焼結体のn型酸化物半導体粒子としては、セリアに限定されるものでなく、所望の制御したい酸素分圧範囲において電子が主要な電荷担体になるものであれば良く、酸化チタニウム、酸化ニオブ、酸化ガリウムなどが用いられる。また、セリアを主体とし、ハフニア、ジルコニアを含むものや、n型伝導性を高めるためにドナーを含有したものも用いられる。
セリアにジルコニアを含むn型酸化物半導体はセリア単体に比べ、電気伝導度も高く、電気伝導の活性化エネルギーも低いため電気伝導度の温度依存性の小さく、更に熱膨張係数もよりイットリア安定化ジルコニアに近づくため熱応力発生が抑えられため、より好ましい。
また、ドナーを含有させたn型酸化物半導体は電子が電荷担体となる酸素分圧領域が高酸素分圧に広がると共に、極低酸素分圧域では電子が多量に導入されるため縮退半導体的な挙動を示し、特に電気伝導度の温度依存性が小さくなるため、内熱機関用の抵抗型酸素センサ素子として好適な特性をもつ。
セリアやジルコニアを含むセリアに対するドナーとしては4価であるセリウム、ジルコニウムイオンより価数の高い、ニオブ、タンタル、バナジウム、モリブデンなどが用いられる。
【0032】
多孔質混合焼結体の酸素イオン伝導体粒子としては、イットリア安定化ジルコニアのみに限定されるものでなく、所望の制御したい酸素分圧範囲において酸素イオンが主要な電荷担体になるものであれば良く、3価以下の価数が安定な酸化カルシウム、酸化マグネシウム、あるいは酸化スカンジウム等の希土類酸化物をドープしたジルコニア、またはイットリア、酸化ガドリニウム、酸化サマリウムをドープしたセリアなどが用いられる。
【0033】
多孔質混合焼結体は、n型酸化物半導体粒子と酸素イオン伝導体粒子とを個別に合成し、それぞれを混合、焼成する事により安定的に製造することができる。
n型酸化物半導体粒子、及び酸素イオン伝導体粒子を製造する方法としては、共沈法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法などが用いられる。
また、セリア−ジルコニア−イットリアの系では必ずしも個別に粉体を合成し、混合、焼成を経る必要はない。例えば、共沈法で同組成のものを合成した場合、各イオンの溶解度の違いから必然的に組成分布を生じ、焼成過程においてセリアジルコニア固溶体のn型酸化物半導体相とセリウム含有のイットリア安定化ジルコニアの酸素イオン伝導性の酸化物相が相分離し、所望の多孔質混合焼結体が得られる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
走査型電子顕微鏡による観察像から一次粒子の大きさを計測し、それぞれの計測値から球体の体積に換算した値の累積の50%に該当する粒子を、測定した粒子の平均一次粒子径としたときの値が40nmのCeO粉末と、有機溶媒にバインダを溶解させたビヒクルとを混合して、固形分15wt%のCeOペーストを調製した。
また、上記同様の方法で測定した一次粒子径が80nmの、8mol%Y安定化ジルコニア粉末(以下「8−YSZ」と記す)を前記と同様のプロセスを経て、固形分15wt%の8−YSZペーストを調製した。
つづいて、後工程で形成させる酸素分圧検出膜中のCeO粒子の体積分率が膜全体を構成する粒子の50vol%となるように、前記CeOペーストと8−YSZペーストとを混練してCeOと8−YSZの混合ペースト(混合ペースト1)を調製した。
アルミナ基板上形成させた一対のくし型電極上に、前記混合ペースト1を用いてスクリーン印刷によって、酸素分圧検出膜を成膜し、1050℃で焼成して抵抗型酸素センサ素子を作製した。なお、酸素分圧検出膜は、焼成前に複数回、印刷を重ねることによって成膜され、焼成後に接触式段差計にて測定した酸素分圧検出膜の平均厚みは、12μmであった。
得られた酸素分圧検出膜のXRDパターンを測定したところ、CeOの立方晶の結晶と、8−YSZにCe4+が5mol%程度固溶した立方晶の結晶とが、2相共存していることが確認された。また、SEM−EDS解析の結果から、この2相が異なる粒子として存在していることが確認された。
【0036】
700℃に制御した管状炉内に、一対の電極上にスポット溶接によって白金線を取り付けた抵抗型酸素センサ素子を設置し、白金線の一端を管状炉から引き出し、引き出した白金線をデジタルマルチメータに接続した。ジルコニア固体電解質からなる、ジルコニア酸素ポンプによって、窒素ガスから酸素を吸引して、酸素分圧を10−21atmに制御した気体を管状炉に導入した。つづいて炉内に導入する気体を、酸素分圧が10−21atmに制御した気体から、0.21atmの酸素分圧をもつ空気に切替え、抵抗型酸素センサ素子の抵抗値変化を10msec間隔で記録した。そのときの抵抗値変化量の90%に到達するまでの時間を90%応答時間と定義し、10sec間隔で測定した抵抗値をプロットしたグラフから90%応答時間を読み取ったところ、抵抗型酸素センサ素子の90%応答時間は40msecであった。
【0037】
(実施例2)
後工程で作製する酸素分圧検出膜におけるCeOの体積分率が65vol%となるように、実施例1で調製したCeOペーストと8−YSZペーストとを混合し、CeOと8−YSZとの混合ペースト(混合ペースト2)を調製した。
アルミナ基板上に白金ペーストを用いてスクリーン印刷によって形成させた、一対のくし型電極上に、前記混合ペースト2を用いてスクリーン印刷によって、酸素分圧検出膜を成膜し、1050℃で焼成して抵抗型酸素センサ素子を作製した。なお、酸素分圧検出膜は、焼成前に複数回、印刷を重ねることによって成膜され、焼成後に接触式段差計にて測定した酸素分圧検出膜の平均厚みは、12μmであった。
得られた酸素分圧検出膜のXRDパターンを測定したところ、CeOの立方晶の結晶と、8−YSZにCe4+が5mol%程度固溶した立方晶の結晶とが、2相共存していることが確認された。また、SEM−EDS解析の結果から、この2相が異なる粒子として存在していることが確認された。
実施例1と同様に、素子温度700℃における、酸素分圧が10−21atmから0.21atmに変化したときの抵抗値変化曲線から、抵抗型酸素センサ素子の90%応答時間を評価したところ、30msecであった。
【0038】
(実施例3)
共沈法によって、20mol%のZr4+をCeOに固溶させたCe0.8Zr0.2の組成を持つ、実施例1と同様の方法で測定した一次粒子径が40nmのジルコニアドープCeO(以下、「80−CZ」と記す)を合成し、実施例1と同様に固形分15wt%の80−CZペーストを調製した。後工程で作製する酸素分圧検出膜における80−CZの体積分率が50vol%となるように、80−CZペーストと実施例1で調製した8−YSZペーストとを混合して、80−CZと8−YSZとの混合ペースト(混合ペースト3)を調製した。
アルミナ基板上に形成させた一対のくし型電極上に、前記混合ペースト3を用いて、スクリーン印刷によって酸素分圧検出膜を形成させた後、1050℃で焼成して抵抗型酸素センサ素子を作製した。酸素分圧検出膜は、複数回印刷を重ねることによって成膜され、焼成後に接触式段差計にて測定した酸素分圧検出膜の平均厚みは、5μmであった。
得られた酸素分圧検出膜のXRDパターンを測定したところ、CeOに20mol%のZr4+が固溶した立方晶の結晶と、8−YSZにCe4+が5mol%程度固溶した立方晶の結晶とが、2相共存していることが確認された。また、SEM−EDS解析の結果から、この2相が異なる粒子として存在していることが確認された。
実施例1と同様、700℃に設定した管状炉内に抵抗型酸素センサ素子を設置して、酸素分圧が10−21atmから0.21atmに変化したときの、抵抗値変化曲線から抵抗型酸素センサ素子の90%応答時間を評価したところ、20msecであった。
【0039】
(実施例4)
Ce0.465Zr0.4650.07という組成をもつ、実施例1と同様の方法で測定した一次粒子径が40nmのCe−Zr−Y系酸化物(以下、「CZY」と記す)を共沈法によって合成した。合成したCZY粉体を、実施例1と同様の工程を経て15wt%のCZYペーストを調製した。
アルミナ基板上に形成させた一対のくし型電極上に、スクリーン印刷によって前記CZYペーストを用いて酸素分圧検出膜を成膜し、1050℃で焼成して抵抗型酸素センサ素子を作製した。酸素分圧検出膜は、複数回印刷を重ねることによって成膜され、焼成後に接触式段差計にて測定した酸素分圧検出膜の平均厚みは、実施例1の場合と同様12μmであった。
得られた酸素分圧検出膜のXRDパターンを測定したところ、CeOにZr4+が20mol%程度固溶した立方晶の結晶と、8mol%Y安定化ジルコニア(8−YSZ)にCe4+が10mol%程度固溶した立方晶の結晶とが、2相共存していることが示された。また、得られた酸素分圧検出膜のSEM−EDS解析の結果、この2相がそれぞれ異なる粒子として存在していることが確認された。
実施例1と同様、700℃に設定した管状炉内に抵抗型酸素センサ素子を設置して、酸素分圧が10−21atmから0.21atmに変化したときの、抵抗値変化曲線から抵抗型酸素センサ素子の90%応答時間を評価したところ、50msecであった。
【0040】
(実施例5)
水熱法によってCeOに0.1mol%のV5+をドープしたV0.001Ce0.999(以下「CV」と記す)を合成した。合成したCV粉体の一次粒子径は、実施例1と同様の測定をした結果、40nmであった。合成したCV粉体を、実施例1と同様の工程を経て、固形分15wt%のCVペーストを調製した。後工程で作製する酸素分圧検出膜におけるCVの体積分率が50vol%となるように、CVペーストと実施例1で調製した8−YSZペーストとを混合して、CVと8−YSZとの混合ペースト(混合ペースト5)を調製した。アルミナ基板上に白金ペーストを用いてスクリーン印刷によって形成させた、一対のくし型電極上に、前記混合ペースト5を用いて、スクリーン印刷によって酸素分圧検出膜を形成させた後、1050℃で焼成して抵抗型酸素センサ素子を作製した。酸素分圧検出膜は、複数回印刷を重ねることによって成膜され、焼成後に接触式段差計にて測定した酸素分圧検出膜の平均厚みは12μmであった。
得られた酸素分圧検出膜のXRDパターンを測定したところ、CeOの立方晶の結晶と、8−YSZにCe4+が5mol%程度固溶した立方晶の結晶とが、2相共存していることが確認された。V5+はCeOに固溶されていると考えられるが、固溶量が0.1mol%であるため、CeOに由来するピークとの差異が見られなかった。また、SEM−EDS解析の結果では、この2相が異なる粒子として存在していることが確認され、微量のVがCeO粒子から検出された。
実施例1と同様、700℃に設定した管状炉内に抵抗型酸素センサ素子を設置して、酸素分圧が10−21atmから0.21atmに変化したときの、抵抗値変化曲線から抵抗型酸素センサ素子の90%応答時間を評価したところ、60msecであった。
【0041】
(実施例6)
0.1mol%のNb5+をCeOにドープした、Nb0.001Ce0.999(以下、「CNb」と記す)を水熱法によって合成した。合成したCNb粉体の一次粒子径は、実施例1と同様の測定を行った結果、40nmであった。
合成した粉体を、実施例1と同様の工程を経て、固形分15wt%のCNbペーストを調製した。後工程で作製する酸素分圧検出膜におけるCNbの体積分率が50vol%となるように、CNbペーストと実施例1で調製した8−YSZペーストとを混合して、CNbと8−YSZとの混合ペースト(混合ペースト6)を調製した。
アルミナ基板上に形成させた一対のくし型電極上に、前記混合ペースト6を用いて、スクリーン印刷によって酸素分圧検出膜を形成させた後、1050℃で焼成し抵抗型酸素センサ素子を作製した。酸素分圧検出膜は、複数回印刷を重ねることによって成膜され、焼成後に接触式段差計にて測定した酸素分圧検出膜の平均厚みは12μmであった。
得られた酸素分圧検出膜のXRDパターンを測定したところ、CeOの立方晶の結晶と、8−YSZにCe4+が5mol%程度固溶した立方晶の結晶とが、2相共存していることが確認された。Nb5+はCeOに固溶されていると考えられるが、固溶量が0.1mol%であるため、CeOに由来するピークとの差異が見られなかった。また、SEM−EDS解析の結果では、この2相が異なる粒子として存在していることが確認され、微量のNbがCeO粒子から検出された。
実施例1と同様、700℃に設定した管状炉内に抵抗型酸素センサ素子を設置して、酸素分圧が10−21atmから0.21atmに変化したときの、抵抗値変化曲線から抵抗型酸素センサ素子の90%応答時間を評価したところ、60msecであった。
【0042】
(比較例1)
実施例1で調製したCeOペーストを用いて、アルミナ基板上に白金ペーストを用いてスクリーン印刷によって形成させた一対のくし型電極上に、スクリーン印刷によって酸素分圧検出膜を成膜し、1050℃で焼成して抵抗型酸素センサ素子を作製した。酸素分圧検出膜は、複数回印刷を重ねることによって成膜され、焼成後に接触式段差計にて測定した酸素分圧検出膜の平均厚みは、12μmであった。
得られた酸素分圧検出膜のXRDパターンを測定したところ、CeOの立方晶の結晶が単相で存在していることが確認された。
実施例1と同様、700℃に設定した管状炉内に抵抗型酸素センサ素子を設置して、酸素分圧が10−21atmから0.21atmに変化したときの、抵抗値変化曲線から抵抗型酸素センサ素子の90%応答時間を評価したところ、250msecであった。
【0043】
(比較例2)
実施例3で調製した80−CZペーストを用いて、アルミナ基板上に白金ペーストを用いてスクリーン印刷によって形成させた一対のくし型電極上に、スクリーン印刷によってガス検出膜を成膜し、1050℃で焼成して抵抗型酸素センサ素子を作製した。酸素分圧検出膜は、複数回印刷を重ねることによって成膜され、焼成後に接触式段差計にて測定した酸素分圧検出膜の平均厚みは、実施例3と同様、5μmであった。
得られた酸素分圧検出膜のXRDパターンを測定したところ、CeOに20mol%程度のZr4+が固溶した立方晶の結晶が単相で存在していることが確認された。
実施例1と同様、700℃に設定した管状炉内に抵抗型酸素センサ素子を設置して、酸素分圧が10−21atmから0.21atmに変化したときの、抵抗値変化曲線から抵抗型酸素センサ素子の90%応答時間を評価したところ、200msecであった。
【0044】
(比較例3)
共沈法によって、50mol%のZr4+をCeOに固溶させたCe0.5Zr0.5の組成を持つ、実施例1と同様の方法で測定した一次粒子径が40nmのジルコニアドープCeO2(以下、「50−CZ」と記す)を合成し、実施例1と同様に固形分15wt%の50−CZペーストを調製した。アルミナ基板上に形成させた一対のくし型電極上に、前記50−CZペーストを用いて、スクリーン印刷によって酸素分圧検出膜を形成させた後、1050℃で焼成して抵抗型酸素センサ素子を作製した。酸素分圧検出膜は、複数回印刷を重ねることによって成膜され、焼成後に接触式段差計にて測定した酸素分圧検出膜の平均厚みは、12μmであった。
得られた酸素分圧検出膜のXRDパターンを測定したところ、CeOに50mol%程度のZr4+が固溶した立方晶の結晶が単相で存在していることが確認された。
実施例1と同様、700℃に設定した管状炉内に抵抗型酸素センサ素子を設置して、酸素分圧が10−21atmから0.21atmに変化したときの、抵抗値変化曲線から抵抗型酸素センサ素子の90%応答時間を評価したところ、80msecであった。
【0045】
以上の実施例1〜6、及び比較例1〜3で得られた結果を、表1、2に記載する。なお、表2は、それぞれのガス検出膜のXRDパターンで測定した結晶相を示す。
【表1】

【0046】
【表2】

【符号の説明】
【0047】
1:耐熱性の絶縁基板
2:電極
3、3´:酸素分圧検出膜
4:酸素分圧検出部
a、a´:電子伝導性を有する酸化物粒子
b:酸素イオン伝導性を有する酸化物粒子
c、c´:電子の移動経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性の絶縁基板と、
該絶縁基板の一方の主面側に形成された一対の電極と、
前記主面側に前記一対の電極に接するように形成された酸素分圧検出膜と
を備えた、内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子であって、
前記酸素分圧検出膜として、450℃〜900℃において酸素イオン伝導性を有する酸化物粒子と450℃〜900℃において電子伝導性を有する酸化物粒子とを含む多孔質焼結体層を用いることを特徴とする抵抗型酸素センサ素子。
【請求項2】
耐熱性の絶縁基板と、
該絶縁基板の一方の主面側に形成された一対の電極と、
前記主面側に前記一対の電極に接するように形成された酸素分圧検出膜と
を備えた、内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子であって、
前記酸素分圧検出膜として、セリウム含有イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粒子とセリア粒子とを含む多孔質焼結体層を用いることを特徴とする抵抗型酸素センサ素子。
【請求項3】
耐熱性の絶縁基板と、
該絶縁基板の一方の主面側に形成された一対の電極と、
前記主面側に前記一対の電極に接するように形成された酸素分圧検出膜と
を備えた、内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子であって、
前記酸素分圧検出膜として、セリウム含有イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粒子とジルコニア含有セリア粒子とを含む多孔質焼結体層を用いることを特徴とする抵抗型酸素センサ素子。
【請求項4】
内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子の製造方法であって、
高純度アルミナ焼結体からなる絶縁基板を準備する工程と、
絶縁基板の一方の主面側に電極材料ペーストを印刷した後焼成して一対の電極を形成する工程と、
一対の電極に接するようにイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末とセリア粉末とを含有する材料ペーストを塗布した後、1000℃以上で焼成して酸素分圧検出膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする抵抗型酸素センサ素子の製造方法。
【請求項5】
内燃機関の空燃比の計測に用いられる抵抗型酸素センサ素子の製造方法であって、
高純度アルミナ焼結体からなる絶縁基板を準備する工程と、
絶縁基板の一方の主面側に電極材料ペーストを印刷した後焼成して一対の電極を形成する工程と、
一対の電極に接するようにイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末とジルコニア含有セリア粉末とを含有する材料ペーストを塗布した後、1000℃以上で焼成して酸素分圧検出膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする抵抗型酸素センサ素子の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−169756(P2011−169756A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34125(P2010−34125)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】