説明

抵抗変化型不揮発性記憶装置

【課題】メモリセルのトランジスタのサイズを最適化可能とした抵抗変化型不揮発性記憶装置を提供する。
【解決手段】下部電極309aと上部電極309cと抵抗変化層309bとからなる抵抗変化素子309と、トランジスタ317とを直列に接続してなるメモリセル300において、トランジスタ317は、ゲート303bと、下部電極309aに電気的に接続されたドレイン又はソース302bと、ソース線SL0に電気的に接続されたソース又はドレイン302aとを有し、ソース線SL0は、互いに平行に配置されかつ1つ以上のビアで接続された複数のレイヤーで形成される配線層305、307からなり、抵抗変化素子309はいずれの配線層305、307よりも半導体基板301からより遠い側に配置され、ビット線BL0は、抵抗変化素子309に対し、半導体基板301からより遠い側に配置され上部電極309cと接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的信号に基づいて可逆的に抵抗値が変化する抵抗変化素子とトランジスタとで構成されたメモリセルを有する抵抗変化型不揮発性記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抵抗変化素子を用いて構成されたメモリセルを有する不揮発性記憶装置の研究開発が進んでいる。抵抗変化素子とは、電気的信号によって抵抗値が可逆的に変化する性質を有し、さらにはこの抵抗値に対応したデータを、不揮発的に記憶することが可能な素子をいう。
【0003】
抵抗変化素子を用いた不揮発性記憶装置として、直交するように配置されたビット線とワード線、ソース線との交点の位置に、MOSトランジスタと抵抗変化素子を直列に接続した、いわゆる1T1R型と呼ばれるメモリセルをマトリックス状にアレイ配置した不揮発性記憶装置が一般的に知られている。
【0004】
特許文献1では、ペロブスカイト型結晶構造の酸化物を抵抗変化素子として用いた1T1R型メモリセルで構成された不揮発性記憶装置が示されている。
【0005】
図28は、その中で示されているメモリセルの断面の模式図である。
【0006】
メモリセル1011は、トランジスタ1006と抵抗変化素子1010とを電気的に直列に接続して形成されている。
【0007】
トランジスタ1006は、半導体基板1001上に作製した第1の拡散層領域であるソース領域1002、第2の拡散層領域であるドレイン領域1003、およびゲート酸化膜1004上に形成されたゲート電極1005からなる。
【0008】
抵抗変化素子1010は、電圧印加によって抵抗値が変化する可変抵抗層1008を、下部電極1007と上部電極1009との間に挟持してなる。
【0009】
ドレイン領域1003と下部電極1007とは電気的に接続されている。
【0010】
上部電極1009は、ビット線1012となる金属配線に接続され、ゲート電極1005はワード線に接続され、ソース領域1002はソース線1013となる金属配線に接続される。
【0011】
ここでは、可変抵抗層1008に用いる材料としては、Pr1−xCaMnO、La1−xCaMnO(PCMO)などが開示されているが、電極材料に関しては特に言及されていない。
【0012】
また、メモリセル1011への書き込み方法については、上部電極1009にVpp、ソース領域1002にVss、ゲート電極に所定の電圧振幅Vwpのパルス電圧を印加すると、低抵抗状態から高抵抗状態に変化し、逆に、上部電極1009にVss、ソース領域1002にVpp、ゲート電極に所定のVweのパルス電圧を印加すると、高抵抗状態から低抵抗状態に変化できることが開示されている。
【0013】
特許文献2では、前述の電気的信号により抵抗変化が生じる抵抗変化素子とは抵抗変化の原理が異なる抵抗変化素子を用いた、1T1R型メモリセルで構成された不揮発性記憶装置が示されている。この記憶装置は、相変化メモリと呼ばれている。
【0014】
相変化メモリでは、カルコゲナイド材料と呼ばれる相変化材料が、結晶状態とアモルファス状態で抵抗が異なることを利用して、データが記憶される。書き換えは相変化材料に電流を流して融点近傍で発熱させることにより、状態を変化させて行う。リセット動作と呼ばれる高抵抗化(アモルファス化)は、比較的高温に保つ制御により行い、セット動作と呼ばれる低抵抗化(結晶化)は、比較的低温に十分な期間保つ制御により行われる。
【0015】
また、相変化メモリではデータの書換えに必要な電流はリセット動作とセット動作で異なり、リセット動作の方が比較的大きな電流が必要とされることが開示されている。
【0016】
図29は、特許文献2に開示される、相変化メモリの断面図である。
【0017】
メモリセル1021は、記憶部1022とNMOSトランジスタ1027とを用いて、1T1R型で構成されている。NMOSトランジスタ1027は、ソースおよびドレインに対応するN型拡散層領域1029およびN型拡散層領域1030、ならびにそれらに挟まれたゲート電極1031からなる。
【0018】
記憶部1022は、相変化素子1024を挟んで、上部側を第2メタル配線層1023、下部側をコンタクトビア1025、第1メタル配線層1026で形成され、NMOSトランジスタ1027のN型拡散層領域1029に繋がる。
【0019】
NMOSトランジスタ1027の反対側のN型拡散層領域1030は、各配線層を介して第3メタル配線層1028に接続される。
【0020】
ここでは第2メタル配線層1023がソース線、第3メタル配線層1028がビット線、NMOSトランジスタ1027のゲート電極1031がワード線に対応している。
【0021】
特許文献2では、相変化メモリ装置においてソース線を制御する機構を取り入れ、セット動作時とリセット動作時で、電流を流す向きを切り替えることが開示されている。
【0022】
比較的大きい電流を流す必要があるリセット動作時には、ソース線を所定のハイレベル、ビット線をロウレベルに設定し、比較的小さい電流で足りるセット動作時には、ビット線を所定のハイレベル、ソース線をロウレベルに設定している。
【0023】
この設定に従って、リセット動作時の電流の向きは、メモリセルのNMOSトランジスタ1027のソース電位(この場合、N型拡散層領域1030の電位に対応)が、半導体基板の電位とほぼ同じロウレベルに維持される方向となる。そのため、いわゆるMOSトランジスタの基板バイアス効果の影響が小さくなるので、トランジスタの駆動能力が高い(大きな電流が得られる)状態で、リセット動作が行われる。
【0024】
他方、セット動作時の電流の向きは、メモリセルのNMOSトランジスタ1027のソース電位(この場合、N型拡散層領域1029の電位に対応)が、NMOSトランジスタ1027のオン抵抗値と相変化素子1024の抵抗値との分圧関係で決まる電圧値に上昇する方向となる。そのため、いわゆるMOSトランジスタの基板バイアス効果の影響が大きくなり、トランジスタを流れる電流が比較的小さく抑えられる状態で、セット動作が行われる。
【0025】
この構成により、セット動作およびリセット動作のそれぞれに適した大きさの電流を区別して与えることが容易になり、それぞれの動作結果が安定的に得られるようになる。
【0026】
ところで、一般に、高密度なメモリセルアレイを構成するためには、メモリセルをできるだけ小面積で形成する必要があり、そのためにはメモリセルの構成要素である抵抗変化素子とともに、トランジスタをできるだけ小面積に形成することが重要である。
【0027】
トランジスタを小面積に形成するためには、トランジスタのゲート長Lをできるだけ短く構成すること、およびトランジスタのゲート幅Wをできるだけ無駄なく最小の幅で構成することが有効である。
【0028】
このことを、特許文献1に開示される不揮発性記憶装置に当てはめて考えてみる。
【0029】
特許文献1によれば、図28に示される不揮発性記憶装置において、メモリセル1011の低抵抗状態から高抵抗状態への変化(高抵抗化)は、下部電極1007に対し上部電極1009に正電圧を印加すること、つまり、ビット線1012をVpp、ソース線1013を0Vに設定することで行われる。
【0030】
このとき、トランジスタ1006の第1の拡散層領域であるソース領域1002(この場合、ソース領域1002がトランジスタ1006のソースとして機能する)の電位は、半導体基板1001の電位とほぼ同じ0Vとなり、トランジスタ1006に生じる基板バイアス効果は小さく抑えられる。
【0031】
他方、メモリセル1011の高抵抗状態から低抵抗状態への変化(低抵抗化)は、ビット線1012を0V、ソース線をVppに設定することで行われる。
【0032】
このとき、第2の拡散層領域であるドレイン領域1003(この場合、ドレイン領域1003がトランジスタ1006のソースとして機能する)の電位は、抵抗変化素子1010の抵抗値とトランジスタ1006のオン抵抗との分圧で決まる電圧に上昇し、トランジスタ1006に生じる基板バイアス効果は、高抵抗化の場合と比べて大きくなる。
【0033】
このように、低抵抗化と比べてより大きな電流を必要とする高抵抗化を、トランジスタに生じる基板バイアス効果がより小さくなる方向の電流によって行うことは、トランジスタの駆動能力に無駄な余裕を持たせる必要がなくなり、メモリセルのトランジスタを最適な寸法で構成する上で合理的である。
【0034】
なお、特許文献2に開示される半導体装置においても、より大きな電流を必要とするリセット動作を、トランジスタに生じる基板バイアス効果がより小さくなる方向の電流によって行う点で、同様の考え方が取り入れられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特開2005−25914号公報(図2)
【特許文献2】特開2005−267837号公報(図7、図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
本願発明者らは、抵抗変化型不揮発性記憶装置の1つとして、遷移金属の酸素不足型の酸化物を抵抗変化層とする1T1R型メモリセルで構成された抵抗変化型不揮発性記憶装置を検討している。
【0037】
ここで、酸素不足型の酸化物とは、酸素が化学量論的組成から不足した酸化物をいう。遷移金属の1つであるTa(タンタル)の例で言えば、化学量論的な組成を有する酸化物としてTaがある。このTaでは、O(酸素)がタンタルの2.5倍含まれており、酸素含有率で表現すると、71.4%である。この酸素含有率71.4%よりも酸素含有率が低くなった状態の酸化物、すなわちTaOと表現したとき、0<x<2.5を満足する非化学量論的な組成を有するタンタル酸化物を、酸素不足型のタンタル酸化物と呼ぶ。
【0038】
課題を説明するための準備として、酸素不足型のタンタル酸化物を抵抗変化層とする抵抗変化素子について、測定で得られたいくつかの特性を説明する。
【0039】
図1は、測定に用いた抵抗変化素子の基本構造を示す模式図である。抵抗変化層3302に酸素不足型のタンタル酸化物を用い、これをPt(白金)からなる下部電極3301と、同じくPtからなる上部電極3303でサンドイッチしたような上下対称な構造とした。
【0040】
以下、この不揮発性素子を素子Aと呼ぶ。なお、素子の名称と電極材料の関係は、実施の形態で説明する素子も含めて、表1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
図2は、この素子Aの抵抗変化の様子の一例を示す電流−電圧のヒステリシス特性を示すグラフであり、下部電極3301を基準にしたときの上部電極3303の電圧を横軸に表し、素子Aに流れる電流値を縦軸に表している。
【0043】
図2において、下部電極3301を基準に上部電極3303に正電圧を印加していくと、電流はほぼ電圧に比例して増加し、A点で示す正電圧を超えると急激に電流は減少する。すなわち低抵抗状態から高抵抗状態へ変化(高抵抗化)している様子を示している。
【0044】
一方、高抵抗状態において、下部電極3301を基準に上部電極3303に負電圧(上部電極3303を基準に下部電極3301に正電圧を印加することと等価)を印加していくと、B点で示す負電圧を超えると急激に電流は増加する。すなわち高抵抗状態から低抵抗状態へ変化(低抵抗化)している様子を示している。
【0045】
図2の特性を示す抵抗変化素子と、特許文献1に開示される抵抗変化素子とは、抵抗変化層の材料は異なるものの、いずれも、双方向的な印加電圧によって高抵抗状態と低抵抗状態が切り換わる、いわゆるバイポーラ動作をし、かつ、下部電極に対し上部電極へ、正電圧の印加で高抵抗化し、負電圧の印加で低抵抗化するという点で共通している。
【0046】
また、図2の特性は、高抵抗化はA点を通過して初めて起こり、低抵抗化はB点を通過して起こることを示している。この特性から、本発明に係る抵抗変化素子の高抵抗化には、低抵抗化に比べて、より大きな電流が必要とされることが分かる。
【0047】
前述したように、より多くの電流が必要な高抵抗化を、メモリセルを構成するトランジスタに生じる基板バイアス効果が小さくなる極性の電圧印加にて行い、より小さい電流で足りる低抵抗化を、その逆極性の電圧印加にて行うことが、メモリセルのトランジスタを最適な寸法で構成する上で合理的である。
【0048】
しかしながら、本願発明者らは、検討を進める中で、1つの方向の抵抗変化(低抵抗化または高抵抗化)を安定的に生ぜしめる電圧印加方向(駆動極性)は必ずしも一様ではなく、上下電極にPtを用い、抵抗変化層に酸素不足型のタンタル酸化物を用いて同一材料で作製した抵抗変化素子の中でも、駆動極性が異なるものがあることを見出した。
【0049】
例えば、ある抵抗変化素子は、下部電極3301よりも上部電極3303が高い電圧を正として、上下の電極間に+2.0V、100nsのパルス電圧を印加することで低抵抗化し、−2.6V、100nsのパルス電圧を印加することで高抵抗化することが確認された。
【0050】
また、他の抵抗変化素子は、下部電極3301よりも上部電極3303が高い電圧を正として、上下の電極間に−2.0V、100nsのパルス電圧を印加することで低抵抗化し、+2.7V、100nsのパルス電圧を印加することで高抵抗化することが確認された。
【0051】
図3(a)、図3(b)は、これらの抵抗変化素子について、低抵抗化を引き起こすパルス電圧と高抵抗化を引き起こすパルス電圧とを交互に印加し続けたときの、その都度の抵抗値を表したグラフである。横軸は加えた電気的なパルスの数を表し、縦軸は抵抗値を表している。
【0052】
図3(a)に示されるように、ある抵抗変化素子は、最初、約33kΩの高抵抗状態にあり、+2.0Vのパルス電圧の印加で約500Ωの低抵抗状態に変化し、次に−2.6Vのパルス電圧の印加で約40kΩの高抵抗状態に変化した後、下部電極3301に対し上部電極3303に正のパルス電圧の印加による低抵抗化と、下部電極3301に対し上部電極3303に負のパルス電圧の印加による高抵抗化とを繰り返す。
【0053】
この抵抗変化の方向と印加電圧の極性との関係を、便宜的にAモードと呼ぶ。
【0054】
図3(b)に示されるように、他の抵抗変化素子は、最初、約42kΩの高抵抗状態にあり、−2.0Vのパルス電圧の印加で約600Ωの低抵抗状態に変化し、次に+2.7Vのパルス電圧の印加で約40kΩの高抵抗状態に変化した後、下部電極3301に対し上部電極3303に負のパルス電圧の印加による低抵抗化と、下部電極3301に対し上部電極3303に正のパルス電圧の印加による高抵抗化とを繰り返す。
【0055】
この抵抗変化の方向と印加電圧の極性との関係を、便宜的にBモードと呼ぶ。図2に示した電圧−電流ヒステリシス特性は、このBモードに対応している。
【0056】
なお、上述のパルス電圧値は、パルス発生器の設定出力電圧値を指しており、抵抗変化素子の両端間に印加されている実効的な電圧値は、測定系を通じた電圧降下のためこれより小さな電圧値と考えられる。
【0057】
このような結果が得られた素子Aにおいて、上部電極3303と下部電極3301はいずれもPtからなり、それらに挟まれた酸素不足型のタンタル酸化物からなる抵抗変化層3302は、電極に対して電気的には上下対称な関係である。
【0058】
このため、抵抗変化特性としてAモードおよびBモードのいずれが出現するかは必ずしも自明ではなく、経験則や実証的な測定結果に基づいていた。そしてこれらの現象は、抵抗変化のメカニズムにおいて解明されていない何らかの異方性要因により定まっていると予想される。
【0059】
AモードおよびBモードが不定に出現する場合、1T1R型のメモリ装置を構成する上で、次の課題が考えられる。
【0060】
第1の課題は、トランジスタのサイズを最適化できないことである。
【0061】
抵抗変化特性をAモードおよびBモードのいずれか一方に限定できるのであれば、従来より知られている考え方に従い、基板バイアス効果の小さい条件でトランジスタが動作するとして、高抵抗化に必要な電流を駆動できる最小限のサイズでトランジスタを構成することができる。
【0062】
しかし、モードが不定であれば、基板バイアス効果の大きい条件でトランジスタが動作することも考慮して、高抵抗化に必要な電流を駆動できる余裕のあるサイズでトランジスタを構成しておく必要がある。そのため、モードを限定できる場合に比べ、トランジスタのゲート幅Wをより広く構成しておく必要があり、メモリセルサイズの縮小化の大きな弊害となり、好ましくない。
【0063】
第2の課題は、抵抗変化特性のモードを識別する情報を管理する必要が生じることである。
【0064】
モードが不定であれば、抵抗状態を変化させるために印加する電圧の極性と、電圧印加後に読み出される抵抗状態(高抵抗状態および低抵抗状態のいずれか)との対応が不定であるから、抵抗変化素子を実際的に記憶素子として使用するためには、モードを識別する情報が必須となる。
【0065】
例えば、ロットやスライスの単位で同じモードが出現する場合は、チップ内に管理用の記憶素子を設け、製造段階で、その管理用の記憶素子に、抵抗変化素子がAモードおよびBモードのいずれで抵抗変化するかを示す識別情報を記録しておき、利用段階で、その識別情報に応じて、書き込み動作において印加電圧の極性を反転するか、または読み出し動作において出力データの極性を反転する。
【0066】
そうすれば、抵抗変化素子を実際的に記憶素子として使用することができると考えられるが、回路構成や制御方法が複雑になり、好ましくない。さらには、もう少し細かな単位、例えばメモリセルの単位で異なるモードが出現する場合は、メモリセルごとに管理用の記憶素子を設けてモードの識別情報を記録することは、実際的には不可能である。
【0067】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、抵抗変化素子を用いた1T1R型の不揮発性記憶装置について、抵抗変化素子の抵抗変化特性のAモードおよびBモードの出現を制御可能とし、最適なトランジスタ寸法でメモリセルの設計を可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0068】
上記の課題を解決するために、本発明の不揮発性記憶装置は、半導体基板と、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在させ、前記第1電極と前記第2電極と接するように設けられており、前記第1電極と前記第2電極間に与えられる極性の異なる電気的信号に基づいて可逆的に抵抗値が変化する抵抗変化層からなる不揮発性記憶素子と、前記半導体基板の主面に形成されたMOSトランジスタと、を備え、前記第1電極が前記第2電極よりも前記半導体基板の主面により近い下部電極として配置され、前記第2電極が前記第1電極よりも前記半導体基板の主面からより遠い上部電極として配置され、前記メモリセルにおいて、前記MOSトランジスタは、ワード線に接続されたゲートと、前記下部電極に電気的に接続されたドレイン及びソースの一方と、ソース線に電気的に接続された前記ドレイン及び前記ソースの他方と、を有し、前記ソース線は互いに平行に配置され、かつ1つ以上のビアで接続された複数のレイヤーで形成される配線層からなり、前記不揮発性記憶素子は、前記複数のレイヤーの配線層で形成される前記ソース線の複数のレイヤーの何れの配線層よりも前記半導体基板の主面からより遠い側に配置され、前記ビット線は、当該不揮発性記憶素子に対して、前記半導体基板の主面からより遠い側に配置されて前記不揮発性記憶素子の前記上部電極と接続される。
【発明の効果】
【0069】
本発明の不揮発性記憶装置によると、抵抗変化層に抵抗変化を起こさせにくい電極材料である第1電極と抵抗変化層に抵抗変化を起こさせやすい電極材料である第2電極とで抵抗変化層を挟んでなる抵抗変化型の不揮発性記憶素子を用いてメモリセルを構成するので、各メモリセルにおいて、第1電極を基準にして第2電極に正の電圧を印加することで高抵抗化し、第2電極を基準にして第1電極に正の電圧を印加することで低抵抗化するように、抵抗変化のための電圧印加方向(駆動極性)を一義的に決定できる。
【0070】
一般的に、抵抗変化素子を高抵抗化させる場合、低抵抗化させる場合と比べて、低い抵抗値の状態にある抵抗変化素子に抵抗変化を起こすだけの電圧を発生させるために、より多くの駆動電流が必要となる。
【0071】
そこで、前記抵抗変化素子とN型MOSトランジスタとでメモリセルを構成する場合、前記抵抗変化素子の第1電極とN型MOSトランジスタの第1のN型拡散層領域とを接続する。この接続により、前記抵抗変化素子を高抵抗化する場合、N型MOSトランジスタの第2のN型拡散層領域を接地し、N型MOSトランジスタに基板バイアス効果が生じにくい接地バイアスにて、前記抵抗変化素子に駆動電流を供給することができる。
【0072】
また、前記抵抗変化素子とP型MOSトランジスタとでメモリセルを構成する場合、前記抵抗変化素子の第2電極とP型MOSトランジスタの第1のP型拡散層領域とを接続する。この接続により、前記抵抗変化素子を高抵抗化する場合、P型MOSトランジスタの第2のN型拡散層領域を電源に接続し、P型MOSトランジスタに基板バイアス効果が生じにくい電源バイアスにて、前記抵抗変化素子に駆動電流を供給することができる。
【0073】
その結果、基板バイアス効果の大きい条件でトランジスタが動作することも考慮して、高抵抗化に必要な電流を駆動できる余裕のあるサイズでトランジスタを構成しておく必要がなくなり、最適なトランジスタ寸法でメモリセルの設計が可能となる。
【0074】
さらには、抵抗変化現象は抵抗変化層と電極材料との間の相互作用であり、抵抗変化材料だけではなく、特定の電極材料との組合せが重要となる。例えば電極として、PtやIr(イリジウム)などの比較的高価な材料と組み合わせる場合、一方の電極だけに使用し、他方の電極はW(タングステン)などのできるだけ安価な材料で構成できることが望ましい。そのような場合において、どちら側の電極とトランジスタを接続するのが有効かを確実に決定することができる。
【0075】
すなわち、1T1R型メモリセルを用いた抵抗変化型の不揮発性記憶装置を、小さなレイアウト面積で実現し、集積度の向上ならびにコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の基本構造を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗変化における電流−電圧のヒステリシス特性の一例を示す図である。
【図3】図3(a)、図3(b)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗値と電気パルス印加回数との関係の一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子のタンタル酸化物層の組成の解析結果を示す図である。
【図5】図5は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の構成を示す断面図である。
【図6】図6(a)、図6(b)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗値と電気パルス印加回数との関係を示す図である。
【図7】図7(a)、図7(b)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗値と電気パルス印加回数との関係を示す図である。
【図8】図8(a)、図8(b)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗値と電気パルス印加回数との関係を示す図である。
【図9】図9(a)、図9(b)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗値と電気パルス印加回数との関係を示す図である。
【図10】図10(a)、図10(b)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗値と電気パルス印加回数との関係を示す図である。
【図11】図11(a)、図11(b)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗値と電気パルス印加回数との関係を示す図である。
【図12】図12は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗値と電気パルス印加回数との関係を示す図である。
【図13】図13(a)〜図13(h)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗値と電気パルス印加回数との関係を示す図である。
【図14】図14は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の電極材料種と標準電極電位の関係を示す図である。
【図15】図15(a)、図15(b)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の動作を説明するための断面模式図である。
【図16】図16(a)、図16(b)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の動作を説明するための断面模式図である。
【図17】図17は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子のハフニウム酸化物層の組成の解析結果を示す図である。
【図18】図18(a)、図18(b)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗値と電気パルス印加回数との関係を示す図である。
【図19】図19(a)〜図19(g)は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の抵抗値と電気パルス印加回数との関係を示す図である。
【図20】図20は、本発明の基礎データとしての不揮発性記憶素子の電極材料種と標準電極電位の関係を示す図である。
【図21】図21は、本発明の実施の形態に係る抵抗変化型不揮発性記憶装置の構成図である。
【図22】図22は、本発明の実施の形態に係る抵抗変化型不揮発性記憶装置のメモリセル部の構成の一例を示す断面図である。
【図23】図23(a)〜図23(c)は、本発明の実施の形態に係る抵抗変化型不揮発性記憶装置の動作タイミングチャートである。
【図24】図24は、本発明の実施の形態に係る抵抗変化型不揮発性記憶装置のメモリセル特性のシミュレーション図である。
【図25】図25(a)〜図25(f)は、本発明の実施の形態に係るメモリセルの回路構成を示す回路図である。
【図26】図26(a)〜図26(f)は、本発明の実施の形態に係るメモリセルを実現するための抵抗変化素子とトランジスタとの接続関係を示す図である。
【図27】図27は、本発明の実施の形態に係る抵抗変化型不揮発性記憶装置のメモリセル部の構成の一例を示す断面図である。
【図28】図28は、従来の抵抗変化型不揮発性記憶装置のメモリセルの断面模式図である。
【図29】図29は、従来の相変化メモリを用いた半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0077】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0078】
本発明の実施の形態における抵抗変化型不揮発性記憶装置は、抵抗変化素子とMOSトランジスタとを直列に接続してなる1T1R型の不揮発性記憶装置であって、抵抗変化素子の抵抗変化特性のモードを固定するとともに、固定されるモードに応じてMOSトランジスタの構成を最適化するものである。
【0079】
[本発明の基礎データ]
準備として、本発明の抵抗変化型不揮発性記憶装置に用いられる2種類の抵抗変化素子に関する基礎的なデータを説明する。
【0080】
これらの抵抗変化素子は、異種の材料からなる上下の電極で、それぞれ酸素不足型のタンタル酸化物からなる抵抗変化層、および酸素不足型のハフニウム酸化物からなる抵抗変化層を挟んで構成される。
【0081】
これらの抵抗変化素子は、可逆的に安定した書き換え特性を有する、抵抗変化現象を利用した不揮発性記憶素子を得ることを目的として本願発明者らにより発明されたものであり、それぞれ関連特許出願である特願2007−267583号、および特願2008−121947号(特許文献)で詳細に説明されている。
【0082】
これらの抵抗変化素子が有している、抵抗変化特性を前述のAモードおよびBモードのいずれか意図した一方に固定できるという特徴を、本発明の抵抗変化型不揮発性記憶装置に利用する。以下では説明のために、前記関連特許出願の内容の一部を引用する。
【0083】
なお、本明細書において、「抵抗変化素子」と「抵抗変化型の不揮発性記憶素子(または、短く、不揮発性記憶素子)」とを同義で用いる。
【0084】
[抵抗変化層に酸素不足型のタンタル酸化物を用いた抵抗変化素子]
まず、酸素不足型のタンタル酸化物を使ったバイポーラ動作する抵抗変化型の不揮発性記憶素子に関する第1の実験について説明する。
【0085】
第1の実験では、酸素不足型のタンタル酸化物を使ったバイポーラ動作する抵抗変化型の不揮発性記憶素子を、上下のどちらかの電極近傍でのみ抵抗変化が起こりやすく構成することによって、可逆的に安定した書き換え特性が得られるかを検証した。
【0086】
この検証のため、抵抗変化の起きやすさが電極の材料種によって変化すると想定して、異種材料の上下電極で酸素不足型のタンタル酸化物を挟んだ構造の抵抗変化素子を作製し、抵抗変化特性を測定した。
【0087】
以下では、第1の実験の結果について説明する。
【0088】
なお、この検証結果を説明する前に、酸素不足型のタンタル酸化物層の形成方法や、酸素含有率の好適な範囲を説明する。
【0089】
その後、抵抗変化の起こりやすさが電極材料に依存するかどうかの確認を行うため、Pt、W、Ta、TaN(チッ化タンタル)からなる電極でTaO層を挟んだ構造を形成し、電気パルスによる抵抗変化現象の様子を調べた結果について述べる。
【0090】
そして最後に、動作しやすい電極材料と動作しにくい電極材料で酸素不足型のタンタル酸化物層を挟み込んだ構造の抵抗変化素子の抵抗変化の測定結果について述べる。
【0091】
[スパッタリング時の酸素流量比とタンタル酸化物層の酸素含有率との関係]
まず、第1の実験における酸素不足型のタンタル酸化物層の作製条件及び酸素含有率の解析結果について述べる。
【0092】
酸素不足型のタンタル酸化物層は、Taターゲットをアルゴン(Ar)ガスとO(酸素)ガス雰囲気中でスパッタリングする、いわゆる、反応性スパッタリングで作製した。
【0093】
第1の実験での具体的な酸素不足型のタンタル酸化物層の作製方法は次の通りである。
【0094】
まずスパッタリング装置内に基板を設置し、スパッタリング装置内を7×10−4Pa程度まで真空引きする。Taをターゲットとして、パワーを250W、ArガスとOガスとをあわせた全ガス圧力を3.3Pa、基板の設定温度を30℃にし、スパッタリングを行った。ここでは、Arガスに対するOガスの流量比を0.8%から6.7%まで変化させた。
【0095】
まずは、組成を調べる事が目的であるため、基板としては、シリコン(Si)上にSiOを200nm堆積したものを用い、タンタル酸化物層の膜厚は約100nmになるようにスパッタリング時間を調整した。
【0096】
このようにして作製したタンタル酸化物層の組成をラザフォード後方散乱法(RBS法)、及びオージェ電子分光法(AES法)によって解析した結果を図4に示す。
【0097】
この図から、酸素分圧比を0.8%から6.7%に変化させた場合、タンタル酸化物層中の酸素含有率は約35at%(TaO0.66)から約70at%(TaO2.3)へと変化していることが分かる。
【0098】
以上の結果より、タンタル酸化物層中の酸素含有率を酸素流量比によって制御可能である事と、タンタルの化学量論的な酸化物であるTa(TaO2.5)の酸素含有率71.4at%よりも酸素が不足している、酸素不足型のタンタル酸化物層が形成されている事が明らかとなった。
【0099】
なお、第1の実験では、タンタル酸化物層の解析にラザフォード後方散乱法(RBS)及びオージェ電子分光法(AES)を利用したが、蛍光X線分析法(XPS)や電子線マイクロアナリシス法(EPMA)等の機器分析手法も利用可能である。
【0100】
[酸素不足型のタンタル酸化物層の組成と抵抗変化特性]
以上のように作製した酸素不足型のタンタル酸化物層のうち、どの程度の酸素含有率を有する酸素不足型のタンタル酸化物層が抵抗変化を示すのかを調べた。ここで酸素不足型のタンタル酸化物層を挟む電極の材料として用いたのは、上下の電極ともにPtである。
【0101】
上下にPtを用いた場合は、上述のように、バイポーラ型の抵抗変化型の不揮発性素子としては不適当である。しかしながら、Ptは後述するように、抵抗変化を非常に示しやすい電極材料であり、ある酸素含有率を有する酸素不足型のタンタル酸化物層が抵抗変化を示すか否かの判定を行うには最も好適な材料である。
【0102】
以上のような理由から、図5のような不揮発性記憶素子500を形成した。
【0103】
すなわち、単結晶シリコン基板501上に、厚さ200nmの酸化物層502を熱酸化法により形成し、下部電極503としての厚さ100nmのPt薄膜を、スパッタリング法により酸化物層502上に形成した。
【0104】
その後、Taをターゲットとして、反応性スパッタリングによって酸素不足型のタンタル酸化物層504を形成した。第1の実験で検討した範囲では、上記の分析試料と同様に、Oガスの流量比を、0.8%から6.7%まで変化させて不揮発性記憶素子を作製した。酸素不足型のタンタル酸化物層504の膜厚は30nmとした。
【0105】
その後、酸素不足型のタンタル酸化物層504の上に、上部電極505としての厚さ150nmのPt薄膜をスパッタ法により堆積した。
【0106】
最後にフォトリソグラフィー工程とドライエッチング工程によって、素子領域506を形成した。なお、素子領域506は、直径が3μmの円形パターンである。
【0107】
以上のように作製した不揮発性記憶素子の抵抗変化現象を測定した。その結果、図4のα点(酸素流量比約1.7%、酸素含有率約45at%)からβ点(酸素流量比約5%、酸素含有率約65at%)のタンタル酸化膜を使った不揮発性記憶素子では、高抵抗値が低抵抗値の5倍以上と良好であった。
【0108】
図6(a)、図6(b)は、それぞれ、α点およびβ点の酸素含有率を有するタンタル酸化物層を使った不揮発性記憶素子についてのパルス印加回数に対する抵抗変化特性を測定した結果である。
【0109】
図6(a)、図6(b)によれば、α点およびβ点の酸素含有率を有するタンタル酸化物層を使った素子では、共に、高抵抗値が低抵抗値の5倍以上と良好であることが判る。
【0110】
従って、酸素含有率が45〜65at%の組成範囲、即ち抵抗変化層をTaOと表記した場合におけるxの範囲が0.8≦x≦1.9の範囲がより適切な抵抗変化層の範囲であると言える(酸素含有率=45at%がx=0.8に、酸素含有率=65at%がx=1.9にそれぞれ対応)。
【0111】
[W、Ta、TaNを上下の電極材料に用いた抵抗変化素子の抵抗変化特性]
次に、抵抗変化の起こりやすさが、電極材料に依存するかどうかの確認を行うため、Pt以外の材料として、W、Ta、TaNから成る下部電極503と上部電極505で酸素不足型のタンタル酸化物層504を挟んだ構造を作製し、電気パルスによる抵抗変化の様子を調べた結果について説明する。
【0112】
なお、ここでも抵抗変化の起こりやすさだけを評価する目的で実験を行ったので、上下の電極材料は同一とした。また、使用した酸素不足型のタンタル酸化物の酸素含有率は、好適な酸素含有率の範囲のほぼ中間の58at%(TaO1.38)とした。素子の形成方法は上記とほぼ同じであり、Pt、W、Ta、TaNのいずれもスパッタリング法によって堆積した。
【0113】
まず、比較のため、下部電極503と上部電極505のいずれもPtからなる薄膜により形成した不揮発性記憶素子(以下、素子Bと表す)の抵抗変化特性について述べる。
【0114】
図7(a)、図7(b)は、このようにして作製した素子Bの電気パルスによる抵抗変化の測定結果である。
【0115】
図7(a)は、下部電極503と上部電極505の間には、パルス幅が100nsecで、下部電極503を基準として上部電極505に+3.0Vと−1.5Vの電圧を有する電気的パルスを交互に印加した時の抵抗の測定結果である。
【0116】
この場合、+3.0Vの電圧の電気パルスを印加する事で抵抗値は800〜1000Ω
程度となり、−1.5Vの電圧の電気パルスを印加した場合は、150Ω程度と変化して
いた。すなわち、上部電極505に下部電極503よりも高い電圧の電気パルスを加えた時に高抵抗化する変化を示した。
【0117】
また、詳細は省略するが、追加的な実験から、このときの抵抗変化は上部電極505の近傍で生じていることを推認する結果が得られた。
【0118】
次に、印加する電圧のバランスを変化させ、負の電圧を大きくした場合の結果が図7(b)である。この場合、下部電極503に対して上部電極505に−3.0Vと+1.5Vの電圧の電気的パルスを印加した。すると、−3.0Vの電気パルスを印加した時に、高抵抗化し、抵抗値は600〜800Ω程度となり、+1.5Vの電気パルスを印加した時
に低抵抗化して、抵抗値は150Ω程度となっている。すなわち、上部電極505に下部電極503よりも高い電圧の電気パルスを加えた時に低抵抗化しており、図7(a)を測定した時と、正反対の動作を示した。
【0119】
また、詳細は省略するが、追加的な実験から、このときの抵抗変化は下部電極503の近傍で生じていることを推認する結果が得られた。
【0120】
次に、下部電極503と上部電極505のいずれもWからなる薄膜により形成した不揮発性記憶素子(以下、素子Cと表す)の抵抗変化特性について述べる。
【0121】
図8(a)、図8(b)は、このようにして作製した素子Cの電気パルスによる抵抗変化の測定結果である。
【0122】
図8(a)は、上部電極505の近傍での抵抗変化を起こさせる(上部電極モード)事を目的に、下部電極503を基準にして上部電極505に+7Vと、−5Vを交互に印加した時の抵抗値の変化を示す。上部電極モードは、下部電極を基準として上部電極に正電圧を印加することで高抵抗化を起こすモードであり、前述のBモードに対応する。
【0123】
図8(a)から分かるように、パルス数が30回程度まででは、弱いながらも、Bモードでの抵抗変化が観測されており、+7Vの電気パルスを印加した時に高抵抗化し、−5Vの電気パルスを印加した時に低抵抗化している。しかしながら、パルス数が30回を超えると、抵抗変化がほとんど観測されなくなっている。
【0124】
逆に下部電極503の近傍での抵抗変化を起こさせる(下部電極モード)事を目的に、上部電極505に+5Vと、−7Vを交互に印加した時の抵抗値の変化を図8(b)に示す。下部電極モードは、上部電極を基準として下部電極に正電圧を印加することで高抵抗化を起こすモードであり、前述のAモードに対応する。
【0125】
図8(b)から分かるように、この場合はほとんど抵抗値の変化は観測されておらず、抵抗値は30Ω程度で一定の値になっている。
【0126】
ここで図7(a)の上下の電極をPtで形成した素子Bの結果と図8(a)の結果を比較すると、Wを電極に使用した時、明らかに抵抗変化が起こりにくくなっているのが分かる。
【0127】
素子Bの測定結果である図7(a)では、低抵抗状態の抵抗値は150Ω、高抵抗状態の抵抗値は約1000Ωと、比率にして7倍程度の変化をしているのに対し、Wを電極材料に使用した素子Cの測定結果である図8(a)では、大きく抵抗変化している範囲でも、高々、50Ωと100Ωの間で抵抗変化が起こっているだけであり、比率としては、2倍程度の変化をしているだけである。
【0128】
印加している電圧も、図7(a)の測定時は、+3.0Vと−1.5Vであるのに対し、図8(a)では、+7Vと−5Vと非常に高い電圧を印加しているにも関わらず、ほとんど抵抗変化が見られていない。
【0129】
以上のように、Wを電極に使用した場合、電極にPtを使用した場合に比べて、明らかに抵抗変化が起こりにくい事がわかる。
【0130】
以上の結果は、酸素不足型のタンタル酸化物を抵抗変化層に用いた抵抗変化素子の動作は、使用する電極の材料に非常に強く依存する事を意味している。すなわち、少なくとも、Ptを電極に用いた場合は抵抗変化が起こりやすく、Wを電極に用いた場合、抵抗変化は起こりにくいのは明らかである。
【0131】
また、詳しくは説明しないが、TaやTaNを上下の電極に用いた抵抗変化素子も作製し、抵抗変化特性の測定を行った。
【0132】
図9(a)、図9(b)は下部電極503と上部電極505のいずれにも、Taを用いた素子Dの抵抗変化特性である。
【0133】
図9(a)は、上部電極505に+7Vと−5Vの電気パルスを加えた場合で、図9(b)は上部電極505に+5Vと−7Vの電気パルスを加えた場合の測定結果である。いずれの場合も、ほとんど抵抗変化は起こっていない。
【0134】
また、図10(a)は下部電極503と上部電極505のいずれにも、TaNを用いた素子Eの抵抗変化特性である。図10(a)は、上部電極505に+7Vと−5Vの電気パルスを加えた場合で、図10(b)は上部電極505に+5Vと−7Vの電気パルスを加えた場合の測定結果である。この場合も、ほとんど変化していないと言って良い程度の抵抗変化しか起こっていない。
【0135】
以上のように、W以外にも抵抗変化が起こりにくい材料は存在する。
【0136】
[WとPtを電極に用いた抵抗変化素子の抵抗変化特性]
次に抵抗変化を起こしやすい材料であるPtと、抵抗変化を起こしにくい材料でかつ、プロセス安定性の高い材料であるWで酸素不足型のタンタル酸化物層を挟み込んだ形の抵抗変化素子である素子Fの抵抗変化特性について述べる。
【0137】
用意した素子は、下部電極503としてW薄膜を用い、上部電極505としてPt薄膜を用いて作製した。W薄膜とPt薄膜は、それぞれ、WターゲットとPtターゲットをArガス中でスパッタリングする事で堆積した。
【0138】
以上のようにして作製した素子Fの電気パルスによる抵抗変化の様子を図11(a)、図11(b)に示す。
【0139】
図11(a)は、上部電極505の近傍での抵抗変化を起こさせる(Bモード)事を目的に、下部電極503を基準にして上部電極505に+2.5Vと、−1.5Vを交互に印加した時の抵抗値の変化である。この場合、抵抗値は、+2.5Vの電気パルスを印加した時には約600Ωとなり、−1.5Vの電気パルスを印加した時に60Ωとなって安定して変化している。
【0140】
一方で、下部電極503の近傍での抵抗変化を起こさせる(Aモード)事を目的に、下部電極503を基準にして上部電極505に+1.5Vと、−2.5Vを交互に印加した時の抵抗値の変化を図11(b)に示す。この場合は、抵抗変化は、60Ωと100Ωの間で抵抗変化が起こっているだけであり、Bモードの抵抗変化を起こさせるための電圧印加と比較して、無視できる程度の抵抗変化しか起こっていない。
【0141】
以上の図11(a)、図11(b)の結果から、素子Fは、片側の電極近傍だけで抵抗変化を起こすバイポーラ動作する抵抗変化型の不揮発性記憶素子の理想的な動作を示している。
【0142】
また、AモードとBモードの混ざりあいのような現象もみられなかった。
【0143】
例えば、図12は、図11(a)、図11(b)の測定結果を得た素子Fとは別の素子(同一基板上の異なる素子)に1000回程度電気パルスを加えた結果を示しているが、抵抗変化現象が非常に安定して発生しているのが見て取れる。
【0144】
以上の事から、抵抗変化現象を起こしやすい電極と、抵抗変化現象を起こしにくい電極で抵抗変化層を挟んだ構造を形成する事で、意図した片側の電極側で抵抗変化させることができるため安定動作し、望ましいバイポーラ動作を示す抵抗変化型の不揮発性記憶素子が作製可能である事が分かった。
【0145】
また、印加電圧と抵抗値の関係は、抵抗変化を起こしやすい電極に正の電圧の電気パルスを印加した時に、抵抗値が高くなり、負の電圧の電気パルスを印加した時に抵抗値が低くなるような動作を示す。
【0146】
[上下の電極材料種に応じた抵抗変化素子の抵抗変化特性]
次に、電極材料が相異なるいくつかの素子について抵抗変化の起こりやすさを評価した第2の実験の結果を示す。
【0147】
第2の実験の結果として、下部電極503をWに固定し、上部電極505をPt以外の相異なる材料で構成した複数の素子の抵抗変化の様子について述べる。ここで下部電極503をWに固定したのは、Wが比較的安定した材料であり、加工も比較的容易である事による。
【0148】
なお、素子の作製方法は、第1の実験で説明した方法と同様であり、下部電極503、上部電極505は全てスパッタリング法によって形成した。また、抵抗変化材料である酸素不足型のタンタル酸化物もタンタル金属をOとAr中でスパッタリングして作製した。
【0149】
電極の違いに応じた抵抗変化の特性を調べるため、酸素不足型のタンタル酸化物の組成は全て同じに設定した。すなわち、酸素含有率を約58at%の酸素不足型のタンタル酸化物(TaOと表現した時、xは1.38)に固定した。
【0150】
また、第2の実験では、下部電極503を動作しにくいWとしたので、抵抗値の変化がほとんど生じないAモード(上部電極に対し、下部電極に高い電圧を加えた時に高抵抗化するモード)の結果は省略し、Bモード(下部電極に対し、上部電極に高い電圧を加えた時に高抵抗化するモード)の結果のみを示す。Bモードで抵抗変化させた時の電気パルスの電圧は、素子によって若干の違いはあるが、下部電極を電圧の基準として、高抵抗化させる時の電圧は+1.8〜+2.0Vとし、低抵抗化させる時の電圧は−1.3〜−1.6Vとした。
【0151】
図13(a)〜図13(h)に測定結果をまとめる。
【0152】
まず、図13(a)の上部電極にIrを用いた素子G、図13(b)の上部電極にAg(銀)を用いた素子H、図13(c)の上部電極にCu(銅)を用いた素子Iの結果を見ると、比較的安定して、大きな幅で抵抗変化が生じているのが分かる。次に、図13(d)の上部電極にNi(ニッケル)を用いた素子J、図13(h)の上部電極にTaNを用いた素子Nでは、若干の抵抗変化が見られたがその変化幅が小さい。
【0153】
次に、図13(e)の上部電極にTaを用いた素子K、図13(f)の上部電極にTi(チタン)を用いた素子L、図13(g)が上部電極にAl(アルミニウム)を用いた素子Mでは、全く抵抗変化現象は観測されなかった。これらの材料は、本質的に抵抗変化が生じにくい性質を持っていると考えられる。
【0154】
以上の結果から分かる事は、酸素不足型のタンタル酸化物を用いた不揮発性記憶素子では、抵抗変化現象が生じやすい(動作しやすい)材料と、生じにくい(動作しにくい)材料が存在すると言う事である。第2の実験の範囲で言えば、動作しやすい電極材料はPt、Ir、Ag、Cuであり、動作しにくい電極材料はW、Ni、Ta、Ti、Al、TaNである。
【0155】
これらの材料の組み合わせで酸素不足型のタンタル酸化物を挟んだ構造の抵抗変化素子を形成すれば、モードの混ざり合いのない安定した抵抗変化が得られる。但し、図7(a)、図11(b)、図13(d)、図13(h)を参照すると、W、Ni、TaN電極では、微弱ながらも抵抗変化は観測されている。それ故にこれらの材料を一つの電極に用い、例えば、第2の実験で全く抵抗変化が観測されなかった電極材料であるTa、Ti、Alをもう一つの電極に用いた場合、微弱ながらも安定した抵抗変化が期待できる。
【0156】
次に、抵抗変化自体の起こるメカニズムと、抵抗変化の起こりやすさの材料依存性について若干の考察を行う。
【0157】
図14は、第1の実験と第2の実験の結果をまとめたものである。横軸は電極材料、縦軸には標準電極電位をプロットしてある。図14の○は抵抗変化が起こりやすかった事を意味し、△は変化の割合が小さいものの抵抗変化が起こった事を意味し、×は抵抗変化が起こらなかった事を意味する。なお、TiN(チッ化チタン)は第1の実験および第2の実験では用いなかった電極材料であり、参考のために・で示している。
【0158】
図14において、TaN、TiN以外の電極材料の標準電極電位は、非特許文献1:「CRC HANDBOOK of CHEMISTRY and PHYSICS, DAVID R.LIDE Editor−in−chief, 84th Edition 2003−2004, CRC PRESS」に開示された文献値であり、TaN、TiNの標準電極電位は、発明者らが測定したデータである。
【0159】
発明者らは、TaN、TiNを含むいくつかの電極材料の標準電極電位を、Solartron社製の電気化学測定システムSI1280Bを用いて構成した3電極系のポテンショスタットにより測定した。測定条件として、作用極に測定対象となる電極材料、対極にPt電極、参照極にAg/AgCl電極を用い、電解液には1wt%KCl7mlをNバブリング下で用いた。
【0160】
このような条件下で作用極と対極との間の電位平衡点を探索することによって、電極材料のAg/AgCl電極に対する電位平衡点における電位を測定した後、測定された電位に+0.196Vを加えた値を、電極材料の標準水素電極に対する電位(すなわち標準電極電位)とした。
【0161】
図14を見ると、抵抗変化層の構成元素であるTaよりも標準電極電位が高い材料では抵抗変化が起こっており、低い材料では抵抗変化が起こりにくくなっている事が分かる。そして、標準電極電位の差が大きいほど抵抗変化が起こりやすく、差が小さくなるにつれて、抵抗変化が起こりにくくなっているのが分かる。
【0162】
一般に標準電極電位は、酸化のされ易さの一つの指標であり、この値が大きければ酸化されにくく、小さければ酸化されやすい事を意味する。この事から酸化のされやすさが抵抗変化現象のメカニズムに大きな役割を果たしているのではないかと推測される。
【0163】
以上の結果をもとに、抵抗変化のメカニズムを考える。まず。抵抗変化が起こり易い材料(標準電極電位が大きく酸化されにくい材料)によって上部電極が構成されている場合について、図15(a)、図15(b)を使って説明する。
【0164】
図15(a)のように、下部電極1401と、酸素不足型のタンタル酸化物層1402と、Taよりも酸化されにくい材料によって構成されている上部電極1403からなる抵抗変化素子に、下部電極1401に対して高い電圧を上部電極1403に印加した場合、酸素不足型のタンタル酸化物中の酸素原子がイオンとなって、電界によって移動し、上部電極1403の界面近傍に集まる。
【0165】
しかし、上部電極1403を構成する金属はTaに比べて酸化されにくいので、酸素イオン1404は酸素不足型のタンタル酸化物層1402と上部電極1403の界面に滞留した状態になり、界面付近でTaと結合し、酸素濃度の高い酸素不足型のタンタル酸化物を形成する。この事によって素子は高抵抗化する。
【0166】
次に、図15(b)のように、下部電極1401に高い電圧を印加した場合、酸素原子は再び酸素イオンとなって、酸素不足型のタンタル酸化物層1402の内部に戻っていく。これにより、低抵抗化が起っていると考えられる。
【0167】
次に、Taよりも酸化されやすい材料によって上部電極が構成されている場合について説明した図が図16(a)、図16(b)である。
【0168】
図16(a)のように下部電極1501と、酸素不足型のタンタル酸化物層1502と、Taよりも酸化され易い材料によって構成されている上部電極1503からなる抵抗変化素子に、下部電極1501に対して高い電圧を上部電極1503に印加した場合、酸素不足型のタンタル酸化物中の酸素原子がイオンとなって電界によって移動し、上部電極1503の界面近傍に集まる。
【0169】
この場合、上部電極1503はTaよりも酸化されやすいので、酸素イオン1504は上部電極1503の内部に吸いとられて、上部電極1503を形成している材料と結合を起こす。この場合、図15(a)とは異なり、酸素不足型のタンタル酸化物層1502と上部電極1503の界面に高抵抗層が形成されず、さらに上部電極1503を構成する元素の数に対して酸素イオンの数は少ないために、抵抗値はほとんど上昇しない。
【0170】
逆に、図16(b)のように、下部電極1501に高い電圧を印加した場合、上部電極1503に吸い取られた酸素イオンは、上部電極材との結合がより安定であるため、酸素不足型のタンタル酸化物層1502の中には戻りにくく、抵抗値は大きくは変化しないと考えられる。
【0171】
もし、図15(a)、図15(b)、図16(a)、および図16(b)において、上部電極を構成する材料の酸化のされやすさがTaと同程度の場合、上記の2つの例の中間的な変化が生じ、微弱な抵抗変化が生じると考えられる。
【0172】
以上の結果から分かるように、酸素不足型のタンタル酸化物を抵抗変化層に使用した不揮発性記憶素子では、上部電極と下部電極とで異なる標準電極電位を有する材料を用いれば良い。
【0173】
これにより、片側の電極近傍で優勢に抵抗変化が起こって、理想的なバイポーラ型の抵抗変化を実現できる。さらに、抵抗変化モードの混ざり合いも起こらず、安定した抵抗変化動作が可能となる。
【0174】
より好適には、一方の電極材料には、Taの標準電極電位よりも大きく、かつ差の大きな材料を用い、もう一方の電極材料には、Taの標準電極電位よりも大きく差の小さな材料を用いればよい。
【0175】
さらにより好適には、一方の電極材料には、Taの標準電極電位よりも大きな材料を用い、もう一方の電極材料には、Taの標準電極電位よりも小さな材料を用いればよい。
【0176】
なお、第2の実験の結果としては記述していないが、下部電極および上部電極に、それぞれTaNおよびPtを用いた抵抗変化素子について、安定した抵抗変化現象が起こったことを示す良好な実験結果が得られている。
【0177】
TaNの標準電極電位は、発明者らの測定によれば+0.48eVであり、PtおよびTaの標準電極電位は、非特許文献1によればそれぞれ+1.18eV、−0.6eVである。
【0178】
この例は、上部電極には、Taの標準電極電位よりも大きく、かつ差の大きな材料であるPtを用い、下部電極には、Taの標準電極電位よりも大きく差の小さな材料であるTaNを用いた一例である。
【0179】
すなわち、この例では、上述の標準電極電位に関する条件を満たすTaNおよびPtを電極材料として用いたことで、第2の実験の結果として述べた作用効果が得られたと考えられる。
【0180】
また他の例として、下部電極および上部電極にそれぞれTiNおよびPtを用いてもよい。TiNの標準電極電位は、発明者らによる前述の測定によれば+0.55eVである。したがって、TiNとPtとの組み合わせは、抵抗変化層にタンタル酸化物を用いた場合の標準電極電位に関する条件を満たすので、TiNおよびPtを電極材料として用いることで、第2の実験の結果として述べた作用効果が期待できる。
【0181】
さらに他の例として、Au(金)またはPdを電極材料として用いてもよい。非特許文献1によればAu、Pdの標準電極電位はそれぞれ+1.692eV、+0.951eVであり、Taの標準電極電位−0.6eVよりも高い。したがって、抵抗変化層としてタンタル酸化物を用いた場合に、抵抗変化しやすい電極材料としてAuおよびPdの一方を用い、かつ抵抗変化しにくい電極材料としてAuおよびPdの前記一方よりも標準電極電位が低い材料(例えば、標準電極電位が+0.1eVであるW)を用いることで、第2の実験の結果として述べた作用効果が期待できる。
【0182】
また、上記のメカニズムからも明らかなように、抵抗変化を起こしやすい電極に正の電圧の電気パルスを印加した時に、抵抗値が高くなり、負の電圧の電気パルスを印加した時に抵抗値が低くなるような動作を示す。
【0183】
[抵抗変化層に酸素不足型のハフニウム酸化物を用いた抵抗変化素子]
次に、他の同様な例として、酸素不足型のハフニウム酸化物を抵抗変化層として用いたバイポーラ動作する不揮発性記憶素子に関する第3の実験について説明する。
【0184】
第1の実験の説明と同様に、まず、酸素不足型のハフニウム酸化物層の形成方法や、酸素含有率の好適な範囲を説明する。
【0185】
その後、抵抗変化の起こりやすさが電極材料に依存するかどうかの確認を行うため、Al、Ti、Ta、W、Cu、Ptからなる電極でHfO層を挟んだ構造を形成し、電気パルスによる抵抗変化現象の様子を調べた結果について述べる。そして最後に、動作しやすい電極材料と動作しにくい電極材料で酸素不足型のハフニウム酸化物層を挟み込んだ構造の抵抗変化素子の抵抗変化の測定結果について述べる。
【0186】
[スパッタリング時の酸素流量比とハフニウム酸化物層の酸素含有率との関係]
まず、第3の実験における酸素不足型のハフニウム酸化物層の作製条件及び酸素含有率の解析結果について述べる。
【0187】
酸素不足型のハフニウム酸化物層は、Hf(ハフニウム)ターゲットをArガスとOガス雰囲気中でスパッタリングする、いわゆる、反応性スパッタリングで作製した。第3の実験での具体的な酸素不足型のハフニウム酸化物層の作製方法は次の通りである。
【0188】
まずスパッタリング装置内に基板を設置し、スパッタリング装置内を3×10−5Pa程度まで真空引きする。Hfをターゲットとして、パワーを300W、ArガスとOガスとをあわせた全ガス圧力を0.9Pa、基板の設定温度を30℃にし、スパッタリングを行った。ここでは、Arガスに対するOガスの流量比を2%から4.2%まで変化させた。
【0189】
まずは、組成を調べる事が目的であるため、基板としては、Si上にSiOを200nm堆積したものを用い、ハフニウム酸化物層の膜厚は約50nmになるようにスパッタリング時間を調整した。
【0190】
このようにして作製したハフニウム酸化物層の組成をラザフォード後方散乱法(RBS法)によって解析した結果を図17に示す。
【0191】
この図から、酸素流量比を2%から4.2%に変化させた場合、ハフニウム酸化物層中の酸素含有率は約37.7at%(HfO0.6)から約69.4at%(HfO2.3)へと変化していることが分かる。
【0192】
以上の結果より、ハフニウム酸化物層中の酸素含有率を酸素流量比によって制御可能である事と、Hfの化学量論的な酸化物であるHfOの酸素含有率66.7at%よりも酸素が不足している、酸素不足型のハフニウム酸化物から酸素が過剰に含有されていると思われるハフニウム酸化物までが形成されている事が明らかとなった。
【0193】
なお、第3の実験では、ハフニウム酸化物層の解析にラザフォード後方散乱法(RBS)を利用したが、オージェ電子分光法(AES)、蛍光X線分析法(XPS)、電子線マイクロアナリシス法(EPMA)等の機器分析手法も利用可能である。
【0194】
[酸素不足型のハフニウム酸化物層の抵抗変化特性]
以上のように作製した酸素不足型のハフニウム酸化物のうち、どの程度の酸素含有率を有する酸素不足型のハフニウム酸化物が抵抗変化を示すのかを調べた。ここで酸素不足型のハフニウム酸化物層を挟む電極の材料として用いたのは、上下の電極ともにPtである。
【0195】
上下にPtを用いた場合は、上述のように、バイポーラ型の抵抗変化型の不揮発性素子としては不適当である。しかしながら、Ptは後述するように、抵抗変化を非常に示しやすい電極材料であり、ある酸素含有率を有する酸素不足型のハフニウム酸化物が抵抗変化を示すか否かの判定を行うには最も好適な材料である。
【0196】
以上のような理由から、図5のような不揮発性記憶素子を形成した。
【0197】
すなわち、単結晶シリコン基板501上に、厚さ200nmの酸化物層502を熱酸化法により形成し、下部電極503としての厚さ100nmのPt薄膜を、スパッタリング法により酸化物層502上に形成した。
【0198】
その後、Hfをターゲットとして、反応性スパッタリングによって酸素不足型のハフニウム酸化物層504を形成した。第3の実験で検討した範囲では、上記の分析試料と同様に、Oガスの流量比を、2%から4.2%まで変化させて不揮発性記憶素子を作製した。酸素不足型のハフニウム酸化物層504の膜厚は30nmとした。
【0199】
その後、酸素不足型のハフニウム酸化物層504の上に、上部電極505としての厚さ150nmのPt薄膜をスパッタ法により堆積した。
【0200】
最後にフォトリソグラフィー工程とドライエッチング工程によって、素子領域506を形成した。なお、素子領域506は、直径が3μmの円形パターンである。
【0201】
以上のように作製した不揮発性記憶素子の抵抗変化現象を測定した。その結果、図17のα点(酸素流量比約2.7%、酸素含有率約46.6at%)からβ点(酸素流量比約3.3%、酸素含有率約62at%)のハフニウム酸化膜を使った不揮発性記憶素子では、高抵抗値が低抵抗値の4倍以上と良好であった。
【0202】
図18(a)、図18(b)は、それぞれ、α点およびβ点の酸素含有率を有するハフニウム酸化物層を使った不揮発性記憶素子についてのパルス印加回数に対する抵抗変化特性を測定した結果である。
【0203】
図18(a)、図18(b)によれば、α点及びβ点の酸素含有率を有するハフニウム酸化物層を使った素子では、共に、高抵抗値が低抵抗値の4倍以上と良好であることが判る。
【0204】
従って、酸素含有率が46.6〜62at%の組成範囲、即ち抵抗変化層をHfOと表記した場合におけるxの範囲が0.9≦x≦1.6の範囲がより適切な抵抗変化層の範囲であると言える(酸素含有率=46.6at%がx=0.9に、酸素含有率=62at%がx=1.6にそれぞれ対応)。
【0205】
[上下の電極材料種に応じた抵抗変化素子の抵抗変化特性]
次に、抵抗変化の起こりやすさが、電極材料に依存するかどうかの確認を行うため、Wからなる下部電極503とAl、Ti、Hf、Ta、W、Cu、Ptの1つから成る上部電極505で、酸素不足型のハフニウム酸化物層504を挟んだ複数種の素子を作製し、電気パルスによる抵抗変化の様子を調べた結果について説明する。
【0206】
使用した酸素不足型のハフニウム酸化物層の酸素含有率は、好適な酸素含有率の範囲で上限に近い61at%(HfO1.56)とした。素子の形成方法は、ハフニウム酸化物層の成膜方法は上記とほぼ同じであるが、Al、Ti、Hf、Ta、W、Cu、Ptはハフニウム酸化物層を形成後、一旦大気中に出し、別のスパッタ装置でスパッタリング法によって堆積した。
【0207】
作製した素子O〜素子Uに使用した下部電極、上部電極の材料を表2に示す。
【0208】
【表2】

【0209】
上記の素子O〜素子Uを、所定の振幅でパルス幅100nsecの電気パルスを与えて抵抗変化させた。
【0210】
第3の実験では、下部電極503を動作しにくいWとしたので、Aモード(上部電極に対し、下部電極に高い電圧を加えた時に高抵抗化するようなモード)の結果は省略し、Bモード(下部電極に対し、上部電極に高い電圧を加えた時に高抵抗化するようなモード)の結果のみを示す。
【0211】
Bモードで抵抗変化させた時の電気パルスの電圧は、素子によって若干の違いはあるが、下部電極を電圧の基準として、高抵抗化させる時の電圧は+1.1〜+1.9Vとし、低抵抗化させる時の電圧は−1.1〜−1.5Vとした。
【0212】
図19(a)〜図19(g)に測定結果をまとめる。
【0213】
まず、図19(a)の上部電極にAlを用いた素子O、図19(b)の上部電極にTiを用いた素子P、図19(c)の上部電極にHfを用いた素子Qの結果を見ると、ほとんど抵抗変化しないか、あるいはまったく抵抗変化しないのが分かる。次に、図19(d)の上部電極にTaを用いた素子Rでは、最初わずかであるが抵抗変化が見られたがパルス数とともにその変化幅が減少していき、ほとんど抵抗変化を示さなくなった。これらの材料は、本質的に抵抗変化が生じにくい性質を持っていると考えられる。
【0214】
次に、図19(e)の上部電極にWを用いた素子S、図19(f)の上部電極にCuを用いた素子T、図19(g)の上部電極にPtを用いた素子Uでは、比較的安定した抵抗変化が生じた。
【0215】
以上の結果から分かる事は、酸素不足型のハフニウム酸化物を用いた不揮発性記憶素子では、抵抗変化現象が生じやすい(動作しやすい)材料と、生じにくい(動作しにくい)材料が存在すると言う事である。第3の実験の範囲で言えば、動作しやすい電極材料はPt、Cu、Wであり、動作しにくい電極材料はTa、Hf、Ti、Alである。
【0216】
これらの材料の組み合わせで酸素不足型のハフニウム酸化物を挟んだ構造の抵抗変化素子を形成すれば、モードの混ざり合いのない安定した抵抗変化が得られる。但し、図19(d)を参照すると、Ta電極では、微弱ながらも抵抗変化は観測されている。それ故にこの材料を一つの電極に用い、例えば、第3の実験で全く抵抗変化が観測されなかった電極材料であるTi、Hfをもう一つの電極に用いた場合、微弱ながらも安定した抵抗変化が期待できる。
【0217】
次に、抵抗変化自体の起こるメカニズムと、抵抗変化の起こりやすさの材料依存性について若干の考察を行う。
【0218】
図20は、酸素不足型のハフニウム酸化物を用いた不揮発性記憶素子に係る結果をまとめたものである。横軸は電極材料、縦軸には標準電極電位をプロットしてある。図20の○は抵抗変化が起こりやすかった事を意味し、△は変化の割合が小さいものの抵抗変化が起こった事を意味し、×は抵抗変化が起こらなかった事を意味する。
【0219】
図20を見ると、抵抗変化層の構成元素であるHfよりも標準電極電位が高い材料では抵抗変化が起こっており、低い材料では抵抗変化が起こりにくくなっている事が分かる。そして、標準電極電位の差が大きいほど抵抗変化が起こりやすく、差が小さくなるにつれて、抵抗変化が起こりにくくなっているのが分かる。
【0220】
この結果は、第2の実験に関して述べた、酸素不足型のタンタル酸化物を用いた不揮発性記憶素子に係る結果と全く同一の傾向を示している。すなわち、酸素不足型のタンタル酸化物を用いた不揮発性記憶素子について説明した抵抗変化のメカニズム(図15(a)、図15(b)、図16(a)、および図16(b)を参照)が、酸素不足型のハフニウム酸化物を用いた不揮発性記憶素子にも同様に働いていると考えられる。
【0221】
以上の結果から分かるように、酸素不足型のハフニウム酸化物を抵抗変化層に使用した不揮発性記憶素子では、上部電極と下部電極とで異なる標準電極電位を有する材料を用いれば良い。
【0222】
これにより、片側の電極近傍で優勢に抵抗変化が起こって、理想的なバイポーラ型の抵抗変化を実現できる。さらに、抵抗変化モードの混ざり合いも起こらず、安定した抵抗変化動作が可能となる。
【0223】
より好適には、一方の電極材料には、Hfの標準電極電位よりも大きく、かつ差の大きな材料を用い、もう一方の電極材料には、Hfの標準電極電位よりも大きく、かつ差の小さな材料を用いれば良い。
【0224】
さらにより好適には、一方の電極材料には、Hfの標準電極電位よりも大きな材料も用い、もう一方の電極材料には、Hfの標準電極電位以下の材料を用いればよい。
【0225】
なお、第3の実験の結果としては記述していないが、非特許文献1によれば、Auの標準電極電位は+1.692eVであるので、Hfの標準電極電位−1.55eVよりも高い。したがって、抵抗変化層としてHf酸化物を用いた場合に、抵抗変化しやすい電極材料としてAuを用いても、第3の実験の結果として述べた作用効果が期待できる。
【0226】
また他の例として、第2の実験に関連して述べたように、下部電極にTaNおよびTiNの一方を用い、上部電極にPtを用いてもよい。前述した標準電極電位の値から、これらの電極材料の組み合わせは、抵抗変化層にHf酸化物を用いた場合の標準電極電位に関する条件を満たすので、TaNおよびTiNの一方とPtとを電極材料として用いることで、第3の実験の結果として述べた作用効果が期待できる。
【0227】
また、上記のメカニズムからも明らかなように、抵抗変化を起こしやすい電極に正の電圧の電気パルスを印加した時に、抵抗値が高くなり、負の電圧の電気パルスを印加した時に抵抗値が低くなるような動作を示す。
【0228】
なお、上記の第1の実験、第2の実験及び第3の実験では、抵抗変化層として酸素不足型のタンタル酸化物及びハフニウム酸化物を用いた例について説明したが、これに限定されるものではなく、他の遷移金属の酸素不足型の酸化膜を抵抗変化層に用いた不揮発性記憶素子についても、上記で説明したように電極に加えられた電界による酸素イオンの移動が起こると考えられるため、同様に応用可能である。その場合も、用いる遷移金属材料の標準電極電位を基準にして電極材料を選択すれば、片側で優勢的に動作する不揮発性記憶素子が形成できる。また、抵抗変化層としてのタンタル酸化物やハフニウム酸化物に、抵抗変化特性を大きく変化させない程度に微量のドーパントを添加してもよい。
【0229】
[本発明の実施の形態における抵抗変化型不揮発性記憶装置]
次に、本発明の実施の形態として、上記で説明した抵抗変化素子を用いた1T1R型の不揮発性記憶装置について説明する。
【0230】
[NMOS構成の1T1R不揮発性記憶装置]
図21は、本発明の実施の形態に係る不揮発性記憶装置の構成を示すブロック図である。
【0231】
図21に示すように、本実施の形態に係る不揮発性記憶装置200は、半導体基板上に、メモリ本体部201を備えており、メモリ本体部201は、メモリアレイ202と、行選択回路208、ワード線ドライバWLD、ソース線ドライバSLDからなる行ドライバ207と、列選択回路203と、データの書き込みを行うための書き込み回路206と、選択ビット線に流れる電流量を検出し、記憶されているデータが「1」か「0」かを判定するセンスアンプ204と、端子DQを介して入出力データの入出力処理を行うデータ入出力回路205とを備える。
【0232】
さらには、書き込み用電源211として低抵抗(LR)化用電源212と高抵抗(HR)化用電源213を備え、低抵抗(LR)化用電源212の出力V2は、行ドライバ207に供給され、高抵抗(HR)化用電源213の出力V1は、書き込み回路206に供給されている。
【0233】
さらに、外部から入力されるアドレス信号を受け取るアドレス入力回路209と、外部から入力されるコントロール信号に基づいて、メモリ本体部201の動作を制御する制御回路210とを備えている。
【0234】
メモリアレイ202は、半導体基板の上に形成された、互いに交差するように配列された複数のワード線WL0、WL1、WL2、・・・および複数のビット線BL0、BL1、BL2、・・・と、これらのワード線WL0、WL1、WL2、・・・、およびビット線BL0、BL1、BL2、・・・の交点に対応してそれぞれ設けられた複数のNMOSトランジスタN11、N12、N13、N21、N22、N23、N31、N32、N33、・・・(以下、「トランジスタN11、N12、・・・」と表す)と、トランジスタN11、N12、・・・と1対1に直列接続された複数の抵抗変化素子R11、R12、R13、R21、R22、R23、R31、R32、R33、・・・(以下、「抵抗変化素子R11、R12、・・・」と表す)とを備え、個々がメモリセルM11、M12、M13、M21、M22、M23、M31、M32、M33、・・・(以下、「メモリセルM11、M12、・・・」と表す)を構成している。ここで、抵抗変化素子R11、R12、・・・が、本発明の基礎データとして上記で説明した抵抗変化素子である。
【0235】
図21に示すように、トランジスタN11、N21、N31、・・・のゲートはワード線WL0に接続され、トランジスタN12、N22、N32、・・・のゲートはワード線WL1に接続され、トランジスタN13、N23、N33、・・・のゲートはワード線WL2に接続され、トランジスタN14、N24、N34、・・・のゲートはワード線WL3に接続されている。
【0236】
また、トランジスタN11、N21、N31、・・・およびトランジスタN12、N22、N32、・・・はソース線SL0に共通に接続され、トランジスタN13、N23、N33、・・・およびトランジスタN14、N24、N34、・・・はソース線SL2に共通に接続されている。
【0237】
また、抵抗変化素子R11、R12、R13、R14、・・・はビット線BL0に接続され、抵抗変化素子R21、R22、R23、R24、・・・はビット線BL1に接続され、抵抗変化素子R31、R32、R33、R34、・・・はビット線BL2に接続されている。
【0238】
アドレス入力回路209は、外部回路(図示せず)からアドレス信号を受け取り、このアドレス信号に基づいて行アドレス信号を行選択回路208へ出力するとともに、列アドレス信号を列選択回路203へ出力する。ここで、アドレス信号は、複数のメモリセルM11、M12、・・・のうちの選択される特定のメモリセルのアドレスを示す信号である。
【0239】
制御回路210は、データの書き込みサイクルにおいては、データ入出力回路205に入力された入力データDinに応じて、書き込み用電圧の印加を指示する書き込み信号を書き込み回路206へ出力する。他方、データの読み出しサイクルにおいて、制御回路210は、読み出し動作を指示する読み出し信号をセンスアンプ204へ出力する。
【0240】
行選択回路208は、アドレス入力回路209から出力された行アドレス信号を受け取り、この行アドレス信号に応じて、行ドライバ207より、複数のワード線WL0、WL1、WL2、・・・のうちの何れかに対応するワード線ドライバ回路WLDより、その選択されたワード線に対して、所定の電圧を印加する。
【0241】
また同様に、行選択回路208は、アドレス入力回路209から出力された行アドレス信号を受け取り、この行アドレス信号に応じて、行ドライバ207より、複数のソース線SL0、SL2、・・・のうちの何れかに対応するソース線ドライバ回路SLDより、その選択されたソース線に対して、所定の電圧を印加する。
【0242】
また、列選択回路203は、アドレス入力回路209から出力された列アドレス信号を受け取り、この列アドレス信号に応じて、複数のビット線BL0、BL1、BL2、・・・のうちの何れかを選択し、その選択されたビット線に対して、書き込み用電圧または読み出し用電圧を印加する。
【0243】
書き込み回路206は、制御回路210から出力された書き込み信号を受け取った場合、列選択回路203に対して選択されたビット線に対して書き込み用電圧の印加を指示する信号を出力する。
【0244】
また、センスアンプ204は、データの読み出しサイクルにおいて、読み出し対象となる選択ビット線に流れる電流量を検出し、記憶されているデータが「1」か「0」かを判定する。その結果得られた出力データDOは、データ入出力回路205を介して、外部回路へ出力される。
【0245】
書き込み用電源211は、低抵抗(LR)化用電源212と高抵抗(HR)化用電源213より構成され、その出力は各々、行ドライバ207および書き込み回路206に入力されている。
【0246】
書き込み動作に関して、実施の形態で用いた上下の電極の材料種が異なる抵抗変化素子もまた、上下の電極にPtを用いた抵抗変化素子における電流−電圧のヒステリシス特性(図2)と類似したヒステリシス特性を有している。
【0247】
抵抗変化素子R11、R12、・・・が有する電流−電圧のヒステリシス特性において、図2のA点に対応する電圧を高抵抗化電圧VHR、図2のB点に対応する電圧を低抵抗化電圧VLRと表記するとき、HR化用電源213は、抵抗変化素子R11、R12、・・・に対して、高抵抗化電圧VHRを超える正の電圧の印加が可能な電源回路であり、LR化用電源212は、抵抗変化素子R11、R12、・・・に対して、低抵抗化電圧VLRの絶対値を超える負の電圧の印加が可能な電源回路である。
【0248】
図22は、図21におけるC部に対応するメモリセル300の構成(2ビット分の構成)を示す断面図、および抵抗変化素子309の拡大図である。
【0249】
トランジスタ317、抵抗変化素子309は、各々図21におけるトランジスタN11、N12と抵抗変化素子R11、R12に対応している。
【0250】
メモリセル300は、半導体基板301上に、第2のN型拡散層領域302a、第1のN型拡散層領域302b、ゲート絶縁膜303a、ゲート電極303b、第1ビア304、第1配線層305、第2ビア306、第2配線層307、第3ビア308、抵抗変化素子309、第4ビア310、第3配線層311を順に形成して構成される。
【0251】
第4ビア310と接続される第3配線層311がビット線BL0に対応し、トランジスタ317の第2のN型拡散層領域302aに接続された、第1配線層305および第2配線層307が、この図面に垂直に走るソース線SL0に対応している。
【0252】
半導体基板301の電圧は0Vで、0V電源線(図示なし)より、一般的に知られている構成で供給されている。
【0253】
図22の拡大部分に示されるように、抵抗変化素子309は、第3ビア308上に下部電極309a、抵抗変化層309b、上部電極309cがサンドイッチ状に形成され、さらには第3配線と接続される第4ビア310につながっている。
【0254】
ここで、抵抗変化層309bは酸素不足型のタンタル酸化物よりなり、下部電極309aと上部電極309cは異なる材料で構成され、下部電極309aが抵抗変化を起こしにくい電極材料であるWで構成され、ビアを介してトランジスタの第1のN型拡散層領域302bに接続され、上部電極309cは抵抗変化を起こしやすいPtで構成し、ビアを介して第3配線層311で形成のビット線BL0に接続される構造となっている。
【0255】
[抵抗変化型不揮発性記憶装置の動作]
以上の様に構成された抵抗変化型不揮発性記憶装置について、データを書き込む場合の書き込みサイクル、およびデータを読み出す場合の読み出しサイクルにおける動作例について、図23(a)〜図23(c)に示すタイミングチャートを参照しながら説明する。
【0256】
図23(a)〜図23(c)は、本発明の実施の形態に係る不揮発性記憶装置の動作例を示すタイミングチャートである。なお、ここでは、抵抗変化層が高抵抗状態の場合をデータ「1」に、低抵抗状態の場合をデータ「0」にそれぞれ割り当てると定義して、その動作例を示す。また、説明は、メモリセルM11についてデータの書き込みおよび読み出しをする場合のみについて示す。
【0257】
また、図23(a)において、LR化用電源212で発生する電圧V2は、抵抗変化素子R11、R12、・・・に対し、低抵抗化電圧VLRを超える電圧が印加される電圧値に決定される。
【0258】
図23(b)において、HR化用電源213で発生する電圧V1は、抵抗変化素子R11、R12、・・・に対し、高抵抗化電圧VHRを超える電圧が印加される電圧値に決定される。
【0259】
V1およびV2の決定方法については、後述する。
【0260】
図23(c)において、Vreadは、センスアンプ204で発生されている読み出し用電圧で、高抵抗化電圧VHR以下の電圧が、抵抗変化素子R11、R12、・・・に印加される電圧値である。
【0261】
また、図23(a)〜図23(c)において、VDDは不揮発性記憶装置200に供給される電源電圧に対応している。
【0262】
図23(a)に示すメモリセルM11に対するデータ「0」書き込みサイクルにおいては、最初に選択ビット線BL0、ソース線SL0を電圧V2に設定する。次に、選択するワード線WL0を電圧VDDに設定し、選択メモリセルM11のNMOSトランジスタN11をオンする。この段階ではトランジスタ317の第2のN型拡散層領域302aと、第1のN型拡散層領域302bはともに電圧V2が印加されているので、電流は流れない。
【0263】
次に、選択ビット線BL0を所定期間、電圧0Vに設定し、所定期間後、再度電圧V2となるパルス波形を印加する。この段階で、抵抗変化素子309には下部電極309aを基準にして上部電極309cに、低抵抗化電圧VLRを超える絶対値を持つ負の電圧が印加され、高抵抗値から低抵抗値に書き込みが行われる。その後、ワード線WL0を電圧0Vに設定し、トランジスタ317をオフして、データ「0」の書き込みが完了する。
【0264】
図23(b)に示すメモリセルM11に対するデータ「1」書き込みサイクルにおいては、最初に選択ビット線BL0、ソース線SL0を電圧0Vに設定する。次に、選択するワード線WL0を電圧VDDに設定し、選択メモリセルM11のNMOSトランジスタN11をオンする。
【0265】
次に、選択ビット線BL0を所定期間、電圧V1に設定し、所定期間後、再度電圧0Vとなるパルス波形を印加する。この段階で、抵抗変化素子309には下部電極309aを基準にして上部電極309cに、高抵抗化電圧VHRを超える正の電圧が印加され、低抵抗値から高抵抗値に書き込みが行われる。その後、ワード線WL0を電圧0Vに設定し、データ「1」の書き込みが完了する。
【0266】
図23(c)に示すメモリセルM11に対するデータの読み出しサイクルにおいては、最初に選択ビット線BL0、ソース線SL0を電圧0Vに設定する。次に、選択するワード線WL0を電圧VDDに設定し、選択メモリセルM11のNMOSトランジスタN11をオンする。
【0267】
次に、選択ビット線BL0を所定期間、読み出し電圧Vreadに設定し、センスアンプ204により、選択メモリセルM11に流れる電流値を検出することで、記憶されているデータがデータ「0」かデータ「1」かを判定する。その後、ワード線WL0を電圧0Vに設定し、データの読み出し動作を完了する。
【0268】
[1T1R型メモリセルの特性]
実施の形態における1T1R型メモリセルM11、M12、・・・について、特にNMOSトランジスタN11、N12、・・・の構成について説明する。
【0269】
本実施の形態に従うと、図22の拡大部分に示すように、抵抗変化素子309は、上部電極309c側に抵抗変化層309bが抵抗変化をしやすい電極が使用されており、下部電極309aに対し上部電極309cに正電圧を印加することで、この界面近傍で酸化現象が進行し高抵抗状態に変化し、逆方向の電圧を印加することで還元現象が進行し低抵抗状態に変化すると考えられ、電圧印加方向に対する抵抗変化の状態が一通りに限定できる。
【0270】
図24は、メモリセルの両端に2.2Vを印加したとき、抵抗変化素子に印加される電圧を抵抗変化素子の抵抗値との関係を示している。
【0271】
印加方向1は図21において、ビット線BL0、BL1、・・・に所定の正電圧を、ソース線SL0、SL1・・・に0Vを印加したとき、すなわち、下部電極309aに対し上部電極309cに正の電圧を印加したときの特性である。
【0272】
また、印加方向2は図21において、ビット線BL0、BL1、・・・に0Vを、ソース線SL0、SL1、・・・に所定の正電圧を、すなわち、下部電極309aに対し上部電極309cに負の電圧を印加したときの特性を示している。
【0273】
例えば、素子抵抗値が1000Ωの時、印加方向1の場合は、抵抗変化素子には約2.1Vが印加できることを示しており、電流値としては、2.1V÷1000Ω=2.1mAが駆動できることを示している。また印加方向2の場合は、抵抗変化素子には約1.25Vが印加できることを示しており、電流値としては、1.25V÷1000Ω=1.25mAが駆動できることを示している。
【0274】
このことから、NMOSトランジスタの基板バイアス効果の影響が少ない印加方向1が、印加方向2の場合に比べ、この場合であれば約1.7倍大きな電流が駆動できることがわかる。
【0275】
また、図23(a)で説明のLR化用電源212で発生されている電圧V2の値は、印加方向2の特性を用いて決めることができる。
【0276】
例えば、抵抗変化素子309の高抵抗状態における抵抗値が10kΩとすると、メモリセルの両端に2.2Vの印加で、抵抗変化素子309には約1.5Vまで印加できることが分かる(図24のC点)。このときの電流値は1.5V÷10kΩ=0.15mAである。
【0277】
抵抗変化素子309を低抵抗化させるための低抵抗化電圧VLRが例えば−1.3Vとすると、LR化用電源212にて、電圧V2を2.2Vとし、かつ0.15mA以上の電流駆動能力があれば、抵抗変化素子309に対し低抵抗化電圧VLRを超える電圧が印加できることがわかる。
【0278】
同様に、図23(b)で説明のHR化用電源213で発生されている電圧V1の値は、印加方向1の特性を用いて決めることができる。
【0279】
例えば、抵抗変化素子309の低抵抗状態における抵抗値が1000Ωとすると、メモリセルの両端に2.2Vの印加で、抵抗変化素子309には約2.1Vまで印加できることが分かる(図24のD点)。このときの電流値は2.1V÷1000Ω=2.1mAである。
【0280】
抵抗変化素子309を高抵抗化させるための高抵抗化電圧VHRが例えば1.2Vとすると、HR化用電源213にて、電圧V1を2.2Vとし、かつ2.1mA以上の電流駆動能力があれば、抵抗変化素子309に対し高抵抗化電圧VHRを超える電圧が印加できることがわかる。より好適には、電圧V1をより低い電圧(例えば1.8V等)で、一定以上の余裕度をもった電圧値に決定してもよい。
【0281】
また、設計段階では上述の様な手法で大体の電圧を設定しておき、製品検査の段階で、電圧V1や電圧V2を抵抗変化が安定にできる電圧に動作確認しながら最適電圧に微調整して決定する従来一般的に知られている手法を併用してもよい。
【0282】
以上説明したように、本実施の形態の抵抗変化型不揮発性記憶装置では、抵抗変化を起こしやすい電極材料で上部電極を形成し、抵抗変化を起こしにくい電極材料で下部電極を形成してなる抵抗変化素子を用いるので、各メモリセルにおいて、1つの方向の抵抗変化(低抵抗化または高抵抗化)を安定的に生ぜしめる電圧印加方向(駆動極性)が一義的に決まる。
【0283】
そして、この下部電極とNMOSトランジスタのN型拡散層領域の1つとを接続してメモリセルを構成するので、より大きな電流が必要な低抵抗から高抵抗への抵抗変化のための電圧印加を、印加方向1に確実に一致させて行うことができ、印加方向2になる場合を想定する必要がなく、最適なトランジスタ寸法でメモリセルを設計することができる。
【0284】
このことは、電流駆動能力に余裕があれば、特にHR化電源電圧V1を、より低電圧化できることでもあり、低電圧化や低消費電力化にも有効である。
【0285】
さらには、駆動極性が一義的に決まることで、抵抗変化特性のモードを識別する情報を管理する必要がなく、単純で安価な回路構成にできる。
【0286】
また、Ptの様な高価な電極材料を使用する場合、一方の電極材料だけの適用ですむので、製造コストの低減にも有効となる。
【0287】
[その他の1T1R型メモリセルの構成例]
図25(a)〜図25(f)は、実施の形態で説明した1T1R型メモリセルを含め、一般的に知られている抵抗変化素子に用いられている、1T1R型メモリセルの回路構成を示す回路図である。
【0288】
図25(a)は、実施の形態で説明したNMOSトランジスタを使用した構成を示す。
【0289】
図25(b)は、図25(a)の構成に対し、ビット線とソース線の接続関係を入れ替えた構成を示す。
【0290】
図25(c)は、図25(b)の構成に対し、ソース線を、固定された基準電圧を供給する基準電源に接続した構成を示す。この場合、基準電圧に対してビット線電圧を高くするか、低くするかで書き込み状態を制御する。
【0291】
図25(d)は、NMOSトランジスタを使用した図25(a)の構成に対し、PMOSトランジスタを使用した構成を示す。この場合、PMOSトランジスタの基板電圧は、電源電圧VDDなどの高電位が供給される。また、メモリセルはワード線をロウレベルにすることで選択される点が異なるが、その他の制御方法は図25(a)のNMOSトランジスタで構成した場合と同じである。
【0292】
図25(e)は、図25(d)の構成に対し、ビット線とソース線の接続関係を入れ替えた構成を示す。
【0293】
図25(f)は、図25(e)の構成に対し、ソース線を、固定された基準電圧を供給する基準電源に接続した構成を示す。この場合、基準電圧に対してビット線電圧を高くするか、低くするかで書き込み状態を制御する。
【0294】
図26(a)〜図26(f)は、図25(a)〜図25(f)の回路を実現するための、抵抗変化素子とトランジスタの本発明に係る接続関係を示す図である。
【0295】
ここで、抵抗変化層309eは抵抗変化層309bと同じく酸素不足型のタンタル酸化物よりなり、下部電極309dは上部電極309cの構成材料と同じく抵抗変化を起こしやすいPtで構成され、上部電極309fは下部電極309aと同じく抵抗変化を起こしにくい電極材料であるWで構成される。
【0296】
図26(a)は、図22(a)に示される構成と同一であるので、説明は省略する。
【0297】
図26(b)は、図26(a)の構成に対し、ビット線とソース線の接続関係を入れ替えて構成され、抵抗変化を起こしやすい電極材用で構成された上部電極309cがソース線に接続され、抵抗変化を起こしにくい電極材料で構成された下部電極309aが、NMOSトランジスタを介してビット線に接続される。
【0298】
この場合も図26(a)の場合と同様、ソース線とワード線は同方向に配線され、ビット線はこれらに垂直方向に配線される。
【0299】
図26(c)の構成では、抵抗変化を起こしやすい電極材用で構成された上部電極309cが基準電源に接続され、抵抗変化を起こしにくい電極材料で構成された下部電極309aが、NMOSトランジスタを介してビット線に接続される。
【0300】
図26(d)は、図26(a)の場合とは反対に、抵抗変化を起こしにくい電極材用で構成された上部電極309fがビット線に接続され、抵抗変化を起こしやすい電極材料で構成された下部電極309d側が、PMOSトランジスタを介してソース線に接続される。この場合も図26(a)の場合と同様、ソース線とワード線は同方向に配線され、ビット線はこれらに垂直方向に配線される。
【0301】
図26(e)は、図26(d)の構成に対し、ビット線とソース線の接続関係を入れ替えて構成され、抵抗変化を起こしにくい電極材用で構成された上部電極309fがソース線に接続され、抵抗変化を起こしやすい電極材料で構成された下部電極309dが、PMOSトランジスタを介してビット線に接続される。
【0302】
この場合も図26(d)の場合と同様、ソース線とワード線は同方向に配線され、ビット線はこれらに垂直方向に配線される。
【0303】
図26(f)は、抵抗変化を起こしにくい電極材用で構成された上部電極309fが基準電源に接続され、抵抗変化を起こしやすい電極材料で構成された下部電極309dが、PMOSトランジスタを介してビット線に接続される。
【0304】
図27は、PMOSトランジスタで構成される図26(d)の1T1R型のメモリセル400を、不揮発性記憶装置に適用した場合に、図21におけるC部(2ビット分)に対応する断面図、および抵抗変化素子409の拡大図である。なお、図22に示されるメモリセル300と共通する部分は同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0305】
メモリセル400は、半導体基板301上に、Nウェル418、第2のP型拡散層領域402a、第1のP型拡散層領域402b、ゲート絶縁膜303a、ゲート電極303b、第1ビア304、第1配線層305、第2ビア306、第2配線層307、第3ビア308、抵抗変化素子409、第4ビア310、第3配線層311を順に形成して構成される。
【0306】
第4ビア310と接続される第3配線層311がビット線BL0に対応し、トランジスタ417の第2のP型拡散層領域402aに接続された、第1配線層305および第2配線層307が、この図面に垂直に走るソース線SL0に対応している。Nウェルには、この不揮発性記憶装置200の電源電圧VDDが、VDD電源線(図示なし)より、一般的に知られている構成で供給されている。
【0307】
図27の拡大部分に示されるように、抵抗変化素子409は、第3ビア308上に下部電極309d、抵抗変化層309e、上部電極309fがサンドイッチ状に形成され、さらには第3配線311と接続される第4ビア310につながっている。
【0308】
ここで、PMOSトランジスタで構成した1T1R型メモリセル(図26(d)〜図26(f))の場合、NMOSトランジスタで構成した1T1R型メモリセル(図26(a)〜図26(c))の場合とは逆に、トランジスタ417の第1のP型拡散層領域402bと接続される下部電極309dを、抵抗変化を起こしやすい電極材料であるPtで構成し、上部電極309fを、抵抗変化を起こしにくい電極材料であるWで構成している。
【0309】
これは、基板バイアス効果の影響が少なく、電流駆動能力が大きく取れるトランジスタ417の駆動方向は、第2のP型拡散層領域402aをソースとし、このPMOSトランジスタの基板電圧となるNウェル418の電圧(VDD)に近くなる、すなわち、下部電極309dをハイレベルとし、上部電極309fをロウレベルにする方向である。
【0310】
この電圧印加方向に、より大きな電流が必要な低抵抗状態から高抵抗状態の抵抗変化方向を一致させるには、下部電極309dを抵抗変化を起こしやすい電極材料で構成し、反対に上部電極309fを抵抗変化を起こしにくい電極材料で構成することであり、上部電極309fに対し下部電極309dに正の電圧が印加され、このとき、下部電極309dの界面近傍で酸化現象が進行し高抵抗状態に変化できる。
【0311】
なお、一般的には1T1R型メモリセルには、NMOSトランジスタが使用される場合が多いが、PMOSトランジスタでメモリセルを形成する場合として、次のような場合が考えられる。
【0312】
例えば、選択するメモリセルにおいて、より大きなトランジスタの駆動電流を得る目的で、メモリセルのトランジスタの閾値電圧だけを低く設定することがある。この場合、選択メモリセルが属するビット線に接続される、選択メモリセル以外の非選択メモリセルへのリーク電流も増大する。その結果、読み出し特性が低下することが考えられる。
【0313】
選択メモリセルの駆動電流を維持したままリーク電流増大を回避する一つの方法として、半導体基板301の領域をいくつかのブロックに電気的に分離した構造とし、選択メモリセルが属するブロック以外のトランジスタについてその閾値電圧が高くなるように、そのブロックの基板電圧を変えてそのリーク電流を低減する方法が考えられる。
【0314】
一般的に、多くのCMOS型半導体装置において、半導体基板301にはP型シリコン半導体が用いられている。従って、このような構成を実施しようとすると、メモリセルのトランジスタをNMOSトランジスタで構成する場合、例えばトリプルウェル構造として知られているウェル構造を採用して、基板領域をいくつかのブロックに電気的に分離する必要がある。その場合、新たな製造工程の追加が必要になり、コスト増大につながる。
【0315】
これに対し、メモリセルのトランジスタをPMOSトランジスタで構成する場合、Nウェル418を所望の単位でレイアウト設計してブロック化すればよいだけなので、製造工程の追加を伴わずブロックごとの分離が実施できる優位点が考えられる。
【0316】
また、図22および図27の断面図は、それぞれ図26(a)、図26(d)に対応して示している。
【0317】
NMOSトランジスタで構成される図26(b)、図26(c)に対応する断面図は、図22(a)の断面図に対して、ソース線、ビット線、基準電源が接続される配線層が変わるだけなので、説明を省略する。
【0318】
また、PMOSトランジスタで構成される図26(e)、図26(f)に対応する断面図は、図27の断面図に対して、ソース線、ビット線、基準電圧が接続される配線層が変わるだけなので、説明を省略する。
【0319】
表3は、図26(a)〜図26(f)に対応するメモリセル構造に関して、その各々について、抵抗素子に低抵抗化書き込みを行う場合と、高抵抗化書き込みを行う場合の、ビット線とソース線の制御方法を示すものである。
【0320】
【表3】

【0321】
なお、図26(b)及び図26(d)の構造の場合、図21に示すブロック図において、LR化用電源212の出力V2は、書き込み回路206に供給され、HR化用電源213の出力V1は、行ドライバ207に供給される構成となる。
【0322】
また図26(c)及び図26(f)の構造の場合、図21に示すブロック図において、書き込み回路206に供給されているHR化用電源213の出力V1は、抵抗変化素子309を高抵抗化させるための高抵抗化電圧VHRと抵抗変化素子309を低抵抗化させるための低抵抗化電圧VLRの和以上の電圧値が設定され、行ドライバ207に供給されているLR化用電源212の出力V2は、その中間付近の電圧値が設定される。
【0323】
各メモリセルにおいて、1つの方向の抵抗変化(低抵抗化または高抵抗化)を安定的に生ぜしめる電圧印加方向(駆動極性)は、表3に従って一義的に決まるので、抵抗変化特性のモードを識別する情報を管理する必要がなく、回路構成が単純化できる。
【0324】
なお、上記した実施形態では、抵抗変化層とした酸素不足型のタンタル酸化物、ハフニウム酸化物を用いた例について説明したが、これに限定されるわけではなく、他の遷移金属の酸素不足型の酸化膜を抵抗変化層に用いた不揮発性記憶素子にも応用可能である。
【0325】
なお、本実施の形態において、抵抗変化を起こしやすい電極材料としてPtを用いたが、他にIr、Pd、Ag、Cuを用いてもよい。
【0326】
同様に、抵抗変化を起こしにくい電極材料としてWを用いたが、他にNi、Ta、Ti、Al、チッ化Taを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0327】
以上説明したように、本発明では、抵抗変化素子を用いた1T1R型メモリセルで構成された抵抗変化型不揮発性記憶装置を、小さなレイアウト面積で実現することができるので、例えば、高集積かつ小面積のメモリを実現するのに有用である。
【符号の説明】
【0328】
200 不揮発性記憶装置
201 メモリ本体部
202 メモリアレイ
203 列選択回路
204 センスアンプ
205 データ入出力回路
206 書き込み回路
207 行ドライバ
208 行選択回路
209 アドレス入力回路
210 制御回路
211 書き込み用電源
212 低抵抗(LR)化用電源
213 高抵抗(HR)化用電源
300 メモリセル
301 半導体基板
302a、302b N型拡散層領域
303a ゲート絶縁膜
303b ゲート電極
304、306、308、310 ビア
305、307、311 配線層
309 抵抗変化素子
309a、309d 下部電極
309b、309e 抵抗変化層
309c、309f 上部電極
317 トランジスタ
400 メモリセル
402a、402b P型拡散層領域
409 抵抗変化素子
417 トランジスタ
418 Nウェル
500 不揮発性記憶素子
501 単結晶シリコン基板
502 酸化物層
503 下部電極
504 酸素不足型の遷移金属の酸化物層
505 上部電極
506 素子領域
1401、1501 下部電極
1402、1502 酸素不足型のタンタル酸化物層
1403、1503 上部電極
1404、1504 酸素イオン
3301 下部電極
3302 抵抗変化層
3303 上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在させ、前記第1電極と前記第2電極と接するように設けられており、前記第1電極と前記第2電極間に与えられる極性の異なる電気的信号に基づいて可逆的に抵抗値が変化する抵抗変化層からなる不揮発性記憶素子と、
前記半導体基板の主面に形成されたMOSトランジスタと、を備え、
前記第1電極が前記第2電極よりも前記半導体基板の主面により近い下部電極として配置され、
前記第2電極が前記第1電極よりも前記半導体基板の主面からより遠い上部電極として配置され、
前記メモリセルにおいて、
前記MOSトランジスタは、ワード線に接続されたゲートと、前記下部電極に電気的に接続されたドレイン及びソースの一方と、ソース線に電気的に接続された前記ドレイン及び前記ソースの他方と、を有し、
前記ソース線は、互いに平行に配置されかつ1つ以上のビアで接続された複数のレイヤーで形成される配線層からなり、
前記不揮発性記憶素子は、前記複数のレイヤーの配線層で形成される前記ソース線の複数のレイヤーの何れの配線層よりも前記半導体基板の主面からより遠い側に配置され、
前記ビット線は、当該不揮発性記憶素子に対して、前記半導体基板の主面からより遠い側に配置されて前記不揮発性記憶素子の前記上部電極と接続される
抵抗変化型不揮発性記憶装置。
【請求項2】
前記ビット線は、前記半導体基板の主面と平行な面内において、互いに平行に配置された複数のビット線のうちの1本であり、
前記ソース線は、前記複数の各レイヤーにおいて、前記半導体基板の主面と平行な面内において、互いに平行に配置された複数のソース線のうちの1本であり、
前記複数のビット線と前記複数のソース線とが互いに交差して配置されている
請求項1に記載の抵抗変化型不揮発性記憶装置。
【請求項3】
前記ワード線は、前記ソース線と平行に配置されている
請求項1に記載の抵抗変化型不揮発性記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2012−182493(P2012−182493A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−133366(P2012−133366)
【出願日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【分割の表示】特願2009−523092(P2009−523092)の分割
【原出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】