説明

押出し成形されたガラス構造およびその製造方法

ガラス先駆体を押出し成形することを含むガラス構造の調製方法であって、上記ガラス先駆体が55%〜75%のSiO、5%〜10%のNaO、20%〜35%のB、および0%〜5%のAlの範囲内の組成を有し、かつこのガラス先駆体を熱処理および溶出して、少なくとも90重量%のシリカを含有するガラス物品を得る。このガラス物品は、種々の幾何学的に複雑な構造の製造に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、「押出し成形されたガラス構造およびその製造方法」と題して2007年2月28日付けで提出された米国仮特許出願第60/903,903号の優先権を主張した出願であり、その内容は本願の基になるものであり、その全てが引用されて本明細書に組み入れられる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、低温のガラス先駆体ならびにその後における押出し成形されたガラス先駆体から高温の幾何学的に複雑なガラス構造の形成に関するものである。
【背景技術】
【0003】
ガラスで作製された一般的な構造体は我々の日々の生活から切離せないものになって来ているが、ガラスの独特の特性も、高度技術の専門用途に関する複雑な構造体に使用することを可能にしている。例えば、ガラスからなるフォトニック結晶ファイバ、光触媒基板および濾波デバイスは後者のカテゴリーに属する。このような構造体は、一般に幾何学的に複雑であり、それ故に製造が困難である。幾何学的に複雑なことは別にして、これらの構造体は、工業用の用途に対して、高い紫外光透過性、高い軟化温度、および低い熱膨張率等の特徴を有することが望まれている。
【0004】
このような構造体に関する一般的な製造方法には、多くの他の方法の中でも押出し成形が含まれる。しかしながら、幾何学的に複雑な構造を形成するための一般的なガラスの押出し成形は、多くの難問を提供する。例えば、複雑なガラス構造を製造するのに用いられる一般的なガラス(例えば、溶融シリカおよび溶融石英等の硬質ガラス)の軟化温度は凡そ1550℃〜1700℃の範囲内にある。一度軟化されかつ溶融されると、従来の硬質ガラスの押出し成形は、凡そ1800℃〜2000℃で行なわれるであろう。このような高い温度におけるガラスの完成および押出し成形は極めて困難である。
【0005】
幾何学的に複雑な構造の製造において、高温の硬質ガラスに代えて低温の軟質ガラスを使用することが一般に知られている。このような低温ガラスは、凡そ500℃〜800℃の軟化温度を有し、約800℃〜1200℃で押出し成形される。低温ガラスは一般的に、溶融および押出し成形が高温ガラスよりも容易であるが、低温ガラスは同様に課題を有する。特に、低温ガラスは、シリカ以外に、鉛、アルカリ金属またはアルカリ土金属等の成分を含有していることが多い。これらのその他の成分は、軟化温度を低下させ、かつこれらのガラスがより効果的に押出し成形されるのを可能にするが、得られた構造体は、低い紫外光透過性、低い軟化温度、および高い熱膨張率を有し、これらを工業用に使用するのは望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、高い紫外光透過性、高い軟化温度、および低い熱膨張率を備えているが、幾何学的に複雑な構造の効果的な製造が容易であるガラス材料が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の問題点および欠点に対処しかつこれらを未然に防ぎ、さもなければ従来の押出し成形されたガラス構造およびこのガラス構造の製造方法の改善を目的とするものである。
【0008】
上述の事項を達成するために、本発明の一つの実施の形態は、酸化物を基準とする重量%で表した場合に、55%〜75%のSiO、5%〜10%のNaO、20%〜35%のB、および0%〜5%のAlから実質的になる組成を有するガラス先駆体を提供する工程を含む方法によって作製されたガラス物品を含む。上記方法はまた、上記ガラス先駆体を押出し成形する工程、熱処理によって上記ガラス先駆体に相分離を生じさせる工程、このガラス先駆体を溶出させて、少なくとも90重量%のシリカを含有する多孔質ガラス物品を得る工程、および必要に応じて、この多孔質ガラス物品を、気泡が潰れるように加熱して、緻密化されたガラス物品を形成する工程も含む。
【0009】
さらに上述の事項を達成するために、本発明の一つの実施の形態は、酸化物を基準とする重量%で表した場合に、55%〜75%のSiO、5%〜10%のNaO、20%〜35%のB、および0%〜5%のAlから実質的になる組成を有するガラス先駆体を提供する工程を含むガラス物品の調製方法を含む。この方法はまた、上記ガラス先駆体を押出し成形する工程、熱処理によって上記ガラス先駆体に相分離を起こさせる工程、溶出させて、少なくとも90重量%のシリカを含有する多孔質ガラス物品を得る工程をも含む。
【0010】
添付の図面を、下記の詳細な説明と関連させて考慮したときに、本発明の完全な理解が得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一つの実施の形態によるガラス構造の製造方法の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の一つの実施の形態により形成されたガラス構造の一例から採取された紫外光・可視光透過度測定(透過度/波長/吸収度)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面に示されている実施の形態は、請求項により定義された本発明の本質を示すものであって、本発明を限定するものではない。さらに、図面および本発明の個々の特徴は、発明の詳細な説明に鑑みてより完全に明らかになりかつ理解されるであろう。
【0013】
本明細書および請求項で用いられている成分の重量%、寸法および或る物理的の特性に関する値を表す数値は、特に指示がない限り、全ての場合に「約」によって加減されるものと理解すべきである。また、本明細書および請求項で用いられている正確な数値は、本発明のさらなる実施の形態を形成することを理解すべきである。実施の形態中に開示された数値の正確性を保証するための努力がなされている。しかしながら、何れの測定値も、それぞれの測定技法に見られる標準偏差に起因する幾許かの誤差を本質的に含んでいる可能性がある。
【0014】
本発明の説明および請求項において、不定冠詞は「少なくとも一つ」を意味し、特にそれに反する説明がない限り、「一つのみ」に限定してはならない。ここで用いられている成分の「重量%」は、特にそれに反する説明がない限り、その成分を含んでいる組成または物品の全体の重量を基準としている。ここに用いられている全てのパーセンテージは、特に指示場内限り重量パーセントである。
【0015】
ここで用いられている「ガラス先駆体」は、押出し成形に用いられ、および/または最初の熱処理および溶出を被る基礎となるガラス材料である。ここで用いられている「ガラス物品」は、溶出がなされたガラス材料である。この「ガラス物品」は、多孔質体(例えば「乾いたガラス」)または固結体(さらなる処理ステップを経た)である。ここに記載されている方法によって形成された「ガラス物品」は、二、三の例を挙げると、フォトニック結晶ファイバ、光触媒基板および濾波デバイスを含む他の幾何学的に複雑な種々の「ガラス構造」の製造に利用することができる。したがって、ここで用いられている「ガラス構造」は、溶出から得られる製品および/または他のガラス構造(例えば、フォトニック結晶ファイバ、光触媒基板および/または濾波デバイスを生成させるための後処理を受けた溶出がなされた製品を含む。
【0016】
本発明の一実施例によるガラス構造を形成する例示的な方法が図1に示されている。ここに、より完全に説明されているように、本発明者等は、比較的低い軟化温度を備えたガラス先駆体の押出し成形と、それに続く、得られた構造の軟化温度を高め、紫外光透過度を高め、熱膨張率を低下させる処理とを組み合わせ、これにより、幾何学的に複雑な構造のより効率的な製造方法が可能になることを発見した。したがって、押出し成形されるべきガラスが高い軟化温度を有していた(そして押出し成形が困難であった)または低い軟化温度を有していた(そして紫外光に対する低い透過度および高い熱膨張率を有していた)従来のガラスの押出し成形とは対照的に、ここに記載されている、ガラス先駆体/材料および方法により形成されたガラス構造は、押出し成形がより容易でかつ工業用途に関して望ましいこれらの構造を作製する特徴を保有している。
【0017】
一つの実施の形態において、ガラス先駆体は、シリカ含有率が高いものの一つである。このようなガラスが一般に備えている特性は、幾何学的に複雑な構造に望ましいと思われる。例えば、シリカ含有率が高いガラス先駆体は、通常凡そ1500℃以上の軟化温度と、低い熱膨張度と、高い紫外光透過度とを有する。一つの実施の形態において、ガラス先駆体/材料は、ニューヨーク州コーニング所在のコーニング社によって製造されたVYCOR(登録商標)に関する先駆体を含む。一般的に、「VYCOR」は、硼珪酸アルカリガラスとして出発し、処理ステップを経て硼珪酸アルカリガラスを96%シリカ組織に変換する。この96%シリカ組織は多孔体または固結されたガラス体である。
【0018】
「VYCOR」製品および一つのガラス先駆体が、その全てが引用されて本明細書に組み入れられるコーニング社の米国特許2,106,744号明細書(744特許)に記載されている。そこに開示されているように、三成分系RO−B−SiOの或る領域におけるガラス組成は、適切な熱処理により二つの相に分離する。これらの相の一つはシリカが非常に多く、他の相はアルカリおよび酸化硼素が非常に多い。上記744特許には、75%のSiO、5%のNaOおよび20%のBからなる先駆体組成が開示されている。しかしながら、そこに記載されている方法に用いる他の先駆体組成は、例えば、60.82%のSiO、7.5%のNaO、28.7%のB、2.83%のAlおよび0.15%のClからなる組成を含み、このような組成物は670℃近辺の軟化点および52.5×10/K近辺の熱膨張率を有する。勿論、55〜75%のSiO,5〜10%のNaO、20〜35%のB,0〜0.5%のAlおよび0〜0.5%のClの組成範囲(重量%において)を有する他のシリカガラス組成物が本発明の方法に用いられることも理解すべきである。
【0019】
一般的に、ガラス材料の押出し成形は、押出し成形機のダイが最終的な用途に必要な如何なる望ましい幾何学的形態をも備えることができるので、多くの代案構成が可能である。例えば、ダイはハニカム構造を押出すように構成されていても、あるいは最終的にフォトニック結晶光ファイバ、光触媒基板、濾波システムおよび複雑な幾何学的構造に形成されるその他の構造を押出すように構成される。さらに、本発明により押出し成形されたガラス材料は、ガラス先駆体/材料の初期の加工性の結果として、構造上のより大きい融通性を許容し、それ故に、押出しによって新規な幾何学的構造の創出が可能になる。
【0020】
図1に示された例示的工程を参照すると、押出しに先立って、ガラス先駆体/材料は約1500℃において溶融される(ステップ20)。ここに記載されているガラス先駆体とは対照的に、溶融シリカまたは溶融石英等の硬質ガラスの押出し成形は、それが高い軟化/加工温度(1500℃/1800℃を超える)を有しているので押出し成形が困難である。その後、ガラスは室温に冷される(不図示)。
【0021】
次にガラスは、押出し成形が可能なように、凡そ700℃〜900℃に再加熱される。次に熱いガラスが押出し成形機を通して押出されて(ステップ30)、ダイに対応した形状となる。ガラスは、直径10cm(4インチ)のブールに亘って約90〜1350kg(200〜3000ポンド)(0.11〜1.45MPa(16〜210psi))を用いてダイを通して圧縮される(ステップ30)。この押出し成形は、受動的または能動的工程を用いて、通気または冷気ショックから保護される。一つの実施の形態においては、ダイは、フォトニック結晶光ファイバ(後述)に組み入れられるように六角形を有する。しかしながら、ダイは最終的な用途に応じた如何なる形状を有していてもよいことを理解すべきである。
【0022】
必要に応じて、押出されたガラス材料は、熱処理(ステップ50)に先立って再延伸され(ステップ40)細くされる。例えば、押出し成形機を出た(ステップ30)ガラスは約7.6cm(3インチ)の直径を有する。次にガラス材料は、幾何学的完全性を保ちながら、2:1〜10:1の比率(用途に応じて望ましい他の如何なる比率でもよい)で再延伸されてガラス材料の直径を減らす。再延伸は、押出しに必要な温度よりも一般に約100℃高い温度で行なわれる。
【0023】
なおも図1を参照すると、押出し成形後、押出されたガラス材料は熱処理される(ステップ50)。ガラス材料の熱処理は、特定の立上り速度および冷却速度をもって凡そ580℃〜650℃で行われる。ガラス材料が熱処理される所要時間は、ガラスの壁の厚さに応じて変更されるが、一般に3時間が知られている(例えば、厚さ1mmのサンプルは、600℃〜650℃において20分熱処理される)。熱処理中、ガラス内の硼酸アルカリ属(アルカリおよび酸化硼素が極めて多い)と酸化珪素(シリカが極めて多い)の間で相分離が生じる。
【0024】
熱処理(ステップ50)後、ガラス材料はエッチングされて(不図示)シリカに富んだ被膜が除去される。エッチングは、熱処理されたガラスをNHHF10%溶液の槽に浸すことによって行なうことができる。エッチングの所要時間はガラスの壁の厚さに左右されるが、数時間から数日である(例えば、厚さ1mmのサンプルは、室温で10分間にエッチングされる)。
【0025】
熱処理されたガラス材料は、次に溶出(leaching)ステップ60を受ける。溶出ステップ60の間、上記硼酸アルカリが除去される。溶出ステップ60は、HNOを用いて多段階で行なわれる(例えば、それぞれ95℃において、厚さ1mmのサンプルは45時間以上で溶出され、厚さ6mmのサンプルは30日間で溶出される)。このガラス材料は、次に洗浄されかつ乾かされる。溶出後、凡そ1〜6nmの大きさの相互接続された相分離された網状組織を備えたガラス物品が生じる。
【0026】
上述の処理の結果、軟化温度が約670℃(ガラス先駆体)から1500℃(ガラス物品)まで上昇する。これに加えて、この段階のガラス構造は、約1nmから約12nmまでの範囲内で、平均サイズが約5nm〜6nmの気泡を備えた多孔質(28〜30容量%)である。必要に応じて、このガラス物品は気泡が潰れるように加熱されて、より緻密になったガラス物品を形成する。これに加えて、このガラス構造は少なくとも90重量%で約96重量%までのシリカを含んでいる(溶出ステップ60後のガラス構造中に4%の残留硼素が通常存在するので、シリカは凡そ96%(例えば95%以上)である)。
【0027】
ここに説明されているように、溶融後のガラス先駆体の再加熱および押出し工程のための高温および高圧が必要であるにも拘わらず、相分離はこのような熱処理によって悪影響を受けない。このような熱処理は相分離に少しは妨害することが予測されたので、このことは意外であった。それ故に、ここに説明されているガラス先駆体は、効率的に押出され(それらの低い軟化温度故に)、次いで相分離され(かつ溶出され)て、低い熱膨張率および高い紫外光透過度を備えたガラス構造を生む。したがって、ここに説明されている、ガラス先駆体およびガラス構造は言うまでもなく、これらを使用かつ製造する方法は、幾何学的に複雑な構造のより効率的な製造を提供するのみでなく、高いまたは低い軟化点を備えた従来のガラスの押出し成形を通じては得られなかった新規な複雑なガラス構造の製造方法を提供するものである。
【0028】
また、ここに説明されている熱処理(例えば押出し成形を含む処理)は相分離を妨害しないために、本発明のガラス先駆体の多くの製造方法が実現可能である。例えば、図1を参照すると、押出し成形(ステップ30)の次に熱処理(ステップ50)を行なうのではなく、別の実施の形態においては、ガラス先駆体が先ず熱処理され、次いで押出し成形されてもよい(各ステップは上述のように行なわれる)。ここに説明されている熱処理された後のガラス先駆体の押出し成形は、熱処理中に生じる相分離を妨害しないと思われる。同様に、さらに別の実施の形態において、ガラス先駆体が熱処理されて、押出し成形中に相分離を開始し、これにより二つのステップが結合する。相分離は押出し工程に影響されないと思われるので、種々の工程が検討されかつ理解されるべきである。したがって、「押出し」および「熱処理」は順次の、または独立した処理ステップに限定されるべきではない。
【0029】
提示されているように、ここに記載されている方法により形成されたガラス構造は、多孔質の(例えば「渇いたガラス」)また固結された(下記のような後工程を経て)ものであり得る。図2に示されているように、厚さ3.9mm(1mmに標準化されている)の固結されたガラスに関する紫外光・可視光の透過度が測定された。図2のガラス構造は、Gary SG紫外光・可視光・近赤外光分光計を用いて、下記の機器パラメータを用いて800nm〜185nmの紫外光・可視光に関する透過度が下記の機器パラメータを用いて測定された。すなわち、平均時間:0.1秒、走査速度:120nm/分、スペクトル帯域幅:2.0nm、ビームモード:ダブル、スリット高さ:フル、検知器:PMT,ソース切替え(タングステン・ハロゲン→ジュウテリウム):350nm、空のサンプルホルダを用いてベースラインが訂正され、サンプル開口:12mm×19mm。本図において、201は、サンプルの標準化された吸収度曲線(log10)、203は、サンプルの標準化された透過度曲線、205は、サンプルの反射を伴わない透過度曲線である。 図2に示されているように、本発明により作製されたガラス構造は、300nmにおいて90.29%の標準化された透過度を有する。ここに説明された処理ステップ(熱分離および溶出)は、より高い軟化温度およびより低い熱膨張率を有するのみでなく、工業用に望ましい高い紫外光透過度をも有する。
【0030】
再び図1を参照すると、ここに説明された工程を通じて製造されたガラス構造に対する後処理は、多くの製品の製造に用いることができる。例えば、可視光および紫外光に対する高い透過度および多孔質(触媒の容易な組込みを可能にする)の故に、本発明のガラス構造は、光触媒支持体/デバイス(例えば、光、ガス反応物質、および触媒の全てが互いに三次元的に結合することができる)として用いることができる。特に、光触媒支持体を形成するために、ガラス構造(固結されまたは多孔質)はその他の多くの中でTiO、ZnS,CdS等の適当な光触媒材料で被覆され、かつ可視光源および/または紫外光源で照射されて三次元的光触媒支持体70として動作する。
【0031】
固結された光触媒支持体が望まれる場合には、ガラス構造は、溶出ステップ60の後、1225℃において少なくとも30分間固結されて、気泡を潰して密実体となり得る。このような固結された光触媒支持体においては、可視光および紫外光が組織によって妨げられずに壁を通過して半導体触媒を活性化し、電子・正孔対を生成し、同時に、ここに説明されている処理を通じて製造されたガラス構造の高い透過度の故に、反応ガスが光源によって妨害されずにチャンネルを流れることができる。固結されていない(多孔質すなわち渇いた)光触媒支持体においては、可視光および紫外光は、半導体被覆によって散乱されかつ吸収される。この形式の反応体は、等質および異質の光触媒の双方に適している。揮発性有機化合物(VOC)の水分解および分解は広範囲に研究された。ここに提案された構造はこれらおよびその他の反応に適している。
【0032】
別の実施の形態においては、ここで説明された工程によって製造されたガラス構造は、フィルタまたは膜システム80を作製するのに用いることができる。このようなシステムにおいて、薄い壁を備えた多孔質ガラス物品が一般に望まれる。ここに説明されているガラスの押出し成形に伴う可能性の故に、薄い壁材料は、押出されかつこのようなシステムを使用するために、所望の仕様(例えば2:1から100:1まで)さらに延伸される。これに加えて、多孔質構造は、固結後にガラス内に維持される種々の成分を含浸することができる。実例は、PbSおよびCdS、磁気相、および多くの遷移金属酸化物等の量子ドットである。
【0033】
さらに別の実施の形態において、ここに説明されている工程によって製造されたガラス構造は、固結され、かつフォトニック結晶ファイバ80(例えば、フォトニック・バンドギャップ・ファイバ、孔明きファイバ、空孔付加型ファイバおよび/またはブラッグファイバ)のためのファイバープリフォームを作製するのに用いられる。純粋のシリカ(硬質ガラス)のフォトニック結晶ファイバを生産するために用いられる従来の方法は、高純度シリカチューブまたはバインダを伴った高純度スートの押出し成形を用いる積層・延伸法を含んでいる。このような硬質ガラスの高い軟化温度は,押出し成形を困難にしている。より軟らかいガラスに関しては、幾何学的に構成されたプリフォームを生成させるのに高温押出し成形が用いられてきたが、これらの軟質ガラスは、低い紫外光透過度、低い軟化温度および高い熱膨張率等の望ましくない多くの性質を有する。ここに説明されているガラス構造を生成させるガラス材料の押出し成形は、より低い温度の形成工程を提供するのみでなく、高品質のフォトニック結晶ファイバを提供しながら、従来の形成工程よりも幾何学的に複雑なパターンの製作をさらに可能にするものである。
【0034】
本発明によるガラス構造およびその製造方法は、ここに説明されている実施の形態に限定されないことは言うまでもない。当業者にとっては、多くの代案、変形および変更が明らかであろう。例えば、本発明によるガラス材料は、多数のガラス構造の製造に有用な多数の先駆体を含んでいる。したがって、代案的実施の形態のいくつかが特に論議されているが、他の実施の形態も明らかであるかあるいは当業者によって比較的容易に開発されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物を基準とする重量%で表した場合に、
55%〜75%のSiO
5%〜10%のNaO、
20%〜35%のB、および
0%〜5%のAl
から実質的になる組成を有するガラス先駆体を提供する工程、
該ガラス先駆体を押出し成形する工程、
熱処理によって前記ガラス先駆体に相分離を生じさせる工程、
前記ガラス先駆体を溶出して、少なくとも90重量%のシリカを含有する多孔質ガラス物品を得る工程、および
必要に応じて、該多孔質ガラス物品を、気泡が潰れるように加熱して、緻密化されたガラス物品を形成する工程、
によって作製されたことを特徴とするガラス物品。
【請求項2】
前記ガラス先駆体における相分離を、少なくとも部分的に前記ガラス先駆体の押出し成形と同時に生じさせることを特徴とする請求項1記載のガラス物品。
【請求項3】
前記ガラス先駆体における相分離を、少なくとも部分的に前記ガラス先駆体の押出し成形の後でかつ前記ガラス先駆体の溶出に先立って生じさせることを特徴とする請求項1記載のガラス物品。
【請求項4】
フォトニック結晶ファイバを含むことを特徴とする請求項1記載のガラス物品。
【請求項5】
前記ガラス先駆体が500℃から800℃までの範囲内の軟化温度を有し、かつ前記ガラス物品が1300℃から1700℃までの軟化温度を有することを特徴とする請求項1記載のガラス物品。
【請求項6】
酸化物を基準とする重量%で表した場合に、
55%〜75%のSiO
5%〜10%のNaO、
20%〜35%のB、および
0%〜5%のAl
から実質的になる組成を有するガラス先駆体を提供する工程、
該ガラス先駆体を押出し成形する工程、
熱処理によって前記ガラス先駆体に相分離を生じさせる工程、および
前記ガラス先駆体を溶出して、少なくとも90重量%のシリカを含有する多孔質ガラス物品を得る工程、
を含むことを特徴とするガラス物品の調製方法。
【請求項7】
前記ガラス先駆体における相分離を、少なくとも部分的に前記ガラス先駆体の押出し成形と同時に生じさせることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ガラス先駆体における相分離を、少なくとも部分的に前記ガラス先駆体の押出し成形の後でかつ前記ガラス先駆体の溶出に先立って生じさせることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項9】
フォトニック結晶ファイバを形成することをさらに含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項10】
光触媒デバイスを形成することをさらに含むことを特徴とする請求項6記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−520139(P2010−520139A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551681(P2009−551681)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/002244
【国際公開番号】WO2008/106038
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】