説明

拡散バリヤ用合金皮膜及びその製造方法、並びに高温装置部材

拡散バリヤ用合金皮膜は、Re−Cr合金皮膜よりも優れた拡散バリヤ特性を持ち、より高温(1150℃以上)での使用にも耐え得る拡散バリヤ層を有する。拡散バリヤ層18は、原子組成でWを12.5〜56.5%含み、不可避的な不純物を除いて、残りをReとしたRe−W系σ相からなる。金属基材10の表面に拡散バリヤ層18をコーティングし、更に、必要に応じて、拡散バリヤ層18の表面に、原子組成で10%以上50%未満のAl,CrまたはSiを含む拡散浸透用合金層20をコーティングすることで高温装置部材が構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ガスタービン翼、ジェットエンジンのタービン翼、燃焼器、ノズル、ボイラ伝熱管、廃棄物処理装置及び半導体製造排ガス処理装置などの高温で用いられる高温装置部材の寿命を延伸するための表面皮膜(コーティング層)として使用される拡散バリヤ用合金皮膜及びその製造方法、並びに該合金皮膜を適用した高温装置部材に関する。
【背景技術】
例えば、産業用ガスタービン翼やジェットエンジンなどの高温装置部材は、流体温度が1300℃を超える場合があり、金属材料では高温酸化が部材損傷の主原因となることがしばしばある。そこで、部材の耐熱性を向上させるために、従来、部材表面に以下のようなコーティング処理を施すことが一般に行われている。
(1)熱遮蔽コーティング(TBC)
熱遮蔽コーティング(TBC)は、金属基材(部材)表面に、トップコートと呼ばれるセラミックス層と、アンダーコート(あるいはボンドコート)と呼ばれる耐食合金層を順次積層するようにしたものである。トップコートには、主に金属基材の表面温度を約1000℃以下に低下させるため、熱伝導率の小さいZrOなどが一般に用いられる。一方、アンダーコートには、耐酸化性を付与するため、Alを数〜数十%含んだ合金(通常MCrAlYと呼ばれる)が一般に用いられる。
近年、発電効率向上の観点から、流体温度が上昇する傾向にあり、それに伴ってアンダーコートの表面温度も上昇する。このため、アンダーコート/トップコート界面に酸化皮膜が厚く成長して、トップコートが剥離すると同時に、例えばAlがMCrAlYから金属基材側に拡散することによって、金属基材の強度が低下することが大きな問題となっている。また、従来の温度においても、例えば、ジェットエンジンのタービン翼などでは、表面に熱遮蔽コーティングを施しても、寿命が半年程度と言われており、これらの部材の寿命を延伸させる技術の開発が強く望まれている。これらTBCシステムの劣化は、アンダーコート/金属基材間における合金成分の相互拡散が主原因の一つと言われている。
更に、TBCシステムは、温度低下の効果を高めるため、数百μmの厚さのトップコートと冷却空気を必要とする。このため、狭い部位や冷却空気を利用できない部位には一般に適さない。
(2)Al(またはCr,Si)拡散浸透処理
1000℃以下で耐酸化性及び耐高温腐食性を必要とする部材(金属基材)には、しばしば、Al,CrまたはSiなどの拡散浸透処理が施される。これらの元素の酸化物は、その中のイオン拡散能が小さく、このため、部材表面をこれらで被覆することで高温酸化及び高温腐食を抑制できることが知られている。従って、これらの酸化物を形成するため、部材表面を、これらの元素を数十%含んだ合金皮膜で被覆するコーティング法が採られる。その代表的な手法が拡散浸透処理である。この手法で形成した合金皮膜(コーティング層)は、拡散層を形成するため部材(金属基材)との密着性が良く、かつ、複雑な形状を有する部品や狭い部位にも適用可能である。
しかし、上記TBCシステムと同様に、高温下で長時間使用すると、合金皮膜/金属基材間において合金成分の相互拡散が生じ、合金皮膜中のAl(またはCr,Si)濃度が低下して、健全な耐食性酸化物を維持できなくなる。
(3)Ni−CrあるいはMCrAlY溶射
金属基材の表面に向けてNi−CrあるいはMCrAlYを溶射して合金皮膜を形成することも一般に行われている。溶射法によれば、合金皮膜の組成を自由に設定できる利点がある。しかし、合金皮膜が多孔質の膜であり、このため耐高温腐食コーティング層として良質の皮膜を形成することが一般に困難である。更に、溶射ガンを用いるため、適用できる部材の形状に制限があること、及び10μm程度以下の薄膜の形成が困難であるなどの欠点がある。また、短期間の使用には良いが、高温下で長期間使用すると、上記(2)と同様の理由で、金属基材(部材)の耐食性が低下する。
(4)蒸着法(PVD)、特に電子ビーム蒸着法(EB−PVD)
近年、TBCの形成方法として、EB−PVDが注目されている。これは、膜厚の厚い金属皮膜の形成が困難であったPVDと異なり、EB−PVDによれば、緻密で厚く(数百μm)、均質な金属皮膜の形成が可能となるためである。
しかし、EB−PVDによれば、金属基材を回転させることによって、曲面への施工も可能であるが、クリアランスの狭い部位などへの適用は一般に困難である。また、非常にコストの高い施工法である。更に、上記(1)〜(3)と同様、長期間あるいは超高温下での使用においては、合金皮膜/金属基材間における相互拡散に起因する合金皮膜の劣化が避けられない。
(5)Pt電気めっき+Al拡散処理
近年、例えばジェットエンジン用タービン翼の耐酸化コーティングとして、金属基材(部材)の表面にPtからなるめっき皮膜を電気めっきで形成し、その後、Al拡散処理を行うことが知られている。これは、耐食層として広く用いられているニッケル・アルミナイド(β−NiAl)にPtを添加することで、その安定化を図り、合金皮膜(コーティング層)を長時間健全に維持できるようにしたものである。
(6)Reを添加したアンダーコートを兼ね備えたTBCシステム
ReをTBCのアンダーコートに12重量%(mol%で数%)以下添加したTBCシステムが提案されている(例えば、特開平11−61439号公報参照)。また、Reを35〜60重量%(mol%で約15%〜30%)含んだTBCのアンダーコートが提案されている(例えば、特表2000−511236号公報参照)。しかし、この際のReの役割については詳細な説明がなされておらず、効果も定かでない。
(7)Re−Cr系合金による拡散バリヤ
上記(1)〜(6)の技術に共通の問題点は、約1000℃以上の高温で使用したり、あるいは1000℃以下であっても、長期間に亘って使用したりすると、コーティング層(合金皮膜)/金属基材間の相互拡散によって、Al,Cr,SiOなどの耐食性酸化物皮膜を形成するCr,Al,Siのコーティング層中の濃度が低下して、耐食性が損なわれてしまうことである。Ptを添加したβ−Ni(Pt)Alにおいても、Ptの融点が約1770℃と低いことから、1000℃以上の高温下での使用や、1000℃以下においての長時間の使用では、Ptが金属基材中へ拡散してしまい、耐食性が損なわれることが予想される。
そこで、発明者らは、コーティング層/金属基材間の相互拡散を防止する拡散バリヤとして使用されるRe合金皮膜を提案した(特開2001−323332号公報参照)。また、拡散防止効果の優れた合金皮膜組成として、Re−Cr合金皮膜(国際公開第03/038150号参照)、Re−Cr−Ni合金皮膜(国際公開第03/038151号参照)、及びRe−(Cr,Mo,W)−(Ni,Co,Fe)合金皮膜(国際公開第03/038152号参照)をそれぞれ提案した。これらの拡散バリヤ用合金皮膜は、主に、Re−Cr合金σ相を基本組成としており、基材や用途、使用温度域によって、合金皮膜の組成を最適化することができる。
【発明の開示】
Reの融点は3180℃で、Crの融点は1857℃である。このため、Re−Cr合金を基本組成とした拡散バリヤ用合金皮膜は、約2500℃前後の融点が期待でき、拡散バリヤ特性に優れることが分かる。一方で、このRe−Cr合金に、Ni,Fe,Coなど、1450〜1550℃の融点を持つ成分が合金化すると、拡散バリヤとしての融点が低下し、Re−Cr合金と比較して、拡散バリヤ特性がやや低下する。用途、使用温度域によっては、これでも十分な拡散バリヤ特性を維持するため、高温装置部材の延命に十分寄与する。しかし、場合によっては、より優れた拡散バリヤ特性を必要とする場合もある。
なお、Ni,Fe,Coは、耐熱合金基材の材料として、最も汎用的に利用されており、この表面に拡散バリヤ用合金皮膜を形成する過程において、これらの元素が拡散バリヤ用合金皮膜中に混入するのを完全に防ぐことは一般に困難である。
また、Re−Cr系σ相は、Crとの親和力が強く、金属基材中のCrがRe−Cr系σ相からなる拡散バリヤ用合金皮膜中に拡散する傾向にある。Crは、耐食性の観点から耐熱合金基材中に必ず含まれる元素であり、数%の濃度低下が生じても十分な耐食性を示す場合もある。しかし、近年は、強度の観点からCr添加量を低減する傾向にあり、最低限の量(例えば、5〜10質量%)のみを添加するようになってきている。従って、耐熱合金基材からCrがコーティング層(合金皮膜)へ拡散してしまうと、金属基材表面でCr欠乏が生じ、金属基材の耐食性低下や、相安定性が崩れることによる強度特性の低下を招くことも考えられる。
以上の観点から、用途、使用温度域、基材の種類などによっては、Re−Cr系σ相からなる拡散バリヤ用合金皮膜にも、改良の余地があると考えられる。
なお、前述のRe−(Cr,Mo,W)−(Ni,Co,Fe)合金皮膜のうち、MoとWは、Crと同属元素であることから、Crと同様の特性を持ち、かつ高融点であることから、Re−Cr−(Ni,Co,Fe)合金と更に合金化してRe−(Cr,Mo,W)−(Ni,Co,Fe)合金とすることで、より優れた拡散バリヤ特性を示すことが予想される。しかし、WとMoの最適合金組成及び合金皮膜としての特性については明らかにされていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、Re−Cr合金皮膜よりも優れた拡散バリヤ特性を持ち、より高温(例えば、1150℃以上)での使用にも耐え得る拡散バリヤ用合金皮膜及びその製造方法、並びに該合金皮膜を適用した高温装置部材を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の拡散バリヤ用合金皮膜は、原子組成でWを12.5〜56.5%含み、不可避的な不純物を除いて、残りをReとしたRe−W系σ相からなる拡散バリヤ層を有する。
本発明の目的は、特に1000℃以上の超高温下において、金属材料を長期間健全に使用するため、拡散バリヤによる耐熱・耐食コーティングを提供することである。その好適な例として、これまで、本質的にRe−Cr系σ相からなる拡散バリヤ用合金皮膜を提案してきた。このRe−Cr系σ相からなる合金皮膜は、1000℃以上の超高温下において十分な拡散バリヤ特性を示すが、以下のような欠点も併せ持つ。
1)Ni,Fe,Coなどが金属基材から拡散して合金化することで融点が下がり、拡散バリヤ特性がやや低下する。
2)金属基材からCrが拡散してくることで、金属基材中にCr欠乏層が形成される。
本発明の拡散バリヤ用合金皮膜は、Re−Cr系σ相ではなく、Re−W系σ相からなる拡散バリヤ層を有する。Wの融点は、3410℃であるため、WとReとの合金も3000℃程度の融点を有することが予想される。従って、Ni,Fe,Coなどが金属基材から拡散してきて合金化しても、Re−W系σ相の方がRe−Cr系σ相よりも融点の低下が小さい。WはCrと同属元素であるため、Re−W合金からなる拡散バリヤ層中へ金属基材からCrが拡散してきて、金属基材中にCr欠乏層を形成することが予想される。しかし、発明者らの研究の結果、Re−W合金は、むしろCrを排除する傾向を有することが分かった。すなわち、Ni,Fe,Coなどを主成分とする金属基材の表面に、Re−W合金からなる拡散バリヤ層を形成すると、高温下での使用によって、Ni,Fe,Coなどが拡散バリヤ層中へ拡散してきても、拡散バリヤ特性を損なうことはなく、また、金属基材中に金属基材からのCrの拡散によるCr欠乏層も形成されない。
拡散バリヤ層は、金属基材の強度に有害なAlや、耐酸化性維持に有害なTi,Taなどの拡散を抑制するのに有効な組成である必要があり、かつ、耐酸化性を有するAl含有合金層や金属基材に接して長時間安定に存在できる特性を有する必要がある。すなわち、
1)Al,Ti,Taなどの透過能が小さく、かつ、
2)Al含有合金層や金属基材との反応のギブスエネルギが正の値を取るか、あるいは負であっても絶対値の小さいものが好ましい。
原子組成でWを12.5〜56.5%含み、不可避的な不純物を除いて、残りをReとしたRe−W系σ相からなる連続層としての拡散バリヤ層(合金皮膜)は、このような拡散バリヤとしての要求を満たすことができる。
本発明の他の拡散バリヤ用合金皮膜は、原子組成でWを12.5〜56.5%、Reを20〜60%含み、かつ、ReとWの総量が50%以上であり、不可避的な不純物を除き、残りをCr,Ni,Co及びFeから選ばれる少なくとも一つ以上とした、本質的にRe−W系σ相からなる拡散バリヤ層を有する。
このような組成の合金皮膜にあっても、前述と同様に、拡散バリヤとして要求される要件を満たすことができる。
本発明の拡散バリヤ用合金皮膜の拡散バリヤ層は、例えば、金属基材の表面に、ReまたはRe合金めっきと、WまたはW合金めっきとをそれぞれ施した後、1200℃以上で熱処理を施すことによって形成される。
例えば、細孔部への施工のために水溶液めっきを用いる場合、W合金めっきとして、金属錯化剤としてのクエン酸を含み、アンモニアの添加によってpHを調整したアンモニア性クエン酸浴によるNi−W合金めっきを行うことで、クラックが生じにくく、均一な膜厚の拡散バリヤ層を形成することができる。
本発明の拡散バリヤ用合金皮膜は、前記拡散バリヤ層と該拡散バリヤ層がコーティングされる金属基材との界面に、Reを分散させたRe分散層を更に有することが好ましい。
拡散バリヤ層と該拡散バリヤ層がコーティングされる金属基材の界面に、Reを分散させたRe分散層を挿入することで、拡散バリヤ層と金属基材との結合力を高めるとともに、マクロ的な熱膨張係数を、拡散バリヤ層と金属基材の中間的な値にすることができる。
金属基材の表面に、Re合金めっきを2段階に分けて行い、W合金めっきを行った後、1200℃以上で熱処理を施すことによって、前記Re分散層及び前記拡散バリヤ層を形成することができる。
前記拡散バリヤ層の表面に、原子組成で10%以上50%未満のAl,CrまたはSiを含む拡散浸透用合金層をコーティングしてもよい。
これにより、従来よりも高温燃焼が達成でき、高い熱効率を有するガスタービンやジェットエンジン等を実現することができる。
本発明の拡散バリヤ用合金皮膜は、前記拡散バリヤ層と前記拡散浸透用合金層との界面に、Wを分散させたW分散層を更に有するようにしても良い。
拡散バリヤ層と該拡散バリヤ層の表面に形成される拡散浸透用合金層の界面に、Wを分散させたW分散層を挿入することで、拡散バリヤ層と拡散浸透用合金層との間の層間結合力を高めるとともに、マクロ的な熱膨張係数を、拡散バリヤ層と拡散浸透用合金膜の中間的な値にすることができる。
本発明の拡散バリヤ用合金皮膜の製造方法は、金属基材の表面に、ReまたはRe合金めっきと、WまたはW合金めっきとをそれぞれ施した後、1200℃以上で熱処理を施して、Re−W合金からなる拡散バリヤ層を形成する。
本発明の他の拡散バリヤ用合金皮膜の製造方法は、金属基材の表面に、Re合金めっきを2段階に分けて行い、W合金めっきを行った後、1200℃以上で熱処理を施して、Reを分散させたRe分散層とRe−W合金からなる拡散バリヤ層を形成する。
本発明の更に他の拡散バリヤ用合金皮膜の製造方法は、金属基材の表面に、Re−W合金からなる拡散バリヤ層を溶融塩めっきで形成し、前記拡散バリヤ層の表面に、原子組成で10%以上50%未満のAl,CrまたはSiを含む拡散浸透用合金層を溶融塩めっきで形成する。
本発明の更に他の拡散バリヤ用合金皮膜の製造方法は、金属基板の表面に凹凸を形成し、前記凹凸を形成した基板の表面に、Re−W合金からなる拡散バリヤ層を形成し、前記拡散バリヤ層の表面に凹凸を形成し、前記凹凸を形成した拡散バリヤ層の表面に耐食合金層を形成する。
本発明の更に他の拡散バリヤ用合金皮膜の製造方法は、金属基板の表面に凹凸を形成し、前記凹凸を形成した基板の表面に、Re−W合金からなる拡散バリヤ層を形成し、前記拡散バリヤ層の表面に凹凸を形成し、前記凹凸を形成した拡散バリヤ層の表面に耐摩耗層を形成する。
前記Re−W合金は、例えば原子組成でWを12.5〜56.5%含み、不可避的な不純物を除いて、残りをReとしたRe−W系σ相からなる。
前記Re−W合金は、原子組成でWを12.5〜56.5%、Reを20〜60%含み、かつ、ReとWの総量が50%以上であり、不可避的な不純物を除き、残りをCr,Ni,Co及びFeから選ばれる少なくとも一つ以上とした、本質的にRe−W系σ相からなるものであっても良い。
前記熱処理後にAl,CrまたはSiの拡散透過処理を行って、拡散バリヤ膜の表面に拡散浸透用合金膜を形成するようにしても良い。
金属基材の表面に、予めCrめっきを行うようにしてもよい。
これにより、金属基板の表面にCrを補給して、例えば、Crの含有量が10%未満の金属基材を使用した時に、金属基板の表面にCrの拡散によるCr欠乏層が形成されるのを防止することができる。
本発明の高温装置部材は、原子組成でWを12.5〜56.5%含み、不可避的な不純物を除いて、残りをReとしたRe−W系σ相からなる拡散バリヤ層を金属基材の表面にコーティングした。
本発明の他の高温装置部材は、原子組成でWを12.5〜56.5%、Reを20〜60%含み、かつ、ReとWの総量が50%以上であり、不可避的な不純物を除き、残りをCr,Ni,Co及びFeから選ばれる少なくとも一つ以上とした、本質的にRe−W系σ相からなる拡散バリヤ層を金属基材の表面にコーティングした。
前記拡散バリヤ層の表面に、原子組成で10%以上50%未満のAl,CrまたはSiを含む拡散浸透用合金層をコーティングすることが好ましい。
本発明の拡散バリヤ用合金皮膜の拡散バリヤとしての効果は、1000℃以上の高温下、更には、1150℃以上であっても発揮される。このような高温域では、アルミナ皮膜が良好な耐酸化性を示すことが知られている。健全なアルミナ皮膜を長時間に亘って維持するためには、部材(金属基材)の表面に10原子%以上のAlが存在することが必要である。更に、上述したように、アルミナ皮膜をRe−W合金σ相からなる拡散バリヤ層との反応性が小さい組成とする必要がある。そのためには、アルミナ皮膜のAl濃度を50原子%未満とする必要がある。このため、拡散バリヤ層の表面にコーティングする、例えばAlリッチ層からなる拡散浸透用合金層のAl濃度は、10原子%以上50原子%未満とすることが好ましい。特に、金属基材がNi−Al系またはNi−Al−Pt系合金である場合、Al濃度が低下すると変態が生じる。このため、Alリッチ層からなる拡散浸透用合金層のAl濃度を50原子%以上とすることは好ましくない。
前記金属基材と前記拡散バリヤ層との間に、Reを分散させたRe分散層を更に有するようにしても良く、前記拡散バリヤ層と前記拡散浸透用合金膜との間に、Wを分散させたW分散層を更に有するようにしても良い。
前記拡散浸透用合金層の表面をセラッミクス層で被覆しても良く、前記拡散バリヤ層の表面に、耐熱合金膜または耐摩耗膜をコーティングしても良い。
本発明によれば、金属基材の表面に、本質的にRe−W合金σ相からなる拡散バリヤ層と、更にその表面に、必要に応じて、Alを10原子%以上50原子%未満含むAl含有合金層(拡散浸透用合金層)をコーティングすることで、超高温下においても高温装置部材の耐食性を長時間維持することが可能となる。これによって、これまでのRe−Cr(−Ni)系合金皮膜と比較して、より長期間に渡って高温装置部材の寿命を延伸するとともに、金属基材からのCrの拡散を排除できるので、金属基材表面におけるCr欠乏層の形成を抑制できる。これによって、より多くの、かつ幅広いアプリケーションへの拡散バリヤ用合金皮膜の利用が可能となる。
また、ReまたはRe合金めっき、WまたはW合金めっき及び熱処理を組み合わせたプロセスによってRe−W系σ相からなる拡散バリヤ層を作製することで、欠陥がなく、厚さが均一な連続層としての合金皮膜を容易に形成できる。
【図面の簡単な説明】
図1A乃至1Cは、本発明の実施の形態における拡散バリヤ用合金皮膜を有する高温装置部材の作製例を工程順に示す図である。
図2は、実施例におけるAl拡散処理後の試料断面を模式的に示す図である。
図3は、実施例における1150℃の大気中で2週間酸化した後の試料断面を模式的に示す図である。
図4は、比較例におけるAl拡散処理後の試料断面を模式的に示す図である。
図5は、比較例における1150℃の大気中で2週間酸化した後の試料断面を模式的に示す図である。
図6は、本発明の他の実施の形態における拡散バリヤ用合金皮膜を有する高温装置部材の断面を模式的に示す図である。
図7は、図6に示す高温装置部材の表面にセラミックス層を形成した断面を模式的に示す図である。
図8Aは、図6の変形例における拡散バリヤ層の表面にNi(Cr)合金層を形成した断面を模式的に示す図で、図8Bは、図6の変形例における拡散バリヤ層の表面にNi(Cr)−Al(X)合金層からなる拡散浸透用合金層を形成した断面を模式的に示す図である。
図9は、本発明の更に他の形態における拡散バリヤ用合金皮膜を有する高温装置部材の断面を模式的に示す図である。
図10は、図9に示す高温装置部材の表面にセラミックス層を形成した断面を模式的に示す図である。
図11は、本発明の更に他の形態における拡散バリヤ用合金皮膜を有する高温装置部材の断面を模式的に示す図である。
図12は、図11に示す高温装置部材の表面にセラミックス層を形成した断面を模式的に示す図である。
図13は、本発明の更に他の形態における拡散バリヤ用合金皮膜を有する高温装置部材の断面を模式的に示す図である。
図14は、本発明が適用されるマイクロガスタービン燃焼器ライナの斜視図である。
図15は、図14に示すマイクロガスタービン燃焼器ライナの部分断面図である。
図16は、本発明が適用されるマイクロガスタービンノズルの斜視図である。
図17は、本発明が適用される自動車用エキゾーストマニホールドの斜視図である。
図18は、図15に示すマイクロガスタービン燃焼器ライナの燃焼噴射ノズルに水溶液めっきを行う例を示す図である。
図19は、図16に示すマイクロガスタービンノズルの燃焼ガス導入口に水溶液めっきを行う例を示す図である。
図20は、本発明が適用されるマイクロガスタービン動翼の斜視図である。
図21は、図20に示すマイクロガスタービン動翼に水溶液めっきを行う例を示す図である。
図22Aは、本発明が適用されるガスタービン燃焼器の斜視図で、図22Bは、図22AのA部拡大断面図である。
図23は、本発明が適用されるガスタービン動翼を示す斜視図である。
図24は、本発明が適用されるガスタービン静翼を示す斜視図である。
図25は、本発明が適用される自動車用触媒コンバータの断面図である。
図26は、図25に示す自動車用触媒コンバータに拡散バリヤ用合金皮膜を形成した要部拡大図である。
図27は、本発明が適用される半導体製造排ガス処理装置の概略を示す図である。
図28は、本発明が適用されるバーナーを示す図である。
図29は、本発明が適用される熱電対の保護管を示す図である。
図30は、本発明が適用される散気ノズルの断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1A乃至1Cは、本発明の実施の形態の拡散バリヤ用合金皮膜を有する高温装置部材の製造例を工程順に示す。先ず、図1Aに示すように、例えばNi基合金からなり、高温装置部材の基材となる金属基材10を用意する。このNi基合金からなる金属基材10としては、Ni−Cr系の耐熱合金のほとんどが使用でき、例えば、Ni−20%Cr系合金であるハステロイXやヘインズ230,インコネル625,ワスパロイ,インコネル718,インコネル738などや、Ni−Cr−Al系合金でタービン翼等に用いられるMar−M247やCMSX−4,CMSX−10,TMS−138など、更には、Ni−40%Cr−W鋳造合金などが挙げられる。
なお、金属基材10として、Ni基合金の他に、Co基合金やFe基合金を使用してもよいことは勿論である。
そして、図1Bに示すように、金属基材10の表面に、原子組成でWを12.5〜56.5%含み、不可避的な不純物を除いて、残りをReとしたRe−W系σ相からなり、拡散バリヤ用合金皮膜を構成する拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18を形成する。この不可避的な不純物Mは、例えば金属基材10としてNi基合金を使用した場合、主にNiである。この不可避的な不純物Xとしては、Niの他に、Cr,Fe,Mo,Co等が挙げられる。
この拡散バリヤ用合金皮膜を構成する拡散バリヤ層18は、原子組成でWを12.5〜56.5%、Reを20〜60%含み、かつ、ReとWの総量が50%以上であり、不可避的な不純物を除き、残りをCr,Ni,Co及びFeから選ばれる少なくとも一つ以上とした、本質的にRe−W系σ相からなるものであってもよい。
Wの融点は、3410℃であるため、WとReとの合金も3000℃程度の融点を有することが予想される。このため、Re−W系σ相からなる拡散バリヤ層18で拡散バリヤ用合金皮膜を構成することで、Ni,Fe,Coなどが金属基材10から拡散バリヤ層18に拡散してきて合金化しても、Re−Cr系σ相で拡散バリヤ層(拡散バリヤ用合金皮膜)を構成した時に比べて、拡散バリヤ層18の融点の低下が小さく、拡散バリヤ特性を損なうことはない。しかも、WはCrと同属元素であるが、Re−W合金は、Crを排除する傾向を有するため、高温下での使用によって、金属基材10中にCrの拡散によるCr欠乏層が形成されることはない。
更に、前述の組成のRe−W系σ相からなる拡散バリヤ層18は、金属基材10の強度に有害なAlや、耐酸化性維持に有害なTi,Taなどの拡散を抑制し、かつ、耐酸化性を有する、下記の拡散浸透用合金層(Al含有合金層)20及び金属基材10に接して長時間安定に存在できる特性を有し、拡散バリヤとして要求される要件を満たす。
次に、必要に応じて、図1Cに示すように、拡散バリヤ層18を形成した金属基材10の表面に、原子組成で10%以上50%未満のAl,CrまたはSiを含む拡散浸透用合金層20をコーティングし、これによって、拡散バリヤ層18と拡散浸透用合金層20を有するコーティング層を形成する。
拡散バリヤ層18の拡散バリヤとしての効果は、1000℃以上の高温下、更には、1150℃以上であっても発揮される。このような高温域では、アルミナ皮膜が良好な耐酸化性を示すことが知られている。健全なアルミナ皮膜を長時間に亘って維持するためには、金属基材10の表面に10原子%以上のAlが存在することが必要である。更に、上述したように、アルミナ皮膜をRe−W合金σ相からなる拡散バリヤ層18との反応性が小さい組成とする必要があり、そのためには、Al濃度を50原子%未満とする必要がある。このため、拡散バリヤ層18の表面にコーティングする、例えばAl含有合金層からなる拡散浸透用合金層20のAl濃度は、10原子%以上50原子%未満とすることが好ましい。特に、金属基材10がNi−Al系またはNi−Al−Pt系合金である場合、Al濃度が低下すると変態が生じる。このため、拡散浸透用合金層20のAl濃度が50原子%以上あることは好ましくない。
次に、図1A乃至1Cに示す高温装置部材の作製例をより具体的に説明する。
(1)溶射法、PVD法、スパッタリング法などの物理的方法による皮膜形成
まず、予め用意したRe−W合金粉末を用い、溶射法によって、金属基材10の表面にRe−W合金からなり、拡散バリヤ用合金皮膜を構成する拡散バリヤ層18を形成する。そのままでもよいが、好ましくは、1200℃以上の真空下で熱処理して、拡散バリヤ層18に金属基材10との密着性を付与する。この際、金属基材10から拡散バリヤ層18中に、Ni,Co,Feなどが拡散するが、この拡散バリヤ層18の拡散バリヤ特性は低下しない。
なお、Re−W合金粉末を用いず、Re粉末とW粉末を溶射法によって積層し、しかる後に上記の条件で熱処理しても、同様の拡散バリヤ用合金皮膜を構成する拡散バリヤ層18を得ることができる。
拡散バリヤ層18を金属基材10の表面に形成した後、使用温度や環境によって選定したAl(あるいはSi,Cr)合金粉末を用いて、溶射法により拡散バリヤ層18の表面に、Al(あるいはSi,Cr)含有合金皮膜からなる拡散浸透用合金層20を形成する。
以上、溶射法と記した箇所は、PVD法、あるいはスパッタリング法などに置き換えても、同様の拡散バリヤ層18及び拡散浸透用合金層20を得ることができる。
(2)水溶液めっきと拡散処理の組み合わせによる皮膜形成
細孔部などを有する複雑な形状を有する金属基材(部品)10に対して、拡散バリヤ用合金皮膜を構成する拡散バリヤ層18を安価に形成するには、水溶液めっきと拡散処理の組み合わせが好適である。すなわち、Ni,CoあるいはFe基合金等の金属基材10の表面に、水溶液めっきによるReあるいはRe合金めっきを施して、ReあるいはRe合金皮膜を形成し、しかる後、この表面に、水溶性めっきによるWあるいはW合金めっきを施して、WあるいはW合金皮膜を形成する。次に、このめっき後の金属基材10を、1200℃以上の真空中あるいは不活性雰囲気中において熱処理し、これによって、均一な組成及び厚さを有する拡散バリヤ層18を形成する。
更に、拡散バリヤ層18の表面に、Ni(あるいはFe,Co)をめっきし、Al(あるいはCr,Si)を拡散処理することによって、Al(あるいはCr,Si)含有合金皮膜からなる拡散浸透用合金層20を形成する。
(3)溶融塩めっきによる皮膜形成
溶融塩めっき法によれば、ほとんど全ての元素をめっきすることができる。更に、溶融塩めっきは、一般に高温下でなされるため、熱処理工程を省くことができ、プロセス的にも、経済的にも有利である。すなわち、Ni,CoあるいはFe基合金からなる金属基材10の表面に、例えば塩化物あるいはフッ化物浴を用いてReを溶融塩めっきし、しかる後、例えばハロゲン化物浴を用いてWを溶融塩めっきする。これにより、そのままでも、金属基材10の表面に拡散バリヤ用合金皮膜を構成する拡散バリヤ層18が形成されるが、より好ましくは、めっき後の金属基材10を1200℃以上の真空中あるいは不活性雰囲気中において熱処理することで、金属基材10の表面に、より均一な組成を有する拡散バリヤ層18が形成される。
更に、拡散バリヤ層18の表面に、Ni(あるいはFe,Co)及びAl(あるいはCr,Si)を溶融塩めっきすることによって、Al(あるいはCr,Si)含有合金皮膜からなる拡散浸透用合金層20を形成する。
以上の(1)〜(3)の方法は、部分的にどの方法を採用してもよい。例えば、拡散バリヤ層18を水溶液めっきと熱処理との組み合わせによって作製し、Al(あるいはCr,Si)含有合金皮膜からなる拡散浸透用合金層20を溶射法によって作製してもよい。これらの方法は、金属基材10の組成、部材の形状、コストなどによって自由に選択できる。
【実施例】
金属基材としてNi基合金(CMSX−4)の短冊形試験片を用いた。金属基材(試験片)の表面をSiC#240で研磨した後、脱脂してから供試した。ここでは、複雑な形状の部品への施工を念頭に置き、水溶液めっきと拡散処理とを組み合わせた施工法を採用した。先ず、下記の浴組成のアンモニア性クエン酸浴によるRe−Ni合金めっき浴を用いて、0.1A/cmの電流密度で30分間のRe−Ni合金めっきを行った。その後、下記の浴組成のアンモニア性クエン酸浴によるNi−W合金めっき浴を用いて、0.1A/cmの電流密度で30分間のW−Ni合金めっきを行った。しかる後、試験片を、1300℃、10−3Paの真空中にて10時間の熱処理を行った。更に、熱処理後の試験片に、ワット浴を用いて、5mA/cmの電流密度で60分間のNiめっきを行った後、NiAlとAlの混合粉末中で、900℃で5時間のAl拡散処理を施した。
Re−Ni合金めっき浴
・過レニウム酸イオン:0.1mol/L
・硫酸ニッケル:0.1mol/L
・クエン酸:0.1mol/L
・pH=8(アンモニア水で調整)
・浴温:50℃
Ni−W合金めっき浴
・タングステン酸ナトリウム:0.2mol/L
・硫酸ニッケル:0.1mol/L
・クエン酸:0.4mol/L
・pH=6(アンモニア水で調整)
・浴温:70℃
処理後の試験片断面の模式図を図2に示す。図2中の断面における各点の元素分析結果をテーブル1に示す。テーブル1中の(1)〜(5)は、図2中の(1)〜(5)にそれぞれ対応する。

図2に示すように、金属基材(Ni基合金基材)10aの表面に、42原子%Re−36原子%W合金層(残部に数%ずつNi,Co,Cr,Moを含む)からなる拡散バリヤ層18aが、この拡散バリヤ層18aの表面に、Ni−40原子%Al合金皮膜(残部に数%のCo,Crを含む)からなる拡散浸透用合金層20aがそれぞれ形成されていることが分かる。また、金属基材10a側にAlは殆ど拡散していない。更に、金属基材10a中のCr濃度は、金属基材10aの表面近傍であっても、金属基材10aの内部であっても、いずれも約7%であり、Cr欠乏層が形成されていないことが分かる。この拡散バリヤ層18a及び拡散浸透用合金層20aは、試験片の平坦部のみならず、端部も含め、試験片全面に亘ってほぼ均一な組成及び厚さの連続層であった。
この試験片を、1150℃の大気中で2週間酸化した後の断面の模式図を図3に示す。図3中の断面における各点の元素分析結果をテーブル2に示す。テーブル2中の(1)〜(6)は、図3中の(1)〜(6)にそれぞれ対応する。

図3に示すように、拡散浸透用合金層20aの表面には、数ミクロンの厚さのアルミナ皮膜(Al)22aが存在した。その直下の拡散浸透用合金層(Al含有合金層)20aのAl濃度は約38.5原子%を、さらにその直下の拡散バリヤ層18aは酸化前と同じ約42.2原子%Re−37.0原子%W合金層(残部に数%ずつNi,Co,Cr,Moを含む)を維持していた。そして、金属基材10a中へのAl拡散は殆ど見られなかった。
ここで注目すべきは、酸化前には、拡散バリヤ層18a中に数%ずつ含まれていたNi及びCrが、酸化後ではやや減少する傾向にあることである。つまり、1150℃という超高温下では、Cr,Niなどを数%含んだものよりも、本質的にRe−W二元系合金の方がより安定であり、拡散バリヤとしてより優れていることが分かる。また、Crは、拡散バリヤ層18aであるRe−W合金層から、むしろ排除される傾向にあり、本質的に、金属基材10aの表面において、Cr欠乏層を形成しにくい特性を持つことが分かる。
<比較例>
金属基材としてNi基合金(CMSX−4)の短冊形試験片を用いた。金属基材(試験片)の表面をSiC#240で研磨した後、脱脂してから供試した。先ず、下記の浴組成の高濃度Re−Ni合金めっき浴を用いて、0.1A/cmの電流密度で30分間のRe−Ni合金めっきを行った。その後、試験片をCr+Al粉末中に埋没して、1100℃、10−3Paの真空中において5時間の熱処理を行った。更に、熱処理後の試験片に、ワット浴を用いて、5mA/cmの電流密度で60分間のNiめっきを行った後、NiAlとAlの混合粉末中、900℃で5時間のAl拡散処理を施した。
高濃度Re−Ni合金めっき浴
・過レニウム酸イオン:0.1〜8.0mol/L
・Niイオンの総量:0.005〜2.0mol/L
・Cr(III)イオン:0.1〜4.0mol/L
・Liイオン及び/またはNaイオンの総量:0.0001〜5.0mol/L以下
・pH=0〜8
・液温:10〜80℃
処理後の試料断面の模式図を図4に示す。図4中の断面における各点の元素分析結果をテーブル3に示す。テーブル3中の(1)〜(5)は、図4中の(1)〜(5)にそれぞれ対応する。

図4に示すように、金属基材(Ni基合金基材)10bの表面に、40原子%Re−40原子%Cr−17原子%Ni合金層(残部に数%のCoを含む)からなる拡散バリヤ層18bが、この拡散バリヤ層18bの表面に、Ni−39.4原子%Al含有合金層(残部に数%のCo,Crを含む)からなる拡散浸透用合金層20bがそれぞれ形成されている。また、金属基材10b側にはAlは殆ど拡散していないが、金属基材10bにおける拡散バリヤ層18b近傍のCr濃度が、金属基材10bのバルク濃度と比較して、やや減少していることが分かる。
この試験片を、1150℃の大気中で2週間酸化した後の断面の模式図を図5に示す。図5中の断面における各点の元素分析結果をテーブル4に示す。テーブル4中の(1)〜(6)は、図5中の(1)〜(6)にそれぞれ対応する。

図5に示すように、拡散浸透用合金層20bの表面には、図3に示した実施例と同様に、数ミクロンの厚さのアルミナ皮膜(Al)22bが存在している。しかし、図3に示した通り、実施例では、拡散浸透用合金層(Al含有合金層)20aのAl濃度が、酸化後も38.4〜38.5原子%であったのに対し、この比較例の拡散浸透用合金層(Al含有合金層)20bにおいては、35.0〜35.5原子%に低下している様子が分かる。更に、この比較例では、拡散バリヤ層18bの直下において、酸化後もCr欠乏層が形成したままで、しかも、Al濃度がやや上昇している様子が分かる。
以上のように、Re−Cr−Ni系合金からなる拡散バリヤ層18bであっても、1150℃において拡散バリヤ特性を発揮するが、拡散バリヤ層18a直下におけるCr欠乏層の形成、及び、少量ではあるが、拡散浸透用合金層(Al含有合金層)20bにおけるAl濃度低下と金属基材10bへのAl拡散が見られる。これに対して、この発明のRe−W系合金からなる拡散バリヤ層18aでは、これらの現象が観察されないことから、より優れた拡散バリヤであることが示唆される。
前述の例にあっては、図6に示すように、例えばNi基合金からなる金属基材10の表面に、拡散バリヤ用合金皮膜を構成する拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18をコーティングし、必要に応じて、拡散バリヤ層18の表面に、例えばNi−Al(X)合金層(X=Zr,Y,Si)からなる拡散浸透用合金層20をコーティングして高温装置部材を形成している。更に、必要に応じて、図7に示すように、拡散浸透用合金層20の表面に、例えばZrO系セラミックス被覆(いわゆる遮熱コーティング)を施して、熱伝導率の低いZrO系セラミックスからなるセラミックス層24を形成してもよい。このセラッミクス層24の厚さは、例えば100〜400μmである。これにより、従来よりも高温燃焼が達成でき、高熱効率なガスタービンやジェットエンジン等を実現できる。
ここに、図8Aに示すように、拡散バリヤ層18の表面に、Ni(Cr)合金層26を予め形成しておくことで、図8Bに示すように、拡散バリヤ層18の表面に、例えばNi(Cr)−Al(X)合金層からなる拡散浸透用合金層28をコーティングするようにしてもよい。
図9は、本発明の他の実施の形態の拡散バリヤ用合金皮膜を有する高温装置部材を示す。この例は、Ni基合金等の金属基材10の表面に、Reを分散させたRe分散層30、拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18、及びWを分散させたW分散層32を順次形成し、このW分散層32の表面に、例えばNi−Al(X)合金層(X=Zr,Y,Si)からなる拡散浸透用合金層20をコーティングしている。このように、金属基材10と拡散バリヤ層18との間にRe分散層30を、拡散バリヤ層18と拡散透過用合金層20との間にW分散層32をそれぞれ介在させた、いわゆる“くさび構造”にして、Re分散層30とW分散層32に“アンカー効果”を付与することで、金属基材10と拡散バリヤ層18との間、及び拡散バリヤ層18と拡散透過用合金層20との間の結合力を高め、しかも、マクロ的な熱膨張係数を、各層の中間的な値にすることができる。
このRe分散層30は、例えば粒径が0.1〜20μmのRe粒子を、体積比で10〜80%分散させた、厚さ1〜100μmの層であり、W分散層32は、例えば1〜20μmのW粒子を、体積比で20〜80%分散させた、厚さ10〜100μmの層である。
このRe分散層30、拡散バリヤ層18及びW分散層32は、例えばReが低濃度(25〜40原子%)の第1のRe−Ni合金めっき、Reが高濃度(65〜90原子%)の第2のRe−Ni合金めっきを順次行った後、W−Ni合金めっき、Niめっき、W−Ni合金めっきを順次行ない、さらに熱処理を施すことで形成できる。これは、金属基材10に隣接した低濃度Re−Ni層は、Reが固溶したNi相とNiが固溶したRe相の2相に、拡散透過用合金層20に隣接したNi−W層は、Wが固溶したNi相とNiが固溶したW相の2相に、それぞれ分離することによる。
更に、図10に示すように、必要に応じて、拡散浸透用合金層20の表面に、例えばZrO系セラミックス被覆(いわゆる遮熱コーティング)を施して、例えば厚さが100〜400μmのセラミックス層24を形成してもよい。これにより、従来よりも高温燃焼が達成でき、高熱効率なガスタービンやジェットエンジン等を実現できる。
図11は、本発明の更に他の実施の形態の拡散バリヤ用合金皮膜を有する高温装置部材を示す。この例は、予め凹凸を設けたNi基合金等の金属基材10の表面に、拡散バリヤ用合金皮膜を構成する拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18を、例えばPVDで0.5〜30μmの厚さでコーティングし、この拡散バリヤ層18の表面に、凹凸を設けた後、例えばCoNiCrAlY合金からなる耐食合金層34を、溶射法等で30〜400μmの厚さでコーティングしている。
この例にあっても、図12に示すように、必要に応じて、耐食合金層34の表面に、例えばZrO系セラミックス被覆(いわゆる遮熱コーティング)を施して、例えば厚さが100〜400μmのセラミックス層24を形成してもよい。
図13は、本発明の更に他の実施の形態の拡散バリヤ用合金皮膜を有する高温装置部材を示す。この例は、予め凹凸を設けたNi基合金等の金属基材10の表面に、拡散バリヤ用合金皮膜を構成する拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18を、例えば溶射法で10〜50μmの厚さでコーティングし、この拡散バリヤ層18の表面に、凹凸を設けた後、例えばW炭化物またはCr炭化物36を分散させた、CoNiCrAlY合金からなる耐摩耗層38を、溶射法等で30〜400μmの厚さでコーティングしている。
上記の図11乃至図13に示す各例において、金属基材10及び拡散バリヤ層18の表面に設けられる凹凸における凹部の深さは、例えば1〜20μmで、アルミナショットプラスによって形成される。
次に、本発明が適用される高温装置部材の具体例、及び該高温装置部材に適した拡散バリヤ用合金皮膜の形成例を以下に説明する。
(1)マイクロガスタービン燃焼器ライナ、タービンノズル、エキゾーストマニホールド等
本発明が適用されるマイクロガスタービン燃焼器ライナの斜視図を図14に、その部分断面図を図15に示す。また、本発明が適用されるマイクロガスタービンノズルの斜視図を図16に、自動車用エキゾーストマニホールドの斜視図を図17に示す。図14及び図15に示すマイクロガスタービン燃焼器ライナ40では燃料噴射ノズル42が、図16に示すマイクロガスタービンノズル44では燃焼ガス導入口46が、円周方向に等間隔で取り付けられている。また、図17に示すエキゾーストマニホールド48は、複雑形状のチューブ50から構成されている。これらの部材は、マイクロガスタービン燃焼器ライナ40にあっては燃料噴射ノズル42等、いずれの場合も狭い空洞の形状(細孔部)を有しており、この細孔部内に拡散バリヤ用合金皮膜を均一に形成することが必要となる。
このため、この例では、水溶液めっきによって、マイクロガスタービン燃焼器ライナ40の燃料噴射ノズル42等の細孔部内に、図6に示す拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18等の皮膜を均一な膜厚で形成するようにしている。
すなわち、マイクロガスタービン燃焼器ライナ40にあっては、図18に示すように、めっき槽52内のめっき液54中に浸漬させたマイクロガスタービン燃焼器ライナ40の燃料噴射ノズル42の内部にアノード56を位置させる。そして、めっき液供給管58から燃料噴射ノズル42に向けてめっき液54を噴射しながら、めっき槽52の底部に配置した攪拌羽根60を回転させてめっき槽52内のめっき液54を攪拌し、同時にアノード56とカソードしたマイクロガスタービン燃焼器ライナ40との間にめっき電圧を印加して、マイクロガスタービン燃焼器ライナ40の燃料噴射ノズル42の内部(表面)にめっきを行うようにしている。
マイクロガスタービンノズル44にあっては、図19に示すように、マイクロガスタービンノズル44の燃焼ガス導入口46内にアノード56を位置させ、前述の例とほぼ同様に、めっき液供給管58からめっき液54を燃焼ガス導入口46に向けて噴射しながら、マイクロガスタービンノズル44の燃焼ガス導入口46の内部(表面)にめっきを行うようにしている。
なお、図示しないが、エキゾーストマニホールド48を含め、細孔部を有する部材の該細孔部の表面に、図6に示す拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18等の皮膜を形成する場合にも、前述の例のように、部材の形状に合わせて細孔部へアノードを挿入し、かつめっき液を細孔部へ噴射しながらめっきを施すことで、均一な膜厚の皮膜を形成することができる。
なお、この例では、マイクロガスタービン燃焼器ライナ40およびマイクロガスタービンノズル44をNi基合金ハステロイX(Ni−22%Cr−19%Fe−9%Mo−0.1%C)製としているが、他の高温部材にも、同様の方法で、細孔部に均一な成膜が可能となる。
より具体的に説明すると、先ず、マイクロガスタービン燃焼器ライナ40等の当該部材を硫酸水素ナトリウム/フッ化ナトリウム溶液中に30〜120秒間浸漬して表面を活性化させ、しかる後、Niストライクめっきを、例えば、常温、100〜500mA/cmの電流密度で0.5〜5分間実施する。その後、Re−Niめっきを施す。Re−Niめっきは、例えば、ReOを0.02〜0.2mol/L、NiSOを0.02〜0.2mol/L、CrClを0.1〜0.5mol/L、クエン酸を0.1〜0.5mol/L、セリンを0.5〜1.5mol/L、pHを硫酸で2〜4に調整にしためっき浴を用い、めっき条件は、40〜60℃、10〜150mA/cmで10〜60分間が適している。
その後、再びNiストライクめっきを前記の条件で施してから、Ni−Wめっきを施す。Ni−Wめっきは、NiSOを0.05〜0.2mol/L、NaWOを0.1〜0.4mol/L、クエン酸を0.1〜0.8mol/L、pHをアンモニア水で6〜9に調整しためっき浴を用い、めっき条件は、50〜80℃、20〜150mA/cmで、10〜60分間が適している。
Ni−Wめっき後、更にNiストライクめっきを前記の条件で施してから、Niワット浴でNiめっきを施す。Niワット浴でのNiめっき条件は、40〜60℃、5〜50mA/cmで5〜120分間が良い。
一連のめっき後、10−3Paの真空下、1200〜1350℃で1〜20時間熱処理する。この例では、約20%のCrを含有したハステロイX製の部材を用いたため、単なる真空熱処理としたが、金属基材中のCr濃度が20%未満の場合には、Ni−Cr合金またはCrと、Alの混合粉末中(体積比でAlが1以上)に部材を埋没させで熱処理しても良い。これらの条件でめっきおよび熱処理を施すことで、例えばマイクロガスタービン燃焼器ライナ40の燃料噴射ノズル42等の細孔部の内部(表面)に、図6に示す拡散バリヤ層(Re−W(M)合金膜)18を、0.5〜30μmの厚さで均一に形成することができる。この拡散バリヤ層18は、主に金属基材から拡散したX(=Cr、Ni、Fe、Mo)を内部に数%含むことがあるが、本質的に、Reを30原子%以上、Wを20原子%以上含んだRe−W(M)合金である。
前述のようにして、拡散バリヤ層18を形成した後の部材に、更にNiストライめっき、および0.01〜5重量%Zr4+を溶解させたNiワット浴中でのNiめっきを施す。これによって、0.01〜0.5原子%Zrを含んだNiめっき層を形成し、しかる後、Al拡散処理を施す。Zr4+を溶解させたNiワット浴中でのNiめっきの変わりに、0.5〜50μmの粒径のZr粉末、あるいはNiZr合金粉末、ZrSi粉末、Y粉末等を0.1〜1.0%分散させたNiワット浴中での分散めっきを施してもよい。その場合、めっき後に、800〜900℃で1〜20時間、900〜1000℃で1〜10時間、1000〜1200℃で1〜10時間の3段階熱処理を施すことでNi(X)層(X=Zr,Si,Y)を形成し、しかる後、Al拡散処理を施す。
Al拡散処理は、例えばAl+Al+NHCl混合粉末中、10−3Paの真空下、800〜1100℃で10分間〜5時間行う。Al+Al+NHCl混合粉末の組成は、重量比で、Al/Alが1以上、NHClは全体の0.1〜10%とする。真空処理の代わりに、不活性雰囲気(例えばAr)処理としても良い。Al拡散処理の代わりに、溶融Alめっきを施しても良い。溶融Alめっきは、例えば700〜900℃の溶融Alめっき浴に、部材を10分間〜5時間浸漬させて行う。
以上の過程を経ることで、図6に示す、拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18とNi−Al(X)合金層(X=Zr,Y,Si)からなる拡散浸透用合金層20を有するコーティング層を、例えばマイクロガスタービン燃焼器ライナ40の燃料噴射ノズル42等の細孔部の表面に均一に形成することができる。このコーティング層を付帯した燃焼器ライナおよびタービンノズルは、コーティング表面温度が1100〜1200℃に達しても、1000時間以上致命的な酸化や腐食を受けず、装置の健全性を維持できる。
(2) マイクロガスタービン動翼、自動車用ターボチャージャー等
本発明が適用されるマイクロガスタービン動翼の斜視図を図20に示す。図20に示すように、マイクロガスタービン動翼62はラジアル型動翼で、曲率の大きな形状の複数の翼64を有している。このため、この例では、マイクロガスタービン動翼62を回転させながら、主に翼64の表面を含むマイクロガスタービン動翼62の表面に、水溶液めっきによって、図8A及び8B示す拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18等の皮膜を均一な膜厚で形成するようにしている。
すなわち、図21に示すように、マイクロガスタービン動翼62をモータ66の駆動に伴って回転する回転軸68の下端に連結して、円筒状のアノード70で囲まれためっき槽72内のめっき液74中に浸漬させる。そして、モータ66を介してマイクロガスタービン動翼62を回転させながら、アノード70と摺動接点76を介してカソードしたマイクロガスタービン動翼62との間にめっき電圧を印加して、マイクロガスタービン動翼62の表面にめっきを行うようにしている。
なお、図示しないが、自動車用ターボチャージャー等の表面に、図8A及び8Bに示す拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18等の皮膜を形成する場合にも、前述の例のように、部材を回転させつつめっきを施すことで、部材の表面に均一な膜厚の皮膜を形成することができる。
なお、この例では、マイクロガスタービン動翼62をNi基合金Mar−M247(Ni−8%Cr−10%Co−5%Al−10%W−Ta−Ti)製としているが、例えば自動車用ターボチャージャーなど、類似の形状の高温部材にも、同様の方法で、翼面に均一な成膜が可能となる。
より具体的に説明すると、先ず、マイクロガスタービン動翼62等の当該部材を硫酸水素ナトリウム/フッ化ナトリウム溶液中に30〜120秒間浸漬して表面を活性化させ、しかる後、Crめっきを施す。Crめっきは、Cr(III)浴(例えば、CrClを0.1〜0.5mol/L、HCOOHを0.1〜1.5mol/L、HBOを0.1〜1.5mol/L、NHClを0.1〜1.5mol/L、KBrを0.05〜0.3mol/L、pHを硫酸で2〜4に調整)を用い、例えば、常温〜30℃、50〜150mA/cmで15〜60分間行う。Cr(III)浴の代わりに、Cr(VI)浴(サージェント浴)を用いてもよい。Cr(VI)浴を用いた場合、その後のめっきの密着性がやや低下するので注意を要する。
その後、再び、硫酸水素ナトリウム/フッ化ナトリウム溶液中で活性化処理してから、Niストライクめっきを、常温、100〜500mA/cmの電流密度で0.5〜5分間実施する。Niストライクめっき後、40〜60℃、10〜150mA/cmで10〜60分間、Re−Niめっきを施す。Re−Ni合金めっき浴は、前記実施例と同様のものが良い。その後、再びNiストライクめっきを前記の条件で施してから、Ni−Wめっきを施す。Ni−Wめっき条件は、50〜80℃、20〜150mA/cmで、10〜60分間が適している。Ni−W合金めっき浴も前記実施例と同様のものが良い。
Ni−Wめっき後、更にNiストライクめっきを前記の条件で施してから、Niワット浴でNiめっきを施す。Niワット浴でのNiめっき条件は、40〜60℃、5〜50mA/cmで5〜120分間が良い。ワット浴によるNiめっきの際、0.01〜5重量%Zr4+を溶解させたNiワット浴を用いても良く、この場合、後述するAl拡散処理において、Zr(ZrOCl,ZrCl,Y,YClなど)を混合しなくとも良い。
一連のめっき後、10−3Paの真空下、1200〜1350℃で1〜20時間熱処理する。その際、Ni−Cr合金またはCrと、Alの混合粉末中(体積比でAlが1以上)に部材を埋没させで熱処理しても良い。これらの条件でめっきおよび熱処理を施すことで、図8Aに示す、拡散バリヤ層18とNi(Cr)合金層26とを有するコーティング層を、マイクロガスタービン動翼62等の表面に形成することができる。
その後、Al+Al+NHCl+Zr混合粉末中、10−3Paの真空下、800〜1100℃で10分間〜5時間のAl拡散処理を行う。Al+Al+NHCl+Zr混合粉末の組成は、重量比で、Al/Alが1以上、NHClとZrはそれぞれ全体の0.1〜10%とする。真空処理の代わりに不活性雰囲気(例えばAr)処理としても良く、また、Zrの変わりにZrOCl,ZrCl,Y,YClなどを用いても良い。
以上の過程を経ることで、図8Bに示す、拡散バリヤ層18とNi(Cr)−Al(X)合金層からなる拡散浸透用合金層28とを有するコーティング層を、マイクロガスタービン動翼62等の翼面に均一形成することができる。このコーティング層を付帯したマイクロタービン動翼や自動車用ターボチャージャーは、コーティング表面温度が1100〜1200℃に達しても、1000時間以上致命的な酸化や腐食を受けず、装置の健全性を維持できる。
(3)ガスタービン部材、ジェットエンジン部材、自動車用エキゾーストマニホールド、触媒コンバータ等
本発明が適用されるガスタービン燃焼器を図22A及び22Bに、ガスタービン動翼を図23に、ガスタービン静翼を図24にそれぞれ示す。また、本発明が適用される自動車用触媒コンバータの断面図を図25及び図26に、自動車用エキゾーストマニホールドの斜視図を図17に示す。図23に示すガスタービン動翼80や図24に示すガスタービン静翼82にあっては、運転中や起動停止によって高い応力が負荷されることが予想される。また、図17に示す自動車用エキゾーストマニホールド48においては、運転による振動に起因する疲労破壊が懸念される。更に、図22A及び22Bに示すガスタービン燃焼器84は、冷却空気を通すため、内筒86と外筒88を有する二重構造にしており、互いに重なり合った内筒86の外周面と外筒88の内周面にも均一な成膜が要求される。更に、図25及び図26に示す自動車用触媒コンバータ90は、例えば平泊92と波泊94で区画されたハニカム状の多数の通気口96を有する、一般にかなり複雑な形状を有している。従って、これらの部材にあっては、特に図6に示す、拡散バリヤ層18と拡散浸透用合金層20とを有するコーティング層を金属基材10の表面に形成する場合に、金属基材10及び拡散浸透用合金層20と異なる熱膨張係数を有する拡散バリヤ層18の厚さをより薄く、かつ均一に形成して、コーティング層の破壊を防止する必要がある。
ここでは、Ni基超合金(Ni−6%Cr−5%Al−6%W−9%Co−6%Ta−3%Re)製のガスタービン動翼80に適用した例を示すが、ガスタービン燃焼器ライナ、ガスタービン静翼、ジェットエンジン部材、エキゾーストマニホールド、あるいは触媒コンバータにおいても同様に実施が可能である。
この例にあっては、まず、ガスタービン動翼80等の当該部材を硫酸水素ナトリウム/フッ化ナトリウム溶液中に30〜120秒間浸漬して表面を活性化させ、しかる後、Niストライクめっきを、常温、100〜500mA/cmの電流密度で0.5〜5分間実施し、その後、Ni−Wめっきを施す。Ni−Wめっき条件は、上記実施例と同じNi−W合金めっき浴を用いて、50〜80℃、20〜100mA/cmで15〜30分間が適している。Ni−Wめっき後、更にNiストライクめっきを前記の条件で施してから、Re−Niめっきを施す。Re−Niめっき条件は、上記実施例と同様なRe−Ni合金めっき浴を用いて、40〜60℃、20〜120mA/cmで20〜45分間が適している。
その後、再びNiストライクめっきを前記の条件で施してから、Niワット浴でNiめっきを施す。Niワット浴でのNiめっき条件は、40〜60℃、5〜50mA/cmで5〜120分間が良い。
一連のめっき後、Ni−(20〜50)%Cr合金またはCrと、Alの混合粉末中(体積比でAlが1以上)にガスタービン動翼80等の部材を埋没させ、10−3Paの真空下、1200〜1350℃で3〜20時間熱処理する。これらの条件でめっきおよび熱処理を施すことで、図6に示す拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18を、1〜15μmの厚さでガスタービン動翼80等の部材の表面に形成することができる。
拡散バリヤ層18を形成した後のガスタービン動翼80等の部材に、更にNiストライクめっきを施してから、Niワット浴でNiめっきを施す。Niワット浴でのNiめっき条件は、40〜60℃、5〜50mA/cmで5〜120分間が良い。ワット浴によるNiめっきの際、0.01〜5重量%Zr4+を溶解させたNiワット浴を用いても良く、この場合、後述するAl拡散処理において、Zr(ZrOCl,ZrCl,Y,YClなど)を混合しなくとも良い。
その後、Al+Al+NHCl+Zr混合粉末中、10−3Paの真空下、800〜1100℃で10分間〜5時間のAl拡散処理を行う。Al+Al+NHCl混合粉末の組成は、重量比で、Al/Alが1以上、NHClとZrは全体の0.1〜5%とする。真空処理の代わりに不活性雰囲気(例えばAr)処理としても良く、また、Zrの変わりにZrOCl,ZrCl,Y,YClなどを用いても良い。
以上の過程を経ることで、図6に示す、拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18とNi−Al(X)合金層(X=Zr,Y,Si)からなる拡散浸透用合金層20とを有し、厚さが1〜15μmのコーティング層を部材表面に均一に形成することができる。更に、このコーティング層の表面に、必要に応じて、図7に示すように、ZrO系セラミックス被覆(いわゆる遮熱コーティング)を施して、厚さ100〜400μmのセラッミクス層24を形成することで、従来よりも高温燃焼が達成でき、高熱効率なガスタービンあるいはジェットエンジンを実現できる。
また、図25に示す自動車用触媒コンバータ90に適用する場合は、ZrO系セラミックス被覆(いわゆる遮熱コーティング)を施すことなく、図26に示すように、ハニカム状の多数の通気口96を区画形成する平泊92及び波泊94の表面に、拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18と拡散浸透用合金層20とを有するコーティング層を形成した構造で使用することが好ましい。
このコーティング層を付帯したガスタービン部材およびジェットエンジン部材は、コーティング表面温度が1100〜1200℃に達しても、1000時間以上致命的な酸化や腐食を受けず、装置の健全性を維持できる。
(4)ガスタービン部材、ジェットエンジン部材、自動車用エキゾーストマニホールド等
前述のように、図23に示すガスタービン動翼80や図24に示すガスタービン静翼82にあっては、運転中や起動停止によって高い応力が負荷されることが予想される。また、図17に示す自動車用エキゾーストマニホールド48においては、運転による振動に起因する疲労破壊が懸念される。更に、図22A及び22Bに示すガスタービン燃焼器84は、冷却空気を通すため、内筒86と外筒88を有する二重構造にしており、互いに重なり合った内筒86の外周面と外筒88の内周面にも均一な成膜が要求される。従って、これらの部材にあっては、特に図9に示す、拡散バリヤ層18と拡散浸透用合金層20とを有するコーティング層を金属基材10の表面に形成する場合に、金属基材10及び拡散浸透用合金層20と異なる熱膨張係数を有する拡散バリヤ層18の該金属基材10及び拡散浸透用合金層20との密着性をよくする必要がある。ここでは、Ni基超合金(Ni−6%Cr−5%Al−6%W−9%Co−6%Ta−3%Re)製のガスタービン動翼80へ適用した例を示すが、ガスタービン燃焼器ライナ、ガスタービン静翼、ジェットエンジン部材、あるいは自動車用エキゾーストマニホールドにおいても同様に実施が可能である。
この例にあっては、先ず、ガスタービン動翼80等の当該部材を硫酸水素ナトリウム/フッ化ナトリウム溶液中に30〜120秒間浸漬して表面を活性化させ、しかる後、Niストライクめっきを、常温、100〜500mA/cmの電流密度で0.5〜5分間実施し、その後、Re−Niめっきを施す。Re−Niめっきは、以下の2つのめっき浴を用いる。第1に、アンモニア性クエン酸浴(例えば、ReOを0.02〜1.0mol/L、NiSOを0.02〜1.0mol/L、クエン酸を0.04〜2.0mol/L、pHをアンモニア水で6〜8に調整)を用い、40〜60℃、20〜150mA/cmで20〜40分間のRe−Ni合金めっきを施す。このめっきによって25〜40原子%のReを含有したRe−Ni合金皮膜が形成される。第2に、他のRe−Ni浴(例えば、ReOを0.02〜0.2mol/L、NiSOを0.02〜0.2mol/L、CrClを0.1〜0.5mol/L、クエン酸を0.1〜0.5mol/L、セリンを0.5〜1.5mol/L、pHを硫酸で2〜4に調整)を用い、40〜60℃、20〜150mA/cmで20〜40分間のRe−Niめっきを施す。このめっきによって65〜90原子%のReを含有したRe−Ni合金皮膜が形成される。
2段階のRe−Niめっき後、前記の条件でNiストライクめっきを施し、しかる後、50〜80℃、20〜150mA/cmで10〜60分間のNi−Wめっきを施す。Ni−Wめっきは上記実施例と同じNi−W合金めっき浴を用いると良い。その後、再び、Niストライクめっきを前記の条件で施す。その際のめっき時間を5〜20分間とする。その後、再び前記の条件にてNi−Wめっきを施す。
一連のめっき後、Ni−(20〜50)%Cr合金またはCrと、Alの混合粉末中(体積比でAlが1以上)にガスタービン動翼80等の部材を埋没させ、10−3Paの真空下、1200〜1350℃で1〜20時間熱処理する。その際、部材に用いた合金中に20%以上のCrを含有する場合は、Ni−(20〜50)%Cr合金またはCrと、Alの混合粉末中にガスタービン動翼80等の部材を埋没させることなく、単なる真空熱処理あるいは不活性雰囲気(例えばAr)処理でも良い。
熱処理後のガスタービン動翼80等の部材に、更にNiストライクめっき、およびNiワット浴中でのNiめっきを施した後、Al拡散処理を施す。ワット浴は、0.01〜5重量%Zr4+を溶解させたNiワットを用いても良く、その場合は、後述するAl拡散処理において、パック粉末中にZr(ZrOCl,ZrCl,Y,YClなど)を混合しなくとも良い。
Al拡散処理は、Al+Al+NHCl+Zr混合粉末中、10−3Paの真空下、800〜1100℃で10分間〜5時間とする。Al+Al+NHCl混合粉末の組成は、重量比で、Al/Alが1以上、NHClとZrは全体の0.1〜5%とする。真空処理の代わりに不活性雰囲気(例えばAr)処理としても良く、また、Zrの変わりにZrOCl,ZrCl,Y,YClなどを用いても良い。
以上の過程を経ることで、図9に示す、Reを分散させたRe分散層30、拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18、Wを分散させたW分散層32、及びNi−Al(X)合金層(X=Zr,Y,Si)からなる拡散浸透用合金層20を有するコーティング層を形成することができる。これは、第1のRe−Ni合金めっきでのReが低濃度(25〜40原子%)であり、第2のRe−Ni合金めっきでのReが高濃度(65〜90原子%)であること、更にNi−W合金めっきのWが低濃度(約25原子%)であることから、金属基材(Ni基合金基材)10に隣接した低濃度Re−Ni層は、Reが固溶したNi相とNiが固溶したRe相の二相に、拡散浸透用合金層20に隣接したNi−W層は、Wが固溶したNi相とNiが固溶したW相の二相に、それぞれ分離することによる。
その結果、金属基材10と拡散バリヤ層18との界面にRe分散層30を、拡散バリヤ層18と拡散浸透用合金層20との界面にW分散層32をそれぞれ有する、いわゆる“くさび構造”にして、Re分散層30及びW分散層32に“アンカー効果”を付与し、これによって、金属基材10と拡散バリヤ層18、及び拡散バリヤ層18と拡散浸透用合金層20の結合力を高めることができる。しかも、粒径が0.1〜20μmのRe粒子を体積比で10〜80%分散させたRe分散層30を金属基材10と拡散バリヤ層18との間に、粒径が0.1〜20μmのW粒子を体積比で10〜80%分散させたW分散層32を拡散バリヤ層18と拡散浸透用合金層20との間に、1〜100μmの厚さでそれぞれ挿入することができ、これによって、マクロ的な熱膨張係数を、各層の中間的な値にすることができる。
これにより、一般に、Ni基、Co基またはFe基合金とは著しく異なる熱膨張係数を有し、起動停止などの熱応力により剥離しやすい性質を有するRe−W合金からなる拡散バリヤ層18が、タービン部材等から剥離するのを防止することができる。
更に、前記のコーティング層の表面に、ZrO系セラミックス被覆(いわゆる遮熱コーティング)を施して、図10に示すように、セラッミクス層24を100〜400μmの厚さで形成することで、従来よりも高温燃焼が達成でき、高熱効率なガスタービンあるいはジェットエンジンを実現できる。このコーティング層を付帯したガスタービンおよびジェットエンジン部材は、コーティング表面温度が1100〜1200℃に達しても、1000時間以上致命的な酸化や腐食を受けず、装置の健全性を維持できる。
(5)排ガス処理装置部材、廃棄物焼却部材、ガス化装置部材等
本発明が適用される半導体製造排ガス処理装置の概略を図27に、廃棄物焼却やガス化装置に使用されるバーナー及び熱電対の保護管を図28及び図29にそれぞれ示す。例えば、半導体製造排ガス処理装置は、図27に示すように、排ガス供給管100から供給され、助燃空気ノズル102から噴出される空気を利用してバーナー104で燃焼させた排ガスを、水冷ジャケット105で包囲された反応塔106の内部に導入して処理し、処理後の排ガスを冷却スプレー108から噴出される冷却水で冷却して外部に排出するように構成されている。特に反応塔106にあっては、高温のハロゲン系ガスを取り扱う。このため、反応塔106を高温のハロゲン系ガスから保護するコーティング層に欠陥等があった場合、装置が激しい腐食を受ける可能性がある。また、図28に示す、炉壁110に取り付けられて、該炉壁110の内部の内部に露出して炎を噴出する廃棄物焼却装置やガス化装置のバーナー112や、図29に示す、炉壁114の内部に配置される熱電対116の周囲を覆って該熱電対116を保護する保護管118などは、高温塩化腐食環境に曝される。このため、これらの部材は、特に緻密で欠陥の少ないコーティング層で保護することが要求される。従って、溶融塩めっき法により緻密で欠陥の少ない皮膜を形成することが望ましい。
ここでは、Ni基合金(Ni−22%Cr−19%Fe−9%Mo−0.1%C)製の半導体製造排ガス処理装置の反応塔106に適用した例を示すが、半導体製造排ガス処理装置に限らず、例えば、図28に示す廃棄物焼却やガス化装置のバーナー112や、図29に示す熱電対の保護管118など、高温塩化腐食環境に曝される部材にも同様に実施できる。更に、図17に示す、自動車用エキゾーストマニホールド48のように複雑形状で溶射などの物理的方法がとれないが、高度に信頼性が要求される部材、あるいはガスタービン部材やジェットエンジン部材のように、特に皮膜の健全性が要求される部材などにも同様に実施できる。
この例にあっては、先ず、反応塔106等の当該部材を硫酸水素ナトリウム/フッ化ナトリウム溶液中に30〜120秒間浸漬して表面を活性化させ、しかる後、KCl−NaCl系支持塩にRe塩とW塩を溶解し、700〜1000℃で溶融塩めっきを行い、反応塔106等の部材の表面にRe−W合金を電析させる。ついで、NiCl−AlCl−NaCl−ZrCl系溶融塩中、200〜800℃で溶融塩めっきを行い、Ni−Al(X)合金(X=Zr,Y)を、反応塔106等の部材の表面に電析させる。ZrClの変わりにYClなどを用いても良い。
以上のように溶融塩めっきプロセスによって、気孔率が体積で0.1%未満の緻密で欠陥の極少ない、図6に示す、拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18とNi−Al(X)合金層(X=Zr,Y)からなる拡散浸透用合金層20を有するコーティング層を形成することができる。これによって、従来よりも長時間、装置の健全性を維持することができるだけでなく、装置を高温で使用できるため、従来、1100℃以上での使用の際に用いていたセラミックス製の反応塔106を、金属材料に代替することが可能となる。その結果、金属の伝熱を利用できるため、付帯の燃焼装置が不要となり、装置が簡単になるのに加え、コスト的にも有利となる。
また、自動車用エキゾーストマニホールド、ガスタービン部材またはジェットエンジン部材などに適用すると、コーティング表面温度が1100〜1200℃に達しても、1000時間以上致命的な酸化や腐食を受けないため、装置の健全性を維持できるとともに、高温燃焼が達成できるようになる。
(6)ガスタービン部材、ジェットエンジン部材等
例えば、図22A及び22bに示すガスタービン燃焼器84、図23に示すガスタービン動翼80、図24に示すガスタービン静翼82等にあっては、曲率も小さく、比較的単純な形状をした高温燃焼ガスに曝される箇所が存在する。これらの箇所にあっては、溶射や物理的蒸着法(PVD)によっての施工が可能である。しかし、物理的な方法で成膜した場合、皮膜と金属基材との密着性が悪く、皮膜の剥離が問題になることがある。そのため、予め金属基材の表面に適度な粗さの凹凸を付与して皮膜にアンカー効果を付与し、皮膜の金属基材との密着性を向上させる必要がある。ここでは、Co基合金ステライト250(Co−30%Cr−10%Fe)製のガスタービン燃焼器84へ適用した例を示すが、ガスタービン静翼、ガスタービン動翼あるいはジェットエンジン部材においても同様に実施が可能である。
この例では、先ず、ガスタービン燃焼器84等の当該部材に、アルミナショットブラストを実施して、表面の酸化物を除去するとともに、部材の表面に適度な凹凸を付与する。この凹凸における凹部の深さは、1〜20μm程度が好ましい。その後、例えば0.5〜30μmの厚さRe−W合金を、PVDでコーティングする。更に、Re−W合金の表面にアルミナショットブラストを施してから、CoNiCrAlY合金を、例えば30〜400μmの厚さで溶射する。
以上により、図11に示す、拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18とCoNiCrAlY合金からなる耐食合金層34を有するコーティング層を、ガスタービン燃焼器84等の部材の表面に形成することができる。雰囲気温度が1200℃以下の環境で使用する場合はこのままでよいが、1200℃以上の環境で使用する場合は、この表面に、図12に示すように、ZrO系セラミックス被覆(いわゆる遮熱コーティング)を施して、セラッミクス層24を100〜400μmの厚さで形成する。これにより、従来よりも高温燃焼が達成でき、高熱効率なガスタービンあるいはジェットエンジンを実現できる。
(7)廃棄物処理装置流動床散気ノズル等
本発明が適用される流動床式の廃棄物燃焼装置あるいはガス化装置の散気ノズルの断面を図30に示す。この種の図30に示す散気ノズル120は、内部に蒸気またはガスの流路122を有し、一般に高温の塩化物を多量に含んだ砂の流動雰囲気中で使用される。このため、耐高温腐食性に加え、耐摩耗性が要求される。従って、表面に硬い皮膜を被覆して、耐摩耗性を付与する必要がある。この例は、流動床式廃棄物燃焼あるいはガス化装置の散気ノズルに限らず、耐食・耐熱・耐摩耗性を必要とする高温装置部材であれば、同様に実施が可能である。
この例では、先ず、散気ノズル120等の当該部材に、アルミナショットブラストを実施して、表面の酸化物を除去するとともに、部材の表面に適度な凹凸を付与する。この凹凸における凹部の深さは、1〜20μm程度が好ましい。その後、例えば10〜50μmの厚さRe−W合金を、溶射法でコーティングする。更に、Re−W合金の表面にアルミナショットブラストを施してから、W炭化物またはCr炭化物を分散させたCoNiCrAlY合金を、例えば30〜400μmの厚さで溶射する。
以上で、図13に示す、拡散バリヤ層(Re−W(M)合金層)18と、W炭化物またはCr炭化物36を分散させた、CoNiCrAlY合金からなる耐摩耗層38とを有するコーティング層を、散気ノズル120等の部材の表面に形成することができる。このコーティングを施した部材は、耐高温腐食性に加え、耐摩耗性が要求される環境で、長時間装置の健全性を維持できるため、当該装置の信頼性向上が図れる。また、作動流体の温度を上昇できるので、装置性能を向上させることができる。
本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいものであることは言うまでもない。
産業上の利用の可能性
本発明は、ガスタービン翼、ジェットエンジンのタービン翼、燃焼器、ノズル、ボイラ伝熱管、廃棄物処理装置及び半導体製造排ガス処理装置などの高温で用いられる高温装置部材の表面皮膜として用いることにより、例えばガスタービン翼と該ガスタービン翼を用いた発電装置、ジェットエンジンのタービン翼、燃焼器、ノズルとこれらの機器を用いた乗用車、ジェット機航空機、ボイラ低熱管、廃棄物処理装置、及び半導体製造排ガス処理装置等の寿命を延伸し、メインテナンス期間を延伸することができる。

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】


【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】

【図30】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子組成でWを12.5〜56.5%含み、不可避的な不純物を除いて、残りをReとしたRe−W系σ相からなる拡散バリヤ層を有する拡散バリヤ用合金皮膜。
【請求項2】
原子組成でWを12.5〜56.5%、Reを20〜60%含み、かつ、ReとWの総量が50%以上であり、不可避的な不純物を除き、残りをCr,Ni,Co及びFeから選ばれる少なくとも一つ以上とした、本質的にRe−W系σ相からなる拡散バリヤ層を有する拡散バリヤ用合金皮膜。
【請求項3】
金属基材の表面に、ReまたはRe合金めっきと、WまたはW合金めっきとをそれぞれ施した後、1200℃以上で熱処理を施すことによって前記拡散バリヤ層を形成した請求項1または2記載の拡散バリヤ用合金皮膜。
【請求項4】
前記拡散バリヤ層と該拡散バリヤ層がコーティングされる金属基材との界面に、Reを分散させたRe分散層を更に有する請求項1または2記載の拡散バリヤ用合金皮膜。
【請求項5】
金属基材の表面に、Re濃度の異なるRe合金めっきを2段階に分けて行い、W合金めっきを行った後、1200℃以上で熱処理を施すことによって、前記Re分散層及び前記拡散バリヤ層を形成した請求項4記載の拡散バリヤ用合金皮膜。
【請求項6】
前記拡散バリヤ層の表面に、原子組成で10%以上50%未満のAl,CrまたはSiを含む拡散浸透用合金層をコーティングした請求項1または2記載の拡散バリヤ用合金皮膜。
【請求項7】
前記拡散バリヤ層と前記拡散浸透用合金層との間に、Wを分散させたW分散層を更に有する請求項6記載の拡散バリヤ用合金皮膜。
【請求項8】
金属基材の表面に、ReまたはRe合金めっきと、WまたはW合金めっきとをそれぞれ施した後、1200℃以上で熱処理を施して、Re−W合金からなる拡散バリヤ層を形成する拡散バリヤ用合金皮膜の製造方法。
【請求項9】
金属基材の表面に、Re合金めっきを2段階に分けて行い、W合金めっきを行った後、1200℃以上で熱処理を施して、Reを分散させたRe分散層とRe−W合金からなる拡散バリヤ層を形成する拡散バリヤ用合金皮膜の製造方法。
【請求項10】
金属基材の表面に、Re−W合金からなる拡散バリヤ層を溶融塩めっきで形成し、
前記拡散バリヤ層の表面に、原子組成で10%以上50%未満のAl,CrまたはSiを含む拡散浸透用合金層を溶融塩めっきで形成する拡散バリヤ用合金皮膜の形成方法。
【請求項11】
金属基板の表面に凹凸を形成し、
前記凹凸を形成した基板の表面に、Re−W合金からなる拡散バリヤ層を形成し、
前記拡散バリヤ層の表面に凹凸を形成し、
前記凹凸を形成した拡散バリヤ層の表面に耐食合金層を形成する拡散バリヤ用合金皮膜の形成方法。
【請求項12】
金属基板の表面に凹凸を形成し、
前記凹凸を形成した基板の表面に、Re−W合金からなる拡散バリヤ層を形成し、
前記拡散バリヤ層の表面に凹凸を形成し、
前記凹凸を形成した拡散バリヤ層の表面に耐摩耗層を形成する拡散バリヤ用合金皮膜の形成方法。
【請求項13】
前記Re−W合金は、原子組成でWを12.5〜56.5%含み、不可避的な不純物を除いて、残りをReとしたRe−W系σ相からなる請求項8乃至12のいずれかに記載の合金皮膜の拡散バリヤ用形成方法。
【請求項14】
前記Re−W合金は、原子組成でWを12.5〜56.5%、Reを20〜60%含み、かつ、ReとWの総量が50%以上であり、不可避的な不純物を除き、残りをCr,Ni,Co及びFeから選ばれる少なくとも一つ以上とした、本質的にRe−W系σ相からなる請求項8乃至12のいずれかに記載の拡散バリヤ用合金皮膜の形成方法。
【請求項15】
前記熱処理後にAl,CrまたはSiの拡散透過処理を行う請求項8または9記載の拡散バリヤ用合金皮膜の形成方法。
【請求項16】
金属基材の表面に、予めCrめっきを行う請求項8または9記載の拡散バリヤ用合金皮膜の形成方法。
【請求項17】
原子組成でWを12.5〜56.5%含み、不可避的な不純物を除いて、残りをReとしたRe−W系σ相からなる拡散バリヤ層を金属基材の表面にコーティングした高温装置部材。
【請求項18】
原子組成でWを12.5〜56.5%、Reを20〜60%含み、かつ、ReとWの総量が50%以上であり、不可避的な不純物を除き、残りをCr,Ni,Co及びFeから選ばれる少なくとも一つ以上とした、本質的にRe−W系σ相からなる拡散バリヤ層を金属基材の表面にコーティングした高温装置部材。
【請求項19】
前記拡散バリヤ層の表面に、原子組成で10%以上50%未満のAl,CrまたはSiを含む拡散浸透用合金層をコーティングした請求項17または18記載の高温装置部材。
【請求項20】
前記金属基材と前記拡散バリヤ層との間に、Reを分散させたRe分散層を更に有する請求項17または18記載の高温装置部材。
【請求項21】
前記拡散バリヤ層と前記拡散浸透用合金膜との間に、Wを分散させたW分散層を更に有する請求項19記載の高温装置部材。
【請求項22】
前記拡散浸透用合金層の表面をセラッミクス層で被覆した請求項19記載の高温装置部材。
【請求項23】
前記拡散バリヤ層の表面に、耐熱合金膜をコーティングした請求項17または18記載の高温装置部材。
【請求項24】
前記拡散バリヤ層の表面に、耐摩耗膜をコーティングした請求項17または18記載の高温装置部材。

【国際公開番号】WO2005/068685
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【発行日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517142(P2005−517142)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000734
【国際出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】