説明

拡開アンカー

【課題】浅い穿溝深度で要求された実用強度および耐力を実現することができる拡開アンカーを提供する。
【解決手段】拡開アンカー10は、アンカーボルト11と、ナット12と、スプリングワッシャー13と、第1および第2の外層板151,152と、第1乃至第5の内層金属板161〜165とを具備する。第1および第2の外層板151,152はそれぞれ蟻溝対応仰角曲加工されている。第1乃至第5の内層金属板161〜165の幅は第5乃至第1の内層金属板165〜161の順番で大きくされており、第1乃至第5の内層金属板161〜165の4つの側面の上部または全面は、第1乃至第5の内層金属板161〜165を同じ向きに重ね合わせたときに蟻溝の側壁と同じ傾斜角をもった連続面となるように面取り加工されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡開アンカーに関し、特に、蟻溝と組み合わせて使用するのに好適な拡開アンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、「あと施工アンカー」作業における穿孔方法は、主に、ハンマードリルを用いて穿孔している。この穿孔方法においては、対象面に対する一垂直往復打撃運動による意図的母材組織破壊と二水平回転運動穿削による粉状化とが穿孔要素であるため、以下に示すような問題があった。
(1)振動が原因の毛髪状刺し傷(ヘアークラック発生)が不可避であるため、経年変化よるアンカー力(グリップ力)の減衰の結果、被支持材料脱落事故が後を絶たない。
(2)一垂直往復打撃運動による意図的母材組織破壊部への安全係数を担保するため、「へりあき寸法」確保を必須とするが、実情は、自動販売機転倒防止固定に関するJISが規定する「へりあき寸法」を充足させない施工が横行しており、ひとたび地震被災の折には凡そ耐力を発揮しない危険な固定状況が常態している。
【0003】
一方、コアドリルによる穿孔も一部行われているが、打撃振動を母材に与えないものの、機材および機械が大掛かりとなり、また、注水式による切削であるため、限定的な使用しかされていない。
【0004】
「あと施工アンカー」に関する問題点を記載している文献として、下記の特許文献1および非特許文献1〜6がある。
【特許文献1】特開2000−192926号公報
【非特許文献1】1993年4月発行、コンクリート工学、Vol.31、No.4、「「あと施工アンカー」の製品,設計,施工の現状」、広沢雅也・清水泰共著
【非特許文献2】ヒルティ及び日本ヒルティ主催、ヒルティ・ファスニングアカデミー 2004、シュツットガルト工科大学、ロルフ・エリゲハウゼン教授、講演資料「注入式接着系アンカーの紹介と注入式接着系アンカーを採用したヨーロッパにおける鉄筋定着法」
【非特許文献3】埼玉石材業協会青年部常任理事小川長四郎氏の報告、「宮城県北部地震被害調査報告書」、chapter2
【非特許文献4】気象庁発行、気象庁震度階級関連解説表、「震度5強 多くの墓石が倒れる。」
【非特許文献5】日本ドライブイット(株)発行、メタルアンカーシステム製品仕様寸法表
【非特許文献6】ダイヤモンドプロダクト社発行、「工事の流れ」掲載写真
【非特許文献7】日本あと施工アンカー協会推奨図書、岡田恒男ほか著、「あと施工アンカー設計と施工」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の非特許文献1には、以下に示す旨が記載されている。
(1)昭和30年代後半になり、穿孔性のよい回転・打撃式のロータリーハンマードリル類がアメリカ、ヨーロッパから輸入され、各種アンカーが広く利用されるようになった。
(2)1990年度の金属系アンカーと接着系アンカーとを合わせた生産本数は4億2000万本で、毎年10%〜12%の伸びを示している。
(3)利用箇所の母材もコンクリート、ブロック、レンガなど多岐にわたっている。JISにより規定されている自動販売機の固定のように、調査可能な使われ方もあるが、その他の場合では、使用するアンカーの種類も力学的配慮に欠けた選択が行われている可能性もある。
(4)また、施工管理、施工ミスの手直し、検査方法など不明な点も多く、それらへの対策は今後の大きな問題となっている。
(5)わが国では、「あと施工アンカー」に関するJIS規格がない。
(6)施工方法についても、わが国では「あと施工アンカー」に関する公的な標準施工仕様書がない。
(7)穿孔機械としては、振動ドリル、ハンマードリル、削岩機、ダイヤモンドコアドリルがある。
(8)金属系アンカーでは、使用するボルトの種類および径に応じて定めるが、不適合の場合にはアンカー性能が著しく減衰する。
(9)接着系アンカーでは、孔内清掃に関し、切粉の除去を怠ると著しい性能劣化がある。
【0006】
上記の非特許文献2には、以下に示す分析摘示がされている。
(1)付着応力分布は埋込み深さ60mm以上で安定する。
(2)付着応力決定要素、一穿孔径、二孔内清掃、三穿孔方法、特に二孔内清掃を怠った場合には、付着応力が設計規定値の1/3以下に減衰する。なお、1回ブロワー清掃だけでは約1/2に減衰する。
(3)へりあき寸法が50mm以下の場合には、わずかな変位および負荷で破壊に至る。
(4)接着剤注入後の空気残りを原因とする接着不良が発生する。
(5)また、熟練した技能工により施工されるべきである(ドイツにおいては、施工資格制度が存在する。)。
(6)接着系アンカーのまとめ
(a)注入式接着系アンカーは、従来のカプセル式と同様、信頼できる「あと施工アンカー」である。ただし、二孔内清掃と三穿孔とが規定どおり行われることがアンカー性能を左右する。
(b)地震下における「あと施工アンカー」の挙動性能については、更なる研究および実験が必要である。
(c)クラックのあるコンクリートにおいては、樹脂とコンクリートとの界面で破壊が起こり、クラックのないコンクリートに比較して約50%破壊荷重が低下する。クラックのあるコンクリートのような状況下には、特殊なエキスパンションアンカーが有効である。これは、ボルトの拡張部による支圧力によって付着応力を維持する機構のものである。
【0007】
ヒルティ及び日本ヒルティ主催、ヒルティ・ファスニングアカデミー2004、国士舘工学部建築デザイン工学科木内俊明教授、「建築設備耐震工事におけるあと施工アンカーの役割と重要性」の講演では、以下に示す旨が述べられた。
(1)1978年宮城県沖地震発生の約1年前、「東京都白髪地区計画」に当たりアンカーボルトを含め、設備耐震に対する各種検討が行われた。
(2)「自家発電耐震設計のガイドライン」(国内唯一のあと施工アンカー規格)規格審議中において、1978年宮城県沖地震が発生した。
(3)建築設備用あと施工アンカーの金属拡張型について、1982年以降、許容引抜き規格値の存在は認められた。しかし、実際問題として、現場監督、施工監督技術者、設計責任者、施工会社担当責任者も含め、使用方法については配管等直接の施工者側に一括して任せることが多くみられた。しかし、あと施工アンカー引抜け事故が随所に見受けられるようになり、1990年以降、種類、施工方法、許容引抜き 強度確認等事故防止対策が採られてきた(その対策が採られていた最中での1995年、阪神淡路大震災発生である。)。
(4)2005年現在もあと施工アンカー(HASS)規格につき審議中である(1977年、最初の検討から約30年を経過したが未だ決定をみないのが現状である。)。
(5)施工された「あと施工アンカー」の引抜き力(引張強度)は許容引抜き力の値を100%満たすものであること。すなわち、絶対的に施工ミスがあってはならない。1箇所の事故発生はビル全体の機能性に影響し、場合によってはビル全館が使用不可能な状態になる恐れがある。特に大地震動、巨大地震振動(震度7)においても全て許容(耐力を有)しなくてはならない。
(6)グローバル化されている今日、建設設備用あと施工アンカーの規格が、日本国内のみでなく、近き将来、世界統一規格ができることが望まれる。この場合、統一された規格が100%利用されることが条件である。
【0008】
上記の特許文献1には、アンカーボルトに指摘される拡底アンカーの弱点として、以下に示すものが記載されている。
(1)アンカー挿入時拡開したときの力によりコンクリートに割れ目が生じたり、振動などのため時間の経過と共に接触面が磨耗しアンカーボルトが緩んでがたついたりする恐れがある。
(2)段落0004において指摘されている接着系アンカーの弱点
(3)接着剤がボルト孔からあふれる。
(4)完全に固化するまでアンカーボルトがボルト孔の中心よりずれて傾く。金属系アンカーおよび接着系アンカーいずれの場合にも、実施工上、母材に対するグリップ力が不安定である。
【0009】
上記の非特許文献3には、異形鉄筋ほかアンカーボルトは直下型地震に弱い旨が記載されている。
上記の非特許文献4には、「2004年10月に発生した新潟中越大地震において多くの墓石が震災により倒壊した事実。また、アンカーボルトが装着された墓石においてもモルタル封入不足などや地震動による石材のアンカーボルト這い上がり脱落現象が原因で倒壊する事実がある。」旨が記載されている。
【0010】
金属拡張アンカーの寸法規格表から汎用性が最も高いねじ径〔M10〕を基に比較すると、一内部コーン打込み式〈穿孔ドリル径:12.0mm/12.5mm、穿孔深度:40mm〉、二スリーブ打込み式〈穿孔ドリル径:14.0m m/14.5mm、穿孔深度:45mm〉、三ウェッジ式〈穿孔ドリル径:10.0mm/10.5mm、穿孔深度:60mm〉とアンカー性能発揮を担保する寸法が規定されている。穿孔ドリル径を間違えた場合には、挿入不能につき再穿孔後装填、多少緩いがそのまま装填、全く引張り抵抗を示さないので再穿孔後装填のいずれかを迫られる。勘違いや間違いを犯すヒトが為す作業として、不安定、非効率極まりない(上記の非特許文献5参照)
【0011】
上記の非特許文献6に掲載された写真のように、穿孔ドリル作業は、手持ちの場合には、回転芯がぶれないように保持し、かつ、穿孔面に対し垂直を確保することは困難を極める。
【0012】
以上示した「あと施工アンカー」工事におけるハンマードリルおよびコアドリル穿孔の欠点と金属系アンカーおよび接着系アンカーの欠点とをまとめると、
(1)対象材(母材)に対する打撃回転穿孔の結果としての対象材に対する傷害(母材分子・粒子固結構造の破壊)。
(2)現場でのハンマードリル操作上、空間的制限およびハンマードリル自身の重量により、対象面に対して直角にドリル軸線を保持し穿孔することは困難。さらに、ハンマードリル・コアドリル回転軸線上に作業者の眼を位置させ、かつ、回転・打刻運動が惹起する飛び跳ねなどを抑えるため、立ち作業が可能な空間(1m四方×高さ2m弱)を必要とする。おのずと作業現場において穿孔可能な場所は狭まられることになる。無理な作業の結果、「斜め穿孔」が生じ、「台直し」と称する、アンカー装着後雄ねじ挿入の上、雄ねじボルトを物理的に無理矢理曲げ、垂直にする作業が不可避である。この場合にも、垂直基準設定が困難、物理的に無理矢理曲げる空間確保が困難により、精度の高い補正は難しい。このことは、打撃穿孔と相まって、アンカーの使命たる引抜強度を失う致命的瑕疵である。
(3)へりあき寸法安定確保に空間的制限が多いこと。50mm以下の場合ほとんど耐力をもたない。
(4)鉄筋に遭遇した場合、一定の距離をおいた違う箇所に穿孔し直さなければならず、関連する取付け材料などに設計変更の怖れが発生すること。
(5)公共工事においては削孔長を写真撮影し検査を受けなければならないこと。
(6)孔内清掃が煩雑で一般的ブロワー清掃のみでは性能が半減すること。
(7)注入式接着系アンカーでは空気が封入されてしまい付着応力を減衰させること。
(8)ドイツにおける有資格熟練工、本国における「あと施工アンカー施工技師」試験など、限られた熟練資格者でなければ施工できないこと。
(9)アンカー統一規格・標準施工仕様書などがないこと。
(10)アンカーの種類が多く、また、適合する穿孔ドリル径が違い、煩雑であるため、間違いや勘違いが必然的に発生すること。また、その場合、別箇所に再穿孔しなければならず手抜工事の温床になりやすいこと。実際に脱落事故が続発したのち、施工関係者が総力で対策を講じたにも拘わらず全数検査は不可能なため、事故が後を絶たないこと。
(11)精度の高いアンカー装填を施したとしても、コンクリートの特性として経時的にクラックの発生は不可避である。クラックが発現した対象材は、100%のアンカー性能発揮は困難なこと(50%に減衰)。
(12)止むを得ず、斜め孔で設置しなければならない場合、水平設置を要求される本体との螺合は、垂直度が不完全状態なため、技術的困難や時間的非効率を伴うこと。
このような追跡調査および把握不能な締込み不適合アンカーが常態化していると想定できる。
【0013】
本発明の目的は、浅い穿溝深度で要求された実用強度および耐力を実現することができる拡開アンカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の拡開アンカーは、溝底面幅に比べて口元幅が狭い蟻溝と組み合わせて使用される拡開アンカーであって、アンカーボルトと、前記蟻溝内に挿入される少なくとも2つの内層金属板と、前記蟻溝の2つの側壁と前記内層金属板との間に挿入される2つの外層板とを具備し、前記2つの外層板がそれぞれ、上板部および横板部からなるL字状の横断面形状を有することを特徴とする。
また、本発明の拡開アンカーは、溝底面幅に比べて口元幅が狭い−文字状の蟻溝(31,31’)の中心1箇所に雄ネジを有する拡開アンカーとして使用される拡開アンカー(10)であって、アンカーボルト(11)と、ナット(12)と、第1および第2の外層板(151,152)と、少なくとも2つの内層金属板(161〜165)とを具備し、前記第1および第2の外層板がそれぞれ、上板部および横板部からなるL字状の横断面形状を有し、前記2つの内層金属板の一方の幅が他方の幅よりも大きくされていることを特徴とする。
ここで、前記2つの内層金属板の一方の長さが他方の幅よりも大きくされており、該2つの内層金属板の一方の上に他方を90°回して重ね合わせたときに、該2つの内層金属板の面が前記蟻溝の側壁と同じ傾斜角をもった面となるようにされていてもよい。
前記2つの内層金属板の少なくとも一方の幅が前記蟻溝の口元幅よりも大きくされており、該2つの内層金属板の少なくとも一方の中央部に、前記アンカーボルトのボルト径に比べて口径が広い貫通孔が穿設されていてもよい。
さらに、本発明の拡開アンカーは、溝底面幅に比べて口元幅が狭い−文字状の蟻溝(31,31’)の端部の2箇所に雌ネジを有する拡開アンカーとして使用される拡開アンカー(50)であって、第1および第2のアンカーボルト(511,512)と、第1および第2の外層板(551,552)と、上段内層金属板(561)および下段内層金属板(562)とを具備し、前記第1および第2の外層板がそれぞれ、上板部および横板部からなるL字状の横断面形状を有し、前記上段内層金属板と前記下段内層金属板とに、前記第1および第2のアンカーボルトとそれぞれ螺合するタップ加工された第1および第2の上段雌ネジ(56a11,56a12)と第1および第2の下段雌ネジ56a21,56a22)とがそれぞれ形成されていることを特徴とする。
ここで、前記上段内層金属板および前記下段内層金属板の幅が、前記蟻溝の口元幅よりも小さくされており、前記下段内層金属板の長さ方向の断面形状が逆台形状とされており、前記第1および第2の外層板の前記横板部が、中心部から底部にかけて幅が小さくなるようにされていてもよい。
さらに、本発明の拡開アンカーは、溝底面幅に比べて口元幅が狭い+文字状の蟻溝(32,32’)の端部の4箇所に雌ネジを有する拡開アンカーとして使用される拡開アンカー(60)であって、第1乃至第4のアンカーボルト(611〜614)と、第1乃至第8の外層板(651〜658)と、上段内層金属板(661)および下段内層金属板(662)とを具備し、前記第1乃至第8の外層板がそれぞれ、上板部および横板部からなるL字状の横断面形状を有し、前記上段内層金属板および前記下段内層金属板が、前記蟻溝と相似の形状を有し、前記上段内層金属板の第1乃至第4の上段突起部に、前記第1乃至第4のアンカーボルトとそれぞれ螺合するタップ加工された第1乃至第4の上段雌ネジ(66a11〜66a14)がそれぞれ形成されており、前記下段内層金属板の第1乃至第4の下段突起部に、前記第1乃至第4のアンカーボルトとそれぞれ螺合するタップ加工された第1乃至第4の下段雌ネジ(66a21〜66a24)がそれぞれ形成されていることを特徴とする。
ここで、前記上段内層金属板の前記第1乃至第4の上段突起部および前記下段内層金属板の前記第1乃至第4の下段突起部の幅が、前記蟻溝の口元幅よりも小さくされており、前記下段内層金属板の前記第1乃至第4の突起部の先端部が鋭角に削られており、前記第1乃至第8の外層板の前記横板部が中心部から底部にかけて幅が小さくされていてもよい。
【0015】
すなわち、本発明の拡開アンカー(ダヴテイルアンカー)は、金属系拡開アンカーであり、従来の丸孔穿孔拡開アンカーの欠点を克服するために、ダイヤモンドソーやダイヤモンドチェーンソーなどのようなブレードおよびチェーンの回転により母材に成形した蟻溝にアンカーボルトなどの螺合部品を定置固定するものである。
【0016】
母材に成形する蟻溝および適合するアンカーの形状は、見下げ平面図上、−文字および+文字の形状である。また、中心1箇所または端部を含む多数箇所に螺合部を設ける。さらに、要求される耐力および状況により雌ネジおよび雄ネジのいずれかの設営が可能である。
【0017】
本発明の拡開アンカーは、蟻溝(すなわち、溝底面幅に比べて口元幅を狭くした溝)と組み合わせて使用することにより、アンカーの引張耐力およびびせん断耐力を獲得しようとするものである。したがって、蟻溝の幅に該当する部材につき一体部品および一品部品では蟻溝に挿入不可能なため、部品を複数枚に分離成型し、複数枚の部品を蟻溝に対して各々別々に挿入する。各部品の挿入後、ボルト螺合作用を利用して各部品を一体化し緊結させ拡開させて、アンカーに求められる応力および耐力を発揮させる。
【発明の効果】
【0018】
従来では密集部および狭隘部に4本のアンカーを設立する場合にはコーン破壊における群効果(すなわち、投影面積の重なりによるアンカー耐力の劇的低減)は不可避であったが、本発明の拡開アンカーは、アンカー孔穿孔時の振動による母材破壊と併せた耐力減衰の原因を100%回避することを可能にする結果、浅い穿溝深度で要求された実用強度および耐力を実現することができるという効果を奏する。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の拡開アンカーの実施例について、図面を参照して説明する。
本発明の第1の実施例による拡開アンカー10は、−文字状の蟻溝31(図4(a),(b)参照)の中心1箇所に雄ネジを有する拡開アンカーとして使用するものであって、図1に示すように、スティール製のアンカーボルト11(六角ボルト)と、スティール製のナット12と、スティール製のスプリングワッシャー13と、スティール製の被固定物金属板14と、スティール製またはプラスティック製の第1および第2の外層板151,152と、スティール製の第1乃至第5の内層金属板161〜165(厚さ4.5mm)とを具備する。
【0020】
ここで、第1および第2の外層板151,152は、一体に形成された上板部および横板部からなるL字状の横断面形状を有する。また、第1および第2の外層板151,152の横板部は、第1および第2の外層板151,152の上板部に対して、上板部の端面が互いに対向するように蟻溝31に挿入したときに横板部が蟻溝31の側壁と平行になるような傾斜角で傾けられている。すなわち、第1および第2の外層板151,152は蟻溝対応仰角曲加工されている。ただし、第1および第2の外層板151,152は、蟻溝対応仰角曲加工されている方が好ましいが、既製品アングルを切断しただけのもの(たとえば、鉄材アングル切断面のような直角曲加工物)であってもよい。
また、第1および第2の外層板151,152は、アンカー設置後に発生する短期荷重および長期荷重(引張力およびせん断力)を蟻溝31の側壁に満遍なく平均に伝達させるためのものであり、通常の使用ではスティールなどのような金属製でよいが、たとえば電気絶縁性などの特殊用途ではプラスティック製でよい。
【0021】
被固定物金属板14の中央部には、アンカーボルト11の径とほぼ同じ大きさの口径を有する貫通孔が穿設されている。
また、第1乃至第5の内層金属板161〜165の中央部には、アンカーボルト11のボルト径に比べて口径が広い(すなわち、アソビを持った)貫通孔が穿設されている。
【0022】
第1乃至第5の内層金属板161〜165の幅(蟻溝31の幅方向の長さ)は、第1の内層金属板161の幅1W<第2の内層金属板162の幅2W<第3の内層金属板163の幅3W<第4の内層金属板164の幅4W<第5の内層金属板165の幅5Wとされており、第1乃至第5の内層金属板161〜165の長さ(蟻溝31の長手方向の長さ)は、第1の内層金属板161の長さ1L<第2の内層金属板162の長さ2L<第3の内層金属板163の長さ3L<第4の内層金属板164の長さ4L<第5の内層金属板165の長さ5Lとされている。
ここで、少なくとも第5の内層金属板165の幅5Wは蟻溝31の口元幅W1よりも大きくされている。
ただし、第1の外層板151の横板部の厚さと第5の内層金属板165の幅5Wと第2の外層板152の横板部の厚さとの和が蟻溝31の口元幅W1よりも大きければ、第5の内層金属板165の幅5Wが蟻溝31の口元幅W1よりも小さくてもよい。
【0023】
また、第1乃至第5の内層金属板161〜165の4つの側面の上部(または、全面)は、第1乃至第5の内層金属板161〜165を第5乃至第1の内層金属板165〜161の順番で同じ向きに重ね合わせたときに蟻溝31の側壁と同じ傾斜角をもった連続面となるように面取り加工されている。ただし、第1乃至第5の内層金属板161〜165は、面取り加工されている方が好ましいが、面取り加工していないプレス加工機で抜いただけのものであってもよい
【0024】
さらに、第1の内層金属板161の長さ1Lは第5の内層金属板165の幅5Wよりも大きくされており(すなわち、5W<1L)、第1の内層金属板161の上に第5の内層金属板165を90°回して重ね合わせたときに、第1および第5内層金属板161,165の側面の上部の面取り加工された面が蟻溝31の側壁と同じ傾斜角をもった連続面となるようにされている。
これにより、母材30に成形した蟻溝31の幅が当初の墨掛け幅と誤差が生じた場合でも、最適な拡開幅を獲得することができる。たとえば、第1の内層金属板161を最下段にして、その上に第5乃至第2の内層金属板165〜162を第1の内層金属板161に対して90°回転させてこの順で積層したもの(1L>5W>4W>3W>2W)を1組とすれば、誤差が生じて溝底面幅が第5の内層金属板165の幅よりも大きくなった蟻溝31に対しても密着適合する最適幅を得ることができる。したがって、穿溝の失敗をゼロにすること(すなわち、穿溝作業歩留まりを100%に押し上げること)ができる。
【0025】
なお、専用の定規を作成して、穿溝された蟻溝31の一定位置にこの定規を当てれば瞬時に最適幅(すなわち、1W〜5Lまでの組み合わせ)を色表示で示せるようにしてもよい。
【0026】
次に、本実施例による拡開アンカー10の使用方法について、図2乃至図4を参照して説明する。
まず、図2(a)に示すダイヤモンドホイールソー21を用いて、ダイヤモンドチップ22が固結されたホイールの回転運動により、断面形状が円弧の2本の切込を母材30(コンクリートや石材など)に入れる。
【0027】
その後、ダイヤモンドホイールソー21を用いて、図3(a)に示すように、アルファベットの「Z」状になるように補助切込を所定の深度まで入れる。続いて、図3(b)に示すように、切削された「Z」状の補助切込の鋭角箇所(同図に黒で塗った部分)をノミまたはタガネを用いて打撃する。続いて、不要な母材30を除去しながら、図3(c),(d)に示すように、切削された「Z」状の補助切込の残りの部分(同図に黒で塗った部分)をノミまたはタガネを用いて打撃する。残存する母材30が剥離していない場合には、ノミまたはタガネを用いて底面を浚う。
これにより、図4(a)に示すような口元幅W1および溝底面幅W2(W1<W2)の−文字形状の蟻溝31を母材30に成形する。
【0028】
この方法でも不完全な蟻溝しか成形されない場合には、適宜、ダイヤモンドホイールソー21、ダイヤモンドカッター、ダイヤモンドディスクサンダーまたはダイヤモンドチェーンソーを使用して研削除去する。なお、蟻溝31の表面の平滑性は無用である。むしろ、凹凸が残ったほうが接着剤との食い付きが良い。
また、切込傾斜が付けられない場合には、墨掛け寸法を切除したのち、ダイヤモンドホイールソー21の刃先を当てて傾斜、当てて傾斜を繰り返すことにより、容易に口元幅W1に較べ溝底面幅W2が広い蟻溝31を成形することができる。
さらに、刃の方向妻手部でも、拡開アンカー10は内部の一定距離までは拡がっていくアンカー設計になっているので、接触蟻溝面全体でアンカー効果を発揮させることができる。
【0029】
なお、ダイヤモンドホイールソー21の代わりに、図2(b)に示すダイヤモンドチェーンソー25を用いて、ダイヤモンドチップ26が固結されたチェーンの回転運動により、同様にして、図4(b)に示すような口元幅W1および溝底面幅W2(W1<W2)の−文字形状の蟻溝31’を母材30に成形してもよい。
【0030】
以上のようにして母体30に蟻溝31を成形すると、アンカーボルト11(図1参照)をボルト頭が下になるようにして蟻溝31に挿入する。続いて、第5の内層金属板165の貫通孔にアンカーボルト11を貫通させたのち、貫通孔のアソビを活用して蟻溝31の口元面に対して第5の内層金属板165を斜めに傾けて(すなわち、平面投影面積を少なくして)蟻溝31の口元を通過させることにより、第5の内層金属板165を蟻溝31に挿入する。これにより、蟻溝31の口元幅W1よりも幅5Wが大きい第5の内層金属板165であっても、蟻溝31に挿入することができる。
続いて、第4乃至第1の内層金属板164〜161を蟻溝31に挿入する。このとき、蟻溝31の口元幅W1よりも幅が大きい第4乃至第1の内層金属板164〜161については、第5の内層金属板165と同様に斜めに傾けて挿入する。また、第1乃至第5の内層金属板161〜165の向きは同じ向きになるようにする(以上、アンカーボルト・内層金属板挿入工程)。
【0031】
このとき、アンカーボルト11と第1乃至第5の内層金属板161〜165とは、母材30が床である場合には、引力に任せて蟻溝31の底に落とし込めばよい。
また、母材30が天井である場合には、蟻溝31の口元幅W1よりも幅が大きい第1乃至第5の内層金属板161〜165のいずれかが蟻溝31に引っ掛かるため、挿入したアンカーボルト11および第1乃至第5の内層金属板161〜165が落下することはない。なお、手で押えておくなど他の方法でアンカーボルト11および第1乃至第5の内層金属板161〜165の落下を防止する場合には、第1乃至第5の内層金属板161〜165の幅1W〜5Wはすべて蟻溝31の口元幅W1よりも小さくてもよい。
【0032】
続いて、挿入したアンカーボルト11および第1乃至第5の内層金属板161〜165を蟻溝31の底に押し付けながら、第1および第2の外層板151,152の外面が確実にかつ無理なく自然に蟻溝31の側壁に接するように、第1および第2の外層板151,152を1つずつ蟻溝31に挿入する(外層組付工程)。
【0033】
なお、経験上この段階では蟻溝31の底部ではある程度の隙間が生じているため、自然な蟻溝31に対する組付けおよび最も重要なアンカー軸直立補正を自由に行うことができる。
また、蟻溝31の側壁同士が蟻溝31の長手方向について等間隔になっていない場合には、以下の対策を施す。
(1)蟻溝31の側壁と第1および第2の外層板151,152との間に弾性接着剤、エポキシ系接着剤またはモルタルなどを挟み込んで硬化させる。
(2)第1および第2の外層板151,152と第1乃至第5の内層金属板161〜165との間に蟻溝31の長手方向左右から1〜4箇所に楔を挿入して位置調整を行ったのちに永久固定する。この場合には、蟻溝31の空隙部に接着剤またはモルタルなどを充填した方が安全であると考えられる。
【0034】
続いて、アンカーボルト11のボルト螺子部に被固定物金属板14の貫通孔を通すことにより、被固定物金属板14をアンカーボルト11に挿入する(被固定物定置工程)。
これにより、被固定物金属板14は、蟻溝31の側壁を母材30の表面でブリッジする。また、被固定物金属板14は、被固定物と共に、緊結後は母材30の表面と面接触するので、短期荷重および長期荷重(特に、せん断力)を母材30の表面に対する圧縮力に変換する。さらに、被固定物金属板14は、後述する緊結時において第1および第2の外層板151,152が偏った変位を起こさないようにもする。
【0035】
最後に、スプリングワッシャー13およびナット12を用いて緊結していく(緊結工程)。
これにより、第1乃至第5の内層金属板161〜165が蟻溝31の口元方向に変位を始め、第1および第2の外層板151,152が蟻溝31の側壁に密着して、アンカー付着力を発揮し始める。ただし、無用にトルクを掛ける必要はなく、ガタツキが解消しさえすればよい。
図5(a)〜(d)に、拡開アンカー10の緊結後の状態を示す。
【0036】
本実施例による拡開アンカー10では、理論的には従来の丸孔アンカーとは違って母材30に対してアンカー自身を固定および定置する必要がないため(物理的に見て、挿入したアンカーが一体化して母材30の口元より幅広になるため)、アンカー拡開ストレスを与える必要がない。すなわち、発生する荷重の実数値のみが母材30に対する付着力となって作用するため、全く過剰なストレスを与えることがない構造となる。したがって、緊結は各部品および部材にガタツキが生じない範囲で締め付ければよい。また、永久固定の場合には、母材30の空隙部にシリコンコークやモルタルセメントを充填してガタツキを止めればよい。または、既設の母材コンクリートにおいては、既にコンクリート学会でも発表認知されている「エポキシ樹脂注入によるコンクリート補強」を行ってもよい。
【0037】
従来に多用されているハンマードリル穿孔方法(母材に対する振動が不可避である。)に比べても、ダイヤモンドホイールソー21(サンドブラスト)使用による穿溝方法および本実施例による拡開アンカー10は母材30に対して無用なストレス(振動および内部拡開力)を与えない。したがって、
(1)プレキャストコンクリートにおいては、メーカー発表の公的機関による試験成績表上の強度(新築現場打ちでは規定遵守の養生期間経過後のコンクリート強度、既設建築物においては現場におけるシュミットハンマーなどの試験方法による強度)
(2)拡開アンカー10に使用する鋼材およびプラスティックなどの材料強度
(3)引張試験値
アンカー条件:一般構造用圧延鋼材(SS JIS G 3101)
1.穿溝深度 40mm
2.アンカー外層深度 30mm
3.アンカー外層寸法 30×60×t=2 左右2枚
4.アンカー内層寸法 46〜48×26〜30×t=4.5 4枚
(a)コンクリート(試験体寸法:150×150×100mm)無筋
27.2KN/M12ボルト1本当り母材割裂破壊(蟻溝の側面および底の交点を基点とする割裂および側面への逃げ破壊)
(b)斑レイ岩(試験体寸法:182×152×117mm)
40.0KN/M12ボルト1本当り母材割裂破壊(蟻溝の側面および底の交点を基点とする襟溝壁延長面割裂1箇所破壊)
以上の数値のみでアンカーボルトの設計および強度計算が成立し、現場などにおいて実施工後の引き抜き試験が不要となる。
【0038】
すなわち、拡開アンカー10の最大引張強度は、母材曲げモーメント強度およびボルト降伏点強度のいずれか低い値になるということができる。その結果、150KNに近い超高強度コンクリートおよび800メガパスカルに届く超高強度鋼材を拡開アンカー10の原材料および構成要素とすれば、飛躍的な超高強度あと施工アンカーが誕生する。
【0039】
アンカーの埋込み深度は、コンクリートなど中性化やひび割れなど母材圧縮強度に不安定性が存する限り、深度が深ければより安全率が向上すると思われるが、引張試験における母材破壊および破断事実から推論できるのは、「拡開アンカー10においては、主たる耐力は母材曲げモーメントに対する反力を起源とするため、コーン破壊は副次的に発生するものの埋込み深度およびコーン破壊はアンカー耐力起源から開放される。
実用的には、コンクリート表面下3〜5cmに配置される鉄筋までの深度範囲内(すなわち、「かぶり」範囲内)で、中性化など劣化しておらずシュミットハンマー試験において耐力ありと判定された場合には、実用アンカー耐力を獲得することができる。すなわち、従来のアンカー施工と同様に、図面および探査機を用いて鉄筋探査を予め行うものの穿溝段階で鉄筋に遭遇した場合には、既に35mm前後の深度があれば穿溝を中止し、この深度でアンカー設立をすればよい。また、どうしても深度を確保したい場合には、慎重検討するも、ダイヤモンドソーをそのまま使用して鉄筋を切り取り除去することができる。なお、この場合には、アンカー定置固定後、蟻溝31の空隙内にエポキシ系樹脂を注入充填し、母材コンクリートを補強することが肝要である。
上記の非特許文献7(日本あと施工アンカー協会推奨図書、岡田恒男ほか著、「あと施工アンカー設計と施工」)によれば、「穿孔深度50mm以上の場合には、実に30%以上の鉄筋遭遇があった」との経験値記述がある。本実施例による拡開アンカー10は、あと施工アンカー作業における鉄筋遭遇による付随作業およびデフェクトから100%開放するものである。
【実施例2】
【0040】
次に、本発明の第2の実施例による拡開アンカーについて説明する。
本実施例による拡開アンカー50は、−文字状の蟻溝31の端部の2箇所に雌ネジを有する拡開アンカーとして使用するものであって、図6に示すように、スティール製の第1および第2のアンカーボルト511,512(六角ボルト)と、スティール製の第1および第2のスプリングワッシャー531,532と、スティール製の被固定物金属板54と、スティール製またはプラスティック製の第1および第2の外層板551,552と、スティール製の上段内層金属板561および下段内層金属板562とを具備する。
【0041】
ここで、被固定物金属板54の長さ方向(蟻溝31の長さ方向)に沿った中心線上の両端部には、第1および第2のアンカーボルト511,512の径とほぼ同じ大きさの口径を有する第1および第2の貫通孔がそれぞれ穿孔されている。
また、上段内層金属板561の長さ方向(蟻溝31の長さ方向)に沿った中心線上の被固定物金属板54の第1および第2の貫通孔と対応する位置には、第1および第2のアンカーボルト511,512とそれぞれ螺合するタップ加工された第1および第2の上段雌ネジ56a11,56a12がそれぞれ形成されている。同様に、下段内層金属板562の長さ方向(蟻溝31の長さ方向)に沿った中心線上の被固定物金属板54の第1および第2の貫通孔と対応する位置には、第1および第2のアンカーボルト511,512とそれぞれ螺合するタップ加工された第1および第2の下段雌ネジ56a21,56a22がそれぞれ形成されている。
【0042】
本実施例による拡開アンカー50では、上下または左右の2つの螺子部を確保するために、上段内層金属板561および下段内層金属板562の長さ(蟻溝31の長さ方向の長さ)および高さ(蟻溝31の深さ方向の長さ)は、図1に示した第1乃至第5の内層金属板161〜164の長さおよび高さよりも大きくされている。
上段内層金属板561および下段内層金属板562の高さが高くされている結果、上段内層金属板561および下段内層金属板562は、上述した第5の内層金属板165のように傾けて蟻溝31に挿入することはできないため、上段内層金属板561および下段内層金属板562の幅は、蟻溝31の口元幅W1よりも小さくされている。
【0043】
なお、第1および第2の外層板551,552と上段内層金属板561および下段内層金属板562とを蟻溝31に挿入した後に蟻溝31の口元幅W1よりも広い幅を確保するために、第1および第2の外層板551,552の厚さは図1に示した第1および第2の外層板151,152の厚さよりも大きくされている。
【0044】
上段内層金属板561および下段内層金属板562の高さが高くされているため、下段内層金属板562の長さ方向の断面形状は、長さ方向の断面形状が半円状である蟻溝31に挿入することができるように、逆台形状とされている。
また、第1および第2の外層板551,552はそれぞれ、上板部および横板部からなるL字状の横断面形状を有するとともに、第1および第2の外層板551,552の高さは図1に示した第1および第2の外層板151,152の高さよりも大きくされているため、長さ方向の断面形状が半円状である蟻溝31の底部付近まで挿入されるように、横板部が中心部から底部にかけて幅が小さくなるようにされている。
【0045】
上段内層金属板561および下段内層金属板562の長さ方向の2つの側面の上部(または、全面)は、下段内層金属板562の上に上段内層金属板561を同じ向きに重ねたときに蟻溝31の側壁と同じ傾斜角をもった連続面となるように面取り加工されている。ただし、上段内層金属板561および下段内層金属板562は、このように面取り加工されている方が好ましいが、面取り加工していないプレス加工機で抜いただけのものであってもよい。
また、第1および第2の外層板551,552の横板部は、第1および第2の外層板551,552の上板部に対して、上板部の端面が互いに対向するように蟻溝31に挿入したときに横板部が蟻溝31の側壁と平行になるような傾斜角で傾けられている。すなわち、第1および第2の外層板551,552は蟻溝対応仰角曲加工されている。ただし、第1および第2の外層板551,552の横板部は、蟻溝対応仰角曲加工されている方が好ましいが、既製品アングルを切断しただけのもの(たとえば、鉄材アングル切断面のような直角曲加工物)であってもよい。
【0046】
次に、本実施例による拡開アンカー50の使用方法について説明する。
まず、図2(a)に示したダイヤモンドホイールソー21を用いて、上述した第1の実施例による拡開アンカー10の場合と同様にして、図4(a)に示した蟻溝31を母材30に成形する。
【0047】
続いて、下段内層金属板562を蟻溝31に落とし込んだのち、上段内層金属板561を下段内層金属板562の上に落とし込む(内層組付工程)。
続いて、第1および第2の外層板551,552の外面が確実にかつ無理なく自然に蟻溝31の側壁に接するように、第1および第2の外層板551,552を1つずつ蟻溝31に挿入する(外層組付工程)。
【0048】
続いて、蟻溝31の開口部をすべて覆うように被固定物金属板54を母材30の表面に宛がう(被固定物定置工程)。
ここで、壁に取り付ける手摺などの固定用として拡開アンカー50を使用する場合には、被固定物金属板54として、手摺脚部フラットプレートを用いる。このとき、手摺脚部フラットプレートを蟻溝31より大きく設計して蟻溝カバーとしてもよい。
【0049】
続いて、第1および第2のアンカーボルト511,522に第1および第2のスプリングワッシャー531,532を介して被固定物金属板54の第1および第2の貫通孔にそれぞれ通したのち、第1および第2のアンカーボルト511,522を交互に平均的に加力して、上段内層金属板561の第1および第2の上段雌ネジ56a11,56a12と下段内層金属板562の第1および第2の下段雌ネジ56a21,56a22とに締め込んでいく(緊結工程)。
これにより、上段内層金属板561および下段内層金属板562が蟻溝31の口元方向に変位を始め、第1および第2の外層板551,552が蟻溝31の側壁に密着して、アンカー付着力を発揮し始める。ただし、無用にトルクを掛ける必要はなく、ガタツキが解消しさえすればよい。
図7(a)〜(d)に、拡開アンカー50の緊結後の状態を示す。
【実施例3】
【0050】
次に、本発明の第3の実施例による拡開アンカーについて説明する。
本実施例による拡開アンカー60は、+文字状の蟻溝32(図10(a)参照)の端部の4箇所に雌ネジを有する拡開アンカーとして使用するものであって、図8に示すように、スティール製の第1乃至第4のアンカーボルト611〜614(六角ボルト)と、スティール製の第1乃至第4のスプリングワッシャー631〜634と、スティール製の被固定物金属板64と、スティール製またはプラスティック製の第1乃至第8の外層板651〜658と、スティール製の上段内層金属板661および下段内層金属板662とを具備する。
なお、図8には、第1乃至第4のアンカーボルト611〜614のうち第1および第4のアンカーボルト611,614のみを図示しており、また、第1乃至第4のスプリングワッシャー631〜634のうち第1および第4のスプリングワッシャー631,634のみを図示している。
【0051】
ここで、被固定物金属板64の縦横2本の中心線上の端部には、第1乃至第4のアンカーボルト611〜614の径とほぼ同じ大きさの口径を有する第1乃至第4の貫通孔がそれぞれ穿孔されている。
【0052】
また、上段内層金属板661および下段内層金属板662は、+文字状の蟻溝32と相似の形状を有する。
すなわち、上段内層金属板661は2本の棒を+文字状に交差させた平面形状を有し(以下、説明の簡単のため、上段内層金属板661の突起している部分を第1乃至第4の上段突起部と称する。)、第1乃至第4の上段突起部の被固定物金属板64の第1乃至第4の貫通孔に対応する位置には、第1乃至第4のアンカーボルト611〜614とそれぞれ螺合するタップ加工された第1乃至第4の上段雌ネジ66a11〜66a14がそれぞれ形成されている。
同様に、下段内層金属板662は2本の棒を+文字状に交差させた平面形状を有し(以下、説明の簡単のため、下段内層金属板662の突起している部分を第1乃至第4の下段突起部と称する。)、第1乃至第4の下段突起部の被固定物金属板64の第1乃至第4の貫通孔に対応する位置には、第1乃至第4のアンカーボルト611〜614とそれぞれ螺合するタップ加工された第1乃至第4の下段雌ネジ66a21〜66a24がそれぞれ形成されている。
【0053】
本実施例による拡開アンカー60では、上下左右の4つの螺子部を確保するために、上段内層金属板661および下段内層金属板662の長さ(すなわち、第1の上段突起部の先端から第3の上段突起部の先端までの長さおよび第2の上段突起部の先端から第4の上段突起部の先端までの長さ)および高さ(蟻溝32の深さ方向の長さ)は、図1に示した第1乃至第5の内層金属板161〜164の長さおよび高さよりも大きくされている。
上段内層金属板661および下段内層金属板662の高さが高くされている結果、上段内層金属板661および下段内層金属板662は、図1に示した第1乃至第5の内層金属板161〜164のように傾けて蟻溝32に挿入することはできないため、上段内層金属板661の第1乃至第4の上段突起部および下段内層金属板662の第1乃至第4の下段突起部の幅は、蟻溝32の口元幅よりも小さくされている。
【0054】
なお、第1乃至第8の外層板651〜658と上段内層金属板661および下段内層金属板662とを蟻溝32に挿入した後に蟻溝32の口元幅W1よりも広い幅を確保するために、第1乃至第8の外層板651〜658の厚さは図1に示した第1および第2の外層板151,152の厚さよりも大きくされている。
【0055】
上段内層金属板661および下段内層金属板662の高さが高くされているため、下段内層金属板662の第1乃至第4の突起部の先端部は、長さ方向の断面形状が半円状である蟻溝32に挿入できるように、鋭角に削られている。
第1乃至第8の外層板651〜658はそれぞれ、上板部および横板部からなるL字状の横断面形状を有するとともに、第1乃至第8の外層板651〜658の高さも図1に示した第1および第2の外層板151,152の高さよりも大きくされているため、長さ方向の断面形状が半円状である蟻溝32の底部付近まで挿入されるように、横板部が中心部から底部にかけて幅が小さくされている。
【0056】
上段内層金属板661の第1乃至第4の上側突起部および下段内層金属板662の第1乃至第4の下側突起部の長さ方向の2つの側面の上部(または、全面)は、下段内層金属板662の上に上段内層金属板661を同じ向きに重ねたときに蟻溝32の側壁と同じ傾斜角をもった連続面となるように面取り加工されている。ただし、上段内層金属板661および下段内層金属板662は、このように面取り加工されている方が好ましいが、面取り加工していないプレス加工機で抜いただけのものであってもよい。
また、第1乃至第8の外層板651〜658の横板部は、第1乃至第8の外層板651〜658の上板部に対して、上板部の端面が互いに対向するように蟻溝32に挿入したときに横板部が蟻溝32の側壁と平行になるような傾斜角で傾けられている。すなわち、第1乃至第8の外層板651〜658は蟻溝対応仰角曲加工されている。ただし、第1乃至第8の外層板651〜658は、蟻溝対応仰角曲加工されている方が好ましいが、既製品アングルを切断しただけのもの(たとえば、鉄材アングル切断面のような直角曲加工物)であってもよい。
【0057】
次に、本実施例による拡開アンカー60の使用方法について、図9乃至図11を参照して説明する。
まず、図2(a)に示したダイヤモンドホイールソー21を用いて、ダイヤモンドチップ22が固結されたホイールの回転運動により、図9(a)に示すように、断面形状が円弧の2本の切込を母材30(コンクリートや石材など)に平行に入れたのち、この2本の切込の中心で直角に交差するように、断面形状が円弧の2本の他の切込を母材30に平行に入れる。
【0058】
その後、図9(b)に示すように、4本の切込の交差箇所(同図に黒で塗った部分)をノミまたはタガネを用いて打撃する。続いて、不要な母材30を除去しながら、図9(c),(d)に示すように、2本の平行な切込の間の残りの部分(同図に黒で塗った部分)をノミまたはタガネを用いて打撃する。残存する母材30が剥離していない場合には、ノミまたはタガネを用いて底面を浚う。
これにより、図10(a)に示すような口元幅W1、溝底面幅W2、口元交差部対角線長W3および溝底面交差部対角線長W4(W1<W2、W3<W4)の+文字状の蟻溝32を母材30に成形する。
【0059】
なお、図2(b)に示したダイヤモンドチェーンソー25を用いて、同様にして、図10(b)に示すような+文字状の蟻溝32’を母材30に成形してもよい。
【0060】
続いて、下段内層金属板662を蟻溝32に落とし込んだのち、上段内層金属板661を下段内層金属板662の上に落とし込む(内層組付工程)。
続いて、第1乃至第8の外層板651〜658の外面が確実にかつ無理なく自然に蟻溝32の側壁に接するように、第1乃至第8の外層板651〜658を1つずつ蟻溝32に挿入する(外層組付工程)。
【0061】
続いて、蟻溝32の開口部をすべて覆うように被固定物金属板64を母材30の表面に宛がう(被固定物定置工程)。
ここで、角および丸パイプ柱などの脚部の基礎への固定用として拡開アンカー60を使用する場合には、被固定物金属板64として、溶接などの方法で柱脚部に取り付けられたかつ4つ孔が穿設されたフラットバー鋼板を用いる。
【0062】
続いて、第1乃至第4のアンカーボルト611〜614を第1乃至第4のスプリングワッシャー631〜634を介して被固定物金属板64の第1乃至第4の貫通孔にそれぞれ通したのち、第1乃至第4のアンカーボルト611〜614を順次に平均的に加力して、上段内層金属板661の第1乃至第4の上段雌ネジ56a11〜56a14と下段内層金属板662の第1乃至第4の下段雌ネジ56a21〜56a24とに締め込んでいく(緊結工程)。
これにより、上段内層金属板661および下段内層金属板662が蟻溝32の口元方向に変位を始め、第1乃至第8の外層板651〜658が蟻溝32の側壁に密着して、アンカー付着力を発揮し始める。ただし、無用にトルクを掛ける必要はなく、ガタツキが解消しさえすればよい。
図11(a)〜(d)に、拡開アンカー60の緊結後の状態を示す。
【0063】
以上の説明では、スティール製の被固定物金属板14,54,64を用いたが、スティール製の座金を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施例による拡開アンカー10の構成を示す図である。
【図2】−文字状の蟻溝の成形方法を説明するための図であり、(a)は蟻溝を成形するのに使用するダイヤモンドホイールソー21を示す図であり、(b)はダイヤモンドチェーンソー25を示す図である。
【図3】−文字状の蟻溝の成形方法を説明するための図であり、(a)〜(d)は図2(a)に示したダイヤモンドホイールソー21を用いて母材30に蟻溝31を成形する手順を示す図である。
【図4】−文字状の蟻溝31,31’の形状を示す図であり、(a)は図2(a)に示したダイヤモンドホイールソー21を用いて成形した蟻溝31の形状を示すであり図、(b)は図2(b)に示したダイヤモンドチェーンソー25を用いて成形した蟻溝31’の形状を示す図である。
【図5】図1に示した拡開アンカー10の緊結後の状態を示す図であり、(a)は見下平面図、(b)は見上平面図、(c)は側面図、(d)は立面図である。
【図6】本発明の第2の実施例による拡開アンカー50の構成を示す図である。
【図7】図6に示した拡開アンカー50の緊結後の状態を示す図であり、(a)は見下平面図、(b)は見上平面図、(c)は側面図、(d)は立面図である。
【図8】本発明の第3の実施例による拡開アンカー60の構成を示す図である。
【図9】+文字状の蟻溝の成形方法を説明するための図であり、(a)〜(d)は図2(a)に示したダイヤモンドホイールソー21を用いて母材30に蟻溝32を成形する手順を示す図である。
【図10】+文字状の蟻溝32,32’の形状を示す図であり、(a)は図2(a)に示したダイヤモンドホイールソー21を用いて成形した蟻溝32の形状を示すであり図、(b)は図2(b)に示したダイヤモンドチェーンソー25を用いて成形した蟻溝32’の形状を示す図である。
【図11】図8に示した拡開アンカー60の緊結後の状態を示す図であり、(a)は見下平面図、(b)は見上平面図、(c)は側面図、(d)は立面図である。
【符号の説明】
【0065】
10,50,60 拡開アンカー
11,511,512,611〜614 アンカーボルト
12 ナット
13,531,532,631〜634 スプリングワッシャー
14,54,64 被固定物金属板
151,152,551,552,651〜658 外層板
161〜165 内層金属板
561,661 上段内層金属板
562,662 下段内層金属板
56a11,56a12,66a11〜66a14 上段雌ネジ
56a21,56a22,66a21〜66a24 下段雌ネジ
21 ダイヤモンドホイールソー
22,26 ダイヤモンドチップ
25 ダイヤモンドチェーンソー
30 母材
31,31’、32,32’ 蟻溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝底面幅に比べて口元幅が狭い蟻溝と組み合わせて使用される拡開アンカーであって、
アンカーボルトと、
前記蟻溝内に挿入される少なくとも2つの内層金属板と、
前記蟻溝の2つの側壁と前記内層金属板との間に挿入される2つの外層板と、
を具備し、
前記2つの外層板がそれぞれ、上板部および横板部からなるL字状の横断面形状を有する、
ことを特徴とする、拡開アンカー。
【請求項2】
溝底面幅に比べて口元幅が狭い−文字状の蟻溝(31,31’)の中心1箇所に雄ネジを有する拡開アンカーとして使用される拡開アンカー(10)であって、
アンカーボルト(11)と、
ナット(12)と、
第1および第2の外層板(151,152)と、
少なくとも2つの内層金属板(161〜165)と、
を具備し、
前記第1および第2の外層板がそれぞれ、上板部および横板部からなるL字状の横断面形状を有し、
前記2つの内層金属板の一方の幅が他方の幅よりも大きくされている、
ことを特徴とする、拡開アンカー。
【請求項3】
前記2つの内層金属板の一方の長さが他方の幅よりも大きくされており、該2つの内層金属板の一方の上に他方を90°回して重ね合わせたときに、該2つの内層金属板の面が前記蟻溝の側壁と同じ傾斜角をもった面となるようにされていることを特徴とする、請求項2記載の拡開アンカー。
【請求項4】
前記2つの内層金属板の少なくとも一方の幅が前記蟻溝の口元幅よりも大きくされており、
該2つの内層金属板の少なくとも一方の中央部に、前記アンカーボルトのボルト径に比べて口径が広い貫通孔が穿設されている、
ことを特徴とする、請求項2または3記載の拡開アンカー。
【請求項5】
溝底面幅に比べて口元幅が狭い−文字状の蟻溝(31,31’)の端部の2箇所に雌ネジを有する拡開アンカーとして使用される拡開アンカー(50)であって、
第1および第2のアンカーボルト(511,512)と、
第1および第2の外層板(551,552)と、
上段内層金属板(561)および下段内層金属板(562)と、
を具備し、
前記第1および第2の外層板がそれぞれ、上板部および横板部からなるL字状の横断面形状を有し、
前記上段内層金属板と前記下段内層金属板とに、前記第1および第2のアンカーボルトとそれぞれ螺合するタップ加工された第1および第2の上段雌ネジ(56a11,56a12)と第1および第2の下段雌ネジ56a21,56a22)とがそれぞれ形成されている、
ことを特徴とする、拡開アンカー。
【請求項6】
前記上段内層金属板および前記下段内層金属板の幅が、前記蟻溝の口元幅よりも小さくされており、
前記下段内層金属板の長さ方向の断面形状が逆台形状とされており、
前記第1および第2の外層板の前記横板部が、中心部から底部にかけて幅が小さくなるようにされている、
ことを特徴とする、請求項5記載の拡開アンカー。
【請求項7】
溝底面幅に比べて口元幅が狭い+文字状の蟻溝(32,32’)の端部の4箇所に雌ネジを有する拡開アンカーとして使用される拡開アンカー(60)であって、
第1乃至第4のアンカーボルト(611〜614)と、
第1乃至第8の外層板(651〜658)と、
上段内層金属板(661)および下段内層金属板(662)と、
を具備し、
前記第1乃至第8の外層板がそれぞれ、上板部および横板部からなるL字状の横断面形状を有し、
前記上段内層金属板および前記下段内層金属板が、前記蟻溝と相似の形状を有し、
前記上段内層金属板の第1乃至第4の上段突起部に、前記第1乃至第4のアンカーボルトとそれぞれ螺合するタップ加工された第1乃至第4の上段雌ネジ(66a11〜66a14)がそれぞれ形成されており、
前記下段内層金属板の第1乃至第4の下段突起部に、前記第1乃至第4のアンカーボルトとそれぞれ螺合するタップ加工された第1乃至第4の下段雌ネジ(66a21〜66a24)がそれぞれ形成されている、
ことを特徴とする、拡開アンカー。
【請求項8】
前記上段内層金属板の前記第1乃至第4の上段突起部および前記下段内層金属板の前記第1乃至第4の下段突起部の幅が、前記蟻溝の口元幅よりも小さくされており、
前記下段内層金属板の前記第1乃至第4の突起部の先端部が鋭角に削られており、
前記第1乃至第8の外層板の前記横板部が中心部から底部にかけて幅が小さくされている、
ことを特徴とする、請求項7記載の拡開アンカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−247744(P2007−247744A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71054(P2006−71054)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【特許番号】特許第3844487号(P3844487)
【特許公報発行日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(305039253)
【出願人】(506023770)
【Fターム(参考)】