説明

持続的薬物放出のための生体適合性ポリマー系

親水性表面及び疎水性コアを組み込む自己配向生体適合性ポリマー系が開示される。親水性表面は、生体適合性に役立つ一方で、疎水性コアは、ポリマー系が疎水性薬物に対応できるようにする。ポリマー系で被覆された医療機器も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2007年8月10日に提出された米国仮特許出願第60/955,286号の利益を主張する。
本明細書において、医療機器の生体適合性被覆について説明する。より具体的には、以前の被覆より生体適合性が高まり、疎水性生物活性薬剤のより持続的な送達を可能にするように設計されたポリマー被膜について説明する。本明細書で説明するポリマー系は、親水性表面及び疎水性コアを含む。
【背景技術】
【0002】
医療機器は、より複雑で、有用且つ便利な製品へと常に進化している。医療機器は、絆創膏、杖、歩行器、及びコンタクトレンズ等の簡素なex vivo機器であり得るか、又はペースメーカー、心臓弁、血管ステント、カテーテル、及び血管グラフトを含む複雑な埋め込み型機器であり得る。特に埋め込み型機器は、拒絶された移植片及びその受容者の生理的拒絶反応を緩和するように、生体適合性でなければならない。
【0003】
冠動脈インターベンションにおける薬物溶出ステント(DES)の導入は、再狭窄率を約30%から一桁に低下させることにおいて有意差をもたらした。再狭窄は、介入手順中に発生する血管損傷に対する体の反応に起因する動脈の再狭窄を意味する。平滑筋細胞の増殖及び遊走に起因する新生内膜過形成及び細胞外マトリクスの産生は、管腔の喪失に関与する。
【0004】
薬物溶出ステントの開発は、薬物送達のためのプラットフォームを提供するポリマーに依存する。制御された速度でのステントからの薬物の持続的局所送達は、十分な利益を得るために重要であり、この点において、ポリマー構造が極めて重要な役割を担う。ポリマーは、ステント足場からの局所薬物送達において重要な役割を果たし、今日まで、ポリマーを用いない薬物送達の試みは成功していない。しかしながら、合成ポリマー被膜は、動脈壁において、炎症性及び/又は血栓性反応を誘発すると考えられてきた。
【0005】
第1世代DES被膜の大部分は、制御された様式で、薬物を保持及び放出する疎水性ポリマーに基づく。それらの疎水性プロファイルは生体適合性の欠如をもたらし、最終的にin vivo有害事象、例えば、治癒の遅延及び遅発性ステント血栓症に寄与すると考えられる。生体吸収性ポリマーは、薬物溶出ステント被膜用の生体安定性ポリマーの代替である場合が多い。これらのポリマーは、経時的に分解し、地金ステントのみを残す。しかしながら、特に血管環境におけるこれらのポリマーの生体適合性は、分解速度に大きく依存する。グリコリドベースのポリマーの分解が速いほど、即時に局所酸性度を強化して、強い炎症反応を誘発することができる。逆に、ポリラクチド等のより安全であると考えられるものは、分解に数年を要する。さらに、ポリマーの分解は、塞栓につながる可能性のある断片を生成し得る。明らかに、ステント被膜用の生体吸収性ポリマーは、課題がないわけではなく、改良されたポリマーが必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般に、本明細書において、ホモポリマー、コポリマー、及びターポリマーを混合し、疎水性薬物に対応するための疎水性コア及びポリマー系の生体適合性を高める親水性表面を呈する自己配向の混合ポリマー系を形成するポリマー系が提供される。ポリマー系は、血管ステント上に被覆され、疎水性薬物の送達を数ヶ月間持続することができる。ポリマー系は頑丈であり、劣化、亀裂、又は剥離しない。
【0007】
一実施形態は、ポリマー混合物を含む医療機器を被覆するためのポリマー系であり、該ポリマー混合物は、外面を有する自己配向ポリマー被膜を形成し、該ポリマー被膜は、当該外面に向かって配向した親水性基を有する。一実施形態において、ポリマー混合物は、ホモポリマー、コポリマー、又はターポリマーのうちの少なくとも1つを含む。
【0008】
別の実施形態において、自己配向ポリマー被膜は生体適合性である。別の実施形態において、外面は、95度未満の水接触角を有する。一実施形態において、コポリマーは、メタクリル酸アルキルモノマー、酢酸ビニルモノマー、又はそれらの組み合わせを含む。別の実施形態において、ターポリマーは、メタクリル酸アルキルモノマー、ビニルピロリドンモノマー、酢酸ビニルモノマー、又はそれらの組み合わせを含む。別の実施形態において、ホモポリマーは、ビニルピロリドンモノマーを含む。
【0009】
一実施形態において、自己配向ポリマー被膜は、疎水性薬物の制御放出が可能である。一実施形態において、疎水性薬物は、抗増殖剤、エストロゲン、シャペロン阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、タンパク質‐チロシンキナーゼ阻害剤、レプトマイシンB、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体ガンマリガンド(PPARγ)、ヒポテマイシン、酸化窒素、ビスホスフォネート、上皮成長因子阻害剤、抗体、プロテアソーム阻害剤、抗生物質、抗炎症薬、アンチセンスヌクレオチド、及び形質転換核酸から成る群より選択される。一実施形態において、薬物は、シロリムス(ラパマイシン)及びその類似体、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカン)、テムシロリムス(CCI−779)、ゾタロリムス(ABT−578)、パクリタキセル及びその類似体から成る群より選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0010】
別の実施形態において、被膜の外面は、約15〜約20のヒルデブランド溶解度パラメータを有する。別の実施形態において、ポリマー系は、ターポリマー:コポリマー:ホモポリマーの比から成り、当該比は、約40:40:20〜約88:10:2である。
【0011】
一実施形態において、生体適合性医療機器は、表面に被膜を有する基板から成ると説明され、該被膜は、自己配向ポリマー系を含む。さらに、ポリマー系は、外面を含む。さらにポリマー系は、当該外面に向かって配向した親水性基を有する。一実施形態において、ポリマー系は、ホモポリマー、コポリマー、又はターポリマーのうちの少なくとも1つを含む。
【0012】
別の実施形態において、医療機器は埋め込み型であり、心臓弁、ステント、ペースメーカーリード、及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。
【0013】
一実施形態において、自己配向ポリマー被膜は、疎水性薬物の制御放出が可能である。疎水性薬物は、シロリムス(ラパマイシン)及びその類似体、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカン)、テムシロリムス(CCI−779)、ゾタロリムス(ABT−578)、パクリタキセル及びその類似体から成る群より選択される少なくとも1つの化合物を含み得る。
【0014】
一実施形態において、コポリマーは、メタクリル酸アルキルモノマー、酢酸ビニルモノマー、又はそれらの組み合わせを含む。別の実施形態において、ターポリマーは、メタクリル酸アルキルモノマー、ビニルピロリドンモノマー、酢酸ビニルモノマー、又はそれらの組み合わせを含む。別の実施形態において、ホモポリマーは、ビニルピロリドンモノマーを含む。
【0015】
一実施形態において、外面は、95度未満の水接触角を有する。別の実施形態において、外面は、約15〜約20のヒルデブランド溶解度パラメータを有する。別の実施形態において、ポリマー系は、ターポリマー:コポリマー:ホモポリマーの比から成り、当該比は、約40:40:20〜約88:10:2である。
【0016】
一実施形態において、生体適合性の埋め込み型ステントが説明され、該ステントは、ポリビニルピロリドン、メタクリル酸アルキル、酢酸ビニル、及びビニルピロリドンを含む自己配向ポリマー系から成る。ポリマー系は、さらに親水性表面及び疎水性コアを含む。該疎水性コアは、疎水性薬物を含み、制御放出を提供することができる。一実施形態において、薬物はゾタロリムスを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】成分ポリマー及びポリマー混合物のガラス転移温度を表す。
【図2】様々なポリマー及びポリマー混合物のガラス転移温度の追加測定を表す。
【図3】表面の接触角の測定方法の視覚表示を表す。
【図4】ポリマー及びポリマー混合物で被覆されたステントのゾタロリムス薬物溶出プロファイルを表す。
【図5】典型的なポリマーの化学構造を表す。
【図6】ポリマー被覆ステントの表面特性を表す。図6Aは、ポリマー被覆ステントの表面のラマンマップを表し、図6Bは、図6Aにおいて選択した領域から得られたスペクトルを表し、図6Cは、図6Bから得られた3つのスペクトルのオーバーレイを表す。
【図7】C10、C19、PVP、及びC10/C19/PVPの減衰全反射スペクトルを表す。
【図8】カルボニル領域(1800‐1600cm‐1)においてオーバーレイ及び拡大された図7の減衰全反射スペクトルを表す。
【図9】C10、C19及びC10/C19/PVPポリマー/ポリマー混合物に対する単球の相対接着(図9A)、C10、C19及びC10/C19/PVPポリマー/ポリマー混合物の蛍光標識サンプル(図9B)を表し、図9C及びDは、他の一般に使用されるポリマーとの比較で、C10/C19/PVPポリマー混合物に対する単球の相対接着(図9C)、他の一般に使用されるポリマーとの比較で、C10/C19/PVPポリマー混合物の蛍光標識サンプル(図9D)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
用語の定義
以下で使用される所定の用語の定義を説明することは有用であり得る。
【0019】
動物:本明細書において、「動物」は哺乳類、魚類、爬虫類、及び鳥類を含む。哺乳類は、ヒトを含む霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ブタ、ウマ、及びウシを含むが、それらに限定されない。
【0020】
生体適合性:本明細書において、「生体適合性」は、動物の組織と密接して配置される場合に、動物に損傷又は死をもたらさない、又は動物において副作用を誘発しない任意の材料を意味する。副作用とは、炎症、感染、線維性組織形成、細胞死、又は塞栓を含む。
【0021】
制御放出:本明細書において、「制御放出」は、医療機器表面から所定の速度で生物活性化合物を放出することを意味する。制御放出は、特にそうすることが意図されない限り、生物活性化合物が、予測不可能な様式で医療機器表面から散発的に離れず、生物学的環境との接触時に機器から「バースト」しないことを含意する(本明細書では一次速度過程とも称される)。しかしながら、本明細書において「制御放出」という用語は、展開に関連する「バースト現象」を除外しない。一部の実施形態において、薬物の初期バーストは、望ましい場合があり、その後により段階的な放出が続く。放出速度は定常状態であってもよく(一般に、「徐放」又はゼロ次速度過程と称される)、つまり、薬物は、(初期バースト段階の有無に関わらず)所定の時間をかけて均一量で放出されるか、又は勾配放出され得る。勾配放出は、機器表面から放出される薬物の濃度が時間とともに変化することを意味する。
【0022】
コポリマー:本明細書において、「コポリマー」は、2つの異なるモノマーで構成されるポリマーを意味する。
【0023】
薬物(1つ又は複数):本明細書において、「薬物」は、動物において治療効果を有する任意の化合物又は生物活性剤を含む。典型的な非限定例は、抗増殖剤を含み、FKBP‐12結合化合物を含むマクロリド抗生物質、エストロゲン、シャペロン阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、タンパク質‐チロシンキナーゼ阻害剤、レプトマイシンB、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体ガンマリガンド(PPARγ)、ヒポテマイシン、酸化窒素、ビスホスフォネート、上皮成長因子阻害剤、抗体、プロテアソーム阻害剤、抗生物質、抗炎症薬、アンチセンスヌクレオチド、及び形質転換核酸を含むが、それらに限定されない。薬物は、抗増殖化合物、細胞増殖抑制化合物、細胞毒性化合物、抗炎症化合物、化学療法剤、鎮痛剤、抗生物質、プロテアーゼ阻害剤、スタチン、核酸、ポリペプチド、成長因子、及び組み換え微生物、リポソーム等を含む送達ベクターを含む生物活性剤も意味し得る。
【0024】
典型的なFKBP‐12結合剤は、シロリムス(ラパマイシン)、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカン又はRAD‐001)、テムシロリムス(CCI−779又は米国特許出願番号第10/930,487号に開示の3‐ヒドロキシ‐2‐(ヒドロキシメチル)‐2‐メチルプロピオン酸を持つ非晶質ラパマイシン42‐エステル)、ゾタロリムス(ABT−578、米国特許番号第6,015,815号及び第6,329,386号を参照)を含む。追加として、米国特許番号第5,362,718号に開示の他のラパマイシンヒドロキシエステルを、本明細書に記載のポリマーと組み合わせて使用してもよい。
【0025】
延性:本明細書において、「延性」又は「延性のある」は、操作温度で折り畳まれた、圧力を受けた、又は歪められた場合の、破砕又は亀裂に対するポリマーの耐性を意味する。本明細書に記載されるポリマー被覆組成物に関して使用される場合、被覆の正常操作温度は、室温と体温との間、又は約15℃〜40℃の間である。一実施形態において、延性は、体温又はその付近で測定される。定義された環境におけるポリマー耐性は、その弾性/延性の関数である場合が多い。
【0026】
ガラス転移温度:本明細書において、「ガラス転移温度」又は「Tg」は、非晶質ポリマーが、ガラスのように硬く脆性になる温度である。そのTgを超える温度では、ポリマーは弾性又はゴム状であり、そのTg未満の温度では、ポリマーはガラスのように硬く脆性である。Tgから弾性/延性を予測し得る。
【0027】
ホモポリマー:本明細書において、「ホモポリマー」は、単一モノマーで構成されるポリマーを意味する。
【0028】
親水性:本明細書において、「親水性」は、分子又は物質の水に対する親和性を意味する。薬物に関連して、「親和性」という用語は、1ミリリットル当たり200ミクログラムより高い水溶解度を有する薬物を意味する。ポリマー又はポリマー混合物に関連して、「親水性」は、周囲の水性環境との分子間相互作用を形成する表面の能力も意味する。
【0029】
疎水性:本明細書において、「疎水性」は、分子又は物質の水に対する反発を意味する。薬物に関連して、「疎水性」という用語は、1ミリリットル当たり200ミクログラム未満の水溶解度を有する薬物を意味する。ポリマー又はポリマー混合物に関連して、「疎水性」は、表面が周囲の水性環境との分子間相互作用を形成できないことを意味する。
【0030】
ポリマー系:本明細書において、「ポリマー系」は、本明細書に記載されるポリマーの組み合わせを意味する。本明細書に記載されるポリマー系は、疎水性の領域及び親水性の領域の両方を有する。本明細書に記載される場合、ポリマー系は、ポリマー系の表面が実質的に親水性であり、ポリマー系のコアが実質的に疎水性であるような様式で自己配向する。
【0031】
自己配向:本明細書において、「自己配向」は、ポリマー系が、ステントに適用された後で、ランダム構成から親水性表面及び疎水性コアの構成に配向するプロセスを意味する。
【0032】
ターポリマー:本明細書において、「ターポリマー」は、3つの異なるモノマーで構成されるポリマーを意味する。
【0033】
測定の単位:本明細書において、ポリマー及び溶媒の溶解度パラメータは、ヒルデブランド及びHansenにより最初に定義されたように、δで表される。δは、J1/2/cm3/2で表される熱力学の単位である。しかしながら、1984年から、δの新しい値が採用され、δ(SI)で示され、MPa1/2で表されることに注意されたい。δ(J1/2/cm3/2)及びδ(SI)(MPa1/2)間の変換は、δに2.0045を掛けるか、又はδ(SI)を0.488で割る。
【0034】
埋め込み型医療機器を被覆及び形成するためのポリマー系が本明細書に記載される。該ポリマー系は、形成時に自己配向しており、親水性ポリマー‐空気インターフェース(外面)及び疎水性コアを生じる。自己配向により、ポリマー系の親水性基は表面に向かい、疎水性基はポリマーのコアに向かう。ポリマー系は自己配向して、親水性である外面、及び疎水性である内部コアを形成する。
【0035】
ポリマー系は、ポリマーの混合物で構成される。ポリマーは、親水性、疎水性、及び両親媒性モノマー、及びそれらの組み合わせを含み得る。一実施形態において、該系のポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、及びターポリマーを含む。
【0036】
ホモポリマーは、ポリ(ビニルピロリドン)及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシルアルキル)から成る群より選択される親水性モノマーで構成される親水性ポリマーを含む。
【0037】
コポリマーは、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、及びメタクリル酸ヒドロキシアルキルから成る群より選択される親水性モノマー、及びメタクリル酸メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、及びラウリルを含むメタクリル酸アルキル、及びアクリル酸メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、及びラウリルを含むアクリル酸アルキルから成る群より選択される疎水性モノマーで構成されるポリマーを含む。
【0038】
ターポリマーは、酢酸ビニル及びポリ(ビニルピロリドン)から成る群より選択される親水性モノマー、及びメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、及びメタクリル酸ラウリルを含むメタクリル酸アルキル、及びメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、及びアクリル酸ラウリルを含むアクリル酸アルキルから成る群より選択される疎水性モノマーで構成されるポリマーを含む。
【0039】
別の実施形態において、ポリマー系は、ターポリマー、コポリマー、及びホモポリマーの3つのポリマーで形成される。かかる一実施形態において、ターポリマーは最低ガラス転移温度(Tg)を有し、コポリマーは中間Tgを有し、ホモポリマーは最高Tgを有する。一実施形態において、ターポリマー:コポリマー:ホモポリマーの比は、約40:40:20〜約88:10:2である。別の実施形態において、該比は約50:35:15〜約75:20:5である。好適な実施形態において、該比は約63:27:10である。好適な実施形態は、約5℃〜約25℃の範囲のTgを有するターポリマー、約25℃〜約40℃の範囲のTgを有するコポリマー、及び約170℃〜約180℃の範囲のTgを有するホモポリマーを含む。より具体的には、ポリマー系は、モノマーサブユニットn‐メタクリル酸ヘキシル、N‐ビニルピロリドン、及び酢酸ビニルを含み、約10℃〜約20℃のTgを有するターポリマー(C19)と、モノマーサブユニットn‐メタクリル酸ブチル及び酢酸ビニルを含み、約30℃〜約35℃のTgを有するコポリマーと、ポリビニルピロリドンを含み、約174℃のTgを有するホモポリマーとを含む。
【0040】
一実施形態において、典型的なポリマーは、約63%のC19、約27%のC10、及び約10%のポリビニルピロリドン(PVP)を含む。この典型的なポリマーは、C10/C19/PVPと称される。ポリマーは、ラジカル開始溶液重合により合成され、それらの物理特性は特性化されている。C10ポリマーは、疎水性n‐メタクリル酸ブチルで構成され、ゾタロリムス及び少量の酢酸ビニルに対応するための適切な疎水性を提供する。C19ポリマーは、C10ポリマーに対してソフトであり、疎水性n‐メタクリル酸ヘキシル及び親水性N‐ビニルピロリドン、ならびに酢酸ビニルモノマーの混合物から合成され、強化された生体適合性を提供する。ポリビニルピロリドン(PVP)は、医療グレードの親水性ポリマーである。
【0041】
単一ポリマー構造において親水性及び疎水性特性のバランスを形成し、望ましい薬物溶出プロファイル及び生体適合性の組み合わせを達成することは困難である。しばしば、相補的特性を持つポリマーが混合される。しかしながら、ポリマーの熱力学的特性を考慮する必要がある。熱力学的特性は、ポリマーが相溶性ブレンドを形成するような様式で設計されない限り、相分離をもたらし得る。C19ポリマーは、適切な親水性ユニット(N‐ビニルピロリドン及び酢酸ビニル)を有して親水性を提供し、長い炭素疎水性側鎖を有するn‐メタクリル酸ヘキシルユニットは、C10ポリマーと相溶可能なポリマーの形成に寄与する。一方、C10ポリマーは、主に、ポリマー骨格に沿って分散したいくつかの酢酸ビニルユニットを持つ疎水性n‐メタクリル酸ブチルユニットで構成される。2つのポリマーにおけるn‐メタクリル酸ヘキシル及びn‐メタクリル酸ブチルユニットと、一般的な酢酸ビニルモノマーとの類似点により、それらは相溶可能になる。ポリビニルピロリドンは、C10及びC19ポリマーとの相溶は期待されない。C10/C19/PVP混合物及び熱転移データの形態学的試験は、PVPが二元混合物において微細に分散されることを示す。親水性及び疎水性ユニットを持つC19ポリマーは、油‐水混合物における界面活性剤作用に類似したポリマー界面活性剤のように作用する。
【0042】
C10及びC19ポリマーは、様々な比率で混合することができ、一部の混合物のTgを図1に示す。熱分析は、ポリマーの相溶性を測定するための便利且つ簡単な方法である。低分子量化合物とは異なり、大部分のポリマー混合物は、熱力学的に相溶不可能であり、構造的に極めて類似するか、又は水素結合等の強力な相互作用を示さない限り、相分離する傾向がある。2つのポリマーの相溶性がない混合物は、2つの成分ポリマーに備わった2つのTgを呈する。C10及びC19ポリマー等のように、2つのポリマーが構造的に極めて類似する場合、それらは混和性限界に近く、C10/C19混合物に見られるように、混合物における両者の比率に応じて単一のTgを呈する(図1)。2つのポリマーは、いずれも大部分がC10ポリマーにおける類似するメタクリル酸モノマー、n‐メタクリル酸ブチル、及びC19ポリマーにおけるn‐メタクリル酸ヘキシルに基づくため、混和性である。C19ポリマーにN‐ビニルピロリドンを組み込んでも、C10ポリマーとの相溶性に影響しない。さらに、少量(約10%以下)の第3のポリマー、PVPは、ポリマー混合物の全体相溶性を改変しない(図2)。
【0043】
本明細書に記載のポリマー及びポリマー系は、血管ステント、血管ステントグラフト、尿道ステント、胆管ステント、カテーテル、膨張カテーテル、注入カテーテル、ガイドワイヤ、ペースメーカーリード、心室補助機器、及び人口心臓弁等の埋め込み型医療機器を被覆するように開発される。これらの機器は、一般的に、移植、適用、又は両方の間、屈曲、歪み、及び応力の影響を受けやすい。安定した生体適合性ポリマー被膜を持つステント等の柔軟な医療機器を提供することは特に困難である。
【0044】
生体適合性は、薬物溶出ステント(DES)移植の重要な特性であり、ポリマー系を設計する際に、この特性に十分に配慮した。これは、主に、このポリマー系に親水性特徴を付与することによって達成した。ポリマーは、動物に移植されると、敵対異物反応の影響を受けやすい。かかる反応は、概して、ポリマー構造及び純度に依存する。残留モノマー又は溶媒の存在は、炎症反応を誘発する。理想的には、生物学的に適した親水性ポリマーでステントを被覆することが望ましい。しかしながら、被膜は、疎水性薬物にも対応しなければならない。そのため、ポリマー系は、親水性及び疎水性ポリマーを混合することによって設計した。長鎖メタクリル酸エステルは、疎水性成分を構成し、N‐ビニルピロリドン及び酢酸ビニルは、ポリマーの親水性成分を形成する。N‐ビニルピロリドンをC19ポリマーに組み込むと、液滴接触角測定値から認められるように、親水性が増加する(表2)。
【0045】
また、これらのポリマーを合成するために選択したモノマーは、生体適合性が証明されたものでなければならない。したがって、酢酸ビニル、n‐メタクリル酸ブチル、及びN‐ビニルピロリドン等のモノマーが、商業用医療移植片に成功裏に採用されている。n‐メタクリル酸ヘキシルモノマーは、n‐メタクリル酸ブチルの高次相同体にすぎず、n‐メタクリル酸ブチルに類似する様式で動作することが予測される。ポリマーは、残留モノマーを含んでいないことも重要である。したがって、合成手順の一部として、ポリマーは、複数回の沈殿により精製し、核磁気共鳴(NMR)分光法及びガスクロマトグラフィー(GC)により純度を確認した。
【0046】
生体適合性であるとみなされるには、材料は通常、生物学的に非毒性であり、細胞成長及び生存能力を補助する特性を呈する。しかしながら、DESに利用されるポリマー被膜の生体適合性の概念は、血行再建術におけるDESの使用に関する臨床データの蓄積とともに進化した。経皮冠動脈インターベンションは、長期成果を有意に改善したが、DESの導入は、血管炎症、内皮機能不全、及び後発性ステント塞栓に関する懸念ももたらした。DESに関連するステント塞栓の予測因子は、抗血小板治療の中止、手順的要素、DESプラットフォーム自体(ステント設計、及びDES薬物及び/又はポリマーの潜在的効果)の3つの潜在的原因によるものであった。ポリマーは、薬物放出の後にステント上で維持されるため、ポリマーの長期間の存在が炎症反応を引き起こし、再狭窄及び塞栓に寄与し得ると仮定されてきた。したがって、ポリマー生体適合性の定義は、ポリマーが隣接細胞に及ぼし得る炎症効果を含めるように拡大しなければならない。ポリマー被膜が炎症反応を誘発し得る機序は十分に定義されていない。
【0047】
単球は、動脈閉塞性疾患のマーカー、開始物質、及びプロモーターとして機能することが示唆されており、単球接着は、局所炎症を誘発するとともに、ステント内再狭窄に寄与する血管細胞増殖因子を促進することが示されている。さらに、膨大な実験的証拠は、血管疾患の病因における、単球化学誘引物質タンパク質‐1(MCP1)及びインターロイキン6及び8(それぞれIL‐6及びIL‐8)等のケモカインの極めて重要な役割に論拠を与えている。特に、主にMCP‐1経路の活性化による単球の連続的動員及び活性化を生じる動脈損傷に対する炎症反応は、アテローム発生及び再狭窄における中心的役割を果たす。
【0048】
ポリマー誘発性炎症と表面疎水性との間の相関は、DESのための改良された非炎症性次世代ポリマーを設計する際に有用であり得る。さらに、これらのデータは、本発明のポリマー系設計の非炎症性性質を立証する。
【0049】
生体適合性ポリマー系を達成するために、より親水性の高い表面を組み込んだ。接触角測定は、相対表面親水性を測定するために便利な方法である。親水性表面は、表面の抵抗(緊張)が少ないため、水滴は疎水性表面よりも拡散することができる。滴がより平坦であるため、水滴と表面との間の角度は、疎水性表面で検出される角度よりも小さい(図3)。PVPの有無に関わらず、ポリマーC10、C19、及びそれらの混合物に関して、データは、接触角91度のC19ポリマーは、接触角118度のC10ポリマーよりも親水性であることを示唆する。これらの結果は、C19ポリマーがポリマー構造に親水性ビニルピロリドン及び酢酸ビニルモノマーを含むため、予測不可能ではない。C19/C10の70/30二元混合物及びC19/C10/PVPの63/27/10三元混合物は、それぞれより低い接触角84度及び94度を呈し、それらの表面は、C10ポリマーよりも親水性であることを示す。C10ポリマーをC19ポリマーと混合しても、予測される接触角の増加を示さず、実際に、接触角は幾分低下した。C19ポリマー表面自体が、C10ポリマーと比較して低い接触角を呈することは驚くことではないが、C10/C19の70/30混合物の表面は、より高い接触角を示さない。代わりに、接触角は低下し、C19単独よりも表面の親水性が高まり得ることを示す。これは、ポリマー鎖の配向による。C10及びC19ポリマーは、非常に弾性であり、そのためポリマー鎖セグメントは、大気及び体温で可動性を有し、最も好ましい配座で自己配向する。C19ポリマーにおける疎水性セグメントは、自己を疎水性C10ポリマーセグメントに向けて配向し、それによって親水性セグメントの表面濃度を強化し、より低い接触角を呈する。混合物の重量に10%PVPを追加することで、分散PVP相に向けて再配向する親水性セグメントのため、接触角が高まる。
【0050】
本明細書に記されるポリマー系は、親水性の外面を有する。実施例7及び8の結果は、ポリマー系の表面は窒素元素が豊富であることを示し、ビニルピロリドンがポリマー系の表面に存在するため、親水性特性を提供することを示唆する。
【0051】
C19ポリマーの表面及び混合物の表面は、極性ビニルピロリドン単位が寄与する親水性特性を維持する。さらに、混合物における疎水性C10ポリマーの存在は、表面におけるビニルピロリドン単位の濃度を低下させない。これらの観察は、C10及びC19ポリマーは互いに相溶性が高く、相分離の兆候を示さないため、混合物のポリマー鎖における極性単位の固体‐気体インターフェースに向けた配向に起因すると考えられる。
【0052】
ポリマー系は、自己配向後、特徴的な親水性表面及び疎水性コアを有する。疎水性コアは、FKBP‐12結合化合物を含むマクロリド抗生物質、エストロゲン、シャペロン阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、タンパク質‐チロシンキナーゼ阻害剤、レプトマイシンB、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体ガンマリガンド(PPARγ)、ヒポテマイシン、酸化窒素、ビスホスフォネート、上皮成長因子阻害剤、抗体、プロテアソーム阻害剤、抗生物質、抗炎症薬、アンチセンスヌクレオチド、及び形質転換核酸を含むが、それらに限定されない抗増殖剤から成る群より選択される疎水性薬物に対応するよう設計される。薬物は、抗増殖化合物、細胞増殖抑制化合物、毒性化合物、抗炎症性化合物、化学療法剤、鎮痛剤、抗生物質、プロテアーゼ阻害剤、スタチン、核酸、ポリペプチド、成長因子、及び組み換え微生物、リポソーム等を含む送達ベクターを含む生物活性剤とも称され得る。
【0053】
典型的なFKBP‐12結合剤は、シロリムス(ラパマイシン)及びその誘導体、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカン又はRAD‐001)、テムシロリムス(CCI‐779又は米国特許出願番号第10/930,487号で開示される3‐ヒドロキシ‐2‐(ヒドロキシメチル)‐2‐メチルプロピオン酸を持つ非晶質ラパマイシン42‐エステル)及びゾタロリムス(ABT‐578;米国特許第6,015,815号及び第6,329,386号)を含む。追加として、米国特許第5,362,718号に開示されるような他のラパマイシンヒドロキシエステルを、本明細書に記載されるポリマーと組み合わせて使用してもよい。さらに、当業者に知られるパクリタキセル及びその類似体のいずれかを、本明細書に記載の自己配向ポリマーの疎水性コアに組み込むことができる。
【0054】
さらに、このポリマー系の目的の1つは、ゾタロリムス等であるが、それに限定されない抗再狭窄薬の持続的な長期溶出を保証することであった。そのため、薬物をポリマー中に均一に分散し、拡散機序によって溶出しなければならない。したがって、ポリマーは、互いに対して、及び薬物に対して適切に一致する溶解度パラメータを有しなければならない。
【0055】
一実施形態において、薬物は、ゾタロリムス(化学式1)(C5279512、分子量=966.5g/mol)、テトラゾール含有大環状免疫抑制剤である。ゾタロリムスは、非晶質の固体であり、非常に高いオクタノール‐水分配係数(pH6.5及びpH7.4で4.5より大)によって示されるように、極めて低い水溶性を有する。ゾタロリムスの作用機序は、FKBP12に結合することであり、タンパク質キナーゼmTOR(ラパマイシンの哺乳類標的)との三量体複合体の形成をもたらし、それによってその活性を阻害する。mTORの阻害の結果、mRNAの翻訳及び細胞周期制御に関連するタンパク質リン酸化事象の阻害が生じる。
【0056】
【化1】

【0057】
ゾタロリムスの疎水性は、細胞膜全体の吸収性を強化し、標的組織の新生内膜増殖の阻害をもたらす。制限された水溶解度(pH6.5で0.47μg/ml及びpH7.4で0.53μg/ml)は極めて薬物被覆ステントの設計の影響を受けやすく、ステントからの全身分配を妨げる。
【0058】
溶解度は、溶解度パラメータ(δ)として表すことができる。分子の溶解度パラメータは、その凝集エネルギー密度の平方根
【0059】
【数1】

【0060】
として定義される。Ecohは、すべての分子間力を排除した場合の物質1モルあたりの内部エネルギーの増加量であり、一般に、分散性(δd)、極性(δp)及び水素結合(δh)力に対するグループ寄与から推定される。
【0061】
【数2】

【0062】
C10、C19ポリマー及びゾタロリムスの推定溶解度パラメータ(δ)値は、それぞれ17.9J1/2/cm3/2、18.0J1/2/cm3/2及び17.8J1/2/cm3/2である。
【0063】
薬物及びポリマーの溶解度パラメータを一致させることで、均一な薬物分配及び持続的な放出速度を保証するが、任意の時点で放出される薬物の量は、ポリマーにおける自由体積により決定される。ガラス転移温度(Tg)は、ポリマーにおける自由体積の良好な標識である。Tgは、ポリマーがガラス状態からゴム状態に移行する温度である。ゴム状ポリマーにおけるポリマー鎖は、固くもつれていないため、ガラス状ポリマーより多くの自由体積を提供する。C10ポリマー等の体温(37℃)又は体温付近においてガラス状態で存在するポリマー(Tg=31℃)は、極少量の薬物を溶出する一方で、C19ポリマー等の自由体積の多いゴム状態のポリマー(Tg=12℃)は、より大量に溶出する(図4)。そのため、ポリマーのTgを注意深く操作して、望ましい溶出プロファイルを達成する必要がある。
【0064】
ポリマー被膜からの望ましい量の薬物溶出を達成するための一方法は、適切なガラス転移温度の2つの相溶可能なポリマーの混合物を採用することである。そのため、同一の薬物負荷で調製されたC10及びC19ポリマーの30/70混合物は、中間溶出プロファイルを提供する(図4)。
【0065】
望ましい溶出プロファイルを達成するために、第3のポリマーを添加することができる。本発明のポリマー系を完成させるために、ポリビニルピロリドン(PVP)ポリマーを添加した。10%のポリビニルピロリドンを30/70 C10/C19混合物に添加することで、初期バーストをもたらし、全体薬物放出を強化する(図4)。PVPは、ステント被膜をわずかに膨張させて、高い薬物放出をもたらす。またPVP鎖は、C10及びC19ポリマー鎖と十分にもつれており、PVPを抽出する試みは効果がないことが証明された。18モル%ビニルピロリドンを持つC19ポリマーは、PVP及びC10の相溶化剤のように作用する。C10/C19/PVP(27/63/10)混合物の示差走査熱量測定(DSC)走査における177℃でのPVPの転移の欠如は、総相分離の欠如を確認する。PVPの組み込みにより、ポリマー混合物の親水性がさらに強化され、他のより疎水性の高いポリマーに対して生体適合性の強化が促進されることは、拘束力のない仮説である。
【0066】
ステントを薬物含有ポリマーで被覆する場合、硬く石灰化した病変を有する動脈を通して進められるため、被膜は、頑丈かつ延性であり、ステント表面に十分に接着して、その機械的完全性を維持することが望ましい。これらの要件を満たすために、ポリマーは、頑丈な被膜を提供するために十分に高い分子量を有しなければならない。また被覆ポリマーのTgは、ステント被膜が、拡大及び展開する時に亀裂せず、剥離又は接着の喪失の兆候を示さないように、十分な柔軟性を提供するための範囲内でなければならない。これらのポリマー特性は、モノマーの均衡によってもたらされる。一実施形態において、酢酸ビニル及びN‐ビニルピロリドンモノマーは、ポリマーに極性を提供し、n‐メタクリル酸ブチル及びn‐メタクリル酸ヘキシルモノマーは、柔軟性を提供する。本発明のポリマー混合物は、十分に高い分子量を有し、それらの混合物のTg(19.5℃)は、進められ展開される場合に、満足のいく動作をする頑丈で強固な薬物負荷被膜を提供するように、体温をはるかに下回る。
【実施例】
【0067】
実施例1
C10コポリマーの合成
【0068】
n‐メタクリル酸ブチル及び酢酸ビニルのコポリマーであるC10ポリマーを、2,2’‐アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)で開始した1,4‐ジオキサンの従来の溶液ラジカル重合によって調製した(化学式2)。重合は、60℃で変換率が50%を超えるまで行った。合成は、n‐メタクリル酸ブチル及び酢酸ビニルの60/40(重量)混合物を0.6% w/w AIBNで共重合するステップを含んだ。ポリマーは、メチルアルコール中で5回再沈殿させることにより回復及び精製した。沈殿物を真空オーブンにおいて45℃で一晩乾燥させて一定重量にした。n‐メタクリル酸ブチル及び酢酸ビニルの60/40混合物の使用により、95%/5% C10ポリマー組成物を生成した。
【0069】
【化2】

【0070】
実施例2
C19ポリマーの合成
【0071】
酢酸ビニル、n‐メタクリル酸ヘキシル及びN‐ビニルピロリドンのターポリマーであるC19ポリマーを、AIBNで開始した1,4‐ジオキサンの従来の溶液ラジカル重合によって調製した(化学式3)。重合は、60℃で変換率が50%を超えるまで行った。C19ポリマーは、25%/27%/48% w/w 酢酸ビニル、N‐ビニルピロリドン、及びn‐メタクリル酸ヘキシルの混合物を重合することによって調製した。モノマーは2段階で装填し、第2の装填は、安定した状態の動態が得られるように測定した。開始物質は、0.825% w/w AIBNであった。両親媒性のポリマーは、クロロホルム/ヘキサン混合物において、ポリマー溶液を‐60℃に冷却することによって精製した。沈殿物を真空オーブンにおいて、45℃で一晩乾燥させて一定重量にした。酢酸ビニル、N‐ビニルピロリドン、及びn‐メタクリル酸ヘキシルの25%/27%/48%混合物の使用により、5%/18%/77% C19ポリマー組成物を生成した。
【0072】
【化3】

【0073】
実施例3
C10/C19/PVPポリマー系の合成
【0074】
現発明のC10/C19/PVPポリマーを合成するために、C10コポリマー、C19ターポリマー、及びポリビニルピロリドン(PVP)のホモポリマーを混合する。一実施形態において、混合物は、63% C19、27% C10、及び10% PVP(重量)を含む。本実施形態は、本明細書において、BioLinxポリマーと称される場合がある。
実施例4
ポリマーの特性化
【0075】
ポリマー分子量は、テトラヒドロフラン(THF)中35℃で、屈折率検出器(3カラム直列、Polymer Laboratories PLゲル(103、105、及び106A0)を備えるViscotekゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)システムを用いて測定し、4kから1750kの範囲の狭い分子量を持つ9つのポリスチレン標準を用いて較正した。流量は1mL/分、注入量は100μL(3mg/mL濃度)であった。
【0076】
ポリマー組成は、CDCl3中のVarian,Inc.のINOVA‐400MHz NMRスペクトロメータ上で記録される、それらの1H核磁気共鳴(NMR)スペクトルから決定した。すべての化学シフトは、テトラメチルシラン(TMS)に関連した。ポリマーの化学組成は、個別モノマー単位のプロトンNMRピークの積分によって決定した。
【0077】
ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、PerkinElmer,Inc.のダイアモンド示差走査熱量計で測定した。サンプルは、−50℃から200℃まで20℃/分で2回走査し、2回目の加熱中に記録された転移を記録した。
【0078】
ポリマー特性化の結果を表1に示す。分子量は、使用した開始剤の量と一致する。多分散性指数は、ラジカル重合に典型的である。C10及びC19のガラス転移温度は、それぞれ弾性ポリマーの典型である31℃及び12℃とした(図1)。これら2つのポリマーに対する単一のガラス転移温度は、それらのランダムな性質をさらに確認する。任意のブロック性は、それぞれのブロックに対する2つ以上の転移に反映したであろう。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例5
接触角測定による表面親水性
【0081】
ポリ(スチレン‐イソブチレン‐スチレン)(SIBS)トリブロックコポリマー(グレード073T、17.5モル%のスチレン、Mw=98k及びPDI=1.28)は、Kaneka Texas Corporationにより供給された。ポリ(メタクリル酸ブチル)(PBMA)及びフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(VFHフルオロポリマー)(融点:136℃)は、Sigma‐Aldrichから取得した。ホスホリルコリンポリマー(PC)は、Biocompatibles Ltdにより提供された。これらのポリマーの代表的な化学構造は、参考のために図5に含まれる。
【0082】
ポリマーで浸漬被覆された平らな金属試験片の接触角測定は、ゴニオメータ(Rame‐Hart Inc.)を用いて行った。1滴(10μL)の脱イオン水をポリマー表面に置き、背後から照明した。画像を電子的に取り込み、ポリマー表面と水との間の接触角を記録した。表2は、各ポリマー又はポリマー混合物の接触角の一覧である。
【0083】
【表2】

【0084】
実施例6
ラマン分光法
ポリマー被覆されたステントにおけるポリマー混合物の組成均一性は、共焦点ラマン顕微鏡法により判断した。ラマンスペクトルは、785‐nmレーザー光源を備えるWITec共焦点ラマン顕微鏡を使用して取得した。このレーザー励起光源は、対象を使用して焦点を合わせ、エッジフィルターの使用により抑制されるレーザー線強度を持つ180度後方散乱レジームを使用して、散乱光を収集した。ストークスシフトラマン散乱は、300‐グルーブ/mm格子を使用して電荷結合装置上に分散した。ラマンマップは、ポリマー被覆したステントの表面の領域から取得し、連続マッピングプロセスを通じて構成した。共焦点深度分析は、表面から開始してステント被膜内5μm〜10μmまで250nm毎にラマンスペクトルを取得することによって行った。
【0085】
ポリマーステントのすべてのポリマー成分に存在する、非対称CH振動に関連する1450cm‐1ピークの積分を取得し、ラマンマップを生成した。共焦点平面内のポリマー被覆ステントからの典型的なマップを図6Aに示す。ラマンスペクトルは、図Aにマークされる、ポリマーのみのステント表面の3つの5‐μm×5‐μm領域から抽出した。これらを比較して、ステントの表面の化学組成を評価した。これらの領域から取得したスペクトルを図6B及び6Cに表示する。これらのスペクトルは、ラマンスペクトルにおいても検出される芳香族種(下塗り)からの干渉を取り除くように処理されている。スペクトルは比較することができ、またオーバーレイされ得(図6C)、5‐ミクロンスケールで比較的均質なPVP、C19、及びC10ポリマーの混合物を示唆する。
実施例7
ポリマー系の表面特性化
【0086】
C10、C19、C10/C19(30:70)及びC10/C19/PVPポリマーのサンプルを調製し、金属試験片上に浸漬被覆した(実施例4と同様)。存在するすべての元素(Hを除く)を測定するための調査スペクトルは、各サンプルから最初に取得した。スペクトルを使用して、光電子ピーク下の面積を積分し、経験的感度要素を適用することにより、定量的表面組成を取得した。この技術の分析の深度は、約75Åであった。単色Al Kα X線光源を備えるPhysical Electronics Quantum 2000走査X線電子分光法(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis:ESCA)を測定に使用した。他の詳細は以下のとおりである。
分析面積‐200ミクロンスポット
取り出し角‐45度
電荷補正‐284.8eVに設定されたC1sスペクトルにおけるC‐C、C‐H
電荷中和‐低エネルギー電子及びイオンフラッド
結果を、以下の表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
C19ポリマーの窒素元素パーセントは、ポリマー中のビニルピロリドン含有量に対応することは、表から明らかである。しかしながら、70/30 C19/C10混合物又はC10/C19/PVPポリマー系におけるC10ポリマー(その構造にビニルピロリドンを含まない)の存在は、対応する窒素パーセントの低下を示さない。これらの結果は、二元及び三元混合物の表面は、該表面においてビニルピロリドン部分を実質的に保持し、親水性をもたらすことを示唆する。
実施例8
減衰全反射による表面化学組成
【0089】
C10、C19、PVP及びC10/C19/PVPで被覆された金属試験片は、上記の実施例と同様に調製した。赤外線スペクトルは、ゲルマニウム結晶を備えるCentaurus ATR顕微鏡を用い、Nicolet Avatarスペクトロメータを使用して取得した。データは、解像度4cm‐1で128以上の追加走査で取得した。分析点は、約30μmX30μmであった。ゲルマニウム結晶を使用して、ほぼ最高点である0.5μmを分析した。
【0090】
C10、C19、PVP及びC10/C19/PVPポリマーの減衰全反射(ATR)スペクトル(4000cm‐1〜650cm‐1)は、図7に示される表面を有する。メタクリル酸及び酢酸単位のカルボニルエステルは、1725cm‐1において出現する。ピロリドンアミドは、純PVP中1670cm‐1においてカルボニルピークをもたらす。しかしながら、コポリマーでは、同カルボニルピークは1690cm‐1にシフトする。かかるシフトは、カルボニルエステルの存在下での、自己会合したアミドカルボニルの分裂として解釈される。ポリマー表面に沿ったいくつかの異なる領域を比較した。図8は、カルボニル領域(1800−1600cm‐1)の周囲の拡大を示し、1725cm‐1におけるエステルピークまで拡大される。ピロリドンアミドピークは、1685cm‐1における主要ピークとの差を示すが(C19ポリマー環境内のピロリドン)、一部の実施例において、1670cm‐1において肩を有する。これは、適切な倍率(C19=0.63、C10=0.27、及びPVP=0.1)でC10、C19及びPVPのスペクトルを追加することにより、デジタル合成されたスペクトルを構成することによってさらに調査した。拡大したカルボニル領域(1800‐1600cm‐1)におけるポリマー系のスペクトルは、合成スペクトルと比較して、表面におけるビニルピロリドン含有量が過度に高いことを明確に示す。異なる水素結合パターンにつながる水の存在のようなかかる動作の他の理由も調査した。分析時に表面上の異なる領域のO‐H伸縮領域を調査したところ、水含有量は低く、同様レベルであることを示唆した。
実施例9
ポリマー及び薬物を用いたステントの被覆
【0091】
ステントは、薬物及びポリマーで被覆した。ゾタロリムス及びポリマーを同一バイアルに計量した(35/65重量比)。クロロホルムをピペットでバイアルに入れ、1%濃度の薬物‐ポリマー混合物を得た。0.2‐μm ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで溶液をろ過し、別の清潔なバイアルに入れ、被覆用に準備した。超音波スプレー装置を使用して、薬物とのポリマー混合物の溶液をパリレンC‐感作ドライバー(登録商標)ステント上に噴霧した。乾燥した被覆ステントをバルーンカテーテルに載置し、酸化エチレンで殺菌した。
【0092】
被覆したステントの耐性は、模擬病変を通じて進め、名目(9atm)圧力で膨張させた後、光学顕微鏡を使用して、40倍で検査することによって判断した。剥離、亀裂、及び過度の磨耗の兆候について電子顕微鏡を走査することにより、進めた後のステントも検査した。
実施例10
In Vitro 薬物溶出
【0093】
被覆したステントを、0.4%ドデシル硫酸ナトリウムを含有する2mLの10mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(pH6.5)緩衝液(TRIS‐SDS緩衝液)に配置し、37℃で培養した。サンプルは、24時間毎に最長7日間採取した。新鮮なTRIS‐SDS緩衝液は、各時点で使用した。7日後、サンプルを48時間毎に採取した。高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して、テストサンプルの薬物濃度を分析した。
【0094】
28日間の累積溶出に関する研究は、薬物の初期バーストは、最初の48時間、薬物‐ポリマー複合体から放出され(図4)、その後数週間にわたって持続放出速度まで漸近的に減速することを示す。かかる放出プロファイルは、新生内膜応答の早期及び後期持続制御の両方を提供することが望まれた。
実施例11
ポリマーは、確立された標準のガイドラインを満たす
【0095】
ポリマー被覆したステントを試験し、米国規格協会(American National Standards Institute:ANSI)、医療器具開発協会(Association for the Advancement of Medical Instrumentation:AAMI)及び国際標準化機構(International Organization for Standardization:ISO)のガイドラインのとおり、安全性及び生体適合性を保証した。より具体的には、ANSI/AAMI/ISO10993‐1及びG95‐1の準拠を評価した。
【0096】
被験物質は、試験抽出物から浸出可能な物質が細胞毒性を生じるかを判断するためのin vitro細胞毒性研究によると、細胞融解又は毒性をもたらす兆候を示さず(グレード0)、正、負、及び試薬対照は予測通りに機能した。被験物質の平均溶血指数は、該試験物質からの任意の浸出可能な化学物質上で行われたin vitro溶血性試験において0%であった。したがって、ポリマー系は非溶血性である。対照は、予測通りに機能した。
【0097】
USP及びISO急性全身毒性(マウスにおける)を行い、材料から抽出される浸出可能物質が、マウスに注射されると急性全身毒性を生じるか否かを判断した。試験物質は、0.9%塩化ナトリウムUSP(SC)及びゴマ油、NF(SO)の両方において抽出した。単一用量の試験物質抽出物は、抽出物につき5匹のマウスそれぞれに、静脈内(SC抽出物)又は腹腔内(SO抽出物)経路のいずれかで注射した。対照マウスにも同様に投与した。全身注射直後、4、24、48、及び72時間後に動物を観察した。死亡又は全身毒性はいずれの場合にも存在せず、試験動物は対照と同様に反応した。
【0098】
ISO急性皮内反応試験は、上述のような抽出物を用い、ウサギに皮内注射することによって行ったところ、紅斑/浮腫を生じなかった。抽出物を用い、モルモットで行われたISO感作試験も陰性を証明した。
実施例12
単球接着実験
【0099】
400mgのポリマーを100mL(4mg/mL)の適切な高純度高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)/Biotechグレード溶媒に溶解することによって、ポリマー溶液を調製した。ジクロロメタンは、C10、C19、ポリ(メタクリル酸ブチル)(PBMA)、ポリ(スチレン‐イソブチレン‐スチレン)(SIBS)、C10/C19/PVP、及び組織培養ポリスチレン(TCPS)に好適な溶媒であった。ホスホリルコリン(PC)及びフルオロポリマーをエタノール及び3:1 アセトン:シクロヘキサノンにそれぞれ溶解した。0.45μmポリテトラフルロエチレン(PTFE)フィルターで溶液をろ過し、220μLを96ウェル細胞培養プレートに入れた。溶媒をドラフト内で12時間蒸発させた後、高真空下(1mmHg未満)、室温で一晩処理した。PCポリマーは、70℃で4.5時間乾燥した(真空なし)。TCPSは105℃で乾燥し、フルオロポリマーは135℃で乾燥した。
【0100】
単球U937細胞は、ATCC Cell Biology Collectionから購入し、メーカーの推奨に従って培地で維持した。U937細胞は、1X105/ウェルにおいて、ポリマー被覆した96ウェルプレートに播種した。リポポリサッカリド(LPS)(100ng/mL)及びホルボール‐12‐ミリスチン酸‐13‐酢酸(PMA)(100ng/mL)を用いて細胞を刺激し、分化及び炎症活性化を誘発した。次いで、活性化した単球をポリマー上で24時間、37℃で培養した。以下のプロトコルで詳述されるように、カルセインの取り込みによって、ポリマー足場へのU937細胞の接着を評価した。U937細胞は、カルセイン(1mg/mL)で30分間培養することによって蛍光標識した。カルセインは、生存細胞におけるエステラーゼにより加水分解された蛍光染料である。カルセインの取り込み率は、ウェル内の生存細胞数に直接比例する。細胞接着率は、ポリマー被覆したプレートから接着単球をPBSで優しく洗浄する前及び後に蛍光測定値を読み取ることによって測定した。組織培養ポリスチレン被覆ウェル(TCPS)上に播種された、LPS+PMAで刺激したU937細胞を正の対照とし、刺激されていないU937細胞を負の対照とした。相対接着率を計算するために、ポリマー被覆したプレートから接着単球をPBSで優しく洗浄する前及び後の蛍光測定値の比を最初に決定した。次いで、正の対照で得られた比率に対してこの比を標準化し、100倍して相対接着率を得た。
【0101】
in vitroでポリマーが炎症反応を引き起こす可能性を評価するために、様々なポリマーの成分への活性単球の接着を個別及び組み合わせ(C10、C19、及びC10/C19)で測定した。
【0102】
様々なポリマー被覆したウェル上に、活性単球細胞を配置し、接着レベルを評価した。予測通り、単球細胞接着は、LPS及びPMAによる炎症活性化時に実質的に誘発された(負の対照に対して正の対照13倍差、図9)。同様の様式で、疎水性ポリマーC10に対する刺激単球の強固な接着が観察された(非刺激負の対照細胞に対して12.5倍誘導)。対照的に、親水性成分C19(C19及びC10/C19/PVP)を含有するポリマーに対する刺激単球の接着は最小であり、非刺激対照細胞とは著しく異ならなかった(図9A及びB)。相対親水性と活性単球の接着と間の相関は、図9C及び図9Dに示される結果によりさらに立証される。比較的親水性のポリマー(接触角94度未満)、PC及びC10/C19/PVPポリマー系に対する単球接着は低かったが、疎水性の高いポリマー(接触角115度より大)、PBMA、SIBS、及びVFH‐フルオロポリマー(非刺激負の対照細胞に対してそれぞれ12.6、15及び23倍誘導)に関して著しく強化された。
実施例13
ブタ研究
【0103】
ブタ冠動脈モデルにおいて、最大180日までの期間に一連のin vivo研究を行った。薬物を含む、及び含まないポリマー被覆されたステントを72匹の若い国内農場ブタ及び91匹のユカタンミニブタに移植した。実験動物のケア及び使用に関する国立衛生研究所(NIH)ガイドラインを厳密に遵守した。ステント留置術12‐24時間前に、アスピリン650mg及びクロピドグレル150mgを動物に事前投与した。血管の造影画像を取得して、ステント展開のための標的位置を識別した。約1.1‐1.2対1の比で、動脈に対するバルーン付きステント留置に好適な標的血管及び位置を識別するために、血管直径の視覚的評価を完了した。ステント移植は、生体構造の適合性に応じて、動物1匹につき2つ又は3つの冠動脈(右冠動脈(RCA)、左前下行枝(LAD)及び/又は左回旋動脈(LCX))において行った。Medis,Inc.の分析ソフトウェアを用いて、オフラインで冠動脈造影図の定量的分析を行った。生存段階の期間に、1日当たりアスピリン81mg及びクロピドグレル75mgを動物に経口投与した(90日及び180日研究の場合、クロピドグレルは、最長28日投与した)。7日、28日、90日、及び180日目に、動物はフォローアップ血管造影工程を経た。血管造影の完了後、ペントバルビタールナトリウムの過剰投与により、動物を安楽死させた。
【0104】
移植後180日の動脈組織炎症スコアの比較から、微小又は軽度の炎症反応が明らかになり、地金及びポリマー単独被覆ステントの両方に関し、群間で有意差はなかった(両群のスコアは1未満)。28日間のポリマー安全性研究は、同様の結果を示し、地金及びポリマー被覆ステントがもたらした炎症スコアに有意差はなかった。
【0105】
別段の記載がない限り、本明細書及び請求項で使用される材料の量、分子量、反応条件等の特性を表すすべての数字は、「約」という語によりすべての例において修正されることを理解されたい。したがって、反対の記載がない限り、本明細書及び添付の請求項に記載の数的パラメータは、得ようとする望ましい特性に応じて異なり得る近似値である。少なくとも、請求項に対する均等論の適用を制限するものではなく、各数値パラメータは、報告される有効桁の数に照らして、また通常の四捨五入技法を適用することにより少なくとも解釈されるべきである。広範囲に及ぶ本発明を説明する数的範囲及びパラメータは近似値であるが、特定の実施例において記載される数値は、できる限り精密に報告される。しかしながら、任意の数値は、本質的に、それらそれぞれの試験測定値において認められる標準偏差から必然的に生じる所定の誤差を含む。
【0106】
本明細書で(特に以下の請求項の文脈において)使用される「a」、「an」、「the」という語及び同様の指示対象は、本明細書において別段の記載がない限り、又は文脈により明確な矛盾がない限り、単数及び複数の両方を網羅すると解釈される。本明細書における値の範囲の記述は、単に該範囲内に含まれるそれぞれ個別の値を個別に参照する簡潔な方法として役立つことを意図する。本明細書において別段の記載がない限り、それぞれ個別の値は、ここで個別に引用されるかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書において別段の記載がない限り、又は文脈により明確な矛盾がない限り、任意の好適な順序で行うことができる。本明細書において提供される任意及びすべての実施例、又は例示の言語(例えば、「such as」)の使用は、単に理解をより容易にすることを意図し、別途請求される範囲に制限をもたらさない。本明細書におけるいずれの言語も、任意の非請求要素が本明細書に開示される実施形態に必須であることを示すとみなされるべきではない。
【0107】
本明細書で開示される代替要素又は実施形態の分類は、限定としてみなされるものではない。各群の構成員は、個別又は群の他の構成員あるいは本明細書で認められる他の要素との任意の組み合わせで参照及び請求され得る。群の1つ以上の構成員は、便宜上及び/又は特許性の理由で群に包含され得るか、又は群から削除され得ることが予測される。任意のかかる包含又は削除が生じる場合、本明細書は、修正された群を含み、したがって、添付の請求項において使用されるすべてのマルクーシュ群の書面による記載を満たすと考えられる。
【0108】
本明細書において、出願時に発明者に知られている場合、最良の形態を含む所定の実施形態が説明される。当然のことながら、これらの説明される実施形態の変型は、前述の説明を読めば、当業者に明らかとなる。本発明者は、熟練者がかかる変型を適切に採用することを期待する。請求項に引用される主題の修正及び相当事項の実践が予期される。さらに、別段の記載がない限り、又は文脈により明確な矛盾がない限り、そのすべての可能な変型における上述の要素の任意の組み合わせが本明細書に包含される。
【0109】
さらに、本明細書全体で、特許及び刊行物が参照されている。上記引用文献及び刊行物は、参照することによりそれぞれ個別にその全体が本明細書に組み込まれる。
【0110】
最後に、本明細書に開示される実施形態は、例証を目的とすることを理解されたい。他の修正を採用してもよく、請求の範囲内である。したがって、例として、限定ではなく、本明細書の教示に従って代替構成を利用してもよい。したがって、本明細書における教示は、表示及び記載される内容に厳密に限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー混合物を含む医療機器を被覆するためのポリマー系であって、前記ポリマー混合物は、外面を有する自己配向ポリマー被膜を形成し、前記ポリマー被膜は、前記外面に向かって配向した親水基を有する、医療機器を被覆するための前記ポリマー系。
【請求項2】
前記ポリマー混合物が、ホモポリマー、コポリマー、又はターポリマーのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のポリマー系。
【請求項3】
前記自己配向ポリマー被膜により、疎水性薬物の制御放出が可能である、請求項1に記載のポリマー系。
【請求項4】
前記自己配向ポリマー被膜が、生体適合性である、請求項3に記載のポリマー系。
【請求項5】
前記疎水性薬物が、抗増殖剤、エストロゲン、シャペロン阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、タンパク質‐チロシンキナーゼ阻害剤、レプトマイシンB、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体ガンマリガンド(PPARγ)、ヒポテマイシン、酸化窒素、ビスホスフォネート、上皮成長因子阻害剤、抗体、プロテアソーム阻害剤、抗生物質、抗炎症薬、アンチセンスヌクレオチド、及び形質転換核酸から成る群より選択される、請求項3に記載のポリマー系。
【請求項6】
前記薬物が、シロリムス(ラパマイシン)及びその類似体、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカン)、テムシロリムス(CCI−779)、ゾタロリムス(ABT−578)、パクリタキセル及びその類似体から成る群より選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項3に記載の医療機器。
【請求項7】
前記外面が、95度未満の水接触角を有する、請求項1に記載のポリマー系。
【請求項8】
前記コポリマーが、メタクリル酸アルキルモノマー、酢酸ビニルモノマー、又はそれらの組み合わせを含む、請求項2に記載のポリマー系。
【請求項9】
前記ターポリマーが、メタクリル酸アルキルモノマー、ビニルピロリドンモノマー、酢酸ビニルモノマー、又はそれらの組み合わせを含む、請求項2に記載のポリマー系。
【請求項10】
前記ホモポリマーが、ビニルピロリドンモノマーを含む、請求項2に記載のポリマー系。
【請求項11】
前記被膜の外面が、約15〜約20のヒルデブランド溶解度パラメータを有する、請求項1に記載のポリマー系。
【請求項12】
ターポリマー:コポリマー:ホモポリマーの比から成り、前記比は、約40:40:20〜約88:10:2である、請求項2に記載のポリマー系。
【請求項13】
表面に被膜を含む基板を備え、
前記被膜は、自己配向ポリマー系を含み、
さらに前記ポリマー系は、外面を含み、
さらに前記ポリマー系は、前記外面に向かって配向した親水基を含む、
生体適合性医療機器。
【請求項14】
前記ポリマー系が、ホモポリマー、コポリマー、又はターポリマーのうちの少なくとも1つを含む、請求項13に記載の医療機器。
【請求項15】
前記医療機器が埋め込み型であり、心臓弁、ステント、ペースメーカーリード、及びそれらの組み合わせから成る群より選択される、請求項13に記載の医療機器。
【請求項16】
前記自己配向ポリマー被膜により、疎水性薬物の制御放出が可能である、請求項13に記載の医療機器。
【請求項17】
前記疎水性薬物が、シロリムス(ラパマイシン)及びその類似体、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカン)、テムシロリムス(CCI−779)、ゾタロリムス(ABT−578)、パクリタキセル及びその類似体から成る群より選択される、少なくとも1つの化合物を含む、請求項16に記載の医療機器。
【請求項18】
前記コポリマーが、メタクリル酸アルキルモノマー、酢酸ビニルモノマー又はそれらの組み合わせを含む、請求項14に記載の医療機器。
【請求項19】
前記ターポリマーが、メタクリル酸アルキルモノマー、ビニルピロリドンモノマー、酢酸ビニルモノマー、又はそれらの組み合わせを含む、請求項14に記載の医療機器。
【請求項20】
前記ホモポリマーが、ビニルピロリドンモノマーを含む、請求項14に記載の医療機器。
【請求項21】
前記外面が、95度未満の水接触角を有する、請求項13に記載の医療機器。
【請求項22】
前記外面が、約15〜約20のヒルデブランド溶解度パラメータを有する、請求項13に記載の医療機器。
【請求項23】
ターポリマー:コポリマー:ホモポリマーの比から成り、前記比は、約40:40:20〜約88:10:2である、請求項13に記載のポリマーシステム。
【請求項24】
ポリビニルピロリドン、メタクリル酸アルキル、酢酸ビニル、及びビニルピロリドンのうちの少なくとも1つを含む、自己配向ポリマー系被膜を含み、
前記ポリマー系は、親水性表面及び疎水性コアをさらに含み、
前記疎水性コアは、疎水性薬物を含んで制御放出を提供することができ、
前記薬物は、ゾタロリムスを含む、
生体適合性埋め込み型ステント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【公表番号】特表2010−540083(P2010−540083A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526990(P2010−526990)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/073558
【国際公開番号】WO2009/042315
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(502129357)メドトロニック カルディオ ヴァスキュラー インコーポレイテッド (125)
【Fターム(参考)】