説明

指の屈伸運動計測を利用した個人認証方法及び個人認証システム

【課題】本発明は、なりすまし耐性を有する新規なバイオメトリック個人認証方法及びバイオメトリック個人認証システムを提供することを目的とする。
【解決手段】ユーザに一意な情報として、数ある人間の動きの中から、指の屈伸運動に着目した。人間の指の関節は、1自由度の蝶番関節であることに加え、第1関節と第2関節の間に腱が存在しており、両者の動きが連動していることから、指の屈伸運動の再現性は極めて高い。指の屈伸運動におけるそのシルエット形状の時系列的な変化を、曲率の概念を用いて特徴量として定義し、この特徴量から認証情報を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人認証技術に関し、より詳細には、なりすまし耐性を有するバイオメトリック認証技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から個人認証技術については様々な検討がなされており、近年、本人に固有の生体特徴を認証情報として利用するバイオメトリック認証が多くの場面で採用されている。しかしながら、最近、利用者の残留指紋に基づいて人工的に模型指などを作成した悪意の第三者による「なりすまし」の問題が指摘されている。この点につき、指紋などの静止2次元画像情報に比べて盗み出すことが困難とされる人間の動きに着目し、当該動きから抽出される特徴量を認証情報として利用することが検討されており、例えば、歩行、キーストローク、署名などに関連する人間の動きの特徴量から個人を特定するための認証情報を生成する研究が行われている。
【0003】
しかしながら、これらの動きはどれも再現性が低く、これらを認証情報として用いるシステムが高い認証精度を実現するのは困難であると言われていた。例えば、特開2002−142255号公報(特許文献1)は、唇の動きを用いて本人認証を行なうバイオメトリック認証システムについて開示するが、唇の動きの何をもって認証情報とするのかについては、具体的に開示するものではなく、また、唇の動きの再現性が認証情報として用いるに足るものであるか否かについて、何ら推認しうるものではなかった。
【特許文献1】特開2002−142255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、なりすまし耐性を有する新規なバイオメトリック個人認証方法及びバイオメトリック個人認証システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、なりすまし耐性を有する新規なバイオメトリック個人認証の構成につき鋭意検討した結果、ユーザに一意な情報として、数ある人間の動きの中から、指の屈伸運動に着目した。本発明者は、人間の指の関節が1自由度の蝶番関節であることに加え、第1関節と第2関節の間に腱が存在しており、両者の動きが連動していることから、指の屈伸運動の再現性は極めて高いと考えた。この着想の下、指の屈伸運動におけるそのシルエット形状の時系列的な変化を、曲率の概念を用いて特徴量として定義し、この特徴量から認証情報を生成することに成功し、本発明に至ったのである。
【0006】
すなわち、本発明によれば、指の屈伸運動計測を利用した個人認証方法であって、被認証者の指の屈伸運動を撮像した連続画像であって、前記指の側面を撮像した複数のデジタル画像を取得するステップと、前記指の側面の複数のデジタル画像ごとに、前記指の輪郭線を抽出し、抽出した前記輪郭線について曲率のプロフィールを求め、前記曲率のプロフィールから指の曲げ角度を求めたのち、前記曲率のプロフィールを前記指の曲げ角度と対応づけて記憶するステップとを含み、被認証者の前記曲率のプロフィールを所定の指の曲げ角度ごとに照合することによって認証を行なうことを特徴とする個人認証方法が提供される。本発明においては、前記照合は、被認証者の前記曲率のプロフィールについて、所定の指の曲げ角度ごとに相関係数を求め、該相関係数の平均値と所定の閾値とを比較することによって行うことができる。また、本発明においては、前記曲率のプロフィールは、前記輪郭線を走査することによって求めることができる。さらに、本発明においては、前記指の曲げ角度は、前記輪郭線の曲率の極値に対応する位置情報に基づいて求めることができる。
【0007】
また、本発明によれば、指の屈伸運動計測を利用した個人認証システムであって、被認証者の指の屈伸運動を撮像した連続画像であって、前記指の側面を撮像した複数のデジタル画像を取得するセンサ部と、前記センサ部が取得したデジタル画像の情報が入力される個人認証部とを含み、前記個人認証部は、特徴量算出部と、特徴量記憶部と、照合部とを含んで構成され、前記特徴量算出部は、前記指の側面の複数のデジタル画像ごとに、前記指の輪郭線を抽出し、抽出した前記輪郭線の曲率のプロフィールを導出し、前記曲率のプロフィールから指の曲げ角度を算出したのち、前記曲率のプロフィールを前記指の曲げ角度と対応づけて特徴量として定義する機能手段と、前記特徴量を特徴量記憶部に記憶する機能手段とを含み、前記照合部は、前記特徴量算出部が定義する被認証者の特徴量と前記特徴量記憶部に記憶された特徴量とを、所定の指の曲げ角度ごとに照合することによって認証を行なう機能手段を含む個人認証システムが提供される。本発明においては、前記照合部は、被認証者の前記曲率のプロフィールについて、所定の指の曲げ角度ごとに相関係数を算出し、該相関係数の平均値と所定の閾値とを比較する機能手段を含むことができる。また、本発明においては、前記特徴量算出部は、前記指の輪郭線を走査して前記曲率のプロフィールを導出する機能手段を含むことができる。さらに、本発明においては、前記特徴量算出部は、前記指の輪郭線の曲率の極値に対応する位置情報に基づいて前記指の曲げ角度を算出する機能手段を含むことができる。
【発明の効果】
【0008】
上述したように、本発明によれば、なりすまし耐性を有する新規なバイオメトリック個人認証方法及びバイオメトリック個人認証システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0010】
図1は、本発明の実施形態であるバイオメトリック認証システム10(以下、認証システム10として参照する)を示す。本実施形態の認証システム10は、センサ部12と個人認証部14を含んで構成されている。センサ部12は、被認証者であるユーザ16の指18(好ましくは、人差し指)が挿入され、指18の屈伸運動を撮像可能に構成されている。個人認証部14は、システム・コントローラとして機能するCPU、アプリケーション・ソフトウェアの実行空間を与えるためのRAM、処理を行うためのデータ、ジョブログ、またはプログラムなどを格納したROM、および、ハードディスクなどの記憶デバイスを備えるパーソナルコンピュータを含んで構成されており、MacOS(商標)、Windows(登録商標)、UNIX(登録商標)、LINUX(登録商標)またはそれ以外の適切なオペレーション・システムを使用し、C、C++、Visual C++、VisualBasic、Java(登録商標)などにより記述されたアプリケーション・プログラムを格納し、実行することによって、センサ部12が撮像した指18の画像に基づいてユーザ16の個人認証を行なうための機能手段を提供する。また、本実施形態においては、個人認証部14が導出した認証結果を認証結果表示部20に表示することができ、ユーザ16はこれを視認することによって認証結果を知ることができる。なお、図1には図示していないが、個人認証部14が導出した認証結果を所望の制御手段(例えばドアのロック開閉制御手段)に出力するように構成することもできる。
【0011】
図2は、本実施形態におけるセンサ部12を示す図であり、図2(a)は、その側面図を示し、図2(b)は、その上面図を示す。図2(a)に示すように、センサ部12は、撮像空間としての筐体30を備えている。筐体30には、指18を挿入するための開口部32が形成されており、個人認証の際、ユーザ16は、指18の腹を下に向けた状態で、指18を開口部32から筐体30内に挿入する。筐体30の内部は、指18を少なくとも第2関節(近位指節間関節)まで挿入し、指18の第1および第2関節を曲げて屈伸運動をするのに充分な空間を備えている。なお、図2においては、説明の便宜のため、筐体30内に挿入した指18を透視して示している。
【0012】
さらに、本実施形態におけるセンサ部12は、図2(b)に示すように、筐体30の側面側を撮像可能に位置決めされた撮像手段34を含んで構成されている。なお、本発明における撮像手段34は、画像を連続的に撮像し、これをデジタル信号に変換して出力しうる手段であればよく、CCDビデオカメラを用いることができる。なお、図2(b)においては、撮像手段34を筐体30の横脇に位置決めして配置した態様を示したが、これに限らず、反射ミラーなどを含む光学系を利用してよりコンパクトに構成することもできる。
【0013】
また、筐体30の側面30aは、撮像手段20による撮像に鑑みて光透過性の材料で構成されており、また、もう一方の側面30bは、指18の色との関係で、コントラストを考慮した色彩を備えており、指18の撮像における背景として機能している。本実施形態においては、ユーザ16が筐体30に指18を挿入したことをセンサ等によって感知し、自動的に筐体30の側面側の撮像を開始するように構成することもできる。
【0014】
使用に際し、ユーザ16は、筐体30に指18を挿入した状態で、指18を屈伸させる。その結果、撮像手段20によって指18の屈伸運動の様子が連続的に撮像され、複数の2次元画像情報として取得される。図3は、撮像手段20によって時系列的に撮像されたユーザ16の指18の連続画像を示す。図3に示されるように、指18は、その屈伸運動に伴って、その側面から見たシルエット形状が変化することが理解されよう。この時系列的な変化は、指関節の構造上再現性が高いため、本発明においては、当該変化を特徴量として抽出し、これを、ユーザ16に一意な認証情報として用いるものである。
【0015】
上述した手順でセンサ部12によって取得された指18の屈伸運動を側面から撮像した連続的な2次元画像情報は、デジタル信号に変換され、個人認証部14に入力される。個人認証部14においては、指18の2次元画像情報から特徴量が算出され、これに基づいてユーザ16に一意な認証情報を生成される。以下、本実施形態における特徴量算出の工程について、図4〜8を参照して説明する。
【0016】
本実施形態における特徴量の算出においては、まず、センサ部12から取得したデジタル画像について所定の画像処理が施される。この点につき図4を参照して以下説明する。図4は、センサ部12から取得した指18の連続的な2次元画像のうちの一つについて画像処理が行なわれる態様を時系列的に示す。本実施形態においては、まず、図4(a)に示した、センサ部12によって取得された画像に対して背景画素を黒(輝度値0)、指部分を白(輝度値255)に二値化する二値化処理が施される。図4(b)は、二値化処理後の画像を示す。次に、図4(b)に示す二値化処理後の画像において、指18の輪郭となるエッジ画素を抽出する、エッジ画素抽出処理が施される。エッジ画素の抽出は、ラプラシアンフィルタ等を適宜用いて行なうことができる。図4(c)は、エッジ画素抽出処理後の画像を示す。図4(c)に示したエッジ画素抽出処理後の画像においては、指18の側面の輪郭線が1画素幅の細線として構成されている。
【0017】
本実施形態における認証情報の生成においては、図4(c)に示される指18の側面の輪郭線に沿って、その曲率を順次算出する。以下、この曲率算出処理について、図5および図6を参照して説明する。
【0018】
図5は、図4(c)に示した図を説明の便宜のため白黒反転して示した図である。本実施形態においては、図5に示す輪郭線Eについて、図中に示す「START」という地点から始め、図中に示す「END」という地点に至るまで、図中の破線矢印で示すように、輪郭線Eを走査して順次曲率を算出していく。ここで、曲率とは、曲線の曲がりの程度を表す量をいい、二次元の場合、曲線上の任意の3点で作られる三角形の外接円半径Rの逆数(1/R)で与えられ、曲がりの程度が大きい程、大きくなる。
【0019】
図6(a)は、図5において破線の丸で囲んだ部分を拡大して示す図であり、図6(b)は、図6(a)において四角の実線で囲んだ部分をさらに拡大して示す図である。本実施形態においては、図6(b)に示すように、輪郭線E上に存在する3点(I、II、III)で作られる三角形Tの外接円Sについて、その半径Rの逆数(1/R)が、曲率として定義される。図6(b)に示す輪郭線E上の3点(I、II、III)は、それぞれ、輪郭線Eを構成する1画素(1ピクセル)として定義されるものであり、ピクセル(I)とピクセル(II)の間の距離d1、ならびに、ピクセル(II)とピクセル(III)の間の距離d2を固定した状態で、輪郭線E上の点(I)を1画素ずつ移動させながら、その都度、上述した3点(I、II、III)の座標を求め、それらの値からその位置の曲率(1/R)を算出する。本実施形態においては、曲率の算出に伴って移動した画素の積算値を追跡画素数として定義する。
【0020】
図7は、曲率と輪郭線E上の位置の相関関係を説明するための図である。図7(a)は、上述した手順で算出した輪郭線Eの曲率と追跡画素数との関係を示している。この関係は、指18の側面の輪郭線Eの曲率のプロフィールを定義するものである。図中の丸で囲んだ符号1〜6が示すように、輪郭線Eの曲率と追跡画素数との関係は、6つの極値(極大値/極小値)を示している。ここで、符号1〜6が示す極値は、図7(b)における輪郭線E上の丸で囲んだ符号1〜6が示す位置の曲率に対応していることを理解されたい。すなわち、図7(b)に示す、指の第2関節に関連した符号1および符号6の部分、指の第1関節に関連した符号2および符号5の部分、爪の付け根に対応する符号3の部分、ならびに、指の先端部に対応する符号4の部分における曲率は、常に極値(極大値/極小値)を示す。ここで、指の先端部に対応する符号4の部分において曲率は常に最小値となることから、算出した曲率が最小値を示す位置を指の先端部として特定し、指の先端部の位置から符号1〜符号6の位置を演繹的に特定することができる。
【0021】
ここで注目すべき点は、上述した「曲率のプロフィール」は、ユーザに一意なものであり、且つ、それが指18の屈伸運動に伴って変化するということである。すなわち、同一人物の指であっても指の曲げ具合によって、その時々の「曲率のプロフィール」は全て異なる。このことは、本実施形態の認証システム10が、その認証の際に、一人のユーザについて、連続画像のコマ数分の「曲率のプロフィール」を取得していること、すなわち、一人のユーザについて、一意な認証情報を短時間の間に大量に取得していることを意味する。本発明は、指の屈伸運動における、この「曲率のプロフィール」の変化に着目し、この変化、すなわち、複数の「曲率のプロフィール」の総体を特徴量として定義するものである。
【0022】
この点が、従来の指紋や静脈の静止2次元画像を利用する認証システムと大きく異なる点である。たとえば、あるユーザの指の側面の静止2次元画像が盗用された場合を考える。そのような静止2次元画像をもって本実施形態の認証システム10に対しなりすましを試みたとしても、認証システム10は、認証に際して、指の屈伸運動に伴う時系列的な変化についての情報、すなわち、複数の「曲率のプロフィール」をユーザに要求するものであるため、そのようななりすましは成功しない。ここで、もし仮に、指の屈伸運動の再現性が低いと、なりすまし強度の問題以前に認証方法として成立しないが、人間の指の関節が1自由度の蝶番関節であることに加え、第1関節と第2関節の動きが連動していることから、指の屈伸運動の再現性は極めて高いため、本発明の認証方法は有効に機能するのである。
【0023】
ここで、上述した連続画像のコマ数分の「曲率のプロフィール」のうち、どれを採択して認証情報を生成するのかは、情報処理装置の処理コストと認証精度を比較考量して決定することができる。本実施形態においては、所定の「指の曲げ角度」における「曲率のプロフィール」を抽出し、これら複数の「曲率のプロフィール」から認証情報を生成する。なお、本実施形態においては、上述した「指の曲げ角度」を図8に示すθとして定義する。すなわち、本実施形態においては、指の第2関節に関連する符号1の位置にある画素Oと符号6の位置にある画素Pを結んだ線分の中点Mを通る垂直二等分線L1を基準線とし、中点Mと、指の先端部に対応する符号4の位置にある画素Qとを結んだ線分L2とL1とが為す角度θを「指の曲げ角度」として定義する。符号1、4、6の位置の求め方は既に上述したとおりである。
【0024】
以上、図4〜8を参照して本実施形態における特徴量算出の手順について説明してきたが、続いて、本実施形態の認証システム10における個人認証のアルゴリズムについて、図9を参照しながら以下説明する。
【0025】
図9は、本実施形態の認証システム10の機能ブロック図を示す。図1について上述した個人認証部14は、特徴量算出部40と、特徴量記憶部42と、照合部46とを含んで構成されている。認証システム10の使用に際して、ユーザ登録をする場合には、特徴量算出部40は、図4〜8について上述した手順に従って、センサ部12から取得した、指の屈伸運動に伴う一連のデジタル画像の全てについて、「曲率のプロフィール」と、それに対応する「指の曲げ角度θ」を求め、両者を対応づけたデータを特徴量として定義する。この特徴量をユーザの個人情報(氏名・性別・年齢等)に関連づけて、ハードディスクなどの記憶デバイスによって構成される特徴量記憶部42に記憶する。
【0026】
次に、本実施形態の認証システム10が行なう個人認証の手順について、同じく図9を参照して、以下説明する。最初に、被認証者であるユーザが認証システム10のセンサ部12に指を挿入して屈伸運動を行なうと、特徴量算出部40は、センサ部12から入力される指の撮像画像から、図4〜8について上述した手順に従って、「曲率のプロフィール」を導出し、これを指の曲げ角度θに対応づけたものを「照会データ」として照合部46に出力する。
【0027】
照合部46は、特徴量算出部40から入力された「照会データ」から、所定の指の曲げ角度θに対応する「曲率のプロフィール」を抽出する。ここでは、説明の便宜のため、指の曲げ角度θ=15°、20°、25°、30°、35°、40°、45°という7つの角度に対応する「曲率のプロフィール」を抽出する場合を例にとって説明する。
【0028】
次に、照合部46は、特徴量記憶部42に記憶された「登録データ」を登録ユーザごとに読み出し、その中から、指の曲げ角度θ=15°、20°、25°、30°、35°、40°、45°に対応する「曲率のプロフィール」を抽出する。
【0029】
その後、照合部46は、特徴量算出部40から入力された「照会データ」から抽出した「曲率のプロフィール」と、特徴量記憶部42に記憶された、各「登録データ」から抽出した「曲率のプロフィール」との間の相関係数を、指の曲げ角度θごとに算出する。この際、相関係数の算出に用いるデータ数を一致させるために、輪郭線E上の曲率の極値を示す所定の位置を基準点に定めて、比較するデータ数を揃えることが好ましい。たとえば、図7(b)に示す符号5(第一関節の内側)の位置)を基準点とし、符号5の位置から、図5に示す「START」側にさかのぼってX[Pixel]、「END」側に下ってY[Pixel]、合わせて(X+Y)[Pixel]の追跡画素数の範囲における「曲率のプロフィール」を相関係数の算出対象とする。
【0030】
最後に、このようにして算出した、指の曲げ角度θ=15°、20°、25°、30°、35°、40°、45°における、「曲率のプロフィール」の相関係数について、これらの平均値を求める。
【0031】
照合部46は、上述した手順で求めた7つの相関係数の平均値が、所定の閾値以上であるか否かを判定し、閾値以上の平均値を導出した「登録データ」を読み出して、被認証者が当該「登録データ」のユーザである旨を判定する。一方、上記7つの相関係数の平均値が、所定の閾値を超えない場合には、照合部46は、被認証者の認証が失敗した旨を判定する。上述した判定結果は、図9に示されるように、照合部46から認証結果表示部20に出力される。なお、上述した閾値ついては、要求される認証の精度等に鑑みて、適宜決定することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明のバイオメトリック個人認証方法について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0033】
図1について上述した認証システム10を構築し、4名の被験者(A,B,C,D)の協力を得て、本システムの動作実験を行なった。最初に、予め、4名の被験者(A,B,C,D)のそれぞれについて、認証システム10を用いて撮像した人差し指の側面の屈伸運動の連続画像から「曲率のプロフィール」を算出し、各人の「登録データ」として記録した。なお、「登録データ」は、7通りの「指の曲げ角度θ(15°,20°,25°,30°,35°,40°,45°)」について、その角度ごとに「曲率のプロフィール」を算出し、それらを「登録データ」として記録した。
【0034】
次に、認証システム10を用いて、1つの「登録データ」に対し、本人および本人以外の3名が照合を行なった。なお、1つの「登録データ」と被験者の組み合わせにつき、複数回(8〜10回)照合を行なった。なお、本実施例においては、7通りの「指の曲げ角度θ(15°,20°,25°,30°,35°,40°,45°)」について取得した「曲率のプロフィール」につき、角度ごとに「登録データ」との相関係数を算出し、これらの7つの相関係数の平均値を照合対象とした。また、本実施例においては、上記相関係数の平均値が所定値以上である場合に本人と判定するものとし、本実施例においては、本人照合の基準を「0.967以上」とした。
【0035】
下記表1〜4に実験結果を示す。下記表1は、被験者Aの「登録データ」に対し、本人および本人以外の3名が照合を行なった結果を、下記表2は、被験者Bの「登録データ」に対し、本人および本人以外の3名が照合を行なった結果を、下記表3は、被験者Cの「登録データ」に対し、本人および本人以外の3名が照合を行なった結果を、下記表4は、被験者Dの「登録データ」に対し、本人および本人以外の3名が照合を行なった結果を、それぞれ示す。下記表1〜4においては、算出された相関係数を「指の曲げ角度θ」(15°〜 45°)ごとに示し、最下段にその平均値(Avr.)を示した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
上記表1〜4に示されるように、本実施例の認証システムは、被験者自身の「登録データ」に対し本人が照合を行なった場合、のべ35回の試行において31回本人と判定する結果となった。具体的には、被験者A(表1(I) 参照)および被験者B(表2(I) 参照)については、相関係数の平均値の全てが本人照合の基準「0.967」を上回る結果となり、被験者Aおよび被験者Bを本人と判定することができた。一方、被験者Cについては2回目と3回目(表3(I)
参照)、被験者Dについては8回目と9回目(表4(I) 参照)において、相関係数の平均値が本人照合の基準「0.967」を下回る結果となり、本人による照合が拒否された(本人拒否率=4/35=11.4%)。
【0041】
一方、本実施例の認証システムは、登録者以外の他人が照合を行なった場合、のべ117回の試行において1度も他人を受け入れなかった。具体的には、被験者Aの「登録データ」に対して、被験者B,C,Dが照合した場合(表1(II) 〜 (IV) 参照)、被験者Bの「登録データ」に対して、被験者A,C,Dが照合した場合(表2(II)
〜 (IV) 参照)、被験者Cの「登録データ」に対して、被験者A,B,Dが照合した場合(表3(II) 〜 (IV) 参照)、および、被験者Dの「登録データ」に対して、被験者A,B,Cが照合した場合(表4(II)
〜 (IV) 参照)のいずれについても、その相関係数の平均値の全てが本人照合の基準「0.967」を下回る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上、説明したように、本発明によれば、なりすまし耐性を有する新規なバイオメトリック個人認証方法及びバイオメトリック個人認証システムが提供される。本発明は、なりすまし耐性の向上に寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施形態のバイオメトリック認証システムを示す図。
【図2】本実施形態におけるセンサ部を示す図。
【図3】時系列的に撮像されたユーザの指の連続画像を示す図。
【図4】指の2次元画像について行なわれる画像処理を時系列的に示す図。
【図5】図4(d)に示した図を白黒反転して示した図。
【図6】曲率の算出方法について説明するための概念図。
【図7】曲率と細線上の位置の対応関係を示す図。
【図8】指の曲げ角度θの定義を示す図。
【図9】本実施形態のバイオメトリック認証システムの機能ブロック図。
【符号の説明】
【0044】
10…バイオメトリック認証システム、12…センサ部、14…個人認証部、16…ユーザ、18…指、20…認証結果表示部、30…筐体、32…開口部、34…撮像手段、40…特徴量算出部、42…特徴量記憶部、46…照合部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指の屈伸運動計測を利用した個人認証方法であって、
被認証者の指の屈伸運動を撮像した連続画像であって、前記指の側面を撮像した複数のデジタル画像を取得するステップと、
前記指の側面の複数のデジタル画像ごとに、
前記指の輪郭線を抽出し、
抽出した前記輪郭線について曲率のプロフィールを求め、
前記曲率のプロフィールから指の曲げ角度を求めたのち、
前記曲率のプロフィールを前記指の曲げ角度と対応づけて記憶するステップと
を含み、
被認証者の前記曲率のプロフィールを所定の指の曲げ角度ごとに照合することによって認証を行なうことを特徴とする、個人認証方法。
【請求項2】
前記照合は、被認証者の前記曲率のプロフィールについて、所定の指の曲げ角度ごとに相関係数を求め、該相関係数の平均値と所定の閾値とを比較することによって行なわれる、請求項1に記載の個人認証方法。
【請求項3】
前記曲率のプロフィールは、前記輪郭線を走査することによって求められる、請求項1または2に記載の個人認証方法。
【請求項4】
前記指の曲げ角度は、前記輪郭線の曲率の極値に対応する位置情報に基づいて求められる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の個人認証方法。
【請求項5】
指の屈伸運動計測を利用した個人認証システムであって、
被認証者の指の屈伸運動を撮像した連続画像であって、前記指の側面を撮像した複数のデジタル画像を取得するセンサ部と、
前記センサ部が取得したデジタル画像の情報が入力される個人認証部とを含み、
前記個人認証部は、
特徴量算出部と、特徴量記憶部と、照合部とを含んで構成され、
前記特徴量算出部は、
前記指の側面の複数のデジタル画像ごとに、
前記指の輪郭線を抽出し、
抽出した前記輪郭線の曲率のプロフィールを導出し、
前記曲率のプロフィールから指の曲げ角度を算出したのち、
前記曲率のプロフィールを前記指の曲げ角度と対応づけて特徴量として定義する機能手段と、
前記特徴量を特徴量記憶部に記憶する機能手段とを含み、
前記照合部は、
前記特徴量算出部が定義する被認証者の特徴量と前記特徴量記憶部に記憶された特徴量とを、所定の指の曲げ角度ごとに照合することによって認証を行なう機能手段を含む
個人認証システム。
【請求項6】
前記照合部は、被認証者の前記曲率のプロフィールについて、所定の指の曲げ角度ごとに相関係数を算出し、該相関係数の平均値と所定の閾値とを比較する機能手段を含む、請求項5に記載の個人認証システム。
【請求項7】
前記特徴量算出部は、前記指の輪郭線を走査して前記曲率のプロフィールを導出する機能手段を含む、請求項5または6に記載の個人認証システム。
【請求項8】
前記特徴量算出部は、前記指の輪郭線の曲率の極値に対応する位置情報に基づいて前記指の曲げ角度を算出する機能手段を含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の個人認証システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−245231(P2009−245231A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91920(P2008−91920)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月10日、バイオメカニズム学会発行の、第28回バイオメカニズム学術講演会 SOBIM2007予稿集にて発表、該当ページ p137〜p138
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】