説明

捕虫シートの検査装置及び捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法

【課題】高いモニタリングの精度を維持しつつ、複数の捕虫シートを大量に処理することができる捕虫シートの検査装置を提供する。また、精度の高い画像計数を実現する捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る捕虫シートの検査装置は、片面又は両面に粘着層を備える長尺な捕虫シートAであって、長手方向に一定間隔で仕切られて複数の区画を有する捕虫シートAを複数並列してセットするためのステージ2と、該ステージ2上にセットされた複数の捕虫シートA,…を同時期的に撮像可能な撮像手段4aと、該撮像手段4aにより取得された全体画像Xから、選択的に何れかの区画を切り出し、それを一つの画像データとして区画画像Yを生成する画像処理手段10aと、該画像処理手段10aにより生成された区画画像を表示する表示手段15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片面又は両面に粘着層を備える長尺な捕虫シートの検査装置に関し、より詳しくは、その捕虫シートの粘着層で捕獲された微小昆虫(捕虫)を計数するための検査装置に関する。また、捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光灯等、微小昆虫が好む波長の光源を点灯させることによって集まってくる微小昆虫を捕虫シートの片面又は両面に形成された粘着層に接触させて捕獲する捕虫器が公知であり、また、これを対象場所に設置した後、一定期間使用した捕虫シートを取り出して目視にて検査する(目視にて捕虫を計数する)といったことを定期的に繰り返して、蚊、ハエ等の衛生上好ましくない微小昆虫をモニタリングすることが一般的に行われている。特に、食品業界においては、厚生労働省が推進しているHACCP(危害分析重要管理点システム)のもと、工場内外における微小昆虫のモニタリングを定期的に行わざるを得ない状況となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、一般的な捕虫シート(「捕虫紙」とも呼ばれる)は、幅が約5cm、長さが約50cmと長尺で、それが(幅方向の線を長手方向に一定間隔で引くことにより)長手方向で例えば10個に仕切られており、モニタリングでは、それぞれが例えば約5cm×約5cmと比較的小さい区画を一つ一つ最後まで目視にて検査していく(目視にて捕虫を計数していく)必要があるため、モニタリングに従事する人に大きな負担を強いるものであった。また、この問題は、上記した理由により捕虫シートの消費量(即ち、検査すべき捕虫シートの数)が増えつつある現状において顕著となる。
【0004】
このような作業者の負担を軽減するための方法として、各捕虫シートにおいて全ての区画を検査するのではなく、例えば1つや2つの区画を選択的に検査して、全ての区画を類推するという方法が採れなくもないが、但し、そのような簡易な方法では、モニタリングの精度に正確性の問題が生じるため、できるだけならば避けるべきである。
【0005】
あるいは、特許文献1や2に開示されるように、捕虫シートの画像を取得して適宜の画像処理を施し、捕虫シートにおける捕虫を画像計数する方法が提供されているが、捕虫の特殊な形態(細い脚や翔が画像中に存在する)や、捕虫シートの形態(上記区画のための線が画像中に存在する)といった観点から、これら従来の画像計数方法は精度の高いものではない。
【特許文献1】特開2003−304788号公報
【特許文献2】特開2005−237317号公報
【0006】
あるいは、作業者の負担を軽減するための装置として、微小昆虫が好む波長の光源をケーシングの内部に配置すると共に、ケーシングの侵入口に赤外線の発光素子と受光センサとを対向状態で配置し、さらに、ケーシングの内部で侵入口と誘虫ランプとの間に捕虫シートを着脱自在に設け、上記した発光素子及び受光センサの組み合わせによる光電センサにより、ケーシング内に侵入する微小昆虫を計数しようとする装置が提案されている(例えば特許文献3)が、微小昆虫が光電センサ付近で真っ直ぐ通過するような飛翔運動をするとは限らないので、重複検知が頻発し、やはり、モニタリングの精度に正確性の問題が生じる。
【特許文献3】特開平10−99001号公報
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、高いモニタリングの精度を維持しつつ、複数の捕虫シートを大量に処理することができる捕虫シートの検査装置を提供することを課題とする。また、精度の高い、捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る捕虫シートの検査装置は、上記課題を解決すべくなされたもので、片面又は両面に粘着層を備える長尺な捕虫シートであって、長手方向に一定間隔で仕切られて複数の区画を有する捕虫シートを複数並列してセットするためのステージと、該ステージ上にセットされた複数の捕虫シートを同時期的に撮像可能な撮像手段と、該撮像手段により取得された全体画像から、選択的に何れかの区画を切り出し、それを一つの画像データとして区画画像を生成する画像処理手段と、該画像処理手段により生成された区画画像を表示する表示手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、例えば、検査の手順の一例として、まず、全体画像を取得した画像処理手段は、一つの区画画像を生成し、表示手段に出力する。そして、オペレータは、表示手段に表示される区画画像を観察して、当該区画内における捕虫を計数する。これが終了すれば、画像処理手段は、同じ全体画像における次の区画画像を生成し、表示手段に出力する。そして、これを繰り返し、全区画について検査を実施する。
【0010】
また、本発明に係る捕虫シートの検査装置は、前記画像処理手段が、区画画像に対し、捕虫の画像計数処理を実施可能である構成を採用するのが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、画像計数処理の結果が、独立的に、あるいはオペレータの目測による計数結果の補完的に得られ、モニタリングの精度を高くすることができる。
【0012】
この場合、本発明に係る捕虫シートの検査装置は、前記画像処理手段が、区画画像に対し、捕虫の同定処理を実施可能である構成を採用するのがより好ましい。
【0013】
同定は、ある程度の専門性が要求されるため、人が行う場合は専門家に頼らざるを得ないが、かかる構成によれば、そのようなことが不要となり、また、オペレータの作業負担を大きく軽減することもできる。
【0014】
また、本発明に係る捕虫シートの検査装置は、前記ステージが装置本体に対して引き出し可能な構成を採用することができる。
【0015】
かかる構成によれば、複数の捕虫シートのセット作業及び交換作業を簡単に行うことができるようになる。
【0016】
また、本発明に係る捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法は、片面又は両面に粘着層を備える長尺な捕虫シートの画像を取得するために該捕虫シートを撮像するステップと、取得された画像中に、捕虫シートを複数の区画に仕切るための罫線が存在する場合、該罫線を特定して除去するステップと、取得された画像中に捕虫シート以外の背景が存在する場合、該背景を特定して除去するステップと、取得された画像における捕虫の中心的な部分を抽出するステップと、該抽出された領域の輪郭をトレースすることにより、捕虫を計数するステップとを備えることを特徴とする。
【0017】
かかる構成によれば、捕虫シートの罫線や、背景といったノイズとなり得る部分を除去し、且つ捕虫シートにおける捕虫のうち、細い部分(脚や翔など)といったノイズとなり得る部分を除去して、捕虫の中心的な部分を抽出することにより、精度の高い画像計数を実現することができる。
【0018】
また、本発明に係る捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法は、前記撮像ステップが、複数並列してセットされた捕虫シートを同時期的に撮像するものである構成を採用することができる。
【0019】
かかる構成によれば、大量の捕虫シートを処理することによる目の疲れ等、オペレータに掛かる作業負担を大きく軽減することができる。
【0020】
また、本発明に係る捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法は、前記抽出ステップが、取得された画像に対するグレースケール化及び続いて2値化を、捕虫の中心的な部分の抽出に先立って行うものであり、前記罫線及び/又は背景の除去ステップが、捕虫シートとともに罫線及び/又は背景に係る画素が前記2値化によって白となるように、特定された罫線及び/又は背景に係る画素の画素値を変換するものである構成を採用することができる。
【0021】
かかる構成によれば、捕虫シートの罫線や、背景といったノイズとなり得る部分を無くした状態で、捕虫の抽出を行うことができるため、精度の高い画像計数を実現することができる。
【0022】
この場合、前記2値化は、最適2値化であるのが好ましい。
【0023】
かかる構成によれば、画像における周囲の画素の輝度値の変化量などを考慮し、動的に閾値を変動させつつ2値化を行うため、捕虫に係る画素を適切に抽出することが可能となる。
【0024】
また、本発明に係る捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法は、前記計数ステップが、領域の輪郭内の面積を求め、それが所定値よりも小さい場合、それを捕虫として計数に加えないといった構成を採用するのが好ましい。
【0025】
かかる構成によれば、本来は捕虫でない、あるいは捕虫の一部といったノイズを計数に加えないことになるため、さらに精度の高い画像計数を実現することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上の如く、本発明に係る捕虫シートの検査装置によれば、捕虫シートの各区画を実際のサイズよりも大きく拡大して表示手段に表示することが可能となるため、オペレータの観察による検査が精度の高いものとなるばかりでなく、大量の捕虫シートを処理することによる目の疲れ等、オペレータに掛かる作業負担を大きく軽減することができる。しかも、複数の捕虫シートをセットすることにより、一時期に多くの区画画像を取得でき且つ検査することができるため、複数の捕虫シートを大量に処理することができる。即ち、本発明によれば、高いモニタリングの精度を維持しつつ、複数の捕虫シートを大量に処理することができるのである。
【0027】
また、本発明に係る捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法によれば、精度の高い計数結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る捕虫シートの検査装置(以下、単に「検査装置」という)の一実施形態につき、図面を参酌しつつ説明する。
【0029】
本実施形態に係る検査装置は、スキャナー装置と、該スキャナー装置に接続される表示装置(ディスプレイ)とから構成され、特徴とするところは、複数(本実施形態においては4本)の捕虫シートA,…を並べてスキャナー装置にセットすることができ(図1の状態から図2の状態)、そして、それらを同時に撮像することができることである。
【0030】
もう少し詳しく説明すると、スキャナー装置は、装置本体1に対して前方側に引き出し可能なステージ2を有し、また、このステージ2の平坦な上面に、各捕虫シートAのそれぞれ端部を支持するための台座3が配置され、捕虫シートA,…を並列してステージ2上にセットできるようになっており、一方、装置本体1内には、ライン状の撮像素子(ラインCCD)が副走査方向に可動にして配置されており、ステージ2を装置本体1内に収めると、ライン撮像素子が全ての捕虫シートA,…を同時に撮像することができる。
【0031】
台座3は、捕虫シートAの基端部を支持するための第1台座3aと、捕虫シートAの先端部を支持するための第2台座3bとからなる。ここで、捕虫シートAは、カートリッジCから引き出されて使用されるものであり、従って、捕虫シートAの基端部とは、より正確に言えば、カートリッジCであるので、第1台座3aは、カートリッジCを保持するための収容凹部3a’を備える。
【0032】
第1台座3a及び第2台座3bの対は、ステージ2の引き出し方向と直交する方向に配置されると共に、それらの対は、ステージ2の引き出し方向に沿って並列されるので、複数の捕虫シートA,…は、ステージ2の引き出し方向に並列されることとなる。
【0033】
また、第1台座3a及び第2台座3bの各組は、上記〔発明が解決しようとする課題〕で説明した捕虫シートAの例えば10個の区画が第1台座3a及び第2台座3b間に介在するような間隔で配置される。従って、ステージ2上には、複数の捕虫シートA,…の総区画(各捕虫シートAの区画が10個であれば、40個)がマトリックス状(4×10)に配置される格好となる。
【0034】
上記したライン撮像素子は、ステージ2の引き出し方向に沿って配置されると共に、ステージ2上に並列された複数の捕虫シートA,…を同時期的にフォローできる長さ(画素数)のものが採用され、そして、ステージ2の引き出し方向と直交する方向に副走査のための移動を行うようになっている。従って、ライン撮像素子の主走査方向と捕虫シートAの幅方向とが一致し、且つ、ライン撮像素子の副走査方向と捕虫シートAの長手方向とが一致することとなり、複数の捕虫シートA,…は、先端側から基端側あるいは基端側から先端側にかけて同時に撮像されていくこととなる。
【0035】
実際には、上記したライン撮像素子は、図3〜図5に示す如く、ステージ2の引き出し方向と直交する方向に可動する走査ヘッド4内に収められている。該走査ヘッド4は、装置本体1内にステージ2の引き出し方向と直交する方向に沿って配置された前後一対のシャフト5,5が挿通され、シャフト5,5をスライドするようにして可動するようになっている。因みに、動力源は、図示しないモータと、このモータの駆動軸に連結されたプーリ6と、このプーリ6に掛けられて一部が走査ヘッド4に取り付けられるベルト7とから構成される。
【0036】
図6は、本実施形態に係る検査装置の全体構成図である。スキャナー装置(の装置本体)1内には、例えばCPUにて構成される制御部10が設けられ、該制御部10に、走査ヘッド4を駆動するための上記したモータ11用のドライバ12、ライン撮像素子4aから出力されるデータを取り込むための入力部13、及び後述する所定の画像処理が施された画像データを出力するための出力部14が接続されており、また、出力部14に、外部出力端末であって、本実施形態に係る検査装置の一部を構成する表示装置(ディスプレイ)15が接続される。
【0037】
加えて、制御部10は、本実施形態において特徴的な画像処理部10aを備える。該画像処理部10aは、ライン撮像素子4aから取り込まれた、複数の捕虫シートA,…の総区画をマトリックス状に含む一つの全体画像から、選択的に何れかの区画を切り出し、それを一つの画像データとして区画画像を生成する機能を有する。出力部14は、この区画画像(「コマ画像」と言ってもよい)を表示装置15に出力し、表示装置15には、この区画画像が表示される。
【0038】
図7は、その画像処理のイメージを説明するための図である。上段のものは、ライン撮像素子4aから取り込まれた、複数の捕虫シートA,…の総区画をマトリックス状に含む一つの全体画像Xであり、下段のものは、その全体画像Xから、選択された区画(本図においては、上から4行、左から5列の区画)が切り出された区画画像Yである。
【0039】
検査の手順として、まず、画像処理部10aは、最初の区画画像(例えば1行1列の区画画像)を生成し、出力する。そして、オペレータは、表示装置15に表示される区画画像を観察して、当該区画内における捕虫を計数する。これが終了すれば、スキャナー装置が備える例えば指示キー(図示しない)を操作する。すると、画像処理部10aは、次の区画画像(例えば1行2列の区画画像)を生成し、出力する。そして、これを最後(例えば4行10列の区画画像)まで繰り返し、全区画について検査を実施する。
【0040】
ところで、画像処理部10aは、付随的に、画像計数処理を実施する。即ち、取得した全体画像あるいは各区画画像から2値画像を生成し、この取得した2値画像から画素の連結情報を求めて、画素の塊である図形を抽出した図形抽出画像を取得し、この図形抽出画像で得られた図形に対して、面積を求め、面積が規定値以上又は以下の図形を削除し、ラベリング処理等によって、残りの図形の個数を捕虫の数として計数する。尚、画像処理部10aによる画像計数処理としては、上記した方法以外に、他の公知の方法の何れをも採用することができる。
【0041】
以下は、全体画像を対象とした画像計数処理の一例の説明である。尚、画像計数処理に当たって注意すべき点は、第一に、微小昆虫が様々な状態・形状で捕虫シートに捕獲されているので、精度良く計数するためには、画像の中から適切に捕虫領域を抽出しなければならない点であり、第二に、罫線入りの捕虫シートを用いる場合(罫線が入っていない捕虫シートもある)等、区画のために幅方向に引かれた例えば黒色の線(以下、「罫線」という)が画像中に存在し得るが、これを計数前に除去しなければならない点である。
【0042】
図8は、その画像計数処理のフローチャートである。まず、スキャナー装置により高解像度で撮像した全体画像を得て(S1)、次に、画像中に罫線が存在するか否かがチェックされ(S2)、YESの場合、罫線の除去処理、即ち、画像中の罫線を特定して除去する処理が行われ(S3)、次に、あるいはS2がNOの場合、背景の除去処理、即ち、捕虫シート以外の領域(背景)を除去し(S4)、次に、捕虫の中心的な部分を抽出する処理を行い(S5)、最後に、捕虫領域の輪郭をトレースすることにより、捕虫の計数を行う(S6)。
【0043】
<撮像(スキャン)(S1)>
スキャナー装置にセットされた複数の捕虫シートを、1600dpi以上の高解像度で撮像する。この全体画像を以下、入力画像ということにする。尚、入力画像は、RGB形式の24bitフルカラー形式である。
【0044】
<罫線の除去処理(S3)>
まず、入力画像をある一定の縮小率で縮小し、縮小画像を得る。この縮小画像は、以下に続く罫線の除去処理のみならず、背景の除去処理(S4)でも用いられる。これらの処理において縮小画像を用いるのは、厳密に罫線や背景を特定して除去する必要はなく、罫線・背景の概形が得られれば、罫線・背景の除去には十分であるため、以降の処理を縮小画像を用いて処理を行うことにより、処理の高速化・効率化・一時記憶領域の節約を図ることができるからである。
【0045】
次に、入力画像のうちの、捕虫シートが存在すべきおおよその領域について、各スキャンラインに対して左から右あるいは右から左へ画素値を取得し、捕虫シートの色以外の色の画素が捕虫シートの端から端へ連続しているかどうかを検査する。そして、捕虫シートの色以外の色の画素が捕虫シートの端から端へ連続しているスキャンラインが複数連続している場合、それを一つの罫線として、罫線候補に加える(図9(イ)の矢印が付された箇所)。尚、罫線と断定せずに、罫線候補とするのは、捕虫が連なっていて罫線のように見える可能性があるためである。
【0046】
但し、罫線候補として取り上げなかったスキャンラインのうち、捕虫シートの色以外の色の画素が多いもの、例えば、捕虫の色の画素がある一定の割合を超えているもの、も罫線候補とする(図9(ロ)の矢印が付された箇所)。これは、罫線上に捕虫シートの色に近い捕虫が存在することにより、罫線が分断されている可能性があるためである。
【0047】
罫線候補として取り上げられたものは、最終的に白色で塗りつぶされて除去される。但し、罫線候補上に捕虫が存在している場合を考慮する必要があるため、塗りつぶす罫線候補の上下にはみ出す捕虫に係る画素(捕虫シートの色以外の画素)が存在している場合は、罫線候補のうち、捕虫に係る画素は塗りつぶさずに残すようにする。例えば、図10に示す如く、太実線内の画素が捕虫に係る画素と判定されると、矢印が付された罫線候補のうち、太実線内の画素は白く塗りつぶさない。これにより、捕虫画像が分断された状態になる(即ち、捕虫の個体数が増えてしまう)のを防止することができる。尚、捕虫に係る画素であるか否かの判定は、画素の色相を算出し、その色相が捕虫シートの色相の範囲に含まれていないかどうかで行う。
【0048】
<背景の除去処理(S4)>
この工程では、罫線の除去処理(S3)に引き続き、入力画像の縮小画像を用いて、背景(捕虫シート以外の領域)を除去する。まず、入力画像のうちの、捕虫シートが存在すべきおおよその領域について、各スキャンラインに対して左から右あるいは右から左へ画素値を取得し、捕虫シートの色の画素に初めて到達した点を捕虫シートの端とする。(図11(イ)を参照)
【0049】
捕虫シートの色の画素であるかどうかの判定は、画素の色が捕虫シートの色の色域に適合するかどうかで判定する。但し、背景が捕虫シートの色と色域が全く異なっていることが前提であるが、本スキャナー装置における背景(即ち、ステージ2内)は、灰色又は黒色であり、計数対象の捕虫シートの色は、それとは異なるもの(通常は黄色系)を用いるため、問題ない。
【0050】
そうは言っても、背景領域内に偶然存在し得る捕虫シート系の色の画素を捕虫シートの端と誤認してしまう可能性もあるため、周囲の画素の色の平均及びそれまでの捕虫シートの端の平均位置などから、妥当性を検証して捕虫シートの真の端を決定する。例えば、図11(ロ)を参照して、破線円内の画素は、捕虫シート系の色の画素であるが、周囲の画素が捕虫シート系の色ではないことと、それまでの(スキャンラインにおいて決定された)捕虫シートの端と主走査方向での位置がずれていることとから端ではないと判断し、次のもの(実線円内の画素)を真の端と決定する。
【0051】
これらの処理をスキャナー装置にセットされた捕虫シートの数だけ行い、背景を特定していく。そして、図12に示す如く、最終的に、入力画像に対して、罫線・背景を白色で塗りつぶす。
【0052】
<捕虫検出の前処理(S5)>
この工程では、捕虫シート上の捕虫の中心的な領域を強調・抽出することにより、この次の工程(S6)で捕虫を検出する際の精度向上を図る。まず、罫線の除去処理(S3)、背景の除去処理(S4)により、罫線及び背景が除去された入力画像(図12(ハ))の輝度値のみを抽出し、グレースケール画像に変換する。輝度値を算出する式は、
入力画素の輝度値 = R×0.299 + G×0.587 + B×0.114
R:入力画素のR成分
G:入力画素のG成分
B:入力画素のB成分
であり、グレースケール変換後の画像を図13に示す。尚、このとき、全ての画素をただ輝度値に変換せず、輝度値に変換する際に、画素の色相を算出し、色相が捕虫シートの色相の範囲外である場合には、その画素値を黒(捕虫の色)として設定する。これにより、画像を輝度画像に変換しつつ、ほとんどの捕虫に係る画素を強調する効果が得られる。但し、この時点では、色相が捕虫シートの色相に近似する捕虫に係る画素なども存在するため、この次の工程である「最適な2値化」によって捕虫に係る画素をさらに高精度に抽出することになる。
【0053】
次に、グレースケール化された入力画像から捕虫に係る画素を抽出するために2値化を行い、捕虫に係る画素を黒、捕虫シートに係る領域の画素を白に変換する(図14(ハ))。これは、輝度が高い(白に近い)捕虫シートに係る領域に対して、捕虫に係る領域は輝度が低い(黒に近い)という基本的な性質を利用するものである。但し、閾値固定の単純な2値化を行わず、「最適な2値化」(以下、「最適2値化」という)を行う。
【0054】
最適2値化を行う理由は次のとおりである。2値化処理で通常利用される、閾値固定の単純な2値化では、捕虫シート上で捕虫の影の濃い部分なども黒(捕虫に係る画素)と処理されてしまう(図14(ロ))。逆に、影を除去するために閾値を下げると、今度は黒と処理されるべき領域までもが白として処理されてしまう場合がある。これは、単純な2値化処理が周囲の画素の状態を考慮していないためである。これに対して、最適2値化では、周囲の画素の輝度値の変化量などを考慮し、動的に閾値を変動させつつ2値化処理を行うため、捕虫に係る画素を適切に抽出することが可能となる(図14(ハ))。
【0055】
最適2値化処理により、捕虫シート上の捕虫に係る画素のみを黒色で抽出したが、このままでは、捕虫の検出処理を試行する場合に、以下の問題が発生する。1)捕虫同士が脚や翔などによって連続している場合(図15(イ))、脚や翔で連続している二つの捕虫を一つの捕虫として誤検出する確率が高くなってしまう。2)一つの捕虫が複数の領域(検出処理の効率化のために細分化された単位画像領域)に分散されている場合(図15(ロ))、最適2値化処理を行った場合でも、捕虫の模様により、色の薄い部分が白色に処理されて、一つの捕虫が複数の領域に分散されてしまう場合がある。このような場合では、分離している各領域がそれぞれ一つの捕虫として誤検出する確率が高くなる。3)2値化された画像には、通常、多数の孤立点が発生することが多い。これらの孤立点は、捕虫の検出処理において邪魔になるため、前処理の段階で除去しておく必要がある。因みに、孤立点は、通常、捕虫の翔の部分や、捕虫の模様の色の薄い部分に発生しやすい。
【0056】
これらの問題を解決するために、1)脚や翔といった細い部分の除去、2)複数の領域(複数の単位画像領域)に跨って分離される一つの捕虫の領域の統合、3)不要な孤立点の除去、又は捕虫を構成するのに重要な位置にある孤立点の統合、を行う必要がある。そして、それらを同時に行うために、一種の平滑化処理を行う。
【0057】
平滑化処理は、まず、注目画素を中心とする、ある一定の範囲の領域内の画素のうち、黒い画素(捕虫に係る画素)の数の合計を算出する。その黒い画素の数が領域内の全画素数の半分以上である場合に、その注目画素を黒とし、半数以下の場合に白とする。その処理を入力画像の全画素に対して行う。
【数1】

但し、x:注目画素のX座標
y:注目画素のY座標
P:指定された座標の画素の状態を返す関数
画素値が黒なら1を返し、画素値が白なら0を返す
r:領域の半径
周囲に白い画素が多い場所においては黒い画素が白になり、周囲が黒い画素が多い場所では白い画素が黒くなる。つまり、平均化などによる平滑化と異なり、領域の凹凸や穴を明確に塞いだり、近接する領域を接続させるなどの結果を得ることができる。
【0058】
この処理は簡素であり、それゆえに高速に処理することができる。また、この処理だけで上記1)〜3)の処理結果を同時に得られる理由を説明する。1)脚のように細い部分では、周囲の画素は白い画素が多いため、結果として脚のように細い部分を除去した結果を得ることができる。2)この平滑化処理により、非常に近接した領域同士を統合することができるが、この近接した領域は、通常、一つの捕虫が分離した状態で存在する場合が多いため、これらを統合することにより、分離されている捕虫に係る領域を一つに統合するという結果を得ることができる。3)1)についての部分で述べたのと同じ理由で、孤立点を除去することができる。また、周囲に黒い部分が多い孤立点は、削除されずに他の捕虫に係る領域に統合される。
【0059】
図16は、今までに述べた一連の処理による各結果の画像である。上記した一種の平滑化処理を実行することにより、捕虫の余分な部分(脚など)を除去しつつ、分離した一つの捕虫に係る領域を統合し、結果として、捕虫の中心的な部分を形成・抽出することができる。
【0060】
<捕虫の計数処理(S6)>
この工程では、捕虫を検出し、計数を行う。具体的には、捕虫検出の前処理(S5)で得られた入力画像に対して、画像内に存在するそれぞれの捕虫に係る領域(黒色)の輪郭(アウトライン)を得る。アウトラインは、黒色の画素の輪郭をトレースすることにより得る。但し、取得したアウトラインが内側のアウトラインであれば破棄する。
【0061】
例えば、図17を参照して、破線は内側のアウトラインであるので、破棄する。内側のアウトラインであるかどうかは、アウトラインの追跡時に、曲がる向きとその回数で判定する。さらに、得られた外側のアウトライン(図17の太実線)の面積を算出し、ある一定以下の場合は、捕虫ではない(ゴミ又は捕虫の部分的な部分(脚・翔など))として破棄する。面積がある一定以上である場合は、このアウトラインを一つの捕虫としてカウントし、捕虫のリストに登録する。そして、この処理が完了した時点で、画像内に存在する捕虫のリストが完成し、捕虫の計数処理を完了する。
【0062】
この結果は、表示装置15に表示される区画画像に基づいてオペレータが目測により計数した結果を補完するものである。そのため、本実施形態に係る検査装置によれば、モニタリングの精度を高くすることができる。あるいは、画像処理部10aによる画像計数処理が信頼性の高いものであれば、オペレータの観察による検査を省略することができ、そのため、オペレータの負担を大きく軽減することができる。
【0063】
以上、本実施形態に係る検査装置によれば、各区画が実際のサイズよりも大きく拡大されて表示装置15に表示されるようになっているため、オペレータの観察による検査が精度の高いものとなるばかりでなく、大量の捕虫シートA,…を処理することによる目の疲れ等、オペレータに掛かる作業負担を大きく軽減することができる。しかも、複数の捕虫シートA,…をセットすることにより、一時期に多くの区画画像を取得することができ且つ検査することができるため、複数の捕虫シートA,…を大量に処理することができるようになる。
【0064】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0065】
例えば、上記実施形態に係る検査装置は、画像計数処理を実施することにより、自動的に捕虫を計数することができるが、それに留まらず、同定(生物の分類学上の所属・名称を明らかにすること)まで自動的に行うようにしてもよい。その場合、微小昆虫の例示として、ユスリカ、ショウジョウバエ、クロバネキノコバエ、ノミバエ、タマバエ、ガガンボ、チョウバエ、ハネカクシ、チャタテムシ等のそれぞれについて、いろんなアングルから見た各種サンプル画像(テンプレート画像)を画像処理部10aが用意しておき、上記した図形抽出画像における図形とのテンプレートマッチングを行えばよい。尚、画像処理部10aによる同定処理としては、上記した方法以外に、他の公知の方法の何れをも採用することができる。
【0066】
また、上記実施形態に係る検査装置は、スキャナー装置と表示装置とを分けて構成しているが、スキャナー装置にディスプレイを設けて一体型としてもよい。また、画像処理部10aは、例えば別個のパソコンが担うようにしてもよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、走査ヘッド4が可動して副走査を行うようにしているが、走査ヘッド4(撮像素子4a)は固定でステージが可動することにより副走査を行うようにしてもよい。但し、装置全体がコンパクトにできる点、前者の方が好ましい。
【0068】
また、上記実施形態においては、撮像素子としてラインCCDを用いているが、これに限定されず、CCDチップをX−Yプロッタ等に搭載して走査させ、あるいはCCDチップを用いると共に、ステージをX−Y方向に可動して、全体画像を取得するようにしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態においては、捕虫シートAの長手方向に沿って副走査するようにしているが、これと直交する方向、即ち、捕虫シートAの幅方向に沿って副走査するようにしてもよい。
【0070】
また、上記実施形態においては、カートリッジCと一体的に捕虫シートAをセットするものであったが、カートリッジをそもそも具備しない捕虫シートや、カートリッジから完全に引き出して捕虫シートのみをセットするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本実施形態に係る検査装置の一部を構成するスキャナー装置であって、ステージを引き出した状態の外観斜視図を示す。
【図2】同スキャナー装置であって、引き出されたステージに複数の捕虫シートをセットした状態の外観斜視図を示す。
【図3】同スキャナー装置であって、ステージを引き出した状態の内部透過斜視図を示す。
【図4】同スキャナー装置であって、ステージを収めた状態の内部透過斜視図を示す。
【図5】同スキャナー装置の内部透過正面図を示す。
【図6】本実施形態に係る検査装置の全体構成図を示す。
【図7】同検査装置によって取得された検査画像を示す。
【図8】同検査装置による画像計数処理のフローチャートを示す。
【図9】(イ)、(ロ)は、図8のS3に係る罫線の除去処理の説明図を示す。
【図10】図8のS3に係る罫線の除去処理の説明図を示す。
【図11】(イ)、(ロ)は、図8のS4に係る背景の除去処理の説明図を示す。
【図12】図8のS1〜S4に係る処理による結果の画像であって、(イ)は、入力画像、(ロ)は、罫線の除去処理が施された画像、(ハ)は、背景の除去処理が施された画像、を示す。
【図13】(イ)は、図12(ハ)と同じ画像、(ロ)は、図8のS5に係る処理の最初の工程であるグレースケール化処理が施された画像、を示す。
【図14】(イ)は、図13(ロ)の一部画像、(ロ)は、閾値固定の単純な2値化処理が施された画像、(ハ)は、最適2値化処理が施された画像、を示す。
【図15】最適2値化処理が施された画像であって、(イ)は、複数の捕虫が画像的に繋がった状態の画像、(ロ)は、一つの捕虫が隣接する単位画像領域に跨っているために部分的に欠落した状態の画像、を示す。
【図16】(イ)は、入力画像、(ロ)は、グレースケール化処理が施された画像、(ハ)は、最適2値化が施された画像、(ニ)は、一種の平滑化処理が施された画像、(ホ)は、(イ)の画像と(ニ)の画像とを重ねて比較した画像、を示す。
【図17】図8のS6に係る計数処理の説明図を示す。
【符号の説明】
【0072】
1 スキャナー装置の装置本体
2 ステージ
3 台座
4 走査ヘッド
4a 撮像素子(撮像手段)
10 制御部
10a 画像処理部(画像処理手段)
15 表示装置(表示手段)
A 捕虫シート
X 全体画像
Y 区画画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面又は両面に粘着層を備える長尺な捕虫シートであって、長手方向に一定間隔で仕切られて複数の区画を有する捕虫シートを複数並列してセットするためのステージと、該ステージ上にセットされた複数の捕虫シートを同時期的に撮像可能な撮像手段と、該撮像手段により取得された全体画像から、選択的に何れかの区画を切り出し、それを一つの画像データとして区画画像を生成する画像処理手段と、該画像処理手段により生成された区画画像を表示する表示手段とを備えることを特徴とする捕虫シートの検査装置。
【請求項2】
前記画像処理手段は、区画画像に対し、捕虫の画像計数処理を実施可能である請求項1に記載の捕虫シートの検査装置。
【請求項3】
前記画像処理手段は、区画画像に対し、捕虫の同定処理を実施可能である請求項2に記載の捕虫シートの検査装置。
【請求項4】
前記ステージは、装置本体に対して引き出し可能に構成される請求項1〜3の何れか1項に記載の捕虫シートの検査装置。
【請求項5】
片面又は両面に粘着層を備える長尺な捕虫シートの画像を取得するために該捕虫シートを撮像するステップと、取得された画像中に、捕虫シートを複数の区画に仕切るための罫線が存在する場合、該罫線を特定して除去するステップと、取得された画像中に捕虫シート以外の背景が存在する場合、該背景を特定して除去するステップと、取得された画像における捕虫の中心的な部分を抽出するステップと、該抽出された領域の輪郭をトレースすることにより、捕虫を計数するステップとを備えることを特徴とする捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法。
【請求項6】
前記撮像ステップは、複数並列してセットされた捕虫シートを同時期的に撮像するものである請求項5に記載の捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法。
【請求項7】
前記抽出ステップは、取得された画像に対するグレースケール化及び続いて2値化を、捕虫の中心的な部分の抽出に先立って行うものであり、前記罫線及び/又は背景の除去ステップは、捕虫シートとともに罫線及び/又は背景に係る画素が前記2値化によって白となるように、特定された罫線及び/又は背景に係る画素の画素値を変換するものである請求項5又は6に記載の捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法。
【請求項8】
前記2値化は、最適2値化である請求項7に記載の捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法。
【請求項9】
前記計数ステップは、領域の輪郭内の面積を求め、それが所定値よりも小さい場合、それを捕虫として計数に加えない請求項5〜8の何れか1項に記載の捕虫シートにおける捕虫の画像計数方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図17】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−99598(P2008−99598A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284558(P2006−284558)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000111247)ニューリー株式会社 (29)
【出願人】(506351802)株式会社京都インテリジェンスサーチ (3)
【Fターム(参考)】