説明

排ガス浄化用触媒

【課題】コーキングなどのHC被毒を抑制し、かつ圧損の上昇を抑制するとともに、低温域におけるHCの浄化活性を向上させる。
【解決手段】上流部の所定範囲に形成された上流側触媒担持層2にはHCを吸着可能な多孔体を含まず、下流部の所定範囲に形成された下流側触媒担持層3に多孔体を含む。
低温域の排ガス中に含まれるHCは、上流側触媒担持層2を素通りして下流側触媒担持層3の多孔体に吸着するため、上流側におけるコーキングなどのHC被毒が抑制される。また上流側触媒担持層2にHCが吸着したとしても、多孔体を含まないためHCが脱離しやすく、脱離したHCは下流側触媒担持層3に存在する多孔体に吸着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中に軽油など高沸点HCを添加するシステムの排気系に有用な排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費の向上とCO2 排出量の削減の効果を有するために、リーンバーンエンジンが広く普及している。その代表的なものとして、ディーゼルエンジンがある。
【0003】
ところがリーンバーンエンジンからの排ガスは酸素過剰のリ−ン雰囲気であるために、通常の三元触媒などを用いたのではNOx を還元浄化することが困難である。さらにディーゼルエンジンからの排ガスは、ガソリンエンジンからの排ガスと比較すると50〜 100℃も低温であり、かつパティキュレート(PM)も含むため、排ガス浄化が難しいという問題がある。
【0004】
そこで近年では、特開平09−173866号公報などに記載されているように、フィルタ基材のセル隔壁の表面にアルミナなどからコート層を形成し、そのコート層にPtなどを担持したフィルタ触媒が開発されている。また特開平06−159037号公報には、コート層にさらにNOx 吸蔵材を担持したフィルタ触媒が記載されている。このようにすればNOx 吸蔵材にNOx を吸蔵することができ、排ガス中に軽油などの還元剤を添加した還元雰囲気とすることで、吸蔵されたNOx を還元して浄化することが可能となる。
【0005】
ところが触媒金属とNOx 吸蔵材とを担持したコート層をもつフィルタ触媒では、圧損との兼ね合いからコート層の形成量には限界がある。そのため触媒金属を高分散で担持して高温時の粒成長を抑制するためには、触媒金属の担持量を少なくせざるを得ず、PM及びNOx の浄化性能が不足するという問題があった。また低温域の排ガスの流入が連続した場合などには、PM酸化活性が低いためにPMの堆積量が多く目詰まりによって圧損が上昇するという問題がある。
【0006】
そこで特開2001−212506号公報、特開2002−153733号公報などには、ストレートフロー構造の酸化触媒又はNOx 吸蔵還元型触媒と、フィルタ触媒と、を直列に並べた排ガス浄化装置が提案されている。このようにストレートフロー構造の触媒を併用することで、圧損の増大なく浄化性能を向上させることができる。またフィルタ触媒の排ガス上流側にこのような触媒を配置すれば、その前段触媒による浄化反応によって排ガス温度が昇温されるため、フィルタ触媒におけるPM酸化性能が向上し、目詰まりによる圧損の上昇を防止するとともにフィルタ機能を再生することができる。
【0007】
上記したように、還元剤として軽油などの液状還元剤を排ガス中に間欠的に供給することで、NOx の還元活性を向上させるシステムが提案され、実用化されつつある。また還元剤の酸化燃焼による発熱を利用し、堆積したPMを燃焼させてフィルタを再生することも行われている。しかしこのようなシステムに、上記したストレートフロー構造の酸化触媒又はNOx 吸蔵還元型触媒とフィルタ触媒とを直列に並べた排ガス浄化装置を採用した場合には、最上流にある触媒に液状還元剤が直接流入することとなる。また近年では、さらなる低燃費化が進み、排ガス温度はさらに低温化が進行している。
【0008】
そのため最上流の触媒に流入した高沸点HCは、ほとんど酸化されることなく触媒コート層に吸着する。また低温であるため、触媒コート層にはHCが連続的に吸着し、温度が上がりにくいために脱離や燃焼が生じにくい。そのため、コーキングなどのHC被毒が生じて活性が低下する。またこのように活性が低下すると、高温の排ガスが流入しない限りHCの浄化が困難となる。
【0009】
ところで上流側で排ガス中に軽油などを添加するシステムに用いられるフィルタ触媒においては、低温時や軽油添加時に、酸化されなかったHCが排出される場合があり、今後の厳しい排ガス規制においては、このような場合でもHCを浄化することが求められる。そこでフィルタ触媒に、ゼオライトなどのHC吸着材をコーティングしてHC吸着浄化機能をもたせることが考えられる。
【0010】
ところがHC吸着材を一様にコーティングするだけでは、セル隔壁の細孔が埋められるため圧損の上昇が大きくなる。また堆積するPM量が多くなるため、強制再生時の発熱量が多くなり熱劣化が起こりやすい。さらに近年では、より細かいPMを捕集することが求められ、フィルタ基材におけるセル隔壁の細孔分布が小径側にシフトしている。そのためコーティングによる機能付加が難しい状況となっている。
【特許文献1】特開2001−212506号公報
【特許文献2】特開2002−153733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、コーキングなどのHC被毒を抑制し、かつ圧損の上昇を抑制するとともに、低温域におけるHCの浄化活性を向上させることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の排ガス浄化用触媒の特徴は、セル隔壁で区画された複数のセルをもつハニカム基材と、セル隔壁に形成され酸化物担体に触媒金属を担持してなる触媒担持層と、よりなる排ガス浄化用触媒であって、
酸化物担体には、排ガス中の炭化水素を吸着可能な細孔をもつ多孔体を含み、ハニカム基材の排ガス流入側端面から下流側へ所定範囲の上流部に形成された上流側触媒担持層の少なくとも表層部には多孔体を含まず、上流側触媒担持層の下流側端部から排ガス流出側端面までの下流部に形成された下流側触媒担持層に多孔体を含むことにある。
【0013】
多孔体は、下流側触媒担持層の表層部に含まれていることが望ましい。
【0014】
また下流側触媒担持層のコート量は、上流側触媒担持層のコート量より多いことが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の排ガス浄化用触媒では、HCを吸着可能な細孔をもつ多孔体が、上流側触媒担持層の少なくとも表層部には含まれず、下流側触媒担持層に含まれている。したがってセル通路に流入した低温域の排ガス中に含まれるHCは、上流側触媒担持層は素通りして下流側触媒担持層に含まれる多孔体に吸着するため、上流側におけるコーキングなどのHC被毒を抑制することができる。また上流側触媒担持層にHCが吸着したとしても、多孔体を含まないためHCが脱離しやすく、脱離したHCは下流側触媒担持層に存在する多孔体に吸着するため排出が抑制される。
【0016】
さらに、ストレートフロー構造のハニカム基材を用い、下流側触媒担持層のコート量を上流側触媒担持層のコート量より多くすれば、上流側触媒担持層のコート量を少なくすることが可能となる。すると上流側の熱容量が小さくなるため、軽油などの液状還元剤が流入した時に生じる流入側端面の閉塞を抑制することができる。
【0017】
そして触媒金属が活性化する温度まで排ガス温度が上昇すると、上流側触媒担持層における酸化反応の発熱によって下流部の昇温が促進される。そのため下流側触媒担持層の多孔体に吸着したHCが脱離するとともに、触媒反応によって効率良く酸化浄化される。
【0018】
したがって本発明の排ガス浄化用触媒によれば、低温域から高温域までHCの排出を大きく抑制することができる。この効果は、ストレートフロー構造及びウォールフロー構造の触媒の両方で奏される。また多孔体が下流側触媒担持層の表層部に含まれていれば、この効果が増幅される。
【0019】
さらにフィルタ触媒に本発明を適用した場合には、多孔体は流出側セルの下流部に形成された下流側触媒担持層に存在し、流入側セルに形成されている上流側触媒担持層の少なくとも表層部には多孔体が存在しない。したがって上流側触媒担持層の形成量は従来と同等となり、セル隔壁の細孔分布も従来と同等となるため、圧損の上昇を抑制することができる。
【0020】
またフィルタ触媒では、PMの燃焼後に生成するアッシュが堆積するにつれて圧損が上昇し、圧損が所定値以上になるとエンジン出力を制限するか、あるいはフィルタ触媒を交換しなければならない。しかし本発明によれば、PMが堆積しない流出側セルの下流側触媒担持層に多孔体を含有している。したがって、流入側セルの容積、すなわちアッシュが堆積する容積は減少せず、またアッシュの多くはフィルタのセル隔壁通過抵抗が上流部より大きい下流部奥から堆積していく。このため、アッシュによる圧損上昇感度はむしろ小さくなり、アッシュの堆積の影響が小さく、出力制限時期や交換時期を早めるような不具合がない。
【0021】
さらに、下流側触媒担持層は初期の圧損には影響しないので、上流側触媒担持層のコート量より多く形成することができる。このようにすれば、フィルタ触媒の下流側部分の熱容量が大きくなる。したがってフィルタ触媒の強制再生時に最も高温となる下流側端部の昇温が抑制され、再生処理までの間隔を長くできるため燃費が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の排ガス浄化用触媒は、ハニカム基材と、ハニカム基材のセル隔壁に形成され酸化物担体に触媒金属を担持してなる触媒担持層と、よりなる。ハニカム基材としては、ストレートフロー構造のもの、あるいはウォールフロー構造のものが用いられる。その材質は、従来と同様にコージェライト、SiC などのセラミックス製、あるいは金属製のものを用いることができる。
【0023】
ウォールフロー構造のハニカム基材の場合には、セル隔壁の気孔率は、40〜70%であることが望ましく、平均細孔径が10〜40μmであることが望ましい。気孔率及び平均細孔径がこの範囲にあることで、触媒担持層を 100〜 200g/L形成しても圧損の上昇を抑制することができ、強度の低下も抑制することができる。そしてPMをさらに効率よく捕集することができる。
【0024】
触媒担持層は、上流側触媒担持層と下流側触媒担持層とに分けられる。上流側触媒担持層とは、ハニカム基材の排ガス流入側端面から下流側へ所定の範囲に形成された部位をいう。また下流側触媒担持層とは、上流側触媒担持層以外の触媒担持層をいい、上流側触媒担持層の下流側端部から排ガス流出側端面までの範囲に形成された部位をいう。またウォールフロー構造のものの場合には、下流側触媒担持層は流出側セルの下流側に形成されている。流出側セルの上流側(目詰め部に近い部位)には、上流側触媒担持層が形成される。
【0025】
下流側触媒担持層には、多孔体が含まれている。多孔体とは、排ガス中のHCを吸着可能な細孔をもつものであり、ゼオライトが代表的に例示される。ゼオライトとしては、例えばフェリエライト、ZSM-5、モルデナイト、Y型ゼオライト、β型ゼオライト、X型ゼオライト、L型ゼオライト、シリカライト、シリカゾルにテンプレート材を加えてゲルを形成し水熱合成した後焼成することで製造された合成ゼオライトなどの、ゼオライトを用いることができる。中でも、モルデナイト、β型ゼオライトなどが好ましい。またこれらのゼオライトを脱Al処理した改質ゼオライトを用いることもできる。脱Al処理としては、酸処理、沸騰水処理、スチーム処理などが知られている。また、Fe、Ag、Cu、Mnなどをイオン交換担持したゼオライトを用いることも可能である。
【0026】
上流側触媒担持層を構成する酸化物担体としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、シリカなどの単品あるいは混合物を用いることができる。これらの複数種からなる複合酸化物を用いることもできる。上流側触媒担持層には、多孔体を含んでもよいが、少なくとも表層部には多孔体を含まないことが必要である。表層部に多孔体を含むと、排ガス低温域で上流側におけるコーキングなどのHC被毒が生じるようになり好ましくない。
【0027】
下流側触媒担持層は、多孔体と上記酸化物担体との混合物から形成してもよいし、多孔体のみから形成してもよい。また多孔体は、表層に含まれることが望ましい。したがって下流側触媒担持層は、多孔体を含まず上記した酸化物担体に触媒金属を担持した層とし、その表面に多孔体を含む層を形成した二層構造とすることも好ましい。このようにすれば、上層でHCを吸着し、下層で浄化反応を促進させることができる。この場合、下層を上流側触媒担持層と同様の触媒担持層とすれば、上流側触媒担持層の形成時に下層を同時に形成できるので都合がよい。
【0028】
ストレートフロー構造のハニカム基材を用いた場合には、上流側触媒担持層及び下流側触媒担持層はセル隔壁の表面に形成される。この場合、上流側触媒担持層は排ガス流入側端面から全長の2/3以下、さらには1/2以下の範囲に形成されていることが望ましい。この範囲を超えて上流側触媒担持層を形成すると、下流側触媒担持層における多孔体の含有量を大きく増量する必要があり、そうすると初期圧損が上昇するため好ましくない。なお下限は特に形成されないが、流入側端面から少なくとも30mmの範囲に形成することが望ましい。
【0029】
ストレートフロー構造のハニカム基材を用いた場合には、初期圧損の上昇を抑制するという観点から、及び担持密度の増大による触媒金属の粒成長を抑制するという観点から、上流側触媒担持層の形成量はハニカム基材の1リットルあたり30〜 250gとすることが望ましい。下流側触媒担持層の形成量も同様としてもよいし、上流側触媒担持層の形成量より多くすることも好ましい。
【0030】
ウォールフロー構造のハニカム基材を用いた場合には、上流側触媒担持層は少なくとも流入側セルのセル隔壁表面とセル隔壁の細孔内表面に形成される。また下流側触媒担持層は、流出側セルの下流側に形成される。下流側触媒担持層は、ハニカム基材の外径をDとしたとき、流出側セルの流入側端面(目詰めされた部位)からD/2の長さ以降に形成されていることが望ましい。流入側端面からD/2の長さの範囲にまで下流側触媒担持層が形成されると、初期圧損が上昇する場合があるため好ましくない。なお流出側セルの流入側端面からD/2の範囲には、上流側触媒担持層と同様の触媒担持層を形成することが望ましい。
【0031】
ウォールフロー構造のハニカム基材を用いた場合には、上流側触媒担持層の形成量はハニカム基材の1Lあたり30〜 200gとすることが好ましい。30g/L未満では、触媒金属の耐久性の低下が避けられず、 200g/Lを超えると初期圧損が高くなりすぎて実用的ではない。また下流側触媒担持層の形成量は、圧損が上昇しない範囲であれば特に制限されず、多孔体を多く含むほど好ましい。したがって下流側触媒担持層のコート量は、上流側触媒担持層のコート量より多くすることが望ましい。
【0032】
上流側触媒担持層及び下流側触媒担持層に担持された触媒金属としては、Pt、Pd、Rhなどの貴金属を主として用いることができる。場合によってはFe、Co、W、Niなどの遷移金属を用いてもよい。触媒金属は、均一に担持してもよいし、上流側触媒担持層と下流側触媒担持層とで担持密度あるいは触媒金属種を異ならせることも可能である。また触媒金属として、貴金属に加えてアルカリ金属及びアルカリ土類金属などのNOx 吸蔵材を用いることもできる。
【0033】
触媒金属の担持量は、ハニカム基材の1リットルあたり 0.1〜10gの範囲とすることが好ましい。担持量がこれより少ないと活性が低すぎて実用的でなく、この範囲より多く担持しても活性が飽和するとともにコストアップとなってしまう。また触媒金属を担持するには、触媒金属の硝酸塩などを溶解した溶液を用い、吸着担持法、含浸担持法などによって担持させることができる。
【0034】
各触媒担持層を形成するには、酸化物担体粉末あるいは多孔体粉末をアルミナゾルなどのバインダ成分及び水とともにスラリーとし、そのスラリーをセル隔壁に付着させた後に焼成するウォッシュコート法を用いる。触媒金属は、このように形成されたコート層に担持してもよいし、予め触媒金属を担持した酸化物担体粉末を用いてウォッシュコートすることもできる。
【0035】
ウォールフロー構造のハニカム基材を用いた場合には、上流側触媒担持層を形成する際には、流入側端面から流入側セルにスラリーを供給し、エアブローあるいは吸引によって流出側セルからスラリーを排出することで、セル隔壁の細孔に強制的にスラリーを充填することが望ましい。一方、下流側触媒担持層を形成する際には、多孔体の粒径はセル隔壁の細孔径より一般に大きく、細孔の開口を塞いで初期圧損が上昇する可能性がある。そこで、流出側端面から流出側セルに所定深さの範囲でスラリーを供給し、同じ流出側端面からスラリーを排出することが望ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例、比較例及び試験例により本発明を具体的に説明する。
【0037】
(実施例1)
図1に本実施例に係る排ガス浄化用触媒を用いた排ガス浄化装置を示す。この排ガス浄化装置は、ディーゼルエンジン 100と、その排気系に配置された触媒コンバータ 200と、触媒コンバータ 200の上流側で排ガス中に軽油を添加するポンプ 300とを備えている。触媒コンバータ 200には、酸化触媒 400とフィルタ触媒 500が直列に収納され、酸化触媒 400はフィルタ触媒 500の上流側に配置されている。
【0038】
図2に、酸化触媒 400の模式的断面図を示す。この酸化触媒は、コージェライト製でストレートフロー構造のハニカム基材1と、ハニカム基材1のセル隔壁10の表面に全長に亘って形成された第1触媒層2と、ハニカム基材1の流入側端面から500mm入った位置から流出側端面までの範囲で第1触媒層2の表面に形成された第2触媒層3と、から構成されている。ハニカム基材1の流入側端面から50mm入った位置の範囲に形成された第1触媒層2が上流側触媒担持層を構成し、第2触媒層3とその下層に形成された第1触媒層2が下流側触媒担持層を構成している。以下、この酸化触媒の製造方法を説明し、構成の詳細な説明に代える。
【0039】
コージェライト製でストレートフロー構造のハニカム基材1(セル数: 400cell/inch2 、セル隔壁厚さ: 0.1mm、φ: 129mm、全長: 150mm)を用意し、アルミナゾル( Al2O3:40質量%)に浸漬した後に引き上げて余分なアルミナゾルを吹き払い、乾燥、焼成して第1のコート層を形成した。第1のコート層の形成量は、ハニカム基材1リットルあたり50gであり、その厚さは約2μmと薄い。
【0040】
次に、β型ゼオライト粉末75質量部、γ−アルミナ粉末75質量部、バインダとしてのアルミナゾル( Al2O3:40質量%)30質量部及びイオン交換水からなるスラリーを調製した。第1のコート層をもつハニカム基材1の流出側端面から 100mm入った位置までの範囲をこのスラリーに浸漬し、引き上げて余分なスラリーを吹き払い、乾燥、焼成して第2のコート層を形成した。第2のコート層の形成量は、ハニカム基材1リットルあたり 150gであり、β型ゼオライト粉末が75g/L、γ−アルミナが75g/L含まれている。
【0041】
その後、ジニトロジアンミン白金溶液を用い、第1のコート層及び第2のコート層に吸着担持させた後、 500℃で1時間焼成した。Ptは第1のコート層及び第2のコート層に均一に担持され、その担持量はハニカム基材1リットルあたり2gである。
【0042】
(実施例2)
セル数が 600cell/inch2 、セル隔壁厚さが 0.075mmのハニカム基材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして調製された排ガス浄化用触媒を実施例2とした。実施例2の排ガス浄化用触媒は、セル密度が実施例1より高く、各セル通路の開口面積が実施例1より小さい。
【0043】
(比較例1)
第2のコート層を第1のコート層の表面全面に形成したこと以外は、実施例1と同様にして調製された排ガス浄化用触媒を比較例1とした。第2のコート層の形成量は、ハニカム基材1リットルあたり 150gである。
【0044】
(比較例2)
実施例2と同様のハニカム基材を用い、第2のコート層を第1のコート層の表面全面に形成したこと以外は、実施例1と同様にして調製された排ガス浄化用触媒を比較例2とした。第2のコート層の形成量は、ハニカム基材1リットルあたり 150gである。
【0045】
<試験例1>
各実施例及び各比較例の排ガス浄化用触媒を、それぞれ大気中にて 700℃で20時間保持する耐熱試験を行った。耐熱試験後の各触媒を、エンジンベンチにて2Lのディーゼルエンジンの排気管にそれぞれ装着し、2000rpm でトルクを可変しながら、 150℃から 400℃まで25℃/分の速度で昇温し、その時のHC浄化率を連続的に測定した。そしてHCを50%浄化できる温度(HC50%浄化温度)を求め、結果を表1に示す。
【0046】
<試験例2>
耐熱試験後の各触媒を、エンジンベンチにて2Lディーゼルエンジンの排気管にそれぞれ装着し、1800rpm ×50Nmの条件で運転しながら、触媒の上流側の排ガス中に約 0.5cc/秒の流量にて軽油を間欠的に10時間噴霧添加した。運転開始から10分後における触媒内部の温度を、排ガス流通方向で複数の点で測定し、結果を図3に示す。図3から、上流側より下流側の方が高温であり、流入側端面から50mm未満の範囲では温度が上がりにくいことがわかる。なお、各触媒間における差異は認められなかった。
【0047】
軽油噴霧後の各触媒について、流入側端面で閉塞されているセル数を数え、端面閉塞率を算出した。また軽油噴霧後の各触媒について、試験例1と同様にしてHC50%浄化温度を測定し、結果を表1に示す。
【0048】
<試験例3>
排気量2Lのディーゼルエンジンを搭載したエンジンベンチの排気管に、酸化触媒を装着し、その排ガス下流側に上記耐熱試験と軽油噴霧を行った各触媒を直列に装着した。酸化触媒は、 1.3リットルのコージェライト製ストレートフロー構造のハニカム基材に、アルミナとPtとからなる触媒担持層が形成されてなる。Ptの担持量はハニカム基材の1リットルあたり2gである。
【0049】
そして2000rpm でトルクを可変しながら、上記耐熱試験と軽油噴霧を行った各触媒の入りガス温度が 600℃となるように軽油噴霧量を調整し、その後のHC50%浄化温度を試験例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0050】
<評価>
【0051】
【表1】

【0052】
表1より試験例1においては、各実施例の触媒は対応する比較例の触媒に比べて若干劣るものの、試験例2及び試験例3では各実施例の触媒は高い浄化活性を示し、端面閉塞も生じていない。これは、第2触媒層3(下流側触媒担持層)を上流側に形成せず下流側のみに形成した効果であることが明らかである。
【0053】
(実施例3)
本実施例に係るフィルタ触媒の模式的断面図を図4に示す。このフィルタ触媒は、図1に示したフィルタ触媒 500に相当するものであり、コージェライト製でウォールフロー構造のDPF基材4を有している。DPF基材4は、流出側端部で目詰めされた流入側セル40と、流入側セル40に隣接し流入側端部で目詰めされた流出側セル41と、流入側セル40及び流出側セル41を区画するセル隔壁42と、からなる。流入側セル40及び流出側セル41のセル隔壁40の表面及びセル隔壁40の細孔内表面には、全長に亘って第1触媒層5が形成され、流出側セル41の下流側でセル隔壁40の表面及びセル隔壁40の細孔内表面には第2触媒層6が形成されている。DPF基材4の流入側セル40に形成された第1触媒層5と、流出側セル41の流入側端面(目詰め部位)から 100mmの深さの範囲に形成されあ第1触媒層5が上流側触媒担持層を構成し、流出側セル41の流出側端面から深さ50mmの範囲に形成された第2触媒層6とその下層に形成されている第1触媒層5が下流側触媒担持層を構成している。以下、このフィルタ触媒の製造方法を説明し、構成の詳細な説明に代える。
【0054】
コージェライト製でウォールフロー構造のDPF基材4(セル数:46.5cell/cm2 、セル隔壁厚さ: 0.3mm、φ: 129mm、全長: 150mm、平均細孔径:12μm)を用意し、流入側セル40からアルミナゾル( Al2O3:40質量%)を供給し流出側セル41から吸引して余分なアルミナゾルを除去し、乾燥、焼成して第1のコート層を形成した。第1のコート層の形成量は、DPF基材1リットルあたり30gである。
【0055】
次に、β型ゼオライト粉末(モル比SiO2/ Al2O3= 100)90質量部、バインダとしてのアルミナゾル( Al2O3:40質量%)30質量部及びイオン交換水からなるスラリーを調製した。第1のコート層をもつDPF基材1の流出側端面から流出側セル41内へ深さ50mmの範囲をスラリーに浸漬し、流出側端面から吸引して余分なスラリーを除去し、乾燥、焼成して第2のコート層を形成した。第2のコート層の形成量は60gであり、DPF基材1リットルあたり90gとなる。
【0056】
続いてジニトロジアンミン白金溶液を流入側セル40から供給し、流出側セル41から吸引した後、 500℃で1時間焼成してPtを担持した。Ptは第1のコート層及び第2のコート層に均一に担持され、その担持量はDPF基材1リットルあたり1gである。
【0057】
得られたフィルタ触媒では、図4に拡大して示すように、第1触媒層5はセル隔壁42の細孔の内表面にも均一に形成されているが、第2触媒層6は細孔の内部には形成されていない。
【0058】
(実施例4)
第2のコート層の形成範囲を流出側端面から深さ75mmの範囲としたこと以外は、実施例3と同様にして調製されたフィルタ触媒を実施例4とした。第2のコート層の形成量は実施例3と同様に60gであり、DPF基材1リットルあたり60gとなる。
【0059】
(比較例3)
第2のコート層を形成しなかったこと以外は、実施例3と同様にして調製されたフィルタ触媒を比較例3とした。
【0060】
(比較例4)
第2のコート層を流出側セル41の全長に形成したこと以外は、実施例3と同様にして調製されたフィルタ触媒を比較例4とした。第2のコート層の形成量は実施例3と同様に60gであり、DPF基材1リットルあたり30gとなる。
【0061】
<試験例4>
排気量2Lのディーゼルエンジンを搭載したエンジンベンチの排気管に、酸化触媒を装着し、その排ガス下流側に各実施例及び各比較例のフィルタ触媒を直列に装着した。酸化触媒は、 1.3リットルのコージェライト製ストレートフロー構造のハニカム基材に、アルミナとPtとからなる触媒担持層が形成されてなる。Ptの担持量はハニカム基材の1リットルあたり2gである。
【0062】
先ず2000rpm × 100Nmで運転しながら、酸化触媒の上流側で排ガス中に1cc/秒の流量で軽油を間欠的に噴射し、各フィルタ触媒の床温 700℃で10分間保持するのを 100回繰り返す耐久試験を行った。
【0063】
排気量2Lのディーゼルエンジンを搭載したエンジンベンチの排気管に耐久試験後の各フィルタ触媒をそれぞれ装着し、2000rpm × 100Nmで運転しながら、初期(煤堆積無し)の圧損と、DPF基材4の1リットルあたり4gの煤が堆積した堆積後の圧損を測定した。比較例3の圧損に対する比を算出し、結果を表2に示す。
【0064】
<試験例5>
排気量2Lのディーゼルエンジンを搭載したエンジンベンチの排気管に耐久試験後の各フィルタ触媒をそれぞれ装着し、1800rpm ×30Nmで運転しながら、フィルタ触媒の上流側で排ガス中に軽油を 0.1cc/秒の流量で噴射し、フィルタ触媒への入りガス温度が 150℃の時の出ガス中のHC濃度をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0065】
<試験例6>
排気量2Lのディーゼルエンジンを搭載したエンジンベンチの排気管に、試験例4と同様に耐久試験後の各フィルタ触媒と酸化触媒をそれぞれ装着し、1800rpm ×50Nmで運転しながらDPF基材4の1リットルあたり4gの煤を堆積させた。
【0066】
その後、2000rpm × 100Nmで運転しながら、酸化触媒の上流から排ガス中へ1cc/秒で軽油を間欠的に噴射し、 650℃まで 300℃/分の速度でフィルタ触媒の入りガス温度を昇温させ、フィルタ触媒の入りガス温度が 650℃に到達した時点でエンジンへの燃料供給を停止して、堆積した煤を強制的に燃焼させた。その際のフィルタ触媒中の最高床温を測定し、結果を表2に示す。
【0067】
<評価>
【0068】
【表2】

【0069】
表2より、各実施例のフィルタ触媒は、初期及び堆積後の圧損が比較例3には及ばないものの、比較例4より小さいことがわかり、実用の範囲内である。また第2触媒層6を長く形成した実施例4では、実施例3より圧損が上昇していることもわかる。
【0070】
そして試験例5の結果から、各実施例のフィルタ触媒は各比較例に比べて低温域におけるHC浄化性能に優れていることがわかり、試験例6の結果から再生処理時の熱損傷が抑制されることがわかる。これは、第2触媒層6を流出側セル41の下流側にのみ形成したことによる効果であることが明らかである。
【0071】
<試験例7>
コージェライト製でウォールフロー構造のDPF基材4(セル数:46.5cell/cm2 、セル隔壁厚さ: 0.3mm、φ(D): 160mm、全長: 200mm、平均細孔径:12μm)を用意し、実施例1と同様にしてフィルタ触媒を調製した。第2のコート層を形成する際に、流出側セル41の流出側端面からの深さを種々変更し、第2触媒層6の形成範囲が異なる種々のフィルタ触媒を調製した。
【0072】
得られた複数のフィルタ触媒について、試験例4と同様にして初期圧損を測定した結果を図5に示す。
【0073】
図5より、流出側セル41において第2触媒層6の未形成部分が少なくなるほど圧損が上昇していることがわかり、未形成部分の長さはDPF基材の外径( 160mm)の半分(80mm)以上の範囲が望ましいこと、すなわち下流側触媒担持層は流入側端面からD/2の長さ以降に形成されていることが望ましいことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の排ガス浄化用触媒は、酸化触媒、三元触媒、NOx 吸蔵還元触媒、リーンNOx 触媒、フィルタ触媒などとして利用できる他、HC吸着材などに応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の排ガス浄化用触媒を利用した排ガス浄化装置を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施例に係る排ガス浄化用触媒を示す模式的断面図である。
【図3】ストレートフロー構造の触媒の流入側端面からの距離と触媒内部温度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施例に係る排ガス浄化用触媒を示す模式的断面図である。
【図5】ウォールフロー構造の触媒において下流側触媒担持層が形成されていない範囲の長さと初期圧損との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
1:ハニカム基材
2、5:第1触媒層(上流側触媒担持層)
3、6:第2触媒層(下流側触媒担持層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル隔壁で区画された複数のセルをもつハニカム基材と、該セル隔壁に形成され酸化物担体に触媒金属を担持してなる触媒担持層と、よりなる排ガス浄化用触媒であって、
該酸化物担体には、排ガス中の炭化水素を吸着可能な細孔をもつ多孔体を含み、
該ハニカム基材の排ガス流入側端面から下流側へ所定範囲の上流部に形成された上流側触媒担持層の少なくとも表層部には該多孔体を含まず、該上流側触媒担持層の下流側端部から排ガス流出側端面までの下流部に形成された下流側触媒担持層に該多孔体を含むことを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記多孔体は、前記下流側触媒担持層の表層部に含まれている請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記ハニカム基材はストレートフロー構造であり、前記上流側触媒担持層は排ガス流入側端面から全長の1/2以下の範囲に形成されている請求項1又は請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記ハニカム基材は流入側セルと流出側セルとをもつウォールフロー構造であり、前記下流側触媒担持層は該流出側セルの下流側に形成され、該ハニカム基材の外径をDとしたとき、前記下流側触媒担持層は流入側端面からD/2の長さ以降に形成されている請求項1又は請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記下流側触媒担持層のコート量は、前記上流側触媒担持層のコート量より多い請求項1〜4のいずれかに記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記下流側触媒担持層の下層には前記上流側触媒担持層と同様の構成の触媒担持層が形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−165922(P2009−165922A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4667(P2008−4667)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】