説明

排気ガス浄化用触媒

【課題】ハニカム担体1に、HC吸着層2と、該HC吸着層2から脱離するHCを浄化する触媒層3a,3bとが前者を下にして積層されている排気ガス浄化用触媒において、HC吸着層2によるHCの吸着効率を高める。
【解決手段】ハニカム担体1の排気ガス流れ方向の中間位置でセル通路壁面に凹部4ができるように、触媒層3a,3bを排気ガス流れ方向において不連続に形成し、凹部4により、排気ガスに乱流を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
Pt、Pd、Rh等の触媒金属と、これを担持する高比表面積酸化物としてのアルミナと、酸素吸蔵放出を行なうことによって触媒が有効に働く排気ガスの空燃比ウィンドウを拡げる機能を有するCe系酸化物とを含有する排気ガス浄化用触媒は一般に知られている。このような触媒は、エンジンの冷間始動時においては、触媒金属が活性を呈するに十分な温度に達するまでに数十秒の時間を要し、その間は排気ガスが浄化されずに、排出されてしまう。この触媒金属が活性化するまでに排出されてしまう排気ガス成分の多くはHC(炭化水素)であることから、これを一時的に吸着して大気中への排出を抑えておき、触媒温度がある程度上昇したときに脱離してくるHCを酸化浄化するようにした、所謂HCトラップ触媒も一般に知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ハニカム担体のセル壁面に、ゼオライトを主成分とするHC吸着層と、その上の酸化還元能を備えた触媒層とを設けてなる排気ガス浄化用触媒が記載されている。この触媒によれば、冷間状態で空燃比がリッチのとき、排気ガス中のHCが上側の触媒層を拡散通過して下側のHC吸着層に吸着され、排気ガス温度が上昇して触媒温度が高まると、HC吸着層からHCが脱離し、活性が高くなった触媒層でそのHCが浄化される。
【0004】
特許文献2には、ハニカム担体のセル壁面に、ゼオライトを主成分とするHC吸着層と、その上の貴金属触媒を含む浄化触媒層とが設けられた排気ガス浄化用触媒において、HC吸着層に周方向に延在したクラックと半径方向に延在したクラックとを形成することにより、HC吸着層の剥落を防止することが記載されている。
【0005】
ところで、ハニカム担体のセルに流入する排気ガスは、担体の入口側の端面から約10mmまでの間は乱流状態になっているが、それ以降の出口側の端面に至る間は層流に近い状態になっているため、上側の触媒層を拡散通過して下側のHC吸着層に達する排気ガス量は少ないと云われている。これはつまり、排気ガス温度が低いときに、HC吸着層に吸着されずに排出されてしまうHC量が比較的多いことを意味する。
【0006】
これに対して、特許文献3には、触媒層を複数のハニカム担体に分離して形成し、この複数のハニカム担体を1つの触媒容器に排気ガス流れ方向に隙間を開けて直列状になるように収容すること、セルが千鳥配列になるように縦横一つおきにセルの上流端を目封じし、上流側担体の目封じされていないセルが下流側担体の目封じされたセルに向かい合うように配置することが記載されている。これは、上流側担体の目封じされていないセルに流入した排気ガスが下流側担体のセルの目封じ端面に衝突し、上記隙間を流れる間に乱流化することを利用して、排気ガスとセル壁面の触媒層との接触を促進するというものである。
【特許文献1】特開平02−56247号公報
【特許文献2】特開2003−305369号公報
【特許文献1】特開2006−255500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に記載されているHC吸着層と触媒層とを有する排気ガス浄化用触媒において、特許文献3に記載されているように排気ガスに乱流を生じさせると、HC吸着層へのHCの拡散移動、吸着が促進されることが期待される。
【0008】
しかし、特許文献3のような担体分離方式の場合、担体数が多くなるだけでなく、担体間隔を一定に保つためのスペーサも必要になり、触媒コンバータの部品点数が多くなってしまう。また、目封じ方式では、排気ガスの流れに対するハニカム担体の通路抵抗が大きくなってエンジンの背圧が上昇する問題がある。この問題は触媒コンバータを大型化することによって解消されるものの、その大型化によって車両のエンジンルームや床下等への触媒コンバータのレイアウトが難しくなるとともに、重量増を招く不具合がある。しかも、上流側担体と下流側担体とを、目封じされていないセルと目封じされたセルとが向かい合うように位置合わせする必要があり、組立作業が煩雑になるとともに、それら担体が走行振動を受けても位置ずれしないようにすることも難しい。
【0009】
そこで、本発明は、担体分離方式ではなく、また、セルの目封じをすることもなく、排気ガスをHC吸着層に拡散移動し易くすること、それにより、担体の構造や触媒コンバータの構造の複雑化ないしは大型化を招くことなく、HC吸着層のHC吸着効率を高めて触媒の排気ガス浄化性能を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような課題を解決するために、触媒層における排気ガス流れ方向の中間位置に不連続部を設けて排気ガスの乱流を生起させるようにした。
【0011】
すなわち、本発明は、ハニカム担体に、排気ガス中のHCを吸着するHC吸着層と、該HC吸着層から脱離するHCを浄化する触媒層とが、前者を下にして積層されている排気ガス浄化用触媒において、
上記触媒層は、排気ガス流れ方向において上記担体の中間位置に凹部ができるように不連続に形成され、上記凹部を挟んで上流部と下流部とに離れた距離が10mm未満であることを特徴とする。
【0012】
従って、ハニカム担体のセル通路を触媒層に沿って流れる排気ガスが上記凹部に至ると、その流れに乱れを生じ、排気ガスは乱流状態で触媒層の下流部の方へ流れる。このため、触媒層の表面を上滑りする排気ガスが少なくなる。つまり、乱流によって排気ガスと触媒層との接触が促進され、それに伴って該触媒層をHC吸着層へ向かって拡散通過する排気ガス量が増え、その結果、HC吸着層のHC吸着効率が高まる。また、排気ガス中のHCは上記乱流を生ずる凹部からもHC吸着層に拡散移動して吸着されていく。
【0013】
そうして、本発明の場合、一つの担体上で触媒層表面に凹部を形成して上記乱流を形成するから、担体構造や触媒コンバータ構造が複雑にならず、触媒コンバータの組立が煩雑化することが避けられるとともに、触媒コンバータの大型化も避けられる。
【0014】
上記凹部は、上記触媒層のみを排気ガス流れ方向の中間位置で不連続にすることによって形成するようにしても、或いは上記触媒層及びHC吸着層を共に同じ位置で不連続にすることによって形成するようにしてもよい。前者の場合、凹部の底においてHC吸着層が露出した状態になり、排ガス中のHCが当該露出面からHC吸着層に吸着される。後者の場合、上記触媒層及びHC吸着層を合わせた厚さに相当する深い凹部が形成されるため、上記乱流の形成、ひいてはHC吸着層へのHCの吸着促進に有利になる。
【0015】
上記凹部を挟んで上記触媒層が上流部と下流部とに離れた距離、或いは上記凹部を挟んで上記触媒層及びHC吸着層が上流部と下流部とに離れた距離は10mm未満とすることが好ましい。これよりも当該距離が長くなると、HC吸着層の露出面又は担体の露出面が広くなり、つまり、セル通路面に触媒層のない部分が多くなり過ぎ、排気ガスの浄化に不利になり、また、耐熱性の点でも好ましくない。上記距離の好ましい上限は、触媒層及びHC吸着層を合わせた厚さの50倍の大きさである。また、上記距離は触媒層及びHC吸着層を合わせた厚さ以上の大きさにすることが好ましい。これよりも短くなると、排気ガスの乱流を生じ難くなる。
【0016】
また、上記凹部は担体の上流端から担体長さの1/5以上4/5以下の範囲に形成することが好ましい。上流端から担体長さの1/5程度までは、担体のセル入口で生ずる乱流の影響が残っているケースが多いためであり、上流端から担体長さの4/5を超えると、当該凹部から下流端までの距離が短くなり、その凹部によって生ずる乱流の効果がHCの吸着に十分に生かされないためである。
【0017】
上記HC吸着層にはHC吸着材としてゼオライトを採用し、上記触媒層には三元触媒や酸化触媒を採用すればよい。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、ハニカム担体にHC吸着層と触媒層とが前者を下にして積層されている排気ガス浄化用触媒において、上記担体の排気ガス流れ方向の中間位置に凹部ができるように上記触媒層を不連続に形成し、該触媒層の凹部を挟んで上流部と下流部とに離れた距離が10mm未満になるようにしたから、担体構造や触媒コンバータ構造を複雑にすることなく、またそれらの大型化を招くことなく、ハニカム担体のセル通路の途上で排気ガスに乱流を生じさせてHC吸着層へのHCの吸着を促進することができ、排気ガス浄化率を高める上で有利になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
<実施形態1>
図1に示すエンジンの排気ガス浄化用触媒において、1はハニカム担体であり、該ハニカム担体1のセル壁面に、低温時に排気ガス中のHCを吸着し温度が高くなると吸着していたHCを脱離するHC吸着材が設けられたHC吸着層2と、該HC吸着層2から脱離するHCを浄化する三元触媒が設けられた触媒層3a,3bとが、前者が下になり、後者が上になるように積層されている。また、二層になった触媒層3a,3bのうち、上側の触媒層3aは触媒金属としてPdを含有し、下側触媒層3bは触媒金属としてRhを含有する。
【0021】
本実施形態では、HC吸着層2はハニカム担体1の全長にわたって連続した状態に形成されているが、触媒層3a,3bは、ハニカム担体1の排気ガス流れ方向の中間位置でセル通路面に凹部4ができるように、排気ガス流れ方向において不連続に形成されている。従って、HC吸着層2は当該凹部4において排気ガスに直接晒されるように露出している。触媒層3a,3bが凹部4を挟んで上流部と下流部とに離れた離隔距離(凹部4の底の長さ)は、HC吸着層2及び触媒層3a,3bを合わせた厚さ(例えば100μm)以上10mm未満とすることが好ましい。凹部4はハニカム担体1の上流端から担体長さの1/5以上4/5以下の範囲に設けることが好ましい。
【0022】
このような排気ガス浄化用触媒は、ハニカム担体1にその全長にわたってHC吸着層2を形成した後、該担体をその一端側から触媒スラリーに浸漬することにより、上流部側(又は下流部側)の触媒層3a,3bを形成し、次いで当該担体をその他端側から触媒スラリーに浸漬することにより、下流部側(又は上流部側)の触媒層3a,3bを形成する、という方法によって得ることができる。
【0023】
<実施形態2>
本実施形態に係るエンジンの排気ガス浄化用触媒の構造は図2に示されている。実施形態1と同じく、ハニカム担体1のセル壁面にHC吸着層2及び触媒層3a,3bが形成されているが、凹部4の構成が実施形態1とは異なる。すなわち、本実施形態では、HC吸着層2及び触媒層3a,3bを共に排気ガス流れ方向中間の同じ位置で不連続にすることにより、HC吸着層2及び触媒層3a,3bを合わせた厚さに相当する深い凹部4を形成している。HC吸着層2が凹部4を挟んで上流部と下流部とに離れた離隔距離(凹部4の底の長さ)、並びに凹部4の位置については実施形態1と同様である。
【0024】
このような排気ガス浄化用触媒は、実施形態1の触媒層形成と同様に担体を反転させて、上流部側及び下流部側各々のHC吸着層2及び触媒層3a,3bを形成する、という方法によって得ることができる。
【0025】
<冷間HC浄化性能>
−供試触媒−
実施形態1,2各々の凹部構造において、上記離隔距離(凹部4の底の長さ)を100μm、3mm、5mm及び10mmとした計8種類の供試触媒、並びに図3に示すようにHC吸着層2及び触媒層3a,3bを凹部のない連続層とした供試触媒を調製し、後述の浄化テストを実施した。凹部4はハニカム担体1の担体長さ方向の中央位置に形成した。
【0026】
ハニカム担体1としては、容量;約50mL(直径;25.4mm,担体長さ;100mm)、セル壁厚;4.5mil(114.3×10−3mm)、セル密度;400cpsi(1平方インチ(635.16mm)当たりのセル数;400)、セル断面形状;六角形のコアサンプルを採用した。HC吸着層2のHC吸着材としてはβ−ゼオライトを採用し、その担持量(担体1L当たりの量)は160g/Lとした。
【0027】
また、触媒層3a,3bの構成は次のとおりである。単位「g/L」の数値は担持量である。
【0028】
上側触媒層3a;Pd担持La含有アルミナ;45.45g/L
(Pd;0.45g/L)
Pd担持CeZrLaYアルミナ複合酸化物;22.85g/L
(Pd;0.25g/L)
CeO;5.5g/L
ZrCeNd複合酸化物;5.7g/L
バインダー(硝酸ジルコニル);7.5g/L
下側触媒層3b;Rh担持ZrCeNd複合酸化物;70.1g/L
(Rh;0.1g/L)
Rh担持ZrLa複合酸化物担持アルミナ;30.05g/L
(Rh;0.05g/L)
La含有アルミナ;13g/L
バインダー(硝酸ジルコニル);13g/L
【0029】
上側触媒層3aのZrCeNd複合酸化物の組成はZrO:CeO:Nd=55:35:10(質量比)であり、下側触媒層3bのZrCeNd複合酸化物の組成はZrO:CeO:Nd=80:10:10(質量比)である。CeZrLaYアルミナ複合酸化物の組成はAl:CeO:ZrO:La:Y=80.1:10.4:7.4:1.7:0.4(質量比)である。La含有アルミナのLa含有量は触媒層3a,3bのいずれも4質量%である。ZrLa複合酸化物担持アルミナの組成はZrO:La:Al=38:2:60(質量比)である。
【0030】
いずれの供試触媒も、HC吸着層2の厚さは約50μm、触媒層3a,3bの合計厚さは約50μmである。
【0031】
−浄化テスト−
上記各供試触媒に対して、図4に示すようにトルエン含有ガス(トルエン濃度2500ppmC,残N)を50℃の温度で900秒間流してトルエンを吸着させた(HC吸着)。そのときの900秒間で流したトルエン量をA、供試触媒(HC吸着材)に吸着されたトルエン量をBとする。トルエン吸着量Bは、供試触媒を素通りしたトルエン量より求めた。次にA/F=14.7の模擬排気ガス(CO:13.9%,O:0.6%,CO:0.6%,H:0.2%,NO:1000ppm,HO:10%,残:N(HC不含))を供試触媒に流しながら、そのガス温度を30℃/分の速度で上昇させていき、供試触媒から流出するトルエン量Cを測定した(HC脱離、浄化)。そうして、[(B−C)×100/A]を各供試触媒の冷間HC浄化率として求めた。結果は表1のとおりである。
【0032】
【表1】

【0033】
凹部4を形成した実施形態1,2は凹部のない比較例1(連続層)よりも冷間HC浄化率が高い。これは、凹部4によってセル通路内に排気ガスの乱流を生じ、HC吸着層2によるHC吸着量が多くなったためと認められる。実施形態1(図1)よりも実施形態2(図2)の冷間HC浄化率の方が高いのは、後者の方が凹部4が深いことから、排気ガスに強い乱流を生じたためと考えられる。比較例2,3の冷間HC浄化率が低いのは、凹部4によって排気ガスに乱流が生ずるものの、その凹部4が広く、そのことにより排気ガスに晒される触媒層3aの表面積が狭くなっているためと考えられる。
【0034】
なお、触媒層の触媒としては、上記三元触媒に限らず、HCの酸化機能を有する触媒であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態1に係る排気ガス浄化用触媒を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態2に係る排気ガス浄化用触媒を模式的に示す断面図である。
【図3】比較例に係る排気ガス浄化用触媒を模式的に示す断面図である。
【図4】HCの吸着・脱離(浄化)テストの態様を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ハニカム担体
2 HC吸着層
3a 上側触媒層
3b 下側触媒層
4 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム担体に、排気ガス中のHCを吸着するHC吸着層と、該HC吸着層から脱離するHCを浄化する触媒層とが、前者を下にして積層されている排気ガス浄化用触媒において、
上記触媒層は、排気ガス流れ方向において上記担体の中間位置に凹部ができるように不連続に形成され、上記凹部を挟んで上流部と下流部とに離れた距離が10mm未満であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1において、
上記触媒層の不連続部では、上記HC吸着層も排気ガス流れ方向において不連続に形成されて上流部と下流部とに離れ、該触媒層及びHC吸着層を合わせた厚さに相当する深さの凹部が形成されていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記凹部を挟んで上流部と下流部とに離れた距離は、上記触媒層及びHC吸着層を合わせた厚さ以上の大きさであることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
請求項3において、
上記凹部を挟んで上流部と下流部とに離れた距離は、上記触媒層及びHC吸着層を合わせた厚さの50倍以下の大きさであることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−172527(P2009−172527A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14850(P2008−14850)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】