説明

排気システム、反応用ガス供給装置、および、送気管の樹脂製部分の腐食防止方法

【課題】特別な装置を必要とせずに、対象ガス使用装置からの排気に含まれるフッ素によって、排気システムを構成する樹脂製材料が腐食されること抑制し、排気システムの寿命を延長させること。
【解決手段】本発明は、フッ素ガスまたは反応性の高いフッ素系ガスを排出する対象装置から排出された排気を処理するための処理装置、および、上記対象装置と上記処理装置とを接続する樹脂製部分を含む送気管を備える排気システムであって、少なくとも上記送気管内の樹脂製部分の一部に、フッ素と反応する物質を含有する反応用ガスが供給されることを特徴とする、排気システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程などで使用されるフッ素を含む排気が流れる排気システムに関する。より詳細には、送気管の樹脂製部材のフッ素による腐食が抑制された排気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程などで使用されるCVD(化学的気相成長法)装置等においては、プロセスチャンバー内のクリーニングガスとして三フッ化窒素(NF3)、PFCガス(CnFm)等や、フッ素ガス(F2)が使用されるようになってきた。これらの排気は有害であるため、一般的に、排気システムを通して、最終的に専用の除害装置で処理された後に大気中へと排気される。
【0003】
図7に、従来の排気システムの一例の全体構成を示す。対象ガス使用装置1aでは、NF3リモートプラズマ装置によってNF3ガスを90%以上分解させて発生するフッ素ラジカルを利用したクリーニングが行われる。そこからの排気は、分岐管2および集合送気管3を通して、大型排気ガス処理装置5aに送られ、除害処理された後に大気放出ガス6として排気される。
【0004】
しかし、通常は樹脂製部材等で構成される集合送気管3は、フッ素と樹脂との反応によって腐食し、破損が発生することがあるため、排気システムの設備を安定した状態で維持することが難しいという問題があった。また、対象ガス使用装置からの排気中に含まれるフッ素ガスの量が多い場合、十分な除害処理ができず、大気放出ガス6中に未反応のフッ素ガスが含まれていることがあるという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、図8に示す排気システムのように、大型排気処理装置5aだけなく、対象ガス使用装置1aの直後に除害装置5bを設けることも知られている。除害装置としては、薬剤吸着による乾式の除害装置や、電気ヒーターによる熱分解方式の除害装置、または、フッ素ガスを高濃度もしくは大量に含む排気ガスの処理に適した燃焼方式の除害装置が挙げられる。該徐害装置5aによってフッ素ガスが十分に除去される場合は、集合送気管3の樹脂製部分の腐食は抑制される。また、大型排気処理装置5aに送られる排気中のフッ素ガス濃度が十分に低下している場合、さらに大型排気処理装置5aによる除害処理が行われることにより、大気放出ガス6中に未反応のフッ素ガスが含まれることは少なくなる。
【0006】
しかしながら、上述のような除害装置5bを個別に設置するには、非常にコストがかかる。また、燃焼方式の除害装置では燃焼させるための可燃性ガスの供給が必要であったり、高温分解方式の除害装置では高温にするための電力等の多くのエネルギーを必要としたり、薬剤吸着による乾式の除害装置では薬剤の交換が必要であったりするという面でも、非常にコストを要する。さらに、燃焼式や加熱反応器が必要な専用の除害装置においては、反応時に温度を上昇させるため危険性も伴うことになる。
【0007】
また、除害装置5bを設けた場合でも、除害装置5bでの処理後も排気中に一部のフッ素ガス等が残存しており、大型排気処理装置5aにおいて、水酸化ナトリウム(NaOH)等での中和反応等による最終処理が行われた後に、大気放出ガス6として排気されるような場合は、集合送気管3等の樹脂製部材の腐食による破損が発生する場合がある。
【0008】
一方、特許文献1には、フッ素系ガスを含む排ガスに、水および/または水蒸気を該排ガス中のフッ素系ガス量の50倍(体積比)以上供給し、該排ガスと該水および/または水蒸気とを300〜400℃で反応させ、水に吸収しやすいハロゲン化水素と酸素とに分解することを特徴とする排ガスの処理方法が記載されている。特許文献1の処理方法は、主に上述の大型排気処理装置における最終的な排ガス処理による排気の無害化を目的としたものであり、具体的には、排ガス中のF2濃度を0.5ppm未満とする排ガス処理を目的としている(実施例1、2など)。このために、水および/または水蒸気を供給した後に、排ガスの温度を300〜400℃まで上げるための加熱反応器が必要である。
【0009】
また、特許文献2には、複数の対象ガス使用装置の排気ガスを集合させて、高濃度のフッ素ガスを含む排気ガスを処理するために用いられる燃焼式の除害装置において、安全且つ省エネルギーで、より効率的に除害処理することが可能な除害方法および装置を供給するために、表面にフッ化不動態膜が形成された燃焼室を備える燃焼装置に導入し、燃焼させる処理方法が開示されている。特許文献2の処理方法も、主に最終的な排ガス処理におけるフッ素ガスやフッ素系ガスの無害化を目的とするものであり、高度な処理を行うための燃焼装置が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−289238号公報
【特許文献2】特開2003−236337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、特別な装置を必要とせずに、対象ガス使用装置からの排気に含まれるフッ素によって、排気システムを構成する樹脂製材料が腐食されること抑制し、排気システムの寿命を延長させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、フッ素ガスまたは反応性の高いフッ素系ガスを排出する対象装置から排出された排気を処理するための処理装置、および、上記対象装置と上記処理装置とを接続する樹脂製部分を含む送気管を備える排気システムであって、
少なくとも上記送気管内の樹脂製部分の一部に、フッ素と反応する物質を含有する反応用ガスが供給されることを特徴とする、排気システムである。
【0013】
上記フッ素と反応する物質が水または水素であることが好ましい。
上記フッ素と反応する物質が水であることが好ましい。
【0014】
上記送気管の樹脂製部分より上流から上記送気管内に上記反応用ガスが供給されることが好ましい。
【0015】
上記送気管内の陰圧を利用して上記送気管内に上記反応用ガスが供給されることが好ましい。
【0016】
加熱機構を有さないことが好ましい。
上記送気管内に水分が過剰に供給された場合に、上記送気管内の結露を防止する機構を有することが好ましい。
【0017】
上記対象装置からのフッ素排出量に応じて、上記送気管内へ供給される水分を制御する機構を有することが好ましい。
【0018】
また、本発明は、上記の排気システムにおいて用いられる、少なくとも上記送気管内の樹脂製部分の一部に、フッ素と反応する物質を含有する反応用ガスを供給するための反応用ガス供給装置にも関する。
【0019】
上記送気管内に水分が過剰に供給された場合に、上記送気管内の結露を防止する機構を有することが好ましい。
【0020】
上記対象装置からのフッ素排出量に応じて、上記送気管内へ供給される水分を制御する機構を有することが好ましい。
【0021】
また、本発明は、フッ素ガスまたは反応性の高いフッ素系ガスを排出する対象装置から排出された排気を処理するための処理装置、および、上記対象装置と上記処理装置を接続する樹脂製部分を含む送気管を備える排気システムにおいて、
少なくとも上記送気管内の樹脂製部分の一部に、フッ素と反応する物質を含有する反応用ガスを供給し、反応温度を上げずに常温状態でフッ素をフッ化水素へ変化させることを特徴とする、上記送気管の樹脂製部分の腐食防止方法にも関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、排気に含まれるフッ素へ常温状態で反応物質を供給し、樹脂製部材に対し安定的な物質へ変化させることで、樹脂製部材の腐食を抑制し、排気システムの寿命を延長することができる。
【0023】
また、本発明は、個別の除害装置で排気ガスを処理するものではなく、排気ガスが流れる送気管内における常温での反応により排気ガスを処理するものである。このため、反応室や温度を上げるための装置等の特別な設備を必要とせず、省エネルギーと安全性を確保しつつ、排気システム全体の樹脂製部材の腐食を抑制し、排気処理設備の寿命延長を図ることができる。
【0024】
さらに、排気システム全体で排気ガスを適正に処理することによって、最終的な大気中への排気をより十分に処理することができるという効果も有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態1(加湿器による水分含有ガス供給)の排気システムを示すフロー図である。
【図2】実施形態2(加湿器を用いずクリーンルーム雰囲気による水分含有ガス供給)の排気システムを示すフロー図である。
【図3】実施形態3(水分含有ガス供給部位の変形例)の排気システムを示すフロー図である。
【図4】実施形態4の水分含有ガス供給装置を示す図である。
【図5】実施形態5(水素含有ガスを供給)の排気システムを示すフロー図である。
【図6】本発明の排気システムを説明するためのフロー図である。(a)、(b)、(c)では、金属管と樹脂管の接続点3aと反応用ガス7の供給位置が異なっている。
【図7】従来例の排気システムの一例を示すフロー図である。
【図8】従来例の排気システムを別の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の方法および装置について詳細に説明する。本発明は、対象ガス使用装置における半導体製造工程等で排出されるフッ素(F2)ガスを含む排気を大気中へ排出するための排気システムにおいて、排気ガスが流れる送気管内でフッ素をフッ化水素(HF)へ反応させるため、排気に対し水分含有ガスを供給することを特徴とするものである。
【0027】
本発明は、送気管等の樹脂製部材を抑制することを目的としており、送気管内で排気を排気を完全に無害化する必要がない。このため、送気管の上流側に燃焼室等を設けたり、燃焼用可燃性ガスの供給等を必要とせず、常温状態において送気管に反応用ガスを供給するだけで、本発明の目的は達成される。このように、本発明においては、温度を上げる必要がないため省エネルギーと安全性を確保しつつ、専用の反応室を必要とせずに排気処理設備を構成する樹脂製部材の寿命延長を図ることができる。
【0028】
フッ素ガスまたは反応性の高いフッ素系ガスを排出する対象装置とは、例えば、フッ素を含むガスをクリーニングガスとして使用し、フッ素ガスまたは反応性の高いフッ素系ガスを排出する装置が挙げられる。ここで、反応性の高いフッ素系ガスとは、樹脂と反応して樹脂の腐食を生じさせるようなフッ素化合物を含むガスであれば特に限定されないが、例えば、三フッ化窒素(NF3)、PFCガス(CnFm)が挙げられる。具体的な対象装置としては、半導体製造工程などで使用されるCVD(化学的気相成長法)装置であって、プロセスチャンバー内のクリーニングガスとして三フッ化窒素、PFCガス等や、フッ素ガス(F2)などのフッ素を含むガスが使用されるCVD装置が挙げられる。
【0029】
本発明において、水もしくは水分とは、水分含有ガス中に含まれる水蒸気および/または水(液滴など)を意味する。
【0030】
本発明の排気システムは、送気管の樹脂製部分より上流から前記送気管内に前記反応用ガスが供給されることが好ましい。例えば、図6(a)〜(c)に例示されるように、金属管と樹脂管の接続点3aよりも、上流側から反応用ガス7が供給されることが好ましい。なお、図6(a)〜(c)では、集合送気管の3aより左側が金属製であり、右側が樹脂製となっている。排気設備の陰圧を利用し吸込ませる方式を採用することができる。
【0031】
安定した反応のためには、専用の水分含有ガス供給装置を設けることで水分濃度やフッ素ガスの排出時期にあわせて制御することも可能である。
【0032】
ただし、半導体製造工程でフッ素ガスを使用する工程は減圧プロセスで、クリーニング時に排出される成分はフッ素濃度が高い割に排気量としては希釈用ガスを含めても数十リットル/分程度と多くなく、水分含有ガスの水分と積極的に反応させるには、接触時間を長くするか反応時の促進効果が必要となる。
【0033】
フッ素ガスと水分含有ガスとの反応時の促進効果を、排気が流れる際の渦流による撹拌によって得る場合、水分を運ぶキャリアガスが水分含有ガスの大半を占めることになり、後段の水および/または水ないしアルカリ水溶液を用いたスクラバー等の排気処理設備に対しては流量増加によって処理負荷が増大することになる。
【0034】
しかし、流量増加による処理負荷増加は、後段の排気処理設備の処理方式によっては、事前に希釈された状態で流入した方が通過する濃度が低くでき安全な処理につなげることができるため、濃度に注意しながらの流量選定が必要となる。
【0035】
また、過剰な水分供給や温度変化による凝縮により、水の液化やフッ化水素を含む水溶液の発生も考えられるため排気処理設備全体の温度変化や濃度分布の検討は必要である。
【0036】
評価実績より、後段の大型排気処理設備がアルカリ水溶液スクラバーの場合、排気処理後の大気放出ガス6を安定させる上で、大型排気処理設備に送られる排ガスは、処理される全排気量に対するF2換算濃度が0.8体積%以下であることが好ましく、0.1体積%以下であることがより好ましい。
【0037】
(実施形態1)
本実施形態の排気システムを図1を用いて説明する。本実施形態の排気システムは、半導体製造工程のCVD装置などの合計8個のチャンバー(対象ガス使用装置1a〜1h)に接続された送気管である分岐管2、および、該複数の分岐管2が接続された送気管である集合送気管3を備えている。集合送気管3の下流側には、大型排気処理装置5aに接続されている。なお、集合送気管3の下流側などには、排ガスを大気中へ排出するための排気ファン(図示せず)が設けられていてもよい。
【0038】
本実施形態では、図1に示すフローに従い、加湿器8で加湿した空気を水分含有ガス(反応用ガス)7として、集合送気管3の上流側より、ボリュームダンパ4で流量を調整しながら集合送気管3の内部に吸込ませる。これにより、対象ガス使用装置1a〜1hから分岐管2を通して集合分岐管3に送られた排ガス中のフッ素ガス等は、水分と反応することによりフッ化水素となるため、集合排気管3の樹脂製部分の腐食が抑制される。なお、本実施形態では、分岐管2は金属から構成されるため、通常はフッ素ガスによる腐食は発生しにくい。
【0039】
(実施形態2)
本実施形態の排気システムを図2に示す。本実施形態の排気システムは、水分含有ガス(反応用ガス)7として、安定したクリーンルーム雰囲気下の空気を用いた点のみが実施形態1と異なっている。加湿器を用いていない分、必要な水分量を確保するために、実施形態1よりも集合送気管の上流側から送る空気の流量を上げることが好ましい。
【0040】
なお、加湿器によって水分量を増加させた空気を水分含有ガス(反応用ガス)として使用した実施形態1の送気システムにおいて、処理する排ガスの量に応じて水分量を増加させた場合、排気ガスが流れる送気管の内部でのガス凝縮により、H2OやHFを含むH2Oの溜りや破損部分からの洩れの可能性があるが、本実施形態のように、クリーンルーム雰囲気の空気を水分含有ガス(反応用ガス)として使用した場合、送気管内での凝縮が発生しにくいという利点がある。
【0041】
(実施形態3)
本実施形態の排気システムを図3に示す。実施形態1および2では、集合送気管3の上流側より水分含有ガスの供給を行っていたが、本実施形態では、分岐管2および集合送気管3の双方の腐食抑制を目的として、分岐管2の上流側(対象ガス使用装置1と分岐管2の接続部付近)から水分含有ガスを供給している。
【0042】
これにより、分岐管2を含めて排ガスが流れる送気管の最も上流側から、水分含有ガス供給することが可能となり、分岐管2が樹脂部材から構成される場合などにおいても、排気システム全体の樹脂部材の腐食抑制を図ることができる。
【0043】
(実施形態4)
本実施形態で用いられる水分含有ガス供給装置を図4に示す。実施形態1では、加湿器によって固定された加湿条件で加湿された空気を水分含有ガス7として使用したが、本実施形態では、図4に示されるような水分含有ガス供給装置を用いて水分含有ガスを供給することにより、適切な水分量や供給時期を制御し、水分含有ガスの水分量過剰による凝縮水の発生を抑制したり、後述の排気処理設備の処理負荷を低減することが可能となる。すなわち、図4において、水分含有ガス7の状態を示す温度計14、湿度計15、風速計16、露点計17からの各情報を、表示部と制御部を兼ねた表示制御部9で処理したデータに基づいて、加湿器8の加湿量を給水量調整バルブ12で制御することにより、適切な量の水分を含有する水分含有ガスを供給することができる。
【0044】
具体的には、例えば、水分含有ガス7の出口側で吸込み圧力検出を兼ねた圧力計18で異常を検出した場合は、モーターダンパ11を閉止し排気ガス逆流による周辺汚染の防止を図る。また、対象ガス使用装置からの排ガスの排出時期を流量調整用信号19として受け、水分含有ガス7の流量や水分濃度の制御も可能となる。本装置において、最も重要なのは供給量を調整するボリュームダンパ4と水分を供給するための加湿器8である。その他については、供給状態の監視や更なる制御性を高めるために必要なものである。
【0045】
本発明の排気システムまたは反応用ガス供給装置は、このような水分供給過剰による送気管内の結露を防止するための機構や、対象装置からのフッ素排出量(排気量)に応じて反応用ガスの供給量を調整するための機構を有することが好ましい。具体的に、水分供給過剰による送気管内の結露を防止するための機構は、少なくとも上記の送風ファン10、モーターダンパ11、給水量調整バルブ12、露点計(DP)17を備えていることが好ましい。
【0046】
(実施形態5)
本実施形態は、他の実施形態とは、反応用ガス7として水素含有ガスを用いる点で異なっている。図5に、実施形態5の排気システムのフロー図を示す。他の実施形態では、送気管内へ水分含有ガスが供給されるが、本実施形態のように、送気管内へ水素(H2)含有ガスを供給しても送気管の樹脂製部分の腐食を防止することができる。すなわち、反応式(4):

2+H2→2HF ・・・反応式(4)

のとおり、フッ素ガスと水素ガスを同量で反応させることでフッ化水素とすることができ、フッ素ガスと送気管の樹脂製部分との反応を回避することができる。
【0047】
しかし、フッ素と水素の単体での反応は温度や光のある環境では爆発的に進んだり、高温を発生したりすることが、フッ素の特徴として記されている文献もあるため、反応式(5):

2+H2+N2→2HF+N2 ・・・反応式(5)

のとおり、反応促進と希釈のために、N2等をキャリアガスとして水素を含有する水素含有ガスを反応用ガスとして使用することが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
本実施例は、上述の図1に示される実施形態1に関する例である。半導体製造工程に用いるCVD装置(対象ガス使用装置)の各チャンバーでのクリーニングは、クリーニングガスとしてNF3ガスを用いたNF3リモートプラズマにより行った。対象ガス使用装置の計8個のチャンバー(対象ガス使用装置1a〜1h)の各々には、NF3ガスが1チャンバーあたり1.5L/minの流量で供給される。したがって、これら8個のチャンバーに分岐管2を介して接続された集合送気管3には、最大で12L/minのNF3ガスが送られる。
【0050】
図1に示すフローに従い、下記表1に示す条件で、水分含有ガス(反応用ガス)7として、加湿器8で温度を20.5℃、湿度を65%RHに調整した空気を、集合送気管3の上流側から、1.5m3/minの流量となるようにボリュームダンパ4で調整しながら吸込ませた。この場合、集合送気管3へは、1時間あたり1.05kgの水分が供給されることになる。このようにして水分含有ガスが集合送気管3へ供給された排気システムにおいて、樹脂製部材で構成された集合送気管3を10ヶ月間に渡り経過観察した。その結果、腐食による破損は発生しなかった。
【0051】
<理論等量値の算出>
反応式(1):

2NF3+3H2O→6HF+N2+3/2O2 ・・・反応式(1)

のとおり、NF3ガスを全てHFに変換するためには、理論的にNF3ガスに対して体積比で2分の3倍の水蒸気(モル比で2分の3倍の水)が必要となる。
【0052】
実施例1においては、上述のように集合送気管3には最大で12L/minのNF3ガスが送られるが、実際はNF3リモートプラズマで分解されたNF3ガスの量が差し引かれる。ただし、NF3リモートプラズマでの分解後でも反応式(2):

NF3→3/2F2+1/2N2 ・・・反応式(2)

からわかるとおり、NF3ガスに対して体積比で2分の3倍のF2ガスが集合送気管に流れ、このF2ガスをフッ化水素(HF)へ変化させるには、反応式(3):

2+H2O→2HF+1/2O2 ・・・反応式(3)

の反応のとおり、F2ガスと同じ体積の水蒸気(同じモル数の水)を供給する必要がある。
【0053】
このように、NF3リモートプラズマで分解されたNF3ガスについても、結局はクリーニングガスとして対象装置に供給されたNF3ガスに対して、体積比で2分の3倍の水蒸気(モル比で2分の3倍の水)が必要となる。
【0054】
以上のことから、対象装置に供給されるNF3ガスの総量が12L/minであり、反応効率を100%とした場合、対象装置からの排ガス中のNF3およびF2を全てHFに変換するために必要な水(水蒸気)の量は、18L/min(1080L/hr)である。すなわち、重量換算で1時間あたり0.87kgの水が必要である。
【0055】
(比較例1)
加湿器を使用せず、水分含有ガス7としてクリーンルームの雰囲気における、温度が23.0℃、湿度が40%RHの空気を、集合送気管3の上流側より1.5m3/minの流量となるようにボリュームダンパ4で調整しながら吸込ませた。この場合、集合送気管3へは、1時間あたり0.74kgの水分が供給されることになる。このような量の水分含有ガスが集合送気管3へ供給された排気システムにおいては、樹脂製部材で構成された集合送気管3に腐食による破損が観察された。
【0056】
以上の結果から、水分含有ガスに含まれる水分量を反応効率100%での理論当量値0.87kg/hrを1とした場合、実施例1での加湿器を使用した場合の水分供給量である1.05kg/hrは1.2に相当し、この場合は腐食による破損は発生せず、一方、比較例2での水分供給量である0.74kg/hrは、理論等量値の0.87kg/hrに対する比率で0.85に相当し、この場合は樹脂製の集合送気管3において腐食が発生することが分かる。よって、樹脂製部材の腐食を抑制するためには、少なくとも理論当量値に対して1.2に相当する量以上の水分供給を行うことが好ましいことが分かる。
【0057】
また、対象ガス使用装置1のチャンバークリーニングも全てのチャンバーについて同時に行われることは考えにくく、NF3リモートプラズマによるクリーニングガスとして1チャンバーあたり1.5L/minのNF3ガスを使用する場合、1チャンバーおよび1時間あたり0.13kg/hr(理論等量値の1.2倍である水分供給量)の水分供給があれば樹脂製部分の腐食抑制が可能となる。
【0058】
<凝縮液が発生する水分供給量の理論値>
水分含有ガス供給過剰や周囲温度の低下により集合送気管3等の内部での凝縮液の発生が考えられる。ここでは、実施例1と同様にして加湿器8による水分含有ガス7を集合送気管3に供給した場合において、周囲温度23℃において1時間後に凝縮液が発生する水分供給量を計算した。周囲温度23℃における相対湿度100%時の絶対湿度が0.01775kgよりであることから、計算式(1):

絶対湿度×空気密度×送気量×時間=0.01775×1.16×1.5×60
=1.85 ・・・計算式(1)

より、水分供給量が1時間あたり1.85kgである場合に、供給開始から1時間後に凝縮液が発生すると考えられる。これは、上記の理論等量値0.87kg/hrの2.1倍に相当し、周囲温度の低下や加湿器の方式によってはこれ以下で水分の凝縮が発生する可能性がある。
【0059】
(実施例2)
上述の図2に示される実施形態2に関する例である。本実施例の排気システムは、水分含有ガス(反応用ガス)7として、安定したクリーンルーム雰囲気下の空気を用いた点のみが実施例1と異なっている。実施例1と同様の水分供給量(1.05kg/hr)をを確保するために、空気の流量を実施例1の1.4倍とした以外は、実施例1と同様である。このようにして水分含有ガスが集合送気管3へ供給された排気システムにおいて、樹脂製部材で構成された排気処理設備の排気が流れる集合送気管3を11ヶ月間に渡り経過観察した。その結果、腐食による破損は発生しなかった。
【0060】
【表1】

【0061】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1h 対象ガス使用装置(真空ポンプ)、2 分岐管、3 集合送気管、3a 金属管と樹脂管の接続点、4 ボリュームダンパ、5a 大型排気ガス処理装置、5b 排気ガス除害装置、6 大気放出ガス、7 反応用ガス(水分含有ガス、水素含有ガス)、8 加湿器、9 表示制御部(GP)、10 送風ファン、11 モーターダンパ、12 給水量調整バルブ、13 水流量計(瞬間および積算)、14 温度計(T)、15 相対湿度計(H)、16 風速計(F)、17 露点計(DP)、18 圧力計(P)、19 流量調整用信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ガスまたは反応性の高いフッ素系ガスを排出する対象装置から排出された排気を処理するための処理装置、および、前記対象装置と前記処理装置とを接続する樹脂製部分を含む送気管を備える排気システムであって、
少なくとも前記送気管内の樹脂製部分の一部に、フッ素と反応する物質を含有する反応用ガスが供給されることを特徴とする、排気システム。
【請求項2】
前記フッ素と反応する物質が水または水素である、請求項1に記載の排気システム。
【請求項3】
前記フッ素と反応する物質が水である、請求項1に記載の排気システム。
【請求項4】
前記送気管の樹脂製部分より上流から前記送気管内に前記反応用ガスが供給される、請求項1に記載の排気システム。
【請求項5】
前記送気管内の陰圧を利用して前記送気管内に前記反応用ガスが供給される、請求項1に記載の排気システム。
【請求項6】
加熱機構を有さない、請求項1に記載の排気システム。
【請求項7】
前記送気管内に水分が過剰に供給された場合に、前記送気管内の結露を防止する機構を有する、請求項1に記載の排気システム。
【請求項8】
前記対象装置からのフッ素排出量に応じて、前記送気管内へ供給される水分を制御する機構を有する、請求項1に記載の排気システム。
【請求項9】
請求項1に記載の排気システムにおいて用いられる、少なくとも前記送気管内の樹脂製部分の一部に、フッ素と反応する物質を含有する反応用ガスを供給するための反応用ガス供給装置。
【請求項10】
前記送気管内に水分が過剰に供給された場合に、前記送気管内の結露を防止する機構を有する、請求項9に記載の反応用ガス供給装置。
【請求項11】
前記対象装置からのフッ素排出量に応じて、前記送気管内へ供給される水分を制御する機構を有する、請求項9に記載の反応用ガス供給装置。
【請求項12】
フッ素ガスまたは反応性の高いフッ素系ガスを排出する対象装置から排出された排気を処理するための処理装置、および、前記対象装置と前記処理装置を接続する樹脂製部分を含む送気管を備える排気システムにおいて、
少なくとも前記送気管内の樹脂製部分の一部に、フッ素と反応する物質を含有する反応用ガスを供給し、反応温度を上げずに常温状態でフッ素をフッ化水素へ変化させることを特徴とする、前記送気管の樹脂製部分の腐食防止方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−81414(P2012−81414A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229538(P2010−229538)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】