説明

排気浄化システム

【課題】 本発明は、コストの高騰を抑えて浄化性能を向上できる浄化装置を提供する。
【解決手段】 排気浄化装置50は、内燃機関10の排気通路30に設けられる前段三元触媒62と後段三元触媒72と、空燃比を制御する制御部40とインジェクタ15とを備える。後段三元触媒72は、少なくともロジウムを含む第1の後段触媒層74と、少なくとも、パラジウムと第1の後段触媒層74よりも多くのアルカリ金属とを含む第2の後段触媒層75とが、後段担体73に積層してなる。制御部40は、後段三元触媒72の温度が活性温度のとき、空燃比を、高性能範囲A内となるようにインジェクタ15から噴射される燃料の質量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気を浄化する排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車の内燃機関から排出される排気中の炭化水素(HC)と、一酸化炭素(CO)と、窒素酸化物(NOx)とを浄化するために、内燃機関に連結される排気通路中に排気浄化装置が配置されている。排気浄化装置としては、触媒に白金、パラジウム、ロジウムなどを用いた三元触媒装置が広く用いられている。また、かかる触媒にアルカリ金属とコバルトもしくはマンガンを添加することで、炭化水素濃度が高く酸素濃度が低い排気に対してより高い浄化性能を得たものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−16466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、三元触媒は長期間使用すると熱劣化し、その排気浄化性能は低下してしまう。そのため、あらかじめ多くの貴金属を担持することを余儀なくされており、コストの増大や資源の浪費を招いている。また、アルカリ金属は熱安定性が低いため、長期の高温耐久後には触媒層から飛散してしまい、排気浄化性能が低下してしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、コストの高騰を抑えつつ、排気浄化性能を向上できる排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明の排気浄化システムは、内燃機関の排気を浄化する。前記排気浄化システムは、前記内燃機関の排気通路に設けられる排気浄化手段と、空燃比を制御する制御手段とを備える。前記排気浄化手段は、排気浄化用三元触媒を備える。前記排気浄化用三元触媒は、少なくともロジウムを含む上層と、少なくとも、パラジウムと前記上層よりも多くのアルカリ金属とを含む下層とが、担体上に積層してなる。前記制御手段は、前記排気浄化用三元触媒の温度が所定温度以上のとき、前記空燃比を、理論空燃比を挟む所定の範囲内となるように制御する。
【0007】
請求項2に記載の発明の排気浄化システムでは、請求項1に記載の発明において、前記排気浄化用三元触媒が備えるアルカリ金属は、前記下層にのみ担持されている。
【0008】
請求項3に記載の発明の排気浄化システムでは、請求項1または請求項2の発明において、前記排気浄化手段は、前記排気浄化用三元触媒よりも前記排気通路の上流側に配置され、アルカリ金属を含まない前段三元触媒をさらに備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コストの高騰を抑えつつ、排気浄化性能を向上できる排気浄化システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る排気浄化装置を示す概略図。
【図2】図1に示された排気浄化装置の前段触媒を示す斜視図。
【図3】図1に示された排気浄化装置の後段触媒を示す斜視図。
【図4】図1に示された後段触媒の、活性温度での活性炭化水素を水と二酸化炭素とへ変換する性能を示すグラフ。
【図5】図1に示された排気浄化装置の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態にかかる排気浄化システムを、図1から5を用いて説明する。図1は、排気浄化装置50が設けられる、内燃機関10と吸気通路20と排気通路30とを示す概略図である。内燃機関10と吸気通路20と排気通路30とは、一例として図示しない自動車に搭載されている。
【0012】
図1に示すように、内燃機関10は、本実施形態では、一例として、4つの燃焼室を備えるレシプロ式内燃機関である。内燃機関10は、シリンダブロック11と、クランクシャフト12と、シリンダブロック11上に取り付けられるシリンダヘッド13と、オイルパン14と、燃焼室16内に燃料を噴射するインジェクタ15とを備えている。
【0013】
燃焼室16内には、ピストン17が設けられている。ピストン17は、コネクティングロッド18を介してクランクシャフト12に連結されている。燃焼室16内での燃料の爆発によって、ピストン17が往復動する。ピストン17の往復動がコネクティングロッド18を介してクランクシャフト12に伝達され、クランクシャフト12が回転する。クランクシャフト12の回転が自動車の車輪に伝達されることによって、自動車が走行する。
【0014】
燃焼室16には、吸気通路20と、排気通路30とが連通している。吸気通路20は、燃焼室16内に空気を導く。
【0015】
インジェクタ15の動作およびインジェクタ15から噴射される燃料の質量は、制御部40によって制御される。制御部40は、自動車の様々な制御も行っている。排気通路30は、燃焼室16から排出される排気を外部へ導く。制御部40は、内燃機関10が駆動しているか否かを判定する。制御部40は、運転者が図示しないキーを自動車に設けられるキーシリンダに挿入して回転することによって自動車の電機系統がオン状態になると、動作可能となる。このため、制御部40は、内燃機関10が駆動を開始する前、つまり、燃焼室16に燃料が噴射されて爆発がおこる前から動作を開始している。制御部40は、例えば、キーの位置が内燃機関10を駆動するオン状態になったか否かを判定することによって内燃機関10が駆動しているか否かを判定することができる。なお、内燃機関10が駆動しているか否かは、他の方法によって判定されてもよい。
【0016】
排気浄化装置50は、上記された制御部40と、前段排気浄化装置60と、後段排気浄化装置70と、酸素センサ80と、温度センサ90とを備えている。排気浄化装置50は、本発明でいう排気浄化システムの一例である。
【0017】
前段排気浄化装置60は、本実施形態では、一例として1つ用いられる。前段排気浄化装置60は、排気通路30中に設けられており、排気通路30の一部を構成する排気マニホルド31のすぐ下流に配置されている。前段排気浄化装置60は、前段用ハウジング61と、前段三元触媒62とを備えている。
【0018】
前段用ハウジング61は、排気マニホルド31に連通するとともに、排気通路30において前段排気浄化装置60の下流の部分と連通している。前段三元触媒62は、三元触媒であって、排気H中に含まれる炭化水素(HC)と一酸化炭素(CO)と窒素酸化物(NOx)とを、酸化もしくは還元することによって、水と二酸化炭素と窒素とに変換する。前段三元触媒62は、前段担体63と、前段担体63に設けられる第1の前段触媒層64と、第1の前段触媒層64に設けられる第2の前段触媒層65とを備える。
【0019】
図2は、前段三元触媒62を示す斜視図である。図2に示すように、前段担体63は、ハニカム構造であって、前段担体63を貫通する複数の貫通孔66が形成されている。前段担体63は、前段用ハウジング61内に収容される。貫通孔66の内側を排気Hが流れる。
【0020】
図2中、前段担体63において2点鎖線で囲まれる範囲F2を拡大して示している。範囲F2は、前段担体63において貫通孔66を形成する壁部67の一部を拡大して示している。範囲F2中に示すように、第1の前段触媒層64は、前段担体63において貫通孔66を形成する壁部67に設けられている。第1の前段触媒層64は、触媒活性成分と、触媒活性成分を担持するウォッシュコートとを備えている。触媒活性成分は、排気Hを浄化する機能を有する。触媒活性成分として、パラジウムが用いられる。ウォッシュコートとして、一例として、酸化アルミニウムが用いられる。
【0021】
第2の前段触媒層65は、第1の前段触媒層64においての貫通孔66の内側に向く表面64a上に設けられている。第2の前段触媒層65は、触媒活性成分と、触媒活性成分を担持するウォッシュコートとを備えている。触媒活性成分としてのロジウムが用いられる。ウォッシュコートとしては、一例として、酸化アルミニウムが用いられる。
【0022】
第1,2の前段触媒層64,65の構造は、前段担体63に形成される他の貫通孔66においても同じである。排気Hは、前段排気浄化装置60を通過する際に、貫通孔66内を通り第1,2の前段触媒層64,65によって浄化されて下流に流れる。
【0023】
前段担体63と第1の前段触媒層64と第2の前段触媒層65との上下について説明する。前段担体63に対して、第1,2の前段触媒層64,65が積層される方向が上下方向となり、前段担体63に対して積層される側が上方となる。このため、第1,2の前段触媒層64,65では、第1の前段触媒層64が下層となり、第2の前段触媒層65が上層となる。
【0024】
後段排気浄化装置70は、排気通路30中において前段排気浄化装置60よりも下流に設けられている。後段排気浄化装置70は、後段用ハウジング71と、後段三元触媒72とを備えている。
【0025】
後段用ハウジング71は、排気通路30の一部を構成している。後段三元触媒72は、後段用ハウジング71内に収容されている。後段三元触媒72は、三元触媒であって、排気H中に含まれる炭化水素(HC)と一酸化炭素(CO)と窒素酸化物(NOx)とを、酸化もしくは還元することによって、水と二酸化炭素と窒素とに変換する。後段三元触媒72は、後段担体73と、後段担体73に設けられる第1の後段触媒層74と、第1の後段触媒層74に設けられる第2の後段触媒層75とを備える。
【0026】
図3は、後段三元触媒72を示す斜視図である。図3に示すように、後段担体73は、ハニカム構造であって、後段担体73を貫通する複数の貫通孔76が形成されている。
【0027】
図3中に、後段担体73に2点鎖線で囲まれて示される範囲F3を拡大して示している。範囲F3は、後段担体73において貫通孔76を形成する壁部77の一部を拡大して示している。範囲F3中に示すように、第1の後段触媒層74は、壁部77に設けられている。第1の後段触媒層74は、触媒活性成分と、触媒活性成分を担持するウォッシュコートとを備えている。触媒活性成分は、パラジウムと、アルカリ金属の一例であるカリウムとが用いられる。ウォッシュコートは、一例として、酸化アルミニウムが用いられる。
【0028】
第2の後段触媒層75は、第1の後段触媒層74において貫通孔76の内側に向く面74a上に設けられている。第2の後段触媒層75は、触媒活性成分と、触媒活性成分を担持するウォッシュコートとを備える。触媒活性成分は、ロジウムが用いられる。ウォッシュコートの一例として、酸化アルミニウムが用いられる。
【0029】
後段担体73と第1の後段触媒層74と第2の後段触媒層75との上下について説明する。後段担体73に対して、第1,2の後段触媒層74,75が積層される方向が上下方向となり、後段担体73に対して積層される側が上方となる。このため、第1,2の後段触媒層74,75では、第1の後段触媒層74が下層となり、第2の後段触媒層75が上層となる。
【0030】
後段三元触媒72は、本発明で言う排気浄化用三元触媒の一例である。前段三元触媒62と後段三元触媒72とは、本発明で言う排気浄化手段を構成する。
【0031】
本実施形態では、後段排気浄化装置70の後段三元触媒72は、第1の後段触媒層74が触媒活性成分としてカリウムを備える点を除いて、前段排気浄化装置60の前段三元触媒62と同じである。第1,2の後段触媒層74,75の構造は、後段担体73に形成される他の貫通孔76においても同様である。排気Hは、後段排気浄化装置70を通過する際に、貫通孔76を通り第1,2の後段触媒層74,75によって浄化されて下流に流れる。排気Hは、浄化すべき被浄化流体の一例である。貫通孔76は、被浄化流体を通すための通路の一例である。
【0032】
つぎに、後段三元触媒72が活性状態となる活性温度であるときの特性について説明する。図4は、後段三元触媒72の、後述される活性状態での炭化水素を水と二酸化炭素とへ変換する性能を示すグラフである。
【0033】
図4の横軸は、燃焼室16に供給される空気と燃料との混合気の空燃比を示している。図中、横軸の中心位置Pは、理論空燃比を示す。本実施形態では、理論空燃比を、14.6とする。図4の横軸は、図中右側に進むにつれて値が大きくなる。横軸において理論空燃比を示す位置Pよりも図中右側は空燃比がリーンであることを示す。そして、横軸は、図中右側に進むにつれて、言い換えると矢印xに沿って進むにつれて空燃比のリーンの程度が大きくなることを示す。横軸において理論空燃比を示す位置Pよりも図中左側は空燃比がリッチであることを示す。そして、横軸は、図中左側に進むにつれて、言い換えると矢印yに沿って進むにつれて空燃比のリッチの程度が大きくなることを示す。図4の縦軸は、炭化水素を水と二酸化炭素とへ変換する性能を示している。縦軸は、図中上方に進むにつれて、つまり縦軸の矢印に沿って進むにつれて炭化水素を水と二酸化炭素とへの変換する性能が高いことを示している。
【0034】
図4中では、後段排気浄化装置70の特性を実線で示している。図4中実線で示すように、後段排気浄化装置70は、触媒活性成分としてカリウムを備えることによって、炭化水素の浄化性能は、略理論空燃比で最も高くなる。
【0035】
また、カリウムは、熱安定性が低いので、高温状態が長く続くと、飛散することがある。後段排気浄化装置70では、排気Hが流れる貫通孔76の内側に対して第2の後段触媒層75を挟んで外側に位置する第1の後段触媒層74がカリウムを備えることによって、カリウムの外部への飛散が抑制されるので、カリウムの特性を維持することができる。
【0036】
ロジウムは、排気浄化性能が高く、空燃比がリッチであると炭化水素を水と一酸化炭素へ変換する性能が高くなる。ロジウムとカリウムとを同一触媒層に用いると、炭化水素の浄化性能(炭化水素を水と二酸化炭素とに変換する性能)が低下する場合がある。後段排気浄化装置70では、第1の後段触媒層74に触媒活性成分としてパラジウムとカリウムとを用い、第2の後段触媒層75に触媒活性成分としてロジウムを用いることによって、ロジウムの炭化水素の浄化性能の低下を抑制することができる。
【0037】
上記理由により、後段排気浄化装置70は、図4中実線で示す特性を有するとともに、この特性を長期間維持することができる。
【0038】
また、図4では、第1,2の後段触媒層74,75の他の例として、第1の後段触媒層74がカリウムを備えていない場合の後段排気浄化装置の特性を、点線で示している。また、第2の後段触媒層75がカリウムを備えて、第1の後段触媒層74がカリウムを備えていない場合の後段排気浄化装置の特性を、1点鎖線で示している。なお、1点鎖線の特性を備える構造において、第2の後段触媒層75が備えるカリウムの質量は、後段排気浄化装置70の第1の後段触媒層74が備えるカリウムの質量と同じである。
【0039】
図4中に点線で示される特性を有する、第1の後段触媒層74がカリウムを備えていない場合の後段排気浄化装置は、第1の後段触媒層74がカリウムを備えていない点を除いて、上記説明された第1の後段触媒層74がカリウムを備えている後段排気浄化装置70と同じである。このため、図4中に点線で示される、後段用第1,2の触媒層がカリウムを備えない後段排気浄化装置の特性は、前段排気浄化装置60の特性と同じである。
【0040】
同様に、図4中に1点鎖線で示される特性を有する、第1の後段触媒層74がカリウムを備えておらず、かつ、第2の後段触媒層75がカリウムを備える後段排気浄化装置は、第1の後段触媒層74がカリウムを備えず、かつ、第2の後段触媒層75がカリウムを備える点を除いて、上記された、第1の後段触媒層74がカリウムを備えて第2の後段触媒層75がカリウムを備えない後段排気浄化装置70と同じである。
【0041】
図4に示すように、後段排気浄化装置70は、燃焼室16に供給される空気と燃料との混合気の空燃比が理論空燃比の近傍の範囲内にある状態では、図4中に点線で示す特性を有するカリウムを備えない後段排気浄化装置と1点鎖線で示す特性を有する第2の後段触媒層75にカリウムを備える後段排気浄化装置とよりも炭化水素を水と二酸化炭素へ変換する性能が高いことがわかる。
【0042】
本実施形態では、本発明で言う理論空燃比を挟む所定の範囲の一例として、高性能範囲Aとしている。高性能範囲A内では、後段用第1,2の触媒層がアルカリ金属(本実施形態では、一例としてカリウム)を備えない構造と、後段用第2の触媒層がアルカリ金属(本実施形態では、一例としてカリウム)を備えかつ後段用第1の触媒層がアルカリ金属を備えない構造とよりも、炭化水素の浄化性能が高い。
【0043】
本実施形態では、理論空燃比−0.3から理論空燃比+0.3の範囲(理論空燃比−0.3と、理論空燃比+0.3とを含む)を高性能範囲Aとしている。本実施形態では、理論空燃比を14.6としているので、高性能範囲Aは、14.3〜14.9(14.3と14.9とを含む)の範囲となる。
【0044】
なお、高性能範囲Aは、第1,2の後段触媒層がアルカリ金属(本実施形態では、一例としてカリウム)を備えない構造と、後段用第2の触媒層がアルカリ金属(本実施形態では、一例としてカリウム)を備えかつ後段用第1の触媒層がアルカリ金属を備えない構造とよりも炭化水素の浄化性能が高い範囲をこえなければよい。
【0045】
言い換えると、高性能範囲Aは、後段用第1,2の触媒層がアルカリ金属(本実施形態では、一例としてカリウム)を備えない構造と、後段用第2の触媒層がアルカリ金属(本実施形態では、一例としてカリウム)を備えかつ後段用第1の触媒層がアルカリ金属を備えない構造とよりも炭化水素の浄化性能が高い範囲と同じ、または、この高い範囲よりも狭い範囲であってもよい。
【0046】
本実施形態では、理論空燃比+0.3は、図4に示される実線グラフと点線グラフの交わる2点のうち値が大きい方と同じであるが、理論空燃比−0.3は、図4に示される実線グラフと点線グラフとの交わる2点のうち値が小さい方よりも大きい。
【0047】
なお、本実施形態では、後段排気浄化装置70は、アルカリ金属の一例としてカリウムを用いているが、カリウム以外のアルカリ金属を用いた場合であっても、図4の実線で記載した特性と同様の特性が得られる。さらに、この特性を長期間維持することができる。これは、カリウム以外のアルカリ金属も、触媒活性成分としてカリウムと同様の機能を備えているからである。
【0048】
図1に示すように、酸素センサ80は、排気通路30において前段排気浄化装置60の前段三元触媒62よりも上流に設けられている。酸素センサ80は、排気H中の酸素濃度を検出する。酸素センサ80の検出結果は、制御部40に送信される。制御部40は、酸素センサ80から受信した排気H中の酸素濃度を示す情報に基づいて、燃焼室16に供給される空気と燃料との混合気の空燃比を算出する。
【0049】
温度センサ90は、排気通路30において後段排気浄化装置70よりも下流の位置に設けられている。温度センサ90は、排気通路30内を流れる排気Hの温度を検出する。温度センサ90は、検出結果を制御部40に送信する。制御部40は、温度センサ90の検出結果に基づいて、言い換えると、後段排気浄化装置70の下流を流れる排気Hの温度に基づいて、後段三元触媒72の温度を求める。後段三元触媒72の温度は、第1,2の後段触媒層74,75の温度と同じである。
【0050】
制御部40は、温度センサ90の検出結果に対応する後段三元触媒72の温度の情報(例えばマップなど)を予め備えている。この情報は、後段排気浄化装置70と温度センサ90との位置関係、内燃機関10の運転状態などを考慮したものである。制御部40は、温度センサ90と上記情報とに基づいて、後段三元触媒72の温度を検出する。
【0051】
つぎに、排気浄化装置50の動作を説明する。図5は、排気浄化装置50の動作を示すフローチャートである。まず、後段三元触媒72の温度が、後段三元触媒72が活性状態になる活性温度になっていない場合の動作を説明する。後段三元触媒72が活性状態になるとは、第1,2の後段触媒層74,75の各々が備える触媒活性成分が全て活性化する状態である。
【0052】
本実施形態では、一例として、後段三元触媒72が活性状態となる活性開始温度は、350℃(摂氏温度)である。活性開始温度以上を活性温度とし、活性温度であると第1,2の後段触媒層74,75の活性状態が保たれる。活性開始温度は、本発明で言う所定温度の一例である。
【0053】
図5に示すように、制御部40は、ステップST1で、内燃機関10が駆動しているか否かを判定する。この説明では、内燃機関10が駆動しているので、制御部40は、内燃機関10が駆動していると判定して、ステップST2に進む。
【0054】
ステップST2では、制御部40は、後段三元触媒72の温度を検出する。具体的には、内燃機関10の運転が開始されると、温度センサ90は、排気通路30において後段排気浄化装置70よりも下流を流れる排気Hの温度を検出し、この検出結果を制御部40に送信する。制御部40は、温度センサ90から受信した送信結果に基づいて、後段三元触媒72の温度を求める。後段三元触媒72の温度が検出されると、ついで、ステップST3に進む。
【0055】
ステップST3では、制御部40は、後段三元触媒72の温度が活性温度であるか否かを判定する。この説明では、後段三元触媒72の温度は活性温度未満であるので、制御部40は、後段三元触媒72の温度が活性温度ではないと判定する。ついで、ステップST1に戻る。後段三元触媒72の温度が活性温度未満であると、ステップST1〜ST3の動作が繰り返される。
【0056】
つぎに、後段三元触媒72の温度が活性温度になった場合の、排気浄化装置50の動作を説明する。
【0057】
後段三元触媒72の温度が活性温度になると、制御部40は、燃焼室16に供給される空気と燃料との混合気の空燃比が、高性能範囲A内になるように、インジェクタ15から噴射される燃料の質量を制御する。具体的には、制御部40は、ステップST4,ST5,ST6,ST7の動作を行う。
【0058】
制御部40は、ステップST3で、後段三元触媒72が活性温度であると判定すると、ステップST4に進む。ステップST4では、制御部40は、燃焼室16に供給される空気と燃料との混合気の空燃比が高性能範囲Aより大きいか否かを判定する。
【0059】
具体的には、制御部40は、空燃比が理論空燃比+0.3より大きいか否かを判定する。制御部40は、酸素センサ80から送信される排気H中の酸素濃度を示す情報に基づいて、空燃比を算出する。空燃比が理論空燃比+0.3より大きいと判定されると、ついで、ステップST5に進む。
【0060】
ステップST5では、制御部40は、各インジェクタ15から噴射される燃料の質量を増大する。各インジェクタ15で増大される燃料の質量は、予め決定された一定量である。または、各インジェクタ15で増大される燃料の質量は、そのときの自動車の運転状態を考慮して決定されてもよい。ついで、ステップST1に戻る。
【0061】
空燃比が高性能範囲Aより大きい場合は、ステップST1〜ST5の動作が繰り返される。ステップST5での処理によって、各インジェクタ15から噴射される燃料の質量が
多くなる。ステップST5での処理が繰り返されることによって、空燃比は、リーンである状態からリッチ側に変化し、それゆえ、高性能範囲A内となる。
【0062】
ステップST4において、制御部40が、空燃比が理論空燃比+0.3以下であると判定すると、ついで、ステップST6に進む。ステップST6では、制御部40は、空燃比が、理論空燃比−0.3未満であるか否かを判定する。空燃比が理論空燃比−0.3以上である場合は、空燃比は、高性能範囲A内にある。ついで、ステップST1に戻る。
【0063】
ステップST6で、空燃比が高性能範囲A未満であると判定されると、ついで、ステップST7に進む。ステップST7では、制御部40は、各インジェクタ15から噴射される燃料の質量を減少する。各インジェクタ15で減少される燃料の質量は、予め決定された一定量である。または、各インジェクタ15で減少される燃料の質量は、そのときの自動車の運転状態を考慮して決定されてもよい。
【0064】
空燃比が高性能範囲A未満である場合は、ステップST1〜S4,ST6,ST7が繰り返される。ステップST7での処理が繰り返されることによって、空燃比は、リッチである状態からリーン側に変化し、それゆえ、高性能範囲A内となる。
【0065】
このように構成される排気浄化装置50では、後段排気浄化装置70は、第1の後段触媒層74がパラジウムとアルカリ金属の一例としてカリウムとを備えるとともに、第2の後段触媒層75がロジウムを備えることによって、貴金属の量を多くしなくても、理論空燃比の近傍で炭化水素の浄化性能を向上させるとともに向上した状態を長期間維持することができる。さらに、空燃比が高性能範囲A内にあるように空燃比を制御することによって、後段排気浄化装置70を、炭化水素の浄化性能が高い状態で用いることができる。このため、後段排気浄化装置70は、コストの高騰を抑えつつ、排気浄化性能を向上することができる。
【0066】
また、後段用第2の触媒層がアルカリ金属を備えないことによって、ロジウムの高い炭化水素の浄化性能を損なうことがない。
【0067】
また、後段三元触媒72を、前段三元触媒62の下流に配置することによって、後段三元触媒72は、比較的温度の高い排気通路30の上流部から離れることになるので、熱によるカリウムの飛散をより一層抑制することができる。このため、後段用触媒の炭化水素の浄化性能をより一層長期間維持することができる。
【0068】
また、前段三元触媒62にはカリウムを添加しないため、空燃比が高性能範囲A以外となった場合でも、アルカリ金属の添加による排気浄化性能の悪化を抑制することができる。
【0069】
また、本実施形態では、第1の後段触媒層74は、触媒活性成分としてロジウムのみを備えている。しかしながら、第1の後段触媒層74は、少なくともロジウムを備えていればよく、他の触媒活性成分を備えていてもよい。そして、第2の後段触媒層75は、触媒活性成分としてカリウム(アルカリ金属の一例)と、パラジウムとを備えていればよく、さらに他の触媒活性成分を備えていてもよい。この構造の一例としては、前段排気浄化装置60の第1,2の前段触媒層64,65と、後段排気浄化装置70の第1,2の後段触媒層74,75とは、各々触媒活性成分として、さらに、プラチナ(Pt)を備えてもよい。また、すべての触媒層には、触媒活性成分の働きを補助するための添加剤(たとえば、酸化セリウムや酸化ジルコニウムなど)を含んでもよい。
【0070】
また、本実施形態では、排気浄化装置50は、後段排気浄化装置70よりも上流に配置される前段排気浄化装置として、1つの前段排気浄化装置60が用いられている。しかしながら、後段排気浄化装置よりも上流に配置される前段排気浄化装置60は、1つに限定されず、複数あってもよい。この構造の場合、後段三元触媒72と複数の前段三元触媒62とが、排気浄化手段を構成する。
【0071】
また、本実施形態では、触媒層を保持するためのハニカム担体63,73は、セラミックを用いた担体が用いられている。しかしながら、ハニカム担体としては、セラミックスに限定する必要はなく、メタル箔の担体を用いてもよい。
【0072】
また、本実施形態では、前段排気浄化装置60と、後段排気浄化装置70とにおいて、第1,2の触媒層64,65,74,75は、触媒活性成分を担持するウォッシュコートを備えている。しかしながら、ウォッシュコートを備えず、触媒活性成分のみであってもよい。
【0073】
また、本実施形態では、空燃比が高性能範囲A内になるように制御する制御手段として、制御部40と、インジェクタ15とが用いられた。しかしながら、これに限定されない。例えば、制御部40がスロットルバルブも制御してもよい。この場合、空燃比が高性能範囲A内になるように制御する制御手段は、制御部40と、インジェクタ15と、スロットルバルブとなる。要するに、制御手段は、高性能範囲A内になるように制御する機能を有していればよい。
【0074】
また、本実施形態では、後段三元触媒72の温度を検出するために、後段三元触媒72の下流を流れる排気Hの温度を検出し、排気Hの温度に基づいて後段三元触媒72の温度が検出された。しかしながら、これに限定されない。後段三元触媒72の温度が直接検出されてもよい。要するに、後段三元触媒72の温度を検出する検出手段を備えていればよい。この検出手段としては、センサなどの検出部であってもよい。
【0075】
また、空燃比を検出するための手段として、酸素センサ80が用いられた。しかしながら、これに限定されない。要するに、空燃比を検出する検出手段を備えていればよい。この検出手段は、例えばセンサなどの検出部であってもよい。
【0076】
また、後段排気浄化装置70のみを用いても、炭化水素の浄化性能が高いので、本実施形態と同様の効果を得ることができる。この場合、後段排気浄化装置70は、排気通路30において比較的温度が高い上流を避けて配置されることが好ましい。このことによって、触媒活性成分としてのアルカリ金属が飛散することを抑制できる。また、この構造の場合、後段三元触媒72が排気浄化手段となる。
【0077】
また、本実施形態では、活性開始温度を、本発明で言う所定温度の一例とした。しかしながら、所定温度として他の温度が用いられてもよい。
【0078】
また、本実施形態では、高性能範囲Aを、本発明で言う理論空燃比を挟む所定の範囲の一例とした。しかしながら、これに限定されない。所定の範囲は、図4に示されるように、点線で示される特性を備える構造と1点鎖線で示される特性を備える構造に対して炭化水素を浄化する性能が高い範囲をこえるように設定されてもよい。この場合であっても、所定の範囲として炭化水素を浄化する性能が高い範囲が用いられることが好ましい。なお、本発明で言う所定の範囲として高性能範囲以外を用いる場合は、制御手段は、空燃比を所定の範囲内に制御する機能を有していればよい。
【0079】
この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0080】
10…内燃機関、30…排気通路、40…制御部(制御手段)、50…排気浄化装置(排気浄化システム)、62…前段三元触媒62、72…後段三元触媒(排ガス浄化用三元触媒)、73…後段担体(担体)、74…第1の後段触媒層(下層)、75…第2の後段触媒層(上層)、A…高性能範囲(所定の範囲)、H…排気。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気を浄化する排気浄化システムであって、
前記内燃機関の排気通路に設けられる排気浄化手段と、
空燃比を制御する制御手段と
を備え、
前記排気浄化手段は、少なくともロジウムを含む上層と、少なくとも、パラジウムと前記上層よりも多くのアルカリ金属とを含む下層とが、担体上に積層してなる排気浄化用三元触媒を備え、
前記制御手段は、前記排気浄化用三元触媒の温度が所定温度以上のとき、前記空燃比を、理論空燃比を挟む所定の範囲内となるように制御する
ことを特徴とする排気浄化システム。
【請求項2】
前記排気浄化用三元触媒において、アルカリ金属は、前記下層にのみ担持されている
ことを特徴とする請求項1に記載の排気浄化システム。
【請求項3】
前記排気浄化手段は、前記排気浄化用三元触媒よりも前記排気通路の上流側に配置され、アルカリ金属を含まない前段三元触媒をさらに具備する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の排気浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−154250(P2012−154250A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14101(P2011−14101)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】