説明

排気熱交換装置

【課題】高温な排気ガスが流れる排気マニホールドの部分で排気ガスの熱エネルギーを効率良く回収する。
【解決手段】排気マニホールド40には、排気ガスが流れる排気管部43と、この排気管部43の周囲を覆うケーシング47と、の間に冷却水室R1が形成される。高負荷域では、高負荷用冷却水入口62より冷却水室R1に冷却水を導入し、主に機関上下方向α3及び機関幅方向α2に冷却水流れを形成する。低負荷域では、低負荷用冷却水入口61より冷却水室R1に冷却水を導入し、主に気筒列方向に沿って冷却水流れを形成することで、高負荷域よりも冷却水の流通経路を長くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気マニホールドを利用して排気ガスと冷却水やLLC等の作動流体との熱交換を行う排気熱交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関のシリンダヘッドに固定される排気マニホールドに、排気ガスが流れる排気集合管部と、この排気集合管部を囲繞して冷却水が流通する冷却水通路と、を設け、冷却水により排気集合管部を冷却して、排気集合管部が過度に高温となることを回避する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−77964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願人等は特開2010−77964号公報に記載されているように、内燃機関の排気ガスの熱エネルギーを、冷却水やLLC等の作動流体、更にはこの作動流体よりも沸点の低いフロンR134a等の冷媒を用いて回収し、ランキンサイクルを利用して回収した熱エネルギーから駆動力を発生して、廃熱を有効に利用することを検討している。
【0005】
ここで、上記の特許文献1のように、排気ガスとの熱交換を、排気ガス温度が高い排気マニホールドの部分で行うようにすることで、例えば車両の床下に配置された排気管の近傍で排気ガスとの熱交換を行う場合に比して、排気熱の熱交換量や熱交換効率、つまりは排気熱の回収量や回収効率を大幅に向上することができる。
【0006】
しかしながら、機関負荷に応じて排気ガスの温度が異なることから、排気ガスの温度が低い低負荷側では、熱回収量が不十分となり易い。また、高負荷側では、過剰に熱交換が行われる傾向にあり、例えば作動流体として水冷式内燃機関の冷却水(LLC)を用いた場合に、冷却水の循環経路中に設けられたラジエータがオーバーヒートとなり易い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。すなわち本発明は、内燃機関の排気ガスと作動流体との間で熱交換を行う排気熱交換装置において、上記内燃機関のシリンダヘッドに固定される排気マニホールドを有している。この排気マニホールドは、上記排気ガスが流れる排気管部と、この排気管部の周囲を覆うケーシングと、を有するとともに、このケーシングと排気管部との間に、上記作動流体が流れる流体室が形成されている。そして、機関負荷が低い低負荷域では、この低負荷域よりも機関負荷が高い高負荷域に比して、上記流体室内を流れる作動流体の流通経路が長くなるように、機関負荷に応じて上記作動流体の流通経路を切り換えることを特徴としている。
【0008】
上記の「流通経路」とは、流体室内における平均的な流れの方向を意味しており、必ずしも冷却水の全量が流通経路に沿って流れるものではない。
【発明の効果】
【0009】
このような本発明によれば、内燃機関のシリンダヘッドに固定された排気マニホールドの部分で排気ガスと作動流体との熱交換を行うことができるために、例えば車両床下の排気管の近傍で熱交換を行う場合に比して、燃焼室に近く排気ガス温度の高い位置で熱交換を行うことができるために、熱交換の量や効率が大幅に向上する。
【0010】
そして、排気ガス温度が相対的に低い低負荷域では、作動流体の流通経路を長く確保することで、排気ガスと作動流体との熱交換効率を高めて、十分な熱回収量を確保することができるとともに、排気ガス温度が相対的に高く、熱交換が過剰となり易い高負荷域では、作動流体の流通経路を短くすることで、過剰な熱交換を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施例に係る排気マニホールドを示す斜視図。
【図2】図1の排気マニホールドの本体を示す斜視図。
【図3】図1の排気マニホールドの蓋体を示す斜視図。
【図4】図1のIV−IV線に沿う断面図。
【図5】図1のV−V線に沿う断面図。
【図6】図1のVI−VI線に沿う断面図。
【図7】本発明の第2実施例に係る排気マニホールドを示す斜視図。
【図8】本発明に係る排気熱交換装置の一例を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図示実施例に基づいて説明する。先ず、図8を参照して、本発明に係る排気熱交換装置の一例として、ランキンサイクルを利用した排気熱回収装置について説明する。なお、この装置の基本構成は上記の特開2010−77964号公報に記載のように公知である。
【0013】
この排気熱回収装置は、例えば車両に搭載され、車両の水冷式の内燃機関2を冷却するのに用いられる作動流体としての冷却水あるいはLLCが流れる冷却水回路4と、内燃機関2の排気ガスの熱エネルギーすなわち廃熱を回収するランキンサイクル6(以下、RC回路という)と、を備えている。冷却水回路4は、内燃機関2から延設される冷却水の循環路5に、冷却水の流れ方向から順に排気ガス熱交換器8、過熱器10、蒸発器12、ラジエータ14、サーモスタット16、冷却水ポンプ18が介挿されて閉回路を構成している。
【0014】
排気ガス熱交換器8は、内燃機関2を経由し、内燃機関2のシリンダブロック3やシリンダヘッド等の機関本体を冷却することにより加熱された冷却水(例えば95℃)を、内燃機関2の排気管9から排出される排気ガスと熱交換させて、所定の設定温度Ts(例えば130℃)まで更に加熱し、沸騰状態とする。また、排気ガス熱交換器8と過熱器10との間の循環路5には温度センサ20が装着され、温度センサ20は排気ガス熱交換器8の出口の冷却水温度Tcを検出する。ラジエータ14は、蒸発器12と直列に配列され、蒸発器12にて冷媒に吸熱されて冷却された冷却水を外気などとの熱交換により更に冷却する。
【0015】
サーモスタット16は、ラジエータ14へ通水される冷却水の量をサーモスタット16に流入する冷却水の温度に応じて制御する機械式の三方弁であって、2つの入口ポートと1つの出口ポートとを有している。2つの入口ポートには、ラジエータ14から延設される循環路5の流路5aと、蒸発器12とラジエータ14との間の循環路5の流路5bからラジエータ14を迂回して接続される循環路5のラジエータバイパス路5cとがそれぞれ接続され、これにより、ラジエータ14へ通水される冷却水の量が冷却水温度に応じて増減されて、冷却水温度、ひいてはシリンダブロック3の温度が適正に保持される。冷却水ポンプ18は、内燃機関2に装着され、内燃機関2の回転に連動して駆動されて冷却水を冷却水回路4に好適に循環させる機械式のポンプである。
【0016】
一方、RC回路6は、冷却水(作動流体)よりも沸点の低い例えばフロンR134aなどの冷媒の循環路7に、冷媒の流れ方向から順に蒸発器12、過熱器10、膨張機22、凝縮器24、気液分離器26、冷媒ポンプ(ポンプ)28が介挿されて閉回路を構成している。蒸発器12は、冷媒ポンプ28にて圧送された冷媒を内燃機関2、排気ガス熱交換器8、過熱器10を順次経由した冷却水(例えば110℃)と熱交換させて所定の蒸発温度(例えば90℃)にて蒸発させる。尚、冷媒の蒸発に伴い吸熱された冷却水は例えば100℃まで温度低下する。過熱器10は、蒸発器12を経由した冷媒を排気ガス熱交換器8を経由した冷却水(130℃)と熱交換させて過熱状態(例えば110℃)にする。
【0017】
膨張機22は、過熱器10を経由して過熱状態にされた冷媒を膨張させて駆動力を発生する回転機器であって、膨張機22には、膨張機22にて発生した駆動力を電力に変換して排気熱回収装置の外部で利用可能とする発電機30が機械的に連結されている。
【0018】
凝縮器24は、膨張機22を経由した冷媒を外気などとの熱交換により凝縮液化させる放熱器である。気液分離器26は、凝縮器24にて凝縮された冷媒を気液二層に分離し、ここで分離された液冷媒のみが冷媒ポンプ28側に流出される。冷媒ポンプ28は、気液分離器26にて分離された液冷媒を蒸発器12側に圧送し、RC回路6に好適に循環させる。このように構成される冷却水回路4及びRC回路6は、車両を総合的に制御する電子制御装置であるECU32により制御され、ECU32には、冷媒ポンプ28の駆動部が電気的に接続されている。
【0019】
そして、ECU32が内燃機関2の運転状況に応じて冷媒ポンプ28の駆動を制御することにより、排気熱回収装置は、内燃機関2の廃熱、即ち、シリンダブロック3及び排気ガスの廃熱を冷却水を介して回収する。RC回路6では、シリンダブロック3の廃熱で蒸発器12にて冷媒の蒸発が行われた後に、排気ガスの熱で過熱器10にて冷媒の過熱が行われ、段階的に過熱状態にされた冷媒は、膨張機22、発電機30を介して排気熱回収装置の外部にて利用可能なエネルギーを発生する。
【0020】
ここで、冷却水回路4には、内燃機関2を経由した冷却水を排気ガス熱交換器8及び過熱器10をバイパスして蒸発器12に直接に流入させるバイパス路34が設けられている。バイパス路34にはバイパス路34を流れる冷却水の流量を調整する流量調整弁36が介挿されており、ECU32には流量調整弁36の駆動部及び上述した温度センサ20も電気的に接続されている。そして、ECU32は、温度センサ20からの入力信号に応じて流量調整弁36の駆動部に駆動信号を出力することにより、バイパス路34を流れる冷却水の流量を調整し、排気ガス熱交換器8に流入する冷却水の流量を規制する流量制御を行っている。
【0021】
次に、本発明の第1実施例に係る排気熱交換装置の要部をなす排気マニホールド40の構造について、図1〜図6を参照して詳細に説明する。この排気マニホールド40は、図示せぬシリンダヘッドの排気側の側壁にボルトによって固定されるものであり、板状をなす取付フランジ部41には、上記のボルトが貫通する複数のボルト孔42が形成されている。図2にも示すように、この排気マニホールド40には、排気ガスが流れる排気管部43が設けられている。この排気管部43は、シリンダヘッドの排気側の側壁に開口する3つの排気ポートに連通する3本のブランチ管部44と、これら3本のブランチ管部44が下流側で合流・集合する集合管部45と、を有する枝管構造をなしている。ブランチ管部44の上流側端部は取付フランジ部41の外側の側面に開口している。集合管部45は、後述するケーシング47の本体48より突出する下流側のフランジ部46に、図示せぬ排気管が接続される。
【0022】
図1にも示すように、排気マニホールド40は、上記の排気管部43を覆うケーシング47を有している。このケーシング47は、枝管形状をなす排気管部43の形状に対応して、ブランチ管部44が並設された気筒列方向α1に幅広な箱形の形状をなしており、そのシリンダヘッド側の側壁を構成する上記の取付フランジ部41と上壁と下壁とが平坦な板状をなす一方、取付フランジ部41よりも反シリンダヘッド側の側壁が、両側のブランチ管部44に沿うように半円弧状に湾曲している。このケーシング47と排気管部43の間に形成される空間が、作動流体としての冷却水が流れる冷却水室(流体室)R1を構成している。
【0023】
また、このケーシング47は、上方が開放する深底形状の本体48(図2参照)と、この本体48の上面を閉塞する浅底形状の蓋体49(図3参照)と、により上下に分割構成されており、両者48,49は、ボルト孔50を貫通・螺合する複数本のボルトによって液密に固定される。そして、蓋体49の裏面側・下面側に、後述する熱交換器51が予め取り付けられており、組付状態では冷却水が満たされた冷却水室R1内に熱交換器51が配置される。
【0024】
なお、これらのケーシング47,排気管部43及び熱交換器51等の排気マニホールドを構成する各部品は、耐熱性・強度に優れたアルミ合金等の金属材料により形成されている。
【0025】
図5及び図6にも示すように、熱交換器51は、偏平形状をなす複数の冷媒管部52が所定間隙を隔てて積層配置されており、各冷媒管部52の内部に、冷媒が流れる冷媒室R2が形成されている。この冷媒室R2内を流れる冷媒と、冷却水室R1内における隣り合う冷媒管部52の間の隙間53を流れる冷却水と、の間で熱交換がなされるように構成されている。複数の冷媒管部52は、その積層方向(図5及び図6の上下方向)に貫通する複数の支持部54により固定・支持されている。図3,図5及び図6に示すように、複数の支持部54のうちの2つは、内部に冷媒通路55が形成された筒状をなし、この冷媒通路55が各冷媒管部52内の冷媒室R2と連通している。冷媒は、ケーシング47の上面に開口する冷媒入口56より一方の支持部54の冷媒通路55に導入され、各冷媒管部52内の冷媒室R2を流れた後、他方の支持部54の冷媒通路55を経由して、ケーシング47の上面に開口する冷媒出口57より排出される。なお、図示していないが、冷媒入口56や冷媒出口57には適宜な冷媒配管が接続される。
【0026】
また、冷媒管部52の外面には、隣り合う冷媒管部52の隙間へ向けて張り出した複数の突条58が所定間隔置きに平行に形成されている。各突条58は、機関幅方向α2に帯状に延在しており、従って、隣り合う突条58の間には、機関幅方向α2に延びる溝が形成されている。
【0027】
このような本実施例の排気マニホールド40にあっては、排気管部43を流れる排気ガスと冷却水室R1内を流れる冷却水との熱交換部が、図8のランキンサイクル(RC回路)6における排気ガス熱交換器8として機能し、冷却水室R1を流れる冷却水と冷媒管部52内の冷媒室R2内を流れる冷媒との間で熱交換が行われる熱交換器51が、図8のランキンサイクル6における蒸発器12及び過熱器10の少なくとも一方として機能している。
【0028】
そして本実施例にあっては、内燃機関の機関負荷(出力・要求トルク)によって排気ガス温度が異なることから、機関負荷に応じて、冷却水室R1内を流れる冷却水の流通経路を切り換えている。つまり、排気ガス温度が低い(例えば400℃以下)低負荷域では、熱交換の効率を高めて、十分な熱交換量・熱回収量を確保するために、この低負荷域よりも機関負荷が高く排気ガス温度が高い(例えば800℃以上)高負荷域に比して、冷却水室R1内を流れる冷却水の流通経路が長くなるように構成している。
【0029】
このような流通経路の切換を実現する具体的な構造について、図面を参照して説明する。ケーシング47の上壁には、冷却水室R1から冷却水を排出する冷却水出口60が開口形成されているとともに、ケーシング47の下壁には、冷却水室R1へ冷却水を導入する冷却水入口として、低負荷域で用いられる低負荷用冷却水入口61と、高負荷域で用いられる高負荷用冷却水入口62と、の2つが形成されている。これらの低負荷用冷却水入口61と高負荷用冷却水入口62にそれぞれ接続する冷却水配管には、上記のECU32により開閉制御される切換弁63,64が設けられている。低負荷域では、低負荷用冷却水入口61側の切換弁63が「開」、高負荷用冷却水入口62側の切換弁64が「閉」とされ、高負荷域では、低負荷用冷却水入口61側の切換弁63が「閉」、高負荷用冷却水入口62側の切換弁64が「開」とされる(流路切換手段)。
【0030】
図1にも示すように、冷却水出口60は、気筒列方向α1に関して一方の端部寄りに配置されるとともに、機関幅方向α2に関して、シリンダヘッドから遠い側の端部寄りに配置されている。低負荷用冷却水入口61は、冷却水出口60の下方付近に配置されており、つまり冷却水出口60と同様に、気筒列方向α1に関して一方の端部寄りに配置されるとともに、機関幅方向α2に関して、シリンダヘッドから遠い側の端部寄りに配置されている。一方、高負荷用冷却水入口62は、気筒列方向α1に関してケーシング47の中央に配置されるとともに、機関幅方向α2に関しては、冷却水出口60や低負荷用冷却水入口61とは逆に、シリンダヘッドに近い端部寄りに配置されている。
【0031】
ここで、図2及び図6に示すように、冷却水出口60と低負荷用冷却水入口61とが配置される気筒列方向α1に関して一方の端部寄りの部分では、ケーシング47の内面と排気管部43の外面とにわたって隔壁65が一体的に設けられており、つまりケーシング47と排気管部43との隙間が隔壁65によって閉塞されている。一方、気筒列方向α1に関して反対側の端部寄りの部分66には、上記の隔壁65が設けられておらず、ケーシング47と排気管部43との隙間を通して冷却水が上下に流通可能となっている。
【0032】
図4及び図5は、高負荷域における冷却水室R1内の冷却水の主たる流通経路を示している。図2及び図4に示すように、排気マニホールド40にあっては、隣り合うブランチ管部44の間に大きなブランチ間隙67が、機関幅方向α2についてシリンダヘッド寄りの部分に形成されている。従って、機関幅方向α2についてシリンダヘッド寄りに配置された高負荷用冷却水入口62から導入された冷却水は、図4の矢印Y1に示すように、その大部分が、ブランチ間隙67を通して、機関上下方向α3に沿って上方側へと流れることで、排気ガスと冷却水との熱交換が行われ、次いで、図5の矢印Y2に示すように、熱交換器51における冷媒管部52の隙間53を機関幅方向α2に沿って流れることで、排気ガスにより加熱された排気ガスと冷媒との熱交換が行われた後、冷却水出口60より排出される。
【0033】
このように、高負荷域にあっては、機関上下方向α3及び機関幅方向α2に沿う冷却水流れが形成され、つまり流通経路が機関上下方向α3及び機関幅方向α2に沿うものとなるために、後述する低負荷域に比して流通経路が短いものとなる。
【0034】
次に、図6は、低負荷域における冷却水室R1内の冷却水の主たる流通経路を示している。図6に示すように、機関幅方向α2についてシリンダヘッドより遠い側の部分においては、上述したブランチ間隙67が存在せず、間隙のない一本の集合管部45が気筒列方向に広く延在しており、かつ、低負荷用冷却水入口61が設けられた気筒列方向の一方の端部寄りの部分では、ケーシング47と排気管部43との上下方向の隙間が隔壁65によって閉塞されている。従って、低負荷用冷却水入口61から導入された冷却水は、図6の矢印Y3に示すように、その大部分が、集合管部45の下方の隙間を気筒列方向α1に沿って流れた後、図6の矢印Y4に示すように、気筒列方向で隔壁65のないケーシング47と排気管部43との隙間の部分66を通して、上方側へと流れることで、排気ガスと冷却水との熱交換が行われる。そして、図6の矢印Y5に示すように、熱交換器51内における隣り合う冷媒管部52の隙間を気筒列方向に沿って流れることで、排気ガスによる加熱後の冷却水と冷媒との間で熱交換が行われた後、冷却水出口60より排出される。
【0035】
このように、低負荷域にあっては、主として気筒列方向α1に沿う冷却水流れが形成され、流通経路が気筒列方向α1に沿うものとなる。排気マニホールド40は、ケーシング47及びその内部の冷却水室R1を含めて、複数のブランチ管部44が並設される気筒列方向α1の寸法が、機関幅方向α2の寸法や機関上下方向α3の寸法に比して長い形状となっている。従って、この低負荷域においては、上記の高負荷域に比して流通経路が長くなる。また、この低負荷域では、冷却水が熱交換器51内の隙間53を気筒列方向α1に流れる際に、機関幅方向α2に延在する複数の突条58を乗り越える形となり、これらの突条58によって通水抵抗が増し、機関幅方向α2に冷却水が流れる高負荷域に比して、その流量つまり流速が小さなものとなる。
【0036】
以上のように本実施例においては、内燃機関のシリンダヘッドに固定され、燃焼室に近く排気ガス温度の高い排気マニホールド40の部分で、排気ガスと冷却水との熱交換、更には冷却水と冷媒との熱交換を行うようにしたので、その熱回収効率・熱回収量が向上し、廃熱の利用効率が向上するために、燃費性能を向上することができる。しかも、これらの熱交換部分を排気マニホールド40の部分に集約して設けることができるために、例えば排気ガスと冷却水との熱交換器を床下の排気管の近傍に配置した場合に比して、冷却水の配管長さを短縮し、構成の簡素化・軽量化・小型化等を図ることができる。
【0037】
また、排気ガス温度が低い低負荷域にあっては、冷却水の流通経路が長くなり、かつ、冷却水の流量・流速が小さくなる。つまり、冷却水が長い時間をかけて冷却水室R1内をゆっくりと流通することとなる。このために、排気ガスから冷却水、更には冷却水から冷媒への熱交換・熱回収の効率が向上し、排気ガスの温度が低い低負荷域であるにもかかわらず、十分な熱回収量を確保して、燃費性能を向上することができるとともに、低負荷域での冷却水の温度を高めることで、例えば内燃機関の暖機を促進するなどの効果が得られる。
【0038】
一方、排気ガス温度が高い高負荷域にあっては、冷却水の流通経路が短くなり、かつ、冷却水の流量・流速が大きくなる。つまり、大量の冷却水が一気に冷却水室R1内を流通することとなる。このために、排気ガスから冷却水、更には冷却水から冷媒への熱交換・熱回収の効率は低くなり、冷却水や冷媒の過剰な温度上昇を抑制することができる。このために、冷却水の過熱によるラジエータ14のオーバーヒート等を抑制・回避することができる。その一方で、冷却水の流量は多くなるために、排気ガスの過熱を抑制するとともに、排気マニホールド40を含めた排気系部品の過度な温度上昇を抑制することができる。
【0039】
また、車載状態でケーシング47における天地方向の地側となる底面側に、冷却水入口61,62を設けるとともに、天地方向の天側となる上面に冷却水出口60を設けたので、冷却水室R1内に混入した気泡を天側の冷却水出口60より良好に排出することができる。
【0040】
図7は、本発明の第2実施例に係る排気マニホールド40Aを示しており、第1実施例と異なる部分についてのみ説明する。この第2実施例の排気マニホールド40Aでは、内部に冷却水室R1Aが形成されたケーシング47の更に外側を覆うように外側ケーシング70が設けられており、この外側ケーシング70と内側のケーシング47との間の空間が、冷媒が流れる冷媒室R2Aを構成している。つまり、排気管部43と内側のケーシング47と外側ケーシング70とにより三重管構造を呈している。また、ケーシング47の外面には、冷媒室R2A側へ張り出した複数の突起部71が所定間隔置きに形成されている。これらの突起部71は、冷媒の流れ方向Y6と直交する方向に延在している。つまり、ケーシング47の外面に、冷媒の流れ方向Y6に直交する凹凸が形成されている。
【0041】
このように第2実施例の三重管構造の排気マニホールド40にあっては、上記第1実施例のような熱交換器51を設けることなく、排気ガスと冷却水との熱交換部と、冷却水と冷媒との熱交換部との双方を設けることができ、更なる簡素化・軽量化を図ることができる。また、上記の突起部71によって、冷媒の流通抵抗を増加させることで、冷媒の流量・流速を小さくして、冷媒室R2A内の冷媒流れを緩慢なものとすることで、冷却水と冷媒との熱交換の効率を更に高めることができる。
【0042】
以上のように本発明を具体的な実施例に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変形・変更を含むものである。例えば、突条58の位置や形状は上記実施例のものに限られず、ケーシング47の内壁面や排気管部43の外壁面に、流量・流速を調整する突条を設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0043】
40,40A…排気マニホールド
43…排気管部
44…ブランチ管部
45…集合管部
47…ケーシング
51…熱交換器
52…冷媒管部
58…突条
65…隔壁
R1,R1A…冷却水室(流体室)
R2,R2A…冷媒室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気ガスと作動流体との間で熱交換を行う排気熱交換装置において、
上記内燃機関のシリンダヘッドに固定される排気マニホールドを有し、
この排気マニホールドは、上記排気ガスが流れる排気管部と、この排気管部の周囲を覆うケーシングと、を有するとともに、このケーシングと排気管部との間に、上記作動流体が流れる流体室が形成され、
機関負荷が低い低負荷域では、この低負荷域よりも機関負荷が高い高負荷域に比して、上記流体室内を流れる作動流体の流通経路が長くなるように、機関負荷に応じて上記作動流体の流通経路を切り換えることを特徴とする排気熱交換装置。
【請求項2】
上記排気マニホールドの排気管部が、上記シリンダヘッドの複数の排気ポートに連通する複数のブランチ管部を有し、
上記流体室は、上記複数のブランチ管部が並設される気筒列方向寸法が、この気筒列方向寸法に直交する機関幅方向寸法もしくは機関上下方向寸法よりも長く設定されており、
上記低負荷域では、上記気筒列方向に沿って作動流体の流れを形成し、
上記高負荷域では、上記機関幅方向もしくは機関上下方向に沿って作動流体の流れを形成することを特徴とする請求項1に記載の排気熱交換装置。
【請求項3】
上記低負荷域では、高負荷域に比して、上記流体室内を流れる作動流体の流量もしくは流速を小さくすることを特徴とする請求項1又は2に記載の排気熱交換装置。
【請求項4】
上記低負荷域での作動流体の流通方向に平行で、かつ、上記高負荷域での作動流体の流通方向に直交する方向に延在する突条を上記流体室内に設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の排気熱交換装置。
【請求項5】
上記ケーシングにおける天地方向の地側に、上記流体室へ作動流体を導入する流体入口を設けるとともに、天側に、上記流体室から作動流体を排出する流体出口を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の排気熱交換装置。
【請求項6】
上記流体室内へ作動流体を導入する流体入口として、上記低負荷域で用いられる低負荷用流体入口と、上記高負荷域で用いられる高負荷用流体入口と、を有するともに、
機関負荷に応じて上記低負荷用入口と高負荷用入口とを切り換える切換手段を有し、
上記高負荷用流体入口の上方には、上記ケーシングと排気管部との隙間を塞ぐ隔壁が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の排気熱交換装置。
【請求項7】
上記排気マニホールドに、上記作動流体よりも沸点の低い冷媒が流れる冷媒室が形成され、この冷媒室は、上記冷媒と上記流体室内の作動流体との間で熱交換が行われるように、上記冷媒室に近接して配置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の排気熱交換装置。
【請求項8】
上記低負荷域では、上記高負荷域に比して、上記作動流体から上記冷媒への熱回収量が増大するように、機関負荷に応じて、上記流体室内を流通する作動流体の流通経路及び流量の少なくとも一方を変更することを特徴とする請求項7に記載の排気熱交換装置。
【請求項9】
上記排気マニホールドの流体室内に熱交換器が設置され、
この熱交換器は、複数の偏平な冷媒管部が所定の間隙を隔てて積層配置され、各冷媒管部内に、上記冷媒が流れる冷媒室が形成されるとともに、隣り合う冷媒管部の隙間を上記作動流体が流れ、
上記低負荷域では、上記冷媒管部の隙間を作動流体が気筒列方向に沿って流れ、
上記高負荷域では、上記冷媒管部の隙間を作動流体が機関幅方向に沿って流れるように構成されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の排気熱交換装置。
【請求項10】
上記冷媒管部の外面より上記冷媒管部の隙間側へ張り出して、上記機関幅方向に沿って延びる複数の突条を有することを特徴とする請求項9に記載の排気熱交換装置。
【請求項11】
上記排気マニホールドが、上記ケーシングの周囲を覆う外側ケーシングを有し、上記ケーシングと外側ケーシングとの間に、上記冷媒が流れる上記冷媒室が形成されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の排気熱交換装置。
【請求項12】
上記冷媒室内に、上記冷媒の流れ方向に対して直交する方向に延在する突起部が設けられていることを特徴とする請求項11に記載の排気熱交換装置。
【請求項13】
上記作動流体を介して排気ガスの熱エネルギーを回収する排気熱回収装置を備えることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の記載の排気熱交換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−127220(P2012−127220A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277655(P2010−277655)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】