説明

排水処理方法および排水処理システム

【課題】逆浸透膜を用いた処理において、原排水中の各種成分を効率良く除去でき、逆浸透膜の洗浄排液を有効に活用できる排水処理方法および排水処理システムを提供する。
【解決手段】原排水1をアルカリ凝集沈殿槽12でアルカリ凝集沈殿させて、生成した沈殿物4を分離し、得られたアルカリ凝集沈殿処理水3を逆浸透膜処理装置14で処理して、透過水7を得る。逆浸透膜処理装置14に備えられた逆浸透膜はアルカリ性の洗浄薬液6で洗浄し、このとき発生した洗浄排液9はアルカリ凝集沈殿槽12かそれより前段の原排水貯留槽11等に返送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ凝集沈殿処理と逆浸透膜処理を有する排水処理方法およびその処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、逆浸透膜を用いた排水の処理方法が知られており、逆浸透膜処理においては定期的に洗浄薬液で逆浸透膜を洗浄することが一般的である。例えば特許文献1には、酵素剤を含む洗浄液やアルカリを用いて逆浸透膜を洗浄する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−22896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
逆浸透膜処理は非常に高度な処理であるため、基本的には逆浸透膜処理における処理負荷を前処理により減らして処理量を高めることが好ましい。同時に、逆浸透膜の洗浄頻度を下げるとともに、逆浸透膜の洗浄に伴い発生する排液量を減らすことが好ましい。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、逆浸透膜を用いた処理において、原排水中の各種成分を効率良く除去でき、逆浸透膜の洗浄排液を有効に活用できる排水処理方法および排水処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することができた本発明の排水処理方法とは、原排水をアルカリ性条件下で凝集沈殿させて、生成した沈殿物を分離するアルカリ凝集沈殿工程と;アルカリ凝集沈殿工程で沈殿物を分離して得られたアルカリ凝集沈殿処理水を、逆浸透膜で処理して透過水を得る逆浸透膜処理工程と;逆浸透膜をアルカリ性の洗浄薬液で洗浄するアルカリ洗浄工程と;アルカリ洗浄工程から排出される洗浄排液を、アルカリ凝集沈殿工程かそれより前段の工程に返送する洗浄排液返送工程とを有するところに特徴を有する。本発明の排水処理方法は、アルカリ凝集沈殿工程と逆浸透膜処理工程を有しているため、原排水中の各種成分、特に溶解性の無機成分を効率良く除去できる。また、アルカリ洗浄工程と洗浄排液返送工程を有しているため、逆浸透膜の洗浄排液の処理が不要になり、アルカリ凝集沈殿工程で使用するアルカリ性の凝集薬剤の使用量を低減でき、場合によっては、アルカリ性の凝集薬剤の使用を完全代替できる。
【0007】
洗浄排液は、直接アルカリ凝集沈殿工程に返送してもよいし、他の工程を介してアルカリ凝集沈殿工程に返送してもよい。後者の場合、アルカリ凝集沈殿工程の前段に、原排水を原排水貯留槽に貯留する原排水貯留工程を設け、洗浄排液を原排水貯留工程に返送する方法や;洗浄排液を洗浄排液貯留槽に貯留する洗浄排液貯留工程を設け、洗浄排液貯留槽から洗浄排液をアルカリ凝集沈殿工程かそれより前段の工程に返送する方法を採用すればよい。
【0008】
本発明はまた、本発明の排水処理方法を好適に実施するための排水処理システムとして、原排水をアルカリ性条件下で凝集沈殿させるアルカリ凝集沈殿槽と;アルカリ凝集沈殿槽からの上澄みであるアルカリ凝集沈殿処理水を処理する逆浸透膜を備えた逆浸透膜装置と;逆浸透膜装置にアルカリ性の洗浄薬液を供給する洗浄薬液供給手段と;逆浸透膜装置から排出される前記洗浄薬液の洗浄排液を、前記アルカリ凝集沈殿槽かそれより前段に返送する洗浄排液返送手段とを有する排水処理システムを提供する。
【0009】
本発明の排水処理システムは、さらに原排水を貯留する原排水貯留槽を有し、洗浄排液返送手段が、原排水貯留槽に洗浄排液を返送するものであってもよい。あるいは、本発明の排水処理システムは、さらに洗浄排液を貯留する洗浄排液貯留槽を有し、洗浄排液返送手段が、洗浄排液貯留槽から洗浄排液を返送するものであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の排水処理方法および排水処理システムは、原排水中の各種成分、特に溶解性の無機成分を効率良く除去できる。また、逆浸透膜の洗浄排液の処理も不要になり、アルカリ凝集沈殿処理で使用するアルカリ性の凝集薬剤の使用量を低減でき、場合によっては、アルカリ性の凝集薬剤の使用を完全代替できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の排水処理方法に好適に使用される排水処理システムの一例を表す。
【図2】本発明の排水処理方法に好適に使用される排水処理システムの他の一例を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の排水処理方法は、原排水を、アルカリ凝集沈殿処理と逆浸透膜処理を行って、処理水(透過水)を得るものである。すなわち、本発明の排水処理方法は、原排水をアルカリ性条件下で凝集沈殿させて、生成した沈殿物を分離するアルカリ凝集沈殿工程と、アルカリ凝集沈殿工程で沈殿物を分離して得られたアルカリ凝集沈殿処理水を、逆浸透膜で処理して透過水を得る逆浸透膜処理工程とを有している。なお本発明において、アルカリ凝集沈殿工程における処理を「アルカリ凝集沈殿処理」と称する場合があり、逆浸透膜処理工程における処理を「逆浸透膜処理」と称する場合がある。
【0013】
本発明の処理方法において処理対象となる原排水は特に限定されないが、アルカリ凝集沈殿処理と逆浸透膜処理に適した原排水として、金属イオンを含有する原排水を用いることが好ましい。原排水中に金属イオンが含まれていれば、アルカリ凝集沈殿処理および/または逆浸透膜処理により原排水から金属イオンが好適に除去される。アルカリ凝集沈殿処理で金属イオンを除去する点からは、原排水には周期律表の第2族〜第13族の元素のうち少なくとも1種がイオン形態で含まれることが好ましい。アルカリ凝集沈殿処理での金属イオン除去効率を高める点からは、ある程度の濃度で原排水中に金属イオンが存在していることが好ましく、従ってこのような観点から、原排水には、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、鉛、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素がイオン形態で含まれることが好ましい。
【0014】
原排水には、有機成分や上記以外の無機成分も含有してもよい。例えば、原排水が有機成分を含有していれば、後述するように、逆浸透膜をアルカリ性の洗浄薬液で洗浄することにより膜透過流速の回復等の洗浄効果を得やすくなる。
【0015】
本発明の処理方法の対象となる原排水としては、製鉄、鉄鋼、非鉄金属、機械、金属加工、めっき、塗装、セメント等の工場からの排水や、埋立浸出水等が挙げられる。
【0016】
アルカリ凝集沈殿工程では、原排水をアルカリ性条件下で凝集沈殿させて、生成した沈殿物を分離する。原排水中に金属イオンが含まれていれば、原排水をアルカリ性にすることで金属イオンが水酸化物として沈殿する。従って、生成した金属水酸化物等の沈殿物を分離することで、原排水から金属成分をある程度除去することができる。
【0017】
アルカリ凝集沈殿処理する際のpHは7より大きくすればよく、pHは原排水に含まれる金属イオンの種類に応じて適宜調整すればよい。例えば、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを対象とする場合はpHを10以上14以下に調整することが好ましく、亜鉛イオンを対象とする場合はpHを7より大きく11以下に調整することが好ましい。
【0018】
アルカリ凝集沈殿工程では、アルカリ性の凝集薬剤を加えて原排水をアルカリ性にすることが好ましい。アルカリ性の凝集薬剤としてはアルカリ性を示すものであれば特に限定されず、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属塩、アンモニア等を用いることができる。なお、アンモニアは可溶性の塩を生成する場合があることから、汎用性に劣る場合がある。また、アルカリ土類金属水酸化物やアルカリ土類金属塩は、アルカリ凝集沈殿処理で自らが沈殿生成して沈殿物発生量を増加させるため、好ましくない場合がある。従って、アルカリ性の凝集薬剤としては、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属塩を用いることが好ましく、安価に入手可能な点から、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムを用いることが好ましい。
【0019】
アルカリ凝集沈殿工程では、アルカリ性の凝集薬剤を添加するだけでは固液分離性の良好な沈殿物が得られない場合がある。そのような場合は、生成した沈殿物の凝集性や沈降性を改善するために、アルカリ性の凝集薬剤に加え凝集助剤を添加することが好ましい。凝集助剤としては、ポリ塩化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、ポリ硫酸第二鉄等の無機凝集剤や、陰イオン性ポリマー(例えば、ポリアクリルアミド部分加水分解塩、ポリアクリル酸等)、陽イオン性ポリマー(例えば、ポリエチレンイミン、第4級アンモニウム塩等)、非イオン性ポリマー(例えば、ポリアクリルアミド、ポリオキシエチレン等)等の有機高分子凝集剤を用いることができる。
【0020】
アルカリ凝集沈殿工程で生成した沈殿物は、公知の固液分離手段により分離すればよい。例えば、アルカリ凝集沈殿槽でアルカリ凝集沈殿処理を行い、沈殿槽の下部から沈殿物を引き抜き、沈殿槽の上部から上澄みをアルカリ凝集沈殿処理水として得ればよい。
【0021】
アルカリ凝集沈殿処理工程で沈殿物を分離して得られたアルカリ凝集沈殿処理水は、逆浸透膜で処理することにより透過水を得る。アルカリ凝集沈殿処理水を逆浸透膜で処理することにより、アルカリ凝集沈殿処理で除去しきれなかった金属イオン等の各種成分を除去することができる。逆浸透膜処理により、アルカリ凝集沈殿処理水中に含まれる溶解性成分、不溶性成分、無機成分、有機成分を問わず除去することができ、これらの成分の除去率を高めることで、飲用等も可能な高純度な水を透過水として得ることができる。なお前記除去率は、求められる透過水質に応じて、適宜設定すればよい。
【0022】
逆浸透膜は公知のものを使用することができ、その形式や素材は特に限定されない。逆浸透膜としては、例えば、中空糸膜、スパイラル膜、チューブラ膜等の形式の膜を使用すればよく、膜の素材(構成材料)としては、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルフォン等が挙げられる。
【0023】
アルカリ凝集沈殿処理工程で得られたアルカリ凝集沈殿処理水は、逆浸透膜で処理するのに先立って、酸性薬剤で中和することが好ましい。アルカリ凝集沈殿処理水を酸性薬剤で中和することにより、金属水酸化物等が逆浸透膜の表面等でスケール生成しにくくなり、逆浸透膜処理を好適に行いやすくなる。アルカリ凝集沈殿処理水を酸性薬剤で中和する場合、中和後のアルカリ凝集沈殿処理水のpHは特に限定されず、中和前よりもpHが低下すればよい。酸性薬剤としては、硫酸、塩酸、炭酸(二酸化炭素)等の無機酸が好適に用いられる。アルカリ凝集沈殿処理水を酸性薬剤で中和することにより沈殿物が生成する場合は、生成した沈殿物を公知の固液分離手段(例えば、沈殿分離等)で分離することが好ましい。
【0024】
アルカリ凝集沈殿処理水は、逆浸透膜で処理するのに先立って、精密ろ過膜(以下、「MF膜」と称する)および/または限外ろ過膜(以下、「UF膜」と称する)で処理することも好ましい。逆浸透膜処理の前処理として、アルカリ凝集沈殿処理水をMF膜やUF膜で処理することにより、アルカリ凝集沈殿処理で除去しきれなかった沈殿物を固液分離することができ、逆浸透膜処理での膜の目詰まりを起こりにくくすることができる。
【0025】
MF膜やUF膜としては公知のものを使用すればよく、その形式や素材は特に限定されない。MF膜やUF膜としては、例えば、中空糸膜、管状膜、平板状膜、モノリス膜等の形式の膜を使用すればよく、これらの膜の素材としては、酢酸セルロース、ポリスルフォン、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル等の有機膜;アルミナやジルコニア等の無機膜等が挙げられる。
【0026】
アルカリ凝集沈殿処理水をMF膜やUF膜で処理する場合、膜の目詰まりが起こったり膜透過流速が低下した場合には、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤により膜洗浄を行うことが好ましい。アルカリ凝集沈殿処理水に酸化剤を添加した場合は、逆浸透膜の劣化を防止するため、膜洗浄後の酸化剤を含むアルカリ凝集沈殿処理水に還元剤(例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等)を添加することが好ましい。
【0027】
アルカリ凝集沈殿処理水には、逆浸透膜処理の際、あるいは逆浸透膜処理に先立って、スケール分散剤が添加されることが好ましい。アルカリ凝集沈殿処理水にスケール分散剤を添加することにより、逆浸透膜の目詰まりや膜透過流速の低下を防止しやすくなる。スケール分散剤は、MF膜やUF膜で処理する際に添加されてもよい。スケール分散剤としては公知のものを使用すればよく、例えば、ホスホン酸基含有化合物、カルボキシル基含有ポリマー、スルホン基含有ポリマー、前記ポリマーの水溶性塩等を用いることができる。
【0028】
アルカリ凝集沈殿処理水はまた、逆浸透膜で処理するのに先立って、活性炭で処理することも好ましい。具体的には、例えば、活性炭を充填したカラムにアルカリ凝集沈殿処理水を通過させればよい。アルカリ凝集沈殿処理水を活性炭で処理することにより、アルカリ凝集沈殿処理水中の溶解性成分の一部が吸着除去され、逆浸透膜処理の負荷を低減することができる。
【0029】
上記説明した酸性薬剤による中和、MF膜やUF膜による処理、活性炭による処理は、複数組み合わせて行ってもよい。さらに、公知の水処理操作(例えば、キレート処理等)をアルカリ凝集沈殿処理水に適用してもよい。
【0030】
ところで、逆浸透膜処理工程では、逆浸透膜処理を継続するにつれて、逆浸透膜の表面に有機物が付着する等して膜の目詰まりや膜透過流速の低下が起こる。膜の目詰まり等を引き起こす有機物は、原排水中に含まれ得る有機物、アルカリ凝集沈殿処理で使用する有機高分子凝集剤、アルカリ凝集沈殿処理水に添加するスケール分散剤、その他適宜使用される有機薬剤(例えば、界面活性剤等)に由来すると考えられる。たとえ原排水中に有機物が含まれていなくても、アルカリ凝集沈殿処理や逆浸透膜処理では何かしらの有機薬剤が添加されるのが一般的である。また、逆浸透膜の表面には微生物が繁殖する場合もあり、そのような場合は、膜の表面には微生物やその代謝物(例えば、タンパク質、多糖類、フミン質等)が付着する。
【0031】
そこで本発明の排水処理方法では、逆浸透膜をアルカリ性の洗浄薬液で洗浄するアルカリ洗浄工程を設けている。逆浸透膜をアルカリ性の薬剤で洗浄することにより、逆浸透膜の表面に付着した有機物等を除去することができ、その結果、逆浸透膜処理において低下した膜透過流速を回復させることができる。アルカリ洗浄工程は常時行うものではなく、例えば1日に1回行う等、定期的に行ったり、膜透過流速を計測しながら膜透過流速が所定レベル以下まで低下した場合に随時行えばよい。アルカリ洗浄工程を行っている間は、上記の逆浸透膜処理工程は行わない(中断する)ことが好ましい。使用する洗浄薬液の量は洗浄効果に応じて適宜調整されるが、例えば、逆浸透膜処理に供する水量の3%〜15%程度が好ましい。
【0032】
アルカリ洗浄工程で使用する洗浄薬液としては、アルカリ性の薬剤であれば特に限定されないが、逆浸透膜の表面で洗浄薬液に由来するスケールを発生しにくくする点から、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましく、安価に入手可能な点から、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。洗浄薬液のpHとしては、効率的に洗浄を行うとともに、機器の腐食防止等の観点から、10以上13以下が好ましい。
【0033】
アルカリ洗浄工程では、アルカリ性の洗浄薬液に加え、界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム等)やキレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等)等を併用してもよい。このような薬剤を併用することにより、逆浸透膜の洗浄効果が高められる場合がある。
【0034】
アルカリ洗浄工程からは、逆浸透膜を洗浄薬液で洗浄することにより発生した洗浄排液、すなわち洗浄薬液の洗浄排液が排出される。洗浄排液は、アルカリ性の洗浄薬液が逆浸透膜と接触することにより生成するものである。洗浄排液は、洗浄薬液が逆浸透膜と直接的に接触したものでもよく、洗浄薬液が逆浸透膜に付着した有機物等を介して逆浸透膜と間接的に接触したものでもよく、いずれも洗浄排液に含まれる。
【0035】
本発明の排水処理方法では、アルカリ洗浄工程から排出された洗浄排液を、アルカリ凝集沈殿工程かそれより前段の工程に返送する洗浄排液返送工程を設けている。アルカリ洗浄工程から排出される洗浄排液をアルカリ凝集沈殿工程かそれより前段の工程に返送することにより、洗浄排液の処理が不要になり、また、アルカリ凝集沈殿工程で使用するアルカリ性の凝集薬剤の使用量を低減でき、場合によっては、アルカリ性の凝集薬剤の使用を完全代替できる。洗浄排液はアルカリ性であることが好ましく、具体的にはpHが7より大きいことが好ましい。
【0036】
洗浄排液は、直接アルカリ凝集沈殿工程に返送してもよいし、他の工程を介してアルカリ凝集沈殿工程に返送してもよい。後者の場合について、2つの例を挙げて説明する。
【0037】
1つ目の例として、アルカリ凝集沈殿工程の前段に、原排水を原排水貯留槽に貯留する原排水貯留工程を設け、洗浄排液を原排水貯留工程に返送する方法が挙げられる。原排水貯留槽に洗浄排液を返送することにより、原排水貯留槽がアルカリ凝集沈殿工程に対するバッファー機能を有するようになり、アルカリ凝集沈殿処理を安定して行いやすくなる。
【0038】
2つ目の例として、洗浄排液を洗浄排液貯留槽に貯留する洗浄排液貯留工程を設け、洗浄排液貯留槽から洗浄排液をアルカリ凝集沈殿工程に返送する方法が挙げられる。洗浄排液は常時排出されるものではないため、洗浄排液を貯留する洗浄排液貯留槽を設けることにより、洗浄排液を一時的に洗浄排液貯留槽に貯めて、洗浄排液を洗浄排液貯留槽から少量ずつアルカリ凝集沈殿工程に返送することで、アルカリ凝集沈殿処理を安定して行いやすくなる。
【0039】
次に、本発明の排水処理方法に好適に使用される排水処理システムの一例について、図1を参照して説明する。なお、本発明の範囲は、下記実施態様に限定されるものではない。
【0040】
本発明の排水処理システムは、原排水1をアルカリ性条件下で凝集沈殿させるアルカリ凝集沈殿槽12と、アルカリ凝集沈殿槽12からの上澄みであるアルカリ凝集沈殿処理水3を処理する逆浸透膜を備えた逆浸透膜装置14とを有する。
【0041】
図1に示した排水処理システムにおいて、原排水はまず原排水貯留槽11で貯留される。原排水貯留槽11は必要に応じて設けられ、アルカリ凝集沈殿処理に対するバッファー機能を有する。
【0042】
原排水貯留槽11で貯留された原排水1は、アルカリ凝集沈殿槽12に供給される。アルカリ凝集沈殿槽12では、原排水1をアルカリ性条件下で凝集沈殿させることにより、沈殿物4が生成する。この際、アルカリ凝集沈殿槽12にはアルカリ性の凝集薬剤2を加え、原排水1をアルカリ性にすることが好ましい。凝集薬剤2を供給するための手段として、アルカリ凝集沈殿槽12に連通する凝集薬剤供給手段が設けられることが好ましく、図1では、凝集薬剤添加手段としてポンプ21が設けられている。
【0043】
アルカリ凝集沈殿槽12で生成した沈殿物4は沈殿槽12の下部から引き抜かれ、沈殿槽12の上部からは上澄みとしてアルカリ凝集沈殿処理水3が得られる。アルカリ凝集沈殿処理水3は中和槽13に送られ、中和槽13で酸性薬剤5により中和される。なお、中和槽13は必要に応じて設けられるものである。また図1では、酸性薬剤5を中和槽13に供給するための手段として、中和槽13に連通した酸性薬剤供給手段(図1ではポンプ22)が設けられている。
【0044】
アルカリ凝集沈殿処理水3は、中和槽13で中和された後、ポンプ23で逆浸透膜装置14に送られる。逆浸透膜装置14は逆浸透膜を備え、ここでアルカリ凝集沈殿処理水3が逆浸透膜処理され、透過水7と濃縮水8が得られる。透過水7は、アルカリ凝集沈殿処理水3中の各種成分が除去されたものであり、濃縮水8は、前記各種成分が濃縮されたものである。
【0045】
排水処理システムには、逆浸透膜装置14にアルカリ性の洗浄薬液6を供給する洗浄薬液供給手段(図1ではポンプ24)が設けられている。洗浄薬液供給手段は逆浸透膜装置14に連通しており、アルカリ性の洗浄薬液6により逆浸透膜が洗浄される。逆浸透膜装置14に供給されたアルカリ性の洗浄薬液6は、逆浸透膜と接触して、洗浄排液9として逆浸透膜装置14から排出される。
【0046】
排水処理システムは、逆浸透膜装置14から排出される洗浄薬液6の洗浄排液9をアルカリ凝集沈殿槽12に返送する洗浄排液返送手段(図1ではポンプ25)を有する。洗浄排液返送手段は逆浸透膜装置14に連通しており、洗浄排液返送手段により洗浄排液9がアルカリ凝集沈殿槽12かそれより前段に返送される。図1では、洗浄排液9はまず原排水貯留槽11に返送され、原排水貯留槽11を介してアルカリ凝集沈殿槽12に返送されている。
【0047】
図1では、凝集薬剤添加手段、酸性薬剤添加手段、洗浄薬液供給手段、洗浄排液返送手段としてポンプが示されていたが、これらの各手段にポンプが備えられることは必須ではない。例えば、自然流下で薬剤等の各流体を移送可能な場合はポンプは備えられなくてもよく、各手段として管路や開渠等が備えられていればよい。
【0048】
本発明の排水処理システムの他の一例について、図2を参照して説明する。なお図2の説明において、図1と重複する部分は説明を省く。
【0049】
図2に示した排水処理システムは、図1に示した排水処理システムのうち原排水貯留槽11が設けられず、代わりに、洗浄排液9を貯留する洗浄排液貯留槽15が設けられている。洗浄排液9は、洗浄排液返送手段(図2ではポンプ25,26)により、逆浸透膜装置14から洗浄排液貯留槽15に返送されるとともに、洗浄排液貯留槽15からアルカリ凝集沈殿槽12に返送されている。
【0050】
図1および図2では、洗浄排液9は、原排水貯留槽11または洗浄排液貯留槽15を介してアルカリ凝集沈殿槽12に返送されていたが、原排水貯留槽11と洗浄排液貯留槽15は必要に応じて設けられればよい。すなわち、洗浄排液9は、洗浄排液返送手段によりアルカリ凝集沈殿槽12に直接返送されるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、製鉄、鉄鋼、非鉄金属、機械、金属加工、めっき、塗装、セメント等の工場からの排水や、埋立浸出水等の処理に用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1: 原排水
2: アルカリ性の凝集薬剤
3: アルカリ凝集沈殿処理水
6: アルカリ性の洗浄薬液
7: 透過水
8: 濃縮水
9: 洗浄排液
11: 原排水貯留槽
12: アルカリ凝集沈殿槽
13: 中和槽
14: 逆浸透膜装置
15: 洗浄排液貯留槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原排水をアルカリ性条件下で凝集沈殿させて、生成した沈殿物を分離するアルカリ凝集沈殿工程と、
前記アルカリ凝集沈殿工程で前記沈殿物を分離して得られたアルカリ凝集沈殿処理水を、逆浸透膜で処理して透過水を得る逆浸透膜処理工程と、
前記逆浸透膜をアルカリ性の洗浄薬液で洗浄するアルカリ洗浄工程と、
前記アルカリ洗浄工程から排出される洗浄排液を、前記アルカリ凝集沈殿工程かそれより前段の工程に返送する洗浄排液返送工程とを有することを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
さらに、前記アルカリ凝集沈殿工程の前段に、前記原排水を原排水貯留槽に貯留する原排水貯留工程を有し、
前記洗浄排液を前記原排水貯留工程に返送する請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
さらに、前記洗浄排液を洗浄排液貯留槽に貯留する洗浄排液貯留工程を有し、
前記洗浄排液貯留槽から前記洗浄排液を前記アルカリ凝集沈殿工程かそれより前段の工程に返送する請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項4】
原排水をアルカリ性条件下で凝集沈殿させるアルカリ凝集沈殿槽と、
前記アルカリ凝集沈殿槽からの上澄みであるアルカリ凝集沈殿処理水を処理する逆浸透膜を備えた逆浸透膜装置と、
前記逆浸透膜装置にアルカリ性の洗浄薬液を供給する洗浄薬液供給手段と、
前記逆浸透膜装置から排出される前記洗浄薬液の洗浄排液を、前記アルカリ凝集沈殿槽かそれより前段に返送する洗浄排液返送手段とを有することを特徴とする排水処理システム。
【請求項5】
さらに、前記原排水を貯留する原排水貯留槽を有し、
前記洗浄排液返送手段が、前記原排水貯留槽に前記洗浄排液を返送するものである請求項4に記載の排水処理システム。
【請求項6】
さらに、前記洗浄排液を貯留する洗浄排液貯留槽を有し、
前記洗浄排液返送手段が、前記洗浄排液貯留槽から前記洗浄排液を返送するものである請求項4に記載の排水処理システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−196614(P2012−196614A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61619(P2011−61619)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】