説明

排水処理方法

【課題】簡単な構成の排水処理設備を用い、かつ、発泡及びゲル様物質の発生、並びに分離膜の急速な閉塞を抑え、排水処理設備の安定な稼動を実現する。
【解決手段】排水処理方法は、有機排水中の有機物を生物処理により分解する少なくとも1つの生物処理槽、及び生物処理槽から流出する処理水を分離膜により固液分離する少なくとも1つの膜分離槽を備えた排水処理設備を用いた方法であり、BOD容積負荷を1.0〜5.0kg〔BOD〕/m/dとし、生物処理槽内の汚泥濃度を2000mg〔SS〕/L以上6000mg〔SS〕/L未満に維持するとともに、膜分離槽内の汚泥濃度を6000mg〔SS〕/L以上15000mg〔SS〕/L以下に維持し、排水処理設備内での汚泥滞留時間(SRT)について、BOD容積負荷に応じて、下記式(C)、


を満たすように調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機物を主体とする有機排水の生物学的処理を行う活性汚泥法においては、単位汚泥当たりの有機物除去能力が一定であるという前提に立っている。それゆえ、BOD容積負荷を上げて排水処理設備を運転する場合、BOD容積負荷が上がった分だけ処理系内の汚泥濃度を上げることで処理水の水質を保つ方策を採っていた。
【0003】
また、膜分離活性汚泥装置(MBR : Membrane Bioreactor)を用いた膜分離活性汚泥法においても、同様の方策が採られる。すなわち、BOD容積負荷を上げて膜分離活性汚泥装置を運転する場合、生物処理槽、及びろ過膜を浸漬させた膜分離槽それぞれにおける汚泥濃度を上げることで処理水の水質を保つ方策を採っていた。このとき、生物処理槽及び膜分離槽における汚泥濃度がともに8000〜15000mg〔SS〕/Lとなるように運転することが多い。このような膜分離活性汚泥法は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された技術では、生物処理槽及び膜分離槽の各槽における汚泥濃度を均一化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−53363号公報(2003年 2月25日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、排水処理装置を、生物処理槽及び膜分離槽における汚泥濃度がともに8000〜15000mg〔SS〕/Lとなるように運転した場合、BOD容積負荷が1.0kg〔BOD〕/m/d未満であれば安定稼動が可能である。しかしながら、BOD容積負荷が1.0kg〔BOD〕/m/d以上である場合、以下の現象が生じる。
・排水処理装置内で発泡が生じる。
・排水処理装置内でゲル様物質が生成される。
・分離膜の急速な閉塞。
【0006】
そして、これらの現象により、排水処理装置の継続的な運転が困難になるという問題がある。特許文献1に開示された技術では、排水処理装置内に消泡手段を設けることで、発泡を防止している。このため、排水処理装置の構成が複雑化するという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、簡単な構成の排水処理設備を用い、かつ、発泡及びゲル様物質の発生、並びに分離膜の急速な閉塞を抑え、排水処理設備の安定な稼動を実現する排水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、膜分離活性汚泥装置における発泡発生及びゲル様物質発生の要因は、汚泥滞留時間(SRT)の長期化が要因であり、SRTを適正範囲に設定することで、発泡発生及びゲル様物質発生を抑えることができること、及び膜分離槽の汚泥濃度を適正範囲に設定することで分離膜の急速な閉塞を抑えることができることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の排水処理方法は、上記の課題を解決するために、有機排水中の有機物を生物処理により分解する少なくとも1つの生物処理槽、及び生物処理槽から流出する処理水を分離膜により固液分離する少なくとも1つの膜分離槽を備えた排水処理設備を用いた、活性汚泥法による排水処理方法であって、
BOD容積負荷を1.0〜5.0kg〔BOD〕/m/dとし、
上記生物処理槽内の汚泥濃度を2000mg〔SS〕/L以上6000mg〔SS〕/L未満に維持するとともに、上記膜分離槽内の汚泥濃度を6000mg〔SS〕/L以上15000mg〔SS〕/L以下に維持し、
上記排水処理設備内での汚泥滞留時間(SRT)について、上記BOD容積負荷に応じて、下記式(C)、
【0010】
【数1】

【0011】
を満たすように調節することを特徴としている。
【0012】
膜分離活性汚泥装置における発泡発生の原因は、汚泥の自己分解時に汚泥中に含まれる微生物から溶解性粘性物(主に細胞質成分)が溶出することであると考えられる。また、ゲル様物質の発生の原因は、ゲル様物質代謝細菌の異常繁殖であると考えられる。これらの原因は何れも、汚泥滞留時間(SRT)の長期化が要因であると考えられる。上記の構成によれば、排水処理設備に流入するBOD容積負荷に応じて、SRTを上記式(C)の適正範囲内に収めることでSRTの長期化を抑制しているので、汚泥の自己分解及びゲル様物質代謝細菌の異常繁殖を抑えることが可能になる。
【0013】
また、SRTが上記式(C)の適正範囲内にある場合、発泡及びゲル様物質の発生を抑えることができる一方、膜分離槽の汚泥濃度が適正範囲外にあると、分離膜が急速に閉塞するおそれがある。その結果、排水処理設備の継続的な運転が困難になる。上記の構成によれば、SRTを上記式(C)の適正範囲内に収めるとともに、膜分離槽の汚泥濃度を適正範囲に収めることで、排水処理設備の安全運転を実現している。
【0014】
また、従来の排水処理方法では、生物処理槽に投入する負荷を高くする場合、単位体積当たりのSS(浮遊性汚泥)が処理し得る能力を一定として、BOD負荷の増大に併せ処理系内のSSを増大させるのが一般的である。
【0015】
一方、上記の構成によれば、生物処理槽に投入するBOD容積負荷を1.0〜5.0kg〔BOD〕/m/dとした場合、膜分離槽の汚泥濃度を高く設定する一方、生物処理槽の汚泥濃度を低く設定している。すなわち、生物処理槽と膜分離槽との間で汚泥濃度の差を付けて、排水処理設備を運転している。これにより、排水処理設備内のSSを無駄に増やす必要がなくなる。その結果、汚泥滞留時間(SRT)が無駄に長期化することがなく、SRTを適正化することができる。
【0016】
よって、上記の構成によれば、簡単な構成の排水処理設備を用い、かつ、発泡及びゲル様物質の発生、並びに分離膜の急速な閉塞を抑え、排水処理設備の安定な稼動を実現することができる。
【0017】
また、本発明の排水処理方法では、上記生物処理槽のうち少なくとも1槽に、微生物を固定する微生物固定化担体を保持することが好ましい。
【0018】
上記の構成のように、上記生物処理槽のうち少なくとも1槽に、微生物を固定する微生物固定化担体を保持することは、汚泥に含まれる微生物の増殖、槽内に分散する分散菌の抑制の面で好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の排水処理方法は、以上のように、
BOD容積負荷を1.0〜5.0kg〔BOD〕/m/dとし、
上記生物処理槽内の汚泥濃度を2000mg〔SS〕/L以上6000mg〔SS〕/L未満に維持するとともに、上記膜分離槽内の汚泥濃度を6000mg〔SS〕/L以上15000mg〔SS〕/L以下に維持し、
上記排水処理設備内での汚泥滞留時間(SRT)について、上記BOD容積負荷に応じて、下記式(C)、
【0020】
【数2】

【0021】
を満たす構成である。
【0022】
それゆえ、簡単な構成の排水処理設備を用い、かつ、発泡及びゲル様物質の発生、並びに分離膜の急速な閉塞を抑え、排水処理設備の安定な稼動を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の排水処理方法に用いられる排水処理装置(排水処理設備)10の基本構成を示す模式図である。
【図2】図1の変形例としての排水処理装置の概略構成を示す模式図である。
【図3】図1の他の変形例としての排水処理装置の概略構成を示す模式図である。
【図4】排水処理設備を安定稼動した時期における、BOD−SS負荷及びBOD容積負荷をプロットしたグラフである。
【図5】汚泥転換率について、実測値と計算値とを比較した結果を示すグラフである。
【図6】SRTおよびBOD−SS負荷とBOD容積負荷との関係を示すグラフであり、左側の縦軸はSRTを示し、右側の縦軸はBOD−SS負荷を示し、横軸はBOD容積負荷を示す。
【図7】実施例1の結果を示し、(a)は、排水処理設備運転中のBOD容積負荷の変動を示すグラフである。(b)は、排水処理設備運転中の、生物処理槽1及び膜分離槽2のMLSS濃度、並びに汚泥滞留時間(SRT)の変動を示すグラフであり、○は生物処理槽1のMLSS濃度を示し、□は膜分離槽のMLSS濃度を示し、△は汚泥滞留時間(SRT)を示す。(c)は、排水処理設備運転中の、排水及び処理水のTOCの変動を示すグラフであり、○は排水のTOCを示し、△は処理水のTOCを示す。(d)は、排水処理設備運転中の、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の膜差圧の変動を示すグラフである。
【図8】実施例2の結果を示し、(a)は、排水処理設備運転中のBOD容積負荷の変動を示すグラフである。(b)は、排水処理設備運転中の、生物処理槽1及び膜分離槽2のMLSS濃度、並びに汚泥滞留時間(SRT)の変動を示すグラフであり、○は生物処理槽1のMLSS濃度を示し、□は膜分離槽2のMLSS濃度を示し、△は汚泥滞留時間(SRT)を示す。(c)は、排水処理設備運転中の、排水及び処理水のTOCの変動を示すグラフであり、○は排水のTOCを示し、△は処理水のTOCを示す。(d)は、排水処理設備運転中の、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の膜差圧の変動を示すグラフである。
【図9】実施例3の結果を示し、(a)は、排水処理設備運転中の、投入DOC及びBOD容積負荷の変動を示すグラフであり、●は投入DOCを示し、□はBOD容積負荷を示す。(b)は、排水処理設備運転中の、生物処理槽1及び膜分離槽2のMLSS濃度、並びに汚泥滞留時間(SRT)の変動を示すグラフであり、○は生物処理槽1のMLSS濃度を示し、□は膜分離槽2のMLSS濃度を示し、△は汚泥滞留時間(SRT)を示す。(c)は、排水処理設備運転中の、処理水のTOCの変動を示すグラフである。(d)は、排水処理設備運転中の、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の膜差圧の変動を示すグラフである。
【図10】比較例1の結果を示し、排水処理設備運転中の、膜分離槽2のMLSS濃度および膜差圧の変動を示すグラフであり、○は膜分離槽2のMLSS濃度を示し、実線は膜差圧を示す。
【図11】比較例2の結果を示し、排水処理設備運転中の、SRT及びBOD容積負荷の挙動を示すグラフ、及び生物処理槽内の発泡の様子を示す画像であり、グラフのおける●はSRTを示し、□はBOD容積負荷を示す。
【図12】比較例3の結果を示し、排水処理設備運転中の、SRT及びBOD容積負荷の挙動を示すグラフ、並びに生物処理槽1及び膜分離槽2内の発泡の様子を示す画像であり、グラフのおける●はSRTを示し、□はBOD容積負荷を示す。
【図13】実施例4及び比較例4における濃縮汚泥密度の測定結果を示し、排水処理設備運転中の、濃縮汚泥密度の変動を示すグラフ、及び試験開始から約2週間後の比較例4における膜モジュール3の分離膜の状態を示す画像であり、グラフにおける△は実施例4を示し、●は比較例4を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の一形態について、図1〜図13を参照して、詳細に説明する。
【0025】
(本発明の排水処理方法に用いられる排水処理設備の構成)
まず、本発明の排水処理方法に用いられる排水処理設備の構成について、説明する。図1は、本排水処理方法に用いられる排水処理装置(排水処理設備)10の基本構成を示す模式図である。図1に示されるように、排水処理装置10は、生物処理槽1及び膜分離槽2を備えた膜分離活性汚泥装置である。この排水処理装置10では、前段を生物処理槽1とし、後段を膜分離槽2としたシステムになっている。生物処理槽1には連続的に有機物を主体とする排水が投入され、生物処理槽1にて処理された排水が後段の膜分離槽2に流入する。生物処理槽1及び膜分離槽2の各槽には、汚泥5が投入されている。また、生物処理槽1及び膜分離槽2はそれぞれ、槽内に空気を供給する散気管4を備えている。
【0026】
まず、生物処理槽1に排水が流入すると、排水は汚泥5と混合する。そして、散気管4から供給される酸素4aにより好気処理が行われ、汚泥5に含まれる好気性微生物により排水に含まれる有機物が分解する。生物処理槽1では、分解による排水の浄化が進行するとともに、汚泥5の発生量が増加する。
【0027】
後段の膜分離槽2には、膜モジュール3が浸漬されている。この膜モジュール3は、生物処理槽1にて浄化された水を汚泥5と処理水とに固液分離する分離膜を備えている。そして、膜モジュール3により固液分離された処理水は、処理系外に設置した吸水ポンプ(不図示)により排出されるようになっている。なお、膜分離槽2に配された散気管4による曝気は、主に膜モジュール3の分離膜面の膜面流速を確保するために行われる。その一方で、散気管4により酸素4aも供給されるので、好気処理が若干行われる。
【0028】
また、膜分離槽2内では、膜モジュール3により固液分離され汚泥5が残る。この膜分離槽2内で残った、大部分の汚泥5は、系内の汚泥量を維持するために、生物処理槽1へ返送される(汚泥返送)。また、残りの汚泥5は、余剰汚泥として系外へ排出される(余剰汚泥引き抜き)。
【0029】
なお、膜モジュール3における分離膜の材料は、特に限定されず、従来公知の材料を適用することができる。分離膜の材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン等のポリオレフィン系などが挙げられる。また、これら材料に親水化処理を施したものであってもよい。また、分離膜の形状は、中空糸膜、平膜といった従来公知の形状であってよい。
【0030】
(変形例1)
図1に示された排水処理装置10の構成の変形例について説明する。図2は、この変形例1としての排水処理装置20の概略構成を示す模式図である。なお、説明の便宜上、図1と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0031】
図2に示されるように、変形例1の排水処理装置20は、生物処理槽1を第1生物処理槽1A(前段)及び第2生物処理槽1B(後段)という2つの槽とし、最終段を膜分離槽2としたシステムになっている。そして、第2生物槽1Bには、微生物を固定化するための担体(微生物固定化担体)6を浸漬させ、固定床としている。このように第1生物処理槽1Bに担体6を保持させることは、汚泥5に含まれる微生物の増殖、槽内に分散する分散菌の抑制の面で好ましい。
【0032】
担体6の形状は、特に限定されず、立方体、筒状、ひも状、球状、歯車状等であってよい。また、担体6の材料は、特に限定されず、従来公知の材料であればよい。また、担体6は、浮遊担体であってもよいし、固定担体であってもよい。担体6の材料としては、例えば、ナイロン、ウレタン、PVA(ポリビニルアルコール)、PEG(ポリエチレングリコール)、セルロース、火山礫、セラミック、コンクリート、活性炭等が挙げられる。
【0033】
また、担体6の投入量は、第2生物処理槽1Bの全体に対して、見掛け容積で1〜50%とすることがより好ましい。
【0034】
(変形例2)
図1に示された排水処理装置10の構成の他の変形例について説明する。図3は、この変形例2としての排水処理装置30の概略構成を示す模式図である。なお、説明の便宜上、図1及び図2と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0035】
図3に示されるように、変形例2の排水処理装置30は、生物処理槽1を第1生物処理槽1A(前段)及び第2生物処理槽1B(後段)という2つの槽とし、最終段を膜分離槽2としたシステムになっている。
【0036】
変形例1及び2の構成は、生物処理槽1が2つの槽からなり、最終段が膜分離槽2としたシステムになっている。生物処理槽1を構成する槽の個数は、2つに限定されず、排水処理装置の設置場所及び形状、並びに排水の処理量に応じて適宜設定することができる。また、生物処理槽1及び膜分離槽2の容積は、排水処理装置が処理する排水のBOD負荷、処理量、排水処理装置の設置場所及び形状などに応じて適宜設定することができる。
【0037】
本発明の排水処理方法(以下、本排水処理方法と記す)では、上述の排水処理装置を用いて、活性汚泥法により排水処理を行う。そして、排水処理の条件を以下のように設定して排水処理装置を運転する。
【0038】
(ア)BOD容積負荷を1.0〜5.0kg〔BOD〕/m/dとする。
【0039】
(イ)生物処理槽1内の汚泥濃度を2000mg〔SS〕/L以上6000mg〔SS〕/L未満に維持するとともに、膜分離槽2内の汚泥濃度を6000mg〔SS〕/L以上15000mg〔SS〕/L以下に維持する。
【0040】
(ウ)上記排水処理設備内での汚泥滞留時間(SRT)について、上記BOD容積負荷に応じて、下記式(C)、
【0041】
【数3】

【0042】
を満たすように調節する。
【0043】
膜分離活性汚泥装置における発泡発生の原因は、汚泥の自己分解時に汚泥中に含まれる微生物から溶解性粘性物(主に細胞質成分)が溶出することであると考えられる。また、ゲル様物質の発生の原因は、ゲル様物質代謝細菌の異常繁殖であると考えられる。これらの原因は何れも、汚泥滞留時間(SRT)の長期化が要因であると考えられる。そこで、本排水処理方法では、排水処理設備に流入するBOD容積負荷に応じて、SRTを上記式(C)の適正範囲内に収める(条件(ウ))ことで、SRTの長期化を抑制している。これにより、汚泥の自己分解及びゲル様物質代謝細菌の異常繁殖を抑えることが可能になる。
【0044】
また、SRTが上記式(C)の適正範囲内にある場合、発泡及びゲル様物質の発生を抑えることができる一方、上記の場合でも膜分離槽2の汚泥濃度が適正範囲外にあると、分離膜が急速に閉塞するおそれがある。その結果、排水処理設備の継続的な運転が困難になる。そこで、本排水処理方法では、SRTを上記式(C)の適正範囲内に収める(条件(ウ))とともに、膜分離槽2の汚泥濃度を適正範囲に収める(条件(イ))ことで、排水処理設備の安全運転を実現している。
【0045】
また、上記特許文献1の技術を含め、従来の排水処理方法では、生物処理槽1に投入する負荷を高くする場合、単位体積当たりのSS(浮遊性汚泥)が処理し得る能力を一定として、BOD負荷の増大に併せ処理系内のSSを増大させるのが一般的である。すなわち、BOD負荷の増大に併せて、生物処理槽1および膜分離槽2について均一にSSを増大させる。ここで、BOD負荷(単位:kg〔BOD〕/d)とは、排水処理設備に投入される1日あたりの有機物量を意味し、またBOD−SS負荷(単位:kg〔BOD〕/kg〔SS〕/d)とは、その排水処理設備内の単位生物量が1日当たりに摂取し得る有機物量を意味する。BOD−SS負荷は、標準活性汚泥法では、0.2〜0.4kg〔BOD〕/kg〔SS〕/dである。また、超深層エアレーション法では、1.0kg〔BOD〕/kg〔SS〕/d以下である。
【0046】
一方、本排水処理方法では、生物処理槽1に投入する負荷を高くする(条件(ア))場合、膜分離槽2の汚泥濃度を高く設定する一方、生物処理槽1の汚泥濃度を低く設定する。すなわち、生物処理槽1と膜分離槽2との間で汚泥濃度の差を付けて、排水処理設備を運転している。これにより、排水処理設備内のSSを無駄に増やす必要がなくなる。その結果、汚泥滞留時間(SRT)が無駄に長期化することがなく、SRTを適正化することができる。
【0047】
また、膜分離槽2の汚泥濃度を高くすることで分離膜の閉塞が抑制されることについては、次のように考察される。すなわち、膜分離槽2内では、クロスフロー流により、汚泥粒子が分離膜表面の汚れを掻きとるという作用がある。そして、この作用の効率を上げるためには、膜分離槽2の汚泥濃度をある程度高く設定する必要があると考えられる。その一方で、膜分離槽2の汚泥濃度が高すぎると、液粘性の上昇に伴う摩擦抵抗の増加により、クロスフロー流が弱まり逆効果となる。それゆえ、膜分離槽2の汚泥濃度を適正範囲に収める(条件(イ))ことで、クロスフロー流による汚泥粒子の分離膜表面に対する作用(分離膜表面の汚れを掻きとる作用)の効率が上がると考えられる。
【0048】
(SRTの算出方法について)
以下、本排水処理方法における、汚泥滞留時間(SRT)の算出方法について、詳述する。
【0049】
まず、BOD容積負荷が高負荷である状態で排水処理設備を安全運転するためには、BOD容積負荷に応じた次のパラメータが必要になる。
・系内汚泥量(排水処理設備(生物処理槽及び膜分離槽)内に存在する汚泥の総量)
・SRT(汚泥滞留時間)
すなわち、系内汚泥量およびSRTそれぞれについて、BOD容積負荷を変数とした関係式を算出する必要がある。
【0050】
まず、系内汚泥量とBOD容積負荷との関係式の算出について、図4に基づいて説明する。図4は、排水処理設備を安定稼動した時期における、BOD−SS負荷及びBOD容積負荷をプロットしたグラフである。図4のグラフは、生物処理槽1及び膜分離槽2の系全体の浮遊汚泥(SS)を対象としたグラフであり、縦軸は系全体で受けるBOD−SS負荷を示し、横軸は系全体で受けるBOD容積負荷を示す。
【0051】
図4に示されるプロットから、近似式:〔BOD−SS負荷〕=0.2×〔BOD容積負荷〕が算出される。
【0052】
ここで、〔系内汚泥量〕=〔BOD負荷〕/〔BOD−SS負荷〕と表わされるので、上記近似式をこの式に代入すると、系内汚泥量は、下記式(A)で表わされる。
〔系内汚泥量〕=〔BOD負荷〕/(0.2×〔BOD容積負荷〕) (A)
系内汚泥量 :g〔SS〕
BOD負荷 :g〔BOD〕/d
BOD容積負荷:kg〔BOD〕/m/d
次に、SRTとBOD容積負荷との関係式の算出について、以下に説明する。
【0053】
まず、SRTは、以下の下記式(1)のように表わすことができる。
【0054】
【数4】

【0055】
また、発生汚泥量は、下記式(2)のように表わすことができる。
【0056】
【数5】

【0057】
上記式(1)及び上記式(2)を連立し、〔処理水BOD〕≒0と近似すると、SRTは、下記式(3)のように表わされる。
【0058】
【数6】

【0059】
また、BOD容積負荷は、
〔BOD容積負荷〕=〔(流入BOD×流入流量)/10〕/〔(槽容積)/10
と表わすことができる。それゆえ、SRTは、下記式(B)となる。
【0060】
【数7】

【0061】
上記式(A)及び上記式(B)を連立すると、SRTは、下記式(c)のように表わすことができる。
【0062】
【数8】

【0063】
また、SRTは、実績値の振れ幅により、+5日嵩上げした値が現実的な値になる。このことから、SRTについては、下記式(C)を満たすことで、排水処理設備の安定運転が可能になる。
【0064】
【数9】

【0065】
なお、Y(最大収率係数)、及びk(自己分解係数)は、ビーカーによる実験や現場のデータ等により算出可能である。以下、Y(最大収率係数)、及びk(自己分解係数)の算出方法の一例について説明する。
【0066】
まず、汚泥発生量は、Y(最大収率係数)、及びk(自己分解係数)を用いて、以下の式(4)のように表すことができる。
【0067】
【数10】

【0068】
上記式(4)に基づいて算出した計算値と実測値とのフィッティングにより、Y及びkを導出することができる。図5は、汚泥転換率(見かけの収率係数)について、実測値と計算値とを比較した結果を示すグラフである。図5における、●印は実測値を示し、○印は計算値を示している。また、図5における縦軸は汚泥転換率を示し、横軸は試験経過日数を示す。また、図5の比較では、実績値として、BOD容積負荷=1.0〜2.0kg〔BOD〕/m/dのデータを使用している。また、BODは、TOCより換算している。
【0069】
図5に示された比較結果から、Y(最大収率係数)=0.6(g〔SS〕/g〔BOD〕)、k=0.06(1/d)が算出される。上記のように導出したY及びkを上記式(C)に代入した結果を図6に示す。
【0070】
図6は、SRTおよびBOD−SS負荷とBOD容積負荷との関係を示すグラフであり、左側の縦軸はSRTを示し、右側の縦軸はBOD−SS負荷を示し、横軸はBOD容積負荷を示す。図6のグラフを参照すれば、排水処理設備のBOD容積負荷を設定すれば、SRTの適正範囲を設定することが可能になる。
【0071】
SRTの具体的な範囲は、後述の実施例のように、例えば、Y=0.6(g〔SS〕/g〔BOD〕)、k=0.06(1/d)の排水に対し、BOD容積負荷を2.0kg〔BOD〕/m/dに設定した場合、5〜10日に設定されることが好ましい。また、BOD容積負荷を1.5kg〔BOD〕/m/dに設定した場合、SRTの具体的な範囲は、7〜13日に設定されることが好ましい。また、BOD容積負荷を2.5kg〔BOD〕/m/dに設定した場合、SRTの具体的な範囲は、3〜9日に設定されることが好ましい。
【0072】
(BOD容積負荷について)
本排水処理方法は、BOD容積負荷が高負荷である排水処理設備に適用することができる。一般的に、BOD容積負荷が1.0kg〔BOD〕/m/d以上であれば、高負荷であるといえる。
【0073】
また、一般的に、活性汚泥法により排水処理を行う場合、BOD−SS負荷の上限は、処理方式に応じて異なるが、1.0kg〔BOD〕/kg〔SS〕/dが限界である(参考文献1:「下水道施設計画・設計指針と解説 後編 1994年版」,(社)日本下水道協会,1994年,62頁)。それゆえ、図6のグラフを参照すると、BOD−SS負荷が1.0kg〔BOD〕/kg〔SS〕/dであるとき、BOD容積負荷は、5kg〔BOD〕/m/dとなる。よって、本排水処理方法を適用し得るBOD容積負荷の上限は、5kg〔BOD〕/m/dとする。
【0074】
以上のことから、本排水処理方法を適用し得る排水処理設備のBOD容積負荷の範囲は、
1.0〜5kg〔BOD〕/m/dである(条件(ア))。BOD容積負荷の範囲は、好ましくは、1.5〜2.5kg〔BOD〕/m/dであり、より好ましくは2.0kg〔BOD〕/m/dである。
【0075】
(生物処理槽1及び膜分離槽2の汚泥濃度について)
生物処理槽1及び膜分離槽2の汚泥濃度については、上記式(A)で表わされる系内汚泥量の計算値を目安に調整することができる。膜分離槽2の汚泥濃度、生物処理槽1の汚泥濃度の順に調整する。
【0076】
膜分離槽2の汚泥濃度は、6000mg〔SS〕/L以上15000mg〔SS〕/L以下であり、好ましくは7000mg〔SS〕/L以上11000mg〔SS〕/L以下である。
【0077】
参考文献2:「現場で役立つ膜ろ過技術」,(株)工業調査会,2006年,175−176頁には、以下の記載がある。
「溶存有機物濃度を一定(DOC=400mg/L)に調整し、MLSSを7000〜22000mg/Lの範囲に調整して、MLSSが膜ろ過流速に与える影響を調べた。…(省略)…。膜ろ過流速は、低MLSS側と高MLSS側とで低く15000mg/L付近で極大となる傾向を示している。…(省略)…。MLSS濃度が15000mg/Lまでは、実際に高MLSS側になるほど膜ろ過流速が高まる現象を示しており、MLSSの存在が膜面の濃度分極層を擦りとる掃流効果があるようだ。…(省略)…。むやみにMLSSを高めて粘度を高める操作方法は適切ではないといえる。」
よって、膜分離槽2の汚泥濃度の上限は、15000mg〔SS〕/Lとする。
【0078】
また、膜分離槽2の汚泥濃度の下限は、6000mg〔SS〕/Lである。後述の比較例1のように、膜分離槽2の汚泥濃度が6000mg〔SS〕/Lよりも低い場合、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の膜差圧が変動してしまうので、好ましくない。
【0079】
また、生物処理槽1の汚泥濃度は、膜分離槽2の汚泥濃度が設定されれば、上記式(A)から逆算して決定される。すなわち、BOD容積負荷を設定すれば、上記式(A)から系内汚泥量が算出される。この系内汚泥量は、生物処理槽1及び膜分離槽2に含まれる汚泥量である。膜分離槽2の汚泥濃度が設定されれば、膜分離槽2に含まれる汚泥量が決定される。そして、膜分離槽2に含まれる汚泥量が決定されれば、算出された系内汚泥量から、生物処理槽1に含まれる汚泥量が算出される。算出された生物処理槽1に含まれる汚泥量から、生物処理槽1の汚泥濃度が決定される。生物処理槽1の汚泥濃度は、膜分離槽2の汚泥濃度よりも低く維持されているとともに、2000mg〔SS〕/L以上6000mg〔SS〕/L未満である。生物処理槽1の汚泥濃度は、好ましくは3000mg〔SS〕/L以上4000mg〔SS〕/L以下である。なお、生物処理槽1の汚泥濃度と膜分離槽2の汚泥濃度との間には、3000mg〔SS〕/L以上の濃度差をつけることが好ましい。
【0080】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0081】
以下、実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な対応が可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0082】
(実施例1〜3)
実施例1及び3は、排水処理設備として図2に示された排水処理装置20を用いて、活性汚泥法で排水処理を行った例である。実施例1及び3では、担体6の投入(充填)量は、第2生物処理槽1Bの全体に対して、実容積で約20%である。また、実施例1で用いた排水処理装置20は、第1生物処理槽1Aの容積が800Lであり、第2生物処理槽1Bの容積が1600Lであり、生物処理槽1の容積はトータル2400Lである。また、膜分離槽2の容積は、800Lである。一方、実施例3で用いた排水処理装置20は、第1生物処理槽1Aの容積が4Lであり、第2生物処理槽1Bの容積が10Lであり、生物処理槽1の容積はトータル14Lである。また、膜分離槽2の容積は、13Lである。
【0083】
また、実施例2は、排水処理設備として図3に示された排水処理装置30を用いて、活性汚泥法で排水処理を行った例である。実施例2で用いた排水処理装置30は、第1生物処理槽1Aの容積が800Lであり、第2生物処理槽1Bの容積が1600Lであり、生物処理槽1の容積はトータル2400Lである。また、膜分離槽2の容積は、800Lである。
【0084】
また、実施例1〜3において、膜分離槽2における膜モジュール3の分離膜(分離膜)として、PTFE(四フッ化エチレン樹脂、またはポリテトラフルオロエチレン)からなる公称径0.2μmの中空糸膜を用いた。
【0085】
実施例1〜3においては、表1に示される条件で排水処理を行った。
【0086】
【表1】

【0087】
具体的には、表1に示されるように、実施例1では、排水として食品工場排水を用いて、約2週間排水処理設備を運転した。排水設備に流入する排水は、流入量が約3.3L/minであり、BODが600〜1000mg〔BOD〕/L(平均:840mg〔BOD〕/L)である。水温は、23〜27℃(平均:25℃)であり、BOD容積負荷は、1.8〜2.5kg〔BOD〕/m/d(平均:2.0kg〔BOD〕/m/d)である。また、BOD/SS負荷は、0.21〜0.33kg〔BOD〕/kg〔SS〕/d(平均:0.28kg〔BOD〕/kg〔SS〕/d)である。また、表1及び図7(b)に示されるように、生物処理槽1の汚泥濃度(MLSS濃度)は、4000〜5300mg〔SS〕/L(平均:4500mg〔SS〕/L)とし、膜分離槽2の汚泥濃度(MLSS濃度)は、9100〜11000mg〔SS〕/L(平均:10000mg〔SS〕/L)とした。また、汚泥滞留時間(SRT)を5.5〜6.7日(平均:7.1日)とした。
【0088】
図7に、実施例1の結果を示す。図7(a)は、排水処理設備運転中のBOD容積負荷の変動を示すグラフである。また、図7(b)は、排水処理設備運転中の、生物処理槽1及び膜分離槽2のMLSS濃度、並びに汚泥滞留時間(SRT)の変動を示すグラフであり、○は生物処理槽1のMLSS濃度を示し、□は膜分離槽2のMLSS濃度を示し、△は汚泥滞留時間(SRT)を示す。また、図7(c)は、排水処理設備運転中の、排水及び処理水のTOCの変動を示すグラフであり、○は排水のTOCを示し、△は処理水のTOCを示す。また、図7(d)は、排水処理設備運転中の、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の膜差圧の変動を示すグラフである。なお、図7(a)〜(d)におけるグラフの横軸は、試験の実施日を示す。
【0089】
図7(c)に示されるように、表1、並びに図7(a)及び(b)の条件で排水処理設備を運転したとき、排水のTOCと比較して処理水のTOCが有意に低下し、処理水の水質が改善されていることが分かる。また、このとき、図7(d)に示されるように、排水処理設備の運転中、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の圧力の急激な上昇が見られなかった。また、排水処理設備の運転中、処理系内の発泡は見られなかった。このことから、BOD容積負荷を1.8〜2.5kg〔BOD〕/m/d(平均:2.0kg〔BOD〕/m/d)とした高負荷運転においても、表1、及び図7(b)の条件は、発泡及び分離膜の目詰まりの抑制に有効であることが確認できた。
【0090】
また、実施例2では、実施例1と同様に、排水として食品工場排水を用いて、約2週間排水処理設備を運転した。排水設備に流入する排水は、流入量が約3.2L/minであり、BODが600〜1000mg〔BOD〕/L(平均:840mg〔BOD〕/L)である。水温は、23〜27℃(平均:25℃)であり、BOD容積負荷は、1.4〜2.3kg〔BOD〕/m/d(平均:2.0kg〔BOD〕/m/d)である。また、BOD/SS負荷は、0.25〜0.36kg〔BOD〕/kg〔SS〕/d(平均:0.30kg〔BOD〕/kg〔SS〕/d)である。また、表1及び図8(c)に示されるように、生物処理槽1の汚泥濃度(MLSS濃度)は、3100〜4300mg〔SS〕/L(平均:3800mg〔SS〕/L)とし、膜分離槽2の汚泥濃度(MLSS濃度)は、7500〜10000mg〔SS〕/L(平均:8700mg〔SS〕/L)とした。また、汚泥滞留時間(SRT)を5.0〜7.3日(平均:5.9日)とした。
【0091】
図8に、実施例2の結果を示す。図8(a)は、排水処理設備運転中のBOD容積負荷の変動を示すグラフである。また、図8(b)は、排水処理設備運転中の、生物処理槽1及び膜分離槽2のMLSS濃度、並びに汚泥滞留時間(SRT)の変動を示すグラフであり、○は生物処理槽1のMLSS濃度を示し、□は膜分離槽2のMLSS濃度を示し、△は汚泥滞留時間(SRT)を示す。図8(c)は、排水処理設備運転中の、排水及び処理水のTOCの変動を示すグラフであり、○は排水のTOCを示し、△は処理水のTOCを示す。また、図8(d)は、排水処理設備運転中の、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の膜差圧の変動を示すグラフである。なお、図8(a)〜(d)におけるグラフの横軸は、試験の実施日を示す。
【0092】
図8(c)に示されるように、表1、並びに図8(a)及び(b)の条件で排水処理設備を運転したとき、排水のTOCと比較して処理水のTOCが有意に低下し、処理水の水質が改善されていることが分かる。また、このとき、図8(d)に示されるように、排水処理設備の運転中、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の圧力の急激な上昇が見られなかった。また、排水処理設備の運転中、処理系内の発泡は見られなかった。このことから、BOD容積負荷を1.4〜2.3kg〔BOD〕/m/d(平均:2.0kg〔BOD〕/m/d)とした高負荷運転においても、表1、及び図8(b)の条件は、発泡及び分離膜の目詰まりの抑制に有効であることが確認できた。
【0093】
また、実施例3では、排水としてスキムミルクを用いて、約3週間排水処理設備を運転した。排水設備に流入する排水は、流入量が約0.04L/minであり、BODが850〜900mg〔BOD〕/L(平均:870mg〔BOD〕/L)である。水温は、約30℃であり、BOD容積負荷は、1.9〜2.01kg〔BOD〕/m/d(平均:2.0kg〔BOD〕/m/d)である。また、BOD/SS負荷は、0.37〜0.45kg〔BOD〕/kg〔SS〕/d(平均:0.41kg〔BOD〕/kg〔SS〕/d)である。また、表1及び図9(b)に示されるように、生物処理槽1の汚泥濃度(MLSS濃度)は、2013〜3073mg〔SS〕/L(平均:2495mg〔SS〕/L)とし、膜分離槽2の汚泥濃度(MLSS濃度)は、7000〜9000mg〔SS〕/L(平均:8000mg〔SS〕/L)とした。また、汚泥滞留時間(SRT)を5〜8日(平均:6.6日)とした。
【0094】
図9に、実施例3の結果を示す。図9(a)は、排水処理設備運転中の、投入DOC及びBOD容積負荷の変動を示すグラフであり、●は投入DOCを示し、□はBOD容積負荷を示す。また、図9(b)は、排水処理設備運転中の、生物処理槽1及び膜分離槽2のMLSS濃度、並びに汚泥滞留時間(SRT)の変動を示すグラフであり、○は生物処理槽1のMLSS濃度を示し、□は膜分離槽2のMLSS濃度を示し、△は汚泥滞留時間(SRT)を示す。また、図9(c)は、排水処理設備運転中の、処理水のTOCの変動を示すグラフである。また、図9(d)は、排水処理設備運転中の、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の膜差圧の変動を示すグラフである。なお、図9(a)〜(d)におけるグラフの横軸は、試験の実施日を示す。
【0095】
図9(c)に示されるように、表1、並びに図9(a)及び(b)の条件で排水処理設備を運転したとき、処理水のTOCが低く維持され、処理水の水質が改善されていることが分かる。また、このとき、図9(d)に示されるように、排水処理設備の運転中、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の圧力の急激な上昇が見られなかった。また、排水処理設備の運転中、処理系内の発泡は見られなかった。このことから、BOD容積負荷を1.9〜2.01kg〔BOD〕/m/d(平均:2.0kg〔BOD〕/m/d)とした高負荷運転においても、表1、及び図9(b)の条件は、発泡及び分離膜の目詰まりの抑制に有効であることが確認できた。
【0096】
以上の実施例1〜3の結果から、発泡及び分離膜の目詰まりを抑制して排水処理設備の安定運転を行うためには、膜分離槽2のMLSS濃度及びSRTの設定が重要であることが分かった。また、膜分離槽2のMLSS濃度を生物処理槽1のMLSS濃度よりも低く設定することが重要であることが分かった。そして、SRTを5〜10日とし、膜分離槽2のMLSS濃度を7000〜11000mg〔SS〕/Lとすることで、BOD容積負荷を1kg〔BOD〕/m/d以上とした高負荷であっても、排水処理設備の安定運転を実現できることが分かった。
【0097】
(比較例1)
比較例1では、膜分離槽2のMLSS濃度の下限について、さらに詳細に調べた。具体的には、膜分離槽2のMLSS濃度と、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の膜差圧との関連について調べた。また、比較例1では、実施例3と同様の排水処理設備を用いて、活性汚泥法で排水処理を行った。排水処理の条件を表2に示す。
【0098】
【表2】

【0099】
比較例1では、膜分離槽2のMLSS濃度を2900〜8300mg〔SS〕/L間で変動させたときの、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の膜差圧の挙動を調べた。比較例1の結果を図10に示す。図10は、排水処理設備運転中の、膜分離槽2のMLSS濃度および膜差圧の変動を示すグラフであり、○は膜分離槽2のMLSS濃度を示し、実線は膜差圧を示す。
【0100】
図10に示されるように、膜分離槽2のMLSS濃度を4000mg〔SS〕/Lから上昇させると、6000mg〔SS〕/L以上で膜差圧の上昇が抑えられる傾向が見られた。一方、膜分離槽2のMLSS濃度が6000mg〔SS〕/L未満では、膜差圧は、急激に上昇し、安定ではなかった。
【0101】
図10に示される結果から、膜分離槽2のMLSS濃度を6000mg〔SS〕/L以上に設定すれば、膜モジュール3の分離膜と吸引ポンプ間の膜差圧の急激な上昇を抑えることができることが分かった。
【0102】
(比較例2)
比較例2は、汚泥滞留時間(SRT)が長期化することで生物処理槽1内で発泡が起こることを示す例である。比較例2では、実施例1と同様の排水処理設備を用いて、活性汚泥法で排水処理を行った。比較例2における排水処理の条件を表3に示す。
【0103】
【表3】

【0104】
比較例2では、表3に示されるように、SRTを9〜97日で変動させて、生物処理槽1の内部の状況を調べた。その結果を図11に示す。図11は、排水処理設備運転中の、SRT及びBOD容積負荷の挙動を示すグラフ、及び生物処理槽内の発泡の様子を示す画像であり、グラフのおける●はSRTを示し、□はBOD容積負荷を示す。
【0105】
図11に示されるように、SRTを9〜97日とし、かつSRTを極端に増加させると、増加して暫くした時期(図11のグラフの点線部分)に発泡が起こることが分かった。この発泡は、図11の画像に示されるように、生物処理槽1内の水面付近から発生している。
【0106】
図11の結果から、SRTの長期化は、生物処理槽1内の発泡を招くということが分かった。
【0107】
(比較例3)
比較例2は、汚泥滞留時間(SRT)が長期化することで生物処理槽1内で発泡が起こることを示す他の例である。比較例3では、実施例3と同様の排水処理設備を用いて、活性汚泥法で排水処理を行った。比較例3における排水処理の条件を表4に示す。
【0108】
【表4】

【0109】
比較例3では、表4に示されるように、SRTを8〜46日で変動させて、生物処理槽1及び膜分離槽2の内部の状況を調べた。その結果を図12に示す。図12は、排水処理設備運転中の、SRT及びBOD容積負荷の挙動を示すグラフ、並びに生物処理槽1及び膜分離槽2内の発泡の様子を示す画像であり、グラフのおける●はSRTを示し、□はBOD容積負荷を示す。
【0110】
図12に示されるように、SRTを8〜46日とし、かつSRTを極端に増加させると、増加して暫くした時期(図12のグラフの点線部分)に発泡が起こることが分かった。この発泡は、図12の画像に示されるように、生物処理槽1及び膜分離槽2の双方で発生している。
【0111】
図12の結果からも、SRTの長期化は、生物処理槽1内の発泡を招くということが分かった。
【0112】
(実施例4及び比較例4)
実施例4及び比較例4では、汚泥滞留時間(SRT)の長期化による排水処理設備の影響をさらに調べた。実施例4及び比較例4では、排水処理設備として図1に示された排水処理装置10を用いて、活性汚泥法で排水処理を行った。実施例4及び比較例4で用いた排水処理装置10は、生物処理槽1の容積が0.66Lであり、膜分離槽2の容積が0.22Lである。実施例4及び比較例4における排水処理の条件を表5に示す。
【0113】
【表5】

【0114】
表5に示されるように、実施例4では、試験期間中、SRTが平均10日前後になるように排水処理設備を運転した。一方、比較例4では、試験期間中、膜分離槽2から余剰汚泥を引き抜くことなく排水処理設備を運転した。これにより、生物処理槽1及び膜分離槽2内に余剰汚泥が蓄積することになり、実質的にSRTが長期化する。
【0115】
その結果、SRTが長期化した比較例4では、排水処理設備内で、ゲル様物質の生成が促進していることが分かった。排水処理設備内で、ゲル様物質生成菌が異常繁殖し、ゲル様物質の生成が進行すると、汚泥の粘性が高まると同時に圧密性が低下すると推定される。そこで、排水処理設備運転中における濃縮汚泥密度を測定することにより、間接的に、ゲル様物質の生成状況の変化を調べた。濃縮汚泥密度の測定は、以下の手順で行った。
【0116】
(I) 実施例4及び比較例4それぞれについて、運転中の汚泥を採取する。採取した汚泥50mlを50ml遠心管に入れ、遠心分離器(3000rpm、10分)にかける。
【0117】
(II) 遠心分離した固形分(濃縮汚泥)について、湿潤時の容量と乾燥時の重量とを測定した後、これらより濃縮汚泥密度を算出する。
【0118】
実施例4及び比較例4における濃縮汚泥密度の測定結果を図13に示す。図13は、排水処理設備運転中の、濃縮汚泥密度の変動を示すグラフ、及び試験開始から約2週間後の比較例4における膜モジュール3の分離膜の状態を示す画像であり、グラフにおける△は実施例4を示し、●は比較例4を示す。
【0119】
図13に示されるように、実施例4に比べて、比較例4では、遠心分離後の濃縮汚泥密度が低下し、圧密性が低下し続ける傾向にあった。また、図13の画像に示されるように、試験開始から約2週間後の膜モジュール3の分離膜の状態を観察した結果、比較例4では分離膜上に糸状の粘性物が付着していた。
【0120】
以上、実施例1〜4、及び比較例1〜4の結果から、BOD容積負荷が約2.0kg〔BOD〕/m/dという高負荷で排水処理を行う場合、以下の処理条件で排水処理設備を運転することで、安定稼動が可能になることが分かった。
【0121】
・汚泥滞留時間(SRT)を5〜10日に維持する。SRTが10日を越え長期化している場合、汚泥の解体が促進するため、汚泥中の微生物からの細胞質成分(発泡成分)の溶出量が増加するため好ましくない。また、ゲル様物質生成菌の繁殖が促進するため、好ましくない。
【0122】
・膜分離槽2の汚泥濃度(MLSS濃度)を7000〜11000mg〔SS〕/Lの範囲に維持する。膜分離槽2の汚泥濃度を上記範囲に維持した場合、クロスフロー流により、汚泥粒子が分離膜表面の汚れを掻きとり、目詰まりしにくくなると考えられる。一方、膜分離槽2の汚泥濃度が高すぎると、液粘性が高まる。そして、これにより、クロスフロー流が弱まり、分離膜の目詰まりが起こりやすくなると考えられる。
【0123】
・生物処理槽1の汚泥濃度(MLSS濃度)を2000〜5500mg〔SS〕/Lの範囲に維持する。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、下水、産業排水、生活排水などの有機物を主体とする排水を生物学的に処理する排水処理分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0125】
1 生物処理槽
1A 第1生物処理槽
1B 第2生物処理槽
2 膜分離槽
3 膜モジュール
4 散気管
4a 酸素
5 汚泥
6 担体(微生物固定化担体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機排水中の有機物を生物処理により分解する少なくとも1つの生物処理槽、及び生物処理槽から流出する処理水を分離膜により固液分離する少なくとも1つの膜分離槽を備えた排水処理設備を用いた、活性汚泥法による排水処理方法であって、
BOD容積負荷を1.0〜5.0kg〔BOD〕/m/dとし、
上記生物処理槽内の汚泥濃度を2000mg〔SS〕/L以上6000mg〔SS〕/L未満に維持するとともに、上記膜分離槽内の汚泥濃度を6000mg〔SS〕/L以上15000mg〔SS〕/L以下に維持し、
上記排水処理設備内での汚泥滞留時間(SRT)について、上記BOD容積負荷に応じて、下記式(C)、
【数1】

を満たすように調節することを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
上記生物処理槽のうち少なくとも1槽に、微生物を固定する微生物固定化担体を保持することを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−91100(P2012−91100A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239777(P2010−239777)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【特許番号】特許第4706804号(P4706804)
【特許公報発行日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】