説明

接合用ガラスおよびこの接合用ガラスを用いた平板型ディスプレイ装置

【課題】配線のダメージあるいは真空度劣化を回避し、高信頼性、かつ長寿命の平面型ディスプレイ装置を構成するのに好適な接合用ガラスを提供する。
【解決手段】酸化物換算で、V25:25〜50wt%、BaO:5〜30wt%、TeO2:20〜40wt%、WO3:1〜25wt%、P25:0〜20wt%を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合用ガラスとこの接合用ガラスを用いた平板型ディスプレイ装置に係り、特に、その背面基板と前面基板を直接または縁枠およびスペーサを介して一体化して真空容器を形成するための接合用ガラスとこの接合用ガラスを用いた平板型ディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平板状の背面基板および前面基板を貼り合わせた、所謂平板型ディスプレイ装置として多様な形式が知られている。例えば、マトリクス状に配置した電子源を有する平板型ディスプレイ装置(フラットパネルディスプレイ:FPD)が注目されており、その一つとして、微少で集積可能な冷陰極を利用する電界放出型画像表示装置(FED:Field Emission Display)や電子放出型画像表示装置が知られている。これらの陰極には、スピント型電子源、表面伝導型電子源、カーボンナノチューブ型電子源、金属―絶縁体―金属を積層したMIM(Metal−Insulator−Metal)型、金属―絶縁体―半導体を積層したMIS(Metal−Insulator−Semiconductor)型、あるいは金属―絶縁体―半導体−金属型等の薄膜型電子源などがある。
【0003】
自発光型FPDは、上記のような電子源を備えた背面基板と、蛍光体層とこの蛍光体層に電子源から放出される電子を射突させるための加速電圧を形成する陽極を備えた前面基板とを貼り合わせて両パネルの対向する内部空間を所定の真空状態に封止する。背面基板にはマトリクス配列した多数の電子源を有し、前面基板は蛍光体層と電子源から放出された電子を蛍光体層に射突させる電界を形成するための加速電圧を形成する陽極を有する。
【0004】
個々の電子源は、対応する蛍光体層と対になって単位画素を構成する。通常は、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の単位画素で一つの画素(カラー画素、ピクセル)が構成される。なお、カラー画素の場合、単位画素は副画素(サブピクセル)とも呼ばれる。
【0005】
背面基板と前面基板の間隔は、表示領域内に両基板を支えるように配置される隔壁と称する部材(スペーサ)で所定間隔に保持される。このスペーサはガラスやセラミックスなどの絶縁材あるいは幾分かの導電性を有する部材で形成した板状体からなり、通常、複数の画素ごとに画素の動作を妨げない位置に設置される。
【0006】
また、補強板で表した背面基板と前面基板を用いたもの、枠ガラスで高真容器を形成するものが特許文献3に開示されている。そして、ガラス板の封着に用いるフリットガラスとしての無鉛低融点ガラスに関しては、特許文献4に開示がある。特許文献4には、環境汚染の原因となるPbO-B23に代えてB23又はV25、BaOを用いた無鉛低融点ガラスを開示する。また、特許文献5には、V25-TeO2系ガラスが開示されている。
【特許文献1】特開平7−65710号公報
【特許文献2】特開平10−153979号公報
【特許文献3】特開2000−206905号公報
【特許文献4】特開2003−192378号公報
【特許文献5】特開2004−250276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
平板型ディスプレイ装置では、電子源アレイを形成した背面基板と蛍光体アレイを形成した前面基板を、それらの周縁で封止して真空容器を構成している。背面基板の内面の端縁には、電子源アレイに選択信号や表示データを供給するための多数の配線が金属薄膜で形成されている。また、前面基板の内面に有する加速電極に給電するための配線は、背面基板に形成した配線を経由するもの、あるいは前面基板の内面の端縁に加速電極の給電用配線を形成したものもある。背面基板と前面基板との封止には、所謂低融点フリットガラスが用いられる。この低融点フリットガラスを上記配線領域を含む両基板の周縁に塗布して接合して、真空封止する。
【0008】
背面基板あるいは前面基板に形成される配線は、アルミニゥーム(Al)あるいはその合金、銅(Cu)あるいはその合金、クロム(Cr)あるいはその合金等、これらの積層(例えば、Cr-Al-Cr)が用いられる。特に、Cr-Al-Crは、Crがガラスとの濡れ性が良好であるため、接合領域に設ける配線材料として好適なものである。その他本発明では、AuやAgを含む配線に関しても考慮している。
【0009】
従来、この接合ガラスとして用いられる低融点フリットガラスは鉛(PbO)を含むものである。そのため、配線材料と鉛とが反応して腐食を起こし、抵抗の増大や断線の発生などのダメージ、反応ガスによる真空度劣化等で信頼性の低下と寿命の短縮化をもたらす。なお、背面基板と前面基板の間隙を保持するために、ガラスやセラミックスなどからなる隔壁、所謂スペーサを真空容器内に設けたものでは、当該スペーサを走査電極などの金属薄膜の上に植立させて低融点フリットガラスで固定するものにおいても同様の問題が生じる。
【0010】
無鉛低融点ガラスフリットとして、特許文献5に開示のV25-TeO2系ガラスは封着作業温度での長時間保持により結晶化する傾向があり、封着機能が発現しないケースがある。また同ガラスの熱膨張係数は高く、低熱膨張化のためには高価な低膨張係数フィラーを多量に混合しなければならず、またこの際被封着物との濡れ性が損なわれる可能性がある。
【0011】
本発明の目的は、ガラス構造体間を結合するための接合用ガラスとこの接合用ガラスを用いた平板型ディスプレイ装置を提供することにあり、特に、その背面基板と前面基板を直接または縁枠およびスペーサを介して一体化して真空容器を形成するための各種構造体ガラスを接合する際の配線のダメージを回避するための低融点かつ低熱膨張係数の接合用ガラスとして用いることで真空度劣化を回避し、高信頼性、かつ長寿命の平面型ディスプレイ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、次のように調整した接合用ガラスを提供する。また、これを用いて配線を介在した背面基板と前面基板との封止あるいはスペーサとの接合を行うことで、高信頼性、かつ長寿命を実現した平面型ディスプレイ装置を構成する。
【0013】
すなわち、本発明の接合用ガラスは、酸化物換算で、V25:25〜50wt%、BaO:5〜30wt%、TeO2:20〜40wt%、WO3:1〜25wt%、P25:0〜20wt%に調製される。
【0014】
また、本発明の接合用ガラスは、酸化物換算で、V25:35〜45wt%、BaO:10〜20wt%、TeO2:20〜30wt%、WO3:5〜15wt%、P25:0〜5wt%に調整される。
【0015】
また、本発明の接合用ガラスは、酸化物換算で、V25:35〜45wt%、BaO:5〜20wt%、TeO2:20〜35wt%、WO3:1〜15wt%、ZnO:1〜10wt%、Sb23:1〜10wt%に調製される。
【0016】
また、本発明の接合用ガラスは、さらに、SrO、GeO2、La23、Cr23、Nb25、Y23、MgO、CeO2、ErO2より選ばれた化合物を0.5〜10wt%添加してもよい。または上記のような接合用ガラスにセラミックスフィラー材を5〜30体積%添加することができる。このセラミックフィラーとしては、SiO2,ZrO2,Al23、ZrSiO4、リン酸ジルコニウム系化合物((ZrO)227、(ZrO)227Ca0.5Zr2(PO4)3、Zr2(WO4)(PO4)2)、コージェライト、ムライト、ユークリプタイトの何れかとすることができる。
【0017】
また、本発明の平板型ディスプレイ装置は、内面に電子源アレイを備えた背面基板と、内面に前記電子源アレイに対応した配列を有する蛍光体パターンと加速電極とを備えて、その外面を表示面とする前面基板とからなる。
【0018】
そして、背面基板と前面基板の各内面を対向させて両基板の周縁に有する封止部に接合用ガラス(フリットガラス)を介在させて封着してなる真空容器を構成する。
【0019】
少なくとも背面基板の1つの端面に、電子源アレイに接続して当該端縁に引き出された金属膜からなる配線を形成した配線領域を有する。
【0020】
封止部は、背面基板に有する配線領域を含み、その接合のためのフリットガラス(接合用ガラス)として、酸化物換算で、V25:25〜50wt%、BaO:5〜30wt%、TeO2:20〜40wt%、WO3:1〜25wt%、P25:0〜20wt%に調製されたものを用いることができる。
【0021】
また、この接合用ガラスとして、V25:35〜45wt%、BaO:5〜20wt%、TeO2:20〜35wt%、WO3:1〜15wt%、ZnO:1〜10wt%、Sb23:1〜10wt%に調製された封着用ガラスを用いることができる。
【0022】
上記接合ガラスには、SrO、GeO2、La23、Cr23、Nb25、Y23、MgO、CeO2、ErO2より選ばれた化合物を0.5〜10wt%添加することが好ましい。またこの接合ガラスにセラミックスフィラー材を5〜30体積%添加するとよい。該セラミックフィラーは、SiO2,ZrO2,Al23、ZrSiO4、リン酸ジルコニウム系化合物((ZrO)227、(ZrO)227Ca0.5Zr2(PO4)3、Zr2(WO4)(PO42)、コージェライト、ムライト、ユークリプタイトの何れかである無鉛ガラス組成物を用いることができる。
【0023】
また、背面基板が平坦で、前面基板の周縁に縁枠を一体的に有する本発明の平板型ディスプレイ装置では、前記縁枠の端面と背面基板とを上記の接合ガラス(フリットガラス)で封止する。
【0024】
また、背面基板と前面基板の各周縁に、当該背面基板および前面基板とは別体の枠ガラスを有する本発明の平板型ディスプレイ装置では、背面基板と前面基板および枠ガラスとの間を上記の接合ガラスで封止する。
【0025】
また、 背面基板と前面基板を封止して形成された真空容器の内部に、当該背面基板と前面基板の間隙を保持するためのスペーサを有する本発明の平板型ディスプレイ装置では、前記スペーサと背面基板と前面基板とを上記の接合ガラスで封止する。
【0026】
本発明は、上記の構成および後述する実施の形態の欄で説明される技術内容に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱することなく、種々の変更が可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の接合ガラスである無鉛低融点フリットガラスを用いることで、従来のような金属と接するような使い方を行う場合の鉛との反応による当該金属腐食や発ガスを抑制することができる。また、鉛による環境汚染を回避できる。
【0028】
本発明の平板型ディスプレイ装置では、その背面基板と前面基板との封止、縁枠(封止枠)を介在させた背面基板と前面基板との封止、あるいは背面基板と前面基板との封止で構成した真空容器内にスペーサを設置したものでは、その接合に用いたフリットガラスに起因する配線の腐食や発ガスが抑制され、高信頼かつ長寿命化を達成できる。
【0029】
本発明は、平板型ディスプレイ装置用の接合や真空封止のためのみに限るものではなく、磁気ディスクの基板などの電子機器用ガラス構造部材、その他の各種技術分野における構造材などにも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の最良の実施形態について実施例の図面を参照して詳細に説明する。以下の図面を参照した実施例の説明中、前面基板をパネルとも称する。なお、以下の実施例で説明する平板型ディスプレイ装置は、あくまで一例であって、本発明は、薄膜電子源を用いた電子放出型や電界放射型のディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置など、配線を形成したガラス板を用いた各種の平板型ディスプレイ装置にも同様に適用できることは前記のとおりである。
【実施例1】
【0031】
図1は、本発明の平板型ディスプレイ装置の構成を主として説明する模式平面図である。また、図2は、図1に示した平板型ディスプレイ装置の全体構造例をより具体的に示す斜視図、図3は、図2のA−A'断面図を示す。図1、図2、図3において、背面基板SUB1の内面上には画像信号配線d(d1,d2,・・・dn)が形成され、その上に走査信号配線s(s1,s2,s3,・・・sm)が交差して形成されている。電子源ELSは、接続電極ELCで走査信号配線s(s1,s2,s3,・・・sm)から給電される。符号VSは垂直走査方向を示す。
【0032】
前面基板SUB2は背面基板SUB1よりも若干小サイズであり、前面基板SUB2からはみ出した背面基板SUB1の端面には画像信号配線dの引き出し端子である配線dTおよび走査信号配線sの引き出し端子である配線sTが形成されている。また、前面基板SUB2の内面には3色の蛍光体層PH(PH(R)、PH(G)、PH(B))が形成されており、この上に陽極電極ADが形成されている。この構成では、蛍光体PH(PH(R)、PH(G)、PH(B))が遮光層(ブラックマトリクス)BMで区画されている。なお、陽極電極ADはベタ電極として示してあるが、走査信号配線s(s1,s2,s3,・・・sm)と交差して画素列ごとに分割されたストライプ状電極とすることもできる。電子源ELSから放射される電子を加速して対応する副画素を構成する蛍光体層PH(PH(R)、PH(G)、PH(B))に射突させる。これにより、該蛍光体層PHが所定の色光で発光し、他の副画素の蛍光体の発光色と混合されて所定の色のカラー画素を構成する。
【0033】
図2、図3に示したように、背面基板SUB1と前面基板SUB2は表示領域を周回して設置される封止枠MFLで一体化される。これら背面基板SUB1と前面基板SUB2および封止枠MFLの一体化はフリットガラスすなわち本発明の接合ガラスFで接合される。図1で説明したように、背面基板SUB1の内面の封止領域より内側には画像信号配線d(d1,d2,d3,・・・・・dn)と、走査信号配線s(s1,s2,s3,・・・sm)のマトリクスで構成された表示領域内に多数の電子源を有する。配線dTおよび配線sTは、封止枠MFLの設置部分である封止領域を超えて外部に引き出される。
【0034】
一方、前面基板SUB2の内面に陽極ADと蛍光体層PHが成膜されている。陽極ADにはアルミニウム層が用いられる。陽極ADの給電は図示しない基板間接続導体を通して背面基板SUB1側に至り、背面基板SUB1の適当な部分で引出端子(配線)として封止枠MFLの設置部分である封止領域を超えて外部に引き出される。
【0035】
この前面基板SUB2と背面基板SUB1との各内面を対向させ、両基板に挟まれた内部空間が外部と隔絶された構造となるように上記した接合ガラスFを用いて周縁を固定する。この接合ガラスを用いた固着の際には、例えば約400℃での加熱を行う。その後、ディスプレイ装置内部を約1μPaまで排気管303を通して排気した後に封じ切る。動作の際には、前面基板の陽極ADに約2kV乃至10kVの電圧を印加する。
【0036】
このディスプレイ装置では、電子源にMIMを用いた構造を例としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記した各種の電子源を用いた平板型のディスプレイ装置に対しても同様に適用できる。
【0037】
なお、前面基板SUB2を、その周縁に背面基板SUB1側に屈曲して突出する縁を形成した有縁浅皿形として、当該縁と背面基板との当接部分にフリットガラスを塗布して両基板を封止する構成とすることもできる。この場合はフリットガラスの塗布は背面基板側のみとなる。
【0038】
また、封止された空間内に背面基板と前面基板の間の間隔を保持するためのスペーサSPCを設けた場合には、このスペーサSPCと当該スペーサSPCの植立部分に本発明の接合ガラスを塗布して固定する。通例、スペーサSPCは走査配線sの上に設置される。本実施例では、前面基板SUB2と背面基板SUB1との間で、配線が引き出されている封止領域に封止枠MFLを位置させて接合ガラスFで接着する形式を例とする。
【0039】
ここで、本発明のフリットガラスの実施例について説明する。
【0040】
図4は、本発明におけるV25系ガラスの成分を説明する図である。図4中、各成分の含有率の相違で複数のガラス名VTW01乃至VBW07を示した。各成分は酸化物換算の重量%(w%)で示してある。
【0041】
VTW01〜09は、V25:25〜50wt%、BaO:5〜30wt%、TeO2:20〜40wt%、WO3:1〜25wt%、P25:0〜20wt%に調製された無鉛ガラスサンプルである。各サンプルは以下のように作製した。
【0042】
出発原料は、V25(高純度化学研究所製、純度99.9%)、BaO(和光試薬製、純度99.9%)、TeO2(高純度化学研究所製、純度99.9%)、WO3(和光試薬製、純度99.9%)、P25(高純度化学研究所製、純度99.9%)である。V系ガラス母材を作製するには、まず各原料を図4に示す重量比で混合する。原料にP25を含む場合は、P25を除く全ての原料をあらかじめ混合しておく。P25は吸湿性が高いため、長時間大気中に放置しないためである。P25以外の混合粉末をアルミナるつぼに入れ、アルミナるつぼごと秤に乗せ、P25を所定量秤量し、同時に金属製のスプーンで混合する。このとき、大気からの吸湿を避けるため、乳鉢やボールミルを用いた混合はしない。
【0043】
上記の原料混合粉末が入ったアルミナるつぼを、ガラス溶解炉に設置し、加熱を開始する。昇温速度を5℃/minとし、目標温度に到達した時点から1時間保持する。本実施例では、目標温度を1000℃に固定している。溶解しているガラスを撹拌しながら1時間保持し、保持後はアルミナるつぼを溶解炉から取り出し、あらかじめ300℃に加熱していた黒鉛鋳型に鋳込む。黒鉛鋳型に鋳込んだガラスは、あらかじめ歪取り温度に加熱している歪取り炉に移動し、1時間保持により歪を除去した後、1℃/minの速度で室温まで冷却した。得られたガラスは30mm×40mm×80mmの大きさである。得られたガラスブロックを4mm×4mm×15mmの大きさに切断し、熱膨張係数、電気抵抗率、密度を評価した。ブロックを取り出した残りのガラスは粉砕し、ガラス特性温度評価のためのDTA分析(示唆熱分析)用、およびボタンフロー試験用の粉末サンプルとして用いた。
【0044】
図5は、所謂ボタンフロー試験の温度プロファイルの説明図である。ボタンフロー試験は、絶縁膜や金属膜(配線等)を形成したガラス基板の上にボタン状に成形したガラス粉末を載置し、これを加熱し、冷却して下層の絶縁膜や金属膜への濡れ性、反応性、クラック発生の有無、ガスによる気泡の多少等を観察する試験である。その温度プロファイルは図5に示したとおりである。すなわち、常温で絶縁膜や金属膜(配線等)を形成したガラス基板の上にボタン状のサンプルガラスを載置し、これを毎分5℃で昇温し、420℃で30分保持する。その後、毎分2℃で200℃まで降温し、放置して室温まで冷却する。
【0045】
本実施例では、直径10mm、高さ5mmの円柱状のガラス粉末成形体をソーダライムガラス上に置き、熱処理することにより試験を行った。本試験において、熱処理後のボタン径(流動径と称する)が15mm以上となれば、被封着材との濡れ性が良好と判断する。このような試験の結果、420℃で封着を行う条件の場合、VTWシリーズのガラスの中では、VTW04が最も優れていることがわかった。更に詳細の検討の結果VTW04の周辺の組成、すなわち酸化物換算で、V25:35〜45wt%、BaO:10〜20wt%、TeO2:20〜30wt%、WO3:5〜15wt%、P25:0〜5wt%の範囲に調整したガラスの特性温度は低く、特に450℃以下の低温の封着用途に有効である。
次の試験について解説する。
【0046】
図4に記載のVBWのシリーズガラスは、VTWシリーズのガラスの中で最も封着用途に優れた特性を有するVTW04の組成近傍を詳細に検討したシリーズである。VBW01〜07はV25:30〜45wt%、BaO:15〜30wt%、TeO2:20〜35wt%、WO3:5〜20wt%、ZnO:0〜10wt%に調製したガラスサンプルを意味する。上記と同様の検討の結果、VBWシリーズの中ではVBW03が最も優れていることが示された。
【0047】
本実施例で用いた被封着材であるソーダライムガラスの熱膨張係数は約85×10-7/℃であるため、図4の接合ガラスの熱膨張係数を低下させなければならない。本実施例では、図4中のガラスの代表として、VBW03を用い、低膨張フィラーとして、Zr2(WO4)(PO4)2(以下、ZWPと称する)を用いた。ZWPの熱膨張係数は−32×10-7/℃である。
【0048】
図6は、ZWPフィラー混合量と熱膨張係数の関係を示す図である。接合ガラス母材がVBW03の場合、ZWPフィラーは30wt%程度混合することで、接合用途に適した熱膨張係数に調整することができる。
【0049】
また、V25-TeO2-WO3-P25系および、V25-TeO2-WO3-ZnO系無鉛ガラスを、失透させることなく、熱膨張係数や流動特性を調整するために推奨される添加物としては,MgO、La23、Nb23、Sb23が挙げられる。
【0050】
様々な粒子径のフィラーを用い、VBW03に混合し、同様のボタンフロー試験を行った。図7は、混合したフィラーの合計表面積と、420℃における流動径の相関を示す図である。この結果は、フィラーの粒子径が大きく、混合量が少ないほど、フリットの流動性は良好であることを示す。
【0051】
このボタンフロー試験の結果、本実施例の平板型ディスプレイの真空容器封着形成のための接合には、VBW03+30wt%ZWPのフリットを用いた。
【0052】
図8は、VBW03+30wt%ZWPのフリットを用いて接合した接合ガラス評価試験片の説明図である。また、図9は、図8の接合ガラス評価試験片を用いた強度評価の説明図である。図8に示したように、接合ガラス評価試験片は、図8に示したサイズ(幅w1,w2、高さh1,h2、厚みd1,d2)の第1の部品100と第2の部品200を本発明の接合ガラスFでT字形に接合して構成する。T字形の接合寸法は図示したとおりである。w1=25mm,w2=15mm、h1=50mm,h2=20mm、厚みd1=2.8mm,d2=2.8mmである。
【0053】
図9に示したように、図8で説明した図9(a)の接合ガラス評価試験片の第1の部品100の一端を図9(b)の試料固定冶具300の溝350に挿入する。図9(c)に示したように、第1の部品100はねじ穴320にねじ310をねじ込んで固定する。試料固定冶具300を固定台400に固定する。図9(c)の(c−1)は上面図、図9(c)の(c−2)は側面図である。
【0054】
このようにして冶具に固定した接合ガラス評価試験片に対し、図9(a)および図9(c)に示したように、第2の部品200に押圧具500を押し当て、荷重Wを加える。この荷重Wを徐々に増加して行き、VBW03+30wt%ZWP接合ガラスFによる接合部が破断した時点での荷重Wを計測する。
【0055】
計測の結果、380℃〜450℃の接合温度で作製した試験片の接合強度は30〜60MPaとなり、以上の接合ガラス評価でVBW03+30wt%ZWP接合ガラスを用いたものでは、平板型ディスプレイ装置の真空容器を構成して長期間これを維持するのに十分な強度が得られた。また、無鉛ガラスであるため、接合ガラスの下層に配線があっても、当該配線を腐食させることがなく、また絶縁層や配線にクラックを発生させたり、気泡を生じさせることが少なく、極めて有効な封止材料である。
【0056】
その他のVTWシリーズ、VBWシリーズに関して同様の接合強度試験を行った結果、熱膨張係数を調整することにより、VBW03+30wt%ZWPと同等の接合強度値が得られた。
【0057】
この実施例では、電子源にMIMを用いた構造を例としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記した各種の電子源を用いた平面方ディスプレイ装置に対しても同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の平板型ディスプレイ装置の構成を主として説明する模式平面図である。
【図2】図1に示した平板型ディスプレイ装置の全体構造例をより具体的に示す斜視図である。
【図3】図2のA−A'断面図を示す図である。
【図4】V25-TeO2-WO3-P25系および、V25-TeO2-WO3-ZnO系封着用ガラスの組成及び特性表を説明する図である。
【図5】所謂ボタンフロー試験の温度プロファイルの説明図である。
【図6】VBW03にZWPフィラーを混合したフリットの特性表を説明する図である。
【図7】フィラー表面積と流動径の関係を示す図である。
【図8】フリットガラスを用いて接合した接合ガラス評価試験片の説明図である。
【図9】図8の接合ガラス評価試験片を用いた強度評価の説明図である。
【符号の説明】
【0059】
SUB1・・・背面基板、SUB2・・・前面基板、s(s1,s2,・・・sm)・・・走査信号配線、d(d1,d2,d3,・・・)・・・画像信号配線、ELS・・・電子源、ELC・・・接続電極、AD・・・陽極、BM・・・ブラックマトリクス、PH(PH(R), PH(G), PH(B))・・・蛍光体層、SDR・・・走査信号線駆動回路、DDR・・・画像信号線駆動回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算で、V25:25〜50wt%、BaO:5〜30wt%、TeO2:20〜40wt%、WO3:1〜25wt%、P25:0〜20wt%を含有する接合用ガラス。
【請求項2】
酸化物換算で、V25:35〜45wt%、BaO:10〜20wt%、TeO2:20〜30wt%、WO3:5〜15wt%、P25:0〜5wt%を含有する接合用ガラス。
【請求項3】
酸化物換算で、V25:35〜45wt%、BaO:5〜20wt%、TeO2:20〜35wt%、WO3:1〜15wt%、ZnO:1〜10wt%、Sb23:1〜10wt%を含有する接合用ガラス。
【請求項4】
酸化物換算で、SrO、GeO2、La23、Cr23、Nb25、Y23、MgO、CeO2、ErO2より選ばれた化合物を0.5〜10wt%含有することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の接合用ガラス。
【請求項5】
セラミックスフィラー材を5〜30体積%含有することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の接合用ガラス。
【請求項6】
前記セラミックスフィラー材が、SiO2,ZrO2,Al23、ZrSiO4、リン酸ジルコニウム系化合物((ZrO)227、(ZrO)227Ca0.5Zr2(PO4)3、Zr2(WO4)(PO4)2)、コージェライト、ムライト、ユークリプタイトの何れかまたはそれらの2以上の混合物であることを特徴とする請求項5に記載の接合用ガラス。
【請求項7】
内面に電子源アレイを備えた背面基板と、
内面に前記電子源アレイに対応した配列を有する蛍光体パターンと加速電極とを備えて、その外面を表示面とする前面基板とからなり、
前記背面基板と前記前面基板の各内面を対向させて両基板の周縁に有する封止部に接合用ガラスを介在させて封着してなる真空容器を有する平板型ディスプレイ装置であって、
少なくとも前記背面基板の1つの端面に、前記電子源アレイに接続して当該端縁に引き出された金属膜からなる配線を形成した配線領域を有し、
前記封止部は、前記背面基板に有する前記配線領域を含んでおり、
前記接合用ガラスが、酸化物換算で、V25:25〜50wt%、BaO:5〜30wt%、TeO2:20〜40wt%、WO3:1〜25wt%、P25:0〜20wt%を含有することを特徴とする平板型ディスプレイ装置。
【請求項8】
内面に電子源アレイを備えた背面基板と、
内面に前記電子源アレイに対応した配列を有する蛍光体パターンと加速電極とを備えて、その外面を表示面とする前面基板とからなり、
前記背面基板と前記前面基板の各内面を対向させて両基板の周縁に有する封止部に接合用ガラスを介在させて封着してなる真空容器を有する平板型ディスプレイ装置であって、
少なくとも前記背面基板の1つの端面に、前記電子源アレイに接続して当該端縁に引き出された金属膜からなる配線を形成した配線領域を有し、
前記封止部は、前記背面基板に有する前記配線領域を含んでおり、
前記接合用ガラスが、酸化物換算で、V25:35〜45wt%、BaO:5〜20wt%、TeO2:20〜35wt%、WO3:1〜15wt%、ZnO:1〜10wt%、Sb23:1〜10wt%を含有することを特徴とする平板型ディスプレイ装置。
【請求項9】
前記接合用ガラスに、酸化物換算で、SrO、GeO2、La2O3、Cr23、Nb25、Y23、MgO、CeO2、ErO2より選ばれた化合物を0.5〜10wt%含有することを特徴とする請求項7または8に記載の平板型ディスプレイ装置。
【請求項10】
前記接合用ガラスに、セラミックスフィラー材を5〜30体積%含有することを特徴とする請求項7乃至9の何れかに記載の平板型ディスプレイ装置。
【請求項11】
前記セラミックスフィラー材が、SiO2,ZrO2,Al23、ZrSiO4、リン酸ジルコニウム系化合物((ZrO)227、(ZrO)227Ca0.5Zr2(PO4)3、Zr2(WO4)(PO4)2)、コージェライト、ムライト、ユークリプタイトの何れかまたはそれらの2以上の混合物であることを特徴とする請求項10に記載の平板型ディスプレイ装置。
【請求項12】
前記背面基板が平坦で、前記前面基板の周縁に縁枠を一体的に有し、該縁枠の端面と前
記背面基板とを前記接合用ガラスで封止されていることを特徴とする請求項7乃至10の何れかに記載の平板型ディスプレイ装置。
【請求項13】
前記背面基板と前記前面基板の各周縁に、当該背面基板および前面基板とは別体の枠ガラスを有し、前記背面基板と前記前面基板および前記枠ガラスとの間を前記接合用ガラスで封止されていることを特徴とする請求項7乃至10の何れかに記載の平板型ディスプレイ装置。
【請求項14】
前記背面基板と前記前面基板を封止して形成された真空容器の内部に、当該背面基板と前面基板の間隙を保持するためのスペーサを有し、該スペーサと前記背面基板と前記前面基板とを前記接合用ガラスで封止することを特徴とする請求項7乃至10の何れかに記載の平板型ディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−96993(P2012−96993A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−23644(P2012−23644)
【出願日】平成24年2月7日(2012.2.7)
【分割の表示】特願2006−1303(P2006−1303)の分割
【原出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】