説明

接合装置、接合方法、及び接合体

【課題】加熱溶融又は焼結時に気化した有機ガスを要因とするボイドの発生を低減すること。
【解決手段】接合装置20の加熱室21は、半田ペースト17に含まれる有機溶媒の沸点未満の温度に維持されている。加熱時には、ヒータ25を半導体素子12の素子面12aの中央に接触させて局所加熱を行う。これによれば、半田ペースト17には、中央部から各端部17bに向かって温度上昇が遅くなる温度勾配が発生する。従って、気化した有機ガスは、雰囲気隣接部とした半田ペースト17の端部17bから雰囲気中に抜け出るようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合材間を接合材により接合する接合装置、接合方法、該接合方法により接合された接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉に有機溶媒を混合することにより、有機溶媒に金属粉同士の接触を抑制させ、ペースト状にした接合材が知られている。この接合材は被接合材に塗布された後、加熱溶融又は焼結されることにより被接合材を接合する。接合材の加熱を開始し、接合材の温度が有機溶媒の沸点に達すると、有機溶媒が気化し、有機ガスとなって接合材外に抜けるとともに、有機溶媒が気化したことにより金属粉同士が接触する。更に加熱を続けると、金属粉が溶融又は焼結し、その後冷却することにより、被接合材が接合される。
【0003】
ところで、有機ガスが接合材外に抜けきる前に金属粉が接触してしまうと、有機ガスが接合材中に閉じ込められる。有機ガスが接合材中に閉じ込められた状態のまま被接合材が接合されると、ボイドの原因となることが知られている。そこで、特許文献1では、接合材に対しプレ加熱を行い、有機溶媒を気化させた後に、接合材を溶融し、接合を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−44754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、プレ加熱工程において全体を均一に加熱している。このため、接合材において雰囲気に曝されている部分(接合材外周部)の有機溶媒ほど早く気化する。すなわち、接合材において外周部寄りの金属粉ほど早く接触し、雰囲気と接合材内部とが、接触した金属粉によって遮断される。その結果、接合材内部から発生する有機ガスが、雰囲気中に抜け出し難くなるため、接合材内部に残留した有機ガスによってボイドが発生してしまう。また、金属粉の融点よりも高い温度で金属粉を溶融させた後に凝固させることにより、被接合材を接合する接合材で接合を行う場合でも、同様に接合材中に閉じ込められた有機ガスに起因するボイドが発生する。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、加熱溶融又は焼結時に気化した有機ガスを要因とするボイドの発生を低減させることができる接合装置、接合方法、及びその接合方法によって接合された接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、金属粉に有機溶媒を混合してなる接合材を加熱溶融又は焼結することで被接合材を接合する接合装置において、雰囲気に接する前記接合材の雰囲気隣接部の温度を、前記有機溶媒の沸点未満の温度に調整する調整手段を備えたことを要旨とする。
【0008】
本発明によれば、雰囲気に接する雰囲気隣接部の温度を、有機溶媒の沸点未満の温度に調整することができるため、雰囲気隣接部の有機溶媒を最後に気化させることができる。接合材の加熱に伴い発生する有機ガスは、雰囲気隣接部から雰囲気中に抜け出すことが出来るため、接合材内部に有機ガスが残留せず、ボイドの発生を低減させることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の接合装置において、前記調整手段には、局所加熱を行う加熱手段を含むことを要旨とする。
本発明によれば、接合材が局所加熱されることにより、接合材には、加熱手段から離間する方向に向かって温度上昇が遅くなる温度勾配が発生し、加熱手段寄りの部分程、早く有機溶媒が気化する。このため、有機ガスの逃げ道は、加熱手段から離間する方向に作られることになり、加熱手段から離間する方向に位置する雰囲気隣接部から有機ガスを押し出すことができる。この結果、より確実に有機ガスが接合材内に残留することを防ぐことができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の接合装置において、前記加熱手段は、前記被接合材の中央を加熱可能に配置されることを要旨とする。
本発明によれば、加熱手段から雰囲気隣接部までの距離が最短になる。このため、雰囲気隣接部の温度が上昇しやすく効率がよい。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうち何れか1項に記載の接合装置において、前記調整手段には、前記雰囲気隣接部に冷媒を供給する冷媒供給手段を含むことを要旨とする。
【0012】
本発明によれば、接合材をどのような方法で加熱したとしても、雰囲気隣接部を冷却することにより、雰囲気隣接部の温度を、有機溶媒の沸点未満に調整することができる。
請求項5に記載の発明は、金属粉に有機溶媒を混合してなる接合材を加熱溶融又は焼結することで被接合材を接合する接合方法において、雰囲気に接する前記接合材の少なくとも一の部位である雰囲気隣接部が最後に溶融又は焼結されるように前記雰囲気隣接部の温度を調節する温度調節工程を有することを要旨とする。
【0013】
本発明によれば、接合材において雰囲気と接している部分である雰囲気隣接部が最後に溶融又は焼結するように温度を調節することができるため、接合材の加熱に伴い発生する有機ガスは、雰囲気隣接部から雰囲気中に抜け出すことができる。このため、接合材内部に有機ガスが残留せず、ボイドの発生を低減させることができる。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の接合方法において、前記温度調節工程では、前記接合材の前記雰囲気隣接部に向かって熱を拡散させるように加熱することを要旨とする。
【0015】
本発明によれば、接合材には、雰囲気隣接部に向かって温度上昇が遅くなる温度勾配が発生し、雰囲気隣接部が最後に溶融又は焼結する。そして、有機ガスが雰囲気隣接部から押し出されることにより、より確実に有機ガスが接合材内に残留することを防ぐことができる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の接合方法において、前記温度調節工程では、前記被接合材の中央を加熱することを要旨とする。
本発明によれば、請求項3に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項5〜請求項7のうち何れか1項に記載の接合方法において、前記温度調節工程では、前記雰囲気隣接部の温度を前記有機溶媒の沸点未満の温度に冷却することを要旨とする。
【0018】
本発明によれば、請求項4と同様の効果を奏する。
請求項9に記載の発明は、被接合材の間に介在させた金属粉に有機溶媒を混合してなる接合材を、請求項5〜請求項8のうち何れか1項に記載の接合方法によって加熱溶融又は焼結した接合体であることを要旨とする。
【0019】
本発明の接合体は、有機ガスを要因とする接合材内部のボイドの発生が低減されているため、接合信頼性が高い。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加熱溶融又は焼結時に気化した有機ガスを要因とするボイドの発生を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】半導体モジュールの縦断面図。
【図2】(a)及び(b)は、第1の実施形態における接合装置の概略図。
【図3】第1の実施形態における接合装置の作用図。
【図4】第2の実施形態における接合装置の概略図。
【図5】第2の実施形態における接合装置の作用図。
【図6】第3の実施形態における接合装置の概略図。
【図7】第3の実施形態における接合装置の作用図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態について、図1及び図2に従って説明する。
図1に示すように、接合体としての半導体モジュール10は、被接合材としての回路基板11と、当該回路基板11の一面に接合される被接合材としての半導体素子12と、ヒートシンク13とから構成されている。回路基板11は、セラミックス基板14の両面に金属板15,16を接合することにより形成されている。セラミックス基板14は、例えば、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ケイ素などにより形成されている。また、金属板15は、配線層として機能し、例えば、アルミニウム(純アルミニウム及びアルミニウム合金)や銅などで形成されている。半導体素子12は、金属板15に半田付けにより接合されている。符号「H」は、半田層を示している。半導体素子12は、IGBTやダイオードからなる。金属板16は、セラミックス基板14とヒートシンク13とを接合する接合層として機能し、例えば、アルミニウムや銅などで形成されている。ヒートシンク13は、金属板16に接合されている。
【0023】
このような半導体モジュール10は、図2(a)に示す接合装置20を用いて、回路基板11(金属板15)と半導体素子12との間に介在される接合材としての半田ペースト17が加熱溶融されるとともに、溶融後の凝固によって半田付けされることで半田層Hが形成される。
【0024】
図2(a)に示す接合装置20には、装置の外部に対して閉塞される閉塞空間をなす加熱室21が設けられている。加熱室21の下部には、当該加熱室21に半田溶融前の半田付け対象物30を投入するとともに、加熱処理位置に位置決めするための搬送装置22が敷設されている。また、加熱室21の上部には、半田ペースト17を溶融するための加熱手段としてのヒータ25が、支持具26によって支持されている。
【0025】
本実施形態のヒータ25は、図2(b)に示すように、平面視円形の放熱面25aを有する棒状に形成されている。そして、放熱面25aの表面積は、半導体モジュール10を構成する半導体素子12の表面積よりも小さく形成されている。なお、ここで言う半導体素子12の表面積とは、金属板15に塗布された半田ペースト17に載置された状態で平面視した時の素子面12aの表面積であって、当該素子面12aは金属板15との接合面12bに対向する面である。
【0026】
また、ヒータ25を支持する支持具26には、ヒータ25の放熱面25aを、半導体素子12の素子面12aに対して接離動作させるための図示しない動作機構を具備している。本実施形態においてヒータ25及び支持具26は、図2(a)に示すように、半田付け対象物30を加熱処理位置に位置決めした際、半導体素子12の直上に位置するように配置されている。このため、放熱面25aを素子面12aに対して接離動作させる方向は、上方向(離間動作の方向)及び下方向(接近方向)とされる。
【0027】
また、本実施形態においてヒータ25による半田ペースト17の加熱処理は、図3に示すように、ヒータ25の放熱面25aを、加熱面としての半導体素子12の素子面12aに接触(当接)させて行われる。本実施形態では、前述したように、ヒータ25の放熱面25aの表面積が半導体素子12の素子面12aの表面積よりも小さく構成されている。このため、放熱面25aを素子面12aに接触させた状態(加熱状態)では、素子面12aの局所(一部)にヒータ25からの熱が伝達されることになる。したがって、本実施形態のヒータ25は、局所加熱を行う加熱手段として機能する。また、加熱室21の外部には、搬送装置22の動作、ヒータ25のON/OFF操作、及び支持具26の作動制御など、各種制御を実行する制御装置としての制御コントローラ28が設けられている。搬送装置22、ヒータ25及び支持具26の動作機構は、制御コントローラ28に電気的に接続されている。そして、制御コントローラ28は、予め用意された制御用プログラムにしたがって、上記各種制御を実行する。
【0028】
次に、本実施形態の接合装置20を用いて半導体素子12と金属板15を接合する接合方法を説明する。
最初に、接合装置20の加熱室21とは別の場所(別室)で、半田付け対象物30を準備する。具体的には、回路基板11における半導体素子12の実装部位に対して半田ペースト17を塗布するとともに、塗布した半田ペースト17上に半導体素子12を載置する。これにより、半田付け対象物30の準備が完了し、この準備作業がペースト塗布工程となる。
【0029】
なお、半田ペースト17は、金属粉としての半田粉末に有機溶媒を加え、ペースト状にしたものである。有機溶媒としては、沸点が室温以上でペーストとして増粘や粘度調整ができ、混合される金属粉の溶融温度以下で気化する溶媒が用いられる。例えば、メタノール、エタノール、オクタノールなどが用いられる。
【0030】
次に、準備した半田付け対象物30を搬送装置22によって加熱室21へ搬送する。
搬送装置22上の半田付け対象物30は、搬送装置22の駆動により、図2(b)に示すように、ヒータ25の放熱面25aが、半導体素子12の素子面12aの中央に配置されるように位置決めする。この状態において放熱面25aは、支持具26の接近動作によって素子面12a側へ移動すると、当該素子面12aの中央付近に、局所的に接触可能とされる。また、半田付け対象物30が投入された加熱室21は閉塞空間とされる。また、加熱室21の空間内(雰囲気内)は、半田ペースト17に含まれる有機溶媒の沸点未満とされている。
【0031】
そして、素子面12aに対して放熱面25aを接触させると、放熱面25aからの熱によって半田ペースト17は半導体素子12を介して加熱される。この加熱作業が加熱工程となる。ヒータ25(放熱面25a)の温度は、使用する接合材によって適宜設定されるが、本実施形態の加熱工程では半田ペースト17を溶融可能な温度に設定される。
【0032】
本実施形態の加熱工程のようにヒータ25の熱を加えた場合、放熱面25aからの熱は、素子面12aの中央に集中して加えられることになる。そして、素子面12aに加えられた熱により接合面12bの中央に熱が集中的に加えられることになる。このため、半田ペースト17が加熱されると、半田ペースト17においてヒータ25寄りの部分である中央部17a(図3に示す)程、早く温度が上昇する。一方で、半田ペースト17は、中央部17aから離間する部分ほど温度は遅く上昇する。すなわち、半田ペースト17は、中央部17aから四方に拡散するように熱が伝播されることになるので、半田ペースト17の各端部17b(図2(b)に示す4つの端面)は、温度上昇が最も遅くなる。本実施形態において、端部17bは、雰囲気に接する雰囲気隣接部となり、雰囲気隣接部が最後に溶融するように、ヒータ25により素子面12aの中央を局所的に加熱する作業が温度調節工程となる。これにより、半田ペースト17は、各端部17bに向かって温度上昇が遅くなる温度勾配を伴って溶融していく。なお、ヒータ25の温度は、図2(b)に示す半導体素子12の端部17bの温度が200℃未満で、加熱される中央部17aとの温度差が40℃となるような温度が望ましい。図3には、半田ペースト17に温度勾配が形成されている状態を黒点の密度によって示しており、黒点の密度が高い程、温度が高いことを示している。
【0033】
そして、ヒータ25の加熱に伴い、半田ペースト17の温度が有機溶媒の沸点に達すると、有機溶媒は気化し、有機ガスとなって雰囲気に抜け出していく。本実施形態の加熱工程では、半田ペースト17の中央部17aの温度が最も高くなっているため、中央部17aから各端部17bに向かって、徐々に有機溶媒が気化していく。有機溶媒が気化した部分では、半田粉末が接触し、有機ガスは通れなくなるため、有機ガスは中央部17aから端部17bに向かって徐々に押し出されていく。そして、中央部17aから押し出された有機ガスは端部17bから加熱室21(雰囲気)中に抜け出し、最後に端部17bの有機溶媒が気化する。
【0034】
本実施形態の加熱工程によれば、ヒータ25の局所加熱によって温度勾配を形成することから、気化した有機ガスの逃げ道が加熱室21の雰囲気に接する部位としての端部17bへ向かって作られることになる。その結果、半田ペースト17が溶融しても、その内部に有機ガスが残留することなく、加熱室21内に排出される。つまり、ボイドの発生要因となり得る有機ガスの残留を抑制することができる。本実施形態では、端部17bが雰囲気隣接部となり、局所加熱を行うヒータ25によって、端部17bの温度を、有機溶媒の沸点未満の温度に調整する調整手段が構成される。
【0035】
その後、半田ペースト17が完全に溶融したならば、溶融した半田が凝固するまでの間、冷却する(冷却工程)。なお、溶融した半田の冷却は、自然冷却でも良いし、冷媒を供給する強制冷却の何れでも良い。溶融した半田は、溶融温度未満に冷却されることによって凝固し、金属板15と半導体素子12を接合する。
【0036】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)加熱室21の空間内は、半田ペースト17に含まれる有機溶媒の沸点未満とされている。このため、半田ペースト17の各端部17bが、雰囲気により冷却されることにより雰囲気隣接部は最後に溶融することとなる。このため半田ペースト17の加熱に伴い発生する有機ガスは、各端部17bから抜け出すことができ、半田ペースト17内に残留する有機ガスが低減される。
【0037】
(2)ヒータ25は、半導体素子12の素子面12aの中央を局所的に加熱している。ヒータ25の局所加熱によって、半田ペースト17には、中央部17aから各端部17bに向かって温度上昇が遅くなる温度勾配が発生する。このため、気化した有機ガスの逃げ道が加熱室21の雰囲気に接する部位である端部17bへ向かって作られることになり、より確実に有機ガスを加熱室21に排出することができる。
【0038】
(3)半田ペースト17を溶融する段階で、半田ペースト17の加熱に伴う有機ガスを排出できるようにした。このため、特許文献1に記載の接合方法と比べると、プレ加熱工程を省略することができる。従って、工程が簡略化され、製造コストの削減につながる。
(第2の実施形態)
次に、本発明を具体化した第2の実施形態について図4及び図5に従って説明する。なお、以下に説明する実施形態では、既に説明した実施形態と同一構成について同一の符号を付すなどして、その重複する説明は省略又は簡略する。
【0039】
図4に示すように、本実施形態における加熱室21には、加熱室21外に配置される冷媒供給源43(図中、「供給源」と示す)からの冷媒を、加熱工程時に半田付け対象物30の所定部位に供給する円環状の冷媒管路40が配設されている。冷媒管路40内には、冷媒供給源43から供給される乾燥エアが流れるようになっている。冷媒管路40の内周部には、乾燥エアを冷媒管路40外に排出する排出孔40aが複数箇所(本実施形態では4箇所)に形成されている。冷媒管路40は、半田ペースト17の加熱時(加熱工程時)に、各排出孔40aから排出される乾燥エアが、半田ペースト17の周縁部(端部17b)に吹き付けられるように配置される。具体的に言えば、冷媒管路40は、複数本の支持柱41を介して支持具42で支持されている。各支持具42は、半田付け対象物30に対して接離動作させるための図示しない動作機構を具備している。本実施形態において冷媒管路40は、図4及び図5に示すように、半田付け対象物30を加熱処理位置に位置決めした際、各排出孔40aが半田ペースト17の周囲に位置するように配置されている。このため、冷媒管路40を半田ペースト17に対して接離動作させる方向は、上方向(離間動作の方向)及び下方向(接近方向)とされる。
【0040】
また、加熱室21には、その上部に、半田ペースト17を溶融するための加熱装置としてのヒータ27が配設されている。本実施形態のヒータ27は、加熱室21の空間全体を加熱する非接触式(放熱面を半導体素子12に接触させない)とされている。本実施形態では、このヒータ27により、加熱室21内の雰囲気温度を上昇させることによって半田ペースト17を溶融させる。また、加熱室21の外部には、搬送装置22の動作、ヒータ27のON/OFF操作、支持具42の作動制御及び冷媒供給源43からの乾燥エアの供給/停止など、各種制御を実行する制御装置としての制御コントローラ29が設けられている。搬送装置22、ヒータ27、冷媒供給源43及び支持具42の動作機構は、制御コントローラ29に電気的に接続されている。そして、制御コントローラ29は、予め用意された制御用プログラムに従って上記各種制御を実行する。
【0041】
次に、本実施形態の接合装置20を用いて半導体素子12と金属板15を接合する接合方法を説明する。なお、半田付け対象物30は、第1の実施形態と同様にペースト塗布工程を経て準備される。
【0042】
加熱室21に投入された半田付け対象物30は、半田ペースト17が、ヒータ27によって加熱された雰囲気温度で溶融される。一方、半田ペースト17は、当該半田ペースト17の周囲に配置される冷媒管路40から排出される乾燥エアによって冷却される。本実施形態では、乾燥エアにより、半田ペースト17の端部17bの温度が、有機溶媒の沸点未満の温度に冷却される。本実施形態において、冷媒管路40により雰囲気隣接部としての端部17bを冷却しながら加熱を行う作業が温度調節工程となる。
【0043】
図5には、半田ペースト17に温度勾配が形成されている状態を黒点の密度によって示しており、黒点の密度が高い程、温度が高いことを示している。
本実施形態の加熱工程のように半田ペースト17の端部17bを冷却する場合、半田ペースト17の端部17b寄りの部分ほど、温度は遅く上昇する。すなわち、半田ペースト17の中央部17aは、端部17bよりも温度は早く上昇する。これにより、半田ペースト17は、第1の実施形態と同様に、各端部17bに向かって温度上昇が遅くなる温度勾配を伴って溶融していく。その結果、半田ペースト17に含まれる有機溶媒は、中央部17aから端部17bに向かって徐々に気化していく。そして、中央部17aから押し出された有機ガスは、端部17bから加熱室21(雰囲気)中に抜け出し、最後に端部17bの有機溶媒が気化する。
【0044】
本実施形態によれば、第1の実施形態の効果(1),(3)に加えて、以下の効果を得ることができる。
(4)冷媒管路40により、半田ペースト17を冷却することで、加熱室21内の雰囲気温度が上昇しても、半田ペースト17の中央部17aから端部17bに向かって温度上昇が遅くなる温度勾配を生じさせることができる。すなわち、半田ペースト17を均等に加熱したとしても雰囲気隣接部から有機ガスを抜くことができる。
【0045】
(5)冷媒管路40により、加熱工程中に端部17bを有機溶媒の沸点未満の温度に冷却することができる。このため、有機ガスが十分に抜けきるまで端部17bの温度を有機溶媒の沸点未満に保つことにより、より確実に有機ガスを抜くことができる。
【0046】
(第3の実施形態)
次に、本発明を具体化した第3の実施形態を図6及び図7に従って説明する。
図6に示すように、半導体素子12の電極12cには、制御装置50が接続されている。そして、本実施形態では、以下に説明するように、半田ペースト17を溶融させる加熱工程を行う。
【0047】
図7には、半田ペースト17に温度勾配が形成されている状態を黒点の密度によって示しており、黒点の密度が高い程、温度が高いことを示している。
制御装置50は、半導体素子12を駆動させる。すると、半導体素子12の駆動に伴い半導体素子12の表面が発熱する。この発熱は、半導体素子12を介して半田ペースト17に伝播される。これにより、本実施形態の加熱工程では、半導体素子12の駆動による発熱により、半田ペースト17を溶融させる。
【0048】
このとき、半導体素子12の表面は均等に発熱するため、半田ペースト17に伝播する熱によって半田ペースト17も均等に加熱される。すなわち、半田ペースト17において、半導体素子12寄りの部分ほど、温度が高くなりやすくなっている。一方、本実施形態の加熱工程では、ヒートシンク13に冷媒を供給するようになっている。このため、半田ペースト17は、冷媒供給により、冷却されることで、ヒートシンク13寄りの部分ほど温度が高くなり難くなっている。これにより、本実施形態の加熱工程において半田ペースト17には、半導体素子12の接合面12b側から金属板15へ向かって温度上昇が遅くなる温度勾配が形成される。本実施形態において、ヒートシンク13により半田ペースト17を冷却しながら加熱を行う作業が温度調節工程となる。したがって、半田ペースト17に含まれる有機溶媒は、接合面12b側から金属板15に向かって徐々に気化していく。そして、押し出された有機ガスは、金属板15側から加熱室21(雰囲気)中に抜け出し、最後に金属板15側の端部(雰囲気隣接部)の有機溶媒が気化する。本実施形態では、電極12cと、制御装置50と、ヒートシンク13により、調整手段が構成されるとともに、ヒートシンク13により冷媒供給手段が構成される。
【0049】
本実施形態によれば、第1及び第2の実施形態の効果(1),(3),(4)と同様の効果を得ることができる。
なお、実施形態は以下のように変更しても良い。
【0050】
○ 第1及び第2の実施形態において、加熱手段としてレーザーやソフトビームなどを用いても良い。
○ 第1、第2及び第3の実施形態において、接合材は銀ペーストなど、接合材に含まれる有機溶媒の沸点よりも高い温度で接合させる他の接合材であっても良い。
【0051】
○ 第1、第2及び第3の実施形態において、雰囲気隣接部は端部17b以外であってもよい。
○ 第1、第2及び第3の実施形態において、接合材は焼結により接合されてもよい。この場合、焼結時に接合対象物を加圧すれば接合を効率的に行うことができ、より好ましい。
【0052】
○ 第1及び第2の実施形態において、接合体は半導体モジュール以外であってもよい。また、各実施形態の加熱工程では、半田付け対象物を、半導体素子12と金属板15によって構成しても良い。
【0053】
○ 第1の実施形態において、局所加熱の部位を変更しても良い。すなわち、半田ペースト17(接合材)において少なくとも1つの端部17bを雰囲気隣接部とし、その雰囲気隣接部に向かって温度上昇させることで温度勾配を形成することができる。したがって、ヒータ25を何れかの端部17b周縁に接触させて、加熱を行っても良い。
【0054】
○ 第2の実施形態において、排出孔40aの数を変更してもよい。
○ 第2の実施形態において、ヒータ27を、第1の実施形態のヒータ25としても良い。
【0055】
○ 第3の実施形態において、専用の冷媒供給手段(冷却装置)を用いて冷却を行っても良い。例えば、第2の実施形態の冷媒供給手段であっても良い。
【符号の説明】
【0056】
10…半導体モジュール、11…回路基板、12…半導体素子、12c…電極、13…ヒートシンク、15…金属板、17…半田ペースト、17a…中央部、17b…端部、20…接合装置、25…ヒータ、27…ヒータ、40…冷媒管路、50…制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉に有機溶媒を混合してなる接合材を加熱溶融又は焼結することで被接合材を接合する接合装置であって、
雰囲気に接する前記接合材の雰囲気隣接部の温度を、前記有機溶媒の沸点未満の温度に調整する調整手段を備えたことを特徴とする接合装置。
【請求項2】
前記調整手段には、局所加熱を行う加熱手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の接合装置。
【請求項3】
前記加熱手段は、前記被接合材の中央を加熱可能に配置されることを特徴とする請求項2に記載の接合装置。
【請求項4】
前記調整手段には、前記雰囲気隣接部に冷媒を供給する冷媒供給手段を含むことを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか1項に記載の接合装置。
【請求項5】
金属粉に有機溶媒を混合してなる接合材を加熱溶融又は焼結することで被接合材を接合する接合方法であって、
雰囲気に接する前記接合材の少なくとも一の部位である雰囲気隣接部が最後に溶融又は焼結されるように前記雰囲気隣接部の温度を調節する温度調節工程を有することを特徴とする接合方法。
【請求項6】
前記温度調節工程では、前記接合材の前記雰囲気隣接部に向かって熱を拡散させるように加熱することを特徴とする請求項5に記載の接合方法。
【請求項7】
前記温度調節工程では、前記被接合材の中央を加熱することを特徴とする請求項6に記載の接合方法。
【請求項8】
前記温度調節工程では、前記雰囲気隣接部の温度を前記有機溶媒の沸点未満の温度に冷却することを特徴とする請求項5〜請求項7のうち何れか1項に記載の接合方法。
【請求項9】
被接合材の間に介在させた金属粉に有機溶媒を混合してなる接合材を、請求項5〜請求項8のうち何れか1項に記載の接合方法によって加熱溶融又は焼結した接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−148327(P2012−148327A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10029(P2011−10029)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】