説明

接着フィルムの製造方法

【課題】本発明は、高耐熱性ポリイミド層の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミド層を形成した多層フィルムにおいて、べたつきが抑制されたフィルムを好適に製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 高耐熱性ポリイミド層の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層が積層された接着フィルムを、300℃以上かつ5分以上で加熱処理することにより、べたつきが抑制されたフィルムを好適に製造し得る。その結果、半田付け工程の際、半田付けのツールが接着フィルムに密着することなく、良好に半田付けができるフィルムを提供し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板等に好適に用いられる接着フィルムの製造方法に関する。更に詳しくは、高耐熱性ポリイミド層の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミド層を形成した接着フィルムの製造を好適に行うことができる接着フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス製品の軽量化、小型化、高密度化にともない、各種プリント基板の需要が伸びている。これらのプリント基板の中でも、フレキシブル配線板の需要が特に伸びている。フレキシブル配線板は、フレキシブルプリント配線板(FPC)等とも称する。フレキシブル積層板は、絶縁性フィルム上に金属箔からなる回路が形成された構造を有している。
【0003】
上記フレキシブル積層板は、一般に、各種絶縁材料により形成され、柔軟性を有する絶縁性フィルムを基板とし、この基板の表面に、各種接着材料を介して金属箔を加熱・圧着することにより貼りあわせる方法により製造される。上記絶縁性フィルムとしては、ポリイミドフィルム等が好ましく用いられており、上記接着材料としては、エポキシ系、アクリル系等の熱硬化性接着剤が一般的に用いられている。このような熱硬化性接着剤を用いたフレキシブル配線板は、基板/接着材料/金属箔の三層構造を有しているので、三層FPCともいう。
【0004】
上記三層FPCに用いられる熱硬化性接着剤は、比較的低温での接着が可能であるという利点がある。しかし今後、FPCに対して耐熱性、屈曲性、電気的信頼性といった各種特性に対する要求が厳しくなるに従い、熱硬化性接着剤を用いた三層FPCでは対応が困難になると考えられている。
【0005】
これに対し、絶縁性フィルムに直接金属層を設けたFPCや、接着層に熱可塑性ポリイミドを使用したFPCが提案されている。このようなFPCは、絶縁性の基板に直接金属層を形成している状態にあるため、二層FPCとも呼ばれる。この二層FPCは、三層FPCより優れた特性を有し、上記各種特性に対する要求にも十分対応可能であることから、今後需要が伸びていくことが期待される。
【0006】
上記二層FPCは、基板に金属箔を積層した構造を有するフレキシブル金属張積層板を用いて製造される。このフレキシブル金属張積層板の作製方法としては、金属箔上にポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を流延、塗布した後イミド化するキャスト法、スパッタ、メッキによりポリイミドフィルム上に直接金属層を設けるメタライジング法、熱可塑性ポリイミドを介してポリイミドフィルムと金属箔とを貼り合わせるラミネート法が挙げられる。
【0007】
これらのうち、ラミネート法は、対応できる金属箔の厚み範囲がキャスト法よりも広く、装置コストがメタライジング法よりも低いという点で優れている。ラミネートを行う装置としては、ロール状の材料を繰り出しながら連続的にラミネートする熱ロールラミネート装置またはダブルベルトプレス装置等が用いられている。上記の内、生産性の点から見れば、熱ロールラミネート法をより好ましく用いることができる。
【0008】
上記ラミネート法により製造されるフレキシブル金属張積層板においては、基板として、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面に熱可塑性ポリイミドを含む樹脂組成物の層を設けてなる接着フィルムが広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
この接着フィルムは、上述のように二層FPCの絶縁層として使用されるため、金属箔を張り合わせた後に金属箔に回路パターンが作成され、半田付け工程等を経て装置に組み込まれる。しかしながら上記半田付け工程の際、半田付けのツールが接着フィルムに密着(この現象をべたつきと呼ぶ)し、良好に半田付けできないことがあった。
【特許文献1】特開平11−99554公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、べたつきの少ない接着フィルムを好適に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、接着フィルムのべたつきの発生を抑制する方法を独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、以下の新規な製造方法によって、上記課題を解決しうる。
1)高耐熱性ポリイミド層の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層が積層された接着フィルムを、300℃以上かつ5分以上で加熱処理することを特徴とする、接着フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、べたつきの小さい接着フィルムを好適に製造する方法を提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0014】
本発明に係る接着フィルムの製造方法は、高耐熱性ポリイミド層の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層が積層された接着フィルムを、加熱処理することを特徴としている。
【0015】
本発明者が鋭意検討した結果、べたつきの主たる要因は、接着フィルム最表面の熱可塑性ポリイミドの低分子量成分であることを明らかにした。さらに、当該低分子量成分は、加熱処理により除去可能であることも別途明らかにしており、従い、加熱処理することで、べたつきの主要因である熱可塑性ポリイミドの低分子量成分を好適に除去できるものである。
【0016】
以下、実施の形態の一例に基づき説明する。
【0017】
<高耐熱性ポリイミド層>
本発明に係る高耐熱性ポリイミド層とは、非熱可塑性ポリイミド樹脂を90wt%以上含有すれば、その分子構造、厚みは特に限定されない。高耐熱性ポリイミド層に用いられる非熱可塑性ポリイミドは、ポリアミド酸を前駆体として用いて製造される。ポリアミド酸の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができ、通常、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。これらのポリアミド酸溶液は通常5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る。
【0018】
重合方法としてはあらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の重合における重合方法の特徴はそのモノマーの添加順序にあり、このモノマー添加順序を制御することにより得られるポリイミドの諸物性を制御することができる。従い、本発明においてポリアミド酸の重合にはいかなるモノマーの添加方法を用いても良い。代表的な重合方法として次のような方法が挙げられる。すなわち、
1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここに芳香族ジアミン化合物を追加添加後、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
などのような方法である。これら方法を単独で用いても良いし、部分的に組み合わせて用いることもできる。
【0019】
本発明において、上記のいかなる重合方法を用いて得られたポリアミド酸を用いても良く、重合方法は特に限定されるのもではない。
【0020】
本発明において、後述する剛直構造を有するジアミン成分を用いてプレポリマーを得る重合方法を用いることも好ましい。本方法を用いることにより、弾性率が高く、吸湿膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得やすくなる傾向にある。本方法においてプレポリマー調製時に用いる剛直構造を有するジアミンと酸二無水物のモル比は100:70〜100:99もしくは70:100〜99:100、さらには100:75〜100:90もしくは75:100〜90:100が好ましい。この比が上記範囲を下回ると弾性率および吸湿膨張係数の改善効果が得られにくく、上記範囲を上回ると線膨張係数が小さくなりすぎたり、引張伸びが小さくなるなどの弊害が生じることがある。
【0021】
ここで、本発明にかかるポリアミド酸組成物に用いられる材料について説明する。
【0022】
本発明において用いうる適当なテトラカルボン酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物を含み、これらを単独または、任意の割合の混合物が好ましく用い得る。
【0023】
これら酸二無水物の中で特にはピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0024】
またこれら酸二無水物の中で3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一種を用いる場合の好ましい使用量は、全酸二無水物に対して、60mol%以下、好ましくは55mol%以下、更に好ましくは50mol%以下である。3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一種を用いる場合、その使用量がこの範囲を上回るとポリイミドフィルムのガラス転移温度が低くなりすぎたり、熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜そのものが困難になったりすることがあるため好ましくない。
【0025】
また、ピロメリット酸二無水物を用いる場合、好ましい使用量は40〜100mol%、更に好ましくは45〜100mol%、特に好ましくは50〜100mol%である。ピロメリット酸二無水物をこの範囲で用いることによりガラス転移温度および熱時の貯蔵弾性率を使用または製膜に好適な範囲に保ちやすくなる。
【0026】
本発明にかかる非熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸組成物において使用し得る適当なジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3‘−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン及びそれらの類似物などが挙げられる。
【0027】
ジアミン成分として、剛直構造を有するジアミンと柔構造を有するジアミンを併用することもでき、その場合の好ましい使用比率はモル比で80/20〜20/80、さらには70/30〜30/70、特には60/40〜30/70である。剛構造のジアミンの使用比率が上記範囲を上回ると得られるフィルムの引張伸びが小さくなる傾向にあり、またこの範囲を下回るとガラス転移温度が低くなりすぎたり、熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜が困難になるなどの弊害を伴う場合がある。
【0028】
本発明において、剛直構造を有するジアミンとは、下記一般式(1)
【0029】
【化1】

(式中のR2は、下記一般式群(1)
【0030】
【化2】

で表される2価の芳香族基からなる群から選択される何れか1つの基であり、一般式群(1)中のR3は同一または異なっていてもよく、H−,CH3−、−OH、−CF3、−SO4、−COOH、−CO-NH2、Cl−、Br−、F−、及びCH3O−からなる群より選択される何れか1つの基である)
で表されるものをいう。
【0031】
また、柔構造を有するジアミンとは、エーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基などの柔構造を分子中に有するジアミンであり、好ましくは、下記一般式(2)で表されるものである。
【0032】
【化3】

(式中のR4は、下記一般式群(2)
【0033】
【化4】

で表される2価の連結基及び有機基からなる群から選択される1つの基であり、式中のR5は同一または異なっていてもよく、H−,CH3−、−OH、−CF3、−SO4、−COOH、−CO-NH2、Cl−、Br−、F−、及びCH3O−からなる群より選択される1つの基である。)
本発明において用いられるポリイミドフィルムは、上記の範囲の中で所望の特性を有するフィルムとなるように適宜芳香族酸二無水物および芳香族ジアミンの種類、配合比を決定して用いることにより得ることができる。
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用い得る。
また、本発明では、易滑性を付与する目的で、フィラーを添加することが望ましい。本発明に係るフィラーとは、一般に無機フィラーと呼ばれるものであればいかなるものを用いても良いが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。また、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のその他特性を制御する目的で、各種フィラーを添加してもよい。
【0034】
また、フィラーの添加量は、高耐熱性ポリイミド100重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは0.01〜90重量部、更に好ましくは0.02〜80重量部である。フィラー添加量がこの範囲を下回るとフィラーによる改質効果が現れにくく、この範囲を上回るとフィルムの機械的特性が大きく損なわれる可能性がある。フィラーの添加は、
1.重合前または途中に重合反応液に添加する方法
2.重合完了後、3本ロールなどを用いてフィラーを混錬する方法
3.フィラーを含む分散液を用意し、これをポリアミド酸有機溶媒溶液に混合する方法
などいかなる方法を用いてもよいが、フィラーを含む分散液をポリアミド酸溶液に混合する方法、特に製膜直前に混合する方法が製造ラインのフィラーによる汚染が最も少なくすむため、好ましい。フィラーを含む分散液を用意する場合、ポリアミド酸の重合溶媒と同じ溶媒を用いるのが好ましい。また、フィラーを良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等をフィルム物性に影響を及ぼさない範囲内で用いることもできる。
【0035】
<接着層>
本発明に係る接着層は、ラミネート法により有為な接着力が発現されれば、当該層に含まれる熱可塑性ポリイミド樹脂の含有量、分子構造、厚みは特に限定されない。しかしながら、有為な接着力を発現せしめるためには、実質的には熱可塑性ポリイミド樹脂を50wt%以上含有することが好ましい。
【0036】
熱可塑性ポリイミド層に含有される熱可塑性ポリイミドとしては、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリエステルイミド等を好適に用いることができる。中でも、低吸湿特性の点から、熱可塑性ポリエステルイミドが特に好適に用いられる。
【0037】
本発明に係る熱可塑性ポリイミド層に含有される熱可塑性ポリイミドは、その前駆体のポリアミド酸からの転化反応により得られる。該ポリアミド酸の製造方法としては、高耐熱性ポリイミド層の前駆体と同様、公知のあらゆる方法を用いることができる。
【0038】
また、既存の装置でラミネートが可能であり、かつ得られる金属張積層板の耐熱性を損なわないという点から考えると、本発明における熱可塑性ポリイミドは、150〜300℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有していることが好ましい。なお、Tgは動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値により求めることができる。
【0039】
本発明に用いられる熱可塑性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸についても、特に限定されるわけではなく、公知のあらゆるポリアミド酸を用いることができる。ポリアミド酸溶液の製造に関しても、前記原料および前記製造条件等を全く同様に用いることができる。
【0040】
なお、熱可塑性ポリイミドは、使用する原料を種々組み合わせることにより、諸特性を調節することができるが、一般に剛直構造のジアミン使用比率が大きくなるとガラス転移温度が高くなる及び/又は熱時の貯蔵弾性率が大きくなり接着性・加工性が低くなるため好ましくない。剛直構造のジアミン比率は好ましくは40mol%以下、さらに好ましくは30mol%以下、特に好ましくは20mol%以下である。
【0041】
好ましい熱可塑性ポリイミド樹脂の具体例としては、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物類を含む酸二無水物とアミノフェノキシ基を有するジアミンを重合反応せしめたものが挙げられる。
【0042】
さらに、本発明に係る接着フィルムの特性を制御する目的で、必要に応じて無機あるいは有機物のフィラー、さらにはその他樹脂を添加しても良い。
【0043】
<接着フィルムの製造>
本発明に係る接着フィルムを得る方法は、高耐熱性ポリイミド層に接着層を形成する方法、又は接着層をシート状に成形し、これを高耐熱性ポリイミド層に貼り合わせる方法や共押出−流延塗布法等が好適に例示され得る。共押出−流延塗布法とは、高耐熱性ポリイミドの前駆体を含む溶液と、熱可塑性ポリイミドを含む溶液若しくは熱可塑性ポリイミドの前駆体を含む溶液とを、二層以上の多層ダイを有する押出成形機へ同時に供給して、前記多層ダイの吐出口から両溶液を少なくとも二層の薄膜状体として支持体上に押出す工程を含むフィルムの製造方法である。
【0044】
共押出−流延塗布法について説明すると、二層以上の多層ダイから押出された前記の両溶液を、平滑な支持体上に連続的に押し出し、次いで、前記支持体上の多層の薄膜状体の溶媒の少なくとも一部を揮散せしめることで、自己支持性を有する多層フィルムが得られる。さらに、当該多層フィルムを前記支持体上から剥離し、最後に、当該多層フィルムを高温(250−600℃)で充分に加熱処理することによって、溶媒を実質的に除去すると共にイミド化を進行させることで、目的の接着フィルムが得られる。また、接着層の熔融流動性を改善する目的で、意図的にイミド化率を低くする及び/又は溶媒を残留させてもよい。
【0045】
本発明に係る支持体とは、多層ダイから押出された多層液膜を流延するもので、当該支持体上で多層液膜を加熱乾燥せしめ、自己支持性を付与するものである。該支持体の形状は特に問わないが、接着フィルムの生産性を考慮すると、ドラム状若しくはベルト状であることが好ましい。また、該支持体の材質も特に問わず、金属、プラスチック、ガラス、磁器などが挙げられ、好ましくは金属であり、更に好ましくは耐腐食性に優れるSUS材である。また、Cr、Ni、Snなどの金属メッキをしても良い。
【0046】
一般的にポリイミドは、ポリイミドの前駆体、即ちポリアミド酸からの脱水転化反応により得られ、当該転化反応を行う方法としては、熱によってのみ行う熱キュア法と、化学硬化剤を使用する化学キュア法の2法が最も広く知られている。しかしながら、生産性に優れていることから、化学キュア法の採用がより好ましい。
【0047】
ここで、化学硬化剤とは、脱水剤及び触媒を含むものである。ここでいう脱水剤とは、ポリアミック酸に対する脱水閉環剤であり、その主成分として、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N′−ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物、アリールスルホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物またはそれら2種以上の混合物を好ましく用いることができる。その中でも特に、脂肪族酸無水物及び芳香族酸無水物が良好に作用する。また、触媒とは脱水剤のポリアミック酸に対する脱水閉環作用を促進する効果を有する成分であるが、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミンを用いることができる。そのうち、イミダゾ−ル、ベンズイミダゾ−ル、イソキノリン、キノリン、またはβ−ピコリンなどの含窒素複素環化合物であることが好ましい。さらに、脱水剤及び触媒からなる溶液中に、有機極性溶媒を導入することも適宜選択されうる。
【0048】
化学キュア法を採用する場合、脱水剤及び触媒の含有量は、多すぎると二層以上の押出し成型用ダイスから押出された多層膜を乾燥せしめた際に、脱水剤及び触媒を添加した層から溶剤が滲出し、高耐熱性ポリイミド層と熱可塑性ポリイミド層の間に当該溶剤が蓄積し、各層間の接着強度の低下や、接着フィルム製造時に層間の剥離等の困難さを引き起こすことがある。また、少なすぎると、押出し成型用ダイスから押出された多層膜を平滑な支持体上で乾燥した後、当該支持体から多層膜を引き剥がすことが困難になることがある。
【0049】
上記要請を解決するため、脱水剤の含有量は、脱水剤及び触媒を含有せしめる溶液に含まれるポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.5〜4.0モルが好ましく、1.0〜3.0モル、さらには1.2〜2.5モルが特に好ましい。
【0050】
同様の理由で、触媒の含有量は、脱水剤及び触媒を含有せしめる溶液に含まれるポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.05〜2.0モルが好ましく、0.05〜1.0モル、さらには0.3〜0.8モルが特に好ましい。
【0051】
二層以上の多層ダイから押出された高耐熱性ポリイミドの前駆体溶液と、熱可塑性ポリイミドを含有する溶液若しくは熱可塑性ポリイミドの前駆体を含有する溶液中の溶媒の揮散方法に関しては特に限定されないが、加熱及び/または送風による方法が最も簡易な方法である。上記加熱の際の温度は、高すぎると溶媒が急激に揮散し、当該揮散の痕が最終的に得られる接着フィルム中に微小欠陥を形成せしめる要因となるため、用いる溶媒の沸点+50℃未満であることが好ましい。
【0052】
イミド化時間に関しては、実質的にイミド化および乾燥が完結するに十分な時間を取ればよく、一義的に限定されるものではないが、一般的には1〜600秒程度の範囲で適宜設定される。
【0053】
イミド化する際にかける張力としては、1kg/m〜15kg/mの範囲内とすることが好ましく、5kg/m〜10kg/mの範囲内とすることが特に好ましい。張力が上記範囲より小さい場合、フィルム搬送時にたるみや蛇行が生じ、巻取り時にシワが入ったり、均一に巻き取れない等の問題が生じる可能性がある。逆に上記範囲よりも大きい場合、強い張力がかかった状態で高温加熱されるため、得られるフレキシブル金属張積層板の寸法特性が悪化することがある。
【0054】
上記の二層以上の多層ダイとしては各種構造のものが使用できるが、例えば複数層用フィルム作成用のTダイス等が使用できる。また、従来既知のあらゆる構造のものを好適に使用可能であるが、特に好適に使用可能なものとして、フィードブロックTダイやマルチマニホールドTダイが例示される。
【0055】
<低分子量成分の除去>
本発明に係る接着フィルムの製造方法は、300℃以上かつ5分以上加熱処理することが必須である。前記加熱処理温度は、300℃以上であれば如何なる温度でも構わないが、接着層に含まれる熱可塑性ポリイミド樹脂の分解開始温度以下であることが好ましい。また、前記加熱処理時間は、低分子量成分を好適に除去する観点で、5分以上であることが必須である。当該時間の上限は特に規定されないが、製造効率を考慮すると、60分以下であることが好ましい。
【0056】
当該加熱処理の目的は、接着層中に含まれる熱可塑性ポリイミドの低分子量成分を除去することであり、そのため当該工程は、接着層中に含まれる熱可塑性ポリイミドのイミド化が実質的に完了した後であれば、如何なる時に行っても構わない。
【実施例】
【0057】
次に、本発明に係る接着フィルムの製造方法を実施例により詳しく説明する。
【0058】
(合成例1;高耐熱性ポリイミド系化合物の前駆体のポリアミド酸の合成)
10℃に冷却したN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)239kgに4,4’−オキシジアニリン(以下、ODAともいう)6.9kg、p−フェニレンジアミン(以下、p−PDAともいう)6.2kg、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(以下、BAPPともいう)9.4kgを溶解した後、ピロメリット酸二無水物(以下、PMDAともいう)10.4kgを添加し1時間撹拌して溶解させた。ここに、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、BTDAともいう)20.3kgを添加し1時間撹拌させて溶解させた。
【0059】
別途調製しておいたPMDAのDMF溶液(PMDA:DMF=0.9kg:7.0kg)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が3500ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行って固形分濃度18重量%、23℃での回転粘度が3500ポイズの、高耐熱性ポリイミド系化合物の前駆体のポリアミド酸溶液を得た。
【0060】
(合成例2;熱可塑性ポリイミド系化合物の前駆体のポリアミド酸の合成)
300Lの反応槽にDMFを78kg、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)を11.56kg加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を7.87kg徐々に添加した。続いて、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMEG)を0.38kg添加し、氷浴下で30分間撹拌した。0.2kgのTMEGを4kgのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加、撹拌を行った。粘度が800poiseに達したところで添加、撹拌をやめ、熱可塑性ポリイミド系化合物の前駆体のポリアミド酸溶液を得た。
【0061】
(べたつき評価)
360℃±0.5℃の半田ごての先端5mmを、平滑な机上に置かれた10cm×5cmの接着フィルムに10秒間接触させ、その後半田ごてを静かに持ち上げた。前述の動作を接着フィルムのランダムな箇所で計10回行い、接着フィルムが3cm以上持ち上がった場合が1回でもあった場合を×、それ以外を○とした。
【0062】
(実施例1)
合成例1で得られた高耐熱性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液に、以下の脱水剤及び触媒を含有せしめた。
脱水剤:無水酢酸を高耐熱性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸のアミド酸ユニット1モルに対して2.0モル
触媒:イソキノリンを高耐熱性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸のアミド酸ユニット1モルに対して0.5モル
次いで、リップ幅650mmのマルチマニホールド式の3層共押出多層ダイから、外層が合成例2で得られた熱可塑性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液、内層が高耐熱性ポリイミド溶液の前駆体のポリアミド酸溶液となる順番で形成された多層膜を連続的に押出して、当該Tダイスの下15mmを走行しているSUS製のエンドレスベルト上に流延した。次いで、この多層膜を130℃×100秒で加熱することで、自己支持性のゲル膜へと転化せしめた。さらに、エンドレスベルトから引き剥がされた自己支持性のゲル膜をテンタークリップに固定し、300℃×16秒、400℃×29秒、450℃×17秒で乾燥・イミド化させ、耐熱性ポリイミド層18μm、接着層3.5μmの接着フィルムを得た。
【0063】
得られた接着フィルムを、360℃で10分間加熱処理した。
【0064】
上述の手段で得られた接着フィルムのべたつきを評価した結果、○であった。
【0065】
(実施例2)
合成例1で得られた高耐熱性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液を0℃に冷却し、前記アミド酸ユニット1モルに対して2.1モル%の無水酢酸及び1.1モル%のイソキノリンを添加し、充分に攪拌した後、5℃に保った単層Tダイより押し出して、エンドレスベルト上に流延塗布した。エンドレスベルト上で、130℃×100秒で加熱することで、自己支持性のゲル膜へと転化せしめた。さらに、エンドレスベルトから引き剥がされた自己支持性のゲル膜をテンタークリップに固定し、300℃×16秒、400℃×29秒、450℃×17秒で乾燥・イミド化させ、厚さ18μmの耐熱性ポリイミドフィルムを得た。
【0066】
次いで、合成例2で得られた熱可塑性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液を固形分濃度10重量%になるまでN,N−ジメチルホルムアミドで希釈した後、前述の手段で得られた耐熱性ポリイミドフィルムの両面に、接着層の最終片面厚みが3.5μmとなるようにポリアミド酸を塗布した後、140℃で1分間加熱を行った。続いて、雰囲気温度390℃の遠赤外線ヒーター炉の中を20秒間通して加熱イミド化を行い、接着フィルムを得た。
【0067】
得られた接着フィルムを、360℃で10分間加熱処理した。
【0068】
上述の手段で得られた接着フィルムのべたつきを評価した結果、○であった。
【0069】
(比較例1)
加熱処理しないこと以外、実施例1と同様に接着フィルムを作成した。
【0070】
上述の手段で得られた接着フィルムのべたつきを評価した結果、×であった。
【0071】
(比較例2)
加熱処理しないこと以外、実施例2と同様に接着フィルムを作成した。
【0072】
上述の手段で得られた接着フィルムのべたつきを評価した結果、×であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高耐熱性ポリイミド層の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層が積層された接着フィルムを、300℃以上かつ5分以上で加熱処理することを特徴とする、接着フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−39511(P2007−39511A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223433(P2005−223433)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】