説明

接続構造およびシールドトンネルおよびシールドトンネルの構築方法

【課題】 地震時の正負交番荷重に対する耐震性能が高く、さらには、仮固定部と所望の接続強度を有する固定部との双方を兼ね備えた構成とすることで、部材接続時の部材姿勢の調整や誤組付けへの対処が容易となる接続構造およびシールドトンネルおよびシールドトンネルの構築方法を提供すること。
【解決手段】 第一の部材(セグメント1a)には、その接続面1a1に開口が臨んだ姿勢で該開口に連通する雌部材2が埋め込まれており、第二の部材(セグメント1b)には、その接続面1b1から突出して雌部材2に挿入される雄部材3が設けられており、雄部材3と雌部材2にはそれぞれ、該雄部材3が該雌部材2に挿入された際にセグメント同士を仮固定するための第一の固定手段と、所定の接続強度に接続するための第二の固定手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材の接続構造と、該接続構造がセグメント同士の接続に適用されたシールドトンネル、およびシールドトンネルの構築方法に係り、特に、地震時の正負交番荷重に対する耐震性能が高く、さらには、仮固定部と所望の接続強度を有する固定部との双方を兼ね備えた構成とすることで、部材接続時の部材姿勢の調整や誤組付けへの対処が容易となる接続構造およびシールドトンネルおよびシールドトンネルの構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特に都市部を中心に地下空間の利用は活性化の一途を辿っており、地下道や地下鉄路線、ガスや上下水道用のトンネルをはじめとするインフラ施設は勿論のこと、アミューズメント施設や居住空間としての巨大地下空間の開発も進んでいる。かかる地下施設の建設に際しては、これまで、地上を広範にわたって占有し、開削工法にて所望深度までの掘削を完了した後にトンネルの敷設や構造物の建設がおこなわれていた。かかる開削工法により、地上交通への影響や開削による周辺地盤への影響などが大きな問題となっており、かかる問題を解決する地下トンネル/地下構造物の構築方法としてシールド工法や推進工法が現在の主流な工法となってきている。
【0003】
シールドトンネルは、コンクリート製または鋼製の複数のセグメントをリング方向とトンネル軸心方向に接続することで構成される。これまで、リング方向のセグメント同士の継手(セグメント継手)やトンネル軸心方向のセグメントリング同士の継手(リング継手)には、多様な継手構造が採用されている。例えば、特許文献1には、一方のセグメントに埋設された雌金具のインナーコレットチャック内へ他方のセグメントに埋設された雄金具のスタッドボルトを差し込むセグメント同士の接続構造が開示されている。スタッドボルトは、その突出先端部が拡張アンカー構造となっており、雌金具のセンターピンで拡張アンカーが押し開かれ、さらには、該アンカーの外周面に刻設された逆止爪が雌金具に食い付くことで接続強度を増した構造となっている。
【0004】
特許文献2には、一方のセグメントに略C字状の雌継手がスリットを備えて埋設されており、他方のセグメントに略T字状の雄継手が接続面から突出した姿勢で埋設されており、両セグメントをスライドさせながら、雄継手をスリットを介して雌継手に嵌装させることで形成されるセグメントの接合構造が開示されている。
【0005】
さらに、出願人によって開示された特許文献3には、一方のセグメントに埋設された雌部材に他方のセグメントから突出した雄継手を圧着接続してなる接続構造が示されている。この発明は、従来の雄継手と雌継手の接続強度が双方の摩擦抵抗力によるものであり、したがって、この摩擦抵抗力以上の引張り力が作用した場合に、引抜き耐力が急激に低下し、セグメント同士の目開き量が急激に大きくなってしまうという従来の摩擦抵抗型の継手構造を見直したものである。雄継手内部に伸張可能なボルト部材を埋め込んでおき、このボルト部材の引張剛性を雄部材および雌部材間の摩擦抵抗力以下に設定しておく。かかる構成とすることで、双方の部材間に引張り力が作用した際に、摩擦抵抗力が作用する前にボルト部材が伸張することで継手の引抜き耐力の急激な低下を防止できるというものである。
【0006】
【特許文献1】特開平10−238292号公報
【特許文献2】特開2000−328889号公報
【特許文献3】特開2004−360445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に開示のセグメントの接続構造によれば、セグメント同士を一度組付けてしまうと、それが誤組付けであったり、あるいは組付け姿勢を微調整しようとしても、継手同士が強固に接続されていることから、組付け姿勢の微調整などの作業は実質的に不可能である。特許文献1の発明では、雄部材を構成する拡張アンカーが雌部材に噛み合ってしまい、双方の継手を解体しなければ、セグメント同士の組付け姿勢の微調整はできない。また、特許文献2の発明では、一方のセグメントを他方のセグメントにスライドさせながら組付けが完了しているため、微調整に際しては、障害となるセグメントを逆にスライドさせながら接続を解除していかなければならない。特許文献3の発明では、伸張可能なボルト部材の伸張により、継手の引抜き耐力の急激な低下が防止できるものの、地震時の正負交番荷重によって雄部材を圧着させている雌部材の内空寸法が広げられると、当初の摩擦抵抗力を得ることができなくなり、結果としては、摩擦抵抗力がボルト部材の引張剛性よりも小さくなり、引抜き耐力の急激な低下が招来され得る。
【0008】
本発明の接続構造およびシールドトンネルおよびシールドトンネルの構築方法は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、セグメントなどの部材同士の接続に際し、誤組付けや組付け姿勢の微調整を容易におこなうことができるとともに、高い部材間の接続強度を備えた接続構造およびシールドトンネルおよびシールドトンネルの構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による接続構造は、第一の部材と第二の部材を繋ぐ接続構造であって、前記第一の部材には、その接続面に開口が臨んだ姿勢で該開口に連通する雌部材が埋め込まれており、前記第二の部材には、その接続面から突出して前記雌部材に挿入される雄部材が設けられており、雄部材と雌部材にはそれぞれ、該雄部材が該雌部材に挿入された際に第一の部材と第二の部材を仮固定するための第一の固定手段と、所定の接続強度に接続するための第二の固定手段とが備えられていることを特徴とする。
【0010】
第一の部材、第二の部材は特に限定されるものではなく、一方の部材の雌部材に他方の部材の雄部材が挿入されることで部材間の接続構造が形成される適宜の部材に適用可能である。また、双方の部材は、コンクリート製や鋼製、さらにはそれらの複合体など適宜の材料から成形できる。
【0011】
本発明の接続構造では、2つの部材を一時的に仮固定するための第一の固定手段と、接続部が本来備えるべき接続強度にて接続される第二の固定手段との双方を有している。一方の部材の雄部材を他方の部材の雌部材に挿入することによって第一の固定手段で双方の部材が仮固定されるため、さらに他の部材の接続を必要とするような実施形態の場合には、一気にすべての部材同士をそれぞれの第一の固定手段で仮固定しておき、誤組付けや組付け姿勢の微調整が必要となった段階で仮固定状態を容易に解除して適宜の組付け調整をおこなうことができる。
【0012】
部材の組付け姿勢の微調整などをおこなった後に、第二の固定手段にて所望の接続強度にて双方の部材を接続する。本発明のように、組付け時に部材同士を仮固定する第一の固定手段と、最終的に所望の接続強度にて接続する第二の固定手段との双方を備えた接続構造とすることで、複数部材を組付ける際の誤組み付けへの臨機な対応や組付け姿勢の容易な微調整を可能とでき、かつ、所望の接続強度を得ることが可能となる。
【0013】
また、本発明による接続構造の他の実施形態において、前記第一の固定手段は、雌部材を構成する第一の中空体と、雄部材を構成して該第一の中空体に嵌合可能な第一の棒部材とからなり、前記第二の固定手段は、雌部材を構成して第一の中空体よりも内空寸法の大きな第二の中空体と、雄部材を構成し、流体が充填されることによって該第二の中空体内で膨らむことで第二の中空体の内壁を押圧可能な第二の棒部材とからなることを特徴とする。
【0014】
一方の部材内に埋設される雌部材は、例えば内空寸法の異なる複数の中空体が一体成形された実施形態を適用できる。例えば、2つの同径の中空の筒体と、該2つの筒体に介装され、該筒体よりも大径の筒体からなる雌部材とする。一方、雄部材は、2つの同径の中空の筒体にそれぞれ嵌合する棒部材であって、該棒部材のうち、大径の筒体内に位置する部分は流体を加圧充填することによって膨張可能な部材とする。加圧流体は、例えば水を使用でき、膨張可能であってかつ接続強度の高い部材としては、折り曲げ部を備えた鋼管などが適応できる。流体を鋼管内に加圧充填することにより、鋼管の折り曲げ部が外側に押出されることによって鋼管が外側に膨らむことができ、外側に膨らんだ鋼管が大径の筒体と当接し、さらには相互に押圧した状態となることで双方の部材が強固に接続される。ここで、雌部材の構成部材(大径/小径の筒体)も鋼製材料などの金物から製作できる。なお、かかる雌部材をコンクリート製の部材内に埋め込んでなる実施形態においては、大径の筒体の両側は相対的に小径の筒体となっているため、地震時の正負交番荷重に対しては、膨らんだ鋼管が大径の筒体内で拘束され、鋼管(雄部材)に正負交番の引張り荷重が作用した際には、鋼管から大径の筒体へ荷重が伝達され、大径の筒体からコンクリート部材内に支圧荷重として伝達される。
【0015】
雌部材を構成する小径の筒体とその間に嵌合された棒部材によって部材同士の仮固定をおこなうことができ、複数の部材の組付け姿勢の微調整などの後にこの棒部材内に流体を加圧充填することで雌部材を構成する大径の筒体内に位置する棒部材を外側へ膨らませて該棒部材と筒体とを相互に押圧させることにより、所望の接続強度を得ることができる。
【0016】
また、本発明による接続構造の他の実施形態において、前記雌部材は、2つの筒状金物と、該筒状金物の間に介装されるとともに該筒状金物の直径よりも大きな直径を有する中空の拡幅金物とが一体成形されており、前記雄部材は、前記筒状金物の内径と同一または略同一の外径を有する筒体でその一端が閉塞された2つの被せ金物と、該2つの被せ金物がその両端に嵌合された膨張性の鋼管とからなり、該鋼管は、雄部材が雌部材に挿入される際はその断面が凹型に織り込まれており、該鋼管内に流体を充填することにより、少なくとも中空の拡幅金物内に位置する鋼管の凹型に織り込まれた部分が外側に押圧されて膨らむことにより、中空の拡幅金物の内壁面を膨らんだ鋼管が押圧して雌部材と雄部材が所定の接続強度に接続されることを特徴とする。
【0017】
雌部材は、中空球体に穿設された2つの開口と連通するように一端が閉塞された筒体の開放端が繋げられた構成となっており、この雌部材は鋼製材料にて一体成形されている。ここで、球体の開口は球体中心に対して対向する位置、すなわち任意の直径線状に設けられており、該中空球体に繋がる一方の筒体の他端は閉塞されていない。すなわち、この筒体の開口を介して他方の部材の接続面から突出する雄部材が挿入できるようになっている。
【0018】
雄部材は、雌部材の長さと同程度の長さを有した鋼管からなり、その全長にわたって断面の一部が凹型に織り込まれており、この織り込まれた姿勢で、該鋼管の断面寸法が雌部材の筒状金物の内空寸法と同程度の大きさとなるように形成されている。この鋼管が筒状金物内に嵌合されることで雄部材と雌部材とを仮固定でき、鋼管内に流体を加圧充填することにより、鋼管内部に織り込まれた凹部が外側に押圧されることで鋼管が膨らみ、特に、雌部材を構成する中空拡幅内に位置する鋼管が膨らんだ姿勢で双方が相互に押圧しながら圧着することができる。ここで拡幅金物は、少なくとも筒状金物よりも寸法が大きい態様であれば任意の形状および寸法に設定することができ、その形状は例えば、球体や筒状金物よりも径の大きな筒体などとすることができる。
【0019】
なお、雄部材を構成する鋼管の一部には、該鋼管内に流体を加圧充填するための充填口が設けられており、さらには、該雄部材のうち、部材内部に埋め込まれている部分には適宜の定着金物(L型やC型のフック形状の棒状金物や支圧プレートなど)が設けられているのが望ましい。
【0020】
また、本発明による接続構造の他の実施形態において、前記流体が、無収縮モルタルを含む無収縮性の材料からなることを特徴とする。
【0021】
無収縮モルタルなどの無収縮性の材料を鋼管内に加圧充填することにより、充填材が硬化した後も膨らんだ鋼管を内部から確実に押圧した状態を維持することができるため、部材同士の強固な接続構造を形成することが可能となる。
【0022】
また、本発明による接続構造の他の実施形態において、前記第一の部材と前記第二の部材が、シールドトンネル用のセグメントであることを特徴とする。
【0023】
シールドトンネル用のセグメントの場合には、リング方向に複数のセグメントをエレクタにて組立てながら、かかるリング状のセグメントをトンネル軸心方向に接続することによってシールドトンネルが構築される。本発明の接続構造、すなわち、仮固定するための手段と、所望の接続強度にて接続する接続手段との双方を備えた接続構造をセグメント同士の接続構造に適用することにより、一気にシールドトンネルを仮固定していき、トンネル掘進中に、雄部材内に無収縮モルタルなどを加圧充填して確実なセグメント間の接続をおこなうことが可能となり、セグメント組付け時の微調整を可能としながら、工期を長期化することのないシールドトンネルの構築を可能とできる。該接続構造は、セグメントのリング継手面やセグメント継手面の双方に適宜の数量設置することができる。なお、シールドトンネル用のセグメントのほかに、推進工法にて適用されるセグメントにも本発明の接続構造が適用できることは勿論のことである。
【0024】
さらに、本発明によるシールドトンネルの構築方法は、シールドトンネルを構成するセグメント同士のリング方向および/またはトンネル軸心方向の接続構造において、一方のセグメントの接続面には、2つの筒状金物と、該筒状金物の間に介装されるとともに該筒状金物の直径よりも大きな直径を有する中空の拡幅金物とが一体成形されてなる雌部材が埋め込まれており、他方のセグメントの接続面には、前記筒状金物の内径と同一または略同一の外径を有する筒体で一端が閉塞された2つの被せ金物と、該2つの被せ金物がその両端に嵌合されるとともにその断面が凹型に織り込まれている鋼管とからなる雄部材が接続面から突出した姿勢で設けられており、雄部材と雌部材とを接続することによって構築するシールドトンネルの構築方法であって、一方のセグメントの接続面の雌部材を構成する筒状金物に他方のセグメントの接続面の雄部材を構成する被せ金物を嵌合させることにより、トンネルのリング方向および/またはトンネル軸心方向に所定数のセグメントを仮接続していき、必要に応じて筒状金物と被せ金物との嵌合姿勢を相対的にずらすことによって所望のセグメント組付け姿勢を形成し、無収縮性の流体を鋼管内に加圧充填することにより、中空の拡幅金物内に位置する鋼管部分のうち、内側に織り込まれていた凹部が外側に押圧されることにより、該鋼管が外側に膨らんで拡幅金物の内壁面を押圧し、双方のセグメントが所定の接続強度で接続されることを特徴とする。
【0025】
シールドマシン内のエレクタ装置によるセグメントの組付けに際し、リング方向のセグメント組付けやリング状のセグメントのトンネル軸心方向の組付けに際しては、そのセグメントの微調整は組付け上必須の作業となる。そこで、雄部材と雌部材の双方の仮固定手段で所定数のセグメントを一気に組み付けていき、必要に応じて筒状金物と被せ金物との嵌合姿勢を相対的にずらすことによって所望のセグメント組付け姿勢を形成させた後に、雄部材を構成する鋼管内に無収縮モルタル等を加圧充填し、該モルタルの強度が発現することにより、セグメント同士の接続が完了する。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明の接続構造およびシールドトンネルおよびシールドトンネルの構築方法によれば、接続される一方の部材に埋設された雌部材と他方の部材から突出する雄部材との双方に仮固定手段と、所望の接続強度の接続手段とを備えた構成とすることで、部材接続時の組付け姿勢の微調整や誤組付け時の対処も十分におこなうことが可能となり、さらに、高い接続強度を得ることができる。この接続強度は、雌部材が相対的に小寸法の中空部分と相対的に大寸法の中空部分から構成され、雄部材を構成する膨張可能な棒部材が大寸法の中空部分内で膨らむことにより、双方の部材が相互に押圧されることによってもたらされる。かかる構成とすることで、この大寸法の中空部分内に膨張した棒部材が移動不可の状態に嵌め込まれた形態となるため、例えば、地震時の正負交番荷重に対しても、その耐震性能は極めて高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、セグメント同士を接続している状況を示した斜視図を、図2は、一方のセグメントに埋設された雌部材を示した縦断図を、図3は、他方のセグメントに埋設された雄部材を示した斜視図をそれぞれ示している。図4は、図3のIV−IV矢視図を、図5は、図4の状態から鋼管が外側に膨らんだ状態を示した断面図をそれぞれ示している。図6は、2つのセグメント同士を仮固定した状態を示した縦断図を、図7aは、2つのセグメント同士が接続された状態を示した縦断図を、図7bは、地震時に接続構造に作用する正負交番荷重(引張り力)とそれに対する抵抗力を示した縦断図をそれぞれ示している。なお、図示する接続構造は、シールドトンネル用のセグメントに適用した実施形態を示したものであり、かつ、リング継手のみに適用された形態を示しているが、本発明の接続構造がかかる実施形態に限定されるものでないことは勿論のことである。すなわち、セグメント以外の適宜の部材間の接続にも適用可能であり、リング継手とセグメント継手の双方に本発明の接続構造が適用されるセグメントであってもよい。
【0028】
図1は、リング継手にて接続される2つのセグメント1a,1bを示したものである。このセグメント1a,1bは一般に使用されているコンクリート製のセグメントであるが、その他、鋼製セグメントやコンクリートと鋼製の複合セグメントであってもよい。ここで、セグメント1aがセグメント1bと接続する接続面1a1には複数の雌部材2,2,…がその一端の開口を接続面に臨ませた姿勢で埋設されている。一方、セグメント1bがセグメント1aと接続する接続面1b1には、双方のセグメント1a,1bの接続面が当接された際に雌部材2,2,…に挿入される位置に雄部材3,3,…が突出した姿勢で設けられている。雄部材3には、後述するように、その内部に充填材を充填するための充填孔が設けられており、この充填孔に充填材注入ダクトを案内するための箱抜き部4が設けられている。なお、雄部材3は、そのセグメント側の端部にL型フックを有する定着金物34を備えており、該雄部材3の所定長さの埋め込み代における雄部材3とセグメント1bを構成するコンクリートとの摩擦力に加えて、この定着金物とコンクリートとの摩擦力や支圧抵抗力などによって雄部材3に地震時などの際に正負交番荷重(引張り力)が作用した場合に、セグメント1bから雄部材3が引抜けないように構成されている。また、一方のセグメント1aに埋設されている雌部材2のセグメント側の端部にも拡径フランジ24が設けられており、雌部材2表面とコンクリートとの摩擦抵抗に加えて、この拡径フランジ24とコンクリートとの支圧抵抗力の双方で雌部材2がセグメント1aから引抜けないように構成されている。
【0029】
図2は、雌部材2の縦断図を示している。この雌部材2は、中空の拡幅金物23と、その対向する側面に開設された開口に連通する筒状金物21,22と、セグメントの内部側の筒状金物22の端部に設けられたフランジ24と、接続面1a1に臨む筒状金物21の開口部に設けられたフランジ25とから大略構成されている。例えば、拡幅金物23とその両端に連通する筒状金物21,22とを一体成形し、フランジ24,25を溶接することにより雌部材2を製造することができる。雌部材2がかかる外郭形状を呈しており、さらには、その両端部にて拡径したフランジ24,25が設けられていることで、セグメント1aを構成するコンクリートと雌部材2との接続強度は高められ(摩擦抵抗力と支圧抵抗力の総和)、特に、地震時の正負交番荷重(引張り力)に対して高い引張り耐力を期待することができる。
【0030】
図3は、雄部材3の縦断図を示している。雄部材3は、図4に示すように断面視が内側に凹型に織り込まれた織り込み部分31aを備えた鋼管31の両端部に被せ金物32,33が嵌め込まれて構成されている。被せ金物33は所定長さだけセグメント1bに埋め込まれており、被せ金物33の端部には、L型フックを有する定着金物34が固着されている。また、被せ金物33には充填材注入用の充填孔33aが穿設されており、この孔を箱抜き部4がコンクリートから保護するように設けられている。
【0031】
セグメント1a,1bの位置決め調整がおこなわれた後、充填孔33aを介して鋼管31内に無収縮モルタルなどの充填材5が充填される。図5は、その様子を示した断面図であり、図3の2点鎖線にて示された部分の断面図である。充填材5を鋼管内に加圧充填することにより、鋼管内の織り込み部分31aが鋼管31の外側に押出され、その結果として鋼管31の断面が膨らむこととなる。
【0032】
図6は、雄部材3を雌部材2内へ挿入設置した状況を示している。雄部材3と雌部材2の双方の軸心方向長さはほぼ同程度に成形されている。雄部材3を雌部材2に挿入すると、雄部材3の被せ金物32が雌部材2の筒状金物22内に嵌合し、同様に、被せ金物33が筒状金物21内に嵌合する。かかる部材同士の嵌合により、雄部材3と雌部材2は仮固定でき、例えば、リング状に形成されたセグメントを他のリング状セグメントに接続する際には、双方のリング状に組付けられたセグメント同士を一気に仮固定させることができる。この仮固定段階では、雌部材2から雄部材3を完全に引抜いたり、微小に押し引きすることが可能であるため、シールドマシン内におけるセグメント組付け時の施工安全性を確保しながら、セグメント同士の組付け姿勢の微調整を容易におこなうことができる。
【0033】
セグメント1a,1b同士の組付け姿勢を微調整した後で、図7aに示すように、充填孔33aを介して充填材5が充填され、鋼管31のうち、特に拡幅金物23内に位置する鋼管31を外側に膨らませることで、鋼管31と拡幅金物23の内壁面とを相互に押圧した状態とする。充填材5として無収縮性の材料を使用することで、該充填材が硬化した後も体積収縮することがなく、したがって、鋼管31と拡幅金物23の内壁面との押圧状態を維持することができる。
【0034】
図7bは、接続構造に地震時の正負交番荷重X1,X2が作用した際に雄部材3と雌部材2の間で作用し合う抵抗力を示したものである。なお、図中には、雌部材2とセグメント1aを構成するコンクリート間の摩擦抵抗や雄部材3とコンクリート1bを構成するコンクリート間の摩擦抵抗は図示していないが、双方に摩擦抵抗力が作用することは勿論のことである。
【0035】
セグメント1aにX1方向の地震時水平力が作用した場合、あるいは、セグメント1bにX2方向の地震時水平力が作用した場合には、雌部材2には、コンクリートとの間の摩擦抵抗力のほかに、図示するように、フランジ24に支圧抵抗力P1が働き、さらに、拡幅金物23にも筒状金物21よりも拡径した部分に支圧抵抗力P2が働く。この際に、雄部材3の膨らんだ鋼管31には抵抗力P3が作用するため、雄部材3は雌部材2から抜け出すことなく双方の接続状態が維持できる。なお、雄部材3は、定着金物34に作用する支圧抵抗力P4や定着金物34とコンクリートとの間の摩擦抵抗力などにより、雄部材3自体がコンクリートから抜け出さないように構成されている。このL型フックを有する定着金物34はスタッドボルトなどであってもよく、いずれの実施形態においても、フック形状やスタッド部分を備えた構成とすることで支圧抵抗の付加や、コーン破壊に対する抵抗力を高めることが可能となる。
【0036】
上記するように、本発明の接続構造(仮固定のための手段と、所望の接続強度にて接続するための手段の双方を備えた構造)を構成する雄部材と雌部材をそれぞれ備えたセグメントを使用することにより、多数のセグメントを一気にリング方向あるいはトンネル軸心方向に組付けていきながら、組付け時の施工安全性を確保した状態で、適宜、セグメントの組付け姿勢を調整することができる。さらに、シールドマシンの掘進に並行するように、組付け姿勢の微調整がおこなわれたセグメント同士の接続部に充填材を加圧充填していくことにより、効率的なシールドトンネルの構築を実現することができ、さらには、高強度の接続構造を備えたシールドトンネルを構築することができる。特に、既述するように地震時水平力に対して接続部が雄部材と雌部材間で摩擦抵抗力や支圧抵抗力を相互に効果的に発揮することで、耐震性能に優れた接続構造を備えたシールドトンネルとすることができる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】セグメント同士を接続している状況を示した斜視図。
【図2】一方のセグメントに埋設された雌部材を示した縦断図。
【図3】他方のセグメントに埋設された雄部材を示した斜視図。
【図4】図3のIV−IV矢視図。
【図5】図4の状態から鋼管が外側に膨らんだ状態を示した断面図。
【図6】2つのセグメント同士を仮固定した状態を示した縦断図。
【図7】(a)は、2つのセグメント同士が接続された状態を示した縦断図。(b)は、地震時に接続構造に作用する正負交番荷重(引張り力)とそれに対する抵抗力を示した縦断図。
【符号の説明】
【0039】
1a,1b…セグメント、2…雌部材、21,22…筒状金物、23…拡幅金物、3…雄部材、31…膨張鋼管,31a…織り込み部分、32,33…被せ金物、33a…充填孔、4…箱抜き部、5…無収縮モルタル(充填材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の部材と第二の部材を繋ぐ接続構造であって、
前記第一の部材には、その接続面に開口が臨んだ姿勢で該開口に連通する雌部材が埋め込まれており、前記第二の部材には、その接続面から突出して前記雌部材に挿入される雄部材が設けられており、雄部材と雌部材にはそれぞれ、該雄部材が該雌部材に挿入された際に第一の部材と第二の部材を仮固定するための第一の固定手段と、所定の接続強度に接続するための第二の固定手段とが備えられていることを特徴とする接続構造。
【請求項2】
前記第一の固定手段は、雌部材を構成する第一の中空体と、雄部材を構成して該第一の中空体に嵌合可能な第一の棒部材とからなり、前記第二の固定手段は、雌部材を構成して第一の中空体よりも内空寸法の大きな第二の中空体と、雄部材を構成し、流体が充填されることによって該第二の中空体内で膨らむことで第二の中空体の内壁を押圧可能な第二の棒部材とからなることを特徴とする請求項1に記載の接続構造。
【請求項3】
前記雌部材は、2つの筒状金物と、該筒状金物の間に介装されるとともに該筒状金物の直径よりも大きな直径を有する中空の拡幅金物とが一体成形されており、前記雄部材は、前記筒状金物の内径と同一または略同一の外径を有する筒体でその一端が閉塞された2つの被せ金物と、該2つの被せ金物がその両端に嵌合された膨張性の鋼管とからなり、該鋼管は、雄部材が雌部材に挿入される際はその断面が凹型に織り込まれており、該鋼管内に流体を充填することにより、少なくとも中空の拡幅金物内に位置する鋼管の凹型に織り込まれた部分が外側に押圧されて膨らむことにより、中空の拡幅金物の内壁面を膨らんだ鋼管が押圧して雌部材と雄部材が所定の接続強度に接続されることを特徴とする請求項1または2に記載の接続構造。
【請求項4】
前記流体が、無収縮モルタルを含む無収縮性の材料からなることを特徴とする請求項2または3に記載の接続構造。
【請求項5】
前記第一の部材と前記第二の部材が、シールドトンネル用のセグメントであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の接続構造。
【請求項6】
請求項5に記載の接続構造を備えたことを特徴とするシールドトンネル。
【請求項7】
シールドトンネルを構成するセグメント同士のリング方向および/またはトンネル軸心方向の接続構造において、一方のセグメントの接続面には、2つの筒状金物と、該筒状金物の間に介装されるとともに該筒状金物の直径よりも大きな直径を有する中空の拡幅金物とが一体成形されてなる雌部材が埋め込まれており、他方のセグメントの接続面には、前記筒状金物の内径と同一または略同一の外径を有する筒体で一端が閉塞された2つの被せ金物と、該2つの被せ金物がその両端に嵌合されるとともにその断面が凹型に織り込まれている鋼管とからなる雄部材が接続面から突出した姿勢で設けられており、雄部材と雌部材とを接続することによって構築するシールドトンネルの構築方法であって、
一方のセグメントの接続面の雌部材を構成する筒状金物に他方のセグメントの接続面の雄部材を構成する被せ金物を嵌合させることにより、トンネルのリング方向および/またはトンネル軸心方向に所定数のセグメントを仮接続していき、必要に応じて筒状金物と被せ金物との嵌合姿勢を相対的にずらすことによって所望のセグメント組付け姿勢を形成し、無収縮性の流体を鋼管内に加圧充填することにより、中空の拡幅金物内に位置する鋼管部分のうち、内側に織り込まれていた凹部が外側に押圧されることにより、該鋼管が外側に膨らんで拡幅金物の内壁面を押圧し、双方のセグメントが所定の接続強度で接続されることを特徴とするシールドトンネルの構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−348488(P2006−348488A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172754(P2005−172754)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】