説明

接触力測定装置及び接触力測定方法

【課題】シングルアーム等のバネが少ないパンタグラフとバネが多い多分割すり板付パンタグラフの両方を精度良く接触力を測定することができる接触力測定装置及び接触力測定方法を提供する。
【解決手段】パンタグラフ4のバネ6の画像を撮影範囲を部分的に指定して時間分解能を向上させて撮影するエリアカメラ2等からなる撮影手段と、前記画像中の前記バネ6を画像処理により検出する処理用PC8からなる画像処理手段と、前記画像処理手段により検出した前記バネ6のバネ反力と慣性力とを加算することにより接触力を求める処理用PC8からなる接触力計算手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触力測定装置及び接触力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道は、屋根上に設置されている集電装置であるパンタグラフと架線とが接触することによって電力を供給している。このとき、パンタグラフと架線との間には接触力という力が発生している。この接触力の変動が大きい場合、パンタグラフから架線が離線してしまい、アークと呼ばれる放電現象が発生する。そして、アークが発生すると架線は摩耗してしまう。すなわち、接触力の変動は小さいほうが良い。また、接触力が大きすぎる場合も架線は摩耗してしまう。
【0003】
このため、接触力を測定し、離線などの抑制方法について検討したり、摩耗診断を行なったりするために、接触力を測定したいというニーズが高まってきている。そして、従来、接触力を測定する方法は以下のようなものがある。
(1) パンタグラフに加速度計や歪ゲージなどのセンサを設置し、パンタグラフのある断面に生じる力(断面力)と慣性力を計測することで接触力を得る方法(下記非特許文献1参照)。
(2) パンタグラフのバネの部分にLEDなどの光源を2個ずつ上下に設置し、画像処理により相対変位を求め、バネの伸縮量を求めることで接触力を得る方法(下記特許文献1参照)。
(3) パンタグラフの屋根上にラインセンサカメラ(以下、ラインセンサ)を設置し、パンタグラフのバネ部分を撮影する。撮影した画像を処理し相対変位、バネの伸縮量を求めることで接触力を得る方法(下記特許文献2参照)。この方法の場合、上記(2)の方法よりも時間分解能、空間分解能が高いために精度が良い。
【0004】
上記(3)において、画像処理の内容は詳述されていないが、例えば、下記特許文献3に開示される方法を用いることにより、相対変位やバネの伸縮量を求めることは可能である。下記特許文献3では、パンタグラフに光を反射しやすい白い帯状のマーカーを取り付け、車両の屋根上に設置したラインセンサでマーカーを撮影し、マーカーの位置をパタンマッチングによって検出することでパンタグラフの変位を測定している。また、白色の帯を2本以上にして、形状を複雑化することにより、パタンマッチングの際に用いる特徴量を増やし、誤検出などを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−235310号公報
【特許文献2】特開2008−185457号公報
【特許文献3】特開2008−104312号公報
【特許文献4】特開2008−109375号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】池田充、「架線・パンタグラフ間の接触力測定手法に関する研究研究(第1報,パンタグラフの慣性力評価方法の改善による接触力測定可能周波数範囲の拡大)」、日本機械学会論文集(C編)、70巻、694号、平成16年6月、p.92−99
【非特許文献2】Photonfocus AG、“Japanese User Manual MV‐D1024 Series CMOS Area Scan Cameras”、[online]、Photonfocus AG、[平成21年1月20日検索]、インターネット〈URL:http://www.photonfocus.com/upload/manuals/MAN001_j_v1_1_MV_D1024_CL.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記(1)の方法のようにパンタグラフにセンサ類を設置する方法では、パンタグラフのバネの部分の全てにセンサを取り付ける必要がある。センサを取り付けた箇所には、普通ならば発生することのない揚力が掛かるので、パンタグラフの動特性に影響を与える。
【0008】
また、多分割すり板付のパンタグラフの場合、設置するセンサの数が多くなるため、さらにパンタグラフの動特性に影響を与えてしまう。パンタグラフの動特性が変化してしまうと、センサなどを設置して得られた接触力の信頼性が低くなってしまうという問題点がある。
【0009】
その点、上記(2)の画像処理を用いた方法では、撮影した画像を処理することによって接触力を求めるため、パンタグラフにセンサなど設置する必要がなく、動特性にも影響を与えない。そして、上記(2)の方法では、画像を撮影するためのカメラにはエリアカメラを用いている。しかし、エリアカメラを用いた場合、画像の空間分解能が低いので接触力の測定精度が悪い。
【0010】
そこで、上記(2)の方法では、超異方倍率レンズという垂直方向の倍率を80倍にするという特殊なレンズを使用して、精度の問題を解決している。また、エリアカメラを使用しているので、多分割すり板付のパンタグラフも1台のカメラで測定することが可能であると考えられる。しかし、エリアカメラは時間分解能が低いために、接触力の測定可能周波数域が低くなってしまうという問題点がある。
【0011】
また、上記(3)の方法では、ラインセンサを使用することにより上記(2)の方法における問題点を解決している。ラインセンサとは1次元に配列された撮像素子を持ち、高解像度の1次元画像を撮影することができ、また、サンプリング周波数も高いカメラである。したがって、空間分解能と時間分解能が高いカメラなので、接触力の精度も高く、測定可能周波数も高くなる。
【0012】
シングルアーム等のパンタグラフの場合、バネが少ないためラインセンサの設置台数は少なくなる。しかし、多分割すり板付のパンタグラフの場合、すり板の数だけバネがあるため、バネの数だけラインセンサを設置する必要がある。そして、バネの数だけラインセンサを車両の屋根上に設置することはスペース的に困難であるという問題点がある。
【0013】
すなわち、上述したように、従来の方法ではシングルアーム等のバネが少ないパンタグラフとバネが多い多分割すり板付パンタグラフの両方を精度良く接触力を測定することはできない。
【0014】
以上のことから、本発明は、シングルアーム等のバネが少ないパンタグラフとバネが多い多分割すり板付パンタグラフの両方において精度良く接触力を測定することができる接触力測定装置及び接触力測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決する第1の発明に係る接触力測定装置は、
パンタグラフのバネの画像を撮影範囲を部分的に指定して時間分解能を向上させて撮影する撮影手段と、
前記画像中の前記バネを画像処理により検出する画像処理手段と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上下部分の位置から相対変位を計算し、相対変位の時間変化分を求めることにより前記バネの伸縮量を計算した上で、前記バネの伸縮量にバネ定数を乗ずることにより前記バネのバネ反力を求めるバネ反力計算手段と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上部の変位を2階微分することにより加速度を計算した上で、加速度に前記パンタグラフの等価質量を乗ずることにより慣性力を求める慣性力計算手段と、
前記バネ反力と前記慣性力とを加算することにより接触力を求める接触力計算手段と
を備える
ことを特徴とする。
【0016】
上記の課題を解決する第2の発明に係る接触力測定装置は、
パンタグラフのバネの画像を撮影する複数の撮影手段と、
複数の前記撮影手段によりシャッタータイミングをずらして撮影された画像を時間軸上に順番に並べ替える並べ替え手段と
前記画像中の前記バネを画像処理により検出する画像処理手段と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上下部分の位置から相対変位を計算し、相対変位の時間変化分を求めることにより前記バネの伸縮量を計算した上で、前記バネの伸縮量にバネ定数を乗ずることにより前記バネのバネ反力を求めるバネ反力計算手段と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上部の変位を2階微分することにより加速度を計算した上で、加速度に前記パンタグラフの等価質量を乗ずることにより慣性力を求める慣性力計算手段と、
前記バネ反力と前記慣性力とを加算することにより接触力を求める接触力計算手段と
を備える
ことを特徴とする。
【0017】
上記の課題を解決する第3の発明に係る接触力測定装置は、第1の発明又は第2の発明において、
前記画像処理手段により求めた前記バネの上下部分の位置を位置データとし、求めた前記バネの位置データにスプライン補間を施すスプライン補間手段を備える
ことを特徴とする。
【0018】
上記の課題を解決する第4の発明に係る接触力測定装置は、第1の発明又は第2の発明において、
複数枚の低解像度画像を使って超解像度処理を行なうことにより、1枚の高解像度画像を生成する超解像度処理手段を備える
ことを特徴とする。
【0019】
上記の課題を解決する第5の発明に係る接触力測定方法は、
パンタグラフのバネの画像を撮影範囲を部分的に指定して時間分解能を向上させて撮影する撮影処理と、
前記画像中の前記バネを画像処理により検出する画像処理と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上下部分の位置から相対変位を計算し、相対変位の時間変化分を求めることにより前記バネの伸縮量を計算した上で、前記バネの伸縮量にバネ定数を乗ずることにより前記バネのバネ反力を求めるバネ反力計算処理と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上部の変位を2階微分することにより加速度を計算した上で、加速度に前記パンタグラフの等価質量を乗ずることにより慣性力を求める慣性力計算処理と、
前記バネ反力と前記慣性力とを加算することにより接触力を求める接触力計算処理
を行う
ことを特徴とする。
【0020】
上記の課題を解決する第6の発明に係る接触力測定方法は、
パンタグラフのバネの画像を撮影する複数の撮影処理と、
複数の前記撮影手段によりシャッタータイミングをずらして撮影された画像を時間軸上に順番に並べ替える並べ替え処理と
前記画像中の前記バネを画像処理により検出する画像処理と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上下部分の位置から相対変位を計算し、相対変位の時間変化分を求めることにより前記バネの伸縮量を計算した上で、前記バネの伸縮量にバネ定数を乗ずることにより前記バネのバネ反力を求めるバネ反力計算処理と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上部の変位を2階微分することにより加速度を計算した上で、加速度に前記パンタグラフの等価質量を乗ずることにより慣性力を求める慣性力計算処理と、
前記バネ反力と前記慣性力とを加算することにより接触力を求める接触力計算処理
を行う
ことを特徴とする。
【0021】
上記の課題を解決する第7の発明に係る接触力測定装置は、第5の発明又は第6の発明において、
前記画像処理と前記バネ反力計算処理との間において、前記前記画像処理手段により求めた前記バネの上下部分の位置を位置データとし、求めた前記バネの位置データにスプライン補間を施すスプライン補間処理を行う
ことを特徴とする。
【0022】
上記の課題を解決する第8の発明に係る接触力測定装置は、第5の発明又は第6の発明において、
前記撮影処理と前記画像処理との間において、複数枚の低解像度画像を使って超解像度処理を行なうことにより、1枚の高解像度画像を生成する超解像度処理を行う
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、シングルアーム等のバネが少ないパンタグラフとバネが多い多分割すり板付パンタグラフの両方において精度良く接触力を測定することができる接触力測定装置及び接触力測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施例に係る接触力測定装置の構成図である。
【図2】エリアカメラで撮影した画像の例を示した図である。
【図3】第1の実施例に係るエリアカメラを用いた画像処理による接触力測定方法を示したフローチャートである。
【図4】第2の実施例に係る複数のエリアカメラのシャッタータイミングをずらして時間分解能を向上する方法を示した図である。
【図5】第2の実施例に係る撮影画像を並べ替える場合の接触力測定方法を示したフローチャートである。
【図6】第2の実施例に係るマーカーの位置データを並べ替える場合の接触力測定方法を示したフローチャートである。
【図7】スプライン補間の様子を示した図である。
【図8】第3の実施例に係るスプライン補間処理を追加した場合の接触力測定方法を示したフローチャートである。
【図9】第4の実施例に係る超解像度技術により空間分解能を向上する方法を用いた接触力測定方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る接触力測定装置及び接触力測定方法の実施例について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明に係る接触力測定装置及び接触力測定方法の第1の実施例について説明する。
はじめに、本実施例に係る接触力測定装置の構成について説明する。
本実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、エリアカメラで撮影した画像の中から特定の領域だけ高速に取得し、その画像を処理することにより、上述した時間分解能の問題を解決した接触力測定を行うことを特徴とする。
【0027】
図2は、エリアカメラで撮影した画像の例を示した図である。
エリアカメラとして、例えば、CMOSカメラを用いた場合、図2に示すように、通常のカメラで撮影した場合に取得することができる撮影範囲の1枚の画像9中における、図2中斜線で示す部分のみを指定して撮影することが可能である。そして、撮影を指定できる部分は画像9中の1部分のみではなく、図2に示すように複数の部分を指定して撮影することができる(上記非特許文献2の16〜19頁記載の「4.2画像のサイズ変更」参照)。
【0028】
図1は、第1の実施例に係る接触力測定装置の構成図である。
図1に示すように、本実施例に係る接触力測定装置においては、車両1の屋根の上にエリアカメラ2を設置し、その付近に照明3を設置する。パンタグラフ4のすり板5のバネ6の上下部分に、光を反射しにくい黒い部材の上に反射しやすい白い部材を配置したマーカー7を取り付ける。なお、白い部材の形状は、円形や四角形など画像処理の際に抽出しやすいような特徴的な形状であれば良い。
【0029】
図1に示すように、多分割すり板5aのパンタグラフ4の場合は、マーカー7は全てのバネ6の上下部分に取り付けるようにする。なお、シングルアーム等のバネが少ないパンタグラフの場合は、多分割すり板5aのパンタグラフ4に比べバネが少ないマーカー7の数は少なくなる。
【0030】
また、本実施例に係る接触力測定装置においては、中央演算処理装置やROM及びRAM等のメモリや入出力手段を備えた処理用PC8が車両1内に設置されている。そして、本実施例に係る接触力測定装置においては、処理用PC8は、計算や記憶等の各種処理を実行する手段として用いられている。処理用PC8には、エリアカメラ2が接続されており、エリアカメラ2により撮影された画像のデータが処理用PC8へ出力されている。
以上が、本実施例に係る接触力測定装置の構成である。
【0031】
次に、本実施例に係る接触力測定装置の動作について説明する。
はじめに、照明3により光を当て、エリアカメラ2によりパンタグラフ4のバネ6の撮影を行なう。そして、撮影した画像は処理用PC8に記憶する。
次に、処理用PC8により、記憶した画像を処理することによって、パンタグラフ4のバネ6の部分を検出する。
【0032】
次に、処理用PC8により、バネ6の上下部分の位置から相対変位を計算し、相対変位の時間変化分を求めることによりバネ6の伸縮量を計算する。そして、バネ6の伸縮量にバネ定数を乗ずることによりバネ6のバネ反力を求める。
【0033】
次に、処理用PC8により、バネ6の上部の変位を2階微分することにより加速度を計算する。そして、加速度にパンタグラフ4の等価質量を乗ずることにより慣性力を求める。
最後に、上述した方法で求めたバネ反力と慣性力とを加算することにより接触力を求める(上記特許文献2参照)。
以上が、本実施例に係る接触力測定装置の動作である。
【0034】
次に、本実施例に係るエリアカメラ2を用いた画像処理による接触力測定方法について説明する。
図3は、第1の実施例に係るエリアカメラ2を用いた画像処理による接触力測定方法を示したフローチャートである。
【0035】
図3に示すように、ステップP10において、エリアカメラ2の撮影範囲を指定し、エリアカメラ2により画像を撮影する。このとき、パンタグラフ4のバネ6の上下部分に設置したマーカー7と同等か、それ以上の領域を撮影できるように撮影範囲を指定し、エリアカメラ2により画像の撮影を行なう。なお、撮影範囲を小さくすることによってフレームレートを上げる、すなわち、時間分解能を上げることができる。そして、撮影した画像を車両1内に設置した処理用PC8に記憶する。
【0036】
ステップP11において、処理用PC8により、予め取得しておいたマーカー7のテンプレートを用いてパタンマッチングを行うことにより、記憶した画像からパンタグラフ4のバネ6の上下部分に取り付けられたマーカー7の位置を検出する。
【0037】
ステップP12において、処理用PC8により、パンタグラフ4のバネ6の上下部分のマーカー7の相対変位を計算し、時間変化分を求めることによりバネ6の伸縮量を計算する。そして、バネ6の伸縮量にバネ定数を乗じて、バネ6のバネ反力を求める。
【0038】
ステップP13において、処理用PC8により、バネ6の上部のマーカー7の変位を2階微分し、加速度を計算する。そして、加速度にパンタグラフ4の等価質量を乗じることにより慣性力を求める。
【0039】
ステップP14において、処理用PC8により、上記ステップP12,P13において求めたバネ反力と慣性力とを加算して接触力を求める。
以上が、本発明に係るエリアカメラ2を用いた画像処理による接触力測定方法である。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、エリアカメラ2で撮影する範囲を指定することによって、時間分解能を上げることができる。これにより、測定可能周波数域を上記特許文献1に開示される方法よりも高くすることができる。
【0041】
また、本実施形態に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、エリアカメラ2を用いているので、図2に示すような多分割すり板5a付のパンタグラフ4でも、上記特許文献2に開示されるラインセンサを用いた方法のようにラインセンサを複数台設置しなくても接触力を測定することができる。
【0042】
また、本実施形態に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、エリアカメラ2を用いているので、図1に示すような多分割すり板5a付のパンタグラフ4であっても、上記特許文献2に開示されるラインセンサを用いた方法のように、カメラをパンタグラフ4のバネ6の数だけ設置する必要がない。
【0043】
また、本実施形態に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、エリアカメラ2で撮影した画像を処理用PC8に保存しているので、異常等があった場合に、その箇所の画像を実際に見て異常等を確認することができる。なお、上記特許文献2に開示されるラインセンサを用いた方法のように、ラインセンサで撮影した画像は1次元画像であるので、パンタグラフ4の1部分しか撮影できない。したがって、パンタグラフ全体を見ることができない。
【0044】
また、本実施形態に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、シングルアーム等のバネ6が少ないパンタグラフ4の場合や多分割すり板5a付のパンタグラフ4の場合であっても接触力を精度良く測定することができる。
【実施例2】
【0045】
以下、本発明に係る接触力測定装置及び接触力測定方法の第2の実施例について説明する。
本実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、エリアカメラ2を複数台設置して、時間分解能を向上させる点が第1の実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法と異なる。
【0046】
図4は、第2の実施例に係る複数のエリアカメラ2のシャッタータイミングをずらして時間分解能を向上する方法を示した図である。
図4に示すように、本実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法においては、エリアカメラ2をN台設置し、図4中斜線で示す複数のエリアカメラ2のシャッタータイミングをパルスジェネレータを使用して、1/N周期ずつずらして撮影を行なう。そして、図4中に結果として示すように、撮影した画像を時間軸上に順番に並べ替えることにより、フレームレートをN倍にすることができる。
【0047】
次に、本実施例に係る撮影画像を順番に並べたあとにパタンマッチングによりマーカー7の位置を求め、接触力を計算する場合の接触力測定方法について説明する。
図5は、第2の実施例に係る撮影画像を並べ替える場合の接触力測定方法を示したフローチャートである。
図5に示すように、第1の実施例と同様にステップP10の実行後、ステップP20において、処理用PC8により、上述したように複数のエリアカメラ2により撮影された画像を時間軸上に順番に並べ替える。ステップP20の実行後は、第1の実施例と同様にステップP11〜P14を実行する。
以上が第2の実施例に係る撮影画像を並べ替える場合の接触力測定方法である。
【0048】
次に、複数のエリアカメラ2により撮影された画像からパタンマッチングによりマーカー7の位置データを求め、求めたマーカー7の位置データを処理用PC8のメモリ上に記憶し、記憶したマーカー7の位置データを順番に並べ替えて接触力を計算する場合の接触力測定方法について説明する。なお、マーカー7の位置データは、バネ6の上下部分の位置データと考えることができる。
【0049】
図6は、第2の実施例に係るマーカー7の位置データを並べ替える場合の接触力測定方法を示したフローチャートである。
図6に示すように、第1の実施例と同様にステップP10,11の実行後、ステップP21において、処理用PC8により、上述したように複数のエリアカメラ2により撮影された画像から、ステップP10においてパタンマッチングにより求めたマーカー7の位置を位置データとし、求めたマーカー7の位置データを処理用PC8のメモリ上に記憶する。そして、記憶したマーカー7の位置データを順番に並べ替えて接触力を計算する。ステップP21の実行後は、第1の実施例と同様にステップP12〜P14を実行する。
以上が、第2の実施例に係るマーカー7の位置データを並べ替える場合の接触力測定方法である。
【0050】
図5に示す撮影画像を並べ替える場合の接触力測定方法と、図6に示すマーカー7の位置データを並べ替える場合の接触力測定方法とでは、処理するデータは画像データと数値データで異なるが、最終的に得られる結果は同じである。しかしながら、図5に示す撮影画像を並べ替える場合の接触力測定方法における画像データを入れ替える処理よりも、図6に示すマーカー7の位置データを並べ替える場合の接触力測定方法における数値データを入れ替える処理の方が、処理時間を短くすることができる。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、エリアカメラ2をN台設置し、複数のエリアカメラ2のシャッタータイミングを1/N周期ずつずらして撮影を行なうことで、第1の実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法よりも時間分解能をN倍することができる。そして、時間分解能が向上することにより、第1の実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法よりも接触力の測定可能周波数域を高くすることができる。
【実施例3】
【0052】
以下、本発明に係る接触力測定装置及び接触力測定方法の第3の実施例について説明する。
本実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、第1,2の実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法において取得したマーカー7の位置データをスプライン補間し、データ間のマーカー7の位置を推定することにより、時間分解能をさらに向上させる。そして、時間分解能が向上することにより、接触力の測定可能周波数域をさらに高くすることができる。
【0053】
ここで、スプライン補間について説明する。
図7は、スプライン補間の様子を示した図である。なお、図7においては、横軸を時間とし、縦軸をパンタグラフ変位として表している。
図7に示すように、スプライン補間は、データ点h1〜h7が得られた場合、全ての点を通るようなスプライン曲線を計算することで、データの補間を行なう方法である。
【0054】
また、本実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、第2の実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法のようにN台のエリアカメラ2を設置しなくても、エリアカメラ2をN台設置したときと同等か、それ以上の時間分解能を得ることができるため、車両1の屋根上に設置するエリアカメラ2の台数を少なくすることができる。
【0055】
図8は、第3の実施例に係るスプライン補間処理を追加した場合の接触力測定方法を示したフローチャートである。
図8に示すように、第1の実施例と同様にステップP10,11の実行後、ステップP30において、処理用PC8により、上述したようにステップP10においてパタンマッチングにより求めたマーカー7の位置を位置データとし、求めたマーカー7の位置データをスプライン補間し、データ間のマーカー7の位置を推定する。ステップP30の実行後は、第1の実施例と同様にステップP12〜P14を実行する。
【0056】
なお、第2の実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法にスプライン補間処理を追加した場合も、ステップP12(図5,6参照)におけるバネ反力の計算の前にスプライン補間処理を追加することとなる。
【0057】
以上のように、本実施形態に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、スプライン補間を行なうことにより、第1,2の実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法よりもエリアカメラ2の設置台数を少なくすることができる。そして、エリアカメラ2の台数が少なくなっても、スプライン補間を行なうことで、第1,2の実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法と同等か、それ以上の時間分解能を得ることができる。そして、時間分解能が向上することにより、第1の実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法よりも接触力の測定可能周波数域を高くすることができる。
【実施例4】
【0058】
以下、本発明に係る接触力測定装置及び接触力測定方法の第4の実施例について説明する。
本実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、エリアカメラ2で撮影した画像に対して、超解像度技術を用いて空間分解能を向上させる点が、第1の実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法と異なる。なお、本実施例に係る接触力測定装置の構成は第1の実施例と同様である。
【0059】
ここで、超解像度技術について説明する。
超解像度技術とは、複数枚の低解像度画像を使って、1枚の高解像度画像を生成する技術のことをいう(上記特許文献4参照)。そして、空間分解能を向上させることにより、バネ6の伸縮量や加速度を精度良く求めることができ、結果として接触力の精度を向上させることができる。
【0060】
図9は、第4の実施例に係る超解像度技術により空間分解能を向上する方法を用いた接触力測定方法を示したフローチャートである。
図9に示すように、第1の実施例と同様にステップP10の実行後、ステップP40において、処理用PC8により、上述したように複数枚の低解像度画像を使って超解像度処理を行なうことにより、1枚の高解像度画像を生成する。ステップP40の実行後は、第1の実施例と同様にステップP11〜P14を実行する。
【0061】
このように、超解像度処理を追加することで、画像の空間分解能を向上させることができる。そして、空間分解能を向上させることにより、パンタグラフ4の高さを精度良く計算することができる。したがって、バネ6の伸縮量やパンタグラフ4の加速度を正確に求めることができるので、接触力の測定精度を向上させることができる。
【0062】
なお、第2の実施例に係る接触力測定装置及び接触力測定方法に超解像度処理を追加した場合も、ステップP11(図5,6参照)におけるパタンマッチングの前に超解像度処理を追加することとなる。
【0063】
以上のように、本実施形態に係る接触力測定装置及び接触力測定方法は、撮影した画像に超解像度処理を施して高解像度化することにより、空間分解能を向上させ、接触力の測定精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、例えば、画像処理を用いて架線とパンタグラフ間の接触力を測定する接触力測定装置及び接触力測定方法、特に、パンタグラフの舟体を支持するバネが複数個ある場合に、エリアカメラで撮影した画像を処理して接触力を精度良く求める接触力測定装置及び接触力測定方法に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 車両
2 エリアカメラ
3 照明
4 パンラグラフ
5 すり板
5a 多分割すり板
6 バネ
7 マーカー
8 処理用PC
9 画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンタグラフのバネの画像を撮影範囲を部分的に指定して時間分解能を向上させて撮影する撮影手段と、
前記画像中の前記バネを画像処理により検出する画像処理手段と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上下部分の位置から相対変位を計算し、相対変位の時間変化分を求めることにより前記バネの伸縮量を計算した上で、前記バネの伸縮量にバネ定数を乗ずることにより前記バネのバネ反力を求めるバネ反力計算手段と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上部の変位を2階微分することにより加速度を計算した上で、加速度に前記パンタグラフの等価質量を乗ずることにより慣性力を求める慣性力計算手段と、
前記バネ反力と前記慣性力とを加算することにより接触力を求める接触力計算手段と
を備える
ことを特徴とする接触力測定装置。
【請求項2】
パンタグラフのバネの画像を撮影する複数の撮影手段と、
複数の前記撮影手段によりシャッタータイミングをずらして撮影された画像を時間軸上に順番に並べ替える並べ替え手段と
前記画像中の前記バネを画像処理により検出する画像処理手段と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上下部分の位置から相対変位を計算し、相対変位の時間変化分を求めることにより前記バネの伸縮量を計算した上で、前記バネの伸縮量にバネ定数を乗ずることにより前記バネのバネ反力を求めるバネ反力計算手段と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上部の変位を2階微分することにより加速度を計算した上で、加速度に前記パンタグラフの等価質量を乗ずることにより慣性力を求める慣性力計算手段と、
前記バネ反力と前記慣性力とを加算することにより接触力を求める接触力計算手段と
を備える
ことを特徴とする接触力測定装置。
【請求項3】
前記画像処理手段により求めた前記バネの上下部分の位置を位置データとし、求めた前記バネの位置データにスプライン補間を施すスプライン補間手段を備える
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接触力測定装置。
【請求項4】
複数枚の低解像度画像を使って超解像度処理を行なうことにより、1枚の高解像度画像を生成する超解像度処理手段を備える
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接触力測定装置。
【請求項5】
パンタグラフのバネの画像を撮影範囲を部分的に指定して時間分解能を向上させて撮影する撮影処理と、
前記画像中の前記バネを画像処理により検出する画像処理と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上下部分の位置から相対変位を計算し、相対変位の時間変化分を求めることにより前記バネの伸縮量を計算した上で、前記バネの伸縮量にバネ定数を乗ずることにより前記バネのバネ反力を求めるバネ反力計算処理と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上部の変位を2階微分することにより加速度を計算した上で、加速度に前記パンタグラフの等価質量を乗ずることにより慣性力を求める慣性力計算処理と、
前記バネ反力と前記慣性力とを加算することにより接触力を求める接触力計算処理
を行う
ことを特徴とする接触力測定方法。
【請求項6】
パンタグラフのバネの画像を撮影する複数の撮影処理と、
複数の前記撮影手段によりシャッタータイミングをずらして撮影された画像を時間軸上に順番に並べ替える並べ替え処理と
前記画像中の前記バネを画像処理により検出する画像処理と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上下部分の位置から相対変位を計算し、相対変位の時間変化分を求めることにより前記バネの伸縮量を計算した上で、前記バネの伸縮量にバネ定数を乗ずることにより前記バネのバネ反力を求めるバネ反力計算処理と、
前記画像処理手段により検出した前記バネの上部の変位を2階微分することにより加速度を計算した上で、加速度に前記パンタグラフの等価質量を乗ずることにより慣性力を求める慣性力計算処理と、
前記バネ反力と前記慣性力とを加算することにより接触力を求める接触力計算処理
を行う
ことを特徴とする接触力測定方法。
【請求項7】
前記画像処理と前記バネ反力計算処理との間において、前記前記画像処理手段により求めた前記バネの上下部分の位置を位置データとし、求めた前記バネの位置データにスプライン補間を施すスプライン補間処理を行う
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の接触力測定方法。
【請求項8】
前記撮影処理と前記画像処理との間において、複数枚の低解像度画像を使って超解像度処理を行なうことにより、1枚の高解像度画像を生成する超解像度処理を行う
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の接触力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−169506(P2010−169506A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11650(P2009−11650)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】