説明

控え式土留め壁用または控え工用組合せ鋼矢板および控え式土留め壁または控え工

【課題】組合せ鋼矢板に対する現場作業を少なくし現場作業費を低減可能な控え式土留め壁用または控え工用鋼矢板および控え式土留め壁または控え工を提供すること。
【解決手段】断面略U字状部を備えた鋼矢板の溝側またはその溝側と反対側のフランジ外面に断面略H字状の形鋼を固着した断面略T字状または断面略Y字状の組み合わせ鋼矢板において、その組み合わせ鋼矢板を構成する断面略U字状部を備えた鋼矢板2と、断面略H字状の形鋼6のいずれか一方の部材の上端レベルを低く、他方の部材の上端レベルを高くして、腹越し材配置用段部8を設け、かつ上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に、アンカー材17を介して控え工に連結される腹起し材15を取り付けるための腹起し材取り付け部8aが設けられている。このような組み合わせ鋼矢板を使用して、土留め壁あるいは控え工を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾岸壁施設、埋立護岸、都市内の盛土、地下掘削工事などの土留め壁などに使用する控え式土留め壁用または控え工用鋼矢板および控え式土留め壁または控え工に関する。
【背景技術】
【0002】
断面略U字型鋼矢板とH形状をした形鋼を略T字またはY字形状に固着し成形した組み合わせ鋼矢板は、古くから知られ利用されている。これらの鋼矢板は、通常の鋼矢板の断面性能では、設計上必要な断面性能を満足することができない場合があるので、H形形状の形鋼を鋼矢板に溶接などにより固着して、全体の断面形状をY字状あるいはT字状とした組み合わせ鋼矢板として、より大きな断面性能がえられる組み合わせ鋼矢板が知られている。
【0003】
例えば、図14に示すように、冷間成形された断面略U字状部を備えた鋼矢板27にH形鋼6のフランジ6aを溶接により固着して、断面略T字状に成形した組合せ矢板が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、図15に示すように、熱間圧延された略U字状部を備えた鋼矢板2aにおける溝と反対側におけるフランジ外面に、断面略H字状の形鋼6を溶接により固着して、全体の断面形状が、断面略H字状の形鋼を溶接により固着して、断面略Y字状に固着し成形した組み合せ鋼矢板28も知られている。(例えば、特許文献2参照)
【0005】
なお、図16に示すように、控え工としては、鋼矢板21aを地中に埋め込むように設けて、タイロッド等のアンカー材17と連結する形態、あるいは図17に示すように控え工として鋼管杭21bあるいはH形鋼杭等を用いる形態も知られている。
【特許文献1】実開昭60−186343号公報
【特許文献2】特開2002―212943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの組み合せ鋼矢板を控え式の土留め壁に用いる場合、土留め壁には土水圧による側圧が作用するので、図12に示すように、鋼矢板頭部には、腹起し材15を介して棒状鋼材あるいは防錆被覆されたロープ材などのアンカー材17を固定し、そのアンカー材17を介して側圧に抵抗可能な抵抗力をもつアンカー工(控え工21)に固定するのが一般的である。
【0007】
腹起し材15は、図13(a)〜(b)に示すように、通常、間隔をおいて平行に配置された1組の溝形鋼16で構成され、図13(c)および(d)に示されるように、所定の間隔を保つようまた一体として挙動するよう、添え板23で連結固定され、ボルトあるいは溶接などにより鋼矢板に固定される。永久構造物の土留め壁の場合、図12の一点鎖線で示す範囲の鋼矢板頭部を、腹起し材15、アンカー材17の定着部を含め、防錆機能と衝突などに対する保護機能向上のため、および鋼矢板壁の一体化のための拘束力を期待して鉄筋コンクリートにより巻きたててコーピング22を設けるのが一般的である。
【0008】
これらの組合せ鋼矢板1は、通常の断面性能では不足するような大規模な土留め壁に適用されることが多く、使用するアンカー材17も、例えば直径50mmを超える大断面になることが多い。
【0009】
アンカー材17を挿通配置させるための貫通孔は、通常、断面略U字状部を備えた鋼矢板上に現場で高熱ガスなどを用いて空けるが、上記組合せ鋼矢板は、図11に示すa部は鋼矢板の継手14があるため、またb部は傾斜したウェブ5であるため、さらにc部は断面H状の形鋼6があるため、現場でのガス切断による孔明け作業に非常に時間がかかり、孔明け作業を安全に行えないばかりでなく、現場作業費が割高であった。
本発明は前記の課題を有利に解消することができ、組合せ鋼矢板に対する現場作業を少なくし現場作業費を低減可能な控え式土留め壁用鋼矢板または控え工用鋼矢板および控え式土留め壁または控え工を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を有利に解決するために、第1発明の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板においては、断面略U字状部を備えた鋼矢板の溝側またはその溝側と反対側のフランジ外面に断面略H字状の形鋼を固着した断面略T字状または断面略Y字状の組み合わせ鋼矢板において、その組み合わせ鋼矢板を構成する断面略U字状部を備えた鋼矢板と、断面略H字状の形鋼のいずれか一方の部材の上端レベルを低く、他方の部材の上端レベルを高くして、腹越し材配置用段部を設け、かつ上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に、アンカー材を介して控え工に連結される腹起し材を取り付けるための腹起し材取り付け部が設けられていることを特徴とする。
第2発明では、第1発明の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板において、鋼矢板頭部において、断面略U字状部を備えた鋼矢板の上端レベルが、断面略H字状の形鋼の上端レベルより高くされていることを特徴とする。
第3発明では、第1発明の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板において、鋼矢板頭部において、断面略H字状の形鋼の上端レベルを、断面略U字状部を備えた鋼矢板の上端レベルより高くされていることを特徴とする。
第4発明の控え工用組合せ鋼矢板においては、断面略U字状部を備えた鋼矢板の溝側またはその溝側と反対側のフランジ外面に断面略H字状の形鋼を固着した断面略T字状または断面略Y字状の組み合わせ鋼矢板において、その組み合わせ鋼矢板を構成する断面略U字状部を備えた鋼矢板と、断面略H字状の形鋼のいずれか一方の部材の上端レベルを低く、他方の部材の上端レベルを高くして、腹越し材配置用段部を設け、かつ上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に、アンカー材を介して土留め壁に連結される腹起し材を取り付けるための腹起し材取り付け部が設けられていることを特徴とする。
第5発明の控え式土留め壁においては、第1発明の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板が地盤に打設されると共に継ぎ手相互が噛み合わされて土留め壁が構成され、腹越し材配置用段部に腹起し材が配置されて、上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に設けた腹起し材取り付け部に、腹越し材が取り付けられ、その腹越し材にアンカー材を介して控え工が連結されていることを特徴とする。
第6発明の控え工においては、請求項4に記載の控え工用組合せ鋼矢板が地盤に打設されて控え工用壁体が構成され、腹越し材配置用段部に腹起し材が配置されて、上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に設けた腹起し材取り付け部に、腹越し材が取り付けられ、その腹越し材にアンカー材を介して土留め壁が連結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1または第4発明によると、単に、組み合わせ鋼矢板を構成する断面略U字状部を備えた鋼矢板と、断面略H字状の形鋼のいずれか一方の部材の上端レベルを低く、他方の部材の上端レベルを高くするだけで、腹越し材配置用段部を設けることができ、また、上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に、腹起し材取り付け部を容易に形成することができ、一方の部材および他方の部材の両方に腹起し材取り付け部を設ける必要のない組み合わせ鋼矢板とすることができる。
また、アンカー材を取り付ける鋼矢板頭部において、断面略U字状部を備えた鋼矢板と断面略H字状の形鋼とが腹起こし材取り付け部において重なるように干渉しない組合せ鋼矢板部とすることができるので、アンカー材は組み合わせ鋼矢板に現場貫通孔を設けずに固定でき、また、断面略U字状部を備えた鋼矢板に現場貫通孔をあける場合も、断面略U字状部を備えた鋼矢板と面略H字状の形鋼とが重なるように干渉しない組合せ鋼矢板部が提供できるので、現場穴あけ作業が大幅に軽減できる。
また、腹起こし材取付部が設けられていない断面略U字状部を備えた鋼矢板あるいは断面略H字状の形鋼は短くなるので、材料費を削減できるとともに、腹起こし材を断面略U字状部を備えた鋼矢板の背面に固定する場合は、腹起こし材やアンカー材頭部が組合せ鋼矢板の前面側に大きく突出することなく収まるので、コンクリートコーピング材料の体積を大幅に削減できる。
第2発明によると、断面略U字状部を備えた鋼矢板の頭部の位置(上端レベル)を、断面略H字状の形鋼の頭部の位置(上端レベル)より高く配置した組み合わせ鋼矢板を提供することができ、またそのような組み合わせ鋼矢板を使用すれば、アンカー材および腹起こし材を取り付ける鋼矢板頭部に、断面略U字状部を備えた鋼矢板と断面略H字状の形鋼とが干渉しない組合せ鋼矢板部が提供できるので、従来技術として通常の断面略U字状部を備えた鋼矢板のみの場合と同様に、組み合わせ鋼矢板においても、腹起こし材を断面略U字状部を備えた鋼矢板の前面あるいは背面に固定することができる。
第3発明によると、断面略H字状の形鋼の頭部の位置(上端レベル)を、断面略U字状部を備えた鋼矢板の頭部の位置(上端レベル)より高く配置した組み合わせ鋼矢板を提供することができ、またそのような組み合わせ鋼矢板を使用すれば、アンカー材および腹起こし材を取り付ける鋼矢板頭部に、断面略U字状部を備えた鋼矢板と断面略H字状の形鋼とが干渉しない組合せ鋼矢板部が提供できるので、腹起こし材を断面略H字状の形鋼の前面あるいは背面に固定することができる。
第5発明によると、第1〜第3発明のいずれかの控え式土留め壁用組合せ鋼矢板が地盤に打設されると共に継ぎ手相互が噛み合わされて土留め壁が構成され、腹越し材配置用段部に腹起し材が配置されて、上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に設けた腹起し材取り付け部に、腹越し材が取り付けられ、その腹越し材にアンカー材を介して控え工が連結されているので、腹越し材を容易に取り付け可能な簡単な構造の控え式土留め壁とすることができ、施工の容易な安価な土留め壁とすることができる。
第6発明によると、第4発明のいずれかの控え式土留め壁用組合せ鋼矢板が地盤に打設されて控え工用壁体が構成され、腹越し材配置用段部に腹起し材が配置されて、上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に設けた腹起し材取り付け部に、腹越し材が取り付けられ、その腹越し材にアンカー材を介して土留め壁が連結されているので、腹越し材を容易に取り付け可能な簡単な構造の控え工とすることができ、施工の容易な安価な控え工とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
先ず、図1および2を参照しながら、本発明の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1の基本構成を説明するための代表形態としての断面略Y字形状の組み合わせ鋼矢板1Aの一形態について説明すると、この断面略Y字形状の組み合わせ鋼矢板1Aは、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と、断面略H字状の形鋼6とを組み合わせたものである。
【0014】
前記の断面略U字状部を備えた鋼矢板2は、図示の形態では、ハット形鋼矢板2からなる断面略U字状部を備えた鋼矢板2である。このハット形鋼矢板2の特徴として、フランジ7の両端部に外側に向かって広がるように傾斜したウェブ5が一体に連設され、各ウェブ5に前記フランジ7と平行にアーム部3,4が一体に連設され、各アーム部3,4の端部に、継手14が一体に形成されている断面ハット形のハット形鋼矢板2であり、左右の各継手14は、アーム部3,4の中心軸線の中央点に対して、点対称形状の継手14とされ、隣り合うハット形鋼矢板2相互の継手14を嵌合した場合に、アーム中心軸線上にハット形鋼矢板2を配設することも可能にされている。なお、符号12aおよび12bは継手における溝、13は係止爪部、14は継手である。
【0015】
図1および図2に示す形態の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1では、H形鋼からなる断面略H字状の形鋼6の一方のフランジ6aが、断面略U字状部を備えた鋼矢板2における溝側と反対側のフランジ7外面に、部材長手方向に重合するように配置され、フランジ6aの側縁部が連続または断続した溶接Wにより固定された断面略Y字形状の組み合わせ鋼矢板1Aとしている。
【0016】
そして、本発明の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1では、組み合わせ鋼矢板を構成する断面略U字状部を備えた鋼矢板2と、断面略H字状の形鋼6のいずれか一方の部材(図示の形態では、断面略H字状の形鋼6)の上端レベルを低く、他方の部材(図示の形態では、断面略U字状部を備えた鋼矢板2)の上端レベルを高くして、腹越し材配置用段部8を設け、かつ上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に、アンカー材を介して控え工に連結される腹起し材を取り付けるための腹起し材取り付け部8aが設けられている。
【0017】
図1、2に示す一実施形態の断面略Y字形状の組み合わせ鋼矢板1Aを主要部とする控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1をさらに説明すると、図1は実施形態1の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1の継手相互を連結した状態を示す平面図であり、図2はその側面図である。
【0018】
この形態の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1では、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6を断面略Y字状に固着し成形した断面略Y字形状の組み合わせ鋼矢板1Aにおいて、断面略U字状部を備えた鋼矢板2の頭部の位置(上端レベル)を、断面略H字状の形鋼6の頭部の位置(上端レベル)より高く配置している。そして、断面略U字状部を備えた鋼矢板2の上端部のフランジ7に、上下方向および幅方向(左右方向)に間隔をおいて複数のボルト挿通孔8bを設けて腹起し材取り付け部8aとした控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1である。前記のような控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1では、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6との上端面のレベル差により段部が形成されており、そのような段部空間に腹起し材15を配置できると、腹起し材15が土留め壁面に直角な横方向に出っ張らないので収まりがよく、組み合わせ鋼矢板の上端部を被覆する鉄筋コンクリート等のコーピング(図12参照)を、図12に示す場合よりも横方向に出っ張らなくなる分小さくすることができる。
【0019】
なお、図18、図21および図22に示すように、本発明の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1では、H形鋼からなる断面略H字状の形鋼6のフランジ6aが、断面略U字状部を備えた鋼矢板2における溝側のフランジ7外面に、部材長手方向に重合するように配置されてその側縁部が連続または断続した溶接により固定された、断面略T字状の組み合わせ鋼矢板9の形態で、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6との上端部のレベルに、前記のようなレベル差を設けると共に、高レベル位置とされた側の部材に、腹起し材取付部を設けるようにしてもよい。
【0020】
実施形態1では、1枚の熱間圧延された断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6を使用した形態の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1を示したが、1枚の熱間圧延された断面略U字状部を備えた鋼矢板2の代わりに冷間成形された断面略U字状部を備えた鋼矢板2を使用してもよいし、図19に示すように、2枚1組のZ形鋼矢板11を嵌合させて断面略U字状部を備えた鋼矢板2を備えた控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1としてもよいし、H形形状の形鋼の代わりに、断面I形などのH形に類似したH形状の形鋼としてもよい。また、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6とを組み合わせて一体化した控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1を構成する場合に、断面略U字状部を備えた鋼矢板2のフランジ7と、断面略H字状の形鋼6のフランジ6aとを溶接により固着してもよく、断面略U字状部を備えた鋼矢板2のフランジ7と断面略H字状の形鋼6のフランジ6aにボルト挿通孔を予め設けてボルトにより固着するようにしてもよい。
【0021】
さらに、図3および図4に示す使用形態を参照しながら、図1,2に示す形態の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1およびそれを使用した控え式土留め壁18について説明する。
【0022】
図1〜図4に示す実施形態においては、断面略H字状の形鋼6の頭部の位置(上端レベル)より、腹起し材15の取付高さ分以上、断面略U字状部を備えた鋼矢板2の頭部の位置(上端レベルの位置)を高くしている。
実際の土留め壁構造物では、高さ125mm、幅65mmの溝形鋼16を2枚腹起し材15に用い、定着部直径が30mm程度のアンカー材17が最小断面と想定されるので、余裕代を考慮しなければ、160mm以上、断面略U字状部を備えた鋼矢板2の頭部の位置(上端レベルの位置)を高くすればよい。
例えば、腹起し材15に、高さ200mm、幅90mmの溝形鋼を2枚一組使用し、定着部直径80mmのアンカー材を使用する場合は、断面略U字状部を備えた鋼矢板2の上端レベルの位置は、溝形鋼の2枚分の幅にアンカー材の直径を加えた260mmに余裕代を加えた値以上、断面略H字状の形鋼6の頭部の位置(上端レベルの位置)より高くすればよい。
例えば、鋼矢板の打設時の高さ管理基準を設計高さ±100mm、アンカー材取付孔取り付け誤差許容値を設計高さ±20mmとすれば、余裕代は240mmとなるので、断面略U字状部を備えた鋼矢板2も上端レベルと断面略H字状の形鋼6の上端レベルを500mm程度、高さを変えればよい。
【0023】
図3および図4に、実施形態1の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1を使用した控え式土留め壁18が示されている。この形態では、腹起し材15を断面略U字状部を備えた鋼矢板2の背面のフランジ7にボルト19で固定し、タイロッド等のアンカー材17を断面略U字状部を備えた鋼矢板2と腹起し材15の間において、腹起し材15にナット等の定着金具により定着する実施形態である。
【0024】
前記の形態において、腹起し材15の固定は、ボルトに代えて、現場溶接で断面略U字状部を備えた鋼矢板2のフランジ7に固着してもかまわない。このように固定すれば、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6とが、上部で重なるように干渉しない組合せ鋼矢板部が提供できるので、アンカー材17は、控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1に現場貫通孔を設けずに固定できる。
【0025】
図5および図6に、図1および図2に示す形態の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1を使用し、腹起し材15を断面略U字状部を備えた鋼矢板2の背面にボルト19で固定し、アンカー材17を断面略U字状部を備えた鋼矢板2の前面側に定着する控え式土留め壁18の実施形態が示されている。腹起し材15の断面略U字状部を備えた鋼矢板2に対する固定手段は、現場溶接でもかまわない。このように固定すれば、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6との上端部が重なるように干渉しない組合せ鋼矢板部が提供できるので、アンカー材17の貫通孔を断面略U字状部を備えた鋼矢板2に設ける必要はあるものの、断面略H字状の形鋼6に同時にアンカー貫通孔を空ける必要がなくなるので、現場作業が大幅に軽減できる。なお、図1,2と同様な要素の部分には、同様な符号を付して説明を省略し、以下の他の実施形態も同様である。
【0026】
図5および図6では、腹起し材15を断面略U字状部を備えた鋼矢板2の背面にボルト19で固定し、アンカー材17を断面略U字状部を備えた鋼矢板2の前面側に定着する実施形態を示したが、その変形形態として腹起し材15を断面略U字状部を備えた鋼矢板2の前面にボルトで固定し、アンカー材17を断面略U字状部を備えた鋼矢板2の前面側に定着することもできる。この場合も、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6との上端部が重なるように干渉しない組合せ鋼矢板部が提供できるので、アンカー材17の貫通孔を組み合わせ鋼矢板に空ける必要はあるものの、断面略H字状の形鋼6に同時にアンカー貫通孔を空ける必要がなくなるので、現場作業が大幅に軽減できる。
【0027】
図7および図8には、本発明の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1の他の形態が示されている。図7は側面図であり、図8はその平面図である。この形態は、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6とにより、断面略Y字形状の組み合わせ鋼矢板1Aに固着し成形した組み合わせ鋼矢板において、断面略H字状の形鋼6の頭部の位置(上端レベル位置)を、断面略U字状部を備えた鋼矢板2の頭部の位置(上端レベル位置)より高く配置した控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1の形態である。
この形態では、1枚の熱間圧延された断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6を使用した形態を示したが、前記実施形態と同様に、1枚の熱間圧延された断面略U字状部を備えた鋼矢板2の替わりに、冷間成形された断面略U字状部を備えた鋼矢板2を使用してもよいし、2枚1組のZ形鋼矢板11を嵌合させた断面略U字状部を備えた鋼矢板2でもよく、断面略H字状の形鋼6の代わりに断面I字状などの断面H字状に類似した断面H字状の形鋼でもよい。
【0028】
図7,8に示す形態では、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と、断面略H字状の形鋼6とを使用し、形鋼6のフランジ6aを断面略U字状部を備えた鋼矢板2のフランジ7に当接して、形鋼6のフランジ6a側縁部を、部材長手方向に連続または断続溶接により固着させている形態を示したが、形鋼6のフランジ6aと、鋼矢板2のフランジ7とに、ボルト挿通孔を設けて、ボルトを使用して両者を固着してもよい。
【0029】
図7に示す実施形態においては、断面略H字状の形鋼6の頭部の位置(上端レベル位置)を、断面略U字状部を備えた鋼矢板2の頭部の位置(上端レベル位置)より、腹起し材15の取付高さ分に余裕代を加えた分以上高くしている。
【0030】
断面略Y字形状の組み合わせ鋼矢板あるいは断面略T字状の組み合わせ鋼矢板のいずれの形態の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1においても、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6とを溶接により一体化する替わりに、これらのフランジ相互をボルトを使用して固着させてもよい。
【0031】
図9および図10には、腹起し材15を断面略H字状の形鋼6の前面側に、現場溶接で固定した実施形態が示されている。腹起し材15の固定は、現場溶接に代えて、断面略H字状の形鋼6の前面側にボルトで固定してもかまわない。このように固定すれば、断面略U字状部を備えた鋼矢板2と断面略H字状の形鋼6との上端部が重なるように干渉しない組合せ鋼矢板部が提供できるので、アンカー材17は、控え式土留め壁用組合せ鋼矢板に現場貫通孔を設けずに固定できる。
【0032】
図19に示す断面略Y字形状の組み合わせ鋼矢板1Aでは、Z形鋼矢板11を組み合わせた断面略U字状部を備えた鋼矢板2の溝外側のフランジ7の外面は平坦面であるので、H形鋼6のフランジ6aを当接配置して、溶接等により固定することができる。
【0033】
なお、Z形鋼矢板11の嵌合された継手相互は、部材長手方向に間隔をおいて、多数箇所でかしめ固定することにより、Z形鋼矢板相互は一体化される。
【0034】
図20に示すように、Z形鋼矢板11相互を組み合わせて構成した断面略U字状部を備えた鋼矢板2における溝内側に、形鋼としてのH形鋼6を設置する形態では、継手14が突出して、H形鋼6のフランジ6aと干渉するため、鋼製調整板20を個々のZ形鋼矢板11のフランジ7に固着して、その鋼製調整板20に対して、H形鋼6を溶接等により固定するようにすれば、控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1とすることができる。
なお、図示を省略するが、断面略T字状の組み合わせ鋼矢板9あるいは断面略Y字形状の組み合わせ鋼矢板1Aとしては、アーム部3,4を備えていない形態の鋼矢板であって、断面略U字状部を備えた鋼矢板としてもよい。
【0035】
前記実施形態を実施する場合、控え工21と連結されるアンカー材17としては、両端部に雄ねじ部を有する鋼製タイロッド以外にも、両端部に雄ねじ部を備えた鋼製撚り線材を使用するようにしてもよい。
【0036】
前記各実施形態の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1は、上部の構造を変えずに下部の長さを適宜の長さ寸法短くして控え工用組合せ鋼矢板に使用することができるので、図23〜図25に示す代表形態を参照しながら説明する。
【0037】
図23〜図25は、図1および図2に示す控え式土留め壁用組合せ鋼矢板1の下部の長さを短くして、控え工用組み合わせ鋼矢板24とした組み合わせ鋼矢板を使用し、そのような控え工用組み合わせ鋼矢板24の継手板相互を噛み合わせて地盤に打設して控え工21Aを構築するようにした形態である。
【0038】
図24および図25に、実施形態の控え工用組合せ鋼矢板24を使用した控え工21が拡大して示されている。このような控え工用組み合わせ鋼矢板24を使用して控え工21を構築する場合には、控え工用組合せ鋼矢板24を地盤に打設すると共に継ぎ手相互を噛み合わされて、控え工用壁体25を構築し、腹越し材配置用段部8に腹起し材15が配置されて、上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に設けた腹起し材取り付け部8に、腹越し材15が取り付けられ、その腹越し材15にアンカー材17を介して土留め壁18が連結される。
【0039】
この形態では、図3および図4に示す形態と同様に、腹起し材15を断面略U字状部を備えた鋼矢板2の背面のフランジ7にボルト19で固定し、タイロッド等のアンカー材17を断面略U字状部を備えた鋼矢板2と腹起し材15の間において、腹起し材15にナット等の定着金具により定着する実施形態である。控え工用組み合わせ鋼矢板24と腹起し材15とタイロッド等のアンカー材17との取付あるいは連結構造は同じであるので、同様な符号を付した。なお、図示は省略するが、控え工用組み合わせ鋼矢板24を、継手を嵌合させず地盤に打設し、H鋼杭や鋼管杭のように控え杭として控え工21Aを構築することもできる。
【0040】
このような控え工21Aとすると、前記実施形態と同様に、組合せ鋼矢板に対する現場作業を少なくし現場作業費を低減可能な控え工用鋼矢板および控え工になる。
【0041】
なお、控え工21Aの上部構造は、必要に応じ、コンクリート等の被覆材により適宜被覆されて、埋め戻し土26が投入されて埋め込まれる。
【0042】
土留め壁用組み合わせ鋼矢板と同様に、控え工用組合せ鋼矢板24は、断面略U字状部を備えた鋼矢板の溝側またはその溝側と反対側のフランジ外面に断面略H字状の形鋼を固着した断面略T字状または断面略Y字状の組み合わせ鋼矢板において、その組み合わせ鋼矢板を構成する断面略U字状部を備えた鋼矢板と、断面略H字状の形鋼のいずれか一方の部材の上端レベルを低く、他方の部材の上端レベルを高くして、腹越し材配置用段部8を設け、かつ上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に、アンカー材17を介して土留め壁18に連結される腹起し材15を取り付けるための腹起し材取り付け部8aが設けられている。
【0043】
また、図23〜図25に示す代表形態以外にも、図5以降の形態も前記と同様に適用するようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態の組合せ鋼矢板およびその組合せ鋼矢板相互を連結した状態を示す平面図である。
【図2】本発明の組合せ鋼矢板の側面図である。
【図3】図2に示す状態から、腹起し材を取り付けると共に腹起し材にアンカー材を取り付けた状態を示す一部縦断側面図である。
【図4】図3の平面図である。
【図5】図2に示す状態から、腹起し材を取り付けると共に矢板にアンカー材を取り付けた状態を示す一部縦断側面図である。
【図6】図5の平面図である。
【図7】本発明の他の実施形態の組合せ鋼矢板およびその組合せ鋼矢板相互を連結した状態を示す側面図である。
【図8】図7に示す組合せ鋼矢板およびその組合せ鋼矢板相互を連結した状態を示す平面図である。
【図9】図7に示す状態から、腹起し材を取り付けると共に腹起し材にアンカー材を取り付けた状態を示す一部縦断側面図である。
【図10】図9の平面図である。
【図11】鋼矢板壁に対するアンカー材の取付位置との関係を示す平面図である。
【図12】鋼矢板頭部とアンカーの取付位置との関係を示す一部縦断側面図である。
【図13】腹起し材を示すものであって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は添板のない部分の縦断側面図、(d)は添板のある部分の縦断側面図である。
【図14】従来の組み合わせ鋼矢板の一例を示す横断平面図である。
【図15】従来の組み合わせ鋼矢板の他の例を示す横断平面図である。
【図16】控え式土留め壁の一例を示す一部縦断側面図である。
【図17】控え式土留め壁の他の例を示す一部縦断側面図である。
【図18】断面略T字状の組み合わせ鋼矢板の形態の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板を示す平面図である。
【図19】Z形鋼矢板を組み合わせた断面略U字状部を備えた鋼矢板と、断面略H字状の形鋼を備えた断面略Y字形状の組み合わせ鋼矢板形態の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板を示す平面図である。
【図20】Z形鋼矢板を組み合わせた断面略U字状部を備えた鋼矢板と、断面略H字状の形鋼を備えた断面略T字形状の組み合わせ鋼矢板形態の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板を示す平面図である。
【図21】図18に示す組合せ鋼矢板で、断面略U字状部を備えた鋼矢板の上端レベルを断面略H字状の形鋼の上端レベルよりも高くして腹起し材用取付部を設けた場合の側面図である。
【図22】図18に示す組合せ鋼矢板で、断面略H字状の形鋼の上端レベルを断面略U字状部を備えた鋼矢板の上端レベルよりも高くして腹起し材用取付部を設けた場合の側面図である。
【図23】本発明の控え工用組み合わせ鋼矢板を使用した控え工の一形態を示す一部縦断側面図である。
【図24】図23における控え工の上部付近を拡大して示す一部縦断側面図である。
【図25】図24における控え工付近の平面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 控え式土留め壁用組合せ鋼矢板
1A 断面略Y字形状の組み合わせ鋼矢板
2 ハット形鋼矢板(断面略U字状部を備えた鋼矢板)
3 ハット形鋼矢板のアーム部
4 ハット形鋼矢板のアーム部
5 ハット形鋼矢板のウェブ
6 H形鋼(断面略H字状の形鋼)
6a H形鋼の一方のフランジ
6b H形鋼の他方のフランジ
6c H形鋼のウェブ
7 ハット形鋼矢板のフランジ
8 腹越し材配置用段部
8a 腹起し材取り付け部
8b ボルト挿通孔
9 断面略T字状の組み合わせ鋼矢板
11 Z形鋼矢板
12a 溝
12b 溝
13 係止爪部
14 継手
15 腹起し材
16 溝形鋼
17 アンカー材
18 土留め壁
19 ボルト
20 鋼製調整板
21 控え工
21A 控え工
21a 鋼矢板
21b 鋼管杭
22 コーピング
23 添え板
24 控え工用組み合わせ鋼矢板
25 控え工用壁体
26 埋め戻し土
27 冷間成形された断面略U字状部を備えた鋼矢板
28 断面略Y字状に固着し成形した組み合わせ鋼矢板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面略U字状部を備えた鋼矢板の溝側またはその溝側と反対側のフランジ外面に断面略H字状の形鋼を固着した断面略T字状または断面略Y字状の組み合わせ鋼矢板において、その組み合わせ鋼矢板を構成する断面略U字状部を備えた鋼矢板と、断面略H字状の形鋼のいずれか一方の部材の上端レベルを低く、他方の部材の上端レベルを高くして、腹越し材配置用段部を設け、かつ上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に、アンカー材を介して控え工に連結される腹起し材を取り付けるための腹起し材取り付け部が設けられていることを特徴とする控え式土留め壁用組合せ鋼矢板。
【請求項2】
鋼矢板頭部において、断面略U字状部を備えた鋼矢板の上端レベルが、断面略H字状の形鋼の上端レベルより高くされていることを特徴とする請求項1の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板。
【請求項3】
鋼矢板頭部において、断面略H字状の形鋼の上端レベルを、断面略U字状部を備えた鋼矢板の上端レベルより高くされていることを特徴とする請求項1の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板。
【請求項4】
断面略U字状部を備えた鋼矢板の溝側またはその溝側と反対側のフランジ外面に断面略H字状の形鋼を固着した断面略T字状または断面略Y字状の組み合わせ鋼矢板において、その組み合わせ鋼矢板を構成する断面略U字状部を備えた鋼矢板と、断面略H字状の形鋼のいずれか一方の部材の上端レベルを低く、他方の部材の上端レベルを高くして、腹越し材配置用段部を設け、かつ上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に、アンカー材を介して土留め壁に連結される腹起し材を取り付けるための腹起し材取り付け部が設けられていることを特徴とする控え工用組合せ鋼矢板。
【請求項5】
請求項1に記載の控え式土留め壁用組合せ鋼矢板が地盤に打設されると共に継ぎ手相互が噛み合わされて土留め壁が構成され、腹越し材配置用段部に腹起し材が配置されて、上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に設けた腹起し材取り付け部に、腹越し材が取り付けられ、その腹越し材にアンカー材を介して控え工が連結されていることを特徴とする控え式土留め壁。
【請求項6】
請求項4に記載の控え工用組合せ鋼矢板が地盤に打設されて控え工用壁体が構成され、腹越し材配置用段部に腹起し材が配置されて、上端レベルが高くされた前記他方の部材の上端部に設けた腹起し材取り付け部に、腹越し材が取り付けられ、その腹越し材にアンカー材を介して土留め壁が連結されていることを特徴とする控え工。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2009−19373(P2009−19373A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181332(P2007−181332)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】