説明

揮発性有機化合物などを濃縮・処理する排気処理装置及び方法

【課題】塗装ブース5などから排出される排気51に含まれる揮発性有機化合物(VOC)の量を効率良く低減させることのできる排気処理装置を提供する。
【解決手段】排気処理装置10が、捕集水貯留室1と、この上に配置される気液混合器21及び横型の気液分離サイクロン22と、散気装置35を備えた縦型の気化筒3とからなる。気液混合器21は、複数段の板状多孔体(粗塵用エアフィルタ)211-1〜211-4と、最上段の板状多孔体211-1の全面に水56を供給する複数のノズル212とからなり、排気51を水56に接触させて揮発性有機化合物(VOC)を部分的に捕集する。気液分離サイクロン22から排出される捕集水56Aは、捕集水貯留室1を経て、気化筒3の上部に送られる。捕集水中の揮発性有機化合物(VOC)は、散気装置35から気泡と成って送り込まれる空気52に溶け込み、濃縮排気53を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装、接着、印刷、ゴム引き、並びに、溶剤を用いた反応や洗浄、または離型剤の塗布その他を行う施設、または、溶剤などの貯留箇所や、製品の乾燥・養生箇所などより排出される排気から、揮発性有機化合物や浮遊粒子状物質を濃縮して処理するための排気処理装置及び方法に関する。特には、設備コスト及び運転コストの低いシンプルな装置でもって、揮発性有機化合物の濃縮及び浮遊粒子状物質の除去を実現することにより、揮発性有機化合物や浮遊粒子状物質の排出量を低減するにあたり、設備コストまたは処理コストを大幅に低減できる装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的に、揮発性有機化合物(VOC)に起因する大気汚染や健康への影響が問題になり、排出規制の強化、及び削減目標の設定が行われている。揮発性有機化合物(VOC)は、光化学オキシダントの生成による光化学スモッグの主原因であり、また、浮遊性粒子状物質(SPM)をも生成するとされている。日本では、2010年までの2000年比30%の削減を目標にして、改正大気汚染防止法による排出規制が行われている。そのため、自動車その他の塗装プラントをはじめとして、有機溶剤を扱う各事業所が、年々厳しくなる排出規制をクリアする必要に迫られている。
【0003】
VOC排出量を低減するためには、有機溶剤などの使用量そのものを低減させるか、または、有機溶剤などの使用箇所から排出される排気について、VOCを部分的にでも除去する処理を行う必要がある。排気中のVOCを除去または低減する方法は、燃焼処理法と、吸着・吸収処理法とに大別することができる。燃焼処理法には、バーナー炎により直接燃焼させる方法の他、燃焼効率を上昇させるために、セラミックなどの蓄熱体や触媒を燃焼箇所にて用いる方法が含まれる。また、吸着・吸収処理法には、活性炭などに吸着させる方法や、油や、非親水性の高沸点溶媒中にトルエン、キシレン、エチルベンゼンなどのVOCを吸収させる方法などがある。排気の全量を燃焼処理法で処理するならば、VOCの排出量をゼロに近づけることが可能である。しかし、そのための燃料コストが過大になる他、燃料の燃焼により排出される汚染物質の問題や、二酸化炭素排出量増加という問題が生じる。吸着・吸収処理法でも、活性炭などの再生や、一定期間後の交換のための費用がかかり、多くの場合、燃焼処理法に比べてコストを低くすることができなかった。
【0004】
そこで、特許文献1においては、活性炭ディスクを排気路中に配置してVOCを吸着させるとともに、活性炭ディスクの一部の角度領域(扇状領域)に熱風を通してVOCを脱着させ、触媒燃焼させることが提案されている。活性炭ディスクを順次回転させることで、扇状領域ごとに、ある程度の吸着が行われた時点で脱着が行われるようにしている。すなわち、活性炭を用いてVOCを濃縮させてから、触媒を用いて燃焼させることが提案されている。
【0005】
一方、特許文献2においては、吸着液を用いて塗装ブースからの排気から、液状高分子物質を含む吸着液を用い、トルエン等のVOCを液状高分子物質により抱え込んで除去することが記載されている。吸着液で浄化された排気は、さらに乾式フィルタで浄化し、吸着液からは、遠心分離などにより液状高分子物質などを除去している。
【0006】
また、特許文献3においては、地下水などに含まれる揮発性有機化合物(VOC)を処理すべく、球形のサイクロン内に被処理水を噴射するとともに、オゾンを吹き込んで渦流を作り、オゾンとの接触により分解されるようにしている。
【0007】
他方、粒径10μm以下の浮遊粒子状物質(SPM)も、呼吸器の疾患やアレルギー疾患を引き起こし得るため、問題となっており、排気からの除去が必要となる。浮遊粒子状物質(SPM)を捕捉し処理するには、上述と同様に各種の燃焼処理法及び吸着・吸収処理法を用いることができ、ある程度は、揮発性有機化合物(VOC)と同時に除去することが可能である。しかし、多量に浮遊粒子状物質(SPM)が発生する場合や、浮遊粒子状物質(SPM)粒径が0.1μmまたはそれ以下の場合に、効率的に浮遊粒子状物質(SPM)を除去するのは一般に困難であった。
【0008】
そこで、本件発明者らは、特許文献4において、排気と植物油とをオーバーフロー式の3重筒からなるコンタクタ内にて接触させた後、横型のサイクロン装置によって、浮遊粒子状物質(SPM)が付着した植物油を分離することを提案した。この植物油は、エンジン燃料と混合されてエンジン中で完全燃焼させ、これにより浮遊粒子状物質(SPM)も燃焼処理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−331223
【特許文献2】特開2007−237101
【特許文献3】特開2004−344866
【特許文献4】特開2006−102618
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1のようにして揮発性有機化合物(VOC)を濃縮して処理する場合、比較的多量の活性炭が必要となる他、熱風を送り込むための加熱などが必要となり、濃縮のための運転コスト及び設備コストをあまり小さくすることができない。また、浮遊粒子状物質(SPM)を同時に除去するのには適していない。
【0011】
また、特許文献2のように、液状高分子物質に揮発性有機化合物(VOC)を吸着させて除去する場合、吸着後の液状高分子物質を遠心分離などによって常に排出しなければならず、また、常に新たな液状高分子物質を追加しなければならない。そのため、設備コスト及び運転コストは必ずしも小さくできない。
【0012】
特許文献3のように、オゾンを用いて揮発性有機化合物(VOC)を分解する場合、高価なオゾン発生装置が必要となる他、使用後の残ったオゾンを処理する機構が必要である。そのため、揮発性有機化合物(VOC)の濃度が低い排気を処理するには適しておらず、コスト高となる。さらに、浮遊性粒子状物質(SPM)の処理は別途に行う必要がある。
【0013】
一方、特許文献4で提案した浮遊粒子状物質(SPM)の除去装置では、浮遊粒子状物質(SPM)を効率的に除去することができるものの揮発性有機化合物(VOC)を濃縮することができない。
【0014】
本件発明者らは、上記問題点に鑑み鋭意検討する中で、単なる水を排気と接触させることで、何らかの形で揮発性有機化合物(VOC)を水でもって「捕集」し、この水から揮発性有機化合物(VOC)を分離することができるのではないかという着想を得た。常識的には、トルエンやシクロヘキサンといった石油系溶剤は水に溶解せず、メタノールといった水溶性の溶剤では水から分離するのが困難である。そのため、本件発明者らの着想は、当初、非常識なものと思われた。
【0015】
しかし、さらに鋭意検討する中で、シンプルで安価な装置機構だけを用いて、一見非常識な着想を具体的に実現できることを知った。
【0016】
以上のように、本発明は、設備コスト及び運転コストの低いシンプルな装置でもって、揮発性有機化合物の濃縮を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の排気処理装置は、揮発性有機化合物(VOC)を含む排気(51)を水(56)に接触させ、これにより揮発性有機化合物(VOC)を少なくとも部分的に水(56)によって捕集する気液混合器(21)と、気液混合器(21)の下流に配置される気液分離器(22)と、気液分離器(22)から排出される捕集水(56A)を受け入れて貯留するとともに、捕集水(56A)に保持されていた揮発性有機化合物(VOC)を、気化させて水から分離する気化分離装置(1,3)とからなることを特徴とする。気化分離装置(1,3)は、好ましくは、気液分離器(22)から排出される捕集水(VOC保持水)(56A)に、前記排気(51)より少量の空気、及び/または前記排気(51)の一部(51B)を接触させて、揮発性有機化合物(VOC)の濃度が元の排気(51)よりも高い濃縮排気(53,51C)を生成する濃縮排気生成系統である。また、好ましくは、気化分離装置(1,3)中の水を、捕集用の水(56)として再利用すべく、少なくとも部分的に気液混合器(21)へと戻す捕集用水戻し系統(48, 48A, 46, 46A)を備える。
【発明の効果】
【0018】
揮発性有機化合物(VOC)を含む排気を水に接触させてから分離することで、排気中の揮発性有機化合物(VOC)濃度を低減することができる。また、特には、排気と接触させた後の水(捕集水)を、比較的少量の空気などに接触させるか、または加熱などを行うことにより、揮発性有機化合物(VOC)の濃度が高い濃縮排気または濃縮蒸気を得ることができる。そのため、濃縮排気や濃縮蒸気だけを燃焼その他により処理することで、揮発性有機化合物(VOC)の排出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態の排気処理装置について、全体構成を示す垂直断面図である。
【図2】図1の排気処理装置についてのベンチスケール試作例の外観を示す模式的な斜視図である。
【図3】図1中に示す気液混合器における各段の気液混合促進部材についての模式的な分解斜視図である。
【図4】図1及び図3により示す気液混合器について、さらに説明するための模式的な垂直方向断面図である。
【図5】図1及び4中の気液分離サイクロンを示す部分破断斜視図である。
【図6】図5の気液分離サイクロンについての、軸方向に沿った垂直断面図である。
【図7】図5のC−C線に沿う断面を下流側から見た垂直断面図である。
【図8】図5のD−D線に沿う断面を下流側から見た垂直断面図である。
【図9】第2の実施形態の排気処理装置を示す、図1と同様の垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の排気処理装置10は、揮発性有機化合物(VOC)を含む排気を、水に接触させ混合するとともに、接触・混合させた水から分離することで、排気中の揮発性有機化合物(VOC)の濃度を低下させるVOC捕集装置(排気浄化系統)2と、このVOC捕集装置から排出される捕集水(VOC保持水)から揮発性有機化合物(VOC)を分離するVOC気化分離装置とからなる。好ましい態様において、VOC気化分離装置は、VOC捕集装置から排出される捕集水(VOC保持水)に、前記排気の一部、または前記排気より少量の空気を接触させて、揮発性有機化合物(VOC)の濃度が高い濃縮排気を生成し排出口より排出する濃縮排気生成系統1,3である。VOC気化分離装置は、このような濃縮排気生成系統に限らず、例えば、捕集水(VOC保持水)を貯留した状態で、加熱や減圧、並びに超音波等による激しい攪拌などを加えて、水蒸気中に揮発性有機化合物(VOC)が高濃度に含まれた濃縮蒸気を生成するものであっても良い。
【0021】
また、好ましい態様において、気化分離装置中の水を、捕集用の水(56)として再利用すべく、少なくとも部分的に気液混合器(21)へと戻す捕集用水戻し系統(48, 48A, 46, 46A)が備えられる。
【0022】
好ましい態様において、VOC捕集装置2は、気液混合器21と、この下流に接続される横型の気液分離サイクロン22とからなる。
【0023】
気液混合器21は、好ましい実施形態において、粒径10μm以上の粒子の大部分を捕捉可能な、板状の繊維集合体または発泡体からなる板状多孔体211と、この全面に水56を供給するためのノズル212またはその他の給水手段(例えば多数のステンレス細管)とからなる。板状多孔体211には、例えば、換気装置の外気取入口や空調機の通気口などに設置される除塵用のエアフィルタなどとして市販されているものをそのまま用いることができる。圧力損失を低くするとともに効率的な気液接触を実現する観点から、繊維集合体が好ましく、特には不織布などとして3次元網目構造(の交点や結節点)が融着などにより固定されたものが好ましい。例えば、熱可塑性ポリエステル、ポリオレフィンなどの熱可塑性の合成樹脂を用い、スパンボンド法などにより製造した不織布を用いることができる。しかし、ガラス繊維などの無機繊維や、ステンレス鋼線等の金属繊維からなるものを用いることもできる。繊維集合体は篩(ふるい)面をなすような網地が重なったものでも良く、編物などであっても良い。また、板状多孔体211ととして、場合によっては、ハニカム構造体や連通気泡の樹脂発泡体を用いることができる。板状多孔体211の厚みは、例えば、5〜40mm、特には10〜30mmである。
【0024】
好ましい態様において、気液混合器21は、以下のように構成される高密度の気液混合器である。すなわち、気液混合器21中の排気51の通路に、複数段の気液混合用の板状多孔体211-1〜211-4が配置され、各板状多孔体211は、それぞれ、0.5mm以上の径の孔が均一に開けられたパンチングシート213により支持される(図1及び4参照)。パンチングシート213は、特には、厚みが0.2〜1.0mmのステンレス鋼板や亜鉛メッキ鋼板などの金属板に、例えば0.5〜8mm径の円形の孔213Aが開けられたものである。パンチングシート213の開口率は、例えば20〜50%である。一の板状多孔体211-1を支持するパンチングシート213と、次の段の板状多孔体211-2との間には、例えば2〜15mmの間隙が設けられる。適当な開口率のパンチングシート213の存在により、板状多孔体211が支持され固定されるだけでなく、VOC捕集用の水56は、排気51の流れや重力によってパンチングシート213に押し付けられて一時的に滞留してから、孔213Aを通じて間隙中へと噴出する。パンチングシート213の作用により、各板状多孔体211の全面にわたってどの箇所でも、気液混合のための充分な水が存在する。また、排気51や水が板状多孔体211を通過する速度が、板状多孔体211の面内でばらつくのが抑えられ、効率的なVOCの捕集が行われると考えられる。なお、孔213Aからの噴出の際に、次の段の板状多孔体211の上流側の面へと向かって、一種の噴霧作用が行われると推測される。
【0025】
気液混合器21は、好ましくは、縦型である。すなわち、揮発性有機化合物(VOC)を含む排気51が、気液混合器21の上部から導入され、ほぼ水平に配置された各段の板状多孔体211を順次通過しつつVOC捕集用の水56と接触するとともに、このようにして気液が混合されたミスト状態で、下方から排出される。気液混合器21への捕集用の水56の供給量(体積ベース、L/min)は、排気51の量(体積ベース、L/min)の1/1500〜1/100に設定することができ、例えば1/1000〜1/200、特には1/700〜1/300に設定することで、揮発性有機化合物(VOC)の捕集を行うことができる。通常、この範囲より水の量を多くしても、あまり効果は見られない。
【0026】
好ましい態様において、気液分離サイクロン22は、水平の中心軸に沿った回転力を付与するための回転力付与室22Bと、この下流に接続される分離室22Cとからなる。回転力付与室22Bの周壁をなす外筒221の径より、分離室22Cの周壁をなす円筒227,228の径が、ひとまわり小さい。回転力付与室22Bは、中心軸に垂直の断面から見て渦巻き線状に伸びる同一形状・寸法の一対のガイド板224と、これらガイド板224の間の空間22B1を、回転力付与室22Bにおける上流側の空間22B2から遮蔽する遮蔽板226とを備える。遮蔽板226の輪郭と外筒221との間の間隙から導入されたミスト流は、下流側へと進みつつ、ガイド板224の間の空間22B1へと導かれてガイド板224に沿って径方向内側へと送られ、回転力が付与される。分離室22Cには、上流側及び下流側の端部の壁面から、小径の円筒部が突き出す。また、分離室22Cの周壁をなす円筒227,228は、下端部に開口241が設けられ、これにより、中心軸に垂直の断面では下方に開いたC字状をなす。下流側の円筒部243を通じて、浄化された排気51Aが排出されるとともに、捕集水56Aが、下向きの開口241を通じて排出され、下方の受液槽242で受けられる。
【0027】
好ましい態様において、気液分離サイクロン22の下流には、浄化された排気51A中に残存する水滴を除去するための一種のデミスタ23が接続する。デミスタ23は、気液分離サイクロン22の排出口に接続する衝突式デミスタ23Aからなる。衝突式デミスタ23Aは、出口から水平方向に排出された排気51Aが突き当てられる壁面23Bと、この壁面23Bに沿って配置される、気流衝突用の板状多孔体231とからなる。気流衝突用の板状多孔体231により補足されたミストは、この板状多孔体231を伝って流下し、不図示の小径配管を通って濃縮排気生成系統1,3へと送られる。特には、捕集水貯留室1または気化室3中へと送られる。デミスタ23の気流衝突用の板状多孔体231としては、気液混合器21の板状多孔体211と同様のものを好ましいものとして挙げることができる。
【0028】
デミスタ23には、必要に応じて、通過式デミスタ部23Cがさらに設けられる。通過式デミスタ23Cは、衝突式デミスタ23Aの上方開口に接続するか、または一体に設けられ、排気51Aが通過して排出される際に、残存ミストを除去する。通過式デミスタ23Cには、上方などへの排気51Aの流れを遮るように、気流通過用の板状多孔体232が備えられる。気流通過用の板状多孔体232としては、気液混合器21の板状多孔体211と同様のもの、または、これよりもさらに粗いものを用いることができる。
【0029】
好ましい態様においてVOC気化分離装置1,3は、捕集水56Aを貯留する捕集水貯留室1と、水槽31及び散気装置35を備える気化室3と、捕集水貯留室1の捕集水56Aを気化室3の水槽31の上部へと送る捕集水供給配管47及びポンプ47Aとからなる。散気装置35は、気化室3の水槽31の底部にて、外気、または排気の一部を気泡として送り込むことで、捕集水56A中に分散または溶解して保持された揮発性有機化合物(VOC)を、気化室3の上部をなす濃縮排気室32へと追い出す。散気装置35としては、水槽31の底部のほぼ全面にわたって、ある程度微細な気泡を生成可能であれば、いずれも使用可能である。例えば、水処理や食品工業などの生物反応槽に用いられている、各種の散気板、散気管、ディフューザーなどを用いることができる。一般には、全面に均一に気泡を発生させる上で、底部のほぼ全面にわたって延びる散気板を用いるのが好ましい。なお、散気孔の孔径は、100μm〜2mmの範囲で適宜選択でき、樹脂膜からなるものでも、セラミックその他から成るものでも良い。例えば、散気孔の孔径が150〜400μmの散気板を好ましいものとして挙げることができる。
【0030】
一方、散気装置35からの吹き込みの量は、処理対象の排気51の総量の0.2〜2%、特には0.3〜1%とすることができる。また、排気の一部が捕集水56AとともにVOC気化分離装置1,3へと送られる場合、その排気の量は、散気装置35の吹き込み量の5〜40%、特には10〜25%に抑えることができる。
【0031】
揮発性有機化合物(VOC)の気化を促進するためには、気化室3の水槽31の中の水を適宜加熱することができる。例えば、水槽31の水温を35℃以上、特には35〜40℃にまで上昇させることにより、気化を大幅に促進することができる。加熱は、散気板などの散気孔より下方の、底面近傍で行うのが好ましい。加熱手段は、広い面積にわたって均一な表面温度を維持できるパネルヒーターなどが好ましい。
【0032】
パネルヒーターとしては、加熱されたオイルや温水などがパネル中の配管を巡るものであっても良く、また、濃縮排気53,51Cを燃焼処理するための小型燃焼筒6からの排煙がパネル中の配管を巡るものであって良い。また、パネル状のものに限らず、温水などの加熱媒体の配管を底面近傍に巡らしたものであっても良い。ここでの加熱媒体の加熱には、上記の小型燃焼筒6からの排熱を利用できる他、適宜に、工場の各種設備からの排熱や温排水を用いることができる。例えば、加熱成形用の金型を水冷した際に出てくる温排水を用いることができる。また、場合によっては、ヒートポンプや電熱を用いることもできる。
【0033】
気化室3の水槽31の底部、特には、散気装置35の下方から、水が、直接、または、適当な貯留箇所を経て、気液混合器21(すなわち、少なくともいずれか)へと送られる。また、濃縮排気室32内の濃縮排気53は、処理系統へと送られて処理される。水槽31の上部に供給された水は、気化室3の水槽31の底部にまで、対流などにより降下するにあたり、上昇する気泡の作用を受けつづける。そのため、気化室3の水槽31の底部の水58は、揮発性有機化合物(VOC)の濃度が低く、気液混合器21へと循環させて、揮発性有機化合物(VOC)の捕集に用いるのに適している。なお、捕集水貯留室1の水槽11中の水がほぼ静置されているならば、捕集水貯留室1の水槽11の下部を、水58の貯留箇所として用いることができる。
【0034】
濃縮排気53は、塗装ブース5などから排出される排気51の量の少なくとも1/10、特には1/30〜1/150とすることができるため、処理コストを大幅に低減することができる。単純な燃焼処理の場合、燃料その他のエネルギーコスト及び装置コストは、ほぼ処理する気体の量に比例するため、排気51全体を燃焼処理する場合に比べて大幅に処理コストを低減できる。
【0035】
VOC気化分離装置1,3には、浮遊性粒状物質(SPM)を濾過して除去する機構を設けることができる。上記のような気液混合器21を用いるならば、例えば、0.74μm以上の浮遊性粒状物質(SPM)を99.7%以上除去することも可能である(ビッグバン株式会社のウェブサイトhttp://www.eco-bigbang.co.jp/a1b)。気液混合器21に流入する排気51に、多量の浮遊性粒状物質(SPM)が含まれる場合、捕集水56A中の浮遊性粒状物質(SPM)の凝集物を濾過により除去してから、または除去しつつ、捕集水を空気と接触させて濃縮排気を生成することができる。
【0036】
好ましい態様において、上記の捕集水貯留室1内に、水槽11からオーバーフローする水を受けて、これから浮遊性粒状物質(SPM)の凝集物を分離する粉体除去フィルタ13が備えられるとともに、粉体除去フィルタ13を通過した濾過水を貯留する貯留槽14、及び/または、前記濾過水を排出する排出管が備えられる。また、水槽11の底部には、適宜、凝集物が分離して水面付近に浮遊するのを促進すべく、気化室3の底部に設置可能なものと同様の散気装置15を備えることができる。但し、この散気装置15から送り込む空気の量は、浮遊性粒状物質(SPM)の分離を促進する程度で良く、例えば、気化室3の散気装置35による空気送り込み量の10〜20%とすることができる。
【0037】
好ましい態様において、さらには、上記の捕集水貯留室1の水槽11の底部に、気化室3の底部に設置可能なものと同様のパネルヒーターなどの加熱装置17を備えることができる。例えば30〜40℃にまで加熱するならば、気化室3に送り込まれた際に水槽31内の水温を35〜40℃に維持するのが、より容易になり、気化を促進する上で有利である。また、捕集水貯留室1の水槽11に加熱装置とともに散気装置15が設けられている場合、捕集水貯留室1内にて、揮発性有機化合物(VOC)の気化を、かなりの程度まで行っておくことができる。
【0038】
なお、揮発性有機化合物(VOC)とは、大気汚染防止法で定めるとおり、排出時に気体であるものから、メタン及び大部分の含フッ素化合物を除いたものである。排出量の多い代表的なものを列挙すると、トルエン、キシレン、ベンゼンエチルベンゼン、酢酸エチル、デカン、メタノール、ジクロロメタン、各種ケトン、及びイソブタンである。すなわち、水に自由に溶解ないし混和するもの、部分的に混和するもの、及び、ほとんど混和しないものがある。水にほとんど混和しない場合も、気液混合器中にて水中に分散し、気液分離器での分離の際も、かなりの部分が、水中に保持されたままになると考えられる。一方、浮遊性粒状物質(SPM)には、排気中に浮遊する径が10μm以下の粒子状物質が全て含まれ、固体からなるばいじんやダストの他、ミストやエアロゾルなどの液体からなるものも含まれる。10μm径以上の浮遊物質は、エアフィルタなどにより比較的容易に除去できる。
【実施例】
【0039】
以下に、図1〜8を用いて第1の実施形態の排気処理装置10について説明する。第1の実施形態の排気処理装置10は、図2の外観図に示すようにベンチスケールの試作装置であり、後述する試験データの取得に用いた。但し、気液混合器21が縦型である点でのみ、試験データを取得した際の試作装置と異なる。なお、図2に示す実際の試作装置にコントロールパネル7が現れているが、図1では省略している。
【0040】
図1には、排気処理装置10の全体構成を、模式的な垂直断面図にて示す。図1に示すように、実施例の排気処理装置10は、捕集水貯留室1と、VOC捕集装置2と、気化室3と、配管・ポンプ系統とからなる。VOC捕集装置2は、塗装ブース5から排出される排気51を水56に接触させる気液混合器21と、この下流に配置されて、浄化された排気51Aから捕集水56Aを分離する横型の気液分離用サイクロン22と、排気51Aから、さらに、わずかに残存する捕集水56Aのミストを除去するデミスタ23とからなる。気液分離用サイクロン22の下方には、捕集水56Aを受けるロート状ないしホッパー状の捕集水受け部24が備えられる。
【0041】
図示の具体例の試作装置においては、小型の塗装ブース5としてのボックス内へと、スプレーガンを用いてシンナーを噴霧した。そして、排気ダクト41及びこの途中に設置した送風機(ブロワー)41Aにより、気液混合器21の上部に4.5m3/min(4500L/min)の風量で排気51を送り込んだ。排気ダクト41の排出端が、接続ダクト部41Bを通じて気液混合器21の上部開口に接続している。
【0042】
以下に、まず、図1に示す捕集水貯留室1及び気化室3について説明する。
【0043】
捕集水貯留室1は、垂直断面が矩形状の容器1Aの内部であり、その大半を占める水槽11と、この上の排気室12とからなる。捕集水貯留室1の天井壁1Dには、捕集水受け部24が、垂直筒24Aを通じて接続しており、この内壁面を伝って、捕集水56Aが流下し、排気室12を通って水槽11へと落下する。なお、垂直筒24Aを通じて、排気51Aの一部が排気室12中へと送り込まれる。捕集水56Aがスムーズに分離されるようにすべく、気液分離サイクロン22の内部が、捕集水受け部24の内部よりも多少高圧になっているからである。図1中に示すように、捕集水貯留室1の上端付近に、排出ダクト(第2濃縮排気ダクト)42が接続している。排気室12に送り込まれた排気51Aは、水槽11の水面などで部分的に捕集水56Aと接触し、一部分離してくる揮発性有機化合物(VOC)を溶かし込む。このようにして、揮発性有機化合物(VOC)の濃度が高い排気51Cとなって排出される。なお、図示の例で、第2濃縮排気ダクト42の途中に調節バルブ42Aが設けられており、これを用いて排気室12内の圧力を調節することにより、気液分離サイクロン22から適量の排気が流れ込むようにすることができる。
【0044】
図示の例で、水槽11の水面より少し高い位置に、水平にパンチングシート12Aが「緩衝板」として配置されている。このパンチングシート12Aは、天井壁から落下する捕集水56Aの水流が、広い面積に分散することで、水槽11の水面を叩くのを緩和し、静かに水槽11の上部へと、静かに流れ込むようにするものである。パンチングシート12Aには、気液混合器21中に用いられるパンチングシート213と同様のものを用いることができる。なお、図示の例では、パンチングシート12Aが、水槽11の水面よりかなり小さいが、水槽11の水面全体に広がったものであっても良い。また、パンチングシート12Aの縁を囲む上下寸法の短い壁を設けることで、全体がトレー状となるようにすれば、パンチングシート12Aの縁から勢い良く水が落下することがない。
【0045】
図1に示すように、捕集水貯留室1には、水槽11の一側方に、粉体除去フィルタ13及びこの下方の濾過水貯留槽14が設けられる。水槽11と、粉体除去フィルタ13及び濾過水貯留槽14とは、垂直の仕切り壁1Bによって仕切られている。この仕切り壁1Bの上端は、水槽11の水面付近にあり、捕集水56Aが水槽11中へと送り込まれる分だけ、水槽11から捕集水56Aが仕切り壁1Bを越えて粉体除去フィルタ13上へとオーバーフローする。上述のように、水槽11への捕集水56Aの落下が緩やかに行われるため、水槽11内がかき混ぜられることがない。そのため、水槽11の上層に近い部分から捕集水56Aが粉体除去フィルタ13へと送られる。
【0046】
一般に、浮遊粒子状物質(SPM)の比重は水より小さいため、水槽11の表面に集中する傾向にある。浮遊粒子状物質(SPM)の粒度が小さく分散しやすいものである場合、水槽11中へと凝集剤を滴下することもできる。例えば、凝集剤タンクと、これからパンチングシート12Aへと延びる凝集剤添加配管と、この途中に配置されてタイマーなどにより開閉される電磁バルブとからなる凝集剤添加機構を設けておくことができ、これにより、所定時間ごとに所定量の凝集剤を添加するこができる。
【0047】
なお、図示の例では、水槽11の底部に散気装置15の散気板15Aが配置され、空気配管16及び調整バルブ16Aを通じて、浮遊粒子状物質(SPM)の分離に必要な程度の少量の気泡が生成される。また、散気板15Aの下方にパネルヒーター17が配置されている。これらの散気装置15及びパネルヒーター17は、気化室3に設けられるものとして後に説明するの同様の構成により設けることができる。但し、気化のための空気吹き込み量よりは、格段に少ない量で足りる。なお、試験に用いた具体例では、捕集水貯留室1の水槽11に散気装置15及びパネルヒーター17を設置しなかったが、この具体例の装置で散気装置15を設けた場合、空気吹き込み量を例えば5L/minとすることができる。また、捕集水貯留室1の水槽11、及び気化室3の水槽31を加熱する場合、捕集水貯留室1の水槽11の水温を例えば、35〜36℃に保っておくことができる。
【0048】
図示のように、粉体除去フィルタ13の上面は、仕切り壁1Bの上端より、少し低い位置に設定され、浮遊粒子状物質(SPM)の凝集物が粉体除去フィルタ13上に厚く堆積しても、水槽11へと浮遊粒子状物質(SPM)が戻ることがない。なお、図には示さないが、粉体除去フィルタ13上の堆積層が一定の厚み以上となった時点で、堆積層を容易に取り除けるように、引き出し式の掻き出し機構が備えられる。すなわち、捕集水貯留室1の容器1Aの外面に設けられた取っ手またはつまみをつかんで引っ張ると、仕切り壁1Bに接していた掻き出し板が引き出されて行くとともに、水を含む堆積層が掻き出される。または、粉体除去フィルタ13ごと堆積層を引き出すようにしても良い。例えば、粉体除去フィルタ13を、複数層の濾過材シートから構成し、最上層の濾過材シートとともに、引き出すようにしても良い。このようにして排出される堆積層は、適当な容器に受けておき、水を絞り出した後に、焼却処理される。粉体除去フィルタ13には、例えば、ガラス繊維ペーパーからなる内層を金網で挟み込んだものを用いることができる。
【0049】
濾過水貯留槽14には、図示の例で、2つの高さ位置にそれぞれフロートスイッチ14A-1, 14A-2が設けられており、濾過水貯留槽14の水面が上方のフロートスイッチ14A-1の位置にまで上昇したならば、水槽11への水の供給が一時的に停止されるかまたは絞られる。また、水面が下方のフロートスイッチ14A-2の位置にまで降下した際には、水槽11への水の供給が再開されるか、または、供給量が引き上げられる。具体例においては、水面が上方のフロートスイッチ14A-1の位置に達した際に、水槽11への上水55の供給が停止され、水面が下方のフロートスイッチ14A-2の位置に達した際に、水槽11への上水55の供給が再開される。
【0050】
濾過後の捕集水57は、濾過水貯留槽14内に一旦貯留された後、捕集水供給管47、及びこの途中に備えられた供給ポンプ47Aにより、気化室3の天井壁3Dの中央部へと送られる。
【0051】
気化室3は、捕集水貯留室1と同様に、垂直断面が矩形状の容器の内部であり、その大半を占める水槽31と、この上の濃縮排気室32とからなる。また、天井壁の中央部から落下する、濾過後の捕集水57は、同様のパンチングシート32Aの中央に落下してから、緩やかに、かつ、広い面積にわたって均一な具合に、水槽31の水面上へと落下する。パンチングシート32Aの構成、配置や可能な変形は、前述の、捕集水貯留室1内のパンチングシート12Aと全く同様である。但し、気化室3は、高さ寸法が、幅及び奥行きの2倍以上と、縦型になっている。
【0052】
気化室3の底部には、ほぼ底部の全面積にわたって広がる散気板35Aが配置されており、コンプレッサー等により外気から取られた空気が連続的に送り込まれる。これにより、水槽31の底部のほぼ全面から、連続して微細な気泡が上昇する。散気装置35の散気板35Aに送り込まれる空気の量は、流量調整弁36Aにより適宜に調整される。この流量調整弁36Aは、コンプレッサーのアキュミュレータから散気板35Aへと至る空気配管36中に設けられる。一方、図示の例においては、気化室3の底面と散気板35Aとの間には、パネルヒーター33が備えられている。このパネルヒーター33は、温度調整機能により、表面温度が適当な温度に保たれて、均一な加熱を行う。但し、試験で用いた具体例においては、加熱を行っていない。実際に加熱を行う場合、例えば水槽31の水温が36〜37℃となるように加熱することで、一般的にシンナーなどに含まれている各種の揮発性有機化合物(VOC)を、効率よく除去することができる。
【0053】
図示の例で、気化室3の底部の水58が、第1リターン配管48及び第1リターンポンプ48Aにより、捕集水貯留室1の底部に送り込まれる。このようにして、気化室3では、上部から供給された水が底部で引き出され、下方への緩やかな流れが生じている。この流れに逆らうように気泡が上昇し、水中に分散または溶解されていた揮発性有機化合物(VOC)が気泡中に混和し気泡とともに上昇する。そのため、気化室3の底部の水58は、揮発性有機化合物(VOC)の濃度が低くなっている。気化室3の底部の水58は、一旦、第1リターン配管48及び第1リターンポンプ48Aにより捕集水貯留室1の底部に送られて貯留された後、第2リターン配管46及び第2リターンポンプ46Aにより、気液混合器21のノズル212へと送られる。第2リターン配管46の取水口46Bと、第1リターン配管48の排出口48Bとは、近接して設けられており、気化室3の底部の水58が、なるべくそのまま、気液混合器21へと送られるようにしている。なお、捕集水貯留室1の水槽11内に、適当な仕切り壁を設けて、気化室3の底部の水58の貯留箇所と、それ以外の箇所とを完全に、または多少の流通が可能な程度に、仕切ることもできる。
【0054】
試作した試験装置としての具体例において、第2リターン配管46により捕集水貯留室1の底部から気液混合器21に送られる捕集用の水56の量は、10L/minであり、捕集水56Aの量もほぼ10L/minである。すなわち、この循環による捕集水貯留室1の増減は、気液分離サイクロン22などでの蒸発のみであり、少ない。一方、捕集水供給配管47を通じて気化室3に送られる捕集水56Aの量は30L/minであり、第1リターン配管48を通じて、これに見合った量の水58が捕集水貯留室1に戻される。但し、気化装置3からの水の蒸発量などの変動要因があるため、戻される水58の量は適宜調整する。特には、第1リターンポンプ48Aの能力を30L/minより大きい値、例えば45L/minに設定しておき、気化室3の水槽31の上端部に設置したフロートスイッチ34Aの検知に基づき、第1リターンポンプ48Aをオンオフすることができる。すなわち、気化室3の水槽31の水位が、ある程度以上となったときにだけ第1リターンポンプ48Aを稼働させるという簡単な制御により、戻される水58の量を適切に調整することができる。
【0055】
上記のように、揮発性有機化合物(VOC)の捕集に用いる水が排気処理装置内を循環するため、多量の上水を使用する必要や、多量の下水を処理する必要がない。しかし、排気処理装置の運転中に、気化室3内の水中にて、揮発性有機化合物(VOC)のうち、気化され難い成分が、少しずつ蓄積されていくこともあり得る。そのような場合、排気処理性能が低下するため、排気処理装置内の水を、少しずつ、上水などと入れ替えることができる。このような目的で、図示の例では、気化室3の水槽31の底部にドレイン配管49が接続し、この途中の調整弁49Aにより、排出する排水59の量が調整される。また、捕集水貯留室1の水槽11の底部に、上水(水道水または井戸水)55を供給する上水配管45が接続しており、この途中の電磁弁45Aにより、上水55の供給量が調整される。具体例においては、排水59の量が1〜2L/minであり、上水55の供給量は、蒸発量の分だけ、これより多い。
【0056】
ドレイン配管49から排出した排水59は、一般的な生物浄化処理により、一般河川や海洋に排出可能な程度に浄化することができる。または、このように浄化した水を上記の上水55に代えて用いることもできる。例えば、小規模の膜分離活性汚泥処理装置(MBR)を通して浄化した水を上水55として用いることもできる。このように別途の方法で処理する代わりに、単に排水59を密閉したタンクに貯留しておき、排気処理装置の負荷が小さいときなどに、気化室3に送り込んで揮発性有機化合物(VOC)を分離するようにしても良い。また、例えば、塗装ブース5内での塗装作業が終了した後に、VOC気化分離装置1,3だけを運転するようにしても良い。
【0057】
なお、ドレイン配管49は、冬季の運転休止時に、水槽31内の水を排出して、凍結を防止するのにも用いられる。また、同様のドレイン配管を、捕集水貯留室1の水槽11に設けることもでき、これにより、下水への所定速度での排出や、運転休止の際の排水を可能することができる。また、図には示さないが、必要に応じて、各種の配管には、断熱材を巻き付けたり、保温ジャケットを備え付けることができる。
【0058】
一方、気化室3上部の濃縮排気室32には、その上部に、第1濃縮排気ダクト43が接続し、捕集水貯留室1上部の排気室12には、その上部に、第2濃縮排気ダクト42が接続する。気化室3から第1濃縮排気ダクト43通じて排出される濃縮排気53の量は、散気装置35により気化室3内に送り込まれる空気52の量に等しく、第2濃縮排気ダクト42から排出される濃縮排気51Cの量は、気液分離サイクロン22から受け部24及び垂直筒24Aを通じて、捕集水56Aとともに送り込まれる排気51Bの量に等しい。具体例において、送り込まれる空気52の量、及び第1濃縮排気ダクト43を通じて気化室3から排出される濃縮排気53の量は、30L/minであり、送り込まれる排気51Bの量、及び第2濃縮排気ダクト42通じて排出される濃縮排気51Cの量は、5L/minである。すなわち、濃縮排気の総量は、35L/minである。
【0059】
図示の例で、第1及び第2濃縮排気ダクト43,42は、合流した後、小型燃焼筒6に接続している。合流後の濃縮排気ダクトには、逆火防止バルブとともに、風量調整ダンパーを設け、最適な燃焼が行われるように適宜調整することができる。なお、小型燃焼筒6は、例えば、垂直円筒状の燃焼筒と、これに側方から差し込まれたバーナー装置とからなり、バーナー装置は、例えばプロパンガスの火炎を燃焼筒における中央部から噴き出して、燃焼筒の内部を少なくとも800℃以上、好ましくは1200℃以上とする。
【0060】
なお、具体例において、捕集水貯留室1は、幅(W) 600mm、奥行き(D)250mm、高さ(H)700mmの直方体状であり、水槽11の平均水量が80Lである。また、水槽11の平均水面から天井までの高さ寸法が約170mmであり、濃縮排気室12の平均容量が25Lである。一方、気化室3は、幅(W) 300mm、奥行き(D)410mm、高さ(H)900mmの直方体状であり、水槽31の平均水量が90Lである。水槽31の平均水面から天井までの高さ寸法が約170mmであり、濃縮排気室32の平均容量が21Lである。また、VOC捕集装置2をなす各部材21〜23の幅及び高さ、捕集水貯留室1の幅及び高さとの比は、ほぼほぼ、図1に示すようなものとなっている。また、VOC捕集装置2をなす各部材21〜23の奥行き寸法は、捕集水貯留室1の奥行き寸法250mmと同一か、またはそれ以下となっている。すなわち、図1〜2のように、VOC捕集装置2は、捕集水貯留室1の体積と同じ程度またはそれ以下の空間内に収納可能であり、特には、捕集水貯留室1の上方の空間に収納可能である。
【0061】
実用運転に用いられる排気処理装置10における捕集水貯留室1、気化室3、及び、VOC捕集装置2をなす各部材の寸法は、処理対象の排気51の量が、本具体例の4.5m3/minの何倍であるかによって、比例計算により求めることが可能である。なお、捕集水貯留室1及び気化室3のいずれにおいても、水槽11,31の水量(体積)に対する濃縮排気室12,32の体積の比は、10〜50%の範囲、特には20〜40%の範囲内で適宜調整することができる。
【0062】
したがって、例えば、150m3/minの排気を処理する場合、全ての寸法を3倍あまりにすれば良く、ほぼ、高さ4m、幅4m、奥行き1.5mの空間内に収納可能である。
【0063】
また、本実施形態の排気処理装置10であると、例えば、揮発性有機化合物(VOC)の濃度を30%低減することができる。処理すべき排気を直接に燃焼処理する方式であると、30%の揮発性有機化合物(VOC)を削減するためには、排気の30%について燃焼処理を行う必要がある。これに対し、本実施形態によると、揮発性有機化合物(VOC)について同程度の削減効果を得るためには、約0.8%だけ燃焼処理すれば良い。したがって、燃焼に必要な燃料コスト、及び、燃焼処理部の能力及びサイズは、単純な燃焼処理に比べて約1/120にすることができる。
【0064】
揮発性有機化合物(VOC)の除去率を向上させるためには、本実施形態の排気処理装置10を複数台、直列に接続するだけで良い。例えば、2台直列につなぐと、揮発性有機化合物(VOC)は、70%×70%=約0.5倍となる。4台直列につなぐと約0.25倍、8台直列につなぐと約0.058倍(5.8%)となる。排出基準が、たとえどんどんと厳しくなったとしても、4〜8台直列につないで用いれば充分であるので、燃料コストは、単純な燃焼処理の場合の4〜8%またはそれ以下とすることができる。しかも、1台の設置スペースが小さいため、4〜8台設置しても、それほど過大なスペースを占めるわけでない。なお、処理装置のコストは、1〜2台のみ設置する場合、従来の吸着法や、燃焼法などと比べて、大幅に低減できると推測される。
【0065】
次に、図1〜8により示すVOC捕集装置(排気浄化系統)2の具体的な構成について説明する。気液混合器21は、垂直軸まわりの円筒状または直方体状の容器21Aの内部に構成される。容器21Aの天井面の一部と、下部の一方の側壁とに開口が備えられ、上方の開口は、側部に導入口を有する下向きカップ状の第1の接続ダクト部41Bを通じて、排気ダクト41の排出端に接続する。容器21Aの下部が、第2の接続ダクト部22Aをなしており、第2の接続ダクト部22Aの一方の側壁の開口に、気液分離用サイクロン22が接続している。
【0066】
容器21A内の上端部には、複数のノズル212が配列される。例えば、容器21Aの水平方向断面が長方形である場合に同一水平面内に、前後方向に6列と、左右方向に3列とをなすように18個の同一の構成及び寸法を有するノズル212が配列される。各ノズル212は、接触水供給管46から供給された水56を、広角度に噴射し、これにより、筒型の容器21Aの水平方向断面全体にわたって、ほぼ均等に、捕集用の水56が供給される。試験に用いた具体例ではノズル212の内径が1mmあまりであるが、例えば1〜5mmの範囲の値に適宜設定できる。
【0067】
ノズル212の下方には、粗く厚い不織布からなる4枚の板状多孔体211-1〜211-4が備えられる。ノズル212の先端から、第1段の板状多孔体211-1の上面までの距離は、噴射された捕集用の水56が、全面になるべく均一に広がるのに必要なだけの距離に設定される。
【0068】
各板状多孔体211は、容器21Aの水平方向断面にほぼ等しい寸法及び形状を有する。板状多孔体211には、例えば日本バイリーンの「フィレドン(商標)」エアフィルタの「一般再生用」及び「一般使い捨て用」の各品種のものを用いることができる。具体例の試験装置には、「一般再生用」の「PS/600」(ポリエステル/モダアクリル、厚み20±3mm、初期圧損93Pa、「平均捕集効率(JIS 15種、比色法形式3)」82%)を、適した寸法・形状に切り出して用いた。
【0069】
図3〜4に示すように、各板状多孔体211は、パンチングシート213及び額縁状金具214により支持されている。パンチングシート213は、具体例において、朝日ステンレス(株)の「パンチングメタル」であって、厚みが0.5mmのステンレス鋼板に、径3mmの円形の孔213Aが、均等に開けられたものである。同一列内での中心点間ピッチは5mmであり、隣接する列間では、孔の位置が互い違いになっており、開口率は、32.6%である。パンチングシート213の水平方向寸法(幅及び奥行き)は、板状多孔体211とほぼ同一である。額縁状金具214は、各部分の垂直方向断面がL字状であり、具体例において、内側に棚状に突き出す寸法が10mmであり、この内側が、約325cm2の有効断面積をなしている。すなわち、具体例において、各板状多孔体211を、排気51及び捕集用の水56が通過するための有効断面積が約325cm2であり、ここを4500L/minの排気51が通過する。ノズル212から供給される水56の量は、10L/minであり、排気51に対する体積比は1/450となっている。また、具体例において、パンチングシート213と次の段の板状多孔体211との間に、約10mmの間隔が開けられている。
【0070】
一方、デミスタ23は、図1中に示すように、衝突式デミスタ23Aと通過式デミスタ23Cとが一体に構成されたものである。衝突式デミスタ23Aは、気液分離サイクロン22の排出円筒243の先端に直接接続する部分であり、排出円筒243の先端から所定の距離(具体例の試験装置では約10cm)を置いて配置される垂直の壁面23Bと、この全面を覆うように配置された気流衝突用の板状多孔体231とからなる。この板状多孔体231は、具体例において、上記の日本バイリーンの「フィレドン(商標)」「PS/600」を、250mm×250mmの寸法に矩形状に切り出したものである。
【0071】
通過式デミスタ23Cは、短円筒状や短角筒状などの、水平方向断面積の大きい排気室内に、水平方向に、気流通過用の板状多孔体232が複数段、配置されている。図示の例において、気流通過用の板状多孔体232の端部が、上記の垂直の壁面23Bから上方へ延在する壁面上にて、気流衝突用の板状多孔体231の上端部を覆っている。具体例では、気流通過用の板状多孔体232の通過面積が720cm2であり、約4.5m3/minの排気51Aが通過することから、風速は、約6m/min=約0.1m/secである。気流通過用の板状多孔体232は、具体例では、上記の日本バイリーン(株)の「フィレドン(商標)」「PS/600」と、東洋クッション(株)の「ビニロック(化繊ロック)」KM-90-50とを重ね合わせて用いた。気流通過用の板状多孔体232により捕捉されるミストは、かなり少なかったものの、気流衝突用の板状多孔体231を伝って流下する。衝突式デミスタ23A及び通過式デミスタ23Cにより捕捉されたミストは、水滴となり、不図示のキャピラリー配管を伝って捕集水貯留室1へと送られる。
【0072】
次に、図5〜8を用いて気液分離器22の構成について説明する。気液分離器22は、その一部を破断した斜視図を図5に、軸方向に沿った垂直断面図を図6に示すように、円筒状に形成した外筒部材221の一端に小径の流入口222を形成し、その下流側に前記流入口222の端部から少し間隔を設けて径小円筒223(実際には、断面が一対の円弧からなる部分)を配置している。この径小円筒223の円周面には、背面(下流側の面)から見た横断方向の垂直断面図である図7からより理解されるように、外筒部材221の後端面221Aに亙る長手方向に所定幅の2つの開口223Aを対向させて穿設し、この開口223Aの一端からは、この開口223Aを覆うように、径小円筒223の接線方向の外方に円弧状のガイド片224を同一方向に延出し、その端縁は外筒部材221の内面側に当接させてガイド流路225を形成している。
【0073】
前記径小円筒223の流入側の端面は、遮蔽板226で閉塞し、さらに前記ガイド流路225となるガイド片224と径小円筒223との間隙の流入側の開口部をも前記遮蔽板226で覆うようにしており、これによって、流入口222側から流入する排気ガスは、外筒部材221)内で遮蔽板226に当接して外筒部材221内の円周方向にその流れを変え、さらにガイド片224に沿ってガイド流路225を流れ込み、径小円筒223内に回転流となって流入して下流に流れる構成としている。
【0074】
外筒部材221の下流側には、この外筒部材22よりやや径を小さくした径大の円筒体227, 228を複数隣接して配列しており、この円筒体227, 228を区分する仕切壁229の中央部を貫通して双方の円筒体227, 228を連通するように、前記径小円筒223体と同径の連通筒240を介在させている。
【0075】
また、図8に示すように、連通筒240の前後に位置する前記円筒体227, 228の下面には、その長手方向に亙って前記径小円筒223の直径程度の幅寸法を有する透過孔241を設け、透過孔241に連通した円筒体227, 228の下方には受液槽242を配置しており、円筒体228の最下流側である他端には排気ガスの流出口243を設置している。
【0076】
上記構成によって、流入口222から外筒221内に流入した浄化対象である気液混合の排気ガスは、その流れを矢印で示すように、遮蔽板226に当接することによって外筒221内の周縁に展開し、さらに外筒内面と当接しているガイド片224に導かれてガイド流路225に流入し、開口223Aから径小円筒223内に流入することで回転力が付与されるものであり、渦流となって径小円筒223)の端部から円筒体227内に流入することになる。
【0077】
渦流となった排気ガスは、円筒体227内への流入の際の膨張と遠心力によってサイクロン(旋風)を形成し、円筒体227内で揮発性有機化合物(VOC)及び浮遊性粒子状物質(SPM)を吸着させた捕集水56Aと、この吸着により浄化された排気51Aとを分離させる。捕集水56Aは、遠心力と重力によって透過孔241から下方の受液槽242に落下する。
【0078】
受液槽242内に落下した捕集水56Aは、渦流となっている円筒体227内の圧力と液自体の重力とによってさらに下流の捕集水受け部24に導かれていくため、槽内に溜まることはなく、また渦流によって吹き上げられることはない。
【0079】
気液分離サイクロン22のサイズは、上記の具体例において、外円筒221の内径が170mm、円筒体227, 228の内径が150mmであり、流入口222及び流出口243の筒部を除いた全長が450mmである。
【0080】
以下に、図9を用いて、第2の実施形態の排気処理装置10'について説明する。第2の実施形態の排気処理装置10'は、浮遊性粒子状物質(SPM)を回収する機構が省かれている点だけ、第1の実施形態の排気処理装置10と異なる。すなわち、捕集水貯留室1内には、粉体除去フィルタ13及び濾過水貯留槽14がなく、散気装置15も設けられていない。また、凝集剤添加機構が設けられることがない。さらに、一対のフロートスイッチ14A-1,14A-2は、捕集水56Aを直接貯留する水槽11の水位を検出するように設けられて、この検出に基づき、上水配管45の電磁弁45Aの制御が行われる。具体例においては、上水配管45を通じた、上水55の供給が、第1の実施形態の具体例と同様に、オンオフされる。なお、図示の例において、第2リターン配管46の途中にストレーナー46Cが設けられ、1.0mm以上のゴミ(鉄さびなど)を除去することにより、ノズル212の詰まりを確実に防止している。
【0081】
なお、図9に示す例において、仕切り壁1Bを省いたが、これを設けることにより、水槽11の上層部分が優先的に気化室3へと送られるようにすることができる。また、浮遊性粒子状物質(SPM)を回収するを除去する必要がない場合に、図1の装置から、粉体除去フィルタ13だけを省いた形式とすることもでき、散気装置15により揮発性有機化合物(VOC)の気化を促進することもできる。
【0082】
処理対象の排気51中に、浮遊性粒子状物質(SPM)が少ない場合、第2の実施形態の排気処理装置10'を用いれば足りる。浮遊性粒子状物質(SPM)が多少含まれている場合、捕集水貯留室1及び気化室3内の水中で浮遊性粒子状物質(SPM)の濃度が少しずつ増加してしまうが、運転終了時に内部の水を全て入れ替えて、汚水処理施設などで処理するのであれば問題がない。
【0083】
<試験結果>
上述の具体例の試験装置及び条件により、実稼働中の小型のゴム成形ブースからの排気を処理し、処理前及び処理後における、揮発性有機化合物(VOC)の濃度をガスクロマトグラフにより測定した。この成形ブース内では、4分間のタクトタイムで、一対の金型間でのゴム成形が行われる。そのため、金型が開いた時点で揮発性有機化合物(VOC)の排出が多くなり、その後徐々に減少する。そこで、排気ガスをサンプリングしてフッ素樹脂(PTFE)製の袋に保存するにあたり、2分間かけて均等な速度で吸入する操作を2回連続して行った。すなわち、合計で4分間のほぼ連続的で均一な吸入を行うことにより、ほぼ、揮発性有機化合物(VOC)の平均的な濃度を測定したと考えられる。なお、ゴム成形ブースの排気ダクトから直接サンプリングを行うタイミングと、排気処理装置10の排気ダクトからサンプリングを行うタイミングは、合わせておらず、ゴム成形のタクトタイムとも合わせていない。また、水槽11,31内の水は加熱しておらず、測定時の外気温28℃より少し低い25℃程度であった。
【0084】
以下に、(株)環境分析研究所により、平成21年9月14日の試験運転時にサンプル採取を行い、ガスクロマトグラフ測定を行った結果を示す。表の右端に示すように、4種の揮発性有機化合物の合計で見た場合、37%もの減少率が見られた。
【表1】

【0085】
上記の表1において、濃度は、ガスクロマトグラフによる2回の測定値の平均値である。カッコ内には、1回目(4分の前半)の測定値、及び2回目(4分の後半)の測定値そのものである。
【0086】
まず、処理前の排気で2回の測定値間に大きな差が出るのは、上記の成形タクトタイム内で、金型を開いた時点で溶剤(揮発性有機化合物)の蒸散が多く、また、溶剤種間で、沸点や加熱時の蒸気圧が異なるから、金型を開いてからの蒸散の速度に差があるためと考えられる。例えば、沸点の低いメタノールでは一回目の測定値が高かったのに対し、沸点の高いトルエンでは2回目の測定値が高かった。
【0087】
一方、処理後の排気では、成形ブース内での蒸発のし易さの差に加えて、水への溶解のし易さ、及び、溶解後の分離のし易さの相違などの影響が出ていると考えられる。下記表2に、揮発性有機化合物(VOC)の各溶剤種ごとについて、25℃での蒸気圧、及び、25℃前後での水への溶解度の文献値を示す。
【表2】

【0088】
メタノールの減少率が60%と最も大きかったのは、水に最も溶解しやすく、25℃前後での蒸気圧が高いためと考えられる。メチルエチルケトン(MEK)の減少率が40%となりメタノールの次に大きかったのは、水に比較的溶解し易く、25℃前後での蒸気圧が高いためと考えられる。また、トルエンの減少率が32%となり比較的低かったのは、水に対する溶解度が低く25℃前後での蒸気圧も低いためと考えられる。
【0089】
メチルイソブチルケトン(MIBK)の減少率が16%となり、かなり低かった主たる原因は、25℃前後での蒸気圧がかなり低いためと思われる。
【0090】
データは示さないが、予備的な実験によると、気化室3内の水槽31の水温を上昇させて行くと、35℃のあたりで、排気処理装置10での処理による減少率が急激に向上した。そのため、水槽31内の水温を35℃〜40℃に保つことで、メチルイソブチルケトンを含む上記4種の有機化合物(VOC)の蒸発が大幅に促進される、処理効率を大幅に向上できることが知られた。
【0091】
下記の表3には、(株)環境分析研究所により、上記の平成21年9月14日の試験運転中に排水からのサンプリング及び測定を行った結果を示す。この際、サンプリングは、排気処理装置10の運転を続けドレイン配管49から、約1.5L/minの排水59を排出し続けた後、一定の状態に達したと判断した際に、行った。
【表3】

【0092】
上記測定結果から知られるように、排水は、一般の下水処理設備、特には、公営の下水網に排出して全く問題のない程度であることが知られた。一般的な下水排出基準によるBOD上限が600mg/Lであるのに対し、68mg/Lと、その約1/9であった。したがって、ある程度の分量を、排水59として排出することで、排気処理装置10の負担を軽減することができる。例えば、一時的に処理負担が増大した場合に、排水59の排出量を増やすといったことも可能であり、この場合、排気処理装置10の能力を通常運転時に合わせることで、装置コストや設置スペース、特には、気化装置3のコストや設置スペースがあまり大きく成らないようにすることができる。
【符号の説明】
【0093】
1 捕集水貯留室 11 水槽 12 排気室 13 粉体除去フィルタ 14 濾過水貯留槽
15 散気装置 17 パネルヒーター 2 排気浄化系統 21 気液混合器
211 板状多孔体 212 ノズル 213 パンチングシート
22 横型の気液分離サイクロン 23 デミスタ 231, 232 板状多孔体
3 気化室 31 水槽 32 濃縮排気室 33 パネルヒーター 35 散気装置
41 排気ダクト 41A 送風機 42 第2濃縮排気ダクト 43 第1濃縮排気ダクト
45 上水配管 46 第2リターン配管(ノズルへの供給管)
47 捕集水供給配管(気化室への供給管) 48 第1リターン配管 5 塗装ブース
51 塗装ブースからの排気 51A 処理後の排気 51C,53 濃縮排気
55 上水 56 捕集用の水 56A 捕集水(捕集後の水)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物(VOC)を含む排気(51)を水(56)に接触・混合させ、これにより揮発性有機化合物(VOC)を少なくとも部分的に水(56)中に捕集して保持させる気液混合器(21)と、
気液混合器(21)の下流に配置される気液分離器(22)と、
気液分離器(22)から排出される捕集水(56A)を受け入れて貯留するとともに、捕集水(56A)に保持されていた揮発性有機化合物(VOC)を、少なくとも部分的に気化させて水から分離する気化分離装置と、
気化分離装置中の水を、捕集用の水(56)として再利用すべく、少なくとも部分的に気液混合器(21)へと戻す捕集用水戻し系統(48, 48A, 46, 46A)とからなることを特徴とする排気処理装置。
【請求項2】
前記気化分離装置が、気液分離器(22)から排出される捕集水(56A)に、前記排気(51)より少量の空気(52)、及び/または前記排気(51)の一部(51B)を接触させて、揮発性有機化合物(VOC)の濃度が元の排気(51)より高い濃縮排気(53,51C)を生成する濃縮排気生成系統(1,3)であることを特徴とする請求項1に記載の排気処理装置。
【請求項3】
揮発性有機化合物(VOC)を含む排気(51)を水(56)に接触・混合させ、これにより揮発性有機化合物(VOC)を少なくとも部分的に水(56)中に捕集して保持させる気液混合器(21)と、
気液混合器(21)の下流に配置される気液分離器(22)と、
気液分離器(22)から排出される捕集水(56A)に、前記排気(51)より少量の空気(52)、及び/または前記排気(51)の一部(51B)を接触させて、揮発性有機化合物(VOC)の濃度が元の排気(51)より高い濃縮排気(53,51C)を生成する濃縮排気生成系統(1,3)とを含むことを特徴とする排気処理装置。
【請求項4】
気液混合器(21)が、粒径10μm以上の粒子を捕捉可能な板状の繊維集合体または発泡体からなる板状多孔体(211)と、この全面に水(56)を供給するためのノズル(212)またはその他の給水手段とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の排気処理装置。
【請求項5】
気液混合器(21)中の排気(51)の通路に、複数段の板状多孔体(211-1〜211-4)が配置され、各板状多孔体(211)が、0.5mm以上の径の孔が均一に開けられたパンチングシート(213)により下流側から支持され、パンチングシート(213)と次の段の板状多孔体(211)との間に所定の間隔が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の排気処理装置。
【請求項6】
気液分離器(22)が、横型の気液分離サイクロン(22)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の排気処理装置。
【請求項7】
濃縮排気生成系統(1,3)が、捕集水(56A)を貯留する捕集水貯留室(1)と、水槽(31)及び散気装置(35)を有する気化室(3)とからなり、
捕集水貯留室(1)に貯留された捕集水が気化室(3)内の水槽(31)の上部に送られ、散気装置(35)を通じて気泡が水槽(31)の下部に送り込まれ、気化室(3)の上部から、排出ダクト(43)を通じて濃縮排気(53)が排出されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の排気処理装置。
【請求項8】
気化室(3)内の水槽(31)の下端部の水(58)が、捕集水貯留室(1)の水槽(11)の下部へと戻されるとともに、気液混合器(21)に送られて、揮発性有機化合物(VOC)を捕集するための水(56)として用いられることを特徴とする請求項7に記載の排気処理装置。
【請求項9】
捕集水貯留室(1)内に、水槽(11)からオーバーフローする水を受けて、これから浮遊性粒状物質(SPM)の凝集物を分離する粉体除去フィルタ(13)と、粉体除去フィルタ(13)を通過した濾過水を貯留する貯留槽(14)及び/または前記濾過水を排出する配管(47)とが備えられることを特徴とする請求項7または8に記載の排気処理装置。
【請求項10】
揮発性有機化合物(VOC)を含む排気(51)を水(56)に接触・混合させ、これにより揮発性有機化合物(VOC)を少なくとも部分的に水(56)中に捕集して保持させる気液混合工程と、
気液接触箇所の下流にて気液分離を行う工程と、
気液分離箇所から排出される捕集水(56A)に、前記排気(51)より少量の空気(52)、及び/または前記排気(51)の一部(51B)を接触させて、揮発性有機化合物(VOC)の濃度が元の排気(51)より高い濃縮排気(53,51C)を生成するか、または、捕集水(56A)を貯留した後、加熱、減圧、または攪拌を加えて、水蒸気中に揮発性有機化合物(VOC)含む濃縮蒸気を生成することにより、揮発性有機化合物(VOC)を少なくとも部分的に分離する気化分離工程と、
気化分離工程を経た水を、捕集用の水(56)として再利用すべく、少なくとも部分的に気液混合器(21)へと戻す工程とを含むことを特徴とする排気処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−78928(P2011−78928A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234318(P2009−234318)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(509280545)
【Fターム(参考)】