説明

揺動軸受、それを用いたパラレルリンク機構、および移動ステージ

【課題】揺動軸受、それを用いたパラレルリンク機構、および移動ステージにおいて、小型化に適し、経時的にも円滑かつ高精度を維持することができるようにする。
【解決手段】球状ジョイント部30bが設けられた可動軸30と、軸受本体9との組合せからなる揺動軸受3であって、軸受本体9は、球状ジョイント部30bを球中心点回りにすべり支持する凹球面部8b、内側球面部7aと、可動軸30を揺動可能に挿通させるための開口部7cと、開口部7cの近傍の外表面側に、凹球面部8b、内側球面部7aと同心に形成された外側球面部7bと、凹球面部8bの一部に開口し、潤滑流体6を供給する流体供給溝8dとを備え、可動軸30は、球状ジョイント部30b近傍で、軸部30aに径方向に突出して固定され、開口部7cを覆った状態で外側球面部7bに摺動可能に密着された流体封止部材31を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動軸受、それを用いたパラレルリンク機構、および移動ステージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料または部品等の載置物を移動台に保持し、移動台を適宜平行移動、回転移動させて、載置物を空間上の所定位置、姿勢に移動させるため、パラレルリンク機構を用いた移動ステージが知られている。
このような移動ステージとして、例えば、特許文献1には、伸縮機構を介して伸縮可能に連結された2つのリンク素子からなりる6本のリンクを、移動台と固定台との間に、パラレルリンク機構支持用軸受を介して揺動可能に配置し、それぞれ2本ずつのペアで、移動台の周方向の3箇所で、パラレルリンクを構成し、各リンクの伸縮量を制御して、固定台に対して、移動台を所定位置に移動させるとともに、所定の向きに傾けるようにした移動装置が記載されている。
この移動装置のパラレルリンク機構に用いるパラレルリンク機構支持用軸受(揺動軸受)は、外輪と内輪との間に保持器で保持されたボールを、外輪および内輪に形成された係合溝に沿って転動させることで、リンク素子の軸を任意方向に傾動可能に保持するものである。
【特許文献1】特開2001−165155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の揺動軸受、それを用いたパラレルリンク機構、および移動ステージには、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、パラレルリンク機構の回転ジョイントとして、内輪および外輪内の係合溝に対してボールが転動するボール軸受で構成された揺動軸受を用いているが、ボールと係合溝との加工精度と組み付け精度による誤差があるため、あまり高精度が求められる用途には使用できないという問題がある。例えば、レンズ形状評価装置等などでは、サブミクロンの移動精度が必要になる場合があり、このような高精度の用途には使用できないか、使用に堪えるものを製作しようとすれば、多大な製造コストがかかってしまう。
また、一般にボール軸受では、移動精度を向上するために、予圧を行って軸受剛性を上げることが行われる。ところが、予圧された軸受では、駆動負荷が増大したり、ボールや接合溝の磨耗が進行しやすくなったりするおそれがある。そのため、円滑な駆動や経時の安定動作を保証することが難しいという問題がある。
また、ボール軸受では、微小なボールを高精度に加工することが難しいため、軸受のサイズをあまり小さくすることができないという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、小型化に適し、経時的にも円滑かつ高精度を維持することができる揺動軸受、それを用いたパラレルリンク機構、および移動ステージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、被支持部材に軸部が一体もしくは着脱可能に連結され、この軸部の連結部分と反対側の端部に球状ジョイント部が設けられた可動軸と、前記球状ジョイント部の球中心点回りに前記可動軸を揺動可能に支持する軸受本体との組合せからなる揺動軸受であって、前記軸受本体は、前記球状ジョイント部を内包して前記球中心点回りにすべり支持する凹状球面部と、前記可動軸を揺動可能に挿通させるため、前記可動軸の軸部の外径より大きく、かつ前記球状ジョイント部の球面の外径よりも小さい内径を有する略円状の開口部と、該開口部の近傍の外表面側に、前記凹状球面部と同心に形成された凸状球面部と、前記凹状球面部の一部に開口し、前記凹状球面部と前記球状ジョイント部との間を潤滑するための流体を供給する流体供給溝とを備え、前記可動軸は、前記球状ジョイント部の近傍で、前記軸部に対して該軸部の径方向に突出して固定され、前記軸受本体の開口部を覆った状態で前記軸受本体の凸状球面部に対して摺動可能に密着された流体封止部を備える構成とする。
この発明によれば、軸受本体の開口部に可動軸の軸部を挿通した状態で、凹状球面部に沿って、可動軸の端部に設けられた球状ジョイント部を配置し、凹状球面部と球状ジョイント部の間に流体供給溝から流体を供給すると、流体封止部によって、揺動範囲において開口部から流出しようとする流体を封止することができる。このため、球状ジョイント部と凹状球面部との間の流体の静圧が保たれ、球状ジョイント部をその球中心点回りにすべり支持することができる。このため、例えばボールなどの転動接触部材を介することなく、可動軸を軸受本体の開口部内で揺動させることができる。
【0006】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の揺動軸受において、前記流体供給溝は、前記流体の逆流防止弁を備える構成とする。
この発明によれば、流体供給溝に逆流防止弁を備えるので、球状ジョイント部と凹状球面部との間の流体の静圧を安定させることができる。
【0007】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の揺動軸受において、前記流体供給溝の開口の中心は、前記可動軸の揺動中心軸上に配置されている構成とする。
この発明によれば、流体供給溝の開口の中心が、可動軸の揺動中心軸上に配置されているので、球状ジョイント部及び凹状球面部に対して、各揺動方向にバランスよく流体を供給することができる。そのため、潤滑状態が良好となり、可動軸を安定して揺動させることができる。
【0008】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載の揺動軸受において、前記流体封止部は、少なくとも前記凸状球面部との摺接部が、前記凸状球面部に付勢された弾性体からなる構成とする。
この発明によれば、流体封止部が少なくと凸状球面部との摺接部において、凸状球面部に付勢された弾性体からなるため、流体封止部が凸状球面部と円滑に摺動しつつ、流体を封止することができる。
【0009】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜4のいずれかに記載の揺動軸受において、前記流体封止部は、前記軸部に設けられた付勢手段により前記凸状球面部に付勢されている構成とする。
この発明によれば、流体封止部が軸部上に設けられた付勢手段によって凸状球面部に付勢されるので、付勢力が安定して流体封止部に伝達される。このため、付勢手段の付勢力を適宜設定することで、流体を安定して封止することができる。
【0010】
請求項6に記載の発明では、パラレルリンク機構において、請求項1〜5のいずれかに記載の揺動軸受をリンク機構の回転ジョイントとして用いた構成とする。
この発明によれば、回転ジョイントとして、請求項1〜5のいずれかに記載の揺動軸受を用いるので、請求項1〜5のいずれかに記載の発明と同様の作用効果を備える。
【0011】
請求項7に記載の発明では、ワークを保持する保持台を有し、該保持台の周縁部をパラレルリンク機構によって、平行移動および回動可能に支持する移動ステージであって、前記パラレルリンク機構は、請求項1〜5のいずれかに記載の揺動軸受を回転ジョイントとして用いてなる構成とする。
この発明によれば、保持台の周縁部をパラレルリンク機構によって平行移動および回動可能に保持し、パラレルリンク機構の回転ジョイントとして、請求項1〜5のいずれかに記載の揺動軸受を用いるので、請求項1〜5のいずれかに記載の発明と同様の作用効果を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の揺動軸受、それを用いたパラレルリンク機構、および移動ステージによれば、可動軸の球状ジョイント部が軸受本体の凹状球面部によって流体を介してすべり支持されるので、小型化に適し、経時的にも円滑かつ高精度を維持することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0014】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る揺動軸受について、それを用いたパラレルリンク機構および移動ステージとともに説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る揺動軸受を用いた移動ステージの概略構成を示す模式的な正面図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係る揺動軸受を用いた移動ステージの概略構成を示す模式的な平面図である。図3(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態に係る揺動軸受の構成を示す揺動中心軸を含む断面図である。図4(a)は、本発明の第1の実施形態に係る揺動軸受の流体封止部の構成を示す模式的な部分断面図である。
【0015】
本実施形態の移動ステージ100は、図1、2に示すように、平面視円環状の基台(固定台)1の上部に、それぞれリンク4(被支持部材)、リンク4の両端側に連結される一対の揺動軸受3、揺動軸受3のうちの下端側に連結される直動機構2とで構成されたリンク機構を6個並列に配列したパラレルリンク機構60が設けられ、このパラレルリンク機構60によって、平面視円環状とされた保持台(移動台)5が平行移動および回動可能に支持されてなるものである。
本実施形態では、基台1、保持台5の外径は、それぞれD、D(ただし、D>D)としている。
【0016】
リンク4は、例えば、金属、合成樹脂、あるいはそれらの複合材などからなる棒状部材であり、その両端部がそれぞれ揺動軸受3の軸部30aに固定されている。
保持台5は、図1に示すように、図示下側に縮径する略円錐台状の外形を有し、その中心に円状(リング状)の孔部5dが貫通されている。そして、上面側には被保持物を保持する保持面5aと、被保持物を固定する一対の固定部5bとを備え、下側に円錐台状の斜面部にはリンク4に連結された一方(上端側)の揺動軸受3を固定する軸受取付部5cが設けられている。
軸受取付部5cは、図2に破線で示すように、平面視で保持面5aを周方向に略3等分する各位置の近傍に2つずつ近接して設けられている。このため、保持台5は、パラレルリンク機構60の6つのリンク機構によって、略3点支持されている。
このように、保持台5は、孔部5dを備え、保持台5の下側の周縁部でパラレルリンク機構60に保持されることにより、例えば、鏡枠にレンズ系が組み込まれた状態のレンズユニットなど中心部に光線を通したりする必要のある被保持物を保持するのに好適となっている。
【0017】
直動機構2は、基台1上に設置されその上面側が基台1の中心方向に向かって図示斜め上方に傾斜する傾斜面となっている直動機構取付部1a上に固定されたスライドガイド2aと、スライドガイド2aの不図示のガイド面に沿って、直動機構取付部1aの傾斜面に略平行な角度で基台1の径方向に直線移動可能に設けられたスライダ2bとを備える。
スライダ2bは、不図示の制御手段によって、1軸方向に位置移動できるもので、例えば、不図示のリニアモータや適宜のアクチュエータなどを用いて位置移動することができる。
スライダ2bの上面の下端側には、リンク4の他端(下端側)に連結された揺動軸受3を固定するための凸のブロック状の軸受台2cが、例えばボルトなどによって固定されている。
なお、スライドガイド2aの両側にはそれぞれL字形の取付座がボルトで取り付けられており、スライダ2bがスライドガイド2aに対して移動した際のスライダ2bの移動量(移動位置)を検出するためのセンサ、およびスライダ2bが移動した際のその上限位置または下限位置でスライダ2bの移動を強制的に停止させるための一対のストッパが、それぞれL字形の取付座に配置されている。
【0018】
揺動軸受3の概略構成は、図3(a)に示すように、軸部30aを有する可動軸30、可動軸30の端部を収容する軸受本体9および軸受本体9内に流体を封止する流体封止部材31(流体封止部)からなり、軸受本体9内部に供給された潤滑流体6(流体)によって可動軸30を揺動可能、かつ可動軸30の中心軸回りに回転可能にすべり支持するものである。
可動軸30は、リンク4(図1参照)と連結された軸部30aと、軸部30aのリンク4とは反対側の端部に球面(球形状)を有するように形成された球状ジョイント部30bからなる。リンク4と軸部30aとの連結は、一体化された連結でも、着脱可能な連結でもよい。
軸部30a上には、球状ジョイント部30b側の近傍に、凹面側が劣弧を有する球殻形状の流体封止部材31を螺合するための雄ネジ部30cが形成されている。
【0019】
軸受本体9は、軸受台2c、または軸受取付部5cに対して固定する際の取付面8gを有する受け台8と、受け台8の取付面8gと反対側に対向配置された蓋部材7とからなり、受け台8と蓋部材7との間に球状ジョイント部30bを収容する。
【0020】
受け台8は、取付面8gに対向する図示上面側の周囲に、取付面8gと平行な平面部8aを備え、平面部8aの中央部には、球状ジョイント部30bの径よりわずかに大径を有する略半球面からなる凹球面部8bが内部側に形成されている。受け台8の平面視の外形形状は、特に図示しないが、適宜の形状を採用することができる。例えば、円形、矩形、多角形などで構成することができる。
受け台8は、平面部8a側において、凹球面部8bの外周側には、凹球面部8bの外周縁からわずかに離間して、凹球面部8bを囲む同心円状に、例えばOリングなどからなるシール部材11を配置するシール溝8cが設けられている。シール溝8cの深さは、シール部材11の厚みよりも浅くなっており、シール部材11をシール溝8cに配置した状態で、シール部材11が平面部8aの上側に突出するようになっている。
また、平面部8aにおいて、シール溝8cの外周側には、蓋部材7を受け台8にボルト止めするための雌ネジ部8fが複数設けられている。
【0021】
受け台8の凹球面部8bの底部の中央には、可動軸30の揺動中心軸を中心に軸方向断面がコ字状の有底円筒状の流体供給溝8dが穿設されている。
流体供給溝8dの図示右側の側面には、流体供給管路8eの一端が接続され、流体供給管路8eの他端には、流体供給管路8eより大径で横方向に延ばされて受け台8の側方に貫通する円筒穴が設けられ、これにより弁室8hが構成されている。
【0022】
弁室8h内には、流体供給管路8e側から圧縮コイルバネ13、ボール12、ボール12の押え部材14がこの順に配置されている。このような構成により、圧縮コイルバネ13は、弁室8hの流体供給管路8e側の段部に係止されて、軸方向に圧縮され、押え部材14側にボール12を付勢している。
押え部材14は、軸方向に貫通する孔部14bを備え、外周が弁室8hに螺合または内嵌された略円筒状部材である。そしてボール12に対向する押え部材14の先端面には、圧縮コイルバネ13によって付勢されたボール12を係止するすり鉢型の弁座部14aが設けられている。これにより、弁座部14aにボール12が押圧されると、孔部14bがボール12によって塞がれ、弁室8hが密閉されるようになっている。このため、ボール12は軸受本体9内の潤滑流体6の圧が上昇した場合に、潤滑流体6が孔部14bに逆流しないようにする逆流防止弁を構成している。
【0023】
蓋部材7は、受け台8に対向して位置合わせした状態で、可動軸30の球状ジョイント部30bを図示上方から押え、球状ジョイント部30bを抜け止めしつつすべり支持するためのものであり、受け台8の平面部8aに対向する平面部7fが下面側の周囲に形成されたフランジ部7Bと、フランジ部7Bの下面側の内周部から球状ジョイント部30bに沿って円弧状に立ち上がり、立ち上がった円弧状の中心部にて開口する端部がすり鉢状に拡径するように傾斜された開口部7cを形成する球殻部7Aとからなる。
【0024】
フランジ部7Bには、受け台8の複数の雌ネジ部8fに対応して、それぞれボルト10を挿通するためのボルト挿通孔7eが設けられている。
【0025】
球殻部7Aの内面側には、受け台8の凹球面部8bと同径の内側球面部7aが形成されている。凹球面部8bと内側球面部7aとは、球状ジョイント部30bを内包してすべり支持する凹状球面部を構成している。
また、球殻部7Aの外面側には、内側球面部7aと同心球状の滑らかな外側球面部7bが開口部7cの外周を取り囲む一定の範囲に形成されている。この一定範囲は、可動軸30の揺動時に後述する流体封止部材31の外縁部が到達する範囲よりも広い範囲に設定される。
開口部7cは、軸部30aを挿通するもので、軸部30aの揺動範囲を規制している。開口部7cのすり鉢状の傾斜は、軸部30aの最大揺動時における軸部30aの側面の傾斜に合わせて設定されている(図3(b)参照)。
【0026】
このような蓋部材7は、軸部30aが連結された球状ジョイント部30bを受け台8の凹球面部8bに配置した後、軸部30aに蓋部材7の開口部7cを挿通し、平面部7fをシール溝8c上に配置されたシール部材11の上面に当接させ、ボルト挿通孔7eに挿通したボルト10を平面部8aと平面部7fとの隙間を一定値となるように締め込んで組み立てることで、受け台8に固定される。
この平面部8a、7f間の隙間は、凹球面部8bと内側球面部7aとの球中心が点Oに略一致するともに、シール部材11が潤滑流体6を確実に封止できるように、圧縮される寸法に設定される。
【0027】
流体封止部材31は、このような組立状態の軸受本体9において、開口部7cと軸部30aとの間の隙間を、軸部30aの揺動時も含めて常時上方から覆い、球状ジョイント部30bと、凹球面部8bおよび内側球面部7aとの間に供給される潤滑流体6を適宜の静圧状態に封止するために用いられるものである。
流体封止部材31の形状は、中央に雄ネジ部30cと液密に螺合する雌ネジ部31bを有し、径方向に延ばされた球殻状とされ、この球殻の凹面には、外側球面部7bの球半径と同半径とされ表面が滑らかに仕上げられた封止面31aが形成されている(図4(a)参照)。
そして、図3(a)に示すように、流体封止部材31は、雄ネジ部30cに螺合され、外側球面部7bと摺動可能に密着された状態で、螺合位置が固定される。螺合位置の固定手段は、特に図示しないが、ボルト、ナット、ピン、キーなど適宜の固定手段を採用することができる。また、溶接や接着などによって固定してもよい。
流体封止部材31の材質は、封止面31aが高精度に製作された高剛性の金属、セラミックス、合成樹脂などを採用することができる。
【0028】
このような構成の移動ステージ100の動作について、揺動軸受3の動作を中心に説明する。
まず、揺動軸受3は、上記のような位置関係に、揺動軸受3、軸受本体9、および流体封止部材31が組み立てられた状態で、潤滑流体6を封入する。
潤滑流体6の材質としては、周知の軸受用の潤滑油、潤滑グリースから、必要な耐荷重に応じて、適宜粘度の材質を選定することができる。
【0029】
潤滑流体6は、孔部14bから適宜の注入装置によって軸受本体9内に圧送して封入する。孔部14bから圧送された潤滑流体6は、ボール12を弁室8hの内部側に押圧する。潤滑流体6の圧力が、圧縮コイルバネ13の抗力を上回ると、ボール12が弁室8hの内部側に移動し、潤滑流体6が弁室8hに流入する。
そして、流体供給管路8eを通って、流体供給溝8dに充填される。さらに、潤滑流体6の圧送を続けると、流体供給溝8dに充填された潤滑流体6は、凹球面部8bに沿って、内側球面部7aと球状ジョイント部30bとの間の隙間に侵入し、軸受本体9内に満たされる。このとき、流体供給溝8dの開口中心は、可動軸30の揺動中心軸上に配置されているため、潤滑流体6は、揺動中心軸を中心として、対称的にバランスよく充填されていく。このため、潤滑流体6を軸受本体9内に偏りなく充填することができる。
また、揺動中心軸は、揺動軸受3が主要な荷重負荷を受ける方向であるため、その方向に流体供給溝8dを備えることで油膜切れなどが起こりにくくなる。
【0030】
平面部7f、8aの間に充填される潤滑流体6は、シール部材11によって封止される。
球状ジョイント部30bと内側球面部7aとの間に充填された潤滑流体6は、開口部7c内に満たされ、流体封止部材31によって封止される。
このようにして、球状ジョイント部30bは、凹球面部8b、内側球面部7aに沿って、潤滑流体6によって凹球面部8b、内側球面部7aの球中心に球状ジョイント部30bの球中心を略一致させた状態で内包されてすべり支持される。
この結果、軸部30aは、開口部7cの範囲で凹球面部8b、内側球面部7aの球中心Oを中心として揺動可能となっている。
この軸部30aの揺動時は、流体封止部材31の封止面31aが、外側球面部7b上で、潤滑流体6を封止した状態で摺動するので、潤滑流体6は軸受本体9および開口部7c内に封止され、静圧が保持される。
【0031】
このような揺動軸受3は、パラレルリンク機構60の各リンク4の両端部において回転ジョイントを構成している。
したがって、6本の直動機構2を適宜量進退させることで、基台1に対して、保持台5の周方向の3箇所の位置を調整することが可能となり、各直動機構2の移動量の組合せにより、保持台5を平行移動、傾斜、または回動させることができる。
その際、揺動軸受3が、流体球面すべり軸受として構成されているため、可動軸30の球状ジョイント部30bが凹球面部8bおよび内側球面部7aに対して非接触保持されるので、磨耗が発生しにくく、経時的にも円滑かつ高精度を維持することができる。
また、揺動軸受3を簡素な構造とすることができるので、小型化に適する。例えば、本実施形態では、球状ジョイント部30bの球半径をSR6mmとすることで、基台1の外径Dがφ120mm、保持台5の外径Dがφ50mm、保持台5の高さhが97mmの移動ステージ100を構成することができた。
このような移動ステージ100は、揺動軸受3には、例えば、ボール軸受のように、ボール径やガイド溝の製作誤差などによる揺動のムラが発生しないので、サブミクロンオーダの移動精度を必要とするような移動ステージ、例えば、レンズ形状測定装置などに用いる移動ステージとして好適なものとなる。
【0032】
次に、本実施形態の流体封止部の第1〜第4変形例について説明する。
図4(b)、(c)、(d)、(e)は、それぞれ、本発明の第1の実施形態に係る揺動軸受の流体封止部の第1〜第4変形例の構成を示す模式的な部分断面図である。
【0033】
第1変形例では、図4(b)に示すように、上記第1の実施形態の流体封止部材31に代えて、構成が異なる流体封止部材310(流体封止部)を備える。
流体封止部材310の形状は、中央に雄ネジ部30cと液密に螺合する雌ネジ部31bを有し、径方向に延ばされた球殻状の弾性体で構成され、この球殻の内面側の外縁部が内側に突出して、外側球面部7b上に密着する摺接部22を形成している。このため、流体封止部材310の封止面310aと蓋部材7の外側球面部7bとは、摺接部22を除いては離間しており、摺接部22より内側にくさび状隙間21が形成された状態に位置決めされて、流体封止部材310が軸部30aに固定されている。
流体封止部材310の材質は、例えば、適宜の弾性を有する金属、合成樹脂、合成ゴムなどを採用することができる。
【0034】
本変形例によれば、流体封止部材310の弾性変形により、摺接部22が形成され、これにより潤滑流体6の封止を行うので、より確実な流体封止を行うことができる。
【0035】
第2変形例では、図4(c)に示すように、上記第1の実施形態の流体封止部材31に代えて、流体封止部として、流体封止部材311とシール320(弾性体)とからなる構成を備える。
流体封止部材311の形状は、中央に雄ネジ部30cと液密に螺合する雌ネジ部31bを有し、径方向に延ばされた球殻状の剛体で構成され、流体封止部材311の封止面311aは、外側球面部7bから一定距離だけ球径方向外側に離間されている。
そして、流体封止部材311の球殻の外縁部の球径方向内側に、周方向にわたって軸部30aの軸径方向断面において、軸径方向外側端部が、外側球面部7bに対して斜めに当接されるように円環板状のシール320が設けられている。
シール320は、例えば、金属、合成樹脂、合成ゴムなどの弾性体からなり、外側球面部7b上に押圧されることで、軸径方向外側端部が摺接部22を形成している。このため、流体封止部材311の封止面311a、およびシール320は、外側球面部7bに対して、摺接部22を除いては離間した状態に位置決めされて、流体封止部材311が軸部30aに固定されている。
【0036】
本変形例によれば、シール320の弾性変形により、摺接部22が形成され、これにより潤滑流体6の封止を行うので、第1変形例同様、確実な流体封止を行うことができる。その際、流体封止部材311は高剛性の部材で構成するので、開口部7cが大きい場合でも、潤滑流体6を安定して保持することができる。
【0037】
第3変形例では、図4(d)に示すように、上記第2変形例のシール320に代えて、構成が異なるシール321(弾性体)を備える。
シール321は、流体封止部材311の封止面311aの外縁部の内側において、封止面311aと外側球面部7bとの間において、流体封止部材311の周方向にわたって固定されたOリングからなる。そして、シール321の外周面が外側球面部7bに適宜圧で押圧されることで、摺接部22が形成される。
【0038】
本変形例によれば、シール321の弾性変形により、摺接部22が形成され、これにより潤滑流体6の封止を行うので、第2変形例同様、確実な流体封止を行うことができる。その際、流体封止部材311は高剛性の部材で構成するので、開口部7cが大きい場合でも、潤滑流体6を安定して保持することができる。
【0039】
第4変形例では、図4(e)に示すように、上記第2変形例のシール320に代えて、構成が異なるシール322(弾性体)を備える。
シール322は、流体封止部材311の外周端面311bにおいて、封止面311aと外側球面部7bとの球周面方向の隙間を封止するように外周端面311bの内側に封止面311aよりも突出させて設けた、合成ゴムなどで構成されたブレード状のシールからなる。そして、シール322の外側球面部7b側の端面が、外側球面部7bに適宜圧で押圧されることで、摺接部22が形成される。
【0040】
本変形例によれば、シール322の弾性変形により、摺接部22が形成され、これにより潤滑流体6の封止を行うので、第2変形例同様、確実な流体封止を行うことができる。その際、流体封止部材311は高剛性の部材で構成するので、開口部7cが大きい場合でも、潤滑流体6を安定して保持することができる。
また、シール322は、外周端面311bに設けるため、第1、第2変形例に比べて封止面311aと外側球面部7bとの隙間が狭い場合でも、容易に取り付けることができる。
【0041】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る揺動軸受について説明する。
図5(a)、(b)は、本発明の第2の実施形態に係る揺動軸受の構成を示す揺動中心軸を含む断面図である。
【0042】
本実施形態の揺動軸受3Aは、上記第1の実施形態の移動ステージ100、パラレルリンク機構60において、揺動軸受3に代えて用いることができるものである。
揺動軸受3Aの構成は、図5(a)、(b)に示すように、上記第1の実施形態の揺動軸受3の可動軸30に代えて、構成が異なる可動軸40を備えるものである。以下上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0043】
可動軸40は、上記第1の実施形態の可動軸30の軸部30a、流体封止部材31に代えて、それぞれ、軸部40a、流体封止部材41(流体封止部)を備え、圧縮コイルバネ42(付勢手段)を追加したものである。
【0044】
可動軸40の構成は、軸部30aから雄ネジ部30cを削除して球状ジョイント部30bから滑らかな円柱状の表面を有する円柱軸が延ばされた軸部40aに、球状ジョイント部30b側から、この円柱軸に摺動可能に嵌合した流体封止部材41と、圧縮コイルバネ42とをこの順に挿着し、圧縮コイルバネ42の流体封止部材41と反対側の端部を、軸部40aの軸径方向に突出して設けられた押え突起部40bによって係止されてなる。
【0045】
流体封止部材41は、流体封止部材31の雌ネジ部31bに代えて、軸部40aに摺動可能に外嵌するスライド孔部41bを備え、スライド孔部41bの圧縮コイルバネ42側に、圧縮コイルバネ42を係止する被押圧面41cを備えるものである。
流体封止部材41の外側球面部7b側には、封止面31aが設けられ、上記第1の実施形態の流体封止部材31と同様に、この封止面31aは、開口部7cと軸部40aとの間の隙間を、軸部40aの揺動時も含めて常時上方から覆い、球状ジョイント部30bと、凹球面部8bおよび内側球面部7aとの間に供給される潤滑流体6を適宜の静圧状態に封止することができるようになっている。
【0046】
このような構成によれば、流体封止部材41の封止面31aは、被押圧面41cを通して、圧縮コイルバネ42から弾性力を付勢される。そのため、封止面31aと外側球面部7bとは、良好に密着され、図5(b)に示すように、第1の実施形態と同様に、可動軸40を揺動支持することができる。
したがって、流体封止部材41と外側球面部7bとは、球径方向に特に位置決めすることなく、潤滑流体6を確実に封止することができる。
【0047】
なお、上記の説明における各実施形態、各変形例の構成要素は、技術的に可能であれば、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
例えば、上記第1の実施形態の流体封止部材31に係る変形例は、上記第2の実施形態の流体封止部材41にも同様に適用することができる。
【0048】
また、上記の説明では、リンク機構として、リンク4を固定長として、リンク4の端部を直動機構2によって移動するようにした構成の場合の例で説明したが、リンク4がアクチュエータを内蔵し、リンク4の軸長が伸縮するようにした構成を採用することもできる。
【0049】
また、上記の説明では、軸受本体9内の潤滑流体6は、孔部14bから注入して封止する場合の例で説明したが、潤滑流体6が流失して、軸受本体9内の静圧が低下した場合に、孔部14bから潤滑流体6を追加供給できるように、孔部14bに潤滑流体6の供給源に連通する潤滑流体6の供給チューブを接続した構成としてもよい。
このような構成によれば、軸受本体9内の潤滑流体6の静圧を経時的にも安定させることができる。
【0050】
また、上記の説明では、揺動軸受が、パラレルリンク機構に用いられる場合の例で説明したが、可動軸30、40などのような軸体を揺動支持する機構であれば、適宜の機構に採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る揺動軸受を用いた移動ステージの概略構成を示す模式的な正面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る揺動軸受を用いた移動ステージの概略構成を示す模式的な平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る揺動軸受の構成を示す揺動中心軸を含む断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る揺動軸受の流体封止部の構成を示す模式的な部分断面図、およびその第1〜第4変形例の構成を示す模式的な部分断面図である。である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る揺動軸受の構成を示す揺動中心軸を含む断面図である。
【符号の説明】
【0052】
3 揺動軸受
4 リンク(被支持部材)
5 保持台
6 潤滑流体(流体)
7 蓋部材
7a 内側球面部(凹状球面部)
7b 外側球面部
7c 開口部
8 受け台
8b 凹球面部(凹状球面部)
8d 流体供給溝
8e 流体供給管路
9 軸受本体
12 ボール(逆流防止弁)
13 圧縮コイルバネ
22 摺接部
30、40 可動軸
30a、40a 軸部
30b 球状ジョイント部
30c 雄ネジ部
31、41、310、311 流体封止部材(流体封止部)
31a、310a、311a 封止面
31b 雌ネジ部
40b 押え突起部
41b スライド孔部
42 圧縮コイルバネ(付勢手段)
60 パラレルリンク機構
100 移動ステージ
320、321、322 シール(弾性体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被支持部材に軸部が一体もしくは着脱可能に連結され、この軸部の連結部分と反対側の端部に球状ジョイント部が設けられた可動軸と、前記球状ジョイント部の球中心点回りに前記可動軸を揺動可能に支持する軸受本体との組合せからなる揺動軸受であって、
前記軸受本体は、
前記球状ジョイント部を内包して前記球中心点回りにすべり支持する凹状球面部と、
前記可動軸を揺動可能に挿通させるため、前記可動軸の軸部の外径より大きく、かつ前記球状ジョイント部の球面の外径よりも小さい内径を有する略円状の開口部と、
該開口部の近傍の外表面側に、前記凹状球面部と同心に形成された凸状球面部と、
前記凹状球面部の一部に開口し、前記凹状球面部と前記球状ジョイント部との間を潤滑するための流体を供給する流体供給溝とを備え、
前記可動軸は、
前記球状ジョイント部の近傍で、前記軸部に対して該軸部の径方向に突出して固定され、前記軸受本体の開口部を覆った状態で前記軸受本体の凸状球面部に対して摺動可能に密着された流体封止部を備えることを特徴とする揺動軸受。
【請求項2】
前記流体供給溝は、
前記流体の逆流防止弁を備えること特徴とする請求項1に記載の揺動軸受。
【請求項3】
前記流体供給溝の開口の中心は、
前記可動軸の揺動中心軸上に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の揺動軸受。
【請求項4】
前記流体封止部は、
少なくとも前記凸状球面部との摺接部が、前記凸状球面部に付勢された弾性体からなることと特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の揺動軸受。
【請求項5】
前記流体封止部は、
前記軸部に設けられた付勢手段により前記凸状球面部に付勢されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の揺動軸受。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の揺動軸受をリンク機構の回転ジョイントとして用いたことを特徴とするパラレルリンク機構。
【請求項7】
ワークを保持する保持台を有し、該保持台の周縁部をパラレルリンク機構によって、平行移動および回動可能に支持する移動ステージであって、
前記パラレルリンク機構は、請求項1〜5のいずれかに記載の揺動軸受を回転ジョイントとして用いてなることを特徴とする移動ステージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−19658(P2009−19658A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181015(P2007−181015)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】