説明

携帯用無線器の防水構造

【課題】防水構造の組立作業を容易にし、また、パッキング材の組付け時のバラツキによる不具合も生じず、防水性能も極めて高い携帯用無線器を提供する。
【解決手段】シャーシ14に回路部材とコネクター28とを取り付けて上面パネル12と接合する。その上面パネル12の下部ケース11の開口10との嵌合端とシャーシ14のコネクター28の全周にパッキング材33、34を取り付ける。そして、シャーシ14を嵌入端26から下部ケース11へ嵌入し、その嵌入されたシャーシ14へ下部ケース11の底面15の挿通孔18からOリング19を介してネジ35を挿通して前記シャーシ14のネジ孔29に螺合させて締めつける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主にハンディタイプの携帯用無線器の防水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防災関係や建設現場あるいはレジャーなどで軽便に使用されるハンディタイプの携帯用無線器(例えば、建設現場での重機オペレータと作業員との連絡用途や装置オペレータあるいは接客業でハンドフリーでの連絡用途などの特定小電力トランシーバー)には、過酷な条件で使用されることも多いので、優れた防水性能が求められる。
【0003】
そのため、ケースの嵌合部に気密性を与える一つの方法として、例えば、一次成形材料としてポリカーボネートなどの樹脂材料を用いて基体を成形し、その一次成形品の表面の少なくとも気密を要する相手材との防水ライン(接合部)に、二次成形材料として、軟質熱可塑性ポリエステルエラストマーなどの樹脂材料を用いた二重成形品を採用することが行われている。
【0004】
ところが、防水ラインにエラストマーを採用する方法は、ケース単品にシーリング材が固着されるのでパッキンが不要となり、組立工数の削減に寄与する効果がある反面、成形のバラツキによる防水ラインの寸法ズレやそれに伴う寸法ズレの調整が難しく、例えば、JIS保護等級7防浸形(ケースの最下部が水面下1mで30分間水中に没しても内部に水がはいらないもの)級の防水構造としては採用できない問題があった。
【0005】
このような問題を解決する方法として、パッキングの性能を向上させることが考えられる。従来のパッキングは、例えば、(特許文献1)に示す図5(a)のようなものがある。
【0006】
すなわち、このものでは、ケースを前面ケース1aと後面ケース1bとで構成し、前後面ケース1a、1bの嵌合面の全周に溝を形成して、その溝にゴム製のパッキング材2を嵌め込むというものである。その際、図5(b)のように、前記溝3の形状を変形させたり、パッキング材2にリブ4を設けたりすることにより、防水性能の向上を図るというものである。
【特許文献1】特開平10−70375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のように前後面ケースの嵌合面の全周に溝を形成してパッキング材を嵌め込むという方法では、パッキング材をケースの全周に渡って所定位置に装着し、組み立てて密閉操作を行わなければならないので、極めて煩雑で細かな組立作業をこなさなければならず、そのため、パッキング材の組付け時のバラツキが生じやすく、不具合を生じやすい問題がある。
【0008】
そこで、この発明の課題は、携帯用無線器の防水構造の組立作業を容易にし、また、パッキング材の組付け時のバラツキによる不具合も生じず、防水性能も極めて高くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明では、上部を開口した下部ケースと前記開口に嵌合される蓋部材からなるケース本体と、前記ケース本体に開口を介して嵌入されるシャーシとからなり、上記下部ケースは、底面にコネクターの突出口とネジの挿通孔とが設けられ、一方、上記シャーシは、回路部材を保持する取り付け部が設けられ、かつ、上記開口への嵌入端に、下部ケースの突出口に嵌入されるコネクターと下部ケースのネジの挿通孔に連通するネジ孔を形成した係合部が設けられるとともに、他端には、上記蓋部材と接合される係止部が設けられ、上記シャーシに回路部材とコネクターとを取り付けて蓋部材と接合し、その蓋部材の開口との嵌合端に止水用のパッキング材を取り付けるとともに、シャーシのコネクターの全周にも止水用のパッキング材を取り付けて、シャーシの嵌入端を下部ケースへ開口を介して嵌入し、前記嵌入されたシャーシの係合部へ下部ケースの底面の挿通孔からOリングを介してネジを挿通し、挿通したネジを前記シャーシの係合部のネジ孔に螺合させて締めつけることにより、止水を行うという構成を採用したのである。
【0010】
このような構成を採用することにより、下部ケースの底面から挿通したネジを締め込むと、シャーシが下部ケースの底面側へ進出し、そのシャーシの嵌入端の進出に伴って、蓋部材が下部ケースの開口と嵌合する。すると、両者(蓋部材の嵌合端と下部ケースの開口)の間の隙間を止水用のパッキング材が潰れて塞ぐ。また、同時に、シャーシの嵌入端が底面側へ進出すると、シャーシのコネクターが下部ケースの突出口から突出する。それに伴ってコネクターに取り付けた止水用のパッキング材がコネクターと突出口との間に圧着し、潰れて隙間を塞ぐ。さらに、締めつけたネジにより、ネジに挿通したOリングもネジに圧接されて潰れて両者の隙間を塞ぐ。このように底面のネジを締めつける(一方向に)だけで、パッキング材やOリングによる全てのシールと組立を完了させることができる。
【0011】
すなわち、ゴム部品などを使用した防水構造では、ある一定の潰し量でゴムを潰さなくてはならないが、潰し方向が同一(ここでは、ネジの締めつけによりパッキング材への圧接方向が同一なので潰し方向が同一である)であれば、各部品の寸法設定を調整することで、パッキング材やOリングの潰し量を定量的に管理することができる。そのため、比較的容易に防水できる。ちなみに、潰し方向が異なると、どこかで隙間が空いていたり、組み方によっては潰れていなかったりすることがあるため防水が難しい問題が生ずる。
【0012】
また、このとき、上記下部ケースの底面のネジの挿通孔を底面の中心軸に対して左右対称に形成し、その左右対称に形成した挿通孔に連通するように上記シャーシの係合部のネジ孔を設けた構成を採用したのである。
【0013】
このような構成を採用することにより、下部ケースの底面に左右対称に形成した挿通孔にそれぞれネジを挿通し、挿通したネジを例えば、同一のトルクと同一の締めつけ量で締めつけるようにすれば、パッキング材やOリングなどのシール部材に掛かる圧力がケースの左右で偏らないようにできるので、一定の潰し量でパッキン材を潰して高い防水効果を期待できる。
【0014】
また、その際、上記シャーシの回路部材と接続されるアンテナ及び操作用の部品を蓋部材に取り付けた構成を採用することができる。
【0015】
このような構成を採用することにより、蓋部材にシャーシを取り付けると、電気的な主要部品が装備されるので、この状態で性能確認ができる。そのため、下部ケースに収める前のこの段階で不良品の排除や手直しができるので、むだを生じず非常に効率的である。
【発明の効果】
【0016】
この発明は、上記のように構成したことにより、携帯用無線器の防水構造の組立作業を容易にすることができる。
【0017】
また、パッキング材やOリングなどのシーリング材の組付け時のバラツキによる不具合も生じないようにできるので、防水性能も極めて高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の最良の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すように、この形態の携帯用無線器は、上部を開口10した下部ケース11と、その開口10に嵌合される蓋部材(上面パネル)12からなるケース本体13と、前記ケース本体13に開口10を介して嵌入されるシャーシ14とで構成されている。
【0020】
上記下部ケース11は、直方体の四隅を丸く成形した樹脂製のもので、内部は中空となっている。また、前述したように上部は開口10となっており、その開口10の周には、嵌合用の溝を形成してある。
【0021】
さらに、下部ケース11は、底部に底面15を形成し、その底面15の周囲に電池を保持するためのスリーブ16を突出した形状となっている。
【0022】
この下部ケース11の底面15には、中央にコネクター用の突出口17が設けてある。前記突出口17は、この形態では、コネクター28の外形に合わせた楕円形をしており、例えば、この楕円の形をコネクター28より少し大きめに形成して、コネクター28の挿通を容易にするようにしておくこともできる(後でパッキング材34により止水するので)。
【0023】
また、前記突出口17の両サイドには、ネジ35の挿通孔18が設けられている。前記挿通孔18は、底面15の中央の突出口17を中心軸として左右対称に設けられており、その対称に設けられた各挿通孔18は、図1のような段差を形成することにより、後述のOリング19を締めつけた際に逃げないようにする工夫をしてある。
【0024】
上面パネル12は、樹脂製のもので、アンテナコネクター32とボリューム22が取り付けられている。
【0025】
すなわち、図2のように、上部の一方にアンテナコネクター32を取り付けるための取り付け孔21を設け、他方にスイッチ付ボリューム22を取り付けるための取り付け孔23を設けて、そのアンテナコネクター32とボリューム22の取り付け孔21、23の間に表示用のLCDパネルを取り付けるための取り付け孔24を設けた形状となっている。また、上面パネル12の下部ケース11の開口10との嵌合部は、図1に示すように、下部ケース11の開口10と嵌合するように長方形の四隅を丸く成形したもので、その嵌合端の周囲には嵌合用の溝25が形成されている。
【0026】
シャーシ14は、水平なパネルの両サイドにガイド用のパネルを立設して断面形状を略H形にしたアルミ製のもので、下部ケース11の中空内に嵌入できるサイズに形成したものである。
【0027】
また、前記シャーシ14の下部ケース11への嵌入端(図1では下端)26に係合パネル27を立設して、前記パネル27にコネクター28を取り付けるようになっている。前記コネクター28は、この形態では、電源用の端子を備えたもので、前記パネル27を貫通して後述するシャーシ14の基板30へ接続できるようになっている。
【0028】
また、その係合パネル27のコネクター28の両側には、ネジ孔29が形成されている。このネジ孔29は、前述の下部ケース11の底面の挿通孔18と連通するもので、コネクター28を中心軸として左右対称に設けられている。
【0029】
一方、シャーシ14の上端の両サイドには、アンテナコネクター32とボリューム22を係止するための例えばL形の治具などを取り付けられるように孔などが設けてある。
【0030】
また、シャーシ14の水平なパネルの部分は、回路基板30や個別部品を取り付ける取り付け部となっており(表面と裏面共)、それらの回路部材を保持するために、例えばタップ孔などが設けられている。
【0031】
この形態は、上記のように構成されており、この無線器では、例えば、まず、シャーシ14に回路基板30や個別部品を取り付ける。次に、コネクター28をシャーシ14の嵌入端26の係合パネル27に取り付けて回路基板30と接続する。
【0032】
さらに、基板30にアンテナコネクター32とボリューム22を取り付けて、それぞれ、図2のように、Oリング31を嵌めて上面パネル12を被せたのち、ナット20で締めて固定する。このようにナット20で締めて固定したので、Oリング31は上面パネル12で潰されて隙間を塞いで止水する。
【0033】
また、同時に、LCDパネルを取り付け孔24に取り付け、これも基板30に接続する。ちなみに、LCDパネルは、超音波溶着後にシーリング材を全周に塗布することにより、シーリングしている。
【0034】
このように、上面パネル12へのシャーシ14の組付けができると、回路のテストを行う。そして、合格したものだけ(合格しなかったものは手直しして)を図1のように、上面パネル12の溝(嵌合端の全周に渡って形成された)25に、パッキング材33を嵌める。この作業は溝25に完全にパッキング材を嵌めなくとも、後でネジ締めによって嵌めるので簡単にすればよい。同時に、シャーシ14のコネクター28にもパッキング材34を取り付ける。このパッキング材34は、図1のようなスカート状のもので、コネクター28の全周に渡って嵌める。このとき、コネクター28はシャーシ14から突出した小さなものなので、嵌めるのは容易にできる。
【0035】
次に、そのパッキング材33、34を嵌めた上面パネル12に組み付けられたシャーシ14を嵌入端26から開口10へ挿入して下部ケース11へ収容する。そして、上面パネル12が下部ケース11の開口10に被さると、下部ケース11の底面15の挿通孔18へ図1のようにOリング19を介して2本のネジ35を挿通し、挿通したネジ35をシャーシ14の係合パネル27のネジ孔29と螺合させて図3(a)のように締めつける。
【0036】
すると、図2のように、上面パネル12の嵌合端の溝25と下部ケース11の開口10とが嵌合し、両者の溝25に嵌められたパッキング材33が潰れて隙間を塞ぐ。同時に、図3(b)のようにコネクター28に取り付けたパッキング材34はコネクター28と突出口17との隙間に圧着し、潰れて隙間を塞ぐ。さらに、締めつけたネジ35により、ネジ35に挿通したOリング19も挿通孔18に圧接して潰れて両者の隙間を塞ぐ。その結果、図4のように防水構造の組立が終了する。このようにネジ35を締めつけるだけで良いので、簡単に誰でも組み立てることができる。
【0037】
このとき、2本のネジ35を例えば、同一のトルクと同一の締めつけ量で締めつけるようにすれば(トルクドライバー等を使用すれば簡単である)、パッキング材33やOリング19などのシール部材に掛かる圧力がケース11の左右で偏らないようにできるので、一定の潰し量にパッキング材33やOリング19を調整できる。そのため、高い防水効果を期待できる。
【0038】
また、このようなパッキング材33やOリング19などのゴム部品を使用した防水構造では、潰し方向が異なると、どこかで隙間が空いていたり、組み方によっては潰れていなかったりすることがあるが、ネジを締めることにより、全て同一方向(上下)に潰すことができるので、各部品の寸法設定を調整してパッキング材やOリングの潰し量を定量的に管理することができるため、比較的容易にかつ、安価に防水できる。したがって、JIS保護等級7防浸形級の防水構造として最適である。
【0039】
なお、この形態では、シャーシ14を固定するネジ35の頭を棒状に長くしてあるが、これは、この棒状部分を図4のように、電池40に食い込ませることで、前後方向のこじり荷重を受けるために使用したもので、通常のネジ35を使用しても防水効果に影響は与えない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態の分解斜視図
【図2】実施形態の要部の断面図
【図3】(a)、(b)実施形態の作用説明図
【図4】実施形態の断面図
【図5】(a)従来例の斜視図、(b)従来例の要部の断面図
【符号の説明】
【0041】
10 開口
11 下部ケース
12 上面パネル
14 シャーシ
15 底面
17 突出口
18 挿通孔
19 Oリング
26 嵌入端
27 係合パネル
28 コネクター
29 ネジ孔
30 回路基板
33 パッキング材
34 パッキング材
35 ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部を開口した下部ケースと前記開口に嵌合される蓋部材からなるケース本体と、前記ケース本体に開口を介して嵌入されるシャーシとからなり、
上記下部ケースは、底面にコネクターの突出口とネジの挿通孔とが設けられ、
一方、上記シャーシは、回路部材を保持する取り付け部が設けられ、かつ、上記開口への嵌入端に、下部ケースの突出口に嵌入されるコネクターと下部ケースのネジの挿通孔に連通するネジ孔を形成した係合部が設けられるとともに、他端には、上記蓋部材と接合される係止部が設けられ、
上記シャーシに回路部材とコネクターとを取り付けて蓋部材と接合し、その蓋部材の開口との嵌合端に止水用のパッキング材を取り付けるとともに、シャーシのコネクターの全周にも止水用のパッキング材を取り付けて、シャーシの嵌入端を下部ケースへ開口を介して嵌入し、前記嵌入されたシャーシの係合部へ下部ケースの底面の挿通孔からOリングを介してネジを挿通し、挿通したネジを前記シャーシの係合部のネジ孔に螺合させて締めつけることにより、止水を行う携帯用無線器の防水構造。
【請求項2】
上記下部ケースの底面のネジの挿通孔を底面の中心軸に対して左右対称に形成し、その左右対称に形成した挿通孔に連通するように上記シャーシの係合部のネジ孔を設けた請求項1に記載の携帯用無線器の防水構造。
【請求項3】
上記シャーシの回路部材と接続されるアンテナ及び操作用の部品を蓋部材に取り付けた請求項1または2に記載の携帯用無線器の防水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−210787(P2006−210787A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23174(P2005−23174)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】