説明

携帯端末を使用した災害情報収集システム

【課題】 広範囲に渡って網羅的に災害情報を収集すること。
【解決手段】 GPS衛星からの電波を受信し現在位置を取得する位置検出手段と端末本体の振動を検知する振動検出手段とを備えた携帯端末と、複数の前記携帯端末の前記振動検出手段が検出した振動情報と前記位置検出手段が検出した位置検出情報を受信し、地図上の予め設定した地域単位で受信した振動情報を集計し、各地域単位の震度情報に変換して出力する災害情報収集装置とを備える。
また、前記携帯端末のそれぞれに、前記振動検出手段が検出した振動情報と前記位置検出手段が検出した位置検出情報を自動発信する手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所的に異なる災害情報を携帯端末を利用して広範囲に渡って取得し集計する災害情報収集システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機の普及に伴い携帯電話機からの緊急通報が多くなってきている。そのため、通報者の位置を把握するのに時間がかかってしまい、通報後にパトロールカーなどが駆けつけるまでの時間が長くかかるようになってしまった。
最近のこうした状況を解消するために携帯電話機にGPSの搭載が義務付けられ、緊急通報時にはGPSで自動測位し、警察や消防に位置情報を通知することでレスポンスタイムを短縮できるようになった。
【0003】
図10は、このGPS機能付き携帯電話機(以下、携帯端末)を利用した位置情報の自動送信概要を示す構成図である。
携帯端末から警察署や消防署に通報する場合(ステップ1001)、基地局と通信事業者と電話回線を介して警察や消防と無線回線で接続されて通報される(ステップ1002)。同時に、携帯端末はGPS衛星より現在位置を測位し(ステップ1003)、その現在位置の情報を通信事業所に送信する(ステップ1004)。この現在位置の情報は、通信事業所で暗号化されてIP網を介し警察や消防に、通報の現在位置の回答として送信される(ステップ1005)。
【0004】
なお、通報者が非通知特番を付けて通報した場合、位置情報は自動送信されない。この時、次のステップを踏むことで警察や消防などの判断により位置情報を強制取得できる。
ステップ1002で通報者の携帯端末と警察や消防などと無線回線がつながっている時に、警察や消防などの受信側で“位置情報取得”のボタンを押すと(ステップ1011)、警察や消防などの機関のシステムは通報者の現在位置の問い合わせメッセージを通信事業所のシステムに送信する(ステップ1012)。
通信事業所のシステムは、通報者の現在位置の問い合わせメッセージを暗号化して通報者の携帯端末に送信する。これに対して、携帯端末はGPS衛星より現在位置を測位し、その現在位置の情報を通信事業所を介して問い合わせ元の警察や消防などの機関に返信する。以上により、通報者が非通知特番を付けて通報した場合であっても、通報者の位置情報が警察や消防などの機関に伝達される。
なお、本発明に関連する公知技術文献としては下記の特許文献1に開示された「災害前兆情報処理システム」がある。
【特許文献1】特開2002−165034
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、大規模災害が発生した場合、従来においては定点設置型の観測機器(例えば地震計)によって災害情報を収集するため、観測地点の近辺の震度情報のみが報告され、局所的に災害被害が甚大なエリアがあったとしても、そこに観測機器が設置されていなければ災害情報は報告されない。従って、定点観測点以外の広範囲の災害情報(例えば震度情報)を網羅したきめ細かな災害情報を収集することができないという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、広範囲に渡って網羅的に災害情報を収集し解析することが出来る災害情報収集システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の災害情報収集システムは、GPS衛星からの電波を受信し現在位置を取得する位置検出手段と端末本体の振動を検知する振動検出手段とを備えた携帯端末と、複数の前記携帯端末の前記振動検出手段が検出した振動情報と前記位置検出手段が検出した位置検出情報を受信し、地図上の予め設定した地域単位で受信した振動情報を集計し、各地域単位の震度情報に変換して出力する災害情報収集装置とから構成したものである。
また、前記携帯端末のそれぞれに、前記振動検出手段が検出した振動情報と前記位置検出手段が検出した位置検出情報を自動発信する手段を設けたものである。
また、前記振動検出手段を加速度センサで構成し、前記携帯端末内に前記加速度センサで検出した加速度に基づき携帯端の落下距離を推定演算し、その演算結果により建造物の倒壊の可能性を判定する手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の災害情報収集システムによれば、次のような効果がある。
(1)普及率の高い携帯端末を利用することで、活断層などの影響により局所的に異なる災害情報を、広範囲に渡って網羅的に収集することができる。
(2)災害情報を携帯端末から自動発信することにより、定点観測点以外のより多くの地点のきめ細かな災害情報を網羅的に収集することができる。
(3)携帯端末の振動検出手段(例えば加速度センサ)の出力を利用し、落下距離を計測することにより、建造物の倒壊の可能性を判定することができる。
(4)広範囲に渡って収集した災害情報から、定点観測点以外の災害被害が甚大なエリアを容易に把握することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を適用した災害情報収集システムの一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態の一例を示すシステム構成図である。
この実施形態の災害情報収集システムは、災害情報データベース1を備えたホストシステム(災害情報収集装置)2と、このホストシステム2へ地域ごとの災害情報を送信する複数の携帯端末3a、3b、3nとから構成されている。
この携帯端末3a、3b、3nは無線回線によって基地局4と接続されおり、基地局4は有線の公衆回線網によるネットワーク5と接続され、このネットワーク5にホストシステム2が接続されている。
従って、携帯電話3a、3b、3nとホストシステム2とは、基地局4に到る無線回線およびネットワーク5を通じてホストシステム2に接続されていることになる。
ホストシステム2には災害情報データベース1の他に、全国の建物や道路地図を示す地図データが登録されている地図データベース6と、緯度・経度の位置情報と対応する住所・道路・建物の名称などを格納する位置情報データベース7が設けられている。
【0010】
ホストシステム2の災害情報データベース1には、携帯端末3a、3b、3nから送られる災害情報データを登録する。
また、ホストシステム2は、携帯端末3a、3b、3nとの送受信を行う送受信部8、災害情報データベース1への登録処理を行うデータベース更新部9、災害情報データベース1や地図データベース6や位置情報データベース7を検索し、災害情報の照会処理を行うデータ処理部10を備えている。
【0011】
災害情報データベース1に格納される災害情報は、図2に示すように、発信者ID21、年月日22、登録時刻23、緯度・経度24、都道府県25、地名26、振動27、落下距離28の各データから構成されている。このうち、都道府県25、地名26は、携帯端末3a、3b、3nから受信した緯度・経度24から位置情報データベース7を検索し、特定する。
ここで例えば、災害情報を新たに登録した場合、図2に示すように、発信者ID21として「携帯ID」、年月日22として「2012年4月2日」、登録時刻23として「12時36分」、緯度,経度24として「N 35°37′、E 139°45′」、都道府県25として「東京」、地名26として「東京都品川区東品川5」、振動27として「40cm/秒」、落下距離28として「1m/秒」が登録される。
同一発信者IDに関する災害データが短時間に複数回発信された場合であっても、登録時間別に登録される。これは、時間の経過とともに変化する災害情報を随時登録するためである。
【0012】
図3は、携帯端末3a、3b、3nの構成を示した図である。
携帯端末3a、3b、3nは、GPS衛星からの電波を受信して自装置の現在位置を検出するGPS部31、携帯端末の移動方向、移動距離を測る加速度センサ部32、基地局4を介してホストシステム2との送受信を行う送受信部33、災害情報や地図データを可視化した地図を表示する表示部34、入力情報を処理する入力部35、データ処理を行うデータ処理部36から構成されている。
ここで、データ処理部36は、検知した振動、落下距離の値が災害判定の閾値を超えるかを判定する振動・落下測定処理部361、災害情報をホストシステム2に送信するフレーム構成処理を行う送信情報処理部362、災害情報照会を行った際にデータを表示する表示処理部363を備えている。
【0013】
図4は、携帯端末3a、3b、3nがホストシステム2に対して送信する災害情報データのフレーム構成図である。
災害情報データベース1に格納する災害情報データを発信する場合は、図4に示すように、発信者ID(携帯ID)41、時刻42、緯度,経度43、振動44、落下距離45とからなるフレームを作成して送信する。
ここで、携帯端末3a、3b、3nでは図2における都道府県25、地名26の判定は行わず、GPS衛星からの発信電波により検出した緯度・経度43を送信する。送信された緯度・経度43を元にホストシステム2が位置DB7と地図DB6を利用して都道府県25、地名26を特定する。
【0014】
以下、以上のように構成された災害情報収集システムの動作を説明する。
図5は、ホストシステム2のデータ配信処理の概要を示すフローチャートである。
ホストシステム2は、まず、携帯端末3a、3b、3nから受信した情報が災害情報データかどうか判定する(ステップ501)。災害情報データでなかった場合、配信依頼要求であるかどうかを判定し(ステップ502)、そうでなければ受信待ち状態で待機する。
災害情報データを受信した場合、図4に示した災害情報データの中の緯度・経度43より位置情報データベース7を検索し、都道府県25、地名26を取得する(ステップ504)。
そして、受信した災害情報データに、取得した都道府県25、地名26を付与する(ステップ505)。
配信依頼要求を受信した場合、受信データから要求地域を取得する(ステップ506)。
次に、要求地域より災害情報データベース1を検索し、災害情報を集計する(ステップ507)。そして、集計した災害情報と要求地域より地図データベース6を検索し、取得した地図データと、ステップ507で集計した災害情報から予め設定した大きさの地域単位における震度の平均をとり、その値と組み合わせる(ステップ508)。そして、取得した地図データと災害情報を要求元の携帯端末3a、3b、3nに送信する(ステップ509)。
【0015】
図6は携帯端末3(3a、3b、3n)における処理の概要を示すフローチャートである。
携帯端末3のデータ処理部36は、災害情報通知の設定がONになっているか確認する(ステップ601)。設定されていれば加速度センサ部32が振動情報を検知する。この時、災害判定の閾値以上の揺れ(例えば毎秒10cm以上の揺れ)かどうかを判定する(ステップ602)。
災害判定の閾値以上の揺れ(振動)を検知した場合、その値を取得し、図4のデータフレームの振動44に入力する(ステップ603)。また、携帯端末本体が災害判定の閾値以上の距離(例えば3m)の落下を検知しているかどうかを判定する(ステップ604)。
災害判定の閾値以上の距離を越える落下を検知した場合、その値を取得し、図4のデータフレームの落下距離45に入力する(ステップ608)。
その次に、携帯端末から発信者IDと、携帯端末内部の時計から現在時刻を取得し、図4のデータフレームの発信者ID41と時刻42に入力する(ステップ605)。
次に、GPS部31が検出している現在位置を取得し、図4のデータフレームの緯度・経度43に入力する(ステップ606)。最後に、以上の災害状況を基地局4に送信する(ステップ607)。
このときGPS部31から緯度・経度を取得できない場合も災害状況は送信する。その場合は、ホストシステム2で該当する基地局の緯度・経度情報を以って緯度・経度を補完する。
【0016】
図7は携帯端末3で災害情報を照会するときの検索画面の例である。
ここでは、入力スペース71に、照会したい周辺地名または建造物名を入力し、さらに、検索ボタン72を押下することで図8の周辺情報を得ることができる。
また、リンク73からは携帯端末のGPS機能を利用して自装置の現在位置を検出し、周辺の災害情報を素早く検索できる。
【0017】
図8は、図7の検索の結果で得られる広域地図で、星マーク81が検索地点である。
また、ピンマーク82ではその場所の震度が数値で表示される。図の例では「震度6」、「震度7」を示している。なお、縮尺83の表示領域を変更することで詳細な地図で結果を見ることができる。
【0018】
図9は、図7の検索の結果得られる詳細地図で、星マーク91が検索地点である。また、エクスプラメーションマーク92は建造物倒壊の可能性のある地点を示している。
【0019】
以上のように、本実施の形態の災害情報収集システムによれば次のような効果がある。
(1)普及率の高い携帯端末を利用することで、活断層などの影響により局所的に異なる災害情報を、広範囲に渡って網羅的に収集することができる。
(2)災害判定の閾値以上の災害情報を携帯端末から自動発信することにより、携帯利用者が能動的な操作が不要となり、より多くの災害情報を収集することができる。
(3)携帯端末の加速度センサを利用し、落下距離を計測し、急激な落下距離を検知した場合、建造物倒壊が発生した可能性があると判断することができる。
(4)広範囲に渡って収集した災害情報から、統計的に災害被害が甚大である予測されるエリアを推測することができる。これにより、救助活動を優先すべき地域を選定する参考情報となる。
【0020】
なお、上記実施形態にあっては加速度センサを用いたが、同等機能の振動検出手段を用いることができる。
また、加速度センサが検出した加速度から震度を推定演算する方法については、下記の非特許文献1の日本気象庁のホームページに開示されている方法を用いることができる。
なお、日本気象庁の下記のホームページに開示されている用語のうち、「水平動2成分」は本願明細書で使用している「振動」に相当し、「上下動1成分」は「落下距離」に相当する。
【0021】
【非特許文献1】http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/kyoshin/kaisetsu/calc_sindo.htm
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態例を示すシステム構成図である。
【図2】災害情報データベースに格納されているデータの構成図である。
【図3】携帯端末の内部構成図である。
【図4】携帯端末からホストシステムに送信する災害情報フレームの構成図である。
【図5】ホストシステムのデータ処理の概要を示すフローチャートである。
【図6】携帯端末の処理を示すフローチャートである。
【図7】携帯端末の画面上で災害情報照会画面の説明図である。
【図8】携帯端末の画面上での広範囲な被災情報が表示される具体例の説明図である。
【図9】携帯端末の画面上での詳細な被災情報が表示される具体例の説明図である。
【図10】従来のGPS携帯を利用した位置情報の自動送信システムの概要図である。
【符号の説明】
【0023】
1…災害情報データベース、2…ホストシステム、3a,3b,3n…携帯端末、4…基地局、5…ネットワーク、6…地図データベース、7…位置データベース、8…送受信部、9…DB更新部、10…データ処理部、21…発信者ID、22…年月日、22…登録時刻、24…緯度・経度、25…都道府県、26…地名、27…振動、27…落下距離、31…GPS部、32…加速度センサ部、33…送受部、34…表示部、35…入力部、36…データ処理部、361…振動・落下測定処理部、362…送信情報処理部、363…表示処理部、37…データ格納部、41…発信者ID、42…時刻、
43…緯度・経度、44…振動、45…落下距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS衛星からの電波を受信し現在位置を取得する位置検出手段と端末本体の振動を検知する振動検出手段とを備えた携帯端末と、複数の前記携帯端末の前記振動検出手段が検出した振動情報と前記位置検出手段が検出した位置検出情報を受信し、地図上の予め設定した地域単位で受信した振動情報を集計し、各地域単位の震度情報に変換して出力する災害情報収集装置とを備えることを特徴とする災害情報収集システム。
【請求項2】
前記携帯端末のそれぞれに、前記振動検出手段が検出した振動情報と前記位置検出手段が検出した位置検出情報を自動発信する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の災害情報収集システム。
【請求項3】
前記振動検出手段を加速度センサで構成し、前記携帯端末内に前記加速度センサで検出した加速度に基づき携帯端の落下距離を推定演算し、その演算結果により建造物の倒壊の可能性を判定する手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の災害情報収集システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−86133(P2010−86133A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252258(P2008−252258)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】