説明

摩擦圧接方法

【課題】摩擦圧接時に接合部の外面にバリが発生せず、簡単な圧力制御によって、接合部以外の部位と同等以上の高い接合強度が得られる、摩擦圧接方法を提供する。
【解決手段】少なくとも中空パイプ状の圧接部10を有する接合部材と、少なくとも中実棒状の圧接部20を有する接合部材との圧接部同士を突き合わせた状態で、互いに相対回転させながら押圧し、その摩擦熱により圧接部が軟化塑性変形ないし液相化することによって圧接させる摩擦圧接方法であって、パイプ状圧接部10と棒状圧接部20とは、該パイプ状圧接部10及び棒状圧接部20の外径より僅かに大きい内径で両端が開口する収容空間31を有する治具30の、収容空間31内において突き合わされて相対的に回転されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの接合部材を突き合わせた状態で両者を相対回転させて摩擦圧接する方法であって、特に、一方の接合部材の圧接部が中空パイプ状であり、他方の接合部材の圧接部が中実棒状である摩擦圧接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の摩擦圧接方法として特許文献1がある。特許文献1は、高溶融温度金属からなる中空円筒形のパイプ部材と、低溶融温度金属からなる中実棒状の軸部材とを、パイプ部材の空洞内に補助工具を挿入した状態で摩擦圧接している。補助工具は、軸部材及びパイプ部材とは容易に圧接しない材料からなる。棒部材の端面には、これと同心位置に突出形成された断面円形の突出部を有する。パイプ部材の空洞内に補助工具を挿入した状態において、軸部材の突出部をパイプ部材の空洞内に収容して、軸部材の突出部周りの端面とパイプ部材の端面とを突き合せたとき、補助工具の端面と突出部の先端面とは当接せず、両面の間には所定寸法の寄り代が形成されている。そして、パイプ部材を回転不能に固定した状態で、軸部材を突き合せ方向に圧力P1で押し付けながら軸心回りに回転させる。すると、回転によって生じる摩擦熱によって低溶融温度金属からなる軸部材が軟化することで、補助工具の端面と突出部の先端面との間の寄り代が徐々に小さくなっていく。このとき、高溶融温度金属から成るパイプ部材は変形せず、パイプ部材の外周面外方側へ軸部材が軟化変形したバリが発生している。さらにそのまま軸部材を押し付けていき、寄り代が所定寸法以下となったところで、圧力P1より大きい圧力P2でさらに軸部材を突き合せ方向に押し付ける。そして、寄り代がなくなる、すなわち補助工具の端面と突出部の先端面とが当接すると、補助工具の端面と突出部の先端面との間に生じる摩擦熱によって突出部が軟化する。このとき、補助工具は軟化していない。突出部が十分に軟化したところで、軸部材の回転を停止し、圧力P2よりさらに大きな圧力P3で軸部材を突き合わせ方向へ押し付ける。すると、軟化した突出部が軟化していない補助工具で堰き止められる(密圧状態となる)ことで、軟化していないパイプ部材の内周面に圧接される。最後に、補助工具をパイプ部材の空洞内から抜き取り、2つの金属製接合部材を比較的強固に接合している。
【0003】
【特許文献1】特開2002−239753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の摩擦圧接方法では、軸部材がパイプ部材の外周面外側にもはみ出し、いわゆるバリが発生してしまう。これでは、バリの除去工程が必要となり生産性が悪い。また、軸部材とパイプ部材とを突き合せたときに補助工具と突出部との間に寄り代を確保したうえで、軸部材の押圧力を寄り代の寸法を基準として三段階で制御している。これでは、軸部材の押圧力を三段階で変更するための圧力制御が複雑となる。さらに、パイプ部材の空洞内に挿入する補助工具によって軟化した突出部をパイプ部材の内周面にも圧接することで、軸部材とパイプ部材とを比較的強固に接合できているが、パイプ部材は軸部材より高溶融温度の金属製からなることで、摩擦圧接時にパイプ部材は軟化することがない。したがって、突出部とパイプ部材との圧接面は、軸方向に対して略平行な平坦面となっている。これでは、軸部材とパイプ部材とを比較的強固に圧接できるとしても、当該接合部(両接合部材の圧接部同士が接合された部位)の引張り強度はその他の部位と比べると小さく、最終製品に軸方向の引っ張り応力が作用した場合は接合部において破断し易く、最終製品全体の引張り強度には課題が残る場合がある。
【0005】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、その目的とするところは、摩擦圧接時に接合部の外面にバリが発生せず、簡単な圧力制御によって、接合部以外の部位と同等以上の高い接合強度が得られる、摩擦圧接方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも中空パイプ状の圧接部を有する接合部材と、少なくとも中実棒状の圧接部を有する接合部材との圧接部同士を突き合わせた状態で、互いに相対回転させながら押圧し、その摩擦熱により圧接部が軟化塑性変形ないし液相化することによって圧接させる摩擦圧接方法であって、前記パイプ状圧接部と棒状圧接部とは、該パイプ状圧接部及び棒状圧接部の外径より僅かに大きい内径で両端が開口する収容空間を有する治具の、前記収容空間内において突き合わされて相対的に回転されることを特徴とする。
【0007】
ここで、接合部材の圧接部とは、摩擦熱により軟化ないし液相化して、相手部材と接合させる部位である。そのうえで、少なくとも中空パイプ状の圧接部を有する金属製の接合部材とは、その全部が中空パイプ状すなわちパイプ部材である場合と、その一部のみが中空パイプ状である場合とを含む。同様に、少なくとも中実棒状の圧接部を有する金属製の接合部材とは、その全部が中実棒状すなわち棒部材である場合と、その一部のみが中実棒状である場合とを含む。また、治具と接合部材との間では直接摩擦熱が生じないので、治具が軟化することはない。したがって、両接合部材の圧接部が摩擦熱により軟化ないし液相化しても、その外周面は軟化していない治具によって囲まれているので、軟化ないし液相化した圧接部は径方向外方へ大きく塑性変形ないし流動することがないことから、バリの発生が抑制される。
【0008】
このとき、前記棒状圧接部の端面に、前記パイプ状圧接部の空洞内に挿通可能な突出部を一体的に突出形成すると共に、前記2つの接合部材の軟化温度ないし融点が互いに同等であることが好ましい。そして、前記パイプ状圧接部の空洞内に、前記2つの接合部材より軟化温度が高い材料からなる補助工具を挿入した状態で、前記パイプ部材の空洞内に前記突出部を挿入しながら前記パイプ状圧接部の端面と前記棒状圧接部の端面とを相対回転させながら突き合わせていくことで、前記パイプ状圧接部の端部が、前記棒状圧接部の端面との摩擦熱によって軟化ないし液相化して径方向内方へ塑性変形ないし流動すると共に、前記突出部の先端部が、前記補助工具の端面との摩擦熱によって軟化ないし液相化して径方向外方へ塑性変形ないし流動するようにすることが好ましい。
【0009】
軟化温度ないし融点が同等の2つの接合部材が摩擦熱により軟化しても、補助工具は2つの接合部材より軟化温度が高い材料からなることで軟化することはない。この状態において2つの接合部材同士の間に押圧力を負荷させると、軟化ないし液相化した各接合部は、治具及び補助工具によって囲まれていることで逃げ場が無く、パイプ状圧接部と突出部とが互いに対向方向へ塑性変形ないし流動するしかない。すなわち、パイプ状圧接部の端部は径方向内方の突出部側へ塑性変形ないし流動すると共に、突出部の先端部は径方向外方のパイプ状圧接部側へ塑性変形ないし流動する。このとき、パイプ状圧接部の端部は、突出部の先端部よりも棒状圧接部の端面に近い側、すなわち突出部の基端部に位置していることで、パイプ状圧接部の端部が突出部の先端部と棒状圧接部の端面との間においてフックが係合したような機械的嵌合状態となり、アンカー効果が得られる。これにより、接合部における引張り強度が大きく向上し、その他の部位における引張り強度と同等以上となる。したがって、最終製品に軸方向の引っ張り応力が作用した場合でも、接合部において破断することがないことから最終製品全体の引張り強度も向上し、破損し難く品質の高い最終製品を得ることができる。
【0010】
また、前記パイプ状圧接部の端面と前記棒状圧接部の端面とを突き合わせたとき、前記突出部の先端面と前記補助工具の端面とが当接しており、前記パイプ状圧接部と前記棒状圧接部とを相対回転させながら第1の押圧力よって突き合わせていき、前記パイプ状圧接部の端部と前記棒状圧接部の端部、及び前記突出部の先端部と前記補助工具の端面と両者が互いの摩擦熱によって軟化ないし液相化した後、前記パイプ状圧接部と前記棒状圧接部との間に、前記第1の押圧力よりも大きな第2の押圧力を作用させて両者を塑性変形ないし流動させることが好ましい。これによれば、押圧力制御が2段階で済むという利点が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の摩擦圧接方法によれば、摩擦圧接時に接合部の外面にバリが殆ど発生せず、簡単な圧力制御によって、接合部以外の部位と同等以上の高い接合強度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明するが、これに限られず本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。図1は、摩擦圧接方法の工程図である。詳しくは、図1(A)はパイプ部材10、棒部材20、治具30、及び補助工具40などの基本装着状態を示し、図1(B)は棒部材20を回転させながら押圧力P1でパイプ部材10へ突き合わせた状態を示し、図1(C)はパイプ部材10及び突出部22を十分に軟化させてから、押圧力P1よりも大きな押圧力P2でパイプ部材10と棒部材20とを押し付けた状態を示し、図1(D)はパイプ部材10と棒部材20とを摩擦圧接した後の接合部100の状態を示す。図2は、図1(C)に示す状態において、軟化したパイプ部材10の一端部11a及び突出部22の先端部23aの塑性変形状態を示す要部拡大図である。図3は、治具30の斜視図である。
【0013】
本実施の形態では、少なくとも中空パイプ状の圧接部を有する接合部材として、全長に亘って中空円筒状のパイプ部材10を使用し、少なくとも中実棒状の圧接部を有する接合部材として、全長に亘って中実円柱状の棒部材20を使用した場合について説明する。図1を参照しながら、パイプ部材10は所定長さを有し、その両端は開口している。パイプ部材10の内部空間たる空洞12の径方向断面形状(内面形状)も円形である。棒部材20も所定長さを有し、その両端に亘って中実となっている。パイプ部材10の外径と棒部材20の外径とは同一となっており、パイプ部材10の一端面11と棒部材20の端面21とを突き合わせたとき、パイプ部材10の外周面と棒部材20の外周面とは面一となる。詳細は後述するが、パイプ部材10の一端面11側端部11a及び棒部材20の端面21側端部21aが、摩擦圧接により接合される接合部となる。棒部材20の端面21には、該端面21の軸方向外方へ所定量突出する突出部22が一体形成されている。突出部22の径方向断面形状は円形であり、棒部材20と同心状に形成されている。突出部22の外径はパイプ部材10の内径(空洞12の直径)よりも1回り小さく、先端面23に向けて徐々に縮径する先窄まり状に形成されている。突出部22は、棒部材20の鋳造や鍛造時に一体形成したり、棒部材20を製造してから切削加工により形成したりできる。
【0014】
パイプ部材10及び棒部材20の素材としては、摩擦熱により軟化ないし液相化し、押圧力によって塑性変形ないし流動可能な材料であれば特に限定されず、金属材料、セラミックス、樹脂などを使用できる。代表的にはアルミニウム、アルミニウム合金、及びステンレス鋼等である。その他、金属材料としては、カドミウム、コバルト、マグネシウム、モリブデン、ニッケル、鉛、ニオブ、コバルト、チタン、タングステン、バナジウム、ジルコニウム、銀、及び銅等の合金材料や、炭素鋼、合金鋼、快削鋼、マレージング鋼等の鉄鋼材料、並びにはんだやろうといったろう接合金などが挙げられる。なお、チタンなどの活性金属の場合は、不活性ガス雰囲気中で摩擦圧接することが好ましい。セラミックスとしては、窒化ケイ素セラミックス、炭化ケイ素セラミックス、アルミナセラミックス、ジルコニアセラミックスなどのファインセラミックスのほか、陶磁器、ガラス、セメント、石膏、ほうろうなどの漆業製品を挙げることができる。合成樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましく、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)などを挙げることができる。
【0015】
パイプ部材10と棒部材20の圧接組み合わせとしては、同種金属の組み合わせ、異種金属の組み合わせ、金属とセラミックスの組み合わせ、金属と樹脂との組み合わせ、同種セラミックスの組み合わせ、異種セラミックスの組み合わせ、セラミックスと樹脂との組み合わせ、同種樹脂の組み合わせ、及び異種樹脂の組み合わせの何れかの組み合わせでも可能である。このとき、棒部材20をパイプ部材10の軟化温度ないし融点と同等以上の素材としておく。好ましくは、パイプ部材10と棒部材20との軟化温度ないし融点を同等としておく。パイプ部材10と棒部材20との軟化温度ないし融点が同等であれば、摩擦圧接時にほぼ同時に軟化ないし液相化するので、加工時間を短縮しながら高い接合力が得られ易い。その意味においては、パイプ部材10と棒部材20とは同種金属の組み合わせ、同種セラミックスの組み合わせ、又は同種樹脂の組み合わせが好ましい。さらには、例えばアルミニウム材料とアルミニウム合金材料との接合のように、同種又は同系統の金属の組み合わせが最も好ましい。また、パイプ部材10と棒部材20のいずれか一方又は双方がろう接合金の場合は、液相化したろう接合金液膜が接合界面に浸透して接合力を高めると共に、気密性、水密性をより強固なものとする効果がある。
【0016】
治具30は、摩擦圧接時に接合部100の外面においてバリの発生を抑制する部材であり、図3に示すように、上下両端が開口する円柱形の収容空間31を有するブロック状の部材である。治具30は、その中心において2つのブロック体30a・30bに分割可能であり、当該2つのブロック体30a・30bがボルト32によって締結されている。換言すれば、治具30は、一面に半円柱径の凹部が凹み形成された2つのブロック体30a・30bからなり、両ブロック体30a・30bの凹部同士を対向状に位置合わせした状態で突き合わせてボルト留めすることで、その中央部に両凹部からなる収容空間31が形成されている。
【0017】
収容空間31の内径はパイプ部材10及び棒部材20の外径より僅かに大きく、パイプ部材10及び棒部材20を収容空間31内に収納(挿入)したとき、パイプ部材10及び棒部材20が回転可能なように密接しておらず、且つパイプ部材10及び棒部材20と収容空間31との間にバリが発生するようなクリアランスも無い。つまり、パイプ部材10及び棒部材20と収容空間31とは近接している。このように、治具30はパイプ部材10や棒部材20と密接せず、パイプ部材10や棒部材20との間で大きな摩擦熱が発生することがないので、治具30にはパイプ部材10や棒部材20と同等以上の軟化温度を有する金属材料やセラミックスを使用すればよい。但し、確実にバリの発生を抑制できるよう、治具30にはパイプ部材10や棒部材20よりも高い軟化温度を有する材料を使用することが好ましい。なお、収容空間31の上部には、上面に向けて徐々に拡開するテーパー面33が全周に亘って形成されている。
【0018】
再び図1に戻って、補助工具40は、円柱形の挿入部41と、該挿入部41の下端に一体連続する基部42とからなる。挿入部41の外径は、基本的にはパイプ部材10の空洞12の直径(パイプ部材10の内径)よりも1回り小さい。パイプ部材10や棒部材20が摩擦熱により液相化する材料からなるときは、圧接時にある程度液密状態となるように挿入部41の外径をパイプ部材10の内径と略同等すなわち僅かに小さい程度としておくことが好ましい。また、挿入部41の長さは、パイプ部材10の長さから棒部材20の突出部22の突出量を引いた長さ以上となっている。好ましくは、パイプ部材10の長さよりも長寸とする。基部42の形状は特に限定されず、その外径若しくは平面方向の最大寸法は、パイプ部材10の外径よりも大きい。補助工具40は、パイプ部材10及び棒部材20より軟化温度が高くて両部材10・20と容易に圧接せず、かつ摩擦圧接時のトルクに耐え得る強度を有する材料であれば、特に限定されない。例えばマグネシウム合金や硬質セラミックスなどを使用できる。
【0019】
次に、摩擦圧接手順について説明する。先ず、図1(A)に示すように、パイプ部材10を、クランプ装置50によって回転不能かつ上下不動状に起立して固定する。このとき、パイプ部材10の一端(上端)面11が、クランプ装置50の上面から治具30の上下高さ寸法よりも低い上方位置にあるように固定する。次いで、パイプ部材10を収容空間31に収納するように治具30の両ブロック体30a・30bをパイプ部材10の外方から挟持し、ボルト固定して治具30を装着する。治具30の装着に前後して、補助工具40の挿入部41を、パイプ部材10の他端(下端)側から空洞12内へ挿入していき、補助工具40の端面43とパイプ部材10の端面11との距離が、棒部材20の突出部22の突出量と同等となる位置で、回転不能かつ上下不動状に固定する。この状態が、摩擦圧接方法における基本装着状態となる。なお、パイプ部材10、棒部材20、治具30、及び補助工具40は、装着する前に洗浄しておくことが好ましい。
【0020】
パイプ部材10等を装着固定できたら、棒部材20を所定の回転速度にて回転させながら、第1の押圧力P1において上方から同軸状にパイプ部材10へ突き合せていく。棒部材20の回転数は、パイプ部材10の肉厚、パイプ部材10及び棒部材20の外径や材料(軟化温度)、又は突出部22の突出寸法などに応じて適宜調整すればよい。目安としては、200〜2000rpm程度とする。周速度基準では、2〜1000mm/sec程度とする。好ましくは、500〜1500rpm程度、50〜800mm/sec程度である。また、第1の押圧力としては、パイプ部材10や棒部材20の室温での降伏強度又は0.5耐力の10〜150%程度、好ましくは30〜120%程度とする。
【0021】
そのまま棒部材20を下降させて突出部22を空洞12に挿通させていくと、図1(B)に示すように、パイプ部材10の端面11と棒部材20の端面21とが突き合わされると共に、突出部22の先端面23と補助工具40の端面43とが突き合わされる。このとき、パイプ部材10と突出部22との間には、所定量のクリアランスが形成されている。収容空間31の上部にテーパー面33が形成されていることで、棒部材20を収容空間31内に円滑に挿入できる。また、棒部材20の外面と治具30の収容空間31の内面とは密接していないので、棒部材20は収容空間31内において回転可能となっていると共に、治具30が回転することもない。これにより、各突き合せ面において摩擦熱が発生し、パイプ部材10の端部11a、棒部材20の端部21a、及び突出部22の先端部23a(図2参照)が、それぞれ軟化ないし液相化する。この意味において、第1の押圧力P1は摩擦荷重ともいえる。このとき、棒部材20と治具30とは密接せずに直接摩擦熱が発生しないことから、治具30は軟化していない。また、補助工具40は棒部材20(の突出部22)よりも軟化温度が高いので、軟化することはない。また、突出部22は先窄まり状に形成されているので、その先端部23aが軟化ないし液相化し易くなっている。
【0022】
各端部11a・21a・23aが十分に軟化ないし液相化したところで、図1(C)に示すように、棒部材20の回転を停止させたうえで、棒部材20に第1の押圧力P1よりも大きな第2の押圧力P2を負荷して、さらに棒部材20をパイプ部材10へ押し付ける。すると、図2に示すように、パイプ部材10と棒部材20の接合部100の外周が軟化していない治具30によって近接して囲まれていることで、パイプ部材10の端部11aは径方向内方の突出部22側へ塑性変形ないし流動していく。これにより、パイプ部材10と棒部材20の接合部100の外面にバリが発生することが抑制されている。同時に、突出部22の先端部23aは軟化していない補助工具40の端面43によって堰き止められていることで、径方向外方のパイプ部材10側へ拡がるように塑性変形ないし流動していく。
【0023】
この意味において、第2の押圧力P2は、アプセット荷重ともいえる。棒部材20の回転停止及び押圧力P2への変更タイミングは、時間経過、棒部材20の下降量などを基準にして適宜設定すればよい。なお、第2の押圧力P2は、第1の押圧力P1の1.1〜3.0倍程度が好ましい。第2の押圧力P2が第1の押圧力P1の1.1倍より小さいと、軟化金属等が塑性変形し難く接合強度が低下するおそれがある。一方、第2の押圧力P2が第1の押圧力P1の3.0倍以上あると、大きな駆動力を必要としてコスト高となったり、金属材料等が変形し過ぎて逆に接合強度が低下するおそれが高くなる。より好ましくは、第2の押圧力P2が第1の押圧力P1の1.3〜2.8倍程度であり、さらに好ましくは、第2の押圧力P2が第1の押圧力P1の1.5〜2.5倍程度である。
【0024】
棒部材20への押圧力P2を所定時間保持して、パイプ部材10と突出部22との間のクリアランス内に塑性変形ないし流動したパイプ部材10の端部11aや突出部22の先端部23aが充填されることで、パイプ部材10の端部11aが、棒部材20の端部21a及び突出部22と良好に圧接されると共に、突出部22の先端部23aがパイプ部材10と良好に圧接される。このとき、棒部材20の回転を停止していることで、軟化ないし液相化した各端部が確実かつ強固に圧着する。その後、十分に冷却されたところで補助工具40を空洞12内から取り外すことで、図1(D)に示すようにパイプ部材10と棒部材20とが強固に接合された製品が得られる。当該接合製品の接合部100の外面にはバリが発生しておらず、且つ接合部100の引張り強度は、端面部の接合強度のみならず機械的嵌合によるアンカー効果によって、その他の部位の引張り強度と同等以上となる。なお、治具30や補助工具40は、繰り返し使用が可能である。
【0025】
(実施例)
7N01アルミニウム合金製パイプ部材と2014アルミニウム製棒部材とを上記の方法で摩擦圧接し、得られた接合材の断面組織状態の観察と、引張試験を行った。接合部の断面写真を図4に示し、引張試験後の破断した接合材の外観写真を図5に示す。
【0026】
試験条件は以下のとおりである。
<パイプ部材>
外径:22mm、内径:16mm、厚み:3mm
<棒部材>
外径:22mm
突出部の外径:基端;14mm、先端;10mm 突出量:10mm
<治具>
材料:S45C、収容空間内径:22.1mm
<補助工具>
材料:S45C、挿入部外径:15.8mm
<摩擦圧接条件>
装置:日東制機株式会社製 摩擦圧接機
回転数:2000rpm
第1の押圧力(摩擦荷重):13000N
第2の押圧力(アプセット荷重):26000N(第1の押圧力の2倍)
<引張試験>
JIS Z3121の2号試験片に基づいて行った。
【0027】
図4の断面写真から、本発明の摩擦圧接方法によれば、パイプ部材と棒部材との接合部は、機械的嵌合状態で金属組織的に強固に圧接されていることが確認できる。また、図5の破断写真から、本発明の摩擦圧接方法により得られる接合材は、接合部では破断せず、その他の部位において破断していた。したがって、接合部の引張強度はその他の部位の引張り強度よりも高いことがわかる。
【0028】
引張試験における破断荷重は42,600Nであった。また、引張強さは238N/mm2であり、JIS H4100に規定される引張強さ245N/mm2以下の条件を満たすことが確認できた。
【0029】
(変形例)
上記実施の形態では、パイプ部材10の端面11と棒部材20の端面21とが当接すると同時に、突出部22の先端面23と補助工具40の端面43とが当接するように設計したが、これに限らず、例えばパイプ部材10と棒部材20との熱伝導率や熱容量が異なる場合は、両棒部材20の端面21と突出部22の先端面23の接触タイミングを異ならせることも好ましい。具体的には、パイプ部材10が棒部材20よりも熱伝導率や熱容量が高く軟化しやすい場合は、棒部材20の端面21がパイプ部材10の端面11に当接する前に、突出部22の先端面23を補助工具40の端面43に当接するように設計することが好ましい。逆に棒部材20がパイプ部材10よりも熱伝導率や熱容量が高く軟化しやすい場合は、突出部22の先端面23を補助工具40の端面43に当接する前に、棒部材20の端面21がパイプ部材10の端面11に当接するように設計することが好ましい。
【0030】
上記実施の形態では、パイプ部材10を固定して棒部材のみを回転させたが、パイプ部材10と棒部材20とが相対的に回転していればこれに限らず、棒部材20を固定してパイプ部材10を回転させてもよいし、パイプ部材10と棒部材20の双方を反対方向に回転させてもよい。また、パイプ部材10を回転させる場合は、補助工具40もパイプ部材10と同一方向又は反対方向へ回転させる。このとき、パイプ部材10の回転速度と補助工具40の回転速度は同一でもよいし、異ならせていてもよい。
【0031】
また、上記実施の形態では、接合部材が両端に亘って中空なパイプ部材と両端に亘って中実な棒部材の場合について説明したが、これに限らず、少なくとも圧接部が中空パイプ状や中実棒状となっている接合部材であれば、その他の部位はどのような形状でも構わない。圧接部の形状は円筒や円柱状のほか、楕円形や多角形とすることもできる。また、上記実施の形態では突出部22を先窄まり状の台形に形成したが、これに限らず、円柱形や末広がりの逆台形とすることもできる。
【0032】
上記実施の形態では、棒部材20の回転停止したうえで第2の押圧力P2を負荷させたが、これに限らず棒部材20の回転速度を維持又は低減しながら第2の押圧力P2を負荷してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】摩擦圧接方法の工程図である。
【図2】図1(C)に示す状態における要部拡大図である。
【図3】治具30の斜視図である。
【図4】摩擦圧接した接合材の断面写真である。
【図5】引張試験後の破断した接合材の外観写真である。
【符号の説明】
【0034】
10 パイプ部材(接合部材)
11 パイプ部材の端面
11a パイプ部材の端部
12 空洞
20 棒部材
21 端面
21a 棒部材の端部(圧接部)
22 突出部
23 突出部の先端面
23a 突出部の先端部
30 治具
31 収容空間
40 補助工具
41 挿入部
43 挿入部の端面
100 接合部
P1 第1の押圧力
P2 第2の押圧力


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも中空パイプ状の圧接部を有する接合部材と、少なくとも中実棒状の圧接部を有する接合部材との圧接部同士を突き合わせた状態で、互いに相対回転させながら押圧し、その摩擦熱により圧接部が軟化塑性変形ないし液相化することによって圧接させる摩擦圧接方法であって、
前記パイプ状圧接部と棒状圧接部とは、該パイプ状圧接部及び棒状圧接部の外径より僅かに大きい内径で両端が開口する収納空間を有する治具の、前記収納空間内において突き合わされて相対的に回転されることを特徴とする摩擦圧接方法。
【請求項2】
前記棒状圧接部の端面には、前記パイプ状圧接部の空洞内に挿通可能な突出部が一体的に突出形成されており、
前記パイプ状圧接部の空洞内に、前記2つの接合部材より軟化温度が高い材料からなる補助工具を挿入した状態で、前記パイプ部材の空洞内に前記突出部を挿入しながら前記パイプ状圧接部の端面と前記棒状圧接部の端面とを相対回転させながら突き合わせていき、
前記パイプ状圧接部の端部は、前記棒状圧接部の端面との摩擦熱によって軟化ないし液相化して径方向内方へ塑性変形ないし流動すると共に、前記突出部の先端部は、前記補助工具の端面との摩擦熱によって軟化ないし液相化して径方向外方へ塑性変形ないし流動することを特徴とする、請求項1に記載の摩擦圧接方法。
【請求項3】
前記パイプ状圧接部の端面と前記棒状圧接部の端面とを付き合わせたとき、前記突出部の先端面と前記補助工具の端面とが当接しており、
前記パイプ状圧接部と前記棒状圧接部とを相対回転させながら第1の押圧力よって突き合わせていき、前記パイプ状圧接部の端部と前記棒状圧接部の端部、及び前記突出部の先端部と前記補助工具の端面と両者が互いの摩擦熱によって軟化ないし液相化した後、前記パイプ状圧接部と前記棒状圧接部との間に、前記第1の押圧力よりも大きな第2の押圧力を負荷させて両者を塑性変形ないし流動させることを特徴とする、請求項2に記載の摩擦圧接方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−269035(P2009−269035A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118621(P2008−118621)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(390013767)光生アルミニューム工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】