説明

摩擦接合方法および摩擦接合装置

【課題】 特別な治具を用いることなく、間隙のある複数の被接合材を十分な強度で接合させること。
【解決手段】 非回転状態の回転ツール4によって被接合材W1を押圧し、間隙をつぶす(402)。そして、その後、回転状態の回転ツール4の先端部を被接合材W1に押圧し、回転ツール4の回転による摩擦熱で被接合材W1を軟化し、塑性流動させて重ねられた被接合材W1及び被接合材W2を点接合する(403または405)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材を接合するために用いられる摩擦接合方法および摩擦接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、重ねられた複数の被接合材を回転ツールの回転によって接合する摩擦接合方法が知られている(特許文献1参照)。この種の摩擦接合方法においては、接合開始前に回転ツールの回転を開始し、回転状態のツールを被接合材に押圧することで接合が行なわれていた。しかし、この方法では、接合すべき複数の被接合材の間に間隙が存在する場合に、図6に示すように、最初に当接する被接合材(図中上側)の板厚が減少してしまい、十分な接合強度が得られないという問題が生じていた。特に、アルミと鉄などの異種材料の接合においては、強度が低下するのみならず、アルミ板の引きちぎり減少を発生させることがあった。これに対し、回転ツールを当接させる前に特別な治具を用いて被接合材を変形させ、被接合材間の間隙を無くした後、回転ツールを当接させる方法も知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−48082号公報
【特許文献2】特開2002−120076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来のような、特別な治具で被接合材を変形させる方法では、装置の大型化を招いていた。また、そのような治具を用いるためには、接合点の周囲に十分なスペースが必要になるため、利用できる接合箇所に制約が生じていた。
【0004】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、特別な治具を用いることなく、間隙のある複数の被接合材を十分な強度で接合させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る方法は、重ねられた複数の被接合材を、非回転状態の回転ツールと、該回転ツールと対向させて配置した受け具とで挟んで加圧する加圧工程と、前記加圧工程の後、回転状態の前記回転ツールの先端部を前記被接合材に押圧し、前記回転ツールの回転による摩擦熱で被接合材を軟化し、塑性流動させて重ねられた複数の被接合材を点接合する接合工程と、を含むことを特徴とする。これにより、接合間に非回転状態の回転ツールと受け具とで、被接合材を挟んで加圧するため、間隙が低減した状態で接合工程に進むことができ、間隙が無い場合と同様に、安定した接合強度を得ることができる。また、回転ツールによって加圧するので、特別な治具を設ける必要が無く、装置の全体構成を簡略化、小型化することができ、接合点に関する制約もない。
【0006】
前記接合工程は、前記加圧工程において前記回転ツールの先端部が前記被接合材に当接した状態で、前記回転ツールの回転を開始することを特徴とする。このように、加圧状態で回転ツールの回転を開始させるため、より間隙を低減でき、短い接合時間で十分な接合強度を得ることができる。
【0007】
前記接合工程は、前記加圧工程の後、前記回転ツールを一旦前記被接合材から離した状態で、前記回転ツールの回転を開始することを特徴とする。このように、被接合材から離した状態で回転ツールの回転を開始するので、回転ツールにおける回転負荷を低減することができ、回転ツールの耐久性の低下を防止できる。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る装置は、
回転ツールと、前記回転ツールと対向する位置に配置された受け具と、を備え、
前記回転ツールの回転による摩擦熱で被接合材を軟化し、塑性流動させて重ねられた複数の被接合材を点接合する摩擦接合装置であって、
重ねられた複数の被接合材を、非回転状態の前記回転ツールと前記受け具とで挟んで加圧した後、回転状態の前記回転ツールの先端部を前記被接合材に押圧するように前記回転ツールを制御する制御手段を更に備えることを特徴とする。このような装置によっても、上記と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特別な治具を用いることなく、間隙のある複数の被接合材を十分な強度で接合させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦接合装置の全体構成を示す図である。この摩擦接合装置100は、自動車ボディ等に用いられる複数の被接合材を点接合するために用いられる。この摩擦接合装置を用いれば、例えば、被接合材としてのアルミニウム合金板同士や、アルミニウム合金板と鋼板とを接合することができる。摩擦接合装置100は、接合ガン1と、接合ガン1を所望の位置及び角度に移動するロボット2と、接合ガン1及びロボット2を制御する制御部3とを備えている。ロボット2としては、例えば汎用の6軸垂直多関節型ロボットが用いられる。
【0012】
図2は、接合ガン1の詳細な構成を示す図である。図2に示すように、接合用工具6として、回転ツール4と、受け具5とを備えている。回転ツール4は、加圧軸モータ12により加圧のために昇降移動されると共に、回転軸モータ11により回転される。回転軸モータ11としては、インダクションモータやサーボモータが用いることができ、加圧軸モータ12としては、サーボモータを用いることができる。受け具5は、L字状のアーム13の先端に回転ツール4に対向して配置されている。尚、回転ツール4及び受け具5は、接合ガン1に対して着脱可能な構成となっている。
【0013】
図3は、回転ツール4の先端部の構成について説明するための図である。回転ツール4は、本体部4aと、センタリング(位置決め機能、位置ずれ防止機能)を主目的としたピン部4bとを一体的に有している。本体部4aは、略円柱状に形成され、その先端に本体部4aよりも小径の円柱状のピン部4bが形成されている。ピン部4bの先端面は、本体部4a先端面から突出しており、ピン部4bの軸心は本体部4aの軸心に合致している。図3ではピン部4bの先端面は平坦面に形成されているが、これに限定されるものではなく、曲面形状を為していてもよいし、或いは、円錐形状を為していても良い。また、本体部4aの先端外周に存在するショルダー部4cからピン部4bの外周面に向けてテーパ4dが形成されている。これにより、ショルダー部4cとピン部4bの根元との間には凹みが形成される。これにより、摩擦熱で軟化した被接合材W1は、その凹み部分に入るため、回転ツール4の外側に流動する被接合材W1の量が少なくなり、接合強度が高くなる。
【0014】
図4は、制御部3による回転ツール4の制御方法について説明するための図である。まず、図4の401に示すように、被接合材W1及び被接合W2を挟むように、回転ツール4及び受け具5をセットする。接合前の被接合材W1と被接合材W2との間には間隙が存在している。
【0015】
次に、402に示すように、回転ツール4の加圧を開始する。これにより、回転ツール4のピン部4bが上側の被接合材W1に当接する。そして、回転ツール4と受け具5とで挟まれることにより、被接合材W1が下方に変形し間隙がつぶされる。この際、回転ツール4は非回転状態であって、被接合材W1が局所的に軟化することはない。なお、上記加圧時の被接合材の変形は、被接合材W2を変形させてもよく、また両被接合材W1、W2を変形させても良い。
【0016】
このような加圧工程の後、回転状態の回転ツール4の先端部を被接合材W1に押圧し、回転ツール4の回転による摩擦熱で被接合材W1を軟化し、ピン部4bを被接合材W2まで押し込み、回転と押圧によりピン部4bの周り及びショルダー部4cの凹み部分で材料に塑性流動を生じさせて重ねられた被接合材W1及び被接合材W2を点接合する。
【0017】
具体的には、2通りの方法が考えられる。一方は、403に示すように、加圧工程において回転ツール4のピン部4bが被接合材W1に当接した状態で、回転ツール4の回転を開始し、回転ツール4の回転による摩擦熱で被接合材W1を軟化し、塑性流動させて重ねられた被接合材W1及び被接合材W2を点接合する。他方は、404に示すように、加圧工程の後、回転ツール4を一旦被接合材W1から離した状態で、回転ツール4の回転を開始し、405に示すように回転ツール4を回転させながら、再度、被接合材W1と被接合W2を加圧する。そして、回転ツール4の回転による摩擦熱で被接合材W1を軟化し、塑性流動させて重ねられた被接合材W1及び被接合材W2を点接合する。
【0018】
何れの方法においても、結果として、406に示すように、板厚の減少が少なくなり、接合強度が増すことになる。図5は、接合強度(剪断強度)の違いを示す図である。501は、図4の404、406に示したように、一旦被接合材を開放した後、回転ツール4を回転させながら再度被接合材を押圧する方法を採用した場合の強度である。502は、図6に示したように、押圧工程を経ずに、初めから回転状態の回転ツール4を被接合材に押圧する方法を採用した場合の強度である。図5に示すように、押圧工程を経ることにより、剪断強度が約1.5倍となった。なお、この時のテスト条件は下記の通りである。
1.被接合材W1(上板):6000系アルミニウム合金、板圧は1mm
2.被接合材W2(下板):6000系アルミニウム合金、板圧は2mm
3.回転ツール:平坦形状のショルダー部の系8mm、ピン部系2mm、ピン部長さ1.2mm、s都合時の加圧力4.41kN、回転数3000rpm、加圧保持時間0.8秒、
4.回転ツールの初期加圧力:0.98kN
このように、本実施形態に示す摩擦整合装置によれば、特別な治具を用いることなく、間隙のある複数の被接合材を十分な強度で接合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る摩擦接合装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る接合ガンの概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る回転ツールの構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る回転ツールの制御方法を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る回転ツールの制御方法による強度の向上を示す図である。
【図6】従来の回転ツールの制御方法を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
100 摩擦接合装置
1 接合ガン
2 ロボット
3 制御部
4 回転ツール
5 受け具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ねられた複数の被接合材を、非回転状態の回転ツールと、該回転ツールと対向させて配置した受け具とで挟んで加圧する加圧工程と、
前記加圧工程の後、回転状態の前記回転ツールの先端部を前記被接合材に押圧し、前記回転ツールの回転による摩擦熱で被接合材を軟化し、塑性流動させて重ねられた複数の被接合材を点接合する接合工程と、
を含むことを特徴とする摩擦接合方法。
【請求項2】
前記接合工程は、前記加圧工程において前記回転ツールの先端部が前記被接合材に当接した状態で、前記回転ツールの回転を開始することを特徴とする請求項1に記載の摩擦接合方法。
【請求項3】
前記接合工程は、前記加圧工程の後、前記回転ツールを一旦前記被接合材から離した状態で、前記回転ツールの回転を開始することを特徴とする請求項1に記載の摩擦接合方法。
【請求項4】
回転ツールと、
前記回転ツールと対向する位置に配置された受け具と、
を備え、
前記回転ツールの回転による摩擦熱で被接合材を軟化し、塑性流動させて重ねられた複数の被接合材を点接合する摩擦接合装置であって、
重ねられた複数の被接合材を、非回転状態の前記回転ツールと前記受け具とで挟んで加圧した後、回転状態の前記回転ツールの先端部を前記被接合材に押圧するように前記回転ツールを制御する制御手段を更に備えることを特徴とする摩擦接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−102749(P2006−102749A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288420(P2004−288420)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】