説明

摩擦材の解析方法

【課題】摩擦材の構成をより正確に解析可能な技術を提供する。
【解決手段】前記摩擦材を構成する材料とは異なる性質を有する所定の液体を、前記摩擦材の空隙に含ませる含浸ステップと、前記所定の液体を含む前記摩擦材からなる試料に対して所定のX線を照射し、前記空隙に存在する前記所定の液体の反応から、少なくとも前記空隙の位置に関する情報と形状に関する情報とのうち少なくともいずれか一方を含む摩擦材の構成情報を取得する構成情報取得ステップと、前記構成情報取得ステップで取得された前記構成情報に基づいて画像を生成する画像生成ステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体試料を構成する材料やその内部に含まれる空隙を解析する技術として、水銀圧入法や表面構造解析法が知られている。水銀圧入法は、試料の空隙に水銀を圧入し、圧入する際の圧力と圧入された水銀容積とに基づいて固体試料の空隙を測定する。表面構造解析法は、固体試料の表面に細く絞った電子線やX線を照射することで発生する反射電子や特性X線等を解析する(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
また、ゴムと添加剤とを含むゴム組成物に対してX線を照射して得られたCT断層画像により、このゴム組成物における添加物の分散状態を検査するゴム組成物の検査方法に関する技術が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。特許文献2では、ゴム組成物へ照射するX線として、焦点寸法が1μm以下のX線を用いることが開示されている。
【0004】
更に、上記従来の摩擦材の解析方法と比較して、摩擦材の構成をより正確に解析可能な技術として、特許文献3に記載の技術が知られている。特許文献3には、電子が磁場で曲げられたときに発生する電磁波としての放射光を、摩擦材からなる試料の内部を通過させることで、摩擦材を構成する材料と該摩擦材の内部に存在する空隙とを含む該摩擦材の構成要素に関する構成情報を取得する取得ステップと、前記取得ステップで取得された構成情報に基づいて、前記摩擦材の構成要素を視覚的に写し出す出力ステップと、を備える摩擦材の解析方法が開示されている。なお、特許文献3に記載の技術は、本願発明者らによって開発されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−116159号公報
【特許文献2】特開2005−249657号公報
【特許文献3】特開2009−85732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車や産業機械等のブレーキやクラッチ等には、摩擦材が使用されている。摩擦材は、例えば自動車では重要保安部品に位置づけられるなど、重要な役割を担っている。そして、近年の摩擦材は、従来から重要視されてきた摩擦特性や振動特性に加えて、安全性、環境問題への対応、国際標準化への対応が求められつつある。このような要求に対応するために、摩擦材の構成要素を正確に解析する技術の確立が望まれる。しかし、摩擦材は、非常に多くの材料によって構成され、更に、材料同士の間には微細な空隙(空気孔)が複数形成されているという特徴を有している。
【0007】
例えば、固体試料中に存在する空隙を解析する従来技術として、水銀圧入法や表面構造解析法が知られている。水銀圧入法によれば、空隙に水銀を圧入する際の圧力と圧入された水銀容積とに基づいて固体試料に存在する空隙の量や夫々の空隙の大きさを解析することができる。しかし、係る方法では、凡そ数μm以上の大きさの空隙が、全体積中の何%を占めているといったことしか解析できない。すなわち、水銀圧入法では、空隙が三次元的にどのような形状をしているか、また、空隙がどのように分布しているかといった情報を得ることはできない。更に、水銀圧入法では、水銀を固体試料の外側から圧入するため
、外部につながっていない閉じた空隙は測定することができない。
【0008】
また、表面構造解析法によれば、固体試料の表面に細く絞った電子線やX線を照射することで発生する反射電子や特性X線等を解析することで、固体試料に含まれる材料成分とその分布を特定することができる。しかし、従来の表面構造解析法にて固体試料の構成要素を三次元的に解析する場合、この手法の1回の測定で得られる情報(例えば、元素組成や凹凸に関する情報)は原理的に、表面から凡そ数100μm以下である。従って、材料成分が三次元的にどのような形状、分布しているかといった情報を得る為には、固体試料を薄くスライスした大量のサンプルの元素組成や凹凸情報を得た上で、それを三次元画像として構成する必要があり、多大な時間を必要とする。また、より高分解の材料構成情報を得ようとすると固体試料を薄くスライスする必要がある。しかし薄くスライスするには、限界があり、更に、薄く加工する際、材料の形状や分布が破壊されてしまい、正確な解析を行うことができないといった問題がある。
【0009】
なお、焦点寸法が1μm以下のX線をゴム組成物に対して照射することでゴム組成物を検査する方法が知られている。しかしながら、この技術は、ゴム組成物を検査するものであり、ゴム組成物とは構成要素が異なる摩擦材、すなわち、非常に多くの材料からなるとともに材料同士の間に微細な空隙を複数有する摩擦材の解析を想定したものではない。また、仮に、上記ゴム組成物を検査する方法を応用し、摩擦材の空隙部位を抽出して解析することを試みた場合、摩擦材は非常に多くの材料からなるといった特性を有しており、空隙部位の判別は困難である。特に、摩擦材が密度の低い炭素系材料を含む場合、判別が更に困難となり、複雑な画像解析プログラムが必要となる。
【0010】
本発明者らによって発明された特許文献3に記載の発明によれば、従来よりも正確に摩擦材の構成を解析することができる。一方で、より一層正確に解析可能な技術が求められる。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、摩擦材の解析方法に関し、摩擦材の構成をより正確に解析可能な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、上記課題を解決するため、摩擦材からなる試料に対して液体(例えば、液体金属)を染み込ませ、所定のX線を照射することとした。空隙に染み込んだ液体の反応から、従来、位置や大きさが特定困難であった、摩擦材の空隙の特定が可能となる。
【0013】
より詳細には、本発明は、摩擦材の解析方法であって、摩擦材を構成する材料とは異なる性質を有する所定の液体を、前記摩擦材の空隙に含ませる含浸ステップと、前記所定の液体を含む前記摩擦材からなる試料に対して所定のX線を照射し、前記空隙に存在する前記所定の液体の反応から、前記空隙の位置に関する情報と形状に関する情報とのうち少なくともいずれか一方を含む摩擦材の構成情報を取得する構成情報取得ステップと、前記構成情報取得ステップで取得された前記構成情報に基づいて画像を生成する画像生成ステップと、を備える。
【0014】
摩擦材を構成する材料とは異なる性質を有する所定の液体とは、換言すると、摩擦材を構成する材料とは異なる性質を有することで、所定のX線を照射した際、摩擦材を構成する材料とは異なる反応を示す液体である。このような所定の液体を空隙に含ませることで、摩擦材を構成する材料と、空隙とを識別することが可能となる。すなわち、本発明によれば、特に、空隙の位置や形状を従来よりも明確に識別することが可能となる。所定の液体は、例えば、摩擦材を構成する材料とは異なる線吸収係数を有する液体状の金属とすることができる。
【0015】
X線CT(Computed Tomography)の中でも最も分解能が高い解析手法として、電子が磁場で曲げられたときに発生するSR(Synchrotron Radiation、シンクロトロン放射光)を利用した解析手法が知られている。この解析手法を摩擦材の解析に用いるようにしてもよい。すなわち、所定のX線として、シンクロトロン放射光を用いるようにしてもよい。シンクロトロン放射光を照射することで、空隙の位置に関する情報や形状に関する情報に加えて、より詳細な摩擦材を構成する材料に関する情報を取得することが可能となる。摩擦材を構成する材料に関する情報は、摩擦材を構成する材料の種類や材料の大きさに関する情報を含む。シンクロトロン放射光を用いた解析を行える施設としては、国内であれば、Spring-8(Super Photon ring-8)、海外であれば、APS(Advanced Photon Source)、ESRF(European Synchrotron Radiation Facility)が知られている。シンクロトロン放射光を照射することで、摩擦材の分解能をより向上することができる。
【0016】
所定のX線は、焦点寸法が1μm未満のX線としてもよい。より、好ましくは、焦点寸法は、0.4μm未満とすることが好ましい。焦点寸法が1μm未満のX線を照射可能なX線源(X線装置)であれば、シンクロトロン放射光を照射可能な施設よりも数も多く利用し易いことから、解析の際の利便性を高めることができる。焦点寸法とは、原則として、X線管からX線が照射される窓口(点)の大きさを意味する。但し、X線装置によっては焦点寸法の定義が異なる場合も想定される。そこで、本発明では、使用するX線装置の定義に従って照射するX線の焦点寸法が1μmを下回っていればよい。摩擦材を構成する材料には、例えば摩擦係数を確保するための研削材として、1μm未満のものも存在し、また、摩擦材の内部には1μm未満の空隙も多数存在する。X線の焦点寸法が1μmを下回るようにすることで、摩擦材を構成する材料の粒径や分布、および空隙の大きさや分布を特定することが可能となる。
【0017】
ここで、従来の表面構造解析法にて固体試料の構成要素を三次元的に解析する場合、固体試料を連続的に薄くスライスしなければならなかった。例えば従来の表面構造解析法にて、1μmの分解能を得ようとすると、厚さ1μm未満のサンプルを作製する必要がある。摩擦材のように、有機物、金属、セラミックス等が様々な形状や大きさで含まれた状態で構成されている複合材料では、含まれる材料の破壊や脱落なく、加工によって失われる情報も少なく高精度に加工することは事実上不可能である。これに対し、X線の焦点寸法が1μmを下回るようにすることで、焦点寸法が1μm未満のX線を、摩擦材からなる試料に照射することで、試料を薄くスライスすることなく試料の解析を行うことができるので、より正確な摩擦材の構成を確認することができる。
【0018】
構成情報に基づいて画像を生成することで、摩擦材の構成要素が視認可能となる。画像の生成とは、例えばディスプレイ等の表示装置を通じて、摩擦材の構成を二次元又は三次元的に表示するよう、構成情報を処理することを意味する。本発明によれば、空隙に所定の液体を含ませた後、所定のX線を照射することで、空隙の位置に関する情報や形状に関する情報を含む摩擦材の構成要素に関するより詳細な情報を取得することができる。その結果、このような詳細な情報に基づいて画像を生成することで、摩擦材の構成要素をより正確に把握することが可能となる。
【0019】
ここで、本発明において、前記摩擦材からなる試料は、所定の大きさに加工されたものであり、該所定の大きさは、所定のX線を照射する装置の出力と試料の線吸収係数によって決定されるようにしてもよい。上記のように予め加工した摩擦材からなる試料に対して所定のX線を照射することで、解析の精度をより高めることができる。
【0020】
ここで、本発明は、上述したいずれかの機能をコンピュータによって実現する方法としてもよい。すなわち、本発明は、摩擦材を構成する材料とは異なる性質を有する所定の液
体が、前記摩擦材の空隙に含浸された前記摩擦材からなる試料に対して所定のX線を照射し、前記空隙に存在する前記所定の液体の反応から、前記空隙の位置に関する情報と形状に関する情報とのうち少なくともいずれか一方を含む摩擦材の構成情報を取得する構成情報取得ステップと、前記構成情報取得ステップで取得された前記構成情報に基づいて画像を生成する画像生成ステップと、をコンピュータが実行する摩擦材の解析方法である。
【0021】
また、本発明において、画像生成ステップは、前記構成情報取得ステップで取得された構成情報に基づいて、二次元画像を生成する二次元画像生成ステップと、前記二次元画像生成ステップで生成された二次元画像に基づいて三次元画像を生成する三次元画像生成ステップと、を含むようにしてもよい。
【0022】
取得ステップで取得された構成情報に基づいて、最終的に三次元画像を生成することで、摩擦材を立体的に捉えることが可能となる。なお、二次元画像の生成、三次元画像の生成は、既存のプログラムによって行うことができる。例えば、取得ステップで取得された構成情報に基づいてCT(Computed Tomography)画像を生成するプログラムとして、Filtered Back Projection法を利用したものが例示される。
【0023】
本発明によれば、従来、詳細が不明であった摩擦材中の空隙を含む構成要素の三次元的な構造や材料同士の相関分布などを明らかにすることができる。また、これにより、これまで明確に解明されていなかった成形パッドに含まれる材料の粒度や形状を解明することができる。更に、バインダ樹脂の熱硬化時の発砲など摩擦材の製造プロセスにおける影響因子の関係を解明することができる。その結果、摩擦材中の空隙を含む構成要素の三次元分布のコントロールが可能となり、更に、三次元分布のコントロールを可能とすることで摩擦性能のコントロールも可能となる。
【0024】
また、従来の表面構造解析法では、試料の解析に非常に多くの時間を費やしていたが、本発明によれば、解析時間の大幅な短縮を図ることが可能となる。その結果、摩擦材の開発過程におけるステップ数も大幅に削減することができ、摩擦材の製造コストの削減を図ることも可能となる。
【0025】
なお、本発明は、前記画像生成ステップで生成された画像から、前記摩擦材を構成する所定の構成要素を抽出し、抽出した構成要素を視覚的に映し出す抽出ステップを更に備える構成とすることができる。また、前記三次元画像生成ステップで生成された三次元画像から、前記摩擦材を構成する所定の構成要素を抽出し、抽出した構成要素を視覚的に映し出すようにしてもよい。
【0026】
上述したように、摩擦材は、多くの材料と材料同士の間に形成される微細な空隙とを含む構成要素によって形成されている。従って、単に摩擦材の画像を生成、若しくは、摩擦材を三次元的に映し出すだけでは、例えば各材料の粒径、空隙の配置位置や大きさ等を十分に把握できない虞もある。これに対し、本発明では、摩擦材を構成する構成要素から所定の構成要素を抽出し、抽出した構成要素を視覚的に映し出すことで、材料の粒径や空隙の位置等をより明確に確認することができる。
【0027】
構成要素の抽出は、抽出したい材料や空隙に対応する、構成要素の線吸収係数を抽出することで行うことができる。所定の構成要素には、摩擦材を構成する材料や空隙が含まれる。画像の各画素の濃淡は、この線吸収係数に対応している。本発明では、空隙に含ませる所定の液体の線吸収係数を、摩擦材を構成する材料の線吸収係数と異ならせることができる。従って、例えば所定の液体の線吸収係数、換言すると空隙に対応する画素値のみを抽出し、これを視覚的に映し出すことで、摩擦材の内部において空隙がどのように存在しているかを確認することが可能となる。
【0028】
なお、本発明は、上述したいずれかの機能を実現させる装置、又はプログラムであってもよい。更に、本発明は、そのようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体であってもよい。なお、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、又は化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。
【0029】
<空隙の算出>
ここで、本発明は、上述した発明と別に単独で用いることができる技術、若しくは、上述した発明と共に用いることが可能な技術として、以下の内容を含む。以下、具体的に説明する。
【0030】
上述したように、摩擦材は、非常に多くの材料によって構成され、更に、材料同士の間には空隙(微細な空気孔)が複数形成されているという特徴を有している。固体試料中に存在する空隙を解析する従来技術として、水銀圧入法や表面構造解析法が知られている。しかし、水銀圧入法では、空隙の三次元的な分布や形状の測定が困難である。また、表面構造解析法は、固体試料を薄くスライスした大量のサンプルの元素組成や凹凸情報を測定して、それを三次元画像として構成する必要があり多大な時間を必要とする。また、薄くスライスするには、限界があり、更に、薄く加工する際、材料の形状や分布が破壊されてしまい、正確な解析を行うことができないといった問題がある。
【0031】
なお、本発明者らによって発明された特許文献3に記載の発明によれば、摩擦材を切断することなく、従来よりも正確に摩擦材の構成を解析することができる。特許文献3に記載の発明では、空隙を含む摩擦材の構成要素の抽出は、抽出したい材料や空隙に対応する、構成要素の線吸収係数を抽出することで行うことができる。ここで、摩擦材が、線吸収係数の高い材料と線吸収係数の低い材料との双方を含む場合、線吸収係数の低い材料の画素値と線吸収係数の低い材料の周囲に存在する空隙の画素値が近い値となることが想定される。この場合、空隙と材料との境界の識別が困難になることが想定される。従って、摩擦材を構成する材料と空隙との境界をより明確にし、空隙の位置や形状をより明確に識別可能な技術が求められる。
【0032】
そこで、本発明は、摩擦材の解析方法において、摩擦材の構成をより正確に解析可能な技術として、摩擦材を構成する材料と空隙との境界をより明確にし、空隙の位置や形状をより明確に識別可能な技術を提供することを更なる課題の一つとする。
【0033】
本発明では、上記課題を解決するため、周囲に空隙が存在する摩擦材の材料を特定し、この材料とこの材料の周囲に存在する空隙に対応する領域の画素の明るさ(画素値の高さ)の変化値を算出し、周囲に空隙が形成される摩擦材の材料とこの材料の周囲に形成される空隙との境界を視覚的に容易に特定可能となるよう画像を変換することとした。
【0034】
より詳細には、本発明は、摩擦材の解析方法であって、前記摩擦材からなる試料に対して所定のX線が照射され、少なくとも前記空隙の位置に関する情報と形状に関する情報とのうち少なくともいずれか一方を含む摩擦材の構成情報を取得する構成情報取得ステップと、前記構成情報取得ステップで取得された前記構成情報に基づいて画像を生成する画像生成ステップと、
前記画像生成ステップで生成された画像を変換する変換ステップと、をコンピュータが実行し、前記変換ステップでは、周囲に空隙が存在する特定の材料であって、前記摩擦材を構成する材料の中から特定された材料に対応する画素の明るさと前記特定の材料の周囲に存在する空隙に対応する画素の明るさとを対比して、前記特定の材料を含む画像における明るさの変化値を算出し、該特定の材料と該空隙との境界を抽出する。
【0035】
本発明では、変換ステップを備えることで、特定の材料と特定の材料の周囲に存在する空隙との境界をより明確にすることができる。特定の材料には、有機充填材、例えば、カシューダストが挙げられる。カシューダストは、その周囲に空隙が形成され、また、線吸収係数の値が低く、空隙に対応する線吸収係数の値と近いといった特性がある。換言すると、カシューダストと空隙との境界は明確になり難い。本発明は、このように周囲に空隙を有する材料だけでなく、周囲に空隙を有し、かつ、その特性(例えば、線吸収係数)が周囲に存在する空隙と似ており、空隙との区別が難しい材料を含む摩擦材の解析方法として好適に用いることができる。明るさの変化値の算出は、微分処理によって行うことができる。微分処理には、画像上の座標における明るさの勾配を算出するグラディエント(一次微分ともいう。)や、グラディエントを更に微分したラプラシアン(二次微分ともいう。)が含まれる。
【0036】
なお、所定のX線には、シンクロトロン放射光や焦点寸法が1μm未満のX線が含まれる。換言すると、本発明で照射するX線は、特に限定されるものではなく、摩擦材からなる試料に対して照射することで摩擦材の構成情報を取得できるものであればよい。
【0037】
また、本発明は、前記摩擦材の試験者が比較できるよう、前記変換ステップが実行される前の画像と前記変換ステップが実行された後の画像とを前記表示装置に比較可能に表示させる比較表示ステップと、前記比較表示ステップを実行後、前記摩擦材の試験者から、前記後の画像に対する補正指示であって、前記後の画像における前記空隙の位置や形状の補正指示を受け付け、該補正指示に従って前記後の画像を補正する補正ステップと、を更に備える構成とすることができる。
【0038】
「比較可能に表示」には、表示装置に前の画像と後の画像を並べて表示する態様や表示装置に前の画像と後の画像を交互に表示する態様が含まれる。変換処理ステップを実行後、試験者からの補正指示を受け付け、更にこの補正指示に従って補正を行うことで、特定の材料と空隙との境界を更に明確にすることができる。
【0039】
また、本発明は、前記変換処理ステップを実行後の後の画像、又は、前記補正ステップを実行後の後の画像から、前記摩擦材に占める前記空隙の占める割合である空隙率を算出する空隙率算出ステップをコンピュータが更に実効する構成とすることができる。
【0040】
なお、本発明は、上述したいずれかの機能を実現させる装置、又はプログラムであってもよい。更に、本発明は、そのようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体であってもよい。なお、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、又は化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係る摩擦材の解析方法によれば、摩擦材の解析方法に関し、摩擦材の構成をより正確に解析可能な技術を提供することができる。
【0042】
また、空隙の算出に関する発明によれば、摩擦材の構成をより正確に解析可能な技術として、摩擦材を構成する特定の材料とこの特定の材料の周囲に存在する空隙との境界をより明確にし、空隙の位置や形状をより明確に識別可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】第一実施形態に係る摩擦材の解析方法を実行する処理システムの一例を示す。
【図2】第一実施形態に係るコンピュータの機能ブロック図を示す。
【図3】第一実施形態に係る摩擦材の解析方法のフローを示す。
【図4】第一実施形態において、生成された画像の一例を示す(Ga)。
【図5】第一実施形態において、生成された画像の一例を示す(Hg)。
【図6】第二実施形態に係るコンピュータの機能ブロック図を示す。
【図7】第二実施形態に係る摩擦材の解析方法のフローを示す。
【図8】第二実施形態において、生成された画像の一例を示す。
【図9】第二実施形態において、変換後の画像の一例を示す。
【図10】第二実施形態において、補正後の画像の一例を示す。
【図11】変形例3に係るコンピュータの機能ブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
次に、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。但し、以下に説明する事項は、例示であり本発明がこれに限定されるものではない。
【0045】
[第一実施形態]
<構成>
第一実施形態に係る摩擦材の解析方法は、図1に示す摩擦材の解析システムによって実現される。第一実施形態に係る摩擦材の解析システム200は、コンピュータ1、CT装置2を備える。
【0046】
コンピュータ1は、制御部10等を格納する筐体11、ディスプレイ等の表示部12、ポインティングデバイスやキーボード等の操作部13、外部機器と接続可能なインターフェース14備える。
【0047】
表示部12は、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、CRT(Cathode Ray Tube)、エレクトロルミネッセンスパネル等である。操作部13は、例えば、キーボード、ポインティングデバイス等である。インターフェース14は、USB等のシリアルインターフェース、あるいは、PCI(Peripheral Component Interconnect)、ISA(Industry Standard Architecture )、EISA(Extended ISA)、ATA(AT Attachment)、IDE(Integrated Drive Electronics)、IEEE1394、SCSI(Small Computer System Interface)等のパラレルインターフェースのいずれでもよい。
【0048】
制御部10は、CPU(中央演算処理装置)101、メモリ102を備える。CPU101は、例えばメモリ102に格納された制御プログラムに従って、所定の処理を実行する。メモリ102は、揮発性のRAM(Random Access Memory)と、不揮発性のROM(Read Only Memory)を含む。ROMには、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read−Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable
Programmable Read−Only Memory)のような書き換え可能な半導体メモリを含む。
【0049】
記憶部103は、各種データを記憶する。記憶部103は、例えば、ハードディスクドライブ(以下、HDDとする。)や半導体メモリによって構成することができる。
【0050】
また、コンピュータ1は、構成情報取得部104、画像生成部105の各機能部を備える。これらの各機能部は、CPU上で実行されるコンピュータプログラムとして構成することができる。また、各機能部は、専用のプロセッサとして構成してもよい。
【0051】
構成情報取得部104は、少なくとも空隙の位置に関する情報と形状に関する情報とのうち少なくともいずれか一方を含む摩擦材の構成情報を取得する。構成情報は、摩擦材からなる試料に対して放射光(本願発明のX線に相当する)が照射されることで得られる情報である。構成情報取得部104は、構成情報が既にコンピュータ1の記憶部103に格納されている場合、コンピュータ1の記憶部103にアクセスして、構成情報を取得する。また、第一実施形態の摩擦材の解析システム200の場合、構成情報取得部104は、CT装置2の記憶部103にアクセスして取得することもできる。更に、構成情報取得部104は、可搬型記録媒体にアクセスし、可搬型記録媒体に記録された構成情報を取得してもよい。
【0052】
画像生成部105は、構成情報取得部104で取得された構成情報に基づいて画像を生成する。生成された画像には、少なくとも空隙の位置や形状が含まれる。
【0053】
なお、摩擦材を切断する切断装置を別途設けてもよい。例えば、切断装置をコンピュータ1と電気的に接続することで、切断装置により、コンピュータ1を介して入力されたサイズに摩擦材を切断することができる。
【0054】
CT装置2は、摩擦材に対して放射光を照射し、摩擦材を撮像する。換言すると、CT装置2で放射光が照射され、摩擦材の構成情報が取得される。CT装置2は、コンピュータ1と電気的に接続されており、取得された摩擦材の構成情報は、コンピュータ1の記憶部103に入力可能である。
【0055】
ここで、第一実施形態で用いた実験装置について更に詳細に説明する。第一実施形態では、摩擦材の解析にSR(Synchrotron Radiation シンクロトロン放射光)を用いた。日本国内で公共に利用できる硬X線波長領域のSR利用施設としては、PF(Photon Factory :高エネルギー加速器機構 物質構造化学研究所 放射光実験施設)と、Spring-8(Super Photon ring-8 :正式名称 Japan Synchrotron Radiation Research Institute)が知られている。第一実施形態では、十分なX線強度を有する放射光を照射可能なSpring-8のBL47XUを用いた。BL47XUは、光源が、真空封止アンジュレータ(磁場周期長:32mm、周期数:140Hz、磁極間隔:9.6mm〜50mm可変)、基本波エネルギー領域(5.9〜18.9keV)であり、分光器が、二結晶分光器(ブラッグ角可動範囲:3度〜22度)であり、利用可能X線エネルギーが、5.2〜37.7keV(Si111 結晶面使用時)である。
【0056】
第一実施形態では、Spring-8内のBL47XUに常設されているマイクロCT用の測定装置(以下、単にSpring-8内の装置ともいう。)を用いた。第一実施形態で用いたCT装置は、空間分解能が約1μmであり、光源、分光器、試料ステージ、検出器、CPU及び記憶部を有する制御部、測定結果や解析結果を表示する表示部によって構成されている。試料ステージの回転軸部回転精度は、0.2μm以下である。検出器は、可視光変更型の二次元検出器が用いられており、単結晶蛍光体による空間分解能は、1μm程度である。なお、上記CT装置は、摩擦材の他、金属、岩石、ポリマー等の測定も行うことができる。CT装置の測定時間は、上記試料を測定する場合、30分程度である。CT装置に設けられている記憶部は、測定データを記憶することができるが、この記憶部の容量は5GB程度である。
【0057】
なお、第一実施形態では、Spring-8を利用したが、これに限定されるものではない。海外では、Spring-8と同様な性能を有する、いわゆる第三世代の放射光実験施設がいくつか知られている。例えば、Spring-8と同等の機能を備える施設として、APS(Advanced Photon Source)やESRF(European Synchrotron Radiation Facility)がある。従って、Spri
ng-8に代えて、これらの施設を利用してもよい。
【0058】
<処理フロー>
次に上述した摩擦材の解析システム200で実行される処理について、実際に行った実験に基づいて説明する(図3参照)。ステップS01では、摩擦材が所定の大きさに一次加工される。第一実施形態では、摩擦材が3×3×10mmの直方体の試料に切断される(以下、摩擦材を試料ともいう。)。第一実施形態では、摩擦材の解析システム200とは別に構成される切断装置により、摩擦材が切断される。摩擦材の切断が完了すると、ステップS02へ進む。
【0059】
ステップS02では、切断された試料に微細加工が施される。第一実施形態では、直方体に切断された試料が、φ0.6×10mmの円筒形の試料に加工される。具体的には、摩擦材の寸法(φ0.6×10mm)がコンピュータ1に入力され、この摩擦材の寸法に対応するよう摩擦材が加工される。試料の加工が完了すると、ステップS03へ進む。なお、試料のサイズは、放射光の波長と摩擦材を構成する材料の線吸収係数で決定されるものであり、摩擦材を切断する際の寸法や、摩擦材を加工する際の寸法は、上記に限定されるものではない。摩擦材からなる試料のサイズは、X線を照射するX線装置の出力、X線の波長、摩擦材の構成要素の線吸収係数によって適宜調整することができる。また、摩擦材の切断や微細加工は、他の施設等で予め行うようにしてもよい。また、摩擦材の切断や微細加工は、試験者が行うようにしてもよい。
【0060】
ステップS03では、切断され、かつ微細加工が施された試料中の空隙に液体金属が含浸される。第一実施形態では、液体金属としてGaを用いた。第一実施形態において液体金属として用いたGaの線吸収係数は、54.69μ(1/cm)であり、試料を構成する材料の線吸収係数とは、異なる値を有する(表1参照)。第一実施形態では、液体金属Gaとして30g用意し、これを温度50度、圧力19.6MPaにて60秒保持して含浸させた。含浸する際の圧入機械には、「ポアサイザー9320」(マイクロメリティクス社製)を用いた。また、液体金属には、株式会社高純度化学研究所製(商品コードGAE12GB)を用いた。液体金属が空隙に含浸されると、ステップS04へ進む。
【0061】
【表1】

【0062】
ステップS04では、CT装置2により、試料に対して放射光が照射され、試料を透過する放射光が検出される。放射光を照射し、透過する放射光が検出されることで、少なくとも空隙の位置に関する情報と形状に関する情報とのうち少なくともいずれか一方を含む摩擦材の構成情報が、CT装置2側で取得される。CT装置2で取得された構成情報は、コンピュータ1の記憶部103に記憶される。
【0063】
なお、第一実施形態における、放射光の照射及び放射光の検出の条件は、以下の通りで
ある。すなわち、入射エネルギーは、35keVとし、アンジュレータ磁極間隔、すなわち放射光を発生するために配置される磁石の間隔は、10.56mmとした。検出器は、BM3(×20)+C4880-41Sであり、ピクセル数は、2000×1312とし、ピクセルサイズは、0.47μm/pixelとした。投影数は、1800とした。また、試料と検出器との距離は、20mm程度とし、露光時間は、300msecとした。CT装置2によって構成情報が取得されると、ステップS05へ進む。
【0064】
ステップS05では、構成情報取得部104が、構成情報を取得する。構成情報取得部104は、記憶部103にアクセスして、構成情報を取得する。構成情報取得部104によって、構成情報が取得されると、ステップS06へ進む。
【0065】
ステップS06では、画像生成部105が、構成情報(CT装置2で検出されたデータ)に基づいて画像を生成する。第一実施形態では、CT装置の検出器で測定された構成情報に基づいてimg形式の画像が生成される。次に、このimg形式の画像からTIFF形式の画像が画像変換プログラムによって変換される。第一実施形態では、Spring-8で得られたimg画像を画像に変換するプログラム(プログラム名:ct_manual.lzh)を用いた。なお、このプログラムは、URLhttp://www-bl20.spring8.or.jp/xct/index.htmlより得ることができる。このプログラムは、CT実験で通常用いられることが多い、Filtered Back Projection法を利用したものである。なお、試料を透過した放射光に基づいて二次元画像を生成する技術や、生成された二次元画像に基づいて三次元画像を生成する技術としては、様々なものが知られている。従って、画像を生成する手順は、上記に限定されるものではない。既存の画像生成技術を適宜応用して、画像を生成することができる。
【0066】
ここで、図4は、生成された画像(CT画像)の一例を示す。図4に示すように、液体金属Gaの位置及び形状が画像から確認することができる。各画素の濃淡は、構成要素の線吸収係数μに対応しており、線吸収係数は、試料を構成する各構成要素、すなわち、材料の密度と含有元素に対応している。すなわち、線吸収係数は、各材料に含まれる元素と組成によって決定される質量吸収係数μ/ρと密度ρとの積によって評価することができる。従って、材料毎の線吸収係数を予め特定しておくことで、各画素値に対応する材料や空隙を特定することができる。なお、図4の画像の白黒濃淡諧調は、線吸収係数μの値に比例して設定されている。すなわち、白黒濃淡諧調は、線吸収係数μの値が大きいほど白く映し出され、線吸収係数μの値が小さいほど黒く映し出される。なお、白黒濃淡諧調は、解析の目的、試料に含まれる材料の種類や大きさに応じて適宜設定することができる。画像が生成されるとステップS07へ進む。
【0067】
ステップS07では、画像から特定部位の抽出が行われる。第一実施形態では、空隙に含浸した液体金属Gaの線吸収係数に相当する画素値を有する部位が抽出される。これにより、試料(摩擦材)における空隙を、定性、定量的に解析することが可能となる。
【0068】
<作用効果>
以上説明した第一実施形態に係る摩擦材の解析方法によれば、試料に液体金属Gaを含浸させ、CT装置によって、所定の放射光を照射し、その結果得られる測定データに基づいて画像を生成することで、摩擦材中における材料や空隙の状態、特に空隙の位置や形状を詳細に識別することができる。これにより、成形パッドに含まれる材料の粒度や形状をより解明することができる。また、バインダ樹脂の熱硬化時の発泡など摩擦材の製造プロセスにおける影響因子の関係をより一層解明することができる。その結果、摩擦材中の空隙を含む構成要素の三次元分布のコントロールが可能となり、更に、三次元分布のコントロールを可能とすることで摩擦性能のコントロールも可能となる。また、第一実施形態の摩擦材の解析方法によれば、解析時間の大幅な短縮を図ることが可能となる。その結果、摩擦材の開発過程におけるステップ数も大幅に削減することができ、摩擦材の製造コスト
の削減を図ることも可能となる。
【0069】
[変形例1]
第一実施形態では、CT装置として、Spring-8内の装置を利用したが、CT装置として、他のX線装置を用いてもよい。他のX線装置には、マイクロフォーカスX線透視装置SMX−160LT(島津製作所製)が例示される。この装置の性能は、以下の通りである。すなわち、X線源のフィラメントはLaB6、焦点寸法は最小0.4μm、管電圧は最大160kV、管電流は最大200μA、線源ワーク間の最小距離は0.5mmである。また、より焦点寸法が小さいX線を照射可能なX線装置としては、焦点寸法が0.1μmであるX線装置(東研X線検査株式会社製)が例示される。
【0070】
CT装置としてマイクロフォーカスX線透視装置SMX−160LTを用いた場合の処理は、以下の通りである。ステップS01から03は、第一実施形態と同じであり、ステップS01において摩擦材が所定の大きさに一次加工され、ステップS02において切断された試料に微細加工が施される。そして、ステップS03では、切断され、かつ微細加工が施された試料中の空隙に液体金属が含浸される。
【0071】
ステップS04では、試料に対して焦点寸法が0.4μmのX線が照射され、ステップS05では、試料を透過するX線が検出される。すなわち、変形例1では、照射するX線の焦点寸法が0.4μmである点で、第一実施形態と異なる。その後の処理は、第一実施形態と同じであり、ステップS06では、構成情報(検出されたデータ)に基づいて画像が生成される。例えば、X線装置の検出器で測定された測定データに基づいてimg形式の画像を生成し、このimg形式の画像からTIFF形式の画像を画像変換プログラムによって変換することができる。なお、img形式の画像からTIFF形式の画像への変換は、公知の画像変換プログラムを用いて行えばよい。
【0072】
その後、ステップS07では、第一実施形態と同じく、画像から特定部位の抽出が行われる。第一実施形態では、空隙に含浸した液体金属Gaの線吸収係数に相当する画素値を有する部位が抽出される。これにより、試料(摩擦材)における空隙を、定性、定量的に解析することが可能となる。
【0073】
以上説明したように、液体金属を含浸させて摩擦材を解析する技術は、Spring-8に限らず、より利便性が高いX線装置を用いた場合にも適用可能である。すなわち、試料に液体金属Gaを含浸させ、X線装置によって、所定の放射光を照射し、その結果得られる測定データに基づいて画像を生成することで、摩擦材中における材料や空隙の状態、特に空隙の位置や形状を詳細に識別することができる。
【0074】
[変形例2]
第一実施形態では、液体金属としてGaを用いたが、変形例2では、液体金属としてHgを用いる。Hgの線吸収係数は、283.82μ(1/cm)であり、試料を構成する材料の線吸収係数とは異なる値を有する(表1参照。)。
【0075】
液体金属としてHgを用いた場合の処理は、基本的に、第一実施形態で説明した処理と同じである。相違点について説明すると、ステップS03において液体金属Hgを空隙に含浸させる際の圧力は、16.4MPaである(第一実施形態では、圧力は、19.6MPa。)。その他の処理は、第一実施形態と同じであるので、説明は割愛する。
【0076】
ここで、図5は、生成された画像(CT画像)の一例を示す。図5に示すように、液体金属Hgの位置及び形状が画像から確認することができる。各画素の濃淡は、構成要素の線吸収係数に対応しており、線吸収係数は、試料を構成する各構成要素、すなわち、材料
の密度と含有元素に対応している。すなわち、線吸収係数μは、各材料に含まれる元素と組成によって決定される質量吸収係数μ/ρと密度ρとの積によって評価することができる。従って、材料毎の線吸収係数を予め特定しておくことで、各画素値に対応する材料や空隙を特定することができる。
【0077】
以上説明した変形例2に係る摩擦材の解析方法によれば、試料に液体金属Hgを含浸させ、Spring-8内に設置されているCT装置によって、所定の放射光を照射し、その結果得られる測定データに基づいて画像を生成することで、摩擦材中における材料や空隙の状態、特に空隙の位置や形状を詳細に識別することができる。なお、変形例2に係る摩擦材の解析方法においても、CT装置として、他のX線装置を用いてもよい。
【0078】
[第二実施形態]
第二実施形態では、摩擦材の解析方法のうち、空隙の算出について説明する。以下に説明する第二実施形態に係る空隙の算出に関する技術は、上述した第一実施形態や変形例1、2に係る技術と共に用いることができる。また、第二実施形態に係る空隙の算出に関する技術は、上述した第一実施形態や変形例1、2に係る技術とは別に単独で用いることもできる。
【0079】
第二実施形態に係る摩擦材の解析方法は、コンピュータが各処理を実行することで実現される。例えば、第二実施形態に係る摩擦材の解析方法は、第一実施形態に係る摩擦材の解析システム200を構成するコンピュータ1や既存のコンピュータによって実現される。
【0080】
第二実施形態に係るコンピュータ1aは、制御部10等を格納する筐体11、ディスプレイ等の表示部12、ポインティングデバイスやキーボード等の操作部13、外部機器と接続可能なインターフェース14備える(図6参照)。なお、第一実施形態と同様の構成については、同一符号を付すことで、説明は割愛する。
【0081】
第二実施形態に係るコンピュータ1は、記憶部103、構成情報取得部104、画像生成部105、変換部106、補正部107、空隙率算出部108の各機能部を備える。これらの各機能部は、CPU上で実行されるコンピュータプログラムとして構成することができる。また、各機能部は、専用のプロセッサとして構成してもよい。
【0082】
構成情報取得部104は、摩擦材からなる試料に対して所定の放射光を照射し、少なくとも空隙の位置に関する情報と形状に関する情報とのうち少なくともいずれか一方を含む摩擦材の構成情報を取得する。構成情報取得部104は、構成情報が既にコンピュータ1の記憶部103に格納されている場合、コンピュータ1の記憶部103にアクセスして、構成情報を取得する。また、第一実施形態の摩擦材の解析システムの場合、構成情報取得部104は、CT装置2の記憶部103にアクセスして取得することができる。更に、構成情報取得部104は、可搬型記録媒体にアクセスし、可搬型記録媒体に記録された構成情報を取得してもよい。
【0083】
画像生成部105は、構成情報取得部104で取得された構成情報に基づいて画像を生成する。生成された画像には、少なくとも空隙の位置や形状が含まれる。
【0084】
変換部106は、生成された画像を変換する。具体的には、周囲に空隙が存在する特定の材料であって、摩擦材を構成する材料の中から特定された材料に対応する画素の明るさと空隙に対応する画素の明るさとを対比して、特定の材料を含む画像における明るさの変化値を算出し、該特定の材料と該空隙との境界を抽出する。第二実施形態では、特定の材料として、カシューダストを用いる。
【0085】
補正部107は、摩擦材の試験者から、変換後の画像に対する補正指示であって、変換後の画像における空隙の位置や形状の補正指示を受け付け、該補正指示に従って変換後の画像を補正する。すなわち、補正部107は、操作部13を介して試験者からの補正指示を受け付け、受け付けた指示に基づいて画像を補正する。
【0086】
空隙率算出部108は、変換部106による変換後の画像、又は、補正部による補正後の画像から、摩擦材に占める空隙の占める割合である空隙率を算出する。
【0087】
<処理フロー>
次に上述した摩擦材の処理方法のうち、空隙の算出に関する処理について説明する(図7参照)。以下の説明では、第二実施形態に係る空隙の算出に関する技術を、第一実施形態で説明した摩擦材の処理方法と共に用いる場合を例に説明する。なお、第一実施形態で説明した処理内容については、その詳細な説明は割愛する。
【0088】
ステップS01では、摩擦材が所定の大きさに一次加工される。第二実施形態では、第一実施形態と同じく、摩擦材が3×3×10mmの直方体の試料に切断される。次に、ステップS02では、切断された試料に微細加工が施され、直方体に切断された試料が、φ0.6×10mmの円筒形の試料に加工される。試料の加工が完了すると、ステップS04へ進む。
【0089】
ステップS04では、CT装置2により、試料に対して放射光が照射され、試料を透過する放射光が検出される。放射光を照射し、透過する放射光が検出されることで、CT装置2において、摩擦材の構成情報が取得される。CT装置2で取得された構成情報は、コンピュータ1の記憶部103に記憶される。
【0090】
なお、放射光の照射及び放射光の検出の条件は、以下のように設定することができる。以下の条件は、CT装置2として、第一実施形態で説明したSpring-8内の装置を利用する場合のものである。具体的には、入射エネルギーは、25keVとし、アンジュレータ磁極間隔、すなわち放射光を発生するために配置される磁石の間隔は、10.56mmである。検出器は、BM3(×20)+C4880-41Sであり、ピクセル数は、2000×1312とし、ピクセルサイズは、0.47μm/pixelである。投影数は、1800である。また、試料と検出器との距離は、20mm程度とし、露光時間は、300msecである。放射光の照射・検出が完了すると、ステップS06へ進む。
【0091】
ステップS06では、構成情報取得部104は、記憶部103にアクセスして、構成情報を取得する。構成情報が取得されると、ステップS07へ進む。
【0092】
ステップS07では、画像生成部105が、構成情報(検出されたデータ)に基づいて画像を生成する。第二実施形態では、CT装置の検出器で測定された構成情報に基づいてimg形式の画像が生成される。次に、このimg形式の画像からTIFF形式の画像が生成される。第二実施形態では、第一実施形態と同じく、画像生成部105として、Spring-8で得られたimg画像を画像に変換するプログラム(プログラム名:ct_manual.lzh)を用いることができる。なお、試料を透過した放射光に基づいて二次元画像を生成する技術や、生成された二次元画像に基づいて三次元画像を生成する技術としては、様々なものが知られている。従って、画像生成部105は、他の既存の画像生成プログラムとして構成してもよい。
【0093】
ここで、図8は、生成された画像の一例を示す。各画素の濃淡は、画像の構成要素の線吸収係数に対応しており、線吸収係数は、試料を構成する材料の密度及び含有元素に対応
している。例えば、図8において、線吸収係数の高い材料を含む摩擦材の最も高い画素値を65536とした場合、空隙の画素値は10000〜14500の範囲で表される。但し、線吸収係数の低いカシューダストの画素値は、11000〜15500の範囲で表される。従って、単に画素値の閾値を設定して、空隙を抽出しようとしても、空隙に対応する画素値とカシューダストに対応する画素値の範囲に重複部分があり、境界を明確に識別することが難しい。その結果、空隙率の算出においても誤差が出ることが懸念される。この点、第二実施形態では、以下に説明する処理を実行することで空隙との材料との境界をより明確に識別することが可能となる。画像が生成されるとステップS06−1へ進む。
【0094】
ステップS06−1では、変換部106が、生成された画像において、カシューダストと空隙との境界が視覚的に特定可能なように生成された画像を変換する。カシューダストは、摩擦材を構成する材料の一つであり、周囲に空隙を有すると共に、線吸収係数の値が特に低いものとして選択されたものである。換言すると、表2に示すように、カシューダストの線吸収係数は、0.29μ(1/cm)であり、空隙の線吸収係数(≒0.00)と近似している。このように空隙と材料との境界の識別が難しい場合の処理として、本処理は有効である。第二実施形態では、まず、画像を明るさに応じて数値化する。次に、数値化した画像について、微分処理やノイズ処理を施す。図9は、変換後の画像の一例を示す。
【0095】
【表2】

【0096】
第二実施形態では、変換部106として、画像処理プログラム(プログラム名:ImageJ)を用いることができる。このプログラムは、URLhttp://rsb.info.nih.gov/ij/より得ることができる。変換部106が、画像の数値化、微分処理、及びノイズ除去処理を行うことで、カシューダストと空隙の境界を視覚的に容易に特定することが可能となる。なお、変換部106は、画像の数値化、微分処理やノイズ処理を実行可能な他の既存のプログラムとして構成してもよい。画像の変換が完了すると、ステップS06−2へ進む。なお、第二実施形態では、線吸収係数が低い材料として、カシューダストを選択したが、空隙との境界を明確するための材料として選択する材料は、これに限定されるものではない

【0097】
ステップS06−2では、補正部107が、摩擦材の試験者から、変換後の画像に対する補正指示であって、変換後の画像における空隙の位置や形状の補正指示を受け付け、該補正指示に従って変換後の画像を補正する。第二実施形態では、試験者からの補正指示により、カシューダストの周囲に存在する空隙のみが表示されるよう空隙以外の領域にある画素が消去される。このような補正を行うことで、図10に示すように、カシューダストと空隙との境界がより明確となる。補正が完了すると、ステップS06−3へ進む。
【0098】
ステップS06−3では、空隙率算出部108は、補正部107による補正後の画像から、摩擦材に占める空隙の占める割合である空隙率を算出する。第二実施形態では、カシューダストの周囲に存在する空隙について、カシューダストの面積に対する空隙の面積の比率を空隙率として算出した。表3は、算出結果の一覧を示す。表3は、複数の画像に対して画像処理、変換処理、補正処理、空隙率算出処理を行った算出結果である。空隙率の算出において、1画素は、面積1とした。表3における空隙率は、カシューダストを分母、カシューダストの周囲の空隙の面積を分子とした場合の%値である。また、表3における空隙率の総計は、カシューダストの面積の総計を分母、カシューダストの周囲の空隙の面積の総計を分子とした場合の%値である。複数の画像に対して上述したステップS06−1から06−3の処理を繰り返し実行することで、摩擦材全体における空隙率の算出が可能である。
【0099】
【表3】

【0100】
<作用効果>
以上説明した第二実施形態に係る摩擦材の解析方法によれば、摩擦材中における材料や空隙の状態、特に空隙の位置や形状を詳細に識別することができる。特に、カシューダストのように線吸収係数の値が低く、その周囲に形成される空隙との区別がつきにくい材料を含む摩擦材において、その周囲に形成される空隙との区別がつきにくい材料とその材料の周囲に形成される空隙との境界を区別することが可能となる。その結果、摩擦材のように線吸収係数が高い材料と線吸収係数が低い材料との双方を含有する対象物における空隙
率を容易に算出することができる。
【0101】
[変形例3]
第二実施形態における摩擦材の解析方法は、以下の態様とすることができる。すなわち、摩擦材の試験者が比較できるよう、変換部106による変換前の画像と変換部による変換後の画像とを表示部12に比較可能に表示させる比較表示部109をコンピュータ1aが更に備える構成とすることができる(図11参照)。そして、変換部による変換完了後(ステップS06−1の処理の完了後)、比較表示部109によって、摩擦材の試験者が比較できるよう、変換部106による変換前の画像と変換部による変換後の画像とを表示部12に比較可能に表示させることができる。これにより、補正する際の利便性が向上する。また、補正の精度を向上することができる。
【0102】
[変形例4]
なお、比較表示部109は、変換部による変換前の画像に代えて、若しくは、変換部による変換前の画像に更に加えて、液体金属を空隙に含浸した摩擦材に基づいて生成された画像を、変換部による変換後の画像と比較可能に表示するようにしてもよい。これにより、補正する際の利便性が向上するともに、補正の精度をより高めることができる。
【0103】
なお、液体金属を空隙に含浸した摩擦材に基づいて生成された画像は、第二実施形態における処理を行った試料に対して、第一実施形態で説明したステップS03から06の処理、すなわち、液体状の金属を空隙に含浸し、放射光の照射・検出をし、構成情報を取得して、画像を生成すればよい。
【0104】
なお、第二実施形態、及び変形例3、4では、CT装置として、Spring-8内の装置を用いたが、第二実施形態、及び変形例3、4で説明した技術は、より利便性が高いX線装置(例えば、変形例2で示す装置。)を用いた場合にも適用可能である。すなわち、X線装置によって、所定のX線を照射し、その結果得られる測定データに基づいて画像を生成し、上述した変換処理や補正処理等を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0105】
1、1a・・・コンピュータ
2・・・CT装置
10・・・制御部
11・・・筐体
12・・・表示部
13・・・操作部
101・・・CPU
102・・・メモリ
103・・・記憶部
104・・・構成情報取得部
105・・・画像生成部
106・・・変換部
107・・・補正部
108・・・空隙率算出部
109・・・比較表示部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材を構成する材料とは異なる性質を有する所定の液体を、前記摩擦材の空隙に含ませる含浸ステップと、
前記所定の液体を含む前記摩擦材からなる試料に対して所定のX線を照射し、前記空隙に存在する前記所定の液体の反応から、前記空隙の位置に関する情報と形状に関する情報とのうち少なくともいずれか一方を含む摩擦材の構成情報を取得する構成情報取得ステップと、
前記構成情報取得ステップで取得された前記構成情報に基づいて画像を生成する画像生成ステップと、を備える摩擦材の解析方法。
【請求項2】
前記所定のX線は、焦点寸法が1μm未満のX線、又は、電子が磁場で曲げられたときに発生するシンクロトロン放射光である、請求項1に記載の摩擦材の解析方法。
【請求項3】
前記所定の液体は、前記摩擦材を構成する材料とは異なる性質を有することで、前記所定のX線を照射した際、該摩擦材を構成する材料とは異なる反応を示す液体である請求項1又は2に記載の摩擦材の解析方法。
【請求項4】
前記所定の液体は、前記摩擦材を構成する材料とは異なる線吸収係数を有する液体状の金属である請求項1から3の何れか1項に記載の摩擦材の解析方法。
【請求項5】
摩擦材を構成する材料とは異なる性質を有する所定の液体が前記摩擦材の空隙に含浸された前記摩擦材からなる試料に対して所定のX線を照射し、前記空隙に存在する前記所定の液体の反応から、前記空隙の位置に関する情報と形状に関する情報とのうち少なくともいずれか一方を含む摩擦材の構成情報を取得する構成情報取得ステップと、
前記構成情報取得ステップで取得された前記構成情報に基づいて画像を生成する画像生成ステップと、をコンピュータが実行する摩擦材の解析方法。
【請求項6】
前記所定のX線は、焦点寸法が1μm未満のX線、又は、電子が磁場で曲げられたときに発生するシンクロトロン放射光である、請求項5に記載の摩擦材の解析方法。
【請求項7】
前記所定の液体は、前記摩擦材を構成する材料とは異なる性質を有することで、前記所定のX線を照射した際、該摩擦材を構成する材料とは異なる反応を示す液体である請求項5又は6に記載の摩擦材の解析方法。
【請求項8】
前記所定の液体は、前記摩擦材を構成する材料とは異なる線吸収係数を有する液体状の金属である請求項5から7の何れか1項に記載の摩擦材の解析方法。
【請求項9】
前記画像生成ステップは、
前記構成情報取得ステップで取得された構成情報に基づいて、二次元画像を生成する二次元画像生成ステップと、
前記二次元画像生成ステップで生成された二次元画像に基づいて三次元画像を生成する三次元画像生成ステップと、を含む、請求項5から8の何れか1項に記載の摩擦材の解析方法。
【請求項10】
前記画像生成ステップで生成された画像から、前記摩擦材を構成する所定の構成要素を抽出し、抽出した構成要素を視覚的に映し出す抽出ステップを更に備える請求項5から9の何れか1項に記載の摩擦材の解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−95129(P2011−95129A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250088(P2009−250088)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】