説明

摩砕方法及び摩砕装置

【課題】 可撓性を有する容器を外側から加圧し摩砕する方式において、効率的かつ安価に良好な摩砕結果が得られる摩砕方法を提供する。
【解決手段】 可撓性を有し試料抽出に使用される容器1に緩衝液と対象4とを入れたものを用意し、容器1内の対象4を外部から容器1を加圧することにより、自動的に摩砕する。加圧子6、7により容器1を加圧して対象を摩砕する。摩砕の途中で加圧子6、7による加圧を緩和する。一旦加圧子6、7から逃げた対象が再度加圧子6、7による力を受ける位置へ戻る機会を設ける。対象をまんべんなく摩砕し、良好な摩砕結果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性を有する容器に、緩衝液と検査の対象とを入れたものを自動的に摩砕する摩砕方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウイルス、細菌等の病原体への感染検査、薬毒物の検査を行うに先立ち、検査の対象となる、動物又は植物の組織、器官等の全部又は一部そのもの、あるいは、感染部位(例えば、咽頭や鼻腔など)のぬぐい液を付着させた綿球(及びその綿球と一体的になっている綿棒の一部)を容器中の緩衝液に浸し、ホモジナイズのために摩砕して、緩衝液内へ取り出す操作が実施される。
【0003】
従来より、このような摩砕の道具代としては、乳鉢と乳棒とを用いるのが最も安価である。しかしながら、十分に摩砕するには検査者の疲労が大きく、多量の対象を摩砕するのは絶望的である。
【0004】
その他、例1:内部に編み目を設けた薄地のバッグに対象を入れ袋ごと押しつぶすもの、例2:羽根車を容器内へ入れ回転させる方式のもの、あるいは、例3:特許文献1(特開2007−237008号公報)に開示されるように磁石を容器に入れ磁石により対象を摩砕するものなどが知られている。
【0005】
例1は、手作業で押しつぶしを繰り返さなければならないので、多量の対象には適用できない。
【0006】
例2、例3のように、容器内へ対象でも緩衝液でもない異物を挿入する方式では、対象が綿球であるとき綿球と異物が干渉して実用にならないし、さらには、異物は病原体や薬毒物に接触してしまうため、異物を繰り返し使用するには使用の都度、消毒や滅菌というような余計な操作を実施しなければならず、煩雑を極める。
【0007】
このほかに、容器に振動を印可し摩砕する装置もあるが、非常に高価(100万円程度)で、かつランニングコストもかさむため、実用性に乏しく極めて限定的に使用されているというのが実情である。
【0008】
本出願人の一部は、可撓性を持ち、手で外部から揉むと極めて効率的に対象を摩砕できる容器を開発し提案した(特許文献2:特開2007−218903号公報)。しかしながら、この容器であっても一人の検査者が多量の対象を摩砕しようとすると疲労が蓄積する。
【特許文献1】特開2007−237008号公報
【特許文献2】特開2007−218903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、以上の状況に鑑み、この容器を使用して自動摩砕でき、かつ安価で使用しやすい摩砕方法及びその装置を鋭意研究し本発明を完成するに至った。
【0010】
さらに後に詳述するようにその検証過程において、容器は上記容器のみならず可撓性を有するものならば市販されている他の容器を用いても、良好な摩砕結果が得られることが判明した。
【0011】
すなわち本発明は、可撓性を有する容器を外部から加圧し摩砕する方式において、効率的かつ安価に良好な摩砕結果が得られる摩砕方法及びその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明に係る摩砕方法は、可撓性を有し試料抽出に使用される容器に緩衝液と対象とを入れたものを自動的に摩砕する摩砕方法であって、加圧子により容器を外部から加圧して対象を摩砕する摩砕ステップを備え、摩砕ステップの途中に加圧子による加圧を緩和する加圧緩和ステップを含む。
【0013】
この構成により、対象を摩砕するために、加圧子により容器を外側から内側へ加圧し、手揉みによる力を模した力を容器(即ちその内部で緩衝液に浸されている対象)へ作用させる。
【0014】
ここで、加圧子による力が作用する箇所に位置する対象は、摩砕され摩砕済み対象として緩衝液内へ取り出される。
【0015】
しかしながら、対象は緩衝液内へ浸されているから、加圧子から逃げた位置へ移動するものもあり得る。
【0016】
よって、加圧緩和ステップを含めることにより、一旦加圧子から逃げた対象が再度加圧子による力を受ける位置へ戻る機会を設定する。これにより、対象をまんべんなく摩砕し、良好な摩砕結果を得ることができる。
【0017】
加圧緩和ステップでは、加圧子による加圧をゼロとしてもよい。
【0018】
こうすれば、加圧子から逃げた対象へ作用する力をゼロにして、一旦加圧子から逃げた対象が再度加圧子による力を受ける位置へ戻る確率を高め、対象をまんべんなく摩砕し、良好な摩砕結果を得ることができる。
【0019】
対象は、植物の葉の全部又は一部であってもよいし、ぬぐい液を付着させた綿球であってもよいし、動物の組織又は器官の全部又は一部であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、以上のように構成したので、一旦加圧子から逃げた対象が再度加圧子による力を受ける位置へ戻る可能性を向上でき、対象をまんべんなく摩砕し、良好な摩砕結果を得ることができる。
【0021】
しかも、摩砕操作を、加圧子により自動化できるから、検査者の疲労はほとんどない。
【0022】
病原体や薬毒物に接触する異物を使用する必要がないから、異物の消毒や滅菌というような余計な操作は不要である。
【0023】
容器に振動を印可するための複雑な機構は不要であるため、摩砕装置をシンプルにかつ安価に構成でき、摩砕操作を現実的に自動化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。まず、本発明の摩砕方法の説明に先立ち、本発明に対する比較例(前提事項)における摩砕方法及びその問題点について説明する。
【0025】
図1は、比較例における摩砕方法の工程説明図である。まず、容器1を用意する。容器1は、従来の技術の項において述べたように、可撓性材料(例えば、透明又は半透明の樹脂等)からなり内部に摩砕を促進するため溝あるいは凹凸を有するものが望ましい。また、図1の容器1は、幅広のフランジ2及びその上部に頭部3を有する。詳しくは、特許文献2を参照されたい。
【0026】
まず、容器1に緩衝液と共に未処理対象4を入れ、一対の加圧子6、7間に容器1をセットする。対象が綿球であるときは、綿棒のうち綿球の反対側の端部は、通常、容器1よりも上方へ突出するため、頭部3を開放したままとする。しかしながら、対象が綿球でないときは、頭部3にキャップ等を装着し、頭部3を封鎖するのが望ましい。なお、短めの綿棒が使用され綿棒がまるごと容器1に収納できる場合も、頭部3にキャップ等を装着し、頭部3を封鎖するのが望ましい。
【0027】
ここで、未処理対象4は、植物または動物由来のサンプルあるいは食品等の検査対象となるものであれば任意である。
【0028】
より具体的には、未処理対象4は、SDV(温州萎縮病ウイルス)の検査を行うのであれば、感染の疑いがあるカンキツ樹の葉またはその一部であり、綿球を備えた綿棒を用いて各種のぬぐい液(例えば、鼻腔、咽頭、角結膜、鼻汁、喀痰、目やに、創傷、糞便、吐瀉物、胃洗浄液等)を検査するのであればそのぬぐい液を付着させた綿球であり、他の組織等(肝臓、腎臓、脾臓、肺、脳、胃内容物、腸内容物等)を検査するのであればその組織等そのものである。
【0029】
検査分野としては、ウイルス、細菌等の病原体への感染検査、薬毒物の検査等が考えられる。
【0030】
以下、説明の便宜上、カンキツ樹の葉の一部を未処理対象4とするが、これは本発明がこの対象に限定されるという趣旨ではなく、以下、対象が上記綿球あるいは他の組織等である場合も本発明に包含され、本発明は同様に適用できる。
【0031】
次に図1を参照しながら、上記容器1と加圧子6、7を用いて、手揉みを模した力を作用させる自動摩砕を単純に実施する場合の問題点を説明する。さて、図1(a)に示すように、加圧子6、7の間に容器1をセットした上で、図1(b)〜図1(e)に示すように、加圧子6、7により容器1を外部から加圧し、加圧子6、7に手揉みを模した動作をさせると、加圧子6、7に挟まれた箇所に位置する未処理対象4は摩砕されて、図1(f)に示すように処理済み対象5となる。
【0032】
しかしながら、図1(b)のように加圧子6、7による加圧を開始する際に、未処理対象4は緩衝液内に浸されており、比較的自由に上下に移動することができる。加圧子6、7間の緩衝液が加圧されると、加圧子6、7間の緩衝液は、加圧子6、7の間から上方あるいは下方へ流動する。
【0033】
この流動に伴い、加圧子6、7の間から上方あるいは下方へ一部あるいは大部分の未処理対象4が逃げてしまい、加圧子6、7が手揉みを模した動作を行っても、それが空振りになってしまう結果となる。つまり、摩砕効果が不十分となる。このことに本発明者は着目した。
【0034】
つまり結果として、図1(f)に示すように、一部の未処理対象4は摩砕されて処理済み対象5となっても、その他の未処理対象4は摩砕動作が完了した後も依然として未処理対象4のままとなり得る。
【0035】
本発明者は以上の結果を検討し、手揉みを模した動作を単純に継続するだけではなく、その間に加圧を緩和する動作を挿入することにより、摩砕効果が大幅に向上することを見いだした。
【0036】
次に本発明による摩砕方法の概要を、図2を参照しながら説明する。まず図2(a)に示すように容器1をセットする。この点は、図1(a)と同様であるため重複する説明を省略する。
【0037】
次に、図2(b)に示すように、加圧子6、7による加圧を開始し手揉みを模した動作を実行する。この点も図1(b)と同様である。
【0038】
次に、図2(c)に示すように、一旦加圧子6、7による加圧を低減する。図2の例では、加圧子6、7を完全に容器1から外して加圧力をゼロにしているが、必ずしもそうしなくとも良い。
【0039】
即ち、加圧子6、7の加圧力を弱めれば(必ずしも加圧力をゼロにしなくても)、加圧子6、7により押されていた緩衝液が元の位置に戻ろうとし、それに伴い加圧子6、7の間から逃げていた未処理対象4が加圧子6、7の間に戻ることが期待できるからであり、そうしても本願発明に包含される。
【0040】
加圧力を低減すると、図2(c)に示すように、加圧子6、7から上方あるいは下方へ逃げていた未処理対象4は、再び加圧子6、7の間に戻り、再度図2(d)に示すように加圧子6、7による加圧を再開すると、逃げていた未処理対象4の大半は、加圧子6、7により摩砕されることになる。
【0041】
以下、図2(e)に示すように、再度加圧子6、7による加圧を緩和した上で図2(f)に示すように再度加圧子6、7による加圧を再開すると、ほとんどの未処理対象4はよく摩砕され処理済み対象5となる。
【0042】
即ち、手揉みを模した動作を単純に継続するだけではなく、その間に加圧を緩和する動作を挿入すると、後に例を挙げて説明するように、摩砕効率が著しく向上する。
【0043】
摩砕効率は、その後に実施される検査の精度に大きく関係するから、本発明の摩砕方法は、検査精度を向上するためにも大きく資するものである。
【0044】
以下本発明の摩砕方法を実施するための各種の摩砕装置を説明する。
【0045】
(実施の形態1)
実施の形態1では、一対の第1加圧子11及び第2加圧子12とを使用する。これらの第1加圧子11、第2加圧子12とは、相対的に容器1に対してスライドする動作と、相対的に容器1を挟み込む/緩める動作とを、それぞれ行う。
【0046】
図3は、本発明の実施の形態1における摩砕装置の平面図である。
【0047】
基台10上には、図3の上下方向(矢印N1方向は「下向き」)に移動する第1加圧子11と、図3の左右方向(矢印N2方向)に移動する第2加圧子12とが、設けられている。
【0048】
図3では、第1加圧子11は、容器1を緩める位置にあり、第1加圧子11と第2加圧子12との間に所定間隔をあけて複数の容器1がセットされて動作が開始する。これより、多量の対象を同時並行に摩砕できる点が理解されよう。
【0049】
図3に示す状態から図4に示すように、第1加圧子11が矢印N3方向に移動すると、容器1は、第1加圧子11と第2加圧子12とにより圧迫され外部から圧力を受ける。また、第2加圧子12は矢印N2方向へ移動し、容器1を揉む動作が実施される。
【0050】
図2(a)、図2(c)、図2(e)及び図2(g)における加圧緩和動作を図3により実施し、図2(b)、図2(d)及び図2(f)における加圧動作を図4により実施すれば、実施の形態1の装置により、本発明の摩砕方法を実施できる。
【0051】
図3、図4から明らかなように、実施の形態1における摩砕装置によれば、数本の容器1内の未処理対象4を同時並行に自動的に摩砕することができ、手揉みによる疲労を削減できるだけでなく、手揉みによる場合よりも摩砕の能率を大幅に向上できる。
【0052】
次に、図5〜図7を参照しながら、実施の形態1の摩砕装置の実装例を説明する。図5は、同実装例における摩砕装置の平面図、図6は、図5A−A線断面図、図7は、図5B−B線断面図である。
【0053】
基台10には、図3、図4に示したように、矢印N1、N3方向に移動する第1加圧子11と矢印N2方向に往復移動する第2加圧子12とが一対に設けられる。第1加圧子11、第2加圧子12との隙間13には、複数本の容器1がセットされる。勿論、1本の容器1のみをセットすることもできる。
【0054】
図6に示すように、基台10の前方は開放され、装着空間10aが形成されている。検査者は、装着空間10aから容器1を隙間13へ向けてセットできるようになっている。また、装着空間10aは、必要に応じて蓋10bにより閉鎖される。
【0055】
図6に示すように、基台10の内部には、水平な固定板15が設けられ、モータ14の出力軸16が下向きになるように、モータ14は固定板15に固定される。
【0056】
出力軸16には、大径の第1歯車17と接線カム18とが同軸的に軸着される。
【0057】
図6に示す状態では、接線カム18の最大外周が図6の左側に位置し、最小外周が図6の右側に位置し、接線カム18は、半径方向において最大変位tを有する。
【0058】
基台10の底部から起立壁19が立設され、その上端部には引きバネ20の右端部が固定される。引きバネ20の左端部は垂直なカムフォロワ軸21の軸支部に固着される。
【0059】
カムフォロワ軸21の中程には、接線カム18の外周面に周接するカムフォロワ22が回転自在に軸着される。よって、カムフォロワ22には、引きバネ20によるバネ力が付勢され、カムフォロワ22の外周面は、常時接線カム18の外周面に密着する。
【0060】
カムフォロワ軸21の上端部は、第1ステージ23に回転自在に軸着される。第1ステージ23の上面には、第1加圧子11の底面が固着される。
【0061】
したがって、モータ14が駆動されて出力軸16及び接線カム18が回転すると、第1加圧子11は振幅が最大変位tとなるように容器1へ向けて突出して容器1を加圧する位置と容器1から離れて加圧を緩和する位置とを往復する。
【0062】
一方、第2加圧子12の底面が固着される第2ステージ25は、基台10の底部に設けられるスライド台24に対し、図6紙面垂直方向にスライド自在に支持される。
【0063】
また、第2ステージ25の底部の第1歯車17側には、ラック26が形成され、ラック26には回転軸28を中心として回転するピニオン27が噛合している。
【0064】
次に述べる機構により、ピニオン27には出力軸16の回転力が所定の歯車比により伝達されるようになっており、ピニオン27は、水平面内で正転/逆転し、その結果、ピニオン27に噛合するラック26を備えた第2加圧子12が図5の矢印N2方向(図6の紙面垂直方向)に往復移動するようになっている。
【0065】
図7に示すように、出力軸16から離れた位置に、垂直なギア軸31が回転自在に軸支され、ギア軸31の上部には第2歯車32が、ギア軸31の下端部には円板33が、それぞれ同軸的に軸着される。
【0066】
第2歯車32は、第1歯車17と噛合し、円板33の外周部には小円板34の回転軸35が回転自在に軸支される。
【0067】
図5に示すように、揺動腕36は、軸支台39により回転自在に軸支される垂直な揺動軸38を中心として、水平面内を一点鎖線、実線、二点鎖線の間で揺動する。
【0068】
揺動腕36の中程から先端よりやや内側に至る位置には、長孔37が開設され、長孔37の側面には小円板34の周面がスライド自在に接している。
【0069】
よって、モータ14が駆動され、出力軸16が回転すると、第1歯車17、第2歯車32を介してモータ14の回転力が所定の歯車比で小円板34へ伝達され、小円板34は、長孔37に周接しながら図5に示す軌跡を描いて移動する。
【0070】
その結果、揺動腕36が、図5に示すように、揺動軸38を中心にして揺動し、揺動軸38は正転/逆転する。
【0071】
また、揺動軸38には、同軸状に中継歯車40が軸着されており、中継歯車40とピニオン27とは噛合する。
【0072】
よって、ピニオン27は所定の比で正転/逆転し、ピニオン27に噛合するラック26を備えた第2加圧子12は、図5において矢印N2方向へ往復移動することになる。
【0073】
また、図6において、第2加圧子12及び第1加圧子11の内、容器1へ臨む端部には、それぞれ当板29、30が装着される。
【0074】
当板29、30は、ゴム等の弾性材からなり、適当な摩擦係数を有するのが望ましい。第1加圧子11、第2加圧子12における容器1への接触部分が硬くしかも鏡面加工されていると、摩砕動作中に容器1が転倒するおそれがあるが、当板29、30をゴム等の弾性材で構成すると、このような転倒を防止できるためである。
【0075】
例えば、図5において、第2加圧子12が3回矢印N2方向に往復すると、第1加圧子11が1回矢印N1方向に移動するという動作条件が望ましい。しかしながら、これは例示に過ぎず、種々変更しても良い。
【0076】
本発明者は、図3、図4に示した摩砕装置を用いる場合を含め、10サンプルを十分摩砕するために要する時間を比較する実験を行った。
【0077】
その結果、実験例A:乳鉢によるもの(23分)、実験例B:容器1を手揉みしたもの(9分)、実験例C:容器1を実施の形態1による摩砕装置で摩砕したもの(2分)となった。
【0078】
実験例Cは、実験例Bに比べ4倍強の能率が得られたことになるし、実験例Bでは手揉みする個人によりばらつきが見られたが、実験例Cではばらつきは皆無であった。
【0079】
言うまでもなく実験例Bは相当の疲労を伴うが、実験例Cでは疲労は皆無であり、連続する作業にも適することが明らかとなった。
【0080】
実験例Aでは、実験例Cとでは比較の対象にもならないほど能率が悪くしかも疲労も甚大である。
【0081】
SDVについて、実験例Bと実験例Cとを実施した結果は次の通りである。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
摩砕 時間 吸光度
方法 (秒) 1/5 1/10 1/20 1/40
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なし 43 0.29 0.20 0.21 0.17
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手揉み10回 43 0.55 0.42 0.35 0.25
手揉み20回 85 0.69 0.51 0.35 0.26
手揉み30回 128 0.75 0.47 0.37 0.25
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装置 3往復 5 0.57 0.36 0.31 0.25
装置 6往復 10 0.56 0.29 0.30 0.25
装置 9往復 15 0.63 0.31 0.38 0.32
装置12往復 20 0.94 0.81 0.71 0.44
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手揉みの場合、20〜30回で良好な検出感度が得られるが、摩砕装置を用いる場合わずか3往復(5秒)の往復運動で手揉み10回(43秒)の摩砕作業と同程度の検出結果が得られた。
【0082】
摩砕装置を用いて12往復すると、1/5希釈で吸光度0.94という高い検出結果が得られた。
【0083】
綿棒を使用する実験として、
容器:内部に溝を有する容器1、溝を有しない参考容器(市販品:側面は容器1よりも薄い。)
摩砕方法:手揉み、摩砕装置
という条件を組み合わせ、綿球に定量の絵の具(青色)を付け、612nmの吸光度測定に基づく抽出効率を比較する実験を行った。
【0084】
手揉み及び容器1では59.8%(平均値)、手揉み及び参考容器では17.2%(平均値)、摩砕装置及び容器1では69.1%(平均値)、摩砕装置及び参考容器では72.6%(平均値)という結果を得た。
【0085】
これにより、容器としては参考容器よりも容器1が望ましいが、摩砕装置を工夫したことにより、容器1だけでなく参考容器でも高い抽出効率が得られることが判明した。
【0086】
さらに、綿棒の綿球に鼻腔吸引液を付着される例についても実験したが、いずれの容器を使用しても、手揉みに比べ摩砕装置によると、2倍〜4倍程度の希釈倍率において検出感度が得られており、本発明の摩砕装置は、抽出効率ひいては検出感度の向上に大きく資するものであることが判明した。
【0087】
(実施の形態2)
実施の形態2では、ベルト間において容器1を流動させることにより、図2に示す各過程を実現する。
【0088】
図8は、本発明の実施の形態2における摩砕装置の平面図である。
【0089】
図8に示すように、長尺の基台52の上に第1無端ベルト41と第2無端ベルト44とを、基台52の中心線を対称軸として、線対称に配置する。本形態の加圧子は、これらのベルト41、44を備える。
【0090】
第1無端ベルト41は、駆動軸42、43により駆動されて矢印M1、M2方向に移動する。
【0091】
第2無端ベルト44は、駆動軸45、46に駆動されて矢印M3、M4方向に移動する。ここで、本形態では、第1無端ベルト41と第2無端ベルト44とは互いに独立して移動するものとする。
【0092】
容器1は、矢印N4で示すように、図8の左側から導入され矢印N5で示すように図8の左側へ排出される。
【0093】
容器1が通過する区間は、導入区間L1、圧迫区間L2、加圧解除区間L3、圧迫区間L4、加圧解除区間L5、圧迫区間L6及び排出区間L7に分けられている。
【0094】
導入区間L1では、第1無端ベルト41と第2無端ベルト44との間隔が狭まり、容器1は徐々に圧迫され始める。
【0095】
圧迫区間L2、L4、L6では、第1無端ベルト41、第2無端ベルト44の間隔が狭くなっており、さらに第1無端ベルト41、第2無端ベルト44の背後には、第1無端ベルト41、第2無端ベルト44を容器1側に押しつける硬質板49、50、51が、それぞれ配設されている。
【0096】
圧迫区間L2と圧迫区間L4の間に位置する加圧解除区間L3、及び圧迫区間L4と圧迫区間L6の間に位置する加圧解除区間L5では、第1無端ベルト41と第2無端ベルト44との間隔が広げられた幅広部47、48となっており、これらの区間L3、L5では図2(c)、図2(e)に示すように、加圧が解除される。
【0097】
これにより、第1無端ベルト41、第2無端ベルト44の間から逃げていた未処理対象4も再度第1無端ベルト41、第2無端ベルト44の間に戻ることができる。
【0098】
望ましくは、第1無端ベルト41は駆動軸42、43に駆動され、数センチ矢印M1、M2方向に移動してから停止し、この停止の直後に第2無端ベルト44が駆動軸45、46に駆動され数センチ矢印M3、M4方向に移動してから停止する、という動作を繰り返すようにする。
【0099】
こうすると、圧迫区間L2、L4、L6において、容器1は、硬質板49、50、51に後押しされる、第1無端ベルト41及び第2無端ベルト44により圧迫されるだけでなく、第1無端ベルト41、第2無端ベルト44により交互に引きずられる結果となり、容器1内の対象は、よく摩砕される。
【0100】
最後に、排出区間L7において、第1無端ベルト41と第2無端ベルト44との間隔が広まり、容器1の圧迫が徐々に解除され、容器1は、矢印N5方向へ排出される。
【0101】
なお、図8に示した第1無端ベルト41、第2無端ベルト44の経路は、例示に過ぎず、種々変更できることは言うまでもない。
【0102】
(実施の形態3)
図9は、本発明の実施の形態3における摩砕装置の平面図である。
【0103】
実施の形態3では、基台60上に、複数の第1円柱ローラ61、第2円柱ローラ62、第3円柱ローラ63の軸方向が垂直となるように設けられる。
【0104】
実施の形態3では、第1円柱ローラ61と第2円柱ローラ62とは、一定の軸を中心に回転するが、第3円柱ローラ63の回転軸は矢印N6で示すように容器1への圧迫位置と加圧解除位置とで移動する。即ち、本形態の加圧子は、これらのローラ61〜63を備える。なお、第3円柱ローラ63の回転軸の移動手段は周知手段で差し支えないので、その詳細な説明は省略する。
【0105】
第3円柱ローラ63が実線で示される圧迫位置にあると、第1円柱ローラ61、第2円柱ローラ62及び第3円柱ローラ63とにより、図2(b)、図2(d)、図2(f)に示すように、容器1内の対象は摩砕される。
【0106】
第3円柱ローラ63が一転鎖線で示される加圧解除位置にあると、図2(c)、図2(e)に示すように容器1への加圧が解除され、第1円柱ローラ61、第2円柱ローラ62及び第3円柱ローラ63の間から逃げていた対象が、第1円柱ローラ61、第2円柱ローラ62及び第3円柱ローラ63の間に戻ることができる。
【0107】
図9では、3本の円柱ローラによる例を示したが、ローラの本数は適宜変更しても差し支えない。
【0108】
また、図9では、第3円柱ローラ63のみが回転軸を移動するようにしたが、例えば、第1円柱ローラ61、第2円柱ローラ62も回転軸を移動するようにしても良い。
【0109】
(実施の形態4)
図10(a)、(b)は、本発明の実施の形態4における摩砕装置の平面図である。
【0110】
実施の形態4では、基台70上に、複数の第1回転ロータ71、第2回転ロータ72、第3回転ロータ73の軸方向が垂直となるように設けられる。即ち、本形態の加圧子は、これらのロータ71〜73を備える。
【0111】
実施の形態4では、実施の形態3とは異なり、第1回転ロータ71、第2回転ロータ72、第3回転ロータ73の回転軸は、一定である。よって、回転軸の移動手段は不要であり、本形態の摩砕装置は、実施の形態3のそれよりも、一般により軽量にかつコンパクトに形成できる。
【0112】
また、実施の形態4では、第1回転ロータ71、第2回転ロータ72、第3回転ロータ73は、三葉のロータからなるので、図10(a)に示すように、第1回転ロータ71、第2回転ロータ72、第3回転ロータ73のそれぞれの先端部が容器1に食い込み容器1を圧迫する状態を採りうる。
【0113】
このとき、図2(b)、図2(d)、図2(f)に示すように、容器1内の対象は摩砕される。
【0114】
一方、図10(b)に示すように、第1回転ロータ71、第2回転ロータ72、第3回転ロータ73の谷間が容器1を向き容器1への加圧が解除される状態とを採りうる。
【0115】
このとき、図2(c)、図2(e)に示すように容器1への加圧が解除され、第1回転ロータ71、第2回転ロータ72、第3回転ロータ73の各葉の間から逃げていた対象が、第1回転ロータ71、第2回転ロータ72、第3回転ロータ73の各葉の間に戻ることができる。
【0116】
図10では、三葉のロータを3本設ける例を示したが、ロータの形状あるいは葉数やロータの本数は適宜変更しても差し支えない。
【0117】
また、図10では、第1回転ロータ71、72、73が同期的に回転するにしたが、これも種々変更できる。
【0118】
(その他)
実施の形態3、4では、一本の容器1を処理する摩砕装置を説明した。このような摩砕装置は、小型に形成できるので、例えば検査者、医師あるいは看護師等のデスクサイド等にも設置可能である。
【0119】
基台60及び基台70は、円柱状に形成されており、回転するローラやロータなどに検査者の指などが不用意に触れて怪我をしないようにするため、基台60、基台70の上部に、図11あるいは図12に示すような上部カバー74、76を設けるのが望ましい。
【0120】
図11では、ローラあるいはロータ間の中心軸が通る円と同軸的な円孔75を開設し、矢印N7で示すように容器1を上方から円孔75を介して垂直下方へ挿入するように形成されている。
【0121】
図12では、上部カバー76の側部にスリット77を開設し、矢印N8で示すように容器1を横からスリット77を介してローラあるいはロータ間の中心軸へ挿入するように形成されている。図11、図12のようにすれば、容器1を把持する検査者の指等を保護することができ、安全面で好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】(a)比較例における摩砕方法の過程説明図 (b)比較例における摩砕方法の過程説明図 (c)比較例における摩砕方法の過程説明図 (d)比較例における摩砕方法の過程説明図 (e)比較例における摩砕方法の過程説明図 (f)比較例における摩砕方法の過程説明図
【図2】(a)本発明の一実施の形態における摩砕方法の過程説明図 (b)本発明の一実施の形態における摩砕方法の過程説明図 (c)本発明の一実施の形態における摩砕方法の過程説明図 (d)本発明の一実施の形態における摩砕方法の過程説明図 (e)本発明の一実施の形態における摩砕方法の過程説明図 (f)本発明の一実施の形態における摩砕方法の過程説明図 (g)本発明の一実施の形態における摩砕方法の過程説明図
【図3】本発明の実施の形態1における摩砕装置(加圧緩和位置)の平面図
【図4】本発明の実施の形態1における摩砕装置(加圧位置)の平面図
【図5】本発明の実施の形態1における摩砕装置の平面図
【図6】図5A−A断面図
【図7】図5B−B断面図
【図8】本発明の実施の形態2における摩砕装置の平面図
【図9】本発明の実施の形態3における摩砕装置の平面図
【図10】(a)本発明の実施の形態4における摩砕装置(加圧位置)の平面図 (b)本発明の実施の形態4における摩砕装置(加圧緩和位置)の平面図
【図11】図8又は図9の摩砕装置用の上部カバーの斜視図
【図12】図8又は図9の摩砕装置用の他の上部カバーの斜視図
【符号の説明】
【0123】
1 容器
2 フランジ
3 頭部
4 未処理対象
5 処理済み対象
6、7 加圧子
10、52、60、70 基台
10a 装着空間
10b 蓋
11 第1加圧子
12 第2加圧子
13 隙間
14 モータ
15 固定板
16 出力軸
17 第1歯車
18 接線カム
19 起立壁
20 引きバネ
21 カムフォロワ軸
22 カムフォロワ
23 第1ステージ
24 スライド台
25 第2ステージ
26 ラック
27 ピニオン
28、35 回転軸
29、30 当板
31 ギア軸
32 第2歯車
33 円板
34 小円板
36 揺動腕
37 長孔
38 揺動軸
38 軸支台
40 中継歯車
41 第1無端ベルト
42、43、45、46 駆動軸
44 第2無端ベルト
47、48 幅広部
49、50、51 硬質板
61 第1円柱ローラ
62 第2円柱ローラ
63 第3円柱ローラ
71 第1回転ロータ
72 第2回転ロータ
73 第3回転ロータ
74、76 上部カバー
75 円孔
77 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有し試料抽出に使用される容器に緩衝液と対象とを入れたものを自動的に摩砕する摩砕方法であって、
加圧子により前記容器を外部から加圧して前記対象を摩砕する摩砕ステップを備え、
前記摩砕ステップの途中に前記加圧子による加圧を緩和する加圧緩和ステップを含むことを特徴とする摩砕方法。
【請求項2】
前記加圧緩和ステップでは、前記加圧子による加圧をゼロとする請求項1記載の摩砕方法。
【請求項3】
前記対象は、植物の葉の全部又は一部である請求項1記載の摩砕方法。
【請求項4】
前記対象は、ぬぐい液を付着させた綿球である請求項1記載の摩砕方法。
【請求項5】
前記対象は、動物の組織又は器官の全部又は一部である請求項1記載の摩砕方法。
【請求項6】
可撓性を有し試料抽出に使用される容器に緩衝液と対象とを入れたものを自動的に摩砕する摩砕装置であって、
前記容器を外部から加圧して前記対象を摩砕する加圧子を備え、
前記加圧子は、前記対象を摩砕する途中で加圧を緩和することを特徴とする摩砕装置。
【請求項7】
前記加圧子は、前記容器に接してスライド移動する第1加圧子と、
前記容器から見て前記第1の加圧子の反対側に位置し、かつ前記容器を外部から加圧する加圧位置と前記容器への加圧を緩和する加圧緩和位置とを往復する第2加圧子とを備える請求項6記載の摩砕装置。
【請求項8】
前記加圧子は、前記容器に接する第1、第2無端ベルトとを備え、
前記第1、第2無端ベルトの移動区間は、前記容器を外部から加圧する加圧区間と、前記容器への加圧を緩和する加圧緩和区間とを含む請求項6記載の摩砕装置。
【請求項9】
前記加圧子は、前記容器に接触可能となるように回転自在に軸支される複数の円柱ローラを備え、
前記複数の円柱ローラの少なくとも一部は、前記容器に圧接して前記容器を外部から加圧する加圧位置と、前記容器への加圧を緩和する加圧緩和位置とを往復移動する請求項6記載の摩砕装置。
【請求項10】
前記加圧子は、前記容器に接触可能となるように回転自在に軸支され、かつそれぞれ複数葉を有する複数の回転ロータを備え、
前記複数の回転ロータの各葉は、前記複数の回転ロータが回転することにより、前記容器に圧接して前記容器を外部から加圧する加圧位置と、前記容器への加圧を緩和する加圧緩和位置とを往復移動する請求項6記載の摩砕装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−220065(P2009−220065A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69496(P2008−69496)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、農林水産省、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(590003722)佐賀県 (38)
【出願人】(508082809)有限会社エスメック (1)
【出願人】(598034720)株式会社ミズホメディー (17)
【Fターム(参考)】