説明

摩耗検知システムおよび摩耗検知装置

【課題】簡易な構成で、摩耗ゲージを摩耗側部品へ安定的に固定するとともに、メンテナンス性の向上を図る。
【解決手段】摩耗検知システム200は、摩耗側部品152の摺動面152a側に開口を有する孔部210と、孔部210に挿入可能であり、摩耗側部品152の摩耗状態を検知する摩耗検知部100と、摩耗検知部100の先端部130が摩耗側部品152の摺動面152aと面一となるように摩耗検知部100を孔部210に固定する固定機構250とを備え、摩耗検知部100は、導電性を有する材料で構成された1または複数の摩耗検知用ライン114を含んで構成され、摩耗検知用ライン114は摩耗側部品152の摩耗に伴って断線されるように配される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械の摺動部の摩耗を検知する摩耗検知システムおよび摩耗検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械の摺動部の摩耗を検知するための摩耗ゲージとして、例えば特許文献1記載の摩耗ゲージが提案されている。この特許文献1記載の摩耗ゲージは、複数の摩耗検知用ラインを含む摩耗検知回路を絶縁板上に設けたものであり、摺動部の摩耗に伴い摩耗検知用ラインが段階的に摩滅することを利用して、摺動部の摩耗状態を検知する。つまり、摩耗ゲージ先端部の摩耗検知用ラインが摩滅して断線すれば、摩耗ゲージから測定部に電気信号が流れなくなるので、当該断線した摩耗検知用ラインの位置まで摺動部の摩耗が進行したことを把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−164377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、各種の産業機械の摺動部を構成する摩耗側部品と、それに対向する対向側部品のうち、摩耗側部品の摩耗状態を検知する場合、上記特許文献1記載のような摩耗ゲージを、摩耗検知対象である摩耗側部品に固定する必要がある。
【0005】
この場合、粘着剤や接着剤を用いて、摩耗ゲージを摩耗側部品に固定することが考えられる。しかし、粘着剤を用いると、摺動部の摩擦に伴って発生する熱が粘着剤に伝搬し、粘着剤の粘性が低下するおそれがある。そうすると、摩耗ゲージが強固に固定されなくなり、摩耗状態の検知の安定性が損なわれてしまう。
【0006】
また、接着剤を用いると、摩耗ゲージを摩耗側部品に安定的に固定できるが、一旦摩耗ゲージを固定すると摩耗側部品から摩耗ゲージを取り外すことが困難になり、メンテナンス性が低下してしまう。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、簡易な構成で、摩耗ゲージを摩耗側部品へ安定的に固定するとともに、メンテナンス性の向上を図ることが可能な摩耗検知システムおよび摩耗検知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる摩耗検知システムは、対向側部品との摺動に伴う摩耗側部品の摩耗を検知する摩耗検知システムであって、少なくとも摩耗側部品の摺動面側に開口を有する孔部と、孔部に挿入可能であり、摩耗側部品の摩耗状態を検知する摩耗検知部と、摩耗検知部の先端部が摩耗側部品の摺動面と面一になるように摩耗検知部を孔部に固定する固定機構と、を備え、摩耗検知部は、導電性を有する材料で構成された1または複数の摩耗検知用ラインを含んで構成され、摩耗検知用ラインは摩耗側部品の摩耗に伴って断線されるように配されることを特徴とする。
【0009】
上記固定機構は、孔部の内周面の少なくとも一部に形成されたネジ溝と、摩耗検知部を固定するとともに、ネジ溝に螺合するネジ山が形成された嵌合部とを有してもよい。
【0010】
上記固定機構は、摩耗検知部を孔部に固定したときに、摩耗検知部の先端部が摺動面と面一になるように位置決めする位置決め部をさらに備えてもよい。
【0011】
上記摩耗検知部の少なくとも一部および固定機構の少なくとも一部のいずれか一方または両方は、樹脂または摩耗側部品と同一の材料で構成されるとしてもよい。上記樹脂は、PTFE、PEEK、ポリイミドから選択されるとしてもよい。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる摩耗検知装置は、対向側部品との摺動に伴う摩耗側部品の摩耗を検知するとともに、少なくとも摩耗側部品の摺動面側に開口を有する孔部に挿入される摩耗検知装置であって、孔部に挿入可能であり、摩耗側部品の摩耗状態を検知する摩耗検知部と、孔部に嵌合することで、摩耗検知部の先端部が摩耗側部品の摺動面と面一になるように摩耗検知部を孔部に固定する嵌合部と、を備え、摩耗検知部は、導電性を有する材料で構成された1または複数の摩耗検知用ラインを含んで構成され、摩耗検知用ラインは摩耗側部品の摩耗に伴って断線されるように配されることを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明にかかる他の摩耗検知装置は、対向側部品との摺動に伴う摩耗側部品の摩耗を検知する摩耗検知装置であって、摩耗側部品に配され、摩耗側部品の摺動面と面一になるように先端部が配置される本体部と、導電性を有する材料で構成され、本体部の先端部から摺動面と遠ざかる方向に、相互に間隔を空けて配置された複数の摩耗検知用ラインと、摩耗検知用ラインに接続され、摩耗検知用ラインの断線を検知する断線検知部と、を備え、本体部は、PTFE、PEEK、ポリイミドから選択される樹脂で形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、簡易な構成で、摩耗ゲージを摩耗側部品へ安定的に固定するとともに、メンテナンス性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態にかかる摩耗検知部を説明するための説明図である。
【図2】第1の実施形態にかかる摩耗検知システムを説明するための説明図である。
【図3】嵌合部の具体的な構成の例を説明するための説明図である。
【図4】摩耗検知部を孔部に挿入する場合の他の構成を説明するための説明図である。
【図5】各樹脂の性質を説明するための説明図である。
【図6】第2の実施形態にかかる摩耗検知部および嵌合部を説明するための説明図である。
【図7】摩耗検知部の他の構成を説明するための説明図である。
【図8】孔部および嵌合部の他の構成を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
(第1の実施形態)
(摩耗検知部100)
図1は、第1の実施形態にかかる摩耗検知部100を説明するための説明図である。図1(a)に示すように、摩耗検知部100は、産業機械の摺動部150付近に設置される。この産業機械の摺動部150は、摩耗側部品152と対向側部品154とを含んで構成され、摩耗側部品152は、対向側部品154に対して少なくとも一部を接触させながら周期的に摺動する。図1(a)に示す例では、摩耗側部品152は、対向側部品154に対して所定の摺動方向(例えば、鉛直(図1(a)中Z軸で示す)方向)に所定の摺動ストロークで図1(a)に示す白抜き矢印の方向に往復運動する。このとき、摩耗側部品152の摺動面152aと、対向側部品154の摺動面154aとは接触しており(ここでは、説明の便宜上、非接触で表している。)、上記摺動動作が繰り返されると、摺動面152aと摺動面154aとが摺り合わされて、摩耗側部品152および対向側部品154の双方、もしくは、少なくとも摩耗側部品152が徐々に摩耗する。
【0018】
本実施形態にかかる摩耗検知部100は、上記のような摺動動作に伴って摩耗する摩耗側部品152の摺動面152aの摩耗状態を検知するためのものである。図1(b)に示すように、摩耗検知部100(摩耗ゲージ)は、本体部110と、複数(ここでは5)のプリントライン112a〜112eとを含んで構成される。本体部110は、例えば、矩形板状のプリント基板で構成され、既存のプリント基板製造技術を用いて製造可能である。本体部110の材料については、後に詳述する。
【0019】
かかる本体部110の基板面には、複数のプリントライン112a〜112e(以下、単に「プリントライン112」と総称する場合がある。)が形成されている。これらのプリントライン112a〜112eのうち、摩耗検知部100の先端部130(本体部110の先端部)に配置される部分がそれぞれ、摩耗検知用ライン114a〜114eを構成する。また、上記各プリントライン112の一端部(すなわち、各摩耗検知用ライン114a〜114eの端部)はそれぞれ、外部接続用の端子116a〜116eに接続されている。当該各プリントライン112の他端部は、ともに、1本の共通プリントライン118に接続されており、当該共通プリントライン118の端部は、外部接続用の共通端子120に接続されている。
【0020】
なお、本実施形態において、摩耗検知用ライン114は、金属(例えば、銅)等の導電性を有する材料で形成された線であり、断線検知部140は、摩耗検知用ライン114の断線を検知する。具体的に説明すると、断線検知部140は、端子116a〜116e、共通端子120に接続されており、プリントライン112a〜112eそれぞれの抵抗値に基づいて摩耗検知用ライン114a〜114e(以下、単に「摩耗検知用ライン114」と総称する場合がある。)の断線を検知する。例えば、低電圧を印加したときの電流値を測定することで、端子116aと共通端子120との抵抗値を求め、その抵抗値が所定の値以上となった場合、摩耗検知用ライン114a(プリントライン112a)が断線したと検知する。
【0021】
このように、本実施形態にかかる摩耗検知部100の先端部130には、複数の摩耗検知用ライン114a〜114eが隣接するライン同士で間隔を空けて配置されている。これら複数の摩耗検知用ライン114は、いずれも、摩耗検知部100の先端面130aに対して平行に配置されている。
【0022】
詳細に説明すると、摩耗検知用ライン114aは、摩耗検知部100の先端面130aの初期位置(摩耗前)に最も近い位置(距離L1)に形成されている。図1(b)に示す例では、摩耗検知用ライン114aと先端面130aの初期位置との距離L1はゼロ超であるが、L1=0として、摩耗検知用ライン114aを初期位置における先端面130aに露出させてもよい。摩耗検知用ライン114bは、先端面130aの初期位置から距離L2の位置に形成されている。同様に、他の摩耗検知用ライン114c、114d、114eは、先端面130aの初期位置から距離L3、L4、L5の位置にそれぞれ形成されている。距離L1〜L5は、それぞれ、序数が大きいほど距離が長くなっている。これら摩耗検知用ライン114a〜114eと本体部110の先端面130aの初期位置との距離L1〜L5が、摩耗検知部100で検知可能な摩耗量となる。
【0023】
かかる摩耗検知部100は、摩耗検知対象である摩耗側部品152に設置される。この際、摩耗検知部100の先端部130が、摩耗側部品152の摺動面152aと面一となるように配置されると、摩耗検知部100の先端面130aが、摩耗検知対象部位である摩耗側部品152の摺動面152aと面一となる。
【0024】
この摩耗検知部100の先端部130は、摩耗側部品152とともに摩耗し、複数の摩耗検知用ライン114が段階的に摩滅することで、摩耗側部品152の摩耗量を段階的に計測する。
【0025】
図1(c)は、摩耗検知部100の先端部130が、初期位置における先端面130aから距離L6(L1<L6<L2)だけ摩耗した状態を示す。この場合、最も外側の摩耗検知用ライン114aは摩滅しているので、プリントライン112aは断線(抵抗値が所定の値以上)するが、その内側の摩耗検知用ライン114b〜114eはいずれも摩耗しておらず、プリントライン112b〜112eは導通(抵抗値が所定の値未満)している。このように、摩耗検知部100は、複数の摩耗検知用ライン114の断線の有無によって、摩耗検知対象部位(摩耗側部品152の摺動面152a)の摩耗量を段階的に計測することができる。
【0026】
このように、産業機械の稼働時には、摩耗側部品152と対向側部品154との摺動により、摩耗側部品152の摺動面152aの摩耗が進行し、それに伴い、摩耗検知部100の先端部130も摩耗する。そして、摩耗量がL1を超えたときに、摺動面152aに最も近い摩耗検知用ライン114aが摩滅して断線し、プリントライン112aの導通が遮断される。さらに、摩耗側部品152の摩耗とともに、摩耗検知部100がさらに摩耗し、摩耗量がL2を超えたときに、次の摩耗検知用ライン114bも摩滅して断線する。同様に、摩耗検知部100の摩耗がさらに進行するにつれ、摩耗検知用ライン114c、114d、114eが順次摩滅して、断線することにより、摩耗量がL3〜L5を超えたことを計測できる。
【0027】
この摩耗検知部100の先端部130の摩耗量L1〜L5は、摩耗側部品152の摺動面152aの摩耗量と同一となるように配置されているため、摩耗検知部100の先端部130の摩耗量を段階的に計測することにより、摩耗側部品152の摩耗量を段階的に検知することができる。以上のように、本実施形態にかかる摩耗検知部100は、複数の摩耗検知用ライン114の断線を利用して、摩耗側部品152の摩耗量を連続的に多段階で計測できることを特徴としている。
【0028】
このように、本実施形態にかかる摩耗検知部100は、摩耗検知対象である摩耗側部品152に設置して利用される。この際、摩耗検知部100の先端部130が、摩耗側部品152の摺動面152aと面一になるように固定されることが必要である。
【0029】
そこで、本実施形態では、摩耗側部品152に摩耗検知部100を確実に固定でき、メンテナンスの際にも取り外しが容易な摩耗検知システム200について説明する。
【0030】
(摩耗検知システム200)
図2は、第1の実施形態にかかる摩耗検知システム200を説明するための説明図である。図2(a)に示すように、摩耗検知システム200は、孔部210と、摩耗検知部100と、断線検知部140と、固定機構250とを含んで構成される。なお、摩耗検知部100、断線検知部140は、上述した摩耗検知部100、断線検知部140と実質的に構成が等しいため、同一の符号を付して説明を省略する。また、図2(b)、(c)において、説明の便宜上、断線検知部140の記載を省略するが、図2(a)と同様に構成されている。
【0031】
孔部210は、例えば、摩耗側部品152に設けられた孔であり、摩耗側部品152の摺動面152a上と、摩耗側部品152における摺動面152aと対向する面152bとに開口210a、210bを有する。
【0032】
固定機構250は、摩耗検知部100の先端部130が摩耗側部品152の摺動面152aと面一になるように摩耗検知部100を孔部210に固定する。本実施形態にかかる固定機構250は、ネジ溝252と、嵌合部260とを含んで構成される。ここでネジ溝252は、孔部210の内周面の少なくとも一部に形成されている。嵌合部260は、摩耗検知部100を固定するとともに、ネジ溝252に螺合するネジ山が形成される。また、図2(a)に示すように、本実施形態において、嵌合部260の後端面260bには、摩耗検知部100の端子116a〜116e、および共通端子120と、断線検知部140とを接続する接続線が挿通される穴(図示せず)が形成されている。
【0033】
図3は、嵌合部260の具体的な構成の例を説明するための説明図である。図3(a)、(b)に示すように、嵌合部260は、円筒形状を有する本体部262と、切り欠き部264と、ネジ山266と、位置決め部268とを含んで構成される。なお、図3(a)、(b)中、理解を容易にするために、摩耗検知部100の端子116a〜116e、および共通端子120と、断線検知部140とを接続する接続線が挿通される穴の記載を省略する。
【0034】
切り欠き部264は、本体部262に設けられ、摩耗検知部100の大きさと実質的に等しい寸法関係を維持している。この切り欠き部264に摩耗検知部100が挿入されると、摩耗検知部100が嵌合部260に固定されることになる(図3(b)参照)。また、本実施形態において切り欠き部264は、摩耗検知部100が挿入されると、摩耗検知部100の先端面130aが、本体部262の先端面262aと面一になるように形成されている。
【0035】
ネジ山266は、本体部262の外周に設けられており、上記孔部210に形成されたネジ溝252に螺合する。したがって、孔部210において螺挿方向に嵌合部260を回転させることにより、嵌合部260をネジ溝252に螺合させる、すなわち、嵌合部260を摩耗側部品152に固定することができる(図2(b)、(c)参照)。また、孔部210において螺合を解除する方向に嵌合部260を回転させることにより、摩耗側部品152から嵌合部260を容易に取り外すことが可能となる。
【0036】
このように、嵌合部260が切り欠き部264とネジ山266を備えることにより、嵌合部260は、摩耗検知部100を固定した状態で、ネジ溝252に螺合し、固定機構250は、摩耗側部品152に固定することができる。こうすることで、接着剤や粘着剤を利用せずとも、確実かつ安定的に摩耗検知部100を摩耗側部品152に固定することが可能となる。
【0037】
また、固定機構250を、孔部210の内周面に形成されたネジ溝252と、当該ネジ溝252に螺合するネジ山266が設けられた嵌合部260で構成することから、摩耗検知部100が固定された嵌合部260は、孔部210への挿入方向と直交する方向、すなわち、摺動方向(図2中Z軸方向)への移動が規制される。したがって、摩耗側部品152の摺動動作に伴う摩耗検知部100のガタツキを抑制することが可能となる。
【0038】
さらに、螺挿方向または螺合を解除する方向への回転に伴って、摩耗検知部100が固定された嵌合部260は、孔部210への挿入方向に移動自在である。したがって、摩耗検知部100の先端面130aと摩耗側部品152の摺動面152aとを面一にすることができる。また。摩耗側部品152から摩耗検知部100を取り外すことができるため、摩耗検知部100のメンテナンスを容易に行うことが可能となる。
【0039】
また、図3(a)、(b)に示した嵌合部260は、1の部材で形成されているが、2以上の複数の部材で形成されてもよい。例えば、図3(c)に示すように、嵌合部260が2の部材270a、270bで構成されてもよい。この場合、部材270aの切り欠き部264aと、部材270bの切り欠き部264bとで、摩耗検知部100を挟持した状態でネジ溝252に螺合される。
【0040】
図2に戻って説明すると、位置決め部268は、本体部262よりも外径が大きい六角柱形状であり、摩耗検知部100を孔部210に挿入し、回動不能になるまでねじ込んだときに、摩耗検知部100の先端部130(先端面130a)が摺動面152aと面一になるように位置決めする。具体的に説明すると、位置決め部268は、嵌合部260における先端面262aと対向する側に設けられており、図2(c)に示すように、嵌合部260がネジ溝252に螺合され、位置決め部268が摩耗側部品152の摺動面152aと対向する面152bに当接すると、嵌合部260の先端面262aが摺動面152aと面一になるような寸法に形成されている。
【0041】
位置決め部268を備える構成により、位置合わせをせずとも、摩耗検知部100の先端面130aと、摺動面152aとを容易に面一にすることができる。これにより、摩耗検知部100の先端部130の摩耗量L1〜L5が、摩耗側部品152の摺動面152aの摩耗量と同一となるように、摩耗検知部100を摩耗側部品152に配置することが可能となる。
【0042】
(変形例1−1)
上述した摩耗検知部100は、その大きさが、切り欠き部264の大きさと実質的に等しい寸法関係を維持しているが、摩耗検知部の大きさが切り欠き部264の大きさより極端に小さくてもよい。図4に示すように、例えば、厚み方向(図4中、Z軸方向)の寸法が極端に小さい場合、摩耗検知部280の本体部280aの中央近傍に穴280b、280cを設けておく。そして、摩耗検知部280をスペーサ282a、282bで挟持し、穴280b、280cとともに、スペーサ282a、282bに設けられた穴284a、284b、284c、284dに固定ピン286a、286bを挿入して、摩耗検知部280と、スペーサ282a、282bを一体化させる。こうすることで、摩耗検知部の厚みが切り欠き部264の厚みよりも小さい場合であっても切り欠き部264に摩耗検知部280をガタつく(不安定になる)ことなく固定することが可能となる。なお、この際、摩耗検知部280と、スペーサ282a、282bとが一体化されたものの厚みが、切り欠き部264の厚みと実質的に等しい寸法関係を維持している。また、ここでは、各部材(摩耗検知部280、スペーサ282a、282b)に穴が2つずつ空いており、これに対応して固定ピンが2本である場合を例に挙げて説明したが、穴および固定ピンの数に限定はなく、例えば4等任意の数とすることができる。
【0043】
(摩耗検知部および固定機構の材質)
続いて摩耗検知部100、および、嵌合部260の材質について説明する。本実施形態において、摩耗検知部100の本体部110および嵌合部260は、無充填PTFE(PolyTetraFluoroEthylene)で形成される。
【0044】
図5は、各樹脂の性質を説明するための説明図であり、図5(a)は、各樹脂の摩擦係数(実測値)を示し、図5(b)は、各樹脂の摩耗率(実測値)を示す。なお、図5中、Aは無充填のPEEK(PolyEtherEtherKetone)、Bは20wt%PTFE含有PEEK、Cは無充填PTFE、Dは25wt%ポリエステル含有PTFE、Eは無充填ポリイミド、Fは15wt%MoS(二硫化モリブデン)含有ポリイミドを示す。
【0045】
図5(a)に示すように、無充填PTFE(図5中、Cで示す。)、および、25wt%ポリエステル含有PTFE(図5中、Dで示す。)は、他の樹脂と比較して摩擦係数が小さい。これにより、摩耗検知部100の本体部110、および、嵌合部260を無充填PTFEで形成することにより、摩耗検知部100の本体部110、および、嵌合部260が、摺動面152aにおいて、対向側部品154と摺動しても、摩耗側部品152および対向側部品154の摺動動作における摩擦を大きくしてしまう事態を回避することができる。
【0046】
また図5(b)に示すように、無充填PTFE(図5中、Cで示す。)は、他の樹脂と比較して摩耗率が高い、すなわち、摩耗量が増加する。したがって、摩耗検知部100の本体部110、および、嵌合部260を無充填PTFEで形成することにより、多量のPTFEの摩耗粉を摺動面152a、154a間に導入することができる。そうすると、摩耗粉が潤滑剤の役割を果たし、摩耗側部品152と対向側部品154との摩耗を低減することができる。
【0047】
なお、ここでは、摩耗検知部100の本体部110および嵌合部260を、無充填PTFEで形成される場合を例に挙げて説明したが、少なくとも、摩耗検知部100および嵌合部260における摺動面152aに露出する部分が無充填PTFEで形成されていればよい。また、摩耗検知部100および嵌合部260のいずれかを無充填PTFEで形成してもよい。
【0048】
また、摩耗検知部100の本体部110および嵌合部260を、PEEKで形成してもよい。PEEKは、耐熱性、耐疲労性、絶縁性、耐摩耗性、加工性、寸法安定性に優れている。したがって、本体部110および嵌合部260を、PEEKで形成することにより、上記特性を備えた摩耗検知部100を作成することが可能である。さらに、摩耗検知部100の本体部110および嵌合部260を、ポリイミドで形成してもよい。ポリイミドは、耐熱性、機械強度、電気絶縁性に優れている。したがって、本体部110および嵌合部260を、ポリイミドで形成することにより、上記特性を備えた摩耗検知部100を作成することが可能である。また、ポリイミドは、線膨張係数が有機物としては非常に低く金属に近いため、金属線で構成された摩耗検知用ライン114との熱膨張によるひずみが生じにくく、摩耗検知用ライン114を高い精度で加工することが可能となる。
【0049】
また、摩耗検知部100の本体部110および嵌合部260を、摩耗側部品152と実質的に同一の材料で構成することもできる。こうすることで、摩耗側部品152と対向側部品154との摩耗に影響を与えることなく、摩耗側部品152の摩耗状態を検知することが可能となる。
【0050】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、嵌合部260が、基板状の本体部110に摩耗検知用ライン114が設けられた摩耗検知部100(摩耗ゲージ)を固定している。ここでは、他の形状の摩耗検知部300と、この摩耗検知部300を固定する嵌合部360について説明する。なお、上述した第1の実施形態と実質的に等しい構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0051】
図6は、第2の実施形態にかかる摩耗検知部300および嵌合部360を説明するための説明図である。本実施形態において、摩耗検知部300と嵌合部360とは一体成形される。
【0052】
図6(a)に示すように、第2の実施形態にかかる摩耗検知部300は、複数(ここでは3)の摩耗検知用ライン314a〜314c(以下、単に「摩耗検知用ライン314」と総称する場合がある。)と、各摩耗検知用ライン314を被覆する被覆材316a〜316c(以下、単に「被覆材316」と総称する場合がある。)とで構成されている。また、本実施形態において摩耗検知用ライン314は、例えば、熱電対で構成されており、2種類の金属の接合部が先端部318a〜318cを構成する。
【0053】
本実施形態の嵌合部360は、樹脂で形成され、ネジ山266と、位置決め部268とを含んで構成される。以下に、嵌合部360による摩耗検知部300の固定について説明する。
【0054】
まず、嵌合部360を形成するための型の底面(嵌合部360の先端面360a)を基準として、底面から離隔する方向に、摩耗検知用ライン314a〜314cの先端部318a〜318cが所定間隔ごとに配されるように、摩耗検知用ライン314を固定する。続いて、嵌合部360を形成するための型に樹脂を流し込む。こうすることで、摩耗検知部300と嵌合部360とを一体形成することができる。
【0055】
このように、摩耗検知部300を嵌合部360と一体的に形成することで、嵌合部360は確実に摩耗検知部300を固定することが可能となる。また、嵌合部360を形成するための型に摩耗検知部300を仕込み、嵌合部360を構成する樹脂を型に流し込むだけといった簡易な技術で摩耗検知部300を嵌合部360に固定させることができる。
【0056】
なお、ここでも嵌合部360を構成する樹脂を無充填PTFEとすることで、多量のPTFEの摩耗粉を摺動面152a、154a間に導入することができ、摩耗側部品152と対向側部品154との摩耗を低減することができる。
【0057】
(変形例2−1)
また、摩耗検知部300と嵌合部360を一体成形する場合、図6(b)に示すように、摩耗検知用ライン324a〜324cを、例えば、熱電対の素線(例えば、アルメル線とクロメル線)で構成してもよい。この場合、先端部(素線の接合部)328a〜328c以外に絶縁剤を被膜(塗布)する。
【0058】
このように摩耗検知部300を、被覆材で被覆されていない熱電対の素線で構成された摩耗検知用ライン324a〜324cで構成することで、嵌合部360の外径を小さくすることができる。
(変形例2−2)
また、図7(a)に示すように、1の本体部410(410a〜410d)と、1の摩耗検知用ライン434(434a〜434d)とで構成されたセット440(440a〜440d)を積層して、加熱圧着した積層体で摩耗検知部400を構成してもよい。また、この場合、摩耗検知用ライン434の露出を防止するためのスペーサ442を積層してもよい。そして、このように積層体で構成された摩耗検知部400の先端部416(416a〜416d)が、嵌合部360の先端面360aに沿うように、嵌合部360は、摩耗検知部400を固定するとよい。
【0059】
このように、摩耗検知部400を積層体で構成することにより、摩耗検知用ライン434を様々に組み合わせた摩耗検知部400を作成することが可能となる。したがって、測定したい摩耗量に応じて、セット440の組み合わせを選択でき、測定の分解能や最大摩耗量を容易に調整することが可能となる。
【0060】
なお、ここでは、矩形形状の本体部410で構成されるセット440を例に挙げて説明したが、図7(b)に示すように、断面が多角形(ここでは、6角形)形状の本体部450で構成されるセット460を積層してもよい。
【0061】
また、ここで説明した、積層体で構成される摩耗検知部400を、上記第1の実施形態にかかる嵌合部260で固定することも可能である。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
例えば、上述した実施形態では、固定機構250が、ネジ溝252と、当該ネジ溝252に螺合するネジ山266が設けられた嵌合部260、360とで構成される例について説明した。しかし、固定機構は、摩耗検知部の先端部が摩耗側部品152の摺動面152aと面一になるように摩耗検知部を孔部210に固定することができればどのような機構でもよい。
【0064】
例えば、図8(a)に示すように、固定機構550は、孔部210に設けられた掛止孔552と、挿入方向(図8中、X軸方向)に直交する方向に突出した掛止部564を有する嵌合部560とで構成されてもよい。具体的に説明すると、図8に示すように、掛止孔552は、第1孔552aと、規制部552bと、ストッパ552cとを含んで構成される。第1孔552aは、嵌合部560の本体部562が挿入可能な孔部210よりも径が大きく、かつ、図8中ZY平面において、掛止部564が回転可能な孔である。規制部552bは、嵌合部560が所定の角度となったときにのみ掛止部564を挿入可能な孔である。ストッパ552cは、第1孔552a内に設けられ、第1孔552aにおける掛止部564の回転を規制する。そうすると、図8(b)に示すように、まず、規制部552bに掛止部564が挿入されるようにして、孔部210に本体部562を挿入する。そうすると、掛止部564が第1孔552aに挿入される。そして、嵌合部560を回転させることにより、図8(c)に示すように、掛止部564が第1孔552aにおいてストッパ552cで規制される位置まで回転し、規制部552bによって掛止部564が掛止されることになる。
【0065】
また、上述した実施形態において、孔部210が摩耗側部品152を貫通する場合を例に挙げて説明したが、孔部210は少なくとも摩耗側部品152の摺動面152a側に開口を有していれば足りる。
【0066】
さらに上述した実施形態において、嵌合部260、360は、位置決め部268を備える構成について説明したが、位置決め部268は必ずしも必須ではない。
【0067】
また、固定機構は、摩耗検知部の先端部が摩耗側部品152の摺動面152aと面一になるように摩耗検知部を固定できればよく、必ずしも摺動面152a上に摩耗検知部の先端部を配さずともよい。例えば、摺動面152aから離隔した位置であっても、結果的に摩耗検知部の先端部が摩耗側部品152の摺動面152aと面一になるように摩耗検知部を固定できればよい。さらに、固定機構は、摩耗検知部の先端部が摩耗側部品152の摺動面と実質的に面一になるように摩耗検知部を固定できればよく、例えば、摩耗側部品152の初期の摩滅を考慮しなくてよい場合、摺動面152aから没入するように、すなわち、摩耗検知部の先端部より摺動面152aの方が対向側部品154に突出するように、摩耗検知部を固定してもよい。
【0068】
さらに上述した実施形態では、図1に示す例において、本体部110に5本の摩耗検知用ライン114が設けられているが、かかる例に限定されず、任意の数の摩耗検知用ライン114を設けてもよい。同様に、図6、図7に示す例においても、摩耗検知用ラインの数に限定はない。また、摩耗検知用ライン114の形状も、図1に示すような直線状に限られず、摩耗検知対象部位の形状や範囲に合わせて、曲線状、波状、V字状、コの字型など、任意の形状であってよい。さらに、摩耗検知用ライン114の相互間隔も、検知したい摩耗量に合わせて任意に設定可能である。
【0069】
また上述した実施形態では、対向側部品154に対して摩耗側部品152が摺動する例を挙げて説明したが、例えば、レール上を走行体(自動走行台車、気動車等)が移動するシステムにおいて、レールに摩耗側部品152を構成し、走行体に対向側部品154を構成し、走行体の対向側部品154がレールの摩耗側部品152の構成部位を通過する際に摩耗を検知するといったように、対向側部品154が摩耗側部品152に対して摺動してもよい。
【0070】
さらに、上述した産業機械の摺動機構とは、ある部材と他の部材が相対的に摺動するものであれば、任意の機構であってよいが、例えば、往復運動機構や回転機構などが含まれる。ここで、往復運動機構は、レシプロコンプレッサ、レシプロエンジン等におけるシリンダ機構、工作機械等におけるガイドレールを用いたスライド機構などである。回転機構は、コンプレッサ、ガスタービン等に用いられる各種の軸受(例えばスラストベアリング)、工作機械の切削工具、自動車のタイヤやブレーキパッド、工作機械のクラッチやブレーキパッド、圧延機のロールなどが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、産業機械の摺動部の摩耗を検知する摩耗検知システムおよび摩耗検知装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
100、300、400 …摩耗検知部
110 …本体部
114、314、434 …摩耗検知用ライン
130 …先端部
140 …断線検知部
150 …摺動部
152 …摩耗側部品
152a …摺動面
154 …対向側部品
154a …摺動面
200 …摩耗検知システム
210 …孔部
250 …固定機構
252 …ネジ溝
260、360、560 …嵌合部
266 …ネジ山
268 …位置決め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向側部品との摺動に伴う摩耗側部品の摩耗を検知する摩耗検知システムであって、
少なくとも前記摩耗側部品の摺動面側に開口を有する孔部と、
前記孔部に挿入可能であり、前記摩耗側部品の摩耗状態を検知する摩耗検知部と、
前記摩耗検知部の先端部が前記摩耗側部品の摺動面と面一になるように該摩耗検知部を前記孔部に固定する固定機構と、
を備え、
前記摩耗検知部は、導電性を有する材料で構成された1または複数の摩耗検知用ラインを含んで構成され、該摩耗検知用ラインは前記摩耗側部品の摩耗に伴って断線されるように配されることを特徴とする摩耗検知システム。
【請求項2】
前記固定機構は、
前記孔部の内周面の少なくとも一部に形成されたネジ溝と、
前記摩耗検知部を固定するとともに、前記ネジ溝に螺合するネジ山が形成された嵌合部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の摩耗検知システム。
【請求項3】
前記固定機構は、前記摩耗検知部を前記孔部に固定したときに、該摩耗検知部の先端部が前記摺動面と面一になるように位置決めする位置決め部をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の摩耗検知システム。
【請求項4】
前記摩耗検知部の少なくとも一部および前記固定機構の少なくとも一部のいずれか一方または両方は、樹脂または前記摩耗側部品と同一の材料で構成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の摩耗検知システム。
【請求項5】
前記樹脂は、PTFE、PEEK、ポリイミドから選択されることを特徴とする請求項4に記載の摩耗検知システム。
【請求項6】
対向側部品との摺動に伴う摩耗側部品の摩耗を検知するとともに、少なくとも該摩耗側部品の摺動面側に開口を有する孔部に挿入される摩耗検知装置であって、
前記孔部に挿入可能であり、前記摩耗側部品の摩耗状態を検知する摩耗検知部と、
前記孔部に嵌合することで、前記摩耗検知部の先端部が前記摩耗側部品の摺動面と面一になるように該摩耗検知部を前記孔部に固定する嵌合部と、
を備え、
前記摩耗検知部は、導電性を有する材料で構成された1または複数の摩耗検知用ラインを含んで構成され、該摩耗検知用ラインは前記摩耗側部品の摩耗に伴って断線されるように配されることを特徴とする摩耗検知装置。
【請求項7】
対向側部品との摺動に伴う摩耗側部品の摩耗を検知する摩耗検知装置であって、
前記摩耗側部品に配され、前記摩耗側部品の摺動面と面一になるように先端部が配置される本体部と、
導電性を有する材料で構成され、前記本体部の先端部から前記摺動面と遠ざかる方向に、相互に間隔を空けて配置された複数の摩耗検知用ラインと、
前記摩耗検知用ラインに接続され、該摩耗検知用ラインの断線を検知する断線検知部と、
を備え、
前記本体部は、PTFE、PEEK、ポリイミドから選択される樹脂で形成されることを特徴とする摩耗検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−88173(P2013−88173A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226793(P2011−226793)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】