説明

摺動材料

【課題】本発明は、ショットブラスト処理によって摺動材料の表面粗さをあまり変えずに摺動部品の要求に応じて表面の摺動特性を改質できる摺動材料を提供することを解決すべき課題とする。
【解決手段】本発明の摺動材料は、金属基材と、前記金属基材の摺動表面に前記金属基材より軟質で且つ摩擦係数の小さい金属粒子をショットブラストすることにより前記金属基材の摺動表面の少なくとも8%以上を覆うように機械的に付着形成された付着金属と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一部表面が摺動面となるエンジンブロック、油圧ポンプ、コンプレッサー部品、軸受け等に使用できる摺動材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
往復、回転運動等を行う各種機械には、一般的に摺動材料が不可欠である。例えば、エンジンやコンプレッサー等にも様々な摺動材料が使用されている。
【0003】
一般的に、摺動面においては、摩擦による摩耗量を減らすには、摺動面は鏡面となっているのが望ましい。しかし摺動面が鏡面となっていると、鏡面仕上げした金属同士はオイルを介して擦り合わせられると摩擦抵抗は低く押さえられるが、ある程度の熱が発生するため、焼き付きのおそれがある。そのため、摺動面は適当な表面粗さを持たせたものや、摺動面にめっき等の表面処理を施して表面の摺動特性を改質するものがそれぞれの用途に合わせて要求される。
【0004】
中でもショットブラストによって表面を改質する方法は、摺動材料を摺動部材として形成した後でも加工できることや、圧縮による残留応力の付与が出来るためその目的に応じて幾つか検討されている。
【0005】
例えば摺動の相手材の摩耗を抑えるために特許文献1には、金属炭化物等の硬質粒子を多量に分散させた機械部品の表面研磨処理を行った研磨面に、ショット粒を用いてショット噴射処理を施すことによって、研磨面のバリ等に起因するエッジを取り除く(丸め、削り取り、或いは先端部を欠かす)方法が開示されている。エッジを取り除くことによって摺動時の相手材の摩耗を効果的に抑制出来ることが開示されている。
【0006】
また特許文献2には鉄系硬質粒子及びアルミナよりも硬さが低いセラミックス粒子の1種以上である硬質粒子が分散した、珪素とマンガンとマグネシウムとを含む粉末アルミニウム合金製の摺動部材の摺動面に、ニッケル及びすずの何れかをコーティングした微粒子を用いたショットブラストによって多数の凹部が形成されると共にニッケル被膜及びすず被膜の何れかが形成された粉末アルミニウム合金製摺動部材が開示されている。多数の凹部は油溜まりの役目を果たし摺動面の保油機能を確保することが出来ること、また凝着しやすいアルミニウム合金の表面にニッケル或いはすずの被膜が出来ることによって摩耗しにくくスカッフ防止性を向上させることが出来ること、および摺動面に微粒子を当てることによって摺動面が加工硬化してそれだけ耐摩耗性が向上することが開示されている。
【特許文献1】特開平11−207622号公報
【特許文献2】特開2003−13163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、摺動表面に要求される特性はその目的とする摺動部品によって様々である。ショットブラストによって表面を改質する方法は、その目的に応じて上記特許文献に示すように検討されているが、摺動部品の要求にあうようにさらに摺動特性を改質できる摺動材料が求められている。
【0008】
また摺動部品はその摺動時の摩耗量を低減するため、表面粗さが規定されているものが多い。
【0009】
例えばエンジンにおけるボアに要求される表面粗さ(Rz)は決まっており、その表面粗さ内で摺動特性を上げることが要求される。
【0010】
上記特許文献1におけるショット噴射処理は、バリをとるために用いられており、表面粗さ(Rz)をあまり変えずに、Sm値(平均山間隔)を変えることによって摩耗量を減らしている。また特許文献2では、ショットブラスト処理を行うことによって表面粗さを5倍に増加させている。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、ショットブラスト処理によって摺動材料の表面粗さをあまり変えずに摺動部品の要求に応じて表面の摺動特性を改質できる摺動材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者等はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、金属基材の摺動表面に前記金属基材より軟質で且つ摩擦係数の小さい金属粒子をショットブラストすることにより、金属粒子の一部を金属基材の摺動面に機械的に付着形成させることによって表面粗さをあまり大きくすることなく、摺動表面の摺動特性を改質出来ることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の摺動材料は、金属基材と、前記金属基材の摺動表面に前記金属基材より軟質で且つ摩擦係数の小さい金属粒子をショットブラストすることにより前記金属基材の摺動表面の少なくとも8%以上を覆うように機械的に付着形成された付着金属と、を有することを特徴とする。
【0014】
また前記金属基材は、鉄、鉄系合金、鉄系多孔質材、及び鉄系多孔質材にアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウムまたはマグネシウム合金を鋳包み、摺動表面に前記鉄系多孔質材を露出させた複合材のうちのいずれかひとつであり、前記金属粒子は、亜鉛、すず、金、銅及びマグネシウムのうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0015】
また前記金属基材は、第1の多孔質金属基材を前記第1の多孔質金属基材よりも軟質の第2の金属基材を鋳包み、摺動表面に前記第1の多孔質金属基材を露出させた複合材であり、前記金属粒子は前記第1の多孔質金属基材よりも軟質で且つ、前記第2の金属基材よりも硬質であり、前記付着金属は、前記金属粒子をショットブラストすることにより前記第1の多孔質金属基材の摺動表面に機械的に付着形成されることが好ましい。
【0016】
特に前記第1の多孔質金属基材は鉄系多孔質材であり、前記第2の金属基材はアルミニウム合金であり、前記金属粒子は亜鉛であり、前記付着金属は前記摺動表面の前記鉄系多孔質材面に機械的に付着形成されていることが好ましい。
【0017】
また前記ショットブラストの処理条件は下記条件であるとよい。
【0018】
金属粒子の粒径:150μm以上750μm以下、エア圧:0.1MPa以上0.3MPa以下、噴射距離:50mm以上150mm以下、投射時間:5秒以上45秒以下。
【発明の効果】
【0019】
金属基材の摺動表面に前記金属基材より軟質で且つ摩擦係数の小さい金属粒子をショットブラストすることにより、前記金属粒子の一部は前記金属基材と機械的合金化(メカニカルアロイニング)して機械的に付着される。前記金属粒子は前記金属基材より軟質であるため前記金属基材表面を荒らすことがない。
【0020】
また前記付着金属は前記基材の摺動表面の少なくとも8%以上を覆っていることによって付着した金属粒子の特性が表面特性として表れ、摺動表面の摺動特性が改質される。また摺動表面に前記金属基材より摩擦係数の小さい金属粒子が機械的に付着することにより摺動表面の摩擦係数を低減できる。
【0021】
また前記金属基材は、鉄、鉄系合金、鉄系多孔質材、及び鉄系多孔質材にアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウムまたはマグネシウム合金を鋳包んだ複合材のうちのいずれかひとつであることによって、軽量で優れた強度を有する。
【0022】
また前記金属粒子は、亜鉛、すず、金、銅及びマグネシウムのうちの少なくとも一種を含むことによって、基材より軟質なそれぞれの金属が持つ特性によって摺動表面の摺動特性が改良される。
【0023】
また前記金属基材は、第1の多孔質金属基材に前記第1の多孔質金属基材よりも軟質の第2の金属基材を鋳包み、摺動表面に前記第1の多孔質金属基材を露出させた複合材であってもよい。金属基材を第1の多孔質金属と第2の金属との複合材とすることにより、両方の金属の利点を持つ摺動部材となる。
【0024】
また前記金属粒子は前記第1の多孔質金属基材よりも軟質で且つ、前記第2の金属基材よりも硬質であることにより、前記金属粒子をショットブラストすると、前記金属粒子は前記第2の金属基材の摺動面には凹部を形成することが出来、且つ前記第1の多孔質金属基材の摺動表面に機械的に付着形成される。そのため複合材である前記金属基材の摺動面は両金属基材の摺動面とも改質され摺動特性を向上できる。
【0025】
特に前記第1の多孔質金属基材は鉄系多孔質材であり、前記第2の金属基材はアルミニウム合金であり、前記金属粒子は亜鉛であることが好ましい。鉄系多孔質材にアルミニウム合金を鋳包み、摺動表面に前記鉄系多孔質材を露出させた金属基材は、鉄系材料に比べ軽く、またアルミニウム合金単体よりも強度が高く摺動材料として優れている。
【0026】
又金属粒子を鉄より軟質でアルミニウム合金より硬質な亜鉛とすることによって、アルミニウム合金面は亜鉛のショットブラストによって凹部ができるが、鉄系多孔質材表面には傷が付かないため摺動材料の摺動面の表面粗さ(Rz)をあまり大きくさせない。
【0027】
また鉄系多孔質材より軟質な亜鉛は、鉄系多孔質材表面に機械的に付着する。亜鉛は鉄系多孔質材に比べ摩擦係数が小さいため、亜鉛が付着することにより鉄系多孔質材の表面の摩擦係数を下げ、ひいては摺動表面全体の摩擦係数を下げることが出来、焼き付き時間を低減できる。従って鉄系多孔質材とアルミニウム合金の割合を調節することによって、その表面特性を調節することが出来る。
【0028】
また前記ショットブラストの処理条件は上記条件であることによって適正に金属粒子を金属基材に機械的に付着させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の摺動材料は、金属基材と付着金属とを有する。
【0030】
また前記付着金属は、前記金属基材の摺動表面に前記金属基材より軟質で且つ摩擦係数の小さい金属粒子をショットブラストすることにより前記基材の摺動表面の少なくとも8%以上を覆うように機械的に付着形成される。
【0031】
本発明における金属基材は、摺動材料として用いられる金属からなる基材であれば特に限定はない。例えば鉄系金属、アルミニウム系金属、マグネシウム系金属が挙げられる。
【0032】
特に金属基材として鉄系金属を含むものが強度的に好ましい。例えば鉄、鉄系合金、鉄系多孔質材、及び鉄系多孔質材にアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウムまたはマグネシウム合金を鋳包んだ複合材が挙げられる。
【0033】
また金属基材は、第1の多孔質金属基材を前記第1の多孔質金属基材よりも軟質の第2の金属基材を鋳包んだ複合材であると好ましい。例えば第1の多孔質金属基材が鉄系金属、第2の金属基材がアルミニウム系金属とする複合材、第1の多孔質金属基材が鉄系金属、第2の金属基材がマグネシウム系金属とする複合材が挙げられる。
【0034】
特に金属基材は鉄系多孔質材にアルミニウム合金を鋳包んだ複合材であると、軽量で強度にも優れた基材となり好ましい。
【0035】
金属基材の形状は、特に限定はなく、摺動部材としての用途に合わせたものとなる。例えば本発明の摺動材料は、一部表面が摺動面となるエンジンブロック、油圧ポンプ、コンプレッサー部品、軸受け等に使用できる。
【0036】
本発明における金属粒子は、用いる金属基材より軟質であり且つ摩擦係数が小さいものであれば特に限定はない。例えば、金属粒子としてアルミニウム、亜鉛、すず、金、銅、マグネシウム及びニッケルが用いられてもよい。
【0037】
また金属粒子は、粒子すべてが同じ金属でも良いし、芯となる金属の表面に他の金属をコーティングしたものでもよい。その場合コーティングされた金属が用いる金属基材より軟質で、摩擦係数が小さいもの、且つ低融点の金属であればよい。
【0038】
また金属基材が複合材の場合は、金属粒子は、前記第1の多孔質金属基材よりも軟質で且つ、前記第2の金属基材よりも硬質であることが好ましい。例えば第1の多孔質金属基材が鉄系金属、第2金属基材がアルミニウム系金属の場合、金属粒子としては、亜鉛、銅、すず等が好ましい。
【0039】
また金属粒子の粒径は150μm以上750μm以下が望ましい。この範囲内の粒径であることによって摺動表面にショットブラストされることによって摺動表面に付着形成されやすい。
【0040】
前記金属粒子はショットブラストされることによって摺動表面に機械的に付着形成される。前記金属粒子は前記金属基材と機械的合金化(メカニカルアロイニング)して機械的に付着される。前記金属粒子は前記金属基材より軟質であるため前記金属基材表面を荒らすことがなく、金属基材の表面粗さ(Rz)をあまり大きくしない。
【0041】
金属基材が複合材の場合、前記金属粒子は、自身よりも硬質である第1の多孔質金属基材の摺動表面に機械的に付着形成される。また前記金属粒子は自身よりも軟質である第2の金属基材の摺動表面には凹部を形成させることが出来る。凹部は潤滑油等のある摺動面においては油溜まりとなり、さらに摺動特性を向上させることが出来る。
【0042】
また前記付着金属は前記基材の摺動表面の少なくとも8%以上を覆っている。摺動表面の少なくとも8%以上を覆っていることによって、付着した金属粒子の特性が表面特性として表れ、摺動表面の摺動特性が改質される。
【0043】
また摺動表面に前記金属基材より摩擦係数の小さい金属粒子が機械的に付着することにより摺動表面の摩擦係数を低減できる。
【0044】
特に金属基材が鉄系多孔質材をアルミニウム合金で鋳包んだ複合材の場合は、金属粒子は亜鉛が好ましい。
【0045】
鉄系多孔質材の形状は、特に限定されない。例えば円筒状、リング状、板状、円板状でもよい。
【0046】
鉄系多孔質材は、空隙率12%以上50%以下が望ましい。この範囲の空隙率を持つ多孔質材であれば、アルミニウム合金との密着性と強度とがともに良好な摺動材料となる。
【0047】
また鉄系多孔質材は、摺動部材の全体に用いられていても良いし、摺動面周辺の一部に用いられていても良い。
【0048】
またアルミニウム合金は、Cu、Si、Mg、Zn、Fe、Mn、Ni、Sn、Tiを含むことが出来る。
【0049】
例えばアルミニウム合金としてJIS規格のA2000系及びADC12、AC8A、AC4C、AC2B等が挙げられる。
【0050】
鉄系多孔質材にアルミニウム合金を鋳包んだ複合材の製造方法は通常の鋳造方法であり、特に限定はない。
【0051】
例えば目的に応じた所定形状になるように、所定形状の型に、摺動面に鉄系多孔質材が露出する位置に設置し、前記アルミニウム合金を、所定圧力、所定温度で鋳造し、鉄系多孔質材を鋳包み、なおかつ多孔質材の孔内まで、アルミニウム合金を鋳包む。
【0052】
その後、所定温度で冷却し、摺動材料を型から取り出す。
【0053】
次いで型から取り出した摺動材料の摺動面にホーニング加工を行う。該ホーニング加工を施すことにより摺動面は、鉄系多孔質材表面とアルミニウム合金表面の両方が存在する表面となる。
【0054】
次にホーニング加工を施された摺動面に下記条件でショットブラスト処理を行う。
【0055】
ショット粒材質:亜鉛、ショット粒の粒径:150μm以上750μm以下、エア圧:0.1MPa以上0.3MPa以下、噴射距離:50mm以上150mm以下、投射時間:5秒以上45秒以下。
【0056】
上記条件は、鉄系多孔質材を傷つけずに、鉄系多孔質材の表面に亜鉛が機械的に付着形成されることが出来る条件である。
【0057】
そのため、該摺動部材は、鉄系多孔質材の摺動表面に新たな傷を付けずに、鉄系多孔質材表面に亜鉛が機械的に付着されることにより、低い摩擦係数を持つことが出来、良好な摺動特性を持つことが出来る。
【0058】
また必要な面に部分的にショットブラスト処理を行うことが出来るので、従来から行われている電解腐食処理に比べ、低コストで簡便に処理を行うことが出来る。
【0059】
以下に、摺動部材の試験例を説明する。試験例として金属基材は鉄系の多孔質材にアルミニウム合金を鋳包んだものを用いた。図1に試験例の摺動部材の製造方法の一部説明図(断面図)を示す。
【0060】
鉄系の多孔質材である、空隙率18%の円筒状の鉄系多孔質焼結体1を用意した。鉄系多孔質焼結体1の材質は、純鉄(KIP440B)を用いた。鉄系多孔質焼結体1の形状は直径86mmの円筒形状であり、高さ160mm、筒の厚み5mmのものを用いた。
【0061】
図1に示すように、上記鉄系多孔質焼結体1をシリンダーブロックの金型2に、摺動面に鉄系多孔質焼結体1が面するように設置した。金型2はシリンダーブロックの金型であり、図1に示すような筒状の形状となっている。
【0062】
この金型2にアルミニウム合金(ADC12)を、鉄系多孔質焼結体1の外周面側と底面から注湯した。このときの鋳造条件は、溶湯温度680℃、型温250℃、鉄基多孔質焼結体1の予熱800℃、溶湯圧力83MPaとした。
【0063】
このようにして、アルミニウム合金溶湯を、鉄系多孔質焼結体1の外周面側と底面から内部へ鋳包んだ。このようにして得られたシリンダーボア3の摺動内周面を、ホーニングマシンでホーニング加工した。
【0064】
上記のように製造されたシリンダーボア3を用いて各種条件でショットブラスト処理を行いその表面観察を行った。
【0065】
ショットブラスト処理は、前記シリンダーボア3の摺動面である筒の内面にショットブラスト装置4を用いて行った。ショットブラスト装置は、新東ブレーター社製を用いた。
【0066】
表1に実施したショットブラスト処理条件を示す。また図2に表1に示した条件でショットブラスト処理を行った一部のシリンダーボアの摺動内周面表面のEPMAマッピング像(EPMA:電子線プローブマイクロアナライザー)を示す。
【0067】
【表1】

【0068】
図2には表1のNo.8(記載No.2−4)である金属粒子として亜鉛を用いたものの表面のEPMAマッピングを記載した。EPMAは、島津製作所製EPMA−1600を用いて行った。図2の左上図は各組成金属の元素分布像を示し、右上、右下、左下図はそれぞれアルミニウム、亜鉛、鉄の元素分布像を示す。各4図はどれも同一場所をマッピングしたものである。左上図は、金属の各組成をマッピングしたものであり、比重が重い金属が白く記載され、軽い金属が黒く記載される。この場合黒で表されているのがアルミニウム合金、白く表されたものが亜鉛、白っぽい灰色で記載されたものが鉄を表す。
【0069】
同様に右上図はアルミニウムの元素分布像を示し、右上図において白い部分がアルミニウムを示す。左下図は鉄の元素分布像を示し、白く示される部分が鉄を示す。また右下図は亜鉛の元素分布像を示し、白く見える部分が亜鉛を示す。
【0070】
この4図から、亜鉛はアルミニウムではなく鉄部分に付着していることが分かる。
【0071】
各ショットブラスト処理条件で行った各試料の表面粗さを接触式表面粗さ計で測定し表1のRz(μm)の欄に記載した。
【0072】
表1のNo.1(記載No.0)(以下No.は記載No.を用いて説明する)は、ホーニングマシンでホーニング加工し、ショットブラスト処理を行わなかったものである。
【0073】
表1の記載No.1は、ショット粒子をアルミナ砥粒#80(株式会社新東ブレーター製、品番AF80中心粒径約190μm(粒径範囲150〜212μm)とし表1に記載の条件でショットブラスト処理を行ったものである。表1に見られるように表面粗さ(Rz)は16.9μmと大きなものとなっている。
【0074】
表1の記載No.2、2−1、2−2はショット粒子をスチール(株式会社新東ブレーター製、品番SB−3、中心粒径約300μm(粒径範囲180〜500μm))とし、表1に記載のショット条件でショットブラスト処理を行ったものである。
【0075】
スチールのショット粒子を用いているため、ショットブラスト処理により全体的にアルミニウム合金も鉄系多孔質焼結材も表面が削られ、表1に見られるように表面粗さRzが8.8μm以上と大きな値となった。
【0076】
表1の記載No.3、2−3、2−4はショット粒子を亜鉛(株式会社新東ブレーター製、品番AD−4、中心粒径約400μm(粒径範囲297〜710μm))とし、表1に記載のショット条件でショットブラスト処理を行ったものである。
【0077】
表1に記載のように表面粗さは5μm未満と小さなものとなった。亜鉛のショット粒子は、アルミニウム合金より硬く鉄系多孔質焼結材より軟らかいため、鉄を傷つけずアルミニウム合金部分を選択的に切削することが出来るため表面粗さ(Rz)をあまり大きくしなかったと考えられる。
【0078】
上記条件で作製した各シリンダーボア試料を用いて摺動実験を行った。
【0079】
摺動実験は、摺動させる相手材をピストンリング(窒化SUS)とし、往復摺動試験機を用いて、ストローク・速度:40mm・500cpm、荷重:3kgf、面圧最大ヘルツ応力:20kgf/mm、試験温度:70℃の条件で摺動試験を行い、焼付前の摩擦係数と焼き付き時間(分)を測定した。潤滑油としてCC級ディーゼル用E/Gオイル、塗布:0.13mg/cmを用いた。
【0080】
表2に、各試料の焼付前の摩擦係数と焼き付き時間を表した。また図3に表面粗さ(Rz)と焼き付き時間(分)とを比較したグラフ、図4に表面粗さ(Rz)と焼き付き前の摩擦係数とを比較したグラフを示す。
【0081】
【表2】

【0082】
摺動試験は試料の記載No.0、1、3、2−3、2−4で行った。
【0083】
ショットブラスト処理を行っていない記載No.0の試料は、表面粗さ(Rz)が0.7μmであり、摺動試験において0.15分という短時間で焼き付いてしまった。また焼付前の摩擦係数も0.64という高いものであった。
【0084】
またアルミナを用いてショットブラスト処理を行った記載No.1の試料は、表面粗さ(Rz)が16.9μmという高いものである。記載No.1の試料は、摺動試験において焼付き時間は29分であり、焼付前の摩擦係数は0.3であった。
【0085】
それに対し亜鉛を用いてショットブラスト処理を行った記載No.3、2−3、2−4の試料は、表面粗さ(Rz)が2〜5μmである。記載No.3、2−3、2−4の試料は、Rzが低いにもかかわらず、焼き付き時間が他の試料に比べ大幅に向上した。また焼付前の摩擦係数も他の試料に比べ低くなった。
【0086】
亜鉛をショット粒子に用いた試料は、鉄系焼結体表面を傷つけて表面粗さを大きくすることなく、鉄系焼結体表面に亜鉛が付着形成されたことにより摩擦係数を低減できたと考えられる。そのため摺動試験において試料全体の摩擦係数を小さくでき、これにより焼き付き時間を長くできたと考えられる。
【0087】
またEPMAマッピングから計算された亜鉛の付着面積が8%以上であることにより効果があった。
【0088】
このように上記摺動部材は、摺動面において摩擦係数の大きな金属面に低摩擦係数の付着金属を8%以上付着することが出来たことによって、表面粗さを大きくすることなく、低い摩擦係数を持つことによって、摺動特性を向上させる摺動部材となることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】試験例の摺動部材の製造方法の一部説明図(断面図)を示す。
【図2】本発明の試験例の摺動部材の内周面表面のEPMAマッピング像を表す。
【図3】表面粗さ(Rz)と焼き付き時間(分)とを比較したグラフを示す。
【図4】表面粗さ(Rz)と焼き付き前の摩擦係数とを比較したグラフを示す。
【符号の説明】
【0090】
1、鉄系多孔質焼結体、2、金型、3、シリンダーボア、4、ショットブラスト装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、
前記金属基材の摺動表面に前記金属基材より軟質で且つ摩擦係数の小さい金属粒子をショットブラストすることにより前記金属基材の摺動表面の少なくとも8%以上を覆うように機械的に付着形成された付着金属と、
を有することを特徴とする摺動材料。
【請求項2】
前記金属基材は、鉄、鉄系合金、鉄系多孔質材、及び鉄系多孔質材にアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウムまたはマグネシウム合金を鋳包み、摺動表面に前記鉄系多孔質材を露出させた複合材のうちのいずれかひとつであり、
前記金属粒子は、亜鉛、すず、金、銅及びマグネシウムのうちの少なくとも一種を含む請求項1に記載の摺動材料。
【請求項3】
前記金属基材は、第1の多孔質金属基材に前記第1の多孔質金属基材よりも軟質の第2の金属基材を鋳包み、摺動表面に前記第1の多孔質金属基材を露出させた複合材であり、前記金属粒子は前記第1の多孔質金属基材よりも軟質で且つ、前記第2の金属基材よりも硬質であり、前記付着金属は、前記金属粒子をショットブラストすることにより前記第1の多孔質金属基材の摺動表面に機械的に付着形成される請求項1に記載の摺動材料。
【請求項4】
前記第1の多孔質金属基材は鉄系多孔質材であり、前記第2の金属基材はアルミニウム合金であり、前記金属粒子は亜鉛であり、前記付着金属は前記摺動表面の前記鉄系多孔質材面に機械的に付着形成されている請求項3に記載の摺動材料。
【請求項5】
前記ショットブラストの処理条件は下記条件である請求項1〜4のいずれかに記載の摺動材料。
金属粒子の粒径:150μm以上750μm以下
エア圧:0.1MPa以上0.3MPa以下
噴射距離:50mm以上150mm以下
投射時間:5秒以上45秒以下

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−284706(P2007−284706A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109699(P2006−109699)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】