説明

摺動部品用ダイヤモンドライクカーボン皮膜およびその製造方法

【課題】高耐久性および低摩擦係数の二つの特性を同時に満足させることのできるDLC系の摺動皮膜の提供。
【解決手段】摺動部材の摺動側表面にコーティングされた皮膜であって、ダイヤモンドライクカーボン(DLC。以下同様。)から成る下層膜およびこの下層膜の上に配置されたDLCからなる上層膜との少なくとも2層の膜から構成され、下層膜は、硬度が20GPa以上45GPa以下、ヤング率が250GPa以上450GPa以下、そして膜厚が0.2μm以上4.0μm以下であり、上層膜は、硬度が5GPa以上20GPa未満、ヤング率が60GPa以上240GPa以下、そして膜厚が1.0μm以上10μm以下であることを特徴とする摺動部品用ダイヤモンドライクカーボン皮膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のカムおよびシム等のように、2種類の部品が接触して相互に摺動するような摺動部品の摺動側表面に適用される硬質膜コーティング、さらには硬質膜がコーティングされた摺動部品であって、高耐久性を有し、低摩擦係数のダイヤモンドライクカーボン皮膜(DLC膜。以下同様。)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種摺動部品の摺動面に形成して使用されるDLC皮膜に要求される重要な特性は、いうまでもなく基材との密着性であって、DLC皮膜自体の組成ならびにその形成方法の両面から改良された密着性の向上に関する多くの発明が公開されている。
【0003】
下記特許文献1は、プラズマCVD法で形成された記録媒体用保護膜ではあるが、基板母材がステンレスのような場合、DLC膜が厚くできないために、両者間の中間層が必要になるとして、中間層の成分と炭素との混合成分層を介在させることにより、母材とDLC膜との密着性を向上しようとしている。
【0004】
また下記特許文献2は、硬軟交互多重膜はじめ既知の各種DLC膜は、母材および膜の硬さ、膨張係数あるいは組織の差異に起因して密着性に弱さがあることから、窒素含有クロム皮膜を採用することにより、合金鋼母材とDLCとの密着性を高めることができるとする。
【0005】
また下記特許文献3は、鋼や合金、ガラスあるいはセラミック製物品の場合、密着すべきDLC膜との結合力が弱く剥離しやすいために、イオンエッチング等の前処理が不可欠な点を改良したDLC保護膜付きの物品である。すなわち、これらのDLC膜の密着性を高めるために、母材より硬くDLC膜よりは硬さが小さくなるように、硬度が1000〜5000Hvに調節された中間層をイオン化蒸着法により形成するものである。
【0006】
また下記特許文献4は、耐摩性および密着性のある摺動部材として、従来のW含有DLC層やアモルフアスカーボン等においては、高強度健全なDLC被膜を得ることが困難な点を克服しようとする。すなわち、金属層の上に金属/カーボン組成傾斜層と硬度変化領域を有するDLC層を持つ構造とすることにより耐摩性および密着性を確保できるとする。
【0007】
また下記特許文献5では、密着性を増すために、窒化物、酸化物ならびに炭化物の中間層をPVDで形成した上に、Si化合物層とSi含有DLCを形成する複合硬度被膜を開示する。この被膜は、密着性を上げると同時に摩擦係数を低下できるとする。
【0008】
これらの特許文献に記載されたDLC膜技術は、いずれも下地層を密着性の向上を目的として用いている点で共通するが、本発明の背景技術としての観点から考察すると、つぎのような問題点を共通的に内包している。
【0009】
特許文献1、2あるいは3の各発明では、密着性向上の観点から、金属層/金属とカーボンの傾斜構造を提案している。これら中間層は密着性の確保には有効であるが、中間層部分で硬度が低下することから、高面圧下で使用される摺動環境に適用すると、低硬度の中間層部で塑性変形が起こり、この変形部を起点として膜破壊が進展するため、耐久性の確保と維持に問題を残す。
【0010】
特許文献4では、中間層に硬度変化層を設けることで密着性を向上しようとするが、この構成では、硬度が弱い領域を必然的に含むことになるから、高面圧下で使用されるような摺動環境では耐久性の点で問題を残す。
【0011】
また、特許文献5の窒化物、酸化物ならびに炭化物の中間層をPVDで形成した上にSi化合物層とSi含有DLCを形成する方法は、窒化物、酸化物および炭化物の各中間層部で硬度の調節が可能であるとしても、そのための形成プロセスが増えることで成膜時間がかかる。
【特許文献1】特開2000−256850号公報
【特許文献2】特開2007−31797号公報
【特許文献3】特開平5−117087号公報
【特許文献4】特開2004−10923号公報
【特許文献5】特開2003−268571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述の従来技術とは異なる観点でなされたものであって、高耐久性および低摩擦係数の二つの特性を同時に満足させることのできるDLC系の摺動皮膜、さらには摺動部品の提供を課題とする。また、本発明は、この摺動皮膜を工業的に容易に製造できる方法の提供をも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、下記の手段を特徴とする。
【0014】
(1)摺動部材の摺動側表面にコーティングされた皮膜であって、ダイヤモンドライクカーボン(DLC。以下同様。)から成る下層膜およびこの下層膜の上に配置されたDLCからなる上層膜との少なくとも2層の膜から構成され、下層膜は、硬度が20GPa以上45GPa以下、ヤング率が250GPa以上450GPa以下、そして膜厚が0.2μm以上4.0μm以下であり、上層膜は、硬度が5GPa以上20GPa未満、ヤング率が60GPa以上240GPa以下、そして膜厚が1.0μm以上10μm以下であることを特徴とする摺動部品用ダイヤモンドライクカーボン皮膜。
【0015】
(2)CVD(Chemical Vapor Deposition。以下、同様。)によって形成された上層膜およびPVD(Physical Vapor Deposition。以下、同様。)によって形成された下層膜であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品用ダイヤモンドライクカーボン皮膜。
【0016】
(3)硬度が20GPa以上45GPa以下、ヤング率が250GPa以上450GPa以下、そして膜厚が0.2μm以上4.0μm以下であって、ダイヤモンドライクカーボンから成る下層膜、およびこの下層膜の上に配置され、硬度が5GPa以上20GPa未満、ヤング率が60GPa以上240GPa以下、そして膜厚が1.0μm以上10μm以下であって、ダイヤモンドライクカーボンから成る上層膜との少なくとも2層が摺動側表面にコーティングされたことを特徴とする摺動部品。
【0017】
(4)上層膜のDLCがCVDによって形成され、また下層膜のDLCがPVDによって形成されていることを特徴とする請求項3に記載の摺動部品。
【0018】
(5)摺動部材上に、PVD法によりダイヤモンドライクカーボンの下層膜を形成したのち、その上に、CVD法によりダイヤモンドライクカーボンの上層膜を形成することを特徴とする摺動部品用ダイヤモンドライクカーボン皮膜の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、摺動部品に層着される2層構成の摺動皮膜がともに同質のダイヤモンドライクカーボン皮膜であり、さらには、各皮膜の硬度、ヤング率ならびに層厚をそれぞれ一定の数値範囲に制御することにより、摺動皮膜の耐久性を向上すると同時に、低摩擦係数が確保できる摺動皮膜を有する摺動部品が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は自動車部品、機械部品、工具、金型などさまざまな用途の摺動部品に適用され、その材料としては鋼、アルミ、超合金などの金属材料は勿論のことセラミックスなど非金属材料にも利用することができる。
【0021】
本発明の摺動皮膜は、二重構成のダイヤモンドライクカーボン皮膜を特徴とし、潤滑環境や摺動条件に応じて、一方の部品側のみにコーティングされてもよいし、両方の部品にコーティングされてもよい。
【0022】
本発明のDLC皮膜は、摺動部品の摺動側表面の下層膜とその上に形成された上層膜との、少なくとも2層から構成され、カーボンターゲットを使用したスパッタリングなどのPVD法や、炭化水素ガスを原料としたCVD法などにより製造することにより、摺動部品母材上に容易に形成することができる。この場合、PVD法によれば、高硬度のDLC膜を形成することができるが、CVD法は、使用するガス中に含まれる水素元素が、成膜されたDLC膜にも随伴して膜の硬度を低下する反面、摩擦係数を低下させる利点がある。一方、CVD法は成膜速度の点でPVD法よりも有利である。したがって、本発明の実施にあたっては、これらの利害を調整するように製造条件を組み合わせることにより、所望の膜の機能が確保できる。
【0023】
もっともよいのは、下層をPVD法による高硬度のDLC膜にして高面圧環境下でも塑性変形を防ぐ一方で、表面層をCVD法による低摩擦係数の皮膜表面とすることにより、高耐久性と低摩擦係数の両者を兼ね備えた摺動皮膜が提供できることである。
【0024】
なお、下層のDLC膜を形成するためのPVD法としては、上述したスパッタリングの他に、アークイオンプレーティング(AIP)、もしくはレーザーアークイオンプレーティングなどのアーク法も適用可能である。ただし、これらは、スパッタリングに比して膜応力が大きくなり、膜厚を幅広く制御することが難しい傾向があるので、スパッタリングの方が好ましい。
【0025】
本発明の二重DLC皮膜のうち、下層膜の硬度は20GPa以上およびヤング率が250GPa以上とした点がさらなる特徴である。20GPa未満の硬度で250GPa未満のヤング率では、苛酷な摺動による高面圧下の環境に曝されたとき、このPVD下層が塑性変形を起こし、変形箇所を起点としてクラック等が発生し、最終的には膜が剥離して耐久性を損なうおそれがある。
【0026】
しかし、下層膜の硬度が高すぎると薄膜の内部応力が増大し、膜の耐脆性が低下するためにクラックなどが起こりやすくなるので、下層膜の硬度は45GPa以下、ヤング率450GPa以下とする。より好ましくは硬度40GPa以下、ヤング率400GPa以下である。
【0027】
なお、下層膜の硬度およびヤング率は、一般的にはバイアス電圧を上昇させることで高めることができるため、バイアス電圧の制御により、これらの値を容易に調整することができる。
【0028】
つぎに、本発明の二重被膜における表面側の上層膜は、硬度が20GPa未満、ヤング率が250GPa未満に調整されたことがさらなる特徴であり、硬度が20GPa以上でヤング率が250GPa以上の膜は、ドライ、油中、水中いずれの摺動試験においても摩擦係数が高くなる。すなわち、低硬度の膜ほど摩擦係数が低くなるので、好ましくは硬度18GPa以下、ヤング率230GPa以下であることが好ましい。一方で、硬度が低いほど摩耗速度が増すので、硬度5GPa以上、ヤング率60GPa以上であることが必要であり、硬度10GPa以上、ヤング率120GPa以上であることが好ましい。
【0029】
この上層膜は、CVD法により容易に形成することができ、CVD時のDC電圧やガスの分圧を加減することにより、膜の硬度・ヤング率を所望のレベルに制御できる。
【0030】
本発明の二重皮膜はともにDLCから構成されており、両膜の製造にあたって、まず、固体のカーボンターゲットを使用して、Arガスのみを真空チャンバ内へ導入し、あるいはArと炭化水素(たとえば、メタンガス、アセチレンガスなど。)の混合ガスを真空チャンバ内へ導入し、スパッタリング法により高硬度・ヤング率の下層DLC膜を形成する。つぎに、炭化水素単独あるいはAr−炭化水素ガスを原料とするCVD法により、先に形成した下層のDLC膜の上に低摩擦係数のDLC膜を形成する。
【0031】
形成する層は2層ともにDLC膜であることから、窒化物、酸化物あるいは炭化物形成時のようなターゲットの追加やガスの追加などの処理を必要としないから、同一のチャンバ内で2種のDLC膜を連続して形成して効率よく成膜処理が実施できる利点がある。
【0032】
本発明の二重DLC皮膜は、上記したとおりの硬度およびヤング率を具有すると同時に、つぎのとおりの膜厚条件を満足することがさらなる特徴である。すなわち、PVD下層の膜厚は0.2μm以上・4.0μm以下とするが、0.2μmより薄いと、最大応力の発生点が基材側になるために基材が塑性変形する。好ましくは0.3μm以上である。 また、4.0μmより厚い場合には、膜の内部応力が高くなって脆性が低下し、膜の耐久性が低下する。好ましくは3.5μm以下である。
【0033】
また、CVD上層膜の膜厚は1.0μm以上・10μm以下とする。CVD膜は低硬度にて摩耗速度が速いので、1.0μm未満の膜厚では、摺動環境によってはCVD表面層が摩耗で消失するおそれがある。好ましくは2.0μm以上である。一方、低硬度膜とはいえ、10μmより厚い膜は、膜応力の影響が強くなって剥離しやすくなり、耐久性が低下する。さらに成膜速度がPVD法よりも速いCVD法でも10μmより厚い膜を作るためには長時間の成膜時間を要するから、生産性の観点からは8μm以下が好ましい。
【0034】
なお、本発明の二重DLC膜においては、CVD表面層のDLC膜上にさらに硬度の低い層を、なじみ層として付加し、摺動開始直後における摩擦係数の上昇を抑制することができる。また、PVDによる下層のDLC膜と摺動部材母材との間に、Cr、Ti、V、W、Cなどの元素あるいはこれらの化合物や合金からなる中間層を介在させてDLC膜の剥離を抑制することができる。
【0035】
(実施例)
各種の皮膜について、硬度、ヤング率、および塑性変形量の測定、ならびに摺動試験を行い、評価した。
【0036】
[硬度・ヤング率の測定]
表面を鏡面研磨した超硬合金基材(三菱マテリアルUTi20T)上に、後述する下地膜を形成した後、表1に示す各試料の下層および上層のDLC膜をそれぞれ単層で形成し、硬度・ヤング率を測定した。
【0037】
この成膜に当たっては、アンバランスドマグネトロンスパッタリング装置である神戸製鋼所製UBMS202をPVD(スパッタ)およびCVDの両方を同一のチャンバ内で実施できる装置に改造し、この装置を用いて行った。
【0038】
まず、基材を導入したチャンバ内を1×10-3Pa以下に排気し、基材を約400℃に加熱した後に、Arイオンを用いて基材のスパッタクリーニングを実施した。
【0039】
その後、基材とDLC膜との密着性を確保するために、下地膜として、Cr層およびCrとCとの傾斜構造をPVD法によって成膜した。詳細には、一方のターゲットにCrを、もう一方のターゲットにDLC成膜に使用するCターゲットを取り付け、Crターゲットに1.0kWを投入して2分間成膜してCr層を形成した。その後、Crターゲットの電力を1.0kWから0kWに変化させながら、Cターゲットの電力を0kwから1.0kwに連続的に変化させるプログラム運転を実施することで、上記Cr層側が100%Crで上記DLC膜側が100%Cの組成を有し、CrとCの比率が厚み方向に連続的に変化した傾斜構造の膜を形成した。 そして、この下地膜の上に、表1に示すDLCからなる1μmの厚みの下層膜および上層膜をそれぞれ単層で形成した。
【0040】
PVDは、φ6インチのCターゲットを用い、投入電力を1.5kWに固定し、成膜時のガス種としてAr:CH=98:2の混合ガスを用いて全圧力0.5Paとして行った。この際、成膜時の基板印加バイアスを表1に示すように−20Vから-250Vの範囲で変化させることで硬度、ヤング率を変化させた。
【0041】
一方、CVDは、成膜時のガス種としてC(アセチレン)ガスを使用し、成膜時のDCパルス電圧を400Vとして行った。この際、成膜時のCガス圧力を表1に示すように1.0〜8.2Paの範囲で変化させることで硬度、ヤング率を変化させた。
【0042】
そして、形成したDLC膜の硬度およびヤング率をナノインデンテーション法により測定した。詳細には、ELIONIX社製ENT−1100a、および、ダイヤモンド製のBerkovich圧子を用い、測定荷重1から100mNの範囲で負荷−除荷曲線を測定し、硬度およびヤング率を算出した。
【0043】
[塑性変形量の測定]
表面を鏡面研磨した超硬合金基材(三菱マテリアルUTi20T)上に上述した下地膜を形成した後、表1に示す2層構造のDLC膜を表1に示す膜厚で形成し、塑性変形量を測定した。各層のDLC膜の形成方法は、硬度およびヤング率を測定したときと同様とした。このとき、PVDとCVDは同一のチャンバ内で行った。
【0044】
塑性変形量は、上述したELIONIX社性ENT−1100a、および、ダイヤモンド製のBerkovich圧子を用い、1000mNの荷重を印加した負荷−除荷曲線の除荷曲線の接線から求めた。
【0045】
[摺動試験]
表面を鏡面研磨したSKD51ディスク(Φ34×t5mm)上に上述した下地膜を形成した後、塑性変形量の測定の際と同様にして表1に示す2層構造のDLC膜を形成し、摺動試験を行った。
【0046】
摺動条件としては、摺動対象部材にSKD51製のノンコーティングのリング(Φ25.6mm×20.0×t15.0mmでリングの先端R1.5)を用い、摺動速度1.0m/s、荷重200Nで、ディスク上にオイル(室温での動粘度が10mm/s程度)を塗布して5000mの摺動を実施した。詳細には、10分間のなじみ運転後、摺動速度1.0m/s、荷重200Nになった時点から5000mの摺動を行った。
【0047】
耐久性は、摩擦係数が0.3を超えた時点での摺動距離を焼き付き開始距離とし、焼き付き開始距離で評価した。5000m摺動後も焼き付きが起こらないものについては5000m摺動クリアとした。摩擦係数の評価については5000m摺動クリアしたものについては0〜5000mまでの摩擦係数の平均値を用い、焼き付いたものについては摩擦係数が0.3を超える直前までの摩擦係数の平均値を用いて比較を行った。
【0048】
以上の方法で測定した硬度、ヤング率、塑性変形量ならびに摺動試験結果とこれらの結果に基づく総合評価を合わせて同表1に示す。表中において、塑性変形量、耐久性および摩擦係数の全てに優れている試料を「○」で示し、いずれか1つでも問題のあるものを「×」で示した。
【0049】
これらの摺動試験結果を考察すると、試料No.1のようにPVD単層の場合には摩擦係数が大きく、No.2のようにCVD単層では、摩擦係数は低いものの塑性変形量が大きく、さらに耐久性が低下し焼き付きが発生している。
【0050】
No.3は、下層膜の厚さが薄すぎるために塑性変形量が大きくなっている。
【0051】
No.5は、表面層の硬度が高いために摩擦係数が増大していることがわかる。一方で、No.6のように下地の硬度が低い場合には塑性変形量が大きくなっている。
【0052】
No.7では、表面層の摩耗が進んで膜が直ちに消失し、その後、PVD層での摺動となった後に焼き付きが発生している。
【0053】
No.13は、表面層の膜厚が厚すぎるため、塑性変形量が大きくなって高硬度の下層の効果が発揮できていないことがわかる。
【0054】
No.14は、高硬度の下層膜が厚いために膜応力が大きくなったために摺動試験中に下層膜にクラックが生じ、このクラックを起点として膜剥離が発生し、焼き付きが発生したものと考えられる。それに対しNo.4、No.8〜12,15では、塑性変形量を抑えた上で、耐焼き付き性ならびに低摩擦係数を同時に達成できている。
【0055】
また、No.16のようにCVDとPVDを入れ替えた構成では、塑性変形量、耐焼き付き性ならびに摩擦係数のいずれも不良化している。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部材の摺動側表面にコーティングされた皮膜であって、ダイヤモンドライクカーボン(DLC。以下同様。)から成る下層膜およびこの下層膜の上に配置されたDLCからなる上層膜との少なくとも2層の膜から構成され、下層膜は、硬度が20GPa以上45GPa以下、ヤング率が250GPa以上450GPa以下、そして膜厚が0.2μm以上4.0μm以下であり、上層膜は、硬度が5GPa以上20GPa未満、ヤング率が60GPa以上240GPa以下、そして膜厚が1.0μm以上10μm以下であることを特徴とする摺動部品用ダイヤモンドライクカーボン皮膜。
【請求項2】
CVD(Chemical Vapor Deposition。以下、同様。)によって形成された上層膜およびPVD(Physical Vapor Deposition。以下、同様。)によって形成された下層膜であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品用ダイヤモンドライクカーボン皮膜。
【請求項3】
硬度が20GPa以上45GPa以下、ヤング率が250GPa以上450GPa以下、そして膜厚が0.2μm以上4.0μm以下であって、ダイヤモンドライクカーボンから成る下層膜、およびこの下層膜の上に配置され、硬度が5GPa以上20GPa未満、ヤング率が60GPa以上240GPa以下、そして膜厚が1.0μm以上10μm以下であって、ダイヤモンドライクカーボンから成る上層膜との少なくとも2層が摺動側表面にコーティングされたことを特徴とする摺動部品。
【請求項4】
上層膜のDLCがCVDによって形成され、また下層膜のDLCがPVDによって形成されていることを特徴とする請求項3に記載の摺動部品。
【請求項5】
摺動部材上に、PVD法によりダイヤモンドライクカーボンの下層膜を形成したのち、その上に、CVD法によりダイヤモンドライクカーボンの上層膜を形成することを特徴とする摺動部品用ダイヤモンドライクカーボン皮膜の製造方法。

【公開番号】特開2009−167512(P2009−167512A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10504(P2008−10504)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】