説明

摺動部材のコーティング方法及び摺動部材、特にピストンリング

本発明はナノ粒子が最初に製造され、その後前記コーティングプロセスに際に前記コーティング内に導入され、前記コーティングプロセスがPVD及び/又はCVD方法で実施される、コーティング方法に関する。摺動部材は、別に製造されるナノ粒子を含むPVD及び/又はCVD方法により形成されるコーティングを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材のコーティング方法及び摺動部材、特にピストンリングに関する。ピストンリングのような摺動部材については非常に僅かな摩擦損失が要求される。例えば内燃機関で摺動部材として作用するピストンリングについては、摩擦の増加は燃料消費に直接影響を及ぼすものである。さらに、燃料消費は前記ピストンリングの状態に依存する。特にこの意味で、いわゆる焼付強度(burn mark strength)及び折損強度(outbreak strength)は、要求される摩擦特性を恒久的に実現する上で特に重要な強度であり、注目されるべきものである。
【背景技術】
【0002】
これまで知られているピストンリングは、PVD法により、特にクロム窒化物などの磨耗保護(硬質)材料でコーティングされることが知られている。さらに、A1203又はダイヤモンド粒子(マイクロメータの範囲)を伴うクロム層の電気メッキも知られている。
【0003】
DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングシステムがWO2007/079834A1に開示されている。ここで、DLCは別のプロセスで製造され、サイズが10nmまでのナノ結晶性タングステンカーバイド堆積を含む。
【0004】
最後に、DE19958473A1には、プラズマビームソースを持つ複合体層を製造する方法であって、ナノ結晶性粒子が埋め込まれ得るものであり、さらに、既知の別々に制御可能なCVD又はPVD方法と組み合わせることができる方法が開示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、摺動部材及び対応する摺動部材をコーティングする方法であって、要求される摩擦特性及び磨耗特性を要求される使用寿命に亘って実現可能とする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は請求項1に記載の方法により達成される。
【0007】
従って、本発明は、摺動部材、特にピストンリングである摺動部材の少なくともひとつの外側表面上に少なくともひとつの層を形成するためのコーティング方法であり、前記方法は、ナノ粒子が最初に製造され、その後前記コーティングプロセスの際に前記コーティング中に注入される方法である。言い換えると、前記ナノ粒子は途中で、即ち前記コーティングの際に製造されるのではなく、そのコーティングの前に、別に製造され、その後前記コーティングプロセスの際に前記コーティング中に注入(導入)される。この方法で使用されるメカニズム及びこの方法で改良される機械的性質、例えば疲労強度、研削焼強度、アウトブレイク強度、破壊強度及び引張破断強度をもたらすメカニズムは、現在の知識水準により以下のように作用するものである。また、本発明はこれらに限定されるものではないことに留意すべきである。記載される粒子の導入は、局所的結晶格子の変形をもたらし、これにより上で説明された機械的特性の改良をもたらす。さらに磨耗特性の改良は、極めて高い粒塊限界密度及び強化された弾性及びより小さい摩擦により達成される。
【0008】
注入ナノ粒子の利点はまた、その粒子の分散又は堆積硬化を実施する上で有効利用することを可能とすることである。すなわち、力が受けている場合の変位又はすでに存在する変位は、前記粒子又は堆積によっては作用を受けず、又前記粒子又は堆積により切り崩されることなく前記粒子間にある程度飛び出る。従って変位リングが形成されることになり得るがこれは回避されなければならない。これを回避するために、変位リングが前記粒子又は堆積を切り開く際のエネルギよりもより高いエネルギが要求される。従って負荷容量が増加される。さらに本発明の利点は、前記粒子の空間占有性が減少しかつ粒子サイズが減少すると、前記変位を移動させるための降伏応力が増加するという効果を有効に利用することができるということである。材料強度はこれにより増加する。この効果は、特にナノ粒子により得られるものである。さらに、前記表面上の高欠陥密度に基づいて前記粒子が注入され、前記コーティングプロセスの際に、強化されるべき前記材料には実際上無関係で導入され得るということが、本発明の範囲内で示される。この方法で、前記望ましい堆積は、非干渉性、部分的に干渉性又は干渉性であってよく、機械的性質においては上で説明された効果を持ち、有利に形成され得る。前記ナノ粒子を別に(外で)製造することは、前記ナノ粒子の化学的及び結晶学的構造が制御可能であるということをさらに有利に保証する。さらに、前記ナノ粒子を製造する際にこの制御をすることにより、前記粒子が前記層内に注入されてコーティングプロセスの際に望ましい形に成長することができるということを保証する。
【0009】
かかるコーティングは有利には試行され試験されたPVD(物理蒸着)及び/又はCVD(化学蒸着)コーティングプロセスの方法で実施され得る。
【0010】
本発明のさらなる有利な構成は以下の特許請求の範囲に記載される。
【0011】
前記コーティング材料の基本材料又はマトリックスとしては、窒化物、特に金属(酸化)窒化物が含まれ、特に有利なものとして、Cr(O)N、AlN又はTiNが挙げられる。
【0012】
最初の試みで、粒子の堆積分率20%以下で良好な性質をもたらすことが見出された。
【0013】
さらに、粒子サイズ(直径)1から100nm、好ましくは5から75nm、及び特に好ましくは5から50nmを持つナノ粒子を用いることで良好な結果が得られることが分かった。
【0014】
酸化物、カーバイド及び/又はシリサイドを含む群からのナノ粒子組成物としては、組成物Me,Me又はMeSiが好ましい。ここで前記金属は、クロム、チタン、タンタル、シリコン、インジウム、スズ、アルミニウム、タングステン、バナジウム又はモリブデン及び/又はxは1から3及び/又はyは1から3であり得る。
【0015】
前記層厚さについて良好な性質を得るには、コーティング厚さが、最大100μm、好ましくは5から50μmの範囲である。
【0016】
本発明のコーティングが多くの異なる方法で使用され得るが、良好な性質が実証されたという点で、本発明による、基本材料即ち前記摺動部材をコーティングするコーティング材料としては、鋳鉄又は鋼が挙げられる。
【0017】
上記課題はさらに、請求項9に記載の摺動部材により達成される。該摺動部材としては特にピストンリングである。本発明による前記摺部材の好ましい実施態様は、該摺動部材を製造する本発明による方法の実施態様に対応する。これを適用することで、特に恒久的に要求される摩擦特性及び磨耗特性を有する恒久摺動部材においても同様の効果を奏する。
【0018】
好ましいピストンリングについては、ひとつ又はそれ以上の摺動表面即ち上部及び/下部側面、及び/又は接触表面即ち前記ピストンリングの外部シリンダ表面などがコーティングされ得る。前記接触表面は本発明によるコーティング方法により、別に製造されるナノ粒子で少なくとも前記ひとつの面よりもより厚くコーティングされてよい。前記接触表面及び前記少なくともひとつの面の間の横断面は前記コーティング上に丸みをつけられてよく、同様に、前記ピストンリングの基本材料での該横断面も丸みをつけられてよい。両方の面のコーティングは同じ厚さであってよい。特に、前記接触表面のみがコーティングされてよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部表面に形成される少なくともひとつの層を持つ摺動部材、特にピストンリングである摺動部材をコーティングする方法であり、前記方法は、ナノ粒子が最初に製造され、その後前記コーティングプロセスの際に前記コーティング内に導入され、前記コーティングプロセスがPVD及び/又はCVD方法で実施される、コーティング方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコーティング方法であり、前記コーティングが金属窒化物、特にCrN、AlN又はTiNのいずれかである、コーティング方法。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一項に記載のコーティング方法であり、前記形成されるコーティングが金属酸化窒化物、特にCrONである金属酸化窒化物含む、コーティング方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコーティング方法であり、ナノ粒子が前記コーティングの20体積%までである、コーティング方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のコーティング方法であり、前記コーティングが、前記ナノ粒子が1から100nmの範囲のサイズ、好ましくは5から75nmの範囲のサイズ、特に好ましくは5から50nmの範囲のサイズである、コーティング方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のコーティング方法であり、前記コーティングが、前記ナノ粒子が、酸化物、カーバイド及び/シリサイドを含む群から選択され、前記組成物の少なくともひとつがMe、Me及びMeSi(ここでMeはCr、Ti、Ta、Si、In、Sn、Al、W、V、Moを表し、x=1から3、y=1から3を表す)である、コーティング方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のコーティング方法であり、前記コーティングが、全厚さが約100nm、好ましくは5から50nmである、コーティング方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のコーティング方法であり、前記コーティングが、前記摺動部材の基本材料として鋳鉄又は鋼の上に形成される、コーティング方法。
【請求項9】
摺動部材、特にピストンリングであり、少なくともひとつの外側表面に、少なくともひとつのPVD及び/又はCVD法で形成されるコーティングを有し、前記コーティングが別に製造されるナノ粒子を含む、摺動部材。
【請求項10】
請求項9に記載の摺動部材であり、前記コーティングが金属窒化物、特にCrN、AlN又はTiNである金属窒化物を含む、摺動部材。
【請求項11】
請求項9又は10のいずれか一項に記載の摺動部材であり、前記コーティングが金属酸化窒化物、特にCrONである金属酸化窒化物を含む、摺動部材。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか一項に記載の摺動部材であり、前記ナノ粒子が前記コーティングの20体積%までである、摺動部材。
【請求項13】
請求項9乃至12のいずれか一項に記載の摺動部材であり、前記コーティングが、前記ナノ粒子が1から100nmの範囲のサイズ、好ましくは5から75nmの範囲のサイズ、特に好ましくは5から50nmの範囲のサイズである、摺動部材。
【請求項14】
請求項9乃至13のいずれか一項に記載の摺動部材であり、前記コーティングが、前記ナノ粒子が、酸化物、カーバイド及び/シリサイドを含む群から選択され、前記組成物の少なくともひとつがMe、Me及びMeSi(ここでMeはCr、Ti、Ta、Si、In、Sn、Al、W、V、Moを表し、x=1から3、y=1から3を表す)である、摺動部材。
【請求項15】
請求項9乃至14のいずれか一項に記載の摺動部材であり、前記コーティングが、全厚さが約100nm、好ましくは5から50nmである、摺動部材。
【請求項16】
請求項9乃至15いずれか一項に記載の摺動部材であり、前記コーティングが、前記摺動部材の基本材料として鋳鉄又は鋼の上に形成される、摺動部材。

【公表番号】特表2012−520935(P2012−520935A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500090(P2012−500090)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066824
【国際公開番号】WO2010/105710
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(511081750)フェデラル−モーグル ブルシャイド ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】