摺動面構造
【課題】多方向すべりに対応できて、流体潤滑特性及び混合潤滑特性の向上に寄与する摺動面構造を提供する。
【解決手段】第1部材1の摺動面1aと第2部材2の摺動面2aとが潤滑剤下で相対的に摺動する摺動面構造である。第1部材1と第2部材2との少なくともいずれか一方の摺動面にグレーティング状凹凸の周期構造部3を設ける。この周期構造部は、予定される摺動方向に対して線対称の形状となるとともに、摺動面1a,2aの相対的な摺動によって潤滑剤を摺動面中央部に引き込む。
【解決手段】第1部材1の摺動面1aと第2部材2の摺動面2aとが潤滑剤下で相対的に摺動する摺動面構造である。第1部材1と第2部材2との少なくともいずれか一方の摺動面にグレーティング状凹凸の周期構造部3を設ける。この周期構造部は、予定される摺動方向に対して線対称の形状となるとともに、摺動面1a,2aの相対的な摺動によって潤滑剤を摺動面中央部に引き込む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サブミクロンの周期ピッチと溝深さをもつグレーティング状の周期構造は高い負荷能力と剛性をもつことが知られている。このため、このようなグレーティング状の周期構造を往復摺動構造や回転摺動構造に利用されてきている。しかしながら、グレーティング状の周期構造を利用したものは、1軸方向の往復動や1軸廻りの回転運動に限られていた。
【0003】
ところで、人工股関節等における摺動方向は多方向であり、静止荷重状態が不定期に発生する。そのため、リンギング(密着)が発生し、静止荷重状態が解除されても、この密着状態が継続され流体潤滑膜が回復しないことがある。しかも、リンギングは、きしみ音の発生や摩耗の原因となる。このため、微小クリアランスでの流体潤滑膜形成機能を有する機能表面の創成が望まれている。
【0004】
そして、従来には、人工股関節における摺動接触面構造に用いる摺動面構造が提案されている(特許文献1)。この摺動面構造は、他の部材に摺動接触する母材の摺動面に、複数の凹部を設けることで凹凸パターンを形成したものがある。この場合、凹部の配列ピッチ、凹部の深さ、摺動面全体に対する凹部の面積比率、円換算直径、材質等を限定したものである。
【0005】
このような各種のパラメータを限定することによって、「凹部からの潤滑剤の供給、凹部への摩耗粉の逃げによるアブレシブ摩耗の防止により、耐摩耗性および耐焼付性が向上する」等の作用効果を奏するものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3590992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載のように構成した場合、凹部(ディンプル)は狭い領域内で正負等しい圧力を発生する。この際、キャビテーションが発生することにより正圧部のみが負荷容量に寄与する。しかしながら、正圧発生領域が狭いため圧力上昇が僅かしか得られない。このため、動圧発生効果が小さく、また、油溜り効果は混合潤滑特性に寄与するが、流体潤滑特性にほとんど寄与しない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて、多方向すべりに対応できて、流体潤滑特性及び混合潤滑特性の向上に寄与する摺動面構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の摺動面構造は、第1部材の摺動面と第2部材の摺動面とが潤滑剤下で相対的に摺動する摺動面構造であって、第1部材と第2部材との少なくともいずれか一方の摺動面に、予定される摺動方向に対して線対称の形状となるとともに、摺動面の相対的な摺動によって潤滑剤を摺動面中央部に引き込むグレーティング状凹凸の周期構造部を設けたものである。
【0010】
本発明の摺動面構造によれば、周期構造部は、予定される摺動方向に対して線対称の形状であるので、予定される全ての摺動方向に対する摺動運動を行うことができ、このような周期構造部は高い負荷能力と剛性をもつ。しかも、潤滑剤を摺動面中央部に引き込む流体導入効果を得ることによって、負荷容量の増加を図ることができる。すなわち、流体導入効果による負荷容量の増加がレイリーステップ効果の減少分よりも大きいものとなる。
このため、流体潤滑特性及び混合潤滑特性の向上を図ることができ、予定される全ての摺動方向に対してローリングを生じることなく大きな動圧を得ることができる。ここで、予定される摺動方向としては、平面的に見て1軸方向であっても、2以上の多軸方向であってもよい。
【0011】
前記周期構造部は、摺動面中央部を中心として放射状に延びる複数の微細溝にて構成される微細溝構造であるように設定できる。このように設定することによって、摺動面中央部への流体導入機能を安定して発揮できる。
【0012】
摺動面中央部は周期構造部を構成しない溝未形成部とすることができ、また、摺動面中央部は、予定される摺動方向線に対して線対称の形状とすることができる。
【0013】
周期構造部の周期ピッチを10μm以下とするのが好ましく、周期構造部の凹部の深さが1μm以下とするのが好ましい。
【0014】
前記周期構造部は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の摺動面構造では、予定される全ての摺動方向に対してローリングを生じることなく大きな動圧を得ることができ、多方向すべりに対して流体導入効果を発揮し、低摩擦を得ることができる。このため、このような摺動面構造を、例えば、人工股関節等に用いることができる。すなわち、人工股関節のカップを本発明の第1部材とし、人工股関節の骨頭を第2部材とすることができる。このような場合、カップの内径面と、骨頭の外径面とが圧接状となって、カップ部の内径面が摺動面となるとともに、骨頭の外径面が摺動面となる。従って、本発明の摺動面構造を人工股関節に用いれば、微小クリアランスでの流体潤滑膜形成機能を有することになって、リンギングの発生を抑えることができて、リンギングに基づくきしみ音の発生や摩耗を有効に防止できる。このため、人工股関節として、長期にわたって、安定した股関節を構成することができる。
【0016】
摺動面中央部を中心として放射状に延びる複数の微細溝にて構成される微細溝構造であれば、効率的に大きな動圧を得ることができ、潤滑性に優れる。また、摺動面中央部を溝未形成部とすれば、負荷容量を一層高めることができ、安定して優れた潤滑性を発揮できる。
【0017】
摺動面中央部が予定される摺動方向線に対して線対称の形状であれば、予定される全ての摺動方向に対してローリングを生じることなく大きな動圧を安定して得ることができる。
【0018】
周期構造部の凹凸ピッチを10μm以下とした場合、潤滑剤の漏れ(側方漏れ)を冗長的に抑えることができ、効率的に動圧を得ることができる。周期構造部の凹部の深さを1μm以下とした場合、動圧発生時の浮上量の変動を減少でき、剛性向上に寄与する。
【0019】
周期構造部は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成したものでは、機械加工では困難なサブミクロンの周期ピッチと凹凸深さを持つものを容易に形成できる。このようなサブミクロンの周期構造にすることで混合潤滑における狭い一部のすきまで流体潤滑効果が有効に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態を示す摺動面構造の簡略図である。
【図2】前記図1に示す摺動面構造の第2部材の摺動面を示し、(a)は第1の周期構造部を有する摺動面の簡略図であり、(b)は第2の周期構造部を有する摺動面の簡略図である。
【図3】前記摺動面に形成される周期構造部の拡大図である。
【図4】摺動面構造の他の第2部材の摺動面の簡略図である。
【図5】摺動面構造の別の第2部材の摺動面の簡略図である。
【図6】前記周期構造部を形成するためのレーザ表面加工装置の簡略図である。
【図7】実施例1において使用した摺動面構造の第2部材の摺動面を示し、(a)は周期構造部を有する場合の簡略図であり、(b)は周期構造部を有さない場合の簡略図である。
【図8】実施例1にて得られた荷重と摩擦係数との関係を示すグラフ図である。
【図9】実施例2において使用した摺動面構造の第2部材の摺動面の簡略図である。
【図10】実施例2において使用した比較片を示し、(a)は底面図であり、(b)は正面図である。
【図11】実施例2にて得られた平滑部長さと負荷容量との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図1〜図6に基づいて説明する。
【0022】
摺動面構造は、図1に示すように、第1部材1の摺動面1aと第2部材2の摺動面2aとる潤滑剤下で相対的に摺動するものである。第1部材1は平盤体とし、第2部材2を平板矩形体としている。この場合、第1部材1及び第2部材2は、炭素鋼、銅、アルミニウム、白金、超硬合金等であっても、炭化ケイ素や窒化ケイ素等のシリコン系セラミックスであっても、エンジニアプラスチック等であってもよい。また、潤滑剤としても、水やアルコールであっても、さらにはエンジンオイル等の潤滑油等であってもよい。すなわち、第1・第2部材1,2の材質、使用する環境等に応じて種々の潤滑剤を用いることができる。
【0023】
第1部材1の上面が摺動面1aとなり、第2部材2の下面が摺動面2aとなる。第2部材2の摺動面2aに図2に示すようなグレーティング状凹凸の周期構造部3が設けられる。この周期構造部3は、摺動面2aの正方形状のランド部(溝未形成部)4を残して、外周側に矩形リング範囲に設けられる。
【0024】
周期構造部3は図3に示すように、微小の凹部5と微小の凸部6とが交互に所定ピッチで配設されてなるものである。周期構造部3の凹凸ピッチを10μm以下とし、凹部5の深さを1μm以下とするのが好ましい。この場合、周期構造部3の凹部5は、第2部材2の摺動面2aの外周縁に開口している。
【0025】
周期構造部3は、予定される摺動方向に対して線対称の形状となるように形成される。すなわち、図2(a)に示す周期構造部3は、摺動面中央部を中心として、ランド部4を省いて、放射状に延びる複数の微細溝(凹部5)にて構成される微細溝構造からなる。この図2(a)では、溝未形成部4が正方形であるので、相互に直交するX・Y軸方向の2方向の摺動に最適となる。このようなX軸方向及びY軸方向の2方向の摺動では、周期構造を、図2(b)に示すものであってもよい。すなわち、図2(b)では、溝未形成部4の各辺から外形側に直交するように配設され、溝未形成部4のコーナ部から放射状に配設されている。
【0026】
周期構造部3は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成している。具体的には、図6に示すフェムト秒レーザ表面加工装置を使用する。レーザ発生器11(チタンサファイアフェムト秒レーザ発生器)で発生したレーザ(例えば、パルス幅:120fs、中心波長800nm、繰り返し周波数:1kHz、パルスエネルギー:0.25〜400μJ/pulse)は、ミラー12により加工材料Wに向けて折り返され、メカニカルシャッタ13に導かれる。レーザ照射時はメカニカルシャッタ13を開放し、レーザ照射強度は1/2波長板14と偏光ビームスプリッタ16によって調整可能とし、1/2波長板15によって偏光方向を調整し、集光レンズ(焦点距離:150mm)17によって、XYθステージ19上の加工材料W表面に集光照射する。なお、フェムト秒レーザは1000兆分の1秒という極端に短い時間単位の中にエネルギーを圧縮した光源である。
【0027】
すなわち、アブレーション閾値近傍のフルエンスで直線偏光のレーザをワーク(加工材料)Wに照射した場合、入射光と加工材料Wの表面に沿った散乱光またはプラズマ波の干渉により、波長オーダのピッチと溝深さを持つグレーティング状の周期構造を偏光方向に直交して自己組織的に形成する。このとき、フェムト秒レーザをオーバラップさせながら走査させることで、周期構造を広範囲に拡張することができる。
【0028】
レーザのスキャンは、レーザを固定して加工材料Wを支持するXYθステージ19を移動させても、XYθステージ19を固定してレーザを移動させてもよい。あるいは、レーザとXYθステージ19を同時移動させてもよい。なお、前記図3は、前記フェムト秒レーザ表面加工装置にて形成した周期構造部3を電子顕微鏡で撮像した図である。
【0029】
本発明の摺動面構造では、周期構造部3は、予定される摺動方向に対して線対称の形状であるので、予定される全ての摺動方向に対する摺動運動を行うことができ、このような周期構造部3は高い負荷能力と剛性をもつ。しかも、潤滑剤を摺動面中央部4に引き込む流体導入効果を得ることによって、負荷容量の増加を図ることができる。このため、流体潤滑特性及び混合潤滑特性の向上を図ることができ、予定される全ての摺動方向に対してローリングを生じることなく大きな動圧を得ることができる。なお、前記図1に示す図例のものでは、第1部材1を固定して、第2部材2を矢印Xのように、第1部材1に対して往復動させるようにしている。
【0030】
このため、このような摺動面構造を、例えば、人工股関節に用いることができる。すなわち、人工股関節のカップを本発明の第1部材1とし、人工股関節の骨頭を第2部材2とすることができる。このような場合、カップの内径面と、骨頭の外径面とが圧接状となって、カップ部の内径面が摺動面1aとなるとともに、骨頭の外径面が,周期構造部3を有する摺動面2aとなる。従って、本発明の摺動面構造を人工股関節に用いれば、微小クリアランスでの流体潤滑膜形成機能を有することになって、リンギングの発生を抑えることができて、リンギングに基づくきしみ音の発生や摩耗を有効に防止できる。このため、人工股関節として、長期にわたって、安定した股関節を構成することができる。
【0031】
摺動面中央部を中心として放射状に延びる複数の微細溝(凹部5)にて構成される微細溝構造であれば、効率的に大きな動圧を得ることができ、潤滑性に優れる。また、摺動面中央部を溝未形成部4とすれば、負荷容量を一層高めることができ、安定して優れた潤滑性を発揮できる。
【0032】
摺動面中央部が予定される摺動方向線に対して線対称の形状であれば、予定される全ての摺動方向に対してローリングを生じることなく大きな動圧を安定して得ることができる。
【0033】
周期構造部3の凹凸ピッチを10μm以下とした場合、潤滑剤の漏れ(側方漏れ)を冗長的に抑えることができ、効率的に動圧を得ることができる。周期構造部3の凹部5の深さを1μm以下とした場合、動圧発生時の浮上量の変動を減少でき、剛性向上に寄与する。特に、混合潤滑状態であっても、一部の狭い(1μm以下)隙間領域で流体潤滑効果を発揮することができる。
【0034】
周期構造部3は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成したものでは、機械加工では困難なサブミクロンの周期ピッチと凹凸深さを持つものを容易に形成できる。このようなサブミクロンの周期構造にすることで混合潤滑における狭い一部のすきまで流体潤滑効果が有効に発揮される。
【0035】
図4に示す摺動面2aでは、ランド部(摺動面中央部であって、周期構造部を構成しない溝未形成部)4は円形状とされている。また、図5では、第2部材2の短円柱体とし、ランド部4を円形状としている。
【0036】
このため、図4や図5に示す第2部材2の摺動面2aであっても、前記図2に示す第2部材2の摺動面2aと同様の作用効果を奏する。特に、図4や図5等に示すように、溝未形成部4が円形状とされ、周期構造部4の周期方向が放射状に配設されるものであれば、2軸方向に限らず、多数方向の摺動に対応することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、周期構造部3を第1部材1側に形成してもよく、第1部材1及び第2部材2の両側に設けてもよい。また、摺動面中央部の溝未形成部4の形状として、図2に示すような正方形や図4に示す円形に限るものではなく、予定される摺動方向線に対して線対称の形状であればよく、例えば、正六角形や正八角形等であってもよい。第1部材1と第2部材2の形状としても、図例のものに限らず、他の種々の形状のものにて構成できる。
【0038】
周期構造部3の大きさ、配設ピッチ等は、使用する第1・第2部材の大きさ、材質、潤滑剤の種類、摺動速度等に応じて種々変更することができる。
【0039】
第1部材1と第2部材2の相対的な摺動運動は、前記実施形態では、第1部材1を固定して第2部材2を往復動させるもの、つまり周期構造部3が形成される側を摺動させるものであったが、逆に第2部材2側を固定して、第1部材側を摺動させてもよい。すなわち、周期構造部3が形成されない方を摺動させてもよい。また、第1部材1と第2部材2の双方を摺動させるものであってもよい。
【0040】
本発明の摺動面構造によれば、多方向のすべりに対して流体導入効果を発揮して低摩擦を得ることができる。このため、本発明の摺動面構造は、人工股関節に限るものではなく、球面軸受、各種のマイクロマシン、光学部品、微小物体捕獲器等の種々の機器に使用可能である。
【実施例1】
【0041】
図7(a)に示すような摺動面2aを有する第2部材2(試験片A)を用いて、荷重と摩擦係数との関係を調べた。試験片Aとして、その材質をSUS440Cとし、摺動面直径Dを5mmとし、この摺動面2aの外周側に、周期間隔約700nm、凹凸深さ(凹部深さ)を約200nmのグレーティング状の周期構造部3を形成した。この周期構造部3の幅(径方向幅)Eを0.5mm程度とした。(周期構造形成部はφ4mm〜φ5mmであるので、Eが0.5mmとなる。)また、使用する第1部材1としては、図1に示すような平盤体を使用する。この第1部材1としての平盤体は、その材質として試験片と同様SUS440Cとする。第1部材1の摺動面1a及び試験片Aの摺動面2aの表面粗さをRa0.02μmとした。潤滑剤としては、極性をもたず熱的・化学的に安定したPAO6を用いた。
【0042】
また、摺動面2aに周期構造部3を有さない比較片A1(図7(b)参照)を製作した。この比較片A1もSUS440Cとし、その外径寸法D1を5mmとし、摺動面2a1の表面粗さをRa0.02μmとした。なお、試験片Aの周期構造部3は、前記図6に示したフェムト秒レーザ表面加工装置を用いて形成した。すなわち、直線偏光のフェムト秒レーザを加工しきい値近傍のエネルギー密度で材料表面に照射し自己組織的に形成したものである。そして、周期構造の方向は、多方向すべりに対応できるように放射状としている。
【0043】
そして、試験としては、図1に示すように、試験片A(第2部材2)および比較片A1をそれぞれ1直線方向に6mmの範囲で矢印X方向に往復動させた。この際、摺動速度を4mm/sとし、荷重を1Nから50Nまで段階的に増加させた。
【0044】
試験結果を図8のグラフ図に示す。図8では、横軸を荷重(N)とし、縦軸を摩擦係数としている。図8の黒丸は周期構造部を有する試験片Aを示し、図8の白丸は周期構造を有さない比較片A1を示している。なお、図8では試験片Aではこの試験片を周期構造と呼び、この比較片A1を鏡面と呼んでいる。
【0045】
図8から分かるように、各荷重条件で摩擦係数が比較片A1よりも試験片Aが低いことが分かる。すなわち、比較片A1よりも試験片Aが滑らかに摺動する。
【実施例2】
【0046】
負荷容量とランド部(溝未形成部)4の大きさとの関係を調べた。この場合の試験片Bとしては、図9にように、摺動面2aが1辺の長さSが5mmの正方形で、その外周部に各辺に沿った周期構造部3を設けたものである。また、溝未形成部4が正方形とされ、図11にグラフ図に示すように、溝未形成部(平滑部)4の1辺の長さLを0mmから5mmまで変化させた。
【0047】
また、比較片B1として、図10に示すように、1辺の長さS1が5mmの摺動面2aに、溝未形成部(平滑部)4に対応する位置に摺動面2a1からの高さTが200nmの膨出部50を形成したものである。膨出部50の1辺の長さL1を0から5mmまで変化させた。
【0048】
試験片Bの負荷容量は、無限溝数理論により油膜厚さ200nm、丘溝比0.5、周期構造深さ200nm、粘度31.28cp、摺動速度50mm/sとして計算した。また、比較片B1の負荷容量は、試験片Bの負荷容量の計算と同一条件として計算した。
【0049】
計算結果を図11のグラフ図に示す。図11において、実線は試験片Bを示し、破線は比較片B1を示す。なお、図11では試験片Bを周期構造と呼び、この比較片B1を均一段差と呼んでいる。
【0050】
この図11からわかるように、試験片Bでは、比較片B1の1.4倍の負荷容量が得られた。試験片Bでは周期構造部3を設けたことにより、レイリーステップ効果は減少するが、流体を中央部に引き込む流体導入効果が新たに発生する。すなわち、試験片Bの負荷容量が増加したのは、流体導入効果による負荷容量の増加がレイリーステップ効果の減少分よりも大きいためである。
【0051】
この試験により、試験片Bのように、摺動面中央部に溝未形成部4を形成し、かつ外周部に周期構造部3を形成したものが、大きな負荷容量を得ることができる。特に、1辺が5mmの正方形の摺動面2aを有する場合、溝未形成部(平滑部)4が1辺が2mm程度の正方形とすることによって、最大の負荷容量を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
1a 摺動面
1 第1部材
2a 摺動面
2 第2部材
3 周期構造部
4 溝未形成部(ランド部)
5 凹部
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サブミクロンの周期ピッチと溝深さをもつグレーティング状の周期構造は高い負荷能力と剛性をもつことが知られている。このため、このようなグレーティング状の周期構造を往復摺動構造や回転摺動構造に利用されてきている。しかしながら、グレーティング状の周期構造を利用したものは、1軸方向の往復動や1軸廻りの回転運動に限られていた。
【0003】
ところで、人工股関節等における摺動方向は多方向であり、静止荷重状態が不定期に発生する。そのため、リンギング(密着)が発生し、静止荷重状態が解除されても、この密着状態が継続され流体潤滑膜が回復しないことがある。しかも、リンギングは、きしみ音の発生や摩耗の原因となる。このため、微小クリアランスでの流体潤滑膜形成機能を有する機能表面の創成が望まれている。
【0004】
そして、従来には、人工股関節における摺動接触面構造に用いる摺動面構造が提案されている(特許文献1)。この摺動面構造は、他の部材に摺動接触する母材の摺動面に、複数の凹部を設けることで凹凸パターンを形成したものがある。この場合、凹部の配列ピッチ、凹部の深さ、摺動面全体に対する凹部の面積比率、円換算直径、材質等を限定したものである。
【0005】
このような各種のパラメータを限定することによって、「凹部からの潤滑剤の供給、凹部への摩耗粉の逃げによるアブレシブ摩耗の防止により、耐摩耗性および耐焼付性が向上する」等の作用効果を奏するものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3590992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載のように構成した場合、凹部(ディンプル)は狭い領域内で正負等しい圧力を発生する。この際、キャビテーションが発生することにより正圧部のみが負荷容量に寄与する。しかしながら、正圧発生領域が狭いため圧力上昇が僅かしか得られない。このため、動圧発生効果が小さく、また、油溜り効果は混合潤滑特性に寄与するが、流体潤滑特性にほとんど寄与しない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて、多方向すべりに対応できて、流体潤滑特性及び混合潤滑特性の向上に寄与する摺動面構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の摺動面構造は、第1部材の摺動面と第2部材の摺動面とが潤滑剤下で相対的に摺動する摺動面構造であって、第1部材と第2部材との少なくともいずれか一方の摺動面に、予定される摺動方向に対して線対称の形状となるとともに、摺動面の相対的な摺動によって潤滑剤を摺動面中央部に引き込むグレーティング状凹凸の周期構造部を設けたものである。
【0010】
本発明の摺動面構造によれば、周期構造部は、予定される摺動方向に対して線対称の形状であるので、予定される全ての摺動方向に対する摺動運動を行うことができ、このような周期構造部は高い負荷能力と剛性をもつ。しかも、潤滑剤を摺動面中央部に引き込む流体導入効果を得ることによって、負荷容量の増加を図ることができる。すなわち、流体導入効果による負荷容量の増加がレイリーステップ効果の減少分よりも大きいものとなる。
このため、流体潤滑特性及び混合潤滑特性の向上を図ることができ、予定される全ての摺動方向に対してローリングを生じることなく大きな動圧を得ることができる。ここで、予定される摺動方向としては、平面的に見て1軸方向であっても、2以上の多軸方向であってもよい。
【0011】
前記周期構造部は、摺動面中央部を中心として放射状に延びる複数の微細溝にて構成される微細溝構造であるように設定できる。このように設定することによって、摺動面中央部への流体導入機能を安定して発揮できる。
【0012】
摺動面中央部は周期構造部を構成しない溝未形成部とすることができ、また、摺動面中央部は、予定される摺動方向線に対して線対称の形状とすることができる。
【0013】
周期構造部の周期ピッチを10μm以下とするのが好ましく、周期構造部の凹部の深さが1μm以下とするのが好ましい。
【0014】
前記周期構造部は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の摺動面構造では、予定される全ての摺動方向に対してローリングを生じることなく大きな動圧を得ることができ、多方向すべりに対して流体導入効果を発揮し、低摩擦を得ることができる。このため、このような摺動面構造を、例えば、人工股関節等に用いることができる。すなわち、人工股関節のカップを本発明の第1部材とし、人工股関節の骨頭を第2部材とすることができる。このような場合、カップの内径面と、骨頭の外径面とが圧接状となって、カップ部の内径面が摺動面となるとともに、骨頭の外径面が摺動面となる。従って、本発明の摺動面構造を人工股関節に用いれば、微小クリアランスでの流体潤滑膜形成機能を有することになって、リンギングの発生を抑えることができて、リンギングに基づくきしみ音の発生や摩耗を有効に防止できる。このため、人工股関節として、長期にわたって、安定した股関節を構成することができる。
【0016】
摺動面中央部を中心として放射状に延びる複数の微細溝にて構成される微細溝構造であれば、効率的に大きな動圧を得ることができ、潤滑性に優れる。また、摺動面中央部を溝未形成部とすれば、負荷容量を一層高めることができ、安定して優れた潤滑性を発揮できる。
【0017】
摺動面中央部が予定される摺動方向線に対して線対称の形状であれば、予定される全ての摺動方向に対してローリングを生じることなく大きな動圧を安定して得ることができる。
【0018】
周期構造部の凹凸ピッチを10μm以下とした場合、潤滑剤の漏れ(側方漏れ)を冗長的に抑えることができ、効率的に動圧を得ることができる。周期構造部の凹部の深さを1μm以下とした場合、動圧発生時の浮上量の変動を減少でき、剛性向上に寄与する。
【0019】
周期構造部は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成したものでは、機械加工では困難なサブミクロンの周期ピッチと凹凸深さを持つものを容易に形成できる。このようなサブミクロンの周期構造にすることで混合潤滑における狭い一部のすきまで流体潤滑効果が有効に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態を示す摺動面構造の簡略図である。
【図2】前記図1に示す摺動面構造の第2部材の摺動面を示し、(a)は第1の周期構造部を有する摺動面の簡略図であり、(b)は第2の周期構造部を有する摺動面の簡略図である。
【図3】前記摺動面に形成される周期構造部の拡大図である。
【図4】摺動面構造の他の第2部材の摺動面の簡略図である。
【図5】摺動面構造の別の第2部材の摺動面の簡略図である。
【図6】前記周期構造部を形成するためのレーザ表面加工装置の簡略図である。
【図7】実施例1において使用した摺動面構造の第2部材の摺動面を示し、(a)は周期構造部を有する場合の簡略図であり、(b)は周期構造部を有さない場合の簡略図である。
【図8】実施例1にて得られた荷重と摩擦係数との関係を示すグラフ図である。
【図9】実施例2において使用した摺動面構造の第2部材の摺動面の簡略図である。
【図10】実施例2において使用した比較片を示し、(a)は底面図であり、(b)は正面図である。
【図11】実施例2にて得られた平滑部長さと負荷容量との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図1〜図6に基づいて説明する。
【0022】
摺動面構造は、図1に示すように、第1部材1の摺動面1aと第2部材2の摺動面2aとる潤滑剤下で相対的に摺動するものである。第1部材1は平盤体とし、第2部材2を平板矩形体としている。この場合、第1部材1及び第2部材2は、炭素鋼、銅、アルミニウム、白金、超硬合金等であっても、炭化ケイ素や窒化ケイ素等のシリコン系セラミックスであっても、エンジニアプラスチック等であってもよい。また、潤滑剤としても、水やアルコールであっても、さらにはエンジンオイル等の潤滑油等であってもよい。すなわち、第1・第2部材1,2の材質、使用する環境等に応じて種々の潤滑剤を用いることができる。
【0023】
第1部材1の上面が摺動面1aとなり、第2部材2の下面が摺動面2aとなる。第2部材2の摺動面2aに図2に示すようなグレーティング状凹凸の周期構造部3が設けられる。この周期構造部3は、摺動面2aの正方形状のランド部(溝未形成部)4を残して、外周側に矩形リング範囲に設けられる。
【0024】
周期構造部3は図3に示すように、微小の凹部5と微小の凸部6とが交互に所定ピッチで配設されてなるものである。周期構造部3の凹凸ピッチを10μm以下とし、凹部5の深さを1μm以下とするのが好ましい。この場合、周期構造部3の凹部5は、第2部材2の摺動面2aの外周縁に開口している。
【0025】
周期構造部3は、予定される摺動方向に対して線対称の形状となるように形成される。すなわち、図2(a)に示す周期構造部3は、摺動面中央部を中心として、ランド部4を省いて、放射状に延びる複数の微細溝(凹部5)にて構成される微細溝構造からなる。この図2(a)では、溝未形成部4が正方形であるので、相互に直交するX・Y軸方向の2方向の摺動に最適となる。このようなX軸方向及びY軸方向の2方向の摺動では、周期構造を、図2(b)に示すものであってもよい。すなわち、図2(b)では、溝未形成部4の各辺から外形側に直交するように配設され、溝未形成部4のコーナ部から放射状に配設されている。
【0026】
周期構造部3は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成している。具体的には、図6に示すフェムト秒レーザ表面加工装置を使用する。レーザ発生器11(チタンサファイアフェムト秒レーザ発生器)で発生したレーザ(例えば、パルス幅:120fs、中心波長800nm、繰り返し周波数:1kHz、パルスエネルギー:0.25〜400μJ/pulse)は、ミラー12により加工材料Wに向けて折り返され、メカニカルシャッタ13に導かれる。レーザ照射時はメカニカルシャッタ13を開放し、レーザ照射強度は1/2波長板14と偏光ビームスプリッタ16によって調整可能とし、1/2波長板15によって偏光方向を調整し、集光レンズ(焦点距離:150mm)17によって、XYθステージ19上の加工材料W表面に集光照射する。なお、フェムト秒レーザは1000兆分の1秒という極端に短い時間単位の中にエネルギーを圧縮した光源である。
【0027】
すなわち、アブレーション閾値近傍のフルエンスで直線偏光のレーザをワーク(加工材料)Wに照射した場合、入射光と加工材料Wの表面に沿った散乱光またはプラズマ波の干渉により、波長オーダのピッチと溝深さを持つグレーティング状の周期構造を偏光方向に直交して自己組織的に形成する。このとき、フェムト秒レーザをオーバラップさせながら走査させることで、周期構造を広範囲に拡張することができる。
【0028】
レーザのスキャンは、レーザを固定して加工材料Wを支持するXYθステージ19を移動させても、XYθステージ19を固定してレーザを移動させてもよい。あるいは、レーザとXYθステージ19を同時移動させてもよい。なお、前記図3は、前記フェムト秒レーザ表面加工装置にて形成した周期構造部3を電子顕微鏡で撮像した図である。
【0029】
本発明の摺動面構造では、周期構造部3は、予定される摺動方向に対して線対称の形状であるので、予定される全ての摺動方向に対する摺動運動を行うことができ、このような周期構造部3は高い負荷能力と剛性をもつ。しかも、潤滑剤を摺動面中央部4に引き込む流体導入効果を得ることによって、負荷容量の増加を図ることができる。このため、流体潤滑特性及び混合潤滑特性の向上を図ることができ、予定される全ての摺動方向に対してローリングを生じることなく大きな動圧を得ることができる。なお、前記図1に示す図例のものでは、第1部材1を固定して、第2部材2を矢印Xのように、第1部材1に対して往復動させるようにしている。
【0030】
このため、このような摺動面構造を、例えば、人工股関節に用いることができる。すなわち、人工股関節のカップを本発明の第1部材1とし、人工股関節の骨頭を第2部材2とすることができる。このような場合、カップの内径面と、骨頭の外径面とが圧接状となって、カップ部の内径面が摺動面1aとなるとともに、骨頭の外径面が,周期構造部3を有する摺動面2aとなる。従って、本発明の摺動面構造を人工股関節に用いれば、微小クリアランスでの流体潤滑膜形成機能を有することになって、リンギングの発生を抑えることができて、リンギングに基づくきしみ音の発生や摩耗を有効に防止できる。このため、人工股関節として、長期にわたって、安定した股関節を構成することができる。
【0031】
摺動面中央部を中心として放射状に延びる複数の微細溝(凹部5)にて構成される微細溝構造であれば、効率的に大きな動圧を得ることができ、潤滑性に優れる。また、摺動面中央部を溝未形成部4とすれば、負荷容量を一層高めることができ、安定して優れた潤滑性を発揮できる。
【0032】
摺動面中央部が予定される摺動方向線に対して線対称の形状であれば、予定される全ての摺動方向に対してローリングを生じることなく大きな動圧を安定して得ることができる。
【0033】
周期構造部3の凹凸ピッチを10μm以下とした場合、潤滑剤の漏れ(側方漏れ)を冗長的に抑えることができ、効率的に動圧を得ることができる。周期構造部3の凹部5の深さを1μm以下とした場合、動圧発生時の浮上量の変動を減少でき、剛性向上に寄与する。特に、混合潤滑状態であっても、一部の狭い(1μm以下)隙間領域で流体潤滑効果を発揮することができる。
【0034】
周期構造部3は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成したものでは、機械加工では困難なサブミクロンの周期ピッチと凹凸深さを持つものを容易に形成できる。このようなサブミクロンの周期構造にすることで混合潤滑における狭い一部のすきまで流体潤滑効果が有効に発揮される。
【0035】
図4に示す摺動面2aでは、ランド部(摺動面中央部であって、周期構造部を構成しない溝未形成部)4は円形状とされている。また、図5では、第2部材2の短円柱体とし、ランド部4を円形状としている。
【0036】
このため、図4や図5に示す第2部材2の摺動面2aであっても、前記図2に示す第2部材2の摺動面2aと同様の作用効果を奏する。特に、図4や図5等に示すように、溝未形成部4が円形状とされ、周期構造部4の周期方向が放射状に配設されるものであれば、2軸方向に限らず、多数方向の摺動に対応することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、周期構造部3を第1部材1側に形成してもよく、第1部材1及び第2部材2の両側に設けてもよい。また、摺動面中央部の溝未形成部4の形状として、図2に示すような正方形や図4に示す円形に限るものではなく、予定される摺動方向線に対して線対称の形状であればよく、例えば、正六角形や正八角形等であってもよい。第1部材1と第2部材2の形状としても、図例のものに限らず、他の種々の形状のものにて構成できる。
【0038】
周期構造部3の大きさ、配設ピッチ等は、使用する第1・第2部材の大きさ、材質、潤滑剤の種類、摺動速度等に応じて種々変更することができる。
【0039】
第1部材1と第2部材2の相対的な摺動運動は、前記実施形態では、第1部材1を固定して第2部材2を往復動させるもの、つまり周期構造部3が形成される側を摺動させるものであったが、逆に第2部材2側を固定して、第1部材側を摺動させてもよい。すなわち、周期構造部3が形成されない方を摺動させてもよい。また、第1部材1と第2部材2の双方を摺動させるものであってもよい。
【0040】
本発明の摺動面構造によれば、多方向のすべりに対して流体導入効果を発揮して低摩擦を得ることができる。このため、本発明の摺動面構造は、人工股関節に限るものではなく、球面軸受、各種のマイクロマシン、光学部品、微小物体捕獲器等の種々の機器に使用可能である。
【実施例1】
【0041】
図7(a)に示すような摺動面2aを有する第2部材2(試験片A)を用いて、荷重と摩擦係数との関係を調べた。試験片Aとして、その材質をSUS440Cとし、摺動面直径Dを5mmとし、この摺動面2aの外周側に、周期間隔約700nm、凹凸深さ(凹部深さ)を約200nmのグレーティング状の周期構造部3を形成した。この周期構造部3の幅(径方向幅)Eを0.5mm程度とした。(周期構造形成部はφ4mm〜φ5mmであるので、Eが0.5mmとなる。)また、使用する第1部材1としては、図1に示すような平盤体を使用する。この第1部材1としての平盤体は、その材質として試験片と同様SUS440Cとする。第1部材1の摺動面1a及び試験片Aの摺動面2aの表面粗さをRa0.02μmとした。潤滑剤としては、極性をもたず熱的・化学的に安定したPAO6を用いた。
【0042】
また、摺動面2aに周期構造部3を有さない比較片A1(図7(b)参照)を製作した。この比較片A1もSUS440Cとし、その外径寸法D1を5mmとし、摺動面2a1の表面粗さをRa0.02μmとした。なお、試験片Aの周期構造部3は、前記図6に示したフェムト秒レーザ表面加工装置を用いて形成した。すなわち、直線偏光のフェムト秒レーザを加工しきい値近傍のエネルギー密度で材料表面に照射し自己組織的に形成したものである。そして、周期構造の方向は、多方向すべりに対応できるように放射状としている。
【0043】
そして、試験としては、図1に示すように、試験片A(第2部材2)および比較片A1をそれぞれ1直線方向に6mmの範囲で矢印X方向に往復動させた。この際、摺動速度を4mm/sとし、荷重を1Nから50Nまで段階的に増加させた。
【0044】
試験結果を図8のグラフ図に示す。図8では、横軸を荷重(N)とし、縦軸を摩擦係数としている。図8の黒丸は周期構造部を有する試験片Aを示し、図8の白丸は周期構造を有さない比較片A1を示している。なお、図8では試験片Aではこの試験片を周期構造と呼び、この比較片A1を鏡面と呼んでいる。
【0045】
図8から分かるように、各荷重条件で摩擦係数が比較片A1よりも試験片Aが低いことが分かる。すなわち、比較片A1よりも試験片Aが滑らかに摺動する。
【実施例2】
【0046】
負荷容量とランド部(溝未形成部)4の大きさとの関係を調べた。この場合の試験片Bとしては、図9にように、摺動面2aが1辺の長さSが5mmの正方形で、その外周部に各辺に沿った周期構造部3を設けたものである。また、溝未形成部4が正方形とされ、図11にグラフ図に示すように、溝未形成部(平滑部)4の1辺の長さLを0mmから5mmまで変化させた。
【0047】
また、比較片B1として、図10に示すように、1辺の長さS1が5mmの摺動面2aに、溝未形成部(平滑部)4に対応する位置に摺動面2a1からの高さTが200nmの膨出部50を形成したものである。膨出部50の1辺の長さL1を0から5mmまで変化させた。
【0048】
試験片Bの負荷容量は、無限溝数理論により油膜厚さ200nm、丘溝比0.5、周期構造深さ200nm、粘度31.28cp、摺動速度50mm/sとして計算した。また、比較片B1の負荷容量は、試験片Bの負荷容量の計算と同一条件として計算した。
【0049】
計算結果を図11のグラフ図に示す。図11において、実線は試験片Bを示し、破線は比較片B1を示す。なお、図11では試験片Bを周期構造と呼び、この比較片B1を均一段差と呼んでいる。
【0050】
この図11からわかるように、試験片Bでは、比較片B1の1.4倍の負荷容量が得られた。試験片Bでは周期構造部3を設けたことにより、レイリーステップ効果は減少するが、流体を中央部に引き込む流体導入効果が新たに発生する。すなわち、試験片Bの負荷容量が増加したのは、流体導入効果による負荷容量の増加がレイリーステップ効果の減少分よりも大きいためである。
【0051】
この試験により、試験片Bのように、摺動面中央部に溝未形成部4を形成し、かつ外周部に周期構造部3を形成したものが、大きな負荷容量を得ることができる。特に、1辺が5mmの正方形の摺動面2aを有する場合、溝未形成部(平滑部)4が1辺が2mm程度の正方形とすることによって、最大の負荷容量を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
1a 摺動面
1 第1部材
2a 摺動面
2 第2部材
3 周期構造部
4 溝未形成部(ランド部)
5 凹部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の摺動面と第2部材の摺動面とが潤滑剤下で相対的に摺動する摺動面構造であって、第1部材と第2部材との少なくともいずれか一方の摺動面に、予定される摺動方向に対して線対称の形状となるとともに、摺動面の相対的な摺動によって潤滑剤を摺動面中央部に引き込むグレーティング状凹凸の周期構造部を設けたことを特徴とする摺動面構造。
【請求項2】
前記周期構造部は、摺動面中央部を中心として放射状に延びる複数の微細溝にて構成される微細溝構造であることを特徴とする請求項1に記載の摺動面構造。
【請求項3】
摺動面中央部は周期構造部を構成しない溝未形成部としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動面構造。
【請求項4】
摺動面中央部は、予定される摺動方向線に対して線対称の形状であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の摺摺動面構造。
【請求項5】
周期構造部の周期ピッチが10μm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の摺動面構造。
【請求項6】
前記周期構造部の凹部の深さが1μm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかの摺動面構造。
【請求項7】
前記周期構造部は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかの摺動面構造。
【請求項1】
第1部材の摺動面と第2部材の摺動面とが潤滑剤下で相対的に摺動する摺動面構造であって、第1部材と第2部材との少なくともいずれか一方の摺動面に、予定される摺動方向に対して線対称の形状となるとともに、摺動面の相対的な摺動によって潤滑剤を摺動面中央部に引き込むグレーティング状凹凸の周期構造部を設けたことを特徴とする摺動面構造。
【請求項2】
前記周期構造部は、摺動面中央部を中心として放射状に延びる複数の微細溝にて構成される微細溝構造であることを特徴とする請求項1に記載の摺動面構造。
【請求項3】
摺動面中央部は周期構造部を構成しない溝未形成部としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動面構造。
【請求項4】
摺動面中央部は、予定される摺動方向線に対して線対称の形状であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の摺摺動面構造。
【請求項5】
周期構造部の周期ピッチが10μm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の摺動面構造。
【請求項6】
前記周期構造部の凹部の深さが1μm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかの摺動面構造。
【請求項7】
前記周期構造部は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかの摺動面構造。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【公開番号】特開2012−233541(P2012−233541A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103513(P2011−103513)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000110859)キヤノンマシナリー株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000110859)キヤノンマシナリー株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
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