説明

撮像装置及び液晶表示装置

【課題】液晶表示手段の応答性を改善することができる撮像装置を提供する。
【解決手段】被写体を撮影するCCD306と、CCD306により撮影した画像を表示する液晶パネル321とを備える。また、液晶パネル321の応答性が低下する環境温度下においては、液晶パネル321に入力する映像信号振幅を液晶パネル321の応答性が高い範囲に制御するCPU314を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置及び液晶表示装置に関し、特に、液晶表示手段の応答性改善技術に特徴のある撮像装置及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ等の撮像装置においては、被写体を撮影するにあたって最初にフレーミング動作を行う。フレーミング動作とは、カメラの光学式ファインダもしくは電子式ファインダを用いて被写体の撮影範囲を決定する動作である。
【0003】
昨今では、カメラの小型化に伴い、光学式ファインダを搭載するデジタルカメラが少なくなってきており、主として、液晶パネルを用いた電子式ファインダによってのみしかフレーミング動作を行えないカメラが増えてきた。
【0004】
光学式ファインダは、一眼式のカメラを除いて、撮影光学系とは独立した光学系を使用しているため、ファインダの示す撮影可能範囲と、実際の撮影範囲に誤差が生じる。
【0005】
一方で、電子式ファインダの多くは、撮像素子に入光した画像を液晶パネルに表示しており、原理的にファインダの示す撮影可能範囲と実際の撮影範囲が等しいため、視差が生ぜず、正確なフレーミングを行うことができる。
【0006】
しかし、液晶パネルは、画像輝度変化時の応答時間が長く、特に、低温下においては、人間の目で知覚できるほどに応答性が遅くなってしまう。
【0007】
液晶パネルの応答性を向上するために、例えば、特許文献1においては、液晶パネルに表示される画像の輝度が変化する場合に、最初の1フレームのみ液晶印加電圧を大きくすることで、応答速度を高める提案がなされている。
【0008】
特許文献1記載の技術においては、画像輝度の変化量に応じて、それぞれに最適な液晶印加電圧を設定したテーブルを有しており、その設定値は、液晶印加電圧を大きくすることで生じる電圧波形のオーバーシュートを極力抑える電圧レベルに設定されている。
【0009】
ここで、図1は、表示画像が低輝度から高輝度に遷移する時の液晶パネルの応答速度を示す図である。また、図2は、表示画像が高輝度からさらに高輝度に移行する時の液晶パネルの応答速度を示す図である。
【0010】
図1、図2において、符号101は光学応答波形、符号102、202は液晶パネルの応答時間を示す。
【0011】
液晶パネルの応答性が悪い領域での輝度変化、例えば、図2に示す中輝度から高輝度への変化時には、極めて液晶パネルの応答性が悪いため、上記特許文献1に提案されているように、液晶印加電圧を高めるだけでは応答性向上の大きな効果は期待できない。
【0012】
また、液晶印加電圧を一時的に大きくすることで、光透過率波形にオーバーシュートが生じるため、ユーザー(撮影者)には輝度変化がちらつきとなって観測されてしまう。
【0013】
上記特許文献1記載の技術では、オーバーシュートを抑えるためのテーブルを用意しているが、液晶パネル個々のばらつき等により輝度変化を完全に押さえ込むことは難しい。また、液晶印加電圧を通常使用時よりも大きめに設定する必要があり、消費電力の増大やノイズの発生が懸念される。
【0014】
特許文献2においては、液晶パネルに表示された画像の輝度をセンサで読み取り、センサの読み値をパネルに入力される映像信号レベルと比較することで、液晶パネルの応答性による輝度変化の遅れを補正する提案がなされている。
【0015】
液晶パネルの応答性のため、液晶パネルに表示される画像の輝度は、映像信号レベルと比較すると緩やかな輝度変化となる。
【0016】
上記特許文献2記載の技術では、センサの読み値をフィードバックし、液晶パネルに所望の輝度が表示されるように映像信号の輝度を高めるようにしている。このことで、液晶パネルの輝度変化を急峻なものとし、映像信号の輝度変化と液晶パネルの輝度変化の応答性を極力近づける処理を行っている。
【特許文献1】特開2002−062850号公報
【特許文献2】特開2002−244107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記特許文献2記載の技術においても、特許文献1記載の技術と同様に、液晶パネルの応答性が悪い領域での輝度変化時には、映像信号電圧を高めるだけでは液晶パネルの応答性の大きな向上は期待できない。また、撮像装置に輝度を検出するセンサを備える必要があり、装置の大型化、高価格化に繋がってしまう。
【0018】
本発明の目的は、液晶表示手段の応答性を改善することができる撮像装置及び液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、請求項1記載の撮像装置は、被写体を撮影する撮影手段と、前記撮影手段により撮影した画像を表示する液晶表示手段と、前記液晶表示手段の応答性が低下する環境温度下においては、前記液晶表示手段に入力する映像信号振幅を前記液晶表示手段の応答性が高い範囲に制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0020】
請求項8記載の液晶表示装置は、撮影手段により撮影した画像を表示する液晶表示手段と、前記液晶表示手段の応答性が低下する環境温度下においては、前記液晶表示手段に入力する映像信号振幅を前記液晶表示手段の応答性が高い範囲に制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の撮像装置によれば、液晶表示手段の応答性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図3は、本発明の実施の形態に係る撮像装置としてのデジタルカメラの電気的構成を示すブロック図である。
【0024】
以下、その構成を動作と併せて説明する。
【0025】
図3において、鏡筒301は、フォーカッシングモータ302、レンズ303、アイリスモータ304、絞り305、CCD(撮影手段)306を備える。
【0026】
被写体からの光はレンズ303から入射し、絞り305を通してCCD306に到達する。CCD306の受光面と平行に配置されたレンズ303を、フォーカッシングモータ302により平行移動させることで、レンズ303とCCD306間の距離を調節し、被写体像をCCD306上に結像させる。
【0027】
図示しないが、レンズ303は、実際には複数枚設置されており、それぞれのレンズ間の距離を変化させることによって、CCD306に結像する被写体の焦点距離を調節することが可能である。
【0028】
フォーカッシングモータ302は、図示しないフォトインタラプタによってその回転数が読み取られており、これによりレンズ303の存在する位置が認識できるようになっている。フォーカッシングモータ302は、モータドライバ307によって回転数を制御することができ、レンズ303を所望の位置に移動することが可能である。
【0029】
デジタルカメラと被写体との距離や角度によって、レンズ303に入射する光線の入光量や角度が変化するため、撮影の都度、レンズ303とCCD306間の距離を調整する焦点検出動作が必要になる。
【0030】
アイリスモータ304は、絞り305を制御するモータであり、被写体の明るさによって絞り305の開口径を制御することで、CCD306に入射する光量を制御し、最適な露出が得られる撮影を行うことができる。
【0031】
CCD306に結像した被写体像に対して光電変換が行われ、CCD306の画素一つ一つが得た光量に比例した電荷量に変換される。被写体像の明るい部分は大きな電荷量が得られ、被写体像の暗い部分の電荷量は小さくなり、被写体像の濃淡を電荷量の差として得ることができる。
【0032】
CCD306は、数百〜数千万画素で構成されており、それぞれの画素にマイクロレンズ、カラーフィルタが配置されている。赤、緑、青のカラーフィルタを配置することで、3原色の入光量を得ることができ、フルカラー画像を得ることができる。
【0033】
CCD306からの電荷は、図示しないプリント基板上の配線パターンを通してAFE308に入力される。
【0034】
AFE308には、CCD306で発生する固定パターンノイズを除去するCDS回路、CCD306からの信号をアナログ−デジタル変換するA/D変換回路等のアナログ信号処理回路が組み込まれている。
【0035】
また、AFE308には、CCD306からの電気信号を読み出すためのタイミング信号を作り出すTG回路が組み込まれている。
【0036】
TG回路ではCCD306を制御するタイミング信号を生成し、上記タイミング信号に従って、CCD306からAFE308に電荷が転送される。読み出した電荷は、CDS回路にてノイズ成分の低減処理が行われ、A/D変換回路でアナログ量である電荷量がデジタル信号に変換される。
【0037】
変換されたデジタル信号は、バス信号ライン313を介してSDRAM309等の高速送受信が可能なデバイスに一時蓄積される。そこから逐次、CPU(制御手段)314への読み出しが行われ、エッジ強調やノイズ除去、ホワイトバランス等の各種画像処理が行われる。
【0038】
各種画像処理が終了した画像データは、数メガバイト程度の大容量のデータであるため、JPEG方式等による画像圧縮処理が施された後に、フラッシュメモリ310やカードコネクタ312に挿入可能な不揮発性メモリ311等に保存される。
【0039】
持ち運び可能な不揮発性メモリ311に画像データを記憶することで、デジタルカメラで撮影した画像を他のデバイス、例えば、パーソナルコンピュータやプリンタで読み出すことが可能となる。それにより、大画面のディスプレイ上で画像を閲覧したり、写真紙にプリントアウトすることで写真として閲覧することが可能になる。
【0040】
このように、不揮発性メモリ311を介しての画像出力のたに、液晶パネル(液晶表示手段)321を有するデジタルカメラでは、撮影した画像を、液晶パネルドライバ320を介して、すぐに液晶パネル321の画面上で確認することができる。
【0041】
液晶パネル321は、デジタルカメラに内蔵されているため、小型で解像度が低い場合が多く、複数人で同時に画像を閲覧するのに難がある。
【0042】
そこで、デジタルカメラ内部にビデオエンコーダ317、ビデオアンプ318を搭載して、デジタルカメラから直接、TVモニタ319に映像を出力するようにしたデジタルカメラも多い。
【0043】
TVモニタ319は、液晶パネル321と比較して大画面で解像度に優れるため、高画素化の進んだデジタルカメラの画像の解像感を十分に表現でき、また、多くの人と一緒に画像の閲覧を楽しむことも可能である。
【0044】
尚、CPU314には、操作スイッチ322、外部接続端子323も接続されている。
【0045】
次に、図3のデジタルカメラの動作を説明する。
【0046】
(第1の実施の形態)
図4は、図3のデジタルカメラによって実行される、検出温度に従って映像信号振幅を制御する、映像信号振幅制御処理の手順を示すフローチャートである。また、図5は、図3のデジタルカメラの正面斜視図である。図6は、図3のデジタルカメラの背面斜視図である。
【0047】
図5に示すように、デジタルカメラは、鏡筒301、外部接続端子323の他、ズームレバー501、レリーズスイッチ502、電源スイッチ503、光学ファインダ504、ストロボ505を備える。
【0048】
また、図6に示すように、デジタルカメラは、液晶パネル321、操作スイッチ322の他、モードスイッチ601を備える。
【0049】
図4のフローチャートは、図3におけるCPU314の制御の下に実行される。
【0050】
図4において、まず、ステップS401にて、CPU314は、デジタルカメラが撮影モードに移行しているかの確認を行う。
【0051】
図6において、液晶パネル321上に撮像装置のモードが表示されるので、操作スイッチ322を押して所望のモードに移行することができる。デジタルカメラには通常、静止画撮影モード、動画撮影モード等の撮影モードと、撮影した画像を確認するための再生モードが用意されているので、本発明を適用すべき撮影モードに移行しているかどうかの確認を行う。
【0052】
ステップS401にて、デジタルカメラが本発明を適用する撮影モードとなっている場合には、ステップS402(温度検出手段)に移行して、CPU314は、温度検出を行う。デジタルカメラには、CCD306等、温度によって特性の変化するデバイスを使用しているため、サーミスタ等の温度検出手段を実装しているものが多い。
【0053】
本実施の形態においては、図示しないデジタルカメラ内部の実装基板上に実装されているサーミスタからの温度情報を基に、CPU314が温度検出を行い、ステップS403に移行する。
【0054】
図7は、環境温度が0℃(低温)、25℃(常温)の場合の図3における液晶パネルの光学応答波形を示す図である。
【0055】
本実施の形態においては、ノーマリーブラック方式の液晶パネルを使用した場合の説明を行う。
【0056】
ノーマリーブラック方式では、液晶に電圧を印加していない場合には光を透過せず、液晶に印加する電圧を大きくするに従って液晶パネル321の光透過率が上がる。
【0057】
一方、ノーマリーホワイト方式の液晶パネルの場合には、液晶に電圧を印加していない場合に光の透過率が最大となり、液晶に印加する電圧を大きくするに従って液晶パネル321の光透過率が下がる。
【0058】
ノーマリーホワイト方式は、ノーマリーブラック方式に対して、印加電圧と透過率の関係が逆になるため、本発明は、ノーマリーブラック方式での電圧印加方向を変更するのみでノーマリーホワイト方式の液晶パネルにも適用可能である。
【0059】
ここで、図7(A)が環境温度25℃の場合の液晶パネル321の光学応答波形、図7(B)が環境温度0℃の場合の液晶パネル321の光学応答波形である。液晶パネル321はその特性により、常温環境下と低温環境下での光学応答速度が大きく異なる。
【0060】
液晶パネル321の立ち上がり時間(τr)702、704は、通常、液晶パネル321の光透過率が10%から90%に増加するまでの時間で規定され、立ち下り時間(τd)701、703は、光透過率が90%から10%に減少するまでの時間で規定される。
【0061】
デジタルカメラに使用される対角3インチの液晶パネル321の光学応答速度の一例を下記に示す。
τr(25℃) = 35ms
τd(25℃) = 30ms
τr(0℃) = 80ms
τd(0℃) = 60ms
上記からわかるように、立ち上がり時間、立ち下がり時間共に、25℃と0℃環境下で応答速度に倍以上の差が存在する。このため、デジタルカメラを低温環境下において使用すると、液晶パネル321の応答速度が大幅に低下するため、動く被写体を撮影しようとしても、液晶パネル321上には被写体の残像が長時間残り、被写体のフレーミングが非常に難しくなる。
【0062】
低温下においても被写体の残像が残らず、被写体のフレーミングが容易にできるようにするために、本発明においては、液晶パネル321に入力する映像信号振幅を液晶パネル321の応答速度が速い範囲に補正(制御)する処理を行う。
【0063】
即ち、CPU314は、液晶表示パネル321の応答性が低下する環境温度下においては、液晶表示パネル321に入力する映像信号振幅を液晶表示パネル321の応答性が高い範囲に制御する。
【0064】
図8は、映像信号振幅を図3における液晶パネルの応答性が速い映像信号電圧範囲に補正する処理を示す図である。
【0065】
ここで、図8(A)は、環境温度25℃(常温)の場合の液晶パネル321の光学応答波形であり、常温時には映像信号(25℃)への振幅制御は行わない。映像信号(25℃)は、液晶パネル321が表現可能な輝度階調(輝度0%〜輝度100%)に合わせ、映像信号(25℃)の黒レベルが液晶パネル321の輝度0%、白レベルが液晶パネル321の輝度100%となるように設定されている。
【0066】
常温時には、このように映像信号(25℃)の振幅を設定することで、液晶パネル321の階調再現可能範囲を最大限に利用し、視認性を高めている。
【0067】
図8(B)は、環境温度0℃(低温)の場合の液晶パネル321の光学応答波形であり、低温時には映像信号(0℃)の振幅補正処理を行う。図8(B)の例においては、映像信号(0℃)の黒レベルが液晶パネル321の輝度15%、白レベルが液晶パネル321の輝度85%となるように設定されている。
【0068】
図8の例においては、低温(0℃)の場合の液晶パネル321の立ち上がり時間802、立ち下り時間801は、共に常温(25℃)の場合の約2倍となっているが、映像信号(0℃)の振幅を制限することで、以下の応答速度が実現される。
【0069】
即ち、液晶パネル321の応答速度の速い部分のみを利用することで、環境温度25℃時の立ち下がり時間τd(25℃)701と、映像信号振幅補正処理後の環境温度0℃時の立ち下がり時間τd(0℃)801がほぼ同等の応答速度となる。
【0070】
また、環境温度25℃時の立ち上がり時間τr(25℃)702と、映像信号振幅補正処理後の環境温度0℃時の立ち上がり時間τr(0℃)802がほぼ同等の応答速度となり、低温時にも常温時とほぼ同等の応答速度を実現している。
【0071】
映像信号(0℃)の振幅を制限すると、黒レベルの電圧が上昇(光透過率が上昇)することで黒浮き(輝度0%で表現すべき黒が輝度を持ってしまい、黒が明るく見える)が発生し、白レベルの電圧が減少することで白沈み(白輝度が低下)が発生する。つまり、液晶パネル321のコントラスト(白輝度÷黒輝度)が低下する。
【0072】
このように、見栄えという点においては、若干の悪化が見られる。しかし、低温環境下のように、液晶パネル321の応答速度が低温時に大幅に低下し、動く被写体が残像となってぼやけ、視認性が大きく低下する場合には、コントラストの若干の低下よりも液晶パネル321の応答速度向上を優先する。
【0073】
これにより、視認性を大幅に改善することができる。特に、動く被写体を追従する必要のあるデジタルカメラにおいては大きな効果が期待できる。
【0074】
図9は、環境温度と図3における液晶パネルに入力する映像信号振幅の関係を示す映像信号振幅補正テーブルを示す図である。
【0075】
この映像信号振幅補正テーブルは、液晶表示パネル321に残像が目立たないよう予め設定された、環境温度と補正された映像信号振幅の関係を示すものである。
【0076】
映像信号振幅を小さくすればするほど、液晶パネル321の応答性は向上するが、同時にコントラストも低下するため、環境温度に応じて最適な印加電圧を設定する必要がある。
【0077】
図9の補正テーブルは一例であり、液晶パネル321の特性により環境温度と印加電圧レベルの関係は変わってくるため、液晶パネル321の種類によってそれぞれ固有の印加電圧の設定が必要である。
【0078】
本実施の形態においては、簡単のため、環境温度を1℃刻みに設定した。しかし、例えば、環境温度 : 25℃、24.8℃、24.6℃ ・・・ −18.8℃、−20℃、といったように環境温度を細かく設定し、それぞれの環境温度での映像信号振幅補正テーブルを持ったほうが補正精度を高めるために望ましい。
【0079】
常温下(25℃付近)においては、できるだけ映像信号振幅を大きくし、大きなコントラスト値を維持することで液晶パネル321の見栄えを高めておく。常温下においては、映像信号振幅が大きくても液晶パネル321の応答性が高いため、動く被写体の撮影時等にも、被写体の残像をそれほど撮影者が認識することなく撮影することが可能である。
【0080】
低温下(0℃以下)においては、液晶パネル321の応答性が極端に低下してくるため、映像信号振幅を狭め、液晶パネル表示の応答性を高める。この応答性を常温時と同等となるように印加電圧を設定することで、低温下においても、動く被写体の撮影時における残像の発生を気にすることなく撮影を行うことができる。
【0081】
本発明を適用せずに、動く被写体を撮影する場合には、被写体に大きな残像が発生し、液晶パネル表示の見栄えが極端に低下する。例えば、被写体が人物である場合には、顔の表情等、細部が残像によってぼやけて、撮影対象の人物が笑っているのかいないのかの区別もつけることができず、シャッターチャンスを逃してしまう恐れが大きくなる。
【0082】
このような事態を避けるために、本発明は、映像信号振幅を制限することで、多少のコントラスト低下は許容しつつ、撮影動作に悪影響が大きい被写体の残像発生を防ぐことに重点を置き、低温下における撮影環境の向上を図るものである。
【0083】
図4に戻り、ステップS402において、CPU314は、温度検出後、ステップS403に移行して、ステップS402において検出した環境温度を基に、図9に示した映像信号振幅補正テーブルの参照を行う。
【0084】
次に、CPU314は、白レベル、黒レベル電圧を設定して映像信号振幅を変更(制限)する(ステップS404)。次に、CPU314は、液晶パネル321に入力する映像信号振幅を、白レベル−黒レベルの範囲内に補正して(ステップS405)、液晶パネル321に映像を出力する(ステップS406)。そして、本処理を終了する。
【0085】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0086】
図10は、図3のデジタルカメラによって実行される、検出温度とズーム倍率に従って映像信号振幅を制御する、映像信号振幅制御処理の手順を示すフローチャートである。
【0087】
図10において、図4に示した第1の実施の形態のフローチャートにおけるステップS401、ステップS402が、本実施の形態のステップS1001、ステップS1002に相当するため、説明を省略する。
【0088】
ステップS1003にて、図5に示したズームレバー501が操作され、ズーミング動作が行われた場合には、CPU314は、そのズーム倍率の検出を行う。
【0089】
図5に示したデジタルカメラは、ズーミング動作が行われると、鏡筒301が繰り出したり、縮まったりすることで、デジタルカメラが有する複数のレンズ303のそれぞれの間隔を調整することができる構成となっている。従って、ズーミング動作により、CCD306に結像される被写体範囲を変化させることが可能である。
【0090】
撮影者より遠方に存在する被写体を撮影する場合には、上記のようなズーミング動作によって、撮影者より遠方に存在する被写体もCCD306上に大きく結像することが可能である。
【0091】
CCD306に結像する範囲を最も広くする方向に鏡筒301を動作させた場合には、鏡筒301はワイド端に位置し、CCD306に結像する範囲を最も狭くする方向に鏡筒を動作させた場合には、鏡筒はテレ端にあると言う。また、ズーム倍率は下式によって定義される。
【0092】
ズーム倍率 = √((テレ端での撮影面積)/(ワイド端での撮影面積))
通常のカメラでもズーム倍率が3〜5倍程度まで変更可能な鏡筒を搭載している場合が多いが、ズームができないカメラや、逆に10〜20倍といった超高倍率までの制御が可能な鏡筒を搭載しているカメラもある。
【0093】
高倍率で写真撮影を行う場合には、カメラを構える手のわずかな振動が撮影画像のぶれ(手ぶれ)に繋がってしまうので注意が必要である。鏡筒が高倍率側に設定されている場合には、広角側の場合に比べて格段に手ぶれが発生し易くなる。
【0094】
高倍率側では広角側と比べて撮影範囲が狭いため、カメラを構える手のぶれがわずかであっても撮影範囲が大きく変ってしまうため、撮影画像に大きなぶれが発生する。この傾向は、ズーム倍率が大きくなればなるほど顕著になり、通常、10〜20倍といった高倍率での撮影を行う場合には、三脚等を用いてカメラを静置した状態で撮影を行うことが多い。
【0095】
このような手ぶれを回避するために、高感度での撮影や、手ぶれ補正機構を実装しているカメラもある。デジタルカメラでは、AFE308でCCD306から取り込んだ画像のゲインを調整することで、撮影感度の調整を比較的容易に実現できる。
【0096】
しかし、撮影感度を上げるためにゲインを上げると、ノイズのゲインも上げることなり、撮影感度を上げるほど撮影画像のノイズが増大してしまう。
【0097】
手ぶれ補正には幾つかの方法があるが、カメラを保持する撮影者の手のぶれ量をジャイロ等で検出し、手ぶれをキャンセルする方向にレンズ303の一部やCCD306を動かす方法が一般的である。
【0098】
この手ぶれ補正を実施するには、手ぶれ量を検出するジャイロと、レンズ301、CCD306を精密に駆動する駆動装置が必要となってしまう。また、その補正量には限界がある。従って、ズーム倍率が10〜20倍になってくると、手ぶれ量が大きい場合に補正しきれないことが多くなる。
【0099】
このように、高倍率ズームでの撮影時には手ぶれが抑えきれない場面が多く、液晶パネル321の表示も同じようにぶれて残像が発生し、低温下での使用時と同様に、液晶パネル321の視認性が悪化してしまう。
【0100】
本実施の形態においては、高倍率ズーム使用時に発生する液晶パネル表示の残像を緩和し、液晶パネル321の視認性を向上させるものである。
【0101】
図10のフローチャートにおいて、ステップS1003で、CPU314は、デジタルカメラのズーミングを検出した場合には、ステップS1004(ズーム倍率算出手段)に移行し、ズーム倍率の算出を行う。
【0102】
図3において、デジタルカメラの有する複数のレンズ303の駆動をフォーカッシングモータ302が行っている。フォーカッシングモータ302の回転数を、図示しないフォトインタラプタが検出しており、フォーカッシングモータ302の回転数から図5に示す鏡筒301の繰り出し量を算出し、そこからズーム倍率の算出を行う。
【0103】
CPU314は、ズーム倍率の算出後、ステップS1005に移行し、映像信号振幅補正テーブルの参照を行う。
【0104】
図11は、図3のデジタルカメラのズーム倍率と環境温度と液晶パネルに入力する映像信号振幅の関係を示す映像信号振幅補正テーブルを示す図である。
【0105】
一般的に、デジタルカメラのズーム倍率が大きくなるに従って、手ぶれ量は大きくなるため、ズーム倍率が大きくなるほど映像信号の白レベル電圧を下げ、黒レベル電圧を上げる。
【0106】
このような処理を行うことで、液晶パネル321の応答性の速い部分のみを使用することができ、液晶パネル321に表示される画像の応答性が向上する。そのため、デジタルカメラのズーミング時に生じる手ぶれによって発生する液晶パネル321の残像が緩和され、液晶パネル321の視認性が向上する。
【0107】
本実施の形態においては、簡単のため、ズーム倍率を1〜5倍、5〜10倍、10〜15倍、15〜20倍の4通りに設定した。しかし、例えば、ズーム倍率 : 1倍、1.2倍、1.4倍 ・・・ 19.8倍、20倍といったように、ズーム倍率を細かく設定し、それぞれのズーム倍率での映像信号振幅補正テーブルを持ったほうが補正精度を高めるために望ましい。
【0108】
図10に戻り、ステップS1005にて、CPU314は、映像信号振幅補正テーブルを参照した後に、ステップS1006に移行して、白レベル、黒レベル電圧を設定して、映像信号振幅を変更(制限)する。
【0109】
次に、CPU314は、液晶パネル321に入力する映像信号振幅を白レベル−黒レベルの範囲内に補正して(ステップS1007)、液晶パネル321に映像を出力する(ステップS1008)。そして、本処理を終了する。
【0110】
(他の実施の形態)
以上、本発明の実施の形態について具体的な説明を行ったが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0111】
例えば、本発明の実施の形態においては、表示装置としてノーマリーブラック方式の液晶パネルについての説明を行ったが、ノーマリーホワイト方式の液晶パネルについても適用可能である。
【0112】
また、例えば、本発明の第2の実施の形態は、デジタルカメラを高倍率ズームで使用時に、液晶パネル上の表示が乱れやすい場合に対応している。しかし、これに限定することなく、動きの速い被写体を撮影する場合、マクロ撮影時等、手ブレが発生し易く、液晶パネル上の表示に残像が発生し易い場合においても本発明を適用することができる。
【0113】
また、例えば、撮影時のみではなく、撮影画像の再生時においても、スライドショー実施時等、画像を高速にスライドした場合には、本発明を適用することで、液晶パネル上の画像表示の残像発生を抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】表示画像が低輝度から高輝度に遷移する時の液晶パネルの応答速度を示す図である。
【図2】表示画像が高輝度からさらに高輝度に移行する時の液晶パネルの応答速度を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る撮像装置としてのデジタルカメラの電気的構成を示すブロック図である。
【図4】図3のデジタルカメラによって実行される、検出温度に従って映像信号振幅を制御する、映像信号振幅制御処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】図3のデジタルカメラの正面斜視図である。
【図6】図3のデジタルカメラの背面斜視図である。
【図7】環境温度が0℃(低温)、25℃(常温)の場合の図3における液晶パネルの光学応答波形を示す図である。
【図8】映像信号振幅を図3における液晶パネルの応答性が速い電圧範囲に補正する処理を示す図である。
【図9】環境温度と図3における液晶パネルに入力する映像信号振幅の関係を示す映像信号振幅補正テーブルを示す図である。
【図10】図3のデジタルカメラによって実行される、検出温度とズーム倍率に従って映像信号振幅を制御する、映像信号振幅制御処理の手順を示すフローチャートである。
【図11】図3のデジタルカメラのズーム倍率と環境温度と液晶パネルに入力する映像信号振幅の関係を示す映像信号振幅補正テーブルを示す図である。
【符号の説明】
【0115】
301 鏡筒
303 レンズ
306 CCD
314 CPU
320 液晶パネルドライバ
321 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段により撮影した画像を表示する液晶表示手段と、
前記液晶表示手段の応答性が低下する環境温度下においては、前記液晶表示手段に入力する映像信号振幅を前記液晶表示手段の応答性が高い範囲に制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
温度検出手段を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段によって検出された温度情報を基に、前記映像信号振幅を制御することを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
前記液晶表示手段に残像が目立たないよう予め設定された、前記環境温度と制御された前記映像信号振幅の関係を示す補正テーブルを有することを特徴とする請求項1または2記載の撮像装置。
【請求項4】
ズーム倍率を算出するズーム倍率算出手段を備え、
前記制御手段は、前記ズーム倍率算出手段によって算出された前記ズーム倍率を基に、前記映像信号振幅を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の撮像装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記温度検出手段によって検出された温度情報と、前記ズーム倍率算出手段によって検出された前記ズーム倍率を基に、前記映像信号振幅を制御することを特徴とする請求項4記載の撮像装置。
【請求項6】
前記液晶表示手段に残像が目立たないよう予め設定された、前記環境温度と前記ズーム倍率に対する制御された前記映像信号振幅の関係を示す補正テーブルを有することを特徴とする請求項4記載の撮像装置。
【請求項7】
前記補正テーブルは、前記液晶表示手段の光学応答波形を基に算出されることを特徴とする請求項3または6記載の撮像装置。
【請求項8】
撮影手段により撮影した画像を表示する液晶表示手段と、
前記液晶表示手段の応答性が低下する環境温度下においては、前記液晶表示手段に入力する映像信号振幅を前記液晶表示手段の応答性が高い範囲に制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項9】
温度検出手段を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段によって検出された温度情報を基に、前記映像信号振幅を制御することを特徴とする請求項8記載の液晶表示装置。
【請求項10】
前記液晶表示手段に残像が目立たないよう予め設定された、前記環境温度と制御された前記映像信号振幅の関係を示す補正テーブルを有することを特徴とする請求項8または9記載の液晶表示装置。
【請求項11】
前記補正テーブルは、前記液晶表示手段の光学応答波形を基に算出されることを特徴とする請求項10記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−109578(P2010−109578A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278447(P2008−278447)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】