説明

撮像装置

【課題】 高分子製フィルム、および、高分子製両面テープからなる光学的ローパスフィルタを用いた撮像装置において、光学的ローパスフィルタが紫外線によって変質してしまっても良好な色再現性を維持することが可能な撮像装置を提供すること。
【解決手段】 光学ローパスフィルタ変質検知手段によって光学的ローパスフィルタの変質が検知されると、ホワイトバランス補正手段を用いてホワイトバランス制御手段の補正を行うことで、光学的ローパスフィルタが変質してしまっても良好な色再現性を維持することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばCCDやCMOS等よりなる撮像素子などに用いられる光学的ローパスフィルタ(以後光学LPFという)で、中でもフィルム状の光学LPFに関し、近紫外線の照射によって生じる化学変化への機器側の対応に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CCDやCMOS等よりなる撮像素子を使用した撮像光学系においては、被写体光の高空間周波数成分を制限し、擬似信号の発生に伴う被写体による光とは異なる色成分を除去するために、光学LPFが用いられている。この光学LPFとして、従来一般的には、水晶板などによる複屈折タイプのものが広く使われている。
【0003】
この水晶板は屈折率の異方性がさほど大きくなく、制限すべき所定の空間周波数を得るためには、水晶板の厚さが通常1mm程度必要となる。それを複数枚貼り合わせて使用するために、トータルの厚みが厚くなり、その結果、機器の小型化や軽量化を阻害するばかりでなく、収差やゴーストなど光学的性能の低下の要因ともなる。
【0004】
また、ニオブ酸リチウムなど屈折率の異方性が大きい材料が知られている。この材料の場合は屈折率の異方性が大きいため、制限すべき所定の空間周波数を得るための厚みは水晶に比べて極めて薄くできるが、反面、厚み加工上あるいは貼り合わせ加工上の技術的困難さがあり、その結果、コストが高くなる。
【0005】
一方、高分子製光学LPFに関する提案が特開平08−122708でされている。これは、光学異方性高分子フィルムよりなるもので、製造が容易であり、特定の光学的特性を有するものであることにより、光学LPFとして優れた機能を有し、小型化、軽量化が図れると共に、コスト的にも有利と言えるものである。
【0006】
しかしながら、これら高分子製光学LPFを構成する大多数の有機物材料においては、近紫外線の照射によって化学変化を起こし、外観上、黄変劣化を示すという問題がある。この黄変劣化の問題は、太陽光に曝されることを想定するカメラ等の光学機器では無視できない問題であり、黄変劣化によって可視波長域の透過率の低下が発生すると被写体像の色再現性が著しく悪くなるという問題がある。
【0007】
また、一般的にカメラ等の撮像装置に用いられる光学LPFは複数の光学LPFを張り合わせた積層構造をとっている。この、複数の光学LPFを張り合わせるのに高分子製両面テープを用いると製造が容易となる。しかし、前述の様に高分子製両面テープにおいても近紫外線の照射による変質が問題となる。
【特許文献1】特開平08−122708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みなされたもので、光学異方性高分子フィルム等のフィルム状光学LPF、および、高分子両面テープを含む光学LPFを使用したカメラ等の光学機器において、その光学LPFの黄変劣化の状況を検知して、ホワイトバランスを補正することにより、画像の色再現性を適切なものにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するために、請求項1に示す本発明は、撮像レンズと、前記撮像レンズにより形成された被写体像を輝度信号と色差信号に変換する撮像部と、撮像部の色差信号出力を基にホワイトバランスを調整するホワイトバランス制御手段と、前記撮像レンズと前記撮像部との間に配置される光学的ローパスフィルタを有する撮像装置において、前記光学的ローパスフィルタの変質を検知する検知手段と、前記検知手段により変質が検知されたときにホワイトバランス制御手段の制御方法を補正するホワイトバランス補正手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の本発明では、請求項1に記載の撮像装置において、前記光学的ローパスフィルタは、高分子からなるフィルム状の薄膜である、または、それを含むことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の本発明では、請求項1または2に記載の撮像装置において、前記光学的ローパスフィルタは、複数のローパスフィルタを高分子からなる両面テープによって張り合わされた積層構造をしていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の本発明では、請求項1に記載の撮像装置において、前記検知手段は、紫外線によって前記光学的ローパスフィルタが変質したことを検知することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の本発明では、請求項1から4に記載の撮像装置において、前記ホワイトバランス補正手段は、前記光学的ローパスフィルタの変質量を測定し、前記光学的ローパスフィルタの変質前と変質後で同一の光が撮像装置に入射したときに、同一のホワイトバランスとなるよう前記ホワイトバランス制御手段を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上、説明したように、本発明の撮像装置は、紫外線によって光学LPFが変質したことを検知し、ホワイトバランス補正値を算出し、以降の撮影ではホワイトバランス補正値を加味してホワイトバランス制御を行うことにより、良好な色再現性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の概略図である。
【0017】
1は本実施形態の撮像装置である。
【0018】
被写体光が撮像レンズ2、光学LPF3を介して、固体撮像素子4に結像する。
【0019】
撮像素子4は、その像面に結蔵された光学像を光電変換し、色差信号と輝度信号を出力する。
【0020】
ホワイトバランス制御回路5は、撮像素子4からの色差信号に、後述する不揮発性メモリ13に保存されたホワイトバランス補正値を加えた信号に対して所定のホワイトバランス処理を行った後、画像処理回路6にホワイトバランス処理後の色差信号を送信する。
【0021】
画像処理回路6は、ホワイトバランス制御回路5からのホワイトバランス処理後の色差信号と、撮像素子4からの輝度信号をもとに、画像データを作成する。
【0022】
記録部7は、画像処理回路6で作成された画像データを記録する領域であり、半導体メモリや磁気ディスクなどから構成されている。
【0023】
8はシステム制御回路であり、撮像装置1全体の制御を行う回路である。
【0024】
レンズキャップ9は撮像レンズ2の前面に着脱可能な遮光部材であり、非使用時の撮像レンズ2の保護と、後述する光学LPF3の変質検知時に外乱となる外光を遮るために用いられる。
【0025】
撮像装置1の使用時にはレンズキャップ9は撮像レンズ2の前面から取り外され、光学レンズ2に被写体光を導くことが可能な状態にする。
【0026】
撮像装置1の非使用時には、レンズキャップ9は撮像レンズ2の前面に取り付けられ、撮像レンズ2にキズ・汚れが付くのを防ぎ、光が撮像装置1内部に入射することで光学LPF3が変質してしまうのを防ぐ。
【0027】
10はレンズキャップ着脱検知スイッチであり、レンズキャップ9が取り付けられているか否かを検知する。
【0028】
11は照明装置であり、常に安定して一定の光を照射するものである。
【0029】
光学LPF変質検知・ホワイトバランス補正回路12は、光学LPF3の変質を検知し、変質が検知された際にはホワイトバランス補正値を算出する回路である。光学LPF変質検知・ホワイトバランス補正回路12に含まれるメモリには、光学LPF3が新品時において、レンズキャップ9が装着された状態で照明装置11が光学LPF3を照明した際に撮像素4から出力された色差信号(以後、初期色差信号と呼ぶ)が記録されている。
【0030】
システム制御回路8は、所定期間経過するごとに、レンズキャップ9が装着された状態で照明装置11に光学LPF3に光を照射させる。
【0031】
光学LPF変質検知・ホワイトバランス補正回路12は、その際に撮像素子4から出力される色差信号(以後、変質検知用色差信号と呼ぶ)と前述の初期色差信号を比較し、その差が所定量より大きい場合に光学LPF3が変質していると判断する。
【0032】
ここで、この所定量は、照明装置11の照射光のばらつきと撮像素子4の色差信号出力のばらつきを吸収するために設定されるものである。単純に初期色差信号と変質検知用色差信号に差があるときに光学LPF3が変質していると判断してしまうと、光学LPF3が変質していないにもかかわらず、照明装置11の照射光のばらつきと撮像素子4の色差信号出力のばらつきのために初期色差信号と変質検知用色差信号に差が出ると、光学LPF3が変質していると誤検知してしまう。前述の所定量を設定した光学LPF3の変質検知を行うことで、この誤検知を防ぐことができる。
【0033】
そして、光学LPF3が変質していると判断した場合は、変質検知用色差信号と、初期色差信号の差からホワイトバランス補正値を算出し、半導体メモリ等からなる不揮発性メモリ13にホワイトバランス補正値を保存する。
【0034】
不揮発性メモリ13には、初期状態(新品状態)では、ホワイトバランス補正値としてゼロが保存されている。
【0035】
タイマー14は、光学LPF変質検知・ホワイトバランス補正回路12の作動時期を決定するタイマーであり、所定時間経過したことをシステム制御回路8に知らせる。
【0036】
システム制御回路8は、タイマー14から所定時間経過したことが知らされると、照明手段11、撮像素子4、光学LPF変質検知・ホワイトバランス補正回路12を駆動する。
【0037】
図2は光学LPF3の断面図である。
【0038】
21、25は水晶、23は高分子フィルム、22、24は高分子両面テープという、積層構造をとっている。
【0039】
図3は本発明の撮像装置における警告発生までの手順を示すフローチャートである。
【0040】
ステップS301では、レンズキャップ着脱検知スイッチ10によって、レンズキャップ9が装着されているか否かを判別する。レンズキャップ9が装着されていると判別されたときはステップS302に進み、装着されていないと判別されたときはステップS301に戻る。
【0041】
ステップS302では、照明装置11が光学LPF3へと光を照射する。
【0042】
ステップS303では、撮像素子4が変質検知用色差信号を光学LPF変質検知・ホワイトバランス補正回路12へと送信し、ステップS304へと進む。
【0043】
ステップS304では、光学LPF変質検知・ホワイトバランス補正回路12が、ステップS303で撮像素子4から送信された変質検知用色差信号と初期色差信号を比較し、その差が所定値以上であった場合は光学LPF3が変質していると判断し、ステップS305に進む。所定値未満であった場合は光学LPF3は変質していないと判断し、ステップS306に進む。
【0044】
ステップS305では、変質検知用色差信号と、初期色差信号の差を算出し、その差を不揮発性メモリ13に保存されているホワイトバランス補正値に加えたものを新たにホワイトバランス補正値として保存する。そして、変質検知用色差信号を新たに初期色差信号として光学LPF変質検知・ホワイトバランス補正回路12に含まれるメモリに保存する。
【0045】
ステップS306ではタイマー14をスタートし、ステップS306に進む。
【0046】
ステップS307では、タイマー14が所定時間経過しているかどうかを判別し、所定時間経過していると判別されたときはステップS308に進み、所定時間経過していないと判断されたときはステップS307に戻る。
【0047】
ステップS308では、タイマー14をリセットし、ステップS301へ進む。
【0048】
このようなフローをとることにより、所定時間経過し、かつ、レンズキャップ9が装着されたときに光学LPF3が変質しているかどうかを判別し、変質している時にはホワイトバランス補正値を算出する。そして、以降の撮影では、このホワイトバランス補正値を用いたホワイトバランス制御をおこなうので、光学LPF3が変質してしまっても良好な色再現性を得ることができる。さらに光学LPF3が変質してしまっても、再度ホワイトバランス補正値を算出し直すことができるので、良好な色再現性を維持することができる。
【0049】
また、適切な所定時間を設定することで、撮像装置1が不必要に光学LPF3の変質検知動作に入ってしまうことを防ぐことができる。
【0050】
図4は本発明の撮像装置における光学LPFのその他の例を示す断面図である。
【0051】
図4(a)において、401、403、405は高分子フィルム、402、404は高分子両面テープである。
【0052】
図4(b)において、411、413、415は高分子フィルム、412、414は透明接着剤である。
【0053】
図4(c)において、421、425は水晶、423はニオブ酸リチウム、422、424は高分子両面テープである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態に係る撮像装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る撮像装置の光学LPFの断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る撮像装置の光学LPF変質検知・ホワイトバランス補正値算出動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係る撮像装置の光学LPFの断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 撮像装置
2 撮像レンズ
3 光学LPF
4 撮像素子
5 ホワイトバランス制御回路
6 画像処理回路
7 記録部
8 システム制御回路
9 レンズキャップ
10 レンズキャップ着脱検知スイッチ
11 照明装置
12 光学LPF変質検知・ホワイトバランス補正回路
13 不揮発性メモリ
14 タイマー
21、25、421、425 水晶
22、23、402、404、422、424 高分子両面テープ
24、401、403、405、411、413、415 高分子フィルム
412、414 透明接着剤
423 ニオブ酸リチウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像レンズと、
前記撮像レンズにより形成された被写体像を輝度信号と色差信号に変換する撮像部と、
撮像部の色差信号出力を基にホワイトバランスを調整するホワイトバランス制御手段と、
前記撮像レンズと前記撮像部との間に配置される光学的ローパスフィルタを有する撮像装置において、
前記光学的ローパスフィルタの変質を検知する検知手段と、
前記検知手段により変質が検知されたときにホワイトバランス制御手段の制御方法を補正するホワイトバランス補正手段を備えたことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記光学的ローパスフィルタは、
高分子からなるフィルム状の薄膜である、または、それを含むことを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記光学的ローパスフィルタは、
複数のローパスフィルタを高分子からなる両面テープによって張り合わされた積層構造をしていることを特徴とする請求項1、2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記検知手段は、
紫外線によって前記光学的ローパスフィルタが変質したことを検知することを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記ホワイトバランス補正手段は、
前記光学的ローパスフィルタの変質量を測定し、
前記光学的ローパスフィルタの変質前と変質後で同一の光が撮像装置に入射したときに、
同一のホワイトバランスとなるよう前記ホワイトバランス制御手段を補正することを特徴とする請求項1から4に記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−211214(P2006−211214A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19728(P2005−19728)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】