説明

撮影システム及びレンズ装置

【課題】パン、チルト、ズーム操作が行われても、被写体を再度選択することなく複数の被写体の被写体距離を表示する。
【解決手段】撮影システムは、レンズ装置と撮像装置とを含み、該レンズ装置の操作角を検出する操作角検出手段と、該レンズ装置に対する被写体の方向を記憶する方向記憶手段と、該レンズ装置のズーム位置とフォーカス位置から撮影画角を演算する画角演算手段と、該操作角検出手段により検出される操作角と、該方向記憶手段により記憶されている被写体の方向と、該画角演算手段により演算される撮影画角に基づき、撮影画面内における1以上の被写体位置を演算し、該1以上の被写体位置に測距エリアを設定する測距エリア設定手段と、該測距エリアにおける被写体距離を演算する被写体距離演算手段と、該撮像装置により生成された撮影映像と該測距エリアに対応する該被写体距離に基づく情報とを含む出力映像を生成する出力映像生成手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距機能を有する撮影システム及びレンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マラソンなどのテレビ中継において、例えば、先頭で走っている選手と第2位で走っている選手との間の距離がしばしばアナウンスされる。このときの選手間の距離は、アナウンサーやレポーターが目測した大体の距離であったり、ある地点を先頭の選手が通過してから第2位の選手が通過するまでの時間と各選手の走行速度とから算出された距離であったりする。したがって、アナウンサー等が伝える選手間の距離は正確ではない。また、該距離がアナウンサー等によって音声で視聴者に伝えられるだけでは、視聴者は視覚的に距離を把握することができない。
【0003】
特許文献1には、以下のような撮影システムが開示されている。先ず第1の被写体に対してマニュアルでフォーカシングを行い、合焦した時点でのフォーカスレレンズの位置に基づいて第1の被写体までの距離を演算する。次に、第2の被写体に対して同様にマニュアルでフォーカシングを行い、合焦した時点でのフォーカスレンズの位置に基づいて第2の被写体までの距離を演算する。そして、演算された第1及び第2の被写体の距離の差を求め、該差の情報を映像信号に重畳させて表示させる。
【0004】
特許文献2には、以下のような測距装置が開示されている。被写体に測距光を照射し、その反射光をCCDで受光することにより各画素に対応する被写体までの距離を受光量から検出する。いわゆるアクティブ方式の多点測距装置であり、撮影された画像を表示する表示装置にタッチパネルを配設し、ポインティングペンで測定点に対応する画素を選択する。もしくは、方向指示ボタンを有し、画面上のカーソルを制御することにより測定点に対応する画素を選択する。そして、選択された画素に対応する距離を画面上に表示させる。
【0005】
特許文献2で開示されている測距装置を用いれば、特許文献1のようにフォーカシング操作を行わなくとも、複数の被写体までの距離を演算し、表示することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−329915号公報
【特許文献2】特開2001−124544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2で開示された測距装置では、マラソン中継などの動画像を撮影するスタイルにおいては、撮影しながらポインティングペンや、方向指示ボタンを操作し、測定点を指定しなければならず、撮影者の操作は煩雑となる。
【0008】
また、測定点を指定した後に、パンニング(以下、パンという)やチルティング(以下、チルトという)操作、または、ズーム操作を行うと、指定された測定点が意図する被写体から外れてしまうため、再度選択し直さなければならない。特に、マラソン中継などの複数の測定点を選択したい場合においては、このような煩雑な操作は撮影者にとって大きな負担となる。
【0009】
そこで、本発明の例示的な目的は、1以上の被写体を選択する選択操作を容易にするとともに、選択された後に、パン、チルト、またはズーム操作を行っても、被写体の再選択を必要としない撮影システム及びレンズ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての撮影システムは、レンズ装置と、撮像装置とを含み、該撮影システムは、該レンズ装置の操作角を検出する操作角検出手段と、該レンズ装置に対する被写体の方向を記憶する方向記憶手段と、該レンズ装置のズーム位置とフォーカス位置から撮影画角を演算する画角演算手段と、該操作角検出手段により検出される操作角と、該方向記憶手段により記憶されている被写体の方向と、該画角演算手段により演算される撮影画角に基づき、撮影画面内における1以上の被写体の位置を演算し、該1以上の被写体の位置に測距エリアを設定する測距エリア設定手段と、該測距エリアにおける被写体距離を演算する被写体距離演算手段と、該撮像装置により生成された撮影映像と該測距エリアに対応する該被写体距離に基づく情報とを含む出力映像を生成する出力映像生成手段とを有することを特徴とする。
【0011】
なお、前記方向記憶手段、画角演算手段、測距エリア設定手段、及び被写体距離算出手段を含むレンズ装置も本発明の他の一側面を構成する。
【0012】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付の図面を参照して説明される好ましい実施例等によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パン、及びチルトの操作角を検出することにより、1以上の被写体を選択する操作が容易になる。さらには、パン、チルト操作、または、ズーム操作が行われても、被写体を再度選択することなく被写体距離を表示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1である撮影システムの構成を示すブロック図。
【図2】実施例1におけるAFセンサの構成を示す図。
【図3】実施例1における表示対象被写体の方向の水平角、垂直角の記憶処理の流れを示すフローチャート。
【図4】実施例1におけるAF処理と被写体距離の演算処理の流れを示すフローチャート。
【図5】被写体の選択方法と被写体距離の表示例を示す図。
【図6】被写体選択後のパン操作、及びズーム操作時の測距エリアの設定状態を示す図。
【図7】実施例2における表示対象被写体の方向の水平角、垂直角の記憶処理および解除処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1には、本発明の実施例1である撮影システムの構成を示している。該撮影システムは、レンズ装置1と動画撮影用カメラ(撮像装置)2と該レンズ装置1及びカメラ2を支持する三脚(支持体)3と被写体を選択する選択スイッチ4により構成されている。レンズ装置1は、カメラ2に対して着脱(交換)が可能である。
カメラ2は、CCDセンサやCMOSセンサ等により構成される撮像素子201(以下、CCDという)を含む。
また、レンズ装置1、及びカメラ2には、それぞれレンズCPU130、カメラCPU210が構成されている。
【0017】
レンズ装置1に含まれるレンズ鏡筒101は、不図示のフォーカスレンズ、変倍レンズ及びアイリス等の光学調節部材を含む光学系を内蔵している。この光学系は、フォーカスレンズが該光学系のうち最も被写体側に配置された、いわゆる前玉フォーカスタイプの光学系である。
【0018】
レンズ鏡筒101には、フォーカスモータ110からの駆動力をフォーカスレンズに伝達して該フォーカスレンズを光軸方向に移動させるフォーカス駆動リング102が設けられている。また、レンズ鏡筒101には、ズームモータ113からの駆動力を変倍レンズに伝達して該変倍レンズを光軸方向に移動させるズーム駆動リング103も設けられている。
【0019】
レンズ装置1におけるレンズ鏡筒101の後方(像面側)には、ハーフミラー104が設けられている。レンズ鏡筒101を通って(すなわち、レンズ装置1に入射して)ハーフミラー104に到達した被写体からの光束は、ハーフミラー104を透過した光束とハーフミラー104で反射された光束とに分割される。
【0020】
ハーフミラー104を透過した光束は、CCD201に入射する。ハーフミラー104で反射された光束は、レンズ装置1内におけるCCD201と共役な位置に設けられた焦点検出部105に入射する。
【0021】
焦点検出部105は、不図示の複数対の二次結像レンズと、図2に示す位相差センサとしてのAFセンサ120とを含む。AFセンサ120上には、複数対のラインセンサ(光電変換素子列)121が設けられている。
【0022】
各対のラインセンサ121上には、ハーフミラー104で反射して各対の二次結像レンズによって2つに分割された光束により一対の被写体像(以下、2像という)が形成される。各対のラインセンサ121は、該2像を光電変換して2つの像信号を出力する。上記2像、つまりは2つの像信号は、レンズ装置1(光学系)のフォーカス状態に応じた位相差を有する。
【0023】
レンズ装置1が合焦状態にある場合は該2像間(被写体像間)の間隔に相当する位相差は特定値を示す。被写体よりも近距離側に合焦している、いわゆる前ピンの場合は、位相差は該特定値よりも小さくなる。また、被写体よりも遠距離側に合焦している、いわゆる後ピンの場合は、位相差は該特定値よりも大きくなる。このように、焦点検出部105(AFセンサ120)は、レンズ装置1に入射した光により形成された被写体像(2像)間の位相差を検出する機能を有する。
【0024】
各対のラインセンサ121からの2つの像信号は、焦点検出演算部106に入力される。焦点検出演算部106は、該2つの像信号に対する相関演算を行い、該像信号間の位相差を演算し、さらに該位相差に基づいてレンズ装置1のデフォーカス量を演算する。このようにして、AFセンサ120に設けられた複数対のラインセンサ121に対応する複数のデフォーカス量が演算される。演算された複数のデフォーカス量は、レンズ制御部(フォーカス制御手段)107と被写体距離演算部114とに入力される。
【0025】
本実施例のレンズ装置1では、ユーザがフォーカス操作(これについては後述する)によって被写体に対してピントを合わせると、さらにAFによって当該被写体に対してより高精度にピントを合わせる。このため、レンズ制御部107は、入力された複数のデフォーカス量のうち最も小さいデフォーカス量をAF用デフォーカス量として選択する。
【0026】
なお、撮影画面内においてピントを合わせたいAFエリア(焦点検出エリア)を、十字キー等の操作部材の操作によってユーザが任意に選択できるようにしてもよい。この場合は、AFエリアに含まれる一対のラインセンサを用いて得られたデフォーカス量をAF用デフォーカス量として演算する。
【0027】
レンズCPU130は、フォーカス位置検出器108を通じて、フォーカス駆動リング102の回転位置、つまりはフォーカスレンズの位置を検出する。また、レンズCPU130は、ズーム位置検出器111を通じて、ズーム駆動リング103の回転位置、つまりは変倍レンズの位置を検出する。
【0028】
そして、レンズ制御部107は、レンズCPUにより検出したフォーカスレンズ及び変倍レンズの位置と上記AF用デフォーカス量とに基づいて、フォーカスレンズの移動量を演算する。この移動量は、AF用デフォーカス量演算の基となった像信号を出力した一対のラインセンサ121上に2像が形成された被写体に対して合焦を得るためのフォーカスレンズの移動量である。
【0029】
そして、レンズ制御部107は、該演算された移動量だけフォーカスレンズが光軸方向に移動するように、フォーカスドライバ109を介してフォーカスモータ110を駆動し、フォーカス駆動リング102を回転させる。これにより、AF(オートフォーカス)が行われる。
【0030】
本実施例のレンズ装置1では、ユーザにより操作される不図示のフォーカス操作部材(フォーカススイッチ)からのフォーカス指令信号がレンズ制御部107に入力される。レンズ制御部107は、該フォーカス指令信号に応じて、フォーカスドライバ109を介してフォーカスモータ110を駆動し、フォーカス駆動リング102を回転させる。これにより、サーボ制御によるフォーカス駆動が行われる。
【0031】
また、ユーザにより操作される不図示のズーム操作部材(ズームスイッチ)からのズーム指令信号がレンズ制御部107に入力される。レンズ制御部107は、該ズーム指令信号に応じて、ズームドライバ112を介してズームモータ113を駆動し、ズーム駆動リング103を回転させる。これにより、変倍レンズが移動し、サーボ制御によるズーム駆動が行われる。
【0032】
三脚3において、操作角検出部301は、被写体設定部115に接続され、三脚3に対するレンズ装置1のパン、チルト操作角を検出し、パン、チルト操作に対応した値をデジタル信号で出力する。本実施例では、電源投入時に操作角検出部301はパン、チルトの位置を基準位置とする基準位置データを出力し、その後は基準位置からのパン、チルトの相対位置に比例した操作角データを出力する。このパン、チルト操作角検出部301は、たとえばインクリメントロータリーエンコーダとカウンタにより実現することが可能である。
【0033】
選択スイッチ4において、撮影者は該選択スイッチ4により距離を表示させたい被写体を選択(被写体の選択方法については後述する)し、被写体設定部115に選択した被写体(表示対象被写体)の方向を示す水平角、垂直角を記憶させる。
【0034】
被写体設定部115は画角演算手段を含み、該画角演算手段はレンズCPU130を介してフォーカス位置検出器108により得られる現在のフォーカスレンズ位置と、ズーム位置検出器111により得られる現在の変倍レンズ位置から、現在の撮影画角を演算する。さらに、被写体設定部115は測距エリア設定手段を含む。測距エリア設定手段は、該撮影画角と、現在のレンズ装置1のパン、チルト位置と、選択された表示対象被写体の方向を示す水平角、垂直角とに基づき、表示対象被写体の撮影画面内における位置を演算し、表示対象被写体の位置に測距エリアを設定する。測距エリアの形状の設定はユーザが任意に変更可能である。
【0035】
このため、図2に示したAFセンサ120では、撮影画面内において測距エリアの位置、大きさ及び数をユーザが高い自由度で選択できるように、多数のラインセンサ121が配置されている。
【0036】
被写体距離演算部114には、焦点検出演算部106から、AFセンサ120上の複数対のラインセンサ121を用いて得られた複数のデフォーカス量が入力される。被写体距離演算部114は、表示対象被写体に設定された各測距エリアに含まれる複数対のラインセンサ121の中から一対のラインセンサ121を選択する。該一対のラインセンサ121を用いて得られたデフォーカス量に基づいて、各測距エリアごとに被写体までの距離(被写体距離)を以下のように演算する。「一対のラインセンサ121」の選択方法については後述する。
【0037】
被写体距離演算部114は、各測距エリアでのデフォーカス量と、レンズCPU130を介してフォーカス位置検出器108により得られる現在のフォーカスレンズ位置と、ズーム位置検出器111により得られる現在の変倍レンズ位置とを取り込む。次に、デフォーカス量と現在のフォーカスレンズ位置から、その測距エリアに含まれる被写体に対して合焦するフォーカスレンズ位置(合焦フォーカスレンズ位置)を演算する。そして、合焦フォーカスレンズ位置と現在の変倍レンズ位置とに基づいて、被写体距離を演算する。
被写体距離演算部114は、レンズ通信部116と接続されている。レンズ通信部116は、カメラ2に設けられたカメラ通信部204とシリアル通信によるデータの送受信を行う。レンズ通信部116は、表示対象被写体に設定された測距エリアの被写体距離の情報(距離情報)と、不図示の測距位置出力手段による測距エリアの撮影画面内の座標情報(画面位置情報)、をカメラ通信部204に送信する。
【0038】
なお、焦点検出演算部106、レンズ制御部107、被写体距離演算部114、被写体設定部115及びレンズ通信部116は、レンズCPU130内に構成されている。
カメラ2において、CCD201から出力された信号は、映像信号処理部202に入力される。映像信号処理部202は、CCD201から出力された信号に対して各種処理を行い、撮影映像信号(撮影映像)を生成する。該撮影映像信号は、画像合成部(出力映像生成手段)203に出力される。
【0039】
画像合成部203には、カメラ通信部204を介してレンズ装置1から入力された被写体距離情報と測距エリア座標情報が入力される。画像合成部203は、撮影映像信号に被写体距離情報を合成して出力映像信号(出力映像)を生成する。具体的には、撮影映像のうち測距エリア座標情報に応じた位置に被写体距離情報を重畳した出力映像を生成する。出力映像信号は、表示部205や外部に出力される。
【0040】
映像信号処理部202、画像合成部203及びカメラ通信部204は、カメラCPU210内に構成されている。
【0041】
図3のフローチャートには、表示対象被写体の方向の水平角、垂直角の記憶処理の流れを示す。レンズCPU130は、これらの処理を、不図示のメモリに格納されたコンピュータプログラムに従って制御する。
【0042】
レンズ装置1に電源が入ると、レンズCPU130の処理は、ステップS1に進み、被写体設定部115は、操作角検出部301からパン、チルトの基準位置を取得する。次に、ステップS2では、レンズ装置1のパン、チルトの操作角データ(絶対位置)を取得する。そして、ステップS3では、パン、チルトの操作角データ(絶対位置)を元に、基準位置からのパン、チルト位置(パン、チルト相対位置)を演算する。ステップS4では、選択スイッチ4がONされたかどうかを判断し、選択スイッチ4がONされた場合は、ステップS5に進む。選択スイッチ4がOFFの場合は、処理を終了する。ステップS5では、現在のパン、チルト相対位置を表示対象被写体の方向の水平角、垂直角として記憶する。表示対象被写体の水平角、垂直角が記憶されると処理は終了する。ここで、ステップS2で取得する位置を第1相対位置、ステップS3で演算する位置を第2相対位置としても構わない。
【0043】
レンズCPU130の処理は、ステップS1は電源投入時のみの処理であり、電源投入後は、ステップS2〜ステップS5のフローを一定周期で繰り返し処理を行う。
【0044】
被写体設定部115は、常に現在のレンズ装置1のパン、チルト相対位置を取得し、選択スイッチ4がONされた数だけ表示対象被写体の方向の水平角、垂直角を記憶する。
【0045】
図4のフローチャートには、レンズ装置1におけるAF処理と被写体距離の演算処理の流れを示す。レンズCPU130は、これらの処理を、不図示のメモリに格納されたコンピュータプログラムに従って制御する。
【0046】
レンズ装置1に電源が入ると、レンズCPU130の処理は、ステップS21に進み、焦点検出部105のAFセンサ120を駆動する。そして、ステップS22では、焦点検出演算部106は、各対のラインセンサ121で得られた位相差に基づいてデフォーカス量を演算する。そして、レンズ制御部107は、焦点検出演算部106から入力された複数のデフォーカス量のうち最も小さいデフォーカス量をAF用デフォーカス量として選択する。該AF用デフォーカス量は、現在のフォーカスレンズ位置から最も近い位置で合焦となる被写体に対してAF動作を行うためのものである。
【0047】
次に、ステップS23では、レンズ制御部107は、現在のフォーカスレンズ位置をフォーカス位置検出器108により確認し、AF用デフォーカス量が合焦範囲内の値か否かを判断する。AF用デフォーカス量が合焦範囲内の値である場合には、レンズ制御部107は、現在が合焦状態であるとみなしてステップS24に進み、フォーカスレンズを停止させておく。そして、レンズCPU130の処理は、ステップS27に進む。
一方、AF用デフォーカス量が合焦範囲内の値でない場合は、レンズ制御部107はステップS25に進み、該AF用デフォーカス量と現在のフォーカスレンズ位置とから合焦フォーカスレンズ位置を演算する。そして、レンズ制御部107は、フォーカスレンズを合焦フォーカスレンズ位置に移動させるためにフォーカスドライバ109に与えるフォーカス駆動信号を生成する。
【0048】
次に、ステップS26では、レンズ制御部107は、フォーカスドライバ109にフォーカス駆動信号を出力する。これにより、フォーカスモータ110が駆動され、フォーカス駆動リング102が回転し、フォーカスレンズが合焦フォーカスレンズ位置まで移動する。そして、レンズCPU130の処理は、ステップS27に進む。
【0049】
ステップS27では、被写体設定部115は、図3で説明した記憶された表示対象被写体の方向の水平角、垂直角を、電源投入時の基準位置を基準とした相対値から、現在のレンズ装置1のパン、チルト位置(操作角)を基準としたレンズ装置基準の相対値に変換する。つまり、現在のレンズ装置1の操作角(方向)に対する対象被写体の相対的な方向を求める。次に、ステップS28では、フォーカス位置検出器111から得られるフォーカスレンズ位置と、ズーム位置検出器111から得られる変倍レンズ位置から現在の撮影画角を演算する。そして、ステップS29では、各表示対象被写体が現在の撮影画角内にあるかどうかを判断する。撮影画角内にある場合は、撮影画角と表示対象被写体のレンズ装置基準の水平角、垂直角から、撮影画面内における表示対象被写体の位置を演算し、撮影画面内の該位置に測距エリアを設定する。
【0050】
ステップS30では、設定された各測距エリアの被写体距離を演算する。被写体距離演算部114は、設定された測距エリアに含まれる複数対のラインセンサ121から測距演算に用いる一対のラインセンサを選択する。具体的には、被写体距離演算部114は、各対のラインセンサ121から出力された2つの像信号の合致度を求める相関演算を行う。そして、該2つの像信号の合致度が最も高い一対のラインセンサを測距用の一対のラインセンサとして選択する。そして、測距用の一対のラインセンサからの2つの像信号の位相差に基づいて得られたデフォーカス量と現在のフォーカスレンズ位置及び変倍レンズ位置とを用いて、選択された測距エリアでの被写体距離を演算する。
【0051】
ステップS31では、被写体距離演算部114は、設定された測距エリアごとの被写体距離情報と撮影画面位置情報(座標情報)とをレンズ通信部116を介してカメラ2に送信する。該送信が完了すると処理は終了する。
【0052】
レンズCPU130の処理は、ステップS21からステップS31までのフローを一定周期で繰り返し処理を行う。
【0053】
図5は、被写体の選択方法と被写体距離の表示例を示している。ここでは、先頭を走っている選手(選手A)と第2位を走っている選手(選手B)を撮影し、それぞれの選手を表示対象被写体として選択し、距離を表示する例について述べる。選手Aはレンズ装置1から20mの距離に位置し、選手Bは30mの距離に位置するものとする。
【0054】
図5(a)は被写体選択前の状態で、選手Aと選手Bを撮影している。画面中央部に選択ポイントPが設けられ、該選択ポイントPに被写体を合わせ、選択スイッチ4を押すことで、表示対象被写体を選択する。
【0055】
まず、選択ポイントPに選手Aが入るようにパン、及びチルト操作を行う。選択ポイントPを選手Aに合わせたら、選択スイッチ4を押す。選択スイッチ4が押されると、被写体設定部115は、レンズ装置1のパン、チルト位置を選手Aの方向の水平角、垂直角として記憶する。そして、画面内の選手Aを映している位置(現状では選択ポイントPの位置)に測距エリアF1が設定され、被写体距離演算部114により、被写体距離が演算される。不図示の測距位置出力手段より、測距エリアF1の位置を示す位置情報が出力され、そして、撮影映像における位置情報に応じた該測距エリアF1の画面位置に測距エリアに対応する被写体距離が表示される。該選手Aを選択した状態を図5(b)に示す。
【0056】
次に、選択ポイントPに選手Bが入るようにパン及びチルト操作を行う。選択ポイントPを選手Bに合わせたら、選択スイッチ4を押す。選択スイッチ4が押されると、選手Aと同様に測距エリアF2が設定され、被写体距離が測距エリアF2の画面位置に表示される。なお、該選択操作中にも、レンズ装置1のパン、チルト位置が検出され、画面内の測距エリアF1の位置が更新される。したがって、選手Aに対しても、測距エリアF1が設定されたまま、画面内を移動する。該選手Bを選択した状態を図5(c)に示す。
【0057】
そして、意図する撮影構図にパン、チルト操作を行うと、同様に選手A、及び選手Bに設定された測距エリアF1、F2が、該パン、チルト操作に伴って更新され、選手A及び選手Bに設定されまま画面内を移動し、被写体距離を表示することができる。選手A及び選手Bを選択後に、図5(a)と同様の撮影構図に戻した状態を図5(d)に示す。
【0058】
このように、操作角検出手段301によるパン、チルト位置を用いることによって、従来のようなポインティングペンや、方向指示ボタンによる操作ではなく、選択スイッチ4のON操作のみで被写体を選択できる。また、選択スイッチ4をズーム操作部材、もしくはフォーカス操作部材の近傍に取り付けることにより、撮影者のズーム、フォーカスのサーボ制御による操作の妨げにならず、1以上の被写体を容易に選択することができる。
【0059】
図5の例では、測距エリアの被写体の被写体距離を当該測距エリアの画面位置に表示しているが、本発明はこれに限定されることはない。例えば、ある被写体あるいは、所定の距離を基準とした相対距離など、被写体距離に基づく情報を表示するようにしてもよい。
【0060】
図6には、被写体選択後のパン操作、及びズーム操作時の測距エリアの設定状態を示す。ここでは説明を簡単にするためにパン方向、すなわち、水平画角のみについて述べるが、チルト方向、すなわち、垂直画角についても同様である。
【0061】
図6(a1)はレンズ装置1と被写体との位置関係を示した図である。被写体はA、B、Cの3つで、それぞれレンズ装置1の電源ON時のパン位置を基準(0°)として、パン操作方向において、Aは0°、Bは10°、Cは40°に位置する。各被写体は図5で説明した被写体の選択方法により水平角が記憶されている。また、この時のレンズ装置1の水平画角は40°とする。図6(b1)に示す図は、図6(a1)で示した位置関係に被写体がある場合の撮影画面となる。撮影画面の水平方向中心部に被写体A、右方向に被写体Bがあり、それぞれ現在のパン位置である0°と、記憶されている各被写体の位置の水平角により、撮影画面内の被写体A、Bの位置が演算され、測距エリアF1、F2が設定されている。
【0062】
図6(a2)に示す図は、図6(a1)で示す位置関係からレンズ装置1を右方向に25°パン操作を行ったときの状態を示す。そのときの撮影画面を示す図が図6(b2)となる。被写体Aは撮影画面から外れるため、測距エリアは設定されず、被写体B、Cに関しては、撮影画面内の位置が演算され、測距エリアF1、F2が設定される。
【0063】
図6(a3)に示す図は、図6(a2)で示す位置関係からレンズ装置1のズームを駆動させ、水平画角を70°に変倍した状態を示す。そのときの撮影画面を示す図が図6(b3)となる。水平画角が広がったために、被写体Aも撮影画面内に入り、それぞれ被写体A、B、Cの撮影画面内の位置が演算され、測距エリアF1、F2、F3が設定される。なお、図6においては、被写体距離の表示は図示していないが、実際には、設定された測距エリア内にあるラインセンサ121により被写体距離を演算し、距離を表示する。
【0064】
このように、本実施例では、撮影画面上での位置ではなく、レンズ装置1に対する実際の被写体の水平角、垂直角を記憶することにより、被写体を選択後にレンズ装置1のパン、チルト操作や、ズーム操作を行ったとしても実際の被写体の位置に測距エリアを設定することが可能となる。したがって、被写体の再選択を行わなくても被写体距離を表示することが可能となる。
【0065】
また、本実施例では、レンズ装置1のパン、チルト位置を検出することにより、被写体の選択部材としては、選択スイッチ4のみの構成とすることが可能となる。したがって、マラソン中継などにおいて撮影者が被写体を選択する際に、ポインティングペンや方向指示ボタンによる煩雑な操作を必要とせず、1以上の被写体を容易に選択することが可能となる。
【0066】
なお、本実施例では、選択スイッチ4は単体のスイッチとして撮影システムに構成したが、ズーム操作部材やフォーカス操作部材などの、いわゆるレンズアクセサリー内に構成したり、他スイッチと併用したりしても良く、また、レンズ装置内の構成に含まれても良い。
【0067】
さらには、本実施例では、操作角検出手段として、三脚に搭載されたロータリーエンコーダーとカウンタからなる操作角検出部301を構成したが、これに限られるものではなく、例えば、角速度センサや角度センサにより操作角度を演算するなどしても良い。
【0068】
さらには、本実施例では、選択スイッチ4の入力により、手動で被写体を選択し、被写体の水平角、垂直角を記憶する方法について述べたが、これに限られない。例えば、ある一定の被写体距離にある被写体を、表示対象の被写体として自動で抽出し、該抽出された被写体の水平角、垂直角を演算し、記憶する処理としても良い。
【0069】
さらには、本実施例では、各測距エリア内に複数対のラインセンサが含まれている場合に、2つの像信号の合致度が最も高い一対のラインセンサを選択し、該一対のラインセンサを用いて得られた位相差に基づいて被写体距離を演算した。しかし、被写体距離の演算方法はこれに限られない。例えば、各測距エリア内の複数対のラインセンサそれぞれにより得られた位相差に基づいて複数の被写体距離を演算し、その平均値を当該測距エリアでの被写体距離としてもよい。また、各測距エリア内に設けられた複数対のラインセンサを用いて得られた複数の被写体距離に対して、該ラインセンサの位置に応じた重み付けをし、重み付け後の被写体距離から所定の規則に従って1つの被写体距離を選択又は生成するようにしてもよい。
【実施例2】
【0070】
本発明の実施例2について、図7を用いて説明する。
実施例1では、選択スイッチ4により、被写体を選択する例について説明した。また、被写体を選択した後に、撮影者によって、パン、チルト操作や、ズーム操作による撮影構図の変更が行われた場合にも、測距エリアは表示対象被写体に設定される例について説明した。しかし、被写体自体が移動し、レンズ装置1と被写体との位置関係が変化した場合は、該測距エリアは表示対象被写体から外れてしまう。
【0071】
本実施例では、このような場合において、選択された表示対象被写体の測距エリアを解除する方法について説明する。
【0072】
実施例2の撮影システムの構成、AFセンサの構成、及び被写体距離の演算方法については実施例1の図1、図2、図4と同様なので説明を省略する。
【0073】
図7のフローチャートには、表示対象被写体の方向の水平角、垂直角の記憶処理および解除処理の流れを示す。レンズCPU130は、これらの処理を、不図示のメモリ(方向記憶手段)に格納されたコンピュータプログラムに従って制御する。
【0074】
レンズ装置1に電源が入ると、レンズCPU130の処理は、ステップS1に進む。ステップS1〜S4は、実施例1の図3と同様なので、説明を省略する。
【0075】
ステップS4で、選択スイッチ4がONならばステップS31に進む。
ステップS31では、選択スイッチ4が一定時間以上ON状態(長押し)であるか否かを判断する。長押しであれば、ステップS32に進み、一定時間未満であればステップS33に進む。ステップS32では、現在記憶されている全ての表示対象被写体の位置を示す方向の水平角、垂直角を削除し、処理を終了する。
【0076】
ステップS33では、現在のパン、チルト位置が、記憶されている表示対象被写体の水平角、垂直角と同様であるかを判断する。現在のパン、チルト位置が、すでに記憶されている表示対象被写体(選択済みの被写体)と同様の水平角、垂直角である場合は、ステップS34に進み、異なる(未選択の被写体の)場合はステップS5に進む。ステップS34では、現在のパン、チルト位置と同様の水平角、垂直角が記憶されている表示対象被写体を削除し、処理を終了する。ステップS5では、実施例1の図3と同様に、現在のパン、チルト位置を表示対象被写体の方向の水平角、垂直角として記憶し、処理を終了する。
【0077】
レンズCPU130の処理は、ステップS1は電源投入時のみの処理であり、電源投入後は、ステップS2〜ステップS34のフローを一定周期で繰り返し処理を行う。
【0078】
このように、本実施例では、常に現在のパン、チルト位置を演算し、選択スイッチ4がONすることにより表示対象被写体が選択され、演算で得られた現在のパン、チルト位置が表示対象被写体の方向の水平角、垂直角として記憶される。また、一度選択されている表示対象被写体と同じ位置で選択スイッチ4をON(再選択)されると、表示対象被写体から削除することが可能となる。さらに、選択スイッチ4を長押しすることにより、全表示対象被写体の削除が可能となる。よって、被写体自体が移動し、選択した被写体とレンズ装置1の位置関係が変化した場合も、容易に表示対象被写体を削除することが可能となる。
【0079】
なお、本実施例では、選択スイッチ4を長押しすることにより、選択したすべての表示対象被写体を削除する処理としたが、別途、全削除用のスイッチを構成しても良い。
【0080】
また、本実施例では、選択スイッチ4による手動での対象被写体の削除方法について説明したが、これに限られない。例えば、選択された対象被写体の被写体距離を監視し、被写体距離が大きく変化した場合は、被写体が移動し測距エリアから外れたと判断し、自動で対象被写体から削除するなどしても良い。
【0081】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 レンズ装置
2 カメラ
3 三脚
4 選択スイッチ
105 焦点検出部
106 焦点検出演算部
107 レンズ制御部
114 被写体距離演算部
115 被写体設定部
130 レンズCPU
201 撮像素子
203 画像合成部
205 表示部
210 カメラCPU
301 操作角検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ装置と撮像装置とを含む撮影システムであって、
該レンズ装置の操作角を検出する操作角検出手段と、
該レンズ装置の操作角を基準とする被写体の方向を記憶する方向記憶手段と、
該レンズ装置のズーム位置とフォーカス位置から撮影画角を演算する画角演算手段と、
該操作角検出手段により検出される操作角と、該方向記憶手段により記憶されている方向と、該画角演算手段により演算される撮影画角に基づき、撮影画面内における1以上の被写体の位置を演算し、該1以上の被写体の位置に測距エリアを設定する測距エリア設定手段と、
該測距エリアにおける被写体距離を演算する被写体距離演算手段と、
該撮像装置により生成された撮影映像と、該測距エリアに対応する該被写体距離に基づく情報、を含む出力映像を生成する出力映像生成手段、
を有することを特徴とする撮影システム。
【請求項2】
前記測距エリアの位置を示す位置情報を出力する測距位置出力手段を有し、
前記出力映像生成手段は、前記測距エリア設定手段により設定された測距エリアに対応する前記被写体距離を、前記撮影映像における該位置情報に応じた位置に重畳した前記出力映像を生成することを特徴とする請求項1に記載の撮影システム。
【請求項3】
前記被写体距離を演算する対象となる被写体を選択する被写体選択手段を有し、
前記方向記憶手段は該被写体選択手段により被写体を選択することにより、前記操作角検出手段により得られる操作角を該被写体の方向として記憶することを特徴とする請求項1または2に記載の撮影システム。
【請求項4】
前記方向記憶手段に記憶されている方向と同じ方向にある被写体が、前記被写体選択手段によって選択された場合は、該方向を前記方向記憶手段から削除することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撮影システム。
【請求項5】
記憶されている全ての被写体の方向を前記方向記憶手段から削除する削除手段を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の撮影システム。
【請求項6】
前記操作角検出手段は、角速度センサもしくは角度センサであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の撮影システム。
【請求項7】
前記撮影システムは前記レンズ装置を支持する支持体をさらに有し、前記操作角検出手段は該支持体に対する該レンズ装置の操作角を検出するロータリーエンコーダーであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の撮影システム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の撮影システムに含まれる前記レンズ装置であって、
前記方向記憶手段、画角演算手段、測距エリア設定手段、及び被写体距離演算手段を含むことを特徴とするレンズ装置。
【請求項9】
前記レンズ装置に入射した光により形成された被写体像間の位相差を検出する位相差センサを有し、
前記被写体距離演算手段は、該位相差センサの出力に基づいて前記被写体距離を演算することを特徴とする請求項8に記載のレンズ装置。
【請求項10】
前記位相差センサからの出力に基づいてフォーカス制御を行うフォーカス制御手段を有することを特徴とする請求項9に記載のレンズ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−75832(P2011−75832A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227146(P2009−227146)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】