説明

撮影装置

【課題】 解像度の低下が小さく抑えられて画質が高められた撮影装置を提供する。
【解決手段】 撮影光学系1に、印加電圧に応じて複屈折の分離幅が被写界の各領域ごとに調整自在な液晶光学ローパスフィルタ3を備え、メインCPU145でモアレが検出された領域においてはモアレを消失するとともにモアレが検出された領域以外の領域においては高周波成分が除去されないように、フィルタ調整部4で液晶光学ローパスフィルタ3の複屈折の分離幅を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影光学系を備えその撮影光学系を経由して入射してきた被写体光を撮像素子で捉えて画像信号を生成する撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撮影装置の一つであるデジタルカメラには、撮影素子として、CCD(Charge Coupled Device)が広く用いられている。CCDには、所定の間隔(画素ピッチと称する)で二次元的に配列された多数の光電変換素子、およびそれら多数の光電変換素子上に配備されたカラーフィルタアレイが備えられている。カラーフィルタアレイの色の配列方式としては、ベイヤ配列方式、Gストライプ配列方式、R/G市松配列方式、GRBストライプ配列方式等が知られている。CCDは、撮影レンズを経由して入射されてきた被写体光を、上記光電変換素子および上記カラーフィルタで離散的にサンプリングすることによりカラーの画像信号を得ている。
【0003】
ここで、CCDに備えられた光電変換素子の画素ピッチやカラーフィルタアレイの配列方式に応じて定まる色配列ピッチ以上の高周波成分を有する被写体光が入射されると、折り返し歪みが生じる。被写体を撮影して得られた画像に、この折り返し歪みの成分が混入すると、撮影された画像の色や輝度が周期的に変動する縞状の模様(モアレ)が発生する。詳細には、画素ピッチや色配列ピッチにより定まる空間サンプリング周波数を有するCCDを備えた撮影装置において、被写体を撮影するにあたり、その被写体に空間サンプリング周波数の1/2の周波数(ナイキスト周波数と称する)以上の成分が含まれていると、そのナイキスト周波数で折り返されて、折り返し歪みが発生し、その折り返し歪みが偽信号として画像信号に重畳され、これにより撮影画像の色や輝度が周期的に変動する縞状の模様(モアレ)として視認される。
【0004】
このようなモアレを低減するために、撮影レンズとCCDとの間に配置され、被写体光の高周波成分を除去する光学的ローパスフィルタが知られている。例えば、光線をずらす方向が互いに異なる3枚の水晶板からなる光学的ローパスフィルタで、CCDを構成する隣り合う光電変換素子に同じ光線を入射し、これにより画素ピッチよりも細かい空間周波数を有する被写体像を鈍らせて、モアレを低減する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2−204715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、CCDには、光電変換素子上に、ベイヤ配列方式、Gストライプ配列方式、R/G市松配列方式、GRBストライプ配列方式等のカラーフィルタアレイが配備される。ここで、特許文献1に提案された光学的ローパスフィルタは、3枚の水晶板それぞれが有する固有の屈折率により一義的に定まる複屈折の分離幅を有する光学的ローパスフィルタであるため、例えば、GRBストライプ配列方式を採用したカラーフィルタアレイが配備されたCCDにおいて1/3d(d:画素ピッチ)、ベイヤ配列方式を採用したカラーフィルタアレイが配備されたCCDにおいて1/2dの空間周波数のMTF(Modulation Transfer Function:各周波数帯域毎の画像信号の解像度の大きさ(鮮鋭度)を表わす指標)成分を0にしようとすると、それよりも低い空間周波数のMTF成分も除去されてしまい、従って解像度が低下するという問題が発生する。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、解像度の低下が小さく抑えられて画質が高められた撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の撮影装置は、撮影光学系を備えその撮影光学系を経由して入射してきた被写体光を撮像素子で捉えて画像信号を生成する撮影装置において、
上記撮影光学系が、複屈折の分離幅の調整が自在なローパスフィルタを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の撮影装置は、撮影光学系が、複屈折の分離幅の調整が自在なローパスフィルタを備えたものであるため、撮像素子の画素ピッチやカラーフィルタの色配列ピッチに見合った分離幅となるように、その撮像素子に入射される被写体の光線の方向を自在に調整することができる。従って、特許文献1に提案された、3枚の水晶板それぞれが有する固有の屈折率により一義的に定まる複屈折の分離幅を有する光学的ローパスフィルタの技術と比較し、例えばある特定の色配列方式を採用したカラーフィルタアレイが配備された撮像素子において所望の空間周波数のMTF成分を0にした場合であっても、その空間周波数よりも低い空間周波数のMTF成分が除去されることもなく、解像度の低下が小さく抑えられて画質が高められる。
【0009】
ここで、上記ローパスフィルタは、液晶を用い、印加電圧に応じて複屈折の分離幅が変化するローパスフィルタであることが好ましい。
【0010】
このようなローパスフィルタであると、印加電圧に応じて液晶分子の配列の方向を変化させることにより、そのローパスフィルタの複屈折の分離幅を自在に且つ簡単に調整することができる。
【0011】
また、上記撮影光学系が、絞り径の調整が自在な絞り部材を備え、この撮影装置が、上記ローパスフィルタの複屈折の分離幅を上記絞り部材の絞り径に応じて調整するフィルタ調整部を備えたものであることも好ましい態様である。
【0012】
撮影レンズのMTF特性は絞り値(F値)に応じて変化する。例えば、撮影レンズのF値が小さい場合、ナイキスト周波数におけるMTF値は比較的高く、従って高周波を除去する必要性がでてくる。一方、撮影レンズのF値が大きい場合、ナイキスト周波数におけるMTF値はほぼ0となり、従って高周波を除去する必要性はなくなる。このように、撮影レンズのMTF特性はF値に応じて変化するため、その撮影レンズのMTF特性に合わせて、ローパスフィルタの分離幅を変化させるようにすると、小絞りでの解像力を改善することができる。
【0013】
さらに、上記ローパスフィルタは、複屈折の分離幅を、被写界を複数の領域に分けたときの各領域ごとに調整自在なものであり、
上記撮像素子上に形成された被写体像の各領域のモアレを検出するモアレ検出部と、
上記ローパスフィルタの複屈折の分離幅を、上記複数の領域について独立にモアレが消失するように調整するフィルタ調整部とを備えたものであることも好ましい。
【0014】
このようにすると、モアレが検出された領域においてはモアレを消失することができるとともに、モアレが検出された領域以外の領域においては高周波成分が除去されることもなく、従って画像全体の画質を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、解像度の低下が小さく抑えられて画質が高められた撮影装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の撮影装置の一実施形態であるカメラの外観図である。
【0018】
図1(a)は正面図、(b)は上面図、(c)は側面図、(d)は背面図である。
【0019】
図1(a)〜(c)に示すカメラ100は、撮影光学系を備えその撮影光学系を経由して入射してきた被写体光を撮像素子で捉えて画像信号を生成するデジタルカメラである。
【0020】
図1(d)に示すように、本実施形態のカメラ100の背面にはユーザがこのカメラ100を使用するときに種々の操作を行なうための操作部120が設けられている。
【0021】
この操作部120には、カメラ100を作動させるための電源投入用の電源スイッチ121、撮影と再生とを自在に切り替える撮影・再生切替レバー122、オート撮影やマニュアル撮影等を選択するための撮影モードダイヤル123、各種のメニューの設定や選択あるいはズームを行なうための十字スイッチ124、閃光発光用のスイッチ125、および十字スイッチ124で選択されたメニューの実行やキャンセル等を行なうための実行/キャンセルスイッチ126が備えられている。
【0022】
また、カメラ100の背面には、撮影画像や再生画像等を表示するための画像表示LCD102と、操作の手助けを行なうための操作表示LCD103が備えられている。
【0023】
さらに、図1(b)に示すように、このカメラ100の上面にはレリーズ釦104が配備されている。このレリーズ釦104によって撮影の開始指示がカメラ100の内部に備えられた、後述するメインCPUへと伝えられる。このカメラ100では撮影・再生切替レバー122によって撮影と再生との切り替えが自在になっていて、撮影を行なうときにはユーザによって撮影・再生切替レバー122が撮影側122aに切り替えられ、再生を行なうときには撮影・再生切替レバー122が再生側122bに切り替えられる。また、図1(a)に示すように、カメラ100の上面には、閃光を発光する閃光発光管105aを有する閃光発光装置105が配備されている。
【0024】
さらに、図1(c)に示すように、カメラ100の側面には、このカメラ100により撮影された被写体の画像信号をテレビやプロジェクタ等に出力するためのケーブルが接続される映像出力端子106と、このカメラ100により撮影された被写体の画像信号をUniversal Serial Bus(USB)端子が備えられたパーソナルコンピュータ等に出力し、およびこのようなパーソナルコンピュータ等からカメラ100に画像信号を入力するためのケーブルが接続されるUSB端子107と、ACアダプタからの直流電圧が入力される直流電圧入力端子108とが備えられている。
【0025】
図2は、図1に示すカメラの回路構成を示すブロック図である。
【0026】
このカメラ100には、撮影光学系1が備えられている。この撮影光学系1は、撮影レンズ101と、絞り部材2と、液晶光学ローパスフィルタ3(本発明にいうローパスフィルタの一例に相当)とから構成されている。撮影レンズ101は、ズームレンズ101_1とフォーカスレンズ101_2から構成されている。
【0027】
液晶光学ローパスフィルタ3は、複屈折の分離幅の調整が自在なローパスフィルタであり、詳細には、この液晶光学ローパスフィルタ3は、液晶を用い、印加電圧に応じて複屈折の分離幅が変化するローパスフィルタである。さらに、この液晶光学ローパスフィルタ3は、複屈折の分離幅を、被写界を複数の領域に分けたときの各領域ごとに調整自在なものである。
【0028】
また、絞り部材2は、絞り径の調整が自在な部材であり、このカメラ100には、液晶光学ローパスフィルタ3の複屈折の分離幅を、絞り部材2の絞り径に応じて調整するフィルタ調整部4が備えられている。
【0029】
また、このカメラ100には、ズームレンズ101_1を駆動するズーム駆動部5と、フォーカスレンズ101_2を駆動するフォーカス駆動部6と、絞り部材2を駆動する絞り駆動部7と、ズームレンズ101_1の位置を検出するズーム位置検出部8とが備えられている。
【0030】
さらに、このカメラ100には、撮影光学系1を経由して入射してきた被写体光を結像させてアナログの画像信号に変換する撮像素子であるCCD132が備えられている。
【0031】
また、このカメラ100には、CCD132からのアナログ画像信号をディジタルの画像データにA/D変換するA/D部133と、A/D部133からのデジタルの画像データが表わす被写体像のホワイトバランスを合わせるとともにその被写体像の階調特性における直線の傾き(γ)を調整し、さらにデジタルの画像信号を増幅する白バランス・γ処理部134が備えられている。
【0032】
さらに、カメラ100には、白バランス・γ処理部134からの画像データを格納するバッファメモリ135が備えられている。
【0033】
また、カメラ100には、CG(クロックジェネレータ)部136と、測光・測距用CPU137と、充電・発光制御部138と、通信制御部139と、YC処理部140と、電源141とが備えられている。
【0034】
CG部136は、CCD132を駆動するための駆動信号、A/D部133,白バランス・γ処理部134を制御する制御信号、および通信制御部139を制御する制御信号を出力する。また、このCG部136には、後述するメインCPU145からのシャッタ制御信号、および測光・測距用CPU137からの制御信号が入力される。
【0035】
測光・測距用CPU137は、撮影レンズ101,絞り部材2を、ズーム駆動部5,フォーカス駆動部6,絞り駆動部7で駆動するとともにズーム位置検出部8で検出することにより測光や測距を行ない、CG部136および充電・発光制御部138を制御する。さらに、この測光・測距用CPU137は、後述するメインCPUとの間でデータ通信を行なう。
【0036】
充電・発光制御部138は,閃光発光管105aを発光させるために電源141からの電力の供給を受けて図示しない閃光発光用のコンデンサを充電したり、その閃光発光管105aの発光を制御する。
【0037】
通信制御部139には、図1(c)に示すUSB端子107が備えられており、この通信制御部139は、カメラ100により撮影された被写体の画像信号をUSB端子が備えられたパーソナルコンピュータ等の外部装置に出力し、およびこのような外部装置からカメラ100に画像信号を入力することにより、その外部装置との間のデータ通信を担うものである。
【0038】
また、このカメラ100には、図1(c)に示す映像出力端子106が備えられており、YC処理部140は、バッファメモリ135に格納された画像データをバスライン142を介して読み出し、輝度信号(Y)と色信号(C)に分離されたカラー映像信号YCを生成する。生成されたカラー映像信号YCは、上記映像出力端子106から出力される。
【0039】
電源141は、このカメラ100の各部に電力を供給する。
【0040】
さらに、カメラ100には、圧縮・伸長&ID抽出部143と、I/F部144が備えられている。圧縮・伸長&ID抽出部143は、バッファメモリ135に格納された画像データを、バスライン142を介して読み出して圧縮し、I/F部144を経由してメモリカード200に格納する。また、圧縮・伸長&ID抽出部143は、メモリカード200に格納された画像データの読み出しにあたり、メモリカード200固有の識別番号(ID)を抽出し、そのメモリカード200に格納された画像データを読み出して伸長し、バッファメモリ135に格納する。
【0041】
また、カメラ100には、メインCPU145と、EEPROM146と、YC/RGB変換部147と、表示用のドライバ148とが備えられている。
【0042】
メインCPU145は、このカメラ100全体の制御を行なう。また、このメインCPU145は、本発明にいうモアレ検出部の役割を担うものであり、CCD132上に形成された被写体像を表わす画像の各領域のモアレを検出する。ここで、前述したように、液晶光学ローパスフィルタ3は、複屈折の分離幅を、被写界を複数の領域に分けたときの各領域ごとに調整自在なものであり、また上述したフィルタ調整部4は、液晶光学ローパスフィルタ3の複屈折の分離幅を、複数の領域について独立にモアレが消失するように調整するものでもある。尚、詳細については後述する。
【0043】
EEPROM146には、このカメラ100固有の固体データ等が格納されている。
【0044】
YC/RGB変換部147は、YC処理部140で生成されたカラー映像信号YCを3色のRGB信号に変換して表示用のドライバ148を経由して画像表示LCD102に出力する。
【0045】
図3は、図2に示す液晶光学ローパスフィルタの断面図である。
【0046】
図3に示す液晶光学ローパスフィルタ3には、スペーサ31と、スペーサ31を介して互いに対向して配置された平板状の透明基板32,33と、透明基板32,33の内面に配備された透明電極34,35と、透明電極34,35の内面に配備された配光膜36,37と、スペーサ31および配光膜36,37からなる空間に封入された液晶38とが備えられている。液晶38は液晶分子38aを有する。また、透明電極34,35には、液晶分子38aの配列の方向を調整する電圧Vが印加される。
【0047】
透明基板32,33は、入射される光の波長帯域に対して高い透過率を有する材料で形成され、ガラスや高分子フイルム等を用いることができる。
【0048】
透明電極34,35は、電圧Vが印加される電極パターンを有する。電極パターンの構造については後述するが、この電極パターンの構造およびこの電極パターンに印加される電圧Vの大きさに応じて、液晶分子38aの配列の方向を自在に調整することができる。
【0049】
配光膜36,37は、透明電極34,35に電圧Vが印加されていないときに液晶分子38aを所定の配列の方向にさせておくためのものである。
【0050】
図4は、図3に示す液晶光学ローパスフィルタの液晶分子の配列の方向を調整する様子を説明するための図である。
【0051】
図4には、液晶光学ローパスフィルタ3を構成する透明電極34,35と、配光膜36,37と、液晶分子38aを有する液晶38とが示されている。液晶分子38aは、長軸方向に光学軸を有する。透明電極34,35には、液晶分子38aの配列の方向を調整する電圧Vが印加されており、これにより液晶分子38aの配列の方向は、光学軸に対して角度(チルト角)βだけ変更されている。
【0052】
図5は、図4に示す液晶分子の、印加電圧に応じて変化する複屈折の分離幅を示す図である。
【0053】
液晶分子38aの配列の方向は、光学軸Pに対してチルト角βだけ変更されている。このような状態における液晶分子38aは、光路長Lを有する。このような光路長Lを有する液晶分子217aに入射光Aが入射される。この入射光Aは、液晶分子38aで複屈折されて常光A1と異常光A2とに分離されて出射される。これら常光A1と異常光A2の分離幅Bは、チルト角βnに応じて定まる。このように、入射光Aを液晶分子38aで複屈折して常光A1と異常光A2とに分離して、CCD132を構成する隣り合う光電変換素子に同じ光線を入射し、これにより画素ピッチよりも細かい空間周波数を有する被写体像を鈍らせて、モアレを低減する。
【0054】
通常の液晶分子の屈折率を想定した場合、10μmまでの分離幅なら変えることは可能である。
【0055】
ここで、液晶光学ローパスフィルタ3の実施例について説明する。本実施例では、ガラス基板上に透明電極34,35としてインジウムスズオキサイド(ITO)をスパッタにより付けた。その上に、配光膜36,37としてポリイミド膜(日産化学製)を塗布、焼成したのち、ラビング処理した。40μmのスペーサ31(積水化学製)でサンドイッチ状に挟んだ素子中に液晶ZLI−1132(メルク製)を注入し封止した。
【0056】
電圧Vを印加しない状態でのチルト角は30度であり、液晶光学ローパスフィルタ3の分離幅を偏光顕微鏡で観測したところ7μmであった。この素子(液晶光学ローパスフィルタ3)に電圧Vを印加させてチルト角を45度とした場合、分離幅は5μmとなり、また、この素子に電圧Vを印加させてチルト角を60度とした場合、分離幅は4μmとなった。即ち、電圧Vnにより液晶光学ローパスフィルタ3の分離幅を可逆的に変化させることが可能であった。
【0057】
本実施形態のカメラ100は、撮影光学系1が、複屈折の分離幅の調整が自在な液晶光学ローパスフィルタ3を備えたものであるため、CCD132の画素ピッチやカラーフィルタの色配列ピッチに見合った分離幅となるように、そのCCD132に入射される被写体の光線の方向を自在に調整することができる。従って、特許文献1に提案された、3枚の水晶板それぞれが有する固有の屈折率により一義的に定まる複屈折の分離幅を有する技術と比較し、所望の空間周波数のMTF成分を0にした場合であっても、その空間周波数よりも低い空間周波数のMTF成分が除去されることを防止することができ、解像度の低下が小さく抑えられて画質が高められる。
【0058】
図6は、本実施形態の液晶光学ローパスフィルタの断面形状を、電極の構造とともに示す図である。
【0059】
図6には、液晶光学ローパスフィルタ3を構成する配光膜36,37と、それら配光膜36,37の外面に配備された透明電極34,35が示されている。透明電極34は、水平方向に形成されたストライプ状の電極パターン34aを有する。また、透明電極35も、透明電極34と同様に、やはり水平方向に形成されたストライプ状の電極パターン35aを有する。この液晶光学ローパスフィルタ3は、透明電極34,35の電極パターン34a,35aが対称的であるため、例えば電極パターン34a,35aの上部から下部にかけて共に値が徐々に小さく(もしくは大きく)なるような電圧Vを印加することにより、液晶分子38aの配列の方向を徐々に小さく(もしくは大きく)なるように調整することができる。このようにすることにより、液晶光学ローパスフィルタ3の上下方向に対する複屈折の分離幅を調整することができる。また、例えば電極パターン34a,35aそれぞれの各部分ごとに任意の大きさの電圧Vを印加することにより、液晶分子38aの配列の方向を自在に調整することもできる。このようにすることにより、液晶光学ローパスフィルタ3の複屈折の分離幅を自在に調整することができる。
【0060】
図7は、図6に示す液晶光学ローパスフィルタとは異なる液晶光学ローパスフィルタの断面形状を、電極の構造とともに示す図である。
【0061】
図7に示す液晶光学ローパスフィルタ3_1は、図6に示す液晶光学ローパスフィルタ3と比較し、水平方向に形成されたストライプ状の電極パターン35aを有する透明電極35に代えて、垂直方向に形成されたストライプ状の電極パターン3_11aを有する透明電極3_11が配備されている点が異なっている。ここで、例えば電極パターン34aで液晶光学ローパスフィルタ3_1の上下の複屈折の分離幅を調整するとともに、電極パターン3_11aで液晶光学ローパスフィルタ3_1の左右の複屈折の分離幅を調整することにより、液晶光学ローパスフィルタ3_1の上下方向および左右方向に対する複屈折の分離幅を調整することができる。また、例えば電極パターン34a,3_11aそれぞれの各部分ごとに任意の大きさの電圧Vを印加することにより、液晶光学ローパスフィルタ3_1の複屈折の分離幅を自在に調整することができる。
【0062】
図8は、図6,図7に示す液晶光学ローパスフィルタとは異なる液晶光学ローパスフィルタの断面形状を、電極の構造とともに示す図である。
【0063】
図8に示す液晶光学ローパスフィルタ3_2は、図6に示す液晶光学ローパスフィルタ3と比較し、水平方向に形成されたストライプ状の電極パターン35aを有する透明電極35に代えて、複数の同心円状の電極パターン3_21aを有する透明電極3_21が配置されている点が異なっている。ここで、同心円状の電極パターン3_21aの周辺部から中央部にかけて値が徐々に小さく(もしくは大きく)なるような電圧Vを印加することにより、液晶光学ローパスフィルタ3_2の周辺部から中央部にかけて複屈折の分離幅を調整することができる。
【0064】
図9は、図6,図7,図8に示す液晶光学ローパスフィルタとは異なる液晶光学ローパスフィルタの断面形状を、電極の構造とともに示す図である。
【0065】
図9に示す液晶光学ローパスフィルタ3_3は、図6に示す液晶光学ローパスフィルタ3と比較し、水平方向に形成されたストライプ状の電極パターン35aを有する透明電極35に代えて、マトリックス状の電極パターン3_31aを有する透明電極3_31が配置されている点が異なっている。ここで、マトリックス状の電極パターン3_31aそれぞれに異なる値の電圧Vを印加することにより、液晶光学ローパスフィルタ3_3の任意の位置に対する複屈折の分離幅を調整することができる。
【0066】
また、本実施形態のカメラ100では、液晶光学ローパスフィルタ3の複屈折の分離幅を、絞り部材2の絞り径に応じてフィルタ調整部4で調整することにより、小絞りでの解像力を改善することができる。以下、図10を参照して説明する。
【0067】
図10は、撮影レンズのF値と解像力の関係を示す図である。
【0068】
図10の横軸は空間周波数を示し、縦軸はMTFを示す。尚、横軸の1/d(d:画素ピッチ)は空間サンプリング周波数の位置を示し、1/2dはナイキスト周波数の位置を示す。
【0069】
撮影レンズのMTF特性は絞り値(F値)に応じて変化する。例えば、この図10に示すように、撮影レンズのF値が小さく(F2.8)なると、ナイキスト周波数におけるMTF値は比較的高く、従って高周波を除去する必要性がある。
【0070】
一方、撮影レンズのF値が大きく(F11)なると、ナイキスト周波数におけるMTF値はほぼ0となり、従って高周波を除去する必要性は低くなる。このように、撮影レンズのMTF特性はF値に応じて変化する。そこで、本実施形態のカメラ100では、このカメラ100の撮影レンズ101のMTF特性に合わせて、即ち絞り部材2の絞り径に応じて液晶光学ローパスフィルタ3の分離幅をフィルタ調整部4で調整することにより、小絞りでの解像力の改善が図られている。次に、モアレについて説明する。
【0071】
図11は、被写体光を表わす画像信号と折り返し成分の関係を示す図である。
【0072】
図11の横軸は周波数を示し、縦軸はMTFを示す。また、実線で示すfsは被写体光を表わす画像信号の周波数、fcは画素ピッチにより定まる空間サンプリング周波数、fnはその空間サンプリング周波数の1/2の周波数であるナイキスト周波数を示す。
【0073】
CCDには、画素が離散的に二次元的に配置されており、その上に、撮影レンズを経由して入射されてきた被写体の光学像が結像される。従って、光学像は連続的な画像であるが、光電変換される際に空間サンプリング周波数fcによるサンプリングが行なわれる。ここで、画素ピッチ以上の高周波成分を有する被写体光が入射されると、この図11に点線で示すように、空間サンプリング周波数fcと画像信号の周波数fsとの差分(fc−fs)からなる折り返し歪みが生じる。画像信号fsの成分に、この折り返し歪みの成分が混入すると、撮影された画像の色や輝度が周期的に変動する縞状の模様(モアレ)が発生して画質が低下する。
【0074】
図12は、モアレを説明するための図である。
【0075】
図12(a)には、折り返し歪みの成分の有無を判定するためのCZP(Circular Zone Plate)チャートAが示されている。また、図12(b)には、図12(a)に示すCZPチャートAの画像Bが示されている。この図12(b)に示す画像Bには、本来信号がない部分にCZPチャートの画像C(折り返し歪みの成分)が現れてモアレが発生している。このモアレは光電変換の時点で発生するため、撮影レンズとCCDの間に光学ローパスフィルタを配備して除去する必要がある。
【0076】
図13は、本実施形態のカメラに備えられた画像表示LCDに表示された撮影画像の一例を示す図である。
【0077】
画像表示LCD102には、木を表わす画像領域1001と、縞模様の服を着た人物を表わす画像領域1002を有する撮影画像1000が表示されている。ここで、木を表わす画像領域1001にはナイキスト周波数以上の周波数の成分は含まれておらず、一方人物を表わす画像領域1002のうちの縞模様の服を表わす画像領域部分1002aにはナイキスト周波数以上の周波数の成分が含まれている。
【0078】
ここで、前述したように、本実施形態のカメラ100に備えられた液晶光学ローパスフィルタ3は、複屈折の分離幅を、被写界を複数の領域に分けたときの各領域ごとに調整自在なものである。また、本発明にいうモアレ検出部の役割を担うメインCPU145は、CCD132上に形成された被写体像を表わす画像の各領域のモアレを検出するものである。尚、モアレを検出する技術としては、非合焦状態ではモアレが生じないことに着目して合焦状態における画像信号から非合焦状態における画像信号を減算してモアレ信号を得る技術や、高周波領域のパワースペクトルのピーク値の変化と低周波領域のパワースペクトルのピーク値の変化の相関に基づいてモアレの有無およびモアレの周波数を判断する技術が知られており、メインCPU145は、このような公知技術を用いて画像の各領域のモアレを検出する。さらに、フィルタ調整部4は、液晶光学ローパスフィルタ3の複屈折の分離幅を、複数の領域について独立にモアレが消失するように調整する。具体的には、メインCPU145で画像領域部分1002aのモアレを検出し、フィルタ調整部4でその画像領域部分1002aにおいてはモアレを消失するとともに、モアレが検出された画像領域部分1002aを含む画像領域1002以外の画像領域1001においては高周波成分が除去されないように液晶光学ローパスフィルタ3の複屈折の分離幅を調整する。このように調整することにより、撮影画像1000全体の画質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の撮影装置の一実施形態であるカメラの外観図である。
【図2】図1に示すカメラの回路構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示す液晶光学ローパスフィルタの断面図である。
【図4】図3に示す液晶光学ローパスフィルタの液晶分子の配列の方向を調整する様子を説明するための図である。
【図5】図4に示す液晶分子の、印加電圧に応じて変化する複屈折の分離幅を示す図である。
【図6】本実施形態の液晶光学ローパスフィルタの断面形状を、電極の構造とともに示す図である。
【図7】図6に示す液晶光学ローパスフィルタとは異なる液晶光学ローパスフィルタの断面形状を、電極の構造とともに示す図である。
【図8】図6,図7に示す液晶光学ローパスフィルタとは異なる液晶光学ローパスフィルタの断面形状を、電極の構造とともに示す図である。
【図9】図6,図7,図8に示す液晶光学ローパスフィルタとは異なる液晶光学ローパスフィルタの断面形状を、電極の構造とともに示す図である。
【図10】撮影レンズのF値と解像力の関係を示す図である。
【図11】被写体光を表わす画像信号と折り返し成分の関係を示す図である。
【図12】モアレを説明するための図である。
【図13】本実施形態のカメラに備えられた画像表示LCDに表示された撮影画像の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0080】
1 撮影光学系
2 絞り部材
3,3_1,3_2,3_3 液晶光学ローパスフィルタ
3_11,3_21,3_31,34,35 透明電極
4 フィルタ調整部
5 ズーム駆動部
6 フォーカス駆動部
7 絞り駆動部
8 ズーム位置検出部
31 スペーサ
32,33 透明基板
34a,35a,3_11a,3_21a,3_31a 電極パターン
36,37 配光膜
38 液晶
38a 液晶分子
100 カメラ
101 撮影レンズ
101_1 ズームレンズ
101_2 フォーカスレンズ
102 画像表示LCD
103 操作表示LCD
104 レリーズ釦
105 閃光発光装置
105a 閃光発光管
106 映像出力端子
107 USB端子
108 直流電圧入力端子
120 操作部
121 電源スイッチ
122 撮影・再生切替レバー
123 撮影モードダイヤル
124 十字スイッチ
125 閃光発光用スイッチ
126 実行/キャンセルスイッチ
132 CCD
133 A/D部
134 白バランス・γ処理部
135 バッファメモリ
136 CG部
137 測光・測距用CPU
138 充電・発光制御部
139 通信制御部
140 YC処理部
141 電源
142 バスライン
143 圧縮・伸長&ID抽出部
144 I/F部
145 メインCPU
146 EEPROM
147 YC/RGB変換部
148 ドライバ
200 メモリカード
1000 撮影画像
1001,1002 画像領域
1002a 画像領域の部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影光学系を備え該撮影光学系を経由して入射してきた被写体光を撮像素子で捉えて画像信号を生成する撮影装置において、
前記撮影光学系が、複屈折の分離幅の調整が自在なローパスフィルタを備えたことを特徴とする撮影装置。
【請求項2】
前記ローパスフィルタは、液晶を用い、印加電圧に応じて複屈折の分離幅が変化するローパスフィルタであることを特徴とする請求項1記載の撮影装置。
【請求項3】
前記撮影光学系が、絞り径の調整が自在な絞り部材を備え、
この撮影装置が、前記ローパスフィルタの複屈折の分離幅を前記絞り部材の絞り径に応じて調整するフィルタ調整部を備えたことを特徴とする請求項1記載の撮影装置。
【請求項4】
前記ローパスフィルタは、複屈折の分離幅を、被写界を複数の領域に分けたときの各領域ごとに調整自在なものであり、
前記撮像素子上に形成された被写体像の各領域のモアレを検出するモアレ検出部と、
前記ローパスフィルタの複屈折の分離幅を、前記複数の領域について独立にモアレが消失するように調整するフィルタ調整部とを備えたことを特徴とする請求項1記載の撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−81544(P2007−81544A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263910(P2005−263910)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】