説明

操舵装置

【課題】車速センサがフェールした場合であっても、操作性および操縦安定性の低下を抑制する。
【解決手段】操舵装置10は、右側操舵入力部20Rと、左側操舵入力部20Lと、車速センサ40と、右側操舵入力部20Rおよび左側操舵入力部20Lの少なくとも一方の操舵角に応じて操舵輪RWを転舵する転舵機構12と、ステアリングECU30により検出された車速に基づいて、右側操舵入力部20Rおよび左側操舵入力部20Lの少なくとも一方の操舵角に対する操舵輪の転舵角の比である舵角比を設定するステアリングECU30とを備える。ステアリングECU30は、車速センサ40がフェールした場合、右側操舵入力部20Rの操舵角に対する操舵輪RWの転舵角の比である第1舵角比と、左側操舵入力部20Lの操舵角に対する操舵輪RWの転舵角の比である第2舵角比とを異なる値に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の操舵装置における操舵入力手段としてはステアリングホイールが一般的であるが、例えば特許文献1に開示されるように、運転席の左右両側に設けられた2つのジョイスティックを操舵入力手段とする操舵装置が知られている。
【0003】
ジョイスティック式の操舵装置においては、ステアリングホイールの場合と比べて、ジョイスティックの操舵角に対する操舵輪の転舵角の比(以下、適宜「舵角比」と呼ぶ)が遥かに大きいため、ステアリングホイールによる操舵に慣れた運転者が違和感や操作性の悪さを感じたり、操舵輪の切れ過ぎに起因して車両の操縦安定性が悪化し易いという課題がある。
【0004】
そこで、特許文献1に開示された操舵装置は、車速センサにより検出された車速が高いほど舵角比が小さくなるよう構成されている。これにより、低車速域における良好な操舵の感度を維持しつつ、高車速域における操舵の感度を低減して操舵輪の切れ過ぎを防止し微妙な操舵を行うことができ、操舵装置の操作性および高速走行時の車両の操縦安定性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−34353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された操舵装置においては、車速センサがフェールした場合に車速に基づいて舵角比を変化させることができず、操作性および操縦安定性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、車速センサがフェールした場合であっても、操作性および操縦安定性の低下を抑制することのできる操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の操舵装置は、第1操舵入力部と、第2操舵入力部と、車速センサと、第1操舵入力部および第2操舵入力部の少なくとも一方の操舵角に応じて操舵輪を転舵する転舵機構と、車速センサにより検出された車速に基づいて、第1操舵入力部および第2操舵入力部の少なくとも一方の操舵角に対する操舵輪の転舵角の比である舵角比を設定する設定部とを備える。設定部は、車速センサがフェールした場合、第1操舵入力部の操舵角に対する操舵輪の転舵角の比である第1舵角比と、第2操舵入力部の操舵角に対する操舵輪の転舵角の比である第2舵角比とを異なる値に設定する。
【0009】
設定部は、車速センサがフェールした場合、第1舵角比を所定の高車速時舵角比に設定し、第2舵角比を高車速時舵角比よりも高い低車速時舵角比に設定してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車速センサがフェールした場合であっても、操作性および操縦安定性の低下を抑制できる操舵装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1(a)〜(c)は、本実施形態に係る操舵装置を適用可能な車両を示す図である。
【図2】本実施形態に係る操舵装置の構成を説明するための概略平面図である。
【図3】本実施形態に係る操舵装置の構成を説明するための概略側面図である。
【図4】本実施形態に係る操舵装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1(a)〜(c)は、本実施形態に係る操舵装置を適用可能な車両を示す。
【0014】
図1(a)に示す車両1は、前輪FWおよび後輪RWが、右側車輪RSWと左側車輪LSWとの間の中心を通る前後線上に位置する車両である。車両1においては、前輪FWが操舵輪である。
【0015】
図1(b)に示す車両2は、車両前方に右側車輪RSWと左側車輪LSWの2輪を備え、車両後方に後輪RWの1輪を備える車両である。車両2においては、後輪RWが操舵輪である。
【0016】
図1(c)に示す車両3は、車両前方に右前輪FRWと左前輪FLWの2輪を備え、車両後方に右後輪RRWと左後輪RLWの2輪を備える車両である。車両3においては、右前輪FRWおよび左前輪FLWが操舵輪とされることが多い。
【0017】
以下においては、本実施形態に係る操舵装置が図1(b)に示す車両2に適用される場合について説明する。本実施形態に係る操舵装置は、電気的にステアリング操作を行うステア・バイ・ワイヤの操舵装置である。
【0018】
図2は、本実施形態に係る操舵装置10の構成を説明するための概略平面図である。また、図3は、本実施形態に係る操舵装置10の構成を説明するための概略側面図である。
【0019】
図2および図3に示すように、操舵装置10は、後輪RW(以下、「操舵輪RW」と呼ぶ)を転舵するための転舵機構12と、車両の運転席(図示せず)の両側に設けられた右側操舵入力部20Rおよび左側操舵入力部20Lと、車両の車速を検出する車速センサ40と、右側操舵入力部20R、左側操舵入力部20Lの操作量および車速に基づいて操舵輪RWの転舵角を制御するステアリングECU30とを備える。
【0020】
転舵機構12は、操舵輪RWを支持する支持部材15と、支持部材15に固定されたキングピン軸16と、転舵モータ17と、転舵モータ17からの駆動力をキングピン軸16の回転力に変換するウォームギヤ18と、キングピン軸の回転角、すなわち操舵輪RWの転舵角を検出する転舵角センサ19とを備える。
【0021】
右側操舵入力部20R、左側操舵入力部20Lは、それぞれ、操作レバー21R,21Lと、操作レバー21R,21Lを回転可能に保持するレバー保持部22R,22Lと、操作レバー21R,21Lの回転角を検出する操舵角センサ23R,23Lと、操作レバー21R,21Lを回転させるモータ27R,27Lとを備える。
【0022】
操作レバー21R,21Lは、概してL字形を成したものであり、それぞれ、回転軸24R,24Lと、該回転軸24R,24Lに直交する操作軸25R,25Lとを有する。操作軸25R,25Lの先端部には、それぞれグリップ26R,26Lが設けられている。操作レバー21R,21Lは、回転軸24R,24Lが車両の前後方向に延びた姿勢で、レバー保持部22R,22Lに、軸線S回りに回転可能に保持される。回転軸24R,24Lは、モータ27R,27Lに連結されており、ステアリングECU30からの指令により回転可能となっている。
【0023】
運転者は、グリップ26Rを右手で、グリップ26Lを左手で把持し、操作レバー21R,21Lを軸線S回りに回転操作する。グリップ26R,26Lが設けられた操作軸25R,25Lが車両の上下方向に延びた姿勢が、中立位置である。操作レバー21R,21Lが中立位置にある状態においては、車両が直進する状態にあり、操舵輪RWの転舵角が0度となる。
【0024】
ステアリングECU30には、操舵角センサ23R,23Lにより検出された操作レバー21R,21Lの操舵角と、転舵角センサ19により検出された操舵輪RWの転舵角と、車速センサ40により検出された車速とが入力される。
【0025】
通常時において、ステアリングECU30は、入力された車速に基づいて、右側操舵入力部20R、左側操舵入力部20Lの操舵角に対する操舵輪RWの転舵角の比(舵角比)を設定する。具体的には、ステアリングECU30は、車速が高いほど舵角比が小さくなるよう設定する。これにより、低速域では右側操舵入力部20R、左側操舵入力部20Lを操作しはじめた瞬間からクイックに操舵輪RWを転舵させることができ、操作性を向上できる。また、高速域では右側操舵入力部20R、左側操舵入力部20Lの操作感度が低下するので、操舵輪RWの切れ過ぎが防止され、操作性および操縦安定性を向上できる。
【0026】
本実施形態に係る操舵装置10は、右側操舵入力部20Rおよび左側操舵入力部20Lの少なくとも一方が操作されれば、操舵輪RWが転舵するよう構成されている。ここでは、右側操舵入力部20Rが操作された場合を例として説明する。
【0027】
運転者により右側操舵入力部20Rが操作されると、操舵角センサ23Rにより操舵角θ1が検出される。検出された操舵角θ1は、ステアリングECU30に送られる。ステアリングECU30は、入力された操舵角θ1と設定した舵角比Rとに基づいて目標転舵角δ*を決め、転舵モータ17を駆動して該目標転舵角δ*となるよう操舵輪RWを転舵する。操舵輪RWの転舵を行う際には、転舵角センサ19によって検出された実際の転舵角δを用いたフィードバック制御が行われる。
【0028】
操舵輪RWの転舵を行うのと同時に、ステアリングECU30は、左側操舵入力部20Lの操舵角θ2が操舵角θ1と同じになるようモータ27Lを制御してもよい。これにより、操作レバー21Lが操作レバー21Rと同じように動く。操作レバー21Lの移動を行う際には、操舵角センサ23Lによって検出された値を用いたフィードバック制御が行われる。
【0029】
以上、右側操舵入力部20Rが操作された場合の動作について説明したが、左側操舵入力部20Lが操作された場合も同様に動作する。
【0030】
次に、車速センサ40がフェールした場合の動作について説明する。車速センサ40がフェールした場合、ステアリングECU30は車速情報を取得できないので、通常時のように車速に基づいた舵角比の設定を行うことができない。この場合、仮の車速を適当に決め、その車速に基づいて舵角比を設定する方法が考えられる。しかしながら、このような方法においては、例えば設定した仮の車速が高速であるが実際の車速が低速であるような場合には、操舵入力部の操作感度が低く、操作性が悪化する。また、例えば設定した仮の車速が低速であるが実際の車速が高速であるような場合には、操舵入力部の操作感度が高く、操作性および操縦安定性が悪化する。
【0031】
そこで、本実施形態に係る操舵装置10においては、ステアリングECU30は、車速センサ40がフェールした場合、右側操舵入力部20Rの操舵角θ1に対する操舵輪RWの転舵角δの比である第1舵角比R1と、左側操舵入力部20Lの操舵角θ2に対する操舵輪RWの転舵角δの比である第2舵角比R2とを異なる値に設定する。
【0032】
例えば、ステアリングECU30は、右側操舵入力部20Rの第1舵角比R1を所定の高車速時舵角比RHに設定し、左側操舵入力部20Lの第2舵角比R2を高車速時舵角比RHよりも高い低車速時舵角比RLに設定する。
【0033】
高車速時舵角比RHとは、高速走行時(例えば60km/h以上)に適した舵角比であり、標準的な舵角比よりも低い舵角比である。ここで、標準的な舵角比とは、車両が平均的な車速(例えば40km/h)である場合に設定される舵角比である。
【0034】
低車速時舵角比RLとは、低速走行時(例えば20km/以下)に適した舵角比であり、標準的な舵角比よりも高い舵角比である。
【0035】
適切な高車速時舵角比RHと低車速時舵角比RLの値は、車両の種類等によって異なるので、実験やシミュレーションにより適宜設定すればよい。
【0036】
上記のように右側操舵入力部20Rの第1舵角比R1と左側操舵入力部20Lの第2舵角比R2を設定した場合、運転者は、車両の速度に応じて左右2つの操作入力部から適切な方を選択して操作することができる。
【0037】
例えば車両が高速走行している場合、運転者は、右手で右側操舵入力部20Rを操作する。これにより、例えば走行中に車速センサ40がフェールした場合であっても、操作性および操縦安定性の低下を防止または少なくとも緩和できる。
【0038】
一方車両が低速走行している場合、運転者は、左手で左側操舵入力部20Lを操作する。これにより、例えば走行中に車速センサ40がフェールした場合であっても、操作性の低下を防止または少なくとも緩和できる。
【0039】
勿論、左右の操舵入力部に関し、高車速時舵角比RHと低車速時舵角比RLの設定は逆であってもよい。すなわち、右側操舵入力部20Rの第1舵角比R1を低車速時舵角比RLに設定し、左側操舵入力部20Lの第2舵角比R2を高車速時舵角比RHに設定してもよい。
【0040】
操舵輪RWの転舵を行うのと同時に、ステアリングECU30は、操作されていない操舵入力部の操舵角が、操作された操舵入力部の操舵角と同じになるようにモータを制御してもよい。
【0041】
図4は、本実施形態に係る操舵装置10の動作を説明するためのフローチャートである。図4に示す制御フローは、所定の時間間隔で実行される。
【0042】
まず、ステアリングECU30は、車速センサ40が正常か否か判定する(S10)。
【0043】
速度センサが正常な場合(S10のY)、ステアリングECU30は、速度センサから車速情報を受信する(S12)。
【0044】
次に、ステアリングECU30は、車速に応じて舵角比Rを設定する(S14)。具体的には、車速が高いほど舵角比Rが小さくなるよう設定する。
【0045】
次に、ステアリングECU30は、右側操舵入力部20Rおよび左側操舵入力部20Lの一方が操作されたか否か判定する(S16)。この判定は、右側操舵入力部20R、左側操舵入力部20Lから受信した操舵角の変化を見ることで行うことができる。操作されていない場合(S16のN)、操作の実行を待つ。
【0046】
右側操舵入力部20Rおよび左側操舵入力部20Lの一方が操作された場合(S16のY)、ステアリングECU30は、S14にて設定された舵角比Rで操舵輪RWの転舵制御を行い(S18)、制御フローを終了する。
【0047】
一方、車速センサ40がフェールしている場合(S10のN)、ステアリングECU30は、右側操舵入力部20Rの第1舵角比R1を高車速時舵角比RHに設定し、左側操舵入力部20Lの第2舵角比R2を低車速時舵角比RLに設定する(S20)。ここで、高車速時舵角比RH<低車速時舵角比RLである。
【0048】
次に、ステアリングECU30は、右側操舵入力部20Rが操作されたか否か判定する(S22)。
【0049】
右側操舵入力部20Rが操作された場合(S22のY)、ステアリングECU30は、高車速時舵角比RHに設定された第1舵角比R1で操舵輪RWの転舵制御を行い(S24)、制御フローを終了する。
【0050】
右側操舵入力部20Rが操作されていない場合(S22のN)、ステアリングECU30は、左側操舵入力部20Lが操作されたか否か判定する(S26)。左側操舵入力部20Lが操作されていない場合(S26のN)、S22に戻り操舵入力部の操作を待つ。
【0051】
左側操舵入力部20Lが操作された場合(S26のY)、ステアリングECU30は、低車速時舵角にRLに設定された第2舵角比R2で操舵輪RWの転舵制御を行い(S28)、制御フローを終了する。
【0052】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0053】
10 操舵装置、 12 転舵機構、 16 キングピン軸、 17 転舵モータ、 19 転舵角センサ、 20R 右側操舵入力部、 20L 左側操舵入力部、 30 ステアリングECU、 40 車速センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1操舵入力部と、
第2操舵入力部と、
車速センサと、
前記第1操舵入力部および前記第2操舵入力部の少なくとも一方の操舵角に応じて操舵輪を転舵する転舵機構と、
前記車速センサにより検出された車速に基づいて、前記第1操舵入力部および前記第2操舵入力部の少なくとも一方の操舵角に対する操舵輪の転舵角の比である舵角比を設定する設定部と、を備え、
前記設定部は、前記車速センサがフェールした場合、前記第1操舵入力部の操舵角に対する操舵輪の転舵角の比である第1舵角比と、前記第2操舵入力部の操舵角に対する操舵輪の転舵角の比である第2舵角比とを異なる値に設定することを特徴とする操舵装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記車速センサがフェールした場合、前記第1舵角比を所定の高車速時舵角比に設定し、前記第2舵角比を前記高車速時舵角比よりも高い低車速時舵角比に設定することを特徴とする請求項1に記載の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−95365(P2013−95365A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242252(P2011−242252)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】