説明

操舵角検出装置

【課題】簡素な構成にて全操舵角範囲に亘る操舵角を高精度に検出できる操舵角検出装置を提供する。
【解決手段】ラック軸1の軸長方向の一側から他側に向けて連続的に深さが変化する溝12がラック軸1に設けられ、サポートヨーク3に設けられた可動子41の一部を該溝12の底面に当接させ、ラック軸1の移動に応じて生じる可動子41の変位を検出して、車両の操舵角を算出する構成になっており、このように連続的に深さが変化する溝12を設けているため、ラック軸1の移動に応じて可動子41は当接部の深さに追随して変位することとなり、この変位により一義的にラック軸1の移動量を知ることができ、簡素な構成にて全操舵角範囲に亘る操舵角を高精度に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵角を簡素な構成により検出することができる操舵角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵角は、車両の各種の制御に必要な情報であり、一般的には操舵部材であるステアリングホイールと操舵機構とを連結する操舵軸の回転角度により検出される。ステアリングホイールは、操舵角の最大位置まで転舵するために、通常1回転以上回転操作するように構成されている。このため操舵軸の回転角度によって全操舵角範囲に亘る操舵角を検出しようとすると、例えば多回転を1回転に変換するために減速機構を設ける必要があり、部品点数の増加により検出精度が低下し、また回転角検出装置が大型化する等の問題がある。
【0003】
ところで車両の操舵機構として広く採用されているラックピニオン式の操舵機構においては、ステアリングホイールの回転操作が操舵軸を介してピニオン軸に伝達され、該ピニオン軸の回転がラック軸の軸長方向の移動に変換され、左右の前輪が押し引きされて操舵がなされる構成となっており、ラック軸の移動位置と操舵角とが1対1に対応している。この点に着目して、ラック軸の移動量を検出することにより全操舵角範囲に亘る操舵角を求めることができる操舵角検出装置が従来から提案されている(例えば、特許文献1,特許文献2,特許文献3参照)。
【0004】
特許文献1の発明においては、ラック軸の基準位置を検出するセンサとピニオンを駆動するモータの回転角を検出するセンサとを設けて、これらのセンサの検出値により基準位置からのラック軸の移動量を検出している。また特許文献2の発明においては、ラック軸に凹凸の磁気ストライプを等間隔に刻設して、ラック軸の移動に応じて磁気ストライプを横切る磁束の変化を磁気センサにより検出し、ラック軸の移動量を検出している。特許文献3の発明においては、ラック軸を支持するラックハウジングに固定された抵抗体と、ラック軸に固定された摺動片とを備えるポテンショメータを設け、ラック軸の移動に応じて摺動片が抵抗体の上をスライドすることにより変化する電気抵抗を測定してラック軸の移動量を検出している。
【特許文献1】特開2004−205332号公報
【特許文献2】特開平7−35573号公報
【特許文献3】特開2001−191937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明においては、二つのセンサによる検出値を組み合わせてラック軸の移動量を検出する構成になっているため構成が複雑になる。特許文献2の発明においては、磁気ストライプの凹凸のピッチが一定になるように高い加工精度が求められるため加工コストが増大し、また上述のセンサのみではラック軸の相対移動量のみが検出されるにすぎず、ラック軸の絶対移動量を検出するためには更なるセンサが必要であり構成が複雑になる。特許文献3の発明においては、一つのセンサ(ポテンショメータ)により全操舵角範囲に亘る操舵角の検出が可能であるが、車輪からの作用力、ピニオンからの作用力等の外力によりラック軸に生じる撓み又は振動がセンサの検出値に影響を与え、高精度の検出結果が得られない場合がある。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、簡素な構成にて全操舵角範囲に亘る操舵角を高精度に検出できる操舵角検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る操舵角検出装置は、ラックピニオン式の操舵機構のラック軸にピニオン軸との噛合部の逆側から弾接し、該ラック軸を前記噛合部に押し付けるサポートヨークを備える車両の操舵角を、前記ラック軸の移動量に基づいて検出する操舵角検出装置において、前記ラック軸には、前記サポートヨークの弾接部位に、軸長方向の一側から他側に向けて連続的に深さが変化する溝が延設されており、該溝の底面に一部を当接させて前記サポートヨークに設けられ、前記ラック軸の移動に応じて該ラック軸から接離する方向に変位する可動子と、該可動子の変位を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて前記操舵角を算出する算出手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
第2発明に係る操舵角検出装置は、前記可動子は、前記溝の底面に転接し、前記ラック軸の移動に応じて転動する転動体を備えることを特徴とする。
【0009】
第3発明に係る操舵角検出装置は、前記可動子に直接的又は間接的に接触し、前記変位により前記可動子から受ける圧力を検出する圧力検出素子であることを特徴とする。
【0010】
第4発明に係る操舵角検出装置は、前記可動子と前記検出手段との間に弾性体が設けられていることを特徴とする。
【0011】
第5発明に係る操舵角検出装置は、ラックピニオン式の操舵機構のラック軸にピニオン軸との噛合部の逆側から弾接し、該ラック軸を前記噛合部に押し付けるサポートヨークを備える車両の操舵角を、前記ラック軸の移動量に基づいて検出する操舵角検出装置において、前記ラック軸には、前記サポートヨークの弾接部位に、軸長方向の一側から他側に向けて連続的に深さが変化する溝が延設されており、該溝の底面に対向して前記サポートヨークに設けられ、前記ラック軸の移動に応じて変化する前記溝の底面との距離を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて前記操舵角を算出する算出手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、ラック軸の軸長方向の一側から他側に向けて連続的に深さが変化する溝がラック軸に設けられ、サポートヨークに設けられた可動子の一部を該溝の底面に当接させてあるから、ラック軸の移動に応じて可動子は、当接部の深さに追随して変位することとなり、この変位により一義的にラック軸の移動量を知ることができ、簡素な構成にて全操舵角範囲に亘る操舵角を高精度に検出できる。
【0013】
第2発明によれば、可動子がラック軸の移動に応じて転動するボール等の転動体を備えているから、可動子の転接部の抵抗によりラック軸の移動が阻害されることがなく、また、この転接下での可動子の変位も安定して生じ、高精度の操舵角検出が可能となる。
【0014】
第3発明によれば、可動子の変位により可動子から受ける圧力を検出しているため、ラック軸の移動に応じて生じる可動子の変位が小さくても精度良く検出でき、簡素な構成にて全操舵角範囲に亘る操舵角を高精度に検出できる。
【0015】
第4発明によれば、可動子と検出手段との間に弾性体を設けているから、車両が走行中に受ける路面からの作用力によるラック軸の振動成分が、この弾性体により吸収され、検出手段に伝達されるのを防ぐことができるため、ラック軸の移動に応じて生じる可動子の変位をより精度良く検出することが可能となる。
【0016】
第5発明によれば、ラック軸の軸長方向の一側から他側に向けて連続的に深さが変化する溝がラック軸に設けられ、該溝の底面に対向するよう検出手段をサポートヨークに設けて、ラック軸の移動に応じて変化する溝の底面との距離を検出しているから、検出手段が溝の底面と接触しないため、摩耗等の損傷がなく、経年劣化の影響を受けにくく、長期間に亘り、簡素な構成にて全操舵角範囲に亘る操舵角を高精度に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明に係る第1の実施の形態を示す操舵角検出装置を備えるラックピニオン式の操舵機構の要部の構成を示す縦断面図である。
【0018】
図1において、23はピニオンハウジングであり、該ピニオンハウジング23の内部にはピニオン軸2が配してある。ピニオン軸2は、下半部を拡径して一体形成されたピニオン20を備えており、ピニオン20の上下両側に位置する一対のベアリング21,22により、ピニオンハウジング23の内部に同軸上での回転自在に支持されている。また、ピニオンハウジング23の外部に突出するピニオン軸2の上端部は、図中に模式的に示すステアリングホイール24に連結されている。
【0019】
ピニオンハウジング23の下半部の一側には、円筒形をなすラックハウジング11が、軸心を交叉させて連設されており、該ラックハウジング11の内部には、軸長方向への摺動自在にラック軸1が支持されている。ラック軸1の周面には、ピニオンハウジング23との連通部を臨む側に適長に亘ってラック歯10が形成されており、このラック歯10はピニオン20に噛合させてある。また、ラックハウジング11の両側に突出するラック軸1の両端は、図示しない左右の前輪に連結されている。
【0020】
ラックハウジング11は、ピニオンハウジング23との交叉部の逆位置に、両ハウジング11,23の夫々と略直交する向きに一体的に突設された保持ハウジング35を備えている。該保持ハウジング35は、軸心部を貫通する円形断面の保持孔30を備えており、該保持孔30には、円筒形をなすサポートヨーク3が、軸長方向への摺動自在に内嵌保持されている。
【0021】
ラックハウジング11の内側に臨むサポートヨーク3の一端は、ラック軸1の外形に対応するアーチ形状を有し、ラック軸1のピニオン20との噛合部の逆側の外周面に滑り板31を介して摺接させてある。また、サポートヨーク3の他端は、保持孔30の開口部にねじ込まれ、ロックナット33により位置決め固定された支持キャップ32の底面に臨ませてあり、該底面との間に介装された押しばね34により、ラック軸1に向けて付勢されている。
【0022】
このように取付けられたサポートヨーク3は、押しばね34のばね力によりラック軸1のピニオン20との噛合部の逆側に弾接しており、該ラック軸1をピニオン軸2に押し付けてラック歯10とピニオン20との噛合部に与圧を付与して、両者をバックラッシなしに良好に噛合させる作用をなす。前記与圧は、支持キャップ32のねじ込み量の増減により適正に調整される。
【0023】
以上の構成により、操舵のためにステアリングホイール24が回転操作された場合には、ステアリングホイール24に連結されたピニオン軸2が回転し、この回転がピニオン20とラック歯10との噛合部においてラック軸1の軸長方向の移動に変換されることとなり、このようなラック軸1の移動が両端に連結された左右の前輪に伝達され、これにより左右の前輪の操舵がなされる。
【0024】
以上のように構成された操舵機構には、本発明に係る操舵角検出装置4が設けられている。この操舵角検出装置4は、サポートヨーク3の軸心部を貫通する円形断面の孔に内嵌固定されたハウジング46と、このハウジング46内部に設けられた圧力検出素子である圧電体43と、ハウジング46の先端に設けられた可動子である検出ボール41と、算出手段である算出部48とを備えている。図2は、図1のII−II線による矢視図であり、本発明に係る第1の実施の形態を示す操舵角検出装置4を略示する断面図である。
【0025】
図2に示すようにハウジング46は、薄肉円筒形の部材であり、先端側に端部に向けてテーパ状に縮径された円錐部を備えている。この円錐部には、軸心を貫通する孔が形成されており、検出ボール41は、この孔内に回転自在に嵌め込まれ、ハウジング46の内部に向けて変位可能に保持されている。
【0026】
またハウジング46は、軸長方向の中途部に中空のスペーサ44を備えており、圧電体43は、スペーサ44のハウジング46先端側に支持され、ダンパ42を介して検出ボール41に間接的に当接させてある。
【0027】
このスペーサ44は、組立て時の検出ボール41とラック軸1との接触圧力の微調整と、操舵角検出装置4全体の高さ調整とを併せて可能とするために設けてある。この調整は、例えば、車両エンジンルーム内及び車両運転室内等における熱膨張及び熱収縮を考慮して行われる。
【0028】
ダンパ42は、スペーサ44の熱収縮に伴い、検出ボール41を過剰にラック軸1に押圧することを防ぐために、弾性変形し自己潤滑性を備えた樹脂材料製とし、また検出に必要な押圧力を得るために適度の硬度を有し、更に車両振動による圧電体43のラック軸1側から入力側へ周り込んでくるクロストーク・ノイズが極力発生しないノイズキラーとしての機能とを備えることが望ましい。
【0029】
このようなダンパ42は、例えば、ガラス繊維を混入したFRP樹脂、又は銅メッシュに樹脂若しくは固体潤滑材等を混入した材料を用いて形成される。図3は、ダンパ42の配設部位周辺を略示する断面図である。図3(a)、(b)に示すように、ガラス繊維が混入された樹脂層(あるいは銅メッシュ層)を備えることにより、検出に必要な押圧力を付与できると同時に、ラック軸1と検出ボール41との転がり摩擦、すべり摩擦等による摩耗を軽減でき、操舵角検出装置4の長寿命化を実現できる。
【0030】
図3(a)に示すダンパ42は、T字型のダンパ芯420を基礎として、固体潤滑材421をT字型のダンパ芯420の周りに配設して構成されている。このダンパ芯420には、例えば、ポリフェニレン・オキサイド(Polyphenylene Oxide)系樹脂又はポリカーボネイト(Polycarbonate)系樹脂等にガラス繊維を混入したFRP樹脂を用いることができる。これらのFRP樹脂は、高誘電体のため、ダンパ42を小さくでき、クロストーク・ノイズをすばやく除去することができる。固体潤滑材421と検出ボール41との周辺に潤滑溜り部422を設けることにより、潤滑不良をなくすことができ、また、ダンパ芯420のガラス繊維量を適宜調整することで前述した望ましいダンパ42とすることができる。
【0031】
図3(b)に示すダンパ42は、検出ボール41に接する先端が円錐形に成形された円筒状の第1ダンパ芯423と中実円柱状の第2ダンパ芯424とを備え、両ダンパ芯423,424間に潤滑材を含浸した圧粉体425を配設して構成されている。この構成によりラック軸1の移動に伴って微細に振動する検出ボール41と、この検出ボール41に接するダンパ42の先端との間に潤滑作用を与えることができる。このような圧粉体425を利用することにより、切削加工又はプレス加工が可能となり、ダンパ42の寸法精度を向上させ、組立て時の寸法精度の管理が容易になる。また、圧電体43からの出力ノイズの元となる車両振動は潤滑作用に利用されるため除去されやすくなり、長寿命化、低ノイズ化、対外乱ノイズ性の向上を図ることができる。
【0032】
図3(a)、図3(b)に示す構成を適宜組み合わせても良いことは言うまでもなく、これらは後述する実施の形態にも適用でき、その形態、構造及び効果は同様なため説明を省略する。
【0033】
圧電体43は、図2に示すように、出力ケーブル45により、ハウジング46の基端に設けられた出力端子47に接続されており、圧電体43の出力は、出力ケーブル45を経て出力端子47に取り出され、この出力端子47を介して算出部48に与えられるようになしてある。
【0034】
このように構成された操舵角検出装置4の主要部は、前述したように、サポートヨーク3の軸心部を貫通する孔に内嵌固定されている。この固定は、ハウジング46の中途に設けたスペーサ44を支えとし、ハウジング46の先端に保持された検出ボール41を、サポートヨーク3が摺接するラック軸1の外面に設けた溝12の底面に当接させて実現されている。
【0035】
この溝12は、図2に示すように、軸長方向の一側から他側に向けて連続的に深さが変化し、ラック軸1の移動ストロークの全長に亘って軸長方向に延設されている。図2には、溝12の深さが最大となる側のストローク端に検出ボール41が当接している状態が示されており、ハウジング46は、図2に示す状態においても溝12から検出ボール41に所定の押し付け力が付加され、ダンパ42を介して圧電体43に圧力が加わるように位置決めして固定されている。
【0036】
圧電体43は、圧縮力を加えてひずみを生じさせたときに、これに比例した等量のプラス又はマイナスの電荷が両端面に反作用的に夫々発生する圧電効果を利用した公知の圧力検出素子であり、前述の如く配された圧電体43は、検出ボール41からダンパ42を介して加えられる圧力に比例する電圧出力を発生する。
【0037】
ラック軸1は、図2に示すストローク端から白抜矢符により示す向きに移動する。この移動に応じて検出ボール41の当接位置は、溝12の深さが浅くなる側に変化するから、溝12から検出ボール41に加わる押し付け力、及びダンパ42を介して圧電体43に加わる圧力も大となり、圧電体43の電圧出力は、白抜矢符により示す向きのラック軸1の移動に比例して増大し、逆向きの移動に比例して減少する。なお、ラック軸1の両ストローク端間での溝12の深さの変化はわずかであり、ダンパ42の変形を伴って図2中に矢符にて示す向きに生じる検出ボール41の変位により吸収される。このように変化する圧電体43の電圧出力は、出力ケーブル45及び出力端子47を介して算出部48に与えられており、算出部48は、このように与えられる圧電体43の電圧出力を用いて操舵角を算出する。
【0038】
図4は、上述のような本発明に係る操舵角検出装置4の圧電体43の電圧出力とラック軸1の移動量との関係を示す図である。図4(a)の横軸はラック軸1移動量を、縦軸は圧電体43の電圧出力を夫々示しており、横軸のプラス側はラック軸1の右方向への移動量を、マイナス側はラック軸1の左方向への移動量を夫々示している。図4(b)において、ラック軸1が右に移動したときは、ラック軸1の溝12の底面と圧電体43との距離が縮まり、検出ボール41はハウジング46内部へ押し込まれるので、図4(a)に示すように圧電体43の電圧出力は増大する。ラック軸1が左に移動したときは、逆に圧電体43の電圧出力は減少する。このように、ラック軸1が左右に移動するのに応じて、圧電体43の電圧出力が直線的に増減する。なお、車両の左右の前輪が進行方向と同方向になる操舵中点とラック軸1の溝12の中点とが一致するように予め設定しておき、圧電体43の電圧出力とラック軸1移動量との関係を算出部48に予め記憶させておく。これにより圧電体43の電圧出力に基づいてラック軸1の操舵中点からの移動量を求めることができるので、一義的に全操舵角範囲に亘る操舵角が算出できる。
【0039】
以上のような第1の実施の形態によれば、ラック軸1の移動量に応じて圧電体43の電圧出力が直線的に変化し、このように変化する圧電体43の電圧出力によりラック軸1の移動量を一義的に求めることができる。この実施の形態においては、可動子に検出ボール41を用いているので、ラック軸1の移動が阻害されることがなく、また、可動子の変位も安定して生じ滑らかに転動するため可動子の変位を精度良く検出でき、簡素な構成により全操舵角範囲に亘る操舵角を高精度に検出することが可能となる。
【0040】
また、車輪からの作用力、ピニオン20からの作用力等の外力によりラック軸1に軸長方向と直交する方向に撓み又は振動が生じるときに、サポートヨーク3もラック軸1と同時に移動するため、圧電体43とラック軸1に設けた溝12との距離はこれら撓み又は振動の影響を受けない。このようにサポートヨーク3に操舵角検出装置4の主要部を設置することにより、ラック軸1の移動に応じて検出ボール41に生じる圧力を簡素な構成にて精度良く検出することができる。なお、車両が走行中に受ける路面からの作用力によって生じるラック軸1の振動成分がダンパ42により吸収され、検出手段に伝達されるのを防ぐことができる。
【0041】
なお、第1の実施の形態では、ラック軸1の移動に応じて生じる検出ボール41の変位を検出する検出手段として圧電体43を用いているが、検出手段はこれに限定されず、ラック軸1の移動に応じて生じる検出ボール41の変位を検出可能な検出手段であればよい。可動子として検出ボール41を用いているが、これに限定されず、ラック軸1の移動に応じて該ラック軸1から接離する方向に変位する可動子であればよい。
【0042】
図5(a)は、本発明に係る第2の実施の形態を示す操舵角検出装置5を略示する断面図である。図5(a)に示すように、ハウジング56は、操舵角検出装置4のハウジング46と同様に、薄肉円筒形の部材であり、先端側に端部に向けてテーパ状に縮径された円錐部を備えている。ハウジング56の円錐部の軸心を貫通する孔内に、円柱形をなす磁性体53の周りに巻回された検出コイル52が固定されており、この孔はシール材51により覆われている。
【0043】
またハウジング56は、軸長方向の中途部に中空のスペーサ54を備えている。このスペーサ54は、組立て時の検出コイル52とラック軸1とのエアギャップを、検出コイル52の取付け位置だけでは目標とする公差を含めたエアギャップ設計値にどうしても到達しえないと判断した時に、適宜微調整することができるエアギャップ微調整機能と、操舵角検出装置5全体の高さ調整機能とを兼ねており、また操舵角検出装置5の出力信号ノイズ除去にも利用できる。
【0044】
これによりエアギャップの微調整のためだけに検出コイル52を再設計する必要がなくなり、例えば、車両エンジンルーム内及び車両運転室内等の熱膨張及び熱収縮をスペーサ54の設計諸元に落ち着かせることができ、検出コイル52によりエアギャップの微調整をする場合と比較してエアギャップの管理が極めて容易にできる。
【0045】
検出コイル52は、出力ケーブル55により、ハウジング56の基端に設けられた出力端子57に接続されており、検出コイル52の出力は、出力ケーブル55を経て出力端子57に取り出され、この出力端子57を介して算出部58に与えられるようになしてある。
【0046】
このように構成された操舵角検出装置5の主要部は、第1の実施の形態と同様に、サポートヨーク3の軸心部を貫通する孔に、ハウジング56の中途に設けたスペーサ54を支えとして内嵌固定されている。そして、ハウジング56の先端に固定された検出コイル52は、サポートヨーク3が摺接するラック軸1の外面に設けた溝12の底面に対向しており、シール材51に覆われたハウジング56の先端はラック軸1に近接している。
【0047】
検出コイル52は、該検出コイル52への通電により生じた磁界中に、金属体が接近したときに、電磁誘導により金属体に誘導電流が流れ、この誘導電流により金属体に磁界が生じ、これら2つの磁界が重なり合って、この結果生じる検出コイル52のインピーダンスの変化を検出する公知の磁気センサである。
【0048】
このような構成により、ラック軸1が移動すると、ラック軸1の溝12の底面と検出コイル52との距離が変化し、この変化に応じて検出コイル52のインピーダンスが変化する。このインピーダンスの変化が検出コイル52により検出され、この検出結果が検出コイル52に接続された出力ケーブル55により出力端子57を介して算出部58へ伝達される。算出部58は、検出コイル52の出力として与えられるインピーダンスの変化に基づき溝12の底面と検出コイル52との距離を算出し、操舵角を算出する。
【0049】
以上のような第2の実施の形態によれば、操舵角検出装置5にラック軸1との接触部がなく、摩耗等の損傷を受けないので、経年劣化の影響を受けにくく、長期間に亘り、簡素な構成により全操舵角範囲に亘る操舵角を高精度に検出することが可能となる。
【0050】
図5(b)は、本発明に係る第3の実施の形態を示す操舵角検出装置6を略示する断面図である。図5(b)に示すように、ハウジング66は、操舵角検出装置4のハウジング46と同様に、薄肉円筒形の部材であり、先端側に端部に向けてテーパ状に縮径された円錐部を備えている。ハウジング66の円錐部の軸心を貫通する孔内に、音響センサ62が固定されており、この孔はシール材61により覆われている。
【0051】
またハウジング66は、軸長方向の中途部に中空のスペーサ64を備えている。音響センサ62は、出力ケーブル65により、ハウジング66の基端に設けられた出力端子67に接続されており、音響センサ62の出力は、出力ケーブル65を経て出力端子67に取り出され、この出力端子67を介して算出部68に与えられるようになしてある。
【0052】
このように構成された操舵角検出装置6の主要部は、第1の実施の形態と同様に、サポートヨーク3の軸心部を貫通する孔に、ハウジング66の中途に設けたスペーサ64を支えとして内嵌固定されている。このように固定されたスペーサ64により操舵角検出装置6全体の剛性を上げることができる。スペーサ64がエアギャップ微調整機能を有することは、前述の記載から自明なため以降の説明を省略する。
【0053】
そして、ハウジング66の先端に固定された音響センサ62は、サポートヨーク3が摺接するラック軸1の外面に設けた溝12の底面に対向しており、シール材61に覆われたハウジング66の先端はラック軸1に近接している。
【0054】
音響センサ62は、圧電セラミックス等の超音波振動子により超音波を検出対象物に向けて発信し、検出対象物からの反射波を超音波振動子により受信する公知の超音波センサである。
【0055】
このような構成により、ラック軸1が移動すると、ラック軸1の溝12の底面と音響センサ62との距離が変化し、この変化に応じて超音波の発信から受信までに要する時間は増減するので、この所要時間分だけ遅れた反射波が音響センサ62により受信される。この検出結果が音響センサ62に接続された出力ケーブル65により出力端子67を介して算出部68へ伝達される。算出部68は、音響センサ62の出力結果に基づき超音波の発信から受信までに要した時間を求め、この所要時間と音速とを用いて溝12の底面と音響センサ62との距離を算出し、操舵角を算出する。
【0056】
以上のような第3の実施の形態によれば、操舵角検出装置6の主要部にラック軸1との接触部がなく、摩耗等の損傷を受けないので、経年劣化の影響を受けにくく、長期間に亘り、簡素な構成により全操舵角範囲に亘る操舵角を高精度に検出することが可能となる。
【0057】
なお、第2及び第3の実施の形態では、非接触型の検出手段として、電磁誘導作用を利用した磁気センサ及び超音波を用いた音響センサを用いてあるが、これに限定されず、例えば磁気抵抗効果、ホール効果等を利用した磁気センサ、ドップラー効果を利用したマイクロ波センサ等、ラック軸1に設けられた溝12の底面との距離を検出可能な適宜の検出手段を用いることができる。
【0058】
図6は、本発明に係る第4の実施の形態を示す操舵角検出装置4の配設部位周辺を略示する断面図である。図6において、検出手段として圧電体43を用いているが、磁気センサ及び音響センサ62を用いることができるのは言うまでもない。第1乃至第3の実施の形態において、ケーブル45をツイストペア(Twisted Pair Cable)とし、ケーブル45の周り、すなわち図6に示すようにスペーサ44を含めた操舵角検出体内部に樹脂7を加硫接着させることが望ましい。ツイストペアとすることにより、適宜要求される出力ポート数に応じて複列化しても不要輻射及び外乱ノイズの影響を受け難くすることができ、また樹脂7で固着されているため走行時の車両振動に起因するケーブル45断線等の不具合を容易に回避することができ、更に高い防水、防油及び防塵効果をもたらすこともできる。
【0059】
また、ツイストペア周辺の樹脂7に、低誘電率であり、抵抗値が十数オーム〜百数十オーム程度の樹脂、例えば、シリコン系樹脂を採用することにより、操舵角検出体自身による不要輻射を効果的に低減できる。これにより、極低温(例えば−40℃)から高温(例えば130℃)までの温度環境下においても、操舵角検出体による出力信号を低ノイズで不要輻射のない信頼性のあるものとすることができる。
【0060】
さらに、加硫接着を利用でき、樹脂を操舵角検出体に流し込むことができるから、適宜ポリエチレン、発泡ポリエチレン(PEF)若しくはポリブチレン・テレフタレート(Polybutylene Terephtalate)の樹脂単体、又はこれらを混合させた混合樹脂を樹脂7に利用することができるようになる。従って、低誘電率であり、低インピーダンスとなるだけでなく、粘度、樹脂自体の硬度、弾性、靭性(toughness)等の特性を容易に制御できるようになる。操舵角検出装置4の出力端子47をポリブチレン・テレフタレート系樹脂の端子にすると尚良い。
【0061】
また、前述の各スペーサ44,54,64を、例えば、アルミ製又は銅製の中空円筒体として、操舵角検出装置4,5,6自身の出力信号ノイズ及び外乱ノイズを絶縁可能な支柱とし、ツイストペア周辺を前述したような低誘電体にて囲むことにより出力部を低インピーダンスにでき、出力信号を低ノイズなものにすることができる。なお、円筒体は、適宜必要な体積としてもよいのは自明である。
【0062】
第1乃至第3の実施の形態において、図6に示すように出力端子47部と支持キャップ32との形状に合わせたシール材9を配設することにより、車両走行時の路面からの雨水、油及び各種溶剤等の異物から操舵角検出装置4の樹脂7、圧電体43及びコイル等の各種部品を保護することができる。
【0063】
これにより車両走行時に操舵角検出装置4に付与される車両振動を操舵角検出装置4に極力伝達させることなく、量産時の製品ばらつき、すなわち操舵角検出体の出力ノイズ管理値を均一にすることができ、製品品質を所定の範囲内にて一定に保つことができるようになる。さらに常温で低粘度のシール材9を利用することにより、操舵角検出体の組立て時の公差に、加硫接着時の熱膨張等の影響を与えることなく操舵角検出装置4を組立てることができる。
【0064】
図7は、本発明に係る第5の実施の形態を示す操舵角検出装置4の配設部位周辺を略示する断面図である。図7において、検出手段として圧電体43を用いているが、磁気センサ及び音響センサ62を用いることができるのは言うまでもない。操舵角検出装置4は、前述したような簡易な構成であるため、図7に示すように、操舵中点の設定や保守を容易に行うことができる操舵装置保守部品(車両整備部品)として同時に機能するようになる。すなわち、車両整備又は操舵装置のチューニング作業において場所を選ぶことなく、テスター又はオシロスコープ等の測定装置8を利用することにより、操舵角検出体の出力ポート信号を図3のような特性として極めて簡易に読み取れることは自明である。
【0065】
従って、迅速な不良チェックと共に操舵中点の再設定を、例えば、ステアリングホイール24自体を取付け直す等の極めて簡易な組立て修正により、又は極めて簡易なプログラム修正により行うことができ、高品質で速効性の高い保守サービスを提供できるようになる。プログラム修正は、制御パラメータ等の変数、又は操舵トルクに対するモータ電流の関係を示すマップ等の定数マトリクスに対して補正値として与えることにより行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態を示す操舵角検出装置を備えるラックピニオン式の操舵機構の要部の構成を示す縦断面図である。
【図2】図1のII−II線による断面図である。
【図3】ダンパの配設部位周辺を略示する断面図である。
【図4】本発明に係る操舵角検出装置の圧電体の電圧出力とラック軸の移動量との関係を示す図である。
【図5】本発明に係る第2及び第3の実施の形態を示す操舵角検出装置を略示する断面図である。
【図6】本発明に係る第4の実施の形態を示す操舵角検出装置の配設部位周辺を略示する断面図である。
【図7】本発明に係る第5の実施の形態を示す操舵角検出装置の配設部位周辺を略示する断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 ラック軸、2 ピニオン軸、3 サポートヨーク、4 操舵角検出装置、41 検出ボール(可動子、転動体)、42 ダンパ(弾性体)、43 圧電体(検出手段、圧力検出素子)、48 算出部(算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラックピニオン式の操舵機構のラック軸にピニオン軸との噛合部の逆側から弾接し、該ラック軸を前記噛合部に押し付けるサポートヨークを備える車両の操舵角を、前記ラック軸の移動量に基づいて検出する操舵角検出装置において、前記ラック軸には、前記サポートヨークの弾接部位に、軸長方向の一側から他側に向けて連続的に深さが変化する溝が延設されており、該溝の底面に一部を当接させて前記サポートヨークに設けられ、前記ラック軸の移動に応じて該ラック軸から接離する方向に変位する可動子と、該可動子の変位を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて前記操舵角を算出する算出手段とを備えることを特徴とする操舵角検出装置。
【請求項2】
前記可動子は、前記溝の底面に転接し、前記ラック軸の移動に応じて転動する転動体を備えることを特徴とする請求項1記載の操舵角検出装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記可動子に直接的又は間接的に接触し、前記変位により前記可動子から受ける圧力を検出する圧力検出素子であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の操舵角検出装置。
【請求項4】
前記可動子と前記検出手段との間に弾性体が設けられていることを特徴とする請求項3記載の操舵角検出装置。
【請求項5】
ラックピニオン式の操舵機構のラック軸にピニオン軸との噛合部の逆側から弾接し、該ラック軸を前記噛合部に押し付けるサポートヨークを備える車両の操舵角を、前記ラック軸の移動量に基づいて検出する操舵角検出装置において、前記ラック軸には、前記サポートヨークの弾接部位に、軸長方向の一側から他側に向けて連続的に深さが変化する溝が延設されており、該溝の底面に対向して前記サポートヨークに設けられ、前記ラック軸の移動に応じて変化する前記溝の底面との距離を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて前記操舵角を算出する算出手段とを備えることを特徴とする操舵角検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−255928(P2007−255928A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77279(P2006−77279)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】