説明

改質ポリプロピレン系樹脂の製造方法

【課題】従来以上に高い溶融張力を有する改質ポリプロピレン系樹脂を提供する。
【解決手段】下記(i)〜(iii)の特性を有するポリプロピレン系樹脂(a)に対し、電離性放射線を照射することにより溶融張力(MT)を1.1倍以上に増大させてなる改質ポリプロピレン系樹脂(a’)の製造方法(i)温度230℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.01〜100g/10分である。(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5〜4.0であり、且つ、Z平均分子量/数平均分子量(Mz/Mn)が1.5〜12.0である。(iii)13C−NMRによって測定されるプロピレン連鎖部の位置不規則性が下記の範囲にある。2,1-挿入に基づく位置不規則性 0.01〜2.00モル%。1,3-挿入に基づく位置不規則性 0.01〜0.40モル%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質ポリプロピレン系樹脂(a’)の製造方法に係り、特に高い溶融張力を有する改質ポリプロピレン系樹脂(a’)の製造方法に係る。詳しくは本発明は、特定のポリプロピレン系樹脂(a)に電離性放射線を照射することにより中空成形、発泡成形、押出成形時に有用な高い溶融張力を有する改質ポリプロピレン系樹脂(a’)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は、機械的性質や耐薬品性に優れ、また経済性とのバランスにおいて極めて有用なため、各成形分野に広く用いられている。しかしながら、一般にポリプロピレン系樹脂は溶融張力においてはやや劣るために、中空成形、発泡成形、押出成形等での成形性に劣る場合があり、その他の各種成形法においても成形体の高速生産性に限界が生じている。
【0003】
そこで、ポリプロピレン系樹脂の溶融張力を向上させる方法として、種々の方法が提案されている。例えば、溶融状態下においてポリプロピレンに有機過酸化物と架橋助剤を反応させる方法(特許文献1、2参照)、半結晶性ポリプロピレンに低い分解温度の過酸化物を酸素不存在下で反応させて、自由端長鎖分岐を有しゲルを含まないポリプロピレンを製造する方法(特許文献3参照)などが開示されている。さらに、特許文献4では、高エネルギーイオン化放射線によりポリプロピレンに長鎖分岐を生成する方法が開示されている。これらの手法は、有機過酸化物或いは放射線を利用して、高分子鎖上にラジカルを発生させ、これが反応することにより高分子鎖に架橋が生じることを利用した高分子の変成技術であり、ここではこれを架橋変成と称する。
【0004】
他に、高活性チタン・バナジウム固体触媒成分を用いて、多段重合法により極限粘度が20dl/g以上の超高分子量ポリエチレンを0.05ないし1重量%未満重合させるポリエチレンの重合方法が開示されている(特許文献5参照)。また、担持型チタン含有固体触媒成分及び有機アルミニウム化合物触媒成分にエチレンとポリエン化合物が予備重合されてなる予備重合触媒を用いてプロピレンを重合することにより、高溶融張力を有するポリプロピレンを製造する方法が開示されている(特許文献6参照)。
【0005】
さらに特許文献7には、エチレン単独重合体またはエチレン重合体を50重量%以上有するエチレン−オレフィン共重合体であって、少なくとも135℃のテトラリンで測定した固有粘度が15〜100dl/gの範囲の高分子量ポリエチレンを0.01〜5重量部と、これ以外のオレフィン(共)重合体を100重量部を含み、かつポリエチレンが特定の微粒子として存在することを特徴とするオレフィン(共)重合体組成物が、高い溶融張力を発現することが開示されている。
【0006】
これらの先行技術においては、ある程度溶融張力の高いポリプロピレン系樹脂は得られるものの、更なる溶融張力の改良の余地があるのが現状であった。
【特許文献1】特開昭59−93711号公報
【特許文献2】特開昭61−152754号公報
【特許文献3】特開平2−298536号公報
【特許文献4】特開昭62−121704号公報
【特許文献5】特公平5−79683号公報
【特許文献6】特開平5−222122号公報
【特許文献7】特許第3176932号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来以上に高い溶融張力を有する改質ポリプロピレン系樹脂を得る方法を見出すことを発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高い溶融張力を有するポリプロピレン系樹脂を得る方法として、上に挙げた手段のうち、ポリプロピレンを架橋変成させる手法として電離性放射線(高エネルギー放射線)を用いる方法を採用し、さらに変成させるべきポリプロピレン系樹脂として種々の特性を有するものを用いて実験検討を重ねたところ、驚くべきことに、ある特定の物性を有するポリプロピレン系樹脂を採用した場合に、従来に比べて極めて効率よく架橋反応が進行し、高い溶融張力を有するポリプロピレン系樹脂を製造できる方法を見出し、本発明を創作するに至った。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、下記(i)〜(iii)の特性を有するポリプロピレン系樹脂(a)に対し、電離性放射線を照射することにより溶融張力(MT)を1.1倍以上に増大させてなる改質ポリプロピレン系樹脂(a’)の製造方法(但し、MTは、温度230℃、オリフィス(L/D=40mm/2mm)、ピストンスピード20mm/分、引取速度4m/分の一定値で引き取る際にかかる荷重(g)を意味する。引取速度が4m/分に達しない場合には、最大延展速度における引取りの荷重を意味する。)に存する。
(i)温度230℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.01〜100g/10分である。
(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5〜4.0であり、且つ、Z平均分子量/数平均分子量(Mz/Mn)が1.5〜12.0である。
(iii)13C−NMRによって測定されるプロピレン連鎖部の位置不規則性が下記の範囲にある。
2,1-挿入に基づく位置不規則性 0.01〜2.00モル%。
1,3-挿入に基づく位置不規則性 0.01〜0.40モル%。
【0010】
【0011】
また、本発明の他の要旨は、ポリプロピレン系樹脂(a)が[A]下記一般式[I]で示される遷移金属化合物、及び[B](B−1)有機アルミニウムオキシ化合物、(B−2)遷移金属化合物と反応してカチオンを形成可能な化合物、及び(B−3)イオン交換性層状化合物(珪酸塩を含む)から選択されるいずれか一種類以上からなる活性化剤を必須成分とし、[C]有機アルミニウム化合物を任意成分とする、メタロセン系触媒の存在下にプロピレンを重合して製造されることを特徴とする前記の改質ポリプロピレン系樹脂(a’)の製造方法に存する。
【0012】
【化2】

【0013】
(一般式[I]中において、A1 及びA2 は、共役五員環配位子〔同一化合物内ではA1 及びA2は同一でも異なっていてもよい〕を示し、該五員環の炭素は置換基を有してもよく、Qは、2つの共役五員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基、Mは、周期表第4〜6族から選ばれる金属原子を示し、X及びYは、それぞれ独立して、Mと結合した、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基又はケイ素含有炭化水素基を示す。)
【0014】
また、本発明の他の要旨は、ポリプロピレン系樹脂(a)が、下記(iv)の特性を有するホモポリプロピレンまたはプロピレン・エチレンランダム共重合体であることを特徴とする前記の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法に存する。
(iv)融点(Tm)が130℃以上である。
【0015】
【0016】
また、本発明の他の要旨は、実質的に酸素の不存在下で電離性放射線を照射することを特徴とする前記の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法に存する。
【0017】
また、本発明の他の要旨は、ポリプロピレン系樹脂(a)がフェノール系酸化防止剤、燐系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等の酸化防止剤を含まないことを特徴とする前記の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法に存する。
【0018】
また、本発明の他の要旨は、電離性放射線が電子線又はガンマー線である前記の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法に存する。
【0019】
また、本発明の他の要旨は、電離性放射線の照射量が0.1〜100kGyである前記の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法に存する。
【0020】
また、本発明の他の要旨は、電離性放射線を照射することにより溶融張力(MT)を2.0〜50倍に増大させることを特徴とする前記の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法に存する。
【0021】
また、本発明の他の要旨は、改質ポリプロピレン系樹脂(a')の溶融張力(MT’)が該改質ポリプロピレン系樹脂(a')のMFR’に基づき下記式[II]で計算される値(想定MT’)の1.2倍以上、好ましくは1.2〜2.0倍であることを特徴とする前記の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法に存する。
【0022】
【数2】

【0023】
また、本発明の他の要旨は、前記の方法によって製造された改質ポリプロピレン系樹脂(a')に存する。
【発明の効果】
【0024】
具体的には、ポリプロピレン系樹脂(a)としてGPC法によって規定される分子量分布が比較的狭く、また13C−NMR測定によって得られるプロピレン連鎖部の位置不規則性が特定の値を有するものを使用することで、効率の良い架橋反応が進行し、従来よりも低い線量見合いで同等の溶融張力の改良効果を得ることができる。線量を低く抑えられることで製造の効率の向上のみならず、ゲル化や色相の悪化や熱安定性の劣化をも抑えられることが期待できる。
【0025】
前記の分子量分布が比較的狭く、特定の位置不規則性を有するポリプロピレン系樹脂(a)は、代表的には所謂メタロセン触媒を用いることで製造することができる。一般にメタロセン触媒によって製造されたポリプロピレン系樹脂は、従来のチーグラー・ナッタ触媒で製造されたものと比較して分子量分布や組成分布、結晶性分布が比較的均一なものとなる。従って、架橋変成を行った場合、チーグラー・ナッタ触媒によって製造されたポリプロピレン系樹脂では、架橋の密度が空間的に不均一となるだけでなく、架橋された枝部の高分子鎖の長さも不均一となり効率的に架橋されず、架橋度合いを増すとゲル化を生じ易くなる。メタロセン触媒によって製造されたポリプロピレン系樹脂では、架橋密度が均一となり、さらに架橋された枝部の高分子鎖の長さが均一となるため、極めて効率よい架橋が達成されると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
1.ポリプロピレン系樹脂(a)
本発明においては、高溶融張力の改質ポリプロピレン系樹脂(a')を得るために電離性放射線(高エネルギー放射線)の照射による変成を行うが、ここで変成されるべきポリプロピレン系樹脂(a)としては、ホモポリプロピレンまたはプロピレンとプロピレンを除く炭素数2〜10までのα−オレフィン(コモノマー)との共重合体が好適に用いられる。コモノマーとしてはエチレンが好ましく用いられる。コモノマーの含有量としては、ポリプロピレン系樹脂(a)を基準として、通常5重量%以下、好ましくは4重量%以下で用いられる。最も好ましいのは耐熱性の観点からホモポリプロピレンである。さらに、ポリプロピレン系樹脂(a)は下記の特性を満たすものを用いることが必要である。
【0027】
1−1.メルトフローレート(MFR)
ポリプロピレン系樹脂(a)のメルトフローレートは0.01〜100g/10分であることが必要であり、好ましくは0.05〜50.0g/10分、さらに好ましくは0.1〜30.0g/10分の範囲である。メルトフローレートがこの範囲を下回る場合、架橋によるゲル化が顕著となり、この範囲を上回る場合には全体の分子量が低すぎて、架橋による溶融張力の改善効果があまり見られなくなる。
ここで、メルトフローレートはJIS K7210 A法、条件Mに従い、以下の条件で測定したものとする。
試験温度:230℃
公称加重:2.16kg
ダイ形状:直径2.095mm、長さ8.000mm
【0028】
1−2. Mw/Mn
ポリプロピレン系樹脂(a)のMw/Mn(=重量平均分子量/数平均分子量)は1.5〜4.0であることが必要であり、好ましくは、1.8〜3.8、さらに好ましくは2.0〜3.6である。Mw/Mnは、ポリプロピレン系樹脂の分子量分布を示す指標となるものであり、この範囲を超えるものでは先に記述した通り、架橋された枝部の高分子鎖の長さが不均一となり効率的な架橋が達成されない。一方であまり分子量分布が狭すぎると架橋反応は均一となっても、流動性が極端に悪くなり、物性バランスの取れた樹脂が得られなくなる。
ここで、Mw/Mnはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって算出されるものとする。
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC 150C)
検出器:FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB)
測定温度:140℃
流速:1.0ml/分
注入量:0.2ml
【0029】
1−3. Mz/Mn
さらに、ポリプロピレン系樹脂(a)のMz/Mn(=Z平均分子量/数平均分子量)は1.5〜12.0の範囲であることが必要であり、好ましくは、2.0〜11.5、さらに好ましくは3.0〜11.0である。Mz/Mnがこの範囲を超えるものでは、架橋された枝部の高分子鎖の長さが不均一となり効率的な架橋が達成されない。一方であまり分子量分布が狭すぎると架橋反応は均一となっても、流動性が極端に悪くなり、物性バランスの取れた樹脂が得られなくなる。ここで、Mz/MnもMw/Mnと同様にポリプロピレン系樹脂の分子量分布(分子量分布の均一性)を示すものであるが、Z平均分子量の定義から明らかなように、分子量の大きな成分からの寄与が大きいため、Mz/Mnはより詳細に分子の均一性を表すパラメータとなる。ポリプロピレン系樹脂を構成する各分子の長さの均一性は本発明において極めて重要な意味を有するため、本規定が必要となる。
ここで、Mz/Mnは、Mw/Mnと同様にゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって算出されるものとする。
【0030】
1−4.位置不規則性
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(a)の更なる特徴は、13C−NMR測定によって得られるプロピレン連鎖部の位置不規則性の範囲によって規定される。本発明におけるポリプロピレン系樹脂(a)としては、位置不規則性が下記の範囲にあるものである。
2,1-挿入に基づく位置不規則性 0.01〜2.00モル%、好ましくは0.05〜1.50モル%
1,3-挿入に基づく位置不規則性 0.01〜0.40モル%、好ましくは0.02〜0.39モル%
【0031】
ここで、13C−NMR測定の結果から上記の位置不規則性を算出する方法としては、特開2006−45446号公報に記載の方法に従って行うものとするが、その概要は次の通りである。
【0032】
13C−NMRスペクトルは、直径10mmのNMR用サンプル管の中で、250mgの試料をo−ジクロロベンゼン2mlにロック溶媒である重水素化ベンゼン0.5mlを加えた溶媒中で完全に溶解させた後、130℃でプロトン完全デカップリング法で測定する。測定条件は、フリップアングル90°、パルス間隔15秒とする。微量成分の定量の為、炭素核の共鳴周波数として100MHz以上のNMR装置を使用して5,000回以上の積算を行う。ケミカルシフトは頭−尾結合し、メチル分岐の方向が同一であるプロピレン単位5連鎖の第3単位目のメチル基を21.8ppmとして設定し、他の炭素ピークのケミカルシフトはこれを基準とする。
【0033】
1−5.ポリプロピレン系樹脂(a)の製造法
上記のような特徴を有するポリプロピレン系樹脂(a)を、より工業的に取り扱いが容易で安価に製造するためには、[A]下記一般式[I]で示される遷移金属化合物、及び[B](B−1)有機アルミニウムオキシ化合物、(B−2)遷移金属化合物と反応してカチオンを形成可能な化合物、及び(B−3)イオン交換性層状化合物(珪酸塩を含む)から選択されるいずれか一種類以上からなる活性化剤を必須成分とし、[C]有機アルミニウム化合物を任意成分とする、メタロセン系触媒の存在下にプロピレンを重合して製造することができる。その中でも上記[A]と(B−3)及び任意成分としての有機アルミニウム化合物からなる触媒を用いるのが最も好ましい。
【0034】
【化3】

【0035】
(一般式[I]中において、A1 及びA2 は、共役五員環配位子〔同一化合物内ではA1 及びA2は同一でも異なっていてもよい〕を示し、該五員環の炭素は置換基を有してもよく、Qは、2つの共役五員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基、Mは、周期表第4〜6族から選ばれる金属原子を示し、X及びYは、それぞれ独立して、Mと結合した、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基又はケイ素含有炭化水素基を示す。)
【0036】
[A]遷移金属化合物
本発明において主として使用される遷移金属化合物は、上式(I)で示されるメタロセン錯体である。一般式[I]中、A1 及びA2は、共役五員環配位子(同一化合物内においてA1 及びA2 は同一でも異なっていてもよい)を示し、そして、A1及びA2 の共役五員環配位子は、結合性基Qに結合していない炭素に置換基を有していてもよい。
【0037】
上記の共役五員環配位子の典型例としては、例えば、シクロペンタジエニル基を挙げることができる。このシクロペンタジエニル基は、水素原子を4個有するものであってもよく、また、上記した通り、その水素原子の幾つかが置換基で置換されているものであってもよい。上記の置換基の1つの具体例は、炭素数が通常1〜20、好ましくは1〜15の炭化水素基である。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、ナフチル基、ブテニル基、ブタジエニル基、トリフェニルカルビル基などが挙げられる。
【0038】
上記の炭化水素基は、一価の基としてシクロペンタジエニル基と結合していてもよく、その置換基の末端で2種が結合して縮合環を形成してもよい。縮合環を形成したシクロペンタジエニル基の典型例としては、インデン、フルオレン、アズレンなどの化合物やその誘導体である。これらの中でも、インデン、アズレンやその誘導体が更に好ましく、その中でもアズレンが最も好ましい。
【0039】
上記の炭化水素基以外の置換基としては、珪素、酸素、窒素、燐、硼素、硫黄などの原子を含有する炭化水素基が挙げられる。その典型例としては、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、フリル基、トリメチルシリル基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピラゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ジメチルフォスフィノ基、ジフェニルフォスフィノ基、ジフェニル硼素基、ジメトキシ硼素基、チエニル基などが挙げられる。その他の置換基としては、ハロゲン原子又はハロゲン含有炭化水素基などが挙げられる。その典型的例としては、塩素、臭素、沃素、フッ素、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0040】
ところで、本発明で使用する遷移金属化合物の特徴は、A1及びA2 のうち少なくとも一方が、共役五員環配位子上の隣接した置換基に結合し五員環の2原子を含めて7〜10員の縮合環を有する点にある。すなわち、A1及びA2 のどちらか一方は、少なくとも共役五員環の隣接する炭素2原子を含めた7〜10の縮合環を形成することができる。縮合環の炭素は、共役五員環の2原子以外は飽和されていても不飽和であってもよい。
【0041】
例えば、A1 及びA2を構成する上記の様な配位子としては、ヒドロアズレニル基、メチルヒドロアズレニル基、エチルヒドロアズレニル基、ジメチルヒドロアズレニル基、メチルエチルヒドロアズレニル基、メチルイソプロピルヒドロアズレニル基、メチルフェニルイソプロピルヒドロアズレニル基、各種アズレニル基の水添体、ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、メチル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、エチル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、フェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、メチルフェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、エチルフェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、メチルジフェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカニル基、メチル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカジエニル基、メチルフェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカジエニル基、エチルフェニル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカジエニル基、メチルイソプロピル−ビシクロ−[6.3.0]−ウンデカジエニル基、ビシクロ−[7.3.0]−ドデカニル基及びその誘導体、ビシクロ−[7.3.0]−ドデカジエニル基及びその誘導体、ビシクロ−[8.3.0]−トリデカニル基及びその誘導体、ビシクロ−[8.3.0]−トリデカジエニル基及びその誘導体などが例示される。
【0042】
上記の各基の置換基としては、前述した炭化水素基、珪素、酸素、窒素、燐、硼素、硫黄などの原子を含有する炭化水素基、ハロゲン原子又はハロゲン含有炭化水素基などが挙げられる。
【0043】
Qは、2つの共役五員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基を示す。すなわち、Qは、2価の結合性基であり、A1及びA2 とを架橋する。Qの種類は特に制限されないが、その具体例としては、(a)炭素数が通常1〜20、好ましくは1〜12の2価の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基、具体的には、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレンなどの不飽和炭化水素基、ハロアルキレン基、ハロシクロアルキレン基、(b)シリレン基又はオリゴシリレン基、(c)炭素数が通常1〜20、好ましくは1〜12の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基を置換基として有するシリレン基又はオリゴシリレン基、(d)ゲルミレン基、(e)炭素数が通常1〜20の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基を置換基として有するゲルミレン基などが挙げられる。これらの中では、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、炭化水素基を置換基として有するシリレン基又はゲルミレン基が好ましい。
【0044】
Mは、周期表第4〜6族から選ばれる遷移金属原子を示し、好ましくは、チタン、ジルコニウム又はハフニウムの4族遷移金属、更に好ましくは、ジルコニウム又はハフニウムである。
【0045】
X及びYは、それぞれ独立して、Mと結合した水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基又はケイ素含有炭化水素基を示す。上記の各炭化水素基における炭素数は、通常1〜20、好ましくは1〜12である。これらの中では、水素原子、塩素原子、メチル基、イソブチル基、フェニル基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基が好ましい。
【0046】
本発明における遷移金属化合物の具体例としては、本発明のブロック共重合体が剛性と耐熱性に優れることを特徴とすることから、特に以下の化合物であることが好ましい。なお、化合物の記載は単に化学的名称のみで指称されているが、その立体構造は本発明でいう非対称性を持つ化合物と対称性を持つ化合物の双方を意味する。
【0047】
(1)ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(2−ナフチル)−4H−アズレニル}]ジルコニウム、(2)ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(3)ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(4)ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4H−5,6,7,8−テトラヒドロアズレニル}]ハフニウム、(5) ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(6)ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニル)−4H−5,6,7,8−テトラヒドロアズレニル}]ハフニウム、(7)ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−t−ブチルフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(8)ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(9)ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−トリメチルシリル−3−メチル−フェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(10)ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−トリメチルシリル−3,5−ジクロロ−フェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(11)ジクロロ[1,1’−シラフルオレニルビス{2−エチル−4−(4−トリメチルシリル−3,5−ジクロロフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム、(12)ジクロロ[1,1’−シラフルオレニルビス{2−エチル−4−(4−トリメチルシリル−3,5−ジメチルフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウムなどが例示できる。
【0048】
上記のような化合物におけるX及びY部分をなすジクロリドの一方又は双方が、水素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、エチル基、イソブチル基、フェニル基、フルオロフェニル基、ベンジル基、メトキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などに代わった化合物も例示することができる。また、先に例示した化合物の中心金属がジルコニウムやハフニウムの代わりに、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、バナジウム、タングステン、モリブデンなどに代わった化合物も例示することができる。これら[A]成分は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、重合の第一段階終了時や第二段階の重合開始前に、新たに[A]成分を追加してもよい。
【0049】
[B]助触媒(活性化剤成分)
本発明において[B]成分としては、(B−1)有機アルミニウムオキシ化合物、(B−2)遷移金属化合物と反応して、カチオンを形成可能な化合物、(B−3)イオン交換性層状化合物(珪酸塩を含む)、のいずれか一種類以上からなる活性化剤が用いられる。
【0050】
本発明において、(B−1)有機アルミニウムオキシ化合物としては、具体的には次の各一般式で表される化合物が挙げられる。
【0051】
【化4】

【0052】
上記各一般式中、R1は水素原子又は炭化水素基、好ましくは炭素数1〜10、特に好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基を示す。また、複数のR1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。また、pは0〜40、好ましくは2〜30の整数を示す。
【0053】
一般式のうち、一番目及び二番目の式で表される化合物は、アルミノキサンとも称される化合物であって、これらの中では、メチルアルミノキサン又はメチルイソブチルアルミノキサンが好ましい。上記のアルミノキサンは、各群内及び各群間で複数種併用することも可能である。そして、上記のアルミノキサンは、公知の様々な条件下に調製することができる。
【0054】
一般式の三番目で表される化合物は、一種類のトリアルキルアルミニウム又は二種類以上のトリアルキルアルミニウムと、一般式R2B(OH)2で表されるアルキルボロン酸との10:1〜1:1(モル比)の反応により得ることができる。一般式中、R1及びR2は、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基を示す。
【0055】
本発明において、(B−2)の遷移金属化合物と反応して、カチオンを形成可能な化合物としては、成分[A]と反応して成分[A]をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物又はルイス酸が用いられる。このようなイオン性化合物としては、カルボニウムカチオン、アンモニウムカチオンなどの陽イオンと、トリフェニルホウ素、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などの有機ホウ素化合物との錯化物などが挙げられる。
【0056】
上記のようなルイス酸としては、種々の有機ホウ素化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などが例示される。或いは、塩化アルミニウム、塩化マグネシウムなどの金属ハロゲン化合物が例示される。なお、上記のルイス酸のある種のものは、成分[A]と反応して成分[A]をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物として把握することもできる。
【0057】
上記の成分[A]と(B−1)の反応生成物又は成分[A]と(B−2)の反応生成物は、シリカなどの微粒子状担体に担持された触媒として、使用されることが最も好ましい。
【0058】
本発明において、(B−3)イオン交換性層状化合物(珪酸塩を含む)は、イオン結合などによって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる化合物であり、含有するイオンが交換可能なものである。イオン交換性層状化合物は、六方最密パッキング型、アンチモン型、CdCl2 型、CdI2 型などの層状の結晶構造を有するイオン結晶性化合物等を例示することができる。
【0059】
このような結晶構造を有するイオン交換性層状化合物の具体例としては、α−Zr(HAsO42 ・H2 O、α−Zr(HPO42 、α−Zr(KPO42 ・3H2O、α−Ti(HPO42 、α−Ti(HAsO42 ・H2 O、α−Sn(HPO42 ・H2O、y−Zr(HPO42、y−Ti(HPO42 、y−Ti(NH4PO42 ・H2 Oなどの多価金属の結晶性酸性塩が挙げられる。
【0060】
無機珪酸塩としては、粘土、粘土鉱物、ゼオライト、珪藻土などが挙げられる。これらは、合成品を用いてもよいし、天然に産出する鉱物を用いてもよい。粘土、粘土鉱物の具体例としては、アロフェンなどのアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイトなどのカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイトなどのハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライトなどの蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族、バーミキュライトなどのバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母鉱物、その他、アタパルジャイト、セピオライト、パイゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、緑泥石などが挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。人工合成物としては、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトなどが挙げられる。
【0061】
これら具体例のうち好ましくは、デイッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイトなどのカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイトなどのハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライトなどの蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族、バーミキュライトなどのバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられ、特に好ましくはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族、バーミキュライトなどのバーミキュライト鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられる。
【0062】
これらのイオン交換性層状化合物は、そのまま用いてもよいが、塩酸、硝酸、硫酸などによる酸処理及び/又は、LiCl、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2 、MgSO4 、ZnSO4 、Ti(SO42、Zr(SO42 、Al2 (SO43 などの塩類処理を行ったほうが好ましい。また、粉砕や造粒などの形状制御を行ってもよく、粒子性状に優れたブロック共重合体を得るためには、造粒することが好ましい。また、上記成分は、通常は脱水乾燥してから用いる。
【0063】
[C]有機アルミニウム化合物
本発明の[C]成分として用いられる有機アルミニウム化合物の例は、AlRm3-m(式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Xは水素、ハロゲン、アルコキシ基、アリールオキシ基、mは0<m≦3の数。)で表される化合物であり、具体的にはトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム又はジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのハロゲンもしくはアルコキシ含有アルキルアルミニウムである。この他、メチルアルミノキサンなどのアルミノキサンも使用できる。これらのうち特にトリアルキルアルミニウムが好ましい。これら[C]成分は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、重合の第一段階終了時や第二段階の重合開始前に、新たに[C]成分を追加してもよい。
【0064】
[各成分の接触及び担体]
上記の[A]成分、[B]成分、[C]成分を接触させて触媒とするが、その接触方法は特に限定されない。この接触は、触媒調製時だけでなく、オレフィンによる予備重合時、又は、オレフィンの重合時に行ってもよい。触媒各成分の接触時、又は接触後にポリエチレンやポリプロピレンなどの重合体、シリカやアルミナなどの無機酸化物の固体を共存させるか、接触させてもよい。接触は窒素などの不活性ガス中、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒中で行ってもよい。接触温度は、−20℃〜溶媒沸点の間で行い、特には、室温から溶媒沸点の間で行うのが好ましい。
【0065】
[触媒各成分の使用量]
触媒各成分の使用量は、例えば、(B−3)成分1gあたり[A]成分が0.0001〜10mmol、好ましくは0.001〜5mmolであり、[C]成分が0.001〜10,000mmol、好ましくは0.01〜100mmolである。また、[A]成分中の遷移金属と[C]成分中のアルミニウムの原子比が1:0.01〜1,000,000、好ましくは、0.1〜100,000である。この様にして得られた触媒は、そのまま洗浄せずに用いてもよく、洗浄した後に用いてもよい。必要に応じて新たに[C]成分を組合せて用いてもよい。この際に用いられる[C]成分の量は、[A]成分中の遷移金属に対する[C]成分中のアルミニウムの原子比で1:0〜10,000になるように選ばれる。
【0066】
[予備重合]
プロピレンを重合してポリプロピレン系樹脂(a)を製造する本重合の前に、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレンなどのオレフィンを予備的に重合し、必要に応じて洗浄したものを触媒として用いることができる。この予備重合は窒素などの不活性ガス中、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒中で行ってもよい。
【0067】
[重合、本重合]
ポリプロピレン系樹脂(a)を製造するための重合プロセスは、それぞれの成分について、スラリー法、バルク法、気相法、溶液法などを任意に用いることができる。重合方式については、バッチ重合法、連続重合法のいずれを採用することも可能である。重合温度は、通常用いられている温度範囲であれば特に問題なく用いることができる。具体的には、0〜200℃、好ましくは、40〜100℃の範囲を用いることができる。重合圧力は、選択するプロセスによって差異が生じるが、通常用いられている圧力範囲であれば、特に問題なく用いることができる。具体的には、0より大きく200MPa、好ましくは、0.1〜50MPaの範囲を用いることができる。この際に、窒素などの不活性ガスを共存させることも可能である。
【0068】
ポリプロピレン系樹脂(a)の分子量すなわちMFRを制御するには、モノマーに対する水素の供給量比を制御すれば良い。また、一般にメタロセン触媒は重合温度が高いほど得られるポリマーの分子量が低くなる傾向があるため、重合温度を変化させることによっても分子量を制御することが可能である。また、水素供給量比と重合温度の両方を組み合わせて分子量を制御することもできる。共重合体重合時には適宜モノマーの供給量比を調整することによって任意のコモノマー含量を有する樹脂を製造することが出来る。
【0069】
1−6.融点(Tm)
本発明のポリプロピレン系樹脂(a)はホモポリプロピレンであっても共重合体であってもよい。(a)の融点としては110〜170℃の範囲であればよいが、120〜170℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは130〜170℃であることが好ましい。融点が低すぎると、材料の耐熱性が失われてしまうため好ましくない。共重合体である場合、コモノマーとしてプロピレンを除く炭素数2〜10までのα―オレフィンが好適に用いられることは前記の通りであるが、ここでの融点の規定より、共重合体中のコモノマーの好ましい含量としては5重量%以下、好ましくは4重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下、最も好ましくは0重量%即ちホモポリプロピレンである。
【0070】
融点は示差走査熱量(DSC)測定によって得られるものとし、サンプル5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させてその熱履歴を消去し、更に10℃/分の昇温速度で融解させた時の融解曲線のピーク温度を融点とする。
【0071】
1−7.溶融張力=メルトテンション(MT)
本発明において原料となるポリプロピレン系樹脂(a)の溶融張力は、改質ポリプロピレン樹脂(a’)において所望とされる溶融張力(MT’)によっても左右されるが、通常は0.1〜20g、好ましくは0.2〜10g程度である。本発明の電離性放射線の照射によって溶融張力は少なくとも1.1倍に、好ましくは1.2〜2.0倍にすることができる。
【0072】
ここで、溶融張力(MT)は、東洋精機製作所製キャピログラフ1C型等の、バレル内径9.5mmを有するキャピラリ型レオメータを用いて下記条件の下で、オリフィスから押し出される樹脂を引取速度4m/分の一定値で引き取る際にかかる荷重(g)を意味する。引取速度が4m/分に達しない場合には、最大延展速度における引取りの荷重を意味する。
測定温度:230℃
オリフィス(L/D:40mm/2mm)
ピストンスピード:20mm/分
ダイの出口から荷重測定位置までの距離:40cm
【0073】
2.ポリプロピレン系樹脂(a)の改質手法
2−1.電離性放射線の照射
本発明におけるポリプロピレン系樹脂(a)の改質手法としては、電離性放射線(高エネルギー放射線)の照射を用いる。電離性放射線はいずれも高エネルギーを放射するものであって、例えば電子線やα線、β線、γ線等が挙げられる。このうち、電子線あるいはγ線が好適に用いられる。電離性放射線を用いて改質(架橋変成)を行う場合、過酸化物等を用いる架橋変成の場合に比べて、変成時に樹脂を溶融したり溶解したりする操作がなく取り扱いが簡単であること、変成率の制御が簡単であること、過酸化物や架橋剤等の化学薬品を使用しない、または使用量を極少量にできること等の利点がある。
【0074】
電離性放射線の照射線量としては、0.1〜100kGyが用いられ、好ましくは1.0〜70kGy、さらに好ましくは5.0〜50kGyの範囲である。照射線量がこの範囲を下回ると架橋反応が不十分であり、この範囲を超えるとゲル化が顕著となる。電離性放射線の照射時の温度は変成すべきポリプロピレン系樹脂(a)の結晶が融解しない範囲であればよく、即ちポリプロピレン系樹脂(a)の融点以下であれば良い。
【0075】
電離性放射線を照射する際には、酸素が存在すると分子の切断が過剰に進行するため、酸素の実質的な不存在下で照射することが好ましい。そのために、照射の設備内を全て真空にする、或いは窒素等の不活性気体で満たすか、照射したいサンプルを密閉可能な容器に入れた後、系内を脱気し真空にする、或いは窒素等の不活性気体で満たし、その状態で容器ごと照射を行うと良い。この際、容器の素材としては使用する電離性放射線の遮蔽効果の小さいものを選択すべきである。
【0076】
2−2.改質時のポリプロピレン系樹脂(a)の形態
改質(架橋変成)時においては、ポリプロピレン系樹脂(a)は固体の状態であれば良く、パウダー状、ペレット状、フレーク状等いずれの状態であっても構わない。また、既に成形された状態、例えばシートやフィルム、射出成形等で得られる製品の形態であっても構わない。ただし、そのようなある程度の厚みのあるものに照射する場合には、放射線の透過率等を勘案する必要がある。例えば、そのような場合には電子線よりも透過率の高いγ線を用いる方が、均一な架橋が達成されるため好ましい。
【0077】
2−3.架橋助剤
架橋変成に供されるポリプロピレン系樹脂(a)にあらかじめ架橋助剤を加えることもできる。従来よりポリオレフィンの架橋に用いられている架橋助剤を特に限定せずに用いることができる。代表的には一分子中に複数のビニル基を有する有機化合物が用いられ、例示としては、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリアリルイソシアヌレート、エチルビニルベンゼン、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリアリルエステル、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリルなどが挙げられ、これらは単独で用いられても併用されてもよい。一般に架橋剤の添加量はポリプロピレン系樹脂100重量部に対し、0.01〜5重量部である。
【0078】
2−4.その他の添加剤
架橋変成に供されるポリプロピレン系樹脂(a)に、種々の添加剤を加えてあってもよい。例えばポリオレフィン樹脂用配合剤として汎用される核剤、フェノール系酸化防止剤、燐系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、中和剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、金属不活性剤、過酸化物、充填剤、抗菌剤、防黴剤、蛍光増白剤、着色剤、可塑剤、発泡剤といった各種添加剤を加えることができる。しかしながら、架橋変成前のポリプロピレン樹脂(a)に各種の酸化防止剤を添加する場合には、架橋変成の効率が低下するのみならず、高エネルギー放射線の照射によって生じたラジカルにより黄変し易く色相悪化の原因となるので、より少量の範囲であることが好ましく、0.05重量部以下、好ましくは0.01重量部以下、最も好ましくは添加しない。後述するように、特に酸化防止剤については変成後の樹脂(a')に添加して混練し、構造の径時変化が少ない状態に調製されることが好ましい形態である。
【0079】
その他の添加剤については、電離性放射線による劣化や分解等の問題がない限り、変成前の樹脂(a)、変成後のポリプロピレン系樹脂(a')いずれに加えても構わず、その範囲は一般に組成物100重量部に対して0.0001〜3重量部、好ましくは0.001〜1重量部である。
【0080】
3.改質改質ポリプロピレン系樹脂(a')の特徴
3−1.大きい溶融張力(メルトテンションMT)
本発明によって得られる改質ポリプロピレン系樹脂(a')は、一般のポリプロピレン系樹脂と比べて大きい溶融張力(メルトテンションMT)を有することが特徴である。従来より、ポリプロピレン系樹脂のMTの値はMFRと相関関係があることが知られており、一般にMFRが低いほどMTが高い。この関係は改質されていない(架橋変成されていない)通常のポリプロピレン系樹脂に関しても当てはまるため、従来技術において、高溶融張力の定義として、種々の関係式が提案されてきた。
【0081】
例えば、特開2003−25425号公報には、高溶融張力を有するポリプロピレンの定義として、
log(MS)>−0.61×log(MFR)+0.82 (230℃)
の関係式が提案されている。ここで、MSはMTと同義である。
【0082】
また、特開2003−64193号公報には、高溶融張力を有するポリプロピレンの定義として、
11.32×MFR-0.7854≦MT(230℃)
の関係式が提案されている。
【0083】
また、特開2003−94504号公報には、高溶融張力を有するポリプロピレンの定義として、
MT≧7.52×MFR-0.576
の関係式が提案されている。ここに、MTは190℃、MFRは230℃で測定されるものである。
【0084】
いずれも、MTをMFRに対して両対数プロットした際に、ある特定の負の傾きを有する直線によって領域を分けて、あるMFRにおいて、その直線より上の値を有するものが高溶融張力であるとするものである。本発明においてもこれらの先行技術を参考に、実験で得られたMFR及びMTデータを元に、下記の式によって溶融張力の高低を判断する。即ち、下記式[II]を満たす場合に高溶融張力を有すると判断し、満たさない場合には溶融張力が低い(一般のポリプロピレン系樹脂並み)であるとする。
【0085】
【数3】

【0086】
また、本発明の改質ポリプロピレン系樹脂(a’)のMT’は、原料となるポリプロピレン系樹脂(a)のMTに比べて、1.1倍以上に増大していることが特徴である。好ましくは改質ポリプロピレン系樹脂(a’)の2.0〜50倍の溶融張力を有するように電離性放射線の照射処理が行われる。改質ポリプロピレン系樹脂(a’)の更なる特徴は、その溶融張力が上記式[II]で計算される値(想定MT’)よりも大きいことである。通常1.2倍以上、好ましくは1.2〜2.0の範囲になるように調製される。
【0087】
3−2.改質ポリプロピレン系樹脂(a')の利用
架橋変成後のポリプロピレン系樹脂(a')はそれ単独で使用することができる。改質ポリプロピレン系樹脂(a')に改質材としてその他の樹脂を加えてもよい。例えば、ポリオレフィンであれば、各種ポリエチレン、エチレン系エラストマー、その他オレフィン系エラストマー、炭素数4以上を有する各種ポリα-オレフィン重合体、エチレン−ジエン系単量体共重合体、酸変成ポリオレフィン等が挙げられ、ポリオレフィン以外の樹脂としてはポリジエン系(共)重合体、スチレン系エラストマー、アクリル酸系共重合体、メタクリル酸系共重合体、ABS樹脂、石油樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート、各種アイオノマー等が挙げられる。これらの添加量は一般にポリプロピレン系樹脂(a')100重量部に対して、1重量部以上100重量部未満である。これらの樹脂の添加方法としては、例えば、単軸または二軸の押出機あるいはブラベンダーを使用した、溶融状態での機械的混練が好ましく用いられる。
【0088】
電離性放射線によって変性されたポリプロピレン系樹脂(a')は通常、酸化防止剤等の安定剤を配合し押出機内で溶融混練することで構造の径時変化が少ない状態に調製されることが好ましいが、残存するラジカルを失活させる目的で、混練の前に加熱処理を施すこともできる。加熱処理の条件はポリプロピレンが溶融しない条件下であれば特に限定されるものではないが、好ましくは80℃/30分、更に好ましくは80℃/30分の処理後に再び100〜130℃/1時間の加熱処理を施すのが良い。
【実施例】
【0089】
本発明をさらに具体的に説明するために、以下において好適な実施例及びそれらに対応する比較例を記載するが、本発明はかかる実施例によりなんら限定されるものではない。以下の実施例及び比較例における諸物性の測定方法、改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法は、以下のとおりである。
【0090】
(1)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210 A法、条件Mに従い、以下の条件で測定した。
試験温度:230℃
公称加重:2.16kg
ダイ形状:直径2.095mm、長さ8.000mm
【0091】
(2)GPC
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC 150C)
検出器:FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB)
測定温度:140℃
流速:1.0ml/min
注入量:0.2ml
試料の調製:試料はODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させる。GPC測定で得られた保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー社製の以下の銘柄である。F380,F288,F128,F80,F40,F20,F10,F4,F1,A5000,A2500,A1000。各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
各温度で溶出した成分の溶出量と分子量分布は、FT−IRによって得られる2,945cm-1の吸光度をクロマトグラムとして使用して求める。溶出量は各溶出成分の溶出量の合計が100%となるように規格化する。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。
分子量への換算は、森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式([η]=K×Mα)には以下の数値を用いる。
[標準ポリスチレン]
K=1.38×10-4 、α=0.70
[プロピレン系重合体]
K=1.03×10-4 、α=0.78
分子量に対する微分溶出量のプロットを作製し、常法により数平均分子量及び重量平均分子量、Z平均分子量を測定し、分子量分布を求める。各平均分子量の定義については、例えば「高分子科学の基礎、第2版」 高分子学会編、 東京化学同人, 1994, pp.29-31等に記載されている。
【0092】
(3)DSC
セイコー社製DSCを用いて測定した。サンプル5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/minの降温速度で結晶化させてその熱履歴を消去し、更に10℃/minの昇温速度で融解させた時の融解曲線のピーク温度を融点とする。
【0093】
(4)メルトテンション(MT)
東洋精機製作所製、キャピログラフ1C型(バレル内径9.5mm)を用いて下記条件の元で測定した。引取速度4m/分の一定値で引き取る際にかかる荷重(g)を意味する。引取速度が4m/分に達しない場合には、最大延展速度における引取りの荷重を意味する。
温度:230℃
オリフィス(L/D=40mm/2mm)
ピストンスピード=20mm/分
ダイの出口から荷重測定位置までの距離:40cm
【0094】
(5)13C−NMR測定
13C−NMRスペクトルは、直径10mmのNMR用サンプル管の中で、250mgの試料をo−ジクロロベンゼン2mlにロック溶媒である重水素化ベンゼン0.5mlを加えた溶媒中で完全に溶解させた後、130℃でプロトン完全デカップリング法で測定する。測定条件は、フリップアングル90°、パルス間隔15秒とする。微量成分の定量の為、炭素核の共鳴周波数として100MHz以上のNMR装置を使用して5,000回以上の積算を行う。ケミカルシフトは頭−尾結合し、メチル分岐の方向が同一であるプロピレン単位5連鎖の第3単位目のメチル基を21.8ppmとして設定し、他の炭素ピークのケミカルシフトはこれを基準とする。2,1-挿入に基づく位置不規則性および1,3-挿入に基づく位置不規則性の同定は、特開2006−45446号公報に記載の方法で行った。
【0095】
(6)改質ポリプロピレン系樹脂(a')の外観
架橋変成によって得られた改質ポリプロピレン系樹脂(a')の外観(黄変の状態)を目視によって評価した。評価結果は以下の通りとした。
○・・・樹脂に黄変は認められない。
×・・・樹脂は黄変している。
【0096】
[製造例1]
(メタロセン系触媒Aの製造)
(触媒の調製)以下の操作は、不活性ガス下、脱酸素、脱水処理された溶媒、モノマーを使用して実施した。先に化学処理したモンモリロナイトを減圧下、200℃で、2時間加熱処理を実施した。また、内容積3Lの攪拌翼のついたガラス製反応器に上記で得た乾燥モンモリロナイト200gを導入し、ノルマルヘプタン、さらにトリエチルアルミニウムのヘプタン溶液(10mmol)を加え、室温で攪拌した。1時間後、ノルマルヘプタンにて洗浄(残液率1%未満)し、スラリーを2000mLに調製した。次に、あらかじめ(r)−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム3mmolのトルエンスラリー870mLとトリイソブチルアルミニウム(30mmol)のヘプタン溶液42.6mLを室温にて1時間反応させておいた混合液を、モンモリロナイトスラリーに加え、1時間攪拌した。続いて、窒素で十分置換を行った内容積10Lの攪拌式オートクレーブにノルマルヘプタン2.1Lを導入し、40℃に保持した。そこに先に調製したモンモリロナイト/錯体スラリーを導入した。温度が40℃に安定したところでプロピレンを100g/時間の速度で供給し、温度を維持した。4時間後、プロピレンの供給を停止し、さらに2時間維持した。回収した予備重合触媒スラリーから、上澄みを約3L除き、トリイソブチルアルミニウム(30mmol)のヘプタン溶液を170mL添加し、10分間撹拌した後に、40℃にて減圧下熱処理した。この操作により触媒1g当たりポリプロピレンが2.13gを含む予備重合触媒が得られた。
(ポリマーの重合)
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、水素3.0リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、上記メタロセン系触媒Aを固体触媒成分として1.3gアルゴンで圧入して重合を開始させ、30分かけて70℃に昇温し、100分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、パウダー状のポリプロピレン25kgを得た。
【0097】
[製造例2]
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、水素0.6リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、製造例1の固体触媒成分1.8gをアルゴンで圧入して重合を開始させ、30分かけて70℃に昇温し、120分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン18kgを得た。
【0098】
[製造例3]
(メタロセン系触媒Bの製造)
(触媒の調製)以下の操作は、不活性ガス下、脱酸素、脱水処理された溶媒、モノマーを使用して実施した。先に化学処理したモンモリロナイトを減圧下、200℃で、2時間加熱処理を実施した。また、内容積3Lの攪拌翼のついたガラス製反応器に上記で得た乾燥モンモリロナイト200gを導入し、ノルマルヘプタン、さらにトリエチルアルミニウムのヘプタン溶液(10mmol)を加え、室温で攪拌した。1時間後、ノルマルヘプタンにて洗浄(残液率1%未満)し、スラリーを2000mLに調製した。次に、あらかじめ(r)−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ジルコニウム3mmolのトルエンスラリー870mLとトリイソブチルアルミニウム(30mmol)のヘプタン溶液42.6mLを室温にて1時間反応させておいた混合液を、モンモリロナイトスラリーに加え、1時間攪拌した。続いて、窒素で十分置換を行った内容積10Lの攪拌式オートクレーブにノルマルヘプタン2.1Lを導入し、40℃に保持した。そこに先に調製したモンモリロナイト/錯体スラリーを導入した。温度が40℃に安定したところでプロピレンを100g/時間の速度で供給し、温度を維持した。4時間後、プロピレンの供給を停止し、さらに2時間維持した。回収した予備重合触媒スラリーから、上澄みを約3L除き、トリイソブチルアルミニウム(30mmol)のヘプタン溶液を170mL添加し、10分間撹拌した後に、40℃にて減圧下熱処理した。この操作により触媒1g当たりポリプロピレンが2.10gを含む予備重合触媒が得られた。
(プロピレンの重合)
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、エチレン2.0kg、水素1.5リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、上記メタロセン系触媒Bを固体触媒成分として2.0gアルゴンで圧入して重合を開始させ、30分かけて62℃に昇温し、100分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン重合体27kgを得た。
【0099】
[製造例4]
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、エチレン1.4kg、水素1.0リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、製造例1の固体触媒成分0.45gをアルゴンで圧入して重合を開始させ、30分かけて70℃に昇温し、120分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン24kgを得た。
【0100】
[製造例5]
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、エチレン3.2kg、水素2.8リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、製造例1の固体触媒成分0.33gをアルゴンで圧入して重合を開始させ、30分かけて70℃に昇温し、30分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン20kgを得た。
【0101】
[製造例6]
(Ti系固体触媒の製造)
n−ヘキサン6リットル、ジエチルアルミニウムモノクロリド(DEAC)5.0モル、ジイソアミルエーテル12.0モルを25℃で5分間で混合し、5分間同温度で反応させて反応液(I)(ジイソアミルエーテル/DEACのモル比2.4)を得た。窒素置換された反応器に4塩化チタン40モルを入れ35℃に加熱し、これに上記反応液(I)の全量を180分間で滴下した後、同温度に30分間保ち、75℃に昇温して更に1時間反応させ、室温まで冷却し上澄液を除き、n−ヘキサン30リットルを加えてデカンテーションで除く操作を4回繰り返して、固体生成物(II)1.9kgを得た。この(II)の全量をn−ヘキサン30リットル中に懸濁させた状態で20℃でジイソアミルエーテル1.6kgと4塩化チタン3.5kgを室温にて約5分間で加え、60℃で1時間反応させた。反応終了後、室温(20℃)まで冷却し、上澄液をデカンテーションによって除いた後、30リットルのn−ヘキサンを加え15分間撹拌し、静置して上澄液を除く操作を5回繰り返した後、減圧下で乾燥させ、Ti系固体触媒を得た。
(プロピレンの重合)
内容積400リットルの攪拌機付きステンレス鋼製オートクレーブを室温下、プロピレンガスで充分に置換し、重合溶媒として脱水及び脱酸素したn−ヘプタン120リットルを入れた。次に温度65℃の条件下、ジエチルアルミニウムクロライド86g、水素18リットル(標準状態換算)、安息香酸ブチル13g、および前記Ti系固体触媒を20gを加えた。
オートクレーブを内温70℃に昇温した後、プロピレンを16.1kg/時、水素を15L/時の速度で供給し、重合を開始した。280分後プロピレン、水素の導入を停止。圧力は重合開始時0.32kg/cm2G、プロピレン供給中に経時的に増加し、供給停止時点で4.5kg/cm2Gまで上昇した。その後、器内の圧力が2.0kg/cm2Gまで低下するまで残重合を行った後、未反応ガスを0.3kg/cm2まで放出した。この間、重合温度は70±1℃の範囲に維持した。
得られたスラリーは、次の攪拌機付き槽に移送し、ブタノールを5リットル加え、70℃で3時間処理し、更に次の攪拌機付き槽に移送、水酸化ナトリウム100gを溶解した純水100リットルを加え、1時間処理した後、水層を静置後分離、触媒残渣を除去した。スラリーは遠心分離機で処理し、ヘプタンを除去、80℃の乾燥機で3時間処理しヘプタンを完全に除去、62.3kgのプロピレン系重合体(製品)を得た。
【0102】
[製造例7]
内容積400リットルの攪拌機付きステンレス鋼製オートクレーブを室温下、プロピレンガスで充分に置換し、重合溶媒として脱水及び脱酸素したn−ヘプタン120リットルを入れた。次に温度60℃の条件下、ジエチルアルミニウムクロライド86g、水素18リットル(標準状態換算)、安息香酸ブチル13g、および製造例6のTi系固体触媒18gを加えた。
(プロピレン−エチレンの共重合)
オートクレーブを内温65℃に昇温した後、プロピレンを15.6kg/時、水素を15L/時の速度で供給し、重合を開始した。更に30分後にエチレンを0.54kg/時で供給を開始、プロピレンを供給開始してから280分後プロピレン、水素、及びエチレンの導入を停止。圧力は重合開始時0.33kg/cm2G、プロピレン供給中に経時的に増加し、供給停止時点で4.9kg/cm2Gまで上昇した。その後、器内の圧力が2.0kg/cm2Gまで低下するまで残重合を行った後、未反応ガスを0.3kg/cm2Gまで放出した。この間、重合温度は65±1℃の範囲に維持した。
得られたスラリーは、次の攪拌機付き槽に移送し、ブタノールを5リットル加え、65℃で3時間処理し、更に次の攪拌機付き槽に移送、水酸化ナトリウム100gを溶解した純水100リットルを加え、1時間処理した後、水層を静置後分離、触媒残渣を除去した。スラリーは遠心分離機で処理し、ヘプタンを除去、80℃の乾燥機で3時間処理しヘプタンを完全に除去、59.3kgのプロピレン系重合体(製品)を得た。
【0103】
これらの製造例1−7によって得られたポリプロピレン系樹脂(a)の諸特性は表1にまとめた。
【0104】
【表1】

【0105】
[実施例1]
製造例1記載のパウダー状の樹脂(a)1.0kgを密閉可能なアルミ袋(ヒートシール層付き)に入れて、真空ポンプによりアルミ袋内を脱気し、ついで乾燥窒素を導入する。脱気、窒素導入を繰り返して実質的に袋内の酸素濃度を0 vol%にした後、空気が入らないよう注意しつつ開口部をヒートシールして密封した。この際酸化防止剤等の添加剤は添加しなかった。この袋ごと、ポリマーへの照射量が5kGyとなるようにγ線を照射した。γ線の照射は温度40℃未満で行った。照射後、安定化処理としてパウダーに下記の添加剤を加えた後、スクリュー口径15mmの二軸混練機によって押出機温度=200℃、スクリュー回転数=100rpm、吐出量=2.0kg/hの条件で混練し、ポリプロピレン系樹脂(a')のペレットを得た。この改質ポリプロピレン樹脂(a')の物性を測定した結果を表2に示す。
添加剤
酸化防止剤:テトラキス{メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン(商品名=イルガノックス1010)500ppm、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト(商品名=イルガフォス168)500ppm、中和剤:ステアリン酸カルシウム500ppm
【0106】
[実施例2〜12]、[比較例1〜5]
用いたポリプロピレン系樹脂(a)と照射線量を表2〜6に示したとおりに変更した以外は実施例1と同様に行った。得られた改質ポリプロピレン系樹脂(a')の物性を測定した結果を表2〜6に示す。
【0107】
[実施例13]
製造例1記載のパウダーに添加剤を入れない状態で二軸押出機によって混練、造粒してペレットを得た。これをポリプロピレン系樹脂(a)として使用した以外は実施例2と同様に行った。結果を表5に示す。
【0108】
[実施例14、15]
製造例1記載のパウダーに下記の添加剤を500ppm添加し、二軸押出機によって混練、造粒してペレットを作製した。これをポリプロピレン系樹脂(a)として使用した以外は実施例2と同様に行った。結果を表5に示す。
酸化防止剤:テトラキス{メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン(商品名=イルガノックス1010)
【0109】
[実施例16]
製造例3記載のパウダーを用いた以外は実施例14と同様に行った。結果を表5に示す。
【0110】
実施例1〜16について、原料としたポリプロピレン系樹脂(a)のMFR及びMT、並びに改質ポリプロピレン系樹脂(a’)のMFR’及びMT’の一覧を表6にまとめた。表6より、MT’/MT(改質によるMTの増加比率)が明らかであり、最低でも1.1倍、最高20倍に及ぶことが判る。なお、表6中、「MFR’からの想定MT’」とは、溶融張力の実測値ではなく、測定値であるMFR’と式[II]を用いて計算された、改質ポリプロピレン系樹脂(a’)の想定上の溶融張力である。実測されたMT’は想定MT’の1.2倍以上、好ましくは1.2〜2.0倍の範囲にあることが判る。同様に、比較例1〜5について、表7にとりまとめた。
【0111】
[実施例と比較例との対照による考察]
以上の各実施例と各比較例とを対照して考察すれば、特定のMFR、及び特定範囲のMw/Mn、Mz/Mn及び位置不規則性を満たすポリプロピレン系樹脂(a)が、同一照射線量での比較において、首記範囲を満たさないものに比べて、溶融張力が格段に向上していることが明白である。
具体的には実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3は、ポリプロピレン系樹脂(a)としてホモポリプロピレンを用いた場合での比較であり、本発明の要件を満たす場合は、満たさない場合に比べ同線量での比較においてMTが高くなっていることが明白である。実施例4と比較例4、実施例5と比較例5は、ポリプロピレン系樹脂(a)として同程度のエチレン含有量を有するプロピレン−エチレンランダム共重合体を用いた場合での比較であり、本発明の要件を満たす場合は、満たさない場合に比べ同線量での比較においてMTが高くなっていることが明白である。実施例14、15、16では、架橋変成前にあらかじめ酸化防止剤を添加した場合の結果が示されている。ポリプロピレン系樹脂(a)に酸化防止剤を添加した場合には、架橋効率が低下しており、添加しない場合と同等の溶融張力を得るためにはより大きい照射線量が必要となる。照射線量を増加させると、酸化防止剤を入れていないものと同等のMTを有する樹脂を得ることはできるが、樹脂の黄変が認められる。
【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【0114】
【表4】

【0115】
【表5】

【0116】
【表6】

【0117】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)〜(iii)の特性を有するポリプロピレン系樹脂(a)に対し、電離性放射線を照射することにより溶融張力(MT)を1.1倍以上に増大させてなる改質ポリプロピレン系樹脂(a’)の製造方法(但し、MTは、温度230℃、オリフィス(L/D=40mm/2mm)、ピストンスピード20mm/分、引取速度4m/分の一定値で引き取る際にかかる荷重(g)を意味する。引取速度が4m/分に達しない場合には、最大延展速度における引取りの荷重を意味する。)。
(i)温度230℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.01〜100g/10分である。
(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5〜4.0であり、且つ、Z平均分子量/数平均分子量(Mz/Mn)が1.5〜12.0である。
(iii)13C−NMRによって測定されるプロピレン連鎖部の位置不規則性が下記の範囲にある。
2,1-挿入に基づく位置不規則性 0.01〜2.00モル%。
1,3-挿入に基づく位置不規則性 0.01〜0.40モル%。
【請求項2】
ポリプロピレン系樹脂(a)が[A]下記一般式[I]で示される遷移金属化合物、及び[B](B−1)有機アルミニウムオキシ化合物、(B−2)遷移金属化合物と反応してカチオンを形成可能な化合物、及び(B−3)イオン交換性層状化合物(珪酸塩を含む)から選択されるいずれか一種類以上からなる活性化剤を必須成分とし、[C]有機アルミニウム化合物を任意成分とする、メタロセン系触媒の存在下にプロピレンを重合して製造されることを特徴とする請求項1に記載の改質ポリプロピレン系樹脂(a’)の製造方法。
【化1】

(一般式[I]中において、A1 及びA2 は、共役五員環配位子〔同一化合物内ではA1 及びA2は同一でも異なっていてもよい〕を示し、該五員環の炭素は置換基を有してもよく、Qは、2つの共役五員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基、Mは、周期表第4〜6族から選ばれる金属原子を示し、X及びYは、それぞれ独立して、Mと結合した、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基又はケイ素含有炭化水素基を示す。)
【請求項3】
ポリプロピレン系樹脂(a)が、下記(iv)の特性を有するホモポリプロピレンまたはプロピレン・エチレンランダム共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法。
(iv)融点(Tm)が130℃以上である。
【請求項4】
実質的に酸素の不存在下で電離性放射線を照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法。
【請求項5】
ポリプロピレン系樹脂(a)がフェノール系酸化防止剤、燐系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等の酸化防止剤を含まないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法。
【請求項6】
電離性放射線が電子線又はガンマー線である請求項1〜5のいずれか1項に記載の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法。
【請求項7】
電離性放射線の照射量が0.1〜100kGyである請求項1〜6のいずれか1項に記載の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法。
【請求項8】
電離性放射線を照射することにより溶融張力(MT)を2.0〜50倍に増大させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法。
【請求項9】
改質ポリプロピレン系樹脂(a')の溶融張力(MT’)が該改質ポリプロピレン系樹脂(a')のMFR’に基づき下記式[II]で計算される値(想定MT’)の1.2倍以上、好ましくは1.2〜2.0倍であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の改質ポリプロピレン系樹脂(a')の製造方法。
【数1】

【請求項10】
請求項1〜9いずれか1項に記載の方法によって製造された改質ポリプロピレン系樹脂(a')。

【公開番号】特開2008−144086(P2008−144086A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335278(P2006−335278)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】