説明

改質ABS材料を用いて3次元オブジェクトを構築する方法

押出による積層堆積システムを用いて、3Dオブジェクト(18)を構築する方法は、押出による積層堆積システムの押出ヘッド(12)へ改質ABS材料を送出することと、押出ヘッド(12)の応答時間を向上させる条件下で、送出された改質ABS材料を押出ヘッド(12)において溶融することと、3Dオブジェクト(18)を形成するために、溶融された熱可塑性プラスチック材料を一層毎に堆積させることとを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[背景]
本発明は、押出による積層堆積システムを用いた、3次元(3D)オブジェクトの製造に関する。具体的には、本発明は、改質ABS材料を含む構築材料から、3Dオブジェクトを製造することに関する。
【0002】
押出による積層堆積システム(例えば、ミネソタ州 エデン プレーリーにあるストラタシス,インコーポレイテッドによって開発された、溶融堆積モデリングシステム)は、流動性を有する構築材料を押出して、コンピュータ支援設計(CAD)モデルから3Dオブジェクトを一層毎に構築するのに使用される。構築材料は、押出ヘッドに搭載されたノズルを介して押出され、x−y平面にて連続した路(roads)として基板上に堆積される。押出された構築材料は、既に堆積された構築材料と融合し、温度の低下とともに固化する。そして、基台に対する押出ヘッドの位置が、(x−y平面に垂直な)z軸に沿って高められたのち、その工程が繰り返されて、CADモデルに類似した3Dオブジェクトを形成する。
【0003】
基台に対する押出ヘッドの移動は、コンピュータ制御下で、3Dオブジェクトを表す構築データに従って実行される。構築データは、まず始めに、3DオブジェクトのCADモデルを、水平にスライスされた複数の層に、スライスすることによって得られる。その後、スライスされた各層毎に、ホストコンピュータは、3Dオブジェクトを形成する構築材料の路を堆積させるための構築経路を生成する。
【0004】
構築材料の層を堆積させて3Dオブジェクトを製造する際には、一般的に、構築中のオブジェクトの突出部の下、あるいは、構築中のオブジェクトの空洞内に、支持層または支持構造が構築される。ただし、構築中のオブジェクトの突出部、あるいは、構築中のオブジェクトの空洞は、構築材料自体によって支持されない。支持構造は、構築材料を堆積させる堆積技術と同様の堆積技術を用いて構築されてもよい。ホストコンピュータは、形成されている3Dオブジェクトの突出部または自由空間部の、支持構造として機能する、付加的な構造を生成する。そして、支持材料は、構築処理中に生成された構造に従って、第2の押出端部から堆積される。この支持材料は、製造中は構築材料に接着し、構築処理が完了したときに、完成された3Dオブジェクトから除去できる。
【0005】
構築材料は、一般的に、非ニュートン流動特性を示す。非ニュートン流動特性において、構築材料は、押出流動の初期始動段階中に、移動に対して抵抗する。それゆえ、3Dオブジェクトの多くに共通する問題は、非ニュートン流動特性に起因する、押出ヘッドの応答時間の制限である。このような制限は、堆積精度を低下させる可能性があり、特に、層毎に堆積される構築材料の量が比較的少量である、微細な素性構造において観察できる。したがって、構築材料を堆積させるための押出ヘッドの応答時間を向上させる、3Dオブジェクトの構築方法が必要とされている。
[概要]
本発明は、押出による積層堆積システムを用いて、3Dオブジェクトを構築する方法に関する。本方法は、改質ABS材料を、押出による積層堆積システムの押出ヘッドへ送出することと、送出された改質ABS材料を、押出ヘッドの応答時間を向上させる条件下で押出ヘッドにおいて溶融させることとを含んでいる。溶融された熱可塑性プラスチック材料は、一層毎に堆積されて、3Dオブジェクトを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】押出による積層堆積システムの構築室の透視図であって、本発明に従って構築されている3Dオブジェクトを示している。
【図2】押出による積層堆積システムにおける押出ヘッド構築ラインの拡大部分断面図である。
【図3】押出による積層堆積システムを用いて3Dオブジェクトを構築する方法のフローチャートである。
【図4−7】本発明に従って実行された押出工程と、比較押出工程とにおける、押出速度に対する駆動圧のグラフ表示である。
【図8】本発明に従って実行された押出工程と、比較押出工程とにおける、押出速度に対する駆動圧のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[詳細な説明]
図1は、押出による積層堆積システムの構築室10の透視図であり、構築室10は、押出ヘッド12と、案内レール14と、構築プラットフォーム16と、3Dオブジェクト18と、支持構造20とを含んでいる。構築室10を組み込み得る、好適な押出による積層堆積システムには、ミネソタ州 エデン プレーリーにあるストラタシス,インコーポレイテッドから「FDM」という商品名で市販されている、溶融堆積モデリングシステムが含まれる。押出ヘッド12は、流動性を有する構築材料と支持材料とを押し出して、一層毎に3Dオブジェクト18と支持構造20とをそれぞれ構築するように構成された装置である。押出ヘッド12の好適な装置の例は、ラボシエールらによる米国特許出願公開公報第2007/0003656号、及び、ラボシエールらによる(米国特許出願公開公報第2007/0228590号として公開されている)米国特許出願第11/396,845号に開示されている。
【0008】
押出ヘッド12は、x軸に沿って延在する案内レール14と、構築室10内において(図示しない)y軸に沿って延在している(図示しない)追加的な案内レールとによって、構築室10内で支持されている。案内レール14と追加的な案内レールとによって、押出ヘッド12は、x軸及びy軸に沿った平面における、あらゆる方向に移動することができる。構築プラットフォーム16は、3Dオブジェクト18及び支持構造20を構築するための作業面であり、z軸に沿って高さを調整可能である。
【0009】
3Dオブジェクト18を構築するために使用される構築材料は、応答時間の向上をもたらしながら押出ヘッド12から押し出されることが可能な改質ABS材料であるので、堆積処理の精度が向上される。本発明で用いるのに好適な改質ABS材料の例は、追加のモノマー、オリゴマー、および/または、ポリマーを用いて改質されたABS材料、例えばアクリル系材料、を含む。市販されている好適な改質ABS材料の例は、マサチューセッツ州 ピッツフィールドにあるジェネラル エレクトリック カンパニーからの“CYCOLAC” ABS MG94−NA1000という商品名である、メタクリル酸メチルにより改質されたABS/ポリマー(スチレン−アクリロニトリル)混合物を含む。
【0010】
3Dオブジェクト18は、ピン特徴部22と突出部24とを含んでおり、ピン特徴部22は、複数層の微細な特徴構造であって、X軸及びY軸に沿った平面において小さな平均断面を有している。ピン特徴部22は、標準ABS共重合体(例えば、ミシガン州 ミッドランドにあるダウ ケミカル カンパニーから“AG700 ABS”という商品名で市販されているABS共重合体)を用いて構築された場合に、観察可能な構築誤差を示し得る、微細な特徴構造の一例である。例えば、X軸及びY軸に沿った平面において、約3.0ミリメートル(約120ミル(mil))以下の幅を少なくとも1つ有する微細な特徴構造を構築する場合、標準ABS共重合体は、視認可能な誤差をもたらすであろう。このため、得られる3Dオブジェクトの美的品質及び物理的品質が損なわれることがある。
【0011】
それに対して、押出ヘッド12から改質ABS材料を堆積させることによって得られる応答時間の向上により、ピン特徴部22は、より高い堆積精度で構築される。その結果、X軸及びY軸に沿った平面における、ピン特徴部22の好適な断面の寸法は、約3.0ミリメートル(約120ミル)以下の幅を含み、特に好適な幅は、約1.5ミリメートル(約60ミル)から約2.8ミリメートル(約110ミル)の範囲である。以下に説明される処理条件下では、このような材料は、(標準ABS共重合体と比較して)より大きなニュートン状の特性を得ることができるので、3Dオブジェクト10を構築する場合に、押出ヘッド12の応答時間が向上される。さらに、改質ABS材料によって、3Dオブジェクトに、良好な層間接着と部品強度とを付与することができる。
【0012】
支持構造20は、支持材料を用いて、構築プラットフォーム上に一層毎に構築されるので、支持構造20は、3Dオブジェクト18の突出部位24を支持する。改質ABS材料は、向上された応答時間で堆積されることに加え、ミネソタ州 エデン プレーリーにあるストラタシス,インコーポレイテッドから“WATER WORKS”及び“SOLUBLE SUPPORTS”という商品名で市販されている水溶性支持材料と共に使用されるのに好適である。また、改質ABS材料は、ミネソタ州 エデン プレーリーにあるストラタシス,インコーポレイテッドから“BASS”という商品名で市販の取り壊される支持材料、及び、クランプらによる米国特許第5,503,785号に開示されている支持材料に使用されるのにも好適である。それに比べて、標準ABS共重合体は、“BASS"系の支持構造に対して著しい粘着量を発揮する。改質ABS材料は、実質的により一層容易に“BASS"系の支持構造から除去される一方で、構築処理中には好適に粘着し得る。
【0013】
図2は、(図1に図示された)3Dオブジェクト18を構築する改質ABS材料を押し出すための(図1に図示された)押出ヘッド12における構築ライン26の拡大部分断面図である。構築ライン26は、送出チューブ28と、ベースブロック30と、送出通路32と、駆動システム34と、液化アセンブリ36と、構築端部38とを含み、これらは、(米国特許出願公開公報第2007/0228590号として公開された)ラボシエールらによる米国特許出願第11/396,845号に開示されているのと同様に配置されている。送出チューブ28は、(図1に示された)構築室10の外側に配置された(図示しない)供給源から、(フィラメント40と称する)改質ABS材料のフィラメントを受け入れる。フィラメント40が、送出チューブ28と、ベースブロック30の送出通路32とを挿通しているので、駆動システム34は、フィラメント40を液化アセンブリ36内へ送出することができる。
【0014】
駆動システム34は、駆動ローラ42と遊動ローラ44とを含み、駆動ローラ42及び遊動ローラ44は、フィラメント40に係合するとともに、フィラメント40を把持するように構成されている。駆動ローラ42が(図示しない)駆動モータに軸方向に接続されていることで、駆動ローラ42及び遊動ローラ44は、フィラメントを液化アセンブリ36内へ送出することができる。液化アセンブリ36は、液化ブロック46と液化通路48とを含んでいる。液化通路48は、液化ブロック46を挿通する通路であって、駆動システム34近傍に入口を有し、構築端部38に出口を有している。液化通路48は、フィラメント40が液化ブロック46を通過するための経路を提供する。液化ブロック46は、液化ブロック46に沿った温度プロファイルに基づいた所望の流動パターンにフィラメントを溶融させるための過熱ブロックである。構築端部38は、液化アセンブリ36に固定された押出端部である。構築端部38は、改質ABS材料の路を堆積させるための端部径を有しており、路の路幅及び路高は、端部径にある程度基づいている。構築端部38の好適な端部径の例は、約250マイクロメートル(約10ミル(mil))から約510マイクロメートル(約20ミル)の範囲である。
【0015】
改質ABS材料は、(駆動モータから)駆動ローラ42に回転力を印加することによって、押出ヘッド12の構築ライン26を通って押し出される。駆動ローラ42と遊動ローラ44との摩擦グリップによって、回転力は、フィラメント40に印加される駆動圧に変換される。駆動圧によって、フィラメント40の連続した部分が液化通路48内へ押し込まれ、改質ABS材料は、液化ブロック46によって溶融される。フィラメント40の未溶融部分は、溶融された改質ABS材料を液化通路48及び構築端部38を通って押し出すピストンとして機能するので、溶融された改質ABS材料が押し出される。フィラメント40を液化通路48へ押し込み、溶融された改質ABS材料を押し出すのに必要とされる駆動圧は、例えば、改質ABS材料の流動に対する抵抗、駆動ローラ42の軸受摩擦、駆動ローラ42と遊動ローラ44との間のグリップ摩擦、及びその他の要因などの複数の要因に基づいており、これら全ての要因が、駆動ローラ42及び遊動ローラ44によってフィラメント40に印加された駆動圧に抵抗する。
【0016】
構築処理中、構築材料の押出流動特性は、通常、3つの押出フェーズ、すなわち、(1)押出流動速度がゼロ流動速度から定常状態流動速度へ増加する始動フェーズ、(2)定常状態フェーズ、(3)押出流動速度が定常状態流動速度からゼロ流動速度へ減小する停止フェーズ、に含まれる。定常状態フェーズ中では、構築材料の押出流動速度は、フィラメント(例えば、フィラメント40)へ印加された駆動圧と、駆動圧に対する上述の抵抗との間の差である。しかしながら、始動フェーズ中では、構築材料は、構築材料が押し出されるようになる前に上回る必要がある、押出に対する付加的な抵抗を始めに発揮する。この付加的な抵抗は、本明細書中において、構築材料のチキソトロピー性閾値と称される。
【0017】
チキソトロピー性閾値が高いと、一般的には、押出流動を開始するために、相当量の駆動圧が必要となる。これに伴い、駆動モータが回転力を駆動ローラに印加するときと、押出流動が実際に開始されるときとの間の時間が増大するので、押出ヘッドの応答時間が限定される。上述のように、そのように応答時間が限定されることで、堆積精度が低下することがあり、堆積精度の低下は、特に、微細な特徴構造において観察できる。それゆえ、以下に説明されるように、押出ヘッド12の応答時間は、改質ABS材料のチキソトロピー性閾値が低減されるという条件下において、改質ABS材料が押し出されることによって改善される。
【0018】
図3は、方法50のフロー図であり、方法50は、始動フェーズの間の応答時間を向上させて、(図1に示された)3Dオブジェクト18を構築するのに好適な方法である。方法50は、ステップ52−58を含み、まず、改質ABS材料のフィラメントを押出ヘッド12へ送出することを含んでいる(ステップ52)。1つの実施形態では、改質ABS材料は、改質ABS材料が、約6.9メガパスカル(約1,000ポンド/平方インチ(psi))以下の、より好ましくは、約5.2メガパスカル(約750psi)以下の、駆動圧にて、標準形状液化機から、最高液化温度にて、16.4マイクロリットル/秒(1,000立方マイクロインチ毎秒(mics))の押出速度で押し出され得るように選択される。
【0019】
本明細書で使用されているように、「標準形状液化機」という用語は、液化チューブ内径が、1.943ミリメートル(0.0765インチ)から1.905ミリメートル(0.075インチ)の範囲であって、端部全長が、77.343±0.254ミリメートル(3.045±0.010インチ)であって、内径における首の長さが、0.762±0.051ミリメートル(0.030±0.002インチ)であって、端部端ランド内径が、0.406±0.013ミリメートル(0.016±0.0005インチ)の構築端部を有する液化機として定義されている。また、本明細書で使用されているように、「最高液化温度」という用語は、改質ABS材料が、変色せず、或いは、流動特性を変えることなく、2分間耐え得る最も高い液化温度として定義されている。この基準を満たす改質ABS材料の例には、上述の好適な改質ABS材料が含まれる。
【0020】
改質ABS材料は、その後、押出ヘッド内で溶融される(ステップ54)。上述のように、改質ABS材料のフィラメントは、駆動システム34を用いて、液化アセンブリ36へと送出される。液化アセンブリ36は、好ましくは、改質ABS材料が熱的に安定する液化機ピーク温度を有しており、液化機ピーク温度は、改質ABS材料のチキソトロピー性閾値を低減する。液化アセンブリ36に好適な液化機ピーク温度は、例えば、約280℃から約360℃の範囲であって、とりわけ好適な温度は、約300℃から約340℃の範囲であり、さらにとりわけ好適な温度は、約300℃から約320℃の範囲である。
【0021】
そして、溶融された改質ABS材料は、押出ヘッド12から押し出され(ステップ56)、一層毎に堆積されて、構築室10内で3次元オブジェクトを構築する(ステップ58)。構築室10に好適な周囲温度は、約70℃から約105℃の範囲であって、とりわけ好適な周囲温度は、約80℃から約95℃の範囲である。好適な液化機ピーク温度及び好適な周囲温度は、標準ABS共重合体を押し出すのに通常用いられる対応する温度よりも高い。より高い温度は、結果として得られる3Dオブジェクト18において、部品強度を向上させ、かつ、空隙率(porosity)を低減させるのに有利である。
【0022】
結果として得られる3Dオブジェクト18は、高い堆積精度を有しており、高い堆積精度は、特にピン特徴部22において、美的品質が向上されることによって観察され得る。それゆえ、改質ABS材料は、高解像度の微細な特徴構造を提供するのに、有利である。堆積された後、3次元オブジェクトにおける改質ABS材料は、実質的に熱劣化しないことが望ましい。標準ABS共重合体における熱劣化は、一般的には、堆積された材料における茶色の筋として観察され得る。
[実施例]
本発明は、以下の実施例においてより詳細に説明されるが、本発明の範囲内における多くの修正例及び変形例が当業者には明らかであろうから、以下の実施例は例示としてのみ意図されるものである。実施例1−12及び比較例A−Dにおける押出工程の駆動圧は、液化機ピーク温度及び押出流動速度の関数として、得られる押出プロファイルを比較するために、定量的に測定された。各押出工程は、ミネソタ州 エデン プレーリーにあるストラタシス,インコーポレイテッドから“FDM TITAN”という商品名で市販されている溶融堆積モデリングシステム上で実行された。付随する押出ヘッドは、“TITAN”TI構築端部を有しており、この構築端部は、液化チューブの内径が、1.943ミリメートル(0.0765インチ)から1.905ミリメートル(0.075インチ)の範囲であって、端部の全長が、77.343±0.254ミリメートル(3.045±0.010インチ)であって、内径における首の長さが、0.762±0.051ミリメートル(0.030±0.002インチ)である。
【0023】
実施例1−12の押出工程は、マサチューセッツ州 ピッツフィールドにあるジェネラル エレクトリック カンパニーから“CYCOLAC”MG94−NA1000 ABSという商品名で市販されている改質ABS材料を用いて実行された。比較例A−Dの押出工程は、ミシガン州 ミッドランドにあるダウ ケミカル カンパニーから“AG700 ABS”という商品名で市販の、標準ABS共重合体を用いて実行された。押出工程は、異なる温度、及び、異なる押出速度により実行され、実施例1−4の押出工程はそれぞれ、端部ランド内径が0.254ミリメートル(0.010インチ)で実行され、実施例5−8の押出工程はそれぞれ、端部ランド内径が0.305ミリメートル(0.012インチ)で実行され、実施例9−12及び比較例A−Dの押出工程はそれぞれ、端部ランド内径が0.406ミリメートル(0.016インチ)で実行された。表1は、実施例1−12及び比較例A−Dの押出工程のために用いられた、構築材料、端部径、及び、押出速度を記載している。
【0024】
【表1】

各押出工程毎に、構築サイクルが開始され、所定の構築材料が押し出された。構築材料は、フィラメント形態(“TITAN”TI構築端部の標準フィラメント径、例えば、約1.796ミリメートル(約0.0707インチ)の径)で、押出ヘッドへ供給され、ギアシステムによって液化機へ推進された。液化機ピーク温度は第1のレベル(例えば、240℃)に維持され、定常状態動作が得られるまで、フィラメントは推進された。そして、駆動モータの所要電力が定量的に測定され、それに対応する駆動圧であって、構築材料を押し出すために必要とされる駆動圧が、駆動モータの所要電力に基づいて算出された。その後、この手順は、240℃から340℃までの範囲の、様々な異なる液化機ピーク温度で繰り返された。
【0025】
図4−7は、実施例1−12及び比較例A−Dの押出工程の、押出速度に対する駆動圧のグラフ表示である。図4−6の比較においては、液化機ピーク温度が上昇するにつれて、また、端部径が減小するにつれて、そして、押出速度が増加するにつれて、予期されたように、駆動圧が低下することが示されている。しかしながら、(図6に示された)実施例9−12の押出工程の比較、及び、(図7に示された)比較例A−Dの押出工程の比較では、同等の条件において、本発明で用いるのに好適な改質ABS材料(MG94−NA1000 ABS)が、標準ABS(AG700 ABS)よりも低い駆動圧で押出可能であったことが示されている。
【0026】
図8は、図6,7に示されたデータについての、別のグラフ表示であり、280℃での比較例A−Dの押出工程の押出速度と、280℃での実施例9−12の押出工程の押出速度と、300℃での実施例9−12の押出工程の押出速度とに対する駆動圧として示されている。例A−Dの標準ABS共重合体は、約290℃を越える温度においては、熱的に安定ではなく、熱劣化する傾向がある。そのため、300℃における例A−Dの押出工程は比較されなかった。
【0027】
図8に示されるように、280℃及び300℃での例9−12の押出工程は、280℃での比較例A−Dの押出工程から得られる駆動圧よりも、低い駆動圧で実行された。さらに、押出工程の指数回帰線は、各押出工程毎に破線で示されるように、ゼロ流動速度に外挿された(つまり、y軸と交差している)。y軸との交点における駆動圧は、対応する液化機ピーク温度に関して、構築材料のチキソトロピー性閾値に対応している。それゆえ、比較例A−Dに使用された標準ABS共重合体を押し出すのに好適な温度である280℃の液化機ピーク温度では、標準ABS共重合体は、約6.8メガパスカル(約980psi)のチキソトロピー性閾値を有していた。これに対し、実施例9−12に使用された改質ABS材料は、280℃の液化機ピーク温度では、約3.9メガパスカル(約560psi)のチキソトロピー性閾値を有していた。さらに、実施例9−12に使用された改質ABS材料を押し出すのに望ましい温度である300℃の液化機ピーク温度では、改質ABS材料は、約3.0メガパスカル(約430psi)のチキソトロピー性閾値を有していた。
【0028】
したがって、改質ABS材料の流動特性は、標準ABS共重合体に比べて、よりニュートン流動に近い。ニュートン流動を示す材料は、線形の押出工程プロファイルを示すであろうし、ゼロ駆動圧(つまり、チキソトロピー性閾値がない)にて、y軸と交差するであろう。図8に示されている押出工程プロファイルは、例えば、液化機における湿潤ドーナツが構築端部に近接していたこと、構築材料が液化機において長時間にわたり固体状態であったこと、及びせん断層が液化機壁に近づくように押圧されたことなどの複数の要因に起因して、指数的傾向を示す。
【0029】
定量的には、改質ABS材料は、280℃の液化機ピーク温度において、標準ABS共重合体におけるチキソトロピー性閾値の約60%未満であるチキソトロピー性閾値を有していた。さらに、材料を押し出すのに好適な温度(つまり、標準ABS共重合体では280℃、そして、改質ABS材料では300℃)を比較する場合に、改質ABS材料は、標準ABS共重合体におけるチキソトロピー性閾値の約50%未満であるチキソトロピー性閾値を有していた。そのため、押出ヘッドは、改質ABS材料と比較して、標準ABS共重合体の押出流動を開始するために、2倍以上の静的駆動圧を発生させる必要があるであろう。したがって、上述の動作条件下で改質ABS材料を使用することによって、押出処理の応答時間が向上されるので、3Dオブジェクトを構築するときの堆積精度が向上する。
【0030】
本発明は、好ましい実施形態を参照して説明されてきたが、本発明の精神及び本発明の範囲を逸脱することなく、形態及び詳細において変更を行い得ることを当業者は認識するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出による積層堆積システムを用いて、3次元オブジェクトを構築する方法であって、
最高液化機温度にて、標準形状の液化機から16.4マイクロリットル/秒の押出速度で押し出されるときに、約6.9メガパスカル以下の駆動圧を必要とする、改質アクリロニトリル−ブタジレンースチレン(ABS)材料のフィラメントを前記押出による積層堆積システムの押出ヘッドへ送出することと、
該送出された改質ABS材料を前記押出ヘッドにて溶融させることと、
前記3次元オブジェクトを形成するために、前記溶融された改質ABS材料を一層毎に堆積させることと
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記必要とされる駆動圧は、約5.2メガパスカル以下である
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記改質ABS材料は、メタクリル酸メチルを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記送出された改質ABS材料を前記押出ヘッドにて溶融させることは、前記送出された改質ABS材料を、約300℃から約340℃の範囲であるピーク温度にて溶融させることを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記ピーク温度は、約300℃から約320℃の範囲である
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法であって、
前記3次元オブジェクトは、複数層の特徴を有し、該複数層の特徴は、約3.0ミリメートル以下である少なくとも1つの断面寸法を有している
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
前記堆積された改質ABS材料は、実質的に、熱劣化しない
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、
前記溶融された改質ABS材料は、同じ条件下で押し出されたときに、標準ABS共重合体のチキソトロピー性閾値よりも小さいチキソトロピー性閾値を有している
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
押出による積層堆積システムを用いて、3次元オブジェクトを構築する方法であって、
該方法は、
改質アクリロニトリル−ブタジレンースチレン(ABS)材料を、前記押出による積層堆積システムの押出ヘッドへ送出することと、
約300℃から約340℃の範囲であるピーク温度にて、前記送出された改質ABS材料を前記押出ヘッド内で溶融させることと、
該溶融された改質ABS材料を前記押出ヘッドから押し出すことと、
前記3次元オブジェクトを構築するために、前記溶融された改質ABS材料を一層毎に堆積させることと
を備え、
前記3次元オブジェクトにおける前記溶融された改質ABS材料は、実質的に、熱劣化しない
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記ピーク温度は、約300℃から約320℃の範囲である
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、
前記改質ABS材料は、メタクリル酸メチルを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法であって、
前記溶融された改質ABS材料は、前記押出による積層堆積システムの構築室に堆積され、該構築室は、約70℃から約105℃の範囲である周囲温度を有する
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、
前記構築室の前記周囲温度は、約80℃から約95℃の範囲である
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項9に記載の方法であって、
前記3次元オブジェクトは、複数層の特徴を備え、該複数層の特徴は、約3.0ミリメートル以下の少なくとも1つの断面寸法を有している
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
押出による積層堆積システムを用いて、3次元オブジェクトを構築する方法であって、
改質アクリロニトリル−ブタジレンースチレン(ABS)材料を、前記押出による積層堆積システムの押出ヘッドへ送出することと、
ピーク温度であって、該ピーク温度にて溶融された標準ABS共重合体に対するチキソトロピー性閾値の約60%以下である、前記改質ABS材料に対するチキソトロピー性閾値をもたらすピーク温度にて、前記送出された改質ABS材料を前記押出ヘッド内において溶融させることと、
前記溶融された改質ABS材料を前記押出ヘッドから押し出すことと、
前記3次元オブジェクトを構築するために、前記溶融された改質ABS材料を一層毎に堆積させることと
を含む方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
前記改質ABS材料は、メタクリル酸メチルを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法であって、
前記3次元オブジェクトは、複数層の特徴を備え、該複数層の特徴は、約3.0ミリメートル以下の少なくとも1つの断面寸法を有している
ことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法であって、
前記堆積された改質ABS材料は、実質的に、熱劣化しない
ことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項15に記載の方法であって、
前記溶融された改質ABS材料は、前記押出による積層堆積システムの構築室に堆積され、該構築室は、約70℃から約105℃の範囲である周囲温度を有する
ことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、
前記構築室の前記周囲温度は、約80℃から約95℃の範囲である
ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−521339(P2010−521339A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553576(P2009−553576)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/002021
【国際公開番号】WO2008/112061
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(509113977)ストラタシス,インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】