説明

放出特性が改善されたBABブロックポリマー

逆熱ゲル化特性を示す、生分解性および生体吸収性の改良型BABブロックコポリマー、および該BABブロックコポリマーを含む水性ポリマー組成物が提供される。該改良型BABブロックコポリマー、およびこれを含む組成物を作製する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投与直前または投与時の体温にさらされたときのように、温度の上昇にさらされたときに逆熱ゲル化特性を示す、生分解性および生体吸収性のBABブロックコポリマーに関する。開示のポリマーは、例えば、薬物の非経口投与において、有利に使用される。
【背景技術】
【0002】
逆熱ゲル化を示す生分解性ブロックコポリマーは、Rathiらへの米国特許第6,201,072号、第6,117,949号、および第6,004,573号、ならびにChaらへの米国特許第5,702,717号(それぞれを参照により本明細書に組み込む)に開示されている。これらのポリマー組成物は、低温で溶液として存在し、次いで、生理的に適切な温度で、可逆的にゲルを形成し、優れた薬物放出特性をもたらす。これらの組成物は、重量平均分子量が約2000から4990の間である、生分解性のABA型またはBAB型ブロックコポリマーを含み、また、生分解性ポリエステルを含む約51から83重量%の疎水性Aブロックポリマー、および、ポリエチレングリコールからなる約17から49重量%の親水性Bポリマーブロックを含む。Piaoらへの米国特許第7,018,645号および第7,135,190号は、類似の逆熱ゲル化特性を示す、トリブロックコポリマーの混合物を開示している。
【0003】
Rathiの特許は、逆熱ゲル化特性を有するBABブロックコポリマーを開示している。前記第6,117,949号特許によれば、BABトリブロックコポリマーは、両端には同じPEG Bブロック(Mw=550)を使用したが、ポリ(ラクチド)および/またはポリ(グリコリド)含有量を変えて合成された。PEGとPLGAは、エステル結合、ウレタン結合、またはエステル結合とウレタン結合との組み合わせを介して、互いに連結された。Rathiの特許に記載されている、従前のBABブロックコポリマーは、重量平均分子量Mが、2000から4990の範囲であった。以下の表は、Rathiの特許に開示されているBABトリブロックコポリマーの特徴を示している。
【表1】

【0004】
上表に示したPEG−PLGA−PEGトリブロックコポリマーのすべてが、逆熱ゲル化特性を有した。上記のトリブロックポリマーのゾル/ゲル転移温度は、それぞれ、36、34、30、および26℃であった。Rathiの特許は、重量平均分子量Mが2000〜4990ダルトンの範囲にあるABAトリブロックコポリマーについての、優れた薬物放出特性を実証したが、Rathiの特許は、開示したBABトリブロックコポリマーの薬物放出特性を明らかにしなかった。さらに、放出特性は、親水性化合物に関して調査されなかった。親水性の活性薬剤についての、従前のトリブロックコポリマー組成物の薬物放出特性は、多くの制御放出適用に適していないことが判明している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
逆熱ゲル化特性を示し、特に、親水性の活性薬剤について、薬物放出特性が改善された、新規の再構成可能BABトリブロックコポリマーが開発されている。驚くべきことに、本発明のBABトリブロックコポリマーは、ABAトリブロックコポリマーよりも、制御放出型の熱可逆性ポリマー組成物を提供するのに有利であり、特にそれらは、親水性の活性薬剤と共に使用した際に、望ましい放出特性を示すことが判明した。本発明者らは、既知のBABブロックコポリマー組成物よりもPLG/PEG比を上げ、かつBABブロックコポリマーの分子量を増やすことが、特に、親水性の活性薬剤の場合に、BABブロックコポリマーの薬物放出特性に劇的な効果を与えることも発見した。ABAおよびBABトリブロックに関する従前の研究は、両方のポリマーについての放出特性が類似していること、および同じ範囲のトリブロック分子量が、BABトリブロックコポリマーならびにABAトリブロックコポリマーに適していることを示唆した。しかし、本発明者らは、驚くべきことに、制御放出型の熱可逆性BABトリブロック組成物についての、トリブロック分子量範囲が、ABAトリブロックコポリマーに有効であったものと異なることを発見した。
【0006】
本発明の一目的は、生分解性であり、逆熱ゲル化挙動を示し、言い換えれば、低温で溶液として存在し、生理的に適切な温度で可逆的にゲルを形成し、従前のBABおよびABAトリブロックコポリマーよりも薬物放出特性が改善された、低分子量トリブロックコポリマー薬物送達システムを提供することである。
【0007】
さらに、本発明の別の目的は、該ポリマーが、従前のBABおよびABAトリブロックコポリマーよりも改善した薬物放出特性を示すような、薬物が放出された体内でゲルデポーの形成をもたらす、生分解性ポリマーマトリックス中の薬物の非経口投与方法を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、親水性および疎水性薬物、ペプチドおよびタンパク質薬物、ホルモン、遺伝子/核酸、オリゴヌクレオチド、および抗癌剤の非経口または腫瘍内投与のための薬物送達システムを提供することである。抗癌剤の種類としては、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗生物質、ホルモン剤、抗血管新生、またはニトロスウレア剤が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらおよび他の目的は、i)生分解性ポリエステルを含む、約60から85重量%の生分解性の疎水性Aブロック;と、ii)ポリエチレングリコールを含む、約15から40重量%の生分解性の親水性Bブロックであって、各Bブロックの重量平均分子量が300から1000ダルトンの間である、生分解性の親水性Bブロック;とを含み、5000から8000の範囲のMwを有し、また、ポリマー水溶液中に形成された場合に逆熱ゲル化特性を示すことが可能である、BABブロックコポリマーによって達成することができる。好ましくは、該ブロックコポリマーは、65から80%の範囲であるAブロック含有量を有し、該コポリマーのBブロック含有量は、20から35%の範囲であり、より好ましくは、該ブロックコポリマーは、67から75%の範囲であるAブロック含有量、および25から33%の範囲であるBブロック含有量を有する。該ブロックコポリマーの数平均分子量Mは、好ましくは3800から5000ダルトン、より好ましくは4000から4600ダルトンの範囲である。
【0010】
これらおよび他の目的は、i)生分解性ポリエステルを含む、約60から85重量%の生分解性の疎水性Aブロック;と、ii)ポリエチレングリコールを含む、約15から40重量%の生分解性の親水性Bブロックであって、各Bブロックの重量平均分子量が300から1000ダルトンの間である、生分解性の親水性Bブロック;とを含み、5000から8000の範囲のMwを有し、逆熱ゲル化特性を示す、水性BABブロックコポリマー組成物によって達成することができる。好ましくは、該ブロックコポリマーは、65から80%の範囲であるAブロック含有量を有し、該コポリマーのBブロック含有量は、20から35%の範囲であり、より好ましくは、該ブロックコポリマーは、67から75%の範囲であるAブロック含有量、および25から33%の範囲であるBブロック含有量を有する。該ブロックコポリマーの数平均分子量Mは、好ましくは3800から5000ダルトン、より好ましくは4000から4600ダルトンの範囲である。
【0011】
これらおよび他の目的は、少なくとも1種の薬物を、制御放出形式で温血動物に投与するための方法であって、(1)i)生分解性ポリエステルを含む、約60から85重量%の生分解性の疎水性Aブロック;と、ii)ポリエチレングリコールを含む、約15から40重量%の生分解性の親水性Bブロックであって、各Bブロックの重量平均分子量が300から1000ダルトンの間である、生分解性の親水性Bブロック;とを含み、5000から8000の範囲のMwを有し、逆熱ゲル化特性を示す、水性BABブロックコポリマー組成物を用意することと、(2)前記組成物を、温血動物に投与することとを含む方法によって達成することができる。好ましくは、該ブロックコポリマーは、65から80%の範囲であるAブロック含有量を有し、該コポリマーのBブロック含有量は、20から35%の範囲であり、より好ましくは、該ブロックコポリマーは、67から75%の範囲であるAブロック含有量、および25から33%の範囲であるBブロック含有量を有する。該ブロックコポリマーの数平均分子量Mは、好ましくは3800から5000ダルトン、より好ましくは4000から4600ダルトンの範囲である。
【0012】
これらおよび他の目的は、BABブロックコポリマー組成物を作製する方法であって、(1)i)生分解性ポリエステルを含む、約60から85重量%の生分解性の疎水性Aブロック;と、ii)ポリエチレングリコールを含む、約15から40重量%の生分解性の親水性Bブロックであって、各Bブロックの重量平均分子量が300から1000ダルトンの間である、生分解性の親水性Bブロック;とを含み、5000から8000の範囲のMwを有し、また、ポリマー水溶液中に形成された場合に逆熱ゲル化特性を示すことが可能である、BABブロックコポリマー組成物を用意することと、(2)前記ブロックコポリマーを凍結乾燥させること(ここで、該ブロックコポリマーは、ポリマー水溶液として形成された場合に、基準熱ゲル化を示すことが可能である)とを含む方法によって達成することができる。好ましくは、該ブロックコポリマーは、65から80%の範囲であるAブロック含有量を有し、該コポリマーのBブロック含有量は、20から35%の範囲であり、より好ましくは、該ブロックコポリマーは、67から75%の範囲であるAブロック含有量、および25から33%の範囲であるBブロック含有量を有する。該ブロックコポリマーの数平均分子量Mは、好ましくは3800から5000ダルトン、より好ましくは4000から4600ダルトンの範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例のポリマー組成物の放出プロフィールを、ABAブロックコポリマーであるReGelと比較した図である。
【図2】実施例のBABブロックコポリマー組成物による親水性高分子の放出を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のさらなる目的および利点は、本発明の様々な実施形態の以下の概要および詳細な説明から明らかになるであろう。本明細書で使用する場合、以下の用語は、指定した意味を有するものとする。
【0015】
「非経口」は、筋肉内、腹膜内、腹腔内、皮下、腫瘍内、頭蓋内(または腫瘍切除腔内)、関節内、くも膜下腔内、髄内、眼、ならびに実現可能な範囲で、静脈内および動脈内を含むものとする。
【0016】
「ゲル化温度」は、生分解性ブロックコポリマーが、逆熱ゲル化を起こす温度、すなわち、それより下の温度では、このブロックコポリマーが水に可溶であり、それより上の温度では、このブロックコポリマーが相転移を起こし、粘度を上昇させる、または半固体ゲルを形成するような温度を意味する。
【0017】
「ゲル化温度」および「逆熱ゲル化温度」などの用語は、ゲル化温度の意味で同義に使用するものとする。
【0018】
「ポリマー溶液」、「水溶液」などは、そのような溶液中に含有される生分解性ブロックコポリマーに関して使用する場合、機能的濃度でその中に溶解された、そうしたブロックコポリマーを有し、かつ、このブロックコポリマーのゲル化温度より下の温度で維持される水ベースの溶液を意味するものとする。
【0019】
ポリエチレングリコール(PEG)を、時に、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)またはポリ(オキシエチレン)と呼ぶこともあり、これらの用語は、本発明の目的のために、同義に使用することができる。
【0020】
「逆熱ゲル化」は、ブロックコポリマー溶液の温度が、このコポリマーのゲル化温度より上に高められたときに、この溶液が、自然に粘度を上昇させ、多くの場合、半固体ゲルに変わる現象である。本発明の目的のために、用語「ゲル」は、ゲル化温度を超えて存在する、半固体ゲル状態と高粘度状態の両方を含む。ゲル化温度より下に冷却されると、ゲルは、自然と逆戻りして、より低粘性の溶液を再形成する。溶液とゲルの間のこの循環は、溶液/ゲル転移が、ポリマー系の化学組成のいかなる変化も伴わないので、無限に繰り返され得る。そのゲルを生じさせるすべての相互作用は、事実上物理的であり、共有結合の形成または切断を伴わない。
【0021】
「薬物送達液体」または「逆熱ゲル化特性を有する薬物送達液体」は、温度がブロックコポリマーのゲル化温度に、またはそれより上に上げられた際に、ゲル化薬物デポーを形成する、温血動物への投与に適した薬物を含有するポリマー溶液(薬物自体は、溶解されても、コロイド状であってもよい)を意味するものとする。
【0022】
「デポー」は、温度がゲル化温度に、またはそれより上に上げられた際に、ゲルを形成した、温血動物への投与後の薬物送達液体を意味する。
【0023】
「ゲル」は、「ポリマー溶液」または「薬物送達液体」の温度が、ブロックコポリマーのゲル化温度に、またはそれより上に上げられたときに、自然に生じる半固体相を意味する。ある種の状況では、形成されたゲルは、水分を失うか、周囲環境から水分を吸収して、より収縮または膨張することができ、こうしたゲルも、本発明の範囲内に入る。
【0024】
「水性ポリマー組成物」は、薬物および生分解性ブロックコポリマーを均質に含有した水相からなる、薬物送達液体またはゲルを意味する。ゲル化温度より下の温度では、このコポリマーは、水相に溶けることができ、この組成物は、溶液になるであろう。ゲル化温度、またはそれより上の温度では、このコポリマーは、固化して、水相と共にゲルを形成し、この組成物は、ゲルまたは半固体になるであろう。
【0025】
「生分解性」は、ブロックコポリマーが、体内で、化学的に崩壊または分解し、非毒性成分を形成することができることを意味する。分解の速度は、薬物放出の速度と同じであっても、異なってもよい。
【0026】
「薬物」は、生理活性を有し、治療目的に適合する、または使用される、任意の有機または無機の化合物または物質を意味するものとする。タンパク質、ホルモン、抗癌剤、オリゴヌクレオチド、DNA,RNA,および遺伝子治療薬は、薬物のより広い定義に含まれる。
【0027】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」、および「タンパク質」は、ペプチドまたはタンパク質薬物に関連する場合、同義に使用するものとし、特に記述がない限り、いかなる特定の分子量、ペプチドの配列もしくは長さ、生理活性の範囲、または治療的使用についても限定されないものとする。こうした治療的使用には、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗生物質、ホルモン剤、抗血管新生、またはニトロスウレア剤を含めることができる。
【0028】
「生分解性ポリエステル」は、D,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε−カプラロラクトン、ε−ヒドロキシヘキサン酸、γ−ブチロラクトン、γ−ヒドロキシ酪酸、δ−バレロラクトン、δ−ヒドロキシ吉草酸、ヒドロオキシ酪酸、リンゴ酸、またはそれらのコポリマーのうちの少なくとも1つから好ましくは合成される、任意の生分解性ポリエステルを指す。
【0029】
BAB型ブロックコポリマーは、単官能ジブロック(MeO−PEG−PLG)を形成した後に続き、同じまたは異なる分子量使用の2つのジブロックコポリマーを連結させるための、米国特許第5,702,717号、第6,004,573号、および第6,117,949号(参照により本明細書に完全に組み込む)に開示された反応スキームによる開環重合または縮合重合によって、合成することができる。例えば、BABトリブロック(MeO−PEG−PLG−PEG−OMe)コポリマーをもたらすエステル結合またはウレタン結合。他の場合では、単官能B(PEG)ブロックを、エステル結合またはウレタン結合などによって、Aブロック(ポリエステル)の各末端に連結させることができる。あるいは、BAB型ブロックコポリマーはまた、二官能疎水性Aブロックを両末端で、エチレンオキシドと反応させることによって、調製することもできる。イソシアネートなどのカップリング剤の存在下の、単官能親水性Bブロックと二官能疎水性Aブロックの両末端とのカップリングと同様に、縮合重合および開環縮合法を利用することができる。さらに、カップリング反応を、カルボニルジイミダゾール、無水コハク酸、N−ヒドロキシスクシンイミド、およびクロロぎ酸p−ニトロフェニルなどの活性化剤を用いた、官能基の活性に続いて起こすことができる。
【0030】
親水性Bブロックは、適切な分子量のPEGから形成される。PEGは、その独特な生分解性、非毒性、親水性、可溶化特性、および患者の体からの迅速な排泄性を理由に、親水性の水溶性ブロックとして選択された。好ましい実施形態では、PEG成分を、異なる平均分子量を有するPEGの混合物から選択することができる。疎水性Aブロックは、それらの生分解性、生体適合性、および可溶化特性を理由に利用される。これらの疎水性の生分解性Aブロックのin vitroおよびin vivo分解は、よく理解され、分解生成物は、天然に存在するものである(もしくは天然に存在する生成物と同等の特性を有する)か、患者の体によって、容易に代謝および/または排出される生体適合性の化合物である。
【0031】
ブロックコポリマーがゲル化温度より下の温度で可溶である濃度を、機能的濃度とみなすことができる。概して言えば、低くて3重量%くらいから約50重量%までのブロックコポリマー濃度を使用することができ、それは、依然として機能的であり得る。しかし、約5から40%の範囲の濃度が好ましく、約10〜35重量%の範囲の濃度が最も好ましい。このコポリマーを用いて、実現可能なゲル相転移を得るためには、ある種の濃度、例えば、3重量%が必要とされる。より低い機能的濃度範囲では、形成されたゲルは、弱いであろうし、相分離をもたらす可能性がある。ポリマー濃度がより高い場合は、より強いゲル網目が形成され得る。
【0032】
生分解性コポリマーと、ペプチド/タンパク質薬物、および/または他の種類の薬物との混合物は、ゲル化温度を下回るコポリマー水溶液として調製して、薬物が部分的または完全に溶解され得る薬物送達液体を形成することができる。薬物が部分的に溶解されている、または薬物が本質的に不溶性である場合、薬物は、懸濁液またはエマルションなどのコロイド状態で存在する。開示のポリマーは、筋肉内もしくは皮下、腫瘍内、頭蓋内(または腫瘍切除腔内)、関節内、くも膜下腔内、髄内、眼、局所、経皮、膣、頬側、経粘膜、肺、経尿道、直腸、経鼻、経口、または耳投与などの非経口投与で有利に使用され、そこで、体温がゲル化温度を上回ることとなるため、ポリマーは、可逆的熱ゲル化を起こすこととなる。
【0033】
このシステムは、材料の生体適合性、ゲルの柔軟性、および、膨張によって周囲組織が損傷されると思われる、生理的部分での膨張特性の正確な制御により、周囲組織に対する毒性および機械的刺激をほとんど引き起こさないであろう。システムにおけるポリエステルブロックは、さらに、特定の時間間隔内に、乳酸、グリコール酸、および他の対応するモノマーに完全に生分解されるであろう。ポリエチレングリコールは、排出作用によって、体から除去される。薬物放出、ゲル強度、ゲル化温度、および分解速度は、様々なコポリマーブロックの適切な設計および調製によって、すなわち、AブロックおよびBブロックの重量パーセント、ラクテートおよびグリコレートのモル百分率、ならびにBABブロックコポリマーの分子量および多分散度の変更を通して、調節することができる。薬物放出はまた、薬物送達液体中のポリマー濃度の調整を通して、調節可能である。
【0034】
溶解された薬物、または懸濁液もしくはエマルジョンとしての薬物を含有するブロックコポリマー溶液からなる剤形が、体に投与される。次いで、この製剤は、製剤の温度が体温に高まったときに、ブロックコポリマーの逆熱ゲル化特性により、自然にゲル化し、薬物デポーを形成する。どのくらいの薬物を製剤に装入できるかについての唯一の制限要素は、機能性である。すなわち、薬物装入は、コポリマーの熱ゲル化特性が許容できない程度の悪影響を受ける、つまり、薬物放出特性が悪くなるまで、または製剤の特性が、許容できないほど製剤の投与を困難にさせる程度の悪影響を受けるまで、増やすことができる。概して言えば、たいていの場合、薬物は、製剤の約0.01から20重量%を構成し、約0.01から10%の間の範囲が非常に一般的であると予想される。薬物装入のこれらの範囲は、本発明を限定していない。機能性が維持されるのであれば、これらの範囲外の薬物装入は、本発明の範囲内に入る。
【0035】
本明細書に記述する組成物の明白な利点は、ブロックコポリマーの、多くの薬物の溶解度を高める能力にある。疎水性Aブロック(複数可)と親水性Bブロック(複数可)との組み合わせは、疎水性薬物を安定化および可溶化する、明白な親水性および疎水性領域によって、ブロックコポリマーを両親媒性にする。その点で、このブロックコポリマーは、親水性特性と疎水性特性の両方を有する、セッケンまたは界面活性剤のように機能する。従前のABAトリブロックコポリマーは、パクリタキセルなどの疎水性または難水溶性薬物を可溶化するのに特に有利であることが判明した一方で、親水性化合物について、これらのABAトリブロックコポリマーの放出特性は、多くの制御放出適用に不適切であることが判明している。
【0036】
驚くべきことに、本発明のBABトリブロックコポリマーは、ABAトリブロックコポリマーよりも、特に親水性の活性薬剤に関して、制御放出型の熱可逆性ポリマー組成物を提供するのに有利であることが判明した。本発明のBABトリブロックコポリマーの放出特性を、多数の親水性タンパク質および他の親水性の活性物質の制御放出挙動を予測するためのモデルタンパク質である、ウシ血清アルブミン(BSA)に関して調査した。図1に示す通り、先行技術のABAトリブロックコポリマーであるReGelは、最初の5日以内に、約95%のBSAを放出する。それに対して、BABトリブロック(組成No.4、表1)は、25日を超えた期間にわたる、BSAの持続性放出を示した。図1のデータは、BABトリブロックコポリマーが、長期間にわたる、BSAなどの親水性分子の制御放出に有利であることを実証している。
【0037】
本発明者らは、既知のBABブロックコポリマー組成物よりもPLG/PEG比を上げ、かつBABブロックコポリマーの分子量を増やすことが、特に、親水性の活性薬剤の場合に、BABブロックコポリマーの薬物放出特性に劇的な効果を与えることも発見した。ABAおよびBABトリブロックに関する従前の研究は、両方のポリマーについての放出特性が類似していること、および同じ範囲のトリブロック分子量が、BABトリブロックコポリマーならびにABAトリブロックコポリマーに適していることを示唆した。BABトリブロックコポリマーの放出特性を、例示的な親水性高分子である、デキストラン(M.W.70,000ダルトン)に関して調査した。本発明者らは、驚くべきことに、PLG/PEG比および総分子量を、適切であると前に記述したレベルを超えて、BABトリブロックにおいて増やすと、親水性の活性薬剤に望ましい制御放出特性が得られることを発見した。
【0038】
本発明の特に好ましい態様によれば、以下の親水性の生理活性物質が、それらの親水性特性に基づき、本発明のBABブロックコポリマーとの組み合わせでの使用に特に適していると見込まれる:オキシトシン、バソプレッシン、副腎皮質刺激ホルモン、上皮成長因子、血小板由来成長因子(PDGF)、色素上皮由来因子(PEDF)プロラクチン、ルリベリン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、LHRHアゴニスト、LHRHアンタゴニスト、成長ホルモン(ヒト、ブタ、ウシのものなど)、成長ホルモン放出因子、インスリン、エリスロポエチン、ソマトスタチン、グルカゴン、インターロイキン[インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン11(IL−11)]、インターフェロン(インターフェロンα、βまたはγ)、ガストリン(テトラガストリン、ペンタガストリン、ウロガストロン)、セクレチン、カルシトニン、エンケファリン、免疫グロブリン、エンドルフィン、アンジオテンシン、サイロトロピン放出ホルモン(TRH)、腫瘍壊死因子(TNF)、神経成長因子(NGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、ヘパリナーゼ、hANP、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)、骨形態形成タンパク質(BMP)、抗体およびその断片、酵素、サイトカイン、ワクチン、ゴセレリン、ラパマイシン、リツキシマブ、レニン、ブラジキニン、バシトラシン、ポリミキシン、コリスチン、チロシジン、グラミシジン、シクロスポリン、ならびにそれらの合成類似物、改変物、または薬理学的に活性な断片。
【0039】
ある種の状況では、薬物が装入されたポリマーは、溶液としてでなく、ゲル状態で投与することができる。ゲル化は、投与前に、薬物を含んだポリマー溶液の温度を、ポリマーのゲル化温度より上に上げた結果であり得る、または投与温度下で、溶液中のポリマー濃度を、飽和濃度より上に上げることによって引き起こされ得る、またはポリマー溶液をゲル化させる添加剤の、ポリマー溶液への添加によって引き起こされ得る。いずれにしても、そのように形成されたゲルは、薬物の、筋肉内もしくは皮下、腫瘍内、頭蓋内(または腫瘍切除腔内)、関節内、くも膜下腔内、髄内、眼、局所、経皮、膣、頬側、経粘膜、肺、経尿道、直腸、経鼻、経口、または耳投与などの非経口投与において投与することができる。
【0040】
本発明は、核酸、ホルモン、抗癌剤を含めたすべての種類の生理活性物質および薬物に適用可能であり、本発明は、ポリペプチドおよびタンパク質を送達する非常に有効な手段を提供する。多くの不安定なペプチドおよびタンパク質薬物は、本発明のブロックコポリマーに配合されやすく、本明細書に記述した逆熱ゲル化プロセスから利点を得ることができる。医薬として有用なポリペプチドおよびタンパク質の例は、以下のものに特に限定されないが、エリスロポエチン、オキシトシン、バソプレッシン、副腎皮質刺激ホルモン、上皮成長因子、血小板由来成長因子(PDGF)、プロラクチン、ルリベリン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、LHRHアゴニスト、LHRHアンタゴニスト、成長ホルモン(ヒト、ブタ、ウシのものなど)、成長ホルモン放出因子、インスリン、ソマトスタチン、グルカゴン、インターロイキン2(IL−2)、インターフェロンα、βまたはγ、ガストリン、テトラガストリン、ペンタガストリン、ウロガストロン、セクレチン、カルシトニン、エンケファリン、エンドルフィン、アンジオテンシン、サイロトロピン放出ホルモン(TRH)、腫瘍壊死因子(TNF)、神経成長因子(NGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、ヘパリナーゼ、骨形態形成タンパク質(BMP)、hANP、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)、インターロイキン11(IL−11)、レニン、ブラジキニン、バシトラシン、ポリミキシン、コリスチン、チロシジン、グラミシジン、シクロスポリン、もしくはそれらの合成類似物、改変物、および薬理学的に活性な断片、酵素、サイトカイン、抗体、またはワクチンであり得る。
【0041】
利用できるポリペプチドまたはタンパク質薬物に対する唯一の制限要素は、機能性である。いくつかの場合では、ポリペプチドおよびタンパク質の機能性または物理的安定性も、ポリマー薬物組成物へと形成する前またはその後の、本発明のBABブロックコポリマーへの様々な添加剤の添加によって高めることができる。添加剤はまた、ポリペプチドまたはタンパク質薬物の水溶液または懸濁液に添加することもできる。例えば、ポリオール(糖を含む)、アミノ酸、界面活性剤、ポリマー、他のタンパク質、およびある種の塩などの添加剤は、薬物送達組成物の特性を変えることなく、薬物自体を安定化することに関連して、使用することができる。これらの添加剤は、逆熱ゲル化によって機能的なままであろうブロックコポリマーに、容易に組み込むことができる。
【0042】
タンパク質工学の発展は、ペプチドまたはタンパク質の本来の安定性を高める可能性をもたらすことができる。こうして得られた人工または改変タンパク質は、規定的意味合いでは、新規物質として考えることができるが、そのことによって、本発明における使用へのそれらの適性は変わらない。改変の典型的な例の1つは、ペグ化であり、ここでは、ポリエチレングリコールなどの水溶性ポリマーとポリペプチドとの共有結合によって、ポリペプチド薬物の安定性が著しく改善され得る。別の例は、末端および/または内部付加、削除、または置換による1つまたは複数のアミノ酸残基の独自性または位置という点から見た、アミノ酸配列の改変である。安定性のいかなる改善も、薬物送達液体を1回だけ患者に投与した後に、治療的に有効なポリペプチドまたはタンパク質が長期間にわたって継続的に放出されることを可能にする。
【0043】
前に挙げたペプチドまたはタンパク質ベースの薬物に加えて、治療学的な、および医学的に有用なすべての部類からの他の薬物を利用することができる。これらの薬物は、Merck Index、Physicians Desk Reference、およびThe Pharmacological Basis of Therapeuticsのような周知の参考文献に記載されている。具体的薬剤の簡単なリストを示すが、これは、例示目的にすぎず、限定的とみなされてはならない:アクチノマイシンD、アナストロゾール、アザシチジン、ベバシズマブ、ビカルタミド、ブレオマイシン、BCNU、ボルテゾミブ、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、セツキシマブ、ダウノルビシン、ダサチニブ、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エルロチニブ、エキセメスタン、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ゴセレリン、イマチニブ、STI−571、イリノテカン、ラパチニブ、レトロゾール、ロイプロリド、メトトレキサート、マイトマイシン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、リツキシマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、タモキシフェン、タキソテール、テガフール−ウラシル、テモゾロミド、トラスツズマブ、トレプトレリン、ビノレルビンなどの抗癌剤;オランザピンおよびジプラシドンなどの抗精神病薬;セフォキシチンなどの抗菌薬;イベルメクチンなどの駆虫薬;アシクロビルなどの抗ウイルス薬;シクロスポリンA(環状ポリペプチド型薬剤)などの免疫抑制薬、ステロイド、およびプロスタグランジン。追加の抗癌剤としては、プロカルバジン、ダカルバジン、アルトレタミン、ジスプラチン(displatin)、メルカプトプリン、チオグアニン、リン酸フルダラビン、クラドリビン、ペントスタチン、フルオロウラシル、シタラビン、アザシチジン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エトポシド、テニポシド、トポテカン、ダクチノマイシン、イダルビンシン(idarubincin)、プリカマイシン、フルタミド、ロイプロリド、ガソエレリン(gasoerelin)、アミノグルテチミド、アムサクリン、ヒドロキシ尿素、アスパラギナーゼ、ミトキサントロン、ミトタン、レチノイン酸誘導体、骨髄増殖因子アミホスチン、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、抗VEGFなどが挙げられる。
【0044】
上述した通り、本発明は、既知のBABトリブロックコポリマーよりも改善した薬物放出特性を示す、BABトリブロックコポリマーを含む。驚くべきことに、BABブロックコポリマーについては、PLG/PEG比を上げ、かつBABブロックコポリマーの分子量を増やすことが、特に親水性化合物に関して、ブロックコポリマーの薬物放出特性に劇的な効果を与えることが判明した。本発明の好ましい実施形態を例示するために、様々なBABトリブロックコポリマーの合成を完成させた。以下は、本発明の好ましい実施形態を例示する実施例であるが、それは、単に代表例として意図されたものにすぎない。
【0045】
実施例1
MeO−PEG−PLG−PEG−OMeポリマーの合成(PLG/PEG=2.6、L/G=72/28)
モノメトキシポリエチレングリコール(MeO−PEG、Mw550;50g)を、350mlのトルエンに添加し、共沸蒸留によって乾燥させて、残留水分を除去した。その反応混合物中のトルエンの最終体積は、約200mLであった。反応フラスコを、90℃に冷却し、DL−ラクチド(98.99g)に続き、グリコリド(31.01g)を添加した。DLラクチドおよびグリコリドが溶解した後に、オクタン酸第1スズ(約126mg)を滴下して、重合を開始させた。反応混合物を、130℃で、20〜22時間還流した。反応フラスコを、60℃に冷却し、ヘキサメチルジイソシアネート(HMDI)(7.65g)を添加し、反応混合物を、60℃で、18〜20時間加熱した後に続き、さらに、130℃で、6時間加熱した。トルエン(約100ml)を蒸留除去し、反応混合物を、1400mlの無水ジエチルエーテル中に沈殿させた。ジエチルエーテルをデカント除去し、残留物を、塩化メチレン(60ml)に溶解させ、ポリマーを、1000mlの無水ジエチルエーテル中に沈殿させた。ジメチルエーテルをデカント除去し、ロータリーエバポレーターを使用して、残留溶媒を、80〜90℃で、真空下で除去した。最後に、生成物を、140℃で、真空下(<1mm水銀柱)で5時間乾燥させて、162gのMeO−PEG−PLG−PEG−OMeポリマーを得た。
【0046】
BABポリマーの精製
さらに、BABポリマーを、約20%(w/w)の濃度で、水に溶解させ、続いて70〜80℃で沈殿させることによって精製した。上清をデカント除去し、それと同量の水を、沈殿したポリマー混合物に添加した。ポリマーを溶解させ、70〜80℃で、再度沈殿させた。最後に、沈殿したポリマーを、できるだけ少ない量の水に溶解させ、凍結乾燥させて、純粋なポリマーを得た。
【0047】
分析方法
重量平均分子量および数平均分子量は、それぞれ、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)およびNMRによって決定した。ラクチド/グリコリド比は、NMRデータから算出した。GPC分析は、PEG標準で較正した、Phenogel混床カラムとPhenogel500オングストロームカラムとを組み合わせたものの上で、RI検出、および溶出液としてのテトラヒドロフランを使用して実施した。NMRスペクトルは、Bruker200MHz計器で、CDCl中で測定した。
【0048】
実施例2
実施例1で概説した一般的手順に従って、疎水性のものと親水性ものとの比がそれぞれ異なる、BAB型のブロックコポリマーを合成した(表1)。合成した個々のBABポリマーの組成を、表1に示す。合成したブロックコポリマー(MeO−PEG−PLG−PEG−OMe)のすべてが、逆熱ゲル化特性を有した。
【表2】

【0049】
実施例3
この実施例は、in vitroの、BABトリブロック[MeO−PEG−(DL−ラクチド−co−グリコリド)−PEG−OMe]ポリマーゲルからのウシ血清アルブミン(モデルタンパク質)の放出プロフィールを例示したものである。FITC標識ウシ血清アルブミンを、5mg/mlの濃度で、BABトリブロックコポリマー(表1の例4)水溶液に溶解させた。最終混合物中のBABポリマーの濃度は、30%(w/w)であった。in vitro放出試験のために、この混合物の0.25グラムのサンプルを、バイアルに入れて、37℃で平衡化させた。温度がコポリマーのゲル化温度より高かったので、バイアルの底にゲルが形成した。ゲルが形成されたら、5mlのPBS(リン酸緩衝食塩水、pH7.4)を、バイアルに添加した。バイアルを密閉し、37℃のインキュベーター内に置いた。放出研究は、3連で実施した。放出研究の間に、サンプルを定期的に収集した。放出緩衝液を、各時点で、新鮮な緩衝液と交換した。サンプル中の放出されたタンパク質含有量を、蛍光マイクロプレートリーダーによって分析した。結果を図1に示す。
【0050】
図1は、ウシ血清アルブミン(BSA)、すなわち、多数の親水性タンパク質および他の親水性の活性物質の制御放出特性を予測するために使用されるモデルタンパク質について、本発明によるBABトリブロック表1の組成No.4)の放出プロフィールを、既知のABAトリブロックの放出プロフィールと比較したものである。比較の目的で使用したABAトリブロックは、ReGelであり、これは、Rathiらによって、米国特許第6,201,072号、第6,117,949号、および第6,004,573号に開示されている。図1に示す通り、先行技術のABAトリブロックコポリマー、ReGelは、最初の5日以内に、約95%のBSAを放出する。それに対して、本発明のBABトリブロックコポリマー(表1の組成No.4)は、25日を超えた期間にわたる、BSAの持続性放出を示す。図1のデータは、BABトリブロックコポリマーが、長期間にわたる、BSAなどのタンパク質を含めた親水性分子の制御放出に有利であることを実証している。
【0051】
実施例4
この実施例は、BABトリブロックコポリマー組成物の、デキストラン(70kDa、モデル高分子)の放出プロフィールに対する効果を例示したものである。FITC標識デキストランを、5mg/mlの濃度で、異なるBABトリブロックコポリマー(表1の例1、2、および4)水溶液に溶解させた。最終混合物のBABポリマーの濃度は、30%(w/w)であった。放出研究を、実施例3に記述した通り、37℃で実施し、サンプルを、蛍光マイクロプレートリーダーによって分析した。結果を図2に示す。
【0052】
図2は、例示的な親水性高分子、デキストラン(M.W.70,000ダルトン)について、PLG/PEG比がそれぞれ異なるBABトリブロックコポリマーの放出プロフィールを比較したものである。本発明者らは、意外なことに、既知のBABブロックコポリマー組成物よりもPLG/PEG比を上げ、かつBABブロックコポリマーの分子量を増やすことが、特に、親水性の活性薬剤の場合に、BABブロックコポリマーの薬物放出特性に劇的な効果を与えることを発見した。図2に示す通り、PLG/PEG比が2.36であるBABトリブロックコポリマーは、10日間にわたって、90%を超えるデキストランを放出したのに対して、PLG/PEG比が2.45、および2.60であるBABトリブロックコポリマーは、同じ期間にわたって、それぞれ、45%未満および25%未満を放出した。したがって、図2のデータは、本発明によるBABトリブロックコポリマーが、特に親水性薬剤について、改善した放出特性を有することを実証している。
【0053】
上の説明によって、当業者は、逆熱ゲル化特性を有する水溶液を形成するBAB型ブロックコポリマーを作製すること、および薬物送達の分野で該ブロックコポリマーを利用することが可能になるであろう。ブロックコポリマー水溶液から形成されるヒドロゲルの機能性を示すために、タンパク質の制御送達を、実施例において例示するが、これらの説明は、生分解性ブロックコポリマーに利用および装入できるすべての薬物を、網羅的に述べることを意図したものではない。確かに、様々な種類の治療剤からの多数の他の薬物は、本明細書に記述した通りのブロックコポリマー水溶液からの送達によく適している。調製できるすべてのブロックコポリマー、および重要な逆熱ゲル化特性を明示するすべてのブロックコポリマーを、具体的に示すものでもない。しかし、以下の特許請求の範囲、および機能的にそれらと同等なものによってのみ限定される、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な改変を行えることは、当業者にはすぐに分かるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)生分解性ポリエステルを含む、約60から85重量%の生分解性の疎水性Aブロックと、
ii)ポリエチレングリコールを含む、約15から40重量%の生分解性の親水性Bブロックであって、各Bブロックの重量平均分子量が300から1000ダルトンの間である、生分解性の親水性Bブロック
とを含み、
5000から8000の範囲のMwを有し、また、ポリマー水溶液中に形成された場合に逆熱ゲル化特性を示すことが可能である、
BABブロックコポリマー。
【請求項2】
前記コポリマーのAブロック含有量が、65から80%の範囲であり、前記コポリマーのBブロック含有量が、20から35%の範囲である、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項3】
前記コポリマーのAブロック含有量が、67から75%の範囲であり、前記コポリマーのBブロック含有量が、25から33%の範囲である、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項4】
数平均分子量が、3800から5000ダルトンの間である、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項5】
ポリエステルモノマーが、D,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε−ヒドロキシヘキサン酸、またはそれらのコポリマーのうちの少なくとも1つからの残基を含む、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項6】
請求項1に記載のブロックコポリマーと、薬物とを含む、ブロックコポリマー組成物。
【請求項7】
前記薬物が、ポリペプチドまたはタンパク質、核酸または遺伝子、ホルモン、抗癌剤または抗細胞増殖剤である、請求項6に記載のブロックコポリマー組成物。
【請求項8】
前記組成物の薬物含有量が、0.01から20%の間である、請求項6に記載のブロックコポリマー組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の前記ブロックコポリマーを含む、水性BABブロックコポリマー組成物。
【請求項10】
前記コポリマーのAブロック含有量が、65から80%の範囲であり、前記コポリマーのBブロック含有量が、20から35%の範囲である、請求項9に記載の前記組成物。
【請求項11】
前記コポリマーのAブロック含有量が、67から75%の範囲であり、前記コポリマーのBブロック含有量が、25から33%の範囲である、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
数平均分子量が、3800から5000ダルトンの間である、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
さらに薬物を含む、請求項9に記載の前記組成物。
【請求項14】
少なくとも1種の薬物を、制御放出形式で温血動物に投与するための方法であって、
(1)i)生分解性ポリエステルを含む、約60から85重量%の生分解性の疎水性Aブロックと、
ii)ポリエチレングリコールを含む、約15から40重量%の生分解性の親水性Bブロックであって、各Bブロックの重量平均分子量が300から1000ダルトンの間である、生分解性の親水性Bブロック
とを含み、
5000から8000の範囲のMwを有し、逆熱ゲル化特性を示す、
水性BABブロックコポリマー組成物を用意することと、
(2)前記組成物を、温血動物に投与すること
とを含む方法。
【請求項15】
BABブロックコポリマー組成物を作製する方法であって、
(1)i)生分解性ポリエステルを含む、約60から85重量%の生分解性の疎水性Aブロックと、
ii)ポリエチレングリコールを含む、約15から40重量%の生分解性の親水性Bブロックであって、各Bブロックの重量平均分子量が300から1000ダルトンの間である、生分解性の親水性Bブロック
とを含み、
5000から8000の範囲のMwを有し、また、ポリマー水溶液中に形成された場合に逆熱ゲル化特性を示すことが可能である、
BABブロックコポリマー組成物を用意することと、
(2)前記ブロックコポリマーを凍結乾燥させること(ここで、該ブロックコポリマーは、ポリマー水溶液として形成された場合に、逆熱ゲル化を示すことが可能である)
とを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−505337(P2013−505337A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529968(P2012−529968)
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/049530
【国際公開番号】WO2011/035264
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(512088578)プロセリクス メディスンズ ディベロプメント リミテッド (2)
【Fターム(参考)】