説明

放射線可視化システム

【課題】放射線環境の変化を作業員がリアルタイムで容易に把握できるようにすることにある。
【解決手段】放射線量検出器1fと、その放射線量検出器による検出結果を示す放射線量信号を無線で出力する放射線量信号送信機1bと、位置表示信号を無線で出力する位置表示信号送信機1dとを有して放射線環境把握対象空間内に配置される一または複数の検出器モジュール1と、前記検出器モジュールからの位置表示信号に基づき前記検出器モジュールの位置を特定するモジュール位置検出器2と、前記検出器モジュールからの放射線量信号を受信する放射線量信号受信機3と、前記モジュール位置検出器が特定した前記検出器モジュールの位置と、前記放射線量信号受信機が受信した放射線量信号とに基づき前記放射線環境把握対象空間内での放射線量分布を求めて、その放射線量分布を、前記放射線環境把握対象空間内に存在する設備のモデルに重畳して画面上に可視的に画像表示する放射線量分布画像表示装置4,5とを具えてなる、放射線可視化システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射線源を持つ原子力発電所や研究所や病院等の放射線環境を可視化して提示するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所では定期検査等のため、機器類の分解点検や検査等の各種作業が放射線環境下で恒常的に行われている。それゆえ作業員の放射線被曝線量を可能な限り低く抑えるために各種の方策が採られており、その基本的な考え方は、放射線源の線量を下げること、放射線源に対する遮蔽をすること、放射線源から距離をおくこと、の三点である。
【0003】
そこで、放射線源の線量を下げるために除染をし、放射線源を鉛毛マットで遮蔽し、放射線源から距離をおくために放射線源からできるだけ離れて作業する、といった対策を行っている。
【0004】
ところで、上記の対策を行うためには放射線環境を把握する必要があり、従来は、原子力発電所内の所定箇所に固定した検出器で放射線量を測定する他、作業員が原子力発電所内の所定箇所に一定の間隔で定期的に行って空間内の放射線量を測定し、それらの測定結果の線量の数値を平面図上に記載して状況を把握していた(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−009896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、次のような不充分な点がある。
1.配管内を流れている水の有無や性状によって放射線量測定時とその後で放射線環境が変わるケースがあるが、作業員は配管内の水の流れを知ることができず、環境変化を把握しにくい。
2.平面図への数値の記載では、ある一定の高さの放射線量を示すため、高さ方向の放射線量を把握しにくい。
3.リアルタイムの表示ではないので、現状把握がしにくい。
4.遮蔽物による遮蔽効果が把握しにくい。
5.どの位置で作業するのが被爆量を少なくするのに効果的か、わかりにくい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、この発明の放射線可視化システムは、放射線量検出器と、その放射線量検出器による検出結果を示す放射線量信号を無線で出力する放射線量信号送信機と、位置表示信号を無線で出力する位置表示信号送信機とを有して放射線環境把握対象空間内に配置される一または複数の検出器モジュールと、前記検出器モジュールからの位置表示信号に基づき前記検出器モジュールの位置を特定するモジュール位置検出器と、前記検出器モジュールからの放射線量信号を受信する放射線量信号受信機と、前記モジュール位置検出器が特定した前記検出器モジュールの位置と、前記放射線量信号受信機が受信した放射線量信号とに基づき前記放射線環境把握対象空間内での放射線量分布を求めて、その放射線量分布を、前記放射線環境把握対象空間内に存在する設備のモデルに重畳して画面上に可視的に画像表示する放射線量分布画像表示装置と、を具えてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
かかるこの発明の放射線可視化システムにあっては、例えば原子力発電所の原子炉を設置した室内等の放射線環境把握対象空間内に配置される一または複数の検出器モジュールの放射線量検出器がその検出器モジュールの位置での放射線量を検出し、その検出器モジュールの放射線量信号送信機が、前記放射線量検出器による検出結果を示す放射線量信号を無線で出力し、併せてその検出器モジュールの位置表示信号送信機が、位置表示信号を無線で出力する。そして、モジュール位置検出器が、前記検出器モジュールからの位置表示信号に基づき前記検出器モジュールの位置を特定し、併せて放射線量信号受信機が、前記検出器モジュールからの放射線量信号を受信し、これにより放射線量分布画像表示装置が、前記モジュール位置検出器が特定した前記検出器モジュールの位置と、前記放射線量信号受信機が受信した放射線量信号とに基づき前記放射線環境把握対象空間内での放射線量分布を求めて、その放射線量分布を、前記放射線環境把握対象空間内に存在する設備のモデルに重畳して画面上に可視的に画像表示する。
【0008】
従って、この発明の放射線可視化システムによれば、放射線環境把握対象空間内に固定した放射線量検出器からその対象空間外まで信号出力ケーブルを敷設する作業を行わなくても、作業員は、画面上に例えば線量に応じた色分けや濃度変化等により可視的に表示された、放射線環境把握対象空間内での放射線量の分布から、放射線環境をリアルタイムで容易に把握することができ、また放射線環境把握対象空間内の配管内を水が流れている場合と流れていない場合との放射線環境の変化も確実に把握することができ、さらに放射線環境把握対象空間内に遮蔽材を持ち込んだときの、放射線遮蔽の効果の確認も行うことができ、そして放射線源からどの程度離れて作業すれば安全かも容易に確認することができ、しかも放射線環境把握対象空間内での通常の作業を信号出力ケーブルが妨げるということもない。
【0009】
それゆえこの発明の放射線可視化システムによれば、原子力発電所の原子炉を設置した室内での機器類の分解点検や検査等の各種作業を行う作業員の被爆量低減に寄与することができ、また原子炉の解体作業の際の作業員の被爆量低減に寄与することができ、さらには、病院等の医療施設のCT等の放射線機器を設置した室内で各種作業を行う医師や検査技師等の過剰な被爆も防止することができる。
【0010】
なお、この発明の放射線可視化システムにおいては、前記モジュール位置検出器は、前記検出器モジュールからの位置表示信号に基づき前記検出器モジュールの三次元位置を特定し、前記放射線量分布画像表示装置は、前記モジュール位置検出器が特定した前記検出器モジュールの三次元位置と、前記放射線量信号受信機が受信した放射線量信号とに基づき前記放射線環境把握対象空間内での放射線量分布を三次元的に求めて、その三次元的放射線量分布を、前記放射線環境把握対象空間内に存在する設備の三次元モデルに重畳して画面上に可視的に画像表示するものであっても良く、このようにすれば、放射線環境把握対象空間内の設備の三次元モデルに重畳した三次元的放射線量分布を画面で見ることができるので、放射線環境をより容易に把握することができる。
【0011】
また、この発明の放射線可視化システムにおいては、前記位置表示信号送信機は、前記位置表示信号として超音波を出力し、前記モジュール位置検出器は、例えば所定時刻に発信する前記超音波を少なくとも三つの位置で受信してそれらの位置での超音波の到達時間と時間差とに基づき前記検出器モジュールの三次元位置を特定するものであっても良く、このようにすれば、原子力発電所の建屋等の、GPSの電波の届きづらいコンクリート構造の建物の内部でも検出器モジュールの三次元位置を確実に検出することができる。その一方、前記超音波の発信を、所定時刻の代わりに、例えば無線電波で検出器モジュールに与える出力命令によって行ってもよく、このようにすれば、任意の時点で検出器モジュールの三次元位置を特定することができる。
【0012】
さらに、この発明の放射線可視化システムにおいては、前記検出器モジュールは、例えば人手での搬送等により、前記放射線環境把握対象空間内を移動しながら前記放射線量信号と前記位置表示信号とを出力するものであっても良く、このようにすれば、少ない数の検出器モジュールで多くの位置での放射線量を検出し得て、高精度の放射線量分布を安価に得ることができる。
【0013】
そして、この発明の放射線可視化システムにおいては、放射線量分布画像表示装置は、前記放射線量信号に基づく放射線量が所定レベルを超えた場合に警告音等や警告光等の警報を出力するものであっても良く、このようにすれば、放射線量が所定レベルを超えた場合に作業員等が速やかに退避し得て、作業員等の被爆量低減を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を実施例によって、図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1は、この発明の放射線可視化システムの一実施例の全体構成を示す構成図、図2は、その実施例の放射線可視化システムの検出器モジュールの構成を機能的に示すブロック線図、図3は、上記実施例の放射線可視化システムにおいて検出器モジュールの三次元位置を検出する方法を示す説明図、図4は、上記実施例の放射線可視化システムに用いられる可搬式の検出器モジュールを示す説明図、図5は、その可搬式の検出器モジュールの使用方法を示す説明図、図6は、上記実施例の放射線可視化システムにおけるデータ処理手順を示す説明図、図7は、上記実施例の放射線可視化システムにおけるパーソナルコンピュータがディスプレイ装置の画面上に三次元的に可視化表示する放射線量分布画像を例示する説明図、そして図8は、上記実施例の放射線可視化システムにおけるパーソナルコンピュータがパーソナルデータアシスタント(PDA)の画面上にニ次元的に可視化表示する放射線量分布画像を例示する説明図である。
【0015】
この実施例の放射線可視化システムは、放射線環境把握対象空間としての、原子力発電所の原子炉建屋内の空間の三次元的放射線量分布をリアルタイムで把握するためのもので、図1に示すように、その原子炉建屋内の壁面や機器表面や空間内の所望の位置に固定または移動可能に配置される複数の検出器モジュール1と、その原子炉建屋内の位置が明らかな互いに離間する所定位置に固定される少なくとも三つの超音波受信機2と、上記原子炉建屋内に設置される電波送受信機3と、上記原子炉建屋に隣接する中央制御室内に設置されてそれら超音波受信機2および電波送受信機3と接続されるパーソナルコンピュータ(PC)4と、上記中央制御室に設置されてそのPC4と接続されるディスプレイ装置5とを具えている。
【0016】
ここで、各検出器モジュール1は、図2に示すように、アンテナ1aを介して電波で信号を送受信する電波送受信機1bと、超音波トランスデューサ1cを介して超音波を発信する超音波発信機1dと、放射線計数管1eを介して放射線量を検出する放射線量検出器1fと、それらを駆動する図示しないバッテリとを有している。
【0017】
そしてこの実施例の放射線可視化システムは、図3に示すように、原子力発電所の原子炉建屋R内に配置された各検出器モジュール1(図では一台だけ示す)の三次元位置を検出するに際しては、PC4が、電波送受信機3を介して特定の検出器モジュール1に出力命令を送信するとともに少なくとも三つの超音波受信機2のそれぞれに対応するタイマを起動し、その出力命令に応じてその特定の検出器モジュール1が、放射線計数管1eを介して放射線量検出器1fにより放射線量を検出し、その放射線量のデータを電波送受信機1bによりアンテナ1aを介して電波で送信するとともに、超音波発信機1dにより超音波トランスデューサ1cを介して超音波を発信すると、その超音波を少なくとも三つの超音波受信機2を介して受信してそれらの超音波受信機2が受信したタイミングでそれぞれのタイマを止め、その特定の検出器モジュール1の超音波の発信から各超音波受信機2での受信までの時間からその特定の検出器モジュール1と各超音波受信機2との間の距離を計算し、各超音波受信機2の位置からその求めた距離だけ離間した球面の交点を求めることにより三角測量の原理でその特定の検出器モジュール1の三次元位置を求める、という処理を各検出器モジュール1について行う。従って、超音波受信機2とPC4とは、各検出器モジュール1のためのモジュール位置検出器として機能する。
【0018】
また、この実施例の放射線可視化システムは、図4に示す如き、可搬式の検出器モジュール1Aも具えており、この検出器モジュール1Aは棒状をなしていて、超音波トランスデューサ1cおよび超音波発信機1dを有する代わりに、先端部にコイル状のアンテナ1gを放射線計数管1eとともに有しており、図5に示すように、この検出器モジュール1Aのハンドル1hを保持した作業員Wがその先端部のアンテナ1gを、原子炉建屋R内の位置が明らかな所定位置に固定されるとともに各々無線通信機能と識別番号記憶機能とを持つ既知の複数のRFIDチップ6の何れかに接近させると、検出器モジュール1A内の電波送受信機1bが、そのRFIDチップ6とアンテナ1gを介して交信してそのRFIDチップ6の識別番号を読み取り、その識別番号を、放射線計数管1eを介して放射線量検出器1fが検出した放射線量とともに電波送受信機3に送信し、PC4は電波送受信機3を介してその識別番号と放射線量のデータを取り込む。従って、電波送受信機3とPC4とは、検出器モジュール1Aのためのモジュール位置検出器として機能する。
【0019】
図6は、この実施例の放射線可視化システムを用いて上記原子炉建屋R内の放射線量分布を可視化して示す際のデータ処理手順を示しており、ここでは先ず、ステップS1で、例えばデジタルカメラによって上記原子炉建屋R内の機器類Dのレイアウトを撮影してその写真データをPC4に入力し、またステップS2で、上記原子炉建屋R内の機器類Dのレイアウトを示す図面を調査してその図面データもPC4に入力し、これらのデータからPC4が、通常のコンピュータ支援デザイン(CAD)機能により、ステップS3で、図7に示す如き、上記原子炉建屋R内の機器類Dの仮想現実(VR)三次元モデルの画像を作成しておく。
【0020】
次いでここではステップS4で、PC4が、一定時間(例えば1分)毎に上記複数の検出器モジュール1にそれぞれ電波送受信機3を介して出力命令を送信してそれらの検出器モジュール1に単位時間当たりの放射線量を検出させ、それらの検出器モジュール1が検出して電波で送信した放射線量データを電波送受信機3で受信して、それらの放射線量を検出した検出器モジュール1の、超音波受信機2による超音波受信タイミングからそれぞれ求めた位置データとともに取り込み、併せて、作業員Wが所要に応じて任意のタイミングで原子炉建屋R内に入り、検出器モジュール1Aを任意の機器DのRFIDチップ6に近づけて単位時間当たりの放射線量を検出し、その放射線量を検出した位置にあるRFIDの識別番号とともに電波で送信した放射線量データも電波送受信機3で受信して、その識別番号から求めた検出器モジュール1Aの先端部の位置データとともに取り込む。従って、電波送受信機3は、放射線量信号受信機として機能する。
【0021】
そしてPC4は、取り込んだ複数位置の放射線量データとその放射線量の測定位置データとから原子炉建屋R内の実質的にリアルタイムの放射線量の三次元分布を示す等高線マップを作成し、その放射線量三次元分布等高線マップをステップS5で、先に作成した上記原子炉建屋R内の機器類DのVR三次元モデルの画像に重畳し、例えば図7に示す如き、そのVR三次元画像に重畳した放射線量三次元分布等高線マップを、ディスプレイ装置5の二次元の画面上に画像表示する。従って、PC4およびディスプレイ装置5は、放射線量分布画像表示装置として機能する。
【0022】
なお、図7では、単位時間当たりの放射線量が多いほど等高線マップの等高線間領域のハッチングの線密度(濃度)を高くすることで放射線量分布を可視的に示している(最も放射線量が多い領域を符号Pで表している)が、例えば放射線量が多い領域を赤、放射線量が中程度の領域を緑、放射線量が少ない領域を青とするというように、放射線量分布を色分けで可視的に表示しても良い。
【0023】
PC4はさらに、上記の如くして作成した原子炉建屋R内の実質的にリアルタイムの放射線量の三次元分布を示す等高線マップを、上方から見た二次元マップに変換し、これを上記原子炉建屋R内の図面データに重畳して、図示しないモデムを介し、各作業員Wが携帯する図8に示す如き、PCの機能と携帯型電話機の機能とを持った通常のパーソナルデータアシスタント(PDA)7にも電話回線を介してパケットで送信する。従って、PC4およびPDA7も、放射線量分布画像表示装置として機能する。
【0024】
PC4はさらに、上記放射線量データに基づく放射線量が所定レベルを超えた領域があった場合に、ディスプレイ装置5およびPDA7の画面上でその領域を例えば点滅により強調表示するとともに、図示しないスピーカーや警告灯により、警告音や警告光等の警報を出力する。
【0025】
従って、この実施例の放射線可視化システムによれば、放射線環境把握対象空間としての原子炉建屋R内に固定した放射線量検出器からその対象空間外まで信号出力ケーブルを敷設する作業を行わなくても、作業員は、原子炉建屋Rに隣接する中央制御室に設置されたPC4のディスプレイ装置5の画面上に線量に応じた濃度変化により可視的に表示されたその原子炉建屋R内での放射線量の三次元分布および、各自が携帯するPDA7の画面上に線量に応じた濃度変化により可視的に表示されたその原子炉建屋R内での放射線量の二次元分布から、、原子炉建屋R内の放射線環境をリアルタイムで容易に把握することができ、また原子炉建屋R内の配管内を水が流れている場合と流れていない場合との放射線環境の変化も確実に把握することができ、さらに原子炉建屋R内に放射線遮蔽材を持ち込んだときの、放射線遮蔽の効果の確認も行うことができ、そして放射線源からどの程度離れて作業すれば被爆線量を低減できるかも容易に確認することができ、しかも原子炉建屋R内での通常の作業を信号出力ケーブルに妨げられるということもない。
【0026】
それゆえこの実施例の放射線可視化システムによれば、原子力発電所の原子炉建屋R内での機器類Dの分解点検や検査等の各種作業を行う作業員の被爆線量を低減することができ、またこの原子力発電所の原子炉の解体作業の際の作業員の被爆線量も低減することができる。
【0027】
また、この実施例の放射線可視化システムによれば、超音波受信機2と無線送受信機3とPC4とが、検出器モジュール1からの位置表示信号である超音波に基づき検出器モジュール1の三次元位置を特定するとともに、検出器モジュール1Aからの位置表示信号であるRFID6の識別番号に基づき検出器モジュール1Aの三次元位置を特定し、PC4が、その特定した検出器モジュール1,1Aの三次元位置と、無線送受信機3が受信した放射線量データとに基づき原子炉建屋R内での放射線量分布を三次元的に求めて、その三次元的放射線量分布を、原子炉建屋R内に存在する機器類Dの三次元モデルに重畳してディスプレイ装置5の画面上に可視的に画像表示するので、作業員Wは、原子炉建屋R内の機器類Dの三次元モデルに重畳した三次元的放射線量分布を画面で見得て、放射線環境をより容易に把握することができる。
【0028】
さらに、この実施例の放射線可視化システムによれば、各検出器モジュール1の超音波発信機1dは、位置表示信号として超音波を出力し、PC4は、無線電波で検出器モジュール1に与える出力命令に応じて超音波発信機1dが出力する超音波を少なくとも三つの位置の超音波受信機2で受信して、それらの位置での超音波の到達時間と時間差とに基づき各検出器モジュール1の三次元位置を特定するものであることから、GPSの電波の届きづらいコンクリート構造の原子力発電所の建屋の内部でも、任意の時点での検出器モジュール1の三次元位置を、5m離れて2〜3cm以内の誤差で確実に検出することができる。
【0029】
さらに、この実施例の放射線可視化システムによれば、検出器モジュール1Aは、作業員Wの人手での搬送により、原子力発電所の原子炉建屋R内を移動しながら、RFIDチップに近づけられると放射線量信号と識別信号とを出力するので、少ない数の検出器モジュール1aで多くの位置での放射線量を検出し得て、高精度の放射線量分布を安価に得ることができる。
【0030】
そして、この実施例の放射線可視化システムによれば、PC4は、放射線量信号に基づく放射線量が所定レベルを超えた場合に警告音等や警告光等の警報を出力するので、放射線量が所定レベルを超えた場合に作業員W等が速やかに退避し得て、作業員等の被爆線量の低減を確保することができる。
【0031】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものでなく、例えば、可搬式の検出器モジュール1Aも、RFIDチップ6と交信するのでなく超音波トランスデューサ1cおよび超音波発信機1dを有して超音波を出力し、超音波受信機2でその超音波を受信することで三次元位置を特定するものでも良い。
【0032】
また、この発明の放射線可視化システムは、原子力発電所内に限られず、例えば研究所や病院等の内部の放射線環境を可視化するのにも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
かくしてこの発明の放射線可視化システムによれば、放射線環境把握対象空間内に固定した放射線量検出器からその対象空間外まで信号出力ケーブルを敷設する作業を行わなくても、作業員は、画面上に例えば線量に応じた色分けや濃度変化等により可視的に表示された、放射線環境把握対象空間内での放射線量の分布から、放射線環境をリアルタイムで容易に把握することができ、また放射線環境把握対象空間内の配管内を水が流れている場合と流れていない場合との放射線環境の変化も確実に把握することができ、さらに放射線環境把握対象空間内に遮蔽材を持ち込んだときの、放射線遮蔽の効果の確認も行うことができ、そして放射線源からどの程度離れて作業すれば被爆線量を低減できるかも容易に確認することができ、しかも放射線環境把握対象空間内での通常の作業を信号出力ケーブルが妨げるということもない。
【0034】
それゆえこの発明の放射線可視化システムによれば、原子力発電所の原子炉を設置した室内での機器類の分解点検や検査等の各種作業を行う作業員の被爆量低減に寄与することができ、また原子炉の解体作業の際の作業員の被爆量低減にも寄与することができ、さらには、病院等の医療施設のCT等の放射線機器を設置した室内で各種作業を行う医師や検査技師等の過度の被爆も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の放射線可視化システムの一実施例の全体構成を示す構成図である。
【図2】上記実施例の放射線可視化システムの検出器モジュールの構成を機能的に示すブロック線図である。
【図3】上記実施例の放射線可視化システムにおいて検出器モジュールの三次元位置を検出する方法を示す説明図である。
【図4】上記実施例の放射線可視化システムに用いられる可搬式の検出器モジュールを示す説明図である。
【図5】上記可搬式の検出器モジュールの使用方法を示す説明図である。
【図6】上記実施例の放射線可視化システムにおけるデータ処理手順を示す説明図である。
【図7】上記実施例の放射線可視化システムにおけるパーソナルコンピュータがディスプレイ装置の画面上に三次元的に可視化表示する放射線量分布画像を例示する説明図である。
【図8】上記実施例の放射線可視化システムにおけるパーソナルコンピュータがパーソナルデータアシスタント(PDA)の画面上にニ次元的に可視化表示する放射線量分布画像を例示する説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1,1A 検出器モジュール
1a,1g アンテナ
1b,3 電波送受信機
1c 超音波トランスデューサ
1d 超音波発信機
1e 放射線計数管
1f 放射線量検出器
1h ハンドル
2 超音波受信機
4 パーソナルコンピュータ(PC)
5 ディスプレイ装置
6 RFIDチップ
7 パーソナルデータアシスタント(PDA)
D 機器類
R 原子炉建屋
W 作業員
P 最も放射線量が多い領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線量検出器と、その放射線量検出器による検出結果を示す放射線量信号を無線で出力する放射線量信号送信機と、位置表示信号を無線で出力する位置表示信号送信機とを有して放射線環境把握対象空間内に配置される一または複数の検出器モジュールと、
前記検出器モジュールからの位置表示信号に基づき前記検出器モジュールの位置を特定するモジュール位置検出器と、
前記検出器モジュールからの放射線量信号を受信する放射線量信号受信機と、
前記モジュール位置検出器が特定した前記検出器モジュールの位置と、前記放射線量信号受信機が受信した放射線量信号とに基づき前記放射線環境把握対象空間内での放射線量分布を求めて、その放射線量分布を、前記放射線環境把握対象空間内に存在する設備のモデルに重畳して画面上に可視的に画像表示する放射線量分布画像表示装置と、
を具えてなる、放射線可視化システム。
【請求項2】
前記モジュール位置検出器は、前記検出器モジュールからの位置表示信号に基づき前記検出器モジュールの三次元位置を特定し、
前記放射線量分布画像表示装置は、前記モジュール位置検出器が特定した前記検出器モジュールの三次元位置と、前記放射線量信号受信機が受信した放射線量信号とに基づき前記放射線環境把握対象空間内での放射線量分布を三次元的に求めて、その三次元的放射線量分布を、前記放射線環境把握対象空間内に存在する設備の三次元モデルに重畳して画面上に可視的に画像表示することを特徴とする、請求項1記載の放射線可視化システム。
【請求項3】
前記位置表示信号送信機は、前記位置表示信号として超音波を出力し、
前記モジュール位置検出器は、少なくとも三つの位置で前記超音波を受信してそれらの位置での超音波の到達時間差に基づき前記検出器モジュールの三次元的位置を特定することを特徴とする、請求項2記載の放射線可視化システム。
【請求項4】
前記検出器モジュールは、前記放射線環境把握対象空間内を移動しながら前記放射線量信号と前記位置表示信号とを出力することを特徴とする、請求項1から3までの何れか記載の放射線可視化システム。
【請求項5】
放射線量分布画像表示装置は、前記放射線量信号に基づく放射線量が所定レベルを超えた場合に警報を出力することを特徴とする、請求項1から4までの何れか記載の放射線可視化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−26185(P2008−26185A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199891(P2006−199891)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(501464255)株式会社テプコシステムズ (17)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】